作家でごはん!鍛練場
御廚年成

花と実弾(前篇)

御高覧のレディーへ。
 拙作には「下品な表現」「性的な表現」「差別用語」が多数あります。
御承知下さい。







目 次
 1 ハフルー・イスラム共和国
 2 ラマダーンの月
 3 無法地帯
 4 実弾の宴
   40,000字制限のため、5・6・7は2週間後に投稿します。
 5 パリは燃えているか
 6 地中海の朝
 7 柔らかな風の中で
    柔らかな風の中で……師走
    柔らかな風の中で……初夏







1 ハフルー・イスラム共和国

 中近東などと言う言葉は、ヨーロッパの言葉だ。
 ここはアラビア半島の西、地中海に面したハフルー・イスラム共和国。ハフルーとグリニッジ標準時との時差は二時間、ハフルーと日本との時差は七時間。アラビア半島は、大遠西だ。

 キャンプと呼ばれる建設現場の夜明け前。闇の中に建設用クレーンがそびえ立つ。
 朝倉啓介は地上四十五メートルのクレーン最上部に立ち、吹き抜ける冷たい風に作業服の襟を立てた。日中の気温は五十度を越えるが、日の出前は十度以下に下がるのだ。
 常夜灯に照らされた現場を見渡す。
 現地作業員の宿舎入口には、ラマダーンを祝って飾られたランプ、ラマダーン・ファヌースのステンドグラスがキラキラと輝く。それらを見つめる胸中には、自分の仕事が地図に残る、その快感が溢れる。他に楽しみは、会社持ちで週に一回、十分の国際電話と数ヶ月に一回の帰国だ。
 そんな中で二人の子供にも恵まれたが、「まるで母子家庭だ」「玲子さんばかりに苦労を掛けて」「お前は種付けしか能がない」と周囲に言われた。だが、子供の頃から父に「男は金を稼いで女房子供を喰わす。それが出来て一人前」と言われて育ち、朝倉自身も「男の価値は、稼いだ金の額」とうそぶいた。事実、彼の給与は海外手当や危険手当を加えれば、国家公務員などとは比べモノにならなかった。

 遙か東の山脈、その稜線を微かに紫色が飾る。スピーカーから早朝礼拝のファジュルを呼びかけるアザーン(*1)が朗々と響き、アッサラート・ハイルゥン・ミィナン・ナウム――礼拝は睡眠に勝る――と詠う。
 今日も一日が始まった。


(*1) サラート(礼拝)への呼びかけ。一日五回、サラートの度に放送される。
ファジュルのアザーン:https://www.youtube.com/watch?v=kgEAVCpLB_c
その他のアザーン  :https://www.youtube.com/watch?v=T8o6WKTQpMc 
           0:35からマッカ(メッカ)のカアバ神殿の空撮です
 ただし、宗派によって少々異なるので、"azan"で検索してみて下さい。


2 ラマダ-ンの月

 王政を廃したハフルーが威信をかけた五ケ年計画、その一つとして農業振興と飲料水の供給を目的とした海水淡水化計画が立案された。第一弾となる第一海水淡水化プラントのプライム(主契約会社)を旧宗主国であるフランスのモント社が取り、ベンダー(協力企業)として、日本の帝国特殊工機も参加していた。

「ラマダーン・カリーム!」(ラマダーンおめでとう)
 倉庫や現場を回る朝倉にラマダーン月定型の挨拶の声が掛かる。腹の中で「クソ暑いのに、断食がめでたいかよ?」と毒づきながらも、空気の読める日本人だ。晴れやかな笑顔で「ラマダーン・カリーム!」と答える。
 日本ではラマダーン=断食と思われているが、ラマダーンは九月の意味で、そこで行われる断食はサウムだ。病人や妊婦、旅行者などを除き、日の出前から日没まで飲食・喫煙を避ける。敬虔なムスリム(イスラム教徒)の中には唾を飲み込む事さえしない者もいるが、この時期を選んで旅行し、サウムを逃れるユルいムスリムもいる。しかも、今年は最も辛い真夏のラマダーン。イスラム歴は太陰暦のため毎年一〇日程太陽暦とズレが生じ、約三〇年で暦が一周する。そのためムスリムは一生に二回、真夏のラマダーンを経験すると言われている。
 キャンプは日本の飯場の様なシステムになっている。日本人技術者と現地雇用者は宿舎こそ違え、食事は全員が同じ食堂で同じメニューを喰う。サウムの期間中は、日没後にイフタール(朝食)と称して出される形こそ日本で見かけるパンケーキに似ているが、その中にチーズやクリームやナッツを入れて揚げ、甘い蜜を掛けたカターイフには飽き飽きし、その後も夜中の昼食や夜明け前の夕食には閉口していた。
 サウムが明ければ、普通の時間に食事が出来る。その日、サウム開けを祝うイド・アル・フィトルは盛大な祭りだ。男も女も衣装を新調し、ご馳走を食べて祝う。金のない者達は、金持ちの門前でバクシーシ(お恵みを)と喜捨を乞い、金持ちはこの世の功徳と食事を振舞う。この功徳はアッラーの帳面に記載され、最後の審判で用いられるから。
 このキャンプでもイド・アル・フィトルでは無礼講で御馳走を喰って大騒ぎし、ストレスを発散する。チームワーク醸成に同じ釜のメシを喰うのが有効なのは洋の東西を問わない。そして翌日から四日間は、サウム明け休暇のレバランだ。
 しかし、喜んでばかりいられないのが日本のサラリーマンだ。
 朝倉を悩ませる監査が間近に迫っていた。この現場で初めて資材責任者として膨大な建設資材や一日も欠かせない食品、事務用品から医薬品までの数万品目を超える管理をまかされていた。数十億円分の資材を管理するのは並大抵の事ではない。セメント一袋、ボルト一本でも金が掛かる。下手をすれば頭の黒いネズミも紛れ込む。
 だが、朝倉の機嫌は良かった。あと数日でサウムが終わるのだ。

 午前中のチェックを終え事務所に戻りドアを開けた瞬間、エアコンの冷気と共に所長の植田の大声が吹き出してきた。
「あぁッ?……本当かッ?! 理由はッ?!」
 植田の目が朝倉を捉え、窓ガラスがブッ飛ぶ程の大声が伝わってきた。
「朝倉ッ! 食品をチェックさせろ! 大至急だッ!」
「どうしたんですか?」
「アフリカで中国の現場が皆殺しだ! ムスリムに豚肉を喰わせやがった!!」
 豚肉を喰わせる、これは究極のタブーだ。ムスリムの食品には清浄なハラールと不浄なハラム、そして避ける事が望ましいシュブハが有るが、それ以外にも調理器具を共用してはならないなどの制限がある。
「すぐに確認しろッ!」
 朝倉は走り出した。食堂になっているプレハブのドアをブチ破るように中へ入る。
「飯田! イフサーン! 来てくれ! 早く!」
 給食管理の飯田だけではなく調理長のイフサーンも大声で呼ぶ。
「何ですか朝倉さん」
「どうしたアサクラ?」
 不審気な二人の声が重なる。
「飯田、ここの食品は全てハラールだな? 間違いないな!? イフサーン、ムスタファーは大丈夫か。チェックの時に……」
 食品納入業者の名前を出した。
「アサクラ! お前は私を疑うのか!!」
「ちがう! ムスタファーが間違うかもしれない。人は誤る事があるとクルアーン(コーラン)にも書いてあるじゃないか」
「ムスタファーは大丈夫だ」
「クルアーンに書いてあるンだぞ。点検する。手伝ってくれ」
 クルアーンを引き合いに出すのは効果絶大だ。イフサーンも不承不承ながら頷く。
「だが、何で急に調べる?」
 アフリカで中国のプラントが皆殺しになった件を話した。驚くかと思ったが、反応は意外に薄かった。
「そのことか」
「知っていたのか」
「あ、ああ、ラジオで聞いた……だが、アサクラがそこまで言うなら調べよう」
 一瞬、違和感を感じたが、深く考える余裕はなかった。
 三人で食料品庫や冷蔵庫にうず高く積まれた食品をチェックをし、抽出して個包装も見る。プレハブの外に並ぶ断熱バリア材で覆われた冷凍コンテナの中も全て確認した。
 点検には二時間ほどもかかった。
「イフサーン、ありがとう。やっぱり問題はなかったよ。君のおかげだ」
 朝倉は胸をなで下ろした。だが、まだ最大の難所の監査が待っている。帝国特殊工機はプラント屋だが総合商社の孫会社でもあり、それだけに監査は厳しい。
 飯田が口を開いた。
「ところで監査員、誰が来るか決まったんですか」
 朝倉の顔がゆがむ。
「河田のクソ野郎だ」
 河田は、国立の東京商科大を出て総合商社に入社したが、女癖が悪く。噂では庶務の女の子に手を付け、孫会社へ飛ばされたと。その上、現場経験もないくせに現場に口を出すから事業本部、特に海外事業部からは蛇蝎のごとく嫌われていた。
「今夜のミーティングでも徹底するが、いいか、絶対に余計な事をしゃべるなよ。聞かれた事だけに答えるんだ」
「わかってます。何かあったら確認してきますと言って席を外す……でしょ?」

 レバランに合わせて監査が始まった。
 日本から着いたばかり、ジェットラグも覚めきらない河田をいきなり炎天下に徒歩で連れ歩く。安全への注意喚起をした事を証明するため、事務所でミネラルウォーターのボトルを渡した。だが、それを河田は置いてきていたことに全員が気づいていた。しかし一切口にすることなく、炎天下で倉庫の現物点検から始まった。
「現在数は? それと帳簿を」
 河田は帳簿と現物の数量をネチネチと数え始める。だが、三〇分もしない内に顔や首筋が塩の結晶で白くなる。乾燥地帯では汗はすぐ蒸発し、汗をかいた事が認識出来ない。そのため、喉が渇く前に少しづつ水分を取らなければ脱水になる。
 やがて河田の息が浅く早くなってくる。脱水が始まっていた。これ以上余計な事を言い出したら「炎天下での不幸な事故」に発生してもらおうかと考えた時、河田が鼻血を流し始めた。乾燥と脱水で鼻の粘膜が割れ、鼻血が出るのは珍しくない。河田は、あわててハンカチで鼻血を押さえる。それでも帳簿を離さないのは見上げたモノが、目は曇り始めていた。
「若いヤツらは、この炎天下でも良くやってくれていますよ。少し早いですが、ちょっと休憩しますか」
 少々イヤミを効かせながら若い者達を持ち上げ、徒歩で事務所に引き上げた。
「痛たたたァ!」
 エアコンを効かせた休憩室で食塩錠と冷やしたスポーツ飲料を飲ませる。 脱水でこむら返りを起こしたのを見て、腹の中でガッツポーズを作る。これで午後はもっとペースが落ちる。
「河田さん。午前中はここまでにしましょう。休憩して下さい。昼飯を喰った後で次を見ていただきましょう」
 帳簿類を持って全員で退出した。言われない限り、余計なモノは絶対に見せない。

 現場食堂のメニューは、幾つかのメニューのローテーションだ。
 今日は、細長いインディカ米をスープで炊いて羊肉のローストを乗せ、スープカレー風のソースを掛けたビリヤーニと、インドのナンに似たホブズ。ホブズにバターやジャムの様に付ける新鮮な豆腐に少し似た香りのホムスは、タヒーナ(ひよこ豆)、ごま、ニンニクをすりつぶしてオリーブ油に混ぜ、レモンと塩を加えたペーストだ。これをタップリ付けて喰うと、汗で失った塩分が体に染み渡るようで旨い。テーブルには巨大なシシトウや分厚く輪切りにしたキュウリを塩とスパイスで浅漬け風にしたピタがステンレスのボウルに山盛りで取り放題だ。河田は意外な程の食欲を見せた。

 午後からも倉庫巡りを強行し、合法的に痛めつける。だが、東京商科大を出ているだけあってバカではない。事務所に戻るとネチネチと重箱の隅をつつくような指摘が始まり、帳簿類の監査や法令等との整合性は微に入り細に渡る。腹の中で百万本は中指をオッ立て、いや、フランス式にコブシを突き上げた。所長の植田は「日本語の多彩な修飾と形容に関する一考察」と言うタイトルで論文が書けそうな程のヨイショ攻撃だ。

 夕食後にジェットラグと疲労で睡魔に襲われた河田は、意外なほど早く自室に引き揚げた。だが、この後は寝入り端に大音響で夜の礼拝、イシャーのアザーンを流して異国情緒を満喫してもらい、明朝も日の出前からファジュルのアザーンで心地よい目覚めをしてもらう予定だ。まともに寝かせてやるつもりは毛頭ない。何か文句を言ってきたら、シャリーア(イスラム法)に対するコンプライアンスを言訳にする。

 翌々日の午後に監査は終了した。河田本人も炎熱による過労と睡眠不足が重なり、グロッキー気味で十分な監査が出来ていない事を理解しているので、大きな指摘はなかった。もちろんヨイショ攻撃も効いている事だろう。
 監査書に署名捺印が済む。これで一安心だ。
 夕食は、現場を離れて市内で最高級とされるレストランに入る。ダイニングにはバイキング形式のアラビア料理が並ぶ。温かい料理が盛られた直径六〇センチ程もある銀器や、砕いた氷で冷やされた料理が盛られた銀器が数十個並んでいる。
 調理された料理だけではなく、その場で好みの調理法やソースを命じる王侯貴族の贅沢な食生活を再現するため、砕いた氷の上に下ごしらえした肉や人気のあるロブスターやゾバイティ(マナガツオ)、ハムール(ハタ)など様々な魚介類や、ズッキーニかと思う様な巨大なキュウリ、日本のトマトより一回り大きく、赤と言うより緋色と表現したくなる様なトマト、巨大なシシトウ、小さいが甘味の強いニンジン、日本と変わらないレタスやセロリ。デザートの棚は、ルビーのように輝くザクロ、日本の干し柿に似た食感のデーツ(ナツメヤシ)、オレンジやパインアップル等の果物、一皿で糖尿病になりそうなほど甘いケーキも並ぶ。
 食事の最中も植田のヨイショ攻撃は止まらなかった。
「御指導ありがとうございました。勉強になりました。御指導頂いた所は直ちに是正し、遺漏無き様に努めます」
 と言った後、にやりと笑い。
「ところで……どうです? せっかくハフルーまで来たのですから、今夜は面白いトコを見て、思い出にしちゃァ」
 人差し指と中指の間に親指を挟んだ握りこぶしを作り、朝倉を指す。
「こいつは、なかなかオツな所を知ってましてね。御案内させますよ」

