作家でごはん!鍛練場
HBK

アキレウスと彼女

 彼女はいつも僕の前にいた。
 比喩でなく、いつだって物理的に僕の前方にいた。
 電車に乗っても、降りた駅のホームに彼女がいた。出張に行っても、空港の人混みの中に彼女の背中を見た。
 僕は彼女の顔を見たことがない。ただ長い黒髪がきびきびした足取りに合わせて揺れる様や、柔らかい曲線を描く肩が見えるばかりだ。
 ただ夢の中でだけは、僕は面と向かって彼女と話していることを知っている。だが目が覚めてみるとその顔立ちはもちろん、表情すら記憶から抜け落ちてしまっている。そしていくら顧みても、夢の内容を思い出すことはできない。
 彼女が幻覚だとか、同一人物でないと本気で考えたことがないのは不思議なことだ。事実、彼女は誰からも一切干渉されず、彼女に広告やティッシュを渡そうとする者はいない。
 また冬物に身を包んでいる彼女は大人びて見えたし、夏の休日には少女のような軽装をしていることもあった。
 しかしそれでも同一人物だと言い切れるのは、単に髪型や体型がいつも同じだからという理由からではない。雰囲気と言っては陳腐だが、彼女には他の人間と見紛いようのない神々しさが備わっていた。彼女の背中を見るたびに僕は温かい気持ちに浸れた。生きていることへの感謝が湧き上がってきたと言うこともできる。
 風になびく後ろ髪や、服から覗く白い手足だけが僕の知っている彼女のすべてのはずだが、それでも着る服の選択や、信号待ちをしている時の立ち姿から彼女の内面を想像することはできたし、またその空想が僕にとってどれだけ楽しくスリリングだったかは伝える術もない。
 僕は毎朝家を出て、まず彼女の背中を探す。すると昨日と違う服を着た彼女が、昨日と同じ歩き方で僕の前にいる。僕は導かれるように小さな背中を追う――そうするといつしか駅に着いている。

 この日も仕事を終え、飲み会の話題で盛り上がっている同僚を背に職場を後にした。直接告知されていないのだから、僕に出席する義理はないのだと思う。紅に染まる夕景を廊下の窓から見下ろし、僕は小さくため息をついた。
 すれ違いざまに上司から「お早いご帰宅で」と嫌みを言われた。二人組の女性社員に「お先に失礼します」と一礼すると、二人は揃って頭を下げ、互いに顔を見合わせた。背後から忍び笑いが聞こえてくるのにはもう慣れている。
 ただ一人、受付の木野夏美さんだけが律儀に「お疲れさまです」と言ってくれる。僕が頭を下げて挨拶を返すと、木野さんは笑顔で応じた。
 後ろ髪を引かれる想いを秘めつつ、僕は往来へ出た。すると数メートル先に彼女の姿があった。息が白くなる時期に合わせて、褐色のロングコートを着込んでいる。僕は彼女の後について歩いた。
 人足の繁くなる時刻だが、彼女を見失う心配はない。一度や二度その背中が隠れてしまっても、すぐにまた数メートル先に姿を現してくれるからだ。
 スーツ姿の男女で溢れ返った駅の構内で、完全に彼女の行方が分からなくなるのもいつものことだ。
 僕は目を伏せ、男女の靴を眺めながら人並みに飲まれた。だがホームへ続く階段を見上げれば彼女がいる。僕は彼女のブーツから覗く膝の裏を眺めながら階段を上った。ホームには彼女の姿はない。
 僕は電車に乗った。彼女はやはりどこにもいない。電車やエレベーターの中には――手を伸ばせば届きそうな場所には、彼女は絶対にいないのだ。
 座ったまま電車に揺られつつ、僕は携帯電話でニュースをチェックした。殺伐とした事件ばかりが取り沙汰されていて、うんざりして電話をポケットに入れると、隣の車両から小さな悲鳴がいくつか聞こえた。床に赤いものが点々と付着しているのが視界に入り、僕は目を閉じた。
 怒鳴り声が幾重にも聞こえる。瞼の裏側に車内の残光がちらついていた。僕にはそれが前にいる人の動きに合わせて暗くなったり明るくなったりしているように感ぜられた。実際に多くの足音と罵倒する声が聞こえた。
 ようやく駅に着き、僕は駅員たちの動向には目もくれず電車から離れた。冷えた空気に顔がひりついた。温かいポケットに手を入れ、エスカレーターを見下ろすと彼女がいた。
 僕は夜光に艶めく黒髪を眺めつつ、彼女と同じ速度で高みから下りていった。
 構内でコンビニエンスストアに入り弁当を買い、外に出るとやはり彼女は数メートル先を歩いていた。僕はその後をついて歩くだけでよかった。すれ違いゆく疲れ切った顔をした中年や、きつい香水の香りを纏ったOLは背景に等しい。輝かしいクリスマスの装飾も僕の目を惹かなかった。僕はいつだって自分の眼球に彼女の姿を小さく映していたかった。
 駅を出ると、彼女は僕のアパートのある方角へと向かった。僕は彼女の吐き出す白い息が薄れ、消えてゆく様を見て、冬の到来を実感した。
 やがて住宅街に入り、彼女は僕の住むアパートの前を通り過ぎた。僕はいつものように、後ろから小さくお辞儀をしてからアパートの敷地へ入った。冷たい鍵を片手に部屋に入り、ローテーブルの上に買ったばかりの弁当を置いた。窓から見下ろしても、暗がりに彼女に姿はない。僕はため息をつき、テーブルの前に腰を下ろした。
 
