作家でごはん!鍛練場
久方

四題+α

【店長】

レジの前の電話が鳴った。
俺は一度軽く咳をしてから、受話器を取った。
ピンクのそれはなかなか重くて、手にずっしりとくる。やはりピンクのコードが絡まって、重さが加わる。
耳に当てた受話器から聞こえた男の声は怒りに満ちていた。
「どういうことやねん! 俺は可愛い子って頼んだんやぞ。こんなブス、どうしてくれんねん!」
「すみません。こちらの手配ミスでした。心から謝罪致します」
「そんなことはええ、もう帰るから、チャージ料口座に振り込んどけ」
「かしこまりました。大変申し訳ありませんでした」
「ふん!」
電話はガチャンという音がして切れた。
俺は髪を少しさわって、受話器をそっと置いた。

帰ってきたサワ子は泣いていた。
俺はミントの板ガムを口に一枚いれた。
「まあ、しょうがない。そういうこともあるって。相手さんの好みって分かれへんからな」
「でも、わたし、ブスって言われたの初めて……」
「ま、そうやなあ。ブスじゃないわな」
「それ、どういう意味ですか」
サワ子がキッと俺をにらみつける。
「いや、言った通りの意味や。俺はもう上がるから、後始末頼むで」
後半は、まわりにいたスタッフたちに言った。
その中にいたボーイの三郎がサワ子に近づいて、
「大丈夫ですか」
と聞いた。
サワ子はその手を振り払って、
「気安くさわらないで!」
と言った。
No1の女王は、威厳を取り戻すように美しく歩いていった。

店の裏口から外に出ようとすると、ドアの横にNo2が立っていた。
「いい気味。サワ子のやつ」
「聞いとったんか」
「そりゃ、もちろん。あの子がこの店に入って初めてのクレームね」
「そやな」
俺はまだ口の中にあったガムが気持ち悪いなと思い始めていた。
No2、メグは薄ら笑いを浮かべて、
「とにかくいい気味。私のいた場所を取ったりするからよ」
「サワ子が来る前は、他のNo1がおったやろ」
メグは眉をつり上げて、俺を見た。つぶらな瞳と茶色いパーマの髪が可愛いのになんだかもったいないなと、よく思う。
これさえなきゃNo1になれるかもしれないのに。いや、無理か。

《sideサワ子》
なによ、店長のやつ。
ちょっとかっこいいからって!
でも、顔はあんまり格好良くないわよね。長めの黒髪と長身で誤魔化されてるような気もする。
店の女の子の中にも店長ファンが多いみたいだけれど、あんなののどこがいいの。
ああ、自分の部屋は落ち着く。ショッキングピンクと黒のベッドに座っていると、本当に疲れが消えていくみたい。
ベッドの上に置いていた携帯が鳴った。
げ、店長からだ。
「はーい」
「えらい機嫌がいいな」
「そう?」
「ま、ええわ。今度の日曜日空いてるか?」
え、もしかしてデートのお誘いとか。
「えと、聞いてどうするんですか」
「いや」

遅れて来たサワ子は、いつもとは違ってボーイッシュな格好だった。
長い金髪は巻かずに、化粧も薄め、ぴったりとしたTシャツにジーンズだった。
「どうしました」
サワ子を見ていた俺の目をサワ子がのぞきこむ。こいつ、確信犯だな。
「ま、ええわ。遅刻の理由を聞きたいけど、今日は接客の特訓や。それはまた後にする」
「えー、つまんない」
「なんでや」
「だって、店長と二人っきりで会えるからオメカシしてきたんだもん」
そう言ったサワ子はもう一度俺の目を見た。
いつものサワ子なら興味ないねんけどな……思わず抱きしめそうになる。
「そんなことより、接客の第一は……」

「サワ子と寝たんですって?」
俺の横で化粧を直しているメグが言った。
「え、なんの話や」
「あなたがこの前の日曜にサワ子と会ったこと、知ってるのよ」
「ははん、三郎やな」
「そんなことどうでもいいわ」
「なんや、心配してるんか」
「気になるわよ! 悪い?」
俺は、メグの腰を引き寄せた。
「心配すんなって、そんなことはないよ」

