作家でごはん!鍛練場
大丘 忍

権田医院診療録 くしゃみ一発

 冬の寒さが一段落したと思った頃、僕が出勤の為に家から出るとくしゃみが三発続いた。いよいよと来たか。今年は花粉の飛散は例年より少ないと聞いていたのだが、はやり僕にとって花粉症は避けては通れないらしい。しばらくは鬱陶しい思いをすることを覚悟した。
 僕は、ポケットを探って、ティッシュが十分にあることを確認した。通りがかった所にあった薬局でマスクを買い込む。マスクをしても、花粉症は防ぎきれない事は承知しているのだが。
 以前に耳鼻科で貰っていた花粉症の薬を飲むと、鼻水は軽くなるのだが眠くなるので困る。といって、予備校での講義中に鼻水がポタポタ落ちてくるのも困る。
 ふと権田医師の丸っこい顔が頭に浮かんだ。漢方薬で、花粉症に有効な薬があるのではないか。
 その日の夕方、講義を終えて診療終了間際に権田医院に駆け込んだ。
「鶴崎さん、今日はどんなことで?」
 看護師の藍ちゃんが例によって笑顔を振りまく。そのとたんにくしゃみが一発出た。
「くしゃみ一発、すぐアスゲン」
 藍ちゃんが唄うように言って笑った。
「くしゃみ一発、すぐアスゲンって何のことや」
 僕が尋ねると、藍ちゃんはニヤニヤして、
「くしゃみ、鼻水で来たんでしょ。権田先生に聞いて下さい」
 と診察室の戸を開けた。
「鶴崎さん、今日はなんや」
 権田医師がカルテを広げて振り向いた。
「花粉症ですねん」
「くしゃみ一発か」
「その、くしゃみ一発、すぐアスゲンって何の事ですか?」
「ほう、それを知っているんか」
「今そこで、藍ちゃんが言っていました」
 この頃は藍ちゃんと気安く呼べるようになっている。
「アスゲンは花粉症の鼻水の特効薬。僕のところの専売特許や」
 権田医師が笑うと円い鼻がよけい円くなる。
「ではそのアスゲンを下さい。僕は花粉症で困ってますねん」
「ところがなあ」
 権田医師はそこで思わせぶりに言葉を切った。
「もう品切れですか?」
 品切れなら困る。
「品切れどころか、何年も前から製造中止になってるんや」
 これは大変だ。品切れなら入荷を待てばよいが、製造中止なら使う事は不可能ではないか。そんな良い薬を製造中止にするなんて、製薬会社は何を考えてるんだ。
 僕の不服そうな顔を見て権田医師も困ったように笑った。
「アスゲンはね。もともとは気管支喘息の薬なんや。もう五十年以上も昔からあったんやけど、いまどき喘息には良い薬が沢山出来ているから、アスゲンなんて古臭い薬を使う医者がいなくて、製造中止になったという次第や」
「でも、花粉症の鼻水にはよく効くんでしょ」
「そのとおり。確かに良く効く。しかしアスゲンを鼻水に使うのは、僕の漢方の師匠と僕だけや。アスゲンの効能書きには花粉症は入っていないからな。僕と一緒に漢方を勉強した医者仲間では使っている人もいるやろうけど、他には誰も使う人はいない。つまり、『くしゃみ一発、すぐアスゲン』を知らん訳や」
「そんなら花粉症には何を使うんですか」
「ふつうは抗ヒスタミンやろうな。ところがこれを飲むと眠くなるのが欠点でね」
「僕も今まで花粉症の薬を飲むと眠くなって困っていました」
「そうやろな。所で花粉症では、なんでくしゃみ、鼻水が出るか知っているか」
 ほら、また権田流の質問をしてきた。こんな時に答える事は決まっている。
「生体防御のためでしょう」
「よく知ってるやんか」
 権田医師は感心したように言ったが、これまでも生体防御の話はいやになるほど聞かされている。 
「風邪の時にくしゃみや鼻水が出るのも生態防御ですか」
「その通り。鼻からウイルスやバイ菌が侵入するやろ。そうすると身体は困る。そこでくしゃみと鼻水でそれを追い出そうとするんや」
「つまり、痰を出すために咳が出るのと同じですね」
「そのとおり」
「なら、花粉でも同じことですね」
「そのとおりや」
「それなら、花粉症のとき、鼻水を止めるのは困るんではないですか」