 朝倉の運転する車はコンクリートに固められた新市街を抜け、石と煉瓦の旧市街へ向かう。旧市街へ入と街灯がなくなり、暗くなった空には灯に隠されていた星空が広がりはじめる。さらに街から三〇キロほど離れれば、空はプラネタリウムになり、星や星雲に色があるのも肉眼で見えるのだ。
 しばらく走ると石造りの塀のある一軒の民家があった。何一つ特徴がなく、周囲の家と区別が付かない。その中に車を乗り入れた。
 太陽に炙られ白っぽくなった粗末な木のドアをノックする。
「モン・マダーム」
 フランスが宗主国だったハフルーではフランス語が第二言語だ。のぞき窓が開き、野太い男の声が返ってきた。
「何の用だ」
「マダームの花が綺麗に咲いたと聞いた」
 合い言葉を唱え、一枚の紙幣をのぞき穴に入れる。複数の鍵が外ずされる音が聞こえ、ドアが開いた。
 室内に入ると目に飛び込んで来るのは裸電球に照らされた粗末な民家としか思えない部屋、だが同時に鼻腔に飛び込んでくるのはフローラルとムスクを混ぜたような甘く淫靡な香り。ドアを開けた筋骨隆々たる男の後ろから全身を覆う黒いアパーヤをまとったマダームが現れた。
「まあ、ムシュウ・アサクラ。そちらの紳士を御紹介下さる?」
 ここは紳士ための夜のサロンだ。

 薄暗い廊下の奥にある緞帳のような分厚いカーテンが開かれた。入口の部屋とは違い、まさにハーレムだ。一〇〇畳程もある部屋には色鮮やかなペルシャ絨毯が敷かれ、かしこにアラビア風の調度品が並ぶ。数十人もいる女達は、顔を蔽うフムルや髪を蔽うシェイラもまとわない者が多く、何人かはベリーダンサーの様なアラビア衣装……乳首の輪郭が現れるほど薄いサテン地のブラジャーにシースルーの上着、ゆったりとした女性用ズボンのケワス……をまとっていた。日本人の感覚ではコスプレ程度だが、アラビア界隈では裸エプロン級のインパクトあるセクシーな姿に映る。
 女達は東洋と西洋それにアフリカの交点らしく、ブレンデッド・ウィスキーの様に様々な血がブレンドされ、髪や瞳、肌の色もアラビアを始め欧風から北アフリカの褐色やアジアを感じさせる者、サビーア(少女)からヴィクトリアズ・シークレットのモデルかと思うほどのプロポーションを持つペルシャ美人、アルバニアやルーマニアあたりからの出稼ぎと思しき白人女、果ては関取と呼びたくなるようなデブまで揃っている。
 サロンの中では数人でテレビを見たり、いくつかのグループはソファーでお喋りをし、雑誌を読む者、中には居眠りをしている者、はては籐で編んだベビー篭の赤ん坊をあやす者等々、思い思いに過ごしていた。

 白い山羊皮のソファーに腰を下ろす。マダームが傍に控えているペルシャの血を感じさせる彫りの深い容貌を持つ美少年に声をかける。この少年も金さえ払えば花嫁にも花婿にもなる。
「ハミド、お客様にコーヒーを」
 朝倉が声をかけた。
「マダーム、こちらの紳士にはシャンパンを差し上げて」
「わかりました。ハミド、聞こえたわね」
 え?という表情の河田が口を開いた。
「朝倉君、コッチで酒は……」
「マダームは政府関係にも顔が利きますから、安心してアラビアン・ナイトを楽しんで下さい」

 ハミドが小さな金魚鉢かと思うほど大きいフランス式のバロン・グラスに黄金色に輝く液体をタップリと注いで運んで来た。これはサウジアラビア産の炭酸入りリンゴジュース、通称サウジ・シャンパンにウォッカをブチ込んであるフェイク・シャンパン。シャンパンのアルコール度は日本酒並みだが、これは倍以上ある。河田の少々有るかもしれない理性を飛ばして貰う道具だ。
 河田がキンと冷えたシャンパンを啜りながら親指と人差し指でマルを作る。
「結構掛かるんじゃないのか?」
「気にしないで下さい。全額こちらで持ちます。ご足労を掛けた上、色々と御指導頂いた、まぁ、ささやかな御礼ってトコです」
「そ、そうか?……いや……君の所は良くやっていると思うよ」
「ありがとうございます。なお一層、勤務に精励させます」
「よろしく頼むよ……だが……この後はどうすればいいんだ?」
「簡単です。気に入った女の前で“汝を妻となす”と言えばOKです」
「なんだそりゃ?」
「え~と、ムスリムは婚外交渉が厳禁で,石打ちや斬首での死刑が科せられる事もある重罪なんですよ。だから“汝を妻となす”と宣言して夜を過ごして、明日“汝を離縁する”と宣言して離婚の慰謝料という名目で花代を支払う。つまり夫婦であるから問題ない、と言うスタンスなんです」
 河田の表情が「ほう」というように変わる。
「そうか……だが、こう言っては何だが……目移りするな。あはははは」
 間の抜けた笑い声を無視して答える。
「一人とは限りませんよ。何人娶ってもかまいませんから」
「ホントか!? 何人でもいいのか?」
「クルアーンにも四人までは娶れるとありますが、全員に公平が絶対条件です」
「どう言う事だ?」
 河田の目に不審げな色が浮かんだが、朝倉は笑顔を崩さない。
「つまり一人の女に二発ヤッて、他は一発だと侮辱になります。まして弾切れでヤりもしなかったら……チンポを切られても文句は言えません」
「お、おい、冗談……」
「本当です。クルアーンには、妻を全員平等に扱えと書かれていますし……」
 嘘だ。確かにクルアーンには妻達を平等に扱えと書いてあるが、ココは別だ。それに花代は、円・ドル・ユーロと現地通貨のレート変動や闇レートを利用した差額や業者からのリベートを秘密裏にプールした現場の裏金から出すのだが、それを少々節約するためでもある。
「……日本語でも、マラ八分目とも言いますから」
 ニタりとポン引きの笑顔で言い放つ。

 やがてアルコールが回り、チラチラと女達を眺めていた河田の目尻が下がり、朝倉に促されて物色に歩き始める。
 テレビを眺めていた小柄なサビーア(少女)が、たどたどしいフランス語で河田の袖を引いた。
「モン・メートル(ねえ、御主人様)、どこから来たの?」
 アラビアの血が濃いアーモンド型のくっきりした大きな目に薄茶の瞳、南欧風のくすんだブロンド、膨らみかけの胸をアラビア衣装に包んでいる美少女だ。
「ジャポン……わかる?」
「ウィ・メートル」
 スミレの花の様な笑顔でコクンと頷く。
「名前は?」
「サミレフです。御主人様」
 鼻の下をヘソの辺りまで伸ばした間抜け面でサミレフの手を引く。
「汝を……」
 そう川田が言った瞬間、となりに座っていたサミレフと同じ、くすんだブロンドの女が立ち上がった。小玉スイカの様なオッパイが薄いサテン地のブラジャーを突き破りそうに揺れる。
「あたしはサミレフの姉のアテフェフ。サミレフを娶るなら、あたしも一緒よォ。二人で天国に連れて行ってあげるわ。どぉ?」
 朝倉が、河田の耳元でささやいた。
「姉妹丼の三輪車なんて滅多にないと思いますよ。どうです挑戦しては?」
「し、姉妹丼の三輪車って……いや……参ったなぁ……あはははは」
「さあ、天国の扉は近いわ」
 そう言うアテフェフに手を引かれ、下卑た笑いを浮かべて奥に向かう。朝倉も黒褐色の髪の女を連れ、後に続く。
 途中で河田を呼び止め、抗生物質の錠剤を渡した。
「河田さん。これを合戦前に二錠、明日の朝また二錠、仕上げに明日の夜に二錠飲めば、変な土産は貰いませんよ」
「本当か? ナマでも大丈夫か?!」
 日本製のコンドームも差し出す。
「念のためゴムもして下さい。コッチのはダメですから」
 ヨーロッパ製のコンドームは事務用の指サックかと思えるほどブ厚く、日本製の〇.〇二ミリとは比較にならない。早漏防止には適切だが……。

 河田の入った二〇畳ほどもあろうスペシャル・ルームは、踝まで埋まるほど毛足の長いペルシャ絨毯が敷かれ、白を基調とし、金をあしらったキンキラキンのソファーや調度品が並ぶ。部屋の中央にはキングサイズのベッド、片隅にあるシャワー室はゴールデン・シャワー(放尿プレイ)やブラウン・シャワー(糞便プレイ)も楽しめる様に広い。その横にあるトイレは和式便器同様、しゃがみ式だが金隠しが無いアラブ式。そしてトイレもシャワーも全てガラス張りで各種の鑑賞も楽しめる。更に壁の一面と天井は鏡張りだが、これはフランス人の好みだろう。ベルサイユ宮殿にも鏡張りの寝室がある。よく見れば奧の壁にはペニスと陰嚢を拘束する革と金属で作られたアラブ・ストラップや皮手錠やらムチなども吊るされ、産婦人科の診察台を連想させるラブ・チェアーも見える。
 しかし、本当のスペシャル・ルームは朝倉の入った部屋だ。
 朝倉は部屋へ入ると女にかまわず、ベッドの脇のドアから隠し部屋に入る。そこは、隣室の鏡張りの壁がマジックミラーになって丸見えだ。ビデオとカメラを準備していると、河田は透かし彫りの施された銀の水差しからクリスタルのグラスに水を注ぎ、錠剤を飲んでいた。

 姉のアテフェフと妹のサミレフの二人掛りで、あっという間に河田の服を脱がせる。早くも鎌首を持ち上げているイフリール(チンポ)は、なかなかの業物だ。
 アテフェフがさっさと衣服を脱ぐと小玉スイカ顔負けのオッパイが露わになる。サミレフはシースルーの上着を取っただけだったが、河田がサテン地のブラジャーを捲り上げると、まだ固さを残す乳房とピンク色の小さな乳首が現れる。鼻息荒くケワスを引き下ろすとターリブ(おまんこ)はパイパン。毛も生えていないほど幼いと思ったのだろう、河田の鼻息が鏡越しにも伝わるほどだ。だが、ムスリムは男女を問わず陰毛を剃る習慣を持つ者が多く、アテフェフもパイパン。土手に走るクレバスが丸見えだ。
 アテフェフが河田の手を引きシャワー室に入り、三人でシャワーを浴びる。膝立ちになったアテフェフが天を指しているイフリールを握り、根本から竿先に向かってギュッとしごいて病気の有無を確認する。その間も河田はサミレフのオッパイを撫で回す。妖艶な笑みを浮かべたアテフィフが膝立ちになると、シャワーで濡れた小玉スイカの様な巨大なオッパイで河田のイフリールを挟む。サミレフも足を搦め、まだ硬い乳房を仁王立ちした河田の脚に擦り付けながらハクィーバ(袋)を撫で上げる。河田がイフリールを引き抜き、サミレフの口に近づける。上目遣いのサミレフの口に雁先が収まるとアテフィフも参戦し、二人の舌が二匹の赤い蛇のようにチロチロとイフリールからハクィーバまでを這いまわり、アテフィフの指がイフリールをシゴきあげる。
 僅かの時間で白濁液が放物線を描いた。

 河田は一発目を放つと少し落ち着いたようで、サミレフの手を引き鏡の前に座る。膝の上に大股開きで乗せ、膨らみかけの胸とターリブをこねる。アテフィフが、歯磨きのチューブの様なものから出したジェリーを河田のイフリールからハクィーバまでタップリと塗り、撫でまわすと驚嘆すべき回復力で再び天を指した。
 サミレフがイフリールを握り、腰を浮かせてターリブに誘導すると童貞少年のように息せき切って後背座位で結合する。河田の口元が圧迫感にヨダレが垂れそうに緩む。結合部を指で開いて鏡に映しニタニタと眺め、硬さの残る胸と小さな乳首を撫で回しながら抽送を繰り返す。だがイフリールは抜身のままだ。奥さんに変な土産を持って行くな、と他人事ながら気になる。抗生物質は万能薬ではないし、安全のためには現場と同じでヘルメットは欠かせない。「ご安全に」とイヤミの一つも口から出そうだ。
 アテフィフが河田の肩を引き、横臥させると顔面に騎乗する。河田の舌がターリブをナメ上げる。

「あんた、あたしが気に入らないの?」
 不意に朝倉に声が掛かった。夢中でシャッターを押していたので、近づいてきた女に気付かなかった。
「それとも、ヤるより見る方が好きなの?」
 女の手がスラックスの前を押さた。
「日本人は硬いって聞いてたけど……凄い……」 
 半年も妻と逢っていないドリルは、掘削準備が完了していた。ビデオのセットを確認し、女に手を引かれ部屋へ戻ると抗生物質を服み、〇.〇二ミリのヘルメットを装着し、心の中で「これは交接ではなく排泄だ」と言い訳しながら掘削作業を開始した。

 翌朝、朝倉がサロンに降りるとマダームが死体でも目を覚ましそうな濃いコーヒーを勧めてくれた。仕込んだ姉妹の花代やシャンパンなどの代金に十分なチップを加えて支払う。
「日本人は良いですね。金払いは良いし、トラブルを起こさないから好きですよ。シーノ(中国人の蔑称)は、ドケチで始末が悪くて」
「シーノも来るんですか?」
「最近ね。何か工事だって言ってましたよ」
 通常、客の秘密を口にする事は有り得ない。だがアラビア界隈は、普段からの付き合い、義理・人情の通じる世界でもある。
 マダームに更に紙幣を数枚渡す。
「その話を教えて下さい」
「では、食事でもしながら」
 ハミドがチーズや生野菜、ローストした肉などを盛り合わせた皿を運んで来る。一緒に運ばれてきたパンはフランス式のパンだった。イースト発酵するとアルコールが発生するため、アルコールが禁忌なイスラム圏は未発酵のパンばかりなのだが、さすがフランスの元植民地だ。
 ハミドにチップを渡し、セヴン・アップを頼む。運ばれてきたセヴン・アップで征露丸と抗生物質を服み、料理をパクつく。添えられたバターはウイスキーの肴になりそうなほど旨い。

マダームの話を聞いていると河田が女達の腰に手をまわし戻ってきた。
「いや、なかなか面白い体験をさせてもらったよ」
 そう言ってテーブルに着き、ハミドが持ってきた朝食に手を出す。下痢でもすればいい……と、征露丸は渡さなかった。
「すみません。ちょっと手洗いに」
 朝倉が席を外し、廊下に出る。こっそり姉妹を呼び、チップを手渡した。
「あの男はどうだった?」
「あたしとリワート(肛門性交)したよ」
 サミレフが無邪気な笑顔で答え、アテフィフが言葉を継ぐ。
「サミレフのオッパイが気に入ったみたいね。夕べは四回、今朝は二回よ」
「他には?」
 アテフェフは渡された紙幣をもてあそび、にっこりと笑った。
「OK。だが、これで最後だぞ」
 紙幣をもう一枚渡す。
「夕べの三発目はね、あたしがアッツァーラ(魔羅)を踏んでやったら一瞬で終わったわ。それと今朝……」
 妖艶な笑顔が広がる。
「……サミレフのオシッコ見てオッ勃ててたのよォ」
 性交……いや、成功だ。大急ぎでビデオの記憶媒体を取りに戻った。

