作家でごはん!鍛練場
加茂ミイル

重大なお知らせがあります

 夜の公園のベンチに、加茂は一人ぽつんと座っていた。
 さゆみはコンビニでバイトをした帰り、その公園の前を通った。
 ふと、園内のベンチが照明に照らされている中に、見覚えのある人物の姿を見つけた。
 高校のクラスメートの加茂だった。
「加茂君?」
 さゆみが彼に近づくと加茂は顔を上げた。
「さゆみ。バイト終わったの?」
「うん。それより、どうしたの、元気なさそうだけど」
「うん、ちょっとね」
 さゆみは加茂の隣に腰かけた。
「どうしたの。一人で抱えていてもいいことないよ。悩みがあるなら私が聞くよ」
「ありがと。実は、Youtubeの再生回数が伸びなくて」
「へえ、加茂君、Youtuberだったんだ」
「いつも2桁止まりなんだ」
「2桁か……」
 さゆみは少し困惑した。
「どんな動画アップしてるの?」
「自分がカラオケで歌ってるところとか。あと、他のYoutuberに対して物申す的な」
「ふうん」
「でも、誰も見てくれないんだよね。俺、才能ないのかな」
「そんなことないよ。たぶん、まだ駆け出しだから」
「もう5年目なんだ。中1の時からやってるから」
「えっ」
 さゆみはさらに困惑した。
「そっか……」
 さゆみはこういう場合、何と答えていいか分からない。
「そうだ。加茂君。踊ろ?」
「え?」
「いっしょに踊ろうよ。そうすれば、気が晴れるよ。私、ダンススクールに通ってるんだ」
「君が?」
 さゆみは立ち上がって、加茂の前に立ち、ステップを踏み始めた。
「Hey、YO、YO、Yeah」
 とリズムを取りながら、さゆみは右足、左足を交互に前に出して大地を踏みしめる。リズムが乗って来ると、腕を陽気に振り回したり、胸に手を押し当てたり、肘をカクカクさせたりと様々なバリエーションを披露する。
「上手だね」
「ほら、加茂君も一緒に」
 加茂はおもむろに立ち上がり、さゆみの隣で彼女の動きを真似し始める。
「そう、そうだよ。出来るじゃん」
 とさゆみは快活に笑う。
 加茂はステップ会得し気分爽快。
「そうだ、二人で踊ってるところを動画に撮ってアップしてみようよ」
 とさゆみが提案し、スマホをベンチに立てかけて、レンズを自分たちに向けて録画を開始した。
 加茂は踊ること自体が楽しくなって、動画のことはともかくとして、オールナイトで踊り続けたいくらいハイになった。
 後日、加茂はそれを自分のチャンネルにアップした。
 何と、一週間で、再生回数は1000を超えた。
 普段の10倍以上の視聴者が訪れたのである。
 しかし、コメント欄は、「踊ってる女の子かわいい」「薄暗いけど女の子の顔をもっと見たい」とか、さゆみを誉めるものばかりだった。それでも、再生回数が上がるなら、それでいいと思った。
 加茂はさゆみとコンビを組もうと思った。
 しかし、さゆみはいろいろ忙しかった。
 お互いスケジュールが合わないまま、気が付くとさゆみはダンサーを目指して芸能事務所に入り、高校を中退してしまった。
 加茂はそれからも動画を投稿し続けたが、結局ピンで活動しても世間の注目を集めることは出来ず、再生回数は2桁止まりだった。
 高校3年になり、受験が迫っていた。
「そろそろ君も進路を真剣に考えないといけない時期だよ」
 と担任から言われた。担任は加茂が普段からYoutubeに投稿しているのを知っていたので、そのことを意識した発言だった。
 その日、加茂は思い悩みながら、下校した。途中で、さゆみと一緒に踊ったあの公園に立ち寄った。ベンチに座った。こうして夜まで待っていれば、またさゆみが現れるような気がした。しかし、夜の10時になってもさゆみは通りかからなかった。あの日さゆみが通りかかったのは8時くらいだった。それに、高校を中退して芸能事務所に所属しているさゆみが今どこにいるのかも自分は知らない。この街に住み続けているのかどうかも分からない。彼女が偶然でもここを通ることはないような気がした。加茂は諦めて家に帰った。
 加茂は、「重大なお知らせがあります」というタイトルで最後の動画を投稿した。
 そこで、彼は受験が近づいていること、一応進みたい大学があることなどをえんえんと説明し、Youtubeの投稿は中止する旨を説明した。
 一週間経った時点で、その動画の視聴回数は54回だった。
 一か月経った時点で、56回だった。
 高評価ボタンを押している人が一人だけいた。しかし、それにどういう意味が込められているのかが分からなかった。自分がYoutubeから消えてよかったという意味かもしれない。あるいは、受験頑張ってという意味かもしれない。それを明らかにするコメントは何も書き込まれていなかった。