 目覚まし時計が鳴るまで眠っていたらしい。暁闇がレースカーテンの向こうにうっすら白んでいる。僕はすぐさま身支度を整え、玄関を開けた。階下に彼女の姿があった。曇り空に陰ったアスファルトが靴音を響かせた。僕は急いで路上に降り立ち、褐色のコートを追った。
 世人が早足で歩く中、僕は彼女と同じペースを保った。そうやって遅刻したことは今までに一度もなかったからだ。
 この日美しい膝の裏は黒いタイツに覆われていたが、彼女の後ろ髪が冷たい風に揺られる様を見るだけで至極満足だった。ホームに着くとたちまちいつもの電車がやってきた。
 僕は彼女の顔を見ようと思ったことが一度もない。きっと美しいに違いないと想像するだけで十分だった。彼女が夢の中に現れた後には必ず、爽やかで満たされた目覚めが待っている。思い出だけで人は幸福にはなれないと言うけれど、こと僕に関してはそれで満足だった。
 現実に美しい女性の顔には必ず醜く歪む瞬間が何度も訪れるのだろうし、加齢とともに美は失われていくのだろう。その点彼女の顔を知らないことは、僕にとって都合が良いとさえ言える。
 彼女に導かれ会社に着くや、木野さんに「おはようございます」と笑顔を向けられた。温かみのある生々しい笑顔だった。挨拶を返す僕の表情がちゃんと笑んでいたかについては自信がない。自分から僕に挨拶してくれるのは木野さんだけなので、戸惑いが顔に現れているというのは大いにありうる。
 僕はすれ違う同僚や上司にへこへこ頭を下げながら、木野さんの笑顔をまだ見ぬ彼女の面皮に貼り付けている自分に気がついた。すると妙に落ち着かない心持ちになるのだった。
 忘年会を年末に控え、職場にはどこか浮かれた空気が漂っていた。僕が一人蚊帳の外で黙々と業務をこなしていると、男性社員の間で木野さんの話題が持ち上がった。来週にはクリスマスを控えているせいか、独身男性は声を大にしてその容姿と性格の良さを褒めちぎっていた。
「木野さんだけは謎なんだよね。彼氏いるかとかぜんぜん分かんない」
 情報通らしい女性社員がそう言うと、皆が申し合わせたようにおおっと騒ぎ立てた。僕も心に穏やかでないものを感じたが、元より誰にでも愛想良く微笑みかけてくれる木野さんにどんな思いを抱いても届かないと知っていたので期待などしようはずもなかった。それでもどこか落ち着かず、パソコンを打つ手が止まってしまうものだから、僕は席を立った。廊下に出ると彼女の姿を認めた。
 普段は屋外でしか見ない彼女が社内にいることに驚きつつ、僕は残ってもいない靴跡を辿るようにして後を追った。すれ違う社員は誰一人として彼女を顧みることはしなかった。
 彼女は下りのエスカレーターに足をかけた。僕と彼女は同じ速さで一階までの距離を縮めていった。エスカレーターを降りると彼女は正面玄関へ向かって受付の前を通り過ぎた。
 僕は二人の女性が目を合わせる瞬間を半分期待し、半分不安がったが、木野さんは僕の方を見て「お疲れさまです」と言ってくれただけだった。僕は木野さんから視線を移して彼女を振り替えり、また木野さんを見遣った。
 ボブカットに切り揃えられた前髪の下で両の眼が弓なりに笑んでいた。そのまま木野さんは小首を傾げてみせた。その仕草があまりに可愛らしかったので、僕は暫時木野さんに目を奪われていた。
「どうかされました?」
 僕はしどろもどろになりながら手を横に振り、改めて出口を見返った。ちょうど自動ドアが閉まり、僕と彼女は厚いガラスに遮られた。
 僕は外へ足を一歩踏み出したが、すぐに踵を返して受付に向き直った。
「何されてるんですか?」
 木野さんは口元に手を当ててくすくす笑った。僕も自分の慌てように思わず吹き出してしまった。
「忘れ物ですか?」
「いえ、そうじゃないんですが……」
 この建物の中で僕に笑顔を向けてくれるのは木野さんだけだ。けれど、これまでに雑談をしたことは一度もない。木野さんはどんな淡白な仕事の話にでも、笑顔を絶やさずに付き合ってくれてきた。
 だがこの日は僕にしてはやけに豪胆な心持ちになっていた。おずおずと受付に近づき、しかしこれといって話題もないので、「すいません」と小さく頭を下げたのだ。
「何がですか?」
 僕は誰かと、いや木野さんと、仕事以外の話がしたかった。だから「いい天気ですね」と外を見ながら言った。彼女の姿はもう見えなくなっていた。
「そうですね。最近暖かいですよね」
 意を汲んでくれたのか、木野さんは話を合わせた。僕は顔を熱くしながら同意し、「でも朝とか寒くないですか」とまたつまらない問いをかけた。足が勝手に落ち着きなく左右に動いた。
「私、朝の空気好きですよ。特に晴れてると、空気が澄み切ってる感じがしません?」
「ああ、なるほど」
 そこで会話が途切れた。僕は自分をつまらない人間だと思う暇もなく、必死に話題を探した。すると木野さんの方から「こうやってお話しするのって初めてですよね。嬉しいです」と言ってくれた。
「すいません」
「謝ることじゃないですよね」
 面白いですね、と木野さんが吐き出した息が僕の鼻腔をくすぐった。かすかに油の香りを含んだ柔らかい微風は、不思議とかえって僕の歓喜を強めた。
「そういえば来週……」
 僕がそこまで言うと、木野さんは緊張した面持ちで僕の背後に目配せした。振り替えると上司が僕を睨みつけていた。
「随分暇そうだな」
 僕が受付をすぐに離れたのが、みっともない姿を木野さんに見られたくなかったからかどうかは分からない。だがいずれにせよ怒鳴り声は木野さんの耳にも届いたはずだ。僕は恥じるよりも、申し訳なく思った。木野さんに責任を感じさせてしまったかと考えると胸が痛かった。
 その日の業務がようやく終わり、帰る頃には木野さんは席を外していた。僕は物足りない思いを抱いたまま自動ドアをくぐった。   
 通行人の目や唇には疲労が色濃く浮かんでいる。彼らの視線は一様に眼前に向かっていた。一方で僕は彼女を探しあちこち見回した。黒髪のかかった背中はすぐに見つかった。いつもは淡く儚い背中が、今日は月のように輝いて見えた。
 僕は彼女の後を追いさえすればよかった。彼女には決して追いつけない。名前も顔も分からない、ただいつも僕の前を歩き、華奢な背中を動かしている。僕には彼女の歩調が、風になびく黒髪が、服に寄る皺がこの上なく心地よかった。