 腰も軽く出国する河田を空港で見送り、時計を見ると十四時に近い。昼食を取ろうとスーク(市場)へ寄った。
 食事を終え街路へ出る。賑やかな人々のざわめき、売り子と客の威勢の良い声が響く。道端で水パイプを銜え、行き交う人々を眺める老人のタバコの芳香、店先の果物やスパイスの香りと香水好きのアラブ人の体臭が混ざって渦を巻き、それらが混然とした流れに乗り足を進める。
 スークの外れで人の流れが止まる。赤茶けた土の広場には、梯子のような物が立っている。スピーカーが何かをわめき出す。不道徳……行為……鞭打ち……そんな言葉が途切れ途切れに聞き取れた。
 やがてカーキ色の制服に拳銃を下げた二人の男が上半身裸の男を両脇から抱え、その後方を柳のような柔軟な木を何枚も張り合わせ、細く削りだした身長程もある鞭を持ってジャッラード(処刑人)が続く。
 男が梯子に腹を付け、バンザイの姿勢で縛られる。その後ろでジャッラードが鞭を数回振り下ろすとパシッと空気を切裂く音が伝わる。
 スピーカーから声が聞こえると、一発目が背中に振り下ろされ悲鳴が上がる。みみず腫れぐらいだろうと思っていたが、一撃で背中の皮が裂け、肉が見え、血が流れ出す。二発目は尻、三発目・四発目は右左の腿、五発目がまた背中に振り下ろされたときだった。血を滲ませたズボンに一挙に黄色いシミが広がり悲鳴が途切れた。それでもジャッラードは鞭を振るい続ける。腕の良いジャッラードは、後で鞭打ちの回数を正確に数えられるよう、打つ場所を重ねないとも聞く。だが、初めて見た本場の鞭打ちは日本のエロ雑誌のSMと違い、夢見が悪くなりそうなシロモノだった。




3 無法地帯

 その日、朝倉が資材の払い出しから戻ると事務所の雰囲気は暗かった。
「どうしたんですか? 雰囲気が暗いですよ」
 不意に朝倉に声がかかった。
「おい朝倉、元気だったか。すまん、第二プラントは取れなかった」
 声をかけてきたのは事業部長の坂口だった。施工のためなら世界中の紛争地域へも平然と踏み込む坂口を海外の同業者達は「命知らずのカミカゼ・サカグチ」と呼んだ。
「えッ!? 部長がどうして? あ、いや、ご無沙汰しています」
「チンク(中国人の蔑称)の広州工業公司ってマザー・ファッカーが、メチャクチャな値段で第二を取りやがッた」
 書類が放り出され、手に取った朝倉の表情が変わる。
「これって……」
「ああ、赤字どころじゃない、完全に切り崩しだ」
 低価格でシェアを切り取り、後からゴネて値上げを要求する常套手段に間違いない。
「でも部長自ら御出馬って、何があったんですか?」
「チンクがウチの第三期工事に参加させろとネジ込んで来やがった。それで社長が激怒して敵情偵察って所だ」
 大手商社の孫会社とはいえ、零細に毛の生えた様な規模の会社。社長も元々は現場生え抜きの熱い男。メイド・イン・ジャパンが安物の時代から地球を駆け回ってきた。
 腰に付けた無線機の受信ランプが点いた。
「朝倉さん、飯田です。検食お願いします」
 給食に関する日本国内の法令では、給食管理者は喫食の三十分前までに検食をする必要がある。ここでもコンプライアンス上、日本と同じシステムを取っていた。
「了解、すぐ行く……すみません、食堂行ってきます」
 そう言い残して事務所を出た。

 食堂に入ると見知らぬ男が飯田に喰らい付く様に話しかけていた。
「おい飯田、どうした?」
「あ、朝倉さん……」
 どう見てもモンゴロイドの顔をした初老の男が振り返る。
「あなた誰? 偉い人? ショーユない? あったら買うよ」
 倉庫には日本人従業者の士気高揚のため、日本製のハラール醤油の十八リットル缶が積み上げられていた。ハラール醤油の味は、激安スーパーのプライベートブランドのような感じだ。じっくりと味わえば少々コクに欠けるが、普通に食べる分には大差は感じない。ハラール醤油をテーブルに置かれているキュウリのピタにかけると、浅漬を喰うようで口の中に日本がやってくる。旨味調味料と七味を振れば万歳三唱だ。
「何ですか? 検便未了者は厨房には入れませんよ」
「日本語わかるよ。横浜で四年居たね。元町の天上大飯店、知ってる?」
 コック長のタオと名乗る中国人だった。日本で働いた事があるから台湾人かと思ったが、大陸人だと。
「よく就労ビザが取れましたね」
「そんなの無いよ。日本の警察、甘いね」
 話を聞けば、不法就労で強制送還されたらしい。ふと気になって聞いた。
「そう言えば、現地人のコックは何人ぐらい雇ってるんですか?」
「あれダメ、これダメって文句ばっかり。全員クビにしたよ。それよりショーユ売ってよ」
 朝倉の脳に電撃が走り、シナプスが言葉を紡ぎ出した。
「じゃあ第二プラントは毎日が中華料理か。羨ましいな。そうだ! タオさん、困った時はお互い様です。一缶差し上げます」
「本当? やっぱり日本人優しいね。謝謝」
「その代わり、本物の中華料理をご馳走して下さい。コッチの料理には飽きちゃって……」
「食べに来ればいいよ。朝倉ならファン・イン・グアン・リン(歓迎光臨)ね」
 タオがケタケタと笑う。
「じゃあ電話番号教えて下さい。迷惑にならない様に事前に連絡しますから」
 一斗缶を抱えたタオが厨房から消えると検食簿に印鑑だけ捺し、事務所に吹っ飛んで戻った。

「……それで、私の判断で渡しました」
 坂口の顔が緩む。
「よし分かった。これからも食品ならお前の判断で出していい。抱き込んで情報を上げて来い。それと出来るだけ早く行ける様にネゴっておけ。ただし……」
 坂口の言葉が一瞬切れると表情も険しくなった。
「……ここまで乗り込んで来たンだ、ただのクッカー(コック)じゃねェ、インテリジェンス(情報員)の可能性も高いことを忘れるな」

 昼食後に対策会議が始まった。
 まずは中国の伝統的技法である手抜き・紛い物の可能性、そして何より中華思想の影響だ。更に情報の収集要領に移り、どんな情報を、何時までに、どの程度収集するか。そして何時、誰に、どの様な方法でリークするかにまで及ぶ。
「ところで植田、ムタワ(宗教警察)の手先は何人くらい入ってる? 目星は付いてるんだろ?」
「調理長のイフサーンと納入業者のムスタファーは、ムタワかスツィル(秘密警察)かは判りませんが、ほぼ間違いないと思います」
「えッ?!」
「何だ朝倉、把握してなかったのか?」
「は、はぁ……済みません……」
「しっかり頼むぞ。だが、そいつらは使えるな。やってるとは思うが、何か宗教上の問題がありそうだと思ったら、そいつ等に相談を持ちかけろ。シャリーア(イスラム法)に対するコンプライアンスを徹底的にアピールするンだ。ファッキン・チンクに捏造情報を流され、足元を掬われる可能性が大きい事を常に忘れるな! いいか、ハメられるンじゃねェぞ! ハメハメするのはコッチだッ!!」
 バレンタイン・デーには女子社員から山の様にチョコレートが集まるダンディーな坂口部長の面影は消え、カミカゼ坂口の姿があった。日本を出る時に憐憫・惻隠・辞譲などの言葉は、成田空港のゴミ箱にブチ込んで来た。ヤッた者勝ちだ。

 数日後、中国側の食堂を訪ねた。
「タオさん、お邪魔します」
「ああ、朝倉。ミィ・シーサンない? 日本のミィ・シーサン最高」
 ミィ・シーサン(味先生)とは、味の素などの旨味調味料だ。
「残念ですが無いんですよ……それより紹介します。坂口部長と植田所長です」
「朝倉から聞いてる。食べていく、いいよ」

 通された食堂から厨房をのぞくと、ジェットエンジンの様に唸りを上げる何台ものガスバーナー、その上で巨大な中華鍋が振られている。だが、いくら燃料費が日本の十分の一以下とは言え、凄まじいバーナーの使い方だ。
 激烈なバーナーで熱せらた中華鍋に油をブチ込むと煙が上がる。素手で食材を掴んで放り込み、一気に炒めて調味料をブッ掛けると一煽りするだけでドンドン出している。
「検食とかは、しないのですか」
「検食、何? 味見のこと? 料理冷める、不味い。分かってないね」
 朝倉達に料理の乗った盆が渡された。細切りされた禁忌の豚肉と根菜の炒め物、キクラゲとタケノコのスープに米飯だった。出された米飯は僅かに黄色味を帯び、中国米っぽい香り……正確に言えば、饐えた様な臭い……世界一旨い日本米とはミソとクソの差だ。だが、今日はそんな事を口に出す訳はない。
「いやあ、凄い。本格的な中華料理じゃないですか。いや、本当に旨い」
「植田さん分かってくれて嬉しいね。中華料理は世界一食材豊富ね」
 中華料理は食材豊富と自称するが、味は日本食に劣る。
「ホントですね。後でキッチンも見せて下さいよ。凄いんでしょう。おい朝倉、良く教えて貰え」
 植田のヨイショ攻撃は、向かう所敵なしだ。
「教えてあげる。勉強する、イイ事ね」
「はい。よろしくお願いします」
「いやぁ親切な方だ。ありがたい」
 そう植田が言った時だった。
「これ忘れるところだった。これが要るね」
 そう言うと小さな紙を出してきた。食材や調味料のリストだった。一飯の恩とは言え、リストまで作って要求する厚かましさは中華的だ。

 食事を終え、厨房を見ながら外に出た。そこには、四十フィートコンテナを改造した旧式のガス冷蔵庫が置いてあった。アンモニア水をガスバーナーで熱し、膨張して気体となり熱を奪う吸熱反応で冷やす冷蔵庫だ。中には猪肉(ブタ肉)の表示のある段ボールが山積みになり、よく見ると五花肉(バラ肉)、中头肉(肩ロース)等の表示も見える。その隅に日本製ビールのケースが積み上げられていた。
「タオさん、記念写真取りましょう。朝倉、写真撮れ」
 レンズは三十五ミリ、絞りを絞って被写界深度を上げる。三人の姿と一緒に「猪肉」の文字も入る。
「はい……いきますよ、イー・アル・サン、チェズ!」(一・二・三、茄子)
 ストロボが光る。朝倉が声を掛ける。
「もう一枚撮りましょう。今度はこっちを向いて」
 ビールのケースがファインダーに入った。

「タオさん、そろそろ我々は失礼します。いや、ごちそうさまでした」
 そう言って食堂を出た。タオが追いかけてくる。
「今度来る時、さっきのアレ忘れないでよ」
 タオと握手をして車に乗り込んだ。車が走り出すと、坂口と植田から笑顔が消えた。植田が口を開く。
「おい、ビールは撮ったろうな」
「肉もばっちり撮ってあります」
「いいぞ……だが、マズイな」
 植田の口調に躊躇が混じる。
「え?」
「これをティップオフしてみろ、影響がデカ過ぎる」
 その瞬間、坂口の怒声が轟いた。
「植田ァ! 何甘ェコト言ってンだよッ! 何年やってるンだッ! 日本製のビールってコトァ、俺達がシャリーアを無視しているとハメるための小道具に決まってンだろッ! 後手踏んでンだよ!」
「ですが……」
「ヌカせッ!! てめェイチローにでもなった積もりか!? いいか、イチローがスゲェって言っても四割も打てねえンだ。十回バッターボックスに入っても、七回はスゴスゴと帰って来るンだよッ!」
 声が変わった。
「三振上等。お前マジメ過ぎだ。証拠なんか作りゃいいンだよ」
 事も無げに言い放つ。

 事務所に戻るとカンドゥーラではなく、スーツを着た数人の男が事務所にいた。スーツの胸元からは、これ見よがしに吊されている大型の拳銃が見える。
「私はマジドだ。お前が責任者か? 聞きたい事がある。正直に答えろ。これに見覚えはないか。日本製ではないのか?」
 出されたのは日本製ビールの瓶だった。完全に後手を踏まされた。
 植田の声が上がった。
「マジドさん、日本製なのは間違いはない。だが、我々の物ではない」
「嘘を言うな!!」
「絶対に我々ではない。冷蔵庫でも倉庫でも好きに検査して貰って構わない。朝倉、案内して差し上げろ」
 朝倉をスケープゴートにマジド達を事務室から追い出した。

 マジド達が事務所を出た瞬間、坂口は電話のボタンを押した。いくつもの交換機を通る雑音が聞こえ、呼出し音が鳴る。
「帝国特殊工機会計課ぁ香坂ですぅ」
 一昨年入社した香坂祐依の華やかな声が受話器から流れた。
「事業部の坂口だ。河田君は?」
「ぁ坂口部長ぉ。席を外してるんですけどぉ……声小さいですぅ、何処からですかぁ?」
「ハフルーだよ。香坂君のかわいい声を聞くと和むな」
「部長ぉ~、そぉれぇはぁセクハラですぅ」
 オフィスに似合わない悪戯っぽい口調……オヤジキラーの二つ名を持つ、舌足らずの甘い声が受話器に響く。
「それはともかく、河田が来たらすぐにコッチに電話を……」
「あ、来ましたぁ。河田さぁ~ん! 坂口部長ですぅ。ハフルーからぁ」
 受話器を受け取った河田に陽気な声を掛ける。
「よォ、河田君。早速で悪いが、メール送ったんだ。開いてくれ」
「あ、はい……どうされたんですか?」
「大至急、現ナマが必要だ。裏でブチ込む実弾だからな、責任重大だぞ」
 わずかの間をおいて河田の声が返ってきた。
「こんなに必要ですか? 今ある金額の範疇で……あれ? 添付フォルダはパスワードが……」
「パスは君の奥さんの誕生日、〇九一四だ。それを見るとヤル気が出るンじゃないかと思ってね」
「ファイルは……え?……jpegにmov?」
 息を呑む音が伝わる。坂口の声が暗転し粘度を増した。
「河田ァ、帰りたいンだろ、本社に。これを取って大手柄を土産に本社復帰はどうだ? お嬢さんも奥さんと同じ帝都女学院の付属に入学したンだってナァ、名門の。それならパパは商社マンの方が格好イイもンなァ」
「あ……い、いいえ……」
「だがなァ、女のケツを追っかけるのはいいが、ケツの穴までは過ぎるンじゃねェのか?」
 河田の声が消えると畳みかけるように坂口の声がゆっくりと響く。
「どうした? 朝から二発もヤる元気はドコ行ったンだ? それとも女のションベンがねェとオッ勃たねェのか? ツルツルのマンコじゃねェとダメなのか? ン?」
「……わ、分かりました。特別枠を認めるように具申しま……」
「具申だァ? 死んでも取るンだよッ!! それとも……あンッ?」
 河田の声が消えると反対に坂口の声は陽気に変わる。
「いやぁ~、やっぱり頼りになるなァ。俺からも経理部長に仁義切っておくから、なッ。急がなくても明日の朝に間に合えば問題ない。もちろんコッチ時間でな。よろしく頼むよ」
 そう言い放ち受話器を置く。その後も立て続けに電話を入れてゆく。

