作家でごはん!鍛練場
今井 舞麻

ジャンク・プレゼント

「サンタさんが、初めて幼稚園に来た時のことを、僕は今でも覚えています。
 冷たくて張りつめた12月の空を、ジングルベルの音を軽快に弾ませながらそりで駆け、立派な角を生やしたトナカイに牽かれて近づいて来ましたね。僕はその幻想的で多幸感に溢れ、荘厳に満ちた佇まいを見て、ああ、この人は本当に、幸せを届けにやってきた神様の使いなんだな、ということを心の底から強く思ったのです。
 サンタさんは、朝礼台に立って、みんなにプレゼントがある、と言いました。整列していた園児たちはこぞって色めき立ちました。もちろん僕も例にもれません。
 サンタさんは、「特にいい子にしてた子から順にプレゼントを渡していくよ」と言いました。
 僕は日頃、問題ばかり起こして先生には叱られっぱなしでした。だから、とても不安でした。でも、僕のお母さんは「あなたはやんちゃだけど、でもとっても優しくていい子なのを母さんは知ってるわ」と言ってくれていましたし、サンタさんは神様の使いなのだから、行いの良さだけじゃなくてきっと目にはつかない、心の「良さ」を見ていてくれているのだろうと思い、初めのほうに呼ばれることも少しばかりは期待していたのです。
 でも、僕は呼ばれませんでした。いつまでたっても呼ばれなくて、どんどん時が過ぎていきました。
 その時、整列していた僕の隣の子は、僕が気になっている女の子でした。早々に呼ばれて、手にはプレゼントの袋を抱えています。手ぶらの僕は恥ずかしい思いでいっぱいでした。分は魅力的ではない男の子なんだということを、自ら告白しているようなものでした。
 しかし、その女の子の視界に僕は入っていながらも、きっと映ってはいなかったのでしょう。
 女の子は未だ呼ばれない僕のことを、心配そうな目で見つめるでも、憐れむでもなしに、後ろの女の子との会話に花を咲かせるばかりで、これっぽっちも気にしてはいないようでした。
 結局僕が呼ばれたのは、全児童の中で最後から数えて3番目でした。
 きっと一番最後ならまだよかったのです。僕の「良さ」は、いい子の判断の基準としては見てもらえなかったのだと自分を納得させることが出来るからです。そうすれば、自分を否定せずに済みます。
 でも、後ろから3番目、ということは、僕のそういった「良さ」も踏まえて判断した上で、それが他の子と比べて全く取るに足らないものだった、と突き付けられているようなものです。
 僕はその時の気持ちを明確に言葉にできなかったけど、とにかく悔しくて堪らなくなって、険しい表情のまま朝礼台に登り、ふんだくるようにサンタさんの手からプレゼントを取りました。
 礼も言わずに降りて行った僕の後ろから、先生の注意する声が聞こえてきます。
「こら、ちゃんとお礼言いなさい」
 ——だから最後から3番目なのよあなたは、と言わんばかりに。
 それにも腹が立ちました。そうさせたのはアンタらでしょうが。
 それからというもの、クラスメイトは気持ちの悪い増長をするようになりました。
 決して高圧的になることも、蔑むようなこともせずに、柔らかく、思いやりを持って、僕を諭してくるようになったのです。
「人がいやがるようなことはしちゃだめだよ、お天道様は見てるんだよ」って。
 だから僕はその日から、悪人としての役回りを強いられるようになりました。意地を張って、余計にやんちゃせざるを得なくなりました。そこで素直に態度を改めて、周囲からの印象を変えられることが出来るくらい器用であったなら、そもそも僕は、初めのほうに名前を呼ばれていたでしょう。
 結局、あの日貰ったプレゼントは、袋を開ければ皆同じもので、先に渡された子のほうが豪華ということはありませんでした。平等に、差が生まれないように、という意図だったのでしょう。
しかし実際は不公平極まりないものだった。プレゼントでの満足は勿論、いい子であることを肯定してまでもらえた子たちとは裏腹に、僕はプレゼントで得た物質的な充実よりも遥かに多くの、様々なものを失いました。対等な人間関係、善い人でいられる権利、……そして何よりも自分を信じるという心を、僕は失ってしまったのです。これが幸せを運んでくるサンタの本質なら、欺瞞だと思いました」
