作家でごはん!鍛練場
女衒小僧

天国への階段

『天国への階段』女衒小僧
 町を出て行くつもりだ、と幼なじみから電話があったので事情を効かせてと欲しいと彼女を公園に呼び出した。
 公園で、汐里はブランコに乗って携帯をのぞきこんでいた。僕は隣のブランコに腰掛けて彼女が説明するのを待っていたが、汐里はぼんやりとした目つきで茜色の空を眺めて黙っていた。
「家出するつもりなのか」僕は言った。
「わたしね好きな人ができたの、それで愛知まで会いに行きたいのよ、でも母が危ないからだめだって。それでね誰か男の子と一緒に行けば何かあった時に安心できると思ったの、周りにそういうことを頼める人がいなかったのよ、遼平、勝手な頼みだと思うけどお願い」
 彼女は両手を合わせ頭を下げた。明日から三連休だしそういうことなら付き合ってやるか、と僕は思った。家に電話して友達の家に泊まって勉強してくるといって、汐里にも親に電話で事情を伝えさせた。
「でも電車はもうないと思うよ」僕は言った。
「夜行バスが駅からでているからそれに乗っていきましょう」
 石ノ森駅まで向かう途中、コンビニによって煙草を買った。汐里にも紅茶を。バスターミナルに着くと僕たちは話をしながらバスを待つことにした。僕が煙草に火を点けると、汐里は顔をしかめた。
「補導される」
「大丈夫だ」
「いつから吸ってるの?」
「去年の夏」
「流行ってる?」
「そうでもないけどさ」
 僕が煙草を吸っていると、汐里がわたしにもと言った。僕は一本渡した。
「汐里が煙草を吸うなんて驚いたな」
 僕は慣れた様子で煙を吐く汐里を見た。
「去年の夏に付き合っていた人に教えてもらったのよ」
「でも学校や家じゃ吸ってないんだろう」
「ええ、普段は。でもたまに隠れて吸うの」
「ふうん」
 僕と汐里とは同じ高校に通っているわけではない。僕は県立の商業高校に通っていて、汐里は私立のお嬢様学校に通っていた。小学校までは同じ学校に通っていたが汐里が中学受験をして、それからは学校が別になったのだ。やがてバスターミナルにバスが滑りこんできた。ベンチに座っていた僕たちは立ちあがり、中から乗客が出てくるのを待って、一番奥の席に乗りこむ。
 朝には愛知の駅に着いていた。
「その人迎えに来てくれるのかい」
「家に行く約束になってるの」
 一時間後、男のマンションに着くと汐里は携帯を取り出して電話をした。もしもし。来たわ、友達も一緒に。彼女と僕はマンションのエレベーターに乗りこんだ。部屋の前で彼女は現金の入った封筒をとりだした。どうするつもりなんだと僕は聞いた。
「わたしが好きな人は男だとはいってないわよね」
 僕にはよく意味が分からなかった。部屋の中からサングラスをかけた筋肉質な男がシャツ一枚の姿ででてきて、これでいいかと袋に入った葉っぱを渡した。
「ええいいわ代金はこれ」
 彼女は十万円を渡した。
 まいど、と男はいって、ありがとうと彼女はいった。
 それ麻薬だろ、ドアが閉まり男が部屋のなかに入ると僕は急いでエレベーターに乗りこみ、彼女に聞いた。
「そうよ、たまに危ない売人がいるから、あなたみたいな人を連れてきた方が安心なのよ、でも一回ついてきたらあとは恐がってみんなやめちゃうけどね」
「いつも男を騙して連れてくんだな」
 僕は彼女が僕の知っている汐里とはずいぶん変わってしまったことにいまさら気づいた。
「これが私の好きな人、おわかり?」
 俺にも吸わせろ、と僕は強がっていった。
「ここまでついてきてやったんだから」彼女はちらりとぼくを見て少しだけよ、と言った。
 その晩はビジネスホテルに泊まる予定だったが、料金が安いからと汐里がいうので結局ラブホテルに泊まった。
 汐里は小さなころから頭がよく本が好きで勉強がよくできた。顔立ちに派手さはないものの整った顔をしていた。ベッドに鞄を投げた汐里は、さきほど買った粉のパウチを開けて、匂いをかいでいる。ほらいいにおいでしょう。僕も嗅いでみる。煙草の葉をはじめて買ったときに嗅いだ匂いに似ていた。彼女は手巻き煙草用のローリングマシーンとフィルターをとりだした。
「これなんの麻薬なんだ、まさかやばいやつじゃないよな」
「ふふふ、大麻よ」
 大麻と聞いて僕は少し安心した。大麻なら合法の国もあると聞くし、コカインやヘロインのような薬物とはわけが違うだろう。ローリングマシーンで巻いた大麻をくわえ先端に火を点けると、彼女は一気にそれを吸いこんだ。うまいのかと僕は聞いた。さあねえ吸ってみればよくわかるわ。僕は巻き方が分からなかったので、汐里に巻いてもらうとおそるおそる煙を口の中で転がし、やがて肺に入れた。しばらくそうしていたが彼女が服を脱ぎだしたので、大麻の吸いさしを灰皿に置いた。
「なにやってんだよ」
「シャワーを浴びてくるのよ。せっかくキマッたんだから。それともあたしと寝るのは嫌?」
 なぜか笑いがこみあげてきて、とまらなくなった。お嬢様で無垢な長馴染みだと思い込んでいた女の子に騙されて愛知まで来て、らりっているのだと思うとおかしくてたまらず泣けてくるほどだった。さっきルームサービスで頼んだポテトとピザを口にいれると、いつもとはくらべられないくらい美味しかった。大麻を吸うと五感が鋭くなると聞いていたがきっとそのせいだろう。シャワーがとまる音がして僕は彼女がでてくるのを緊張して待った。というのも僕は童貞だったからだ。彼女はバスタオルを巻いて出てきた。僕も服を脱いで、シャワーを浴びた。
 シャワー室からでると、すでに次の大麻を吸っていた彼女がこっちにおいでと手招きし、僕は彼女のベッドに飛び乗ってそのまま彼女の乳房をなで、陰部に指を入れた。はじめてにしてはうまいじゃない、ラリってるからかな、と汐里は笑った。僕は彼女の膣に僕のペニスを挿入するとすぐに射精した。それから灯りをつけてふたりはもくもくと大麻を吸った。半分残しておいてよと彼女はいった。
「どうして?」
「売るのよ」
 もう一回セックスをして、それが終わると彼女はぼくの腕に頭を乗せた。友達はいるのか、と僕は彼女の髪をなでながら聞いた。部屋の中にはレッドツェッペリンの『天国への階段』が流れていた。
「……ええもちろん」
「てっきりさみしくて薬に手をだしたんだと思ったんだけどな。そういうことじゃないみたいだな」
「さみしいのは遼平の方じゃないの? ねえ遼平自分のさみしさを他人のせいにしちゃだめよ、よく愛は人に与えられるというでしょう、自分が愛の手を差し伸べることは誰にでもできることよ。あなた誰かを愛することを覚えるべきよ」
「去年の夏、汐里は男と付き合って愛を覚えたんだな?」
「ええそうよ」
「俺は去年の夏、やっと煙草を覚えた。嫌な気分だったよ、臭いしタバコなんか吸っててもちっとも楽しくない、汐里、こんなことしいてむなしくなったりしたことあるかい」
「説教? 言いたいことがあるならはっきり言ってよ」
 僕は、彼女の瞳に問いかけた。
「なあ汐里、おまえ去年の夏、いったい何を覚えたんだ?」
 僕は彼女に背を向けて眠ろうとしたが、なかなか寝つけなかった。彼女は横ですすり泣いていからだ。ずいぶん傷ついてるな、と僕は彼女を抱きしめようとしたがやめておいた。残念なことに、僕はこの女を愛してなんかいない、そう思ったのだ。

