作家でごはん!鍛練場
だみちゃん

転生したら氏真(ザネ)ってた

[殿、大殿の弔い合戦の下知を早く]
と朝比奈とかいう今川家の家老のおっさんが、俺に掴みかかるように言った。
[と、時まだ至らず、皆の者しばし辛抱いたせ]
 俺は独りカラオケで鍛えた美声を生かして朗々と言ったつもりだ。ところが、オーディエンスの反応はショボかった。

(......) 
 
今川侍全員が給料遅配の発表を受けたリーマンみたいに無言かつ不満顔をさらす。
[な、何ゆえ、今、合戦を起こさぬのですか]
 ヘタレなのか、てめえは!と宿老一堂ますます怪訝な表情で俺を見つめる。
[あっちは調子乗ってるんだ。勢いに乗ってる奴には手を出すなってことだよ]
 どんどん評定の場のテンションが下がっていくのが分かった。あちこちからため息と私語が半端なく聞こえてくる。
[だが、無策でただ待つわけじゃないんだ、策はある]
 僕は慌てて言ってみた。さすがに、家臣団半分が明日にも寝返る事態は避けたい。
[ほう、どのような]
 二番家老の由比某という爺さんが聞いてきた。
[楽市楽座をやる]
[楽市、何ですかそれは]
[誰でも駿府で商売をすることを許す。特権商人の独占を改めて、それで駿府に人を集めて商業を活性化させる]
 私語はかなり減って、俺の声はその場に武将たちに届いていた。
[それで税収を増やして、銃を買い鉄砲隊を編成して信長に復讐する]
[そ、それはちと悠長過ぎるのではないですかね]

つ、ついに奴が発言してきた。この氏真の転落のファーストトリガーとなったスーパー危険人物にして、日本史最大の英雄。

松平元康、後の徳川家康であっる......

[た、確かにな]
 俺は咳払いして、奴の大きな目を見返してやった。
(まるで、値踏みするように、見てやがる)
[そこで思いきって、元康どのに対織田戦略の司令塔になって頂く]
 俺は思いきって言ってみた。まずは英雄に相応しい仕事与えたつもりだったが......
[また、三河兵を犠牲にして織田から今川を防ごうというのですか?]
(うわあ、全く信頼されとらんわ、義元おとんのアホ)
[い、いや、いくさは今川兵が先方になってもいい。それより今川家の今後の外交諜報戦略を主導してほしい]
[外交ですか、今後はどこと結ぶのですかな]
 元康は少しやる気を出して言った。自分の手駒が今川の戦争で消耗するのが心底不愉快なんだろう。気持ちは分かる。
[美濃の斎藤と結ぶ。あれは織田の次の標的だからな]
[斎藤義竜に、西から織田を攻めさせますか。しかし、桶狭間の英雄相手に動きますかな]
 そこで、俺は元歴史教師ならではの、マニアック知識を活用する。
[義竜は父の道三を殺して美濃を手にいれた男だ。父殺しの罪悪感は今も強い。そうだろう]
[確かに、あの男は斎藤を名乗らず母の実家の一色家を名乗っているとか。父の血脈を否定しようと足掻いておりますな]
[そうだ。しかし、それは偽りの名乗りだ。美濃国外で認めている大名などおらん。あいつは所詮元油商人、道三の種だ]
[しかし、噂では母親は道三の旧主土岐頼実の側室で一色家の者だとか]
[うむ、父親も本当はその土岐頼実だという噂はある。しかし、それが本当なら父殺しの罪の意識を持たない。どうだ]
 土岐頼実から美濃を奪った道三を見事に成敗して、うじうじ悩んでいるのは、奴が道三の実の息子である証拠ではないか。

[仰せの通りですな]

 元康は分厚い顎の肉にシワを走らせた。うっすら笑ってるのだろう。
[一色家と元は同族である我が今川家が、奴の一色家の名乗りを率先して認めてやるのだ。更に足利将軍家にも働きかけて恩をうる]
[なるほど、将軍家のお墨付きを殿が義竜の為に取得してやれば、奴は殿に恩を感じるだろうと]
[勿論義竜タツが織田に攻める時は、今川が主力となって東方から支援する]
[なるほど、良き案かと]
 元康は大げさに感心して見せる。勿論本音はそうじゃないだろう。妻子をこの駿府に人質に取られている限り、大人しく俺の命令に従うつもりなのだ。それもいつまで続くか分からない。ただ、今川は歴史の本を読むと、名家というプライドに縛られてプライドゼロの野生動物(織田、徳川)に食い殺された印象があった。でも、名家ならではの武器も活用できるはずだ。

