作家でごはん!鍛練場
しろながすイルカ

今年の不思議は ひと味違った不思議だった

 あじぃ……。
 田舎と言うより秘境という蔑称が似合う無人駅。駅だという証拠の線路と、白い手摺りにぶら下げられた所々赤茶けた鉄で出来た看板。
 なんとか――駅。
 いくら利用客が年間一桁だからって、鉄板に錆が浮きすぎて駅名が分からなくなっても放置するとは、私鉄会社もこの駅の存在を忘れてるんじゃないか。そんな事を思わなくもなかったが実際には列車は止まり、目を見開いた車掌と目だけであいさつを済ますとコンクリートで出来たホームから地面へと降り立った。
 屋根も壁もないホームというよりはただのコンクリートの基礎。そこから目の前に見える山中へと二時間ほど歩いた所が俺の目的地だった。

 今年は特に猛暑日が長く続いており、そんな中で盆休みに秘境の山中を訪れる愚か者な俺は世間一般から見たら変わり者だろう。
 単線の、電車ですらなくディーゼルの列車でダイヤは一日数本。この駅の前後の駅でまだ利用者がいるからここも残っているような状況だが、その内廃駅になればレンタカーでここまで運転してこないと行けなくなる未来が来るかも知れない。車では道が細いからバイクか? 道が悪いから三輪の……トライクといったか、あれでも使わないとたどり着けないかも知れない。
 頭の中でぐだぐだ考えていても、まるでプログラムされていたように体は歩き続けていて、目的地の一軒立ての平屋まで辿り着くことが出来た。
「変わってねーな」
 標識には『時逆』とかかれ、俺の母が嫁ぐまで名乗っていた名字と同じだった。小さい頃、この時期になると何度も母親と一緒にここに訪れ、たった一拍してそのまま父の元にトンボ帰りを続けていた。
 父も来たがって居たが、一緒に来ても隠れて付いてきてもこの平屋に辿り着くことはできず、母と俺が帰るときになって野宿した父を拾って帰ることが数回。迷子になった父に必ずすぐに再会出来た事もそうだが、必ず迷子になると諦めた父は俺が中学に上がる前には、ここに来ようとはしなくなった。
 母の両親に挨拶にくる時にだけは、この家に辿り着くことが出来たそうだが。
 世の中には不思議が隠れ、隠れた不思議は日常に押し潰されて日の目を見ない事が多い。それを知り、実感している身からしたら父はよく母と結婚したものだと呆れるような感心するような。
「二人とも何だかんだで仲、良かったよな」
 手入れが行き届いているかのような庭を横切り、財布の小銭入れのチャックを開き鍵を取り出す。
 一年ぶりに回す鍵はスムーズに言うことを聞き、非日常の口を大きく開いた。

 庭に何故か野生化せずに繁茂している野菜の群れに飛び込み、欲しい食材を集めたあとは適当にかまどで鍋に突っ込み夕食を作る。冷凍し、保冷剤も一緒に入れて万全を期していた肉はなんとか生還したようで、変な臭いもせずに目の前のごった煮の主役を主張していた。
 今だとLEDなんだが、明るすぎると評判が良くないので蝋燭を縁側と、そこから臨める庭に数本置いていく。ぼんやりとした灯りは星の煌めきに異を唱えることはせず、自然と人工物が幻想的に入り交じった世界を作る。
「早く来ないと冷めるぞ。今年は誰が来るんだよ」
 何処へともなく少し声を張り上げると、無理矢理音を消し去った残滓が耳に届いた。
 二匹の狐。
 さすが野生の獣というのか、肉球や歩き方で音を殺しながら近づいてきた狐たちは、俺が庭に鍋を置いてやると夢中になって食べ始めた。
 俺もそれにならって食事を開始するが、どうにも今年は嫌な予感がしてくる。時折こっちを確かめるように見つめる二匹の狐。どうにか俺の予想が外れて欲しいと願って、俺と二匹、同時に夕食を食べ終わった。

