作家でごはん!鍛練場
椋丞

エスケープ!ストレンジャーズ!(95枚)

 また老人が騙されたらしい。
 今回の被害者は板橋区に住む七十代の女性で、被害額は三百万円にのぼるようだった。
 四角い枠の中、朝のわりに化粧の濃いキャスターが吐きだす情報(それ)を、僕は静かに聴いていた。
 ゲストが持論を語りおえると番組はスポーツコーナーに切りかわる。僕は騙しとられた金がどこへ消えていくのかを想像したあと、グラスに半分ほど残っているミルクを飲みほした。
「どうして騙されるのかしら」
 テーブルの向かいにいる母が呟いた。テレビを眺めるその顔は、まるで異星人でも見るかのようだ。
 母は五十代で、週に三回ヨガ教室に通っている。二十代の頃とプロポーションが変わっていないのが自慢らしく、要するにまだ若い気でいるのだろう。
「手口が巧妙だから見抜くのが難しいんだよ」
 白く汚れたグラスの縁をぬぐっていると、すぐに母が反論した。
「それにしても多すぎよ、うるさいくらいニュースでとりあげてるのに。ほんと年はとりたくないものね」
「そんないいかたはないよ。高齢者も好きで騙されたわけじゃない」
「それはそうだけど、しっかりしていれば未然に防げる事件だもの」
「騙すほうが悪いにきまってる」
「奏多はいつもお母さんのいうことを否定するんだね」
「そんなんじゃないし、いい加減にしなよ」
 視線を外すと、母は溜息をついて空になった食器をキッチンへ運んでいった。
 彼女は自分が騙されないと思っている。過去にそうした経験がないからか、それとも進学校を出ている矜持(プライド)なのか、とにかく自分は大丈夫だと思っている。
 そんな母に僕はいつも呆れていた。なぜなら、彼女は既に騙されているからだ。
 僕は本当の奏多ではない。彼女の息子である樋口奏多は十年前の夏、流星群が夜空を覆ったあの日──。僕のかわりに死んだのだ。
 
 端的にいうと、僕はこの星の人間ではない。
 地球人(みんな)がいうところの宇宙人(エイリアン)というやつで、生まれは地球から遠くはなれた銀河の惑星、水と緑が豊かなとても美しい星だった。
 〝だった〟と過去形で話すのは既に星がないからで、原因は巨大隕石衝突によるものという、それはそれはつまらない理由だ。
 当時七歳の僕は、ストレンジャーと呼ばれる緊急脱出用シェルター(色はシルヴァーでホタルイカのような形をしている)に乗りこんだ。
 親を含めた大人たちは星の爆発を阻止すべく奮闘していた。故郷が消滅するのはどうしても避けたかったらしい。喧騒と焦燥がまぜこぜになった空気はハッチが閉まるのと同時に遮断され、残ったのはひとりになった心細さだった。
「かならず迎えにいくから」
 小さな丸窓の向こう、父はまっすぐこちらを見つめそういった。それが記憶する、父の最期の姿だった。
 どれくらい宇宙を彷徨っていたのか、気づくと遥か彼方の惑星に不時着していた。こわばる手でハッチを開けると、生ぬるい風が頬をかすめた。
 夜なのかひどく真っ暗で、遠くで野犬が鳴いている。草地へ降り立つと、妙な音がして反射的に身構えた。暗闇から鈴の音のようなものが断続的に聴こえる。しばらくそのままでいたが、あることを思い出して構えを解いた。おそらくスズムシというやつだろう。実際に見たことはなかったが、政府中央図書館にある異星生物図鑑(カバーがミジナオーアという蒼い宝石で装飾されており、二万ページもある)で読んだことがあった。
 安堵してストレンジャーに寄りかかると、焦げ臭いにおいが鼻をついた。
 これからどうするべきなのか、夜空を見上げながら考えた。瞬く星たちを眺めていると両親の顔がうかび、不意に涙がこぼれた。
 星は亡くとも腹は減る。一時間ほど泣き続けたが空腹には勝てず、食べ物を探すためストレンジャーをはなれた。周囲の建物やコンクリート塀の高さから、この星の生物は最大で二メートル足らずだと推測できた。奇しくも僕らと同じサイズだ。
 夜路をいくと塀の向こうから香ばしい匂いが漂ってくる。唾液を飲みこみ、大腿四頭筋を収縮させて猫のようにジャンプした。
 明るい室内、テーブルを囲む住人たちが黄土色の液体(まるで排泄物だ)を金属製の器具で口に運んでいる。どうやらあれが食べ物で、この匂いはその異物から放たれているらしかった。
 その光景に愕然とした。この星の住人はあんな下品なものを食しているのか。全身の力が抜け、落下するように塀から降りた。
 ひどく気分が悪い。吐き気止めの薬を持ってこなかったことを後悔したが、絶望しかけた心を一縷の望みが繋ぎとめた。この星は故郷と一緒で水も緑もある。根気よく探せば口に合う食べ物がきっとあるはずだ──。
 結論からいうと食べ物は見つからなかった。夜通し歩きつづけた足は炎症して腫れあがり、川の水を飲んだだけでストレンジャーに戻ってきた。座席に身をたおすと重い疲労があふれてくる。故郷を想い、僕は少しだけ眠ることにした。

 ○●○●

 地球人(かれら)の朝は忙しい。朝食をとったあと歯をみがき、制服に着替えて家を出る。バッグに教科書と筆記用具をおさめ、黒のローファーを履いた足で学校という目的地に向かうのだ。
「奏多、おはようッ」
 交差点で信号待ちをしていると、幼馴染である深山沓子の声が飛んできた(いまの時代、名前に子がつくのは珍しい、というか〝ダサい〟らしいが宇宙人の僕にとっては落ち着いた良い名前だと思う)。おはようとだけ返して彼女を見た。
「今朝もミルク飲んできた? 早く百七十センチにならないとね」
 そういって口許をゆるませる沓子は、すらりと背が高い美少女だ。小顔を引き立たせるショートヘアはいつ見ても鮮やかで、カットモデルのような佇まいがある。小さい頃からつづけている水泳はジュニアオリンピックの代表選手にも選ばれるほどだった。
「百六十九あればじゅうぶんだよ」
「わたしより五センチも低いじゃん」
 君が大きいんだよ、といおうとしてやめた。沓子は口が悪いくせにとても傷つきやすい。今から四百二日前、学校が休みの日。僕は彼女の家でテレビを観ていた。くだらないバラエティ番組だ。なにが面白いのかわからなかったが沓子はけらけらと笑い、僕は出されたコーラをだまって飲んでいた。
 コマーシャルがおわり、画面に長身痩躯の芸人が現れた。彼が長い手足をつかって水棲生物の形態模写をしたとき、思わず「きみみたいだ」と呟いた。とたんに沓子の顔が曇りだし、双眸から涙があふれた。
 もちろん悪口をいったわけではない。長い手足が沓子の肢体を連想させ、確認のためにいっただけなのだ。
 それから一週間、時間にして百六十八時間と少し。彼女は言葉を交わしてくれなかった。僕はそのとき地球人、とりわけ女(メス)の精神(こころ)は爆発寸前の星から脱出するよりもむずかしい、ということを知った。

「ようご両人、きょうも仲良く夫婦で登校かァ」 
 聖凛学園高等部の正門をくぐったところで、クラスメートの菱木令介が話しかけてきた。油ものが好きで、いつも頬にニキビがある彼は、僕らのことを〝夫婦〟と呼ぶ。
 幼馴染、家が近所だから必然的に一緒になるだけで、沓子との関係はそれ以上でも以下でもないが、令介の目にはよほど親しく映っているのだろう(それだけとけこめているということなので僕にとっては喜ばしいことだ)。彼の短絡的な脳細胞はある意味羨ましくもあった。
「その呼び方はやめてくれないか」
「照れんな照れんな」
 にたにた笑う令介の肩に軽くパンチをして、僕たちは校舎に入った。
「そういえば、またあったらしいよ」
 昇降口で上履きに履き替えながら、沓子がいった。
「またって、KG事件のこと?」
 靴箱の扉を閉めながら僕は訊いた。
「マジかよ、気色わりいなァ」
 令介が大げさに顔を歪めた。
 KG事件とは、何者かが犬や猫の睾丸を切りとってネット上に晒すという悪質極まりない動物虐待事件のことだ(睾丸の頭文字であるKとGからそう呼ばれている。ひどく安直なネーミングだが、乱暴に去勢されたペットたちのことを思うと胸が痛む)。
 真っ白な睾丸が刳りぬかれた様はさすがの僕でも吐き気がした。
「いとこが飼ってる犬も被害にあったみたい。わたし、そういうの絶対許せない」
 扉を閉め、沓子は唇を強く引き結んだ。彼女の意思はマッキンリーより高く、ダイヤモンドよりも硬い。
「おれも許せないけどさァ、どうしようもないだろ」
「わたしたちでさ、その犯人捕まえられないかな」彼女の瞳(め)が輝いた。
「馬鹿いうなよ、そういうのは警察に任せておけばいいんだって。素人が下手に首突っ込むと痛い目に遭うぞ」
 令介の忠告を無視し、沓子が僕を強く見る。こうなってしまったら誰も彼女を止められない。息を吐いて、不承不承頷いた。
「おまえら、マジやべえよ」
 令介の呆れたような声が、始業開始のチャイムと重なった。

 退屈な授業がおれたちのすべてならば
 なんてちっぽけで
 なんて意味のない 
 なんて無力な 
 十五の夜
 と歌いだしたくなるような授業が終わり(突然だが、尾崎豊は良い。彼の歌声は故郷であるジグド星が発するエネルギー波にとてもよく似ている)、次の授業の準備をしていると沓子が僕の席にやってきた。
「きょうの夜から見張る。手伝って」
「見張るってどこを」
「野良猫が多いところ。公園とか空き地とか」
「あしたも学校なんだけどな」
「だから人数が必要なのよ、三人いればかわりばんこにできるでしょ?」
「でも」
「シフト表作成したから、目を通しておいてね」
 眼前にB五サイズの紙が降ってきた。左側に僕たちの名前が書きこまれており、上部に日付とタイム、横にグラフが伸びている。
「きょうは初日だから、みんなで見張ろう」
 沓子はどこか楽しそうだった。宇宙人(ぼく)がいうのもなんだが、彼女はとても変わっている。
 こんな話がある。あれは地球に不時着して二年目の四月、つまり樋口奏多になって初めての春を迎えたときのことだ。僕たちは小学校へあがり、体に似合わない大きなランドセルを背負っていた。
 満開の桜並木の中を帰路していると、道傍に一頭の野犬が息絶えていた。死んでから時間が経っているせいなのか、それともめっきり暖かくなった気候のせいなのか、はなれていても腐敗臭が粘膜を刺激してくる。道をいく大人たちは顔を顰めるだけで通りすぎ、死骸のある一画はまるで時が止まっているかのようだった。
「犬が死んでいるね」
 僕が指をさすと、沓子は着ていたカーディガンを脱いだ。ためらうことなく死骸を包み、噎せ返るような腐臭にもかかわらず抱きかかえた。
「どうするの?」
 僕は問うた。予想だにしなかった地球人(かのじょ)の行動に少々興奮したことを覚えている。沓子は薄く笑み、まっすぐこちらを見つめたあと、埋めてあげるんだと静かにいった。

 ○●○●

 空き地は蜜色に満たされていた。大型トラックが五台ほど駐車できるスペースがあり、砂利敷きの奥に背の高い草が繁茂してその身を風になびかせている。
「ここが学校から一番近い猫スポット。いつも夕飯どきになると集まってくるみたい」
 どこから仕入れた情報なのか、沓子は得意げな顔でそういった。乗り気じゃないのか令介は「はいはい」といい加減な返事をする。
「まずは猫が集まるまでどこかに身を隠そう。ある程度集まったら数を記録する」
 沓子はかばんからルーズリーフを取り出すと、シャープペンシルの頭をせわしなくノックした。
「記録してどうするんだよ」
「一定数記録できればそこからオスの数が割り出せるの。そうすれば把握が楽になるから」
「おれは警察か、役所の人間に任せればいいと思うけどなァ」
「わたしたちの街で動物虐待なんて卑劣なことをしてる犯人がいるんだよ。ほうっておけるわけないよ」
 令介は何かいいたそうな顔をしたが沓子の迫力に圧され、だまってしまった。
「それじゃあ各自待機、猫に見つからないよう隠れてッ」
 静かな住宅街に沓子の凛とした声が響いた。

