作家でごはん!鍛練場
はるか

根岸くん 九~十六 完結

 九

 深夜、新人くんとゴジラがもめていた、ゴジラというのは編集長の渾名だ、天然パーマの髪がいつもくしゃくしゃしている、しゃがれた声で言葉を吐き出すようにしゃべる、だからゴジラ。離れた席のバトルに知らん顔を決め込んで僕は、自分の仕事を進めていた。
「おい、野村」とゴジラが怒鳴るように言った。パソコン越しに声のしたほうを見る。ゴジラが口をへの字に曲げてこちらを見ていた。「小僧にちゃんと教えてやってくれ」
 席を立ち、彼らのところに行って事情を聞いた、巻頭付録の、スクラッチゲームのことで意見が合わないらしい。
「スリーセブンで応募できるんですよ」と新人くんが語った。眼鏡の向こうの目が鋭い、頬を赤らめている、学生運動とかの闘士みたいだ。「雲竜先生のサイン色紙と最新ゲームソフトが抽選でもらえるようになるんです、この一列目、三つの銀のうちの一つを剥がして7が出たら二列目のスクラッチに挑戦できて、二列目でもまた7が出たら三列目に挑戦できて、三列目でも7が出たら応募できるようにしたいんです」
 ありがちだけどいいんじゃないかな、と思った、雲竜先生の漫画の、ゲーム化を祝うプレゼント企画なのだ、シンプルなルールでわかりわすいほうがいい。
「編集長は、一列目の三つをすべて7にしろって言うんです、それで二列目の三つもすべて7にしろって言うんです、最後の三つも、そのうち二つを7にしろって言うんです」と新人くんは説明を続けた。なるほど、そういうことか、と思った。
「そんなことしたらほとんどの人がスリーセブンになるじゃないですか、そんなの八百長じゃないですか」
 ゴジラは苦笑いしてから僕に言った。「それじゃあ野村、あとはおまえに任せるよ、小僧に一から教えてやってくれ、俺は帰るよ、くたびれた」
 ゴジラの背中を見送ってから新人くんに向き直った、そして教えた。もしかしたらおまえはさ、スリーセブンになる確率を三分の一×三分の一×三分の一にしたいのかもしれないけど、そんなことしたらほとんどの読者が応募できなくなるだろ? せっかくのお祝い企画なのに応募者が少なかったら雲竜先生だってがっかりしちゃうし、ソフト提供してくれるメーカーにだって顔が立たないじゃないか、だから編集長は、なるべく沢山の応募者を確保できるようにしろって言ってるんだ、これ正論だろ、わかったら編集長の言う通りにするか、それが嫌なら応募総数を増やせてなおかつ面白い、そんな新しいスクラッチゲームを考案するかどちらかにしろよ、言ってることわかるか?
 席に座ったまま、新人くんは頷いた。パソコンの光を反射した眼鏡が白く輝いた。「一から新しいの作り直します」
 締め切り考えて動けよ、と伝えてから自分の席に戻ると、そこに根岸くんがいた、僕の椅子に座ってにやにや笑っている、なんだかちょっと天使みたいに見えた、悪戯好きの天使。今夜は遅くまでいるんだな、と声を掛けると、「ルーキー熱いね、たいしたタマだよ、昔の野村くんみたい」と言って彼は欠伸した、そして「まだ掛かるの? 軽く飲んで帰らない?」と続けた。
 そうだな、残りは明日にするか、と思った。新人くんに、頑張りすぎるなよ、と声を掛けてから、ロッカーの中のダウンジャケットを着込んで編集部を出た。
「ボンテージバーにでも行く?」と根岸くんが言った、そんなややこしいとこには行きたくなかった、近くで飲もうよ、と提案した。近所のバーのカウンターに並んで座った、僕はギネスビールを、根岸くんはモスコミュールを飲んだ。
「あのルーキーもタマ大きいのかなあ」と根岸くんは楽しそうに笑いながら言った。「仮配属のときのこと覚えてる?」
 そういえば、仮配属では根岸くんもうちの編集部に在籍していたのだった、僕と根岸くんと、あともう一人沢井という男がうちの雑誌を希望していて、見習いとして夏まで勤務していた。
「夏になってさ、本配属の一名が発表されるっていうんで、今くらいの時間に僕ら三人ゴジラの前に立たされてたんだよ、あのころってめちゃくちゃでさ、ゴジラ酔っててバカなこと言ってさ」と根岸くんは僕が思い出したくもないことを話し始めた。「パンツ脱げって言ったんだよね、僕らを並ばせといて、パンツ脱いでタマ見せろって、で、一番でかいタマぶら下げてるやつを本採用してやるって言ったんだ」
 沢井は、恥ずかしかったのか、あるいは怒っていたのか、顔を真っ赤にして、唇を震わせながらジーンズを下ろした、編集長に逆らったら三ヶ月の努力が水の泡だから。
「でも野村くんってばゴジラに向かって火を吐いたんだよね、だったらおまえも見せやがれ、とか言っちゃってさ、編集長様なんだからさぞかしでかいのぶら下げてんだろうな、とか吼えちゃってさ」
 たまっていた不満が一気に吹き出したのだった、仮配属中には、ずいぶん無茶なこと言われてたから。あれからどうなったんだっけ、そうだ、ゴジラのやつ、おうよ、とか吼え返してパンツ脱ぎやがったんだ。
「ゴジラのたいしたことなくってさ、僕、笑っちゃったよ、そしたら、おりゃあ、とか言って野村くんも脱いだんだよ、覚えてる?」
 覚えていたくない。
「結局野村くんが採用されたんだよね、すっごくでっかいタマだったから」
 そうだ、思い出した、あのとき根岸くんは脱がなかったんだ、嫌だなあ、みんな熱くなっちゃって、そんな下品な編集部なんてこっちから願い下げだよ、とか言ってゲームを降りやがったんだ、そっちのほうがたいしたタマだよ、って驚いた。
「ゴジラのやつ悔しそうだったね、野村くんにさ、おまえは将来編集長になれるタマだ、とか言ってさ、そそくさと帰っていったんだ、ざまみろって思ったよ」
 根岸くんは希望していなかった芸能週刊誌への配属を言い渡されて、飄々とそれに従い、三年後にはいくつものスクープをものにしてその雑誌のエースになった、風に逆らわず、風に飛ばされて、別の風に吹かれて空高く翔んだ、しなやかな生き方だと思う、そんな気の利いた彼が、その才覚でガールフレンドを三人もキープしている彼が、なぜなんだろう、ことヨッコに関しては初々しい中学生のような振る舞いを見せている。
「海、楽しみだなあ、あと中三日だね、いよいよカウントダウンだね」
 ヨッコは確かに美人だけれど、と僕は思った。この宇宙人みたいな男が、果たして美人ごときに夢中になるかな?
 四日後のデートの、予想もできなかった展開を、そのとおり、このときはまだ予想できていなかったわけだ。

 十

 タクシーを降りたのは四時半だった、夏ならもう明らんでくる時間だが、冬の朝はまだ深いところに沈んでいた。西の空に鼓星が見えた、その臍のあたりに、オリオン星雲が見えないかと目を凝らしたが、明るい都会じゃ見えるはずもなかった、三つ星の下には、誰かの溜息みたいな雲がぼんやり浮かんでいるだけだった。
 マンションのエントランスをくぐり、メイルボックスを覗いてから右手に折れて、自動ドアを抜けホールに向かい、呼んだエレベーターに乗り込み十五階のボタンを押した。上昇しながらふと思う。僕の人生、これでいいんだろうか?
 チャイムは鳴らさず、鍵を取り出し、自分でドアを開ける。チカはまだ眠っているはずだ、足音を忍ばせて泥棒みたいに中に入る、と、侵入してきた居住者を、リビングからの淡い光が迎えてくれた。
 あれ、起きてたのか? と声を掛けると、チカが振り向いた、そして、朝早くまでお疲れ様、と、いくらかの皮肉を交えて言った。
 暗闇の中で妻はテレビを視ていた、二十四時間流れているドキュメンタリーチャンネルを視ていた。面白い? と尋ねると、眉をしかめるようにして妻は応えた。「面白くなんかないけど、あなたの不在の存在から逃げようと思って、しかたなく視てたの」
 不在の存在?
「主張してくるのよ、あなたの歯ブラシや、あなたのシェーバーや、あなたのマグカップなんかが、トモがいないトモがいないトモがいないって、ものすごく強烈に主張してくるの」
 窓の向こうで烏が鳴いた。肩をすくめるしかなかった。
 何か飲む? と尋ねてくる妻に、もうだいぶん飲んできた、と応えてから、テレビの前に腰を下ろす。
 画面には鯨が映っていた、座頭鯨だった。
 この鯨、ジャンプするのよ、とチカが言った。見てよ、何度もなんどもジャンプするの、なんでかな?
 体についた貝をふるい落とすため、って説もある、でも詳しい理由はまだわかっていない。そう伝えた。
 苦しそう、とチカは言った。何度も跳ねて、体をひねって何度も落ちて、あ、もしかしたら空を飛びたいのかな、海から出て空で暮らしたいから跳ぶのかな。
 そう言われてみると、もがいているようにも見えた。
 大きな魚も大変なんだね、と言ってチカはテレビを消して電気を点けた。
 鯨は魚じゃない、と思ったけれども口には出さずにダウンジャケットを脱いだ。
 もう起きる? それともまた寝る? と妻に尋ねた。もちろん寝るわよ、あなたと一緒に、と妻は応えた。
 ベッドの中、冷たい体を寄せるようにして妻が小さな声で言った。ヨッコ、なんで急に葉書なんて書いたんだろう、根岸さんからの手紙、ずっと無視してたのに。
 綾の鼓が鳴ったんじゃないか? と、さっき見たオリオン座を思い出して言ってみた。
 綾の鼓?
 鳴らない太鼓のことだよ、鳴らない太鼓を、根岸くんは叩き続けたんだ、何度もなんども、諦めずにね、その執念が、ついには鼓を鳴らしたんじゃないかな?
 そうかなあ、と言って妻は、寝返りを打って向こうを向いた。ヨッコの男嫌い、結構頑固な感じだったんだけどなあ。
 もしかしたらさ、と、パンケーキみたいな匂いがする背中を抱きながら僕は言った。リカちゃんに預けてた手紙、読んだんじゃないかな?
 そっかな、と妻はこちらに向き直り、少しはしゃいだ声で言った。そうなのかもね、で、そこに書かれてた情熱的な言葉が、ヨッコの心の氷を溶かしたのかも。
 言葉で伝える愛もある、体で伝える愛もある、と言って僕は妻の体を正面から抱いた、胸に擦れる妻の乳首がくすぐったかった。
 根岸さん、うまく跳べるといいね、と言って妻は大きめのティーシャツを脱いだ。
 枕元の端末が震えた、電話だ、出る。
「あ、ネームできたんで送ります、会社ですか、家ですか?」と、くたびれ果てた声が響いた、連載が始まったばかりの新人作家からだった。
「自宅にファックスしてください、拝見して三十分程度で折り返しできると思います」
 端末からこぼれた光が、妻のおっぱいを白く照らしていた。
 固定電話が音をたててファックスの受信を開始した。

 十一

 目を覚ますと、カーテンの隙間から差し込む日差しが、時の到来を告げていた、快晴だった、玉子トーストにケチャップを掛けて食べて、珈琲とオレンジジュースを飲んだ。車のキーを指に掛け、口笛なんて吹きながらドアを開けた、ダブルデートに出発だ。
 立体駐車場のパネルを操作して、地下から愛車を呼び出す、純白のシトロエン、後部座席は空けておかなくてはならない、荷物はトランクにしまった。
 まずはヨッコを迎えにゆく。公団住宅の下にシトロエンを停めて、チカに電話してもらうと、すぐにヨッコが降りてきた、ファーのついた赤いダウンを着ていた、あたたかそうなブーツを履いている、この日もヨッコはお人形さんのように見えた。驚いたのは、ヨッコのお母さんも降りてきたこと、ヨッコの背後から現れて、僕らに向かって深々と頭を下げた、小柄な女性は品がよかった。豊子をよろしくお願いいたします、とお母さんは晴れやかな笑顔で言った、こちらが恥ずかしくなってしまうくらいに輝かしい笑顔だった。
 ヨッコを乗せると、香水の匂いが、ふわりと車内に広がった、あるいはシャンプーの香なのかもしれない。しばらく走り、根岸くんのマンションに着いた。下から電話を入れると、彼もただちに降りてきた、デニムのパンツを穿いた三十二歳は、小学生のような笑顔を浮かべていた、ヨッコと並んで後ろのシートに座ってもらう。
「これ、プレゼント」と、ミラーの中で根岸くんが、ヨッコに向かって言った、何か包みを渡したようだった。
「ありがとうございます、なんだろう?」とヨッコが嬉しそうに言った。
「ゴヤールのバッグ」
「え?」
「小さすぎると思ったでしょ、だってリカちゃん用だもん」
「リカちゃんに?」
「インターネットでみつけたんだよ、リカちゃんのオリジナルアクセサリーを受注してくれる店、ゴヤールのデザイン送ったら、なんと五日で作ってくれた」
「すごい」
「リカちゃん用のスニーカーも一緒に入ってるよ、そっちは既製品だけど」
「すごく嬉しい」
「豊子さんの笑顔が見られて僕はもっと嬉しい」
 さすがだな、マングース、とミラーの中の根岸くんを小さな声で褒めた。マングース? と尋ねてくるヨッコに曖昧な笑いで応えて僕はアクセルを踏み込む、首都高に上がった、晴れやかな空が広がっていた。
 映画の話になった、ヨッコは『君の名は。』について語り、チカは『万引き家族』について語った、僕は『マルホランド・ドライブ』について語ろうかと思ったけれど、話が難しくなりそうなのでやめた、根岸くんは『ブレードランナー』が好きだと言った。駆けっこの話ですか? とヨッコが尋ねた、なかなか面白いことを言う。根岸くんはストーリーを要約したあと、「僕はね」と、少し声の調子を変えて呟くように言った。「自分がレプリカントなんじゃないかって思ってたんだよ」
 レプリカント、人間により作られた人間じゃない存在。確かに、と思ってしまった、確かに根岸くんには人間離れしたところがある。
「四年で死んじゃ嫌ですよ、長生きしてくださいね」とヨッコが言った。
 どうしたことだろう、今日のヨッコはよくしゃべる、リラックスしている、楽しんでいる。いいことだ、と僕は嬉しく思った。
「三浦についたらどうすんの?」と根岸くんが言った。昼ご飯に鮪を食べよう、と僕は応えた。昼まではどうしよう? と今度はチカが尋ねた。港に半潜水艇があるみたいだからそれに乗ってみない? と僕は提案した。潜水艦? とヨッコが驚く。いや半潜水艇って書いてあったから半分しか沈まないんじゃないかな、と僕は応えた、僕にもよくわからない。
 ヨコヨコに入った、単調な直線が続く、しりとりをやった、語彙力がある分、根岸くんと僕が圧倒的に強かった。編集者としりとりなんてやるもんじゃない、とチカが膨れた。
「野村さん、仕事忙しいんですか?」とヨッコが、僕じゃなくて妻に尋ねた。
「忙しいみたいよ、仕事も、それからお友達とのお付き合いも」とチカが応えた。
「寂しくないですか?」
「もう慣れたかな」
「本当ですか?」
「本当は嘘です」
 なかなか責められてるね、と言って根岸くんが笑った、僕も曖昧に笑ってみせた、妻は笑わなかった。
 ヨコヨコを降りて、しばらく走り、港について車を停めた。カモメが飛んでいた、トンビも飛んでいた、空はのどかに青かった。
 半潜水艇の発着場はすぐに見つかった、可愛らしい黄色い船が浮かんでいた、丸っこい、不思議な形をした船だった、チケットを買って乗り込んだ、海の香を吸い込んだ、ポテトチップスのうす塩味みたいな香だった、たまにはこういう休日もいいかもしれない、出港までの時間、甲板で、風に吹かれてジンジャエールを飲んだ、根岸くんはコーラを飲んだ、女性陣はホットコーヒーを飲んでいた。
 汽笛が鳴り出港した、アナウンスが入り、階段を降りるようにと促された、甲板にいた人たちは皆ぞろぞろと階下に降りた。なるほど、こういうことか、と納得した。船は沈まないのだ、僕らが沈むのだ、水面下に沈んでいる地階にまで。移動水族館であった、いや、違うな、囲われているのは人間たちのほうなのだ、魚たちは、開かれた海の中を自由に泳いでいる、僕らがお邪魔しているのであった、彼らのテリトリーに。
「目が違うね」とチカが言った。「水族館の魚とは目が違う。なんだか自信に満ちた目をしてる」
 確かに違う、生きいきしている、野生の目をしている。枠の外を生きている魚たち、自由な魚たち。
「生きてる魚ってのは、あれだね、やっぱり美味しそうには見えないもんだね」と根岸くんが言った。そうだね、僕らはオットセイじゃない。
 額を窓にこすりつけるようにしてヨッコは黙っていた、そんなヨッコの横顔は子供のようにも見えた、ひどく無防備で、危なっかしくも見えた、けれども、と僕は思った。この前会ったときとは何かが違う、ヨッコは微笑んでいた、小魚たちを見て優しげに笑っていた。
 群れをなした魚たち、きらきら光ってとても綺麗だ、太陽の光がリレーされてゆく、先頭を泳ぐ魚から最後尾を泳ぐ魚まで、命、命、命、沢山の命が連なっている。海に抱かれて戯れている彼らは、とてもリラックスしているように見えた、窓際のヨッコと同じように。
「小さな魚の世界も、わりかし悪くないでしょう?」と妻が言った、僕に向かって言ったのだと思う。
 僕が返事を迷っていると、チカの声が聞こえなかったのか、脈絡もなくヨッコが言った。「お父さんが会いに来てくれたんです」と、窓の外の海を見ながら嬉しそうに言った。

