作家でごはん!鍛練場
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光あふれるこの場所で

 いつかずっと昔、初めて太陽を見上げたときと同じように、君の顔は直視出来ないんだ。僕は今日も息を詰めて、気づかれないように君の頰に視線を沿わせている。その、ほんのりと紅潮した頰に触れられる日を待ち続けているんだ。ねぇ、気づいている?
 一ヶ月に二、三回、君と僕は出会う。出会う、と言って良いのか分からないけれど、同じ場所で同じ空気を吸っていることは事実だ。そう、もしかしたら僕の呼気が君の肺にたどり着いたことだってあるかもしれない。僕らは会話をしたことはないけれど、視線が合ったり、すれ違ったりしたことは何度もあるんだ。運が良ければその距離はたったの50cmにもなるんだから、やっぱりこれは出会っていると言っても良いだろう。
 君はいつだって、まぶしい。たれた眉と目元。片頬に出来るえくぼ。栗色の髪の毛。僕の毛は黒いから、君のその明るい毛の色は、何だか都会的に見えるんだ。触れてみたいと思うんだ。
 話しかける勇気なんて、どうしたら生まれるんだろう。笑みとことばをを交わして、抱きしめてもらいたい。僕の心の奥底はとろりとした欲望であふれているのに、それを叶えるために行動したことは一度もなかった。ただ、見ているだけ。君の方から話しかけてくれるんじゃないか、という切ない希望で、僕の胸はぱんぱんに膨らんでいる。これまでそんな機会は一度もなかったけれど、今日こそ、なんて。
 あぁ、君がこちらに近づいてくる。僕は寝たふりをしながら、薄目で君の様子を観察する。今日もいつもと同じように、君は去って行ってしまうのだろうか。チリッ、と胸が焦げる音がする。
 しかし、いつもと同じようにはならなかった。君の嬉しそうな声が響いたのだ。
「決めた。この子にしよう」
 僕は目をいっぱいに開いて、ガラスの向こうの君を見る。君は、僕の隣の部屋の犬に笑顔を向けている。僕が欲してやまない、笑顔を。
 きゃうん、と僕は泣いた。
 店員の方へと歩いて行く君の、栗色の髪が揺れている。

光あふれるこの場所で

執筆の狙い

作者 19
124.35.151.196

掌編ですが、久し振りに書くことが出来たので感想をいただきたいです。

コメント

中野サル信長
106.173.154.115

犬がもらわれてよかったです

アフリカ
49.104.31.209

拝見しました

ショーウィンドウからみてる商品なのかなって感覚で読み進めたのですが「うん、確かに」と、手のひらを一つ叩いたのでした。

不足してるなと感じたのは周りの気配がしないところでしょうか?
これはどこ?って感じたです。

ありがとうございました

大丘 忍
218.226.234.111

高校生の恋物語かと思ったら見事などんでん返しでしたね。

19
124.35.151.196

中野サル信長さん

ペットショップはあまり好きではないです。

19
124.35.151.196

アフリカさん

読み返しました。確かに、胸中メインで周りの描写が全くありませんね。どうやって組み込めば良いのか模索します。

19
124.35.151.196

大丘 忍さん

どんでん返し、どうしても好きなんですよ。良くないですね。

はるか
106.154.131.172

 19さま

 拝読しました。
 バス通学の高校生かな、とか思って読んでいたら、意外や、そうきましたか。
 僕、がもらわれてほしかったなあ、と残念に思いました。

九丸(ひさまる)
126.179.22.185

拝読しました。
なるほど!
とは思うし、好きな話です。
でも、語り口のイメージのせいか、
『きゃうん、と僕は泣いた。』
このセリフがどうしても浮いて感じてしまいました。淀みない文章の流れに、わざと引っ掛かりを作ったと取れなくはないのですが、個人的にはもう少し。
すみません。上手くは言えないし、何か案があるわけではないのですが。

雰囲気ありますね。

拙い感想、失礼しました。

19
124.35.151.196

はるかさん

なるほど、バス通学ですか。読んでくださった方ごとに違いますね。

19
124.35.151.196

九丸さん

心情一辺倒だったのがいきなり様子の文ですものね。取っ払った方が良いのか、再考します。

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