作家でごはん!鍛練場
井原美雨

ネガティブアイソレーション

 約300人に1人、青と赤が逆に見えているという都市伝説を聞いたことがある。都市伝説なんて嘘か本当か、実際どっちかわからないから面白いはずなんだけれど、この都市伝説に至ってはきっと本当のことだろう。
 弱視で色盲。それが私のステータス。
普通の人が見えるはずの赤や青、緑や黄色を知らない。私は生まれてからこの方、色をみたことがない。指先で触れる机の色も、頬にあたる雨粒も、花開き枯れるつぼみの色でさえ世界を映すはずのこの目が色を教えてくれることはない。
「昔の白黒映画の世界なんだね」と言われることもあるけど、私にとって映画はいつも白黒だし、目に見える世界そのものがグレースケール。
実際それしか知らないのなら、私の目が映す世界が真実に他ならない。
 草が緑で、空は青で。濃淡は鮮やかでグラデーションがどうだって言われても、私の世界は白と黒。
 ただそれだけだった。

 教室の外には木陰を作るように桜の木が咲いている。紙吹雪のような花弁が、視界が白く染めるように風と共に散る。木漏れ日のような光が時折、眩しく輝いて思わず目を細めた。影と光が遊ぶ、陰影の世界。
他人は言う、色は美しいと。私は思う、陰影の競演だって美しいと。時間が止まり、息を忘れるほどに冷めた風も草の匂いも、太陽の暖かな日差しでさえわかるというのに。
カーテンがふわりとなびいた。長い髪がつられて舞い上がる。
私の心はそのきれいな光景をついに感動することはなかった。
「明星さん」
 私はそっと振り返った。コンタクトが少し乾いて視界がぼやける。目を少しこすってしっかりと声の主を見つめる。最初に目に入ったのは太陽に焦げた肌。少し細身だが筋肉質な体、短くそれでいて最近のトレンドを抑えたおしゃれな髪型をしている。それは私が嫌うカースト上位の男子だった。そして、ただそれだけならよかった。
「……」
 黙ったまま見つめあった。少しだけ押さえ込む恐怖が漏れ出して、唇が震えそうになる。
「あ、えっと。知らないかな? 俺、伏見奏太。同じクラスの」
 静かに見据えるその目に、私は思わず視線をそらした。私は彼を知らないわけではない。それはクラスのカースト上位にあたるからとか、そんなくだらない理由からではない。
「知ってる」
「ならよかった」
 にっこりとほほ笑むその笑顔にぞくりとする。伏見はいつも目が笑っていない。それを巧みに隠している。腹の底が見えないとかそういう理由なら別に怖がりはしないのだ。そんな人間は山ほどいる。けれど、伏見は違う。ジクジク針で刺されるような居心地の悪さ、氷が肌を這うような冷たい痛さ交じりの視線。うざったような張り付いた笑顔が不気味で仕方がない。
 異様さがいつも彼には付きまとっている。私は距離を取りながら、彼を睨みつける。
「あの、さ。……美術部に入らない?」
 緊張した面持ちで言葉にした伏見の言葉は意外なものだった。あまりに脈絡のないことを言われたせいで、思わず気が抜けた。
冷や汗が流れていた額を拭い、ため息と一緒に言葉が出た。
「なんで?」
「ご、ごめん! 急になんだっていうんだよな? ほんと」
 慌てたように彼は頬を指で掻く。その目を見て一瞬和らいだ気持ちがまた凍る。――ああ、これは演技だ。底の見えない暗さが表情からにじみ出る。薄ら笑い。目の陰が全く光を映さないで、虚ろさをにじませる。なんだこいつは。私を見る目が何を考えているか濁っていて覗けない。混沌、そんな白と黒の点滅。
私から口早に言葉を吐き出させた。後ずさりするように言う。
「……っ、絵なんか描かないよ」
 男は一瞬、言葉を詰まらせたがすぐに首を振ってこういった。
「それは色がわからないから?」
その一瞬、目頭が熱く、たぎる様に血が湧いた。イライラする。「嫌い」という言葉が頭を埋め尽くして自分が闇の中で一人ぼっちになった気さえする。昔からだ、私は自分が惨めな蛾だと指を刺す。惨めったらしく、ろうそくの明かりに群がって、触りたがった綺麗なものはいつも私を失望させるんだ。「色がわからない」その言葉が心の中で反響する声に耳を閉ざしたくなる。自分の声に出さない責め立てが、耳障りだ。
 私は、引き寄せるように彼の胸倉をつかむとこういった。
「わかってるなら、いう必要ないよね?」
 珍しく私は自分の感情を表に出した。こんな相手に本気で怒ったって仕方がないってわかってるのに。自分を責めるように教室を後にしようとドアの開いた。
「待って」
男はそれでもとっさに私の手を握って離そうとしなかったが、私は彼の手を無理やり振り払って教室の外へ逃げた。
灰色の雲。灰色の空。黒と白の濃淡でしかわからない私の世界。
私は鳥に憧れた人間の気持ちがわかる。私もそう、私も色に憧れた見えない欠陥品だからだ。飛べない鳥は走ることに特化した。泳ぐことに特化した。けれど、私は何になればいい?
 できないことを前向きに変えていける生き物だけが評価される世界だ。変えていく努力はしなければ、衰えていくばかりでそうしなければ生きていけない弱肉強食の世界だ。
 それを悲観したり、嘆いたりしても、そのまま置いといてはくれない世界だ。
 それはある意味希望に詰まった世界なのかもしれないが、ネガティブで性格のひん曲がった私にはとても眩しくて悲しい世界だ。
 私は全ての色が見えない一色覚という色盲。日本では一色覚は数万人に一人の珍しい障害だ。
 こんなネガティブな奴に、数万人に一人の確立が当たるんだからきっと神様は相当なサディストだろう。
 絵を描くのは、別に目が見えていればできると思う。灰色の絵を描けばいいし、世の中は便利なもので、色盲の人のために作られた色が見えるサングラスなんて言うものもある。
 けれど、どうしても描けない。
 一つの欠陥が私の心には致命傷を与えてしまっている。
 ただ色が見えないだけだ。腕がないわけじゃない、目が見えないわけじゃない。わかっている、自分はただ甘えているだけなんだと。
自問自答を繰り返して逃げ回っているだけだと。
「待ってよ」
 伏見は私の後を追ってきた。あまりのしつこさに思わず舌打ちをしてそんな自分に苛立ちながら、私は言った。
「部活どこに入るかなんて私の勝手だよ。友達でもあるまいし、一緒の部活に入ろうってわけでもないんでしょ?」
 怒鳴ると声が枯れる。普段声なんか出さないから、私はあちこち脆い。
「確かに俺は運動部に入るよ。絵なんか性に合わないし」
「だったら」
 言葉を遮って伏見はこう言った。
「俺の妹、色盲なんだ。色盲って赤が見えなかったり、青が見えなかったり、いろいろあるよな……。専門的なこと、俺にはわからないけど俺の妹楽しそうだった。絵描いてとっても幸せそうだったよ」
 私は俯きながら、言った。自分を、弱さを噛みつぶすように。
「私と妹を重ねているの? でもそういうの結構だよ。妹が楽しいなら私が楽しくなくてもいいじゃない。あんたの妹と私は別人。優しさのつもりだろうけど、ただのおせっかいだ」
 私は弱いんだろう。はっきりした拒絶の言葉をあまり口に出したくはない。お互いのためかもしれない。それでも、傷ついた表情は罪悪感という刃になって柔い心の肌に食い込む。血が出るほどにぐいぐい食い込んで、私自身の致命傷にさえなるのだ。
けれど、だからと言ってこんなことされても困る。ここははっきり断らなくてはいけないと唇をかんだ。
恐る恐る顔を上げると、彼が泣きそうな顔をしていた。はっきりとわかる。これは演技ではない。本当の彼の感情だ。
その真実は初めて垣間見る感情だった。だからこそ罪悪感をくすぐるのには十分だった。私は憶病者だ。
「……俺は俺が正しいと思うことをするだけだよ。だから絵じゃなくてもいい、好きなことをやってみてくれないか?」
 私は彼の様子を気にしながら、それでも言った。
「ごめん……嫌」
「俺も明星の気持ち、無視してごめんな。……でも、楽しいと思うことをしてほしい」
「なんでそこまで?」
 彼は無理をするようにぎこちなく笑った。そのぎこちない笑顔に不器用な優しさを感じて私は少しだけ黙った。伏見は本気で優しさで言ってくれているのかもしれない。それでも私は人と関わるのが怖がった。
「正義感ぶって……偽善者が」
 あえて顔を見ないようにとどめの言葉を放った。
意外なことに伏見は目を丸くしてから、自傷するようなため息をついて、笑った。
「ははっ……よく言われる」
さっきまでの笑顔とは全然違い、人間味が全くと言っていいほどない。精巧に作られた人形のような気味悪さと後味の悪さがえぐるように植え付けられる。奥歯がカタカタと鳴っているのに、私はしばらくの間気づくことができなかった。
「あっ……」
 何か言わなきゃ、言わなきゃ飲み込まれて都合よく操られる。私は必死に言葉を口にしようとするが、ことごとく言葉にならない。しゃべれない。殺気のような激痛を伴う空気感に息ができなくなる。
 私が苦しそうに息をしていると、彼は何か気づいたように目を見開いて泣きそうな顔をしてうつむいた。
それは小さな鱗片だろう、嘘笑いが得意な彼の小さな本性のしっぽ。
 一つの感情を押しつぶすように、彼は言葉にしないやりとりで悲しさを伝えた。自分の本性をひた隠しにして、その薄汚さを嘆くように悲しみは垂れる。それは小さすぎる明かりのような優しさに感じた。息が吸える。咄嗟に言葉にする。
「……ごめん。絵は描かない。それじゃ」
 申し訳なさを噛みしめるように私はそう言って、振り返ることもせず歩きだそうとすると伏見はこういった。
「じゃ、友達になって」
「えっ?」
 私の違和感を噛みつぶす屈託もない笑顔。普通の人間なら騙されてしまうその表情に言葉を亡くす。その底知れぬ不気味さに私は彼をただ見ていることしかできなかった。

