作家でごはん!鍛練場
柴咲

ナオミと吾作

 星が名残惜しそうにきらめいている。
 四方を神秘なバリアーで覆われた未開の里。その地の空がようやく茜色に染まりはじめた頃、里の最北端に位置する洞窟付近で、小柄な男が一人やるせなく足を投げ出していた。
 素肌の上に分厚い毛織のベストを着込み、腰には鋭利な短剣も装備されている。ズボンは動きやすい厚手の股引。さらに耳の下から顎を覆う厳つい黒ひげのせいで、一見凶暴な山賊を連想させるが、ふっくらとした丸顔のため地蔵さんのように見えなくもない。
 けれど、周囲は岩肌が鋭角に切り立つ険しい断崖。下方は星の光すらとどかない深い闇。ここを根城にする猛禽類以外、近寄るものは誰もいない場所だった。
 男は吾作。とりわけ無自覚な小人である。誠実な者が多く暮らす小人族にあって、禁断の地への侵入、毒草の栽培、調合と、その退廃さは突出していた。長老たちは事の重大さを憂慮し、吾作に人間界へ行って悟りを得よと通告した。一種の追放である。
 吾作としても言い分はあったが、自身も自分を賢明な男だとは思っていなかった。陽気に過ごす仲間を横目に一人孤独を好み、草の調合に没頭した。仲間づき合いはへつらうことだと極論に達していたからだ。そのため醒めた気持ちで受け入れた。
 
「それにしても、こうも見事に手の平を返されるとは……」吾作は昨夜のやりとりを思いだし呟いた。「結果は体のいい厄介払いだ。でも、今さらぐだぐだ言ってもはじまらないだろう。鎖につながれるより、見知らぬ世界で野垂れ死にするほうがどれだけましか」
 立ち上がり、半ばやけ気味に洞窟へ向かおうとしたとき、はっと思い直して、布袋から刻んだナス科の葉を取りだした。それをキセルの先端につめ、燐で発火させた火種で燻して煙を吸った。
「誠実しか唱えぬ長老と、ひたすら誠実を装う長老、そしてそれを真に受けた、間抜けな俺。似たり寄ったりだぜ」
 だが、吾作の放った言葉は谷から吹き上げてくる風に乗って、煙とともにあっという間に上空へ流され――儚く消えた。
 
 洞窟内は暗く薄気味悪い通路だった。しかも一歩足を進めるたびに、闇の中からざわざわと土を擦るような摩擦音が響き、恫喝するような唸り声も聞こえてくる。その唸り声に運ばれて吐き気をもよおすほどの異臭も漂ってくる。
 松明に火をつけ、目を凝らすと、壁や天井に明確な形のない無数の黒い影が這いずり回っていた。彼らは吾作の歩調に合わせて進み、ときに近づいて威嚇し、ときに立ち塞がって追い返そうとする。
 昨夜の長老の話では、すべて自らの怖れが招く幻覚だというが、幻覚で片づけるにはあまりに臨場感がありすぎた。というのも強いダメージは受けないものの、衣服を掴まれたり引っ張られたりしたのは事実であるし、何より、牙を剥く彼らから吾作と共通するやりきれない感情も流れ込んでくるのだ。もしかしたら黒い影の実体は長老たちのいう幻覚などでなく、吾作と同じで、里から追放された同族ではないのかと思ったりもする。
 試しに、幻覚なのか同族なのか影に向かって松明を近づけてみた。すると影はしばらく抵抗するかに妖しく揺れ、闇雲に異臭を吹きかけてきた。が、吾作が少しも動じないせいで、そのうちウォンウォンと哀切にも似た呻き声を上げて泣きだした。
 
 しばらく歩き続けると、数歩先の見えない洞窟内にかすかながら光が射しはじめ、平坦だった道が急勾配の上り坂になった。吾作はようやく出口に差しかかったのだと確信した。あれほど執拗につきまとっていた哀れな影の姿も、今は消えている。
 ついに出られるのか。安心するとげんきんなもので、急にお腹が空いてきた。けれど布袋に入れた握り飯は彼らに喰われたらしく空っぽだった。ならばせめて喉を潤そうと竹筒を口に当ててみるのだが、水も知らぬまに飲まれたようで一滴も残っていなかった。
「ふん、同族かと同情したのが間違いだったか。これではまるっきり盗賊だ」
 釈然としない吾作は大股で歩きだすと、突き出た岩土に足をかけて、ほぼ垂直になった人間界への道を遮二無二よじ登っていった。
 
   
 登りきると、眼下にこれまで見たことのない世界が広がっていた。
 吾作は目を奪われる。これが人間界なのかと手の平で何度も瞼を擦った。
 空一面にかかる薄い靄。その靄の下からいくつもの多彩な光が突き抜けている。さらに鳥ですら飛べない高さの場所に、夥しい数の明かりが点灯している。凝視すると、それらのすべてが硬い石で建造された建物で、星に迫らんばかりに林立していた。手つかずの自然に満ちる里とは大違いだった。
 待てよ、と吾作は思う。よもやこれこそが長老たちのいう幻覚なのか。
 
「錯乱は、そこまでにしておきな。見てるこっちが恥ずかしくなる」
 突然声がした。目を向けると、すぐ横に吾作の数倍もあろう怪鳥が羽を休めていた。
「化け物め、どういうつもりだ!」
 吾作は後ずさりし、岩陰に隠れながら叫んだ。まともにやりあったら命の保証はない。
「喰う、と言ったら?」
「ふざけるな。喰われるのは貴様のほうだ」
 怪鳥がにじり寄ってくる。吾作は逃げ道を確保しつつ声を軋らせた。
「ほう。なるほど無自覚なだけあって強気だな。よし、茶番はここまででいいだろう」怪鳥が羽を広げた。「さあ、乗りな」
「乗る? お前の背中にか」
 きょとんとし、岩場から顔を出して覗いた。怪鳥は身を伏せるような姿勢をとっている。
「あたりまえだ。こう見えてもおいらは美食家なんだよ。口の達者な小人など喰う気にもなれない」
 だったら? 何がどうなっているのかわからなくなった。この怪鳥は何者で、吾作をどこへ連れていこうとするつもりなのだろうか。
 
 怪鳥は鴉。ただ、里の鴉は小人同様小さいが、この地の鴉は基準を人間に合わせているため大きく、吾作にとってはたとえ鴉であっても怪鳥に違いなかった。
「どこへ俺を連れていくつもりだ。それと、お前は何者だ」
 鴉の首の羽毛にしがみつきながら訊いた。
「質問の多い男だな」閉口した鴉が睨みつけてくる。「余計なことを詮索する前に、しっかり掴まってろ」
 言うなり鴉が羽をはばたかせた。途端に浮き、勢いよく景色が動いた。
 
