作家でごはん!鍛練場
木ノ下 照

彼方博物館

 町の裏に大きな山があった。山は全く開拓が進んでおらず、未だ大部分が木々に覆われていた。
 そんな山の奥に一件の廃墟があった。それは200年前に建てられたと言われる大きな豪邸で、建てられた頃は立派な姿をしていた。しかし現在は、壁はひび割れ、窓ガラスは砕け、屋根は一部が崩落しているという有様。その結果、麓の町では自然発生的に、この豪邸にはお化けが出るという怪談話が広まることとなった。
 怪談は人の好奇心を刺激するが、実際に行ってみる人は多くない。しかもこの廃墟は周りを森に囲まれており、交通の便が悪いためなおさらだ。
 こうして廃墟は一人寂しく長い年月を過ごしたのだった。

 そんなある日、廃墟の前に一人の青年が現れた。
 彼の名は新渡戸浩二。麓の高校に通う高校1年生だ。
 彼は根っからのオカルト好きで、そのせいで今までに色々と厄介ごとを起こしていた。
 小学生の時、新渡戸は動く骨格標本見たさに夜の学校に侵入し、警備員に捕まった。すると当然のことながら彼は母親に叱られた。そのため、新渡戸は夜の学校に行くのはやめよう、と心の中で誓った。
 中学生の時、彼はトイレの花子さんに会いたいと思った。
 しかし夜の学校には行かないと誓ったため、彼は日中に会うことにした。
 新渡戸は昼休憩の女子トイレへ侵入し、使用中の個室のドアをノックして「花子さんいらっしゃいますかー」と言った。
 すると運悪くその個室に入っていた女子生徒が「え、何なの」と言った。
 それを聞いた新渡戸は、これは花子さんの声に違いないと考えた。彼はその出会いに有頂天になり、大声で「あ、花子さん、出てきてください。僕はあなたに会いたいんです」などと叫びながらドアを機関銃のようにノックし始めた。
 結果、彼は生きた怪談という二つ名を手に入れ、学校の伝説となった。そして新渡戸は中学卒業までの間女子全員にシカトされることになった。

 そんな彼は現在、1人廃墟を見上げていた。
 彼は廃墟の寂れ加減に感動した。
「ここが幽霊の出るという屋敷か」新渡戸は腕を組み、うなずく。「たしかにこれなら出るだろうな、いや、きっと出る」彼は自分に言い聞かせるように言った。
 新渡戸は顔を前方に向けた。そこには廃墟の玄関扉があった。
 彼は扉に歩み寄ると、その取っ手を握り、前に力を加えた。
 扉はガラスをひっかくような音と共に開いた。