 十二

 半潜水艇は港に戻った、階段を上がって甲板に出た、すると空は雲っていた、冬の雲が重たくのしかかってくるようだった、さっきまでの青空はどこに行ってしまったのだろう、竜宮城から戻った浦島太郎のような気分だった。
 三浦半島に再上陸を果たした僕らは、少し歩いて料理屋に入った、昼ご飯の時間になっていた。店は空いていて、二階の個室に通された、靴を脱いで座敷に上がった、料理を注文した、ドライバーに気を遣ってくれているのか誰もアルコールを頼まなかった。
「それにしても」とチカが言った。「悟さんが会いに来てくれただなんて」
 窓から海が見えていた、白波が立っている、曇ると、とことん冷たそうに見えた。
「はい」とヨッコが嬉しそうに応えた。「出ていってから初めて会いに来てくれました」
 なんだってまた今ごろになって? と僕は疑問をそのまま口にした。
「そういう言い方はないんじゃない?」とチカが僕を見て言った。「悟さん、ヨッコのお母さんがまだ、すごくお金持ちだったときに出て行ったわけだから……、ほらね? だからヨッコを捨てたわけじゃないんだって私は思うよ、でしょ? 大切なヨッコと別れたくなんかないけど、でも、大切なヨッコのためにも自分が消えようって思ったんだよ、きっとそうだよ、ツバメくんの若さとさ、それからお母さんの経済力とにヨッコを託したんだよ、信じたんだよ、ツバメくんの愛を……。なんていうのかな、何よりもね、ヨッコのお母さんが愛してるツバメくんをさ、ヨッコのお父さんにしたかったんだろうな、わかる? 侠気のある人だよ、悟さん、ちょっと誰かに似てるくらいに」
 チカの言葉を聴いて、ヨッコは少し、はっとしたような顔をした、それから俯き、嬉しそうに笑った、首を、なんだか亀みたいに縮こまらせて。
 根岸くんが自分の首を、こきりと鳴らした。
「お母さんには、夏くらいに連絡があったみたいなんです、お父さんのお父さんが亡くなって、思ってもみなかったお金が、すごく沢山手に入った、とか言って」と、ヨッコは囁くように言った。ヨッコのおじいさんにあたる人が亡くなって、ヨッコのお父さんが遺産を相続した、ということのようだ。
「お父さん、お母さんの会社が潰れたことも、お母さんの恋人がお母さんを捨てていなくなっちゃったことも、全然知らなかったみたいなんです」と言ってからヨッコは、葱の味噌汁をすすって、満足そうに椀をテーブルに戻し、「このお味噌汁美味しい、心まであったまるみたい」と呟いた。
 鮪の、顎肉のユッケが来た、食べてみた、ゼラチン質の味がした、お酒が欲しいところだな、と僕は思った。根岸くんに、呑んでもいいんだぞと言ってやった、だけど根岸くんは応えなかった。
「よかったわね、お父さんが戻ってきてくれて」とチカはヨッコに向かって優しげに言った。
「戻ってくるわけじゃないんです」とヨッコは応えた。
「戻らないの?」
「しばらく東京見物したら、また外国に帰るみたいです。でもいいんです、私、お父さんに愛されてるってわかったから」
 根岸くんは黙々とユッケをつまんでいた。遠慮しないで呑めよ、とまた言ってやった、でもやはり根岸くんは黙っていた。
「お父さん、お母さんに言ったんですって、分け前だって言ったんですって、沢山もらえたから半分あげるって言ったんですって」
「お金?」とチカ。
「そうです、すごく沢山のお金、もうお母さんが、苦労して働かなくてもいいだけのお金……」
 ヨッコのお母さんの、晴れやかな笑顔が浮かんだ。
 箸を置く音が強めに鳴った、そして、「お金もらえたら愛されてるってことになるわけ?」という言葉が冷たく響いた。
 たまご煮を運んできた女性が、困ったような顔をして、少し迷ってから器をテーブルの真ん中に置いた。
「そうじゃなくて」とヨッコは震える声で言った。「お父さん、お母さんに、苦労したね、って優しく言って、それから私に、綺麗だねって、可愛いねって……、これから絶対に幸せになれるよって、王子様に出会って、素敵な結婚ができるよって……」
「豊子さんくらいの器量なら、うちの業界にはごまんといるよ、タレントやモデルもそうだし、メーカーの広報だってそれなりに綺麗だよ」
 何を言ってるんだ、と怒鳴りそうになってしまった、でも騒ぎを起こしたくなくて自重した、抑えた声で、どうしたんだよ、と根岸くんに問い掛けた。
「どうもしないよ」と彼は応えて、それからヨッコに向かって言った。「わかったよ、よくわかりました、豊子さんは、なんだかんだ言っても、結局は愛されてたんだね、お父さんにもお母さんにも、よかったじゃないか、もう人形ごっこも卒業だね、人間らしく、人間の生き方ができるじゃないか」
 おまえ変だぞ? と言う僕に「元から変だよ」と応えて根岸くんは、「別れた女に、自分のもらった遺産を分けなきゃならないだなんて決まりはないよ、うちの親父もそんなことしなかった、変な男だよね、悟さんって男はさ」と、誰にともなく言った。
 うちの親父? と思った、根岸くんの親は離婚していたのか、それにしたって、と混乱した、根岸くんの豹変ぶりは理解の範囲を越えていた。
「私のこと」とヨッコは小さな声で言った。「もう好きじゃないですか?」
 根岸くんは、質問に向かい合わずに言った。「碧にもね、小さな娘さんがいるんだよ、あっ、碧って言うのは僕が付き合ってる保母さんだよ、人妻なんだ、僕のこと、娘さんも旦那さんも知らないんだよ、碧の娘さんも思ってるのかな、父親や母親に愛されてるって、そんなふうに思ってるのかな?」
 誰もが言葉を失った、鮪丼を運んできた女性も異様な雰囲気に慌てて立ち去った。
 鮪丼をすごいスピードで掻き込んでから根岸くんは、僕の目を見ないで言った。「京急で帰るから駅まで送ってよ」
 店の外に出ると細かい雨が降っていた、いつかの雨に似ていた、そうだ、ヨッコが振り向きもせずに走って消えた、あの夜に降っていた雨、針のような雨。灰色がかって見えるシトロエンに乗って駅を目指した、ワイパーの音がやけに耳につく車内で、僕らは変なふうに緊張していた、根岸くんを駅で降ろすと僕は、音がしないように注意しながら溜め息をついた。
 帰りの車内では、根岸くんの悪口が飛び交った、当然だ、でも東京に戻り、ヨッコを降ろしたあとでチカは言った。「ほっとけない人だよね、根岸さんって」
 雨の向こう、駅の構内に消えゆく根岸くんの背中を思い出しながら頷いた。ひどいことを言われたヨッコより、ひどいことを言った根岸くんのほうが、なぜだがよっぽど心配だった。

 十三

 会社がある街の、狭い路地を二つほど曲がった先に、早い時間から開いているバーがあった。わかりにくい場所なので、うちの社員に出くわす確率は低そうだった、いずれは発見されてしまうのだけど、今のところはまだ発見されていない、そんな秘密のビーチで泳ぐような気分で、その日その店に一人でいた。風の香の中に春の訪れが感じられる、とはいえ、外はまだまだ寒かったから、店内の暖炉がありがたかった。
 店の奥、岩場の陰みたいな場所に四人掛けのテーブルがあった、外からは見えないくらいに奥まったテーブルだった、そこに腰を落ち着けて、漫画のネームに赤を入れていた。流れているのはアルゼンチンタンゴ、赤くて黒いメロディだ、切ないけれども、背筋は伸びる、適度に集中できるよい環境だった。テーブルの上、照明が作り出す丸い光の真ん中に、ずんぐりとした瓶が立っていた、ベルギービールの瓶だった、シメイのブルーを飲んでいた、甘くて豊かで、後味が少しだけ苦かった。ミックスピクルスをつまんでいた、フォークで刺してつまんでいた。時計が示す時刻は五時、頭がぼうっとしていて、午前の五時か午後の五時かもわからなかったが、午後の五時に決まっている。
 原稿に集中していたから、ドアが開いた音には気がつかなかった、招かれざる客の到来を知ったのは六本の足が僕のいるテーブルを囲んでからだった。顔を上げると、見覚えのある顔が並んでいた、男が二人、女が一人だった、五十代に見える男が僕の正面に座った、その横に女が座った、カマキリは、僕の隣に座って逃げ道をふさいだ。
「ご無沙汰しております、野村智也さん」と男は、鉄のように硬そうな顎をしゃくって言った。「その節は店のレディが大変お世話になりました、あなたのお友達に」
 根岸くんが蹴った豹柄女はいなかった。スーツ男と、スーツ男を抱いていた女、それからカマキリがこの日のメンツだった、もちろん麻雀を楽しむ雰囲気じゃない。
 カマキリは僕の左手からフォークを奪い取って、舌舐めずりせんばかりの表情で笑った、フォークは凶器に変わった。
 年齢不詳の女が言った。「漫画家だのライターだのカメラマンだのなんだの、あんたってば毎日まいにち誰かしらとつるんで遊んでるもんだから、なかなか一人になってくれないもんだから、今日になるまで待ちくたびれちゃったわよ」
 どうやら見張られていたらしい。
「夜道で拉致しようにも、毎晩タクシーでご帰宅、と来たもんだ、結構なご身分で」とカマキリが、変な臭いの息を吐き掛けながら言った。
 ずっと狙っていたわけだ、この僕を。
「あの夜」と正面の男が言った。「陽光企画の名刺を頂戴しておりましてね、そちらにご連絡を差し上げて常務に教えていただいたのですよ、野村さんの会社や行動範囲を、詳しくね」
 あの事件のあと、陽光企画は自ら懸賞ページの担当を降りていた。
「人の話を聴くときは」と女が教師のような口調で言って、「赤ペンなんていじらず真面目に聴きな」と、僕の右手から赤ペンを取り上げた。
「しかしながら」と静かに男は続けた。「あなたのお友達のことは、常務も部下の方も、一切ご存じないようで」
「残らず歯を抜いてやったんだけどよ」とカマキリが下品な言い方で補足した。「何もしゃべれなくなるまで何もしゃべらなかった、本当に何も知らなかったってことだ」
 気の毒な常務と丸顔さん。
「ですからあなたにうかがうしかないかなと。あの夜レディの美しい顔に靴痕を残してくださったクソヤロウさんは今どちらにいらっしゃるのでしょうか?」
 僕は黙っていた、黙秘した、というより言葉が出なかったのだ。
「救急車なんて呼びやがるからよ、こちとら警察に引っ張られて散々な目に遭ったんだ、礼は返すぜ、たっぷりとな」と言いながらカマキリが、僕の左手を掴み、根性焼きの痕目掛けてフォークを振りおろそうとした、が、そのときバーテンダーがやってきてオーダーを尋ねた。「すっ込んでろよ!」と女が鳥のように喚いた、バーテンダーは退散した。
「仕方がない、出ましょうか」と男は言い、三人に囲まれるようにして店を出た。
 路地裏に人影はなかった、中途半端なこの時間に店を訪れる客も期待できなかった、バーテンダーは警察を呼んでくれただろうか、いや、たぶん呼んでくれてはいないだろう、厄介な問題を抱えたくないのは誰だって同じだ。
 カマキリに腹を殴られた、ミックスピクルスを吐いてうずくまる僕の顎を男が蹴り上げた、それから男は尋ねた。「お友達のお名前は?」
 根岸くんの笑顔を思い浮かべながら、腹と顎の痛みをやり過ごそうとした。
「十数えてやるよ、指を一本ずつ、へし折りながらな」とカマキリが、ひざまづいている僕の手をとって嬉しそうに言った。「十数えるうちにお友達の名前を思い出しな」
 全ての指が折られても、と歯を食い縛りながら思った。絶対に根岸くんのことは教えない、僕が教えなければ、根岸くんが特定されることはあり得ない、今度は僕が根岸くんを守る。
「ったく色気がないわねえ」と女が、目を変なふうに光らせて言った。「指なんて何本折ったって面白くもなんともないじゃない?」 
 好きに責めなよ、と男が女に言った。
「立たせて」と女はカマキリに命じるように言った。「パンツを脱がしてよ、そしたらあたしが尿道に、この赤ペン突っ込んでやっから」
 女の目を見た、本気の目をしていた、カマキリの手が僕のベルトに伸びた、もうダメだ、と思って目を閉じた、ベルトが外され、ジッパーが下ろされた。
「カエッテミレバ、コハイカニ」
 変な声が響いた、鉄のような男の声でも、年齢不詳の女の声でもなかった。「カエッテミレバ、コハイカニ」と、また同じフレーズが響いた、独特な節まわしで響いた、聞いたことがある、と思ったら『浦島太郎』の歌だった、目を開けた。
 知らない男がいた、白髪混じりの長い髪、レザージャケットに膝の破れたジーンズ、目尻のシワを深くして男はにやにや笑っていた。
「アテンションプリーズ」と奇妙な男は日本語の発音で言った。「コハイカニってのは、コワイカニじゃないんだよ、ホラーなクラブじゃなくってさ、なんてえの、なんだよここいら、どうなってんだよ、ってことだよ、ざけんじゃねえよ、変わっちまってよ、ってことだよ、ひっさびさにジャパンのランド踏んづけたってぇのによう、アンビリーバボーだぜ、ったくよう、ってな意味なんだよ、知ってた?」
 あまりにあまりで、誰も何も言えなかった。
「ヘイ、ガイ」とレザージャケットの男は僕を見下ろして言った。「カモン、ウイズ、ミー」
 いくらかまともな英語に促され、立ち上がろうとしたが、カマキリに足を払われた。
 すべては一瞬の出来事だった、電光石火の展開だった、おかしな男は、猿のような素早さでカマキリに飛び掛かり、その顔面に、がんがんがんと立て続けに三発、重そうな拳を打ち込んだ、派手に鼻血を吹き上げながらカマキリは倒れた。
 悪者二人の逃げ足は早かった、カマキリを置き捨てて、文字通り一目散に逃げた、後ろも振り向かずに走って逃げた。
「悪は滅びる!」とレザージャケットの男はふざけたように言った、そして僕を見ると、声の調子を変えて不思議なことを言った。「自由とは、自由であるべく、不自由になることだ」
 聞いたことがあった、誰の言葉だっけ……。
 男の、深い色をした目が、しばらくじっと、僕の目を見ていた。それから、「ジャン・ポール・サルトル」と言って男は、兵隊のように舞われ右をすると、右手をひらひらと振りながら歩き去った。
 そうだ、サルトルの言葉だ。
 隣にはカマキリと、カマキリの前歯が転がっていた。

 十四

 その日、今期の社長賞が授与された、今は人事部にいる沢井が、マイクで名前を読み上げた、壇上に進み出たのは根岸くんだった、二度目の受賞ということになる、僕は彼を遠くから見ていた、とつとつと歩き彼は、晴れがましくもなんともない、といった様子で表彰状を受け取った。担当している小説を映画化に導き、もって部数を倍増させたというのが表彰理由だった、たいしたもんだ、相変わらずやることにそつがない。式典に出席していたのは全社員の三分の一くらいだった、仕事を理由に、式典なんかには出ない社員が少なくないのだ。根岸くんに対する拍手もまばらだった、それが不満で僕は、前列の人が振り返るくらいに大きな音で手を打ち鳴らした、根岸くんがちらりとこちらを見たような気がした。
 式典が終わり、五階の講堂から八階の職場に戻る、エレベーターを降りたところで雲竜先生に会った、漫画のゲーム化のお祝いを述べた、けれども先生は、変な咳払いを一つして僕を睨んだ、わけがわからない、下りのエレベーターに乗り込む先生の、巨きな背中に一礼して編集部に向かった。
 編集部に戻るとゴジラがやってきて、僕の肩を掴み、近くのブースに連れ込んだ、いつになく慌てたゴジラの様子を見て、これはただごとじゃないと僕も身構えた。
「この野郎、なんてえことしてくれやがったんだ」と、ゴジラは、天然パーマの髪をごしごし擦りながら唸るように言った。
 なんのことだかわからない。
「小僧が担当した巻頭スクラッチ、校了印押したのおまえだよな」とゴジラは、印刷所から引き上げたのであろう校了紙をひらひらさせながら言った。
 確かにそうだ、僕が最終チェックをして、デスク印で校了した。
「なんだって、こんなもん通しやがったんだ?」と今度は、できあがった雑誌を見せてゴジラは言った。
 僕がきょとんとしているとゴジラは、ポケットから取り出した十円玉で、巻頭付録のスクラッチカードを削り始めた、一列目をすべて削った、出てきた数字は、1、6、7、二列目もすべて削った、出てきた数字は、4、5、7、そして三列目は、7、2、3だった。
 これはどうしたことだ? と僕も驚いた、入稿時に確認した数字は、7、7、7と、7、7、7と、7、7、6だった、校了時に確認した数字も同じだった。締め切りまでに新しいシステムを考案できなかった新人くんは、諦めてゴジラの指示に従った、だから僕はそれを確かめた上で印を押したのだ、間違いない、なのに……。
 校了紙を確認する、赤ペンで数字が直されていた、新人くんの筆跡だ。彼は、僕が校了印を押したあと、こっそり数字を書き換えたのだ、なぜだろう、おそらくは彼の正義感ゆえだ、応募総数を稼ぐためのやり方を彼はヤラセのように捉えていた節がある、そうか、だから彼は……。
「おいおいおいおい」とゴジラが声を裏返した。「まさかまさか、おまえ、知らなかったわけじゃねえだろな、小僧があとから、内緒で書き換えやがったわけじゃねえだろな、だったら懲戒免職だ、あいつにゃ校了権限なんてねえんだから、そんなことしてたら百パーセントクビだ」
 懲戒免職。
「応募数が百にも満たなくてよ、ソフトの提供元は怒るし、雲竜先生なんて、もううちじゃ描かないってさっきすげえお冠だったんだぞ、今から雑誌回収して企画をやり直せって、すげえ剣幕だったんだ、やばいよ、俺も販売部かどっかに飛ばされる、おまえは経理部だ、雲竜先生がそうおっしゃったんだ、他人の伝票にハンコつくだけの仕事を一生やらせろってな、連載継続の見返りに、先生が出した条件がそれなんだ、おまえも小僧もそろって経理部、二度と編集には戻れない。と、まあ、そのはずだったんだよ、でもな、でもだぞ? もしも小僧が単独でやったってんなら話は別だ、おまえは無罪だ、俺も無罪だ、代わりに小僧は懲戒免職だ」
 二人で経理に行くか、あるいは新人くんがクビになるか。
「なあ、おまえ、マジで知らなかったんじゃねえのか?」
 マンションのローンが頭をよぎった、経理部には残業がない、収入は半減するだろう、経費も認められない、タクシーでの移動もしづらくなるし、根岸くんと乾杯する機会も減るだろう、なにより、自分の中の夢が死ぬ、夢? いや夢なんてなかった、夢というのとは違う、自由、そうだ、正しくは自由が潰える、間違いなく今より不自由になる、根岸くんが、今より遠くの、ずっと遠くの人になる。
 沈黙が続き、電話の鳴る音がいやにはっきりと聞こえて、それからゴジラの、指をぱきぱきと鳴らす音が聞こえた。誰かの、深い目の色が思い出された。
 その日は仕事にならなかった、編集部のテレビが、有限会社陽光企画の役員および社員に対する傷害致傷の容疑で誰それを云々、と伝えていたが、どうでもいいと思った、東京に隕石が降ってくる、と言われたってたぶん聞き流していただろう、喫緊のタスクだけを処理して定時に退社した、、帰宅時にはまず乗ることのなかった地下鉄が、僕を、どこか知らないところに運んでいるような気がした。
「それでトモは」と妻が言った、ココアを勧めてくれながら言った。「経理に行くことになったわけ?」
 頷いた。入って間もない新人くんの、クビを落とすわけにはいかない。
「編集者じゃないトモって想像がつかない」
「毎朝スーツで出社する、毎晩自宅で飯を食う」
「信じられない」
「ハイオク食わせる金もなくなる、さようなら、シトロエン」
「トヨタかニッサンに替えるのね?」
「都内で車を持つ、って贅沢そのものを再考しなくてはならないかもしれない」
「それでいいの?」
「自由とは」と、自分に言い聞かせるように言った。「自由であるべく、不自由になることだ」
「意味よくわかんないけど」と言いながらも妻は、気持ちを前向きに切り替えたようだった。「まあ、いいわよ、私、ワイシャツにアイロンかけたげる、毎晩手料理だって作ったげる」
 妻は、なんだか張り切っているようにさえ見えた。曰く「ヨッコがね、私たちみたいな結婚目指す、って言うのよ、だから私もいろいろ頑張らないとね」
 僕らはココアで乾杯をした。そして妻は、「根岸さんには報告したの?」と尋ねた。
 しようとしたんだけど、と説明した。すぐに書籍部に向かったのだ、でも根岸くんは席にいなくて、だから僕はボードを見た、彼の出先を確かめようとした、そしたら赤字で、しばらく休み、もう帰らないかも、と書いてあった、社長賞を受賞して、編集部に戻るやいなや休みを宣言したらしい。
 根岸くんは消えてしまったようだった。

 十五

 根岸くんは雪山を登っていた、降りしきる雪に顔をしかめながら、苦しそうに呼吸していた。よせよ、と思った。アタックを中止してベースキャンプに戻れ、そのまま行ったら死んでしまうぞ。
 と、いうような夢を見た、土曜日の明け方だった、その日の午後にポストを覗くと手紙が来ていた、根岸くんからの手紙だった、エアメールだった。

