作家でごはん!鍛練場
られんか

夜の部屋で

「俺さ、スティングレイが好きなんだよね」
「ああ、WASP(ワスプ)の特撮だっけ?」
「うん」

 真中はテレビに映るサンダーバード二号から、琳音に目線を移す。暗闇に映るテレビを光源にして、三限色の光を浴びる琳音の白い肌は荒々しい色に色を変えていく。サンダーバード二号がトレーシー島から飛び立つ時に舞う埃が、琳音の顔をどこか埃っぽいものに変えた。

「真中は言葉って必要だと思うか?」
「必要じゃないの? 私は誰かに指示されないと何もできないから、クラスの行事には基本参加しないの。『絶対』という言葉が付いたら出る。付かなかったら出ないよ」
「お前は文字通りに受け取る人間なんだな。今だって間を取らずに話しただろ」
「当たり前よ。『間』が分からないから。理解できないから。だから会話は苦手だし、相手の気持ちを汲み取るのも苦手。嫌いなんじゃない。苦手なの」
「そうか……。スティングレイに出てくるマリーナは人間じゃないんだ」
「どういうこと?」

 真中はスマートフォンを取り出してスティングレイについて調べだす。スマートフォンに注視してマリーナの画像を探すと、そこには人形と似た顔をした女性の古い写真が上がってきた。

「マリーナって、これ?」

 真中が琳音にスマートフォンの画像を見せつけると、琳音は少し微笑んで真中の肩を叩いた。そして彼はマリーナについて説明を始めた。

「あのな、マリーナは言葉を持たない種族なんだ。海底で奴隷にされたのを救われて、WASPのメンバーになって活躍するんだ。写真は多分シルヴィアさんだな。ジェリーさんの奥さんだった」
「そうなの……。それにしても、よく似た人間と人形だよねえ」
「話題をそらすな、話題を。言葉が無くても通じ合える種族って、もしあったらいいよなあ」

 琳音はどこか寂しそうな顔をして、真中に笑いかけた。真中はその意図が理解できずに、琳音に聞いた。

「言葉が無いって、それって死んでるも同じじゃないの?」
「だからマリーナの父親は手話を使って自分の心を表現する。言葉が無くても、手を使って自分の心を表したい。それくらいに強い意志のある男ってことだ。そしてWASPの団員たちともそれくらい親しい仲、ということだ」
「ふうん……。マリーナに憧れるほど、言葉がいらなくても通じ合えた人って君にはいたの? 私と初めて会った時、琳音くんは雨峯公園に向かってたけど吐きそうだったんでしょ? それなら家に戻りなさいよ。コンビニは駅に近いし、琳音くんの家も駅前なんだから、そっちで吐けばよかったのに……」
「なあ、真中。お前、怒ってる?」

 琳音は何かを怖がった顔をして真中の手を取った。琳音の瞳には真中しか映っていなかった。その黒い瞳を見た真中は、少し微笑んで琳音の頭を撫でた。

「怒ってないよ。ただ、疑問に思っただけなんだ。緑のレインコートを着た琳音くんが、コンビニで体型に合わない量の買い物をしてたから、不思議に思っただけ」
「そうか、よかった……。なあ、真中には話さないと分からないみたいだから教えるけど、俺には昔、話さなくても通じ合える人がいたんだ。逮捕されちゃって、今はどうなってるか分からないけど」
「……そう。誘拐事件の被害者だったもんね、琳音くんは。その人と心を通じ合ってたの。でも誘拐犯と心を通じ合うなんて、そんなの琳音くんが見た幻想じゃないの?」

 すると琳音は眉を潜めて、ベッドに座りこんだ。誰にも分かってもらえないことを苦痛に感じているようだ。それだけが真中に分かったことだった。

「ねえ。そんな人のことは忘れて、私を見てよ。いま目の前にいる女の子。太ももが太くて、黒いニーソを履いた同い年の女の子よ」
 そう言って真中はその太ももを琳音の脚に寄せた。細く筋肉質な琳音の脚と、肉が少しついた真中の太ももは、太さになかなかの違いがあって、お互いに性別から違うことを証明していた。
「琳音くんの女装は素敵よ。私みたいなフィリピーナ風の顔より、女の子らしさが良く際立つわ」
「なあ真中。今のお前、すっげえキモい。峰不二子気取りか?」
「違う。男とどう接すればいいか分からないからこうしてるだけ」
「そう。どうやら俺はお前より男との恋愛経験が豊富みたいだな」
「私は恋も友人との接し方も知らない、変な子ぶった普通の子です!」