 新渡戸は驚きで目を見開いた。
 豪邸の中は外観からは想像できない程美しく、まるで新築のようだった。そこに廃墟をにおわせるものは全くなかった。
 床には大理石のタイルが敷き詰められ、壁には神話の一場面らしき美麗な絵が描かれていた。天井は大理石の柱によって支えられており、吊り下げられたシャンデリアが室内を煌々と照らしていた。
 豪邸の中には一人の老人が立っていた。彼は手に薄い本のようなものを持っており、服装を見るに執事、もしくはウェイターかと思われた。
 老人は新渡戸の姿を見とめると、彼に向かって歩き始めた。
 それを見た新渡戸は戦慄する。彼はこの老人が噂の幽霊だろうと考え、逃げるべきか、コミュニケーションをとるべきか迷った。
 そうして新渡戸が悩んでいると、老人は彼の前方1mの所で立ち止まった。
 老人は口を開いた。「あなた様の名前をお聞かせ下さいませんか」
 新渡戸はドギマギした。彼はオカルト好きだったが、今まで本物の幽霊とは出会ったことがなかった。これは正真正銘、幽霊とのファーストコンタクトだ。「に、新渡戸です」彼はぎこちなく答えた。
「ふむ、新渡戸様ですか。しばしお待ちを」老人は手に持っていた本のようなものを開いた。
 それはどうやら普通の予約リストのようで、ページには名前がずらりと並んでいた。老人はページを指でなぞりながら何かを探していた。おそらく新渡戸の名前を探しているのだろう。
 それを見た新渡戸は恐怖で震えた。ここはきっと化け物の料理店なんだ。もしリストに僕の名前が載っていないと分かれば、この老人は自分を捕まえ、解体して料理にしてしまうんだ。
 そんなことを彼が考えていると、老人はいきなり声を出した。
「お、これは」
 新渡戸は飛び上がらんばかりに驚き、そして絶望した。この老人、僕の名前が載っていないことに気がついたに違いない。ああもう終わりだ、僕は料理にされてしまうんだ。
 すると老人は笑顔で言った。「お待たせして申し訳ない。最近老眼が悪化していましてな、名前を見つけるのに少々時間がかかってしまいました。では新渡戸浩二様、どうぞこちらへ」
 老人はそう言うと豪邸の奥へスタスタと歩き始めた。
 新渡戸は今起こったことが信じられなかった。彼は前進する老人に駆け寄り、声をかけた。「すみません、僕の名前が載ってるってどういうことですか。何かの間違いじゃないですか」
 老人は優雅に足を止め、新渡戸の方を向いた。老人は驚きの表情を浮かべていた。「何をおっしゃいます、新渡戸様の名前はちゃんと載っておりましたよ。ほら、ここです」老人は開いたリストを新渡戸に差し出すと、一つの名前を指さした。そこには新渡戸浩二と記してあった。
 それを見た新渡戸は疑問に思った。なぜ僕の名前があるんだ。僕はこんなところに予約した覚えはないぞ。一体どういうことだ。
 しかしいくら考えても合理的な説明が思い浮かばないので、新渡戸は同姓同名の誰かさんが偶然予約していたのだろう、と解釈することにした。
 老人はリストを閉じると、それを右脇に挟んだ。「納得していただけましたかな」
「あ、はい。納得しました」新渡戸はあいまいな気持ちで頷いた。
「そうですか、それはよかった。では、ご案内いたします」老人は再び前進を開始した。
 新渡戸は老人の後を追った。運よく名前がリストに載っていたんだから、老人の言う通りにするのが最善だ。もし言う通りにしなかったら、同姓同名の別人だとバレて料理にされてしまうかもしれない。彼はそう考えたのだった。

 新渡戸は老人の後ろについて豪邸を進んだ。
 そうしてしばらく歩いていると、彼の心に少しの余裕が生まれた。それは人間が極限状態下で引き起こす安直な楽観、つまり一種の現実逃避であった。
 心の余裕は新渡戸の思考を落ち着かせた。彼は自分の今置かれている状況を冷静に分析し、一つの疑問を持つ。
「この豪邸の名前はなんていうんですか」新渡戸は疑問を口にした。
 老人は足を止め、新渡戸に顔を向けた。その顔にはうっすらと疑いの表情が浮かんでいた。
 新渡戸は慌てて口を開く。「いや、その、ど忘れしちゃって。はは」
 老人は納得したようにうなずいた。「なるほど、そういうことでしたか」彼は前に向き直り、再び歩き始めた。「ここは彼方博物館と呼ばれています」
「彼方博物館、ですか」新渡戸はこんな豪華な博物館を知らなかったが、言われてみればピンとくるものがあった。この豪邸の壁の絵はまるで世界史の教科書に載っているような一品なのだ。もしかしたらここは博物館の中でも壁画のコーナーなのかもしれない、と彼は思った。
 そうしてしばらく歩くと、2人は一つのドアに到着した。ドアは木製のこげ茶色だった。
 老人はドアのノブを握ると、新渡戸へ顔を向けた。「ここから先は足元が少々揺れると思いますが、安全面に問題はないのでお気になさらず」そう言うと老人は扉を開けた。