 先ほどまで蜜色だった空は、墨を薄めたような黒に変わりつつあった。季節は夏にさしかかろうとしていたが、宇宙人の僕にはすこし肌寒く感じる。
「こねえなァ」
 令介があくびをしながら沓子を見た。静かにして、と沓子が唇に人差し指を当てる。ガードレールに身を隠し、僕たちは野良猫がやってくるのをひたすら待った。
「なんか刑事になったみたい」
「刑事ィ? 無給の捜査はつらすぎだろ。せめてあんぱんと牛乳はないのかよ」
「たしかに無給はつらいな。人が動くには何か報酬が必要だ」
 僕の言葉に沓子がどこか考える素振りを見せた。
「じゃあ犯人を逮捕したらわたしの大事にしてる〝あれ〟をあげる」
 沓子が意味深長に微笑む。
「あれってなんだよ」
「そこまでいったら面白くないじゃん。犯人を見つけてからのお楽しみ」
 渋々といった感じで、僕たちはまた空き地に猫が集まるのを待った。
 三十分が経ち、一時間が経過しても猫はその姿を現しそうになかった。辺りは黒に包まれ、野良猫(かれら)の代わりに完全な夜が僕たちの前に現れた。
「おかしい。いつもなら猫であふれてるはずなのに」
 沓子はスマートフォンをにらみ、唇をかんだ。
 正直にいう。きょうは犯人はおろか、野良猫さえも集まらない。これは絶対だ。
 なぜそんなことがわかるのかというと、それは僕が宇宙人特有の特殊能力を持っているからだ。体内にあるクリプトクロムという蛋白質(微量だが地球人にもある)を活性化させることにより発動する能力で、第六感と呼ばれる現象だ。予知や透視、パワーは弱いが念動力(サイコキネシス)もある(一度だけ変身することも可能だが、樋口奏多になりすますために使ってしまった)。
 コップ程度の重さなら宙に浮かせることができるし、スプーンやフォークも思い通りに曲げることができる(最もそれらを曲げたからといって、特に意味はないのだけれど)。
 とにかく今夜、この場所ではなにも起こらないと僕のクリプトクロムがいっている。
 一向に現れない待ち猫に、沓子はしびれを切らして立ちあがった。
「ここはダメね、次いってみよう!」
 ドリフターズのいかりや長介(昨日、BSの番組で観た)みたいに沓子はいい、ルーズリーフをかばんにおさめると大股で歩きだした。
「そんなに熱くなると疲れちゃうぜ」
「よけいなこといわずにだまってついてくるッ」
 ずんずん行く沓子の背中を追うと、しばらくして神社が見えた。設置された常夜灯の光が石作りの鳥居を蒼白く照らしている。
「この暗さ、怪しい雰囲気。犯人が現れるなら絶対ここねッ」
 沓子は確信的にいい、鞄から小さなライトを取り出した。LEDの鋭い光が矢のように伸びていく。夜の神社は不気味だ。風が木々を揺らし、時折怪鳥が鳴き声をあげる。百メートルはありそうな参道を僕たちは固まって歩いた。
「犯人よりも幽霊が出そうな雰囲気だな」令介が小声でいう。
「高校生にもなって幽霊なんて信じてるの?」沓子が鼻を鳴らした。
「高校生だから信じているんだよ」僕は令介をフォローする。
 境内に入ると、一対の狛犬が僕たちを出迎えた。石畳が拝殿まで伸び、右手に社務所、左手に小さな祠がある。
「さすがにこの時間はだれもいない、か」
 沓子は周囲を見回し、拝殿の下や祠の裏に猫がいないか確かめる。
「あッ」
 暗闇に沓子の声が響いたかと思うと、彼女がなにかを持ってきた。
「こんなものがあった」
 プラスチック製の器に半生タイプのキャットフードが三分の一ほど残っている。野良猫のためにだれかが餌をあげているのだろう。
「間違いなくここに猫はいるわ。ここからは根気の勝負だ」
「マジかよ、きょう観たいアニメがあるんだけどなァ」
「アニメなんて録画すればいいでしょ」
「リアルタイムで観ないと意味ないんだ。ほら、二組の川嶋サトミっているだろ? 彼女がアニメ好きでさ、観とかないと話が合わないんだ。次からはちゃんと付き合うからさァ」
 令介が手を合わせて懇願する。
「最初が肝心なのにィ、士気下がるなァ」
「無理強いをするのはよくない。無理をするとストレスが溜まって不満噴出の引き金になる。連携プレーを円滑に進める為には調和が必要不可欠だ」
「わかった、わかったわよ。でも、次回からはちゃんと協力してね」
 僕の説得に沓子は渋々肯いた。令介はほっとしたように笑んで神社から姿を消した。
 拝殿の陰と祠の裏、別々に身を隠した僕と沓子は無線がわりにスマートフォンの無料通話アプリを起動させた。画面がグリーンに光り、暗闇になれた両目にひどく眩しい。
「こちら現在異常なし、どうぞ」
 スピーカーから沓子の仰々しい声が聞こえ、思わず溜息をついた。
「真面目にやってよ」
「悪い」
「そっちの状況は?」
「こちらも異常なし」
 そう伝えると、オーケイと強い声が返ってきた。言葉の裏に沓子の並々ならぬ熱意を感じる。
「学年トップの成績を誇る奏多くんに質問。今回の犯人は、いったいどんなやつだと思われますか?」
「べつに誇ってはいないけど」
「あなたの意見を聞かせて」
 僕はこの街にいるであろう動物虐待犯を想像する。
 自分より弱いものに攻撃を加えるタイプには二種類ある。ひとつは世界から虐げられているもの。被害者意識が強く、自己の価値を見出せずにいる。愛情不足といってもいい。他者からの満たされぬ愛を虐待という手段で埋めようとする。
 もうひとつは精神病質、いわゆるサイコパスと呼ばれる人間だ。善の心を持たず、己の欲望のままに周囲を利用し、目的達成のためなら手段を選ばない。宇宙人の僕よりも冷めた眼をした生き物だ。
「愛情に飢えているものか、血に飢えているものの犯行だろう」
「飢えを癒すためにか弱い動物を狙うなんて卑怯者ね」
「人はだれでも卑怯な部分を持っている。大きいか小さいかの違いしかない」
「擁護するつもり?」
「そういうわけじゃないが――」
 そこまでいったとき、
「だれかきたッ」
 沓子の声が鼓膜を震わせた。
 暗闇から足音が近づいてくる。ライトは持っていないのか光源は見えない。地面を捉える感覚から成人男性だと推測した。
「怪しい行動したらでていけるように準備しておいて」
 了解と返し、スマートフォンをポケットに押しこんだ。目視できるように祠から半歩、体をずらす。
 参道から男が現れた。全身黒ずくめでデイパックを背負っており、体格は中肉中背だ。わずかに見える皮膚の張り具合で三十代だと予想する。
 男は周囲を見回したあと賽銭箱に近づき、ライトを出して中身を物色し始めた。
 賽銭泥棒。
 そう認識した瞬間、沓子が拝殿の陰から飛び出した。肉食獣のようなしなやかさで一気に間合いをつめると、棒立ちの男に体当たりを食らわせる。鈍い音がして男が後ろへたおれた。
「あんたッ、なにしてんのよ!」
 仁王立ちする沓子に、男は不意をつかれたのか呆然としている。
「こんなことしていいと思ってんの?」
「なんだァこのガキ──」
「ガキはそっちでしょ? いい歳してお賽銭盗むなんて」
「あ? てめえ、死にてえのか」
 男がポケットからなにかを取り出した。強く腕を振ると、素早く構えた。
「ぶっ殺してやるッ」
 薄明かりの中、ナイフが鋭く光った。殺意に圧され、沓子がゆっくりと後ずさる。焼けるような緊迫感、段差に足を取られたのか沓子が尻餅をついた。男がじりじりと間合いをつめていく。
「こっちだッ」
 僕の声に男が振り向いた。畏れや驚き、怒りがぐちゃぐちゃに混ざったような表情(かお)。とても危険な状態だ。
「てめえら、ふざけてんのか?」
「他人(みんな)が願いをこめた賽銭を盗むなんて、ひどく格好悪いな」
 男の顔がみるみる歪んでいった。矜持や存在を踏みにじられると地球人はこういう表情になるのだろう。ナイフを持つ手がはっきりとわかるくらい震えだした。
「うるせえ──うるせえよ、お前らになにがわかる。休みも取らず真面目に働いてきたんだ、なのにリストラされて──支払いがあるんだよ。親に養ってもらってるガキに、俺の気持ちがわかってたまるかッ」
 男がナイフを振り上げた。短く息を吐いて僕は構える。額の中心に意識を集中させ、久しぶりに念動力を発動させた。
 鋒(きっさき)が振り下ろされた刹那、高密度のエネルギー波を解き放った。一瞬の時間停止、すぐさま男の腕を掴んで懐に潜りこむと膝を使って跳ね上げた。僕と男が宙に舞う。体にかかる負荷がひどく心地よい。遥か彼方、いまは亡き故郷の重力を想い出した。そのまま石畳に叩きつけると、男のくぐもった声が夜気に響いた。
「なに──、いまの」
「幼い頃、祖父に教わった柔道が役に立ったようだ」
「柔道、なの?」
「そうだ、只の背負い投げさ」
 怪訝な顔をする沓子に近づき、僕は手を伸ばした。彼女はためらうような仕草をしたあと、その手を掴んだ。
 男を警察に引き渡したあとも、猫と虐待犯の出現を待った(賽銭泥棒には動物に対する殺意を感じなかった)。先ほどの騒動のせいなのか沓子はすっかり無口になり、沈黙がとても息苦しい。僕はスマートフォンの向こうにいる彼女に話しかけた。
「疲れないか?」
「ずっと思ってたんだけど」
「どうした」
「あなたって普通と違う気がする」
「それを論ずるにはまず、普通とは何なのかという概念から出発(スタート)しないといけない」
「普通は普通よ。テレビ観て、笑って、恋をして、時にはだれかの悪口をいうの」
「その形(タイプ)に僕は当てはまっていないということか」
「怒らないで聞いてくれる?」
「ああ」
「体温を感じないの」
「体温?」
「あなたの言動も、眼差しも、吐く息でさえ、どこかつめたく感じる」
 勘のいい娘だ。普段生活を共にしている家族でさえ、僕の正体に気がついていないというのに。これから予想される展開に心の中で溜息をついた。
「僕は平熱が低いんだ」
「ふざけないで」
 沓子がこちらに歩いてきた。鋭い視線が夜気を貫通して飛んでくる。しょうがない子だ。
「正体を知ってどうするつもりだ。警察に通報するのか、それともクラスメートと暇つぶしの話題にでもするつもりなのか」
「ちがう、そんなんじゃないッ」
 語尾を強め、子どもみたいに首を振る。
「わたしはただ、あなたのことがもっと知りたいだけ」
 沓子が僕の目をじっと見た(地球のメスは睫毛が長くて魅力的だ)。不意に発動したリーディングが彼女の気持ちを読み取る。溜息をついて両手を上げた。
「犯人を逮捕したらすべて話す。それまで待っていてくれるか?」
 そう告げると沓子は絶対だよといって、また僕の目を見つめた。

 ○●○●

 翌朝。寝不足の目をこすりながら登校すると、令介がにやついた顔で話しかけてきた。
「で、どうだったよ?」
「どうって?」
「またまたァ」
「いったいなんの話だ」
 彼は堪えきれないという感じで口許をゆるませた。
「キスくらいはしたんだろ?」
 キス。互いの唇を触れさせる行為のことだ。ビリヤードという球技でボールとボールが密接している状態のこともキスというらしいが、この場合は前者のことをいっているのだろう。
「してない」
「うそつくなよ」
「うそをつく必要もないし、場面でもない」
「なんだ、つまんねえ」
 令介はとても残念そうに肩を落とした。僕と沓子がキスをすることがそんなに面白いのだろうか。地球人は謎だ。
「でも、好きなんだろ?」
「沓子のことか」
「ほかにだれがいるんだよ」
「そういうことはよくわからない」
「なんだよそれ。ガキじゃねえんだからさァ」
 令介が呆れたように息を吐いた。
 好きとはいったいどういう感情なのだろう。例えば沓子との子孫を残したいかと訊かれれば、僕は迷いなくイエスと答える。彼女の身体能力はすばらしいものがある。しなやかでキレがあり、戦士としても申し分ない。体が弱いジグド星人にはうってつけの交配相手だ。
 そこに私的な感情は存在しない。僕のデオキシリボ核酸と彼女のデオキシリボ核酸が適合するという事実がそう思わせているだけで、さらに合致率の高いメスが現れたなら僕はそちらに興味を示すだろう。
「令介は好きな女がいるのか」
「当たり前だろォ、二組のサトミちゃんだよ。可愛いし色白いし、太ももなんてプニップニだし。ああ、触りてえッ」
 令介は頬を染めて叫んだ。どうやら地球のオスは年中盛っているようだ。彼らは魅力的なメスを見つけると積極的にアプローチする。その姿は時に滑稽にも映るが、失敗を恐れないアクティブさがさほど大きくもない星に七十六億という同種をもたらしたのかもしれない。
 教室に行くと、普段と違う雰囲気が漂っていた。新たな事件が起こったのかと案じたが、どうやら転入生がくるらしかった。
「どうか可愛い子がきますように」
 令介が目をつむって大袈裟に祈り始めた。先ほどまで他のメスのことで頬を染めていたというのに。その変わりように僕は呆れた。
 担任教師の相葉が現れ、クラスメートたちが次々と着席していく。彼が事情を説明して転入生の名前を呼ぶと、教室の引き戸が開いた。瞬間、男子生徒たちの歓声があがる。高名な画家が生涯を費やして描いたような美少女が、ゆっくりと教室に入ってきた。
「早川水桜(はやかわ・みお)さんだ。みんな仲良くするように」
 名前が書かれた黒板の前、早川水桜と紹介された少女は教室を見渡したあと、よろしくといって微笑んだ。席に着く彼女を横目に見ながら、僕は早川水桜がこの星の人間ではないということを感じとっていた。
 その日から僕の日常は少しだけ変化した。早川水桜を観察する、という項目がスケジュールにつけ加えられた。
 彼女は誰よりも早く登校した。教室にかばんを置くと中庭の池を眺めてから、正門にある桜の木の幹に手をあてる。雨の日も風の日も、必ず木の前にやってきた。その行動にどんな意味があるのかはわからない。幹に手をあて、彼女は祈るようにまぶたを閉じる。
 昼食はいつもサンドウィッチだった。購買で売っている凡庸な玉子サンド。飲み物はきまって烏龍茶で、それらを三十分かけて食す。
 数学と国語が得意、地理が苦手。そして時々、空を見上げる。それが一週間でわかった早川水桜の事実だった。
 日常がさらに変化したのは、十年ぶりに流星群が飛来するというニュースが流れた日の朝だった。妙な胸騒ぎを覚えて学校へいくと、教室に早川水桜が立っていた。彼女は朝日が差し込む窓辺に近づくと両手を胸の前で組み、顎を上げて祈り始めた。
 僕は息を飲んだ。彼女の周囲に様々な色が飛び始めたからだ。オーブのような光の玉が縦横無尽に飛来し、教室内を万華鏡みたいに染め上げる。飛び回る光の玉に向かい、早川水桜が呟いた。日本語ではない、聞いたこともない言語。光の玉と意思疎通をするように薄い唇が動く。その様子を眺めていると、彼女が目を開けた。
「それで隠れているつもり?」
「最初からわかっていたのか」
「あなたに覗きの趣味があるとは思わなかったわ」
 早川水桜は口許だけで笑むと窓を開けた。早朝の新鮮な空気がなだれ込んでくる。
「君がどこの誰なのか、詳しく教えてくれないか」
「女性を口説くには少し乱暴じゃないかしら?」
「真面目な話をしている。答えてくれ」
 僕が詰め寄ると、彼女は窓外に広がる空を見た。朝日が白い皮膚をさらに白く際立たせた。
「今日一日を無事に乗り越えることができたら話してもいいわ。私、強いオトコが好きなの」