 青年は読み上げた手紙を破き捨て、長く伸びた白髭の先に銃口をこすりつけた。その動きに呼応して、老人はうぅ、と小さく声を漏らす。
 その、突き付けた腕一本分の距離を隔てて感じる息遣いや、加齢によって漏れる体臭といった類のものは、彼がおとぎ話の住人ではなく、得体の知れた一介の人間であるということを強く実感させていた。
 また、強く風が吹いた。
「ワシは、一人でも多くの子供たちに夢を与えたい、ただそれだけなんじゃ」
 風に捲られて軽々と舞い上がる雪埃の中で、皺枯れた声色だけが鈍く耳元を留まる。
「……今こうして銃を突きつけられている。その状況こそが、あなたの今までの行いが間違っていたことの証明になっているんです。その元凶を作りだしたのは紛れもないあなたなのだから」
 虚を突いて足を払うと、老人はあっけなく転倒した。深く降り積んだ雪が潰れて湿った音が鳴る。
すかさず腹上に馬乗りになってもう一度眉間に銃を突きつけると、短くため息をつく。
「……いいですか。世の中の多くの人間は、幸せを相対的に感じて生きているんです。幸せそのものの意味なんて哲学的で漠然としてて曖昧で、よく解らない。だから世の中の風潮が決めた指標に基づいて幸せが何かを判断し、他人と比較するしかないんだ。曖昧だからこそ周りを見渡して、隣の家庭、身近な友人、同じ国の人々、そういった目に見える比較対象にすがって、ようやく幸せを掴める。だが、そうして比較するから、作りだされた幸福と同じぐらい、不幸な人間が生まれてしまう。サンタクロースがしてきたのは、幸せで蓋をして、より多くの不幸を贈ってきただけの行為に過ぎないのです」
「ワシの配るプレゼントで格差が生まれ、上の者は富み、下の者は持たざる者になったというかね、なるほど。だが君が今、そうして饒舌に語り、ワシに銃を向けるのは、富める者が決して持つことのない価値観と、疑念ゆえな訳だろう? それは、「得たもの」なんじゃないかね?」
 老人は額に付いた拳銃を右手でゆっくりと払いのけ、それによって開かれた視界からじっと青年を見つめた。
「それを、それを幸せだと思えるのは、心の強い人間だけだ!」
 沈黙が流れた。老人は依然青年を見据えたまま、表情が変わることはない。
 青年はそれを見て再び口を開いた。
「……人間はその相対性から軽々しく抜け出せるほど器用じゃない。だが、その価値観の格差が縮まれば、それに代わる新しい幸せを考えなくてはならなくなる。そうして各々が幸せについての解釈を持てば、問答無用で相対的に不幸にさせられる者は生まれなくなる。どうです、これこそが理想の社会だ。クク、そして不幸をばらまくあなたが死ねば、人類は理想に、新たなステージに一歩近づく! ほら、サンタさん、教えてくださいよ。あなたを殺して社会全体に幸せを運ぼうとしている僕は今、何番目にいい子なんです?」
 パン。
 乾いた銃声がフィンランドの森に響き渡った。
 赤い血はとめどなく流れて、美しく、または醜く白雪を蝕んでゆく。
「……クリスマスには少し早いが、ワシからのプレゼントじゃ。誰よりも早くもらえて、嬉しいじゃろ?」
 雪で覆いかぶさったサンタクロースの左手には、拳銃が握られていた。あらかじめ腰に隠していた拳銃を、押し倒されて雪に埋もれた際に、そっと左手で引き抜いていたのだった。
 こめかみを撃ち抜かれた青年は即座に絶命し、ゆっくりとサンタクロースの胸に倒れこむ。
「悪いな、お前さんのよくわからん理論よりも、ワシは贈り物を受け取った子供たちの笑顔のほうが大事なんじゃ。……それを思い浮かべるのが、ワシにとっての幸せ、なんじゃからの」
 サンタクロースは開きっぱなしだった青年の瞼をそっと閉じると、山小屋を後にした。
 誰もいなくなった北欧の針葉樹林は、遠巻きに鳴るジングルベルの音色だけをわずかに残して、再び静寂に支配された。

