作家でごはん!鍛練場
加茂ミイル

それは、携帯電話もスマホも無い時代のことだった。

 夜空に、楕円形の黄色っぽい光が浮かんでいた。
 僕は興奮ぎみにそれを見上げ、間違いなく宇宙人の乗り物だと確信した。
 すぐにでも誰かに伝えたかった。
 その時、僕は塾からの帰り道、田んぼ道を一人きりで歩いていた。
 携帯電話もない時代で、小さな電灯が数十メートル間隔で点在する田舎の田んぼ道、周囲には公衆電話もなかった。
 その光はしばらく、僕の頭上でくるくると一つ所を回り続け、その残像が蛍光灯のような輪を描いていた。
 僕はそれを綺麗だと思った。
 その光が僕に気づいて、僕に何かメッセージを送っているような気がした。
 僕はその意味を読み取ろうとした。でも、結局分からなかった。
 その輪は、次第に光を弱め、ある瞬間にすうっと闇の中に消えてしまった。
 僕はしばらくの間、夜空を見渡して、再びその光が現れるのを待った。
 周囲の闇を揺らすように、微かに風が吹いていた。
 緑の草葉に囲まれて、夜の香りがした。
 10分くらい、同じ場所に立ち止まって、待っていたけれど、結局現れなかった。
 僕は歩き出した。
 結局、その夜、ベッドの上で眠りにつくまで、その光と再会することはなかった。
 翌朝、目覚めた時にはもう、僕はその出来事を忘れていた。
 それは、携帯電話もスマホも無い時代のことだった。
 もしあの時、携帯電話やスマホがあって、すぐさま誰かに連絡していたら、あるいは、その場で写メに状況を残していたら、この思い出は全く違う形で記録されていたかもしれない。
 そして、その記録を検証する人々によって、僕のあの夜の体験は、たわいもない非科学的な出来事として片付けられたことだろう。
 そして、僕も、彼らの意見に賛同し、あの時の記憶も肌で感じた経験も全部、ゴミ箱に投げ捨ててしまったことだろう。
 でも、あの時は携帯電話もスマホもない時代だったから、あの時の体験は今も自分の心にだけ、あの瞬間の光景のまま、そっくりそのままの形で残されている。
 だから、誰もそれを否定することは出来ない。
 目に見えるものしか信じない人たちが、その野蛮な触手を伸ばすことの出来ない聖域。
 あの時、僕の頬に吹き付けた風と、その風が運んだ草葉の香りだけが知っている。
 それは、携帯電話もスマホも無い時代のことだった。 

それは、携帯電話もスマホも無い時代のことだった。

執筆の狙い

作者 加茂ミイル
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私が伝えたいことは、科学や理屈ではとうてい言い表せません。

コメント

夜の雨
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結局何が怖いかというと、楕円形の光が現れて主人公にコンタクトを取ろうとしたことよりも、もし、携帯電話やスマホを持っていて、情報を保管したとして、それらを警察やメディアに連絡したところで、「非科学的な出来事として片付けられるだろう」という話。
それは、「目に見えるものしか信じない」からだ、という顛末が小説としては面白いですね。
UFOよりも常識を唱える権力を持った人間が怖いというような話です。
御作はショート作品としては、よくまとまっていると思います。

面白くするには主人公とほかの人間とのやり取りとかをエピソードで描いて、御作の題材と人間関係などを絡めるとよいのではないかと思います。
例えば主人公の家族とか友人を出して、「楕円形の光が現れて主人公にコンタクトを取ろうとした」というような話をするとか。
コメディでもシリアスでもヒューマン・ドラマとかでも、書けるのではないかと思いますが。
ただ、奇想天外なストーリーよりも、人間を表現するほうが受けるのではないかと思います。

松岡修子
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翌朝、目覚めた時にはもう、僕はその出来事を忘れていた。

とあるのに、こうして書いているのはなぜですか? 当時の出来事を忘れずに覚えてるからですね。
この矛盾を楽しめば良いのですか?
楽しめませんでしたが。 
この作品を書いた意図はなんでしょうな? 何を伝えたかったんでしょうか?

夜の雨
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 >翌朝、目覚めた時にはもう、僕はその出来事を忘れていた。<
これは、矛盾していません。
翌朝は、その出来事は忘れていたかもしれませんが、その後、思い出したということになると思います。
この作品は携帯電話やスマホなどがなかった時代に光るものを見たという話なのです。
現在の携帯電話やスマホがある時代から昔の話をしているので、矛盾はありません。

忘れていたけれど、後から思い出すというようなことはよくあります。
特に取調室で容疑者が刑事に追及されているときなどです。
「殺していませんよ」と、うそぶいていた容疑者が刑事に証拠を突きつけられて「ああ……、忘れていました、刑事さん、思い出しました」というようなお話はよくあります。

そのほかにも、テレビ番組で歌を聴いていて、どうしてもタイトルを思い出せないでいたところ、後から思い出すとか。
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それよりも、この作品の面白いところは。

