作家でごはん!鍛練場
新人・A

車窓から見える冬空

 僕は定刻の通勤急行に乗り職場に向かっていた。
 車内はいつものように混んでいて、身動きのとれないまま右手でつり革を掴んでいた。
 ふと、何気なしに右側に目を向けると、車窓を見つめる男女の横顔が並んだ先に美樹に似た女の横顔が見えて、ドキッとした。
 二メートルほど離れた先にいる女は左手でスタンションポールを握り、乗降口のドアに映る風景を見つめている。
 一年前に別れた美樹を思い出し、僕はチラチラと何度も視線を送った。
 何度見ても、美樹に思えて仕方がなかった。僕は、車窓に流れる風景を眺めながらつり革を握りしめ、小さなため息を漏らした。すると思い出したように、記憶が蘇ってきた。

 付き合って一年が過ぎたころから、美樹はときどき僕の自宅マンションに泊まるようになった。
 ある土曜日の朝に目覚めると、僕は美樹の背中に顔を埋めて眠っていた。セミダブルベッドの中で、僕たちは掛け布団にくるまっていた。吐息をついた僕は、美樹を背後から軽く抱き、くびすじに唇をあてがった。息を吸い込むと、石鹸のようなやわらかい香りがした。それは、まどろみそうになるほど甘い匂いがする香水だった。

 それから半年ほどが過ぎて、美樹は職場の同僚の男の話をするようになった。会話の中にさりげなく、その男の話題を入れる。僕は少し気になったが、美樹の話を聞き流すようにしていた。
 僕たちは話題の映画を観ることになり、映画館が近くにある駅の構内で待ち合わせの約束をした。僕は約束の時間の五分前から目印の場所に立っていた。約束の時間が過ぎても、美樹は現れなかった。こんなことは今までなかったことだ。僕は心配になって、美樹のスマホにメールを送った。けれど、返信はなかった。数か月前からよく話題にする男のことがふと頭に浮かんで、僕は苛立ちを憶えた。そしてイライラしながら美樹を待った。
 美樹は、三十分ほど遅れて僕の目の前に現れた。
「何かあったの?」と尋ねても、ただ、消え入りそうな声で「ごめんなさい」と言うだけだった。遅れた理由を言えない美樹に不審の念を抱き、僕は無意識のうちにきつい言葉を言ってしまった。
 映画鑑賞した後、僕は美樹にあやまった。けれど、美樹は強張った表情をみせるだけで、何も応えようとはしない。今からも考えると、それが別れの前兆だったのかもしれなかった。

 電車は次の駅に到着した。僕は女を見た。乗降口のドアが開き、周りの乗客が動き出した。
 僕が見ていることに気づいたのか、女は僕のほうへ顔を向けて正面から見据えると、訝しげな視線を送ってきた。美樹を急に思い出してしまった自分自身が情けなくなって、僕は車窓に目を移した。灰色の雲に覆われた冬空が見えて、淋しそうな風景として僕の目に映った。

車窓から見える冬空

執筆の狙い

作者 新人・A
p2990198-ipngn201010osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

掌編小説です。感想を頂けると嬉しく思います。

コメント

大丘 忍
ntoska043001.oska.nt.ngn2.ppp.infoweb.ne.jp

電車の中で別れた彼女に似た女を見かけた。

この一行ですむことを、小説風に長く書いただけという感じでした。文章が上手いか下手かは関係なく、小説とは何かを考えてほしいと思います。

松岡修子
129.67.239.49.rev.vmobile.jp

感想は「え?」でした。

これを小説だと思う根拠を教えてください。

新人・A
p2990198-ipngn201010osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

大丘 忍さま
感想をいただき、ありがとうございます。
「小説とは何かを考えてほしいと思います。」
この文章に驚いてしまいました。小説って、何でしょうね。

新人・A
p2990198-ipngn201010osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

松岡修子さま
コメント、ありがとうございました。
「で、何か?」という返信しか、思いつきませんでした。失礼しました。

エア
ttn202-127-89-157.ttn.ne.jp

他の人からのコメントを見て思ったのですが、
恐らく起承転結もしくは序破急が出来ていないの原因だと思われます。
せめて、2人が出会って交際に至り、やがて破局に至るまでの経緯を入れた方が良いと思います。
そうすれば、1つの小説として形になると思います。
あと、いっそ女性に話しかけようとするのもアリですね。