 

 

ジャンク・プレゼント

執筆の狙い

作者 今井 舞麻

クリスマスも近いので、ちなんで物語を考えてみました。テーマ性を持たせたつもりではあります。

コメント

群青ニブンノイチ

例の放火大量殺人犯の言い訳を言い訳にし切れずに、ただごとにまとめたような中折れアイデアといった印象でした。
意地の悪いような言い方ですみません。

尚且つ、問題発言として何ごとかを巻き起こしてしまったらすみません。
ですが、個人的にはテキストベースの不特定無責任正論暴論には付き合う筋合いもないという了見でいますので、あえて言わせていただくものなのですが、こういった理屈未満みたいな暴発的創作アイデアは小説を装いつつ所詮小説ならざる貧弱さを少しも憚れずにいるような油断こそを一番に白状してしまったもののように感じさせられて、個人的にはある意味創作としての迂闊さのようなことを思いつかされた気がしています。
この作品を著すことによって作者なりに期待したかったはずのシナジーのようなものを、落ち着いて再検討されるべきなのではないのか、といったようなことを考えさせられました。


こちらの読み違えということでしたらすみません。
冒頭からのレター形式の鍵括弧についてなのですが、作品終盤近くまでその形式が認識できないのは設計として不親切というよりは、余計な混乱を招くだけ単純に作品の印象として損のような気がします。
記号を使い分ければいいだけの問題のはずですから、エスコートという意味での表記の工夫を意識された方がいいような気がしました。

u

今井 舞麻さま  よみました

自己中小説かな? ゴメン

最終的に落ちで(小説的)な体裁なのですが

この落ちがジコチュウを強化しているかも
外へ拡がっていない うちへ内へという感じネ

↑の人と同意見かも チガウカ?
↑の人でしょさんみたい 作者さん知らんやろうけどwww

御健筆を

上松 煌

 今井さま、拝見しました。
非常に後味の悪い話しで、最初のころのプレゼントうんぬんの「ですます体」のところだけ読みました。
他罰と女々しい自己肯定だけの実にくだらない内容で、これっぱっちも共感できない犯罪者人格の主人公に嫌悪だけが残りました。
このような話を一体、だれが好き好んで読むのかと疑問でいっぱいです。
また、作者のあなた自身がこのような反社会性を持つならば、それは早期に療育されるべきものです。

 今の世の中は、このような人間性を持たない人非人が毎日犯罪を犯している、ゆがんだ世相です。
願わくば、万人の心奥に存する良心を喚起し、慈愛と利他の精神を鼓舞する作品を書いて行きたいものですね!

えんがわ

序盤、とても良いです。

このサンタを信じる心の喪失のエピソードは、実にリアルな感覚が迫ってきて、もう、ここからの話の展開次第では、ものすごく良い話の長編も書けるし、心の底からのダメ人間のエピソードも書ける、そういうどちらにも転びうる危ういバランスを伴いつつ、劣等生の持っているその体験のちょっと暗色のうじうじした感じが出ている。

少なくとも自分は自分の子供の頃を思い出させられてしまった。

ここからとても期待してしまいます。

ここの素材というのは単にこの話みたいに負に傾くものでもないし、サンタを信じれなくなったというのはだれしも経験することだけど、それは成長に伴う痛みだし、自分が誰かの良いサンタになって、という話はありきたりだけど、どこにでも転がっているよな。

でも、ここで主人公は成長を止めてしまう。
いびつに醜く、歪んでしまう。
この不快感は実はある程度コントロールしたものだと思う。

もう、その少年は青年になって、とってもくだらない人になってしまう。
同時にそれにつられて話そのものも妙に小難しく、前半のあるある体験から離れ、どんどん電波的に厨二的になっていく。話自体がくだらなくなるのも、非常にシニカルな展開。
それがこの作品の値打ちだと思う。この嫌な感じこそ。