 質素な里の暮らしの中にも多少の発見や驚きはある。けれど人間界の特異ぶりは驚嘆することばかりで、吾作の思考回路はぐちゃぐちゃになっている。この先この世界で生き抜いていけるのだろうか。不安も芽生えはじめていた。
「ずいぶん静かになったもんだな」
 そんな吾作の心を読むかに鴉が言った。若干高度を下げて、ビル、ネオン群を縫うように通過していく。それらの毒々しい光が目に入るたび、圧倒され、反発する気すら削がれてしまう。
「しょうがないな。じゃ、一つだけ教えてやるよ」
 鴉がまた少し高度を下げる。道路が見えた。そこを、たぶん車というものだろう。目の二つある鉄の箱が、眩しい光を放って何台も交錯していた。
「おいらの母親は、あんたと同じ里の出だよ。だから大きく見えても、ここの鴉と比べたら半分にも満たない。そればかりか彼らと意思疎通ができないんだ。いわゆるはぐれ鴉。でも根底に里の血が流れてる。つまり、おいらは夜目が利くんだ。それが人間界で生き延びた理由さ」
 そういえば鴉は夜飛ばない。今の時間、巣の中で眠りについている。そして里に住む者は例外なく特殊能力を秘めている。だがそのことを知っているのは毒草ならぬ薬草を発見した吾作と、あの長老だけのはずだ。なら、この鴉を洞窟の外で待たせていたのは……突然手の平を返した長老になる。
「するとお前は、今も里とつながっている。日和見長老とな」
「おいらが教えるのは、一つだけだといったはずだぜ」
 鴉が速度を上げた。いくつもの川を通り越して光の洪水が弱まる場所へやってくると、そこでやっと速度を弱めた。顔を半分羽毛に埋め、必死にしがみついていた吾作も頭をもたげる。
「ここらでいいだろう。女々しい無自覚くんにぴったりの場所だ」
 と、巨木が何本も聳え立つ高台の公園に舞い降りた。真下に、さっき見た鉄の箱を何台も連結させた乗り物が轟音を轟かせ疾駆していた。
 
   
「ぴったりの場所?」
 吾作は鴉の背から辺りを見回した。まぶしい光はなく、確かに殺風景な場所に違いなかった。けれど、この場所の眼下には目がくらむような街並みが横たわっている。
「我慢しろよ。指定された条件に見合う場所はここまでしかないんだからさ」
「指定って、誰にだ。まさか、あの――長老なのか」
「そうかもしれないが、そうじゃないかもしれない。問題は、あんたが人間の多く住む場所で生き抜き、悟りを得ることだよ。誰の指図であろうと関係ないんだ」
「冷たいことを言うんだな。死んだらどうするんだ」
「簡単なことだ。死んだら魂は天に昇る。それこそ小人冥利に尽きると思うけどな」
 思うはずがない。野たれ死んでもいと口走ったのは、牢獄に閉じ込められ、そこで自由を束縛されるよりましだという単なる言葉のあや。それに小人の寿命はおおよそ500年、まだ、その十分の一も生きていないのだ。
「なら逃げ帰ってもいいのか」
「かまわないよ。けれど悟りを得ずして里には入れないぞ。黒い影のように彷徨い続けるならそれでもいいけどな」
 黒い影……やはり彼らは同族だったのか。だとしたら惨めな末路だと吾作は思った。里にも戻れず、かといって再び人間界へ行って生き抜くのも困難だ。結局、行き場を失くして中間地点の洞窟を彷徨い続ける。もしかしたら、もう肉体は朽ち果てるのかもしれない。それすら気づかず、浮遊霊となって彷徨い続けている。
「さっ、いいかげんに降りろよ。しばらくしたら様子を見にくるからさ」
 吾作を草場に降ろすと、鴉は、あばよといって飛び去っていく。
 
 とうとう見知らぬ世界で一人になってしまった。吾作は草むらの中で腕を組んで、この先どうしようか考えた。頭の中であらゆる生きものの姿をイメージし、危険な生物か安心な生物かを選別した。
 まず頭に浮かんだのは鼠と猫だ。しかし彼らが小人を庇護するわけがない。獰猛のうえに勝手すぎるような気がした。次に浮かんだのは犬だ。忠実であるし吾作の命令を聞く可能性もある。パンと手を打ち、犬にしようと思ったが、すぐに究極の疑問に行き当たった。
「何を喰うつもりだ。まさか一緒に残飯を漁って、それを日々の糧にして生きるのか」
 無理な話だった。
 やはり人間しかいないのだろうな。そう言って、吾作は大きな溜息を吐いた。人間はなまじ知能があるため、見世物にされる恐れがあるからだった。美味いものを食べさせてくれて重宝されるかもしれないが、その反面、吾作の最も大切にしている自由が損なわれる。
 考え込んでいたらきゅーと腹が鳴った。詮索はよしにして、まずは腹ごしらえだと吾作は草むらを出た。
 
 土の少ない場所だった。木々も少なく、ぽつんぽつんと申し訳ていどの植木が植えられている。道はすべて建物とは異なる石で舗装され、ときおりそこを鉄の車が猛スピードで走り去っていく。
 こつこつ甲高い靴音をさせて人も歩いていた。大きさは鴉の比ではなかったが、吾作の神経はすでに麻痺していた。天を突くような大巨人であれ、もうどうでもよくなっていた。見つかったら逃げればいいことだし、幸い、小さな吾作は隠れ場所には不自由しなかった。
 番犬のいない家を捜し、忍び込もうと様子を窺った。しかしどの家も静まり返っている。
 仕方がない。危険かもしれないが光の密集する中心地へ移動するしかないだろう。
 
 人に見つからないよう障害物に身をひそめながら歩いていると、かぐわしい匂いが鼻に入りこんできた。覗き込むと正面に赤い提灯がぶら下がっていた。周囲に天敵の犬や猫の姿はない。
 吾作は最大限の警戒を怠らずに裏へまわり込んだ。そっと忍び込み、まんまと酒と肴をかすめ取るのに成功した。さっそく裏路地で食べようとしたところ、そこに鼠がいた。いきなり牙を剥き出しにして突進してきた。吾作の身体が鼠の半分にも満たないため、容易い相手と判断したのだろう。
 ふざけるな! と腰の短剣を抜いたが、鼠のスピードは速かった。到底対処しきれない。吾作は一目散に逃げた。
 
 無我夢中で走り、元いた公園に戻った。大木の横で、一人の少女が身を乗りだして鉄の箱を眺めていた。どこか思いつめた表情だった。近づいてみると右手に白い杖を突いていた。白い杖が何を意味するのかわからなかったが、直感でぴーんときた。たぶん少女は目が見えないのだ。
 
   
…………
 
 夢には色がある。
 健常者との懇親会で、ナオミがそう話し始めると「嘘、目が見えないのにどうして色を感じるの」と、疑問を持たれる。当然のことだと思う。一般の人は全盲イコール暗闇だと決めつけているから。でも決して暗闇なんかじゃない。むしろ透き通った世界といったほうが近いのだ。
 さらに「音にも色や匂いがあるのよ」と付け加えると、大抵の人はそこで白けてしまう。眉唾だとしか思えないのだろう。音に色があるなんて、どう考えても理屈に合わないから。
 稀に興味を抱いた人も、その後に「音には形も備わっているの」と言うと、一様に笑いだす。「まるでエスパーね。だったら杖なんかなくても歩けるでしょ」とも口にする。
 結局、最終的には信じず批判する。憐れみだけを残して。
 人とはそんなものだ。占い師の言葉を信じてもナオミの言葉は信じようとしない。ナオミが、盲人を超越する特別でない限り。
 