目に見えるものしか信じない人たちが、その野蛮な触手を伸ばすことの出来ない聖域。 ← これです。「その野蛮な触手を伸ばす」これって、主人公の僕は、あのとき、「光るモノ」と、接触していて、彼らからある情報を得ていた。
すなわち地球は触手をもった異星人に当時、侵略されつつあった。
そして現代、主人公は警察やメディアなどに対して「僕のあの夜の体験は、たわいもない非科学的な出来事として片付けられたことだろう。」と言っているが、実のところ、すでに警察やメディアは触手をもった異星人に乗っ取られている。
主人公の頭の奥深いところでは、当時光るモノから出てきた触手をもった異星人とコンタクトをしていた。
という意識がある、から、
 >>目に見えるものしか信じない人たちが、その野蛮な触手を伸ばすことの出来ない聖域。
 あの時、僕の頬に吹き付けた風と、その風が運んだ草葉の香りだけが知っている。<<
このような、「意味深なことが無意識で、言える」ので、裏読みもできるということです。

すなわち現在の地球は、すでに異星人に乗っ取られている。

加茂ミイル
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>夜の雨様

記録というものは、出来事の一面しか捉えていないと思うんです。
個人の感覚を通して捉えられた出来事と、レンズを通して記録された出来事、それらは完全に一致するのでしょうか。どう思いますか?

加茂ミイル
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>松岡修子

>翌朝、目覚めた時にはもう、僕はその出来事を忘れていた。
>とあるのに、こうして書いているのはなぜですか? 当時の出来事を忘れずに覚えてるからですね。

ある出来事があった翌日、特に目が覚めた直後というのは、睡眠によって記憶が整理されているし、
まだ頭がぼーっとしている場合もあって、昨晩のことを一時的に忘れているということはあると思います。
思い返さなければ生きて行けないという内容でもなければなおさらのことだと思います。
主人公はUFOを見てから、しばらく待ち続けていたけれども、何の反応もなかった。
あれは何かの間違いだったのかな、という気さえしてくる。
その上日々の生活やら受験やらでそれどころではなくなって来る。
だけど、しばらく年月を経て、ふと思い出すということもある。
そういうことってあるんじゃないでしょうか?

加茂ミイル
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>夜の雨

この世界にはまだたくさんの未知の領域があって、ファンタジーが隠れているのに、そういった美しい世界を、もっともらしい解釈や説明を武器にして粉砕したがる行為ほど野蛮ことはないように私には思えるんです。

夜の雨
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再訪。

>記録というものは、出来事の一面しか捉えていないと思うんです。
個人の感覚を通して捉えられた出来事と、レンズを通して記録された出来事、それらは完全に一致するのでしょうか。どう思いますか?<

ごもっともですね、レンズを通してとか、録音には、「五感すべて」がありませんからね。レンズだと「視覚」で、録音には「聴覚」しかない。
人間は「視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚」という五感があり、御作はそのあたりのことも背景にあると思いますよ。

>この世界にはまだたくさんの未知の領域があって、ファンタジーが隠れているのに、そういった美しい世界を、もっともらしい解釈や説明を武器にして粉砕したがる行為ほど野蛮ことはないように私には思えるんです。<

私の感想の書き方も不足していたかもしれませんが、御作はショートですので、「この世界にはまだたくさんの未知の領域があって、ファンタジーが隠れているのに、そういった美しい世界を」このあたりを読み手にわからすには、もっとエピソードを書き込む必要があると思います。

ほか。
>特に取調室で容疑者が刑事に追及されているときなどです。<
2020-01-05 20:54

私が書いた、この例え方は間違っていました。
これは、容疑者がとぼけているという設定になっています。


以上です。

加茂ミイル
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>夜の雨様

貴重な意見ありがとうございました。
エピソード不足な点は、自己満足的なところがあったためと思います。
読者の立場になって書く気持ちを忘れないようにしたいと思います。

偏差値45
softbank219182080182.bbtec.net

UFO(宇宙人の乗り物という意味)の証明について言えば、
写真や動画というものは特殊撮影やコンピューターグラフィックによって制作はできる。
その点で言えば、虚構が成立しうるわけで、逆に信頼されないかもしれない。
むしろ、古文書にある記述の方が信頼できる、という風潮もありますね。
それはさておき、感想です。
冒頭の文章は、極自然に読めたので最近、このサイトで読んだ小説の中では上出来のような気がします。しかし、結末を読んだ時に「詰めが甘い」かな。他のなにかのネタを絡めた落としどころを模索したいですね。

加茂ミイル
i220-108-121-103.s42.a014.ap.plala.or.jp

>偏差値45様

感想ありがとうございます。

>冒頭の文章は、極自然に読めたので

自分としては、なるべく飾らない文章表現を心がけています。
出来るだけ日常語に近い感じで、でも、単なる話し言葉ではなく、
文学的な深みを含められるように書きたいと思っています。

>結末を読んだ時に「詰めが甘い」

限られた時間とエネルギーの中でうまくまとめたつもりだったのですが、
そんな器用さは今求められていないのかもしれません。
余韻さえ残る情熱。
そんなものを読み手は求めているのかもしれません。
ただ、今の私は精神的に少し老成してしまった感があり、脂ぎったギラギラした感じがなかなか出せません。

ところで偏差値45様は、自分のことを偏差値45となさっていますが、
感想人としての偏差値は70くらいあるんじゃないでしょうか?

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