 やあやあ、野村くん、元気にお仕事頑張ってるかな? 僕は今、珊瑚礁に浮かぶ小さな島に来ています。小学校のグラウンドくらいの、ほんとに小さな島だよ。百合子と一緒だよ。百合子って覚えてる? ネギシーズエンジェルの会員番号一番、商社勤務の三十八歳だよ。ぴちぴちはしてないけど、たぷたぷしてて、なかなか気持ちがいいよ。
 野村くんはまだとってないのかな、リフレッシュ休暇。っていうか、まさか知らないわけじゃないよね。僕も君も勤続十年だから、二週間休みがとれるんだよ。誕生日までに使わないとなくなっちゃうよ。もったいないから早くとりなよ。

 おいおい、と思った、スカイラウンジでだったか、行っちゃおうかな外国に、とか呟いてたけど、あれってリゾートバカンスのことだったのか、悟さんみたいに失踪しちゃうのかと思って心配したけど、さすが根岸くん、やることがコケティッシュだ。

 水上コテージに泊まってるんだよ。テラスの梯子を降りたらそのまま海なんだ。朝ご飯の前に泳いでシャワーして、昼ご飯の前に泳いでシャワーして、夕ご飯の前に泳いでシャワーしてるよ。手のひら見たら水掻きができてた。
 夕日がね、真っ直ぐな水平線の向こうに、すごい色して沈むんだよ。沈んでく夕日から伸びるオレンジ色の光がね、海を渡ってこっちまで、はるばる真っ直ぐ伸びてきて、でもってバスタブの中の僕と百合子に届くんだ。僕の肩も、百合子の髪もおっぱいも、いっしょこたになって黄金色に染まるんだよ。ちょっといいでしょ?
 あのね、碧とはサヨナラしたんだ。碧ってのは保母さんだよ、人妻の保母さん。あのあと、豊子さんのこといろいろ考えてたら、もう碧と会えない気分になっちゃったんだ。僕ね、そういうの、よくわからなかったんだよ。碧の娘さんだとか、碧の旦那さんだとか、そういう人たちの気持ちとか、全然考えたことなかったんだ。
 だなんていうのは実は嘘です。ホントはね、わかってたんだよ、たぶんどっかでね。そんでわざと壊したかったんだと思う、碧の家庭を。こなごなに砕きたかったんだと思う、平和なふりしたインチキな家庭をね。ざまあみろ、って思いながら、僕、碧のこと抱いてたんだよ。だからね、あんまり気持ちよくなかったな。終わったあといつも嫌な気分になったんだ。
 百合子はね、そうじゃないんだ。歳上だからかな、一緒にいるとちょっと落ち着くんだよ。いくらか優しい気持ちになれるんだ。この小さな島に百合子といてね、僕、思い出したんだ。ずっと昔のこと、僕がまだ小学校に上がる前のことだとか、小学校に上がったばかりのころのことだとか。
 あのね、僕はね、小学校に上がる前、自分の戸籍を確かめたことがあるんだ。お袋に言われたんだよ、おまえは私の子じゃないって、嘘だと思うなら戸籍で確かめてみろって、そこにおまえの名前はないって。ハンコと健康保険証持たされてさ、半ば追い出されるみたいにして家を出たんだ。百円玉握りしめて一人で役所に行ったんだ、幼稚園児が一人っきりでだよ。ネギシアキヒロって言ったあとコセキトウホンイッツウって言えばいい、そしたら係の人が手続きしてくれるって言われてさ、その通りにしようとしたんだけど、幼稚園児ってちびっこいじゃんか、だからカウンターの下にいると見つけてもらえないわけ。ずっと待ってたんだよ、見つけてもらえるのを、すごく泣きたい気持ちで待ってたんだ。一時間も二時間も待ってたんだ、時間は正確じゃないよ、そのくらいに感じられるほど長いこと立ち尽くしてたってことだよ。自分は誰の子なんだろうって思うと、とことん独りぼっちな気がしたな。
 それからね、小学校に上がってからのことだけど、話したことあったかな、僕ね、サッカーのスポーツ少年団に入ってたんだよ。ポジションは地味なバックスで、おまけに補欠だったんだけどね。でもチーム自体はすごく強いチームでさ、全国大会の常連だったんだ。僕はそういうの、たいして興味がなかったんだけど。でね、全国大会の決勝まで行ったとき、テレビの中継が入ることになったんだよ。お袋、盛り上がってさ。でも運の悪いことに、試合の当日、テレビが壊れちゃったんだ。そしたらお袋、なんでだか知らないけど激怒してさ、僕を外に追い出して、誰かの家に上がり込んでテレビ見せてもらってこいって言うんだよ。自分のチームが戦うのにそれを見ないで済ませるような子供は私の子供じゃないとか、わけのわかんないこと言うわけ。嫌だったなあ、知り合いの家、一軒いっけんピンポンってしながら回ってさ、試合見てる? って聞いて回るんだけど、誰も見てなくてさ。泣きたい気持ちで電気屋さんに行って、店のテレビに試合を映してくれないかってお願いしたんだよ。すごく変な目で見られてさ、逃げ帰りたい気持ちだったけど頑張って、冷たい床の上に立ったまま、試合が終わるまで立ち尽くしてたんだ。役所で立ち尽くしてたこと、思い出したりしながらね。試合が終わって家に帰ったんだけど、玄関でお袋に訊かれてさ、どっちが勝ったか? って訊かれてさ、一点差で僕らの勝ち、って結果を応えたら、よし入れ、って。お袋のやつ、壊れたテレビで音声だけ聴いてやがったんだよ。で、僕が嘘を言わないかチェックしたんだ、すごいよなあ。
 とか、まあそういうようなことをさ、いろいろ思い出しちゃって、で、百合子に話したわけさ。そしたらひどく驚かれてね、いつにも増して優しくしてもらっちゃった。
 小さな島にいるとさ、なんだかそんなふうに、忘れてたこと、いろいろ思い出すんだ。
 ところで、最近はどう? 僕が休んでる間に何か変わったことあったかな? 二週間も休んでるとさ、なんだか竜宮城に来てるみたいな気になっちゃってさ、帰国したら白髪のおじいさんになっちゃってるんじゃないかって、そんな変な気分になるんだよ。
 絵葉書を送ろうと思ってね。この手紙、最初は絵葉書に書いてたんだけど、書いてるうちになんだか長くなっちゃって、書ききれないから封書にしたんだ。書き損じの絵葉書も、せっかくだから同封しとくね。絵葉書の写真に写ってるとおりの天国だよ、ここは。いつかまた野村くんと一緒に来たいな。
 それじゃあね。お土産にフレンチサイズのコンドームを一ダース買ってくよ。野村くんの、なかなかでかいからね。しっかり被せて、くれぐれも子供なんて作らないようにね!

 読み返す気にもなれない能天気な手紙だった、同封されていた絵葉書には、トロピカルグリーンの海と、白い砂浜と、青い空を飛ぶオレンジ色のプロペラ機が写っていた、裏を返すと手紙の文面が、途中まで書かれて投げ出されていた。自由なやつだな、と呆れながらも頼もしく感じた。
 こちらの近況? 僕が経理部に行くことになった、それから青野さん、根岸くんがアホ野呼ばわりする先輩社員が、架空の領収書で編集費を着服していて首になった、妻の千佳子の生理が少し遅れている、ニュースと呼べるのはそれくらいかな、根岸くんが喜びそうなのは二つ目のニュースだ、ざまあみろ、と手を叩いて喜ぶ彼の様子が目に浮かぶ。ともあれ、無事に帰って来いよ、おまえがいないと淋しいよ、また一緒に飯でも食おう、モスコミュールとビールで乾杯しよう。
 けれども、彼は帰ってこなかった。

 十六

 オレンジ色のプロペラ機に乗っていた根岸くんが、最期に見たものはなんだったのだろう。青い空かな、青い海かな、それとも百合子さんの瞳かな。ともあれ、根岸くんは還ってしまった、空の向こうか、海の向こうか、母なる自然の懐に。
 だから驚いた、とんでもなく驚いた、根岸くんが訪ねてきたことに。
 妻が寝たあと、独りで起きていて、ソファに座ってブランデーを飲んでいた、そしたら誰かがドアをノックした、リビングのドアをノックした。チカだと思った、どうぞ、と応えた、そしたら根岸くんが入ってきた、いつものチノパン姿だった。やあやあ、野村くん、と砕けた調子で彼は言った。僕、死んじゃった、と続けた。
 曖昧に頷いた。他にどんな応え方ができるだろう?
 幽霊じゃないよ、って言いたいとこだけど、よくわかんない、あるいは幽霊なのかもしんない、でも、僕には君が見えてるし、君には僕が見えてるみたいだ、だからね、と言いながら彼はこちらにやってきて、ふわりとソファに腰を下ろした。だからそのブランデー、僕にも少し分けてくれない?
 向かいに座った根岸くんをじっくり眺めた、眺めたところで彼が消えるわけでもない、彼はにこにこ笑いながら僕を見ていた。
 ソファを立ってチェストまで歩き、グラスを一つ持ってまたソファに戻った。グラスに氷を入れる、ブランデーの瓶を傾ける、とくとくという音がして、きしきしという音がした、リアルな音だった、夢を見ているわけじゃない。
 グラスを手にして根岸くんは、軽く目を細めてから一口飲んだ、そして言った。モスコミュール、ないかな?
 生憎なかった、他の甘いアルコールもなかった。
 じゃあいいや、と言って根岸くんはグラスを押しやった、根岸くんらしい仕草だった。
 何から話そうか、と彼は言った。あるいは何も聞きたくないかな?
 なんと応えていいのかわからずに僕は、ただ、まばたきを繰り返した。
 僕ね、と彼は、僕の目を真っ直ぐに見つめながら言った、彼の瞳の中に僕がいた。今度生まれてくるときはね、できたら愛されたいかも。
 愛されたい?
 それから、誰かを愛したい。
 愛したい……。
 言いたかったことはそれだけだよ、要約するとそれだけなんだ、と言って彼は立ち上がった、ドアに向かって歩む、猫背が語った。ご飯一緒にしてくれてありがとう、奥さんと末長く幸せにね。
 ドアが開き、ドアが閉まった。
 モスコミュールが作れなかったことをとても悔しく思った。
 ドアがまた開いた、入ってきたのは、オーバーサイズのティーシャツの上にカーディガンを羽織った妻だった。ちょっといいかしら、と言いながら妻は、こちらに歩み寄りソファに座った。
「あ、お客様?」と、根岸くんのグラスを見て妻が尋ねた。
 根岸くんが来てたんだ、と言うと、妻は、そう、と言って頬笑み、肩の力を抜いた。
 潮騒の音が聞こえたような気がした、音の合間から転がり出てくるようにして言葉が響いた。「赤ちゃん、できたみたい」
 赤ちゃん?
 深く頷いてから妻は僕の目を見た、さっき根岸くんがそうしたみたいに真っ直ぐに見た、妻の瞳の中にやはり僕がいた。
 そうか、そうか、そうだったのか、赤ちゃんか、赤ちゃんができてたのか、そうだったのか。
「嬉しい?」と妻が、確認するような調子で尋ねた。
 そんな質問に応える必要はない、と思った、応える代わりに力強く決意した。僕らは、その子を、沢山たくさん愛してゆこう、優しくやさしく愛してゆこう、力いっぱい愛してゆこう。
 翌朝、春一番が吹いた。春だよ、と僕は、芽吹いたばかりの根岸くんに呼び掛けた。

根岸くん 九~十六 完結

執筆の狙い

作者 はるか
106.154.131.172

 前回の投稿と前半部分がだぶりますが、だいぶん書きかえたので、九~十六をアップします。完結しています。十四、十五、十六が新原稿です。今の私の精一杯です。一生懸命書きました。ご批評いただけると嬉しいです。

コメント

u
183.176.70.188

はるかさま。読みました。
感想――ナンダカナー? これでエンドでしょ? 腰砕け! 期待していただけにww。

作者様3回に分けて掲載です。それで「狙い」は(続けて読めますか?)でした。
1,2回掲載分よんで是非読みたいと思ったんよ。でもこの3回目で終りかい! 騙されたwwww。
はるかさま。今回は所謂(ダイジェスト版)ですよね?
伏線ほとんど回収してないし、安易に根岸君殺してジエンドwwwww。

本作この尺で収斂することのできるエンタメじゃない。
じゃーなんであげたんだよーと、あたしとしては面白かったので、なんなんだよー!ミタイナ。消化不良。

マアどういう形であげようと作者様の自由ではあると思います。以上はあたしのぐちでございます。御健筆を。

はるか
106.154.131.172

 uさま

 ありがとうございました。がっかりさせてしまってすみませんでした。
 これは、ダイジェスト版ではありません、全力投球です、伏線?もほぼ回収できたつもりでおりました。
 最後のとこ、『The Rose』を、Bette Midlerの『The Rose』を聴きながら書きました。
 根岸くんに還ってほしくなかった、でも、どうしても根岸くん、還らざるを得ない流れになってしまって、それは運命のようなもので抗いがたく、ただ彼がいたことも、彼が去ったことも、野村くんや千佳子には半端なく大きなことだったし、そんな野村くんや千佳子が、実にそんな野村くんや千佳子でありえたことこそが、ヨッコを変えた一端にもなっているわけで、だからこそ、恰もそのお礼であるかのように、ヨッコの父かもしれない深い目をした男から受け継いだ、ともとれる侠気を、これからも野村くんはたぎらせて、かつて夢の荒野を自由にさまよった日々よりも、ある意味でよりいっそう自由な、普通で平凡な日々を、確かな愛を携えて生きてゆくのだろうと思われます。深い目をした男は、実に父性の象徴であったのだなと、中性的でふわふわしてた根岸くんはもしかしたら天使であったのかなと、そんなふうに書き終わってから私はいろいろ思います。根岸くんは、根岸くんの役割をまっとうして、天国に帰ったんじゃないかと思うのです、座頭鯨のジャンプみたいな、もがきと抗いの日々を終えて彼は、母なる自然の胸に、本当の母性のもとに帰れたんじゃないかな、と、読み手の一員でもあるこの書き手はそんなふうに思っています。愛もないのになぜ作った? と、まるでレプリカントのような恨みを抱えながら生きる根岸くん、母親に愛されなかった彼が、女性を愛せるはずもなく、彼は母性を求めながら、歳上の商社ウーマン、人の母親であるところの保母さん、メンタルを支えてくれる受容的な精神科医、らと性的な関係を続けながら、同時に結婚を蔑み、家庭を憎み、彼女たちの女性性に容赦のない攻撃を仕掛け、冷たい仕打ちを食らわせ続けるのでありました。そんな彼は、自分と同じように、こくりと頷くタイプの、すなわち親の愛に飢えたタイプのヨッコに惹かれてゆきます、のっぴきならなく惹かれてゆきます、それは愛ではありません、根岸くんにとってヨッコは、同志であり、ともに親に捨てられた、血の繋がらない妹であったりするのです、運命共同体、自分の存在を担保するもの、だから彼は生存のすべてを懸けてヨッコに、時代遅れの恋文を、マテリアルな重さのある恋文を送り続けるのですが、拒否されてメンタルを失調してしまうのでした。そんな根岸くんに、長生きの星を見せた千佳子は、心の奥深いところで、あるいは気がついていたのかもしれません、根岸くんの運命に。殺人事件の謎解きにはうってつけの舞台として、誰も死んでいないのに冬の海が用意されたのは、やはり、根岸くんの運命が早くから定められてしまっていたからに違いない、と、今となっては思います。カマキリたちとのトラブル、という小さな波は、編集者の立場を奪われるという、より大きな波を際立たせるための前座に過ぎなかったのですね、自由は、野村くんの侠気ゆえに制限され、彼は普通のサラリーマンとして、父親になるのでした、愛を携えた父親に。生まれ変わったら今度は愛されたい、と、幽霊ないしは野村くんの幻覚であるところの根岸くんは吐露しました、結局、そういうことなんですね。悟さん、かと思われる男から引き継いだ侠気を、今後も堅持しながら野村くんは、生まれてくる子供を、今生では愛されなかった根岸くんの分まで、たっぷり、しっかり愛し抜こう、と決意するのでありました。命は、命、命、命、愛は、愛、愛、愛とリレーされてゆく、根岸くんがいたこと、根岸くんが野村くんたちに関わったこと、は、決して無駄ではありません、そして、根岸くんの人生に意味があったのだから、だからたぶん、根岸くんを産んだ母親もまた、神に祝福されて存在したのでありましょう、だなんてことを書き終わってから痛切に感じました。
 Bette Midlerの『The Rose』を聴きながら締め括った愛の物語は、だからあのように締め括られて、しかり、な物語であったように思うのです。
 と、読み手としての書き手は、そう感じているのですが、書き手以外の読み手の方の感想は大変気になります、書いてくださってありがとうございました、uさんにとっては拍子抜けのエンディングであったこと、肝に命じて、また一からやり直したいと思います。とはいえ、今作、駄作といえどもこれで完結であります。また、違う物語を書きますので、そちらをアップしましたあかつきには、また読んでいただけると嬉しく思います。

『』
150.31.134.121

はるか様

拙作にご感想をいただいたので、ちょっぴりお邪魔をいたします。

鍛練場に投稿されている三作、すべて目を通させていただきました。
急いだので、読み落としがあればソーリー。

とにかく、全編を読みながら私が思いましたのは、根岸くんは野村さんのことが好きなのねー。

え? ゲイ脳かな? とも思いましたが、そう思えて仕方がありません。

根岸くんが通ってきた女性方も、最後に亡くなってしまった(?)ことも、すべてはそのことに集約されるような気がして……。

ええ、今更のような、頓珍漢のようなことを書いてしましましたが、全編楽しませていただきました!

最後に一言、野村さん、三作とも性格違うやん!
て、気のせいかなあ?
私は、二作目派です。はい。

柴咲
123.225.214.1

完結篇のみ読ませていただきました。
 
たぶんこういうのが小説の醍醐味なのでは、と感じさせられました。
根岸くんにはさほど共感も覚えず、ラスト近くの場面にもリアリティーが感じられないのに、知らないうちに物語世界へどっぷり連れられてしまいました。もちろん一作しか読んでいないので的外れな部分があるかもしれませんが、その要因は作者の力量だと思わされます。
 
短文主体の作風ながら(読点はすべて句点と解釈)じつに味わい深いです。一般的に短文を多用するのはスリリングな場面などでテンポアップさせて、読み手の感情を高ぶらせるためだと思うんです。でも作者は、ほとんど全文で短文を使用しているにもかかわらず、それを感じさせません。普通なら読み疲れて途中で投げすててしまうはずなのに、それもない。
 
話法も地の文に沈めて工夫しているし、カメラ位置も近すぎず絶妙な位置。たぶんそれは主人公が主人公ではなく、第三者に徹しているからなのかなと思ったりもします。
でもそれが、不思議と他のキャラとの相性を心地よくさせている要因かもしれません。特にお気に入りのキャラは10の妻。この場面は心を持っていかれました。12の根岸くんもいいかな。
 
でも根岸くんは筆力に騙されているだけで、ただの女たらしに思えて興醒めするんです。リアルだったら嫌いなタイプかもしれません。いくら譲歩しても天使とは思えないでしょう。ここは無理があるかもしれません。もちろん1作目から読んでいないせいもあると思いますが、妻ほど魅力は感じませんでした。
 
賛否両論があるみたいですが、私の読後感は不思議な味わい。いい意味で。

はるか
106.154.130.64

『』さま

 ありがとうございます。

>根岸くんは野村さんのことが好きなのねー。え? ゲイ脳かな?

