作家でごはん!鍛練場
佐藤

中世古城址での逢引

 御殿場線山北駅で降り、南口から出る。
 太平洋戦争の頃には補給駅として栄えていた駅らしい。が、当時の面影は、今はどこにもない。周辺を見渡すに、鄙びた田舎町、としか表現のしようがなかった。
 ただし、線路に覆いかぶさるように咲き狂う桜のトンネルは、絶景、と言うべきだろう。
 御殿場線は山北駅を出ると、しばらくはまっすぐに走る。その左右には、ずらりと桜が立ち並んでいる。
 箇所箇所の跨線橋にカメラを構えた人々が陣取るのもわかる。桜と電車の取り合わせは、それだけでもう、卑怯なくらいにサマになる。
「ねぇ、タケル。この先の路地を左折だって。密かな絶景ポイントって、ほんっとーにわかりづらいよね」
 隣を歩く、ヒロミが言う。
 見てみれば、なるほど。そこはひたすらに路地の入り口、としか言いようがなかった。
 一応「河村城址入り口」なる表示は見かけたが、油断すれば簡単に見逃す自信がある。
「見っけられたんだ、ラッキーだと思おうぜ。迷子は迷子で楽しいけどよ」
「えー、時間の無駄じゃん。やだよ」
 お前とだべってられんなら無駄じゃねえよ、って言おうと思ったけど、無理だった。うーん、こういう些細なとこでのチキンっぷりときたら。
 路地に入ると、間もなく上り坂になる。
 目指している河村城址は、山北駅の南にある浅間山に建設された山城、その跡地だ。ちなみに「あさまやま」ではなく「せんげんやま」と呼ぶらしい。
 山林にひとたび足を踏み込めば、見上げても、空はまばらにしか見えない。じめっと薄暗いやぶの中を登るために、ぐねぐねと散策道がしつらえられている。
 一方で、そのど真ん中には、階段。
 ヒロミを見ようとする――と、奴はにやりと笑い、いきなり階段を駆け上がり始めた!
「あ、ってめ!」
「油断大敵ぃ!」
 駆け登っていく中で、二度、三度と蛇行した小道と交差する。今更だが、なかなかに急な勾配だった。登り切った先、頭上に青空が戻ってくる頃には、完全に肩で息をしてしまっていた。
「何だ、だらしないの」
 ニヤニヤとしてくるヒロミだったが、負けないくらいに息を切らしている。
「説得力ねえわ、お前」
「わたしもそう思う」
 リュックからペットボトルを二本出し、一本は渡す。一息ついてから、進む先を見る。
 小道の左手、麓方面には柵がしてあった。右手側には、ぐいっとせり上がる丘。
「この上に建物があったのかもな。今の道を攻め上がってきてみても、建物から狙い打たれて、あわれ山の肥やし、ってか」
「お、想像してますね?」
「そりゃな。城攻めはロマンでしょ」
「いやわかんないけど」
「はい」
 がっくりと肩を落とし、ここからはこちらの先導で進む。木組みの門をくぐると、一気に視界が開けた。
 山頂だ。
「すごい! 大して登ってないのに謎の達成感!」
「そういうことあんま大声でね、いや同意ですけど」
 人影はない、が、よく整備はされているんだろう。歩きやすい。
 先程見上げた丘のところに行ってみる。ひとつ橋を渡って、その向こうだ。地形がそのまま天然の空堀になってる感じだ。
「改めて上から見ると、……だいぶエグい高低差だね」
「よじ登るわけにも行かないだろうしな。今立ってるところも、多分柵なんかじゃなくて、壁があったんじゃないかな。で、その所々に穴が空いてて」
「兵士じゃなくてよかったわー……」
 なんだかんだで、こっちの空想に付き合ってはくれるのだ。ありがたい限りである。
 入り口に戻ると、足元に城址公園の見取り図があった。大雑把に言えば、この城は東西に分かれていたようだ。西エリアは南北に広がり、東エリアは東西に長い。
 西側を歩いてみると、そこかしこに桜が植えられていた。綺麗と言えば綺麗なのだが、「その城に、本当に桜が咲いていたのか?」って考えると、やや興ざめのきらいは免れない。もっとも「密かな桜スポット!」的な謳い文句に誘われてやってきた俺らにとっては、目指すべき場所だったのかもしれないが。
「桜が植えられてる公園だねー」
 ヒロミのどストレートにもほどがある感想に、「そうだなぁ」としか答えられなかった。一通りを回ってから、東エリアに向かう。そちらに移動するには、二つの橋を渡る必要があった。
 これがまた、妙にこちらのテンションを上げてきてくれる。
「よくわかんないけど、山城! って感じだよね?」
「川がないのに橋を渡る、この背徳感!」
「ごめんそれはわかんない」
「はい」
 うーんだめかー。
 東エリアに入ると、空が広くなった。
 それもそのはず、南には視界の妨げとなる木々がない。関東平野の西の端、山北から小田原まで続く足柄平野が一望でき、さらに海の向こうには、うっすらと霞がかった伊豆大島さえ見える。
「うわー、こりゃ城建てるわ」
「え、なんで?」
「ここにいれば、足柄平野で変なことがあれば分かるだろ? そしたら狼煙とかですぐに知らせられる。ここを抑えてるかどうかで、敵の見え方がまるで違う」
「へー」
 気のない返事じゃあったが、一緒にその展望に付き合ってはくれる。
 と言って、足柄平野は南北に長く、東西に短い。存外すぐに見渡し終えてしまう。
 ここに城があった、室町〜戦国時代。その狭い平野を、当時の豪族たちは、なんとしてでも守りきらなきゃならなかった。
 だから、彼らはここに城を建てよう、と思ったのだろう。
「不思議だな」
「何が?」
「当時の豪族と、同じ所に立ってるんだ。なのに、ここには今、建物があった形跡もない。彼らがどんな言葉で、ここに決めた! って言ったのか、そんなこともわからない」
 場所は、確かに同じはずなのだ。だが、いま俺たちが立つのは広々とした公園。この地を守らんとした侍たちの息吹は、決して俺の耳には届かない。
「ふーん」
 俺の手を、ヒロミが握ってくる。
「まあ、いんじゃね? 侍たちの事、わたしたちは知らない。けどあいつらは、わたしたちがこうして繋がりあってることも知らない。おあいこ」
「おあいこって、お前ね」
 右隣、やや斜め下。
 視界いっぱいの遠景が、はちきれんばかりの近景に取って代わられる。
 思わず、俺もヒロミの手を握り返す。
「そう、だな。ザマミロ、戦国武将」
「そうそう、その勢い」
 遠く彼方、水平線。
 その上にはふんわりと、しらす雲が広がっていた。

