作家でごはん!鍛練場
謎の男

ずっと、見てる

 ガラスを引っ掻いたような高音が耳の奥を鋭く突いて、びくっと僕は顔を上げた。朝の会が始まる前の教室。早く学校、終われよ、というクラス全員の呪いが蠢いている。その中に、あまりにも不似合いな彼女の高音があった。僕は、狙い定めたように、その音源を見た。ミチコちゃん。朝から夕まで教室に響く声で騒いで、いっこうに、周りが迷惑していることに気づかない。彼女はクラスで浮いていることに気づかないのだから、浮いていようがいまいが、どちらでもいいわけだ。呑気なもんだなぁ、とミチコちゃんを見つめていると、不意に、肩を強く叩かれた。
「いてっ!」
「いてっ、じゃないわよ」
 もう一度、叩かれて、ようやく、僕は振りかえる。サキちゃんだ。クラスの女子では、サキちゃんくらいとしか関わらない。陽気と陰気のバランスが取れているので、割と好きだった。僕は、「もっと優しく叩いて」と抗議してから、「で、おはよ」と一応の挨拶を済ませる。サキちゃんは、「おはよ」と笑顔をちらつかせると、「はい、これ。次はあなたの番だから」と一冊のノートを差しだしてきた。それを受け取る。
「わかった。じゃあ、今日の帰りに返すよ」
「待ってる」
 サキちゃんは席へと戻っていった。あまり人付き合いの好かない僕がサキちゃんと関わるようになったことには、ちょっとした経緯がある。一か月ほど前、サキちゃんが風邪で休んだことがあった。そんなときは、その日に配布されたプリントを誰かがサキちゃんの家に届けることになる。家が近い人が行くのが定石だった。その日に明らかになったことだが、クラスの中でサキちゃんの家に一番近いのは僕だった。そういうわけで、プリントを届けに行ったのだ。僕は、そのとき、せっかくだからちょっとした手紙でもと思って、『ちゃんと休んどる? ゆっくりしてね』くらいの親切なメッセージを添えておいた。それが、交換日記の始まりだった。今、サキちゃんから受け取ったノートは、つまり、交換日記である。いつもみたく、日常の出来事を大袈裟に書きたててるんだろう、と僕は、ノートを開いた。が、違った。そこにあった内容に、首を傾げることになった。
『ずっと、見られてる、ミチコちゃんに』
 なんだこれは、と僕は、顔を上げる。そのとき、クラスの中にミチコちゃんはいなかった。さっきまでノイズのような高音を響かせていた彼女の姿は、もう、なかった。
 サキちゃんからの奇妙なメッセージのせいで、夏が近づいてきたというのに、薄ら寒い朝を迎えることになった。『ずっと、見られてる、ミチコちゃんに』とは、サキちゃんがミチコちゃんに見られているように感じるということだろう。ミチコちゃんの凶暴さは、クラスの誰もが知っていた。ひどく衝動的で、すぐに手を出してしまうところがある。過去には、ある女子の眼球を殴って、失明させたこともある。喧嘩をすると、傘を振りまわすことは周知の事実だ。そんなミチコちゃんとは誰も関わりたくない。かといって変な態度に出て怒らせるのも怖いので、うまく合わせているのだ。
 サキちゃんがミチコちゃんを怖がるのは、わかる。しかし、僕が見たところ、別段、ミチコちゃんがサキちゃんを見ているといったことはなかった。僕の席からはサキちゃんもミチコちゃんの席も見えたが、ミチコちゃんは終始、机上に両腕を置いて手元を見つめている。手元にあるものは、ときどき、キラッと蛍光灯を反射していた。きっと、手鏡だろう。ミチコちゃんは、ずっと、自分の顔を見つめているのであって、サキちゃんの方には目を向けていない。サキちゃんの被害妄想だということになる。
「大丈夫だよ。ミチコちゃんは、サキちゃんのこと、見てないよ」
 帰り。交換日記を返すときに、僕は、勇気づけようと快活に言った。そのとき、サキちゃんは、暗い顔になった。そして、ううん、と首を振るのだった。嫌な予感がした。耳のすぐ近くで、あの、不気味なミチコちゃんの笑い声がしたように感じた。なにが、ううん、なのだろうか。その答えは、周りを警戒するように小さな声で応じたサキちゃんの言葉で明らかになった。
「違うよ。ミチコちゃん、手鏡に写して、ずっと見てるんだよ、あなたのことを」

ずっと、見てる

執筆の狙い

作者 謎の男
14-133-203-50.shizuoka1.commufa.jp

 本作『ずっと、見てる』の執筆狙いは、もちろん、最後のオチです。このオチにぞっとしたか、どうか。また、そのオチに行くまでの流れに無駄はないか。あるいは、不足はないか。そこも知りたいです。文章としては、さらっと読めるものにしたい、という思いを持って書きました。改行をするのが少ないのも、なんだか、気になりますか?