太陽が白い光を放つ朝だ。囀ることをやめた鳥たちは私が通る通学路から飛び立ち逃げ去っていく。明暗の差でしかわからない世界は今日も変わらず、光と陰で満ちていて、光を浴びる木々たちの後ろは薄黒く陰っている。
朝はまだ冷えるようで吐いた息は白く凍ってくすんで、溶けるように消えた。
四月なのに、この地域はまだまだ冷え込む。マフラーを巻いても寒さは消せない。鼻孔が冷たさで刺激され、鼻水で息ができない。高校へ向かう急な坂道に息を荒くしながら歩いていると、遠くの方から声がした。聞きたくないその声に恐る恐る振り返ると、彼がこちらへ走り寄ってくるのが見えた。
「明星さん」
絵を描かないかと言われた翌日から、彼は私に声をかけるようになった。
「おはよう」
私は彼の何を考えているかわからないその表情が怖くて、刺激しない程度に話すようになった。
「……おはよう」
 そういうと彼は本当にうれしそうに屈託もなく笑う。けれど私は彼の嘘に騙されない。彼は何かおかしい。用心するように私は距離をとる。
「明星さんって何が好きなの?」
 それでも、伏見は無神経に話しかけてくる。
「一人で本読むのが好きだよ」
 遠まわしに話しかけないでと言っているのだが、伏見はまるで無視をした。
「俺も本好きだよ! 特に絵本かな? エドワードゴーリーとかって知ってる?」
 目を丸くしながら、伏見を見た。絵本で……エドワードゴーリー。
 わざわざ絵本を好きと言っていながら、残酷で不条理に満ちた世界観のエドワードゴーリーを好きだというその神経が怖い。
 校内に入り、昇降口で靴を履き替える。埃と土のにおいがする昇降口は学校特有の薄暗さと大勢の人の匂いがして、顔をしかめる。いつものことだけど、この匂いは苦手だ。
 生き物の活力にあふれた生活の匂い、それは私を嫉妬と羨望でぐちゃぐちゃにさせる。
気を取り直して私は聞いた。
「ギャシュリークラムの子供たちとか描いてるあのゴーリー?」
 人気者の伏見がこういうホラーな題材のお話を本当に好きか気になって一応、聞いてみた。何かと勘違いしているそういう可能性も無きにしも非ずだし。
「俺はギャシュリークラムより不幸な子供って話のが好きだけどね」
「ふーん」
 純粋に怖いと思った。このクラスはこの不気味な男のどこを好きなんだろうか? 
物事の本質を見失いそうになる。人気というのは必ずしも優れているわけではないということだ。どれだけうわべを繕えるか。それにかかっているのかもしれない。
「妹が好きだったんだ。ゴーリー」
 教室に入る前に、伏見は遠い目をしていうのだ。
 妹の話を。
 朝焼けの焦げる匂いがした気がした。何かくすぶっているようにもやもやと喉の奥で言葉が詰まる。伏見の妹という存在が何故か心の中で引っかかって仕方がない。
私は目を薄めて伏見を見た。彼の本質、妹と私の共通点とはなんだろう? それがなければこいつは私と関わろうとしないはずだ。
けれど、伏見に対して情報が少なすぎて何もわからない。かといって長々とおしゃべりして知っていくというのも嫌だった。
 わからないのなら聞いてしまうのが一番だと私はにんまりと不気味に笑う伏見の胸倉をつかんだ。
「あんたの妹と私、なんの関係があって私に関わるの?」
「……なんの話? 明星さんと話すのに妹は関係ないよ」
 伏見は一瞬言葉を詰まらせたが、その瞳はひどく濁っていてぞっとするほど奥底が見えない。深い闇。
「……嘘つき、あんたの妹なんなの? あんたにとってどういう存在なの?」
 私は隠れてこそこそするのが嫌い。だからこその正面衝突だった。
「俺にとって……? 妹は、早紀美は――ただの死人だよ」
 そういった彼の目を見た瞬間、足元から這い上がるような恐怖で歯の奥がカタカタ鳴った。彼の表情が今まで見たことのない人間とは程遠いものに見えた。
 空ろで底がない筒のような瞳。感情がすっぽり抜け落ちたような喪失感。彼から感じたものはそういう何もないという感情だった。
「生きているなんて一言もいってないよ」
 胸倉を掴んだ手の力が抜けた。その言葉の力のなさ、頼りないその肩、悲しみと喜びがチカチカと点滅するような……とっさに浮かんだのは壊れた信号機だ。曖昧で信じてはいけない存在。 
意味が分からない。この男は何を考えているのかがくみ取れなかった。悲しいのか、うれしいのか、見えない深淵の闇。
「あんた、なんなの……?」
 伏見は少しだけ……別の光を瞳に映してみせた。ほんの少しだけだけど、寂しいという光を。
「……伏見だよ。伏見奏太。俺の名前忘れちゃった?」
 少しおどけたように笑うその表情をみて酷く寂しいと思った。彼から染み出る痛みと孤独だけが唯一共感できる感情だった。
 言葉を飲み込んだ。否定する気にもならなかった。空ろな彼の初めてのまともな感情。
「明星さんはさ。人のことびっくりするほどよく見ているよね……。そういうの、すごいと思うよ。俺の表情だけで全部見透かしちゃってさ。ほんと、こわいよ」
 伏見はそっと目を伏せてこう言った。
「だからそういう洞察力があればさ、絵を描くのに向いているんじゃないかって思ったんだ」
 私はぐっと言葉を飲み込んだ。
 伏見は思ったより周りを見ているのかもしれない。見ているからこそ、うわべの自分を見抜いてくれる人を探しているのかもしれない。なんとなく、こいつの寂しい瞳をみて思った。
「嫌ならいいんだけどね。ただ明星さんは俺と違って強い人だから、少し憧れて友達になりたいって思っただけだよ。多くの人に囲まれながら、疎外という孤独を恐れない人だから」
 私は少し思い違いをしていたのかもしれない。
 この男はわからない人間だ。けれど、人間になりたい化け物なのかもしれない。彼という暗闇の中で弱さだけが光って見えた。その光に群がりたくて闇が寄り添っているように思えた。それがなんだか、悲しかった。
「私は……性格が悪いだけだよ。だから一人なだけだよ」
 伏見は少し困ったように笑った。そうじゃないという言葉を無理に飲み込んだように見えた。
「言葉を話さなくても行動や表情で理解できちゃえる人はさ、人が危なく見えちゃうんじゃないかなって俺は思うから。あんまり卑下しなくていいよ」
 その言葉を優しいと思えるのは、私が欲しい言葉だったからかもしれない。優しいとは難しい。今まで生きてきた人生の価値観によって優しさの答えは変わるから。
「性格は否定できないけど」
 苦しそうに笑う伏見は、笑顔を作るのがつらそうに見えた。
 そんな彼を初めて知りたいと思った。彼の生きてきた人生、彼の言葉の重み、何を抱えているのか。新しく買った小説が思ったより面白くて、夢中になって読み進めるような感覚と似ていたが、私にとってそれは大きな出来事だった。
「伏見、あんた変わってるね」
「うん、悪いふうにね」
 苦しそうな笑顔の彼を見て、いつかどうしようもなく壊れてしまって、誰も泣いてもくれない孤独な未来の世界が見えた気がした。
「知りたいことが増えたよ。……あんたの」
 あいまいな言葉だった。けれどそれは確かだった。
「おしゃべりしようか。たくさん知って知り合って、理解してよ。俺の事。そうじゃなきゃ、君とは友達になれそうにない」
 言葉はその人の重みだ。その発言で私はそう思った。

「幼い頃、俺は自分が平凡なことに不満を持っていた。中二病的なことを言うと、魔王の隠し子でもないし、人とは違う特別な能力を持っているわけでもない。平凡で普通という枠の外に出ないこと悲観していた。主人公にはなれないって。普通っぽいだろ?」
 夕方の公園では夕焼けの眩しさが目に焼き付くようだった。茫然と白い光を眺めながら、伏見の話を聞いていた。
 ベンチに座ってお互いがお互いを見ることなく、沈む太陽を二人で眺めていた。
「で? あんたは魔王の隠し子だって気付きでもしたの?」
 ベンチは少し冷たい。手のひらで触ってみると、ペンキの剥がれが手についた。
「まさか。俺は魔王の隠し子でもなければ、特別な能力があるわけでもない。能力や出で立ちは普通そのものだよ。でもさ、それでも――。俺が異常であることは確かなんだ」
伏見の声の震えに伺うように振り返ると、伏見は震えていた。瞳からにじみ出るのは笑顔と涙。震えながら自分からにじみ出る感情に壊れた蓄音機のような狂った笑い声を押し殺していた。
怖いほど、彼の感情はぶれている。二つの感情が鮮明すぎてどちらも嘘に見えなかった。
「妹の話をしただろ? 妹は小学生。可愛かったよ、年も離れてたし懐いてもいたから。でも心根を言葉にしない子だった」
その二種の感情が浮かんだり消えたりしていた。まるで日が暮れる前の空みたいで、夕焼けのような切なさを感じた。
「あんた、さっきからなんなの? 笑ったり泣いたり。……壊れてるの?」
 怒るわけでもなく、ただ気になって聞いた。伏見は平静を装うように感情を理性でがんじがらめにしているように見えた。嘘も本当も言葉で知るしかない。けれど言葉は、誰にもその本質を見極めることはできない。建前と本音が混ざり合う。
 けれど、それで理解するしかないのだ。人はそれしか伝える手段がない。
「……壊れているか。人間はどこまでが正常でどこまでが壊れているというんだろうね。俺にはあんまりわからないよ。けど、自分が世の中の言う普通の枠にはみ出した人間だってわかっているよ。わかるかな? 自分でも理解しがたい感情を持て余す苦しみみたいなもの」
「わからない」
私は即答した。
「だろうね」
 儚く消え入りそうな声で伏見は呟いた。夕焼けで伏見の影が地面に焦げ付く。黒く焦げて縫い付けられたような影にそっと寄り添うように踏んだ。
「もう気付いているかもしれないけど。俺の妹は自殺したんだ」
 なんとなく予想はついていた。妹に固執する理由、本心を言葉にしない妹の話をしたあたりで。
「小学生で自殺なんて、どんなことがあったんだろうね」
遠ざかる太陽を惜しむような表情で伏見は言った。
「結局、わからずじまいさ。妹の司法解剖もしなかったしね。殴られた痕があるとか、いじめられた形跡を探すことはできたけど、本人がいないのにそんなのどうだっていいんだよ。全部は、生きているからこそ意味のあることだし」
「……達観しているんだね。普通、可愛がってた妹が死んでそんなに冷静でいられないんじゃない?」
 そういうと、彼は凍りそうなほど冷たい顔つきで言った。
「言っただろ? 俺は普通の枠の中には入りたくても入れなくなってしまったんだって。――俺が見つけたんだ。部屋でぐちゃぐちゃに自分を刺した妹を」
 息をのんだ。その瞬間、伏見は泣きながら不気味に口角を上げて笑っていた。
「悲しいと感じているのも嘘じゃない。でもそれ以上に、苦しんでいる妹を見ているのが楽しかった。その時、俺が妹を見て何を思ったかわかる? 自分の感情なのに何一つ理解できなかった。妹が苦しんでうめいているのに、助けられなかった。むしろ感動してた。死ぬ瞬間の命の美しさや、這いつくばって助けを求めるその痛々しさに、胸を打たれていた。血が沸き立つように、俺の全部が塗りつぶされていくようで、怖いのにうれしかった。……うれしいなんて思っちゃいけないのに。ねぇ、俺が何をしたかわかる? 俺は――」
 言おうとした瞬間、私は伏見の口を掌で塞いだ。
伏見に触れる指が震える。
最初は恐怖からだと思った。怖いんだって思った。けれど、彼の孤独と悲しみを人間じゃないなんて言えなかった。
 怖いんじゃない。とても怖いなんて口にできないほど、壊れてしまいそうな伏見をかわいそうだと私は純粋に感じたんだ。
「言わなくていいよ。もういいから」
 言葉にした瞬間、涙が出た。心の中からボロボロと剥がれ落ちていくのは、憐みだった。
人間じゃない感覚を持つこの化け物に同情なんてするべきじゃない。でも、それでも、自分が抱いたこの感情が同情ではなく、優しさならいいのにと思った。その感情が彼を救えるならいくらだって注ぎたいと思うほどに。
それは祈るようで縋るようなとめどのない感情だった。
「なんで泣くの? 明星さん」
 不思議そうに聞く伏見に私は泣きじゃくって何も答えられなかった。
 人間になりたいという、不格好な心を持っている彼が悲しいと思うのは、私が普通という枠にいない人間だからだ。
普通という枠の中にいる幸せはその枠の外に出ないとわからないってこと。他人に気をかけている余裕なんか自分だってないくせに、同情なんてなんの力にもなれないのに。
私は私を責め続けて、それでも彼が救われることを祈るしかできなかった。
 夕焼けはあたりを暗く染めて、夜を呼んだ。少しずつ冷めていく夕焼けの空気が痛く感じた。泣き腫らした目と、熱がこもる体に冷たくなる空気が刺さっていくようで、心が空っぽになった。
「明星さんは優しいね」
 その言葉だけが妙に頭に響いた。

