作家でごはん!鍛練場
チキン

最後の思い出

バキ
 足の裏に、何かが割れたような感触があった。反射的に足を上げて、その「何か」を確認する。
 そこにあったのは、小さな白色の薄い板。プラスチックでできたそれには、見覚えがある。わたしの愛用の携帯鏡の背面だ。プラスチックの方は無事で、割れてはいなかったけれど、さっきの感触からして、鏡の方も無事だということはまずあり得ない。育ち盛りの中学生であるわたしが踏んだのだから、きっと粉々になっているはずだ。
 指で端っこをつまみ、そーっと裏返すと、やっぱり粉々で、もう使い物にならないことは明白だった。
 二年前、小学校の修学旅行。「一個は持っといたほうがきっと便利だから」と、母親が買ってきてくれたのが、わたしとこの鏡との出会いだった。百均で買った安物ではあったが、背面はシンプルに真っ白で、表面についたプラスチックの白いカバーはきれいな模様がくりぬかれていた。一目で鏡が気に入った。修学旅行だけではなく、中学校の野外活動の時にもわたしのカバンの中に収まっていた。行事の時だけではない。普段も、制服のスカートのポケットに収まり、わたしと生活を共にしていた。
 しかし今、わたしは、自分自身の足で、鏡の鏡生命を絶ってしまった。あんなに役に立ってくれた鏡を、わたしは、ただのゴミにしてしまった。
 一度そう思ってしまうと、鏡に対する申し訳なさで胸がいっぱいになった。ごめんね、鏡。ありがとう、鏡……。できることなら、立派に供養してやりたい。しかし、鏡のお葬式をするわけにはいかない。だから、せめて、わたし自身の手で、この元鏡を、処理しようと思う。
 幸い、今、家にいるのはわたしだけだ。今なら、誰にもじゃまされず、処理できる。やるしかない。
 リビングのソファーの近くにある新聞紙に包めば危なくない。よし、取りに行こう。鏡を踏んでしまったショックで動悸のする心臓をなんとか落ち着かせ、階段を降りる。しかし、最後の一段で足を滑らせる。そのまま、リビングのドアに激突。
「っ!」
痛みで一瞬息が止まる。でも、止まるわけにはいかない。痛む足を引きずり、ドアを押し開け、腹ばいになってリビングを進む。右手、左手、右手……より早く、より前へ!少しでも前へ……。手に集中しすぎたわたしは、落ちていた画鋲に気づかなかった。
「ウギャッ」
奇妙な声を上げ、腕から力が抜ける。おそるおそる手をみると、親指の付け根に針が刺さっている。血がにじむ。痛い。画鋲を引っこ抜き、机の上のボックスティッシュから二、三枚、ティッシュを引き出す。
 手が使えないので、肘を使って進む。肘が痛いが、足と手の痛みの方が上だ。汗が噴き出す。目に汗が入ってしみるようになった頃、ソファーにたどり着いた。新聞を探す。

 なかった。

 そういえば、今日は資源回収の日。新聞はもう、どこか遠いところまでいってしまった。今までのは何だったんだ。絶望で目の前がくらくなるが、こんなところで諦めては、あの世で鏡に顔向けできない。何か。何か代わりになるものは……。そう思って辺りを見回すと、ちょうどわたしが通ってきたところに赤い筋が見えた。血……。
「キャーーーーーーーッ」
思わず叫ぶが、よく考えれば血をつけた犯人はわたししかいない。思い当たるのは、さっきぶつけた足の指。ちらりと指をみると、やっぱり血が出ていた。爪が、かなりひどく割れている。普段なら大騒ぎするところだが、今日は、もうこれくらいでは驚けない。自分でも驚くほどの冷静さで、ティッシュを探す。ソファーの前のテーブルの上にティッシュを見つけ、手を伸ばす。不安定な体勢なので、手が震える。もう少し前、いや、左、ああ、行き過ぎた、右だっ、そう、そこーっ!必死の思いでティッシュをつかみ取る。こんなに必死にティッシュをとったのは初めてだ。ほっと気が抜けたわたしは、自分が不安定な体勢であることを忘れていた。バランスを崩したわたしの手は、そばにあったコップにあたった。コップが吹っ飛んだ先に、わたしは倒れた。熱いコーヒーの雨が降り注ぐ。
「あだだだだだ!ウギウギャアアアア」
謎の言葉を叫び、転がり回る。熱さがマシになったとき、わたしは足のことを思い出し、慌てて止血をする。ティッシュを足の指に巻き、手当完了。
 さて、新聞紙を使うという計画は失敗に終わった。しかし、ここで諦めては女が廃る。何より、鏡に申し訳ないし、今までの被害を考えると、ここで終わってはもったいない。仕方ない、アレを使おう。ボタン一つですべてを吸い込み、きれいにしてしまう家電、掃除機を。
 肘を使って、掃除機の置いてある物置へ進む。肘が痛いが、あと少し。なんとかたどり着き、勢いよく扉を開ける。すると、その勢いで中においてあった古い花瓶が落ちた。スローモーションの映像を見ているかのように、ゆっくりと、花瓶は落ちる。
「あっ」
わたしが小さく声を上げると同時に、ガラガッシャァンと花瓶が落ちた。跡形もなく無残な姿になった花瓶を目の前に、ため息をつく。とりあえず充電式の掃除機を取り出し、スイッチを入れた。ウィ~ンと弱々しい音を立て、掃除機は動く。が、すぐに力尽きた。
 そういえば、これが充電されている現場は、ここ数日みていない。しかし、充電プラグの場所など知らない。
 八方塞がりか。もはやこれまで、おとなしく引き下がるか。
 いや待てわたし!アレだ、ティッシュだ。今日も幾度となくわたしを救ってくれたティッシュて包めばいいじゃないか。我ながらナイスアイデア。最後の力を振り絞り、階段を上る。部屋に倒れ込み、ティッシュを引っ掴み、鏡の破片を一枚一枚、丁寧にティッシュに乗せていく。そして、最後の一枚を乗せ終わった。
「ありがとう、鏡」
今までの感謝を込めて、わたしはティッシュをたたみ、ゴミ箱にそっと入れた。
 それから、花瓶の破片やこぼれたコーヒー、あちこちに付着した血痕のことを思い出したが、疲れたわたしは、とりあえず休憩、と、ベッドに横になった。