 翌日は重々しい雲が空を覆い、アスファルトにできた水溜りには絶えず雨滴が波紋を描いていた。 
 この日は朝の準備にやたら手間取った。電動でない剃刀で丁寧に髭を剃り、寝癖をしっかり落として表に出てみると、縞模様の入った傘が彼女の頭上でゆらゆら動いていた。僕は透明なビニール傘をさして彼女の後ろについた。
 彼女は大衆に紛れてなおたやすく見分けることができた。僕はふと、彼女を後ろから呼び止めてみたいという衝動に駆られた。次に自分がそんな考えを抱いたことに驚いた。
 僕と彼女の距離はあらゆる形で縮められてはならない。僕は自然と、自分の声は彼女には届かないだろうな、という結論に達した。僕は彼女が波立てたのと同じ水溜りを踏むだけで満足だった。
 木野さんは今日も僕に微笑みかけてくれた。ただその笑顔のぎこちなさ、また頭を下げて小さく唇を動かす仕草が僕を苦しめた。
 僕はいくつも靴跡のついた廊下に視線を落として歩いた。すると後方から靴音がせわしなく聞こえてきた。僕は努めて振り返らずに歩いた。高く麗しい声が、僕の名を呼んだ。
「あの、これ」
 木野さんは僕に小さなメッセージカードを手渡した。「昨日はごめんなさい」と書かれた名刺大のカードは緑色の木々に彩られていた。改めて頭を下げる木野さんのつむじが眼下に美しかった。
 僕はカードを両手で包み込み、「とんでもないです」とお辞儀を返した。
「悪いのは僕ですから」
「でも私が話を長引かせちゃったので」
 また怒られちゃいますね。小さく舌を出し、木野さんは元いた場所に駆けていった。彼女よりも小柄な木野さんの背中は、みるみる小さくなっていく。手を伸ばしそうになる自分を制し、僕はエスカレーターを目指した。二人の同僚が僕のことを冷たい目で見下ろしていた。
 僕が次々と現れる足場に靴を乗せると、彼らは慌ただしく歩を進めた。やはり小さくなりゆく背中に、僕は今度は少なからず安堵を覚えた。そうして、世人の背中はかくも僕の心を乱すのか、と意外にも思った。
 職場での冷遇は今に始まったものではないが、この日感じた敵意は甚だしかった。自分にまるで関係のない仕事を押し付けられたり、理不尽な文句を言われたりしたが、とりわけ職場に轟く上司の怒鳴り声が僕を当惑させた。彼は決まって背後に立ち、僕を見下しながらいきなり声を荒らげるのだった。
 昼休みまでには男女揃って僕を避けるための団結が出来上がっていたらしい。男性社員の一人が「さあみんな、飯食いに行こうや」と白々しく声を張り上げ、先に出た上司を除いた部署の全員が僕を置いて職場を去った。閉じられたドアの向こうから大きな笑い声が幾度も聞こえた。
 僕は孤独には慣れているが、この日はなぜだかやけに感傷的な気分になった。けれど意地を張るだけの気概にも溢れていた。だから僕だけは昼食は摂らずに業務をこなそうと決め、ひたすらキーボードを打った。雨は止んだらしく、水滴のついた窓からビル群が遠く一望できた。窓際に置かれた観葉植物の緑が映え、僕の目を喜ばせた。
 ポケットにそっと手を忍ばせると、カードの角が指の腹を刺した。その時ドアをノックする音がして、木野さんが職場に入ってきた。仰天する僕に、木野さんは「お一人ですか?」と大きな目を見開いてみせた。
「ええ、まあ」
「お昼ごはん持ってこられたんですか?」
「いいんです。それより、どうかされました?」
「いえ、三重さんの落とし物を届けにきただけですけど……」
 三重とは僕を事あるごとに怒鳴り散らす、件の上司の名前だった。厚い財布を持ったまま室内を横断した木野さんに、「ダメですよ、ごはん食べないと」と僕は薄く笑いながら窘められた。
 僕の鼓動は信じられないほど速く高鳴っていた。上司の席に財布を置く木野さんの名を、僕は汗ばんだ手で髪を掻きながら呼んだ。
「今朝はありがとうございました」
「いえいえ。今日はあの人に怒られませんでした?」
「怒られました」
 苦笑する僕だが、上司の机を一瞥する木野さんを直視することはできなかった。
「憎くて怒ってるわけじゃないと思うんですけど……それにちゃんと真面目に働いてらっしゃるの、知ってますよ。私」
 そう言って僕の席にまで寄ってきた木野さんは、「頑張ってお仕事してるし、むしろ見習うことが多いと思います」とパソコンの画面に顔を近づけた。白い頬や長い睫毛が間近に迫り、僕は不自然に身を引いた。
「ありがとうございます」
 そう返すのがやっとの僕に、木野さんは「本当のことですよ」と力強く頷いてくれた。雲間から差し込む光が上司の机に置かれた財布の金属を輝かせていた。
「でも本当にお昼はしっかり食べてくださいね。体壊しちゃいますよ」
「よかったら一緒に食べに行きませんか」
 突然発せられた一言に、木野さんは口を噤んだまま丸い目で見返してきた。視線に耐えきれず俯いた僕の瞳に、皺の寄った貧相なスラックスが映った。
「ごめんなさい、今日は用事が入ってて」
 この時はよそよそしさを感じる余裕などなく、ただやたら相手に申し訳ないという気がした。僕は「そうですよね、すいません」と火照った顔を伏せた。
「僕ですからね」
 こちらこそ、と謝る木野さんは平気な顔をして、「いえ、そういうのじゃ……」と曖昧な笑みを浮かべた。そしてこの話はおしまい、といった風情で木野さんは僕に背を向けた。まだ間近にある背中に、僕は濡れた視線を据えた。
 そこへ上司が現れ、「夏美、何してる」と威嚇するように言った。木野さんは少し腹を立てた調子で、「貴方のお財布届けに来たんでしょ」と言って彼の机を指差した。その時僕は初めて木野さんの感情を見た気がして、恐怖に近いものを感じていた。
「ああ、ないと思ったら。昨日か」
 失意はその後にやってきた。僕は上司の得意を満面に浮かべた表情からしばらく目を離せなかった。「すまんな」という言葉は僕にかけられている気がした。そうして上司は白々しく「またな」と付け加えた。
 木野さんは何も返さず、なぜだか僕を顧みた――その時の憎悪に、あるいは侮蔑に満ちた表情は、これまで僕に向けられていた他者の悪意を児戯に帰すものだった。二つの背中はドアのあちら側に消え去った。
 僕はしばらく放心したまま人形のように椅子にもたれかかっていた。だがやがては立ち上がり、それも無駄に勢いをつけて立ち上がり、ドアを思い切り押して廊下へ出た。彼女はやはり澄ました足取りで先を歩いていた。
 僕は自分が普段より足早になっているのを感じた。しかしいくら急いでも、彼女との距離は決して縮まらない。
 僕はついに走り出した。往来に出た彼女は悠然と歩き、しかして追いつくことはできなかった。彼女の背中は次第に大きくなってはいった。僕は興奮してほとんど倒れそうになるほど走り込んだ。だが僕が近づいている間に、彼女はもう遠ざかっている。
 僕は声を出そうと思った。だがかける言葉が何もなかった。僕は彼女について呆れるくらい何も知らない――「綺麗な髪ですね」と言って、彼女が振り返ってくれるだろうか?
 冬景色に沈黙の背中が凛として際立っている。僕は人目も憚らず、「よかったら一緒に食べに行きませんか」と叫んだ。それだけが僕の持つ言葉だった。彼女は足を止めた。
 僕は彼女に一歩、また一歩と近づいた。足を前に運ぶたび、背中との距離が詰まり、外に跳ねた細い髪や、毛羽立ったコートの繊維が露わになっていく。僕と彼女の傍らを誰もが平然と通り過ぎていった。僕は彼女に呼気が届く場所にいた。
 おもむろに彼女が首を捻った。彼女の首から上には、木野さんの顔があった。憎悪に、あるいは侮蔑に満ちた目付きを僕に向け、彼女は唇を固く結んでいた。僕は彼女に声をかけることも、手を伸ばすこともできなかった。
 いつしか彼女はまた歩きだしていた。美しい髪をなびかせながら、悠然と。
 僕はしばらく立ち尽くしたのち、また歩きだした。氷のような失望と、春の日差しのように暖かい満足とを胸に抱きながら、僕は彼女と背中合わせに歩いた。
 今日はどこで食べようか、と僕はこの時初めて自分に問うた。濃い雲間から覗く太陽は、僕や彼女の歩く人混みを平たく照らしていた。