 放課後、帰り支度をしているとクラスメートに話しかけられた。出席番号七番の桐生エイジだ。彼は百八十を超える長身と鋭い眼光が特徴の不良で、他校の生徒と乱闘事件を起こして二週間ほど停学処分を受けているはずだった。
 蛇のような眼を見つめていると、彼は話があるんだといった。話? 僕は聞き返した。桐生は天井を指差して教室を出ていく。逡巡したあと、広い背中を追いかけた。階段を上がり、色あせた扉を開ける。降りそそぐ光の下、桐生エイジがしずかに立っていた。
「ひどくいい天気だ。こんな日は昔のことを思い出す。お前もそうじゃないのか」
 桐生はゆっくりとした口調でそういった。僕は蒼穹を見上げた。上空は風が強いのか雲が斜めに流れており、その向こう、淡い月がぽっかりと浮かんでいる。
「天気の話をしたいわけじゃないんだろう?」
 その問いに彼は笑んだ。褐色の肌に白い歯が光った。
「なぜ、あの女に付きまとう」
「早川水桜のことか」
「この一週間、何を調べていた」
「君には関係ないことだ。それとも、彼女に頼まれたのか?」
「しゃべる気はないか。では、体に訊くことにしよう」
 桐生が一歩踏み出した。眼光がひときわ強くなる。いつもの彼ではない。反射的に身構えた。
「ジグド星人の能力はどれほどのものか、試させてもらう」
 桐生の体から濃密なエネルギー波が放たれた。まるで太陽だ。熱風に顔を覆うと、桐生が床を蹴った。
 凄まじい速度、一瞬で間合いに侵入したかと思うと拳が顔面めがけて飛んでくる。身をよじり、すんでのところで躱すと射程距離外に避難した。
「ほう、動きはなかなかのものだ」
「なぜ闘う必要がある? 僕に敵意など微塵もない」
「どうして闘うかって? ずいぶん微温いことをいうな。──まあいい、死ぬ前に教えてやる。それは〝宿命〟だからだ」
 桐生の両手が光った。すぐに高エネルギーが集まる。まずい──。全力で扉に向かった。
「逃がすかよッ」
 桐生の叫び声が響いた刹那、右足に衝撃が走った。肉が削げたような痛み。バランスを崩し、床に倒れた。
「故郷の星が消滅するときも、そうやって逃げ出したのか?」
 桐生の嘲笑が屋上に広がった。歯を食いしばりながら彼を睨む。追撃のエネルギー波が両の掌で光りだした。
「立てよ。それともこのまま逝くか?」
「なぜこんなことをする。争いなんて愚かだ」
「それが辞世の句か。ひどく陳腐な最期だな」
 桐生が右腕を振った。黄檗色のエネルギー弾が唸りを上げて飛んでくる。肘を支点にして真横に転がった。瞬間、熱を帯びた爆風が体を叩く。出入り口の扉が粉々に砕け散った。
 殺す気だ。桐生エイジに扮した〝何か〟は僕を殺そうとしている。
 制服ズボンの下、じわじわと血がにじみ出てくる。ハンカチを取り出して傷口をきつく縛った。
「ふん、血の色は地球人と一緒か」
「君の目的は何だ?」
 フェンスを掴んで立ちあがった。桐生は口元だけで笑っている。激痛に堪えながら打開策を考えた。
「思考しろ、工夫しろ。持てるすべての能力(ちから)を駆使して切り抜けてみせろ」
 桐生がポケットから何かをとりだして床に投げた。複数の金属音、長さ十センチほどの物体が光を鋭く反射する。カッターの刃だった。
「おれが審査してやる」
 桐生の体から念波が発せられた。途端、刃が共鳴し、中空に浮かび上がる。ゆらゆらと揺れだしたかと思うと、ぴたりと停止した。攻撃してくる――。僕は念動力を発動させた。
 桐生が咆吼すると、刃が龍のようにうねった。
「喰らえッ」
 銀の龍が飛んできた。両手に念波を溜めて受け止める。凄まじい圧力、耐え切れず後方に吹き飛ばされた。
「脆弱ッ」
 桐生が笑いながら間合いを詰めてきた。舌打ちをして体勢を立て直す。龍は中空を舞い、ふたたび僕に向かって飛んできた。ぶつかる直前、腕を胸の前でクロスさせて防御する。いくつかの刃が肉に食い込んだ。
 突き刺さった刃を引き抜いた。痛みで顔が歪む。傷口から血が噴出し、シャツの袖が赤く染まった。
「ジグドの生き残りはその程度か」
「僕を殺すのか──」
「お望みとあらば」
 桐生の左掌が光った。僕は息を吐いてネクタイを外す。桐生の顔に疑問符が浮かんだ。
「争いは嫌いだ。侮蔑しているといってもいい。だけど、僕を殺すつもりなら──、お前を殺す」 
 クリプトクロムを限界まで上昇させた。念波が腕を伝い、ネクタイに注入される。徐々に硬度が増していき、剣のように鋭く光った。
「この能力を発動させたら手加減できない。だから、君も死なないように全力で闘ってくれ」
 桐生の唇が動きかけた刹那、僕は床を蹴った。射程距離内に侵入し、目標の左腕に向かってネクタイを振り払った。鋒が上腕から下を切り飛ばした。
 桐生が呻いて後ずさった。地面に落ちた腕を踏みつけて僕はジャンプする。両手を振りかぶり、相手の脳天めがけてネクタイを振り下ろした。
 鈍い音とともにまばゆい閃光が走った。たしかな感触、桐生エイジが真っ二つになって倒れた。切り口から紫の体液が溢れ、床を汚す。僕は桐生を──、殺した。
「思いのほか戦闘力があるみたいね」
 静寂を裂くように後方で声がした。振り返ると早川水桜が笑みを浮かべ、立っていた。
「やはり、きみが黒幕か」
「念人形とはいえ、こうも簡単に斬られるなんて想定外だったわ」
 床に転がった桐生が炎天下のアイスキャンディのように溶け出した。ひどい臭いだ。口元を押さえていると、彼女が近づいてきた。
 僕は身構えた。早川水桜はそれを無視するように、傷口を見せてくれないかしらといった。
「僕を試したのか」
「血だらけのままでいいの? 地球人は血の色に敏感よ」
 しかたなく了承すると、彼女の両掌がライムグリーンに光りだした。春の日差しのような暖かさ、一瞬にして傷口がふさがった。
「どういうことなのか説明してくれないか」
 僕の疑問には答えず、早川水桜は出入り口の扉を直したあと、空を見上げた。
「この星の空って素敵ね、イリザの瞳みたいに蒼い。気に入ったわ」
 鉄柵に手を置いて、彼女は嬉しそうに呟いた。眉根を寄せると、彼女は続けた。
「ジャミル星人のイリザよ。眼が大きく、とても従順で。あの子の眼は吸い込まれるように蒼かった」
「この星に何の用があるんだ」
「いったい何のことかしら」
「とぼけたって無駄だ。うまく化けたって〝匂い〟までは消せはしない」
 そういうと彼女は口端だけで笑んだ。
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。別にあなたを殺しにきたわけじゃないの」
「君はいったい何者なんだ?」
 彼女の笑みが強くなった。
「この宇宙はとても広い。でも、どこかで必ずつながっている。共時性(シンクロニシティ)ってご存知かしら」
「共時性。意味のある偶然の一致か」
「十年前、ジグド星が巨大隕石の衝突で消滅した時から宇宙の運命が変わってしまったの」
「もっとわかるようにいってくれないか」
「星たちが死んでいくのよ」
「星の死──、それは寿命で?」
 早川水桜はゆっくりと首を横に振った。
「隕石の衝突もあれば突然の天変地異に因るものもあった。原因は未だ不明」
「シンクロニシティ──」
「第七銀河一のアダゲル星も共時性の輪の中から逃れることはできなかったわ」
「きみはアダゲル星人なのか?」
「この星の人間に化けているのはあなただけじゃないのよ、樋口奏多くん。どういうわけかこの街には〝私たち〟のような異星人が多くまぎれこんでいる」
 道理で最近クリプトクロムがざわつくわけだ、と僕は思った。
「アダゲル星人は第七銀河でも良識ある民族だ、何も心配はいらないだろう」
「そう、私たちは争うためにこの星にきたわけじゃない。でも〝彼ら〟はどうかしら」
「彼ら?」
 早川水桜がまっすぐ僕の目を見た。
「プクラス星人よ」
「プクラス──。彼らもきているのか」
 彼女は小さく肯いた。プクラス星人とは僕らの故郷、第四銀河で一番好戦的な戦闘種族だ。獣人型の宇宙人でとにかく闘うことが好きな彼らは時として無抵抗な異星人さえもターゲットにする。星に攻めこみ、虐殺し、あらゆるものを破壊して、すべてを血の色に染めるのだ。
「もし十人以上きていたら、この星は終わるわ」
 背中を寒気が駆けた。プクラスによって荒廃した世界が頭をよぎる。
「どうして地球(このほし)なんだ?」
 そういうと、彼女が不思議そうな顔をした。
「この星の文明ははっきりいって凡庸だ。同じ種族が殺し合いをしている有様で、稚拙を通り越して溜息が出る。いくら戦闘を好むプクラス星人でも歯牙にもかけないだろう」
「好物があるからよ」
「好物?」
「プクラスは動物の死骸を好んで食す」
 脳裏に幼い頃の記憶が蘇った。満開の桜並木、むせ返る腐臭、犬の死骸。十年前の光景。
「KG事件──、か」
 早川水桜が口端で笑んだ。
「ご名答。現在この街を騒がせている事件はプクラス星人の仕業なの」
 目撃者もなく、幾度も傷つけられる動物たち。彼らの仕業だとすれば納得がいく。
「ほうっておけば彼らは地球に存在する動物を駆逐する。その矛先が人間に向けられるのも時間の問題ね」
「解決策はないのか?」
 彼女が僕を見た。宇宙人らしい強い眼差しだ。
「生贄を差し出すの」
「生贄?」
「AAA-(トリプルエーマイナス)のクリプトクロムを持つ人間」
 AAA-型。十億人にひとりの割合で存在するクリプトクロム。ジグド星人は全体で二千人ほどの少数民族だから出会ったことはないが、以前文献で読んだことがある。この星には七十億の人間がいる。計算上では七人いるはずだ。
「彼らは、そのクリプトクロムを持つ人間を探している。理由はわからないけれど」
「探す手立てはないのか。このままじゃ地球が危ない」
「この星にはあと一人いるわ」
「あとひとりだって?」
「既に六人は殺害された」
 早川水桜は蒼穹を見上げた。ふたつの眼が白く光った。
「この星を亡きものにしようとしている者がいる」
「それがプクラスなんだろ?」
 彼女がゆっくりと首を横に振った。
「首謀者は異星人とは限らない」
「そんな馬鹿な」
「この星には悪意が漂っている。私たちとは違う何か。その黒い想念が異星人を呼び寄せている」
 おとなしい地球人の中にも凶暴な者もいる。しかし、基本的には優しい種族だ。母星を滅ぼすなんて考えるものだろうか。
「疑心している暇はないわ」
「どういうことだ」
「意外と鈍感なのね。ジグド星人のクリプトクロムはそんなものかしら」
「馬鹿にしているのか」
「もっと研ぎ澄ませることね。灯台下暗し、答えはいつだって手の届くところにある」
 遠回しな言い方をする彼女に苛立ちを覚えたが、すぐに考えを変えた。それだけこの星が平和だったのだ。僕は地球(ここ)で十年間生きてきた。地球は母星になりつつある。この星の平和を守ることが僕の使命に感じられた。
「あ、奏多! ここにいたッ」
 振り向くと、出入り口から沓子がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「次の作戦を立てたの。聞いてくれる?」
 返事をすると、沓子は早川水桜を一瞥した。彼女は薄く笑んで、また空を見上げた。
「安心して。私と彼は〝合致〟しないわ」
「どういう意味?」
 沓子の問いに早川水桜は答えなかった。微笑むと、そのまま屋上から消えた。
「転入生って変わってる」
 珍しいものでも見たかのように、沓子が出入口に視線を送った。
「作戦を聞かせてくれないか」
 僕の問いに、沓子はインターネットと短く答えた。 
「犯人はネットを使って虐待した動物の画像をアップロードしてる。その出どころがわかれば、きっと犯人にたどり着く」
 ネットに詳しい人物に心当たりがあった。問題は〝僕のいうことを聞いてくれるか〟どうかだ。しばらく思考して、僕はいった。
「専門家(スペシャリスト)に相談する」
「スペシャリストォ?」
 沓子が場違いな声を上げた。
「犯罪心理に詳しくて聡明な人物さ。僕の頼みは聞かないが、きみが懇願すればきっと動いてくれるはずだ」
 そこまで話して、僕は歩き出した。
「あたしの知ってるひとなの?」
 足を止め、息を吐いてからふりかえった。
「妹の乃絵瑠(のえる)だよ」