 やっと夜になって評定(お家の会議)が終わり、俺は大好きな元教え子と二人っきりになれた。でも、不満なのは彼女がもう以前ほどロリ外見じゃないってことだ。前はそばかすがあって、小顔で如何にも田舎の素朴な炉中って感じだった。しかし、この戦国時代に俺と転生して姫となって、外見が別人になってしまった。とにかく美人過ぎてまっすぐ見てると照れ臭くて、むやみに喉が渇く。俺は手酌で酒を飲んだ。瑠璃も中身は世間しらずのガキだから酌とかしない。

[先生疲れてますね]

そういってクスクスが瑠璃が笑っている。学生時代から美人に優しくされる時は、利用される時と決まっていたけど.....
[まじで、今日は失神するほど疲れた]
俺の膳には大きな鯛の塩焼きが載っている。この時代には贅沢品なんだろうが、魚ばっかりで飽きてしまった。
[肉食いてえ]
[あ、そっちかあ]
瑠璃がため息つく。
[そっちって、何だよ]
[食べたいのは、私かなあって、てへへ]
[ええっとお......]
俺は元教え子の恥をかなぐり捨てた、必死のアピールに目が点になった。
[だって侍女たちが、先生に夜、愛されてるか結構聞いてくるんだもん]
 拗ねた表情はなかなか子供っぽくて悪くない。でも、言ってる内容が生々しくてやりきれない。
[あ、侍女って北条氏の実家から付いてきたやつか]
 瑠璃は少し顔を紅潮させて、泣きそうな声で訴える。
[先生変態ロリコンだから、大人になった私に興味ないんでしょ]
[そんなことねえって]
[じゃあ、私は何で今だにエッチ知らずなのよお]
[お前15歳のくせに、言うことがませてるぞ]
 俺は思わず教育者の気分で言った。つっても、非正規の女子高の貧乏講師だったんだが。
[もう15歳の瑠璃はあの地震で死んだの]
[じゃあ、目の前にいるお前は何なんだよ]
[なんか夢みたいなもんでしょ]
[夢って誰のだよ]
[わかんないけどオー、現実じゃないよお。何で私が北条の瑠璃姫で、今川氏真の奥さんなのお]
[まあ、そんなにパニクるなって]

瑠璃は昔みたいに無防備に泣き出した。俺はどうしたものかと、鯛のお頭のハクダクしたメン玉を見て悩んでしまう。
[とにかく鯛食えって、焼きたてで旨いぞ]
俺は無理やり笑顔を作って勧めた。
[あああん、マック食べたい、熱々の牛丼も欲しいよお]
[泣くなって、瑠璃、俺だって泣きたくなるだろ]
[じゃあ、せめてナデナデして]
[いいよ、ナデナデしてやる、こっちこい]
艶やかな黒髪美人の瑠璃がおずおずと、俺ににじり寄る。若い女の魅力的な香りが俺の鼻腔を暴力的にくすぐる。
[瑠璃もすっかり典雅な姫様だな]
瑠璃は無言で俺の膝に頭を置く。北条方の侍女たちが、見たらまずい光景ではある。
[もう、二人だけなんだよ。私たち]
[あの地震で俺たちは、校庭に飲み込まれたんだよな]
この世界に来る前に東京は崩壊していた。
[そう、でも、ここにこうして生きてるっぽい]
[確かにもう二人だけだな]
[お母さんに会いたいよお。弟にも]
[お父さんは会いたくないのか]
俺は不思議に思って聞いてみた。
[お父さんの代わりがいるもん]
[はあ、俺のこと? 俺は旦那様だよ。保護者じゃねえって。瑠璃姫さんよ]
俺は馬鹿馬鹿しくなったが、瑠璃が離れようとしないのでずっと頭をナデナデしてあげた。腕が痺れてきた頃には、瑠璃はすうすう寝息をたてていた。美人も寝顔は隙だらけだ。元々が田舎の中学生だからなのか。
[おーい、寝るなこんなとこで]
彼女の耳元で言ってみたが、彼女の寝息は大きくなっていく。ふと目元を見るとうっすらと濡れていて、俺は元教え子が不憫になってしまう。仕方ないので彼女の髪をしばらく撫で続けた。