アキレウスと彼女

執筆の狙い

作者 HBK
g1-27-253-251-189.bmobile.ne.jp

今回も練習のための投稿です。
上達したいので、いろんなご意見をいただけると嬉しいです。よろしくお願い致します。

コメント

\(^o^)/
219.252.149.210.rev.vmobile.jp

 いろいろと説明不足で、その結果意味不明な作品になっていると感じました。説明不足ではなく、語句の選択ミスかもしれません。読み違えていたらごめんなさい。

>すると木野さんの方から「こうやって【お話し】するのって初めてですよね。嬉しいです」と言ってくれた。

 送り仮名は不要です。

>僕が【次々と現れる足場】に靴を乗せると、【彼ら】は慌ただしく歩を進めた。やはり小さくなりゆく背中に、僕は今度は少なからず安堵を覚えた。そうして、【世人の背中はかくも僕の心を乱すのか、と意外にも思った】。

 この部分の意味がわかりません。

>木野さんは何も返さず、なぜだか僕を顧みた――その時の憎悪に、あるいは侮蔑に満ちた表情は、これまで僕に向けられていた他者の悪意を児戯に帰すものだった。

 なぜ木野さんが「憎悪」や「侮蔑」に満ちた表情をしているのかがわかりません。業務として愛想良く接していただけなのに、自分の彼氏が恨まれないようにフォローしているだけのに、主人公が『自分に気がある』と勘違いして食事に誘って来たからですか? 「呆れ」たり「軽い怒り」を感じたりするとは思いますが、侮蔑や憎悪は極端すぎると思います。

>氷のような失望と、春の日差しのように暖かい満足とを胸に抱きながら、僕は彼女と背中合わせに歩いた。

 失望はわかりますが、なぜ満足を抱くのかわかりません。「満足」ではなく「納得」ではないでしょうか? 主人公に納得されたところで、私は納得できませんが。なぜ主人公が納得できたのかの説明があれば納得できるかもしれません。

アフリカ
sp49-104-18-134.msf.spmode.ne.jp

今年初なのですが、練習の為とのことで感想入れてみます。

端的に言えば
とっ散らかってる感じでしょうか?
年末の大掃除、サボったでしょ?

雑然と色んなものが机の上に残されたままに、更に机上にはなにやら難しい言い回しにしたいけど形に成りきれない造形のものがゴロゴロ投げ込まれてる?

アキレスと亀の引き合いは好きなので冒頭の引きは良かったのに、その後、結構しんどく成りました。

あんまり気負わないで自分の表現で描いたらもっとスッと入ったと思います。

今年一番ってことで辛口ですが
フムフムと読ませて頂きました

ありがとうございます

頑張って下さい

夜の雨
i118-18-72-209.s42.a027.ap.plala.or.jp

いやぁ、描き方がギリギリのところなので、読み終わった後、じっと考えなければ意味が分からないような作品です。


御作のストーリー

度入部の「彼女」。常に前を歩いている人物で、主人公の「僕」は彼女の顔を見たことがない。
この彼女は「いったい何者なのか」ということにいなるのですが。

一方主人公の僕は会社で受付の木野夏美に親切にされ、意識するようになる。
僕は職場では浮いている存在なので、木野の声掛けは「かなり効き目があります」。
上司の三重からは、特に疎まれている主人公の僕。

そういった日々の中で相も変わらず謎の「彼女」は主人公の前を、さっそうと歩いている。
そんなある日のこと、職場で一人パソコンに向かって仕事をしていた主人公に、木野夏美が声をかける。
彼女は主人公の上司である、三重の財布を届けに来たのだ。
木野夏美に声をかけられて話をしていると
『そこへ上司が現れ、「夏美、何してる」と威嚇するように言った。木野さんは少し腹を立てた調子で、「貴方のお財布届けに来たんでしょ」と言って彼の机を指差した。』
この展開で上司の三重と木野夏美が付き合っていることが判明。
それを目の前で目撃した主人公の僕。