 次の瞬間、2人はつり橋の上にいた。
 新渡戸はびっくり仰天する。
「一体どうなってるんだ」新渡戸の口から声が漏れた。
 彼らのいるつり橋は2つの崖の間に掛かっていた。
 崖の上には西部劇で出てきそうな荒野が広がっており、崖の下では川が荒々しい音をたてて流れていた。川の傍ではアームロボットが河原の石を積み上げており、時々飛来するラジコン戦闘機が積み上げた石を崩しにかかっていた。
 つり橋と川の高低差は優に50mを超えており、新渡戸は背筋が凍るのを感じた。
「大丈夫です、安全に問題はありません。もっとも、それはあなたが自分から飛び降りない限りは、ですが」老人はなだめるように言った。
 それを聞いて新渡戸は安心した。良かった、安全に問題は無いのか。
 彼は心を落ち着け、周囲を見渡す。
 すると新渡戸は恐ろしいことに気が付いた。
彼は老人に尋ねた。「あの、豪邸からここに来るときに使った扉がないんですけど、一体どういうことですか」
「世界の扉は一方通行です。開いて世界を移動したなら、通った扉を見ることはできません」老人はさも当然という風に言った。「次はあの扉を通る予定です」老人は一つの扉を指さした。その扉はつり橋を渡り終えたところにある掘っ立て小屋のものだった。
 老人はそれ以上説明しなかった。なので新渡戸はそういうものなのだと無理やり自分を納得させるしかなかった。こういうものなのだ、うん。
 そうして一つの疑問を払拭すると、彼の心にまた新たな疑問が生まれた。
「一体これのどこが博物館なんですか」新渡戸は言った。
「博物館とはこういうものです」老人は返答した。
 新渡戸は2人の間に深い深い価値観の溝があることを悟り、理解するのを諦めた。
 老人と新渡戸はつり橋をズンズン進んでいく。安心だと知る者達の足は軽快で、彼らはあっという間に橋を渡り終えた。
「さて」と老人は言った。彼はいつの間にか掘っ立て小屋の扉のドアノブを握っていた。「では次に参りましょう」老人は扉を開けた。

 扉の向こうは温泉の脱衣所だった。脱衣所には人が1人しかおらず、それはマッサージチェアに腰かけた老婆だった。
「ああ、あんたか」老婆は老人に言った。
「ウバさん、お久しぶりです」老人は頭を下げた。
「毎度毎度ごくろうなことだね」老婆は新渡戸に視線を移した。「で、そこのボウヤが来客ってわけかい。じゃあ、さっさと服を脱いで出て行きな」そう言うと老婆は大きなあくびをした。
 新渡戸は言われたとおりにさっさと服を脱ぎ、裸になった。彼は開いている棚に服を収め、老人に視線を向けた。しかし老人は服を脱いでいなかった。
 新渡戸は意外そうな顔をした。「あれ、あなたは温泉に入らないんですか」
「私の案内はここまでですから」老人は返答した。
「そうなんですか。ここまで案内ありがとうございました」
「あなたに幸多からんことを」そう言うと老人は優しい笑みを浮かべた。
 新渡戸は何か満たされた気分になり、温泉に繋がる扉を開け、足を踏み出した。