 はい、根岸くんは野村くんに、単なる友情の枠を越えた感情を持っていると思います。

>根岸くんが通ってきた女性方も、最後に亡くなってしまった(?)ことも、すべてはそのことに集約されるような気がして……。

 そのこと、すなわちゲイ的であること、ですね。根岸くんは、母親に関連した心の傷を持っていて女性を愛せません、だから、エンジェルたちを、ある意味で、弄んでいる、利用している、傷つけている気がします、ご指摘の通りですね。彼が若くして還ってしまったこと、希にしか見られない星のような彼、レプリカントみたいな彼は、人間の世界を生きづらかったのかもしれませんね、空に帰りたいと、ジャンプしては体をひねって、また落ちて、もがきにもがいていたんだと思います、稀少種は生き延びづらいのかもしれませんね、ご指摘のとおりかと思われます。

>野村さん、三作とも性格違うやん!

 びっくりしました、野村くんのことは、「自由な枠の中ゆえに、へらちゃら生きているとも思われかねない、中性的な外見をした、フェミニンな雰囲気も漂う、軽い男でありながら、内実は骨っぽく、侠気があって、非常に誠実な男性」として描いたつもりだったのですが、その多面性、ちゃんと描けていなかったのかもしれませんね。歌舞伎町でカマキリたちに突っかかったエピソード、入院してしまった友人のためにヨッコを拉致しに急行したりするエピソード、カマキリたちに痛めつけられながらも根岸くんの情報は明かさないで黙秘するエピソード、後輩の罪を背負って経理部への異動を引き受けるエピソード、序盤から終盤に至るまで、野村くんの侠気を、そうです、軽さの中に秘められた侠気を表すエピソードを重ねたつもりだったので、序盤、中盤、終盤で、>野村さん、性格違うやん! と思われてしまったことは大変ショックでした。ヘッセの『知と愛』を思い出しました。ゴルトムントは、甘い言葉で女性を口説くプレイボーイであるのだけれど、他方、ペストにかかった友人を冷たく置き去りにする一面を別の章で見せたり、私も、彼の、その立体的な性格に、いくらか混乱した記憶があります。あと、村上春樹の描く「僕」ですけど、彼はとてもナイーブで誠実な人でありながら、なぜか人妻と簡単にベッドインしちゃう側面も併せ持っている、つまり多面性を有しているわけですが……、はい、そうですね、わかりました、私はヘッセでも春樹でもないってことです、ドストエフスキーでもないんでアリョーシャが描けません、まだまだなんだなってわかりました、人間を書いているつもりになっていて恥ずかしいです、善人の中の悪を、悪人の中の善を、軽さの内の重さを、重さの内の軽さを、立体的に描けるよう努力してゆこうと思います、貴重なご指摘をありがとうございました。

はるか
106.154.130.64

 柴咲さま

 ありがとうございます。

>根岸くんにはさほど共感も覚えず

 はい、そうですね、共感、読み手による感情移入、これをキャラたちが拒んじゃってるあたりが、拙作のいちばんの弱点であるかと書き手も思います。根岸くんに限らず、読み手は、野村くんにも、ヨッコにも、悟さんにも、感情移入しづらないのではないでしょうか、いくらか気持ちを重ねやすいのはチカだけ、かと思われます。

>ラスト近くの場面にもリアリティーが感じられない

 どの場面のことだろう? 根岸くんの場面だとすると、天国みたいな小島で、擬似的な母性と過ごした最後の休暇を綴る手紙の内容でしょうか、それとも、野村くんがカマキリたちに責められているシーンでしょうか、後者ならまだしも、前者だと致命的ですね、筆力不足を悲しく思います。

>短文主体の作風ながら(読点はすべて句点と解釈)

 ご指摘のとおりです。読点は、句点の代用に過ぎません、スピーディーに読んでいただきたく、そんなふうにしてみました、短文は稚拙だっていうブンガク者の目をごまかすための逃げというか、折衷策でもあるような、こういうのって、既存の作家さんでされている方、いらっしゃるのでしょうか、私は知らないのですが、今作はそんなふうにしてみました、まだ実験途上です、返信も、だから、こんなふうな書き方で練習を兼ねてたりします、失礼しております。

>一般的に短文を多用するのはスリリングな場面などでテンポアップさせて、読み手の感情を高ぶらせるためだと思うんです。でも作者は、ほとんど全文で短文を使用しているにもかかわらず、それを感じさせません。普通なら読み疲れて途中で投げすててしまうはずなのに、それもない。

 テンポアップ、そうですね、全文にわたって、先を急がせるような書き方をしています、私は、この鍛練場に来てまだ三ヶ月くらいなのですが、二作品を、この書き方で試させていただいています。前作でなんて、スリリングな場面ではさらなる短文になって、出産直前の妊婦さんのような呼吸になっちゃってました、しばらくこの書き方を尖らせてゆきたい所存です。
 
>話法も地の文に沈めて工夫

 工夫、というほど意識化していないのですが、ここを好意的に捉えていただいて嬉しいです。翻訳小説ふう、という謗りを受けかねない、〈「」と言った。「」〉的サンドイッチとあいまって、「」で括らない台詞がマイナス評価に晒されるかな、と恐れていたりしたので安堵しました。

>カメラ位置も近すぎず絶妙な位置。たぶんそれは主人公が主人公ではなく、第三者に徹しているからなのかな

 慧眼、により見据えられた心地です。そうです、前作も今作も一人称視点なのですが、視点人物の自我を抑えて、三人称視点の描き方に寄せていたりします、そうすることで、語り手の自我ではなく、語り手が他の登場人物の自我との関係性を生きることで表れる模様のほうを強く打ち出したい、と考えました。ただ、欠点もあって、というか私の書き方が拙いのでしょうけれど、読み手の感情移入を拒む結果に結び付いたりもしそうで、共感できる人物が一人もいなかったよ! ってことになりかねないんで、チカを、まあ、あんなふうに書いていたりします、読み手がいちばん共感できるのはチカなんじゃないかな、って書きながら感じていました。

>根岸くんは筆力に騙されているだけで、ただの女たらしに思えて興醒めするんです。リアルだったら嫌いなタイプかもしれません。いくら譲歩しても天使とは思えないでしょう。ここは無理があるかもしれません。

 根岸くん、人間だと思ったらだめです、と思います、そんなふうに書いちゃってたのかもしれないけれど、根岸くんという現象は、単なる女ったらしじゃないし、いえ、すみません、やめましょう、そこは書き手が語る部分ではないですね、根岸くんという現象に、もう少し枚数を割くべきだったかもしれません、実は前回、中弛みをご指摘してくださった方のコメントに触れて、書き終わっていた章をばっさりカットしたり、尺を詰める方向で展開を修正したりしていたのですが、設定を筋が支えきれない感じがしてそうしたのですが、あともう二十枚くらいは遣うべきだったかもしれません。ぜんぶで百五十枚以内、くらいのイメージで書いて、結果現状百三十枚くらいだと思うので、あと二十枚遣って、根岸くんのエピソードをもう少し追加してみます、ご指摘ありがとうございます。

>妻ほど魅力は感じませんでした。

 読み手に愛されないキャラは×ですね。野村くんも、根岸くんも、ギョーカイの環境も、愛に対してagainstだと思うので、その点で拙作は、のっけから失敗しているのかもしれません。

>私の読後感は不思議な味わい。いい意味で。

 ありがとうございます、ギャップや、逆説や、異種混合や、図式化しづらいことを書いているように思うので、それらのエンタングルメントが上手に書けてないと、配置がめちゃくちゃなハリボテにしかならないチャレンジであったように思います、不思議な味わい、というあたりを死守できて、いくらか胸を撫で下ろしています。

 非常にためになるご指摘をありがとうございました。

『』
49.104.31.119

はるか様

再訪です。丁寧なお返事をありがとうございました。

>「自由な枠の中ゆえに、へらちゃら生きているとも思われかねない、中性的な外見をした、フェミニンな雰囲気も漂う、軽い男でありながら、内実は骨っぽく、侠気があって、非常に誠実な男性」

私はずっと、野村さんの根岸くんに対する感覚を不満に思っていたのです。その事ばかりに目が行って、野村さんのそういう性格を理解出来ずにいたのです。

言われてみると、野村さんは『性格』ではなく、『機嫌』が違ったのかも……。
うん。我ながら鬱陶しいですね。

野村さんは根岸さんをどう思われてたのかなぁ。
あまり、いい印象では無かったのかなぁ。
そこのところが、人間の多面性なのでしょうか。

ラピス
49.106.211.177

気になったところを少し。
根岸くんを描いてるようで、実は野村くんが主人公なのですね。

>「自由な枠の中ゆえに、へらちゃら生きているとも思われかねない、中性的な外見をした、フェミニンな雰囲気も漂う、軽い男でありながら、内実は骨っぽく、侠気があって、非常に誠実な男性」

が野村くんとの事ですが、ヘタレにしか見えませんでした。汗。
暴力男に絡まれても目を瞑ってるだけで、根岸くんや悟に助けられてるし。
身勝手な新人くんを庇って飛ばされてるのも、自己満足に見えて。。むしろ、新人くんを助長させて、為にならんなと苛立ちました。

ヨッコとの一件も何だか立ち消えみたいになり、説明でうやむやにされた感じ。悟自体がゲストキャラ的な立ち位置にいるので、出なくてもいいと思ってしまった。
枚数にしては登場人物が多いのですよね。

死にオチや夢オチは安置になるので、なるだけ避けた方がいいと言われてます。
でも、根岸くんは最期まで不思議なキャラで、味わい深かったです。

人物を個性的に描くのが上手い。野村くんの奥さんのように普通の人を描くのも上手い。参考になりました。

はるか
106.154.131.159

『』さま

 再び、ありがとうございます。

>ずっと、野村さんの根岸くんに対する感覚を不満に思っていたのです。

 ご指摘の意味を考えてみました。野村くんが、根岸くんの性生活なんかを許容しているあたりに、モラルの失墜を感じた、ということでありましょうか?
 だとしたら、そうですね、私も、根岸くんの交遊関係を不快に思いますので、野村くんも、いくらかは呆れていたのだろうと推測します、でも、受け入れている、友達として、おまえ、そんなことやめろよ、とは言わない。なぜか? ひとつには、ギョーカイに吹く部分社会の風ゆえに、であり、いまひとつには、根岸くんの中にあるピュアネスみたいなものを野村くんが評価している、ないしは愛しているからかと思われます。そんな野村くんの在り方が、読み手さんには、不満に思われること、理解できます、だからまあ、野村くん、運命的に、楽園追放の憂き目に遭ったのかもしれませんね、でもむしろそれでよかったのかも、野村くんは、これから、たぶん、まっとうな父親になる道を歩み始めるのではないでしょうか、新しくやってきた春に期待したいところですね。

>言われてみると、野村さんは『性格』ではなく、『機嫌』が違ったのかも……。

 機嫌が違った、なるほどです、そうですね、野村くんは、気分屋ないしはお天気屋あるいは気まぐれなのかもしれませんね、軽薄さと深刻さの間を行ったり来たりしているのかもしれません、これは野村くんの特殊性かもしれませんね、根岸くんという特殊を、野村くんという特殊が照らしているあたりに、かなりの無理があるのかもしれません、そこにまたヨッコの特殊や、悟さんの特殊が絡んでくるので、チカの肩にかかる負担は相当なものだったわけですね、ということは、読者さんにも、そこらへんを担がせてしまう話だってことになるわけで、鬱陶しいのは拙作のほうである
かと思われます。

>野村さんは根岸さんをどう思われてたのかなぁ。あまり、いい印象では無かったのかなぁ。

 まず、まちがいなく、好きだったんじゃないかと思います。ほっとけない、という気持ちも強かったんじゃないでしょうか。マングース、とか形容してますから、毒あるコブラも噛み殺すだけの、外見に似合わない攻撃性を認知していたのだろうと思います、が、しかし、一方で、マングースに毒はない、と、彼を、かばってもいます。根岸くんに対する、父性、みたいなものを、かねてからより野村くんは持てていたのかもしれません。たぶん、変わり者が跋扈するギョーカイ内でも、ひときわ目立った変わり者コンビだったんでしょうね、そんな在り方を書き手は、愛しく思っていたりします、なんか、きゅんとくるんです、そのあたりを読み手さんとシェアできなかったのだとしたら、それはひとえに私の力不足であるかと思われます。

 端的な、気づかせていただけるコメントをありがとうございました。

はるか
106.154.131.159

 ラピスさま

 ありがとうございます。

 前回、ラピスさんにご指摘を受けた、中弛み、を改善するため、旧九をまるごとカットしました、それと、もう少し長い話になり、かつ根岸くんも死なない、という別の選択肢を用意してもいたのですが、前回の、ラピスさんからのご指摘により気づかされて、話を一気に畳むほうを選択して、今回のようになりました、書き手としては、これでよかったと、根岸くんは還らざるを得ないし、尺はこれ以上伸ばせない、と思っていたりします、ので、前回のご指摘に感謝しています。

>根岸くんを描いてるようで、実は野村くんが主人公なのですね。

『ドラえもん』の主人公がのび太くんであるように、『根岸くん』の主人公は、たぶん野村くんなんだと思います。

>野村くん、ヘタレにしか見えませんでした。汗。暴力男に絡まれても目を瞑ってるだけで、根岸くんや悟に助けられてるし。

 そうですね、ヘタレかもしれませんね、書き手はそう思わないのですが、なぜなら、丸顔さんが絡まれてるとき、注意をしたし、指をつかまれながら黙秘するだなんて、やっぱり侠っぽいと感じています、チカもそう感じているようです、だから、ラピスさんが、彼を、ヘタレだと感じることを肯定するとともに、私は、彼を、オトコと感得したいと思います、人に対する印象は人それぞれですね、野村くんがヘタレであったとしても、この物語にマイナスな風は吹かないと思いますが。

>身勝手な新人くんを庇って飛ばされてるのも、自己満足に見えて。

 かもしれませんね、でも自己満足のために経理に飛ばされる編集者なんているだろうか、とも思います、とはいえ、自己満足のために楽園を去るだなんて、それはそれでカッコいいかも、と、私なんて思ってしまうのですが人物評はさまざまですね。

>新人くんを助長させて、為にならんなと苛立ちました。

 苛立つほどにまで野村くんを感じてくださってありがとうございます、でも懲戒免職ですからね、助長しないように、もなにも、新人くんに帰責させたら新人くんはジ・エンドですから、この場面で新人くんを守らない旦那さんとか、私がチカだったら嫌だなあ。

>ヨッコとの一件も何だか立ち消えみたいになり、説明でうやむやにされた感じ。

 説明? 前回から一転して酷評ですね、ともあれ、どんな説明で……、あ、あれですか、鮪料理屋でチカが語った悟さん像ですか、前回、夜の雨さんに指摘を受けて、あの部分を後から付け足したのですが、ちょっと説明くさくなっちゃったでしょうか、私の書き方がまずかったんでしょうね、自分としては、夜の雨さんから頂戴した課題をクリアできた気がしていたので、少し凹みました。

>悟自体がゲストキャラ的な立ち位置にいるので、出なくてもいいと思ってしまった。

 これ、悟が、ですか? 残されたサルトルの言葉に背中を押されて楽園を失い、枠の中で普通を生きることにした野村くんを、そのような野村くんにあらしめる役どころをしていた悟さんが不要ではないか、ということですか?
 そうかもしれませんね、とは、書き手としてはとても言えないのですが、読み手がそう捉えるならば、不要、なのかもしれませんね、要は、ギョーカイくんの恋物語、みたいな直線をシンプルに書いたほうが「わかりやすくて」よい、ということかもしれませんね、わかりにくいことを書くには私の筆力が足りないのかもしれません、でも今後筆力をつけて、ラピスさんにもわかっていただけるような話を書きたいと思います、話を単純化はさせないで。

>枚数にしては登場人物が多いのですよね。

 そう思います。

>死にオチや夢オチは安置になるので、なるだけ避けた方がいいと言われてます。

 存じています。ただ、あれを、シニオチと捉える、か、は、微妙かもしれない、と、思いながら書きました、でも、読み手がシニオチと捉えるならばシニオチなのでしょう、安易に選択したエンディングではないのですが。

 ともあれ、忌憚のないご指摘をありがとうございます、筆力の未熟さをひしひしと感じました、一からやり直したいと思います。

はるか
106.154.130.84

 コメントをくださった方々さま

 ありがとうございます。

 失敗の原因が意識化できました、主人公?を追い詰め足りなかったんだと思いました。前作では比佐子を、わりとどんどん追い詰めていきましたので、比佐子の能天気な、いくらか軽めのキャラが深刻な物語の中を進んで行っても、むしろ応援していただけたように思うのですが、今回は、視点人物の野村くんや、現象としての根岸くんが、あまりに軽いし、それでいてたいして追い詰められていないので、応援されづらいのかもしれません、きっとそうですね、根岸くんが実はすでにめちゃめちゃ追い詰められてたんだってことは、ラストの手紙における語りに至るまではっきり明かされませんし、野村くんは、いわば傍観者の立ち位置にいるので、カマキリに絡まれたりだとか、本筋の外ではいくらか嫌な目に遭ってるのだけれど、経理への人事異動含めて、どこか他人事というか、余裕をかましすぎちゃってますよね、視点に徹するよう、野村くんには気持ちを沈めてもらってた部分があるのですが、これがよくなかった、視点たる野村くんにも、野村くんが見詰める根岸くんにも、読者は、どちらかというと、苛立ちに似た不快感だけを感じてしまって、好意的な感情移入ができず、視点たる野村くんを見詰めるチカの視点にむしろ同化するんだとわかりました、これってたぶん、ひとえに、書き手の視点がチカに重なってるからかと思われます、わかりました、チカの視点で、根岸くんを見詰めている野村くんを書けばよかった、その方が素直に、チカの物語にできたのかもしれません、そうですね、これ、野村くんの成長物語になれてないのかもしれませんね、単なる野村くんの変節、ってこと、終始受け身だった野村くんの川流れ、に過ぎないものになっちゃってるのかもしれませんね、読み手から、ずいぶんと離れた遠くにいるんだと思います、野村くんも、根岸くんも、、、。
 って、でも、それがよくないのか、っていうと、ムルソーの例なんかもありますから、異邦人を描く話に、意味がないわけでもない、ような、ただ単に私がカミュじゃないだけで、筆力が足りないだけで、もっと筆力をつければ、書けるのかもしれない、感情移入を拒む異邦人の模様を。
 根岸くんを見詰める野村くんを見詰めるチカの物語、として書き直してみようか、とも思いました、でもそれだと、普通になっちゃうんですよね、無意識の意識化を書きたいので、のっけから普通なチカを視点にしちゃうと、気付きがなくなってしまう、やはり、野村くんの無意識が浮上してくるさまを、外的な、運命みたいなものを視点にして描くべき、ってことは、いっそシンプルに三人称視点に、いえ、それも普通になっちゃいますよね、ワガココロがわからないワレを描きたいのです、やはり、このまま野村くんを視点に据えて、その上で、比佐子に対して生じた下向きの螺旋みたいなのを、野村くんにも生じさせて、野村くんをじわじわ追い詰める、ってあたりが、とるべき選択肢なのかも、だなんて、暫定的に思いつつ、反省しつつ、まだちょっとよくわかりません。チカ視点、三人称視点、これはやめておきましょう、普通に堕したら書く意味ないですからね、だなんて、堂々巡りな独り言を呟いてしまいました、失礼いたしました。

ラピス
49.106.211.177

再訪です。どうも感想が下手でした。何か責任を感じて出て来ました。

小説の企みも、主要人物の気持ちも、読み手よりも作者が熟知しています。
どのような作品かは、お互いに素人ですので、解釈が違います。
他の方はともかく、私の感想は参考程度にして、自分の道を邁進して下さい。汗。
杞憂でしたら、すみません。