木野夏美のそれまでの僕に対する優しい対応が、ここで一変する。

>木野さんは何も返さず、なぜだか僕を顧みた――その時の憎悪に、あるいは侮蔑に満ちた表情は、これまで僕に向けられていた他者の悪意を児戯に帰すものだった。<

このあと上司と木野はドアの向こう側に消え、主人公は外に出る。

そして主人公の僕は、また現れた謎の彼女のあとを追う。

作品的にはラスト近くになっているにもかかわらず「僕は彼女について呆れるくらい何も知らない」という展開。
いったい、彼女は何者なのか?
>僕は人目も憚らず、「よかったら一緒に食べに行きませんか」と叫んだ。それだけが僕の持つ言葉だった。彼女は足を止めた。<
これで、やっと彼女は足を止めた。
追いついた主人公に彼女が振り向くと、その顔は「木野さん」であり、「憎悪に、あるいは侮蔑に満ちた目付きを僕に向け、彼女は唇を固く結んでいた。僕は彼女に声をかけることも、手を伸ばすこともできなかった。」というようなラスト、近くになっています。


御作を解説します。

謎の「彼女」は主人公にある心。
心といっても精神作用の「喜び」とか「畏れ」のようなもので、彼女は「畏れ」にあたる。
主人公は不安をもって実社会で生活しているので、常に周囲に対して「畏れ」があるので、それが偶像化して現れるようになった。

一方、受付の「木野夏美は、主人公の上司である三重との関係」を、主人公に親切にすることにより、意識の底で和らげていた。

ところが、夏美と三重との関係が白日の下にさらされ、「狼狽した夏美が自分を守るために」主人公に対して「憎悪と侮蔑に満ちた表情」を向けた。
要するに、今までのように「親切」「優しさ」というような「守り」の態度で主人公に対するよりも、「攻め」に徹する、という態度に豹変した、ということになる。

ラスト、主人公の前に姿を現した彼女を追っていた主人公は、やっと声をかけて彼女を止めて、振り返らせると、その顔は「木野夏美」だった、というラストは、主人公の精神世界の「畏れ」が偶像化したということになる。

本来なら「木野夏美」の顔でなくてもよかったのだが、主人公は現実世界において、周囲の誰よりも、職場の同僚や上司の三重よりも「木野夏美」が畏れにあたる存在になったので、彼女が振り向いたときの顔が「木野夏美」になった。
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>氷のような失望と、春の日差しのように暖かい満足とを胸に抱きながら、僕は彼女と背中合わせに歩いた。
 今日はどこで食べようか、と僕はこの時初めて自分に問うた。濃い雲間から覗く太陽は、僕や彼女の歩く人混みを平たく照らしていた。<

ラストになり、主人公は自分の精神世界の「畏れ」の部分が明らかになった。つまり、自分を取り戻したので「暖かい満足とを胸に抱きながら」になる。
その結果、「何を食べようか」と「平穏な日常に戻ることができた」。

濃い雲間から覗く太陽は、僕や彼女の歩く人混みを平たく照らしていた。 ← このラストの「太陽」は希望とか未来であり、「彼女」は、すでに主人公は「見切った」ので、「畏れ」と、精神世界の中で、うまく付き合うことができる、という意味になる。

以上。
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上のように解釈させてもらいました。

「アキレウスと彼女」という作品は、「文学」でも「実存主義文学」であり「不条理文学」にあたると思います。カフカの「変身」系、とか。

ただ、御作は読み手に与える情報が少なすぎる。読み手が、内容を読み取るのには、もっとわかりやすくする必要があるのではないかと思います。


お疲れさまでした。

u
opt-220-208-9-188.client.pikara.ne.jp

よみました

「むらさきのスカートの女」の(他人バージョン)ミタイナ印象です(笑
木野さんが登場した時点で、主人公の前を歩く女は「木野さん」であることは想像つくのですが

上手くは、かいていらっしゃるのですが、あたし、主人公に共感もてないというか
何甘えとんねん! 何ひとりで黄昏とんねん!
主人公、甘すぎですね

御健筆を 

夢酔人
mno5-ppp931.docomo.sannet.ne.jp

感想を書かせていただきます。

長い黒髪の謎の女性に仮託して何かを表現されていたのだと思いますが、わかりにくかったです。木野さんに対する好意や憧れの感情を表現されていたのでしょうか(木野さんの顔を持っていましたので)? それとも妙齢の女性一般に対する憧れでしょうか?
一つの謎で最後まで引っ張る手法ですが、少し単調に感じました。短編の場合は枚数の制限があるので複雑な構成にするのは難しいわけですが、単純な構成というのは小説にとって不利にしか働かないと思います。紙数を割かずに作品に奥行きを与えられる手法(引用や比喩など)を活用した方が良いかもしれません(作品タイトルは良いと思います)。一つの謎を引っ張るより、複数の謎を提示し、あまり引っ張らずにすぐに解決を与えた方が効果的かもしれません。読者は焦れてきますので、そのあたりの否定的な印象をコントロールするための工夫が必要だと思います。
主人公が職場で居場所がないのは、飲み会等を断る非社交的な性格が災いしてのことでしょうか? 職場によってそのあたりの雰囲気は異なるでしょうから一概には言えないと思いますが、その程度のことで真面目に働いている人間に圧力を加える職場というのは自分の中では考えられないです。同調圧力というやつでしょうけどちょっと想像しにくい職場だなと感じました。
それから終盤の主人公が他の職員たちから総スカンを食ってしまう場面。社内のマドンナに声を掛けた、抜け駆けしようとしたということで男性社員たちから妬まれたということなのでしょうか。受付で少しのあいだ私語をした程度でその反応を見せるのはナイーブ過ぎないでしょうか。ちょうど中学生くらいの男子が友人の恋の成就を阻止しようとして過剰に攻撃するみたいな。大胆にも上司の愛人に手を付けようとしたので上司が主人公を潰そうとし、立場の違いから他の職員も上司のその意向に同調せざるを得なかったということなのでしょうか。
上司が財布を届けに来た木野に馴れ馴れしい口のきき方をする場面。おそらく主人公をヘコませるために当てつけとしてわざとやったのでしょうが、木野が動揺する様子を見せなかったことに違和感を持ちました。上司はともかく(雄としての優越感や生意気な職員をやっつけたいという感情に支配されているため)、木野の方は不倫が露見する可能性があるわけで、もっと動揺してもおかしくない場面だと思いました。それとも上司は独身で二人は普通に交際しているのでしょうか? その場合は読者の誤解を招かないためにも説明を入れるべきだと思います。