 ○●○●

 地球上には踏み入ってはならない場所がある。
 たとえば火山ガスが大量に溶けこんだイジェン湖や、複雑に入り組んだ世界最深のクルベラ洞窟、日本だと青木ケ原樹海などが有名だ。
 そして、それは僕の家にも存在する。
「何か飲み物ないのかよォ。のど渇いたァ」
 妹の部屋の前で緊張していると、令介のだらしない声が飛んできた。
「冷蔵庫にコーラがあるから勝手に飲んでくれ」
 気を取り直して軽く咳払いをした。宇宙人である僕が唯一怖れる生物、樋口乃絵瑠がこのドアの向こうにいるのだ。
 意を決して、ドアを二回ノックした。
「乃絵瑠、ちょっといいか」
 返事はない。予想はしていた。妹は引きこもりだ。五年前、十歳の誕生日を迎えた朝から自室にこもるようになった。
 思春期によくある精神バランスの崩壊なのか、怠惰の延長なのか詳しい理由はわからない。しかし、ひとつだけ確かなことがある。彼女は賢すぎたのだ。
「最近、この街で動物虐待事件があったのは知っているだろ? そのことで友達が訊きたいことがあるらしいんだ」
 あえて友達からの質問だということを強調した。妹は僕のことを極端に嫌っている。何をしたというわけではないが(自分が気づかないだけで〝何か〟をしてしまった可能性はある)まともに口を聞いてくれるのは年に数回しかない。もう一度ノックをしようとすると「なに?」という声が返ってきた。どうやら今日は年に数回あるうちの一回だったようだ。
「訊きたいことがあるんだ、出てきてくれないか」
 短い沈黙のあと、ドアが開いた。
「いま忙しいのに」
 甘い香りとともに乃絵瑠が部屋から出てきた。
 引きこもりなのにさらさらの髪がリビングの光を跳ねかえす。長いあいだ太陽を拒絶した肌は雪のように真っ白で、双眸は吸いこまれそうなほど澄んでいる。
 妹は美人だ。地球人の好む美的感覚はよくわからないが、ジグド星人でもそう思うのだからこの星のオスには魅力的に映るだろう。
 沓子に気づくと、乃絵瑠は小さく会釈をした。その様子を見ていた令介が僕の袖を引っ張った。
「妹いるなんて聞いてないぞ」
「いってない」
「めちゃくちゃ可愛いじゃん、紹介しろよ」
 まとわりつく令介を引き剥がしていると、乃絵瑠は億劫そうにテーブルの前に座った。
「さっそくだけど今回の犯人についてわかることを教えてくれないか」
 そう切り出すと、沓子と令介が姿勢を正した。
「知ってどうするの?」
 乃絵瑠の大きな瞳が僕たちに向けられる。
「犯人を捕まえる。か弱い動物をいじめるなんて許せない」
 乃絵瑠の小さな体から掴めそうなほどの気怠さが発せられた。〝スイッチ〟が入った証だ。
「エセ正義は周りに迷惑がかかるだけ」
「そんなんじゃない、わたしは本気で助けたいと思ってる」
「助けたい? 何を?」
「だから犬や猫たちを──」
「五万五千九百九十八」
 乃絵瑠の吐き出した数字に沓子は眉を寄せた。
「去年保健所が殺処分した犬猫の数。罪もない動物の命がこうしてるあいだにも消えてる。まずはそっちをどうにかしたほうがいいんじゃない?」
 正論という刃が沓子に突き刺さる。それは僕も思っていたことだった。
 地球人はとかく感情に流されやすい。見えないところで行われている殺処分よりも見えている事件が大切で、その渦中に加わろうとする。痛いところを指摘されて沓子は口を噤んだ。
「でもよ、ほうっておいたらもっと動物が死ぬんだぜ? 犯人を逮捕することは悪いことじゃないと思うけど」
 令介が気色ばむ。これも正論だ。感情に流されやすい生物だからこそ他者の痛みもわかるのだろう。地球人はそうして繁栄してきたのだ。
「真実を知る良い機会だと捉えることもできる。この事件をきっかけに普段犬や猫がどういう処遇を受けているのか、少なくとも僕たちは知ることができた。問題はそれらを知ったあとどう行動するか、だと思う」
「つまりお兄ちゃんは街の動物たちを救いたいってことね」
「もちろんだ。そのために乃絵瑠に頼んでいる。きみの力が必要なんだ」
 乃絵瑠が見下すようにこちらを見た。ひどく冷めた眼差し、宇宙人の僕でもこんな眼はできない。彼女のいいたいことはわかる。この程度の事件なら自己解決できる問題だ。クリプトクロムを最大限活用し、アンテナを張ればそのうち犯人の波動をキャッチできるかもしれない。しかし、この星であまり目立つようなことはしたくない。目立てばだれかの記憶に残る。噂が人から人に移り、そのうち僕が宇宙人であると感づく者が出てこないとも限らない。現に沓子は疑いはじめている。
 懸念していると、乃絵瑠が口を開いた。
「容疑者を特定するのはそこまで難しいことじゃない。第一の発信場所はもうわかってる」
 ふたりが驚いて乃絵瑠を見た。彼女は前髪をかきあげて続けた。
「ハッキングしてメインコンピュータにアクセスしたの。今時、簡易なファイアウォールだけなんて危機意識が低すぎるわ」
「ハッキングとか犯罪じゃないのかよ」
 そう叫んだ令介を、乃絵瑠は冷ややかな目で見た。
「意外と良い子ちゃんなんですね」
「喧嘩売ってるのかよ」
「綺麗事だけで世界を変えることは不可能だといってるの」
「犯罪してまで変えたいとは思わねえよ」
 緊迫した空気に胸中で溜息をついた。ここで争っている場合ではない。 
「場所はどこなんだ?」
 僕が訊ねると、乃絵瑠は気だるそうに髪をいじった。
「聖凛学園高等部」
「それって、俺たちの学校じゃないかッ」
「信じられない。私たちと同じ学校に通う生徒がそんなことするなんて」
 ふたりの言葉を聞いて乃絵瑠が息を吐いた。
「他人の深部なんて誰もわからない。日向のような場合もあれば、極夜のような場合もある」
 そういうと乃絵瑠は立ちあがり、
「私にできることはここまで。あとはお兄ちゃんたちで解決してね」
 長い髪を揺らして自室に戻っていった。
 身近な人物が犯人かもしれないという事実にショックをうけたのか、ふたりは無言だった。僕はキッチンに歩き、食器棚からグラスを三つ取り出してアイスティーを注いだ。テーブルに戻ると、沓子が何かを決意したような顔で呟いた。
「虐待犯がたとえクラスメートだったとしても、私は犯人を捕まえる。捕まえなきゃいけないんだ」
「これからは学校も見張ったほうが良さそうだな。奏多はどう思う?」
 四つの目が僕に向けられた。正直、これ以上事件にふたりを巻き込みたくはない。しかし、手を引けといったところで撤退するような性格ではないし、何より疑念が残る。どうするべきなのか、短い時間考えた。
「ふたりの意見には賛成だ」
「ずいぶんと含んだいいかただな」
「周囲に気づかれずに監視し、犯人を検挙する。本当に僕たちだけで可能だと思うか?」
「やってみなければわからないじゃない。弱気になるなんて、あなたらしくない」
 沓子の双眸(め)の色が一段と強くなった。僕は溜息を吐いて視線を逸らす。じゃあ、どうするんだよ。令介の諦観を含んだ声が飛んできた。
「僕に任せてくれないか。きっと悪いようにはしない」
 ふたりは納得がいかないのか、すぐに反論してくる。
「三人でも不可能なのに、尚更ひとりでできるわけないじゃないッ」
「俺たちを信用してないってことかよ」
 首を振り、ふたりを見つめた。
「信用しているからこそ、信じてほしいんだ」
「信じてる。だから皆で虐待犯を捕まえようっていってるんじゃない」
 沓子が負けないくらい強く、僕を見返した。
「命の危険が伴っても、か?」
 僕は訊いた。令介が唾液を飲み込む。沓子は当然のように肯いた。やはり引く気はないようだ。しかたない。観念して口を開いた。
「わかった。だけど、これだけは約束してくれ。身の危険を感じたら即座に逃げる。優先するのは自分の命だ」
 ふたりがオーケイと呟いた。この星にはもう長く居られないかもしれない。そんな思いが不意に脳裏を過ぎった。

○●○●
 
 深夜の学校は昼間の喧騒が嘘のように静かだった。消灯したメディアルーム、沈黙した三十五台のパソコン、正面にある大型スクリーンの下に僕たちは身を潜めていた。
「ねえ、お腹空かない?」
 沓子がバッグからチョコレート菓子を取り出した。
「本当にくるのかよ」
 令介が菓子を受け取りながら呟いた。
「乃絵瑠の話によれば、犯人はこの場所から三日置きに虐待画像を発信している。前回の発信が二日前の火曜日。ルーティーンから推測すると、今夜が該当する」
「息を潜めていれば、かならずくる」
 何か最近隠れてばかりだなァ。そう呟いた令介の言葉に僕は少し笑った。