「ウイルスやバイ菌は困るが、花粉が鼻に入ってもなにも病気は起こらんやろ」
「それはそうですが、それならなぜ生態防御が働いてくしゃみ、鼻水が出るんですか」
「そこや。問題は……。花粉には病原性は無いが、身体は異物と認識してそれを排除しようとするんや。つまりくしゃみと鼻水でな」
「病原性が無いのに、なんでそんなことが起きるんですか」
「病原性があるか、無いかは結果論であって、身体は異物ならすべて排除しようとする。移植手術した場合の拒否反応がその代表や」
 人間の身体は複雑に出来ているらしい。
「免疫反応という言葉を知っているやろう。これらの生体防御機能は主として免疫反応が支配しているんや。詳しいことが知りたかったら、ちょっと難しい話やけど説明しようか」
 ここまで来たら、権田医師の説明を聞いておかなければ、後でまた難しい質問を投げかけてくるに違いない。
 僕がうなずくと、権田医師は紙を広げてメモしながら説明を始めた。将来、漢方小説を書く資料として聴いておいたほうが良いと思ったし、権田医師もそのような説明をするのが楽しいようだった。
「アレルギーという言葉を知っているやろ。これは、抗原抗体反応が間違った方面、つまり必要の無い方面に働いて体に不都合な現象が起きることを言う」
「花粉症もアレルギーですね」
「だから、厳密にはアレルギー性鼻炎と言う。他にも蕁麻疹や膠原病という難しい病気もあるがこれは省略して、花粉症の説明だけにしよう」
 それはそうだ。これ以上難しい話を聞かされても理解できるはずは無い。
「くしゃみ、鼻水の出るメカニズムを説明しよう。ちょっと難しいから分からんところも有るかも知れんけど、別に医者の国家試験を受ける訳やないからかまわんやろ」
 権田医師はそう言って紙にメモしながら説明してくれた。
「まず、抗原抗体反応ということやけどな。抗原というのは、この場合、ウイルスやバイ菌などの病原体のことやけど、体の成分以外の物質も含めて考えると良いやろう。すると花粉も異物、つまり抗原と言うことになるね」
「何のために抗原抗体反応が起きるのですか」
「生体防御のメカニズムには簡単に言えば二種類ある。一つは侵入した病原体を白血球系統の細胞がやっつけること。これが生体防御の初動段階や。以前に説明した傷寒の時期と考えてよい。次に、白血球系統の一部の特殊任務を持った細胞が侵入者の構造を調べて報告する。するとその構造に対する抗体を造れと言う指令が伝達されてその異物排除のための抗体が作られる。抗体は抗原と結合して抗原を無力化させる。まあ、白血球の攻撃を刀による突撃隊とすれば、抗体はミサイル攻撃のようなものやね。これが生体防御の第二段階や」
「それとアレルギー性鼻炎とどんな関係が有るんですか」
 権田医師の話は時々飛躍するので分かりにくくなる。
「我々は食事をするやろう。食事の成分は、我々にとっては異物なんやけど、これには抗体はできない。分かりやすく言えば、体に害を及ぼす異物に対して抗体が出来ると考えたらよい。しかし、この抗原抗体反応が時々間違った方向に発現することがある。これがアレルギーという現象や」
「でも、花粉症がアレルギーとしても、花粉症の起きる人と起きない人とが有るのは何故ですか」
 権田医師はうれしそうに笑顔を見せた。
「良い質問や。さきほどアレルギーとは、間違った方向に起こった抗原抗体反応と言った筈や。つまり、普通なら花粉では抗原抗体反応は起こらないのに一部の人は間違って抗原抗体反応を起こしてしまう。まあ、体質的な個体差やな。これで花粉症と言うアレルギーが起きるのや。そのほか、食べ物でもソバやカニや、その他の物でアレルギーを起こす人がある。つまり、アレルギー体質というのがある。つまり体が間違って抗体を作るということやな」
「アレルギーと言うことは分かりましたが、それでなぜくしゃみ、鼻水がでるんですか」