牧野
softbank126224142179.bbtec.net

物語の冒頭文だけを見て終わってしまったような感じを受けます。
女性と出会って何か一つ事件が起きるなど緩急が必要かと。
色んな展開が模索できそうな設定ですね。

偏差値45
softbank219182080182.bbtec.net

他の方のコメントにありますが、ワンシーンで終わっている気がしますね。
もう少し工夫が必要のようです。

そう言えば、昔、僕も似たような経験があります。
駅の構内の通路で僕とそっくりな人物と遭遇したのです。
しかも似たような服装をしていましたね。もちろん、まったく知らない人物であったので互いに無視をして通り過ぎました。ところが、互いに「似ている」と思ったのでしょう。
二人がすれ違って十メートル程のところで互いに振り返って確認していたのです。ほんの一瞬、視線が合いました。なんだが不思議な気がしましたね。もしかしたら、ドッペルゲンガーだったかもしれないですね。

御廚年成
M014011161224.v4.enabler.ne.jp

拝読しました。

ファーストインプレッションは「だから何?」です。
起承転結もなく、ただ一場面を書いただけと感じました。

一場面を描いただけで、何の脈絡もなく半年後に飛ぶ理由は何でしょうか。

貴兄の御健筆を祈念申し上げます。

きさと
sp49-97-92-240.msc.spmode.ne.jp

話の筋が~とか言ってる人たちは馬鹿なんでしょうか(すいません。流石に口が悪くなってしまいました)。
電車で元カノに似た人を見かけ元カノのことを微かに、だが不鮮明ではないほどに思い出す、という瞬間的な感情を切り取った作品ですよね。普通の人は一瞬で回想できる範囲には限界があるので、記述されるものはこの程度が自然で妥当ですし、回想の内容も物語的には大したことが起こらない点で適度にリアルで、筆致も語り手の男性が実際に話し出しそうな、つまり良い意味で「作家的でない」ところが(好まれにくい印象がありますが)的確だと思います。見かけた女性と何かが起こる、なんていう非現実的な(いかにも創作的な)展開は必ずしも要らないと思いました。

>二メートルほど離れた先にいる女は左手でスタンションポールを握り、乗降口のドアに映る風景を見つめている。

この一文だけで御作は十分小説たりえていると思います。女が本当にドアに映る風景を見ているかは確かでなく、窓の外の景色を見ているかもしれないし、何も見ていないかもしれない。どのような「風景」かも克明ではない。それなのにこの一文が書かれているのは、女が元カノ本人であるという錯覚に囚われて、女の心情をほぼ無意識に汲み取ろうとしている、または女も自分のことを「思い出して」いるかもしれないという希望が思い浮かんでいる、そんなありがちな感情を匂わせるからだというふうに読み取りました。

>灰色の雲に覆われた冬空が見えて、淋しそうな風景として僕の目に映った。

ここは書きすぎているようで残念でした。

新人・A
p2990198-ipngn201010osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

エアさま
感想をいただき、ありがとうございます。
「他の人からのコメントを見て思ったのですが、恐らく起承転結もしくは序破急が出来ていないの原因だと思われます。」
感想を読ませていただき「執筆の狙い」に、この掌編小説を描くに当たって「1000文字程度で描くこと」という制約があったことを記しておけば、また違った感想を頂いていたのではないかと反省しています。この掌編小説は、1124文字で公開しています。

新人・A
p2990198-ipngn201010osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

牧野さま
感想をいただき、ありがとうございます。
・物語の冒頭文だけを見て終わってしまったような感じを受けます。
・女性と出会って何か一つ事件が起きるなど緩急が必要かと。
・色んな展開が模索できそうな設定ですね。
率直な感想をご丁寧に書いて頂き、うれしく思いました。仰る通りかもしれません。