どっぷりと夜が公園にしみこんでから私たちはまたぽつりぽつりと言葉を交わした。
「司法解剖しなかったのって……」
 何も言わずに、伏見は頷いた。
「息子のこんな異常行動を目の当たりにして、かばった上に目を塞ぐ両親も十分異常だけど、親の性質とか、複雑な心のうちを考えると正常なのかもしれないね。見たくないものには蓋をするのが人間というものの性質なのかもしれないし」
 わかったようなこというなって感じだよねと伏見は笑っていた。少し棘が抜けたような柔らかい笑顔だった。
「なんで私にこんなこと言ったの? 私はあんたのいう正常の枠に嵌まっていたら、私はあんたの敵になるのに」
 伏見は少しだけ笑ってこういった。
「昔、明星さんと話したのを覚えてる? 体育サボってた時」
 私は思い出そうと記憶を巡らせた。体育をサボることは確かに多い。けれどその時誰かと話すことなんてあっただろうか?
 あったかもしれないが、それを覚えているほど私は人に興味を持てていただろうか?
 わからないし、断定できないほどには私は周りに無関心だったのかもしれない。
「覚えて……ないかもしれない」
「だろうね!」
 それなのに伏見はなんだかさっきより楽しげに笑った。その表情は死を受け入れた聖者のように安らかで幸せそうだった。なぜなんだろう?
「そんなふうに笑えるんだね」
 感心して私はそっと伏見に触れてみた。眉間にはしわの寄ったあとすらなく、いつも平坦で笑いじわが少しできている。
「俺、心から笑うことってあんまりないんだ」
 私は黙って聞いた。
「でも笑いじわあるでしょ? 笑顔ほど完璧な武装はない。敵意を向けないことが一番の安全策。人に敵意を向けられるのは、あまり好きではなくってね。俺の戦った勲章みたいなもん。笑っていれば、周りはわりと寛大に許してくれたりもするから」
「変なの」
 私はそっと視線をそらした。そらした先で黒い世界に無数にある光を見た。星は煌めいて眺めていると足のつかない空に落ちていきそうな感覚になる。
 果てしなく大きいものに対して恐怖は限度なくわいてくる。
 もしかしたら、そういうものなのかもしれない。こいつが人を好きじゃない理由は。
「体育サボったときもこういう話をしたんだ。変なのって言ってた。だから俺はきっと変なんだろうね。君にとって俺は、異常じゃなくて変なんだって思ったら、許された気がしてうれしかった。興味を持って友達になりたいって思うのは、きっとそんなどうでもいい理由でいいと思うんだ」
 そういうと伏見はそっと手を差し出した。
「君にとって友人とはどういう意味を成すかはわからないけど。俺にとっては、全てをさらけ出していつでも俺を牢屋に閉じ込めてしまえる弱点であって、その上、俺の本当を知っているという大事な存在だ。君にはなれる? 僕の友達に。逃げ出すなら今だよ」
 そういった伏見の表情は清々しくて、少し諦めているような孤独な表情だった。
「そういうのずるいと思うんだけど」
「なんで?」
 屈託もなく笑っている伏見だが、なんだか見透かしている気がした。
「秘密を共有したことで、事を荒立てたくない私にとっては秘密が人質になるってわかってたんじゃないの?」
「事を荒立てたくないんじゃないんじゃなくて、君は優しいんじゃないの? 俺のことを案じているように見えるけど」
 私はそっと俯いて足元にある石ころを蹴飛ばした。石は闇の中に溶けていくように見えなくなる。
「バカじゃないの? 自惚れも大概にしたら」
 石を見送りながら、伏見の方をみると彼は少しいたずらっぽく笑って空を見上げた。
「優しくないと僕の話を聞いて泣かないし。こんな夜中までおしゃべりに付き合ってくれないよ。だからわかる。君は優しいって」
 私は俯いて垂れる長い髪で頬に熱がこもるのを隠した。優しいなんて初めていわれた。もし私が優しいのなら、今まで捨ててきた大事な何かをもう一度拾うことができるだろうか? もし、そうならとうれしくなる。
けれどその気持ちを認めたくなくて、ずっと俯いて黙っていることにした。
「図星をつかれると黙るんだ? 意外とかわいい性格だね」
「バッカ! 何言ってんだ! バッカ! バッカ! バーカ」
 私は思わず、顔を上げて怒鳴る。心の中をからかわれるのが嫌で、ごまかすように何度もバカを繰り返した。
 その様子が面白いようで、伏見は腹を抱えて笑い出した。普段の笑いじわにさらにしわが刻まれていて顔がくしゃくしゃになって涙も浮かべている。
「明星さんってほんと面白いっ!! 君って本当、普段人をからかってるとは思えないぐらい純粋すぎ!! あっはは」
 その様子に頭に血が上って私はさらに怒鳴った。
「ちょっ、笑わないで。なによ! バーカ! バーカ!!」
「子供みたいっ!! 本当は人のこと何も悪く言えないんじゃん! バカの一つ覚え!」
「うるさい! 黙れ!!」
「ぶっ! ははっ!」
 顔を合わす度伏見が笑うので、私もついに笑い出してしまった。

「……なによ。ちゃんと笑えるんじゃない」
 すねたように言うと、伏見は息を整えてから憑き物が落ちたように幸せそうに笑いかけてくれた。
「君があんまりにもいい人だったから。口は悪いけどね」
「もう!」
私は照れ隠しで声を上げて伏見を見ると、顔が冷静な顔に戻っていた。
「……君は言ったよね。自分という人は常に二人いる。一人は他人から見えた自分と、もう一人は自分が見えている自分。自分から見えている自分は、見ている当人が死んだら消えてしまうけど、他人からみた自分はなかなか消えないんだよって」
「……言ったっけ?」
「言ったんだよ」
 少し照れたように伏見は笑った。
「だからこそ、一人だけでいい。知ってほしかった。それが君だったならうれしいって思った。……だから」
 息を吸い込んで真剣な顔をして伏見いう。
「僕のことを知ってくれてありがとう」
 そういった伏見は消えてしまいそうなほど儚く、透明で切実だった。
 その様子はまるで……、自殺した母親の直前の表情と酷似してぞくりと背中に冷たい汗が流れた。
 嫌な予感……いいや、違う。予感じゃない。確信だ。
「死のうとしてる?」
「……まさか」
 おどけるようなその表情と母が重なる。焦燥感がじりじりと私を焼くように責める。
「帰ろうか?」
「……死のうとしてるんでしょう? あんた」
 生唾を飲み込んだ。わかっている、今感じてるこの焦りはあの時のフラッシュバックだ。
「してないよ」
 伏見はそういって、歩く速度を速めていく。私は退かない。退くとこのまま見殺しになってしまう。焦りの火は私をあぶる。心の中で何度も言う。
今度は今度こそはと。覚悟を決めたように足早に公園を出ようとする伏見の背中に怒鳴った。
「私のお母さんも自殺したの」
 伏見は足を止めてこちらに振り返った。その表情は泣きそうな顔だった。
「癌だった。余命一年でその最後の時まで生きるんだと思ってた。抗がん剤の副作用とじわじわにじり寄ってくる死の恐怖で、心のほうが持たなかった。最後の時、お母さん高いレストランに連れて行ってたくさん、今までしなかった話をして――あんたと同じ目をしてた」
 私はまっすぐ見据えた。伏見をまっすぐ見つめて慎重に言葉を選ぶ。
「あんたは友達を一人置いて自殺するようなやつなの?」
溢れだした感情は表情に現れて、伏見は涙を流した。どうしようもないやつだと思うほどに、弱いやつなんだ。彼は。
「友達なんて思ってないくせに」
 初めて伏見から卑屈な言葉を聞いた。
「なりゃいいじゃない。あんたがいったんだよ。友達になりたいって」
「……君は。こんな異常者が生きてていいって思うの?」
 私は深呼吸をした。息をいっぱい吸って、思いっきり笑い飛ばした。
「私にとってあんたは異常者じゃない。へんてこな人間。それだけだよ」
「バカじゃないの?」
伏見は立ち尽くしたまま、泣いた。
 ここで泣ける人間は、まだ人間だと思えた。大切な妹の死を喜んでしまえたことが、その妹を自分の欲求で傷つけ、致命傷を与えてしまったことが、彼にとっては死んでしまうほどに苦しかった。
 その事実が何よりも人間らしいと思った。
「生きなよ。死ななきゃいけないなんて自分で決めんなよ」
 私はもしかすると優しいのかもしれない。けれど、それが正しいことなのかわからない。間違っているといわれれば、そうかも。
 だから私は性格の悪い人間のまま、こいつと友達になろうと思った。
しゃがれた声で一言、伏見は呟いて俯いた。
「ありがとう」
帰り道、黙って歩いた。暗闇の中、電灯だけが世界を照らしている。美しい白い光の中で、目がかすんでいた。
「明星さん、結局部活どうするの?」
「美術部」
 隣からはうれしそうな笑い声が聞こえて舌打ちした。

「嘘つきな奴がいる」
 放課後の誰もいなくなった教室には伏見と私しかいなかった。それを見計らうように、伏見は内緒話を持ち掛けるように私に話しかけてきた。午後の温まった風が光を揺らすようにカーテンがなびく。
「は? 突然なに?」
「言っとくけど、君が思うような嘘とは違うんだよ」
「返答になってない。それに私が思うような嘘ってなによ?」
 伏見は一瞬、とてもうれしそうに笑うと、小さな声で私の耳元に口を近づけて、くぐもった小さな声で言う。
「悪口だって思ったでしょ?」
「うん。てか、なんで耳打ち?」
 伏見はくすくすと笑いながら、清々しいほどさわやかな声で言い放った。
「その方が、仲良くみえるだろ?」
 ……誰も見てないっていうのに。こいつは、初めて友人ができた幼稚園児かと、私は外の白黒の世界を眺めてため息をついた。桜の花びらから若葉がちらほらと見え始めて、季節が移り替わろうとしている。その若葉はよく見ないと見つけられないほど、小さな変化だった。……私みたい。
「作っていうんだ。水島作。美術部だから、明星さんのことお任せしてる」
 お任せという言葉を聞いて、私は顔をしかめる。
「伏見……。あのさ、私友達百人作るために学校にきているんじゃないんだけど」
 伏見は私の顔を眺めてしばらく黙ってから、鼻で笑って「知ってるよ」と言った。
「でも、作は役に立つと思うよ。木を隠すには森っていうだろ」
「……どういうこと?」
「みてればわかる。それじゃ、部活行ってくるから」
 伏見はそういって、体操着を持って教室から走って行ってしまった。
「木を隠すには森……ね」
 説明が説明になってないせいで、ずっとモヤモヤしていた。
 春の匂いをふわりと運ぶ風と戯れる光とカーテンの揺らぎをみて、私は水島は、どういう人なんだろうと考えた。悪口を言わない嘘つき、それはきっといい意味で嘘をつくという意味だろうか?
 そもそも別のクラスの人とどうやって伏見は仲良くなったんだろう? 友人を作る能力も経験も足りない私には理解が追い付かなかった。