…………
 
 叔母から絶縁を言い渡されたのは、盲学校を卒業したばかり、季節が冬から春に移り変わろうとするときだった。あまりに唐突すぎて、一瞬、庭先から漂う沈丁花の香りが消えてしまったのを今でも鮮明に覚えている。
「務めは果たしましたよ。もう立派な大人なんだから、早く一人暮らしをしてくださいね」
 それれほどきつい口調ではなかったが、叔母の隣で中学生になる従妹が「いなくなったら新しいベッドと机を買ってくれるんだよね。約束したよね」と声を弾ませていた。慌てた様子で従妹を窘める、叔母の動揺した気配も伝わってきた。
 ナオミにとっては突然でも、叔母の家族の間では既定路線でしかなかったのだろう。それだけに残酷な言葉だった。家も土地も母名義だったはずなのに……そして若くして亡くなった父の遺産も。
 
 まさに四面楚歌。家はいつのまにか名義を書き換えられ、預金もない状態で追立てを迫られる。そのうえ就職も決まっていないため、収入を得る手立てもない。さらに全盲ときている。
 心が壊れそうだった。
 でもナオミは、この家の人たちの前では決して泣くまいと決めている。母に先立たれた全盲の少女を、まがりなりにも八年間育ててくれたのだ。打算があろうがなかろうが、あのとき叔母が手を差し伸べてくれなければ今どうなっていたかわからない。それにナオミは十八歳。完全な大人とはいえないけど、体力も精神力もあの当時と比べものにならないほど鍛えられている。
 
 ナオミは、押入れの下段の引き戸に鍵を差し込んだ。そしてそこからやわらかい曲線が描かれたバイオリンケースを取りだした。
 母の形見。ナオミの唯一最後の綱。「いつか必要になるから、そのときお金に換えなさい。叔母さんには隠し通してね」と託されたストラディバリウス。
「でも、そんなに高額なものじゃないのよ。売ってもせいぜい百万円ぐらい。叩かれると半分かもしれないの」と、ナオミの手を握りしめた母は、いつかこういうときがくると予感していたのかもしれない。
 
 翌日、楽器店へ行きバイオリンを売った。母のいう通り値踏みされて六十万円だった。それでも当座の生活費とアパート代には十分な金額だ。
 仕事も盲学校の紹介で整形外科のリハビリ室に就職が決まった。広々とし、治療設備も整っていた。そこの一角で、ナオミは盲学校で習得したマッサージを担当する。
 患者層は老人と主婦が大半をしめ、感じの悪い人は特にいなかった。ただ一人の患者を除いて。
 その患者は、腹のせり出た五十代の自営業者。初診療のときから空気感が他の患者とは違っていた。邪な熱とでもいうのだろうか、それほど凶暴性は伝わってこなかったけれど、ねちねちとする、これまでナオミが経験したことのない俗悪なものを感じた。
 ナオミが若いせいもあったと思う。もしくは盲人に対する奢りであったり、優越感。それと同時にナオミの性格が内気なため、マニアックな本性を覗かせてしまったのかもしれない。
 
 初診から二週間が経った頃。閉院間際にやってきたその患者は、マッサージ室のベッドに横たわると、いきなりナオミの尻を撫でてきた。
 何が起きたのかわからないまま「えっ」と驚き、患者から距離を置いたが、どう対応すればいいのか狼狽えた。
 しばらく沈黙した後、ことを大げさに荒立てないよう無言で治療を再開した。故意かどうかを判別するのは、目の見えないナオミには難題すぎたからだ。
 けれど、いったん本性を剥き出しにした患者は、高ぶる気持ちを抑えきれないのか、尻といわず胸にまで隙を見てはタッチしてくる。そのたびに手で払い、身体をよじって防いだことが、逆に患者の興奮をエスカレートさせてしまったようだ。ついには白衣の下に手を入れ、直接肌に触れてきた。
 ナオミはそこで、ようやく声を上げた。
「お願い、やめて!」
 その叫びを聞いて同僚が飛んできた。
 
   
 しんと静まり返る病院の事務室。耳底に表通りを疾走する車の排気音が、ひっきりなしに近づいては消えていく。
 院長は、自ら煎れた珈琲をナオミの前に差し出し、飲みなさいと柔和に勧めてくる。騒ぎの当事者であるナオミは、躊躇いながら口につけ啜った。
「さて、困りましたね」
 警察こそ呼ばなかったものの、リハビリ室は混乱した。院長がやってきて、ようやく鎮まったが、動揺は今もナオミの胸に燻り続けている。
「ですが、こういうことは往々に発生します。患者さんの中には直情型の人もいますから。もちろん、だからといってくり返してもらっては困りますので、とりあえず、その珈琲を飲み終えたら始末書を書いてもらえますか」
 と院長は、ナオミを責め立てようとせず穏やかな口調で話してきた。
 なじられるとばかり思いこんでいたナオミは、院長の優しい言葉にほっと安堵する。胸の内に燻っていた動揺も、気がつくと知らぬまに消えていた。
 これで明日から、心機一転仕事ができる。ナオミは少し嬉しくなり、珈琲を飲み干すと用紙を受け取った。文字の浮き出るレーズライターだった。盲学校との接点が強いから、事前に用意してあったのだろう。ナオミは一文字一文字丁寧に書き込み、記入した。
 
「はい、これで結構です」
 記入を確認した院長は、用紙を引き出しにしまいながら「……最後に一つだけ」と、遅くなった時間を気にしているのか、そわそわした感じで話してきた。なぜか伝わる波動が微妙に変化している。ナオミは戸惑った。
「一つ?」
「ええ、一つだけ聞かせてください」と言って院長は、ごくりと唾を飲み込んだ。
「とても言いにくいことなのですが、あのあとリハビリ責任者の書いた報告書を読んだところ、触ったのは患者さんではなく、あなたが故意に胸を押しつけてきたと書いてありました。そして身体をくねらせながら、きょとんとする患者の手をスカートの中へ誘導したとも。それは事実なのでしょうか」
「ひどい。嘘です、その人は嘘をついているんです!」
 思ってもみない責任者の記述に、かっと頭が熱くなった。その熱は全身に勢いよく駆け巡る。やがて息苦しさとともに意識が薄れていった。
 