新人・A
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偏差値45さま
感想をいただき、ありがとうございます。
・他の方のコメントにありますが、ワンシーンで終わっている気がしますね。
・もう少し工夫が必要のようです。
1000文字程度の制約の中で描くことになりますので、「ワンシーン」の物語になります。掌編ばかり描いている作者であれば、もっと鮮やかに描くことができたかもしれませんが、私の力量不足でした。余談ですが、ドッペルゲンガー現象のエピソード、興味深く読ませて頂きました。

新人・A
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御廚年成さま
感想をいただき、ありがとうございます。
・ファーストインプレッションは「だから何?」です。
・起承転結もなく、ただ一場面を書いただけと感じました。
・一場面を描いただけで、何の脈絡もなく半年後に飛ぶ理由は何でしょうか。
そのような感想を抱かれても、仕方がなかったかもしれません。にもかかわらず、感想を頂けたこと、うれしく思っています。

新人・A
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きさと様
創作活動の励みになるような感想をいただき、ありがとうございます。
「電車で元カノに似た人を見かけ元カノのことを微かに、だが不鮮明ではないほどに思い出す、という瞬間的な感情を切り取った作品ですよね。普通の人は一瞬で回想できる範囲には限界があるので、記述されるものはこの程度が自然で妥当ですし、回想の内容も物語的には大したことが起こらない点で適度にリアルで、筆致も語り手の男性が実際に話し出しそうな、つまり良い意味で「作家的でない」ところが(好まれにくい印象がありますが)的確だと思います。見かけた女性と何かが起こる、なんていう非現実的な(いかにも創作的な)展開は必ずしも要らないと思いました。」
作者の作品を的確に図っていただき、とてもうれしく思いました。仰る通りです。読解力に感服致しました。「ワンシーン」に、切ない思いを描きたかったのです。

「>灰色の雲に覆われた冬空が見えて、淋しそうな風景として僕の目に映った。」
文末の文章は調子に乗りすぎて滑ってしまいました。仰る通り、ここは書きすぎましたね。やはり「あざとい」文章に思われましたか。反省します。

たけかわ
7.71.239.49.rev.vmobile.jp

こんにちは。拝読しました。上でコメントを寄せられている他の方と同じくこれは小説なのだろうかと疑問が湧いてしまったのでなぜなのかと考えてみました。

それはおそらくこの作品には登場人物の動作、動きというものが一切ないためではないかとおもいます。
主人公の男性は最初から最後まで電車の吊革を掴んで立っているだけです。何のアクションもないのです。

アクションといっても別に劇的な大仰な動きのことだけを指しているのではありません。

たとえば単に机の引き出しを開けるという動作であっても、それはひとつのアクションです。
部屋の窓を開けるだけとか部屋から部屋へ歩くだけでも何でもいい。何かを手に取るという動きだけでもいい。

そういった人間の動作というかアクションがないから、読んでいる側も反応のしようがないのではないでしょうか。


また短い文章でありながらもこの作品はじつに全体の六割くらい、半分以上が回想で占められています。

回想というのはそこで物語内の時間を止めてしまうものです。

この回想の分量の多さと主人公の動きがないことが、この作品から小説らしさを減じているのではないかとおもいました。

たとえ1000文字の掌編であってもそのなかで登場人物の動きを何かしら描写すれば読者からも何らかの反応が得られるのではないでしょうか。
そしてそこにごく小さな葛藤というか掌編にふさわしいサイズの、ささやかな感情のアップダウンがあるとようやく小説になるような気がします。

的外れなコメントでしたら申しわけないです。その場合は気になさらないでください。

九丸(ひさまる)
om126034099197.18.openmobile.ne.jp

拝読しました。

文章読み易いです。
感情も伝わってきます。
これが狙いに「一場面を練習で書きました」とあれば、僕は素直に良かったと言えるのですが。
最近詩のサイトに出入りしてまして、そこでプロ?の方に批評してもらっているのですが、そこにこんな批評がありました。
「断片としてはステキだけれど、完結していない。詩の体をなしていない」
他者様へのコメントなので全文コピーはできないのですが、まとめるとこんな感じの言葉でした。
僕は小説ってなに?と言われても分かりませんが、このお話に違和感があるとすれば、作者がこれで完結としていることが、読み手とのズレになっているのでは?と思った次第です。
きっともっと書けるはずです。文字数制限を課したとしても、作者なら上手くまとめられる気もします。
僕は一場面ながらも主人公の想いには浸ることができました。
たがら、次回はもっと浸らせて欲しいです。