 朝倉は、マジド達を手始めに食堂へ連れて行った。そこには調理長のイフサーンも居る。彼に掩護を頼む予定だ。
 調理室のドアを開け、中に声を掛ける。
「飯塚、イフサーンいるか? 証言して欲しいんだ」
「どうしたアサクラ」
「こちらのマジドさんが、我々がシャリーアに反する食品を扱っていると疑っておられる。正直に答えて欲しい」
 一瞬、イフサーンの目に違う光が宿るが、次の瞬間にはいつもの目に戻る。
「日本人は、シャリーアを尊重している。食堂でも日本人もハラールを食べている……ただ……ショーユという日本のソースは分からない」
「ショーユとは何だ?」
 マジドの鋭い視線が朝倉に突き刺さる。
「ソーヤー(大豆)と塩と混ぜた日本のソースで、日本ウラマー審議会の承認を受けているハラール食品です。御不審なら問い合わせて下さい」
 一斗缶に張られたハラール食品を示すマークと日本ウラマー審議会の認証番号が印刷されているラベルを剥がし手渡す。
 マジドは手渡されたラベルを一瞥し、後ろにいる男に渡した。
「食品庫を見せろ」
 食品庫を調べるが、ほぼ全てが中東域で製造された物、一部に東南アジア製の調味料等もあったが、全てにハラールマークが付いている。
 その時、トラックが入って来る音が聞こえた。見ると荷台には山田建設と日本語で書かれた中古の四トントラック、納入業者のムスタファーだ。日本から輸出される中古車は世界中で大人気で、日本語の表記が入っていれば程度が良いと見なされ、更に人気が上がる。
「アサクラ、居るか?」
「ムスタファー、今日はどうした?」
「近くを通る用があったから立ち寄った」
 あまりにタイミングが良すぎる。だが、それを顔に出すことなく口添えを頼む。
「申し訳ないが君からも証言してくれ。此処の現場にはハラールしか納入していない事を」
「それは構わないが、なぜだ?」
 マジドの後ろにいる男の目がイフサーンとアイコンタクトを取っているのに気が付いた。
「ショーユを納入しているのは、お前か?」
「ショーユ……私は知らない」
「おい、ショーユのI/LとT/Rは何処にある」
 I/L (Import License:輸入承認書)とT/R (Trust Receipt:輸入担保荷物保管証)は、輸入時に港湾事務所で必要な書類だ。これが無ければ密輸になってしまう。
「事務所に保管しています」
「提出しろ。次にいくぞ。案内しろ」
 腰に付けた無線機で事務所に連絡し、次に資材庫を回り始めた。ここはビールどころではない、スプレー缶も置けないほど高温になる。
 朝倉が入社して直ぐの事だった。潤滑油のスプレーが入った段ボール箱を炎天下に置き忘れた事があった。それが高温で爆発し、爆風と缶の破片で近くの窓ガラスが割れ、銃を持ったセキュリティーが駆け付ける騒ぎとなり、大目玉を喰らった。

 幾つかの倉庫を回った後、事務用消耗品倉庫に入る。
「ここは何の倉庫だ」
「事務用品が置いてあります」
 ふと思いつき、棚に積み上げてあるフェルトチップの筆ペンとメモ用紙を取り出し、乏しいアラビア語の知識で「 اليابان 」(日本)と書いて見せる。墨痕鮮やか……とはお世辞にも言えないが、それでも何とかアラビア文字の抑揚が出せた。
「ほう! お前はアラビア文字が書けるのか」
「ここは古代文明発祥の地、我々は歴史に敬意を払う事を知っています」
 そう言うと調子に乗って「 ل ق ث ا 」(アサクラ)と書く。
「少し違うぞ、貸せ」
 朝倉の手から筆ペンが消え、マジドがメモ用紙にアラビア文字を書き付ける。
「こう書くのだ」
「ありがとうございます。これを手本に練習します。……そうだ! 少しお持ちになりませんか? 日本製です」
 そう言って棚から一ダース入りの箱を取り、マジドに渡した。「皆さんも試して下さい」と後ろにいる男達にも筆ペンとメモ用紙を配る。一人がメモ用紙に向かう。
「なぜお前はアラビア文字を学ぶのか」
「名前ぐらい書けるようになりたいですし、いつかはクルアーンも読めるようになりたいですから」
 クルアーンは、アラビア語で書かれたものだけがクルアーンだ。日本では岩波文庫からコーランの名で出版されているが、アラビア文字を読めない日本人のための解説書との立場を取っている。
「良い心がけだ、アサクラ。お前は高等な教育を受けていると見える」
「一〇〇年以上の伝統がある大学で学びました」
 確かに伝統はある。だが偏差値は……ここでは必要ない。しかし、こういうハッタリは案外効く。
「日本は進んでいると聞く。大学は幾つ位あるのか」
「はっきりした数は覚えていないですが、確か六〇〇を超えていると記憶してます」
「なんと! そんなにあるのか。何を教育している? まさかアニメではあるまい」
 マジドの口調がからかいを含んだ柔らかさに変わる。
「アニメやマンガを教える大学もあります」
「本当にあるのか!……そうか……だからイクーサン(*2)のようなアニメも作れるのか……。これで倉庫は全部か?」
「そうです」
 腰に付けた無線機に検査が終了した事を報告し、事務所に向かった。

「今日は無かった。何か新しい事が分かったら必ず連絡するのだぞ」
 全員がホッと胸をなで下ろしたが、オマケが付いていた。
「それとショーユは、ハラールとは思えないので預かる」
 植田の反論が上がる。
「それは止めて下さい。醤油は日本人のザータルです」
「ザータルだと?」
 ザータルは地中海地方で育つタイムの一種であるザータルの粉末を主原料に赤唐辛子のように見えるがレモンのような香りと酸味のあるスーマック、ゴマ、マジョラム、ニンニクにスパイスを加え、塩を効かせた南ヨーロッパから中近東の地中海沿岸では欠かせないハーブ調味料だ。オリーブオイルに混ぜ、パンを浸して食べるのは地中海沿岸の主要な朝食で、各家庭で作るお袋の味と言えるだろう。
「それなら一缶だけ残すことを許してやろう。ハラールであることが確認出来たら返してやる」
 そう言い残すとズカズカと事務所を出て行った。

 翌朝のミーテングは、開口一発が衝撃的だった。
「社長のゴーサインが出た。チンクをブッ潰して工事を取る! 情容赦は要らんッ!!」
 会議室の中がざわめく。坂口の声が鋭さを増す。視線が所長の植田に突き刺さる。
「植田、俺がやり方を見せてやる。大至急コイツらのアポを取れ!」
 そう言うと植田にメモを滑らせ飯田を見据えた。
「飯田、朝倉は当分俺がパシリに使う。お前が業務代行だ」
 視線が朝倉に向く。
「朝倉、お前は手始めにイフサーンにリリース、それから現地作業員だ。露骨にするんじゃねェぞ、あくまでソフトリリースだ」
 中東では噂の伝搬力は凄まじい。搦め手からも攻める戦法だ。

 朝倉は食堂で早速リリースを開始した。
「なあイフサーン、もしも……もしもだぞ、間違ってムスリムにハラムを食わせたら……」
「まだ疑っている? この間も調べたじゃないか! 不浄な物は一切使っていない!」
「すまない。そう言う意味じゃないんだ。近くに中国人の工区があるだろう、中国人は豚肉が大好きで、あいつらは中華鍋で何でも作るんだ。もし、そんな鍋で調理した食事を出したら……」
 わざと語尾を不明瞭にし、様子をうかがう。
「アサクラ、それは本当か?! 間違いないのか!?」
 ムスリムが豚を嫌がる事は日本人の感覚では理解困難かもしれない。例えるなら、ゴキブリの炊き込みごはん、便所コオロギの串焼き、ミミズとムカデの和え物、ネコの頭の浮かんだミソ汁……豚革の製品もダメ、さらには日本に来た某社の駐在員が、ホテルの部屋の冷蔵庫にビールやウイスキーが入っているのを知り、撤去を要請した事もあった。
「いや、可能性の話だ。もし……」
「本当なら……絶対に許されない」 
 イフサーンは親指を首の左側に当て、右に動かした。

*2 イクーサン( إيكوسان )
   https://www.youtube.com/watch?v=0pxNV0h-17U      



4 実弾の宴

 王政を廃したハフルーは共和国を名乗っているが、未だに旧王族の息のかかった部族が主要職務を独占している。つまり通常の方法で大臣などへ面会を求めるのは困難という事だ。その為、あらゆるコネクション、怪しげなロビイストやブローカーまで声を掛けるが、芳しい答えは出てこなかった。
 坂口がコネクションを伝い、グリーンバック(ドル紙幣)で横ッ面をひっぱたき、やっと聞き付けた電話番号に電話をしたが労働省の秘書官はニベもなかった。
「労働大臣は忙しい。 くだらない事で会う時間は無い」
「我々は……」
 電話が切られた。
「ファッキン・タオル・ヘッズ!!(アラブ人の蔑称) おい朝倉ッ、車借りてこい! でけェブラック・セダンだ」
「え? 何に使うんですか」
「特攻だ、特攻! さっさとやれ」
 間髪を入れず、坂口は再度電話をかけた。
「帝国特殊工機会計課ぁ、香坂ですぅ」
 華やかな声が受話器から流れると、声がダンディー坂口に変わる。
「香坂君、事業部の坂口だ。河田君は?」
「部長ぉ声遠いですぅ、まだハフルーなんですかぁ?」
「そうなんだよ。でも香坂君の声はいつも可愛いな」
「セクハラぁ。でもぉ部長ならぁ……あ、河田さんに替わりますぅ」
 そう言うと短く音楽が流れた。
「お待たせしました。河田です」
「ヨォ、河田君。早速で悪いが、日本人形を三つ用意してくれ。出来るだけ豪華なヤツをな」
「え? 人形ですか?」
「そうだ。直ぐに届けてくれ」
「分かりました。フェデックスのエクスプレスで送れば、六日くらいで着くと思いますので……」
「寝言ヌカすなッ!! 時間がねェンだ! ハンドキャリーさせろッ!」
「しかし……」
「しかしもカカシもねェんだよッ! ゼニは手前ェんトコが握ってンだろッ! 持って来させろ!」
「ですが……」
「ハンドキャリーだッ!!」
 受話器を叩きつけた。

 会計課の社員がハンドキャリーで向かったとメールが届いた。
 スークである物を買い込むついでに朝倉の運転で空港へ坂口が迎えに出た。
「部っ長ぉ~!」
 舌足らずの声が響く。入国ゲートから出て来たのは、紺色のパンツスーツに身を包んだ会計課の香坂だ。ムスリマ風に髪を覆っていたスカーフをサッと外しブンブンと振る。シュシュで束ねられた長い髪が現れると、周囲のギョッとした視線が集まる。この行為、ムスリムにはスカートを捲り上げパンティーを見せる、そんな感覚だ。カートを押して香坂についてきた空港職員も赤面している。
 香坂がマンガならハートマークが飛ぶ程の笑顔を空港職員に向ける。
「メルシー・ボクゥ」
「マ、マドモアゼル。使い終わったカートは、入口の所に置いておいて下さい」
「ウィ、ムシュウ・オフィシィ」
 そう答える香坂の横で坂口がカートを受け取り、プールボアール(チップ)の紙幣を渡した。
「メルシー、ムシュウ・サカグチ。美しいフィアンセと良い旅を」
「何故、俺の名を?」
 係官は器用にウインクをして踵を返した。
「大きくて持てないって言ったらぁ運んでくれたんですよぉ。リクエストの日本人形ですぅ。あたしが選んだんだからぁ絶っ対大丈夫ですっ」
「よくハフルーのビザなんか持っていたな。いや、それよりフィアンセって何だ?」
「え~、人形を買うついでに大使館に行ったんですよぉ、そぉしたらぁ、女子の一人旅じゃビザは出せないって言われたからぁ、フィアンセが仕事でずーっと行ったっきりだから逢いたい~って泣き真似したらぁ、その場でビザくれましたぁ。楽勝ですぅ」
 国によってはビザさえ出さないイスラム圏での女性の一人旅。数知れない修羅場を潜り抜けた坂口さえ呆れさせる大胆、いや、無謀と言える行動だ。
「お、おい豪毅だな……って、パスポート見せろ」
「え~、写真ブスだからぁ」
「ビザだけだ」
 香坂のパスポートが開かれる。査証欄にハフルーの貼付式ビザがあった。シール状のビザを査証欄に貼り付け、特記事項や係官のサインを記載し、上から変造防止用の透明なカバーシールが貼ってある。
 特記事項に目をやる……入国目的:婚約者との面会、入国期限:五日、婚約者氏名:坂口雅之……坂口のアゴがガクンと落ちた。
「ほらぁ大丈夫でしょっ。ちゃぁんと部長の名前書きましたぁ」
「っ……ご苦労さん……」
 脱力しきった周囲と関わりなく、香坂の顔に笑顔がひろがった。
「だったらぁ、ご褒美下さぁ~い」
「ご褒美?」
「急ぎだからぁ南回りで来たじゃないですかぁ。帰りは部長権限で北回り、パリのトランスファー(乗換)、二日くらい遅れるチケットに変えても良いですかぁ」
「パリ見物か?」
「大学の友達、パリに居るんですけどぉ、会いたいじゃないですかぁ」
「フランス語、大丈夫なのか?」
「あたしDALF‐C2(フランス国民教育省、最上級フランス語検定)、九十五点ですぅ。心配ナッシング!」
 ガッツポーズを作る香坂を見る坂口の目にカミソリの光が浮かぶ。だが、気づかない香坂は更に言葉を続けた。
「あ、それと勤怠評価よろしくですぅ。でもぉハフルー観光もちょっといいかもぉ」
「わかった……」
 舌なめずりする肉食獣、カミカゼ・サカグチの笑顔が現れる。
「……ハフルーで一泊して、明日の便でパリに飛んで貰う。トランスファーは二日付ける。目的はパリで業務連絡、北回りで帰国……」
 香坂の貌が輝き、小さく歓声が上がる。
「ラッキー!」
「……その代わり、今夜は付き合ってもらう」
 香坂の目が大きく開かれた。
「え? 部長ってバイなんですかぁ? 独身なのはぁゲイだからって」
「ナニッ!?」
「だってぇ、河田さんもぉ部長はホモだって言ってましたぁ」
「あの野郎ッ!! 俺はストレートだ!……だがな、付き合えって言うのはソッチじゃない」
 坂口の目が朝倉に向く。
「ホテルをセットアップしろ」