散々な目にあった主人公でしたが、希望のようなものを感じさせるラストになっています。

>春の日差しのように暖かい満足

なぜ満足したのでしょうか? 失恋の直後に満足? 何か納得のいくような伏線がないかと探しましたが、わかりませんでした。恋情はいわば桎梏です。失恋によって解き放たれ、自由を得た、という意味でしょうか? 主人公がひどい状況から立ち上がるところを描きたかったのだと思いますが、仕掛けがなければ読者に唐突感を抱かせてしまいます。最後の場面の主人公の変化に説得力がなかったのが残念に感じました。主人公は何を乗り越えたのでしょうか? 木野さんへの恋情から来る精神的不自由を乗り越えたのだとしたら、結局また別の女性によってもたらされるそれに苦しめられることにならないでしょうか?(男性のメカニズムを考えれば) 根本的な、不可逆的な変化でなければ爽快感は中途半端なものになると思います。

スカイ画廊の父
sp1-72-9-242.msc.spmode.ne.jp

HBKさん
『アキレウスと彼女』
読みました。

些末な文章一般のことで申し訳ないのですが、木野さんと「彼女」が二人同時に登場する場面で「彼女」が木野さんを指しているのかと混乱しますので「彼女」に渾名を付けるとかして区別してほしいです。

最後まで集中して読めました。話の意味はよくわからないですし作中人物の細かな感情も読み取りにくいですが、謎は謎のままで構わないです。というか謎が解けてしまえばそれはもう書く必要すらないですね。お行儀良く丁寧に伝えるということ自体が困難になればなるほど、逆に不鮮明な像がこちらに迫ってきます。私はその不鮮明な像にこそ興味があります。

HBK
p220200-ipngn200208miyazakihigasi.miyazaki.ocn.ne.jp

\(^o^)/さま

ご感想ありがとうございます。
今回皆さまからいただいたご感想から考えるに、説明不足の感は否めないようです。
夜の雨さまの解釈も近いのですが(夜の雨さまへの返信でも書くつもりですが)、真意は今のところ誰にも伝わっていないようです。
これは完全に書き手の問題だと思うのですが、書き手自身が自作の解説をするのは無粋だと思っているので本作の真意はこのまま伏せさせていただきます。

送り仮名不要のご指摘ありがとうございます。

「次々と現れる足場」はエスカレーターを言い換えたつもりですが、伝わりにくかったようで申し訳ありません。

「憎悪」の解釈は夜の雨さまのおっしゃっているように「自衛のため」が強いです。それが「侮蔑」を含め、なぜこの場面で現れたかは上述したように伏せさせていただきます。

「満足」にこそこの話の主意があるのですが、これも伝わらなかったようで申し訳ないです。
本作は自分でも(終盤は特に)慌てて書いた感があるため、書くべきことが書かれておらず、情報が揃っていない、あるいは一読しただけでは伝わらないよう仕上がっているかもしれません。
もちろん読者さまに何度も読ませるという前提には立っていないため、完全に当方の見誤りです。
ただ説明は(スカイ画廊の父さまへの返信でも触れさせていただくつもりですが)今回は避けさせていただきます。
書いたものの説明をするのは、冗談の意味を解説するくらい無粋なことだと個人的に考えているためです。
責任を放棄しているように思われたら申し訳ありません。

ご感想ありがとうございました。
また次回もあると思うので、読んでいただければ幸いです。

ありがとうございました。

HBK
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アフリカさま

お久しぶりです(おそらく数年前にやり取りさせていただいたことがあると思います)。
読んでくださってありがとうございます。

とっ散らかっている、というのは適切だと思います。今回はプロットを立てずに書いたため、どこに何を書くか、の配置は思いついた順番になってしまいました。
まして当方は一度書いてしまったものの配置を公平な目で調節するのは苦手なため、推敲してもこのような有様になってしまったのだと思います。ご指摘ありがとうございます。
空気を読まないつまらない返答で申し訳ないのですが、大掃除はしました。

難しい言い回しのようなものになってしまっているのは、これも当方が感化されやすく、今読んでいる作品に影響される癖を持っているからだと思います。少し古いものを読んでいるのが災いしたようで反省しております。

意外に思われるかもしれませんが、今回はかなり気負わずに書いたつもりです。むしろ気負わずに書きすぎて誰にも意味がわからないような出来に仕上がってしまった感があります。次作では改めたいと思います。

こちらこそ感謝いたします。
また次回も読んでいただければ幸いです。

ありがとうございました。

HBK
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夜の雨さま

いつもご感想ありがとうございます。
たしかに今回が説明不足が過ぎたようです。しかしそれにも関わらず、極めて真剣に読んでいただけたことに心から感謝致します。

本作のストーリーに関してはまったく異論はありません。
本当ならばまずそのようなストーリーだとしてプロットを立てて丁寧に構成を考えるべきでしたが、今回は時間の都合もありそれが叶いませんでした。
その結果アフリカさまのおっしゃるように「とっ散らかってる」構成になってしまいました。

さて解釈についてですが、結論から言えば「彼女」は「畏れ」というよりは、むしろ真逆の性質を持ったものです。
私は自作の解説はしたくない人間なのですが、ここまで読み込んでいただいて沈黙を貫くのも失礼に当たると思うので「彼女」の実態について触れさせていただくと、「憧れ」や「理想」として書いたつもりです。
しかしそれと真逆でありながら近しくもある「畏れ」と読まれたのは、本当に真剣に考えてくださったことを裏付けていると思います。
熟考していただかなければ(本作にそのような価値があるかは置くとして)「憧れ」とはまるっきり違うものという結論になると思います。
それを「畏れ」と捉えても本作を解釈できるあたりが純文学の旨みのようなものだと思いますし、書いた側としてもそのような解釈は興味深く、またありがたくもあります。

特に「太陽」の解釈を「希望」とされているところなど頭が下がります。私も最初はそのつもりでしたが、少し趣旨を変えて「平たく」を付け足しました。
このように書いたものを読んでいただくことで自作の幅が広がるというのは、自作を公開してのみ得られる喜びであり感動だと考えます。
本作をここまで深く読み込んでくださったことに、改めて深く感謝致します。