失礼しました。

新人・A
p2990198-ipngn201010osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

たけかわ様
感想をいただき、ありがとうございます。
熱心に書かれた感想を、興味深く読ませて頂きました。つまり、面白くなかったということでしょうか。それはそれで一読者の感想になりますので、私の立場として何も言うことはありません。今後の参考にさせていただきます。とてもうれしい感想文でした。感謝しています。

新人・A
p2990198-ipngn201010osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

九丸(ひさまる)さま
感想をいただき、ありがとうございます。
・文章読み易いです。
・感情も伝わってきます。
これだけ読者様から簡潔な感想を頂けただけでも、充分に公開した意義があったと思います。改めて、ありがとうございました。感想文は、今後書く上で参考にさせてください。
お時間を割いていただき、うれしく思いました。また、機会があれば書いたものを公開したいと思っています。次回は5000字程度になると思います。

まひる
softbank126141042001.bbtec.net

・作品への純粋な感想
いい作品だと思いました。(適切な表現が思い浮かばなかったので、上から目線のような感想に受け取れるかもしれません。申し訳ありません。)
数ヶ月ほど前に交際相手と別れたばかりで、「僕」の気持ちをより追体験しやすかったのだと思います。


・アマチュアクリエイターとしての感想込み
以下の部分は書きすぎなように思います。

>>灰色の雲に覆われた冬空が見えて、淋しそうな風景として僕の目に映った。
きさと様と同じ意見なので、詳細は割愛します。

>>美樹を急に思い出してしまった自分自身が情けなくなって、僕は車窓に目を移した。
「何を思い出して情けなくなったのか」という点まで伏せてみることも選択肢としてはありかな、と。

>>(前略)石鹸のようなやわらかい香りがした。それは、まどろみそうになるほど甘い匂いがする香水だった。
石鹸の香りかつ甘い匂いというのは、どうにも想像できませんでした。どちらか一方なら想像しやすいです。
読者がそういった香水を嗅いだことがあるのかが問題なので、「こういう意見もあるのか」程度に受け取っていただけると幸いです。

以上です。
次作の投稿を一読者としてお待ちしております。

新人・A
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まひる様
ご丁寧な感想をいただき、ありがとうございます。
「いい作品だと思いました。」
・ありがとうございます。とてもうれしいです。

「>>灰色の雲に覆われた冬空が見えて、淋しそうな風景として僕の目に映った。
きさと様と同じ意見なので、詳細は割愛します。」
・まひる様も、そのように感じられましたか。

「>>美樹を急に思い出してしまった自分自身が情けなくなって、僕は車窓に目を移した。
「何を思い出して情けなくなったのか」という点まで伏せてみることも選択肢としてはありかな、と。」
・う~ん、考えてみます。

「>>(前略)石鹸のようなやわらかい香りがした。それは、まどろみそうになるほど甘い匂いがする香水だった。
石鹸の香りかつ甘い匂いというのは、どうにも想像できませんでした。どちらか一方なら想像しやすいです。
読者がそういった香水を嗅いだことがあるのかが問題なので、「こういう意見もあるのか」程度に受け取っていただけると幸いです。」
・「石鹸のようなやわらかい香りがした。それは、まどろみそうになるほど甘い匂いだった。」でも良かったのかもしれませんね。「香水」を抜いて、体臭であるかのような匂いでも良かったのかもしれません。

「次作の投稿を一読者としてお待ちしております。」
ありがとうございます。機会があれば、また投稿したいと思っています。

夜の雨
i223-216-201-83.s42.a027.ap.plala.or.jp

>掌編小説です。感想を頂けると嬉しく思います。<


間違いなく小説だと思いましたが。それも「掌編」ということで、状況の一部を切り取って、それに背景を説明とエピソードで書き込んでいるので、物語として読めました。
通勤電車内で以前付き合った彼女に似た女性を見て、回想するという話になっています。