 ときおり表通りを車が通過する。
 意識が戻ると、ナオミは治療用ベッドに寝かされていた。どうしてなのだろう、まったく記憶がない。
「おや、やっと気がつかれましたか」
 おっとり院長が近づいてきた。「急に倒れ込んでしまったので、驚きましたよ。でも脈も正常でしたし、心音も安定していたのでベッドに移しました」
「心音?」ナオミは両手で胸の辺りを押さえた。ブラウスのボタンもきちんと留められていて、乱れがなかった。けれど、どことなく身体がだるい。
 おかしいと思いながら起き上がると、股間に鈍痛が走った。
「え、まさか……?」
 ことの異常さに気づき、女の直感で何が起きたのかおぼろげに察知した。ナオミは後ろを向いて、恐る恐る股間に触れてみた。するとぬめりとした感触に混ざり、血の臭いがした。
 ああ……やはり。何という恥知らずな行為。行き場のない怒りがふつふつと沸き起こる。
「あなたは、珈琲に何か入れて、私を……」
 ナオミはありったけの憎悪を院長へ向け、睨みつけた。
「ば、ばかな。考えすぎです。そもそも、いったいどんな根拠があって、そのようなことを」
 院長がしどろもどろになる。だが波動は一瞬乱れただけで、すぐに落ち着きを取り戻し冷やされていく。
 
「どうか勘違いなさらないでください。誤解を与えるといけないので正直に申しますが、じつはベッドに運び終え、容体を診ていたら、あなたが急に私の首に腕を絡ませてきて、抱いてと囁いてきたのです。もちろん私は妻帯者ですし、障害者の支援もしています。断固として拒みました。ですが、あろうことかあなたは私の手を取って、強引に秘部へ導いたのです。そこで私の自制心は失われてしまいました。懇願されて、それを無下にする男はいないでしょう。つまり、私はあなたの意に沿っただけ。不可抗力だったのです」
 そんなこと、そんなこと有りえない。あの患者といい、院長といい、鬼畜だ。もう、うんざり。
 ナオミは杖を見つけると、夢中で病院を飛びだした。人格者も一皮むけばただの俗物。いや、それ以上の人でなし。無性に心がさむかった。
 
   
 どこをどう歩いているのか、いつも通る道であるのにまったくイメージできない。駅に向かわずに左へ折れて、坂道を上った気もするし、そうじゃない気もする。ただ、行き着くところまで向かえと、浄化されずに繁殖した澱の塊が囁いていた。
 たぶんそれは、これまで積み重ねられてきた人間不信。この先少しでも刺激されれば、待ったなしに爆発してしまう危険きわまりないもの。降下、轢死、消滅、そんな飛躍した言葉も浮かんでは消える。
 しかしナオミが消えたところで胸を撫で下ろす人はいても、哀しむ人は誰もいないはずだ。ナオミの生きざまは偽善者の讒言によって抹消されてしまうから。
 むごすぎる。両手で顔を覆って道端にしゃがみ込んだ。
 
 刻々と時間がすぎる。四月のひんやりとした空気が背を刺し、心を抉る。ナオミはふたたび歩きだした。
 公園に着いた。人の気配はなさそうだ。気が緩むと、泣くまいと誓った目から不意に涙がこぼれ落ちた。次から次にとこぼれてくる。ナオミは空を仰いだ。何も見えない。感じるはずの月もわからなかった。
 杖もつかずに、ふらふら夢遊病者のように歩いた。鉄柵に触れた。ナオミは杖をその場に置き、身を乗りだした。
 
「どうするつもりだ、飛び降りるのか」
 そのとき声がした。聞き覚えのない声。声の在りかを探ると、小さな気配。大きさは鼠ほど、いや、その半分ぐらいかもしれない。
「あなたは誰……人間なの?」
「答えにくい質問だな。俺の住む世界ではそうであっても、ここでは違うような気がするからな」
「なら、小人さんね」
 ナオミは言葉の反射、音の反響によって、おおよその形状を認識した。まぎれもない人の形、小さいだけの人。
「仮にそうだとしても、そんなことはどうでもいい。あんたは身を乗りだして、死のうとしてたんじゃないのか。飛び降りつもりだったんだろ」
「かもしれない。でも、その勇気がなかったの」
「生きる勇気はあるのか」
 辛い切り返しだ。ナオミは返答に窮した。あるかといわれれば、あると答えたい。けれど生きる勇気はあっても、生きる自信はなかった。何のつてもない、一人暮らしの盲人が生き抜くには、この世界は過酷すぎるのだ。
「答えにくいなら、別に答えなくてもいいが、あんたに頼みがある」
「頼み?」
 嫌な予感がしなくもない。けれど失うものもない。
「それは何。私にできることなの」
「できるさ。頼むから飯を喰わせてくれないか。じつは腹が減って死にそうなんだ」
 
 小人をバッグの中に入れ、家へ連れ帰った。夜食用のカップヌードルにお湯を注ぎ、小皿に移して食べさせた。よほど美味しかったのか、最初は恐る恐る口をつけて毒見をする感じで食べはじめたが、結局スープも全部飲み干した。
 落ち着くとナオミは尋ねた。
「どうして、あのとき声をかけたの。私が飛び降りると思ったから?」
 小人は面倒くさそうに答えた。
「それもある。だが、いちばんの理由は俺も困っていたからさ」
「困るって、何に」
「あんた、目が見えないんだろ。それにしちゃ人の心を読めないな」
 ナオミは、はっとした。この世界で困窮しているのは何もナオミだけじゃない。この世には盲人もいれば身体に障害を抱える人もいる。突発的に怪我をした人も病気になった人もいるのだ。目の前の小人もそう。ナオミの手のひらにも満たない大きさで、この世界を生き抜くのは相当に困難だ。猫も鼠も犬も、人間と思わないで攻撃してくるだろうし、鴉にもついばめられる。そもそも生活する場所すらないだろう。
「小人さん、名前は何て言うの」
「吾作だ」小人がぶっきらぼうに答えた。
「吾作さん、あなたを私が守ってあげる」
 この人も孤独で不安なのだ。それでいて弱みを見せずにあっけらかんとしている。その言動は、挫けやすいナオミにとって大きな励みになる。
「そりゃ助かるぜ。よし契約成立だ。その代わり腹いっぱい飯を喰わせてくれよ。栄養を考えてな。もちろん酒もだぞ。それから、あんた縫もんはできるかい。縫えたら服を作ってくれないか。俺はこう見えても清潔好きなんだ。あと風呂は一緒に入れないぜ。高潔だからさ」
 吾作が矢継ぎ早にまくしたててきた。ナオミは、ぷっと噴き出した。いつ以来だろう。
「はい、はい。仰せの通りに」
 