 しばらくした頃、令介がいった。
「それにしても奏多の妹には驚かされたな」
 疑問符を浮かべると、彼はつづけた。
「不正ハッキングとかよくやるよ。まあ、そのおかげで少しずつ犯人に近づいてるけど」
「それだけ動物たちを助けたいと思っているのかもしれない」
 そういうと、今度は令介が疑問符を浮かべた。
「乃絵瑠が四歳の頃だ。当時飼っていた犬のウルフィーが死んだ」
「わたしも覚えてる。人によく懐いた犬だった。舌を出したあどけない顔と大きな瞳がとても可愛かった。乃絵瑠ちゃん、すごく泣いてた」
 初めて生物の死に触れたからだろう、乃絵瑠は三日間泣いていた。
「どうして生き物は死んでしまうのかと訊かれた。僕は、それが運命だからだと答えた」
「乃絵瑠ちゃんらしい。賢い分、傷つきやすくもあるんだ」
「そのときの悲しみを誰にも味わってほしくないってことか」
 令介は頭を掻いて、「さっき悪いこといっちまったなァ」と呟いた。 
「知らなかったんだ、しかたないさ」
「とにかく一刻も早く犯人を捕まえなきゃ。わたしたちで悲しむ人を最小限に食い止めるんだ」
 睡魔が襲ってきた午前二時すぎ、教室の引き戸が音もなく開いた。黒い影がゆっくりと侵入してくる。緊張からか、ふたりの息遣いが荒くなった。
 侵入者が窓際にあるパソコンの電源を入れた。画面が光り、人影を照らし出す。そこにいたのは担任教師の相葉だった。
 彼は眼鏡の軸を一度触り、慣れた手つきでキーボードを叩き始めた。しばらくして懐から何かを取り出してパソコンに繋げる。小さく電子音がして、マウスを動かす仕草を見せた。作業が完了したのか、二分ほどで相葉がメディアルームをあとにした。足音が遠ざかるのを確認して僕たちはスクリーンの下から這い出た。
 沓子がすぐにパソコンを調べた。検索窓に「動物虐待・KG事件・現在」と打ち込み、エンターキーを押す。トップに新しい画像が更新されていた。日付は三分前になっている。
「そんな──相葉先生が虐待犯だったなんて」
 呻くように沓子がいった。
「まだ先生が犯人だとは決まってないだろ」
 令介の言葉に彼女は短く首を振った。
「更新時間から見ても間違いない。何で先生がこんなことを」
 沓子の指先が震えているのがわかった。僕はポケットからUSBメモリを取り出して画像をコピーする。令介はその作業をじっと見つめていた。
 メディアルームをあとにした僕たちは終始無言だった。身近な人間が犯人だという覚悟はあったが、まさか担任教師だとは思ってもいなかったからだ。
 人間が持つ闇の部分は大きく、そして深かった。どす黒さは際限なく、善の意識までも浸蝕する。
 それぞれの家の中間地点である児童公園で別れたあと、僕は考えたいことがあり、潰れて廃墟と化したスーパーマーケットの屋上に登った。
 前日に雨が降ったためか、所々に水溜りがあった。濡れていない一角に腰を下ろし、夜空を見上げる。空気が澄んでいるのか、普段より星座がよく見えた。今は亡きジグド星の方角に視線を向けた。
 あの時、同胞たちは何人脱出できたのだろうか。故郷を想い、夜空を見上げているのだろうか。
 しばらくすると、不意に発動したクリプトクロムが殺気をキャッチした。地球人のものではない。徐々にこちらに向かってくる。立ち上がり、身構えた。
 黒い影が屋上の縁に現れた。月の光が影を照らす。相葉が薄い笑みを浮かべて立っていた。
「樋口奏多。お前も異星からやってきたのか」
 ふわりと浮き上がると、まるで月面のようにゆっくりと着地した。
「プクラス」
 呟くと、彼は笑みを強めた。
「どうやら事情は理解しているようだな。一緒にこの星を支配しないか」
「ずいぶんと稚拙な発想ですね。ウケを狙ったのなら、やめておいたほうがいい」
 微笑み返すと、相葉の表情が歪んだ。
「そうやって笑っていられるのも流星群がやってくるまでだ」
「どういう意味だ」
 相葉の口端がさらに歪んだ。
「我々は特殊なクリプトクロムを探している。AAA-型だ。この型を持つ者は義憤にかられ易い。既にいくつかの候補が出揃った」
「そのために動物の一部をインターネットにあげたのか」
「どうだ、お前も協力しないか」
「嫌だといったら?」
「きみに拒絶する権利はない」
 相葉が、ゆっくりと夜空を見上げた。
「人身供犠という言葉を知っているか? 神仏に人間を捧げる、生贄のことだ」
 黒光りする双眸を見つめた。悪意が手に取るようにわかる。寒気がした。
「流星群が飛来する日、我が同胞がやってくる。この星を根城にするためだ。地球に潜り込んで十年、ようやく計画が完了する」
「地球を食い物にしようというのか」
 僕は身構えた。拳に念波を集約させる。相葉が嘲笑を浮かべた。
「抵抗しても無駄だということがわからないとは滑稽だな。もう遅いのさ、プクラスの思想から逃れることはできない」 
 全力で床を蹴った。間合いに侵入すると渾身の右拳を相葉のボディーに向かって繰り出した。しかし手応えはなく、相葉が宙へ飛んだ。一回転し、着地するやいなやものすごい速度でこちらに突進してくる。ガードも間に合わず、吹き飛ばされた。
「ジグド星人程度の戦闘力では到底勝てんよ。寄らば大樹の陰、この星には良い言葉があるじゃないか」
 腹部を押さえ、歯を食いしばりながら立ちあがった。
「計画とはなんだ? 何をしようとしている?」
「きみには関係ないことだ。お前にできることは我々の手足になるか、ならないかだ」
 相葉が構えた。濃密な殺気が全身から放たれる。プクラス星人の強さは尋常ではない。どう逃走するか算段した。
 相葉がゆっくりと間合いを詰めてきた。緊迫感が体を包み込む。十年前、ジグド星が爆発したあの日。脱出を試みた際の光景が脳裏を過ぎった。
 空気が刃物のように尖った刹那、相葉のスマートフォンが鳴った。彼は画面を一瞥し、口元をゆるませた。
「ようやく見つけたぞッ、あの女がそうだったのだッ」
 相葉はそう叫んで宙に浮いた。
「深山沓子ッ七億人にひとり、AAA-の持ち主だッ」
 体の内側に衝撃が走った。相葉は高笑いを響かせて屋上から飛び降りる。驚きを抱えたまま背中を追った。床を蹴り、コンクリートの縁を飛び越え、深夜の冷たい地面に着地する。クリプトクロムを限界まで上げて彼の波動を探った。
 夜気に混じった殺意が皮膚を刺す。そう遠くまでは逃げていないようだ。流れてくる波動に向かって全力で走った。路地裏を抜け、他人の庭を突っ切り、大通りへと躍り出た。
 もう一度クリプトクロムを研ぎ澄ました。遠ざかる相葉の波動、その近くに沓子の波動を感じる。まずいッ。彼女の寝室に忍び寄る相葉の姿が頭蓋に浮かんだ。くそったれ──。念波を両拳に集約させ、思い切り前方の空間に放った。瞬間、景色が歪み、時空に穴が開く。地面を蹴って中心に飛び込んだ。テレポーテーション。眼前に沓子の寝室が現れた。
「やめろッ」 
 相葉が冷笑を浮かべ、部屋に侵入する。急いで地面を蹴った。柵を乗り越え、沓子の部屋のベランダに降り立つと窓を開けた。
「奏多──」
 ベッドの上にいる沓子の後ろに相葉が立っていた。その首筋に鋭利な刃物があてがわれている。冷徹な眼が僕に向けられた。
「動くな。微動だにしたら、この女の首を撥ねる」
「AAA-のクリプトクロムが必要なんだろ?」
「無論」
「死体では意味がない。違うか?」
 問うと、彼は口端を歪ませて笑った。
「安い駆け引きだな。私が殺さないとでも思っているのか?」
 相葉が右手を振り上げた。畜生──。念波を掌に集めて飛び込んだ。金属音が薄暗い部屋に響き、次いで舌打ちが聞こえた。気絶した沓子を抱きかかえ、窓から脱出を試みる。刹那、敵の咆哮が木霊した。ベランダに出た瞬間、視界に違和感が走った。
 緋く焦げた世界、だだっ広い空間にクレーターのような穴が点在している。溶岩の川が流れ、稜線鋭い山が正面に三つ聳え立っている。まるで行く手を阻んでいるかのようだ。
「ここはいったい──」
「君の墓場さ」
 呆然としている僕の背後で声がした。振り向くと、相葉が鬼のような形相で立っていた。
「計画の邪魔をする者は排除する。たとえ、それが同じ異星人でも」
 体から濃密な殺気が放たれた。咆吼したかと思うと、一気に間合いを詰めてくる。舌打ちをしてサイドに躱した。
 とにかく逃げることだけに集中した。攻撃すると見せかけて体を反転させる。赤土の地面を無心で蹴った。広がる荒野、隠れる場所はない。それでも足を動かした。
 クレーターを迂回し、近くにあった岩場に身を隠した。心臓が激しく脈を打っている。沓子は変わらず気絶していた。額に口づけをして、強く抱きしめる。彼女を死なせるわけにはいかない。
「逃亡は終わりか?」
 頭上で声が響いた。相葉がこちらに向かって腕を突き出す。まずい──。そう感じた刹那、掌から高エネルギー弾が排出された。くそったれ。胸中で吐き捨てて、右拳に念波を集中させる。叫びながら全力で殴打した。瞬間、爆発音がして眼前が白く染まった。発生した爆風に激しく飛ばされる。赤土に背中から落下した。
「プクラスは戦闘民族だ。ジグドの肉体ではこらえきれんさ」
 痛む体で沓子ににじり寄った。すぐに心音を確認する。かすかだが、鼓動が確認できた。生きている。
「他人の心配より己の今後を考えたらどうだ? 隙だらけだぞ」
 その声が耳朶を揺らした。視線を振り向けた途端、顔面を殴打され、血の味が口中に広がった。
 死の味だ。紛れもない死の味だった。痛みで霞んだ視線で敵をにらんだ。
「覚悟の時だ、樋口奏多。この星は我々プクラスのものだ」
「ふざけるな。僕らのような余所者が支配していいわけがない」
「ずいぶんと肩入れしているな。理由はなんだ?」
 相葉が嘲笑を浮かべた。沓子を傍らに寝かせ、僕は身構えた。
「感謝だ。故郷を失った僕を地球人は受け入れてくれた」
 そういうと、彼が声を出して笑った。
「正体を隠しているのにか? 知っているぞ、ジグド星人の容姿はひどく醜怪だということを」
 そのとおりだ。僕たちは醜い。皮膚はどす黒く、目は小さく釣り上がり、口は蟹をひっくり返したような形をしている。八十年代に放映された外国映画、地球を侵略しようとした悪役のエイリアンにそっくりだ。
 だけど、それがどうした?
 クリプトクロムを可能な限り研ぎ澄ました。すぐに周囲の空気が震えだす。目の前の敵を倒す──。全細胞がそのことだけに集中した。
 咆吼して地面を蹴った。拳を握り、敵のボディー目がけて渾身の右を繰り出した。相葉が苦悶の表情を浮かべて呻いた。下がった顎に向かって左拳を打ち込んだ。鈍い衝突音が響いて相手の体が後方によろめいた。
 好機。大腿四頭筋を収縮させ、中空へ飛んだ。限界まで高めた念波を解き放つ。鋭利な風が吹き、相葉の着ていたスーツが裂けた。今度は念波を指先の一点に集中させ、レーザーのように撃ち込んだ。蒼い光線が胸を貫き、敵が呻いて膝をついた。
「まだ死にたくはないだろう? さあ、僕たちを元の場所へ戻すんだ」
「青二才のガキが──。勝ったと思うなよ」
「教師にしては口が過ぎるな。とうとう本性を表したか」
 相葉の双眸にふたたび殺意が宿った。上着を脱ぎ捨てると激しく咆哮する。体からどす黒い闘気が発せられた。
「プクラスの真の恐ろしさを教えてやる。後悔はあの世でするんだな」
 一定の距離をとって僕は構えた。地球に不時着してから今までのことが走馬灯のように頭蓋を駆け巡った。この星を護る──。自分の命にかえても。
 眼前にいる敵をにらみ、叫んだ。十年間封印していた真の姿が徐々に露呈されていく。敵がこらえきれないという感じで肩を震わせた。
「やはり醜怪だな。その姿で地球人が受け入れてくれると思っているとは滑稽だ」
「あなたは地球人の懐の深さをわかっていない。彼らは自分の弱さを知っている。本当に強い者とは弱さを乗り越えた者だ」
「どんなに詭弁を用いようと何も変わりはしない。お前はここで死ぬんだからなァ」
 刹那、相葉が地面を蹴った。凄まじい速度、一瞬にして間合いに入り込まれた。唸りを上げた拳が右頬を掠めた。
 後方に飛んで距離をとる。痛みで視界が歪む。前方に視線を這わしたが敵の姿がない。
「馬鹿め、後ろだッ」
 振り向いた瞬間、巨大なエネルギー弾が飛んできた。ガードも間に合わず直撃する。衝撃で五メートルほど飛ばされた。
「弱い、弱いねェ。所詮、虚弱なジグド星人がプクラスに歯向かうべきではなかったんだよ」
 嘲笑を浮かべて右腕を高く上げた。すぐに掌が光りだす。攻撃がくる──。クリプトクロムを上昇させ、身構えた。
「喰らえッ」
 腕を振り下ろした。光弾が飛んでくる。咆吼して拳を放った。触れた瞬間、光弾が炸裂した。焼けるような熱風、右手の皮が削がれ、血が噴出した。
「死が現実味を帯びてきたな。どうだ、恐ろしいか?」
「プクラスと対峙した時から感じていた。いや、厳密にいえばそれよりも前。ジグド族は星の爆発で滅んだ。あの瞬間から終焉は始まっていたのかもしれない」
「諦観か」
「覚悟さ」
 気合いとともに念波を放出した。稲妻のようなエネルギー、周囲の空気がうねり、風が巻き起こる。まだ使っていない能力、僕は命を燃やした。
 重心を落としたあと、思い切り地面を蹴った。間合いに入ると全力で拳を叩き込んだ。分厚いタイヤを叩いたような感触、すぐに右手が痺れた。舌打ちをして続けざまに左を放つ。捉えたと思った。しかし、相葉の体がふわりと宙に浮き、前転すると中空を蹴ってこちらに向かって飛んできた。僕は吼えた。右腕に念波を集めると全力で振り抜いた。目が眩むほどの閃光、一瞬の時間停止。相葉が苦しそうな声を上げて地面に伏した。咆吼し、拳を弾幕のように繰り出した。
 顔面、鳩尾、すべての急所。これ以上叩く場所がないというほど殴った。骨や内臓が壊れていく感触が拳を蹂躙する。微かに漂う血の匂い、体の熱、激しい呼吸音。酸素不足なのかめまいがして地面にへたり込んだ。周囲の景色が徐々に歪み、元の世界に戻っていく。
 沈黙した敵を見つめ、僕は静かに泣いた。

○●○●

 帰還して一時間が経った頃、沓子が目を覚ました。僕の本当の姿を見ると一瞬表情をこわばらせたが、すぐにいつもの彼女に戻った。
 僕はすべてを話した。故郷であるジグド星が隕石衝突により消失したこと、偶然地球に不時着したこと、異星人がこの星を支配しようとしていること。沓子はうつむいたまま、黙って聞いていた。
「驚いただろう?」
「少し、ね。でも予想はしてたから」
 沓子は立ち上がり、自室の窓を開け放った。ぬるい風が頬に当たる。
「奏多は──、本当の彼はどうなったの?」
 僕は口を噤んだ。話すと沓子を悲しませてしまう結果になる。沈黙が重くのしかかった。
「まさか、食べたの?」
「僕にカニバリズムの趣味はない」
「話して」
「だが」
「覚悟はしてる。お願い、話して」
 短い逡巡のあと、僕は口を開いた。