「いよいよ本論に入った訳やな。花粉を含めて、アレルギーのもとの異物をアレルゲンと言うが、これが侵入すると、IgE抗体が出来る。このIgEというのはアレルギーを起こす抗体の一種やが、これを介してアレルゲンが肥満細胞と結合し、ヒスタミンを中心とする各種ケミカルメディエーター、つまり化学物質が放出される。放出されたヒスタミンは迷走神経を介してくしゃみを起こし、延髄の分泌中枢を刺激し、この刺激は副交感神経を伝わり、鼻粘膜の分泌線を刺激する。この結果、大量の水様性鼻汁を生ずるのや。またヒスタミンは、血管を刺激し、静脈性うっ血を起こして鼻閉をもたらすことになる。と言っても分かり難いやろうな」
「あんまり一編に言われると分かりませんが、肥満細胞と言うのはメタボ、つまり肥満の人に多い細胞ですか」
「いや、これは肥満に関係の無い、単なる細胞の名前や。丸っこくて肥満したように見えたので発見者が肥満細胞と言う名前をつけたんやろうな」
「まるで、権田先生のような形の細胞ですね」
「ちょっとそれは言い過ぎやないですか」
と、藍ちゃんがおかしそうに笑った。
 僕も苦笑した。
「迷走神経とか副交感神経とか難しい言葉が出ましたが……」
「神経には二種類ある。筋肉などを動かす運動神経、知覚神経と、内臓の動きを管理する自律神経とがある。胃腸の動きや心臓の動きなど、自律神経が行っている。つまり、自律神経は自分の意思とは関係なく、勝手に、つまり自律的に働いて体の調節をしている大事な神経や。自律神経は、交感神経と副交感神経と二種類がある。交換神経は活動に適した状態、例えば他人と争うときなどに緊張して、体の活動力を高める状態にする神経や。それに対して副交感神経は、体を休めて、エネルギーを蓄積する状態を起こさせる働きと考えると分かりやすい。だから交感神経が緊張すると血圧が上がり、脈拍数が多くなる。逆に副交感神経が緊張すると、血圧は下がり脈拍数も落ち着くし、胃や腸の働きが活発になり、栄養を取り入れて、次の活躍に備える働きがある。こうして交感神経と副交感神経のバランスが取れているのが健康な状態で、このバランスが崩れると体調が悪くなり、自律神経失調症という病名をつけられることになる」
「迷走神経の名前が出てきませんでしたが」
 権田医師は迷走神経のことを忘れていたらしい。
「あ、迷走神経はね、副交感神経の中で中心的な神経の名前で、単純に言えば、迷走神経とは副交感神経のことだと考えたらよい」
「では、それらの神経の働きと、くしゃみ、鼻水の関係はどうなっているんですか。それが一番の本題やと思いますが」
 時々、権田医師は話に夢中になり本題からそれる癖があるらしい。しかし、素人である僕らが知らない医学的知識をこれだけ熱心に話してくれる医師は珍しいだろう。
「花粉を含めて、アレルギーのもとであるアレルゲンが侵入すると、IgEを介して肥満細胞と結合し、ヒスタミンを中心とする各種ケミカルメディエーターが放出さることは説明したね。放出されたヒスタミンは迷走神経を介してくしゃみを起こし、延髄の分泌中枢を刺激し、この刺激は副交感神経、まあ、迷走神経と言っても良いのだが、それを伝わり、鼻粘膜の分泌線を刺激する。これも説明した筈やが。この結果、大量の鼻水を生ずるんや。またヒスタミンは、血管を刺激し、静脈性欝血を起こして鼻閉をもたらす。高齢者など特にそうやけど、寒いところに暴露されると、やはり鼻水がでるが、この場合は、体表の交感神経を緊張させることにより血管を収縮させ体温を保持しようとする訳や。交感神経が緊張するとそれに応じてバランスを取ろうとして副交感神経も緊張するから、これが鼻腔に起こって分泌腺を刺激すれば鼻汁、胃腸に起これば下痢となる。年寄は腹を冷やすと下痢しやすいのはこの事やね。だから、花粉症と寒冷刺激とで起きる現象が酷似しているね」
「そうすると、副交感神経が緊張してヒスタミンが出る。そのヒスタミンが鼻水をおこす、とこういう訳ですね」
「簡単に言えばその通りや。だから花粉症で鼻水を止める薬としてよく使われるのが抗ヒスタミン剤や。ところがこれには眠くなるという副作用があってね。車の運転時には危険なことがあるから、使いにくい」