中世古城址での逢引

執筆の狙い

作者 佐藤

情景描写の練習に書きました。
よろしくお願いします。

コメント

上松 煌

拝見しました。
ええと、あの、佐藤さんって、中国古典や歴史に題材を取った作品を書く人ですよね。
その佐藤さんですよね?

 この作品は現代ドラマ、しかも男女の話。
題名からして固い印象があり、会話にしても親しさの表出なのでしょうが、皮肉的なニュアンスが多く、あんまり逢引き感はない。

 佐藤さんお得意の中世城址は出てくるものの、短いせいか情景描写も中途半端で、佐藤さんらしい鋭さがない。
これは題材の選出を間違ったのでは?
非常に感想のつけづらい作です。
おれも『眠れぬ夜の物語』で、感想が書きづらいと評されましたが、おれは自分を出し過ぎ、佐藤さんは自分を出さなすぎたのではと感じます。

 城址と桜、そしてカノと、魅力的な役者はそろっているのに、それがちぐはぐなのです。
恐らく、城址で佐藤さんの心に思い浮かぶのは、

♪春高楼の花の宴 巡る杯影さして
 千代の松枝分けい出し 昔の光今何処
とか、
♪松風騒ぐ丘の上 古城よ一人何想う
矢玉の跡もそこかしこ あああ
仰げば詫びし 天守閣