レジの前の電話が鳴った。
俺は重い受話器を取る。
「よう、この前はブスだったけれど、今度の子はええやん」
「左様でございますか」
「この子の名前、何やったかな」
「メグ……です」
「そっか、また来るわ! あんがとさん」
俺は受話器を置いた。
そして、ミントの板ガムを一枚口に入れた。




オーナーは帳簿を見て、眉間にシワを寄せた。
「今月は売上がかんばしくないね」
そう言って、帳簿をカウンターに置かれた。ページが少しだけめくれた。
「すみません」
「あの子は、ほら、どうした?」
「サワ子ですか?」
「いや、No3の子だ」
「ああ、キヨミですね」
「そうそう。その子を今度、改良してあげるといいよ。なかなか見込みのある子だ」
「はい……わかりました」
オーナーはそうおっしゃって、マフラーをつけ直された。コートの紺とマフラーの茶が彼によく合っていた。
「じゃあ、また来月に」
裏口で、彼の後ろ姿が見えなくなるまで立っていた。
メグが呼ぶ声がする。
俺は返事をして、店内に戻った。
三郎がメグに声をかけていた。
俺に気づくと、ちょっと嫌な顔をしたあと、俺に頭を下げた。そのまま自分の位置へと戻っていく。
その姿を見ながら、なぜか
「ああ、キレイだな……」
と思った。

「あの……お店辞めたいんです」
三郎が言った。俺は打っていたレジの手を止めて、三郎の顔を見た。
口を真一文字に結んでいる。
「なんでや」
「その、知り合いのホストの方に誘ってもらってて……」
「引き抜きか」
「そんなんじゃないです!」
「じゃあ、なんや」
「店長はメグさんのこと、どう思われてるんですか」
「そんなの秘密や」
「僕、本気なんです」
「は、はは」
三郎は俺をまじまじと見た。
「もう一度聞かせてください」
「もう今日は終わりや。辞めてええで」
その瞬間、顔面にパンチがとんできた。

その夜なぜか俺は酔っていた。
店の酒に手を出したのは初めてだった。
もともと強い方ではない。
キープされていないウィスキーを適当なグラスに注いで、一気に飲んだ。
「ごほっ!」
思わず、むせかえった。
こんなに強い酒だとは思わなかった。よくこんなの大量に飲めるな……。
ナプキンで口をふいて、息を吐いた。
携帯をポケットから出して、メグの番号を表示した。
発信を押そうとして、三郎の顔が思い浮かんだ。
「ち……」
やっぱり発信を押して、三回コールを聞いた。
それから、切って、カウンターに乱暴に置いた。

翌日、遅くに出勤した俺に三郎が話しかけてきた。
「店長、僕、辞めるのやめました。僕、本当に本気なんで。それだけお伝えします」
俺はただ、黙っていた。
三郎が去る後ろ姿を見て、また同じことを思ってしまった。
俺もどうかしてる……。
そう苦笑いをして、電話の置かれたカウンターに入った。

〈始めに戻る〉


【嫁。とハルキスト】

『嫁。』

家に帰ると、嫁が安楽椅子でポテトスティックを食べていた。
ポテトスティックはCalbee製で、緑色の箱に描かれているポテトのイラストが嫁に似ている。

安楽椅子は、嫁が五年前に買ったものだ。
家のインテリアに合わないからやめろと言ったのに、どうしても欲しいと買ってしまった。
大きさはかなり大きくて、大人が十分座ることができる。少し傾いた背もたれが気持ちいいと、嫁は気に入ったようだ。
僕は座ったことがない。
座ると、なにやら運が離れそうな気がする。

茶色いアンティーク調の椅子を眺めていると、嫁が
「ご飯にする?」
と言った。僕が
「それ食べたい」
と言うと、嫁は立ち上がって、お菓子入れの引き出しから彼女が食べていたものと同じものを持ってきてくれた。
彼女は、いつでもお菓子を二個買う。自分の分と、いざ僕が欲しいと言ったときのためだ。いい嫁だ、とつくづく思う。
お気に入りはもう一個買う。
そこは、まあ、ご想像にお任せします。

嫁に
「ありがとう。でも君、あんまり食べてると」
と言うと、目がギラリと光った。
「なに、あなた、食べないの」
「ええとそういう訳じゃないけれど。夜は同僚と食べてきたし」
「そう……」
嫁はそう言って、椅子の上でむこうを向いてしまった。