はるか
106.154.130.25

 ラピスさま

 再び、ありがとうございます、お気遣いありがとうございます。

>小説の企みも、主要人物の気持ちも、読み手よりも作者が熟知しています。どのような作品かは、お互いに素人ですので、解釈が違います。

 いろんな解釈に照らしていただくための感想欄だと思うので、読み手が感じられたこと、とても参考になります、私の解釈と違うからこそ、価値があるわけです。でも、私は、私が書いたものについて、私の「読み方」を語ります、そんなふうな返信をしたためます、互いのためにも、そのようにします、読み手さんが、いささか白けてしまうようなことがあっても、自作と自作内のキャラクターについて、臆面もなく語ってしまうのでありました。
 自作の解説、ご法度、とまでは言われないだろうけれども、美しいことではない、と私も思います。uさんへの返信で、拙作の解説めいたものをしてしまいました。根岸くんを安易に殺した、という部分が深く刺さったからであります。が、正確にいうと、あれは解説ではなくて、感想、であります、読み手としての書き手が、書き上がったものを読んで素直に感じたこと、発見したことを書いたのでありました、あるいは、それを解説、と呼ぶのかもしれませんが。物語の自律性、ということを考えますと、我が子も我にはあらず、他者でありますから、書かれた物語に対して客観的な感想を抱くことこれ必定であるかと思われるのであります。が、しかしそれをわざわざ開示するべきかどうかということは難しい判断であり、開示したけりゃ勝手にすればよいわけではありますけれども、いかんせんそれは、先に書きましたように、美しいことではないと私も感じています。なのになぜ書いたのか、今後も書くのか、と問われれば、この場の特殊性ゆえに、と応えるしかありません。鍛練場の目的は、文字どおり鍛練にあるのでしょうから、互いの鍛練に資する言動をとるべきでありましょう。とするならば、書き手、読み手、の立場を問わず、己に見えた模様を、相互のためにディスクライブすることこそ誠意であって、言葉を尽くすことこそが、この場における礼儀であるかと思われるのであります。好評に対しても、酷評に対しても、言葉を尽くして向かい合うことこそが、感想をつけてくださった方に対する礼儀であると私には思われます。書かれた作品は、作品が語ることによってのみ語られるべきであり、作者は一切の弁明をいたしません、というスタンスは、この鍛練場に限っていうなら、自分本意なスタンスであるように私には感じられます。私たちは村上春樹じゃないわけですから。たかだか素人の書き散らかしたテキストであります、一生懸命書いたものであるのは当たり前(拙作を、私も、一生懸命書きました、アップされたものを読み返して、読点がだぶっている箇所を見つけてしまったりもしているので、完璧な推敲をなしえたものとも断言はできませんが)だとしても、習作であるに過ぎません、そのようなものをわざわざアップして、ひとさまに感想をいただくわけですから、そのテキストに関する説明責任は、政策の説明責任が与党にあるように、当たり前に書き手にあるものだ、と私には思われます。弁明、だとか、言い訳、だとか、そういう考え方がおかしいのであって、アップされたテキストを、みんなでよってたかって吟味し、分析し、解体したり、他と混ぜ合わせたり、ときに参考にしたり、はたまたケチをつけたり、影響されたり影響させたりするべきなのではないか、と私は思うのであります、そこにこそ互いの成長があるわけで、それをしなかったら、単なる、作家になりきりごっこのママゴト道場に過ぎないじゃありませんか、それでいいのだ、作家ごっこをしたいのだ、と考える向きもあるかもしれませんね、だとしたらそれも否定はしませんけれども、私は、この場を、互いの成長のために恥を晒し合う場である、というふうに捉えているわけです、そしてそれ、あながち間違っているとも思えません。と、いうような考え方、感じ方に依って私は、私の書いたものに対して、半ば以上は客観的に、物語りたい、と思っています。そして、拙作について物語ってくださったご感想を大切にして、政治家風にいうなら、真摯に受け止めて、我が筆の成長の糧とさせていただく所存であります。いただいた感想に対する返信もまた、相互の鍛練に資するものとなるよう、誠意をこめてしたためたいと思っています、それから他の書き手の皆さまの作品にも、拝読した以上は、言葉を尽くして感想を述べさせていただきたいと思っています、それが、ある種の読み間違いであったとしても。と、まあ以上は、参加姿勢というか、スタンスというか、作品に関係のない、私個人の「考えについての考え」でありますから、無駄話だったかもしれません。ともあれ、私は、この場においては、アップしたテキストについて、口をつぐむことも、椅子を回すこともいたしませんので、疑問、質問、オブジェクション、どんなストロークに対しましても、きちんと向き合う所存であります。しょせんは、まだ、いまのところ、拙い作品でありましょうが、だからこそ、語りますよ、自分が書いたテキストについても。その語りに対する、異論、反論、ブーイング、これもまた歓迎であります。どんなところが、つまらないか、どんなところが、至らないか、どんなところが、鼻につくか、どんな主観的な感想でも構わないので、ちょうだいできれば嬉しく思うし、参考にして、いいかたちで消化吸収させていただくつもりです。だなんて、私は思う、という表明でありました、みんながそうあるべき、という主張ではないです、あなたはあなたらしく、いままでどおりの参加姿勢であって問題ないと思います、と、すべてのあなたにお伝えして、これこそ自己弁護であるところの筆を置きたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

 あ、つづきます。

はるか
106.154.130.25

 ラピスさま

 つづきました。

 と、締めておいてもうひとつ、締めてから思い出したので、これも小林よしのりさんふうにいうところのゴーマン、かましてみようかな、と思って書き足します。書き手に感じられる拙作は、多層的な物語でありまして、それはいくつかのテーマが重層的に入り交じっている(たいていの物語はそうですよね)、ということのみならず、意識の構造において階層をなした物語であるなと感じています、地上三階、地下二階くらいの。地上にあるテーマは、いくらか階層的ではあるものの、これはまあ読んでいただけたら概ねわかるだろうな、と思うようなテーマであるわけですけれども、テーマというか、ストーリーというか、構成というか。けれども、地下にあるテーマというか、模様については、サブリミナルに伝わればよい、と感じている種類のものであって、先の、uさんへの返信で書かせていただいことは、もしかしたら、地下一階のことだったかもしれず、そのような表層的にはわかりづらいことを書き手に語られちゃうと、読み手のリテラシーが試されたような、フェアじゃないような感じにとられちゃったりもするのかな、とか気になりました。いえ、そんなことじゃないのです、すべての読み手の方が感じられたこと、それが作品の表れだと思います、書き手が語る地階のことなんて、普通の読み手は感じなくて当たり前なのかもしれません、だって書き手は、いちばん作品に近いとこにいる読み手なんだから、そりゃ読み方のレベルが違って当然なわけです。だから、書き手が書いた感想文を読んで、そんなことぜんぜんわからなかったよ、と読み手が思われても当然であり、読み手にはいささかの落ち度もないわけです。読解力を競い合ってる教室じゃありませんから、たぶん。というわけで、拙作の表層がつまらかった、ということであれば、すなわちそれは拙作がつまらなかったということでまちがいありません。地階の存在云々なんてことは、地上が十分に魅力的であっての上で吟味されるべきフェイズであって、表層が面白くない作品はそれだけで欠陥住宅であると私も思います。地階に言及するのは、先に述べましたように、ここが鍛練場だからでありますね。さてさて、今書いて、でもって、はっと気がついたのでありますが、そうです、拙作には、書き手に見えている地下二階があるのでした、書き手による他の作品とも通じている地下二階が確かにあります、で、この部分については、uさんへの返信で、なんと、一言も語っていないのでありました、驚いたなあ、もう。なんでなのかな、と思ったのですが、先に延々とぶちかましたこととまるで矛盾するようですが、平たくいうなら、出し惜しみしてるんでしょうね、根岸くんがエンジェルたちを寝室には入れないでリビングのソファでエッチしてたように。私も、地下一階にまではご招待いたしますが、地下二階にはお連れしませんよ、って思ってるのかもしれません。なぜ出し惜しみしてるのかって考えたら、そこには私の作家性みたいなもの、いわば命脈が眠っているからです、ここを否定されたらどうしよう、って怖れてるんだと思います。大切にしてるんですね、自分なりに、その階層に潜む模様については。だから、やっぱりそこは簡単には見せたくないのでした。でも、ですよ、誰かが勝手に降りてきちゃったら、ルーペを片手に探索しにやってきちゃったら、そしたら、ちゃんとおもてなしするつもり、でもあるような、そんな気もしないことはない、というか、素知らぬふりしてスルーする、みたいな保身はたぶんいたしませんので、降りたい方は、どうぞご自由に、そりゃそうですよね、作品を晒しちゃってるんですから、だから自由に見てまわってやってください、そりゃ、できましたら、ルーペなんかじゃなくて、薔薇の一輪でも携えてきてくださったほうが嬉しいにはちがいないんですけど。で、書き手に語りかけてやってください、あるいは、気づかぬふりをして、書き手とともにそっと秘密を共有してやってください、そして、願わくば、今後あなたが書く作品の中に、その秘密をこっそり溶け込ましてやってください。そしたら、書かれた物語は、書かれた意味を、より広く、より多角的に伝播しうるでしょうから。物語、っていうのは、すべて、深いところで繋がっているように思うので、私の物語は、あなたについての物語でもあるわけです、あなたの物語が私についての物語であるように、売人じゃないんで著作権云々、だなんてことを必要以上には考えなくてもいいし。ともあれ、あれですね、作品っていうのは、読み手を映す鏡でありますから、どんなに拙いものであれ、そうでありましょうから、人の数だけ読まれ方があるのでしょうし、何が正解、何が誤解、だなんてことはないんだと思います。あるのは、面白かったか、面白くなかったか、だけですね、エンタメ的にいうところの面白さ、じゃなくて、インティレクチュアルであったかどうか、また読みたいと思っていただけるかどうか。私にできることは、ただ、つぎのものを書くことだけです。書きつづけてゆきますよ、たぶん。で、放ちつづけてゆくのです、私たちの、内的な模様を。だなんて、ゴーマン、ここらでかまし終えましょう。いやはや、ご清聴、ほんとにすみません、ありがとうございました。

九丸(ひさまる)
126.34.8.189

遅ればせながら拝読しました。

おおまかは「命の連なり」と「自由とは、自由であるべく、不自由になることだ」を絡めて紐をよったお話なんですかね。それ以外にも、いろんなテーマが積み重ねられていて、でも読んでいて苦にならない。
野村くんと奥さんは、良かったです。この終わり方は安心しました。好きです。
根岸くんについては、きっと死ぬんだろうなんて思って読んでました。でも病死もしくは、三人組の輩に根岸くんが面割れして、刺されてなんて(これはベタかな)思っていたので、少し驚きました。悪い意味じゃないです。


気になった点を。
暴力シーン。前半はアクセント?のためかと思いましたが、後半の絡みは謎のおじさんに、「自由とは、自由であるべく、不自由になることだ」と言わせるために、無理して絡めたように感じました。なんなら、おじさんとはバーで出会って酒を酌み交わしながら、おじさん掘り下げてからのセリフなら、もっと重みがあって良かったかなと。あと、三人組の輩を二回出す必要があったかなと。変に印象に残って、最後にまたやらかすなんて想像してしまったので、なんか肩透かしというか。それが上記した根岸くんの死というわけですが。まあ、読み手の勝手な思い込みなんですが。

会社でのトラブル。
新人をかばった根岸くんは、それが根岸くんと言われればそれまでなのですが、例えば、根岸くんと新人だけのトラブルならかばうのも分からないではないのです。ここから〆に向かう状況変化の大事な場面なのですが、ゴジラも移動となると、新人助けたいからしょうがないには共感できませんでした。そもそも、当たりやすくすることは不正なのだろうか?
だから、新人の行為事態に?なんです。それを抜きにしても、野村くんの新人に対する思い入れが読み取れなく、新人に将来性があるとも読み取れなく、ただかわいそうなだけでかばうというのは、やっぱり?なんです。上司の責任は野村くんにもゴジラにもありますが、そんな新人を会社に置いておくリスクの方がはるかにあるだろうなんて。話の筋が通っていないとは思いません。共感の問題でしかないのですが、思ったままを。

野村くんの成長と根岸くんの掘り下げは、読んでいて納得できました。
素直に面白いとも思います。
個人的にはもう少し読んでいたい気分もありますが、はるか様が終わらせるべくして終わらせたのは、それはそれで良いとも思います。
なんにせよ、投稿を待ち望んでいたので、最後まで読めて良かったです。

拙い感想、失礼しました。

そうげん
121.83.151.235

はるかさん、こんにちは。作品読ませていただきました。

前回の一からのものから、今回の九からのものまで(九は十の誤りだったでしょうか。一個ずつずれているように見えました)、改めて読み直しました。

根岸くんという名前は《ネギモヤシ》という処から来ていたんだ、とか、

《ヨッコさんはバッグを掴んで立ち上がり、妻の制止を振り切って店を出た。通り雨みたいな展開だった。いや、通り雨というよりも、通り魔と形容したいくらいの展開だった。
 胸に手をあて、根岸くんはしばらく黙っていた。》

ここの通り魔的にコブラの毒にやられて黙るしかなかったマングース根岸くんの態度と、ヨッコから好意を示してもらえなかったことが、幼少期から愛(おもに家族愛)に飢えていた彼にとってはショックだったのかなと感じました。親の温かさを感じる機会の少なかった(なかった)、そもそも親ですらなかったということもあって、幼少期の自分に対する復讐でもあるかのように、碧を抱き、心情の上で碧の家庭を壊しかねない綱渡りをすることで内心のもやもやを落ち着けていたように感じます。

保母さんという、母性のあふれているであろう仕事をしている女性をネギシーズエンジェルのひとりに選んでいるのも、失われた母親像を恋人に求めようとしている姿が見受けられました。テレビを見せてもらいに行けと家を放り出されて、帰ってきてからも自分を試すようなことをされて、それはネグレクトといっていいものだし、そういった幼少期の心の傷を、その痛みを和らげるためにと期待したのが、精神科医との関係でもあったのかと感じます。

そしてもうひとり。百合子さんは商社勤務で、この人の存在は、根岸くんにとってどういうものだったんだろう。四人目といっていいかわからない、ヨッコについては、悟さんがヨッコにたいしてとってしまったように、根岸くんもヨッコの前から消えてしまった。ヨッコはヨッコで、海に出て、自分も野村さん、チカさんのような家庭を持ちたいと望んでいたのに、根岸くんはいなくなってしまった。リカちゃんを手にして、部屋で自分のなかに閉じてじっと洋服のことを考え、悟さんのことを考えてきたヨッコが、ようやく外の世界に目を向けているというのに、人生ままならないものですね。根岸くんは海に、空に融けてしまった。

《「僕、なんでこんなに豊子さんのこと、好きなんだと思う?」
 こっちが訊きたいよ。
「センセイが言うにはね、たぶんそれは、豊子さんが僕のこと、嫌いだからだって言うんだよ」
 難しい理屈だな、と思った。なんだか捻れている。
「僕がね、女の人のこと、ものすごく恐れてて、ものすごく嫌いで、ものすごくいじめたくて、ものすごくいじめられたくて、ものすごく嫌われたくて、だから結婚のことも恐れてて、だからエンジェルとの交際を続けてるんだって、センセイったらそんなふうに言うんだ」と彼は、雨に打たれた子犬のような目をして言った。くぅん、という鳴き声が聞こえてきそうだった。》

嫌われてしまったからこそ、誰かを好きでいたくて、誰かを好きになりたい根岸くんは気になって仕方なくなった。得られないとわかったからこそ、余計に欲しくなってしまう。だから、ヨッコが自分に振り向いてくれることがわかったしまって、根岸くんは逆に、自分は人を愛して、人に愛される自信がないもんだから、南の島にいってしまったのかなと感じました。ネギモヤシくんなんだけど、チカさんのことばのように、《「ほっとけない人だよね、根岸さんって」》という感じを得ました。

《女医とはもう会ってないのか? と尋ねると、彼はこくんと頷いた。頷き方が誰かに似てるな、誰だっけ、そうだヨッコだ、ヨッコに似ている。》

根岸くんは親からネグレクトを受けていた。父親である悟に見捨てられたヨッコにもその気があると思って、そこにも根岸くんはヨッコに惹かれる理由があったように感じます。だけど悟さんは目の前に戻ってきたし、裏切っていたわけでもない。ヨッコの悟さんを思う純粋な気持ちはその思いの強さに適うものだったし、結果として、父にも母にも愛されていたヨッコは、自分とはちがうんだと根岸くんはわかってしまったんじゃないかなと思いました。だから、

《「お父さん、お母さんに、苦労したね、って優しく言って、それから私に、綺麗だねって、可愛いねって……、これから絶対に幸せになれるよって、王子様に出会って、素敵な結婚ができるよって……」》

このヨッコの言葉は根岸くんに遠い言葉のように感じられてしまったのでしょうか。根岸くんは自分が王子様でないことを自分で思い知っているようなプライベートを過ごしていっるし、素敵な結婚ができる人間だと思っていないから、よそ事のように響いてしまって、心も離れる一方だったように感じます。

《「わかったよ、よくわかりました、豊子さんは、なんだかんだ言っても、結局は愛されてたんだね、お父さんにもお母さんにも、よかったじゃないか、もう人形ごっこも卒業だね、人間らしく、人間の生き方ができるじゃないか」》

思っていたことと実際のギャップに根岸くんの心は引き裂かれそうになっていたようです。

つづきます。

そうげん
121.83.151.235

《気にせずチカは、あなたたちって、と続けた。行きたいときに行きたい場所に、タクシー拾って直行してる、迷いもなく動いてる、大きな魚は群れないで、勝手に行きたいとこに行っちゃうんだ、外国にだってどこにだって行っちゃうんだ、だからね、小さな魚はついてけないんだ、迷子になっちゃうんだ、それで……。》

根岸くんも大きな魚とは言えないところがあって、野村君と二人で群れたいと思っている。小さい魚である部分も持っている根岸くんは、隣にバディがいないから、ふらふらとなって、迷子になってしまったのかなと思いました。おもえば、<一>の冒頭で、《なぜだろう、根岸くんは、歩きながら何度も寄ってきては肩をぶつける。》とあって、誰かと並んで歩かないと、とくに気を許している野村くんがいないとふらふらしてしまう不安定な心持をしている人として描かれているようでした。

《「行くときは、独りで行くよ、野村くんは連れてかないから」
 妻は、はっとした顔をした。それからいつもの、女性にしてはいささか理知的に過ぎる顔に戻った。彼女の中の月は沈んだ。》

 妻の中の《月》。月って何だろう。ルナティック。狂気という側面が見えていて、根岸くんの水を浴びせる一言でその狂気がふっと鎮まったのかなと思いました。いいすぎてしまった。妻のチカさんはふだんは平気を装ってるけど、朝方に帰ってくる野村くんをまって夜通し起きていたこともある。チカさん自身が、ひとりでは迷子になってしまうから、野村くんを必要としている。その野村くんを奪われるような気がして、男の友情という、女性には入りこめない関係性の中に二人がしっかり結びついてしまいそうで、それでチカさんは一瞬、我を失いかけたのかなと思いました。

チカさんは根岸くんの言動に死の影をみたのでしょうか。そのあとカノープスの話をしています。チカは根岸くんのことばの裏に、死の影を見てしまったからこそ、長生きしてほしいという希望を与えようとカノープスを見せたのかなと思いました。

《>タクシーを降りたのは四時半だった、夏ならもう明らんでくる時間だが、冬の朝はまだ深いところに沈んでいた。西の空に鼓星が見えた、その臍のあたりに、オリオン星雲が見えないかと目を凝らしたが、明るい都会じゃ見えるはずもなかった、三つ星の下には、誰かの溜息みたいな雲がぼんやり浮かんでいるだけだった。》

鼓星と書かれていて、オリオン座か!とわかるまでにすこし時間があって、どうして鼓? と思いましたがそのあと、三島の近代能楽集『綾の鼓』-成就しない恋のことが描かれてありました。オリオンといえば狩人。愛の? 好色でもあります。根岸くんなのかなという気がしました。鳴らないはずの鼓はちゃんと鳴って、百回目を果たしたのかもしれませんが、相手が見ていたのは違う姿の幻想上の根岸くんだったのかもしれません。

《「面白くなんかないけど、あなたの不在の存在から逃げようと思って、しかたなく視てたの」》

こういうことをいってしまうチカさんがいとおしくなります。不在の存在。いないことが逆に存在感をあおってくる。誇大的になって、圧迫されるのにも似たものをおぼえる。自由人に見える生き方をしている人の奥さんは、このように感じる人が多いのかもしれませんね。だからこそ、この物語の終わりに子供ができたこともそうだし、毎朝スーツ姿で仕事に出かけることになるだろうといったときのチカさんの張り切り方も、けっこう微笑ましくて、これでよかったのかもしれない。新人君のためをおもって自分から異動を受け入れたところに なんで? と思いましたが、結果的にそれでよかったのかもしれない。なんて思いました。

《もしかしたらさ、と、パンケーキみたいな匂いがする背中を抱きながら僕は言った。》

パンケーキ。家庭的な匂いのする女性。甘い香り。とてもいいですね。

《小さな島にいるとさ、なんだかそんなふうに、忘れてたこと、いろいろ思い出すんだ。
 ところで、最近はどう? 僕が休んでる間に何か変わったことあったかな? 二週間も休んでるとさ、なんだか竜宮城に来てるみたいな気になっちゃってさ、帰国したら白髪のおじいさんになっちゃってるんじゃないかって、そんな変な気分になるんだよ。》

浦島太郎を歌って登場した悟さんのように、根岸くんも第二の悟さんになってしまったような気がしました。と。ここで前作とつながるのですね。ともあれ、根岸くんは還ってしまった、空の向こうか、海の向こうか、母なる自然の懐に。根岸くんは、前作とは違う形だけど、精神科医の比佐子さんが探しに行った人とはちがったかなだけど、そうしてどこにいったかわからなくなった人を探して、比佐子さんは南の島に向かったという形にして前作と重ねてみれば、前作のラストを読めなかったわたしも、今作においてすこしくストーリーが補完された気がして、すっきりしました。

と。わたしは必要十分に近い形で物語が織られていたように感じました。野村くん、根岸くん、チカさん、ヨッコ、四人の内面も外面もしっかり描かれていて、過去と今が描かれてあったと思います。楽しめました。そして再読、再々読してみて、もっとすっきりとわかったことだったり、丁寧に書かれてあるなと感じた部分だったりもたくさんありました。

読ませてくださり、ありがとうございました。
もちろん次作もよければ読ませてほしいです!