 私は美術室に歩き出した。一歩何か自分が望まない道へ歩もうとしている。何を望んでいたのかもわからないけど、自滅への一歩を歩こうとしていたその足を少し前を向くために歩こうとしている気がした。
 サボればいいのに、わざわざ部活に向かっているあたり私は少しまじめになったのかもしれない。
 古い絵の具の匂いと紙の匂いがそこはかとなく匂う美術室。中からは笑い声とイーゼルを立てるような小さな乾いた音が聞こえてきた。 
人の気配に思わず、ごくりと唾を飲み込んだ。
横開きのドアを開き、怯えるように美術室に入るとたくさんの人が開くドアの音に振り返った。その眼の色を見て、同じような黒と白なのに、明暗の色合い、筋肉の動き、瞼の見開き具合でわかってしまう。
そうだろうな。あまり歓迎されていないことぐらい、わかってるよ。心の中で卑屈に呟いて私は堂々と顔を上げた。
気だるそうな演技をして、ひそひそ話をする女子たちの間をわざと通り、鼻で笑った。途端に空気が変わり、耳に通る血液の音が聞こえるぐらい静かになった。
私は空いた席に座り、再び騒めきが聞こえだすのを待ってからノートを開いた。
そこには描きかけの美人なクラスメイトの女の子が描かれていて、見つかったらやばいなと心の中で自分を笑った。
「本当に、人のことよく見えているんだね?」
 声をかけられた瞬間、とっさにノートを隠した。
「明星さんでしょ? こんにちは。僕は水島。水島作」
 明るい表情の水島は、たぶん親切な人だと直感した。伏見と違って笑顔に違和感がない。さわやかな好青年といった印象を受けた。屈託もなく、不細工でもイケメンでもないが愛想がよくて人懐っこくて、人から好かれそうで嫌味がない。けれど、私は突然話しかけられ、あわよくば落書きさえ見られた恥ずかしさで尖った態度をとる。
「勝手にみないで」
 水島は急に真剣な顔をして、隠した腕から所々見える絵を眺めるといった。
「モデル美人だね? クラスメイトの子?」
「……うん、美人だったから描いてみたくなったの。でも全然うまく描けないから見ないで」
 水島は目線をそらしてこういった。
「絵も確かに上手いけど、そうじゃないよ」
「……何?」
 私は怪訝な表情をしていたと思う。その言葉の裏を必死に探ろうと、警戒心を露わにしていたんだと思う。
「奏太くんが言ってた通りだよ。人の表情やしぐさだけで何を考えているかわかっちゃう人だって。そりゃ、ほとんどの人間が空気感とかで大体わかっちゃうものだけど、君のは、人のそれとは少し違うね。必要以上にわかっちゃうタイプの人間なんじゃない?」
 その一言でこの人その類いの人なのかと思った。伏見にもそうだけど、こういう類いの人の諦めにも似た表情をたまに垣間見ることがある。
「水島もそういう類いの人間かな? 私が入ってきたとき、一人だけ表情を変えなかったし」
「気づいてたんだ」
 水島は、少し驚いた顔をして口元を抑えて考えているようなしぐさをした。そしてしばらくしてからわざと笑ってみせた。
「奏太くんが言ってた通り、怖いね。一秒もなかったでしょ? 教室に入って周りを見た時間。その数コンマで僕のことまで見てたなんて。本当に怖いね」
「悪かったね。怖くて」
 私は視線を外して怒って見せると、水島は焦ったように急いで謝罪の言葉を紡いだ。けれどそれさえ、わざとらしい。そして、わざとらしいことを隠していないように感じる。   
私は水島の目をみた。
笑顔で何もかもを隠しているように見えるけど、中にある感情がくすぶっている。それは、私に対する嫌悪だった。ずっと疑問だったことが頭の中で噛み合った。
(……ああ、そういうことか)
「私だって怖いわ……。いつからなの? 私が周りのことをよく見てるって気づいたのは」
 水島は驚いた顔をしてこういった。
「奏太くんに聞いて――」
 そう言おうとする水島を鋭くにらんで吐き捨てるように言い切った。
「バカにしてんの?」
 水島は一瞬だけ驚いた顔をしてバカにするように笑った。
「……やっぱ、ばれた?」
そういった水島は、舌を出して失敗失敗と呟いた。ふざけたその様子はまるで友人にするような親しみのあるポーズだったけれど、その舌にはピアスがついていた。
大きなシルバーがきらりと光る。その見た目とのギャップに私はぞっとした。
 水島はいたずらっぽくは笑っているけど、そのほほ笑みには悪意しか感じない。
「どうやら、奏太くんを君にけしかけたのも僕だってわかってるみたいだ」
「伏見が邪魔なの?」
言葉を遮るように私は言った。水島は両手を上げて降参のポーズをとった。
「本当、君は怖いね。なんでわかったの?」
 私は水島が敵かもしれないと疑い、警戒心を露わにして思い切りにらみつけた。
「伏見は人のこと良く見てるけど、水島くんほどじゃない。それなら、伏見が私に興味を持つわけがないし、体育サボったときにそんなよくわかりもしない一クラスメイトに自分の悩みを話したりしない。それなら、私のことを誰かが告げ口してけしかけた人間がいてもおかしくないなって思っただけ。あくまで可能性としての推測」
「ふーん。それでどうして僕が奏太君が邪魔だってわかったの?」
 余裕ぶっているその態度が気に入らなかったが、私を見極めようとするその偉そうなやつを負かしてやりたくて冷静さを装った。
「伏見のどこまで知っているのかはわかんないけど、伏見が私と仲良くなったあとの結果が、水島くんの得にならなきゃ協力しないんじゃない? 伏見は最近は私と話してばっかりだから周りから距離を置かれているし、その結果を水島くんは望んでいる。どうしてかはあなたのことを知らないからわかんないけど、あなたは頭よさそうだし、目の色を見たらわかる。損なことはしない人だ」
 水島は眉間に皺を寄せて、敵意を顔をした。
「色盲なんじゃないの?」
「黙れ。カラーって意味の色じゃない」
 私もこいつとは合わないと思った。おそらくそれは伏見もわかってのことだと思う。それなら、私と水島を合わせたのは友達にさせるためじゃない。
「奏太くんが気に入らない。人気者なのに怖い人間じゃない? 彼って」
 私は黙ったまま、水島をにらんだ。
「だから隔離したい。それだけだよ。危ないでしょ? 奏太君、壊れてるし」
「……私はいいの? 彼の犠牲者になっても」
 水島は悪びれない、そして見下すように言った。
「君も。あまり気持ちのいい人間じゃないからね。一石二鳥」
「二枚舌が」
反吐の出る言葉に嫌味を吐いたが、水島はくすくす笑ってこう言った。
「知ってるよ」
 部活のチャイムが鳴り、絵を描き始めた時も水島は大勢に囲まれつつも、私の世話をかいがいしく焼いた。
「なんで面倒みてくれるの?」
「それが奏太くんとの約束だから」
 律儀な奴だなと思いつつ、私は水島の絵を覗き込んだ。明暗しかわからないが、線で絵を描かないタイプの絵かきだと思った。繊細な明暗、鋭い観察力だけではなく、思考さえ読み取って表情に深みを出すタイプだ。それは模写というよりはもはや物語を描き出す小説家のようで、才能の差に唖然とした。
 絵はたぶん、物語と一緒なんだろう。描き写すだけならきっと写真でいいもの。物語がないとダメなんだ。感じ取れる何かがないと――。
「すぐに明星さんも上手になるよ」
 気遣うように水島は言ったけど、自信はなかった。
 そういえば、伏見が言った意味今でも分からない。私は描いてる途中に悪いとは思いつつ、水島に話しかけた。
「木を隠すなら森ってなに?」
「何それ?」
 何も検討がついていなように、水島は不思議そうな顔をしている。
「伏見が言ってた。木を隠すなら森だって。どういう意味なの?」
 水島は「あー」と間抜けな声を上げてこう言った。
「俺の近くにいれば悪目立ちも孤立もしないって意味じゃないかな?」
 そういった水島の顔は何か腑に落ちない顔をしている。
「なに? その顔」
 水島はしどろもどろになりながら、言う。
「いや、意外だなぁって」
「何が?」
 そういうと、水島は言葉を濁らせてうなった。
「意外と大事にしてるなって意味だよ。正直、奏太くんは君を孤立させると思ってたから。そうした方が彼の悩みをばらされる心配もないし、自分だけが独占できるでしょ? 明星さんを」
「……そういう腹黒いやつなの?」
「そういう腹黒い奴だよ。奏太くんは」
 疑いもないような晴れ渡る清々しい表情を見て、嘘がないことを知った。
「水島も相当腹黒い気がする」
「なんで?」
 不思議そうに聞く水島を見てこう言った。
「本当にいい奴は、伏見の腹黒いところばらしたりしない」
 私は少し大げさに笑った。
「明星さんって笑うんだね」
「失礼な」
 言葉とは裏腹に私は笑っていた。
 色が見えなくても、きっと幸せならその引け目をなんとも思わないかもしれない。けれど、私はいつも足をすくわれる。
「色目つかってる」
 ぼそっと呟かれたその言葉で現実に引き戻されて、私の人間不信は思い出したように心を汚染する。
「そのうちなじめるよ」
 気休めの言葉を私は受け入れがたいのに、頷いた。

 日曜日には図書館に行くのが日課になっている。
 天気が雨の、出かけるのがあまりそぐわない日でも、私は図書館で本を読み漁る。
静寂が人を押さえつける独特な空間。所々古い木材を使われた柱からかおる木の香り。厳かな雰囲気の中で、本の内容を小声で話し、微笑みあう学生たちは見ていてほほえましく、心に惹かれるものがある。
 大きく開かれた窓からに雨がぶつかり、水滴が薄暗い光をわずかに輝かせる。
 この空間はとても静謐だった。
 図書館の自動ドアをくぐり、その先にある絵本コーナーが目に入る。
絵本……。確か、伏見が好きだと言っていたのはエドワードゴーリーだったか。あの絵本は話もダークで絵柄も不気味だ。
 話の独特さと、滲み出る悲壮感で有名な絵本だから、名前だけは知っている。怖いもの見たさで内容もネットで調べて把握してはいる。ただ実際に読んだことはないのだ。
 読んでみたい。もともと読んでみたかったのもあるし、伏見がどうしてエドワードゴーリーを好きなのかが気になって仕方がなくなった。
 彼はゴーリーの何をみて、何を感じて、何に感動して好きだと思ったのか。それはきっと本人にしかわからないことだろうが、彼の考えを考察してみるのが楽しいかもしれない。
 窓の外のしとしと降る雨の音に耳を澄ましながら、絵本コーナーによる。気になる背表紙のタイトルを見るだけで、ドキドキするのは根っからの読書家だからだろうか?
 タイトルからどんな物語だろう? このタイトルからしてこの作者の作風からしてこういう話だろうかと手に取って読んでみて、いつも予想を裏切られるのが好きだった。
 コツコツと普段なら気づくこともないわずかな足音が響くのが耳に入る。いつもなら気づかない靴音や、雨音。紙の匂いに物語が詰まった空間。図書館の書庫の背表紙のタイトルをなぞりながらほほ笑んでしまう。
 楽しい幸せな時間。
 楽しんでいたけれど、どれだけ探してもエドワードゴーリーの絵本は見つからなかった。
(あれ? エドワードゴーリーって子供用の絵本のところにないのかな?)
 確かにあの作品は子供が読むには題材が暗くアンダーグラウンドな世界観だ。子供向けではなく、海外でさえ大人が読む絵本だと紹介されるほどだ。
 だったら、どこにあの絵本はあるのだろう? 忙しく動き回っている司書さんに聞くのも躊躇う。それが仕事と言われてしまえば、そうなんだろうができれば自分で探し出したいし、迷惑はかけたくない。
 私は子供の用の背の低い本棚を中腰になりながら、もう一度探し始めた。
 高校生になって絵本コーナーに居座るのは少し恥ずかしいけど、なんだかどんな絵本だったか、気になって仕方がなかった。
 本当は絵本はあまり好きじゃないんだ。
 赤、青、黄色、聞いたことのある色の名前にはなじみがない。当たり前にあるもの確かにこのページについている色合い。赤鬼の赤、青い鳥の青、木々の緑、想像で色を当てはめてみようとしても、いつの間にか灰色、くすんでしまう。
 匂いで色を感じることもできる人もいるって聞くけど、私は手に取った絵本のにおいを嗅いでみた。……古い紙のにおい。
 印刷したてならわかるのかもしれない。
 そんな淡い期待をして新しい絵本を買ったけれど、わからないことが怖くて遠ざけてしまっている。
 その間にすっかり絵本は古い紙のにおいに変化してしまって、もう嗅いでもわからない。
 私はいつもそんな意気地なしだ。
「……明星さん?」
 一瞬身をすくめた。声に驚いたせいだけじゃない、その声が絵本を探すきっかけになった伏見の声だったから。
「絵本コーナーにいるの、めずらしいね」
 その言葉に何かひっかかりを覚えた。
「めずらしい……?」
 その言葉はまるで普段は絵本コーナーにいないことを知っているかのようだ。まぁ、普通この年で絵本コーナーにいる方が珍しいけど、言い方が少し気になった。
「私が休みの日に図書館にいること知ってるみたい」
「うん、まぁ」
 何も悪びれる様子もなく、伏見は答える。私はいつからみられていたのかと少し怖くなって伏見をにらんだ。それでも伏見は何も気にしない様子で話しかける。
「もしかして、エドワードゴーリー?」
 聞かれて、さっと血が顔に上るのが分かった。影響されて絵本を見に来たのが気恥ずかしくて、視線を泳がせ、ごまかそうとする。伏見がにやりと笑うのが見なくてもわかってしまって恥ずかしさで硬直していた。
「なんだっていいじゃない……」
 尻すぼみな声で俯きながら、必死に悪態をついた。顔に熱がこもっている様子なんかみっともないから気づかれたくなんかない。だから必死にごまかすことばかり考えていたのに、私を見て伏見は本当に優しく笑った。その柔らかなその声色に安心感を覚えた私はそっと伏見に視線を移す。
「恥ずかしがらなくていいのに」
 優しく微笑んで、背の低い本棚を撫ぜる伏見は続けてこう言った。
「エドワードゴーリーの絵本は、ほとんど白黒だがら、たぶんこの絵本は君にとって本当を映した数少ない世界なんじゃないかな?」
 その私を気遣った優しい言葉になぜかくるものがあって、私は前髪で顔を隠してから「ありがとう」と呟いた。
「俺、なんにもしてないよ。それに探しても見つからないのは俺が悪かったから」
 私は自体が飲み込めず、伏見を見ているとばつの悪そうな顔をして頭を描きながら言った。
「俺が全部借りてて、さっき返したんだ」
「バカ!」
 思わず出た大きい声は館内に響き渡った。途端に利用者たちの視線がくぎ付けになる。まるで示し合わせたように利用者たちが静かに指を口に近づけて「静かにね」のジェスチャーをする。私は俯いて口早にいった。
「で、出よう」