 扉の向こうにあったのは温泉ではなく、お役所だった。
 役所には大勢の人が詰めかけ、窓口で書類を貰っていた。それだけなら普通なのだが、恐ろしいことに人々はみな素っ裸だった。
 これは一体どういうことだ、と新渡戸は疑問に思った。しかし、質問に答えてくれる案内役の老人はもういない。
 するとその時、窓口で職務に励む公務員の1人が声を上げた。
「新渡戸浩二さん、裁定が終了しました。至急窓口へお越しください」
 新渡戸は突然名前が呼ばれたことに驚いた、が、もうここまでくると驚くことが普通になってしまって、彼は半ば納得した心持ちで窓口へ向かった。
「僕が新渡戸です」彼は公務員に言った。
「そうですか、じゃあこれを持って地下三階に行ってください」公務員はそう言って一つの書類を差し出す。
「あ、はい」新渡戸は半ば押され気味に書類を受け取った。彼は書類に目を通したが、書類には、偽妄信狂につきしゅうごうなり、という理解不能なことが書かれているだけだった。
 新渡戸は首をひねりながら、周囲を見回して地下に行く方法を探した。
 すると彼の視界にエレベーターが映った。エレベーターは窓口のすぐ傍に3台用意されていた。3台とも、前に長蛇の列を抱えていた。新渡戸は仕方なく一番短い列の最後尾に並んだ。
 裸の人々の列は、きつい人間の匂いがし、そして蒸した。新渡戸は腕組みをしてエレベーターの階表示を見つめ、早く自分の番が回ってこないかとじれったく思った。
 エレベーターが到着するたびに列は短くなってゆき、長い時間を経てとうとう新渡戸が先頭になった。
 新渡戸はエレベーターの扉が開くとすぐさま中に乗り込んだ。彼は地下3階のボタンを押そうとしたが、後からなだれ込んできた裸の人々によってエレベーターの隅に押しやられてしまう。
 新渡戸は降りるチャンスを失ったのではないかと心配してボタンの表示を見たが、地下3階のボタンは押されていた。後から乗った誰かが地下3階のボタンを押したようだ。新渡戸は安心した。
 エレベーター内が満員になると、扉は自動的に閉まった。
 エレベーターは地下に降りてゆき、地下一階に到着した。エレベーターの扉が開き、数人の者達が外へ出て行く。新渡戸は人込みの隙間から地下1階の様子を見た。
 地下1階では第2次世界大戦など目ではない程の壮絶な戦闘が繰り広げられていた。人々は大声を上げながら必死に殺し合いを行っており、その世界は常に「生きよ生きよ」という謎の大コーラスで満たされていた。
 エレベーターの扉が閉まった。
 エレベーターが地下2階に到着した。扉が開き、数人が降りる。
地下2階はSMクラブだった。M達は麻縄で縛られ、Sらしき者達に鞭で打たれていた。一部のM達はSの命令により鉄でできた山に登っていた。
 それを見た新渡戸は、この世界は自分には早すぎると思った。彼は地下3階がこれよりましであることを祈った。
 そしてエレベーターの扉が閉まり、ついに地下3階に到着した。
 エレベーターの扉が開くと、新渡戸は人込みからそっと外を覗いた。するとそこには林が広がっており、そこでは美女と裸の人々が追いかけっこをしていた。
 その世界には美しい歌声が響いていた。
 歌の歌詞は以下の通り。
 
 偽りを探求して
 道を踏み外した貴方
 すべてから蔑まれ
 逃げ場を亡くした貴方
 あなたは苦しみと悲しみに飲まれ
 山へと消えた
 きっとあなたは死んだのでしょう
 噂だけを残して

 その歌声は甘美な調べ。性的に未成熟な新渡戸はこの光景に興奮し、自分もこの世界に参加しようとエレベーターを飛び出した。
 すると彼の背後からけたたましい鳴き声が響く。
 新渡戸は驚いて後ろを振り返った。
 そこに巨大な象がいた。象は体高30mほどで、体が鉄でできていた。
 象は足を上げた。新渡戸は足を見上げた。象の足の裏が見えた。
 象は新渡戸を思い切り踏みつぶした。
 新渡戸の体は激痛と共に砕け散った。大地に一輪の赤い花が咲いた。
 象は再度足を上げ、再び肉片を踏みつぶした。赤い花は踏みつぶされ、見るも無残な模様になった。
 しかし象は踏みつぶすのを止めない。
 象は何度も足を振り上げ、振り下ろした。
 そうしている内に新渡戸の血肉は大地に吸い込まれ、一輪の赤いバラとなった。
 バラは象に踏みつぶされた。

彼方博物館

執筆の狙い

作者 木ノ下 照
210-146-167-133.hiroshima.ap.gmo-isp.jp

今まで長い間自分の書き方を探し、鍛錬上にもずいぶんお世話になりました。
今回、やっと自分なりの書き方の土台が完成したので、投稿します。
まだ扱いなれていない部分も多いですが、よろしくお願いします。
感想、批評、ばしばしお待ちしております