 あれは地球に不時着して八日目の夜のことだった。食べ物が見つからず、ストレンジャーの脇で息絶えそうになっていると野犬の群れに襲われた。空腹と不意打ちに遅れをとり、僕は深手を負った。念波を放って何とか追い払ったが、死期が間近なのは明白だった。
 死にたくない──。地面を這いずり、気づけば空き地の外まできていた。地球人に見つかれば処刑されるかもしれない。そう考え、それまで身を隠していたが迫り来る死が体を突き動かした。
「ねえ、きみどうしたの?」
 あどけない声がして、僕は動きを止めた。かすむ目を凝らすと、同じくらいの年齢の男の子が不思議そうにこちらを見ている。地球人だ。念波を出そうと試みたがうまくいかない。血を失いすぎたのだ。
「けがしてるッ、ちょっとまってて」
 男の子はそういうと、ポケットからハンカチを出して傷口に宛てがった。
「僕が──、怖くないのか?」
 彼は少し考える素振りを見せてから頷いた。
「ぜんぜん。だって、きみも子どもでしょ?」
 そういって彼は屈託なく微笑んだ。
 手当てが効いたのか、僕は一命を取り留めた。彼は樋口奏多といい、近所に住む七歳の男の子だった。奏多は心優しい少年で、困っている僕に食べ物まで分けてくれた。
「どうしてあの時、あの場所に?」
 傷口が完全に癒えたある夜、僕は訊いた。奏多はいつかのように微笑み、
「りゅうせいぐんをみようとおもったんだ」
「流星群?」
「ながれぼしが、たくさんやってくるらしいんだ」
 ふたりで夜空を見上げた。曇っていたせいで星は見えなかったが、奏多の瞳は満天の星よりも輝いていた。
「奏多は、宇宙に興味があるのか」
「おとうさんにあいたいんだ」
「お父さん?」
「いちねんまえ、びょうきで死んじゃった。人は死んだらほしになるんだっておかあさんがいってた」
 僕の両親は星の爆発で死んだ。恐怖や焦燥感を思い出して体が震える。僕と奏多は境遇が似ていた。
「きみもいっしょにみようよ。おとうさんとおかあさんに、きっとあえる」
 僕たちは互いに肯き、微笑んだ。地球に不時着して以来、初めて感じた安息だった。地球という星も悪くない、そう思っていた。しかし、安息は長く続かなかった。
 小糠雨が世界を濡らした日、事件は起きた。
 けたたましい犬の鳴き声で僕は目を覚ました。ストレンジャーを飛び出すと奏多が野犬の群れに囲まれていた。
「奏多ッ!」
 彼は弱々しい視線を僕に向けた。今にも泣き出しそうな顔、薄い唇は震えている。一頭が唸り声を上げて奏多に飛びかかった。無我夢中で地面を蹴った。
 すんでのところで回り込むと、手刀で野犬を叩き落とした。ギャンという短い悲鳴。触発されたのか、ほかの犬たちがいっせいに吠え出した。普段と違う様子に脈拍が速まった。
 奏多を後ろに立たせ、僕は身構えた。恐怖からなのか、べっとりとした汗が全身から噴出す。距離に注視しながら腰を深く落とした。
 短く息を吐いた瞬間、左右にいる野犬が飛びかかってきた。両の掌に念波を集めて弾き返す。それを皮切りに他の犬たちが狂ったように襲いかかってきた。
「このままじゃダメだ。奏多ッ逃げるぞ!」
 いうなり彼の手を取って走った。水たまりを躱し、柵を飛び越え、雑木林の中に飛び込んだ。
「ぼくたち、死んじゃうの?」
「馬鹿いうなッ、死ぬわけないだろ。奏多は──、僕が護る」
 奏多を抱えたまま、目の前の樹によじ登った。安堵した顔をする奏多を見つめながら最善策を考えた。僕一人なら木から木へ飛び移れる。しかし、二人となると──。思考を野犬の咆吼が遮断した。
 樹木の下、涎をたらした犬たちがうろついている。焦るばかりで妙案は生まれない。心情を察したのか、奏多が弱々しい声を出した。彼の頭を撫でて、眼下にいる野犬たちを強く見た。樹上に奏多を残し、意を決して野犬の群れに降り立った。
 轟く咆吼、熱を帯びた殺気、饐えた獣のにおい。震える足で身構えた。野犬たちが体勢を低くする。複数の黒い眼がぎらりと光った。
 拳を握った刹那、前列の犬たちが唸り声を上げてかかってきた。躱す間もなく、手足に噛みつかれる。刺すような痛みが跳ね、肉が裂けたのがわかった。叫んで振り放し、高めた念波を野犬に向かって撃ち込んだ。一番手前にいる一頭に当たり、断末魔のような鳴き声とともに後方へ吹き飛んだ。続けざまに放つと群れが割れて道が現れた。いまだッ。その空間に向かって走った。
「そこにいろ! かならず助けに戻るッ」
 予想通り、野犬たちが僕の後を追ってきた。湿った腐葉土、むき出しの根、朽ちかけた看板。地面を蹴る足音と野犬の呼吸音が重なる。多勢に無勢、一頭一頭闘える場所が欲しい。しばらく走ると金網フェンスが見えた。両サイドに大木が佇立している。フェンスを背にして構えた。先頭の犬が牙を剥いて飛びかかってくる。急所をガードしながら拳を叩き込んだ。一頭倒すと次々に襲いかかってくる。息を詰めて拳を繰り出した。
 残りの数が片手で数えられそうになった頃、悲鳴が聞こえた。奏多の声だ。野犬を飛び越え、声のした場所に駆けた。 
 二股に分かれた大木の脇。奏多が立っており、周囲に三頭の野犬が今にも飛びかかりそうに唸り声を上げている。刺激しないようにゆっくりと近づいた。
 腐食した枝を踏んだ音で後方の犬がこちらを向いた。立ち込める殺気、振り払うように足を動かした。掌を開き、念波を野犬の胴体に放つ。もう一度繰り返して奏多を手前に引き寄せた。
「馬鹿ッ、何で降りてきたんだ!」
 野犬たちをにらみながら叫んだ。奏多は僕の腕を掴んで震えている。出かかった次の言葉を飲み込み、クリプトクロムを研ぎ澄ました。とにかく、この現状を打破しなければ──。覚悟を決めて低く身構えた。
 間合いを詰めようと踏み出したとたん、野犬が弾かれたように飛んできた。ミサイルのようなスピード、ガードした腕にぶち当たって体勢が崩れた。視線を振り戻すと、手前の一頭が消えている。頭上、殺気を感じて視線を振り上げた。夕闇に野犬のシルエットが溶け込んだ。気づいたときには遅かった。鋭い牙が喉元を掠めた。
 焼けるような痛みに思わず手で押さえた。ガードが疎かになった脇腹、別の野犬が突進してくる。体を捻ったが間に合わず、衝撃で何本かの肋(あばら)が折れた。
 痛みで目が霞む。意識を失うわけにはいかない。奏多を──、彼を護らなければ──。
 焦らすように野犬たちが間合いを詰めてくる。呼吸するたび腹部に激痛が走る。歯を食いしばり、意識を繋ぎとめた。
 二頭が地面を蹴った。視界に獣の輪郭が溢れる。右から来た一頭は防いだが、もう一頭の攻撃を受けて僕は倒れた。まずい──。起き上がろうとした瞬間、黒い影が飛んできた。急所を守ろうとしたが痛みで腕が動かない。首筋に生暖かい息がかかった。恐怖で体が強ばった。劈くような野犬の怒号が響く。死んだと思った。複数の牙が突き刺さり、肉を削ぎ、神経を分断する。そう思った。
 だけど、僕は生きていた。目を開けると奏多が僕に覆いかぶさっていた。
「奏多ッ!」
 叫んで抱き起こした。指先に嫌な感触があった。恐る恐る視線を下げた。触れた首筋、鮮血があふれてシャツを赤く染めている。信じられなかった。
「そんな、どうして──。どうして、僕なんかを庇ったりしたんだッ」
 奏多が薄く目を開けた。ふたつの目は弱々しく光を弾いた。
「と、ともだち──。きみは、たいせつな──、ともだち、だから」
 双眸から涙が溢れた。胸が張り裂けそうなほど痛い。脈が乱れ、荒れ狂う。死なせたくない。死んじゃだめだ。生きろ、生きろ、生きてくれ──。
「りゅうせいぐん──、み、みたかった。きみと、いっしょに──」
 奏多は微かに口元だけで笑うと、もうそれきり動かなかった。
 僕は叫んだ。喉から血がにじむほど咆吼した。心優しく清廉な少年が、なぜ死ななければならないのか理解できなかった。
 畜生──。吐き捨てて、野犬たちに念波を放った。劈く咆吼、手に残る感触、血のにおい。すべてが不快だった。
 無我夢中で念波を繰り出し、どうにか追い払った。倒れている奏多を抱きかかえた。まだ温かい。涙を拭い、森の中を歩いた。
 しばらく行くと開けた場所に出た。風が流れ、雲が霧散し、夜空がよく見える。南東の空から一筋の淡い光が降ってきた。
 柔らかい土の上に奏多を寝かせ、僕たちは流星群を見上げた。

 話し終わると、僕は小さく息を吐いた。隠していた真実、十年間は長いようで短かった。
「なぜ、奏多になりすましたの? 保身のため?」
「彼を忘れないためだ。異星人の僕を差別することなく接してくれた。それに、奏多の母親を悲しませたくなかった」
 樋口家は奏多と妹、そして母親の三人家族だ。奏多がいなくなれば、また大切な家族を失うことになる。その辛さは僕が誰よりも知っていた。
「騙していてすまなかった。でも、悪意があったわけじゃない」
「わかってる。あなたはそんな人じゃない」
 礼をいい、僕は立ち上がった。窓際まで歩き、ベランダに出る。どこへ行くの。沓子の呼び止める声が聞こえた。
 彼女を一瞥して、夜空を見上げた。あの時と同じように流星群が夜を支配しようとしている。
「また、闘いが始まるのね」
「三十分経っても僕が戻らないときは早川水桜を訪ねるといい。きっと、力になってくれるはずだ」
 手摺りに手をかけた。待って、と沓子の声が響く。彼女は学習机に近づくと引き出しを開けた。
「武運長久のお守り。持っていると、かならず良い結果が出たの。覚えてる? わたしが大事にしてる物だよ」
 受け取り、大切にポケットに仕舞った。天頂から放射状に流星が飛び始めた。時間だ。
「僕の本当の名前はアジョーダ・ヌクトマル・チャケル。ジグド星の言葉で屈しない強い心という意味だ」
 流星群を見つめ、そう呟いた。

エスケープ!ストレンジャーズ!(95枚)

執筆の狙い

作者 椋丞
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宇宙人ものです。
エンタメとして面白いか、最後まで違和感なく読めるものになっているのか知りたいです。
その他、お気づきになった点がありましたらコメント頂けると幸いです。
95枚と長めですが、忌憚のないご意見ご感想を宜しくお願い致します。

コメント

夜の雨
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導入部の頭を過ぎたあたりから、違和感だらけです。ちなみに、設定いかんで、簡単に修正できるので、その対策も書いておきました。

>宇宙人ものです。
エンタメとして面白いか、最後まで違和感なく読めるものになっているのか知りたいです。<
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
主人公が7歳で、地球にやってくるところから違和感ありです。
下記、『  』で、囲んであるところが、違和感あり。
初めてきた地球で「野犬」「猫」「コンクリート」「水」と地球のことが、普通にわかっている。
また「スズムシ」については、政府中央図書館にある異星生物図鑑(二万ページ)で読んだことがあった。
など、現在の人類よりもかなり発達しているであろう、惑星から来たはずなのに、科学的でない。

政府中央図書館にある異星生物図鑑(二万ページ) ←たとえば、これらの情報はコンピューターの中に蓄積されており、その「端末とある装置で接触する」と、一瞬で莫大な情報が脳にインプットされるとか。(または、体の中に情報保管チップを埋め込んで置き、そこに膨大な情報を蓄積して、脳に必要な情報をいつでも伝達できる事にしておけばよい)。
わかりやすく言うと、コンピューターからコンピューターにコピーする要領と同じなので、情報は一瞬で人間へと受け渡しできる。
覚える必要はない。
というような「設定」にすればよいと思います。
だから上に書いた、そのほかの「野犬」「猫」「コンクリート」「水」という地球の情報も、すでに知っていたということになり、御作を違和感なく読み進めることができると思います。
地球に着陸したときに、シェルターの中で「完全適合で、星と同じ環境で、安全です」と、機器からの情報が入り、降り立った主人公は、周囲を見渡し、「太陽系、第三惑星か……」と、つぶやけばよい。
空腹についても、サプリメントのような錠剤を一粒呑めば、すべての栄養を補給できるという設定にするとよい。

