作家でごはん!鍛練場
大丘 忍

金曜日の夜

 六十台になると子供たちは巣だって夫婦二人の生活となる。
 若い頃は毎日でもセックスは可能であったが、この頃になるとさすがに毎日はしんどい。二日くらいの中休みが必要となった。
「プロ野球のピッチャーでも中休みが必要やもんね。私はキャッチャーやから毎日でもできるけど」
 と女房も納得した。
「でもこんなに何回もセックスして体にわるくないの?」
 女房は私の健康状態を心配している。
「若い頃月に二十回以上セックスした男と、それ以下の男と前立腺がんになる率はどちらが高いと思う?」
 私の問いに女房が顔色を変えた。
「そんなら私らは二十回以上やってたやんか。あんた前立腺がんは大丈夫? これからもっと控えなあかんね」
「そうやな。人並みに月に三回くらいにするか。週三回やのうて月三回やで」
「えらい少ないけど……。我慢せな仕方ないね」
 女房がため息をついた。
「お前は我慢できんやろ。まあ、今までどおり週に三回にしたるわ」
「そんなん。あんた前立腺がんになったらえらいことやんか」
 私は笑いながら言った。
「正解は、二十回以上セックスしたほうが前立腺がんは少ないんや」
「うそやろ。私はセックスせんでも我慢するから」
「お前に我慢できるわけないやろ」
 私は大笑いした。
「心配するな。本当や。お前をからかっただけや」
「もう、いじわる」
 女房は目を丸くしたがすぐに抱きついてきた。

 七十台になると、週に一回、多くて二回くらいになったのは仕方がない。女房はセックスが好きで、セックスした翌日は明らかに機嫌がよいのがその証拠だ。慎み深い女房は自分からセックスしてくれとは言わないが、雰囲気でなんとなくわかる。もちろん私の方から仕掛けるので女房から要求する必要はなかったのだが。
 七十台中頃に入ると、金曜日は一週間のうちで一番嬉しい日となった。この日の夜は女房とセックスをすると決まっているからだ。金曜日に決まった理由はとくにはないが、いつの間にかそのような暗黙の了解ができていた。もちろん金曜日でなくてもその時の雰囲気でセックスすることはあったのだが、歳をとると若いころのように、いつでも、いくらでもというわけにはいかない。自然に週に一回となり、それが金曜日になったのである。
 金曜日になると夕方の片づけを早めに済まして女房が寝室に上がってくる。この時は、寝巻の下には下着をつけていない。ベッドに横たわると私は黙って彼女の下半身に手を伸ばす。乳房、小陰唇、クリトリスなどいつものとおりに前戯をする。

 ある時ちょっとした口論があった。女房とはめったに喧嘩することはないが時に口論することがある。たいていは私が負けてごめんと言うことになるのだが。
 たまたまその日は金曜日であった。いつものように女房が上がって来たが私は手を出さない。女房も口論していたことに気が付いたようだ。何時まで経っても私が手出ししないので、寝返りする振りをしてさりげなく私の下半身に手を触れて勃起を促している。
 九時を過ぎても私はまだ手を出さない。女房の挑発行動はだんだん露骨になる。口論で私が腹を立て、性交を拒否していると思ったのだろう。女房がごめんと一言言えば直ちに行動に移ろうと思っていたのだが、頑固な彼女は簡単には言わない。意地の張り合いになった。十時を過ぎた。女房の息が荒くなっている。私はそっと膣口に触れてみた。べとべとに濡れている。一言ごめんと言えばすぐに抱いてやるものを。でも若い時から彼女が頑固なことはよく知っている。しかしこれだけ濡れているのにほっておくのは可哀想になった。
 私はいつものように愛撫を開始した。女房は身をよじってすがりついてくる。
 ひときわ高い声を立てて果てたとき、
「ごめんね」
 と彼女は呟いた。どうせ言うならもっと早く言えばよかったのに。私は彼女をちょっと困らせようと思っただけでいじめようなんて思ってはいない。しかし、これからは口論しても負けっぱなしと言うことはないだろう。相手にはこんな弱点があるのだ。
「あんた、ずるいよ」
 次の金曜日の夜女房が言った。
「何がずるいんや」
「私のこれを人質にとるんやもの」
 彼女は私の手を股間に導いた。そこは既に濡れている。
「いやなら断ればええやろ」
「私が断れんことを知ってるくせに」
 それにしても随分セックス好き女になっているもんだ。
 七十になってこんなに濡れるなんて。
 女は更年期が近くなると膣粘膜が委縮して濡れにくくなるのだが、女房には粘膜の萎縮はないと婦人科検診の医師が驚いたそうだ。そのせいか、外見も肌も二十歳以上若く見える。
「お前はえらいセックス好きな女やね」
「こんな女に誰がしたんや」
「責任は感じている。まあ、わしが生きてる間は何ぼでもしてやるからな」
「けど、歳をとると立たんようになるんとちがうの」
「その時はバイアグラという手があるから心配せんでもええよ」
「それなら安心、あんた、長生きしてよ」
 とは言うものの、八十台になっても出来るかどうかはわからない。その歳でバイアグラが効くのだろうか。その頃には彼女のセックス好きも少しは落ち着いているだろう。