 あとは、気になったことなら、なんでも教えてください。この作品が、今の僕の実力とイコールであると考えています。この作品の問題点は、僕の実力に欠陥があることを示すと思います。

 どうか、よろしくお願いします。

 

 

コメント

松岡修子
82.206.49.163.rev.vmobile.jp

>このオチにぞっとしたか、どうか。
 しませんでした。

>そのオチに行くまでの流れに無駄はないか。あるいは、不足はないか。
 無駄は感じませんでした。意外なオチなので、それを予感させる説明は不要だから、特に説明不足だとは思いませんでした。

>文章としては、さらっと読めるものにしたい、という思いを持って書きました。
 特にひっかかることなくさらっと読めました。

>改行をするのが少ないのも、なんだか、気になりますか?
 全然気になりませんでした。

>家が近い人が行くのが定石だった。
 定石が妙に感じます。原則で良いのでは?

>『ちゃんと休んどる? ゆっくりしてね』
 セリフを訛らせる必要性を感じません。なぜ地方色を出したんでしょうか? 

>気になったことなら、なんでも教えてください。
 世代について小中高くらいの説明があったほうが読者は世界観をイメージしやすくなるのでおすすめします。最初は小学生かと思って読んでましたが、主人公の冷めた感じから中高生に思えてきました。正解は?
 サキは主人公を「あなた」と呼んでいますが、不自然に感じます。主人公に名前を付けて、サキには主人公を「鈴木くん」とか「佐藤くん」とか名前で呼ばせたほうが違和感がないと思います。

謎の男
14-133-203-50.shizuoka1.commufa.jp

>松岡修子さん

 早速、感想と鋭いご意見、ありがとうございます。

 『定石』と『原則』ですね。早速、広辞苑で調べておきました。細かいところ、ありがとうございます。

 訛らせたことには意味はありませんでした。日常的に使っているのが出てしまっただけだと思います。気をつけます。

 設定は、中高生のように冷めた小学生ですね。ヤンチャな小学生を書くのは難しい。

 ぞっとしなかったというのは残念です。そこがバシッと決まっていなければこの作品は意味がないので。頑張ります。ありがとうございました。
 

みく
om126179120007.19.openmobile.ne.jp

読ませていただきました。
最後のオチには、率直に「え?どういうこと」と思いました。
そして、後からミチコちゃんが手鏡で主人公を見てニヤニヤしているシーンを思い浮かべてみると、確かにちょっと怖くなりますね…。

>サキは主人公を「あなた」と呼んでいますが、不自然に感じます。主人公に名前を付けて、サキには主人公を「鈴木くん」とか「佐藤くん」とか名前で呼ばせたほうが違和感がないと思います。

松岡様のご意見に口を挟むようですが、私は"あなた"にした方が、より不気味さが演出されるように思いました。

>「違うよ。ミチコちゃん、手鏡に写して、ずっと見てるんだよ、あなたのことを」
>「違うよ。ミチコちゃん、手鏡に写して、ずっと見てるんだよ、佐藤くんのことを」
読後感が変わってくるのではないでしょうか。

夢酔人
mno6-ppp1251.docomo.sannet.ne.jp

読んでいる途中で
『ずっと、見られてる、ミチコちゃんに』
の箇所の主語はあえて省いているのだろうな、と気づきました。
怪しすぎます。
それからミチコちゃんが手鏡を見ていてサキちゃんや僕の方を見ていない、という描写も手鏡を通して見ているのだろうな、と察しがつきました。
ですので、

>このオチにぞっとしたか、どうか。

という質問に対しては、Noと答えさせていただきます。
それから、手鏡に映して僕を見ていたのだとしたら、確認した時、鏡の中のミチコちゃんと僕は目が合っていたはずです。

そういうわけで、仕掛けの部分がとてもシンプルで、不十分だと感じました。
これはとても短い話です。長く複雑な話を書くなら矛盾点やケアレスミスが出る確率はさらに上がります。
精度をもっと高める必要があると思います。