   
 吾作は、ビニールクロスの敷かれたテーブルの上に胡坐をかくと、布袋の中から緑の小瓶を取りだした。そのコルク状の栓を前歯で挟んで抜くと、手のひらにほんの少し零して口に含んだ。
「何の臭い。いったい何をしているの」
 ナオミが不思議そうに聞いてきた。
「ああ、これか。これは、俺が採取した草を調合した秘薬だ」
「秘薬?」ナオミが眉を吊り上げる。「いけない、麻薬でしょ。すぐに捨てて」
「心配するな。あんたの危惧するものとは別物だし用途も違う。幻覚作用も起きないし、気持ちよくもならないんだ。その代わり、秘められた潜在能力を覚醒できる。俺はこれを発見して里の長老に見せた。驚いていたよ。だって見えないものが見えるようになるんだからな」
「もしかして、透視?」
「そうだな。人の本性を覗ける」
「便利ね。それで、私の本性も覗いたのね」
 ナオミが投げやりに言う。その問いかけに吾作は答えようとしない。意思とは裏腹に透視がはじまっていたのだ。頭だけがやたら熱かった。垣間見えた映像が凄惨だったせいもある。人間っていうのはこんなにも人を貶められる生きものなのか。吾作は叫びたい衝動を必死に耐えていた。
 見るとナオミは表情を沈ませている。まるで、あの谷底のように深く、暗かった。
 
「でもな、俺たち小人は親がいない。生まれたときから孤独なんだ。しかも、皆おっさんの姿で生まれてくる。だから家族という形を知らないし、そもそも里には女がいないんだ。父親と母親がいて、温もる時期があっただけでも幸せなことだ思わないか」
「そうね。あなたのように最初から天涯孤独よりは、温もりがあるだけましかもしれない。けれど、それで傷は生まれないはずよ。心だって壊れたりしない」
「傷はいつかふさがる。心は気の持ちようでどうとでもなる。一緒に酒でも飲むか、忘れさせてやるよ」
「はいはい、ありがとう」
 ナオミが肩をすぼめる仕草を見せた。きっと納得していないのだろう。だが、壊れた心を修復させるのは時間しかないのだ。今は何を言っても無理だと吾作は知っていた。
「ところで……」と、ナオミが尋ねてきた。「女性がいないのに、どうして生まれるの。もしかして、私を励ますために嘘をついたのかしら」
「俺が今から言うことを、信じるか」吾作は語気を強めた。真顔になった。
「うん」ナオミが唾を飲み込んで頷いた。真剣さが伝わり、これから話すことが小人族の本質だと気づいたからだろう。吾作は少し間を置いて話しだした。
 
「俺たち小人は、里に迷い込んだ精霊の生まれ変わりさ。多くが木霊だが、中には水を好む精霊も、猪だった精霊もいる。でも、その秘めた力も秘めたまま眠らせていた。そこで俺は暗い谷底で採取した薬草と毒草を調合して、長老に飲ませた。飲んだ途端、長老は自分の能力が解放されたことに驚き、秘密裏に草の調合を勧めた。けど露見すると手のひらを返された。俺は里を追放されて、人間界に追いやられたって訳」
「精霊、なの……小人さんって」
「ああ、俺以外はな、たぶん」
「俺以外?」
「だって俺は酒好きで、喧嘩好きで、食いしん坊だからさ。里に愛着も湧かないし、友と呼べる仲間もいない。そんな大それた器じゃないってことさ」
「でも本質を覗いたんでしょ」
「残念ながら、人の本質や過去を覗けても自分の本質は覗けないんだ」
「それって、人間が飲むとどうなるの。相手の本質がわかるようになるの。だったら私が飲んで、あなたの本質を確かめるわ」
「確かめてどうする。俺が精霊なら、敬うか」
 ナオミが黙った。そりゃそうだと吾作は納得する。ナオミにとって吾作はペットと同じ対象でしかないのだ。人の言葉を話すペット。身の回りの世話をして、見返りに心の空洞を埋める。犬猫の代わりでしかないはずだ。
 
 翌朝。目を覚ますと、ベッドに腰かけ、ナオミが窓の一点をぼうっと見つめていた。
「何を考え込んでいるんだ」
 吾作は、ティッシュボックスを利用した即席ベッドから飛び降りた。ふんわりして歩きにくいベッドの表面を、よろけながら近づいた。
「ううん、別に」ナオミは、その姿勢を崩そうとしない。「今、空が青いでしょ。カーテンの隙間から朝日が差し込んでいないかしら」
 何を言いたいのか、見当がつかなかった。
「話が見えないな。はっきり言ったらどうなんだ」
「じゃ、本を読んでくれない」
 本? それと青空と何の関係があるんだ。吾作は心の内でぼやいた。しかし昨日の今日だ。ナオミの胸中を推し量れば無理からぬこととも思っていた。だからといって家に引きこもり、無気力な生活を送れば共倒れになる。
「あんた、ほかに何かできることはないのか」
「あるけど……でも、それ昨日見たんでしょ。透視で」
「見るには見たが、印象に残っているのは、叔母夫婦の仕打ちと職場の一件だけだ。あとは記憶に残っていない」
 そう断言した後、吾作の脳裏にぼんやりとした映像が浮かび上がってきた。
 場所は断定できないが、高い石の建物が林立した都市だ。ナオミは黒っぽいコートの襟を立て、人の行き交う雑踏を歩いている。沈んだ表情で楽器のケースを担ぐナオミに、薄い陽光は気づこうとしない。日を当てることすら忘れている。そうして混み合う通行人に疎まれながら、楽器店のショーウィンドの前へたどり着く。ナオミは立ちどまる。モノクロームの絵画のような景色に溶け込み、しばらく立ちつくしている。淡い映像の中、なぜかナオミの目の縁だけが赤かった。
 泣いている?
「そうか。あんた、その楽器を売りたくなかったのか。取り戻したいんだな。もう一度、弾きたいんだろ」

ナオミと吾作

執筆の狙い

作者 柴咲
123.225.214.1

まる一年、まったく小説を書かずに過ごしてきたのですが、ある方の作品に触発されて、また書いてみようと思い立ちました。
そして一気に書きはじめましたが……とまりました。興味を持たれない作品、つまらない物語なのではと疑問が生まれたからです。
ストーリーを追っただけの、自分よがりな世界観の物語。また途中でもあります。厳しい感想を、ぜひお願いします。

コメント

白米
180.200.249.192

読ませていただきました。

丁寧にキャラクターの描写をされているように感じました。ビジュアルはとても想像しやすかったです。
話の筋は二人が出会ってこれからといったところなので、肝となる事件をどうしようかといったところでしょうか。
筆が止まってしまったということですが、作者さんはこの二人の物語を書こうと決めた際、書きたいシーンがあったのではないかと思います。(なかったり既に書いてあったのなら、自身が納得するまでプロットから立て直す必要があるように思います)いっそのこと、キャラ紹介のようなエピソードをすっ飛ばして書きたいシーンをもう先に書き上げるというのはどうでしょうか。
それを書いた後にこの物語を書き上げるかどうかご自身で判断されても遅くはないように思います。
設定だけのように感じるこの段階では他人が面白い面白くない面白くなりそうなど、判断が難しいように思います。
もし、小人と盲目の女の子が昔手放した思い出のヴァイオリンを取り戻すと(それとともに生きる希望が湧いてくる?)いう話だけであるなら、私個人としてはあまり興味をそそられないです。プラスアルファか予想外の何かを期待するフレーバーがあればと思いました。