御作短いので、ほぼ全編引用して、説明します。

●導入部(きっかけ)。
>車窓を見つめる男女の横顔が並んだ先に美樹に似た女の横顔が見えて、ドキッとした。<
>一年前に別れた美樹を思い出し、僕はチラチラと何度も視線を送った。<
>何度見ても、美樹に思えて仕方がなかった。<

御作は導入部では主人公が一年前に別れた「美樹」という女性と車窓を見つめる女と似ているので、そこから御作の世界が広がっていきます。
「何度見ても、美樹に思えて仕方がなかった。」とあるので、主人公はかなり美樹に、思い入れがあったのでしょう。

●「美樹」との関係。
>付き合って一年が過ぎたころから、美樹はときどき僕の自宅マンションに泊まるようになった。
 ある土曜日の朝に目覚めると、僕は美樹の背中に顔を埋めて眠っていた。セミダブルベッドの中で、僕たちは掛け布団にくるまっていた。吐息をついた僕は、美樹を背後から軽く抱き、くびすじに唇をあてがった。息を吸い込むと、石鹸のようなやわらかい香りがした。それは、まどろみそうになるほど甘い匂いがする香水だった。<

具体的で、かなりわかりやすい。
どんな関係なのかということがわかる。

●「美樹」との別れの原因。
 それから半年ほどが過ぎて、美樹は職場の同僚の男の話をするようになった。会話の中にさりげなく、その男の話題を入れる。僕は少し気になったが、美樹の話を聞き流すようにしていた。

別れの原因の伏線が張ってある。
これがあることにより、そのあとの展開がイメージできる。やばくなるのではないかということ。
また、この伏線がなければ、別れが唐突になるので、こちらの伏線は必要になる。

●「美樹」との別れの原因 2。
 僕たちは話題の映画を観ることになり、映画館が近くにある駅の構内で待ち合わせの約束をした。僕は約束の時間の五分前から目印の場所に立っていた。約束の時間が過ぎても、美樹は現れなかった。こんなことは今までなかったことだ。僕は心配になって、美樹のスマホにメールを送った。けれど、返信はなかった。数か月前からよく話題にする男のことがふと頭に浮かんで、僕は苛立ちを憶えた。そしてイライラしながら美樹を待った。
 美樹は、三十分ほど遅れて僕の目の前に現れた。
「何かあったの?」と尋ねても、ただ、消え入りそうな声で「ごめんなさい」と言うだけだった。遅れた理由を言えない美樹に不審の念を抱き、僕は無意識のうちにきつい言葉を言ってしまった。
 映画鑑賞した後、僕は美樹にあやまった。けれど、美樹は強張った表情をみせるだけで、何も応えようとはしない。今からも考えると、それが別れの前兆だったのかもしれなかった。

致命的な別れの原因がエピソードとして書かれていますので、インパクトがある。
主人公は「僕は約束の時間の五分前から目印の場所に立っていた。約束の時間が過ぎても、美樹は現れなかった。」ということで、主人公のキャラクターまでわかります。
「約束の時間の五分前から」ということで、時間にうるさそうというか、きっちりとした性格かもしれない、と読み手は思う。そのあとに「約束の時間が過ぎても、美樹は現れなかった。」「スマホにメールを送る」「返事が来ない」「数か月前からよく話題にする男のことがふと頭に浮かんで、僕は苛立つ」という展開。そして「三十分ほど遅れて来る」。

普通は、ここで、遅れた原因を彼女が言うと思うのですが『消え入りそうな声で「ごめんなさい」と言うだけだった。』 ← これはかなりイラつきますよね(ドラマ的展開)。待ち合わせに三十分遅れたとなると、原因は言うべきだと思います。それを言わないとなると、この時には、すでに関係は壊れかかっていたのでしょうね。
それにもかかわらず、主人公がきついことを言ったから「関係が壊れた」ということになります。
別れたくない場合は包容力を見せて「三十分ほど遅れて来ても、追及せずに、大丈夫だった、心配したよ」ぐらいに、して「気遣いだけ」に、しておけばよかったかも。