 それから数か月が過ぎた。
 加茂は、投稿をやめて以来、ずっと心のどこかにむなしさを覚えていたが、同時に乗り越えられない課題から解放されてすっきりした気分でもあった。
 Youtubeという居場所を失った寂しさには次第に慣れて行った。
 そして、本来のありのままの自分の生活を取り戻せたような気持ちがした。
 少し前までは、同世代の人たちがYoutubeで活躍しているのを見て、ライバル心や嫉妬心や劣等感を刺激されたが、最近は特に何も感じなくなった。
 加茂は志望大学に合格することが出来た。そして、特にこれと言った目標もなく日々を過ごした。
 季節は春から夏になり、夏から秋になり、そして秋から冬に変わった。
 やがて一巡りして雪解けの季節が訪れた時、柔らかな春光が窓から一人暮らしの6畳のアパートの部屋に差し込んで来た。
 その陽だまりの中で、加茂はそんな穏やかな時間の流れに身をまかせる心地よさにいつまでも浸っていたいと思った。

重大なお知らせがあります

執筆の狙い

作者 加茂ミイル

人は一体、何を目指して、努力するんだろう。

コメント

偏差値45

うーん、私も時々、動画投稿していますよ。なんでもやってみるのです。不思議なもので、知らない間に誰かが見てるんですね。それほど大した内容ではないですけど。
それはさておき、感想です。すらすら読めて良かったのですが、なにか一工夫が必要でしょうね。

櫻井

 寓意を感じさせる作品ですが、しかしこれでは小説としての豊かさに欠けている気がします。叙情性も貧しく、単なる出来事の羅列であり、これでは共感できる箇所があまりありません。寓話性を高めたいなら、もっと隠喩を使ってもいいと思いますし、星新一のように通俗性を徹底的に排除するのもありでしょう。もしくは逆にYouTubeに動画を投稿する加茂の心理を、もっと克明に描写して、ドラマ性を濃いものにしてもいいでしょう。このままではあまりにも半端で地味です。

\(^o^)/

 オチだけがダメ。オチさえうまく書ければ作品として成立します。成立=良作ではありませんが。

井原

読ませていただきました。
淡々と始まり淡々と終わっていくため、何をこの小説で伝えたいのか、それを伝えるためにはどういったストーリーにしていくのが効果的かなど一度整理してご自分が納得いくまで推敲なさるといい作品になると思います。

加茂ミイル

>偏差値45様

顔出し以外のことなら何かやってみたいですね。
自分の書いた作品を朗読ソフトに読ませて朗読させるとかだと再生回数とれそうですかね。

加茂ミイル

>櫻井様

もともとあまり感情の起伏のない人間でして、
SFとか向いてるかなあと思うこともあります。
歴史を淡々を書くのもいいなと思うのですが、
昔の人は感情豊かだったと思うので、
そういうの描けるかなと不安です。
江戸川乱歩のような感じがとても好きですね。
どこかクールな感じが好きです。