などであろうと思います。

 佐藤さんの古典歴史に対する蘊蓄・素養は他の追従を許さぬものであり、ごはんにも一定の読者はいたはずです。
あなたはその部分をもっと大切にすべきです。
ムリして現代劇を書く必要はないのです。
おれも『怪火(あやしび)夜話』というのを古文で書きましたが、それになんと、どこかのご奇特なかたが音読して画像までつけ、youtubeに乗せてくれています。
その評価や感想には、美しい日本の古文をほめたたえるレスポンスが並んでいます。

 佐藤さんの真骨頂は現代文ではないのです。
あなた独特の題材・作風こそ、あなたの中から噴出するあなた自身であり、あなたが最も書きたいと望むものではないですか?
 
 どうか勇気を持って、自分の書きたいもの、自分の訴えたいものを書いてください。
あなたには力があるのです。

夜の雨

佐藤さんへ

「中世古城址での逢引」の感想。

>情景描写の練習に書きました。<

情景描写というよりも漫画のエピソードのようです。

御殿場線山北駅から河村城址、その跡地に至る道すがらがエピソードとして書かれていますね。
主人公たちタケルとヒロミの朗らかな雰囲気も伝わりますが、会話文や行動が漫画的に描かれています。
なので、御作の書き方にコメディぽさが入り、軽くなりすぎているのかもしれません。
「中世古城址」の歴史からふくらまして、主人公たちの行動やら会話文を考えられてはいかがですか。

書かれてある文章力からは、作者さんはレベルの高い作品を書ける方だと伝わってきますけれど。



上松さんへ。

youtubeの『怪火(あやしび)夜話』視聴(17日)しました。

youtubeで朗読をやっている方が音読をしているのですね。
古文を音読で聴いているので、内容はわかりづらいですが、雰囲気はじっとりと冷や汗のように伝わります。
先ほど(18日)チェックしましたが、一夜で再生回数が400から2270に上がったのには驚きました。
「作家でごはん!」も投稿作品を朗読という形でyoutubeにアップしたら、現在の低迷状態(失礼)を脱却できるかもしれません。

しかしyoutubeに朗読という形でアップするには、それなりのレベルの作品が必要になります。

何から何までアップという形は無理でしょうね。
個人的にやるのはそれぞれの問題なので、結構ですが。

とりあえず鍛錬場は感想人をもっと増やさなければならないです。
それには作品を投稿した方も、他の方の作品に感想を書けばよいということになりますが。

>>作家でごはん!鍛練場は三つの鍛練を目的として創立されました。<<

>それは書く鍛練、読む鍛練、感想の鍛練。<

ついでにもらった感想に対する「返信の鍛錬」も必要。


どちら様も、お疲れさまでした。

佐藤

上松 煌さん

ありがとうございます!
タイトルを固くしすぎてしまいましたね、迂闊。
作中セリフの一部を「古代土塁上の逢引」という作品から
オマージュしたためこの題にしたのですが、
そこは読んでくださる皆さんには関係がないですね。

自分を出していない、というつもりはないですよ。
こういうのんびりしたものも書きたい、と思うのが自分ですし、
ただ、おっしゃるように作者のキャラ付け、
という点から離れすぎると、
上松さんを始めとして、キョトンとさせてしまうのでしょうね。

今は別口で思い切りそちら方面のものも書いておりますので、
完成しましたら、また改めて
お構いくだされば幸いです!

佐藤

夜の雨さん

ありがとうございます!

今回、完全に題付けに無頓着でした。
そうですよね、ライトなノリをやりたければ、
ライトなタイトルであるべき。
題名は看板ですものね。

こんな基本のきが今更のように抜けていたこと、
非常に恥ずかしい限りです。

>会話文や行動が漫画的に描かれています。
>なので、御作の書き方にコメディぽさが入り、
>軽くなりすぎている。

夜の雨さんよりご指摘を頂戴した、
この雰囲気にしようとしての話だったのですね。

となると、どんなタイトルが良かったかなあ。
「ふたりのひそやかな花見」とかかしら。

作品の内容、表現には配慮をしているのですが、
タイトルの付け方がずさんでは、
届けたい相手にも届きませんね。

肝に銘じます、ありがとうございます!

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