                 了

金曜日の夜

執筆の狙い

作者 大丘 忍
218.226.234.111

フリーセックスも良いかもしれないが、相手は一人でもこんなセックスの方がいいと思いますね。
バイアグラは何歳まで効くのやら……

コメント

からから
49.98.141.35

気持ち悪いです。

偏差値45
219.182.80.182

>「プロ野球のピッチャーでも中休みが必要やもんね。私はキャッチャーやから毎日でもできるけど」

表現は良いとは思いますが、
人によって違うかもしれないですね。

>フリーセックスも良いかもしれないが、相手は一人でもこんなセックスの方がいいと思いますね。

流石に飽きるかな。

全体的には、「セックスのすすめ」ということでしょうか。
それにしても高齢者のセックスは想像したくないかな。
面白いか? と言えば、「いいえ」かな。
ほとんど会話文ですからね。単調な感じがします。

田中一郎
219.117.13.241

ごめんなさい……。
気持ち悪いですね。

今井舞馬
124.100.127.19

拝読しました。セックスは個人的にはエモい行為だと思っているので、老夫婦がしていても別に気持ち悪いとは思いませんでした。いつまでたっても愛を伝えあえるのは素敵だと思います。いい短編読ませていただきました。ありがとうございました。、

大丘 忍
218.226.234.111

からから様

高齢者だから? それは大きな誤解ですね。 

大丘 忍
218.226.234.111

偏差値45様

セックスに関して個人差が大きいのは当然ですが、ここでは小説ですからやや誇張しております。まあ、若い人には想像できないとは思いますが。
読んで頂き有り難うございます。

大丘 忍
218.226.234.111

田中一郎 様

読んで頂き有り難うございます。高齢者にもセックスはありますよ。個人差は大きいのですが。ちなみに、高齢でもセックスをするほうが健康に良いことが証明されております。

大丘 忍
218.226.234.111

今井舞馬 様

読んで頂き感想をありがとうございます。小説ですからやや誇張しておりますが、高齢でもセックスは大切な営みです。若い人には理解できないでしょうが。

からから改め1/2
49.98.141.35

作者が作中人物と同じ地平に立とうとせず、作中人物の状況や心境を蔑ろにする姿勢が気持ち悪いのです。

感想は書かずとも鍛錬場の作品には一応目を通していますが、大丘さんの印象は「どんな話を書いてもおんなじ」で、上で述べたことが理由になります。

かつてNさんが「読者は主人公の目をフィルターとして作品世界を覗き込む」というようなことを大丘さんに言っていましたが、あれはとても大事なことでした。
いつも大丘さんは、大丘さん自身の目が読者にとってもフィルターとなることを前提として書かれているようです。なので貴方が書かれるものは貴方自身の思考から一ミリも離れないので、どんな話を書いてもおんなじだ、ということになるのだと私は思います。