「……まじで最悪だ」
 縁側の固い床板から体の節々をほぐしながら起き上がる。『時逆』の家は寿命がきて亡くなった先祖が山の動物に生まれ変わり、自身の過去を年に一度、子孫に伝えにくる。
 それが有益だったり無益だったりと色々だが、今年は益どころか有害だった。
「何が悲しくて両親のなれそめなんて見せられなくちゃいけねんだよ」
 恐らく、いや絶対に両親の生まれ変わりの狐はすでに庭にはおらず、空の鍋だけが残っている。
「『時逆』の血でもないのに転生してんなよ親父。二人してまた一緒になってるって未だ独身の俺への当てつけか? 催促か?」
 逆再生のように体を倒し、夏の日差しを全身で浴びると眠気の優先順位は下がり、悪夢ではない夢の余韻に浸り、これからの事を考える。
「まだ、瞳さんって独身かな」
 葬式をあげた両親に背中を押されたようで気持ち悪いが、こういうのは勢いが大事だろう。スマホの電波が届くところまで戻ったら、適当な理由で誘ってみるか。
「んじゃ、また来年……いや、今年にまた来るわ。相方がいるはずだから迷子にしないでくれよ」
 ご先祖の誰が聞いているか知らないが、誰かが聞いているだろう。
「はあ、帰るか」

今年の不思議は ひと味違った不思議だった

執筆の狙い

作者 しろながすイルカ

ハイファンタジーは良く描いてますが、ローファンタジーの練習にと描いてみました。
現実に自然と入り込む非日常を違和感を与えず読者にの頭の中に滑り込ませる。
それを意識して書いてみました。

コメント

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しろながすイルカ様 読みました

冒頭>田舎と言うより秘境という蔑称が似合う無人駅。駅だという証拠の線路と、白い手摺りにぶら下げられた所々赤茶けた鉄で出来た看板。なんとか――駅。いくら利用客が年間一桁だからって、鉄板に錆が浮きすぎて駅名が分からなくなっても放置するとは、私鉄会社もこの駅の存在を忘れてるんじゃないか。

あたしは主人公がこれから列車に乗るシーンかと思いました。
でも降りるシーンなのね。
若干不親切かなあ。降りてからこの文章を置くのが適切ではないかと思いました。
マア、主人公去年も来てるじゃんといわれれば、それまでなんだけどね。

あたしハイファンタジー・ローファンタジー違いワカラン。
でも本作は落ちも王道ホンワカしたムードで良かったです。

とくに狐いい! 犬とか猫とかだったら蹴っ飛ばしていたネ(笑

ありがとう 御健筆を

しろながすイルカ

ご感想有り難うございます。
読者の視点、考えを予測しながら書くというのは難しく、気付くことが出来るご意見を頂けたことに感謝です。
ハイファンタジー、ローファンタジーの捉え方は完璧な規定があるわけでないので、分からないと思っていても読んで下さり有り難うございました。

群青ニブンノイチ

お話の背景は悪くないと思うのですが、何しろ基本的な文章力が拙い印象で今一つ入ってきづらい印象でした。
それぞれがそれほど熱心に読み込むほどの場所でもないはずなので、不案内な文章は読み手の集中力を露骨に奪うことをもう少し理解するべきのような気がします。
もしくは作者なりに突き抜けたいだけの魅力的な文章を否定されても提案したがるような具体的な気配を惜しまないとか。

世界というなりには文章にも映像は付き物と思いますが、人によって映像が走りがちな人、またその逆の人もあると思います。
作者の場合恐らくは前者で、個人的には読み手としてそういったことを弊害のように感じさせられたということなのかもしれません。
文体や言質に固執しすぎる書き手もどうかとは思いますが、もしかしたら作者はある程度文章としての文章表現に意識を傾けて臨まれた方が今のところは効果的なのではないのか、といった印象を受けています。
同じ世界を、最低限ちゃんとした親切な文章に起こすことは、この作者にはそれほど困難な課題ではないような気がします。

しろながすイルカ

ご感想、ご意見有り難うございます。
文章力の拙さ、イメージ優先の文章表現、その通りだと実感してます。
読者を考えた文章、読ませるための文章、勉強不足を感じましたがそれを理解させて頂き、改善する方向性が見えてきたと思います。
重ね重ね有り難うございました。

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