加茂ミイル

>\(^o^)/様

やはり主人公には行動させた方がいいのでしょうか。
さゆみを追いかけて事務所の前まで行くとか。
それから主人公もダンサーを目指すという展開。
日々練習する姿をアップしていたら、再生回数伸び始めて人気ユーチューバーになるとか。
でも長くなりそう。

加茂ミイル

>井原様

感想にコメントを書いていて思いつたのですが、
やはり主人公は退屈な大学生活に飽き飽きし、
ふとさゆみを追いかける旅に出るというのがいいかなと思いました。
そこでさゆみに再会、自分もダンサーを目指す。
これまで普通に大学生活を送っていたけど、
就職したくない。平凡で終わりたくない。そんな自分に気づく。
それで周囲との軋轢も生じて迷うけれど、
大学の学園祭のステージで踊った恍惚感を忘れられない。
しかし、オーディションで「君はダンサーに向いてないよ」と、プロのダンサーから言われる。
ショックを受けるが、あきらめない。
僕はダンサーになりますというタイトルで、
そんな自分をYOUTUBEにアップしているうちに、人気ユーチューバーになっていく。

はるか

 加茂ミイルさま

 拝読しました。

 面白かったです、短い話だし、シンプルな話だけれども、半分コーヒーや、憲法の話より、私は今回のやつが好きかもしれません。あったかい気分になれましたし。

 女の子が、ヒップホップだヨウ! みたいに踊ってるとこ、よかった、加茂くんが、一緒になって、ヨウ! みたいな感じも嬉しくなりました。

 ユーチューバーを諦めて、季節が流れて、葛藤や対立のない穏和な暮らしに埋没し、そのストレスレスな日々に満足する、という終わりかたには賛否があるのかもしれませんが、確かに、旅に出る、みたいなやり方もいいかもですが、私は、いっときは加茂くん、穏和なぬくもりにひたるの巻、でよいんじゃないかと、で、やっぱりこれ違うんじゃ? とか思って、旅に出る、ないしは、また、何か違う、成長したものをユーチューブに投稿する、また二桁だ、でも続けてゆくヨウ! ヘイ、ヨウヨウヨウ! な終わりかた、っていうのもありかなと。

 狙いにあった質問に対する私の答えは、人は、自分に目覚めるために、努力し、挫折し、葛藤し、対立し、ときに調和して、って、それを繰り返してゆくんだと思います。より自分の真ん中に近づくために、他者とやりとりするのです、踊るのです。バトルとダンスは似ています。そんな気がします。

 あと、タイトルもよかったです。でも、加茂ミイルさんは投稿、やめないでくださいね?

 お邪魔しました。

加茂ミイル

>はるか様

感想ありがとうございます。
世の中にはこの加茂と同じ境遇の人がたくさんいるんだろうなという思いで書きました。
公園の照明のような貧しい光の中で生きている多くの加茂たち。
でも、それでもそれは完全な闇ではないのです。
その光の充溢に気づいてほしい。
私はむしろ、ステージの上でアイドルを追いかけ回すギラギラしたスポットライトよりも、名もなき公園の片隅の土に浮かぶ小さなスポットライトの方が好きなんです。
だから、派手な大道具はあまり使いたくない。
夕暮れに聞こえるかすかな雨音のような文学を求めて行きたいです。

ダミアン

https://m.youtube.com/watch?v=LlpEMvDmAwA&feature=youtu.be

You tube やってみてるよ

加茂ミイル

ダミアン様。

作曲したものでしょうか?

文才のみならず、作曲の才能まであったとは。

ちゃんと曲になっていますね。

音楽の勉強をされたのですか?

ダミアン

曲はフリー素材。。。お恥ずかしい

加茂ミイル

>ダミアン様

映像にインパクトがありますよね。

映像と音楽が独特に絡み合って、切ないような、深いような感傷に迫られました。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

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