 真中が大声で言った。彼女はフィリピン人にいそうなその東南アジア顔で、外国人のように顔の全てを使って感情を表現する。

「いや、世間から見ればお前も俺も変な奴だよ。俺は過食嘔吐はするし、リスカもする。お前は特別支援学級出身のお嬢様」
「ああ。琳音くんからみれば私はお嬢様に見えるのね」
「世間知らずなところが特にな」
「ねえ琳音くん、あんた世間がクソばかりだって思ってるでしょ」

 真中は微笑んで琳音の頬に触れる。柔らかい真中の手が琳音の少しやつれた頬に食い込んで、歯の感触まで真中の指に覚えさせた。

「ちげえよ。俺は幸せ者だった。お前は知らないかもしれないがな」
「左目をえぐられても、親にタトゥーを刻まれても、誘拐犯と日本中を逃げまわっても、知らない男にレイプされて殺されそうになっても、今のように病んでいても幸せな人生?」

 琳音が真中の腕を掴んで手を繋ぐ。頬にさされた真中の指を離して、彼は自分の人生を振り返った。

「人生のほとんどは、お前から見れば不幸だったかもしれない。でも誘拐されてた時期も含めて俺は幸せだったんだよ……。山王先生は俺に血を吸わせてくれた。何度も何度もそれを繰り返して、日光を浴びれなくなって。大津で捕まったときには弱くなってた」

 琳音が涙を流しながら真中に説明する。真中は琳音の黒い瞳から流れる涙を見て、『美しい』とただ感じることしかできなかった。それでも、彼女は自分なりに自分の感情を伝える。

「琳音くん。ごめんね。山王先生のことを『誘拐犯』って言って。私たちは今日初めて出会って、こうして琳音くんの部屋に泊まってる。でも、まさか琳音くんがそんなに先生のことを思ってたなんて。もっと君のことを考えるべきだったな」
「そうだよ……。なあ真中、さっきマリーナの話をしたよな。もしかしたら俺、お前とならWASPとマリーナのようになれるかなって。そんなことを考えてしまったよ」
「ええ、どうして?」
「お前、優しいし自分がなさそうだから。でもWASPは自分たちのミッションがあるけどな。そこだけが違う点かな」
「まあ、WASPってアメリカだとエリートを指すスラングでしょ? 私ってエリートでもあるんだ」
「空気を読め、このずぶ濡れニーソ」
「私ってニーソしかないのかいっ!」

 真中のツッコミに琳音が笑う。その様子を見て、真中も思わず微笑んで言った。

「あーあ、サンダーバードが終りかけてる……」
「もう一度みようぜ。この町でサンダーバードのことを語り合えるのは、お前くらいしかいないからな」
「うん」

 琳音が涙を拭いて、DVDデッキをいじる。こうして真中と琳音はサンダーバードの同じ話を何度も観続けて、朝を迎えたのだった。

夜の部屋で

執筆の狙い

作者 られんか
126.64.80.64

元々は二次創作として書いていた話だったのですが、なかなか原作と乖離していました。
そこで、時間をかけて頭の中で考えて吸血鬼病の文化や勢力などについて考えた上で整理し、話の断片だけを書いてみました。
話が分かりやすく、かつ海外ドラマ的な雰囲気が伝わればいいなと思います。
よろしくお願いします。

コメント

偏差値45
219.182.80.182

>話が分かりやすく、かつ海外ドラマ的な雰囲気が伝わればいいなと思います。

残念ながら。

>「俺さ、スティングレイが好きなんだよね」
>「ああ、WASP(ワスプ)の特撮だっけ?」
>「うん」

なんの話なのか、理解できませんでした。
また、直ぐに誰の台詞なのか、理解できないのは問題ですよね。

>真中はテレビに映るサンダーバード二号から、琳音に目線を移す。暗闇に映るテレビを光源にして、三限色の光を浴びる琳音の白い肌は荒々しい色に色を変えていく。サンダーバード二号がトレーシー島から飛び立つ時に舞う埃が、琳音の顔をどこか埃っぽいものに変えた。

ここで人物名が登場するわけですが、フルネームで書けば、男女は推定できるので、
分かりやすくなるのではないかと思いました。
問題があるとすれば、苗字なのか、下の名前なのか、判別できないので、
物語の途中でイメージチェンジを求められる可能性があるわけです。
個人的には、琳音が『サンダーバード』の登場人物かな、
と思ったりして、分かりにくいですね。