[ええ、奥方が綺麗すぎて上手く欲情出来ない?]
鷹狩の最中に元康は大声でいった。戦国時代を終結させた英雄もまだ二十代で、年相応に軽率なところもあるみたいだ。
[ちと、声が大きいぞ]
 俺は周りの連中に聞こえないかと周囲を見渡す。
[これは、元康粗相を致した]
鷹狩はこの英雄が目茶苦茶好きなアクティビティらしくて、俺はたまに誘われる。天気がいいし、富士山を背景にヒョーっと気持ちよく獲物を狙って空を旋回している鷹を、下から仰ぎ見るのはなかなか気持ちいいものだ。周りに親衛隊である小姓たちが俺を守るように完璧な乗馬で移動する。
[なんか、美人って緊張するだろ。ちょっと隙があるほうがいいっていうか......]
俺は目茶苦茶正直に弱みをさらけ出す。これくらいスペック高い英雄に虚勢は無駄だろう。ところが
[実はこの元康も美人は大変苦手でござる]
 と、意外な返事が返ってきた。
(そうだ、この人恐妻家だったんだ)
俺ってこんな記憶力ひどかったっけ、と思いながら俺は元康の恥ずかしそうな表情を見る。
[我が妻は今川三河で一番の見目麗しき者。しかしながら気性が激しく難渋しております]
[瀬名はなあ、美人を鼻にかけてるからなあ]
 俺は適当に話を合わせる。ちなみに元康の嫁は瀬名の方と言われる。
[仰せの通りで。それに比べればお舘様の奥方は我が妻に相当見劣るにせよなかなかの美人。しかも、性質は穏やかで元康羨ましい限りでござる]
(何気に嫁のスペックでマウントとってきてるよね、あんた)
[でも、そっちは既に子が二人もいるであろう]
[実はコツがあるのです]
俺たちはいつの間にか切り株に腰を下ろして、熱心に美人妻対策について協議していた。
[妻の美に馴れるためにはまず、絵師に妻の絵を描かせるのです]
[え、そんなことするの?]
この英雄兄ちゃんは突然何を言うんだろう。
[そして、描かせた顔に髭とか鼻毛とか、唾液が垂れた無様な様子を加えさせるのです。さすれば、妻の美貌等何ほどのことも、思わなくなりましょう]
[そ、そんなやり方でいいんだ]
 俺はあまりにも馬鹿馬鹿しくて、他の人から聞いたら笑って取り合わないその方法も、英雄から受けた指南ってことでやってみようと思った。
[拙者も家来に勧められて半信半疑で、やっておりましたが今は上手く夜を楽しめております]
[へ、へええええ]
英雄の下世話な告白にちょっと引いたが、俺は基本前向きだった。瑠璃の美貌に慣れないとせっかく夫婦になったのに楽しくもなんともない。俺が昔の中学生の瑠璃の顔がいいって感じるのは、それに戻れない彼女にとっては、迷惑でしかないはずだ。

[え、私の姿を描かせる?まさかヌードじゃないよね]
 瑠璃は少し怯えを声に滲ませて呟く。
[そんなことはございません。元教え子をヌードにして写生なんてkuzu行為しねえよ]
[本当にい? 先生大名やってるストレスで最近目付き悪いからなあ]
[絶対、着衣だよ。安心しろって]
[なんで絵なの、ていうか、元美術部員の私としては自分で描きたいんだけど]
瑠璃は俺の隣の布団に入ってゴニョゴニョ言ってる。たまに一緒に寝ないと北条の侍女たちに実家に報告がいって、まずいんだとか。でも、美人が苦手な俺は全く瑠璃に触れない。我ながら無様だ。元教え子だからってのも、あるけど。いつかキスくらいはしてみたい。もう夫婦なんだし........。
[絵は今度道具買って描かせてやるよ]
[おおお、いいね。ばりばり描いちゃうよ]
 瑠璃は県の絵の賞をかなり取ってて、将来は美大に行きたいといってた子だ。俺はちと不憫になる。
[もし良かったらその絵師からこの時代の絵の書き方学んだらどうよ]
[え、いいの? 楽しみっす。放課後の部活みたいだね]
[部活再開だぞ、こりゃ]
瑠璃の幸せそうな顔を見て、俺は美術部の部室で鰹節を必死に写生していた彼女を思い出す(何で鰹節だったのか今も謎)。大名なんか、やめて庶民として暮らす方法はないものだろうかと、思いつついつのまにかグウグウと寝る。