「他には薬は無いのですか」
「最近は抗アレルギー薬と称する薬も良く使われている。これは花粉が入ってIgEと結合し、肥満細胞からヒスタミンを出すに至るまでの過程をブロックしてヒスタミンを出さんようにしようという薬や」
「それは眠くはならないのですか」
「抗ヒスタミン薬ほどの眠気はないといわれているがね。やはり即効性は抗ヒスタミン薬やね」
 これまで、花粉症の薬を飲むと眠くなって困った理由はわかったが、権田先生得意の漢方薬では良い薬は無いものか。
「先ほど、くしゃみ一発、すぐアスゲンと言われましたが、アスゲンはなぜ効くんですか」「アスゲンは、本体は喘息の薬やと言ったやろ。喘息は気管が痙攣して狭くなるから起きる。気管を拡張させるには交感神経を刺激させる必要がある。昔は、喘息の発作時には交感神経を刺激するアドレナリンを使ったものだが、アドレナリンは作用が激烈で副作用が多い。そこで少し穏やかな交感神経刺激としてエフェドリンを使っていたんや。漢方薬の麻黄の主成分はこのエフェドリン様の作用を持っている。僕の漢方の師匠が若い頃、まだ漢方医学を知らない頃やけど、アレルギー性鼻炎で悩んでいたとき、アスゲンの成分に麻黄とロートエキス、これは副交感神経の働きを抑える作用だが、これが含まれていることに気が付いて、鼻水に効くのではないかと思って試してみたら実によく効いたんやね。それ以来、師匠はもっぱらアスゲンを使って抗ヒスタミンは使わなかったそうや。その話を聞いて、僕ももっぱら、花粉症にはアスゲンを使っていたんや。『くしゃみ一発、すぐアスゲン』はゴロがええやろ。くしゃみが出ると、それに続いて鼻水が出るから、くしゃみが出たらすぐアスゲンを飲めということや」
「そんな良い薬が製造中止になると困りますね」
「アスゲンを花粉症に使うのは、僕の師匠とその弟子くらいのもので、知れ渡っていないし、今では喘息には気管支拡張剤や、ステロイドの良い吸入薬が沢山出ているから、そんな古臭い薬を使う医者が居なくなり、もともと廉い薬やから製薬会社も儲からんので製造中止にしたんやろう」
「そんなら、麻黄を含んだ麻黄湯なんか良いのと違いますか」
「ほう、鶴崎君、なかなか鋭いやないか。僕の教育が良かったのかな」
「じゃあ、麻黄湯がよく効くのですね」
「そうやけど、花粉症の鼻水に使う漢方薬は、主として三つある。麻黄湯(まおうとう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)の三つや」
「そのどれでも良いのですか」
「もちろん、使い分けがあるけどね。その使い分けのコツを議論する前に、漢方医学的な考え方で、寒・熱の概念を理解する必要がある。つまり、体質を寒・熱に分ける。また症状も寒・熱に分けるということやね。これは、昔の人が経験的に考えたことで、科学的根拠を示せといわれても困るけど、漢方医学を理解するためには、ある程度は必要な考え方や」
「鼻水はどちらになるんですか」
「水様性の流れ落ちる鼻水は寒になる。風邪で鼻水が出るとき、最初は水様性だったのが粘っこく変わることがあるやろ。粘稠な鼻汁は熱とされている。つまり、寒変じて熱になるということや。だから、それに応じて漢方薬を変える必要がある」
「漢方薬にも寒用と熱用があるということですか」
 権田医師は感心したように僕の顔を見た。
「その通りや。体質にも、症状にも寒と熱の区別があり、漢方薬にも寒用と熱用の区別がある。これを上手く合わせて漢方薬を使うのがコツといえるが、これにはやはり経験が必要やね」
「では、花粉症の鼻水に対する漢方薬の使い分けを説明してください」
「いよいよ本題に入るか。その前にちょっとした譬え話をしておこう。これは師匠が言っていたことやけどね」
 権田医師は紙に風呂桶の図を書いた。桶には水が入っており、桶の下には赤で炎を書いている。