    ↓ ↓ ↓ ↓

 どれくらい宇宙を彷徨っていたのか、気づくと遥か彼方の惑星に不時着していた。こわばる手でハッチを開けると、生ぬるい風が頬をかすめた。
 夜なのかひどく真っ暗で、『遠くで野犬が鳴いている。』草地へ降り立つと、妙な音がして反射的に身構えた。暗闇から鈴の音のようなものが断続的に聴こえる。しばらくそのままでいたが、あることを思い出して構えを解いた。『おそらくスズムシというやつだろう。実際に見たことはなかったが、政府中央図書館にある異星生物図鑑(カバーがミジナオーアという蒼い宝石で装飾されており、二万ページもある)で読んだことがあった。』
 安堵してストレンジャーに寄りかかると、焦げ臭いにおいが鼻をついた。
 これからどうするべきなのか、夜空を見上げながら考えた。瞬く星たちを眺めていると両親の顔がうかび、不意に涙がこぼれた。
 『星は亡くとも腹は減る。一時間ほど泣き続けたが空腹には勝てず、』食べ物を探すためストレンジャーをはなれた。周囲の建物や『コンクリート』塀の高さから、この星の生物は最大で二メートル足らずだと推測できた。奇しくも僕らと同じサイズだ。
 夜路をいくと塀の向こうから香ばしい匂いが漂ってくる。唾液を飲みこみ、大腿四頭筋を収縮させて『猫のようにジャンプした。』
 明るい室内、テーブルを囲む住人たちが黄土色の液体(まるで排泄物だ)を金属製の器具で口に運んでいる。どうやらあれが食べ物で、この匂いはその異物から放たれているらしかった。
 その光景に愕然とした。この星の住人はあんな下品なものを食しているのか。全身の力が抜け、落下するように塀から降りた。
 ひどく気分が悪い。『吐き気止めの薬を持ってこなかったことを後悔したが、』絶望しかけた心を一縷の望みが繋ぎとめた。この星は故郷と一緒で水も緑もある。』根気よく探せば口に合う食べ物がきっとあるはずだ──。
 結論からいうと食べ物は見つからなかった。夜通し歩きつづけた足は炎症して腫れあがり、川の水を飲んだだけでストレンジャーに戻ってきた。座席に身をたおすと重い疲労があふれてくる。故郷を想い、僕は少しだけ眠ることにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ちなみに、このあと御作がどうなるのか読んでいませんが、上のように膨大なる知識を持っていると、何から何まで主人公である宇宙人の都合よく事が運ぶと面白くないと思うので、御作のストーリーに合わせて、「主人公の宇宙人に都合よく、できない設定にしておけばよいと思います」。

導入部しか読んでいませんが、違和感の指摘と、対策を書きました。
あと、主人公の宇宙人の身代わりになっているAの少年の件は早く書いておいたほうが良いですね。

A>僕は本当の奏多ではない。彼女の息子である樋口奏多は十年前の夏、流星群が夜空を覆ったあの日──。僕のかわりに死んだのだ。<


以上です。

椋丞
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夜の雨様、ご感想ありがとうございます。

>初めてきた地球で「野犬」「猫」「コンクリート」「水」と地球のことが、普通にわかっている。

この部分は地球に来て十年経過している現在からの回想シーンのつもりで書いたのですが、力不足でわかりづらくなってしまったようですね。ご指摘頂いたアドバイスを元に書き直してみます。


>あと、主人公の宇宙人の身代わりになっているAの少年の件は早く書いておいたほうが良いですね。

そのシーンは終盤に持ってきてしまったのですが、そのほうが良いでしょうかね?
謎を含ませておいて最後まで読ませたかったのですが……。今一度考えてみます。

松岡修子
105.250.149.210.rev.vmobile.jp

藤伊ウトイさんの「マーミョン」の感想欄に質問を書きましたのでご回答願います。
御作への感想は後日貼付します。

椋丞
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松岡様へ、ご質問ありがとうございます。藤伊ウトイさんの感想欄が荒れてしまう可能性があるのでこちらでお答え致します。

「おい坂田、二度とあんな馬鹿な真似するんじゃないぞ。お前は成績も良いから、今度やったらどうなるか分かるな?」
「すいません」

上記のやり取りで二人は合意したと判断致しました。その旨を含んでいるのではないかと。
ですので、その後の主人公の行動に矛盾を感じたのだと思います。
これは私の感覚なので、もしかしたら伝わらないのかもしれません。

松岡修子
84.125.148.210.rev.vmobile.jp

ご回答ありがとうございます。

マーミョンの「すみません」という言葉には言外に、
「はい。もちろん僕は馬鹿じゃないから、今度やったらどうなるかくらいちゃんと分かっています。だから二度とあんな馬鹿な真似(先生にカンチョー)はしません。この度は誠に申し訳ありません」
という意味が込められており、マーミョンは先生と「先生には二度とカンチョーしません」という約束を交わした。
とあなたは解釈されたんですね?
つまりそれが「心理的な話」ということですね?

椋丞
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松岡様へ
「二度とするな」という教師の言葉に「(わかりました)すいません」というふうに捉えたということです。
例えばこれが、「成績優秀なお前がこんなことをするなんて、どうなってるんだ!」に対しての「すいません」ならただの謝罪なので合意ではないと思うのです。
その場面を想像した時、○○するなという要求に対しての謝罪は主人公の心の裡で合意を含んでるのではないのかな、と。
言葉や文章で表されていない部分なので心理的と書きました。

最後に藤伊トウイ様の感想欄でつい失礼なことを書いてしまい、申し訳ございませんでした。謝罪致します。

椋丞
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藤伊ウトイ様でした。ごめんなさい。

松岡修子
84.125.148.210.rev.vmobile.jp

返信ありがとうございます。

要約すると、

該当する場面を想像した時、「二度とするな」という教師の要求に対しての謝罪は、主人公の心の裡で合意を含んでるのではないのかと捉えた。つまり約束は成立していると解釈した。

ということですね?

>言葉や文章で表されていない部分なので心理的と書きました。
 つまり、上記のように想像し、解釈したということですね?

松岡修子
59.198.214.202.rev.vmobile.jp

返事がありませんが、「その通りで間違いない」という事だと解釈して話を進めます。あなたのこれまでの主張、それはあなたの勝手な推理に過ぎません。現にその推理は間違ってましたよね? マーミョンはその後何度もやらかしたのですから。

勝手に間違った推理をしておきながら、それを「矛盾」と言うのは、作者に対して失礼な行為です。推理小説作家に、「俺の推理と違う! だからこの展開は矛盾だ!」と難癖をつける読者がいますか?

作者の藤伊さんは何も矛盾したことを書いてません。読者であるあなたが間違った推理をしたに過ぎないのに、それを正しい推理であるかのように勝手に思い込んでしまっているのが間違いなのです。
「矛盾」などと失礼な言葉で作者を侮辱するのではなく、「私はこんな風に推理しましたが、そういうことでしたか! 意外な展開に驚きました」と書きましょう。

私に謝るのは当然のことですが、作者の藤伊さんにも謝っておきましょう。
【過ちて改めざる是を過ちという】

椋丞
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忙しくて中々来れなかったですが、勝手に勝利宣言されても困ります笑
いい年した大人に普通そんな暇はありません。まずあなたの暇さを恥じましょう。
私の言ってることが理解できないのはあなたが鈍いだけなのです。
あの場面で合意を含んでいると感じられないのはそういうことです。
だから私が何度も説明しないといけない笑
あなたの小説もどきを読んだら全て透けて見えます。
そうげん氏も仰っていましたけどね。

椋丞
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松岡氏へ

あなたのような人とはもう関わり合いたくないのでもう絡んでこないでくださいね。年度も説明するの面倒くさいんで笑

椋丞
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訂正>年度も説明するの

何度も

椋丞
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そもそも
返事がない=その通り
なら藤伊氏が私の感想を認めたことになるよね笑

松岡修子
59.198.214.202.rev.vmobile.jp

 素直に負けを認められず、逆上してみっともないですよ? 論点をずらすのも卑怯者の手口です。どんなに屁理屈をこねても無駄です。屁理屈をこねている限り、相手を論破することはできません。なぜなら非論理的だからです。この物の道理を覚えておきなさい。いつまでも幼稚なことを言ってると、人から馬鹿だと思われますよ?
 あなたの口先だけの謝罪の言葉にはなんの価値もありません。誠心誠意謝りなさい。真人間になるチャンスですよ? このチャンスを生かすも殺すもあなた次第です。
 あなたのようような恩知らずには何もしてやりたくはないのですが、せっかく感想を書いておいたので貼付しておきます。

>エンタメとして面白いか、最後まで違和感なく読めるものになっているのか、忌憚のないご意見ご感想を宜しくお願い致します。

 私には面白くなかったです。たくさん違和感を覚えたので気分が萎えてしまって、最後まで読めませんでした。

 漢数字による表記の仕方について勉強しましょう。正解は一つではないので難しいですが、がんばりましょう。
>今から四百二日前、学校が休みの日。
>それから一週間、時間にして百六十八時間と少し。
>「五万五千九百九十八」

以下の文を出しく直しましょう。

>彼女の意思はマッキンリーより高く、ダイヤモンドよりも硬い。

>満開の桜並木の中を帰路していると、道傍に一頭の野犬が息絶えていた。

>彼は眼鏡の軸を一度触り、慣れた手つきでキーボードを叩き始めた。

>「動くな。微動だにしたら、この女の首を撥ねる」

 高校生たちだけで見回りをするという辺りから斜め読みになって、この辺でギブアップしたので以降は読んでません。かなり日本語が苦手なようですね。まずはまともな日本語で書くという努力から始めましょう。人様に喧嘩を売ってる場合ではありません。
 今後は一切、屁理屈禁止です。屁理屈をこねる暇があるなら、日本語の勉強をしましょう。

椋丞
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どうやら図星だったようですね笑
興奮なさっているのか、反論の仕方が他の投稿者様とのやり取りと全く一緒ですね。少し落ち着いてください笑

この小説、いろいろ突っ込みどころはあると思うのですが、その第一声が表記についてですか笑
この時点であなたは小説のことをよく理解していません。もっと小説を読みましょう。そんなだから〝〟はダメとか的外れなことを言ってしまうのです。これはとても恥ずかしいことです。


>まずはまともな日本語で書くという努力から始めましょう。

そうですね。現段階では五大文芸誌の公募で40/1800や20/1500くらいしか残れていないので、もっともっと精進しないといけません。

夜の雨
i223-216-201-83.s42.a027.ap.plala.or.jp

椋丞さん「エスケープ!ストレンジャーズ!」読了しました。

宇宙人ものです。 ←というよりもアクションものです、という感じです。「ドラゴンボール」というアニメがありましたが、あれほど大げさなアクションではありませんでしたが、しっかりとした異星人同士のアクションがあるお話ですね。
「宇宙人」という設定は特に必要ではないと思いましたのは、他の設定にしても、御作は描くことが可能だと思います。
たとえば近未来とかのサイボーグとかロボット、エスパーとかに、人間存亡がかかった戦いになるとか。または、神と悪魔の戦いに主人公たちが巻き込まれるとか。
地球温暖化とかウイルスで人類とか地球の生物が危機に起こたるとか。

ということで、御作は必ずしも、「宇宙もの」にする必要はなかったと思います。


エンタメとして面白いか ←アクション場面はうまいです。そのアクションにつなぐために、人間関係が描かれているのですが、普通に読ませるものになっています。
「普通に読ませるものになっています」というのは、どういう意味かというと、主人公は宇宙から地球にやってきて、同じ年頃の少年と友情を結ぶのですが、野犬に襲われて、少年が亡くなり、主人公が彼に成り代わり、少年の親と一緒に暮らすという話になっていますが、こちらの人間ドラマがほとんどありません。

学校での友情から、同じ異星人との交流や好戦的な異星人との戦いなどが、御作では展開されていきます。 ←どちらかというと、こちらの展開で主人公が自分を育ててくれた地球を守るために好戦的な宇宙人と戦う(アクション)という構成になっています。

エンタメとして面白くするには、人間ドラマをしっかりと設定して、その上に、「アクションが関係する戦いを描く」と、良いのではないかと思います。

御作は人間ドラマの描き方が弱いのではないかと思います。
たとえば主人公(宇宙人)と育ての母(地球人)とか、妹との関係とか。を、日常的なものから、深く描くとか。御作では主人公は交流のあった少年が亡くなり代わりになっているので、そのあたりの心の痛みを描くとか。
だから、少年の死の真相をラストに持ってくるのではなくて、導入部に主人公が宇宙から地球にやってきた後に、「現在の御作のラスト部分のエピソードを展開させる」。そして、引き続き、少年の家庭に入り込む。
そこで、主人公は亡くなった少年の母と交流を持ちながら生活をしていく。そこに妹も絡んでくるとか。こうやると、御作は主人公の心の痛みもすんなりと表現できると思います。

要するに時系列通りに話を構成して、主人公の心と体の成長を描く。
そして、高校生になったときに、人類消滅の危機が起きる。
ちなみに時系列に描くと、宇宙人の主人公が高校生に成長するまでの期間に、他の宇宙人が地球に来ているという伏線を張ることができます。好戦的な宇宙人がやばいことをしているであろう、伏線を張ることができると思います。