図書館に併設されているカフェに入り、席に着くと伏見が咳を切ったように笑い出した。
「明星さん大きい声出しすぎ。図書館では静かにでしょ?」
笑っている伏見が気にいらない私は、ひたすら小声でバカを繰り返していた。まるで念仏のようなバカの声に伏見は呆れ気味に言った。
「聞こえてるからね。本当。君はバカの一つ覚えなんだから」
「だって、そんな全部借りてるなんて思わないじゃない! 独り占めするなんて卑怯よ」
私はうじうじした態度で、文句を言う。カランとアイスティーの氷が解ける音がした。
眺めていると、まるで仲のいい友人同士がじゃれているようにみえるだろう。
それを自分で客観視すると心がじんっと疼いた。人と関われていることに対しても笑って誰かと話せることに対しても、本当に自分が望んでいるのかも、していいことなのかわからなかった。
「好きなものは独り占めしたいタイプなんだよ」
「ふーん」
 興味なさそうに返事したけど、彷彿と水島が言っていた言葉を思い出した。
「せっかくだし、おしゃべりしよう」
 独り占めしたい人らしい伏見は、もしかしたら今までの一連の流れを読んでいたんじゃないだろうか? そんな疑念が浮かんだけど、ここはあえて考えないことにした。
 伏見のうれしそうな顔を見て毒気が抜かれてしまったからだ。喜んでもらえるなら、べつにいいや。
「明星さんってさ、下の名前なんていうの?」
「沙雪」
ガラス窓につく雨粒が流れていく様子を眺めていると伏見も外の景色をみた。
「じゃ、沙雪って呼んでいい」
 そして突拍子もなく放った言葉に、一瞬アイスティーを吹き出しそうになった。
「……な、なんで?」
 思わず咳き込みながら聞くと、「その方が仲良くなった気がするでしょ?」と答えられ、私は困り顔になった。
「伏見は、形から入るタイプ?」
「うーん。どうだろうね? 君の名前は呼びたいかな」
「なんか、口説かれてるみたい」
 今度は私がからかってやろうと卑屈に笑って言ったのに、伏見は鼻で笑うように言った。
「うーん。どうだろう。違うかも」
「むかつく」
 間髪入れずに言うと、目線があって笑いあった。
 しばらくいろんな話をして雨の図書館を楽しんでいたのだが、ふいにあることに気づいた。
 伏見のアイスコーヒーは減っていない。最初の数回口をつけただけで、以降飲もうとしていないのだ。私のアイスティーばかり減っていく。
「伏見、コーヒー全然飲んでないじゃない」
「うん。話すのが楽しくて」
 楽しいのは本当だと思った。けれど微妙な表情の変化を私は見逃さなかった。
「嫌いなんでしょ? コーヒー」
「……」
 伏見は急に口笛を吹き始めた。その口笛はあまりにもへたくそで吹けてさえいなくて、昔の漫画のごまかし方みたいで思わず噴き出した。
「ごまかし方! 漫画じゃないんだから。ふふっ。あははっ。なんで頼んだのよ。ほかにもメニューあったのに」
 視線を合わせず、伏見は変な顔をしたままいった。
「かっこつけ?」
 決して視線を合わせないのに、舌を出して頭をこつんと叩いている。
「バーカ。照れ隠し上手すぎでしょ?」
「ばれちゃった? うわー。はずっ。こんなはずじゃなかったのに。思いのほか飲めなかった」
 照れている様子をばれたくなかったみたいで、わざとおどけていたようで、伏見の顔は濃くなっていった。見ないでと顔を隠そうとするけれど、私にはあまり変わらない気がするので、そんなに照れ隠ししなくていいのになと他人事のように思ったけど、視線を必死に合わせないようにする伏見がめずらしく、可愛くみえた。
「交換する? こっちのアイスティーまだ半分残ってるし、のど乾いたでしょ? 私はコーヒーも好きだから全然いいよ」
 伏見は少し、私とアイスティー交互に見て、少しだけ頬を染めてうーん、うーんとうなってから、「ありがとう」といって素直にアイスティーを受け取った。
「嗜好品なんだから、無理しなくていいのに」
 私は何も考えず、アイスコーヒーに口をつけた。すっきりとした後味のコーヒーは酸味があっておいしい。
 いろいろ豆の種類で苦みや酸味の味の比率は変わるらしいけど、ここのコーヒーは私にとってなかなか好みの味だった。
「沙雪って、全然そういうの気にしないんだね」
「なにが?」
 私はその時は何もわかっていなかったが、あとから気づいた。間接キスだったかもしれないと。

「そういえば、色を匂いで識別する人がいるらしいね」
 私は驚いて伏見の方をみてから、我に返って平静を装った。
「……あ、うん。ネットに書いてたのみたことある」
 伏見はそういうとにやりと嬉しそうに笑った。
「そこでプレゼントがあります!」 
 伏見はテーブルの下に置いてあった鞄から何かを取り出した。
「分厚いね。小説かな?」
そこに現れたのは、分厚いハードカバーの本だった。私にはグレーに見えるその本にはいろいろな目にも楽しいイラストが描かれている。よく見ると女の子とうさぎ、不気味に笑う猫なんかが描かれている。もしかして。
「不思議の国のアリス?」 
「そうだよ。これは飛び出す絵本。一時、流行ってたでしょ」
 私は生唾を飲んでから、ゆっくり用心して本を開こうとしてみた。
「別にパンチングマシンじゃないんだから。普通にあけてよ」
「わかってるよ!」
 私はゆっくり開いてみた。
 たくさんの絵が浮き上がるように立体になった。細かい絵柄を引き立てるように、細かい仕掛けがいろいろしてあるみたい。散らばったトランプは所々重なっていて立体感を余計に感じるし、遠近をしっかり意識しているキャラクターの位置、畳むときでさえ、それらは緻密に重なり合って、それはまるで巧みに作られたからくりみたいだ。
私は一目で心を奪われた。
「……すごい」
「すごいでしょ? プレゼント。あげる」
「えっ?」
 私はいいよどんだ。
「いいよ! こんな素敵なものもらえない……」
「えー。せっかく喜んでくれると思って買ったのに」
 私はその言葉を聞いて慌てふためいた。
「か、買った?」
「そ。買ったの。君にもらってほしくて買ったんだ」
 私は急いでスマホで検索した。
(飛び出す絵本 不思議の国のアリス)
 検索でヒットした絵本の値段は4250円。
 思ったよりは高くない。でも、これもらっていい金額のものなんだろうか?
「こんな高いものもらえないよ」
 私は悩んだすえ、結局もらえないと伝えた。しかし、伏見は退かず、変なことを言い出した。
「俺の脱ぎたての靴下とこの絵本どっちをプレゼントされたい?」
「はっ?」
「どっちプレゼントされたい?」
すごい圧がかかった表情だった。顔は笑っているのに、半分怒っているかのように顔面の筋肉がひきつっている。
「……絵本」
 いい負かされたように口をつぐんだ。
「高校生にしちゃ高いんだから、ありがたくもらっといてよ」
 カフェを出た瞬間、気が緩んだように伏見が呟いた。その顔を眺めることはできなかったけれど、笑ってはいなかったと思う。
「あ、」
 少しわかった気がする。ああいうときは喜ばないといけないんだと。
「ありがとう。本当は、すごく……うれしい」
 伏見はうれしそうに笑ってみせたけど。
「色の匂い、した?」
「わかんない」
私は正直に答えた。
 感情はめんどくさい。温めて大事にしてゆりかごの中であやしていないと、めんどくささが零れ落ちて、醜態をさらしてしまいそうになる。
 気づかれたくない感情ほど、コントロールが効かないものだから、余計に持て余してしまう。伏見はそれを見てくすぐったいような笑顔になった。
 その時、私は思ったのだ。彼はもう壊れていないんじゃないかって。まるで普通の人間のようで、もうひび割れてしまった彼の心が修復されたんだって。浅はかにもそう思ってしまった。
 一度壊れてしまった人間はそんな簡単に治らないって。その時の私は彼の抱える感情の一つがどれほど彼を蝕んでしまっているのか、気づかないでいた。
 伏見が、その事件を起こしたのは、それから数日も経たないうちだった。

 その夜、私は狭苦しい部屋の中で絵本を抱きしめて、匂いを嗅いでみた。紙の匂いとは別に色彩の匂いがした気がした。
 伏見はどんなことを思って、この絵本を買ったんだろう。私の反応をみて喜ぶことを想像してレジまでもっていってくれたんだろうか?
 それを想像すると、心がくすぐられるようにこそばゆい気がした。
 四畳半の部屋の中は、布団と山積みにされた文庫本があるだけで女の子らしいものはない。そこに分厚い絵本が足された。それだけうれしくてたまらない。この狭い部屋は白黒見えても、見えないだけでカラフルなんだ。きっと畳だって、ふすまだって布団にだって色があるはずだと思うと、すごく全てが新鮮に見えた。
 母が死んでから、私は父と離れて暮らすようになった。父は寡黙な人で、母が死んだときでさえ眉一つ動かすこともなく、ただ無表情に病院で伝えられた死亡手続きの説明をただ聞いていた。
葬儀はしめやかに行われ、すすり泣く声が耳に届いて、ああ、母は愛された人なんだとその事実に安堵していた。けれど、その安堵とは裏腹に夢の中にいるみたいに現実味がなく、ただ明日になればこの悪夢から覚めてしまえるのだと信じていた。
その空想の明日は一向にくることはなく、現実なんだと実感せずにはいられなかった。
母を亡くした私の扱いは、最初こそ腫れ物に触るようなものだった。けれど、時間が経つにつれ、周囲の態度は段々と苛立ちに変わっていった。
「悲劇のヒロインぶってる」
 友人だと思っていた人の本音を聞いた。
「気を使うの、疲れる」
 いつまで経っても以前の明るさを取り戻さない周りは私から離れていった。
 けして、自分を悲劇のヒロインだと思ったことも、気を使ってほしいとお願いしたわけでもないのに、自分はただ一つの欠けた歯車がない状態でも、必死に回ろうとぎこちなく生きているだけなのに。
 父には新しい婚約者がいる。私は父に一人で暮らしてほしいと頼まれ、現在に至る。自分を愛してくれる存在はもう一人もいないのだと痛感せずにはいられなかった。
 だから、たぶんうれしいのだと思う。
 もう期待してはいけないと、心の中の境界線を踏み越えてきてくれた相手がいることに。
 私は絵本を抱きしめたまま、眠りについた。昔、母が教えてくれた人のぬくもりのように、私は柔らかなその存在に安心して夢を見た。
 私はもう少ししたら、目を覚ますのかもしれない。
 