[美濃がこちらに、尻尾を振ってきました]
翌朝、俺が奥の部屋の掛け軸の雪舟の絵(流石、今川家本物らしい)を見て、ぼんやりしてると、元康が最高のニュースを持って来てくれた。
[本当か、元康どの。でかしたぞ]
[今川が織田を攻めた場合は必ず尾張を西から突くという密約を得ました]
 義竜はどれだけ父道三を殺して道義的に苦しんでるのかが、分かる。全てが俺の読み通りだ。
[そうなると、義竜の気が変わらぬうちに攻めたいところだな]
 俺の興奮する顔を元康は頼もしそうに見ている。ただのボンクラ息子の印象は少し消すことが出来たみたい。
[駿府から尾張国境に兵を動かすと、相当警戒するでしょうが]
[はは、臆病者の俺が動くってことは同盟国が増えたとばれるか?]
[まあ、何かが動いたと察せられる可能性はあるかと]
[ふむ、美濃との密約はばらしたくない。よし、信長に進物を送ろう]
[なんと、父の敵に進物をでござるか]
[わしは、和歌と蹴鞠に興じる阿呆ゆえ、信長にご機嫌とりの進物を送っても不思議はあるまい]
元康は何とも言えない顔で、俺の自虐戦略を聞いている。
[敵を油断させるなら、何でもやるさ]
[しかし、信長殿は銭を持っているので当たり前の進物じゃ満足せぬかと]
 元康は気を使いつつ言ってくれた。
[そうだな、普通のものではいかんだろう]
 俺はその頃には信長に何を送ろうか思い付いていた。
夜になって俺はしし鍋を瑠璃とつついていた。
[美味い、しし肉うまいー、鯛の5倍うまい]
[ひさしぶりの肉だよなあ。駿河の太守っていっても、肉食えるのって1ヶ月に一度かあ]
 俺は思わず愚痴ってしまう。まあ敗戦で領土が減ってるのに贅沢はいえんだろう。領民の皆さんはもっと、我慢してくれてんだから。
[でも、うまいー。お肉っていいね]
[まあなあ、舌への衝撃が違うよな]
[ああ、謎が一つ解けたわ。ふうむ、そっかそっか]
脂身の部分を舌にのせてそのプニュプニュ食感を楽しんでると瑠璃がしきりに頷いてる。
[何を納得したんだよ]
[この時代の人が貧乳な訳っすよ。肉食わないからだわ]
[ごほ、鍋つついてそんなこと考えてたのかよ]
 俺は元教え子の色っぽい着物姿を思わず見つめる。
[だって、相変わらず先生私とエッチなことしないじゃん。貧乳だからかなって]
 己の胸部を見ながら瑠璃が残念そうに言った。俺から見るとなかなかの膨らみなんだけど。
(確かに昔の瑠璃のほうがふくよかだったかも)
[信長問題片付けたら、落ち着いて旅行でもしようぜ]
 俺は瑠璃に思わず言っていた。せっかくタイムスリップしたんだから色々と駿河の風景とか楽しんでみたい。
[デートもなく、いきなり旅行っすか......]
 瑠璃はちょっと上擦った声で言って黙りこむ。
[とりあえず食えよ] 
 妙な雰囲気になりそうで俺は慌てて言った。
[はあい]
ませたこと言うくせに、肉を大口開けて頬張る姿はやっぱりクソガキにしか見えない。
 瑠璃の姫顔には元康の奨めた特訓のせいかだいぶ慣れた。そもそも瑠璃は転生して、美人になってもやっぱり瑠璃だった。おっちょこちょいで、情に脆くて、甘ったれで、絵が好きだった。好きどころか目茶苦茶上手い。駿河一の絵師を付けたが飲み込みが早くて、デッサン力が半端なくて絵師のほうが瑠璃から学ぼうとするレベルだ。その才能を活かさぬ手はない。
[味噌の味はうちらの世界のと同じだね]
味噌汁にネギとか白菜の中に猪の赤い肉が見え隠れしている。俺は夢中で汁から見つけて肉ばかり食ってしまった。
[今度牛丼作ってもらおうよ]
[そもそも砂糖がないから、牛丼は無理だろ。醤油の味が強い牛丼が出てくるぞ]
[いや、それでもいいっすわ。毎日食べたい]
 瑠璃は畳み掛けるようにいってくる。
[牛は大事な耕作機なの。だから、そんなに食ったらダメなん]
[じゃあ、毎日猪肉でいいよ、先生]
[猪が山から消えるわ]
 俺は呆れて酔眼を瑠璃に向けた。
[おおこわ......じゃあ、焼き魚で我慢するわ]
 瑠璃がため息まじりに言った。そして未練がましそうに胸をみる。
(牛乳でも飲ませるかな)
[ところで信長に瑠璃の絵を送りたい]
[はああ、冗談だしょう。うちのお師匠の絵でいいじゃない]
 瑠璃は予想通り、断ってきた。でも、そんなことで引き下がる俺じゃない。
[いや、お前の近代的な絵画がいいんだ]
[何を描くんすか]
 俺の気迫に押されたのか、瑠璃が折れてきた。元教師の威厳ってやつだろうか。
[俺が蹴鞠をやってるとこを迫力満点に描いてくれ]
 蹴鞠どころかフットサルもサッカーもやったことがなかったのに、俺はこの世界では蹴鞠の名手だった。プロリーグがあれば、さっさと駿河の太守なんて辞めてしまいたい。
[信長さん、新し物好きだったね、どうせなら漫画っぽくしようよ]
 俺は瑠璃の大胆さに舌を巻いた。
[その発想いい]
[じゃあ、適当に漫画風でまとめるわ]
 瑠璃は右手の親指だけたてて、外人みたいに仕事を請け負った。
 