僕はちょっと怒っていた。
怒る筋合いがないのか、あるのか、よく分からないけれど。
嫁があれから口を利かない。
彼女は安楽椅子にも座らずに、自室にこもってしまった。
仕方なく、リビングに行った僕は、安楽椅子を眺めた。
座ってやろうかな……。
二分ほど見ていたが、やっぱりやめた。

翌日、仕事から帰ってくると、嫁が安楽椅子に座っていた。
僕の方を見て、
「なにか食べる」
と聞いた。僕は
「それ食べたい」
と答えた。
嫁は安楽椅子から立って、お菓子入れの引き出しを開けた。
そこには、二個のポテトスティックが入っていた。

おわり


『嫁との出会い。』

僕が嫁と出会ったのは動物園だった。

その時、僕は大学生で、一人で日曜日に動物園に来ていた。
ゴリラの柵の前で、女の子が一人で木にぶら下がるゴリラを見ているのを横目で見ていた。
女の子はつばのある帽子をかぶっていて、僕に視線には気づいていないようだった。
女の子は、真剣な眼差しでゴリラを見ていた。そこに、女性が一人きて彼女の手を引っ張った。
「ほら、変な人がいるから、行きましょう」
女の子はびっくりした顔をしてお母さんらしき女性に連れていかれた。

「変な人じゃないのにね」
いきなり声がして、僕もびっくりした。
振り返ると、女の子が立っていた。
女の子と言っても、ぼくと同じくらいの年齢に見える。
「ね」
彼女はもう一度それだけ言った。

気がついたら、僕たちは一緒に動物園をまわっていた。
パンダの柵の前で、
「アイスクリームが食べたいな」
と彼女が言った。
僕は売店でアイスクリームを二つ買った。
そんなことは初めてだった。
「パンダって白いよね」
バニラアイスクリームを見つめながら、彼女が言った。
「黒い部分はどうしてあるのか知ってる?」
「さあ」
僕は自分のチョコバニラアイスクリームを見て答えた。
「まるで、私とあなたみたいね」
「どっちが白で、どっちが黒なの」
彼女はそれには答えてくれず、ひらりとスカートをひるがえして、走り出した。
あ。
僕はその時、
どうしてもつかまえなくちゃ!
と思った。

そして、五年後。
嫁は安楽椅子にもたれている。
僕が
「バニラアイスを買ってあげようか?」
と言うと、
「あなたはチョコバニラね」
と答えてくれた。

おわり


『小文。』

僕が書店の中につくられたカフェで、買ったばかりの村上春樹の本を読んでいるところだった。
ハードカバーの単行本の少し黄色いページを眺めていると、そこに影ができた。
顔をあげると、目の前に白いワンピースを着た髪の長い女の子がいる。
僕のアイスコーヒーの氷がカランという音を立てた……。
「好きなの、村上春樹?」
女の子が言った。
「あ、まあ」
本当はファンというより流行りで買ったのだった。
「面白い?」
女の子はまた僕の目をのぞきこむようにして言った。
「素敵よねえ。私もそんな恋したいわ」
僕はなにも言えず、ただ女の子の白いワンピースを見ていた。

その夜、僕は彼女を抱いた。
腕の中で、彼女はイルカのようだった。
しなやかで神秘的。そして、柔らかかった……。
帰るとき、彼女は
「また会うことがあるかも」
と言った。

そして、ずっとあの書店に通っている。
時間を見つけては、カフェのテーブルでアイスコーヒーを飲みながら彼女を待った。
いつか、彼女のことを忘れるようになっていた。

僕の読む単行本に影ができる。
「また会ったわね。私のお隣さん」
そう言った彼女が持っていたのは『ティファニーで朝食を』だった。
会えなくなってから三か月目。
彼女はまた僕の前から消えたりしてしまわないだろうか。

そうして、今でも彼女は僕の家にいる。
名字が僕と同じになって。

(了)