大丘 忍
218.226.234.111

からから改め1/2様

これは非常に難しいご指摘ですね。自分としては、作中の人物の心境をないがしろにしているつもりはないのですが、読者がそのように受け取るとすれば大いに反省すべきだと思います。
次作にはそのような点に留意して推敲をしてみたいと思います。ただ、私は社会的経験が乏しく、自分の経験(狭い範囲)しか書けないという難点がありますので、もしお気づきでしたら指摘して頂ければありがたいと思います。
読んで頂き感想をありがとうございます。

月野 夜
219.102.246.215

読ませてもらいました。

誤字を見つけました。

六十台→四十代なのではないでしょうか。

頑張ってください。

大丘 忍
153.186.197.93

月野 夜 様

六十台、この台は代が正解なのでしょうね。ただ六十という数字は間違っておりません。四十代であれば、殆ど毎日でも可能ですよ。もちろん、人によりますが。

日本人の既婚者の性交回数を調査した報告がありました。20数回ですね。私は一カ月の回数かと思ってそんなものかと思いました。ところがこの回数は一年の回数なんですね。下から二番目の国でもこの倍以上の回数です。このように日本人はダントツで世界一少ないのです。
なぜこのように少ないのか、私は今でも不思議に思うのですがね。若い方にお尋ねしたいところです。

読んで頂き有難うございます。

千織
111.87.58.25

味わいがないかな。
フリーセックスより夫婦の間でいつまでも末永く互いの肉体に惹かれあうことができる、そういうセックスの良さを読者に訴えかけているのでしょうか。もしそうであれば、そこは伝わりませんでした。むしろ単に性欲の強い60代の夫婦というふうにしか受け取れませんでした。で、そういうふうに受け取ってしまうと、なぜ、彼らはスワッピングとか、他の男女のセックスには興味を持たないのか、そこが不思議になってしまうのです。確か外国映画の中で「女は浮気するために男と結婚する」というセリフがあって、確かに、そこ、分からないでもないかな、と私は思っているので。
というのはやはり未婚の女にとって性病も怖いですけど妊娠も怖いわけです。ハードルは高いので男のように風俗で筆おろしとかあり得ない。今ほどハードルが低くなってない時代であれば処女喪失の手っ取り早い近道はやはり結婚だったでしょうね、と思うのです。そして当然、よほどのテクニシャンの男にでも巡り合わない限り、最初のセックスでは激痛体験の方が強いでしょう。なんだ、こんなもんか、という失望感も大きいでしょう。快感を得られるまでにはそこそこ長い道のりが待ってるわけですよ、女の場合。
離婚の理由にある性格の不一致とは要は身体の相性が悪かったってことだよね、とそこ暗黙の了解事項と知るのは既婚女性になってからですから。
で、まあ、作品の中の奥さんは夫大好きで他には興味が無いという設定なんでしょうけど、それだと読者の私はつまらないんです。大好きかどうかは脇に置いても、それだと平凡な日常と何ら変わらない。小説はどこか自分ではできない経験を主人公がしてくれているところに醍醐味があると思うんですよ。ここではないどこかへ私を連れてって感を求めて小説を読むってところ、あると思うんですよ。そういう部分が足りないかなあと思います。
まあ、どうしても夫婦でのセックスこそ素晴らしいというところが描きたいのであれば、やはりそこは対比できるものを配置していただかないと、と思います。そうでないと、なぜこの奥さんが夫とだけのセックスに固執するのか、分からないな、と思ってしまいます。だってセックスそのものが好きなだけなら、他の男をなぜ試さない!? と思ってしまうし…。
後は夫婦だからこそ出来る体位とか? 秘儀? とか? 読者にとって「へー、そういうの夫婦でありなんだ」とか思えるような新しい何かを提示してもらわないと、やっぱり、面白さは感じられないのです…。
面白いとか感動とかって、「発見」があるときじゃないですか? そんなふうに思いました。