はるか
106.154.130.106

 九丸(ひさまる)さま

 ありがとうございます。前回につづき、今回も読んでくださって感謝しています。

 で、甘えまして、まず、ちょっと不躾なんですけど、すみません、前回、後半の暴力シーンについて、夜道で拉致したほうが合理的では? および、救急車を呼んだからには不審な怪我が発覚したら自動的に警察に通報されているはず、他のご指摘をいただき、ありがとうございました、その点について、小さな改良を施して、今回新たに上げさせていただきました、のですが、こんな感じでカバーできましたでしょうか?

 また、前回、前半の暴力シーンに関しましても、わざわざタクシーで新宿に向かっておきながら一見の店に飛び込むのはおかしい、他のご指摘を頂戴いたしまして、こちらの部分にも修正を加えた(夜の雨さんから頂戴いたしましたご指摘についても修正しました)のですが、投稿可能な文字数の関係で本文としてアップすることがかないませんでした、ので、今回この感想欄に二回に分けて修正文を載せさせていただきます、こちら合理的に直せておりますでしょうか?

 ご面倒にならない範囲で目を通してやっていただけると大変嬉しいのですが、ご迷惑になるようでしたら、すみませんでした、スルーしてしまってください。

 以下、いちおう、修正した前半の暴力シーンです。

 三

 肉がいいですか、魚がいいですか、と尋ねられ、野菜がいいです、と応えたら、日本橋にある割烹料亭に案内され、松茸の土瓶蒸しやら何やらをいただいたのち、タクシーでなぜだか歌舞伎町に向かい、上品とは言い難いナイトクラブのテーブル席に座らされた。
「というわけで野村さん、来月からのページ頑張りますんで、よろしくお願いいたします」と色白丸顔の同世代男性が言って、僕らはビールで乾杯した、その日二回目の乾杯だった。「野村さんがね、もっと偉くなってからもね、懸賞ページは末長く我が社にお願いしますよ、頼みますよ」と、頭のいくらか禿げ上がった獅子鼻の上司が続けた。
 陽光企画は、男性三名と女性一名のプランナー、それから埼玉県の倉庫を管轄する男性スタッフ一名とからなる小さな会社だった。雑誌の懸賞ページで扱う商品集めを依頼していた。ゲームメーカーや玩具メーカーと交渉して、紹介アイテムの提供を受けるのが仕事だ。その会社の常務と部下とに接待されているのだった、僕の向かいに獅子鼻の常務が、右手に丸顔の部下が、左手に店の女性が座っていた、女性は童顔で、ちょっと女子高生みたいに見えた。
「アサコちゃんですよ、かわいいでしょう、僕のお気に入りなんですよ」と常務は嬉しそうに言った、わざわざ歌舞伎町にやってきたのは、アサコさんを見せびらかせたい一心だったのかもしれない。僕も常務も丸顔さんも、カジュアルな格好をしていた、特に僕と丸顔さんはジーンズ姿だった、学生みたいなアサコさんといると、僕らの席、まるで学生街の喫茶店みたいだった。
 小一時間飲んだところで席を立って、常務の馴染みの店を出た。「愉快な夜ですなあ」と常務はご機嫌だった、タクシーの行き交う通りを目指して、僕らは路地をふらふらと歩いた、迷路を辿るみたいに歩いた、途中で、捨てられている子猫と目が合った、にゃんと鳴く声を聞くまいと足早に歩いた、急いで歩くとなんだか、さらに酔いが回ってくるようだった。「もう一軒行っちゃいましょうよ」と丸顔さんが言った。僕は帰りたかったのだけれど、手首を掴まれるようにして、目の前の店に連れ込まれた、カラオケスナックだった。
 豹柄ドレスの女性が僕の横に座った、赤紫色のソファに座った、目の前に常務が座り、その横に丸顔さんが座った。肩書きを強調しながら常務は、豹柄女性に名刺を渡していた。
「カラオケ歌って酔いを覚ましましょう、そんでもってまた酔い直しましょう、一から酔い直しましょう」と丸顔さんが言った。丸顔さんはONE OK ROCKを歌い、僕はあいみょんを歌い、常務はなんと軍歌を歌った、胸を張り、拳を突き上げて雄々しく歌った。なんて男らしいんだろう、嫌だなまったく、帰りたい、と僕は思った。来るときのタクシーの中で聞いたのだけど、なんでも常務は空手の有段者らしい。のむちゃんに手ぇ出す輩がいたらこの俺が黙っちゃいませんから、とかなんとか、酔いに任せて、あるいは策略的に、僕との距離を詰めてきていた。のむちゃん?
 ビールは次にバーボンウィスキーになり、ウィスキーの苦手な僕はさらに酔った、なぜだろう、ビールやワインや日本酒ならいくらでも飲めるのだけれど、焼酎やウィスキーは悪酔いした、誰かに作ってもらう酒を嫌っているのかもしれない、気持ちの深いところで。その日もやっぱり、胸の谷間がグランドキャニオンみたいな豹柄女性が、システィマティックに尋ねてきた、濃い目にしますか? そう訊かれて、薄くしてくださいだなんてひよれないし、ロックでよろしくだなんて突っ張れない、だから曖昧に頷くことにしている、お決まりのやりとり。煙草をくわえたら、グランドキャニオンから取り出したライターで間髪入れずに火をつけられた、こういうのも嫌だ、歌舞伎町の百円ライターも嫌だし、銀座のダンヒルだって嫌だ、煙草くらい気ままに吸わせてほしい、型にはめないでほしい。そもそも新宿が嫌いだ、渋谷も嫌いだし池袋も苦手、銀座も別の意味で好きになれない。どこならいいのか? と訊かれてよく応えるのは、表参道か青山一丁目あたり、本当は自由が丘がいちばん好きなんだけど、夜が早すぎて仕事ではあまり使えない。なぜ自由が丘が好きなのかって言うと、ナチュラルメイクの奥様方が髪を結んで行き交う街だから。品がいいし、フェミニンな空気が漂ってるし、押し付けがましい商売っ気もあまり感じない、吹く風が自然なのだ。
 その対極にある歌舞伎町で窮屈な酒を飲んでいた、つまらない気分で酔っていた、そんな夜にはちゃんと起きるものなのだ、起きちゃうものなのだ、焦臭い事件が。

 つづきます。

はるか
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 九丸(ひさまる)さま

 つづきました。

「下手くそだな、白豚野郎!」とカマキリみたいな男が言った、少し離れたスツールで、独りで飲んでいた客だった。言われた丸顔さんは、額に汗を浮かべながら痛々しくも卑屈に笑った、お客さんである僕の手前だ、怒鳴り返すわけにもいかないのだろう、そして続きを歌った、ONE OK ROCKの『The Beginning』。
 趣味の悪いスーツを着た、どう見てもその筋の方としか思えない男が、僕らの斜め前のテーブルにいて、連れの女に肩を抱かれたままピーナッツを投げた。丸顔さんは豆鉄砲をくらった鳩みたいに目を丸くした。
 スーツ姿の男とカマキリみたいな男、つるんでいるのだろうか、嫌な感じのアイコンタクトに僕は気づいた。僕ら以外に客は三人だけ、二十代に見えるカマキリと、五十代に見えるスーツ男と、スーツ男を抱く年齢不詳の女、もしかしたら店が仕込んだ連中なのかもしれない。だから嫌なんだよ、飛び込みでスナックに入るだなんて。地方に出張に出たとき、飛び込みで入った飲み屋でよろしくない葉っぱを勧められたこともある、同行のカメラマンが興味を示しちゃうもんだからひやひやした、そんなものに手を出したら首が飛んだ挙げ句に新聞社につつかれる、親族一同に生き恥を晒すことになる、親も肩身が狭かろう、そのカメラマンには、スタジオ撮影だけを頼むことにして、二度と出張には連れ出さなかった。というわけで、危険な街では知らない店になんて入りたくないのだが、接待される側は店を選べないわけで、だから悲劇が起きることもある。
「うるっせえんだよ、がなってんじゃねえよ」とカマキリが怒鳴った。
 ひどいやつだな。僕は獅子鼻の常務を見る、ところが常務は黙っている。
「表出ろや、豚野郎!」とカマキリ。
 店の連中も知らん顔だ、おかしい、僕ら三人は明らかに何かのターゲットにされていた。だらしないのは常務殿で、カピバラみたいな目をして惚けたまんまだ、自分とこの若いのがやられてるのに。
『The Beginning』のビートに僕の心音が重なった、口がしゃべる。静かにしてください。
 音が消えた、そんな気がした、サイレント映画の登場人物みたいなカマキリが、僕に向かって口をぱくぱくさせた、スーツ男がこちらを睨んだ、その隣で女の唇が薄く笑った、灰皿から立ちのぼる煙が線香の煙に見えた。
 何様なんですか、あなたたち。よせばいいのに僕の口は、僕に逆らって走り始める。
 カマキリがビールの瓶を割った、カウンターに叩きつけて割った、信じられない、漫画みたいに嘘っぽい、それふりかざして脅すつもりか? 少年マガジンか、おまえは、そう言いたかったけど、さすがにその台詞は飲み込んだ。
 スーツが首をこきこきと鳴らした、ほらね、グルなんだ。表でやってください、と豹柄女も、急に冷たくなってそう言った、だよね、やっぱりみんなグルなんだ。常務を見る、そっぽを向いてる、どうした有段者、この夜全体にはめられた感じだ。
「あんたにもプライドってもんがあるだろう」と僕に向かって、鉄みたいな重たい声でスーツは言った。「カッコだけでも表に出なよ」
 嫌なこった、出たら終わりだ、外には別動隊だっているかもしれない、骨の二、三本じゃ済まない予感がある、ここは歌舞伎町だ、いきなり撃たれたって不思議じゃない、スーツの男はそのくらいの目をしていた。僕は座ったままでいる。ねえあんた、とグランドキャニオンを揺らしながら豹柄女が言った。悪いようにはならないからさ、形だけでも出てやってよ、このまんまじゃこちらの方の、とカマキリを示して続けた。メンツも立たないもん。
 たぶん金だ、なんらかの形で金を脅し取りたいのだ、命まで取られることはあるまい、けれども、互いに酔っている、気持ちが暴発したら、何がどうなるかわからない、カマキリのキレ方は普通じゃなかった。
 自分の心臓のビートを感じる、そのビートに割り込むようにして携帯電話が震えた、取り出す、電話が着信している。スーツ姿の男を見る。電話に出ろよ、と彼は顎をしゃくった。出た、根岸くんの声が響いた。「野村くん、ご飯もう食べた?」
 呑気な声だ、なんだか懐かしい、地獄に垂らされた蜘蛛の糸みたいに慈悲深く響いた。
「なんだか、がやがやうるさいね、どこにいるの?」
 歌舞伎町だ、と応えた。「デート?」と訊かれた。そんなわけないだろ、歌舞伎町でデートだなんて、僕は学生じゃない、とか思うが口には出さない、歌舞伎町を悪く言ったら、そのヌシかもしれないスーツ男を刺激しかねない。カマキリが、さっさと電話切れや、とか怒鳴って、割れたビール瓶を手に前に出た、長電話は危険だ。じゃあな、と電話を切ろうとすると根岸くんが言った。「店の名前は?」
 コースターに書かれた名前を読み上げた。電話は切れた。

 また、つづきます。

はるか
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 九丸(ひさまる)さま

 また、つづきました。

 穏やかとは言えない声がした、声のしたほうを見ると、流血していた、驚いた、丸顔さんの額から血が滴っていた、割れたビール瓶が刺さったのだ、血が床を黒く濡らしていた。少なくはない血に、いちばん驚いているのは刺したカマキリだった、たぶん刺すつもりはなかったのだろう、お芝居をする手がうっかり滑ってしまったのだと思う。カマキリは割れたビール瓶を投げ捨てた、お絞りで返り血を拭った、平然としたふりをしながら、それでも明らかに震える足取りで店を出た。店の連中は何もしなかった、常務が救急車を呼んだ、スーツ男は動じなかった、嫌な沈黙。
「救急車がわかるように外で待とう」と言って常務は、お絞りを額にあてた丸顔さんを連れて出口に向かった。「すぐに戻りますから野村さんはゆっくり飲んでいてください」と僕に向かって言った、そのことについて誰も何も言わなかった。僕は店に残された、豹柄女は水割りを作った、スーツ男は黙ってこちらを睨んでいた、グラスの中の茶色い液体が、汚れた海のように思えた。
 救急車のサイレンが聞こえた、店内のすべての耳が、その音を用心深く観察していた。サイレンの音が遠ざかっていって三分ほどが過ぎた、常務は戻らなかった、見捨てられた人質の気持ちがわかった、捨てられていた猫の丸い瞳を思い出した。
 さてと私も歌っちゃおうかな、と、スーツ男を抱いていた年齢不詳の女が立ち上がり、マイクを握った、なんだか少しホッとした、曲が流れた、ずいぶん昔に聴いたことがある歌だ、タイトルテロップを見て思い出した、そうだ、古いドラマの主題歌で『愛もないのになぜ』という歌だ。
「根性焼き、ってのはどうだろう」と、バラードをバックに、芝居の台詞みたいな調子でスーツ男が言った、僕に向かって言った。「十秒鳴かずに堪えられたら、そしたら生きて帰してやるよ」
 僕の隣の豹柄女が、テーブルの上の煙草の箱から一本を抜き出し、くわえて、胸の百円ライターで火をつけてから一口吸った、煙が天使の輪っかになった、不思議な気持ちでそれを眺めた。そんな一部始終をスーツの男が、焼けた鉄みたいな表情で眺めていた。
 年齢不詳の女は『愛もないのになぜ』を歌っている、豹柄女が僕の左手を掴んだ、利き手じゃないのは武士の情けか、赤ペンを持つための手は難を免れそうだった、お約束の展開、どこまでも型にはまった世の中だった、くそったれの世の中だった。十秒でどれだけ焼けるんだろう? 血管の真上は避けてくれよな、と祈るような気持ちで思った。
 煙草の火が押し付けられた、手の甲が焼けた、熱いというより痛かった、心の中で数える、一、二、三……、無理だろこれ、本当に十秒焼くつもりか? 煙草の先端が、手の甲に深く沈んでゆく、ダメだ、これ以上の根性は逆さに振っても出てこない、にゃんと鳴いてしまおうかと思った。
 店の扉が開いた、根岸くんが入ってきた、前のめりの歩き方でとつとつと、真っ直ぐにこちらにやってきて、豹柄女の顔を靴底で、ぼんと蹴った、一瞬の出来事だった。彼は、僕の手をとった。連れられて走る、後ろで何やら叫んでいるけど知ったことか、僕らは地獄を脱出した。根岸くんは、外に待たせたタクシーのリヤシートに僕を促し、自分も助手席に飛び乗った。どちらまで? と運転手に言わせることなく彼は告げた。「青山一丁目」
 そんなふうにして僕は地獄の一丁目をあとにした。
 左手の痕は今でも消えていない、クレーターみたいなそれを見るたび、あの夜を思い出す。青山一丁目のワインバー、壁にラファエロが掛かっていた、お絞りで左手を冷やしながら、その日三回目の乾杯をした、コノスルの赤を飲んだ、カベルネのざらつきが美味かった。根岸くんは言った。「その火傷、来週の合コンまでには治るといいね」
 窓の向こうに、川のホタルみたいなヘッドライトの流れがあった。左手は痛かったけれど、あの夜重ねたグラスは明らかに祝杯だった。僕らは負け知らず。

 以上、三の修正版を掲載させていただきました、お目汚しを失礼いたしました。

 さらに、つづきます。

はるか
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 九丸(ひさまる)さま

 さらに、つづきました。

>おおまかは「命の連なり」と「自由とは、自由であるべく、不自由になることだ」を絡めて紐をよったお話なんですかね。

 おおまかには、愛されなかった魂に触れて、因果的にではなく共時的に愛を自覚するに至った魂が、新たなる一歩を踏み出す物語、みたいに、書き手でもある読み手の私は感じました。ご指摘のとおり、自由という枠を履き違えていたギョーカイくんの小さな覚醒の話でもあり、命が何かを未来に運んでほしい、という希求の物語であったようにも思います。

>野村くんと奥さんは、良かったです。この終わり方は安心しました。好きです。

 ここ、嬉しいです、野村くんとチカには未来があります、素敵な人生を送ってほしいです。

>根岸くんについては、きっと死ぬんだろうなんて思って読んでました。

 はい、あとから読み返して、私も、根岸くんの運命を痛感して、あのようなエンディングとなりました。安易に殺したくはなく、激しく抵抗したのですが。

>でも病死もしくは、三人組の輩に根岸くんが面割れして、刺されてなんて(これはベタかな)思っていたので、少し驚きました。悪い意味じゃないです。

 天国みたいな島で、百合子さんの、たとえ擬似的ではあっても母性、みたいなのに包まれながら還れて、根岸くん的には、大往生、というか、あれ以上の還り方はなかったんじゃないか、と私は思います、ちゃんと野村くんに伝えるべきを伝え託すべきを託せましたし。