【リーマン編!】

『佐倉』

屋上の風は生暖かい。空気は九月のもので、空には鉛色の雲が浮かんでいる。
今にも水滴が落ちてきそうな空を眺めながら、今日はそういえばもう二日なんだなと思った。
俺の好みの女はどこにいるんだろうとか思いながら、そんなことはとっくの昔に無理なんだと気づいていた。
女の子っぽくて、背が低め、そうして目がぱっちりだと言うことない。
服装は少女っぽく、広がったスカートなんかが似合うと言うことない。
屋上の柵にもたれかかって、買って半年ほどになるタブレットパソコンを眺める。
軽さが売りにこのパソコンも、両手にぶら下げていると結構重い。
(腹が立った時にベッドにぶつけて以来、画面が変形している。よくもまあ、いまだに動いてくれるもんだと感動する。曲がって、膨らんでいるもんだから、手で持ってうたないとみっともない音がする。それで、こうやって、こんな所でのんびり眺めているわけだ。)
ぼんやりと、パソコンのネット画面を操作していると、後ろで金属製のドアの開く音がした。錆びついた金属と金属のこすれあう独特の音だった。重いその音を聞きながら、そっちを見ようかどうか悩んだ。
女の声がした。振り向くと、同じ課の佐倉だった。佐倉いわく、部長が呼んでいるから来いとのことだった。
俺は、適当に返事をしてから、柵のある段を下りた。コンクリートのその段は、高めで足元があやしくなりかける。
佐倉はそんな俺をつまらないものを見る目で見て、急かした。
(部長の前に行くと、部長はこちらを見ようともせずに、書類をめくった。数十枚はあろうかと思われるその書類群は、どうやら次に会議のものらしい。
部長は俺に一枚だけ渡して、ここの正誤を確認するようにおっしゃった。)
家に帰ると、佐倉からスマホにメッセージが入っていた。うるさい道を歩いて帰ったから気がつかなかったな。
そのメッセージには画像が添付されていた。何かと思って開いてみると、メイド姿に扮した佐倉の全身写真だった。
何やってんだ。
思わず、飲んでいたフルーツジュースを吹きそうになったが、ふと、まあ、こういうものが理想というやつなのかもしれない、と思ったら笑えてきた。




『宮城』

部長がおっしゃるには、今期の成績は俺が一番だったらしい。
グラフに花がつくというやつだ。
部長は満面の笑みで
「いや、嬉しくてたまらないよ」
とおっしゃった。
デスクに戻った俺は、椅子を深く入れて、デスクに立てている卓上カレンダーに目をやった。事務的なそのデザインを眺めながら、九月二日、今日の予定を見た。
『美咲の誕生日』。
美咲の顔が目に前に浮かんだ。いつも不機嫌な顔で、俺をにらむように見る。
それから部長の笑顔が思い浮かんで、首を振りそうになる。
「部長、今夜、ご予定はありますか」
部長にデスクの前に行ってそう聞くと、部長は
「いや、今日はふさがってるんだ。悪いね」
とおっしゃった。
そうですかと頭を下げて、自分のデスクに戻る。
夜、会った美咲はやはり不機嫌な顔をしていた。病院に勤める俺の恋人。
彼女と会うのは二週間に一回、金曜日の夜とたいてい決まっている。
ピンク色の半透明のワンピースを着た彼女は髪の手入れも行き届いていて、仕事上がりだというのに、きちんと美しかった。
俺は、彼女の肩を抱いて、レストランへと向かった。
「悠介、今日は営業成績発表の日だったんじゃない」
「ああ」
テーブルで、運ばれてきた料理を嬉しそうに見た美咲は言った。俺は、あいづちを打つ。
「どうだった、トップだった」
「ああ、そうなんだ」
「嬉しいわ。その調子で頑張ってね」
その時、後ろの入り口から、男性の二人組が入ってくる声が聞こえた。
「部長、どうでした、今回の成績発表」
「それがまた、宮城がトップだったよ」
「つまんないですね。本当は二番手推しなんでしょう」
「だな、あいつは下らない」
「ですよね、俺だって、佐竹の方が可愛いですよ」
部長は俺に気づかずに、奥の部屋へと案内されていった。
「宮城って、あなたのことじゃないわよね」
そう言う美咲の声は笑っていなかった。