大丘 忍
153.186.197.93

千織 様

ポルノ小説的に書けば、性交体位や喘ぎ声などそれらしく書くところでしょうが、ポルノ小説という意図はありませんのでそんなことは省略しました。
性欲の強い夫婦であることは間違いありませんが、スワッピングとか、手足を縛るとかの変態的興味は全くありませんので、ただ仲の良いセックス大好き夫婦を描いてみたのです。私は変態的興味は全くありませんので。
セックスが大好きならなぜ他の男や女を試さないのか、という疑問。これが私には理解できないのです。他のセックス相手を求めるには、現在の相手に何らかの不満があるからではないでしょうか? 現在に十分満足しているなら他にそれを求める必要は全くないのでは? と私は思いますがね。
人間、80代後半まで生きると、若いときには気付かなかった色々のことが解ってきます。

それはさておき、読んで頂き感想を有難うございます。

えんがわ
165.100.179.26

なんか枯れた老女の肉体を想像すると、そそる主人公に対して、こちらは逆に冷めるというか、なんというか。

この物語では性欲が老いないことを書く一方で、肉体が老いる、どうしても醜くなることを書いていない、念頭に置いていないところに、なんとなく、不自然な感じがします。意図的に排したのならアンフェアだと思います。

それと単に若者のセックスライフがただ延々と続くことでしか時の積み重ねが書かれていないで、年齢による成熟が伝わってきません。

むしろこの物語は性欲でしか繋がっていない老夫婦の危うさに踏み込んで、性欲が枯れた後も、それ以外の面で二人は幸せな営みを続けられるのか、といったところに面白さがあると思います。そこを凄くぼんやりと危機意識なく続けてしまう、それがこの二人のマンネリなのかもしれませんけど。


安易にモラルや説教に落ちない作者の姿勢、尖った感覚は好きなんですけれど、描き込み不足ゆえか、浅さもまた。

大丘 忍
218.226.234.111

えんがわ様

鋭いご指摘ですね。こうれいになると、歳相応の性生活になります。具体的に言えば、性器を結合させなくてもいいのです。抱き合うだけでも高齢者のセックスになるのです。
この小説ではそこまで高齢の年齢までは書かなかったけれど、こんなことは若い現役の人には想像できないでしょう。だから、今思えばもう少し高齢の、たとえば80歳過ぎのことを書いておけばよかったと思いますね。
性欲でしかつながっていない夫婦ということが私には理解できません。性欲旺盛な年代でも夫婦仲が悪い人はいくらでも居りますね。
高齢になっても仲の良い夫婦もいくらでも見かけますが、そのいずれも性欲が強いとは限りません。たまたま私が描いた夫婦がそうであったと言うだけです。
読んで頂き感想をありがとうございます。

中村容子
106.181.150.53

読んでいて、微笑ましかったです。
罪のない可愛いお話のようにも思われました。

性行為の黄昏時を眺めながら、長年連れ添った老夫婦がささやき合うところへ言葉をさし挟むような野暮はできませんね( ´ ▽ ` )

大丘 忍
218.226.234.111

中村容子様

読んで頂き有り難うございます。高齢者の性行為ですが、何歳までできるかに制限はないと思います。男性の場合には高齢になると勃起しなくなるので限界はありますが、女性の場合は、大岡越前の話に出てくるように「灰になるまで」と言う事らしいですね。ただ、これは相手のいることですから一概にはいえません。
若い方には想像もできないようですが、仲の良い高齢者夫婦のセックスは非常に微笑ましいものであることを知って頂きたいと思います。「きもい」と断じてしまった方、おそらく若い方だと思いますが、その方は高齢者のセックスの醍醐味を知らずに過ごすことでしょう。
まあ、高齢者のセックスと言っても挿入できなければ抱き合う、皮膚を接触しあうだけで満足なんですが、その醍醐味を若いうちから知っておいてください。

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