>暴力シーン。前半はアクセント?のためかと思いましたが

 アクセントのため、であったかもしれません、出した当初は。でもそれが、まずは因果的に、根岸くんが野村くんを守る&、二回目の暴力シーンでひっくり返って、野村くんが根岸くんを守る、の意味を持つシーンになり、かつ共時的に、サルトルを語る男、悟さんを思わせる男が、いわばこちらもヨッコに関する件の恩返し的に根岸くんと野村くんを助ける、というシーンに繋がったように思います。三人組は、よい仕事をしてくれたように感じています。

>後半の絡みは謎のおじさんに、「自由とは、自由であるべく、不自由になることだ」と言わせるために、無理して絡めたように感じました。

 無理はしてないような。わりと必然だったような気がしてます、書き手は、ってことですが。根岸くんに助けられた野村くんが、今度は根岸くんを助ける、って流れがあったんじゃないかと思うのです。助けた亀に連れられて……たちまち太郎はおじいさん、みたいな。

>なんなら、おじさんとはバーで出会って酒を酌み交わしながら、おじさん掘り下げてからのセリフなら、もっと重みがあって良かったかなと。

 あの男は、いわば神なので、余計なことはしゃべらないし、普通の人と同じ地平になんて立たないんだと思うのですよ、バーで、サルトルについて語ったら、それこそ普通のおじさんになっちゃうんで、野村くんと酒を酌み交わすだなんてことはあり得ないように思います。実在してたのかどうかさえ疑わしく書きたかったので。?を残したかったし、残してこそ、天から降ってきた言葉になるわけですよね、サルトルの言葉が。啓示としての意味を持つ。すべての?に意味付けをしていったら、それらは、深みや多義性を失い、小説として表現する意味を持たない単なる伝達事項になってしまう。?のために?を作るのは愚かだけれど、?でしか表せないものの箱をこじあけてしまっては、それもまた平板化、単純化という意味で嘘になる、すべての事象はそんな単純なものじゃないから。解説は作品の外において多義的になされるべきであって、作品内を合理的に掃き清めてそこを倉庫みたいな場所にしてしまうことはむしろ作品を殺すことであるように私には思えるのでした。むろん読み手さんが、いろいろ解明したい、と感じてくださることはありがたいことだと思うのですが、うーん、そうですね、ちょっと自信がなくなりました、鍛練場で、中途を晒しながら、読み手さんのご指摘を受けつつ作品を修正してゆくことは、果たしてほんとに上手いやり方だったんだろうかと。読み手さんのご指摘や、感想に照らされながら、物語の舵をきってゆくのはよいことだけれど、箱を開けてゆくこと、合理性を担保してゆくことはよろしくないことなのかも、だなんて少し悟れました。すべての人が納得してくださるような読み物は、世界をちゃんと書いていないマガイモノであるような気がしてきました。頭で紡いだ絵空事のような気がしてきました。読み手さんは、思うがままにご指摘くださってよろしいのだと思うのだけれど、それを取り入れるも取り入れないのも、つまりは書き手の自己責任なんですね、読み手さんが責任をとってくれるわけじゃない、そうか、だから読み手さんは、参考までに、と断りを入れてくださるのですね。ちょっと読み手を意識しすぎていた、というか、読み手に頼りすぎていたのかもしれません。
 気になったところは特にありませんでした、と言われてしまう物語は、予定調和な、先を読み通せてしまう、ひっかかりのない物語で、つまり平板で、よくない意味で普通で、だから面白くない物語なのかもしれず、読み手さんに、いっぱい気になっていただき、読み終わってからも気になっていただける、もやもやしていただいたり、つきんとしていただいたり、うげっとしていただいたり、って物語のほうが、うん、よし、満足、と割りきられてしまう物語よりもブンガクなのかも、なんていうふうにも思ってしまいました。エンタメは、納得していただいたほうがよろしい興行なのかもしれないけれど、ジュンブンガクはまた違うのかな、とか。私のやつがジュンブンガクかどうかはわかりませんけど。

 またまた、つづきます。

はるか
106.154.130.106

 九丸(ひさまる)さま

 またまた、つづきました。


>三人組の輩を二回出す必要があったかなと。変に印象に残って、最後にまたやらかすなんて想像してしまったので、なんか肩透かしというか。

 この肩透かし、は、よい肩透かし、かもしれませんね、編集者が編集者でいられなくなる、赤ペンを奪われる、という大津波の巨大さを強調する前座として、野村くんがカマキリ逮捕のニュースを黙殺するシーンを担保するための仕込みとして、二度の暴力シーンは必要であったように思うし、読み手が、肩透かしをくらう、ということは、そこに至るまでの読みをひっくり返されるということだから、大津波の、運命的な、因果的ではない不条理さを強調するよい効果だったといえるように思うのです。

>会社でのトラブル。そもそも、当たりやすくすることは不正なのだろうか?

 刑事的な犯罪、という意味での不正ではないでしょう。でも校了権限がない者が校了紙を書き換えるのは越権行為なので、処罰の対象になるかと思われます。雑誌の回収には損失が生じますから、民事的に損害賠償請求されても不思議じゃないでしょう。それ以上に雲竜先生が降りたら雑誌が傾くかもしれないわけで、不正かどうか、だなんてことをはるかに超越した大失態を新人くんは、正義感ゆえになしてしまったことになるかと思われます。

>野村くんの新人に対する思い入れが読み取れなく、新人に将来性があるとも読み取れなく、ただかわいそうなだけでかばうというのは、やっぱり?なんです。

 思い入れ、ゆえに助けるんじゃ、任侠が示せませんし、将来性があるなしで助けたり助けなかったり、そんな会社都合な、合理的な判断に基づいて意思決定するようなデスクはそもそも自由人じゃないし、自由や枠を語るときに、枠の内側に閉じ込められた経営判断を描くわけにはいきません。読み手さんに、そんなふうに思わせちゃうってことは、野村くんの書き込みが足りなかったのかな、と反省したりもするのですが、野村くんが通常の社会人でないエピソードはしつこいくらいに重ねてきたようにも思うので、ご指摘は、野村くんという人間に対する反発なのかな、とも思ったりして。通常、という枠の外を生きる人間に対する反感、みたいなものなのでしょうか、筋が通っていないというのではなく、ただ共感できない、とあるので。合理的な人間を描くべし、という社会的な要請があるのかないのかわかりませんが、たとえあっても、それに従うことがブンガクであるとは思えないし、そもそも人間を描くということは、合理的でない割りきれなさを描くのに等しい、くらいに感じているので、合理性を重視し過ぎない執筆姿勢を保とう、という学びを得ることができました。それと、読み手に共感していただける人物設定、これってエンタメにおいてはマストだと思うのですが、ジュンブンガクにおいてはむしろイレギュラーであるかと。というか、現実の世界においても、割りきれない人、違和感を醸し出す人、独自的な人、つまり共感しづらい人、は、むしろ魅力的である、ように私なんかは感じてしまうのです、ひねった物言いですが。ブンガクは、浅い人物を好まないのではないかと。ブンガクとは、モラルを説くものでも、常識を諭すものでもないし、嫌い、のすぐ隣には好き、があるので。普通の方に、たやすく共感されてしまうような、いわば普通の人物を描くだなんて、そんな、お子様プールでの潜水にも似た安全嗜好を、むしろはね除ける筆こそがブンガクの筆である、ようにも思われるのです。ともあれ、野村くんの在り方、野村くんの判断、あのシーンの描き方に、共感できない、という読み手さんがいらっしゃること、認識できました、ありがとうございました。

 なんだか、ちょっと失礼な感想返しになってしまったようにも感じているのですが、わりと大事な論点を、この場でやりとりをしてゆく上で見逃せない、広くに有益な論点を含む返信であるようにも思われますので、思いきってそのままアップしてしまいます。

 ご感想、ご指摘をありがとうございました。今後も、ご指摘いただけると大変嬉しく思います、ぜんぶは呑み込まずに、反発したりもするようにしたいと思いますが、それ、お互いのため、ということで、感謝の気持ちを持ちながらやりあってゆければ、だなんて思いました。失礼いたしました。

はるか
106.154.130.106

 そうげんさま

 ありがとうございます。
 作品と関係ないのですが、実は私、今日誕生日だったんです。赤ワインでささやかな祝杯あげました。いえ、作品にほんと、関係ないことなんですけど。

>九は十の誤りだったでしょうか。一個ずつずれているように見えました

 はい、丁寧に読んでくださってありがとうございます、ここ、実は前回の九をまるごと削除して、だから、番号がひとつずれてしまっていたのでした、九における中弛みをご指摘いただいていて、思いきって九をカットしたのでした、根岸くんのプリンスくんという渾名のあたりは、旧九から移植して残したのですが、冬の海百景みたいな章を八枚分くらい削ったので、今回みたいなずれが生じたのでした、混乱させてしまってすみませんでした。

>親の温かさを感じる機会の少なかった(なかった)、そもそも親ですらなかったということもあって、幼少期の自分に対する復讐でもあるかのように、碧を抱き、心情の上で碧の家庭を壊しかねない綱渡りをすることで内心のもやもやを落ち着けていた

 そのとおりです! 根岸くんは、母を憎み、母に焦がれて、家庭を憎み、家庭に焦がれていたんじゃないかと思うのです。

>保母さんという、母性のあふれているであろう仕事をしている女性をネギシーズエンジェルのひとりに選んでいるのも、失われた母親像を恋人に求めようとしている姿が見受けられました。

 はい、そのとおりです!

>テレビを見せてもらいに行けと家を放り出されて、帰ってきてからも自分を試すようなことをされて、それはネグレクトといっていいものだし、そういった幼少期の心の傷を、その痛みを和らげるためにと期待したのが、精神科医との関係でもあったのかと感じます。

 まったく、そのとおりですね!

>そしてもうひとり。百合子さんは商社勤務で、この人の存在は、根岸くんにとってどういうものだったんだろう。

 かなり歳上の方なので、根岸くん、百合子さんには、ずばり、肉的な母性を求めていたのではないでしょうか、ぴちぴちじゃなくてたぷたぷ、とか表現してたし、おっぱいが黄金色に染まったとか報告してたし。商社勤め、というあたりからして、男まさりの、行動的な、南の島でアバンチュールしちゃいそうな、そんな女性、だから必ずしも真の意味で母性的ではない女性、をイメージしました。そんな女性であっても、ないはずの母性をくすぐられちゃって、根岸くんに対しては愛を与えたかったんじゃないでしょうか、根岸くん、愛に餓えてるから。碧も、比佐子も、たぶん、母性愛を刺激されちゃって、困ったちゃんである根岸くんをほっとけなかったんじゃないか、と思うのです。

>ヨッコはヨッコで、海に出て、自分も野村さん、チカさんのような家庭を持ちたいと望んでいたのに、根岸くんはいなくなってしまった。リカちゃんを手にして、部屋で自分のなかに閉じてじっと洋服のことを考え、悟さんのことを考えてきたヨッコが、ようやく外の世界に目を向けているというのに、人生ままならないものですね。

 ここは、書き手的には、ヨッコはもう大丈夫、という感じでした。悟さんに、王子様に出会えるよ、って言われて、プリンスくんに近づいてみたけど、プリンスくんってば変な人だったんで、別の誰かをさがしてる、ないしはみつけてるだろう、って思ってました。野村夫妻を目標に、って、結婚を目指し始めたヨッコ、抜群のルックスなんで、すぐに素敵な彼氏がみつかるでしょう。あるいは、ヨッコには素敵な彼氏がみつかった、ってそんな顛末をはっきり書いておけばよかったです。

>嫌われてしまったからこそ、誰かを好きでいたくて、誰かを好きになりたい根岸くんは気になって仕方なくなった。得られないとわかったからこそ、余計に欲しくなってしまう。

 基本、根岸くんは、女性が嫌いなんですね、でも女性に愛されたい、母親の代わりに。でも、愛された方を知らないんですね。実の母親には精神的な虐待を受けていたっぽいので。根岸くん、野村くんを誘ってたじゃないですか、ボンテージバーに行かないかって、あれ、推敲前は、SMバーって書いていたんです。いじめたり、いじめられたり、そういう愛し方、愛され方しかできないんですよ、実の親に、いじめられる、という形で愛されて?きたもんだから。だから、ヨッコに嫌われていること、そしてもっと嫌われること、いわば虐待されることに、マゾヒスティックな安心感を感じるんじゃないかと思うのです、何度も手紙を書いて、何度も拒否されて、そのことに実は安堵してたんじゃないか、って思うのでした。歪んでいますねえ。ほっとけません。でも、ジュリーみたいに、まっすぐ自分を好きになってくれる女性の手は払ってしまうのです、彼にとって、愛は愛じゃないからです。かわいそうな人だと思います。すっごくピュアで、すっごく餓えている人。

>根岸くんは親からネグレクトを受けていた。父親である悟に見捨てられたヨッコにもその気があると思って、そこにも根岸くんはヨッコに惹かれる理由があったように感じます。

 そのとおりですね、ヨッコを仲間だと、自分に似てると、ヨッコの秘密をチカから聞いたとき、根岸くんの恋は、単なるマゾヒスティックな戯れを脱して、きょうだい愛みたいなものに変質したんだと思います。神経衰弱になるほど自分で自分をいたぶっていた彼ですが、親に愛されていないヨッコに、同胞愛みたいなものを、いえ、それは正確には愛ではないのですが、シンパシーみたいなものを感じて、ヨッコを生きるよるべにしたのだと思います。宇宙人が宇宙人を宇宙人的に愛したわけです、あくまで宇宙人的に。

 つづきます。

はるか
106.154.130.106

 そうげんさま

 つづきました。

>父にも母にも愛されていたヨッコは、自分とはちがうんだと根岸くんはわかってしまったんじゃないかなと思いました。

 はい、置いていかれた感があったのでしょう、幼児だったころ、冷たい役所で、ひとりぼっちで誰かからの声掛けを待っていた、あのことが蘇ってきつつあったのかもしれませんね。

>一の冒頭で、《なぜだろう、根岸くんは、歩きながら何度も寄ってきては肩をぶつける。》とあって、誰かと並んで歩かないと、とくに気を許している野村くんがいないとふらふらしてしまう不安定な心持をしている人として描かれているようでした。

 はい、根岸くんにとって野村くんは、「唯一の相手」だったのだと思います。とても、とても、とても生きるのが辛くて、社長賞なんてどうでもよくて、子供の頃から頑張りに頑張ってきたから、頭もいいし、有能だし、仕事もできるんだけど、でも母親には愛してもらえない、どんなに頑張っても愛してもらえない、根岸くんが欲しかったのは社会的評価でも、お金でも、セックスフレンドたちでもなくて、ただ、愛、だったんです、できれば母からの愛を、でも、それがかなわないから、母的な存在からの愛を、求めていた、無意識のうちに、強く、強く、でもあんな人なので愛されない、それが苦しくて、死んじゃいたいくらい苦しくて、座頭鯨みたいに天国に向かってジャンプし続けながら、なんとか必死で生きていたんだと思うんです、そんな根岸くんの杖が野村くんだったのでしょう。

>《「行くときは、独りで行くよ、野村くんは連れてかないから」
 妻は、はっとした顔をした。それからいつもの、女性にしてはいささか理知的に過ぎる顔に戻った。彼女の中の月は沈んだ。》妻の中の《月》。月って何だろう。ルナティック。狂気という側面

 はい、月、これは、感情、の象徴として書いてみました、太陽、そっちは理性の象徴。チカの中の女性性、感情が沈んで、チカの中の男性性、理性が光を取り戻したように書きたかったのでした。ルナ、そうですね、月がパワーを持ちすぎると、人はルナチックなことになってしまう、チカは直感で、根岸くんの天国行きを予知していたのかもしれません、そこに夫が同行させられる、それだけは避けたくて、理屈の通らない怒りに似た衝動に駆られてきついことを叫んだのでしょう。ハンサムなチカ、というのを、実は推敲のとき、二章に書き加えているのですが、チカは非常に男性的な仮面で生きてる人であり、日頃は感情を抑えている人なのでありました。

>チカさんは根岸くんの言動に死の影をみたのでしょうか。

 そのとおりだと思います。

>そのあとカノープスの話をしています。チカは根岸くんのことばの裏に、死の影を見てしまったからこそ、長生きしてほしいという希望を与えようとカノープスを見せたのかなと思いました。

 まったく、そのとおりだと思います。死んじゃいそうに見えたのかもしれませんね、根岸くん、チカの深いところの眼差しによれば。

>鼓星と書かれていて、オリオン座か!とわかるまでにすこし時間があって、どうして鼓? と思いましたが

 はい、オリオン、そうげんさんが、他の方の作品の感想欄で、夜勤明けの、西に寄った空に輝くオリオンが、みたいなこと書かれてたのを拝見して、で、この部分を足したのでした。

>そのあと、三島の近代能楽集『綾の鼓』

 はい、あの綾の鼓です、わかる方にはわかっていただけたら、という意図で書きました。

>《「面白くなんかないけど、あなたの不在の存在から逃げようと思って、しかたなく視てたの」》こういうことをいってしまうチカさんがいとおしくなります。不在の存在。いないことが逆に存在感をあおってくる。誇大的になって、圧迫されるのにも似たものをおぼえる。

 はい、その感じを書きたいと思って書きました。チカは、本当は、ものすごく寂しいんですよね、理性で割りきってはいるのだけれど、感情は切ない。

>わたしは必要十分に近い形で物語が織られていたように感じました。

 ありがとうございます、でも、いろんな方からのいろんな角度からのご指摘を参考に、反省してみて、もう少し尺を伸ばしてでも、ふたつの改変が必要な気がしてきました、ひとつは、なんとか頑張って根岸くんを還らせないこと、それから、根岸くんの餓えを、もう少しだけ、わかりやすく匂わせること。

 すごく丁寧に読んでくださって、深い感想をありがとうございました。励まされました!