話の続きを勝手に想像すると、本質を透視できる超能力というトリガーが、盲目の女の子が希望を得て、小人が何かを悟る取っ掛かりになるのでしょうか。その後に精霊やら小人やらを生かした超展開がありそうならば、続きを読もうと私は思います。
物語が溢れかえっている中での斬新さを与えつつ説得力をもたせるのは皆の課題ですよね。

余談ですが、脱字、表現の不統一(自動車と電車の違いが少しわかりにくいのと、車が分かるならもう最初から自動車でいいのでは)が散見します。書き上げるにせよ、推敲が必要と思います。


参考程度に。失礼しました。

柴咲
123.225.214.1

白米さん。このような拙い作品に感想を寄せて頂き、ありがとうございます。私の心情を汲みとったうえでの丁寧なアドバイス、感謝しきれません。
 
>丁寧にキャラクターの描写をされているように感じました。ビジュアルはとても想像しやすかったです。
>話の筋は二人が出会ってこれからといったところなので、肝となる事件をどうしようかといったところでしょうか。
・想像できたとのこと嬉しく思います。
肝となる事件は用意してあります。ずいぶん変わりましたが。
最初ナオミは交通事故で全盲になった設定でした。同乗する両親は亡くなり、事故相手(後の敵)は逃走。ですが破棄しました。どうしても一億円以上の保険金がネックになってしまったのです。それで新たに敵を創りました。バイオリンをキーワードにして。
 
>筆が止まってしまったということですが、作者さんはこの二人の物語を書こうと決めた際、書きたいシーンがあったのではないかと思います。
>いっそのこと、キャラ紹介のようなエピソードをすっ飛ばして書きたいシーンをもう先に書き上げるというのはどうでしょうか。
・はい、あります。映像も浮かんでいます。
書きたいシーンを先にでしょうか。これまでプロット通りに書き進めたことしかなく、私にとって未知の手法ですが魅力を感じます。物語の、リハビリ的な意味合いのある作品でもあるので、試してみようかなと心が揺れます。
 
>もし、小人と盲目の女の子が昔手放した思い出のヴァイオリンを取り戻すと(それとともに生きる希望が湧いてくる?)いう話だけであるなら、私個人としてはあまり興味をそそられないです。
・吾作と鴉が力を合わせれば、バイオリンを取り戻すことなど容易いことです。でもナオミはそれを拒否します。院長に玩具にされた他の障害者に全部上げてしまうのです。やれやれと吾作は次の手を考えます。
 
>話の続きを勝手に想像すると、本質を透視できる超能力というトリガーが、盲目の女の子が希望を得て、小人が何かを悟る取っ掛かりになるのでしょうか。その後に精霊やら小人やらを生かした超展開がありそうならば、続きを読もうと私は思います。
・伏線である盲人を超越する特別。ナオミがその扉を開けようとしたとき、邪魔者が入ります。透視能力があっても所詮非力な小人。でも吾作は決意します。その行為は無自覚な吾作の信条に反するものです。あってはならぬものです。しかし、吾作は死を決意して邪魔者に立ち向かいます。冒頭に伏せた、たった一つの方法で闘います。ナオミのために。
 
>余談ですが、脱字、表現の不統一(自動車と電車の違いが少しわかりにくいのと、車が分かるならもう最初から自動車でいいのでは)が散見します。書き上げるにせよ、推敲が必要と思います。
・ここが凄く難しかったです。未開の里に暮らす吾作が、どうして車や電車を知っているのか説得できそうもありませんでした。脱字も含めて、書き上げたときに推敲しようと思います。
 
ありがとうございました。

はるか
106.154.131.159

 柴咲さま

 拝読しました。
 特に冒頭、上手い、と感じました、文章が上手い、と感じました、いえ、冒頭だけでなく、全般に粗がなく、上手いよなあ、と感じましたが、特に冒頭、格調が高いし、書き慣れた筆だなあ、と感嘆しました。私、このサイトに来て三ヶ月くらいなのですが、その間に読んだ作品のうち、一、二を争う達者な筆だと、そんなふうに感じてしまって、で、背筋を伸ばして話を追わせていただきました。
 ナオミが登場して性的な悪戯を受けたあたりから、よくもわるくも筆がいくらかカジュアルにスイッチしたように感じられました、冒頭のあたりに漂っていた格調の高さは後退したように思われましたが、ナオミが登場してからのほうが私には読みやすく感じられました。
 厳しい感想を、ということなので、妥当かどうかわからないのですが、感じたことを書いてみますと、読まされてる感がなく、読んでる感が強かったです。画面の向こうで話が進んでゆく感じで、人物や事象が、画面のこちら側にしみでてくる感じが希薄な気がしました。無自覚な小人、盲目の少女、異能、バイオリン、面白そうな要素が満載なのですが、小人にも少女にも、体温を感じることができず、小人のことも少女のことも、好きにも嫌いにもなりませんでした、感情が揺れませんでした、なので設定も実効的に迫ってきませんでした、今のところは、ということです、先を読ませていただいてからでないとなんとも言えない、とも言えるわけですが。現状では、テンポに緩急がなく、同じ川の流れを延々と下ってゆく感じ、とでも言いましょうか、タメ、タメ、タメ、フロー、タメ、タメ、タメ、フローみたいな起伏があると、あるいは、淀みや滝や、支流もあると、もう少し入れる気もするのですが、いえ、そういう話じゃないのかもしれませんが、淡々と、そしていくらかよそよそしく話が進んでしまって、読もう、という強い意志を持たないと、私の場合は、話からはぐれてしまいそうになるのでした、はぐれる、というのは違うかな、迷子になるのではなくて、話にたぶん飽きてしまうのかと、話を追うだけになってしまうのかと、集中力が足りないのは自覚しているのですが。
 まとめると、文章がすごく上手くて、格調の高さも感じられるのだけれど、しみでてくるものが足りない感じで、呼吸を合わせられない感じで、読み進めるのにエネルギーを要するかも、って、そんな感じでした、私個人の感じ方なので、的を外しているかもしれませんが。
 このあとどうなる? って引っ張りと、語りの緩急というかリズムというか、そのあたりがあるといいなあ、だなんて思うのでした、ネガティブなことを書くならそんな感じです。逆にいうなら、他にネガティブな要素がみつかりませんでした、読み手を甘やかさない文章ですよね。
 文章から学ばせていただく点、多数ありました、小説っぽいよなあ、さすがに書き慣れてそうな書き手さんはすごいよなあ、とか唸りっぱなしでした。きっと実績のある書き手さんなんだろうな、って感じました。
 失礼いたしました。

柴咲
123.225.214.1

はるかさん。感想ありがとうございます。
 
買いかぶりですよ。私は何の実績もありません。冒頭を気に入ってもらえたのもはるかさんの単なる錯覚で、長編を書く者であれば、誰しもが取り入れるオーソドックスな手法でしかありません。
 