やはり私の書くものは実存主義ということになるのでしょうか。
当方はサルトルについてはまだあまり勉強していないため断言はしかねますが、「変身」のような「不条理文学」を個人的に好んで書くようです。

ただおっしゃる通り、本作は情報が少なすぎたと思います。
もう少し長く書くか、あるいは言葉を付け加えなければ意味が伝わらないことを実感しました。
まさしく「ギリギリ」で書いてしまったようです。
ただあまり長いものを書くつもりもないので、その辺りの調整には客観的な視点が必要になるのだと思いますが……今後も努力を続けます(正直最後の下りは「伝わるか?」という点において自信が持てないまま投稿してしまいました)。

熟考してくださった感想に感謝致します。

また次回もあると思うので、読んでいただけると幸いです。

ありがとうございました。

HBK
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uさま

読んでくださってありがとうございます。

当方は寡聞にして「むらさきのスカートの女」は読んでいないのですが、夜の雨さまへの返信で書かせていただいたように「彼女」は「木野」そのものではありません。

主人公が甘すぎるというのはある意味狙い通りと言えます。
個人的に強者(あるいは人の強い面)を書くのはエンターテインメントに任せておけばいいと考えているため、私の書く話には弱者(あるいは弱い面)ばかりが出てきます。
もちろん本作は極端すぎたと思いますし、共感していただけなければまず読んでもらえないでしょうから、人を選ぶ仕上がりになったと思います。
しかしおかげさまで、もう少し共感できるポイントを持たせなければまず読まれない、という気づきを得られました。
ご指摘ありがとうございます。

読んでくださってありがとうございました。
次作も読んでいただければ幸いです。

ありがとうございました。

HBK
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夢酔人さま

読んでくださってありがとうございます。

おっしゃる通り本作が伝わりにくくなってしまったことは、皆さまからいただいたご感想から明らかです。
次作には何らかのプラスアルファを挟もうと思います。
それでも(夜の雨さまへの返信で触れさせていただきましたが)「彼女」の実態が「憧れ」というのが伝わったことは嬉しく思います。

単調に感じられるのは当方のミスです。私自身単調な(というよりも「つまらない」)純文学は嫌いなのですが、今回は読者さまへの配慮が足りずそのようなものを書いてしまったようです。
引用は個人的に好きでないので、比喩や文章表現、あるいは主人公の心の動きなどを付け足す(あるいはもっと極端に事件を増やす)ことで話に起伏を持たせる必要があるのだと思います。
ご指摘ありがとうございます。

主人公は飲み会を断ったから居場所がないのではなく、居場所がないから飲み会に誘われない、としたつもりです(そのような職場はあるようです)。

一方で総スカンを食らうあたりは確かに突拍子もなく、「話のために仕方なく」なってしまった感が否めません。
工夫が足りないご都合主義になってしまったと思います。

木野の動揺についてもおっしゃる通りです。主人公を睨みつけたあたりにその辺の意図があるわけですが、それ以前にまず動揺する描写がないのは片手落ちだと思います。
ご指摘に感謝致します。

最後になぜ「満足」を感じたのかは、結果的に誰にも伝わらなかったようです。
それが本作で一番書きたかったことなのでその時点で失敗だと思うのですが、他の方々への返信で書かせていただいたように後付けの説明は控えさせていただきます。

ただ、今後も他のことで主人公がやられてしまうのは私は許容しています。
不可逆的な変化は劇的ですが、私は不条理ながらもありふれたことを書きたいと思っているので、その場限りの満足になっている分には肯定的です。
読者さまの感覚とは違うかもしれませんが、爽快感をメインテーマにして書いたものではないので自分としてはその点には納得しています。
もちろん前述した通り、そうでないからつまらない、となると話は違うのですが、その点は別の角度から読み応えを持たせるべきだと自分では考えています。

読んでくださってありがとうございました。
また次回作も読んでいただければ幸いです。

ありがとうございました。

HBK
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スカイ画廊の父さま

ご感想ありがとうございます。

「彼女」については、本文でもカギ括弧つきの「彼女」とするかどうかは迷いました。
しかし書いているうちに、自分の中で彼女=唯一無二の「彼女」という約束ができてしまい、それが読者さまにも伝わるだろう、という期待をいつのまにか持ってしまいました。
その結果木野がいる場面が読みにくくなっている感は否めません。
ご指摘ありがとうございます。今後は読者さまの視点で考えるよう努めます。

「不鮮明な像」に肯定的なご意見もあることを認識できて嬉しく思います。
私としても「伝わらないなら作品の外で説明しよう」という立場にはいないため、どれが何を意味していたかを書くつもりはありません。
ただできることならば主意だけでも伝わるものを書きたいので、もう少し伝わりやすいものを、またもう少し面白く書く必要は感じました(まず面白くなければ考えようという気も起きないと思うためです)。

読んでくださってありがとうございました。
次回もあると思うので、読んでいただけると幸いです。

ありがとうございました。

群青ニブンノイチ
KD106161228237.au-net.ne.jp

このお話で何より信用ならないのは所詮語り手の僕であるべきはずで、語られている景色のほとんどは実際とは異なるただの僕の被害妄想語りでしかあり得ないのではないのか、というのが率直な感想です。

つまり、アスペルガー何とかでも被害妄想を腐らせた秋葉原無差別気質の初期症状でも何でもいいです、所詮くだらなく個人的な、ケチ臭くて臆病なだけの卑屈さが見させる薄暗い逆恨みの白昼夢くらいにしか受け止めようがないということ。
逆さまに読むと普通の僕になるだけの単調な自己愛が丸見えみたいな卑屈で暗くて退屈な世界。