 桜の季節が終ろうとしている。若葉が花弁を散らすのを手伝うように大きく存在してきている。
 若葉と花弁、半々といったところだろうか。それもまたきれいなグレースケールなんだけれど、色をそっと心の中で想像してみると、少し楽しかった。
 以前ならチクリと傷んでいた心が、大きく花開いていく。
「桜、散っちゃったね」
 通学路で桜の木を眺めていた私に伏見は話しかけた。
 その瞬間、私は思わず微笑んでしまって伏見の驚いた顔で我に返った。
「いや、あの」
 しどろもどろになりながら、言い訳を考えてみるが何も思い浮かばなかった。
「笑いかけていいんだよ。バカだなぁ」
そういわれてさっと頬に血が集まるのがわかった。
私は私という嘘の人間を作っていたんだろう。本当はよく笑うし、少しのことで泣くし、感化されるし、単純で……彼の言うようにバカなんだろう。
「バカっていう方がバカなのよ」
悔し紛れに言い返してみた。
 校舎の人の匂い、シャーペンを押す授業のわずかな音。吹奏楽部の奏でる音楽に耳を傾けながら少しずつ自分の変化を感じていた。
 誰かに何かもらうのってこんなにうれしいんだ。プレゼントよりも、私の事考えてくれたことがうれしかった。
 伏見の優しさが骨身に染みる。今まで血の通ってなかった体が動き出す。
 ああ、そうか。この気持ちが懐かしい。
 これは大事な人に抱く気持ちだと、私は母の笑う顔を思い浮かべながら、伏見に笑いかけた。
「バーカ」
 伏見は微笑んでこう言った。
「バカっていう方がバカなんでしょ?」
 悔しくって黙った。
「ねぇ、沙雪」
 私は桜に手を伸ばして花弁に触れようと手を伸ばす。
 伏見は幸せそうに笑いながら私の名前を呼んでこういった。
「沙雪のこと好きだよ」
 花弁をつかみ取れた。そしてその言葉に震えた。
「ありがとう」
 世界が色づいていく。幸せな愛される願望夢なのかもしれないと思ったけれど、私は、これが現実であることを強く願った。
「作に借りできちゃったな」
 悔しそうに笑う伏見に少し疑問をぶつけてみた。
「なんで友達じゃないってっていうくせに、水島を作って呼ぶの? 水島も奏太くんって呼んでるし、関係性がわからないよ」
「内緒」
 指を唇に当てて伏見は怪訝そうな顔をしてごまかそうとした。
「ボーイズラブだったりして」
 私は意地悪でからかったが、伏見はまるで気にもしてないみたいにおかしそうに噴き出した。
「俺は君が好きだよ。沙雪ってもしかして腐女子なの?」
「……バカ」
 茫然としながらようやく絞り出した言葉は口癖のバカだけだった。彼が言っていた好きの意味を理解した。恋愛という意味での好きだと。
 顔を俯かせて見られないように速足で歩きだす。
私はどうなんだろう? 友達と恋愛の境界線が曖昧な時がある。
 ときめき、ドキドキ、胸キュンという字面の言葉を目にしてみても全然ぴんと来なくて、きっと私には関係のないものだと思っている。
「もしかして……わかってなかった?」
 焦るように伏見は言ったけれど、恥ずかしくなった私は虚勢で怒鳴った。
「黙れ」
「……わかってなかったんだ」
 ショックを受けたように伏見は顔の色を濃くして黙り込んだ。

放課後、部活でアクリル絵の具で絵を描いていたけれど、集中できなかった。ふいに水島に目をやると、水島は写真を模写しているようだった。
「水島は、誰かに告白されたことがある?」
 俯きながら話しかけてみる。水島は絵筆を一瞬止め、大きなため息をついた。
「……僕、彼女いるよ、だから君の気持ちを受け取れない」
 私の怒りは軽々と沸点を超えて、思わず水島の背中を思いっきりたたいてしまっら。
「痛っ! 冗談じゃないか。君は暴力的だな……。まったく」
「真剣に聞いているの!」
 そう怒鳴ると、考えながらパターナイフを掴みキャンパスの絵の具を引き延ばした。
「何? 奏太君に告白でもされた?」
「あんた気づいてたんだ」
 私がにらんで見つめる先には不協和音が響いてくるような不気味な顔した水島が、笑っていた。
「君も気づいていただろう? 奏太くんにとって君が特別だって。君が言ったんだ。奏太君が異常じゃない、ただのへんてこだって」
 その言葉に私はチクチク突き刺さるようなとげとげしさを感じた。……気に入らないんだ、水島は。
「水島って伏見となんかあったの?」
 水島は視線をずらして絵を見た。その絵は写真の模写らしく、小さくてかわいい女の子がぬいぐるみを抱いて幸せそうに微笑んでいる写真で、なんとなくわかってしまった。
「伏見の妹……さん?」
「言っとくけど、僕はロリコンじゃないからね。彼女は別にいるし」
 水島の顔は憎悪に満ちた顔をしていてとても説得力がある表情ではなかったけど、あえてそこは突っ込まないで置いた。
「奏太くんとは幼馴染だよ。僕は早紀美ちゃんとの方が仲良かったけど」
 やっぱりロリコンだったんじゃ、と言いかけて私は言葉を飲み込んだ。バカにしていい雰囲気じゃなかったから。
「水島は早紀美ちゃんの、その……」
「自殺のこと? もちろん知ってるよ。死にたいとぼやいてたけど、本当に自分を刺すまで追い詰められたことは知らなかった。うん……、知らなきゃよかったよ。奏太君がわざわざいったんだよ。僕と早紀美ちゃんの関係を怪しんでたんじゃないかな? だから俺を殺してくれって奏太君が早紀美ちゃんの血の付いたナイフを渡してきた。……もちろん、そんなことしなかったよ? だってさ。そんなことしたって早紀美ちゃんは喜ばないし、早紀美ちゃんが悪いんだよ。自分を刺し殺そうとなんかしなければ、奏太君は僕が嫉妬するほどにいいお兄さんだったんだから」
 凄まじい話に、私は思わず生唾を飲み込んだ。
「水島は伏見になんていったの?」
「罪を償いたいなら、苦しみもがきボロボロになって死ね……だったかな? 死なんて全然怖くないんだよ。早紀美ちゃんはそれをわかってたから死んだんだ。それなら、生きて苦しんで苦しんで、最高に苦しんでからって。それでも今、生きていることは素敵なことなんだよ……。生きているから、全部意味があるんだ。放り捨ててはいけないものなんだよ。だから……」
 思いつめるように言う水島の肩に手を置いた。
「もう、いいよ」
 その言葉を伝えると、水島は別に平気なのにと吐き捨てて、絵を眺めていった。
「……優しいでしょ? 俺って」
 そういった水島の表情が忘れられない。水島の中で張り詰めた緊張の糸はピアノ線のように鋭く、触れれば指をけがしてしまう。
それを理解しているから誰にも触れさせないで、自分の本心を誰にも言わないで、死ぬまで抱え込むんだろう。
一番報われないのは、水島だった。
許さなければ、水島は壊れるしかなかったのかもしれない。
「水島って……」
「もし、早紀美ちゃんが生きてたら、僕はロリコンの不名誉を堂々受け入れただろうね。もし早紀美ちゃんが生きてたら、きっとロリコンなんて不名誉でもなんでもなかったんだよ」
 こみ上げるものがあった。救われない話だ。誰一人として救われない。
「で? 君はどうするの? 壊れた奏太くんを受け入れるの?」
 私は答えられなかった。そんな簡単に相手の告白を受けれられるものではない。理屈でいうならそのはずだ。
 ただ憧れてはいる。
 もし彼になれるのならきっと私は彼になることを望むだろう。
 彼の鮮やかな感性に恋をしている。彼を通してみた世界は、あの絵本は、きれいだったのだ。色を持たない私でも初めて白黒の世界に感動したのだ。でもだからどうするかなんて、行動として示せることなんかできなかった。
「うれしくはあったよ……」
呟いた言葉がすべてだ。
 こんなグレースケールの世界でもちゃんと色を持つことに、私は彼と出会って初めて気づけた。

「試したいことがある」
 そういわれ、部活が終ってから伏見に屋上に呼び出された。風が強く、長い髪がうねるようにしなる。ヘアゴムは部室に置いてきてしまったし、私は髪を抑えて伏見を待った。
 春に変化しつつあるのに、まだ冷たい空気が皮膚の中に侵食していく。眩い光は息を吸うように瞬いて見せて、なぐような風と、温度を感じる皮膚の感覚を味わいながら世界に初めて感動していた。
 空は夜を呼ぶ。沈む太陽がさよならを告げる。薄暗がりの中はっきりと自覚することがあった。水島が言っていた生きているからこそ意味のあることを、私は感覚で感じ取っていた。
 生きてるって……。
 感じ取ったその答えを心に刻みながら、遠ざかる太陽が恋しくも儚く感じてとても……美しかった。
 太陽が沈み切ったあと、屋上のライトがフィラメントに伝達する熱の音を弾かせて点灯した。
「ごめん、待たせた?」
 幽霊のように気配を消して、突然浮かび上がるみたいに現れた伏見に私は微笑みかけようとして、無表情になる。
 私の前を通り過ぎても止まらず、屋上の飛び降り防止の柵に手をかけた。
頭に自殺の二文字がよぎる。
「伏見!」
「沙雪、僕が死んだら悲しい?」
 話しているときの瞳の陰りがぞっとするほど美しかった。諦めにも似たその瞳は、人のそれとは違っていて先ほど感じた普通という基準を驚くほど簡単に飛び越えてしまう、異常者の瞳。
「やめて……」
 強がってみるけど、悲しく映るその瞳は私を食いちぎってしまいそうで。
伏見は震える私が何を感じているか悟るように表情に影を落とす。
「人間ってね。こういっちゃなんだけど、大きな群れを成して生活をする生き物だから、その群れに有益ではないものを排除するようにできている。いじめとかもそうだよ。そんな人間が一番怖いものは何かわかる?」
 そう聞かれて私は考える。
「やめて」
 私は同じ言葉しか放てない。
「話、しよ。大丈夫だから」
 そういった伏見を刺激しないように、私は考え込んだ。
「その理論で言うと、群れをばらけさせる要因になるもの。もしくは、群れの役割を放棄させるほどの不安要因、疑心暗鬼にさせるもの……?」
 伏見は驚いた顔をして、視線をそらし頬を指で掻いた。私は何を考えているかわからない伏見の名前を呼んだ。
「伏見」
 伏見はまるで聞こえてないように、遠くを見た。
「大正解。ちょっと悔しいな……。俺はこの答え出すのに、だいぶかかったのに」
 伏見は笑っているが、やっぱりほかの感情も見え隠れする。
「何を、考えてるの? それ、誰に言われたの?」
 伏見は私の方を向いていつもみたいに笑ったけれど、直感で感じた。死ぬ気だ。
「作だよ。あいつ、頭いかれてるだろ? 普通こんなこと考えないよ。しかもそれでいて平穏のことしか考えてない。人間の皮を被った秩序の概念みたいなくそ男だよ」
 そういって伏見はため息をついた。
「それで水島は伏見が邪魔だって言ったの?」
「うん。そうだよ。一番その理論でいうと身近で誰でもできる怖いものは殺人だって。俺はそれを一番起こしそうな怖い人だねって。時々肉食獣みたいな顔してるってよく見すぎてて怖いやつだよ」
 思い詰める伏見は柵を登った。光が照らされない暗闇の中に消えようとするのに私は走り寄って柵を同じように登ろうとした。
「伏見! ダメ!」
 柵を挟んで向こう側に行ってしまった伏見に私は叫んで掴もうと手を伸ばしたけれど、足を滑らせて、しりもちをついた。
「ねぇ、沙雪。君は人を殺したいと思ったことがある?」
 狂った色をしていた。じわじわと毒を注がれたように、脳裏に浮かぶのは眩しいほどの危険信号。歯の奥がガタガタ鳴るほどに、体が逃げろと叫んでいる。
「……ごめ……。わ、私……」
「どうしてだろうね」
 呟いた言葉が突き刺さる。悲しい声が頭に響く。
 誰かを好きになって、誰かに好かれたいと願って、仲良くなるために勇気を振り絞って話して、そういうプロセスを踏めば、その誰かの親しい存在になれたり、上手くいけば好いてもらえるかもしれないのに。
 彼は踏み外す。
 泣きじゃくりながら、彼は言う。
「こんなつもりじゃなかった。どうしてこうなるのかわからない。人を殺したいなんて思いたくないのに、どうして……好きになるほど、苦しくて悲しい」
 その言葉の一つ一つを聞きながら、気づく。
 ああ、この人は悲しいほどに人間だと。
 この人が何を感じ、何を見て、何を思うのか、知りたいと。その景色が本当はすごくきれいなんじゃないかと思えるほどに、私は感化されていた。世界は本当に自分次第で色を得るのだと思わずにはいられなかった。
「泣かなくていいよ」
 私は柵をもう一度のぼる。柵の向こうは怖かった。落ちたら死ぬけれど、でも死ぬより怖い事なんかたくさんある。
 羨望はあっという間に疎みに変わり、尊敬に変わり、愛に変わる気がした。
 私は伏見を抱きしめて言う。
「かっこいいね。見えているものを否定して、自分を正しく導こうとするの。超かっこいいよ。だから……、泣かなくていいんだよ。胸を張っていっていいよ。俺は人間ですって」
 それでも彼は泣きながら、言ったんだ。
「好きになって、ごめん」
 私は彼の頭をなでながら、遠い先の未来を考えていた。彼が誰かに愛される未来を、茫然と立ち尽くしながら考えていた。きっと、次にこういうことがあったら私は殺されてしまう。その先の未来に、この人を愛してくれる人はいるんだろうか?
 私と伏見は抱き合ってしばらく泣いじゃくってから、家路についた。