それから、今回はるかさんから感想を頂いたことによって、私が危惧していたものが事実であると再認識できました。ここへ投稿した、筆がとまった原因です。
 
>読まされてる感がなく、読んでる感が強かったです。画面の向こうで話が進んでゆく感じで、人物や事象が、画面のこちら側にしみでてくる感じが希薄な気がしました。
 
>現状では、テンポに緩急がなく、同じ川の流れを延々と下ってゆく感じ、とでも言いましょうか、タメ、タメ、タメ、フロー、タメ、タメ、タメ、フローみたいな起伏があると、あるいは、淀みや滝や、支流もあると、もう少し入れる気もするのですが、
 
>しみでてくるものが足りない感じで、呼吸を合わせられない感じで、読み進めるのにエネルギーを要するかも、って、そんな感じでした、
 
・自分自身でもうっすら感じていましたので、指摘して頂いてほんとうに感謝しています。
特に、読み進めるのにエネルギーを要するについては、過去読んで頂いた方に何度も言われたことがあるので、まさにその通りだと実感しています。
それは画面の向こうで話が進んでいく。テンポに緩急がない。指摘して頂いた、その要因のせいだとはっきり自覚できました。
 
自身の欠点が理解できたからといって、それをどのように直せるかは、客観性が乏しいのでまた別問題だと思っています。でもずっと感じていたことなので、ここらで直さないとさすがにまずいぞとは思っています。そこで今回、はるかさんの作品を読ませてもらいました。そこにヒントがたくさん隠されていました。
 
私は起伏にとんだストーリーがないと文章が書けません。そのためストーリーに沿って淡々と書き進めていく。でもはるかさんは、ありふれた日常の中に突然非日常を創れる。大したことが何もないのに読み手にさざ波を起こすことができるのです。10の妻と、12の根岸くんが好例です。
 
一つの場面に、ふっと読み手を惑わせる謎や意外性を、今模索しています。それで課題が改善されて読み手を惹きつけることができるかはわかりませんが、試してみる価値はありそうです。
 
ありがとうございました。感謝しています。

朱漣
210.170.105.157

 拝読しました。
 これって、物語全体で言うと、どれくらいまで書き進んでいらっしゃるんでしょうか?
 読んだイメージだと、まだ導入部の最初のほうって感じがしてますけど。
 だとすると、この感じだと、ちょっと読んでいくのが辛い気がします。
 リーダビリティーに乏しいというか……。
 たとえ導入部でも、もう少しエピソードを盛り込んで、読者の興味を惹きつつ、登場人物も掘り下げて描写する……みたいな工夫があったら、もっと読みやすくなるのになぁ、と思いました。
 文章はとても上手いのに勿体ないと思いました。

 それと、あまり登場人物に魅力を感じませんでした。
 血と肉が感じられないというか、作者様が物語を進めるために駒を動かしてる感じです。

柴咲
123.225.214.1

朱漣さん、感想ありがとうございます。
 
>これって、物語全体で言うと、どれくらいまで書き進んでいらっしゃるんでしょうか? 読んだイメージだと、まだ導入部の最初のほうって感じがしてますけど。だとすると、この感じだと、ちょっと読んでいくのが辛い気がします。
・はい、じつはここまでしか書いていません。予定では300枚ぐらいになるかと思っています。
やはり、つらいですか。
自覚して読み手のことは一応考慮しているのですが、ついストーリーを重視してしまい、私だけが夢中になって書いている状態です。
主人公二人は泣いているかもしれませんね。まだ出番のない主要人物二人とカラスも、観客がつらそうに観ているので、楽屋裏で出番を渋っているような気もします。
 
>それと、あまり登場人物に魅力を感じませんでした。
 血と肉が感じられないというか、作者様が物語を進めるために駒を動かしてる感じです。
それと、あまり登場人物に魅力を感じませんでした。血と肉が感じられないというか、作者様が物語を進めるために駒を動かしてる感じです。
・これが一番問題です。小人と全盲の少女。二人の特異な人間ドラマを構築したのに、描き方がおかしいせいで、二人はまだ迫真の演技をしようとはしません。
ですので朱連さんの言われる通り、監督である私が勝手に進めているだけの状態なのかもしれません。魅力あるのに、その魅力を引き出せずに戸惑っている。
ただ、二人と、未登場の二人とカラスも、駒とは思っていません。朱連さんの言う血と肉があると思っています。私が下手で、その血を通わせていないだけです。私が観客席に目を向けて、客の反応を知って改善すれば、少しずつやる気を出して自ら動きだしてくれそうな気もします。
たぶんに希望的観測ですが……。
でも、彼らに生命を吹き込んでみたいですね。
 
ありがとうございました。感謝しています。

えんがわ
14.8.22.192

文章は上手いと思います。

特にファンタジー系をこういうちょっと硬質でそれでいてシーンが浮かぶ筆致で描いているところは新鮮でした。
やっぱり読みやすさと、こう、上手いこと映像として浮かんでくる描写の良さは、やっぱり洞窟とか夜景を飛ぶシーンとか、そこらへんですよね。

そのファンタジーな感じから、盲の少女へと話が飛ぶんですけど、ちょっとまとめきれるのかなって不安が先に立ちました。
盲少女の虐待シーンも良く描けているんですけど、まるで別の作品を読んでいるような断絶感があって、小人と交流し始めても冒頭のファンタジーなワクワク感が上手い事、印象の中に戻って来ませんでした。

自分はファンタジーとして読みたいなって部分があって、それなら小人の視点をもうちょっと大事にして、そのファンタジー的なリリカルさを保ちながら、現実とミックスするところに注力して欲しい、というのが個人的な願望。

ただ、盲少女の部分も良くできていて、出来過ぎていてファンタジーとしてどうしても出るだろうきれいごとなご都合主義と上手くかみ合わない気もする。ならば、これはこの話として、現実の社会派的な話として、いろいろ調べて、練って書いてもイイかなって気がする。

もちろん、両方ともそろった作品は傑作になる可能性があるけど、どっちづかずの、あっちこっちに揺れる文章になる可能性があって、その兆しを最後の方で感じました。

個人的にはファンタジーを読んでみたい。とてもイメージ豊かに空想を広げている人だと思うし、幸いなことにそれを表現する筆力のある人だと思うから。

なんて、固い感想になってしまい、すいません。
むりに壮大な話にするんじゃなくて、コンパクトに書いてもイイかなって気がします。なんとなくだけど。

柴咲
123.225.214.1

えんがわさん、感想ありがとうございます。
 
指摘して頂いた内容が一つ一つもっともでしたので、かなりずしりと心に響きました。また褒めてもらえたことも嬉しく、今後の創作の励みにさせて頂こうと思っています。
 
確かにこの作品には、えんがわさんの言われるように二つの物語(ジャンル)が混在しているかもしれません。
盲目の少女ナオミと、小人の吾作。
 
当初、ナオミの物語だけを構想しました。苦難から立ち上がり、成功をつかみ取るという一種のサクセスストーリですね。ですが練り込んで、すぐに挫折しました。
ナオミだけを主人公に据えてしまうと、描写ができないことに気がついたのです。匂いや音、手ざわりなどで表現することは可能だと思いますが、それで映像を喚起できるだろうか、制限がありすぎて私には無理だと悟りました。
でもナオミは外せない。そこでもう一人の主人公を吾作に設定しました。
 