物語として唯一正常に稼働して存在しているのは僕にだけ見える”彼女”のみで、木野さんはそもそも僕に微笑んだり小首を傾げたりなどしてはいないし、心地よく話し相手になってくれているはずもなく、いつか見せた侮蔑の表情はこれまでも散々のぞかせていたものでしかないはずで、同僚たちは僕が思うほど僕のことなど相手にもしていないし、僕の唯一の理解者は上司の三重であって、僕はそんなことにはまるきり気付けないただの愚か者。
振り向いた”彼女”が木野さんであるべき必然性などこの世界には何一つなく、単に僕が苦手にして恨みまくる自分以外という存在の代表としてたまたま適当なタイミングに木野さんがいただけ、もちろん所詮恋しい女という性別として存在していただけ、つまりそんな適当で便利な木野さんすら”彼女”の正体として、適当として僕を裏切ったことにしなければ、僕は一人きりつまはじきにされる僕を僕として受け入れられない、維持できないというケチ臭い自己愛、くそみたいな自分本位という究極の甘ったれ思考こそが自衛の如く要求する”満足”という最低の屁理屈。

個人的には物語として想像させられる人物造詣が貧弱かつ単調なばかりに、あまり好意的な読書ではなかったような気がしています。
あくまでも個人的な読み方というつまり皮肉のようなものでしかないのですが、所詮ディティールが弱い気がしますし、すべては主人公というキャラクターと思考の陳腐さに尽きる心許なさということなのだと感じさせられています。

主人公がアキレウスであることは皮肉として許容できなくもないですし、それ以外を指しても構わないですがそれも所詮退屈な気がします。
ということは、”アキレウスと彼女”というタイトルにはいささかならぬ語弊を思いつかないでもないというのが個人的な感想で、作者が作品について語らないことを是としたがるなら尚更、それほど感心できるものではないなあ、と勝手に決めつけるよりほかになさそうな気にさせられます。

文章はクセがなく読みやすくて、ここのサイトでは貴重な文章力だと感じさせられました。
ボブとして表現される前髪のスタイルはあり得ないので間違いです。
くだらないことばかり言ってすみません。
要するに、どう読もうが登場する人間がチョロい話というのは読み口として浅く感じさせられる気がするなあ、ということです。

HBK
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群青ニブンノイチさま

ご感想ありがとうございます。

なるほど、主人公の造形が貧弱であると、そういった解釈になることもあるのですね。
自分が書いたものがどのような読み方をされるのも書き手として本望なので、群青ニブンノイチさまがそのように読まれたということも興味深く受け入れさせていただきます。
ありがとうございます。

実際この主人公に関しては、何もないことが個性のような人間に仕上げたつもりなので、読み物として退屈だったのは否めないと思います(個人的にそういった行き場のない人間こそ現実的だと思うので今後は書かないという確約はできませんが、しかし見せ方というものを考えるべくプロットを練る作業はしっかり挟もうと思います)。

おっしゃる通り、主人公がアキレウスであることはある種皮肉であり、主人公なりの自虐のつもりです。

自作について語るのはきりがなく、また見ていて快いものではないと私としては考えているため(他にも理由はありますが)、その分肝心の読み物で勝負しようという意思は持っています。
今回は伝えようとするという努力を怠ったため半端な出来に終わったようですが、今後も主人公のあり方そのものや私自身のスタンスは変えるつもりはありません。
ただ、読者さまのことを考えながら書く必要性を一層強く感じたという意味で、本作は書いた甲斐があると考えます。
またいただいたご感想に感謝しております。

文章力に関して、お褒めに預かり光栄です。
ボブカットについては知識不足でした。ご指摘ありがとうございます。

私は主人公の弱さは許容していますが、弱いと浅いが別物であることは認識しております。
今後も弱い人間を書くことは多々あると思いますが、しっかりプロットを練ることで適度な深みが読者さまに伝わるよう書くべく努めさせていただきます(一寸の虫にも五分の魂と申します。誰もが何も考えずぼんやり生きているとは考えていないつもりです)。

作品だけでなく、ご感想への返信にまで目を通してくださったようで深く感謝いたします。
次回もあると思うので、また読んでいただければ幸いです。

ありがとうございました。

スカイ画廊の父
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HBKさん

気になったので、掲載中の『音楽がやんだら』と『信号の多い街』も読んでみました。

三作品とも良かったのですが、やはり私は『アキレウスと彼女』が一番だと思います。
『信号の多い街』は普段みんなが感じていてもなかなか声にできないことを執拗に書いていくところがいいと思いましたが、構図としてはわかりやすいというか少し安直で、簡単なメタファーに還元できるところが不満でした。
『音楽がやんだら』は他の作品とは毛色がちがうようで最後までは広い意味で青春もの、結末はミステリーなのですけど、ありがちだなとは思いましたし、核になる「僕」の殺人の動機が弱すぎるかと思います。
それで再び『アキレウスと彼女』について思ったのですが、これは結末に至るまで、ホラー的要素のある「彼女」とそれを緩和するような木野さんとの対比が良いのだと思います。それがどういうわけか最後に重なるので、なんとも言えない気持ちになるのです。この読後感はあまりないものでした。

いずれにしても語りのうまさは見習うところが多いなと思います。

HBK
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スカイ画廊の父さま

返信が遅れてしまって申し訳ありません。
年始は慌ただしく、なかなかサイトに目を通す暇がありませんでした。

他作まで読んでくださって本当に感謝致します。気にかけていただいて光栄です。

『信号の多い街』はたしかに分かりやすいメタファーになったと思います。その分あっさり目というか、本編での返信にも書かせていただいたように「オチが読める」作に仕上がったように思えます。
深みが足りないという意味で、もっと工夫のしどころはあったようです。

『音楽がやんだら』は自分としては久々に謎を最後に明かす形式で書いたのですが、ある意味「彼女は音楽だった」の一文を書きたいがために作られたものだったため、細部の甘さが目立ってしまうかもしれません。
ご指摘ありがとうございます。

そして本作について、お褒めの言葉ありがとうございます。
結局その両者が合一してしまうところが本作の狙いどころであり自分では一番良いと思った部分なので、そこに何か感じていただければ嬉しい限りです。

いろんなものが不足気味だった本作ですが、スカイ画廊の父さまのように、このままでよいと言ってくださる方がいてくださると少し安心します。
より一般に受け入れられるよう今後も精進していくつもりです。

語りへのお褒めの言葉、恐悦至極に存じます。
ある程度長く書いているので、文章を認められると報われた感がありモチベーションも上がります。

繰り返しになりますが、気にかけてくださってありがとうございました。
他の作品にも取り掛かっているため次作がいつになるかは分かりませんが、ご愛顧いただけると幸いです。

ありがとうございました。

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