それと、なぜミチコちゃんは僕のことを見ていたのでしょうか?
好意があって見ている可能性もあるわけですよね?
その場合、もちろんホラー要素はありません。
そもそも、元気でよく笑う小学生の女子にただ見られただけでなぜホラーになるのでしょうか?
読者は次を知りたくなりますが、掘り下げもなく、ミチコちゃんの意図も不明で、さあ怖がれと言われても……って感じですね。

謎の男
14-133-203-50.shizuoka1.commufa.jp

>みくさん

 徐々に来ましたか。それだと、僕の想定とは違いました。夢酔人さんの言う通り、想定不足だったかもしれません。貴重なご意見、ありがとうございます。

>夢酔人さん

 そうかもしれないです。この作品を書いているとき、そこまで想像していなかったとしか言えません。ただ、ミチコちゃんは手元に鏡があるけれど、僕は遠くから鏡の反射だけが見えていたのではないかと思います。それでも、距離の説明が必要だったかもしれないです。

 ホラー要素としては、ミチコちゃんがいかに凶暴であるかということを前提にして話を進めているので、最後にドーンっていう感じを想定していました。ミチコちゃんが凶暴であるため、好意を寄せられることも怖いではないかという感じです。その部分の説明は不足していたとも考えられます。

 貴重なご意見、ありがとうございました。

 

スカイ画廊の父
sp49-98-156-53.msd.spmode.ne.jp

 ゾッとしましたが、怖いとか、作品としてのオチが良くできているというわけではないと思います。その人の普段とは違う行動をのぞき見てしまったあのときのなんとも言えない感じがしました。なんとも言えないとは書きましたが、たいていは人間臭い一面です。だからラストはミチコちゃんの生(なま)の人間性が初めて描かれる瞬間で、妙にリアリティがあるのと同時に、ミチコちゃんの今後に対して安心しました。つまり私は作者さんの意図とは違うところを味わったわけです。まあツッコミを入れてしまうと、こういう子は発達障害か何かわかりませんがとにかく特別支援学校などに移されるはずなので、作品としては破綻していると思います。

のべたん。
sp49-96-35-150.mse.spmode.ne.jp

読ませていただきました。
最初は高校生くらいを想像してましたので、最近はLINEとかで連絡とれるから違和感を感じていましたが、スマホを持ってない小学生という設定なら、納得です。
ラストはドキっとしました。

偏差値45
softbank219182080182.bbtec.net

>このオチにぞっとしたか
狙いは分かりましたが、そこまでの感情移入は出来ていないかな。

>そのオチに行くまでの流れに無駄はないか。あるいは、不足はないか。
サキちゃんと主人公の人間関係は分かりますが、ミチコちゃんと主人公の関係性が必要ですね。それはミチコちゃんの心理描写が出来ていない。オチでぞっとさせたいならば、なにかしらの主人公との間のトラブル、確執があってしかるべきかと思います。

>あとは、気になったことなら、なんでも教えてください。
ミチコというネーミングですね。古風な名前なので感覚的に言うと、昭和ですね。逆に言うと現代的なストーリーではない感じがしますね。
また、小学校なのか、中学校なのか、よく分からない。これはクリアにしておいた方が親切でしょうね。

謎の男
14-133-203-50.shizuoka1.commufa.jp

>スカイ画廊の父さん

 そうですね。少々、曖昧なところがあったかもしれません。曖昧なところを残しておきたいタイプなので、狙いとは違ったものを与えてしまったかもしれません。ここは考えどころです。

>のべたん。さん

 ドキッとしてもらえるのが、いちばん嬉しいです。

>偏差値45さん

 登場人物の年齢設定はクリアにするよう心掛けます。ミチコちゃんの人物描写は、もっと多かった方がよかったかもしれません。

 皆さま。本当に貴重なご意見、ありがとうございました。

愛&背文
nthkid021022.hkid.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp

うん、やはり思考の語彙と登場人物の年齢差みたいなところが気になったし、キャラが分量的にも質的にもあまり描けて
無い印象のまま、オチについてしまって、よくわからん部品で組み立てられた使い道のわからない何かの機械、みたいな
漠然としたものになってしまっているように思う。
これを序章として、めでたしめでたし、まで書ききるか、そういうところまで空想の中で完結してから、これを書き始め
れば、また全然違った印象とかが発現してくると思うがどうだろう。

謎の男
14-133-203-50.shizuoka1.commufa.jp

>愛&背文さん

 オチを書きたいだけだったので、キャラはどうでもよかったというのが本音ですね。怪談みたいなつもりでした。ですが、やはり、みなさんの反応を見る限り、オチが決まっているとも言えないので、そこは反省したいと思います。

 貴重なご意見、ありがとうございました。

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