 帰宅した家族が、その惨状を目にして驚くのは、まだもう少し先だ。それまでは、鏡との最後の思い出を、ゆっくり一人で味わっていたい。
〈FIN〉

最後の思い出

執筆の狙い

作者 チキン
60.99.164.127

 初めまして、チキンです。テストが終わったばかりで頭がいかれてる若輩者の中学生の書いたものですが、時間がありましたら読んでいただければうれしいです。
 本当にしょうもない、中身のない話ですが……。

 この文章、中二としてはどうなんでしょうか。正直な意見、お待ちしております。

コメント

録画予約
61.215.1.97

高い文章力と表現のセンスをお持ちだと思います。物語としての面白さには少し欠けるように感じましたが、滑らかさとユーモアのある文体には独特の魅力があって、次の一文、先の展開を読み進む楽しさを味わえました。
以下は雑感です。

・序盤のどこかで、「ガラス」や「鋭利」、「尖った」などの言葉を使っておくと、鏡が割れたのだという状況の危険さを補足しやすくなるように感じました。

・家に一人でいる、という設定が『邪魔されずに割れた鏡を処理できる』事にどうつながるのかが分かりにくいです。


次も頑張ってください。

大丘 忍
218.226.234.111

文章としては良いと思いますが、小説を書くならストーリーを練ることでしょうね。つまり、「物語性」を持たせることだと思います。桃太郎が鬼退治をする、サルとカニが喧嘩をする、水戸黄門が諸国を漫遊する。それぞれ物語がありますね。
あなたの文章で物語を作れば面白い小説が書けると思いますよ。

チキン
60.99.164.127

録画予約さん、お読みいただき、ありがとうございました。
>高い文章力と表現のセンスをお持ちだと思います。
ありがとうございます。

>序盤のどこかで、「ガラス」や「鋭利」、「尖った」などの言葉を使っておくと、鏡が割れたのだという状況の危険さを補足しやすくなるように感じました。
たしかに、危険な感じを出す言葉を入れておいた方が理解しやすかったですよね…。情景描写をもっと工夫していきたいと思います。

>家に一人でいる、という設定が『邪魔されずに割れた鏡を処理できる』事にどうつながるのかが分かりにくいです。
すみません、説明不足でした。危ないから、って感じで親に止められることがないって意味で書きました。

もう少し丁寧に書いていきたいと思います。
ありがとうございました!

チキン
60.99.164.127

大丘忍さん、お読みいただきありがとうございます。

確かに、中身のないしょうもない話になりました…。
もう少しストーリーを練って、物語性を持たせて行けるようにしたいと思います。
ありがとうございました。

夜の雨
118.18.72.209

時間がありましたら読んでいただければうれしいです。  ←時間の概念は宇宙創造の真理にも等しいので、とりあえず小難しいことは考えずに、感想を書きたいと思います。

御作からイメージすると作者さんの考える「面白さ」というのは「ドタバタ劇」的なことを面白いと考えているのではないでしょうか。
昔あった「どつき漫才」とか。
漫才で相方がずれたことを言うと、「どつく」そうすると、そのアクションで観客は「笑う」。
そういった「笑い」が、真実の面白さだと思っていませんか。
こういった笑いはほんまモノではありません。
文学的なほんまモノの笑いは計算されたものです。
例えば落語、落語はネタを計算して創ってあります。
「どつき漫才」とは、一味違う。

で、御作は「どつき漫才」の部類です。
アクションの面白さで観客を笑わそうとしている。
だから「子供だまし」ということで「中二」だよなぁ、この年齢だから仕方がないよなぁ……。
ということになりかねません。

御作は携帯鏡を踏んずけて割れたということでしょう。
それで
「できることなら、立派に供養してやりたい。」「しかし、鏡のお葬式をするわけにはいかない。」 ←こういった、無難な発想になっています。
「無難な発想」は、面白くありません、ありふれているので。