『竹間さん』

カピバラさんの卓上カレンダーは、俺の机の常備品だ。
隣の女性社員、竹間さんがそのカレンダーを見て、吹き出した。
デスクからイスをかなり引いて、そうしている竹間さんは、
「君、三十にもなって、そんなの使ってるの」
と言った。
「ひどいっすね。カピバラさんは、俺の永遠のアイドルっすよ」
「ふーん」
竹間さんは、デスクに戻って、自分の仕事を再開されたようだった。
その日の仕事上がり、竹間さんを飲みに誘った。
「お、もしや、デートのお誘い」
「な訳ないでしょ、次のプランについても話し合いたいし、ちょっと付き合ってくださいよ」
「おーけー」
結局、寝てしまった。
「ふーん、パンツもカピバラ柄かと思ったけど、違った」
「当たり前でしょ! 三十にもなってカピバラ柄のパンツはいてる男がいるんですか」
「あ、永遠のアイドルじゃなかったの」
「えーと、それは」
「よし、では、わたくしが今度買ってあげよう」
「冗談でしょー」
「わはは」
結局、今日はカピバラ柄のパンツをはいてきた。
どうして持っているのかは秘密だ。
さて、竹間さんを飲みに誘うかな。




【雷と魔術師協会の秘密(番外編)】

『協会長』

自室から階段を上がる。一階の中央部屋の机の下に出る。
机が元の位置に戻るのを見ていると、右後ろのドアが開いた。
「ツヴァイさん……」
「ああ、協会長、お目覚めですか」
「今日は遅くなってすいません。変わりはありませんでしたか」
「一件、魔術師どうしの喧嘩がありました」
「それで?」
「なんとかなだめておきました。たいした事じゃなかったんですけどね」
「そうですか……」
僕は小さくお礼を言ってから、彼の目を見た。
「奥さんに会えなくて寂しいでしょう」
ツヴァイさんは僕のすぐ近くにきた。机と彼の間に挟まれる。ツヴァイさんが机の上に右手を置いた。
「生意気言ってんじゃねえぞ」
「僕は、これでももう一七です」
「そう、それならやらせてくれる」
「…………」
「冗談だよ……。さて、面接の仕事に戻りますか」
そう言った彼は、泣いていたような気がする。




『リム』

ツヴァイが帰ってこなくて寂しい。
結婚する前はずっと一緒だったのに、あんな所に行っちゃって私の側にいてくれない。

ダンケとシェーンの騒ぐ声が聞こえる。
二人ともダンケの部屋にいるみたいだ。
小さい時は私たちもああやって同じ部屋で遊んだものだわ。おばさんにお菓子作りを教えてもらったり、楽しかったなぁ。

鏡に自分の顔をうつしてみる。
短く切った髪が、彼はあんまり好きじゃないみたい。
もう一度のばそうかな……。


台所のテーブルに一人でぼんやりと座っていると、
『テレパ!』
という声が聞こえた。
目の前の赤い炎の中に彼の顔が映り始めた。
「ツヴァイ!」
「元気か、リム?」
「嬉しいわ、お仕事大丈夫なの?」
「うん、まあな」
「なんだか、元気が無いみたい……」
「そうか? そんなことないよ。今度は二ヶ月後に帰れそうなんだ」
「本当! ダンケもシェーンも喜ぶわ」
「うん……じゃ、またな」
そうして炎は消えた。

「お母さん、シェーンがいじめるぅ」
ダンケの後にシェーンが続いて、台所に入ってきた。
「あらあら、あなたたち、本当に仲がいいわね」
「そんなことないよぉ」
「ダンケのいじわる!」
シェーンの髪にそっとふれた。とても柔らかかった。
その隣で、ダンケがツヴァイとそっくりの笑顔を見せた。




【+α(一部)】

「今回の成績はかんばしくないね」
 市長が  に告げた宣告は非情なものだった。  は下唇を噛み締める。
「確かに、今回、私はお求めのものをお届けできませんでした。しかし、それ以上のものをお渡ししたつもりです。これでご不足がおありですか?」
 市長は馬鹿にしたような目で  を見た後、茶色い皮張りの椅子にふんぞり返った。
「だいたい君ね、仲間はどうした? あいつらさえいれば、こんな結果にはなっていなかったと思うがね」
 市長は大理石でできたロココ調のデスクの上に置かれた三つの宝石を指輪のはまった長い人差し指で転がした。  から見て右の宝石は、赤い丸いカットの多きなもの。左の宝石は、緑の三角形の小さなもの。そして中央の宝石は、黒い楕円形のブローチに加工されたものだ。
「私は  海の珊瑚のブローチを求めたはずだ。それがこれはどういうことだ」
「それは……今は  海で珊瑚が産出されなくて……」
「だからお前のような者を使ったんだろう。これは返しておく」
 そう言って市長はデスクの上の黒いブローチを  に向けて投げた。  は胸元でかろうじてブローチを受け止めた。市長は嫌味な笑みを  に向ける。
「残りの二つは前払いの報酬代わりにもらっておく。今度その顔を見せたら、警備員がくると思え」
   は黙って頭を下げると、きびすを返して大股歩きで市長室の分厚いドアを出ていった。