「これは昔の五右衛門風呂や。風呂を沸かしているところやけど、最初は上は熱いけど下はまだ冷たいやろ。こんなときにはどうする?」
「水をかき混ぜますよ」
「そのとおり。これを(1)としよう。ではかき混ぜてもまだぬるい場合はどうする?」
「もっと炎の勢いを強く沸かします」
「その通り。これを(2)としよう。ぬる過ぎて、また火が弱すぎて少々沸かしたくらいでは間に合わない場合はどうする?」
「上から熱いお湯を継ぎ足します」
「その通り。これを(3)としよう。これを先ほどの寒・熱の考え方で言うと、(1)はそれほど寒が強くないか、或いは熱が盛んなので、湯をかき回しただけでよい。こんなときには麻黄湯でよいことになる。(2)の場合はもう少し温める力が強いことが必要や。漢方薬としては小青竜湯になる。高齢者や冷えが強い人、つまり(3)では、かき回しただけでは不十分やけど、炎を強めてもすぐには間に合わないので、急速に温める必要がある。つまり、熱いお湯を継ぎ足すことになる。従って、温める作用の生薬が入った麻黄附子細辛湯ということになる。細辛には温める作用があるし、附子は最も強力な温める作用の生薬やからね」
「では、僕なら(1)ですか。それとも(2)?」
「麻黄湯は、普通は子供の鼻水に使われることが多い。子供は代謝が活発で熱の産生が強いからね。君の場合は(2)の小青竜湯になるやろう」
「もし、寒変じて熱になった場合はどうしますか」
「普通、花粉症は寒変じて熱となることは余り無いんやけどね。もしそうなったら、細菌感染を合併していると考えられるから、ときには抗生物質の出番になる。漢方薬では、色々の鼻炎用の処方があるけど、これは慢性鼻炎の治療に繋がるので亦別の処方になるね」
「花粉症は昔からあった病気ですか?」
 僕は日ごろから疑問に思っていたことを聞いてみた。両親からはあまり花粉症という言葉を聞いたことはない。最近、花粉の飛び方が多くなったからか、或いは大気汚染が関係しているからかもしれない。
「花粉症は昔からあったに違いないけど、花粉症という名前はあまり言わなかったと思うね。アレルギー性鼻炎という病名は昔からあったけどね。ただ、花粉症の人が最近圧倒的に増えたことは確かや。その理由は何故だと思う?」
「やはり大気汚染と杉の植林が増えたからですか」
「それもあるが、思いもよらぬことが原因の一つに考えられている。全く意外なことやけどね」
 権田医師は面白そうに笑った。
「食事の影響ですか」
「ゼロとはいえないが、実は、回虫が居なくなったせいもあると言われている」
「カイチュウ?」
「寄生虫の回虫だよ」
 これは意外だ。なぜ回虫が居なくなると花粉症が増えるのか見当もつかない。
「花粉症を起こす抗体、つまりIgE抗体は、もともとは寄生虫に対する抗体やったんや。それが寄生虫という相手が居なくなって、目標が花粉に向いて来たという説がある」
「そんなら回虫を増やすと花粉症は減ることになりますね」
「そういう事になるけど、でも、そのためにわざわざ腹の中に回虫を飼う人はいないやろう。回虫が居なくなったのは、肥料に人糞尿を使わなくなったこと、幼児のころの砂場遊びが減ったことによると考えられている」
「へー、回虫がねえ」
 これは意外だったが、回虫を飼う気には誰もならないだろう。祖父に聞いた話だが、日本では、戦時中の頃には子供は義務として毎年、回虫駆除のマクリというお茶のような薬を飲まされていたそうだ。
「では漢方薬としては小青竜湯を出しましょう。もしこれで不充分ならアレグラという抗アレルギー薬を併用します。それでも不十分なら抗アレルギーの点鼻薬も併用します。これでまず大丈夫やけど、それでも駄目なら……」
 結局小青竜湯だけ貰って帰ることにした。
「くしゃみ一発、すぐ小青竜湯ですね」
「そう、くしゃみ一発というタイミングが大切やで。鼻水が滝の様に流れ出してからは何を使っても止めるのは大変やから」
 最後に権田医師は、まとめとして次のように書いた紙をくれた。