じゃあ、どうするのかというと「100円ショップで買った」「携帯鏡の供養をする」と、面白くなります。

「携帯鏡の供養をする」 ←供養するといっても色々な方法があると思います。具体的に「なむあみだぶつ」とやる方法と、もう一つは「思い出して」やる方法です。


結論から書きますが、内面描写を書くべきだと思います。
御作の鏡は顔を見るためのものです。
だから、その顔を見るときのエピソードを関連付けて内容を書くとよいと思います。

どんなエピソードが良いのか。

この携帯鏡は主人公の女の子「A」が小6の修学旅行のときに母が買ってくれたものですよね。
思い出の修学旅行に関連付けたエピソード。
修学旅行で部屋割りのクラスの女の子四人いたとしたら、寝る前にみんなで楽しいおしゃべりをしていた。
たとえば好きな男の子はいるのかとか。
そういったときに友人「B」に「A」はだれだれ「C」が好きなんでしょうと見事に当てられ「顔が赤くなる」。
それを指摘される、主人公は拒む、それで母に買ってもらった携帯の鏡を見ると「顔は赤くなっていない」。どうしてかというと、主人公の拒む心理を鏡が反映していたからだった。
実際は顔は赤くなっていた。
現在の主人公Aがその時のことを思い出して鏡に感謝する。(鏡は味方をしていてくれた)。
要するに鏡とAは表裏一体、内面を映し出していた。

こういったことを書けば鏡の供養になると思います。
作品を深くするにはこのエピソードに関連してAは当時の友人Bに電話をかけて小6の修学旅行の話をする。
Bと当時の話で盛り上がる。
実はBはCを好きだったので照れ隠しにAがCを好きだとか、またはCがAを好きだとか、話をふったという内幕を話され、Aは驚く。

それもそのはずで、Aは修学旅行でのCの話がきっかけになり、学校でCを意識するようになり、鏡でよく自分の顔を見ていた。
その鏡に教室の離れたところにいるAが映っていた。
クラスメイトにAちゃん、鏡ばかり見てどうしたのよと声をかけられ「ニキビができたのよ」とか言ってごまかす。

上のように主人公Aの思春期の思い出に携帯鏡を関連付けて活躍させる。

ほか、修学旅行だと、寝ている間にクラスメイトに顔に落書きされて、起きたときに携帯鏡で落書きされた顔を見て、クラスメイトと一緒に笑ったとか。


修学旅行のほかにも家族の話と関連付けるとか。
たとえば、父が遠いところに赴任する。
で、父と主人公Aとの父娘関係の話に鏡を関連させる。
家族団らんのところで鏡を見ているAに「ボーイフレンドでもできたのか」とふられて、父のことをうっとおしく思うようになるとか。
その父が赴任するので仲直りする修復をしなければならないのに、なかなかできないAだったりする。Aは自分の部屋で鏡を見ながら自己嫌悪に落ちる。

祖母の死と関連付けるとかもあり。病院で顔を見たいというので、携帯鏡で口紅を塗った祖母の顔を見せたら喜んでくれたとか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
こういった人生の節目のようなエピソードに鏡を関連付けると話は広がると思います。
その鏡を踏んづけて壊してしまった。
100円ショップで母に買ってもらったもので、代わりはいくらでもあるが、「Aの人生を知っている鏡の代わりはない」。
ということで、思い出すことで供養になるという話でした。


ここからなんですよね。作者さんの個性を出すのは。
御作では鏡の供養とあわてんぼうのアクションによる主人公の怪我を関連付けて面白さを出そうとしています。
この「アクション」と「あわてんぼう」の個性的なところと、私が上に書いた修学旅行とのエピソードや父や家族とのエピソードを構成すると、作者さんらしい物語が書けるのではないかと思います。


それでは、頑張ってください。

チキン
60.99.164.127

夜の雨さん、お読みいただき、ありがとうございます。

実はこれは一部実話で、作者も鏡を割ってしまったことがあり、そこから、中途半端に膨らませて書いたものです。主人公の行動を、私が過去にやったことのあるドジを参考にして書いたので、ギャグ系の話になってはいますが、笑わせるつもりの話を書こうとしていたわけではありません。(結果的にはそうなってしまったので、単なる言い訳ですが)

夜の雨さんにいただいたアドバイスの、たとえば修学旅行をもう少し膨らませる、とか、お父さんの話を出す、とかは、私も思いつきませんでした!確かに、話として面白みが出ますね!必死で供養する理由もできますし、鏡を割ってそれを供養するってだけの話に、深みが出る!すごく納得しました。

今まで小説を書いてきて、私はどうしてもおもしろい系に走ってしまうので、それなら「ちゃんと計算された、ギャグじゃないおもしろさ」をもっと書いていけるようにしたいと思います。

夜の雨さんを含め、今までにいただいたアドバイスを読ませていただくと、やっぱりこのまま終わらせるのはいやなので、アドバイスを元に改めて書き直してみようと思います。
時間があれば、それもまた感想お願いします。時間があればでいいので……。

丁寧なアドバイス、ありがとうございました。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

テクニカルサポート

3,000字以内