御作は、構成と設定を凝りすぎて、人間ドラマをおろそかにしていて、せっかくの面白い展開を描きそこなっていると思います。


最後まで違和感なく読めるものになっているのか知りたいです。 ←読みやすい作品でした。というのは、アクション中心で、そのアクションに持っていくために、主人公と周囲の人間が交流しているという感じだったので、最後まで読めました。
しかし読み応えはなかったです。
読み応えのある作品にするには、上に書いたような人間ドラマを構成する話を設定して、そのうえで、アクションのある展開に持って行った方が良いですね。


>その他、お気づきになった点がありましたらコメント頂けると幸いです。
95枚と長めですが、忌憚のないご意見ご感想を宜しくお願い致します。<

御作をラストまで読んで思ったのですが、作者さんは、書ける方です。
話は滞りなく書けています。
文章もうまかったと思います。
あとは人間をいかに描くかではないかと思いますね。
たとえば御作の主人公を太宰治の「人間失格」の大庭葉蔵だったら、どうなるのかとか。
もちろん、他の文学作品の「癖のある主人公」でもよいと思います。
御作の場合は、主人公は心が傷ついていると思います、同じ空間にいた少年が亡くなり、その代わりに主人公がなっているのですから。

まあ、元いた星から両親を残して一人で脱出してきたのだから、それだけでも相当傷を心に持っていると思います。

ということで、発想次第で、いろいろと面白くなるのではないかと思いますね。


それでは、頑張ってください。

鈴原
49.253.106.245.eo.eaccess.ne.jp

途中まで拝読しました。
面白そうな部分もあるし、読みやすいと思いました。
それゆえ気になる点が目立つ作であるように思えました。

最も良くないと思えたのは、沓子を含め主人公たちが事件解決に出立した後、序盤からいよいよ物語がスタートするとゆうところで、その後何故かストーリー外のことばかりだらだら書かれていて、いっこうにストーリーが進展しないことです。
 そのため、途中からストーリーを探すためにどんどん飛ばし読みになってしまい、ついには読むのを中断してしまいました。

プロの作品を参考したほうが良いのではと思いました。

冒頭では、『老人が騙された云々』とあり、それで話しが展開するのかと思いきや、それは関係なく、『KG事件』がどうとかで話しが進展する。
もし、わたしなら、『KG事件』を話の軸にするのであれば、最初に『KG事件』の話題からストーリーを始めるだろうと思います。

また、主人公と沓子たちとのストーリーで進展させるのであれば、最初、母親と主人公との会話よりも、沓子と主人公との会話から始めるように、わたしなら書くだろうなと思いまた。

また、たとえば
-「ようご両人、きょうも仲良く夫婦で登校かァ」 
 聖凛学園高等部の正門をくぐったところで、クラスメートの菱木令介が話しかけてきた。油ものが好きで、いつも頬にニキビがある彼は、僕らのことを〝夫婦〟と呼ぶ。-
とゆうシーンがあるのですが、
これはこれで、ラブコメっぽい楽しいシーンと思えるのですが、これならば主人公は宇宙人でなく、ごく普通の人間として設定したストーリーのほうが、入り込めるし、良いように思えます。

主人公が宇宙人であることの必要性と、それ以外の物語り設定のありかたが整合していない気がしました。
主人公が宇宙人なら、そのようにしてストーリーを作ったほうが良いように思えました。ここで、主人公は宇宙人である必要性はあるの?と思えてしまう。

また、主人公の奏多が実は本物は死んでいて、来訪者である宇宙人がそれにとって代わったとゆう話のあと、主人公と宇宙人との入れ替わりを先に書くべきと思うのですが、何故か宇宙人が元の星を出立するところのみが描かれているのは、読んでいて疑問符ばかり浮かびました。

宇宙人が星を脱出する説明よりも、どのようにして奏多が主人公の宇宙人と入れ替わったのか、先に初期設定として説明することが重要な気がしました。

あとリアリティラインとエンタメ作品としての方向性がよく解らない点がありました。

『僕のかわりに死んだのだ。』 とか、『何者かが犬や猫の睾丸を切りとってネット上に晒す』ですとか、残忍な設定でもよいのですが、作品の方向として設定が合っていない気がしました。

わたしの趣味の違いかもしれませんが、特に『何者かが犬や猫の睾丸を切りとってネット上に晒す』の部分など、読んでいてうんざりしてしまうのです。
作者様にとってその事項はエンタメ作品の要素として、楽しいものなのですか? 分らないのです。

作者様の想像力が足りない部分があるのか、そうゆう感覚であるのか、解らないのです。わたしはやはりだめなのでした。

鈴原
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すいません、上の感想、うまくいえてなくて。

> 『何者かが犬や猫の睾丸を切りとってネット上に晒す』ですとか、残忍な設定でもよいのですが、作品の方向として設定が合っていない気がしました。

のところ、

例にあげて申し訳ないのですが、たとえば、昼野陽平様の作品は、一作品内において作風や設定がしっかり定まっており、書かれる内容と作品の方向性が一致していて、良いのです。

しかし、御作の場合はそれがちぐはぐになっているように思えるのです。

椋丞
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夜の雨様、ご感想ありがとうございます。もうご感想が頂けないのではと思っていたのでとても嬉しく思います。

>ドラゴンボール」というアニメがありましたが、あれほど大げさなアクションではありませんでしたが、しっかりとした異星人同士のアクションがあるお話ですね。

大好きな漫画なので多分に影響を受けていると思います笑

>「宇宙人」という設定は特に必要ではないと思いましたのは、他の設定にしても、御作は描くことが可能だと思います。
たとえば近未来とかのサイボーグとかロボット、エスパーとかに、人間存亡がかかった戦いになるとか。または、神と悪魔の戦いに主人公たちが巻き込まれるとか。
地球温暖化とかウイルスで人類とか地球の生物が危機に起こたるとか。
ということで、御作は必ずしも、「宇宙もの」にする必要はなかったと思います。

仰るとおり、読み返してみると宇宙人色があまり感じられない作品になっていました。

>エンタメとして面白いか ←アクション場面はうまいです。そのアクションにつなぐために、人間関係が描かれているのですが、普通に読ませるものになっています。

ありがとうございます。嬉しく思います。

>「普通に読ませるものになっています」というのは、どういう意味かというと、主人公は宇宙から地球にやってきて、同じ年頃の少年と友情を結ぶのですが、野犬に襲われて、少年が亡くなり、主人公が彼に成り代わり、少年の親と一緒に暮らすという話になっていますが、こちらの人間ドラマがほとんどありません。

たしかに人間ドラマが少ないですね。原稿用紙100枚以内と決めておりましたのでストーリーの都合上入りませんでした。

>学校での友情から、同じ異星人との交流や好戦的な異星人との戦いなどが、御作では展開されていきます。 ←どちらかというと、こちらの展開で主人公が自分を育ててくれた地球を守るために好戦的な宇宙人と戦う(アクション)という構成になっています。

その通りです。最後までお読み頂き、ありがとうございます。

>エンタメとして面白くするには、人間ドラマをしっかりと設定して、その上に、「アクションが関係する戦いを描く」と、良いのではないかと思います。

そうですね。小説にはやはり人間ドラマが欠かせませんね。

>御作は人間ドラマの描き方が弱いのではないかと思います。
たとえば主人公(宇宙人)と育ての母(地球人)とか、妹との関係とか。を、日常的なものから、深く描くとか。御作では主人公は交流のあった少年が亡くなり代わりになっているので、そのあたりの心の痛みを描くとか。
だから、少年の死の真相をラストに持ってくるのではなくて、導入部に主人公が宇宙から地球にやってきた後に、「現在の御作のラスト部分のエピソードを展開させる」。そして、引き続き、少年の家庭に入り込む。
そこで、主人公は亡くなった少年の母と交流を持ちながら生活をしていく。そこに妹も絡んでくるとか。こうやると、御作は主人公の心の痛みもすんなりと表現できると思います。
要するに時系列通りに話を構成して、主人公の心と体の成長を描く。
そして、高校生になったときに、人類消滅の危機が起きる。
ちなみに時系列に描くと、宇宙人の主人公が高校生に成長するまでの期間に、他の宇宙人が地球に来ているという伏線を張ることができます。好戦的な宇宙人がやばいことをしているであろう、伏線を張ることができると思います。
御作は、構成と設定を凝りすぎて、人間ドラマをおろそかにしていて、せっかくの面白い展開を描きそこなっていると思います。

私の筆力でどこまで描けるかわかりませんが、参考にさせていただきます。ありがとうございます。

>最後まで違和感なく読めるものになっているのか知りたいです。 ←読みやすい作品でした。というのは、アクション中心で、そのアクションに持っていくために、主人公と周囲の人間が交流しているという感じだったので、最後まで読めました。
しかし読み応えはなかったです。
読み応えのある作品にするには、上に書いたような人間ドラマを構成する話を設定して、そのうえで、アクションのある展開に持って行った方が良いですね。

読み応えのある作品が書けるよう、努力いたします。

>御作をラストまで読んで思ったのですが、作者さんは、書ける方です。
話は滞りなく書けています。
文章もうまかったと思います。
あとは人間をいかに描くかではないかと思いますね。
たとえば御作の主人公を太宰治の「人間失格」の大庭葉蔵だったら、どうなるのかとか。
もちろん、他の文学作品の「癖のある主人公」でもよいと思います。
御作の場合は、主人公は心が傷ついていると思います、同じ空間にいた少年が亡くなり、その代わりに主人公がなっているのですから。

まあ、元いた星から両親を残して一人で脱出してきたのだから、それだけでも相当傷を心に持っていると思います。
ということで、発想次第で、いろいろと面白くなるのではないかと思いますね。
それでは、頑張ってください。

お褒め頂き、嬉しく思います。アドバイスを参考に、もっと面白い作品が書けるように精進します。
ありがとうございました!

椋丞
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鈴原様、ご感想ありがとうございます。

>最も良くないと思えたのは、沓子を含め主人公たちが事件解決に出立した後、序盤からいよいよ物語がスタートするとゆうところで、その後何故かストーリー外のことばかりだらだら書かれていて、いっこうにストーリーが進展しないことです。
 そのため、途中からストーリーを探すためにどんどん飛ばし読みになってしまい、ついには読むのを中断してしまいました。

作者としてはすべて関係しているつもりだったのですが、まだまだ筆力が足りないようです。

>冒頭では、『老人が騙された云々』とあり、それで話しが展開するのかと思いきや、それは関係なく、『KG事件』がどうとかで話しが進展する。
もし、わたしなら、『KG事件』を話の軸にするのであれば、最初に『KG事件』の話題からストーリーを始めるだろうと思います。

老人に悪態をつく母親も実は騙されているというシーンなのですが、わかりにくかったみたいですみません。精進します。

>-「ようご両人、きょうも仲良く夫婦で登校かァ」 
 聖凛学園高等部の正門をくぐったところで、クラスメートの菱木令介が話しかけてきた。油ものが好きで、いつも頬にニキビがある彼は、僕らのことを〝夫婦〟と呼ぶ。-
とゆうシーンがあるのですが、
これはこれで、ラブコメっぽい楽しいシーンと思えるのですが、これならば主人公は宇宙人でなく、ごく普通の人間として設定したストーリーのほうが、入り込めるし、良いように思えます。

たしかに主人公がこう言ったのならばラブコメの方向性に行ったほうがいいのかもしれませんが、地球人と宇宙人という対比で描いているので必要なシーンだと私は考えています。もっと馴染むようにするにはどうすればいいか今一度熟考してみます。

>主人公が宇宙人であることの必要性と、それ以外の物語り設定のありかたが整合していない気がしました。
主人公が宇宙人なら、そのようにしてストーリーを作ったほうが良いように思えました。ここで、主人公は宇宙人である必要性はあるの?と思えてしまう。

こちらも今一度考えてみたいと思います。

>また、主人公の奏多が実は本物は死んでいて、来訪者である宇宙人がそれにとって代わったとゆう話のあと、主人公と宇宙人との入れ替わりを先に書くべきと思うのですが、何故か宇宙人が元の星を出立するところのみが描かれているのは、読んでいて疑問符ばかり浮かびました。
宇宙人が星を脱出する説明よりも、どのようにして奏多が主人公の宇宙人と入れ替わったのか、先に初期設定として説明することが重要な気がしました。

うーん、そっちのほうがいいんでしょうかね? こういう構成は映画や小説でも多々あると思うんですが。物語が進むにつれて徐々に真相が明らかになっていく感じが私は好きなのでこういう構成にしましたが……。

>『僕のかわりに死んだのだ。』 とか、『何者かが犬や猫の睾丸を切りとってネット上に晒す』ですとか、残忍な設定でもよいのですが、作品の方向として設定が合っていない気がしました。
わたしの趣味の違いかもしれませんが、特に『何者かが犬や猫の睾丸を切りとってネット上に晒す』の部分など、読んでいてうんざりしてしまうのです。
作者様にとってその事項はエンタメ作品の要素として、楽しいものなのですか? 分らないのです。

私の好みでやっているわけではないですよ笑
残忍な何者かがいるという前フリなだけです。なぜ犯人がそうしたのか、理由もちゃんと書いてますし。

>例にあげて申し訳ないのですが、たとえば、昼野陽平様の作品は、一作品内において作風や設定がしっかり定まっており、書かれる内容と作品の方向性が一致していて、良いのです。

参考にさせていただきます。ご感想、ありがとうございました!

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