 俺は瑠璃に翌日蹴鞠を側近たちとプレイする姿をデッサンさせた。同時に、美術に素養がある者を堺に派遣して油絵の具を買わせる。それを瑠璃に自由に使わせた。

 完成した瑠璃の絵はぶっちゃけ絵画じゃなく、屏風に描かれた漫画と言えた。空間はコマ割で分割されている。
 最初のコマは、俺がボールを睨むスポーティーな横顔。次は逆光で毬が青空をバックに空で浮かぶ場面。その後は毬に向かって華麗なステップで落下地点に俺が移動する姿。
 全てのコマが遠近法を使って、立体的かつ写実的に描かれていた。圧巻なのは毬が右足に捕らえられる五番目のコマ。じっと見てると、屏風からバシュッっと毬を蹴る音が聞こえてきそうなほど、迫力があった。
(これは信長を誘いだせる)
俺はその絵を見て、自分の妄想が現実に変化する確かな手応えを感じた。
[でかしたぞ、瑠璃]
[こ、こんなんでいいの?]
 瑠璃のきょどった返事が可愛いかった。
[ったりめえだって。誰も見たことねえ、アートだよ]
[まあ、美大の試験じゃ、絶対落ちるだろうけど]
[まあな]
 俺は元教え子の頭を優しく撫でてあげた。

絵を信長に送って二週間ほどすると元康が俺の所に報告にきた。
[信長殿は親方様の進物を大変気に入ったようです。というか、何も語らずじっと見つめていたとか]
(おおお、信長らしいや)
[どうやら信長は駿河の蹴鞠に興味を持ってくれたようだな]
[仰る通りで......返礼の使者を送って来るとか]
[勿論その使者に蹴鞠を見せてやる。というか、もっと面白い趣向がある]
[ほう、いかような]
[その詳細は、猪鍋でもつつきながら今宵話そう]