 それから数日、伏見は学校に来なくなった。
 よく考えると、彼の家を知らない。彼の事を本当はあまり知らなかったのだと痛感させられた。
 クラスで伏見の話をしている人はいなかった。私と仲良くしているからもう仲間でもないと思われていたようで、伏見の話を意識してしないでいる……、そんな感じだった。
伏見は自分がいつでも消えてもいいように、準備をしていたのかもしれない。自分がいた記憶や自分がいた痕跡を残さないようにそういう死に支度をしていたのかもしれない。
「水島、伏見の家知ってる?」
「知ってる。けど、教えない」
 水島は俯いたまま、答えた。
「奏太くんが救われることはないよ」
 否定するように私は首を振る。
「そうじゃない。救おうなんて大それたこと考えてない」
「それなら、ほっときな。そうじゃないと……、わかるでしょ?」
 水島は冷徹な顔をして、早紀美ちゃんの絵を描き続けている。そうやってずっと死ぬまで早紀美ちゃんの絵を描き続けるんだろうか?
 自分を偽って、悲しい気持ちを押し殺して、早紀美ちゃんの面影を追い続けるんだろうか?
「あんたさ。死ぬまでその写真の絵描き続けるの?」
 水島は筆を止めた。
「ああ、うん。そうだよ」
 筆を止めて水島はこちらを空ろな目で見つめた。
「僕にとって彼女は、一生をかけて覚えていなくちゃいけない。救えなかったかけがえのない人だ」
 人間らしいのか、狂っているのか理解ができないほどに、彼はまっすぐに答えた。空ろな瞳の中に、映るのはただ懺悔や後悔なんてありふれて理解できる感情ではなく、ただただ自分の愛した人を求める愛に飢餓した惨めな人の姿だった。ただもうそれしかないという縋るような姿それだけだった。
「……理解できない」
「理解してもらおうとなんか思ってない。人にはいろんな愛の形があるんだ。それは他人に理解してもらうために突き通すものじゃないよ」
 水島は悲しそうな顔をした。けれど、それでも描いているときの水島は、安らいだ表情をして、幸せそうなのが余計に痛かった。
「愛する人を亡くして、新しい恋をして、それで前向きに生きていく。それが死別の物語のテンプレート。だから僕には新しい恋人がいるし、そこそこ幸せなふりをする。それが亡くした人にできる唯一のこと。一生悲しんで、一生覚えていてなんてそんなこと望める人間のほうが少ないんじゃないかな? それでも、亡くしてしまった愛を貫くのもいいさ。それも一つの愛の形だよ。けれど、それをすると早紀美ちゃんが救われないだろ? 一生愛する人の悲しみを天国で見つめながら、自分のことを責め続けるなんて可哀そうじゃない? だから物語の死別のテンプレートは救われるように書かれているんだ」
 そういった水島はもう悲しそうな表情をしていなかった。
 笑っていた。とろけてしまうほどに幸せそうに。
「僕はね、彼女が悲しいのが一番つらい」
 だから笑えるというのか、だから一番いい方法をとれるというのか。そういうことをしたくてしているんじゃないのは痛いほどわかるのに……。水島は自分の気持ちよりも、彼女の幸せを願った。ただ水島は本当に彼女のことを愛していたんだ。
 それは幸せだろうか? 哀れにさえ見えるその言葉に、それでも満足で幸せそうな表情い、私は不覚にも涙が出た。
「君は情に脆いね」
 水島は穏やかに笑い、そうしてこういった。
「ありがとう」
 水島が私にありがとうと言ったのは後にも先にもこれが最後だった。

「伏見の家教えて」
「言葉にしないとわからないわけでもないでしょ? 殺されるよ」
 私は明確な作戦があったわけではなかった。けれど、行かなくては伏見が死んでしまう気がした。
「このままにはできないよ」
「お人よし」
 貶すように言った水島の言葉が自分に刺さった。
「君はそういう偽善者が嫌いなんじゃなかったのか?」
 私は偽善者が嫌いだ。いいと思うことをする、それで相手を傷つけてめちゃくちゃにする、そういう人間が大嫌いだ。けれど、しょうがないじゃない。
「良い事しにいくわけじゃない。私は自分の我が侭を突き通しに行く」
 私はそう言い切ると、水島は目を丸くして噴き出すように笑った。
 そういうと、水島はぼそっと呟いた。
「僕が君のような人だったら……」
 水島はそういうと、まっすぐ私を見据えてこう言った。
「賭けをしようか? 僕は奏太くんの住所を教える。君が殺されたら僕の勝ち。でも、もし君が生きて奏太くんを変えることができたら、僕はもう奏太くんに死をけしかけることはしないよ。いろいろ悩むけど、僕は願ってるよ……」
 水島は何をか、言うことはなかった。けれど言いたいことは分かった。
「……ありがとう」
 いい澱むようにお礼を述べると、水島は優しい笑顔でこう言った。
「また。会えるといいね」
「うん」
 私は笑わずに言った。
「またいつか」
 その日が来るか来ないかは私次第だ。

 伏見の家は博物館の近くの住宅街の中にあった。家でできた迷路のような入り組んだ場所で行くまでにたくさん迷った。それでも歩みは止めずに来た。私にしては何も考えなしで来てしまって、どうするとか何も考えていない。
 チャイムを鳴らすのも躊躇いはなかった。水島にもらった住所の紙をくしゃりとつぶす。チャイムを鳴らすも応答はなく、二度目のチャイムを鳴らす。
(いない?)
 よく考えたら、居留守をつかわれることを想定していなかった。だいぶ、思考が止まっているようだ。頭を回すのは得意なはずなのに。私は動揺していたんだ。
 三度目のチャイムを鳴らしたが、応答はなかった。
 私はそっと部屋のドアを引いてみた。開いた。
 ドアを開いて私はお邪魔しますと独り言のようにぼそっと呟いてから家の中に入った・
「伏見? いるの?」
 私は靴を脱いで伏見を探した。
 これがばれたら、不法侵入で捕まるんじゃと思ったが、殺されるのを覚悟できてそれぐらいで済むならそっちの方が助かるなと内心ほっとしていた。
「沙雪……?」
 二階の廊下を歩いているとき、後ろから声をかけられて体が震えた。その声に安心したんだ。伏見が死んでしまったあとだったらという不安は捨てきれなかった。
 何か言葉にしようと思ったけど、何も言えずに浮かんだ涙をごしごしとぬぐった。
「バカ。……自殺すると思った」
 涙声の自分がひどくみすぼらしく感じた。死なれたら悲しい存在になり果てた伏見は、少し潤んだ瞳で鼻声でいう。
「バカだなぁ」
「バカじゃ……ない」
 いつの間にかぎこちなくなっていた言葉に私も伏見も安堵していたと思う。
 元に戻れるんじゃないかって。
「沙雪は俺が死んだら悲しい?」
 その言葉を聞くまでは。
「死ぬ……つもりなの?」
 何も言わないで笑うその姿が本音を語っていた気がする。
「どうして?」
「君を一瞬でも殺そうと思ったからだよ」
 何も言えなかった。
「人を……もう、殺したくない」
 それが本心なのはわかった。けれど生きてほしいなんて押し付けをしたって彼が苦しむだけだってわかってた。
 私は何もしてはいけない。もう苦しめていけない。けれど――。
「死なないで」
 涙が流れた。それはまるで自分の殻が剥がれ落ちていくような感覚で、私が身勝手で浅はかで自分勝手だという証明で……私が人間だという証だった。
「死なないで。お願い」
 縋るような願いを打ち明けた。苦しめる言葉を打ちつけた。それなのに、心は穏やかでまっすぐ嘘のない言葉だった。
「君は殺されてしまってもいいっていうの?」
「よくない……けど、死なれなくもない。人間は感情の生き物だよ。しなきゃいけないことと望むことが反してたって仕方がないじゃない」
 矛盾は自分を蝕むとわかっている。けれど、矛盾は生まれていく。感情に飲まれる人間が愚かだと思っている。今でもそうだ。私の選択肢は間違っているし、愚かだ。
 けれど、わかっててそれを選ばなければ一生の後悔になるんだ。
 バカじゃないと進めないことだってあるんだ。
「沙雪を殺したくない」
「じゃ、殺さないで!……ずっと一緒にいて」
「できるかわからない……」
「できないって言えないなら、生きて」
 それで何か解決するわけじゃない。私に打開案はない。けれど。
「生きていかなきゃ、なんだって望めないんだよ」
 それは母が自殺していた時思った。
 もしかしたらを想像せずにはいられなかった。もし、最後まで病と戦っていたら、もし自殺しなかったら、きっと見えていたことや悲しみは違ったかもしれない。
「もし母さんが癌と戦っていたら、勝ててたかもしれない。結果がでないうちに戦うのをやめないで。生きてることはいろんな感情と戦うことだよ。逃げないで、殺したらどうしようで死ぬんじゃなくて、殺してから自殺してよ。あんたはまだ私に何もしてないよ」
 その瞬間、伏見は苦い笑顔を浮かべた。
 殺してから自殺してなんて……ひどい言葉だ。それを一番望まない人間が望まない結果を出してから死ねなんて。ひどい話だ。
 けれどそうじゃないと私が悲しい。私が、悲しくてたまらないんだ。
 夕焼けは部屋を照らし、焦がしていく。黒い影が焼き付くように暗闇が侵食していく部屋に伏見はついに立ち上がって、照明器具をつけた。
「うん。わかった」
 ひどい約束をさせてしまったことよりも、生きててくれると約束してくれたことがうれしかった。
「あり……」
 ありがとうと告げようとして、伏見の表情に凍り付いた。
 目が狂った色をしている。
 突然のことで頭がフラッシュを浴びたようだ。視界がチカチカと暗く明るく点滅する。首を腕で押さえつけられて、頭が真っ暗にシャットダウンしそうだ。
 息ができない。思考が回らない。伏見の顔が見れない。何を思って首を絞めているの? そこまでするほど死にたいの? わからないし、わかりたくない。
 私は自分の死を受け入れてはいけない。
  死んでたまるか、殺されてたまるか。伏見を死なせてたまるか。
 けれど、私はどうすることもできず、視界が明るくなって茫然と思った。首、絞められたら視界が明るくなるんだって。
最後に、この人が傷つかないようにしなきゃ。笑おう。何も傷つかなくていいんだって笑おうと私は精一杯笑って見せた。その瞬間、伏見は目を見開いて手をどけた。
「どうして、俺は……」
 伏見はそういって涙を流すと、落ちていた文房具で自分を何度も深く刺した。何度も何度も……。
私はその様子をみてふらつきながら、伏見の頬をひっぱたいた。
「傷つけないで。あんたは……私のもんだ」
泣きじゃくる伏見は茫然と私の顔を見つめて、呟いた。
「バカじゃないの。殺されかかってんじゃん」
「殺されてない」
私は言い張った。
「私は意地でも殺されない」
 なんの根拠もなかった。異常なこの男の面倒を一生見るつもりなんかない。けれど、それでも答えを見つけるまでは死ねないし、死なせない。
「バカだ。沙雪は本当にバカだ」
 泣きじゃくりながら、彼は何度も何度も言う。口癖は移るものだなと心の中で笑いながら、胸をなでおろした。