 ハフルー市内の一流ホテル。ここはプライムのモント社がオフィスにしているホテルだ。水資源が不足するこの国では最高級の贅沢、大きな噴水と芝生に街路樹が続く。
 朝倉がリザーブした部屋は、シングルを朝倉の名、坂口と香坂の名で控えの間が付いたスウィートだった。ホテル側は姓の異なる二人の同室を認めないと言ったが、ビザの特記事項と実弾で黙らせ、更にもう一つツウィン・ベッドルームのスウィートも取った。

 坂口と香坂が部屋へ入った。
 ドアを開けると広いリビングがあり、その奥は寝室だ。リビングの窓からは市内が一望できる。台車に荷物を積んできたギャルソンにチップを与えて下がらせる。
「香坂は寝室を使え。俺はリビングを使う。寝室は鍵をかけておけよ。セクハラ容疑でクビじゃかなわん。まだ給与に未練があるからな」
 そう言うとにやりと笑った。
「それより、人形を見せてもらおうか」
 外装の段ボールを外すとエアキャップに巻かれた千代紙のような華やかな和紙を張った段ボールの箱が現れた。開けるとガラスケースに入った日本人形が現れた。良く見ると人形のケースは下に引出しが付いてる。
「この引き出しは誰のアイディアだ?」
「えへへへ、前に聞いたことを思い出したんですぅ」
 坂口の顔が「ほう」という表情に変わった。
「グッジョブ! 良く思いついたな。ところで、他にどんな服を持ってきた?」
「服……ですかぁ? グレーのスーツもぉ……」
 坂口が言い放った。
「スーツじゃ固すぎる。今夜の戦闘服を見に行くぞ」

 二人は、ホテルのショッピングモールへ足を向けた。ここには有名ブランドのブティックが軒を連ねる。
 店に入った二人に中年の店員が揉み手でやって来た。
「ジュ・プ・ヴー・ゼデ?」(何かお手伝いしましょうか?)
「こいつの着る服が欲しい。夜用の服だ。いくつか見せてくれ」
「それでしたら、こちらなどはいかがでしょう?」
 香坂が坂口を振り返る。だが店員はお構いなしに口が耳まで裂ける程の笑みを浮かべ、ドレスの棚に案内し、数着の服をガラスのテーブルに並べた。香坂が並べられた服を代わる代わる持ち上げては鏡に向かう。
「コレなんかどうだ?」
 そう言って指差したのは、淡いピンクのワンピースだった。
「部長ぉ、こういうのお好みなんですかぁ」
 香坂の目がわずかな粘度をまとわせる。
「いや、香坂に似合うと思ったからな」
「え?! そ、そんなぁ……」
 さらりと言い切る坂口の声に頬を少し染め、飛び込むように試着室に入った。

 しばらくして着替えた香坂が試着室から出てきた。体のラインがはっきり出るタイトなワンピース、Vゾーンもサイドスリットも深くカットされている。
 香坂が不安げな顔で店員に声を掛ける。
「セ・コンビヤァン?」(いくらですか)
 坂口が香坂の声を制する。
「おい、気にするな。コッチで持つ」
「いいんですかぁ?」
 店員は商売熱心だった。
「ヴ・ナアヴェ・リヤン・ドートル?」(他にも御入用がありますか)
「靴も頼む。いくつか見繕ってくれ」
 ちらりと腕時計に目をやり、並べられた靴を香坂に選ばせ店を出た。

 やがて日が大きく西に傾く。坂口達の部屋もレースのカーテンが紅茶色に染まり、日没礼拝のマグレブを伝えるアザーンが朗々と流れる。
「以上が今夜の計画だ。だが、日本語だからと言って油断するな。昨今は日本語の分かるヤツも多い。当然ムタワには、ツラを押さえられているだろう。俺達は……」
「分かってますぅ……」
 香坂はブリーフィングの真剣な表情のまま一瞬顔を伏せて起こし、大輪の花のような笑顔で言葉をつなげる。
「……モン・シェリ」(私の愛しい人)
「こらっ、調子に乗るな」
 坂口が苦笑いを浮かべた。
「あ~テレてるぅ」
「いいからサッサと着替えて来い」

 香坂は手早くシャワーを浴び、ワンピースに着替えて鏡に向かった。深いVゾーンからレースをたっぷりとあしらったブラジャーがのぞく。背中のファスナーを下ろしワンピースの胸の部分に指を這わせる。ぎゅっと目をつぶりブラジャーを取り、背中のファスナーを上げた。セカンドバックから小さなアトマイザーを取り出し、恋人に抱きしめられたときに伝わる……ではなく、恋人が抱きしめたくなる濃度でパルファムを纏う。ポーチから宝石が付いた細いプラチナの指輪を出し、左手の薬指に付ける。クローゼットの前の大きな姿見に全身を映し、小さくガッツポーズをしてリビングへのドアを開けた。
「部っ長ぉ」
 左手を坂口の目の前に出した。薬指には香坂の誕生石であるエメラルドの緑が輝く。
「お、念入りだな……だが、これは気づかなかった」
「神は細部に宿るって言いますよぉ」
「誰から貰ったんだ?」
 坂口のからかうような声に、香坂が小さく舌を出した。
「母から成人式の時に貰ったんですぅ。部長がプレゼントしてくれるならぁ、それを付けますけどぉ」
 坂口のスマートフォンが鳴った。
「朝倉です。セット完了、スタンバイ入りました」
 電話を切ると香坂に手を差し延べた。
「よし。予定どおりだ。行くぞ、祐衣」
 香坂の目が大きく見開かれ、貌が椿の色に染まる。
「どうした? 俺のフィアンセなんだろう?」
「はいっ!」
 坂口の差し出した左腕に香坂の腕が絡まった。アップに髪を結った笑顔の香坂とレストロン(レストラン)に向かう。この店が有名なのは料理だけではなく、異教徒用に飲酒が許可されている事だ。
 ウエイティングバーの床は、毛足の長いアラベスク模様の絨毯が敷き詰められていた。カウンターの前に並ぶスツールに腰を下ろすと夜景が目の前に広がる。
「うわ~、すごぉ……」
 香坂が目を輝かせる。
 薄暗い街とモスクの白いマナーラ(尖塔)を残照がカシス色に染め、それを飾る金の帯がキラキラと輝く。遙か山並みに向かう高速道路の光の帯が続く。その光の帯は、テールライトの色は日本と同じだがヘッドライトはフランス式に黄色味を帯び異国情緒を添える。だが街は東京に比べ暗く、なおさら道路の明かりやマナーラを照らすライトがまぶしい程に思える。
 オーダーを取りに来たバーテンダーに坂口はピンク・ジン、ジンはボンベイ・サファイアを指定し、アンゴスチュラビターズを一五ダッシュと注文した。香坂はノーアルコールカクテルのサラトガだ。
 坂口の前に置かれたグラスを見て香坂が口を開く。
「夕焼けみたいでキレイですぅ」
「ああ、これを見るとアフリカの夕焼けの色を思い出す……」

 グラスが空きかけた頃、プライム(主契約会社)であるモント社の現地担当副社長、アントワーヌ・ベクレルと主任技師のガスパール・コリオリの二人がウエイティングバーへ入ってきた。
 坂口がスツゥールから降り、二人の前に立った。
「ムシュウ・ベクレル。御無沙汰しております」
「サカグチ。久しぶりだ。元気そうでよかった」
 握手を交わす二人に横からコリオリが口をはさむ。
「マースィー(雅之)くたばってなかったのか」
「コリオリ、お前こそ炭酸ガスを吐き出すな。環境汚染が進む」
 笑顔で握手とハグが交わされ、視線が香坂に向く。スリットから脚を見せつけるようなゆっくりとした動きでスツールから降り、坂口の後に立つ。深くカットされた胸元に二人の視線が刺さる。
「祐衣、御挨拶を」
 坂口の声に、こぼれるような笑顔の香坂が答えた。
「お会い出来て光栄です。マサユキ・サカグチのフィアンセ、ユイ・コーサカと申します」
 フォーマルな言い回しに感嘆の声が上がる。
「完璧なフランス語だ。マースィーのフランス語とは格調が違う」
「発音も美しい。どこで習われたのかね、マドモアゼル」
 こぼれるような笑顔で香坂が答える。
「フランス語は日本の山吹女子大学とソルボンヌ・ヌーヴェル(パリ大学文学部)で学びました」
 ベクレルの表情が崩れる。
「ソルボンヌ・ヌーヴェル! すばらしい! マドモアゼル・コーサカは、よほど神に愛されているのだろう。美しく、聡明だ。サカグチが羨ましい」
 オヤジキラーの銛が深々と突き刺さった。
「ムシュウ・ベクレル、祐衣とお呼び下さい」
「それは光栄だ。マドモアゼル・ユイ、良ければ我々と一緒にディネィ(ディナー)を如何かな?」
 坂口は腹の中でガッツポーズをキメる。エサに喰い付いてきた。普段は野郎ばかりの集団だから若い女は効く。

 レストロンに入った。
 案内のギャルソンを制してディレクトール(支配人)が自ら出てきた。この二人が店にとって上客であることが確信出来た。
「いらっしゃいませ、ムシュウ・ベクレル」
「今夜は日本から美しいマドモアゼルがおいでだ。よろしく頼むぞ」
「これはこれは……ようこそいらっしゃいました、マドモアゼル。では……」
 壁際に並ぶギャルソンの一人に目配せをした。優美な足運びで近づいてきたギャルソンは、白髪の目立つブルネットの髪をオールバックにまとめ、黒いメスジャケットの腰に白いエプロンを小粋に締めている。
「本日、お席を担当いたしますアランと申します。マドモアゼル、どうぞこちらへ」
 香坂を先頭にターブルに進んだ。案内されたターブルには花と燭台が飾られ、柄に金の装飾が施されたメナジェがエアコンの風で僅かに揺れるロウソクの光を受け、キラりと輝く。
 全員が着席すると笑顔でムニュを差し出し、お奨めを売り込んできた。
「マドモアゼル、ぜひ当店自慢のムニュ・デギスタシオンをお試し下さい」
 ムニュ・デギスタシオンは、デギスタシオン(お試し)の名の通りの小皿料理だが、アヴァン・アミューズ(前菜前の小品)からプティ・フール(食後のコーヒーに付く小菓子)まで続くフルコースだ。
「当店のムニュ・デギスタシオンは、権威あるレストラン専門のガイドブック、ゴーェミヨからコック帽二つの評価を得ております。お楽しみ頂ける事、疑いはございません」
 ゴーェミヨは、ミシュランガイド以上に権威があり、ミシュランの星と同様にコック帽の数と数値で店を評価する。
「それと本日のヴィヤンド(肉料理)は、ラクダのポワレ・アラビア風をご用意しております」
「アラン、マドモアゼルが失望しない自信があるか? マドモアゼル・ユイ、かまわないかな?」
 香坂はにっこりとほほ笑んで答えた。
「お任せします。ムシュウ・ベクレル」
「シェフ・ド・キュイジーヌ(コック長)には、マドモアゼルのために張切るように伝えてくれ」

 ソムリエが呼ばれヴァン(ワイン)を選ぶ。ムニュと香坂のリクエストを勘案し。軽めのスパークリングの白と華やかなロゼが選ばれた。運ばれたヴァンをテイスティングしたベクレルの音頭で乾杯のグラスが掲げられた。
 ベクレルの問いが香坂に向けられた。
「マドモアゼルのユイという名は、詩的な響がある。日本では漢字を使い、色々な意味を名前に付けると聞く。ユイとは、どの様な意味なのだろう?」
 問いに香坂がちらりと坂口に視線を送る。ダンディー坂口の笑顔で小さく頷き、内ポケットからライト・イン・ザ・レイン社の四×六インチ耐水メモとビック・トロピカルの暑熱地用ボールペンを出して香坂に渡す。椅子から立つと深いスリットから太ももがのぞく。二人の視線を無視し、間に入ってメモを置く。漂うパルファムの香に二人の表情が和らぐが、視線は深いVラインに突き刺さたままだ。
「おや、マドモアゼルのパルファムはミツコかな?」
「ウィ、ムシュウ・ベクレル。母も好きなパルファムですから。でも……」
 香坂の視線が坂口に向いた。
「……全く気がつかない人もいます」
「そうだな。匂いでガソリンのオクタン価を当てられそうな人物は知っているが」
 コリオリの声に全員の視線が坂口に集まった。
「お、俺か?」
「他に誰が?」
 三人の笑い声が重なった。
 香坂がメモ帳に向かい、まず祐衣と漢字で書く。その下へ飾り文字のように端末を丸めるフランス語の筆記体が書き付けられるとベクレルが感嘆の声を上げた。
「ほう、神が与えた暖かく包み助けることのできる服……ユイには、そんな意味があるのか」
 コリオリが口を挟む。
「マースィー、君の名はどんな意味なんだ」
「エレガントに進む。俺に似合っているだろう?」
「ナニッ?! 野蛮人の突撃じゃないのかッ!」
 香坂が吹き出し、つられて三人の笑い声が上がる。
「おいコリオリ、お前こそ賢人に恥ずかしくないのか」
 コリオリのファーストネーム、ガスパールはキリスト教の三賢人の一人だ。

 笑い声の中、ヴァンで喉を湿らせているとアミューズ・ブーシュ、海鮮のゼリー寄せが運ばれてきた。フォンの香りの中に和食の影を感じるかすかな塩味のゼリー、その中の小エビはセクシーな程の弾力があり、歯の間でプツリと切れ、白身魚はホロリと崩れた。
 アントレ(前菜)の野菜のパテと美しい彩りのテリーヌが続き、スープに進んだ。最初の一皿は黄金色に澄んだコンソメだ。極上の材料に時間と手間を惜しげもなく注ぎ込んであるのが一匙で理解出来る。続いて運ばれたのは意外な皿だった。スープスプーンに載る程の大きさ、クロケットの様な揚げ物が三つ皿に乗っていた。
「スープ……ですよね?」
 香坂の問いにアランが微笑む。
「どうぞ、一口で召し上がって下さい」
 おそるおそる口に運ぶと小籠包の様に中からスープがあふれ出す。香坂が相好を崩した。
「おいっしい~! 何のスープですか?」
「当地のジビエ、鳩のスープでございます。お口に合いますか?」
「ウィ、ウィ・ムシュウ・アラン。パリでもこんなに美味しいスープは食べた事はありません」
 アランの顔に驚いたような笑顔が浮かぶ。
「マドモアゼルは、パリにおられた?」
「アラン、マドモアゼルはソルボンヌ・ヌーヴェルだぞ」
「でも学生でしたので学食ばかり。たまの贅沢は、ベルティヨンのアイスクリームでした」
 コロコロと笑う香坂の声にアランの貌も緩む。オヤジキラーの腕が遺憾なく発揮される。