「……いいですか。世の中の多くの人間は、幸せを相対的に感じて生きているんです。

からの青年の主張に同意することは少なく、むしろそこに憐みのような切なさまで感じてしまうが。
そのトーンそのものが、幼少期の出来事をきっかけに、悲劇的な成長を遂げた彼の、どうしようもない。
わからなくなってしまった。

でも、これはこれで効果的だと思うけれど。そっちは「逃げ」のような気がする。
これを長編にしろ、短編にするにしろ、青年の歪んで成長していく過程を向き合って描き切ることが出来るか。
あるいは、書いているうちに、救いを与えたくなったりするかもしれない、ありきたりなハッピーストーリーに路線が変わるかもしれない、そこに何かしらの今井さんの葛藤をぶつけられるか。

そのようなものを書けると思うんだよな。
それくらい前半のエピソードは、誰にでもある、でも見つめたくなくて忘れていく傷をえぐりだすパワーがあったんで。
それを化膿させていくか、癒していくか、その過程を描ける胆力があれば、すごいものを書ける気がします。
その傷から、一気に狂人になって、死んじゃうんじゃなくて。

なにいってんだかわかんないね。なんか自分の青臭い妄想みたいなものが働いてしまったというか。なんかすいません。

今井舞麻

群青ニブンノイチさん、感想ありがとうございます。確かに中途半端になってしまった感はあります。もう一度シナジーについてよく考えてみようと思います。
記号についてもわかりやすい物に変えようと思います。ありがとうございました

今井舞麻

uさん、感想ありがとうございます。自己中小説、確かにその通りだと思います。伝えたいことを言った後は、キャラクターにちゃんと否定させることで釣り合いを取ろうと思います。ありがとうございました

今井舞麻

上松煌さん、感想ありがとうございます。嫌悪感抱いたと言う意見、深く受け止めました。その感情をサンタクロースに持たせることで作品としての深みを出そうと思います。ありがとうございました

今井舞麻

えんがわさん、感想ありがとうございます。幼少期の感情に共感していただいて、とても嬉しいです。青年になって行く過程の考え方の変化などは、この小説を長編で書く機会があったら是非やってみたいと思います。短編だとどうしても深みが出ず、結果逃げ、になってしまったのは反省点です。ありがとうございました!

跳ね鳥

サタンはサンタですね。

mynameイズサタン

ら、Petitサタン

ないストゥーミートュー♪

デビルロングボトムより

はるか

 今井 舞麻さま

 拝読しました。

 今日まで気付かずに、読むのが遅れてしまい、だから感想を書いても読んでもらえないかもしれないけど、読了したのでいちおう書かせてください。

 構成、しっかりしてるし、長い手紙から覚めるあたりも、実に気持ちがよく、遡って最初の 「 を再発見したくらいで、つまり、手紙の文面にすっかりひきこまれていました。心情、とてもよくわかります。

 手紙から覚めてからのblackな展開も、うまく書けてると感じました。文章的に読みやすかったし、わかりやすかったし、破綻もない。ただ、クリスマスに、あんまりこういう話は読みたくない、と思っちゃう人も少なくはないでしょうね。

 ともあれ、作品としては面白かったです。明日には私も、フィンランドな話を投稿しよう、とか思ってます。でもって、そのあと、ハッピークリスマスを迎える所存です。それから、ハッピーニューイヤー。先月はハッピーバースデーだったんで、ハッピーの目白押しです。どんな闇の中にも光は生じます。御作が語るように、光ゆえに闇の生じてしまうこともまた一面の事実ではありますが、光の中の闇を書くのも、闇の中の光を書くのも、書き手の裁量でありましょう。闇や光を超えたところを描くのも、また書き手の裁量であるかと私は思いますが。

 いろいろ思える作品でありました。ありがとうございました。

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