全体的にはよく分からない人たちがよく分からない話をしている。
そんな感じですね。かなり読者を選ぶ作品ではないでしょうか。

そうげん
58.190.242.78

海底大戦争も、サンダーバードもちゃんとは見たことがないので、wikipediaでこちらの不足している知識を補いながら読みました。

テレビシリーズで言えば、中学時代に「スタートレック」や「V(ビジター)」を深夜放送で見ていました。宇宙生物が出てきたり、光線銃が出てきたり、異星人とのコンタクトがあったり、日本は戦争をしない国になりましたが、SFの世界における戦闘には、やはり未知のものをみるわくわくした気持ちがありました。

マリーナの名前から、真中と琳音の名前は取られているのでしょうか。琳音の字の並びから、勝手に、こちらが女性だと思ってしまった勘違いで、途中で「?」となり、ふたたび最初からイメージを刷新して読み直しました。

言葉を用いずにやりとりができれば素敵だということは、言葉に頼っても自分の思っていることをストレートに表現できないもどかしさのあることを示しているようです。魔の取り方はわからないけれど、言葉を費やして、素直に表現し、素直に受け止めようとする真中のキャラクターと、もう言葉ではどうしようもないと思って、言葉に信頼することもできないでいる琳音とのコンビには、この先はちゃんと続いているだろうかと不安になることもありました。

レインコートを着て大きな買い物をしていた琳音と、(たぶん)傘もささないで外にいた真中と、ふたりは互いに社会では居場所を見出しにくい立場にあって、ともに似たものを感じ取ったからこそ、一緒にDVDを見ることにしたのでしょうか。想像するしかないけれど、古い特撮作品を選ぶところにも、なんらかのこだわりがあるようにも見受けました。

琳音の《でもWASPは自分たちのミッションがあるけどな》の言葉は、琳音にも、こころの片隅には、自分もWASPのようになにかミッションを与えられたかったという希望があって、マリーナのように言葉は交わさなくても、自分のことをちゃんとわかってくれる人と一緒に、いつもいられればいいなと、そんな風に思っていたんでしょうか。

サンダーバードは何話か、ほかのことをしながら裏でテレビで流れていたことがありましたが、わたしはあまりよくわかりません。ただ、二人が暗い部屋で、テレビから射してくる映像の光に顔を照らされて、音と光のなかで、さぐるように、ぶつけるように、互いに話をしている情景が目にうかびました。

そうげん
58.190.242.78

誤字をしました。

魔の取り方 ⇨ 間の取り方

られんか
106.132.87.123

偏差値45様

読んでいただいてありがとうございます。
さっそく批判的意見をいただいて、深夜に書いて酔っていたわたしの目が覚めました。

この話は前に「雨でずぶ濡れになった真中を女装少年の琳音が泊めることにした」という前提がございます。
それを自分の頭の中でのみ理解していたため、このような結果になったのだと思います。

わたしは極力「地の分で説明はしない」、「空気感を出す」ことを目標に書いていますが、なかなか上手くいかないものですね……。
ネットプリントで印刷する小説という形で書くつもりでいるため、また先述の前提を添えて書き直してみようと思います。

られんか
106.132.87.123

そうげん様

読んでいただき、ありがとうございます。
この作品自体わたしの趣味が詰まった作品で、私はサンダーバードが好きなのでさっそく作中の登場人物にイギリスの特撮を見せました。

真中も琳音も社会的にはしごを外された。そう自分で考えている思春期の子供で、真中は「会話の間を理解できない」、「言われた通りにしか動けない」ことに悩み、琳音は自分を引き取った養親のことを信じられずに、誘拐犯で幼い頃の自分をバイトで子守して、担任の教師でもあった山王先生のことが忘れられません。

実際この小説には書かれていませんが、琳音は医師である養父に国家未承認の薬を毎晩注射されて、元々悪かった精神疾患をさらに悪化させています。
お互いにハシゴを外された。そう考えている真中は自分をなんだかんだ言ってフォローしてくれる琳音を気に入り、やがて片想いします。

このふたりの仲が続いていくか、書いている途中私も不安でしたが、なんだかんだ孤独を共有し合う仲なのでお互い喧嘩もしつつ、助け合うこともあるでしょう……。

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