 ワゴンで何種類ものパンが運ばれてきた。それが各々の好みで切り分けられる。香坂が選んだのは、フランスパンの代名詞とも言えるバゲットとクロワッサンだ。バゲットは中にまで薄く色付いており、日本で売っている物より長く焼かれて香ばしさは段違いだが、風味が落ちるのが早いので自家製でなければ出来ない贅沢だ。クロワッサンは発酵バターが惜しげもなく使われ、サクッとした歯応えで皮がサラサラと崩れる。これだけで腹一杯にしたい、そう思える程の香ばしいバターの香りが鼻孔へ抜ける。
 アランが香坂に目をやり、にっこりと微笑む。
「この後のグラニテ(口直しの氷菓)は、イチジクのソルベです。ベルティヨンに負けません」
 カットグラスに入ったソルベは、プラ(主菜)の味を引き立たせるように甘味は抑えられているが、華やかなイチジクの香りとレモンに似た微かな酸味が口の中を洗い流してくれる。

 プラは地中海の新鮮な魚を使ったポワソン(魚料理)で始まった。一皿目のシャンパンで贅沢に蒸された白身魚はバターもクリームも使われておらず、微かにソス・ドゥ・ソジャ(醤油)の香りを感じる。二皿目のエビのポワレは、白いエビの身に掛けられたエビの殻と香味野菜で出汁をとった海老茶色のソス・アメリケーヌとのコントラストが美しい。
 ヴィヤンドの一皿目、子羊の煮込みは柔らかくハーブの香りが効き、日本のジンギスカンと違い臭みが全くない。続いて出されたのは、ラクダのポワレ・アラビア風だ。アンガス牛のように締まりのある赤身、その上に載せられた薄くスライスされ、蒸した後にソテーされているコブの脂肪のトロりとした舌触りはエロティックな程だ。口に入れると脂肪の甘味と肉汁がソーダのように口の中にはじけ、ポルト酒とハーブを使った濃厚なソースに合わさると堪えられない。
 坂口はテーブルのミルで胡椒をゴリゴリと挽き、ポワレにかける。それを見たベクレルとコリオリの目が好色に光る。

 皿が下げられるとワゴンで十数種類のフロマージュが運ばれる。
 アランが香坂に声をかける。
「マドモアゼルは、いかが致しますか?」
「あまり香りの強くない、柔らかいものを」
「それでは、こちらはいかがでしょう」
 アランが薦めたのは、発酵が浅く、生クリームの香りを残すクレムチーズだ。
 ベクレルとコリオリは目を輝かせ三種類をチョイスした。ベクレルが選んだウォッシュ・チーズは、腐敗臭に近い芳香を立てている。
 香坂はクリーム・チーズを薄くスライスされたライ麦パンに載せて口に運ぶ。上唇に少し付いたチーズをペロりと舌で舐め取ったが周囲の視線に気づき、あわててセルヴィエット(ナプキン)を口に当てる。照れ笑いを浮かべる香坂を見る視線が、微笑ましいものを見る目つきに変わっていた。

アヴァン・デセール(小デザート)は、桃のコンフォートを包んだパイ菓子だ。コンフォートのスープでしっとりとしたパイ生地を口に入れると、桃とバターの香りが鼻に抜ける。上品に食べても二口で消えた。
 アヴァン・デセールを口に運んでいる間に若いギャルソンがデセール(主デザート)のワゴンを押して来た。
 ワゴンの上には大きな銅のプワール(フライパン)や焼かれたクレプ(クレープ)にオレンジ・キュラソーのビンとセルヴィエットを掛けられたビンがあった。
 アランが得意げに声を上げる。
「デセールは美しいマドモアゼルのため、特別に準備をいたしました」
 ワゴンに仕込まれたガスコンロに火が入り、アランがプワールを乗せ、バターと砂糖を入れた。三〇センチ以上もある大きな銀のスプーンでかき混ぜるとバターと砂糖の焦げる甘い薫りが漂う。オレンジ・キュラソーが注がれると、アルコールの炎が狐火のように走る。
「アラン、これはクレプ・シュゼットなのかな?」
 ベクレルの問いにアランが得意げな顔でワゴンの上のセルヴィエットを取るとチェリー・マルニエのビンが現れた。
「いいえ。今夜はグラン・マルニエではなく、特別にチェリー・マルニエを使います。マドモアゼルはご存じかと思いますが、フランスの花言葉では、日本の花、桜は良い教育の意味が御座いまして、美しく聡明なマドモアゼルに相応しいかと存じます」
 そう言うとキッチンフォークとナイフで丸いクレプを器用に扇形にたたみ、プワールに入れた。大きなスプーンでソースをかけ、更にコンロにかざす。やがて頃は佳しとばかりにコンロを押してきた若いギャルソンに柄を向ける。その柄を掴んだギャルソンが四つの皿にクレプを取り分けている間に、アランがワゴンの脇に掛けてあったビアグラスに柄杓のような長い柄が付いた銅の鍋を取り上げ、中にタップリとチェリー・マルニエを注ぎ、コンロにかざす。取り分け終わったギャルソンが調理ワゴンを照らすスポットライトを消す。鍋をあおっていたアランの目から笑みが消え、鋭い職人の目に変わる。しばらく煽るとチェリー・マルニエに青いアルコールの炎が上がる。それを皿の上に高く掲げると、エンジェル・ラダーのように炎の糸がクレプに注がれる。すぐさま皿へフルーツとアイスクリームが飾られた。
 アランの目が柔和な光を取り戻した。
「どうぞ召し上がって下さい」
 口に運ぶと華やかな薫りのカラメルと、香しい小麦の薫りを持つクレプの向こうにオレンジピールの微かな苦みが顔を出し、それをアイスクリームが一瞬に消し去る。時折、アイスクリームによって固まったカラメルが、お茶漬けの中に散らされたアラレのように舌へ存在を主張し、瞬時に消える。
「美味しいですっ! こんな美味しいクレプ初めてですぅ」
 香坂が満足げな笑顔で口に運ぶとアランの目尻も下がる。
「お気に召しましたら、次においでの際はクレプ・ユイと御用命下さい。この料理をクレプ・ユイと名付けました」
「え?! マジぃ?! オゥ、エクスキュゼ・モア(失礼しました)。身に余る光栄です」
 香坂の笑顔に男達の目尻が下がる。
 コースの最後は、プティ・フールのマカロンが添えられたカフェ・ウ・テ(食後のコーヒー)だ。深炒りの豆を使った薫り高いコーヒーにサクりとしたマカロンが口の中で溶ける。甘いモノが好きではない坂口以外はマカロンを口にした。笑顔でマカロンを食べる香坂の皿と自分の皿を素早く代える。
「え~、太っちゃいますぅ~」
 ゆるい抗議の声を上げる笑顔の香坂に暖かい視線が集まる。
 ディジェスティフ(食後酒)のコニャックが運ばれ、和やかな歓談が続く。
「お代わりはどうだね、ユイ」
 ベクレルの声に香坂が笑顔で答える。
「え~、酔っちゃいますぅ~」
 少々アルコールが廻り、口調が砕け始めた香坂に坂口のフォローが入る。
「ありがとうございます。ですが我々はこれで失礼したいと思います」
 そう言うと立ち上がり、左腕を香坂に差し出す。
「シュー、失礼しよう」
 シュー(僕の可愛い人)と呼びかけられた香坂の頬が瞬時に紅に染まり、坂口の腕に右腕が絡まる。
「ボン・ヌイ・シェリ」(お休みなさいませ)
 香坂がこぼれるような笑顔で深くお辞儀をすると、胸の谷間に無遠慮な視線が集まる。
「ボン・ヌイ、ユイ」
 ベクレルとコリオリの声がシンクロした。
 エレベータに向かって歩き出す。だが突然坂口が歩を止め、香坂の腕を解きテーブルに戻った。
「ムシュー・ベクレル。明日、少し時間を貰えないですか」
「まだトロフィー・ワイフの自慢話が足りないのかね?」
「まさか。現場の事で折り入って相談したい事がありまして」
「分かった。十五時ではどうだね?」
「ありがとうございます。では、その時間に」
 そう言うと再度香坂の腕を取りエレベーターホールに足を向けた。

「香坂は、日本語よりフランス語のほうが格調があるな」
 少しアルコールが廻り、桜色に頬を染めた香坂が柔らかい声で言い返す。
「え~、日本語だってぇちゃんとしてますぅ」
 エレベーターから降りた坂口は、視界の隅に違和感を感じた。ギャルソンの制服を着た男が柱の陰に身を隠したのだ。
 ポケットからルームキーを取り出すと香坂に渡し、耳に口を寄せささやいた。
「動くな」
「え?!」
 お姫様だっこスタイルに香坂を抱き上げる。
「きゃっ」
 声が上がるが、それを無視して部屋の前までゆっくりと歩く。
「開けろ」
 ルームキーが差し込まれると、電子ロックが解除される音が小さく響く。香坂を抱き上げたまま部屋に入り、後ろ足でドアを閉め、香坂を立たせるとドアに耳を付けた。
 しばらくしてダンディー坂口の笑顔が現れた。
「監視されていたな。気付いたか?」
 椿の色に頬を染めた香坂が興奮気味に答える。
「エクシトン!!(エキサイティング) 部長ぉ、事業部って希望出したらぁ、取ってもらえますかぁ?」
「ああ、使えるなら親の骨壺だって使う」
「え~、あたし骨壺ですかぁ」
 抗議する香坂の髪を坂口の手がポフポフと撫でた。
「今日はお疲れさん。さあ、もう休め」
 寝室に向かった香坂がふいに振り向いた。
「部長ぉここに残っちゃだめですかぁ? 通訳でもぉ秘書でもぉ出来ますからぁ」
「ダメだ。ビザはビジネスじゃないだろう? それにこの先はヤバ過ぎて想像がつかん。何かあった時には言い訳も出来ん」

 坂口と香坂を見送ったベクレル達は席をバーへ移し、コニャックのお替りを注文した。グラスを掌で温め、華やかな香を楽しみ口に含む。四半世紀以上も寝かされたコニャックは濃厚なブドウの薫りが口から鼻に抜けてゆく。
「サカグチは、ずいぶん胡椒を使っていたな」
「今夜はハッスルするんでしょう」
 少しばかり品の悪い笑い声が二人の口から漏れた。
 フランスでは、胡椒が精力増強に効くと考えられている。日本でのニンニクと同じだ。坂口と香坂をつまみにしている二人の海綿体には、通常より血液の流量が増えているだろう。数ヶ月も家を離れているのだから。
 三杯目のコニャックを楽しむ二人に男が近づいていった。
「失礼します」
「……ムシュウ・アサクラ。何か用かね?」
 ポン引きの笑みを浮かべた朝倉は、テーブルにルームキーを置く。
「お二人のフィアンセ達もお待ちかねです」
「フィアンセ?」
「何のことだ?」
「バッコスの泉でお二方をお慰めしたいと申しております。エロウペの池も熱く沸き立っているかと思いますが」
「どういう意味かね?」
「お聞きになったとおりです。マドモアゼルを待たせるのは、紳士として望ましくないと思います。フランスの諺でも「ラ・ニュイ・ポルト・コンセイ(夜は助言を運ぶ)」と申します。ご案内しましょう」
 そう言うとテーブルの鍵を取り上げ、二人を促しエレベーターに向かった。

 翌朝、ハフルー国際空港にあるエールフランスのカウンター前に二人の姿があった。
「やっぱり、残っちゃダメですかぁ? 役に立つと思いますぅ」
「ゆうべも言ったろう?」
「女だからぁ帰れって言うんですかぁ」
「いいか、この後はシャレにならないンだ。ビザもビジネスじゃない、何かあっても責任は負えない」
 チェックイン開始がアナウンスされる。
「役に立つと思うんですけどぉ……」
「いい加減にしろ。ダメだ!」
 香坂は頬を膨らませ、絡ませていた腕を解いた。小さくため息をつき、上目遣いに坂口を見る。
「……ゆうべ……寝室の鍵……」
 坂口のネクタイを掴み、首を引き下げると耳元へ口を寄せた。
「部長ぉは……バカですっ!」
 そう言い放つとくるりと背を向け、ヒールの音を響かせて出国ゲートへ消えていった。