コメント

そうげん
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ひととおり散歩したけどオチていなくて、わたしが今見てきた風景はいったいどういった意匠が込められてあったんだろうと、謎解き部分の不備に宙づり状態になってしまったように感じます。疑問に対する答えが明示されてない感じです。すべてに答えはなくていいけれど、その幾割かくらいはこの文章内に散りばめられたイベントごとの中身に対する解釈のヒントみたいなものがあるといいなと思いました。

文章の語順は適格と思うものばかりでした。読みやすくて、無駄なひっかかりも感じませんでした。きっちり推敲されたのかなと思いました。

木ノ下 照
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そうげんさん、コメントありがとうございます。
コメントは今後の参考にさせていただきます。
指摘点については作者も同じことを考えたのですが、この作品の特性上こうしたほうがいいだろう、と思い、今回は取り入れませんでした。
他に指摘点、改善点があれば、追加のコメントをどうかよろしくお願いします

群青ニブンノイチ
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書き方を探されたということなのですが、こういった書き方が書き手の理想に近い地点にあるものだとされるなら、この書き手が想像する、創造するものはいわゆる小説らしきものではないのだろうと個人的には想像させられます。

簡潔な表現で悪くないと思います。
読書としての旨味のようなものは目的次第では乏しいものかもしれませんが、目指すものは様々あるのでしょうという意味で言っています。

話の内容はあまり熱心に読んでいませんが、この文体から感じさせられる印象とお話の展開という相性から個人的に想像させられることは、やはり完成としての終着は小説ではないのではないのかということで、あるいは漫画的な、ショートドラマ的な親切さに色濃く傾いて、この先に想像する文章としてのアイデアの発展はむしろ覚束なそうな印象を受けなくもないのですが、どういった形を目指されるのかはそれぞれのことでしょうから赴くように磨かれたらいいとも思います。

新渡戸が新渡戸であるべきなのか、あまりよく読んでいないのでわかりませんが、例えばこれを小説とするならそういった脈絡こそが書き手が魂胆を以て担保するべき作為であって、ただの登場人物として配置することとは別のことなのではないのか、ということを言っているつもりなのですが、例え話なので無責任なことを言っていたらすみません。

そういう細に入った注目には至らなかった、という意味から汲んでいただいた方があるいはわかりやすいもしれません。

木ノ下 照
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群青ニブンノイチさん、コメントありがとうございます。
一つ目の指摘についてですが、今の所、自分は小説の道を進み続ける予定です。断念するまでは続くでしょう。
二つ目の指摘については、申し訳ないですが、仰っていることがよくわかりません。
この作品が群青ニブンノイチさんを夢中にさせなかったということは分かりました。その理由が、この作品が群青ニブンノイチさんと合わなかったのか、それとも私が未熟なのか、今の私には分かりません。今後も精進を続けます