[おわり]

四題+α

執筆の狙い

作者 久方

【店長】【嫁。とハルキスト】【リーマン編!】
【雷と魔術師協会の秘密(番外編)】【+α(一部)】
以前投稿させて頂いた作品の再投稿です。【+α(一部)】だけ新作です。
よろしくお願い致します。

コメント

u

久方さま 読みました いいんじゃネ

「店長」は以前読んだ記憶が――はっきりとは覚えてませんが

よくわからんのもあったけど「4コマ漫画」的
しかも適当wwに「ブンガク」的

良かったです 御健筆を

久方

u様

ありがとうございます!!
嬉しいです。
頑張ります\(^-^)/

\(^o^)/

【店長】
 作品の意味がわかりませんでした。「了」とあるのに続きがあり、
〈始めに戻る〉となっていますが、どういう意味ですか?

>オーナーはそうおっしゃって、マフラーをつけ直された。
 ↓
 オーナーはそう言って、マフラーを巻き(掛け?)直した。

 他の御作の中でも部長や年上らしき女性の同僚など目上の人間の動作に尊敬語を使っていますが、そこだけ妙で浮いています。

【嫁。とハルキスト】
『嫁。』
 村上春樹風の文章を書くという試みですか? それっぽく書けてると思います。ですが誰かの文体を模倣しても劣化コピーに過ぎません。ですから上達するためには、自分にしか書けない文体を書く鍛錬をするほうが効率が良いと思います。
 自分の妻を嫁と言うのは間違いです。嫁とは自分の息子の妻を指す言葉だからです。口語で妻を嫁と言うことはあります。舅姑と同居しているような場合や家父長制度を重んじる家風に育った男なら、妻を「お前」と呼ぶような男なら、妻を嫁と言っても違和感はありません。ですが、この主人公からはそういう雰囲気は感じ取れませんでした。ですから「嫁」という語は、この作品の雰囲気にそぐわないと思います。「嫁」という語が出てくるたびに違和感を覚えました。

>そこは、まあ、ご想像にお任せします。

 この唐突な文章の存在の意味がわかりませんでした。

【リーマン編!】
『佐倉』
 メーテルリンクの『青い鳥』のような話ですね。良いと思います。
>女の声がした。振り向くと、同じ課の佐倉だった。佐倉いわく、部長が呼んでいるから来いとのことだった。

「佐倉いわく、」は不要です。

『宮城』
 短編として成立していると思います。ですがショートショートとして見た場合、質が高いわけではありません。

>病院に勤める俺の恋人。

 病院に勤めているのは俺、とも読めてしまいます。語順を工夫しましょう。

【雷と魔術師協会の秘密(番外編)】は読んでないのでコメントはしません。

※敬語を使う場合と使わない場合をよく考えて、作品の作風によってうまく使い分けましょう。

久方

\(^o^)/様

ありがとうございます。

まず、敬語について。無いと失礼だという指摘をある方から受けたのですが、地の文には無いのが普通ですよね?
ご指摘いただいた様に、使い分けを考えます。ありがとうございます。

【店長】
「了」〈始めに戻る〉の意味は、映画などでよくある無限ループ系にしたかったのですが、うまく行かなかったようです……。
内容は……ええと……シチュエーション萌えです。すみません……。

【嫁。とハルキスト】
全く書かれた通りです。考え直します。
>そこは、まあ、ご想像にお任せします。
この表現、よくやっちゃうんです。反省いたします。
>「嫁」
え、言わないんですか!? 関東の常識……なのか? 私、関西人なので……ショック!

【リーマン編!】
お褒めのお言葉、嬉しいです!
やっと褒めていただけた……。
ご指摘の点、了解しました。
>「佐倉いわく、」は不要です。
ええ、本当ですか? 寂しい! 消そうかなあ?

今回は丁寧なコメントをありがとうございました。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

テクニカルサポート

3,000字以内