九丸(ひさまる)
126.34.8.189

再訪失礼します。

不正について書き方が悪かったです。
新人がそこまで懸賞にこだわったことについてです。
「でも校了権限がない者が校了紙を書き換えるのは越権行為なので、処罰の対象になるかと思われます。」これについては異論はありません。当たり前の対応だと思います。
つまり、大事になるのは当たり前のことなのに、新人とはいえ予見できなかったのか? もしくは、それ覚悟でも行動してしまうだろうか? ということでした。

小説のカテゴリーはともかく、サイトに投稿して、意見をもらって、それをどうしようが書き手の勝手だと思うので、はるか様の思う通りにして構わないと思います。時には戦うことも必要ですから。まあ、良いとこ取りでいいのかな。なんて思ってます。だから、失礼なんてことはなく。

暴力シーン拝見しました。
新宿に行った理由付けと、酔ってうっかり怪しげな店に入る筋は通ってると思います。
そこで、これは店ぐるみの仕込みなのですかね? それとも女豹と輩は知り合いだけれど、たまたま輩の機嫌が悪く暴力沙汰に発展したのか。その筋の人なら最終的には金に行きつくのは確かです。それが計画的なのか偶発的なのかで変わってくると思います。計画的ならあまりにも早計かなと。気持ち良く飲ませてお会計でドン! それで渋ったら輩登場。がぼったくりのセオリーかなと。偶発的なら、ありえない話でもないかな。学生時代に歌舞伎町のバーでバイトしてました。今は当時よりもはるかに警察の締め付け厳しくなってます。当時当たり前にありえた話も、今じゃ、もっと巧妙になってるんでしょうね。だから、リアルさを求めても話的にはつまらなくなるし(多分派手さがない)、僕が上記したことはともかく、物語的にはいいんじゃないですかね。
それにしても、取引先の常務はひどい。なんて読まされているということは、端役まで人間が書けているということなんでしょうね。

次作も楽しみにしています。
拙い感想、失礼しました。

そうげん
121.83.151.235

はるかさまへ

わたしも10月下旬生まれでして、ということはさそり座つながりですね。
実は、水野さんの作品へのコメントにアルテミスのことを出したり、はるかさんの作品へのコメントにオリオンを書きながら、オリオンを刺すさそり、サソリの毒、そう、わたし、さそり座なんだよなあ、と或る種あきらめを感じながら感想コメントを書いていたのでした。

マングースとコブラの対決がはるかさんの作品に書かれていて、わたしはそのなかに毒を忍び込ませる使者かもしれないなと思いながら、そんな役回りを受け止めながら日々の生活を送っている自分の半生を振り返るのですが、はるかさんの誕生日という記念日に、予期することもなく、感想コメントを付すことになった偶然にちょっとうれしい気持ちもあるのでした。

そう。一連のレスの中で地下二階という単語がありました。川上未映子さんとの対談集「みみずくは黄昏に飛び立つ」のなかに、この地下二階という表現は何度も繰り返されました。たぶんはるかさんも、読まれたのかなと、この一事から彷彿しました。いまわたしがラカンを熱心に読んでいるのも、幻想小説のテイストに、象徴界、想像界、現実界の三者を取り混ぜながら、ひとつの作品に織り込みたい気持ちがあって、精神分析学を下敷きにしたうえで、不思議なワールドを展開したいと思っているのでした。

わたしが文学に本格的にのめりこむきっかけになったのは、村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」でした。その記号論というか、象徴の導きというか、なにを意図して書かれている文章なのか、その狙いは一瞬で見えました。自分の考え方にすごくあっていたのだと思います。ただおなじ手法、文体は取りたくありませんでした。

しかしいま書いているものでも、書くものでも、思わせぶりになってしまったり、独りよがりになってしまったり、読者を放っておいて一人で突き進んでしまったりしてしまう傾向があったので、地力を蓄えようと思いながら、すでに何年も経ってしまいました。

ごはんにあげられる作品は、公募が本番とすれば、やはり習作にとどまっていて、練習試合のようなものになるかと思います。公募に本腰をいれていればこそだと思います。しかしどんな片言隻句にだって、書き手のマインドは乗り移るものだと思ってます。

憑依といってもいいかもしれません、この書き方をしている書き手さんの本質を見極めてみたい! と思うことはときおりあります。はるかさんの作品もわたしにとってはそのような感興を得るものでした。わたしが小説を書こうとする動機に、本質的に近いところにいらっしゃる書き手さんだからなのかもしれません。

わたしにとって村上春樹さんはある種特別な作家さんです。毀誉褒貶ある作家さんですが、現代作家であるからこその宿命かもしれません、ただ村上作品がよくわからないと表現されながらそれでも手に取っていかれる読み手の方の、どうしようもない迷子状態もわかりすぎるくらいわかる気持ちもあるのです。

書きものの中で言葉(象徴)をどのように取り扱うのか、どのように機能させて書き手に影響(想像)を与えていくのか、わたしが文章におけるこの機能をたくらむとき、村上さんの作品から得られるものはとても大きいし、はるかさんの今回の作品についても、わたしにとっては大きな励ましになりました。わたしともけっこう近い視点から文学を見ていらっしゃる気がしているのです、一方的な期待ではあるのですけど。

と、ちょっと一方的にすぎるレスをいたしました。たわごとをいっているなとどうかご笑納くださればわたしも安心いたします。それでは失礼したします。

はるか
106.154.130.203

 九丸(ひさまる)さま

 再び、ありがとうございます。

 修正分、読んでくださって感謝しています。

>そこで、これは店ぐるみの仕込みなのですかね?

 野村くんはそう感じたようですが、事実がどうであったかは藪の中のようですね、書き手としましては、因縁をつけて金を脅しとるために三人は店に雇われていたんじゃないか、と、けれども野村くんが、通常ではない、予想外の反抗をしたので三人組は暴発してしまった、とくにカマキリは脅しの手元がくるって傷害罪の構成要件を満たすようなヘマをしてしまった、そのことにリーダー格のスーツ男は静かに苛立った、サディスティックになった彼は根性焼きの提案をした、その提案に飛びついたのが豹柄女、ちょっと小柄で美人系統のルックスをした野村くんをいたぶりたくなってしまった、というようなあれこれが不思議と重なってしまうそんな夜であったと、野村くんが言うように、起こらないはずのことが「ちゃんと」起きてしまうマジカルな夜であった、と、捉えています。そのあたり野村くんのモノローグで今回かなり「説明して」しまったわけですが、説明はさらなる説明を要求する役割しか果たさず、悟さんの思いをチカが「説明して」しまった鮪料理屋のシーンと同じく、説明しちゃうくらいなら最初のとおりのほうがまだましだったのかもしれず、私の直し方が手抜きだったのだろう、と反省しています、頭で考えたんじゃ駄目ですね。この際やっぱり暴力シーンをとりやめにして、いえ、それは難しいので、そうですね、これはお蔵入りにしてまったく新しい別のものを書き始めたほうがよいかな、と思いました、が、いろいろ学べたので書いてよかったです、何度もご指摘をありがとうございました、感謝しています。

はるか
106.154.130.203

 そうげんさま

 再び、ありがとうございます。

 そうでありましたか、そうげんさんも蠍座、偶然ですね。
 私は、占い師さんによると、月が双子座にあるとのことで、蠍座であるくせに、結構軽々しくて、気まぐれみたいなんですけど、自分の中にやっぱり蠍がいるんだな、って、この鍛練場で活動していて、最近ちらほら感じたりしてました、毒、だとか、防御のための攻撃性、だとか、わりとタフだったり、しつこかったり、深層の真相みたいなのを探求してみたくなってたり。日頃はかなり双子座的なんですけど、書くと、私、やっぱりわりと蠍座かも、とか思います。
 そうげんさんには、蠍座の、誠実さ、みたいなの感じるかも、です、ストイシズムみたいなものも。
 自分の中の毒みたいなの、やっかいだけど、大事にして、自分と付き合っていこうと思います。

>川上未映子さんとの対談集「みみずくは黄昏に飛び立つ」のなかに、この地下二階という表現は何度も繰り返されました。たぶんはるかさんも、読まれたのかな

 いえ、読んでいないです、チカニカイ、私が自分で思い付いたような気もするし、どこかで拾った言葉なのかもしれないけど、その対談は知らなかったです。読んでみたいです。というか、絶対読みます、すぐ読もう、『みみずくは黄昏に飛びたつ』ですね、読んだらまた、どこかのコメント欄で、そうげんさんへのメッセージとして感想とか書いちゃうかも、です。川上未映子さん、も読んだことないのですが、今度読んでみよう。

>いまわたしがラカンを熱心に読んでいるのも、幻想小説のテイストに、象徴界、想像界、現実界の三者を取り混ぜながら、ひとつの作品に織り込みたい気持ちがあって、精神分析学を下敷きにしたうえで、不思議なワールドを展開したいと思っているのでした。

 興味深いですね! そういうの、私も、たぶん興味があります。

>村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」でした。その記号論というか、象徴の導きというか、なにを意図して書かれている文章なのか、その狙いは一瞬で見えました。自分の考え方にすごくあっていたのだと思います。

 すごい。私は、村上春樹の表してるものが、いまだによくわからないんですよ、村上春樹さんが説明してくれるわけでもないし。わからないんだけど、面白い、と感じています。

>この書き方をしている書き手さんの本質を見極めてみたい! と思うことはときおりあります。はるかさんの作品もわたしにとってはそのような感興を得るものでした。わたしが小説を書こうとする動機に、本質的に近いところにいらっしゃる書き手さんだからなのかもしれません。

 励まされます。私、私が何を書きたいのか、書いてるのか、もしかしたら、ちゃんとわかってない、ないしは、わかってるんだけど言葉で説明できるほどには意識化できてない、ような気もするんです、だいたいここらあたり、という場所を掘ってて、たぶんそれでまちがいないんだけど、そこから何が出てくるのかは、いまひとつはっきりしてないので、それが何なのか、楽しみに書いてるって部分もあります、月が双子座だからかな、わりと楽観的に掘り進めていけそうな気もしています。
 って書いて思ったんですけど、私、蠍座と双子座のハイブリッドみたいなんで、重く、かつ軽く、生きてるし、書いてるのかな、とか思っちゃいました。

>書きものの中で言葉(象徴)をどのように取り扱うのか、どのように機能させて書き手に影響(想像)を与えていくのか、わたしが文章におけるこの機能をたくらむとき、村上さんの作品から得られるものはとても大きいし、はるかさんの今回の作品についても、わたしにとっては大きな励ましになりました。わたしともけっこう近い視点から文学を見ていらっしゃる気がしているのです、一方的な期待ではあるのですけど。

 そうげんさんのコメントとか、拝読して、アーキタイパルな話が出てきたり、ヘッセの『荒野のおおかみ』が出てきたり(私、おおかみは、二番目に好きなんです、誰でもの入場はお断り、ってあれ。ちなみにヘッセのいちばんは、私、ナルチスとゴルトムントです)、なんか、私の好きなものと重なるな、って思ってました。ヘッセ、って書いて書きたくなっちゃったんですけど、ヘッセのあの、音楽みたいな文体が好きです、高橋健二さんの訳文が好きです、ああいうメロディが書けたらいいな、って思います、私のはぶつ切りですけど、でもヘッセに憧れてるから、文章の音楽性、というか、リズムというか、韻律というか、そういうのにこだわってみたかったりします、そうげんさんも、言葉の響きに、特別な愛着を持たれてますよね、似てるとこありますね、確かに。これって蠍座の特性なんでしょうか(笑)。

 今回のそうげんさんのエッセイ、すごいことになってますね、いろんな書き手さん大集結で、しかも皆さん、すごく面白いこと語られてる、すごく饒舌に。なんか楽しいですよね、ああいうの、興味深く読ませていただいてます。そうげんさん、あの熱量に対して、ひとりで返信、おお忙しだなあ、と。そんなお忙しい中、お仕事の合間に、今回も読んでくださり、励ましてくださってありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

夜の雨
118.18.72.209

「原稿用紙127枚」読了しました。

一言でまとめると面白かった、よく書きました、というところです。
ちなみに今回の投稿分だけではなくて、前回の投稿分の「1」から読み、今回改に書いた「九~十六 完結」までの原稿用紙127枚続けて読みました。


「13」で「カエッテミレバ、コハイカニ」と、豊子の父親らしい「夏原悟」が主人公の危機を助けますが、彼がどうして現場に出くわしたのか「さりげない伏線」を前もって書きこんでおいた方がよいですね。
たとえば豊子が、父は若いころ「〇〇」界隈が好きでよくしけこんでいたとか。
一言書いておけば、伏線になります。


「12」で豊子と根岸の破局が描かれています。
破局の原因の源はこれでよいと思いますが、今までの根岸が豊子を好きだとかの流れがこの一つのエピソードで急に切断されたような雰囲気です。
もっと根岸に葛藤させた方がよいのではないかと思います。

A>帰りの車内では、根岸くんの悪口が飛び交った、当然だ、でも東京に戻り、ヨッコを降ろしたあとでチカは言った。「ほっとけない人だよね、根岸さんって」<

Aなどは、よいですね。チカさん、根岸のキャラクターよく見ているなぁと思います。また、これって、チカの人物を見る眼もあるということになりますからね。


「有限会社陽光企画」について。
これは御作通りでよいと思いますが、カマキリたちとグルで主人公が勤める会社が大手なのでゆすって金をせしめようとしていたというやり方もありだと思います。
この場合も御作のようにラストでテレビとかのニュースでほかの会社を同じような手口でゆすっていたので警察に逮捕されたということにすればよいと思います。
「有限会社陽光企画」が金に困っていたという設定です。
カマキリが陽光企画の社員の前歯を折ったとかはカマキリが言っているだけなので、嘘ということになります。
「13」で主人公をつるし上げるときに根岸に顔をけられた女の怪我をした写真と診断書などをスマホの写真で見せれば主人公を追い詰めることが出来ます。
まあ、これらの写真は創り物なのですがね。事実は大した怪我ではなくて、すでに治っていたとか。
御作を読んでみても特に違和感はなかったので、御作通りでよいと思いますが。

「青野が架空の領収書で編集費を着服していて首になった」←こちらも金がらみなので、「陽光企画」のゆすりの件はやめておいた方がよいですかね。


ラスト、根岸の死について。
根岸が珊瑚礁に浮かぶ小さな島で彼女(百合子)とリゾートバカンスというのは、なかなか良かったです。

B>オレンジ色のプロペラ機に乗っていた根岸くんが、最期に見たものはなんだったのだろう。青い空かな、青い海かな、それとも百合子さんの瞳かな。ともあれ、根岸くんは還ってしまった、空の向こうか、海の向こうか、母なる自然の懐に。<

Bが、根岸が亡くなったということになるのですが、あまりどぎつさがないのがよいですね。
だから、そのあとに根岸が主人公の元に現れますが、違和感がありません。
このあたり根岸の描き方がうまいと思いました。
ラストの主人公とチカのあいだに赤ちゃんが出来るということですが、テーマにあった、よい締めだと思いました。

御作は「産まれて育つ」環境が題材になっていると思います。

豊子、根岸の二人とも、「産まれて育つ」ところで、問題を抱えたようです。
だから主人公夫婦の赤ちゃんはきっと幸せに育てられるのでしょう。


ちなみに根岸をもっと掘り下げて「産まれて育つ」環境を描いたとしたら、文学度が高くなると思います。
今回は主人公視点で描かれていますが、根岸視点で書いても面白いのではないかと思いますね。


どちらにしろ、なかなかの作品で味わいがあり文章力も高いです。


ありがとうございました。

はるか
106.154.130.203

 夜の雨さま

 ありがとうございます。
 作品とは関係ない話ですが、最近コメント欄で夜の雨さんをお見かけしないので、まさか体調でも崩されたのでは、などと不安になっていたのですが、おかわりなくて何よりです。

>よく書きました、というところです。

 ありがとうございます、至らないながらも懸命に書き、また推敲をいたしました。

>今回の投稿分だけではなくて、前回の投稿分の「1」から読み、今回改に書いた「九~十六 完結」までの原稿用紙127枚続けて読みました。

 ありがとうございます、前半の一~八も推敲して直したものが手元にあるのですが、投稿可能な字数におさまらなくて投稿を見合わせました。ほんとうは、そちらもチェックしていただけたら、などと都合のよいことを思っていたりもしたのですが、ともあれ今回、旧原の一~八であっても、そちらから通して読んでいただけて嬉しいです。

>「夏原悟」が主人公の危機を助けますが、彼がどうして現場に出くわしたのか「さりげない伏線」を前もって書きこんでおいた方がよいですね。たとえば豊子が、父は若いころ「〇〇」界隈が好きでよくしけこんでいたとか。一言書いておけば、伏線になります。

 いいですね! その一言があるだけで、もしや悟さん? という匂わせを一段階強化することができますね! またまた遠慮なくアイディア頂戴してしまいます。野村くんの会社のある街を神保町あたりに設定していたのですが、悟さん、古本が好きで、神保町の古本屋街をめぐるのが趣味だった、とか、そんなふうにしてみようかな。

>根岸が豊子を好きだとかの流れがこの一つのエピソードで急に切断されたような雰囲気です。もっと根岸に葛藤させた方がよいのではないかと思います。

 そうかもしれませんね、あれだけ熱心だったのに、ひとつのエピソードだけで豹変しきってしまうのは、急な切断になりすぎたかもしれませんね、根岸くんに迷わせましょうか、煩悶させましょうか。

>チカさん、根岸のキャラクターよく見ているなぁと思います。また、これって、チカの人物を見る眼もあるということになりますからね。

 はい、チカについては、二章で、後から付け加えた設定が実はありまして、チカは、女性的でもある中性的な野村くんとの対で、男性的な面も持つ中性的な妻、という感じにしたのでした。チカ、なかなか侮れない眼力をもってたりするのかも。

>カマキリたちとグルで主人公が勤める会社が大手なのでゆすって金をせしめようとしていたというやり方もありだと思います。この場合も御作のようにラストでテレビとかのニュースでほかの会社を同じような手口でゆすっていたので警察に逮捕されたということにすればよいと思います。「有限会社陽光企画」が金に困っていたという設定です。カマキリが陽光企画の社員の前歯を折ったとかはカマキリが言っているだけなので、嘘ということになります。「13」で主人公をつるし上げるときに根岸に顔をけられた女の怪我をした写真と診断書などをスマホの写真で見せれば主人公を追い詰めることが出来ます。まあ、これらの写真は創り物なのですがね。事実は大した怪我ではなくて、すでに治っていたとか。

 考えもしませんでしたが、なるほど、それもありそうな話で面白いかもしれませんね。常務がカピバラ顔で知らん顔してたり、ちょっと、なんだか、陽光企画さんもあっち側の存在かも? って雰囲気ありましたもんね。最初から、野村くんをはめる遠大な計画がたてられていた、って可能性は充分あるし、むしろそのほうが自然かもしれませんね。悪い連中が陽光企画を操って、大手出版社から大きな額を引き出そうとしていた……、ああ、なんか、そっちを書きたくなってきました、このアイディアもいただいちゃうかもしれません。

>「青野が架空の領収書で編集費を着服していて首になった」←こちらも金がらみなので、「陽光企画」のゆすりの件はやめておいた方がよいですかね。

 青野(推敲前の名前は青木)氏の懲戒免職理由はなんでもよいので、こちらは簡単に他の理由にできそうです。

 つづきます。

はるか
106.154.130.203

 夜の雨さま

 つづきました。

>根岸が亡くなったということになるのですが、あまりどぎつさがないのがよいですね。だから、そのあとに根岸が主人公の元に現れますが、違和感がありません。

 はい、そのように書きたいと思いました。野村くんを派手に泣かせたり、落ち込ませたりも敢えてしませんでした。根岸くんの幻覚を見るほどまでに野村くんはやられてたりするわけだけど、根岸くんが来てたんだ、という野村くんを、そう、の一言でチカが受け入れたり、みたいなあたりも敢えてそんなふうに、あっさり書きたいと思いました。

>このあたり根岸の描き方がうまいと思いました。

 手紙にあった、幼少期の、激しすぎないわりに、心にずきりとくる、リアリティあるふたつの被虐エピソードと、幽霊くんが、愛されたかったかな、と呟くあたり、これを強烈なメッセージにしたいと思いました、だから余計にさりげなく見せてみました。

>ラストの主人公とチカのあいだに赤ちゃんが出来るということですが、テーマにあった、よい締めだと思いました。

 はい、根岸くんの生まれかわり、みたいな、ありえない雰囲気も少し醸し出しつつ、未来志向のエンディングにしたかったのでした。

>御作は「産まれて育つ」環境が題材になっていると思います。

 はい。

>主人公夫婦の赤ちゃんはきっと幸せに育てられるのでしょう。

 はい、還るべき翼は空を目指して、留まるべき脚は大地をしっかり踏みしめる、みたいな。それぞれの行き着くべき未来を、カノープスが用意してくれた、ような。

>ちなみに根岸をもっと掘り下げて「産まれて育つ」環境を描いたとしたら、文学度が高くなると思います。

 おっしゃるとおりですね。そこを、またもう少しいじってみるつもりです。直接的でなく書きたいのですが、もっと厚く書きたいです。根岸くんのさらなる掘り下げと、あと、可能ならば、還ったはずの根岸くんが「帰ってくる」エンディングを書きたい、書き直したい、と、ちょっと思ってたりします。

>今回は主人公視点で描かれていますが、根岸視点で書いても面白いのではないかと思いますね。

 はい、それもありですよね、またはチカの視点、というのも書きやすい気がしています、野村くんの内面描写があまりない話ですし、視点人物を代えることは、さして難しくない話であるようにも思います。

>どちらにしろ、なかなかの作品で味わいがあり文章力も高いです。

 書いてゆく上で大変な励みになります。慢心しないで、謙虚に、こつこつと書いてゆきたいと思います。

 ありがとうございました。

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