ss
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タイトルがめちゃくちゃいいですね。「彼方博物館」。既存の名称だろう、発行物のタイトルだとしたらきっと有名だろう。と、思わず検索してしまいました。いやほんと、最低でも私が今年見た投稿作の中ではダントツで一番。意外な二語の意味の組み合わせ、から予感させる不思議な広がりと、なぜか矛盾せず存在する纏まり感。意味においてもそうだし、音感や字面の形状も何か「完成度」すら漂っているように思えます。タイトルだけで。しかし先へ進めと強力に誘ってもいる。つまり小説世界の入り口として絶品のドアだと思います。
内容は、このタイトルに比しては、ぐっと劣ると思います。不思議な世界へなすすべもなく吸引されてゆく主人公ですが、読者は吸引されません。その理由として ①展開に論理性が低い ②かといってシュルレアと言えるほどの芸術性もない ③文章自体の完成度が低い ことが挙げられると思います。急いで③から補足入れますが、リズムは悪くない、というか悪くなくなる可能性が高い。なんというか、書こうとしていて、その言葉が選択される寸前に存在する呼吸の指向性みたいなものにはセンスを嗅ぎ取れた気がするんです。しかし実際に選ばれている言葉にはウーン、、、 じゃあ何で指向性などというものを嗅ぎ取れたのかは、自分でもわかりません。(というか説明が複雑で難しそうなので今の私には無理っぽい)
まあ兎に角、使える言葉の母数を広げれば自然と優れた方向に向かう人なんじゃないかという光は感じました。が、それを閉ざしかねない暗雲は更にどっさりと有るようです。これはもちろん作者さんに限ったことではないのでお互いがんばりましょう系の事柄ですね。
で、次は②ですが、覆すようですが、「芸術性は有る!」と言われればそこまでの「主観による」で終わる話だし、私も最後の四行はかなりイイと思いました。そこも雨雲の浮かぶ空模様ではありますが。
で、①の論理性ですが、芸術性、論理性、などと分けて書いてしまいましたが、本来いい作品を書くためにこんな分別意識は何のためにもならないもの。当たり前ですが。「俺の芸術だから」と押し切って読者の理解も共感も期待できないような印象の連なりを続けるだけでは落書きだし、論理的に完璧なだけではAIにでも任せた方が効率的です。それらを統合運用し何を見せたいか、というところが重要で、実態であり道具でもあるテキストに難儀したり溺れたりするわけですが、せめてそのサマで意向だけでも伝わるようにしておきたいものです。私なんかは、「設定はあるんだー、読み込めよ」とか「この感じで文を繰るのが良いっしょ。アートっしょ」どっちかのゴミ思考にすぐ流れてしまって駄文製造機化することばかりです。
でこんなに長々と駄文を書いておいて、じゃあ実際、本作の文章のどこが完成度を下げているか逐一指摘してゆくということをやらないのは卑怯かもしれませんが、まだ「土台」との事なので執筆モチベーションを下げかねないことはやめておきます。(ご希望ならやります)この一作は作者さん自体ではなく、その労果や才能が表出された一部であろうし。ただ次を書いていけば自然と伸びる部分がまだまだあるというのが私たちのようなものの現状でしょうから。
あ、しかし、その自己鍛練と成長を阻害しそうな癖になりかけているところを、一つだけ。
おかしな言葉遣いとか重複とか不細工とか、わかりやすく書けてない部分はいいんです、自分でもいずれ「定期的に読み返せば」気付けますから。でも作者さんが危険なのは、先に挙げたリズムがよくなる可能性の光うんちゃら~の部分にも関係してくることなんですが、
「そうしてこうして」系の語の緩い多様です。この語はやろうと思えばいくらでも文頭にさしこめて、しかも前文の意味をすべて受けてリズムまで整える万能緩衝材的能力が強いです。独りよがりなことや叙述の甘いもの等を書いているのに改行「そうして」をやるだけで、なんとなく読者も作者自身もごまかしてしまえる魔力があります。まるで村上春樹氏の文体に近いようなリズムさえ容易に生まれる気がします。
―― そんな山の奥こうしてこととなった廃墟はそんなある日そのせいでするとするとそのためそれを~ ――
間違いではないです。使って大丈夫です。ただ、この語を使うときには一回自分で、本当に「こうして」なのか?「そうして」って具体的に何だ? どこからどこまでの事を受けているんだ? もっと気の利いた接続はできないか? という風に顧みるようにすると、すごくいいんじゃないかなー と、思います。
ちなみに村上春樹はしばしば才能にまかせて緩く書いているようにも見えますが、実際は物凄く計算して書いているみたいです。騎士団長殺しあたりの時期のエッセイや翻訳のあとがきやインタビュー等によると、推敲は長編でも最低百回以上やってるそうです。短編ましてや掌編だと場合によっては四桁やるそうです。。

木ノ下 照
pw126035072188.25.panda-world.ne.jp

ssさん、指摘をありがとうございました。全く気付いていなかったことばかりなのでとても助かります。
・便利語を多用するのは癖なので、直していきます
・作品の推敲が少ない点については、以後増やします
他にも気づいた点や、参考になりそうな作品があれば、出来るだけ多く挙げてもらえるとありがたいです。
コメントありがとうございました

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