[三河様は、猪肉はお嫌いですか]
瑠璃が箸の進まない元康に聞くと
[この人は珍味とかまるで受付ないの、根っからの田舎者ですから]
 瀬名夫人が夫に代わって答える。元康は苦笑しつつ、杯を豪快に干した。瑠璃が気を利かせて奴の杯に酒を注ぐ。
(瀬名は美人なんだけどなあ、空気が読めないっていうか......)
 俺は顔をしかめて、肉を頬張る。猪肉は相変わらずゼラチン部分が官能的に舌を楽しませてくれる。
[元康殿は用心深いだけだ。大望の主とはそういうものだ]
 俺は目の前で妻に弄られる男を思わず誉めてみた。
[買いかぶり過ぎですよ、この人信長に何も出来ないんですよ]
 相変わらずの(旦那下げ)の瀬名様である。元康はニコニコ笑って聞いているばかり。
[信長を倒すのは至難の技だ、三河殿単独でやらせるつもりなどない]
と俺が諭すように瀬名にいうと
[先祖がどこの馬の骨とも知れぬ出来星大名ですよ]
 と、瀬名は可笑しそうに言った。
[奇襲とはいえ父義元を見事に撃ち取った男だ。奴を侮るのは我が父を貶めることと同じと思え]
俺は思わず瀬名に言ってしまう。
[親方様、ご、ご無礼申し上げました]
瀬名は言葉では謝ったが、顔を見るとそれほど恐縮した様子でもない。
[とりあえず、鯛の天ぷら食ってみてよ。カラっと揚がって美味いから]
俺は場の雰囲気を和らげようと慌てて言った。
元康が躊躇いなく箸を付ける。
[これは旨い]
[熱々だけど、旨味がすごい]
瑠璃もご満悦だ。瀬名だけが、不審そうに箸をつけようとしない。
[なんか魚が布団被ってるようで暑苦しいですわ]
[それ衣だって、旨いから]
[私は鯛が普通に焼いたもので]
(あんたも保守的やないか)
[それにしても、相変わらず瀬名は美人だなあ。元康殿がうらやましい]
[何をいってるんですか親方様。この人は絵師に私の姿を描いて、それに髭を加えて遊んでるんですよ]
 瀬名が予想もしない爆弾を、和やかな夕食に投下する。
[ええ、三河様も! 氏真様もですよ]
 すると瑠璃がいきなり瀬名と同調。悪事ってのはやはり露見するものらしい。
[ええっと、それはだねえ......ごほ、ごほ]
 俺はどうやって誤魔化そうと焦って、ご飯を喉に詰まらせる。
[氏実様、落ち着いて]
瑠璃が優しく背中を叩いてくれた。
[これは唐で伝わる教えなのですよ]
いきなり元康が俺に助け舟を出してくれた。
[詭弁です、三河流の]
女子は声を揃えて結構失礼なことを、将来の英雄にいい放つ。
[いやいや、美貌の妻をもらった者は幸福を独占することで逆に不運を呼び込むという唐の国の教えがあるのです]
[えー嘘でしょお]美女二人が声を揃えた。
[それを予防する方法として風水の書に紹介されとるのです、妻の似顔絵をわざと汚せと]
 普段ゆっくり話す元康が、早口で演説するのがおかしかったし、新鮮だった。
[瀬名さま、美貌の妻を持つと殿方は大変みたいですよ]
瑠璃がウキウキ声で言うと
[どうも納得できませんが、そういうことにしましょうか]
 瀬名も機嫌は悪くなさそうで安心する。
 俺は機嫌を直して天ぷらに箸をつける瀬名を見て嬉しくなった。歴史が俺の知る方向で進めば、彼女には過酷な運命が待っている。俺はそれを変えたい。
 どうやら俺はただの信長や秀吉の勃興の踏み台にされてしまう今川家の人に愛着を強く感じてしまってるようだ。
[ただの蹴鞠を披露するのも味気なくはないですか親方様]
と瀬名が言ってくる。
[どういうことだ]
[この人結構織田から誘われてるでしょ。でも私にぞっこんだから親方様についてる]
[な、何を言い出す瀬名]
 元康が焦った声を上げた。
[大筋その通りだよ]
俺は義元の姪だった女が策謀好きであるという話を思い出していた。
[いっそ、この人に蹴鞠でおお恥かかせてやって欲しいんですよ]
[恥かかせてどうなる]
俺は怪訝な表情を作る。
[そしたら、織田に色々期待させられますわよ]
[なるほど。そういうことか]
俺と元康は同時に声を上げた。
[え、どういうこと]
瑠璃は一人話が見えないようで、皆の顔をうかがっている。
[織田の使者の前で蹴鞠で恥をかかされ私は親方様を深く恨む]
[あんたは切れて、今川の城をおそい織田に後詰めを頼むのさ]
[同時に斎藤よしたつが清洲に長句する]