 十五時、坂口と朝倉は現地事務所に乗り込んだ。
 表面上は穏やかに会見が始まったが、最初のジャブを放ったのは坂口だった。
「実は、良からぬ噂が耳に入ってきましてね」
「ムシュウ・サカグチ、そんなに暇なのか? フィアンセを連れてきたり噂話をしにトーキョーから来たのか?」
 ベクレルの声にはやや苦みが混じっていた。
「第二ではシャリーアに引っかかる事がある、そう思っているのですが、どの様に認識されていますか」
「それが君に何の関係がある?」
「では宜しいのですか? この件が外に漏れても」
「別に問題はない。シノワ(中国人)の問題だ。何か君の会社に不都合でもあるのか」
「ムタワなどが入ってくれば工期全般に影響するのではないかと思いまして」
「ふん、アラビコ(アラビア人の蔑称)には何も出来んよ」
 一冊のフォルダーが出された。数枚のペーパーと写真が広げられる。
「いいンですか? シーノはシャリーアに反する調理を行い現地人に喰わせた。その上、酒と同じ冷蔵庫に食品を入れている。調理器具も共用だ。それを知った現地人が例のアフリカのように暴動を起したりすれば、工期に影響が出ると思いますが。それでは全員が困るでしょう」
 畳みかけるように声が響く。
「この国の法律では建設工事の現地人雇用比率は七〇%以上、だが、これを見て下さい。軒並み三〇%以下、食堂に至っては〇%」
 さらにテーブルの上に一本のボルトを置く。長さが三十センチを超えるボルトがゴツンと音を立てる。
「仕様書ではボルトはステンレス製だが、これはスチール。鋼管も耐圧管が汎用管。手抜き工事の責任を問われるのは誰でしょうか」
 これだけでは弱い。「間違って送られて来た、工事に間に合う様に準備する」そう言われれば何も言えない。だが坂口は強気だった。
「聖歌練習の譜面なら準備してあります」
 そう言うと一冊のフォルダーを出す。口裏を合わせるストーリーだ。
「これを我々に歌えと言うのか? 何のために? 君たちの会社より安い工費を提示したから参加させた。君たちの儲けに協力しろと言うのか?」
 コリオリも言葉を重ねる。
「マースィー、おかしいんじゃないか? 今更契約をひっくり返せるとは思っていないだろう? 目的は何だ?」
 坂口の目に刀剣の光が宿る。
「目的? 俺はパーフェクトな仕事がしたいんだ。第一・第二、両方が揃ってこそ要求どおりのシステムが出来る。このままじゃ完成度も納期も納得出来ない」
「サカグチ、言いたい事は分かるつもりでいる。だが、少々僭越じゃないか?」
「ムシゥウ・ベクレル。手遅れになった場合はどうするのです?」
「それこそ君の知ったことじゃないだろう。申し訳ないが、次の来客の予定があるのでな。日本風に言うなら検討しておく、だ」
 体よく追い払われた。
 コリオリと廊下に出ると隣のコリオリのオフィスに押し込んだ。
「コリオリ、聞いてくれ」
「おいマースィー、いくら何でも強引すぎる。言いたい事は分かるが、無理な事は分かっているだろう?」
 坂口の表情が一変した。
「アフリカでの貸しは返して貰うぞ。俺達は死にかけたんだからな」
 北アフリカにあるフランス海外県(植民地)での事だった。まだ若かった坂口とコリオリは、一緒のプロジェクトにいた。
 首都のヘッドクォーターに勤務するコリオリの元に反乱部族が現場へ接近しているとの情報が入った。直ちに現場へ全員の脱出を命じたが、運悪く坂口達は、現場から離れた場所で測量をしていた。現場責任者は坂口達を忘れ、現地にいた人員だけで脱出した。全員が離脱したと思い込んだベクレルは、収容を確認していなかった。坂口達は街道を外れて一晩中車を走らせ、翌日フランス外人部隊の哨所に命からがら逃げ込み、運よく居合わせた若い日本人レジョネール(外人部隊兵)に救われた。
 アタッシェケースから事務用封筒が出される。
「日本製のビデオカメラは優秀でね」
 事前にビデオを仕掛けたホテルの部屋にマダームの花嫁候補をレンタルし、撮影した動画をキャプチャーした写真だ。広角レンズのため収差は大きいが、誰であるかは一目瞭然。ワインやシャンパンを呑んでいる姿も写っている。
「こ……これは……俺達をハメたのか?」
「ハメた? ブゥクラール(おまんこ)にハメハメしてるのは誰だ?」
「メルドッ!!」(クソッ)
 獲物を追い詰める肉食獣の笑顔が広がる。
「禁酒区域の客室内で酒盛り。これがムタワやAQPAの耳に入ったらトンでもねェコトにならねェか? 我々は構わんが」
 AQPA(Al-Qaïda dans la péninsule arabique:アラビア半島のアルカーイダ)は脅威だ。縛りの緩いフランチャイズの様に「あちらが目立ったから、こちらも目立とう」そのようなノリで過激さの度合いを増してゆく。
「フランス政府が黙っていないぞ」
「ほう? お前と工事を天秤に掛けた時、ドッチに傾くと思っているんだ」
「実力を持って……」
「レジョネールが駐留しているワケじゃねェだろ。俺も冗談で来てるンじゃねェンだよ。ムタワに聞かれたら正直に答えなければならねェからな。それとも話してもいいのか?」
「……」
「工事を放り出して戦争ごっこするか? イギリスやアメリカも巻き込むか?」
「マースィー、脅迫するつもりか」
「ムタワに捕まって鞭打ち、APAQに捕まって斬首、ドッチが好みだ?」
 がくりと首が折れた。ヨーロッパ人は居丈高だと思えるが、精神的にはかなり弱い。日本人の様に丸く収めるため言を引く事はないが、畳みかけ続ければ案外簡単に言い負かせる。特に個人を攻撃するのは効果的だ。
「シーノは、我々が傷付かない方法で消えて貰う。そして、消えた後には我が社を考えて欲しい。そう言ってるだけだよ」
 坂口が数枚のペーパーを渡し、デスクの電話を掴む。ペーパーの中には御丁寧に数か所ラインマーカーが入れてあった。
「完璧なシステムを作りたいんだ。協力してくれ。我々はいがみ合っている訳ではない。連中にコンフォルミィーティー(法令等遵守)を教育するだけだ」
 マジドのオフィスの番号をプッシュし、受話器をコリオリに渡す。もし、このまま受話器を置けば、間違いなく逆探知され、余計な訪問を受け、痛くもない腹を探られて面倒な事態を引き起こすのは間違いない。
 オフィスを出る。その背中に声が掛かった。
「ヴァ・トゥ・フェール・オンキュレ!」(くたばれクソ野郎)
 振り返るとコリオリが拳をグイと突き上げる。だが、その唇には微かな笑みがあった。こいつも技術屋だ。
 ホテルを出て車が走り出した。
「坂口さん、何時の間に中国の現場からボルト……」
「あ? 誰がそんな面倒なコトするか。帰って次の作戦準備だ」
 完全な捏造だ。朝倉の脳裏に一瞬、タオの顔が浮かんだ。だが、それだけだった。

花と実弾(前篇)

執筆の狙い

作者 御廚年成
M014011161224.v4.enabler.ne.jp

御高覧を感謝いたします。
1 最後まで読む事が出来たでしょうか。
(1) 文頭での掴みは、いかがでしたか。
(2) 読むのを止めた箇所・理由を御教示下さい。
(3) 続きに興味を持てますか。
2 風景・情景等についてイメージできたでしょうか。
3 食事のシーンは「旨そう」「食べてみたい」と思えるでしょうか。
4 登場人物・セリフが多めです。
(1) 人物の識別は容易だったでしょうか。
(2) 読み進めるのを阻害しませんでしたか。
5 場面転回での混乱はなかったでしょうか。
6 外国語の表記
(1) 亜語・仏語・英語を使いました。
   何語かの推測は、可能だったでしょうか。
(2) 意味を括弧で記しました。
   読み進める邪魔にならなかったでしょうか。
7 その他、御指導いただける事は何でも。

コメント

松岡修子
105.250.149.210.rev.vmobile.jp

どこまでが事実でどこまでがこの作品の世界観なのかは判然としませんが、掴み部分の説明はなかなか興味深く読めました。だんだん辛くなってきて2の最後でギブアップしました。
河田の年齢は五十代で、時代設定は1980年代だと思うのですが、間違いありませんか?

>サウムの期間中は、日没後にイフタール(朝食)と称して出される形こそ日本で見かけるパンケーキに似ているが、その中にチーズやクリームやナッツを入れて揚げ、甘い蜜を掛けたカターイフには飽き飽きし、その後も夜中の昼食や夜明け前の夕食には閉口していた。
この一文は長すぎるので、いくつかに分けましょう。

>チームワーク醸成に同じ釜のメシを喰うのが有効なのは洋の東西を問わない。
違和感があります。
「洋の東西を問わず、チームワーク醸成には同じ釜のメシを喰うのが有効だ。」
または
「チームワーク醸成に同じ釜のメシを喰うのが有効なのは万国共通だ。」

>一瞬、【違和感を感じた】が、深く考える余裕はなかった。
重語です。

>複数の鍵が【外ずされる】音が聞こえ、ドアが開いた。
送り仮名

>なお一層、【勤務に精励】させます
「職務に精励」

>河田の入った二〇畳ほどもあろうスペシャル・ルームは、【踝まで埋まるほど毛足の長いペルシャ絨毯】が敷かれ、白を基調とし、金をあしらったキンキラキンのソファーや調度品が並ぶ。
ペルシャ絨毯について検索しましょう。

文章にひっかからなければ次の3も読めたはずなので、しっかり推敲しましょう。

えんがわ
M014008022192.v4.enabler.ne.jp

年成さんの小説を読むのは久しぶりです。
自分は、年成さんのイスラム関係のものを幾つかふれたのですが、その中でも一番好きです。
一番の原因は、イスラムの社会風俗とか価値観のウェイトへの描写が大きく、それが自分の好みに合っていたことです。
しかし、このイスラムの存在感、ディープさは、やっぱり現地に長いこと滞在していないとわからないような濃さで、なんかそれだけで楽しかったです。
料理の描写ひとつとっても、写真やレシピから想像する以上の、なんか佇まいみたいなものが出てるんですよね。

何かあったらコーランという言葉を使え、とか、熱中症みたいなものの過程とか、あー、上手いなー、こう知識として面白いし、それが実感に沿ったような血の通ったもので。うん、良い。


気になった部分も書いときます。
全体的におっさん臭さがありました。あり過ぎた気もします。
叙述面なら、簡単に言うと、オヤジギャグの数が多すぎて。単純に読む気力が削がれてしまいます。
減らしたり、ここぞという時に効果的に使えば、生きるのでは?

おっさん臭さはおっさんしか出ないんで、それはイスラムの社会では仕方がないかもしれないけど、香坂さんが出てから瑞々しさが加わり、読みやすさが増えたとは思います。ただ香坂さん、なんか男から見た女てきな、キャラを作り過ぎてしまっている気もします。もうちょっと自然な女性らしさがあったらなとか。

それに関連して、2の性風俗みたいなところは、必要な描写だったかなって気がします。なんか色気やなまめかしさよりも、それを買うおっさんの気持ち悪さを感じてしまって。ここをカットしたほうが、香坂さんの色気シーンもかえって引き立った気がするし、なんとなく、うーん、てね。カットしちゃうのは忍びないとは思うのですが。


全体的に読んでいて思ったのは、主人公がこの場面でこの取引をしているのだけど、何を目的にやってるのか、そこらへんの意図とか読めない箇所が多く、なんとなくシーンが通り過ぎてしまうところがありました。それは自分の読みの浅さからくるものですけれど、そういう読者にもうちょっとわかりやすく目的を提示しても嬉しいかなって。
それは作全体の主人公の目的、なんでアラビアで仕事をするのか、な目的もあいまいなままだったような。
漠然とお金だけじゃ、長編の物語を追っていくにはガソリンが弱い感じがします。最初の方に妻への愛も語られるけど、前編のこちらでは冒頭のきり、出てこなかったし。でも、玲子という名前は懐かしかったです。

とりとめもなく、感想を書きました。
中東情勢、なんか嫌な感じの緊迫感が増していて、戦争は嫌だなーとか思ったりしつついる現在です。
だからこういう風に、身近に感じる、身近に感じるからこそ遠くに感じる社会を、イスラムで読めたのはとても嬉しい体験でした。

ありがとうございました。

牧野
pw126245016008.16.panda-world.ne.jp

1を読ませていただきました。
個人的にはとても興味を引かれる題材です。

気になった点は、冒頭から文献を読んでいるように説明的な文章が続くことです。
登場人物の描写もありましたがこちらも説明に終始しており、物語が動く様子は見られずやや緩慢さを覚えました。

御廚年成様が深い知識をお持ちなのは非常によく伝わってきますので、情報の取捨選択をすると内容がより洗練されるでしょう。
大筋に必要な情報だけで読む立場としては十分で、それだけでも存分にこの世界観に浸ることができます。
登場人物に動きを出しつつ、情景・心情描写や台詞を使い、背景として知識を織り込めば物語としてスムーズに進むのではないでしょうか。

御廚年成
M014011161224.v4.enabler.ne.jp

松岡修子 殿

御高覧を感謝いたします。

>だんだん辛くなってきて2の最後でギブアップしました。
 文章にひっかからなければ……1(2)の回答と理解してよろしいでしょうか。

>河田の年齢は五十代で、時代設定は1980年代だと思うのですが、間違いありませんか?
 河田の年齢については、30台半ばで設定しております。「お嬢さんも奥さんと同じ帝都女学院の付属に入学したンだってナァ、名門の。」の一文で説明したつもりです。
 時代設定については、工法等を本文中に入れておりませんので厳密な時代設定はありません。
 もしよろしければ、そう感じさせた理由をご開陳いただけないでしょうか。

>ペルシャ絨毯について検索しましょう。
 ペルシャ絨毯については、若干の反論があります。
 一言でペルシャ絨毯と言っても「ナハバンド」「アフシャル」「ギャッベ」「イスファハン」「クラルダシュト」etcと種類も多く、拙作においては売春宿の寝室で使用するための物です。
 設定上、ハフルーはフランスの元植民地であり、西洋人の性的興奮を高める仕様としました。つまり「床の上で行う」ことを可能にする目的です。また、この寝室は本文中にもある様にベルサイユ宮殿の仕様を拝借しました。
 床(畳)の上でコトを行っても日本人には特段異常ではないでしょう。ですが、西洋において床の上でコトに及ぶことは、屋外での交合に匹敵する感ずるインパクトある行為です。また、ドギースタイル(後背位)などもキリスト教的に背徳感を感じさせると認識しています。
 しかしながら、この事について誤解を生じさせたのは私の筆の至らなさです。

ご指摘を糧に筆を磨きます。
ありがとうございました。

松岡修子
18.252.149.210.rev.vmobile.jp

東京商科大学を卒業した河田にスポーツ飲料を飲ませるシーンがありますね。

東京商科大学の最後の卒業式は1953年3月だから、河田はどんなに遅くとも、1930年4月2日から1931年4月1日迄の間に生まれている。
日本初のスポーツドリンク「ポカリスエット」の誕生は1980年。河田がポカリスエットを飲んだのは、どんなに早くても1980年。
計算すると、河田は49歳か50歳。この場合、時代設定は1980年代になります(1990年には定年を迎えますので)。

ですが、
>河田の年齢については、30台半ば(中略)時代設定については、厳密な時代設定はありません。

ということなので、河田の飲んだスポーツドリンクはポカリスエットではなく、世界初のスポーツドリンク「ゲータレード」の可能性があります。
ゲータレードの誕生は1965年なので、販売初年にアメリカから輸入して飲んだのなら河田は35歳か36歳となり、辻褄は逢いますね。その場合、時代設定は1965年以降となります。数学が苦手なので自信はありませんが。

難癖を付けるつもりはありませんよ。東京商科大学と出てきたので、『随分古い話だな』と思ったら、スポーツドリンクが出てきたので、『え、昭和?』と驚いて計算してみたんです。ポカリスエットと仮定して、ですが。

松岡修子
18.252.149.210.rev.vmobile.jp

売春宿のペルシャ絨毯はギャッベですね? 昔のギャッベは厚みが5センチほどもありましたが、ペルシャ絨毯は薄いほうが上等とされるのでどんどん薄くなり現在では1センチほどです。

作中のギャッベはずっと昔に作られた物で厚さ5センチあったと仮定しましょう。ギャッベを踏んでも足の下のギャッベの厚さは0センチにはなりませんね? 1センチとして、その差は4センチです。
私の身長は160センチ程度で、床から踝までの高さは5.5センチあります。ですからギャッベを踏んでも踝には達しません。踏まれたギャッベが0センチになるとしても、踵はギャッベの表面から5ミリ浮いています。

作中の河田は男です。もし河田の身長が160センチあるのなら踝には届きません。
ですから『妙だな』と思った次第です。難癖を付けるつもりはありませんよ。素直にそう思っただけです。

ですが、厚さ5センチ以上のギャッベも存在したのかもしれません。踏んだら0センチ近くになるのかもしれません。踝の高さにも個人差があるでしょう。河田の踝は5センチくらいの低い位置にあるのかもしれません。それなら踝は浮かず、ギャッベは踝に届きますね。それに私は数学が苦手なので、計算は全部間違いなのかもしれません。
だからあまり気にしないでください。

御廚年成
M014011161224.v4.enabler.ne.jp

えんがわ 殿
御高覧を感謝いたします。また、御無沙汰をしておりました。お変わりはありませんか。

>年成さんの小説を読むのは久しぶりです。
 私としても2年ぶりの投稿で、以前の200,000字制限のつもりで書きましたが、いつの間にか40,000字制限に変わったことを知りませんでしたので、仕方なく前・後編に分けました。