アレルギー性鼻炎治療法の考え方(まとめ)
(1)陽気のアンバランス
     陽気を巡らす       麻黄湯
(2)陽気がやや不足してアンバランス
     裏を補って巡らす     小青竜湯
(3)陽気が不足
     裏を補う(陽気を産生)  人参湯、六君子湯など
(4)陽気の絶対的不足
     陽気を補う        麻黄附子細辛湯
(5)湿邪が強い
     利水を兼ねる       苓甘姜味辛夏仁湯

  麻黄−−血管収縮 (放熱を減少させる)
  桂皮−−血管拡大 (皮膚表面を温めるが放熱は増加する)
  麻黄附子細辛湯に桂皮が無い理由−−放熱を減らすため
  小青竜湯に乾姜がある理由−−−−−裏を温める

「表とか裏とか、漢方医学の難しい理屈は、何かの機会に説明することがあるやろ。何しろ、医者に説明してもなかなか分からんことやからな」
 最後に、権田医師は慰めるように言った。

              了

権田医院診療録 くしゃみ一発

執筆の狙い

作者 大丘 忍
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権田医院シリーズです。難しい医学理論、漢方医学をいかに素人にわかりやすく説明するかがこの作品の目的です。そのためには、会話風に、つまり小説風に解説するのが一番わかりやすいと考えました。
これからうっとうしい花粉症の季節。花粉症の知識が少しでも得られたら私の意図が達せられたことになります。花粉症の方は是非参考にしてください。
アスゲンという薬が入手できないのは残念ですが。

コメント

ハルシオン
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文章は優れていると思います。
しかし、全くドラマがない、と失礼ですが言わせてもらいます。
医学知識を求めるなら、「家庭の医学」とかを読むでしょう。

大丘 忍
ntoska043001.oska.nt.ngn2.ppp.infoweb.ne.jp

小説は腐るほど書いて投稿しておりますの、趣旨を変えて素人が読んでも解る医学講座
(主として漢方医学)を目的としております。したがってこの小説(?)の評価は、花
粉症についてある程度理解できたかどうかという事です。
私のクリニックの受付のところに、いろんな疾患(漢方に限らず)の解説書を書いて並
べておりますが、皆さんは喜んで持っていっております。ただ、漢方医学に関しては単
なる解説書ではわかりにくいと思って、権田医師を登場させて、小説風に書いてみたの
です。
素人が漢方医学の解説書を読んでもほとんどわからないと思いますので、この権田シリ
ーズで多少でも花粉症が理解できれば成功だろうと思います。

最後に読んで頂き有り難うございます。

テクノブレイク
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長編小説の冒頭部分というならまだ分かりますけど、これ単体で完成した作品だと言われても。ストーリーが全くないし、ほとんど会話じゃないですか。しかも書きかたになんの工夫もないので、ものすごく読みづらかったです。漢方医学の素晴らしさを広めたいというより、たんに医学の知識をひけらかしたいだけじゃないのですか? しかもざっと読んだかぎり目からウロコの落ちるような情報はなにも含まれていませんでした。私もアレルギーですが、今は患者みずからインターネットで調べて、ある程度の知識は持っていますので、はっきり言って要らぬお世話だと思います。仮にもここは鍛錬場と銘打っていますので、ちゃんとした「小説」を投稿していただきたいです。

鈍牛
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素人素人と、常に上から目線のあなたはご立派です

大丘 忍
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テクノブレイク様

小説にストーリーは必要ですが、これは花粉症の漢方医学的考え方がストーりーです。
以前にも権田医院シリーズを掲載したことがありましたが、中には面白かったという方と、こんなものは小説ではないという方があり、中断したことがあります。

このサイトには、ストーリーのある小説は、これまで100以上掲載しております。

本作に関しては、たとえば視点のブレがあるとか、文章がおかしいとか、小説技法上のご指摘があればありがたかったと思います。

大丘 忍
ntoska043001.oska.nt.ngn2.ppp.infoweb.ne.jp

鈍牛様

医者ではない多くの方は医学や病気には素人ですから、素人にも分かるうよな、と申し上げただけで上からの目線とは勘違いですね。

鈍牛
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それがお医者さまの奢り、なんだよ。医者は特権階級か?看護師は召使か、エロジジイ

大丘 忍
ntoska043001.oska.nt.ngn2.ppp.infoweb.ne.jp

>医者は特権階級か?

いえいえ、医師国家試験に合格しているだけですよ。

x
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ま、さりげないご自慢ですな。あんたみたいなエロ医師んとこに通う患者は狂ってる

上松 煌
p5943092-ipngn27701marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp

 去年の秋、あんたのスタッフのところに患者の方から、変態小説についての苦情があったのをおれは知っていますよ。
なぜかって??
蛇の道は蛇だからです。

 つまり、スタッフであろうと、他人の口に戸は立てられないということ!
ま、せいぜい自重することだな。
「医は仁術」
これを忘れるな!

ペニスサック
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なにが「蛇のみちは蛇」だスカタン
たんに5ちゃんの情報うのみにした
だけやろコケ松

ゴミ松あんた5ちゃんでナチスて呼ばれちょうよ

大岡さんも患者の個人情報ながさんよにな 渡辺淳一になりたかはわかるねん

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