>自分はファンタジーとして読みたいなって部分があって、それなら小人の視点をもうちょっと大事にして、そのファンタジー的なリリカルさを保ちながら、現実とミックスするところに注力して欲しい、というのが個人的な願望。
・私もファンタジー大好き人間です^^ そのジャンルでしたら小説よりも映画のほうが好きかもしれません。小説でしたら、いわゆる王道よりも、本多孝好さんの書かれる「ストレイヤーズ・クロニカル」だったり、山田宗樹さんの「ギフテッド」のような、シリアスでリアルな作品のほうが好みです。というより、えんがわさんの好きな、壮大な真の王道ファンタジーが書けないのです。
 
今、また少しずつ再開しました。60枚ぐらいにはなっているかと思います。「まとめきれるか不安」との心配もして頂きましたが、三人目のキャラが意外と気に入って、書くのが楽しくなっている状況です。
何とか書き上げて、そこで、えんがわさんに頂いたアドバイスを元にまた推敲しようと思います。コンパクトに。
 
ありがとございました。感謝しています。

ゴイクン
121.92.248.169

読みました。
まだ読んだばかりなので、ただの第一印象程度のことしか書けないのですが、私には面白かったです。
特にナオミパートになってから、面白いと感じました。
最初の呉作部分は、どうもイメージが湧かなくて、ぴんとこなかったのですが、たとえば大きさとか、顔とか。つまり私には呉作の似顔絵が描けなかったのです。しかもすでに指摘がある車と言う言葉とかも違和感を覚えました。

小人でも情報網というのはあるので、車も何も知っている設定でもいいのじゃないでしょうか。ただ実物は知らないので、これが車なのか、という驚きとか。
田舎のネズミが都会に行った感じでいいのに、無理に苦しまれているように思いました。

そして急にナオミに変わりますが、盲目でも色とか形がわかるというのはとてもよかったです。盲目の方でそんな風に言われたのを読んだ気がします。
そして、これがやがては武器になるわけでしょうから、期待できました。

ただこれもすでに書かれていますが、ナオミへの性的虐待は、何か不要なような気がしました。しかも二度までも、なので。
やめそうな理由は、泥棒の嫌疑を受けた、でもいいし、もっと普通っぽいのでもかまわないように思いました。
というのも、性的虐待は、今や物語世界、特にハリウッド世界では、あまりに陳腐です。またかよ、という感じで、急に白けてしまいます。

ただの泥棒でもいいし、何か聞いてはいけないことを聞いたでもいいし、とにかくナオミはある種特殊能力者と、読者としては想定していますので、性的虐待があったにしても、それを跳ね返すことができるのに、と思ってしまいます。最初に撃退した(勝手ですが)マッサージのおっさんは実は理事長だった、とかでもいいですね。

ただ肝心なのは、このあたりまで、嗅覚が出ていないのですよ。出ていたらごめんなさい。確認しないで書いています。

院長に叱責されている場所に、加害者のおっさんと同じ臭いが漂っている、つまり、理事長なりが部屋いいるのがわかる、とか。

まあ、これからでしょうが、呉作のクスリで、ひょっとしたらナオミの目もなおるかもしれないですし、音にからんだ、何か面白いエピソードも出そうなので、このまま書き進められるのがいいかと思います。
書きながら、ナオミも呉作も当然その能力を駆使して、大活躍すると思うので、きっと楽しい話になるのじゃないかと思います。
そういう意味でも、虐待は違和感になると思います。しつこいですが。

でも、やっぱり絵として小人がぴんときません。どれくらい小さいのか。ネズミのイメージでつい読んでしまいました。
ネズミでもいいような。あっ、失礼。余計なことでした。

感想にもならないですが、読んですぐに思ったことを書かせて頂きました。
誰でもいうことですが、とにかく完成させるのが大事、です。
頑張ってください。

柴咲
123.225.214.1

ゴイクンさん、感想ありがとうございます。
まさか、こんなに早く読んでもらえるとは思ってもいなかったので驚いています。その内容にも。
 
特に匂いですね。
私としては音(絶対音感)がナオミのキーワードだったので(バイオリンを取り戻して路上ライブを始め、そこから階段を上るというサクセスストーリー。それを成功させるために、自らの命を犠牲にさせる吾作とカラス)、音ばかりに神経がいき、匂いに関しては忘れがちでした。
 
病院内のレイプは陳腐です。確かに。
でも場所を変えて、例えば通勤途中の公園とかで、院長の息子が遊ぶ金欲しさに強盗もしくはレイプをするという、事件を組み入れようと思います。吾作とカラスの到着時間に合わせて(ご都合主義?)。もちろん彼らがいるので未遂です。
そしてゴイクンさんのアドバイスを戴いて、匂いで院長を感知させるつもりです。院長は息子を咎めますが、結局ナオミを追いだしにかかる。ここでも戴いたアドバイスを元に盗難事件を発生させます。
 
これなら吾作と鴉の力で問題を解決できそうです。鴉のキャラ(真の姿はお気に入り^^)も活かせそうな気がします。
車や電車もそうですが、大幅な書き直しが必要ですね。完成いかんでは、もしかしたら習作ではなくて公募作になりえるかもしれない。そんな欲も出てきます。
ま、無理ですけどね。とうに夢はすてましたから。
いずれにしろ実のあるアドバイス感謝しています。とにかく完成させるよう努力します。
 
今回、ここへ作品を投稿してほんとうによかったです。白米さんといい、朱連さん、はるかさん、えんがわさん、そして最後にゴイクンさん。それぞれに貴重なアドバイスを戴きました。これらを活かせる力が私にあることを信じて書こうと思っています。
 
ありがとうございました。感謝しています。心から。

柴咲
123.225.214.1

ゴイクンさん。
あれから共感色とオーラのことについて調べました。必ずしも盲人の見え方とは一致していませんでしたが、ナオミはその色から、人の性格や感情を薄っすら読みとれる設定にしました。もちろんそれ以上のことは霊能者ではないので、とどめます。あくまでも薄っすらに。
 
それから院長の息子ですが、それらを調べていくうち純粋な少年に変わりました。
勤務を終え、帰宅しようとしたとき、彼から呼びとめられるのです。
「前にいた目の悪い人、友だちなの?」と。
少年は緑色のミント系の色でした。人見知りのはずなのに、どうして話しかけてくるのだろう。ナオミは立ちどまりました。
「好きだったのね」
少年は彼女のやめ方、父の素っ気ない態度について話しだしました。
 
結局、強盗もレイプもなくなりました。この後、やめてしまったもう一人の少女のことは吾作とカラスが調べ上げるのですが、院長が気づきます。

 
いろいろアドバイスありがとうございました。
おかげで共感色やオーラのことを勉強できました。
 
感謝をこめて。

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