>自分は、年成さんのイスラム関係のものを幾つかふれたのですが、その中でも一番好きです。
 ありがとうございます。そう言って頂けると作者冥利につきます。

>全体的におっさん臭さがありました。あり過ぎた気もします。
 以前に貴兄から御指導をいただいた「潜入! カルト教団」に書いたように実際には「おっさん」ではなく「ジジイ」ですから、もしお時間がありましたら、その箇所を具体的に御指摘いただけないでしょうか。

>それに関連して、2の性風俗みたいなところは、必要な描写だったかなって気がします。
 これについては、後の「脅し」のネタにする意図を持って撮影等を行うのが目的ですが、売春窟を「俺は知ってるぜ」的な増上慢になっていたかもしれません。

>香坂さんが出てから瑞々しさが加わり、読みやすさが増えたとは思います。
 香坂祐衣は、当初はモブキャラでしたが、なぜかキーボードの上で勝手に暴れ始めました。
 爾後の「パリは燃えているか」の中でも暴れます。もし宜しければ、彼女について後編でも御指摘を賜りたいと思います。

>それは作全体の主人公の目的、なんでアラビアで仕事をするのか、な目的もあいまいなままだったような。
 拙作は「シェアの奪い合い」と「そのための手段」を主軸にし、主人公達の施工は考えておりませんでした。その為、「会社」というフィルターを掛けてみました。

>身近に感じる、身近に感じるからこそ遠くに感じる社会を、イスラムで読めたのはとても嬉しい体験でした。
 最高の賛辞です。お言葉に恥じぬ様、筆を磨きます。

御指導、ありがとうございました。
鍛(たたき)錬(ねって)いただいたことを糧にいたします。
末筆ですが、貴兄の御健勝、御健筆を心より祈念申し上げます。

大丘 忍
ntoska043001.oska.nt.ngn2.ppp.infoweb.ne.jp

中東という我々にはあまりなじみのない土地での物語ですが、退屈せずに読ませていただきました。
登場人物の心理状態を登場人物に代わって作者がくどくど述べる作品が多いのですが、この小説にはそれがなくすんなりと読めましたね。これをハードボイルド文体と言うのでしょうか。私はこの文体が好きです。
国立の東京商科大学とは、現在では一橋大学になっておりますが、この小説では一橋大学に限定する必要はなく、小説の上の大学名と考えたらいいでしょう。私もよく大学名を出しますが、京洛大学などという架空の名前を使ったりしています。もちろん、筋書きとして実際の大学名が必要なら実名を使いますが。
中東という我々には馴染みの少ない地方が舞台ですが、興味深く読むことが出来ました。後篇が楽しみですね。

えんがわ
M014008022192.v4.enabler.ne.jp

>全体的におっさん臭さがありました。あり過ぎた気もします。
 以前に貴兄から御指導をいただいた「潜入! カルト教団」に書いたように実際には「おっさん」ではなく「ジジイ」ですから、もしお時間がありましたら、その箇所を具体的に御指摘いただけないでしょうか。

うーん、なんというか、この話は現代だと成り立たないシチュエーションに思うんですよね。
愛する妻を置いて、という単身赴任の物語は古今東西ありますけれど、ネットの普及で海外でもある程度意思疎通が出来てしまう様になってしまったから、なんか不自然に見せてしまうんですよね。
妻が全く出てこないのは、手紙の時代ならオーケーですけど、少なくともメールが出てきてしまってからは、うーん。

そういうところに、御厨さんの体験というか年齢というか、書こうとしているものと今の間のギャップがあって、そこが、ぶっちゃけ、加齢臭として映ったんだと思います。

買春についても、どうしても昔のアジアで遊んでいる外交官的な感じは古さというか、それはダサさと密接した感じはあります。
女性についても香坂さんはバブル時代ならギリギリいたかもしれないけど、今だとちょっとあり得ないかなって。
ㇽパーンって、ふじぃこちゃぁんみたいな。そういうクラシックさがあります。
仕事一筋で、趣味が前に出てこない会社人間も、やっぱりなんというか、自分の思う会社員とはちょっと外れていて。

本作は回想という形にしてこの時代はこうだったよって語るにはアリだと思うんですけど、現代の視点として並べられたときに、どうかなって部分があるような気がします。

もちろんその価値観も含めて、御厨さんだけでしか書けないものなんですよね。
だからそこの正否は微妙なんだと思います。
今の時代に寄せるのも見たい気もしますしそれは需要はある気もしますけど。
逆にその御厨さんのフィルターみたいなこの価値観だから出来るその文章をもっと深めたり、上手い事そういうものなんだよと読ませるように誘導するとか。
どっちでもいけるような気もするし。

自分でも書いているうちに、良くわからなくなってきちゃった。ごめんなさい。

でも、この作品はとても御厨さんらしくて、その中でもなんか灰汁が取れている感じで、好きな作品なんですよー。
ほんと今のままでも、面白いです。このまま改稿しなくて、後編出してくれても、読みますですよ。

御廚年成
M014011161224.v4.enabler.ne.jp

牧野 殿
御高覧を感謝いたします。
また、返信が遅れましたこと、貧乏暇なしと御寛恕下さい。

>個人的にはとても興味を引かれる題材です。
 ありがとうございます。

>大筋に必要な情報だけで読む立場としては十分で、それだけでも存分にこの世界観に浸ることができます。
 これについては、「増上慢」と言われても仕方ないかもしれません。

>大筋に必要な情報だけで読む立場としては十分で、それだけでも存分にこの世界観に浸ることができます。
 ここの部分が難しく、過不足なく紡ぐのに四苦八苦しております。

御指導を糧に筆を磨きます。
ありがとうございました。

御廚年成
M014011161224.v4.enabler.ne.jp

松岡修子 殿
再訪を感謝いたします。

また、ご開陳ありがとうございました。
私は「娯楽小説」では、「設定を固める」べき所と「設定を緩める」べき所があると考えております。貴兄に御指摘いただいた所【大学名】【スポーツドリンク】については、ほとんど設定しておりませんでした。

丁寧な開陳を心より感謝いたします。
ありがとうございました。




追伸

アラブのIBMと言う言葉があります。
インシャーラ、ブクラ、マレーシュの略です。
インシャーラ:神の思し召しがあれば
ブクラ:明日
マレーシュ:二つの意味があり、「ごめんなさい」と、「気にしなくてもいいよ」
この3つを持っていると、もう少し「作品」を楽しめるのではないかと老婆心ながら思っております。

御廚年成
M014011161224.v4.enabler.ne.jp

大丘 忍 殿

御高覧を感謝いたします。

>中東という我々にはあまりなじみのない土地での物語ですが、退屈せずに読ませていただきました。
 ありがとうございます。前編だけでも約100枚ですから、読んでいただけるかと不安になっておりました。

>国立の東京商科大学とは、現在では一橋大学になっておりますが、この小説では一橋大学に限定する必要はなく、小説の上の大学名と考えたらいいでしょう。
 読み取っていただき、ありがとうございます。

>興味深く読むことが出来ました。後篇が楽しみですね。
 ご期待に背かなければ良いのですが……。


寒さ厳しき折、何卒御自愛下さい。
大兄の御健筆と御健勝を心より祈念申し上げます。

松岡修子
249.253.149.210.rev.vmobile.jp

>御指摘いただいた所【大学名】【スポーツドリンク】については、ほとんど設定しておりませんでした。

 スポーツドリンクに関しては、それがポカリスエットと仮定すると監査の男は50代ということになってしまうから、「ゲータレードかもしれない」と親切にフォローしただけです。感謝されても恨まれる筋合いはありません。追伸の謎の説教を読むと、どうやら私は逆恨みされているようだと感じました。

 本文には、
>河田は、国立の東京商科大を出て総合商社に入社した

 とはっきり書いてあります。国立の東京商科大とは、現在の一橋大学の前身である東京商科大学であろうと思うのがごく自然です。それを「大学名については、ほとんど設定しておりません」と言われても説得力がありませんよ? 苦しい言い訳にしか聞こえません。あなたが書いた「国立の東京商科大」を一橋大学または昔の東京商科大学だと読者に特定されたくないなら、「国立の商科大学」と書くべきでしたね。こう書けば特定されることはありません。これはあなたのミスです。四の五の言わずにさっさと訂正しておきましょう。これ以上は見苦しいので言い訳も屁理屈も禁止です。

 そもそも私は、あなたの考えた設定が間違ってるなどとは言ってませんよ? あなたが質問するから真摯に答えただけです。

>神の思し召しがあれば
>明日
>「ごめんなさい」と、「気にしなくてもいいよ」
>この3つを持っていると、もう少し「作品」を楽しめるのではないかと老婆心ながら思っております。

 あなたは私にこの三つから四つの言葉を知れと言ってますが、「神の思し召し」と「明日」はこの作品を読むのには特に必要ではありません。残るは「ごめんなさい」と、「気にしなくてもいいよ」ですが、私はあなたに「ごめんなさい」と謝る必要は何もありません。残るは「気にしなくてもいいよ」ですが、私はあなたにこんなことを言われる前からそう言ってますよ?

>難癖を付けるつもりはありませんよ。素直にそう思っただけです。
>それに私は数学が苦手なので、計算は全部間違いなのかもしれません。
 とフォローも入れました。多分、計算は間違ってませんけど、私の優しさです。そのうえでちゃんと、

>あまり気にしないでください。
 と言ってます。

 というわけで、あなたの老婆心ながらの発言はまったく筋違いです。謎の説教は慎んでください。老害と言われるだけですよ?

放浪マック
161.142.209.176

1 最後まで読む事が出来たでしょうか。
>出来ました。
(1) 文頭での掴みは、いかがでしたか。
>>よくありませんでした。読み続けるか悩みました。
(2) 読むのを止めた箇所・理由を御教示下さい。
>>最後まで読めましたが、止めそうになった箇所は3に書きます。
(3) 続きに興味を持てますか。
>>持てます。
2 風景・情景等についてイメージできたでしょうか。
>>敢えて想像し、想像出来ました。つまり、自然と思い浮かんだわけではありません。しかし、問題ないレベルだと思います。
3 食事のシーンは「旨そう」「食べてみたい」と思えるでしょうか。
>>旨そう、食べてみたいとはなりませんでした。唯一、美味しそうと思ったのは、いちじくのソルベ。
他の料理の説明は難し過ぎて、イメージし難かったです。おそらく読者は、読書の際、自分の体験と重ねてイメージを掴むのだと思います。誰もが知っている、あるいは体験しているだろうことを例えとして使えば、イメージしやすくなります。これは、説得力を増すプレゼンの要領でもあります。自分はいちじくに特別な思い出があり、特別な説明がなくてもそこだけ自然と反応してしまいました。
因みに、『レストロンに入った。』から始まるシーンの中、料理の説明箇所が冒頭に次いで挫折しかかった場所です。レストランに誤字がありますが、まあ、これはご愛嬌。
4 登場人物・セリフが多めです。
>>特に気になりませんでした。よく台詞でずっこける素人小説はありますが、奇をてらわず、堅実な台詞回しでよかったと思います。台詞が多過ぎるという印象もありませんでした。伊坂幸太郎も自他共に台詞の多い小説家と認め認められていますが、違和感ありません。御作も、台詞が効果的に使われているのではないでしょうか。
(1) 人物の識別は容易だったでしょうか。
>>難しい名前が出てくる割に、混乱はありませんでした。
(2) 読み進めるのを阻害しませんでしたか。
>>ありませんでした。
5 場面転回での混乱はなかったでしょうか。
>ありませんでした。
一箇所のみ
『日本人レジョネール(外人部隊兵)に救われた。
 アタッシェケースから事務用封筒が出される。』
ここの、救われた、からアタッシュケースの切り替わり部分のみ、やや混乱しました。
6 外国語の表記
(1) 亜語・仏語・英語を使いました。
   何語かの推測は、可能だったでしょうか。
>>推測し難い箇所が多かった気がします。しかし、読み進める上での障害にはなりませんでした。
(2) 意味を括弧で記しました。
   読み進める邪魔にならなかったでしょうか。
>>なりませんでした。逆に、ないとさっぱり分からない箇所もあります。例えば5で引用したレジョネールなど。
7 その他、御指導いただける事は何でも。
>>物語が動き始めてからは、面白く読めました。前述した通り、レストランのシーンで挫折しかかりましたが、先に読み進みたい気持ちが勝ったのですから、それなりに面白いのだと思います。
いや、面白いし続きも読みたいのですが、敢えて『それなりに』という言葉を使ったのは、全体にアクセントが足りない分、物足りなさを感じるからです。どう言えばよいのか悩みますが、卒なく体裁の整った文章になっているので、レベルは高いと思います。しかし商業ベースに乗っている作品には、はっとする表現が所々に登場します。頻繁に出てくる必要はないのですが、数か所、作者がここぞという箇所のみ、じっくり表現を練り直したり追加すると、それが5箇所や10箇所だけであったとしても、全体の印象が随分変わると思います。
細かなことを言うとそうですが、楽しく読めました。この楽しく読める、というのが最も重要です。ありがとうございました。

御廚年成
M014011161224.v4.enabler.ne.jp

えんがわ 殿

再訪と御教示を感謝いたします。

>愛する妻を置いて、という単身赴任の物語は古今東西ありますけれど、……少なくともメールが出てきてしまってからは、うーん。
 実は、メールなども制限があったりします。娯楽用に与えられているパソコンにもセキュリティーの検査があり、隔靴痛痒の感もまた大きいのです。

>そういうところに、御厨さんの体験というか年齢というか、書こうとしているものと今の間のギャップがあって、そこが、ぶっちゃけ、加齢臭として映ったんだと思います。
 他の方にも申し上げたのですが、時代を明確にしなかったことが一因と思っております。

>でも、この作品はとても御厨さんらしくて、その中でもなんか灰汁が取れている感じで、好きな作品なんですよー。
 牧野圭一・礼子と朝倉啓介・玲子、少々ダーティーな部分に踏み込むため主人公や語調を変えてみました。

>ほんと今のままでも、面白いです。このまま改稿しなくて、後編出してくれても、読みますですよ。
 ありがとうございます。ご期待に背かなければ良いのですが……(笑)

時節柄、何卒御自愛下さい。

御廚年成
M014011161224.v4.enabler.ne.jp

放浪マック 殿

御高覧を感謝いたします。

何とか読み通していただけたようで、安心しております。

情景:これについては紡ぐ筆の至らなさです。どう表現すればと身近な物での例えを行ったつもりでしたが、至りませんでした。

場面展開:ご指摘いただき、説明文を無理やりねじ込んだのは逆効果だと思いました。二人の関係は事前に情報提供した方がよかったかもしれません。

台詞回し:及第点を頂いた様で一安心です。

>楽しく読めました。この楽しく読める、というのが最も重要です。
 後編も期待外れでないと良いのですが……。

御指導を糧に筆を磨きます。
寒中、何卒御自愛下さい。ありがとうございました。

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