●ラスト。
>電車は次の駅に到着した。僕は女を見た。乗降口のドアが開き、周りの乗客が動き出した。
 僕が見ていることに気づいたのか、女は僕のほうへ顔を向けて正面から見据えると、訝しげな視線を送ってきた。<
>美樹を急に思い出してしまった自分自身が情けなくなって、僕は車窓に目を移した。灰色の雲に覆われた冬空が見えて、淋しそうな風景として僕の目に映った。<

「美樹」ではなくて「女」と書かれているので、主人公が車内で見ていたのは「美樹」ではなくて、別人だった、ということになります。
「訝しげな視線を送ってきた。」という振りがあり、「美樹を急に思い出してしまった自分自身が情けなくなって」と、あるので、主人公も、車窓の女からの美樹の幻影から覚めたのでしょうね。

僕は車窓に目を移した。灰色の雲に覆われた冬空が見えて、淋しそうな風景として僕の目に映った。 ← これは「僕は車窓に目を移した。灰色の雲に覆われた冬空が見えていた」ぐらいでも主人公の心情は表わすことはできると思います。

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御作は、かなりわかりやすい作品だと思いますが、掌編なので、内容はそれなりという感じです。
エピソードを細かく書いていくと、しっかりとした作品(短編以上)になると思います。
ちなみにこの手の「以前付き合っていた異性を偶然見かけるというような作品」は、結構あると思いますので、他の作品とは色合いの違いを出す必要があると思います。


竹内まりや「駅」(歌詞付き)をYouTubeで、視聴してください。
御作に欠けている表現力が何かということがわかると思います。
「駅」は御作とは設定が違いますが、「別れと未練」という主題は同じです。

さすがに1000字以内は無理かとは思いますが、「駅」をYouTubeで視聴しながら、御作を改稿すると、かなり良くなるのではないかと思います。

お疲れさまでした。

新人・A
p2990198-ipngn201010osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

夜の雨さま
ご丁寧な感想、誠にありがとうございました。
寧ろ感想というよりも、「車窓から見える冬空」の分析&考察(2601文字)の域に入っているように思えました。感動して、一瞬身震いを起こしてしまいました。公開して良かったと思える瞬間でした。作者の立場から、何も申し上げることはありません。それは、作品の評価は読者が決めることだからです。すべての感想文は宝物として、大切に保存したいと思っています。本当に、ありがとうございました。

えんがわ
M014008022192.v4.enabler.ne.jp

そのちょっと淡白な感じとか、実際に関係があるかは別として(自分はないと妄想はするけれど)、別の男の匂いを含ませて、恋人関係のマンネリをどうにかしよう、あるいは別れの方向に導こう的な、心情はけっこうズシンと来ますよ。それは竹内まりやとかありますけど、むしろ現代らしいスマホ世代の女の子を描いているような、そういう印象を自分は受けました。

最後の一文の「灰色の雲に」からは確かに蛇足感があります。寂しいという言葉を使わない方が、かえって読む方としては寂しさが伝わった気がします。なにかもうちょっと、ここからあと一文、ぴたりと雰囲気を出しつつ作品を象徴する一文が、確かにあればね、ってのは、なんかわかります。そこは本当に難しいよねー。もう、そこは、ほんとに。うー、自分でもねー。ううう。

新人・A
p2990198-ipngn201010osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

えんがわ様
率直な感想、誠にありがとうございました。
>最後の一文の「灰色の雲に」からは確かに蛇足感があります。寂しいという言葉を使わない方が、かえって読む方としては寂しさが伝わった気がします。
●仰る通りですね。
>なにかもうちょっと、ここからあと一文、ぴたりと雰囲気を出しつつ作品を象徴する一文が、確かにあればね、ってのは、なんかわかります。
●文末の締めの言葉は大切ですね。特に掌編では。
率直な感想、とてもうれしいです。ありがとうございました。

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