 お母さんは言っていた。
「幸せには形があるの」
「どんな形なの?」
 私は話半分に聞き流しながら、テレビを見ているとふいに母に後ろから抱きしめられた。
「沙雪の形」
 そういわれた時、私は母に愛されているんだと実感して私の幸せは母の形をしているんだって思った。それなのに、母は癌になり自殺をした。
 当時は恨んだし、悲しかったけれど今だからわかる。母は自分がいなくなることで、私という幸せが壊れてしまうのが分かっていたんじゃないかって思ったのかもしれない。
 幸せは簡単に壊れてしまう。何かが欠けただけで脆く儚く砕け散ってしまう。
 私はそれ以来、人と親しくなるのが怖くなった。絶妙なバランスで釣り合っている幸せが音を立てて崩れていく瞬間を目の当たりにして私は憶病になっていたのかもしれない。
 そんなことを思い出しながら、放課後の部活で水島にあった。
「でっかいキスマーク」
 からかうように、首を絞められた痣のことを揶揄して笑う水島は、少し安心した顔をしていた。
「バカ。生きてたことに喜べ」
 私は水島と友人になれた気がした。水島が何を思っているかわからないけれど、私にとってはもう何もかもを話せる友人な気がした。
「また会えると思ってなかった。でも結構大変だったみたいだね。首へし折られなくてよかったね」
「うん」
 私は安心してこぼれるみたいにほほ笑んだ。
「で、君は奏太くんが好きなの?」
 恋愛をした経験が乏しい私にとって、伏見が好きかと言われれば、好きなんだと思う。
 彼の世界を見たいと思う。彼の考えていることが知りたいと思う。なにより、私はいろんなことに気づくんだ。
 この色のない世界が色を失ったままでも色づくことを知ったのも彼がいたからだろう。
「たぶん……」
「うん、まぁいいんじゃない?」
 水島は油の具を混ぜ合わせて色を作ろうとしている。その中途半端に混ざったマーブルがきれいで、茫然と絵の具を見ていた。
「どうしたの?」
「えっ、うん。なんか……白と黒しかないはずなのに、絵の具がきれいに見えて」
 そういうと水島は優しく微笑んだ。
「恋でもしてるからじゃないの?」
 私は一瞬、思考が止まって戸惑うように言い募った。
「そう、なのかな?」
「かなりエキセントリックな恋だけどね」
 私は言葉を詰まらせてから、ため息をつくように言った。
「しょうがないよ」
 水島もにやりと笑って繰り返した。
「本当に、しょうがないね」
 伏見との一緒にいると幸せなのに、かなりの絶妙なバランスで簡単に崩れてしまうとわかっている。それでも、大事にすると決めた。
 結末をみるまでは終われないと決めた。今度は見よう。この幸せの結末を。
「バーカ」
 私は笑顔の伏見を描いたキャンパスに吐き捨てた。

ネガティブアイソレーション

執筆の狙い

作者 井原美雨

以前こちらのサイトにてご意見いただいた作品になります。
ご意見を元に推敲しました。良ければまたご意見いただけると助かります。

コメント

群青ニブンノイチ

まずは長い文章をしっかりと書ききられていることについて、お疲れさまでしたと労う姿勢はちゃんとお伝えしておきます。
とても大変なことだと思います。


ストーリーについてはあまり興味を思いつけなかったものですから(すみません)かなり端折って読ませていただいています。
印象としては、不必要らしい材料をわざわざむやみに置きたがる必要はないのではないか、といったところなのかもしれません。
語り手が弱視色盲であることにそれほど重要性を思いつけない、と言ってしまえば台無しなのですが、それがなくても描けるはずの世界を無理に脚色しているように感じさせられるということは、スムースな読書を呼び込んでくれない気がしてしまいます。あくまでも個人的な感覚に過ぎないのですが。

ときに、どういった読者層を想定されてますか? など尋ねられたら、どういった返答が頂けるでしょうか。
それは話の内容や設定といったことについてではない、ということを理解してほしい気がしています。

セリフがよくないような気がします。
漠然とした指摘の仕方ですみません。
例えば、どうしてセリフには「」が付くのでしょうか。
おかしなことを言っているようでしたらすみません。
ただ個人的には、地の分に対して通底しながらあるべき隔たりのようなものをきちんと演出できないセリフというものはつまり、死んだセリフのような気がするのです。
恐らくですが、この作品におけるセリフの多くは、生きた人間の会話のそれではないような気がしています。
それはどうしてなのか。
わかりにくい言い方で申し訳ないのですが、一人称としての定点観測に自信がない場合には、やはり三人称などより応用の効く、懐の深い表現方法にゆだねた方が余計なねじれのようなものを生まない気がします。
つまりは、この書き手の表現は一人称のそれではないような気がしている、ということです。
ゆえに、セリフとしての機能にも誤解のような感覚が生じてしまうのではないか、ということです。

誰が、何を、何処から、誰に話しているのか。
そうして、何を見せたいはずだったのか。

客観的に確認するべき要素が多く散見される内容のように感じさせられています。
あと、読出しから長らく語り手にどうにも魅力が感じられないのはよくありません、というか、ある意味こういったお話における鉄板とも言えそうなステレオタイプらしく感じさせられたことが、そもそもストーリーへの関心を思いつかせてもらえなかった何よりの原因だったような気がしています。

井原

駄文を読んでいただいたことにまず感謝とお詫びをさせてください。
本当にすみません。そしてありがとうございました。大変読みにくくまとまりない内容を苦痛を感じつつも最後までお読みいただいたこと本当に感謝しかありません。
本当にありがとうございます!
おっしゃれた通りこの話には明確なターゲット層や、色盲である必要性など考えられていません。ただどこまでも作者である私の都合を優先し書かれたものです。
私自身、障害を持っていることの不満や苦しみがあり、ただひたすらに自分を慰めるためだけに書いた恥ずかしい自慰のような作品です。
自身でやめどきを探しつつも、習慣となった作品を書くということがやめられず、プロを目指されている皆様に顔向けできない駄文を最後に読んでいただきたく投稿した次第であります。
ただの自己満足の駄文にこんなにもご丁寧ご指摘ご意見いただけると思っていなかったため、感謝しかありません。
今後ご意見を活かす機会がないことが心苦しく、それだけが唯一の心残りではありますが、感謝だけは今後忘れません。
本当にありがとうございます!

群青ニブンノイチ

いえ、それでいいのだと思います。
不躾にもお伝えさせていただいたことを察していただけたようでしたなら、おかしな言い方かもしれませんが同胞としてむしろ安堵を覚えるような感覚です。

おっしゃられる通り、あなたが書きたくなる動機はおっしゃられている通りのことしかあり得ないように思えます。
厚かましいようなことで申し訳ありません。

そこにあえて望むのであれば、あなたの確たる動機や根拠のようなものを作為として当然のように据えた創作を第一歩として設計される意識をもつことだけで、この作品は全く別のものに変わるはず、ということを期待して楽しんでほしいような気がしています。
わたしのようなものですら、そんな期待に遊ばせてもらっているようなつもりでいるのです。
小説、というものにあこがれることについての話です。

どうぞ、創作の第一歩を少しばかり入れ替えるようなつもりで、あなたの動機や理由を言葉に著してあげてください。
それは何よりも、あなた自身のためになる、あなた自身を救ってあげるられる何よりのことのように個人的には考えさせられます。

どうか、続けて書いてください。

\(^o^)/

 物語の展開は興味深いので最後まで飽きることなく読み進めることができました。
 まずはきちんと見直しをしましょう。推敲以前の問題です。誤字脱字や日本語になっていない文章が散見されます。独りよがりな文章なので、登場人物の発言や行動が意味不明です。何が言いたいのか意味不明な文章も散見されます。書き手だけは理解していて納得できているのでしょうが、この文章を読んでも読み手には意味不明で理解不能です。
 謎の動機で謎のセリフを言い、謎の行動を取る人々の話を読んでも謎のままです。説明不足で説得力がありません。
 以下の文章を正しい日本語に直しましょう。

その一瞬、目頭が熱く、たぎる様に血が湧いた。

昔からだ、私は自分が惨めな蛾だと指を刺す。

「色がわからない」その言葉が心の中で反響する声に耳を閉ざしたくなる。

自分の声に出さない責め立てが、耳障りだ。

こんなネガティブな奴に、数万人に一人の確立が当たるんだからきっと神様は相当なサディストだろう。

「正義感ぶって……偽善者が」

私の違和感を噛みつぶす屈託もない笑顔。

エドワードゴーリーとかって知ってる?

天気が雨の、出かけるのがあまりそぐわない日でも、私は図書館で本を読み漁る。

静寂が人を押さえつける独特な空間。

所々古い木材を使われた柱からかおる木の香り。

厳かな雰囲気の中で、本の内容を小声で話し、微笑みあう学生たちは見ていてほほえましく、心に惹かれるものがある。

 大きく開かれた窓からに雨がぶつかり、水滴が薄暗い光をわずかに輝かせる。

カランとアイスティーの氷が解ける音がした。

 照れている様子をばれたくなかったみたいで、わざとおどけていたようで、伏見の顔は濃くなっていった。

 私と伏見は抱き合ってしばらく泣いじゃくってから、家路についた。

ドアを開いて私はお邪魔しますと独り言のようにぼそっと呟いてから家の中に入った・

「よくない……けど、死なれなくもない。人間は感情の生き物だよ。

u

井原美雨さま 読みました

本作かつて読んだような、記憶は朧、その時感想書いたかどうかは覚えていないゴメン

↑の、群青ニブンノイチ様の感想に似てるとおもいます
だったらかくなよ! ミタイナ

本作ヒロイン、全色もう しかも近視?ぽい 犬かよ?

彼の妹も色もうラシイ

これって必要な設定? でしょうか? 機能してないように思う?
女性の色もう率、男と比べるとかなり低い。日本だけじゃなく全世界的にネ(スミマセン色もうあたしのPC変換しない、メクラという字が差別言葉wwww)あたしのpc常識人かよ(笑

本作ではこういった設定ほとんどメリット無いんじゃないかと思う
要するにこの色もうという設定自体で損してる
普通にこういったヒロインいます(現実的にも小説的にも)ね

主人公その他のキャストにほとんど魅力を感じられない

イベントが奇をてらってる(彼の妹、主人公の母自殺)
要するに設定含め、リアリティ希薄(勿論作品内のそれです)

構成的にラノベなのか(スイマセンあたしラノベが何たるかを分からず便宜上です)所謂ジュンブンガクが交錯していて逆にターゲットがあやふや?

文章力も構成力もお持ちだとは思います

お上手だとは思います  御健筆を

井原美雨

群青ニブンノイチ様
お返事遅れてしまい、申し訳ありません。
風邪を引いて寝込んでしまいました。
お優しい言葉うれしく思います。ご指摘いただいたことを真摯に受け止め、もう一度書いてみようと思います。
ご意見いただいて本当にありがとうございました。

井原美雨

\(^o^)/様

ご意見いただき本当にありがとうございます。
わざわざ日本語のおかしなところを抜き出してくださってありがとうございます。
自分ではなかなか見つけるのが苦手で、声に出して読んでみたり、いろいろ工夫はしているのですが、注意力が低いせいか見つけるのが苦手なので、とても助かりました。
やはりご意見いただいたことも自分でもぼんやりと思っていたところなので、ご指摘いただいてやはり自分の改善点はそこなのかと反省いたしました。
お返事も遅くなってしまい、申し訳ありません。
ご意見、ご指摘本当にありがたいです。感謝いたします。
ありがとうございました。

井原美雨

u様

ご意見本当にありがたいです。
私自身もライトノベルと純文学が行ったり来たりしている自覚がありました。
ライトノベルはあまり読まないのですが、そういった雰囲気も持たせた方が若い人に読んでいただけるのかなと思い、以前も携帯小説のような設定で書いたことがありましたが、ことごとく失敗しているので、反省です。
やはり設定に関しても、意味を持たせる設定にしなければならないと反省いたしました。
他の方のご返答でも書きましたが、大部分は自分を慰めるために書いた部分が大きく、そのために物語を殺しているという自覚を持ったことが今回、大きく学ばせていただきました。
本当にありがとうございます。
もう一度、今度は自分のためではなく、お話のためにきちんと意味を持たせて書いてみようと思います。
読みにくく大変だったと思うので、余計に感謝しかありません。
本当にありがとうございました。

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