              了

天国への階段

執筆の狙い

作者 女衒小僧
222.230.118.216

一生懸命書きました よろしくお願いします。

コメント

颯志
122.135.108.140

えー、めちゃくちゃ面白いのにこれで終わりですか(。-`ω-)

長編小説の序章という感じでした。雰囲気と汐里の性格がとても好きです。

ここから話を広げていったらとても面白い作品ができそう。続き書いてくださいっ!!(私得)

角田 考
210.146.167.133

世界観や伝えたいことがはっきりしていて、良い作品だと思います。
しかしいくつか指摘したい点があります
以下、指摘点
""内は本文の文章を拝借しました

●文章に違和感のある個所がある
…ものすごく細かいところですが、改善すればかなり良くなるので一応。以下、一例
→"公園で、汐里はブランコに乗って携帯をのぞきこんでいた。"文章として少し違和感がある。主語の前に修飾語を置くのは悪くないが、『公園につくと』にしたほうが読み易い。それと、"ブランコに乗って"よりも"ブランコに座って"の方が誤解を招きにくい
→"「ええいいわ代金はこれ」"のように、カギカッコ内で読点句読点がないがしろにされていることがある
●内容に少し不自然な箇所がある
…重箱の隅をつつくようですが、言っておきます
→愛知まで男の人に会いに行くのがダメなら、主人公と一緒に行くのもダメだとおもう。同性ならまだしも、異性だし

以上

女衒小僧
222.230.118.216

颯志さん感想ありがとうございます。また書きますね

女衒小僧
222.230.118.216

角田 考さん
たしかに、と思える指摘をありがとうございました。参考にして次回作を書きたいと思います。

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