 本来運動が嫌いなのに、毬を見ると俺の肉体は球(たま)に触れたくて、戦慄(わなな)きだす。ボールは友達的な禁断症状か?
 小姓の蹴った毬が天から降ってくる。俺は華麗なフットワークでフィールドを軽やかに移動した。蹴鞠のルールは三回蹴りだ。

最初の蹴りは他のプレイヤーから受けとる蹴り。
次は自分の技量をアピールする蹴り。
最後は他のプレイヤーに向かってパスする蹴り。

 俺は右足のサイドで小姓からの毬を最小限のバウンドでトラップする。そして二番目のキックで正確無比に自分の頭上に蹴り上げた(四方に植えた約4.5mの樹木の高さまであげないと失格)
そして最後に落下してきた毬を右となりの元康に、回転がかかったくせ球でパスした。
元康は必死の形相で受け取ろうとするが、上手くキャッチ出来ない。俺は館の軒下に座って蹴鞠を見学する織田の使者の表情を見ながら、元康に罵声を浴びせた。
[元康、せっかく織田殿の使者が見えられてるのにその体たらくはなんだ]
[申し訳ござらん]
元康が顔を紅潮させて俺に詫びをいれる。
[日頃貴族の遊びの猿真似だと抜かして鍛練を怠るからじゃぞ]
[しかし、親方様の毬が尋常じゃない回転が掛かっておるから]
[また、言い訳。あのような回転誰でも処理できる、見ておれ]
俺はやつの足下にある毬を拾って、向かい側のもう一人の小姓に蹴ってパスした。
[よき球]
小姓は楽々と胸でトラップして

転生したら氏真(ザネ)ってた

執筆の狙い

作者 だみちゃん
126.34.116.226

次どうする?かご意見ください)いいいいいっっっっききkjkっっっっっっっj

コメント

皿食
60.155.199.121

 なんか荒ぶってるみたいなんで、こういう作品あまり読んだことありませんが感想つけます。
 まず最初に思ったのは、この作品はフックが弱いことです。エンタメ作品においては導入が命となります。謎やテーマ、問題を提示し読者の興味を惹くことは初歩中の初歩です。しかしながらこの作品は明らかにそこが弱いです。私は中学生時代、「とある」シリーズの一巻だけ読みましたが、あの導入は見事だったと思います。ホットスタートで読者の興味を惹きつけつつ、世界観の核を紹介しているからです。それに比べこの作品の導入は、平々凡々な異世界転生の亜種であり、テンプレから脱し切れていません。
 そしてもう一つキャラクターが多すぎます。しかも一人の一人のキャラクターの描写もそこまで丁寧ではありません。これでは読みづらいです。その上話の展開も平坦で、衝撃の展開の連続というわけでもありません。これでは退屈で、読んでいて苦痛です。主人公とヒロインがいちゃついているのを書きたいなら、現代の高校が舞台でもいいでしょう。せっかく生馬の目を抜く戦国時代が舞台なのですから、もっと展開に緊迫感が欲しいです。特に主人公の葛藤や苦悩を書いていないのは致命的です。これでは感情移入出来ません。共感も出来ません。ゆえにこの作品は幼稚で退屈なのです。
 最後に、作品がなんの断りもなくぶつ切りで終わっていること、これについては擁護のしようもありません。読者を軽んじているとしか思えません。作品の一部だけを載せる人も中にはいますが、普通は皆断りを入れています。最低限の配慮くらいはしましょう。
 悪いお手本と言ってもいい、作者の自己満足が透けて見える駄作です。私がこういう作品をあまり好きでないこともあるのでしょうが、読むのがひどく苦痛でした。

ダミちゃん
141.0.9.67

忌憚ない意見ありがとー。そうかもなあって思ったぞ

だみちゃん
126.193.179.47

でも とある ホットスタートってわりに一巻でやめたには ラベノ嫌いなんじゃなかろうか。俺はとある まじで 嫌い

ダミちゃん
141.0.9.230

ご飯悪口かいたら コメント消された

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