作家でごはん!鍛練場
月野 夜

恋愛ディスプレー

太陽は東から昇り、西へ沈む。これは常識だ。
彼女曰く、「同じ場所で太陽をずっと眺めていない限り、『あぁ、昇ってきた』なんて気にしたりしないわ」という。
海水が塩っぱいのは塩分が含まれているから。これも常識だ。
彼女曰く、「たとえ海の水が甘くても、あなたの仕事には支障がない。あなたは文具メーカーのセールスマンなんだから」という。
リンゴは、地球の万有引力によって木から落ちる。これも常識だ。
彼女曰く、「そんな理由でリンゴが木から落ちるんじゃ、農家さんも堪ったもんじゃないわね」という。

そして往々にして、「で、それでいったい何が言いたいわけ?」と彼女は締め括るのだ。


現在進行中 金曜日の明け方

目が覚めると、田嶋和夫は無意識という習慣によって、サイドボードに置いてあるiPhoneに触れた。
スマホの液晶が明るく光り、申し訳なさそうな光で部屋を照らし、また申し訳なさそうにパスコードを和夫に要求してきた。男女の関係ならば、お互いの信頼に支障をきたすような要求でもあった。有無を言わさずあなたは誰なの? と問い詰められ、素性を明かして欲しい、と迫られているようでもあった。
昨日までそんなことなかったじゃないか、と駄々をこね女々しい態度をスマホに対して取るのもどうかと思い、和夫は素直にパスコードを入力した。
ものの数秒でお互いの誤解は解けた。春の訪れとともに山岳の雪は解けるが、人とスマホとでは数字四桁でいともあっさり解けるのだった。
ただ一つ、和夫には謎が残る。どうしてパスコードが要求されたのか。
登録されていない指でホームボタンに触れれば認証がされない、それが数回続くと次はパスコードを要求してくる。自分でそこまでした覚えもなく、首を傾げた。
持ち主以外の人がスマホのロックを解除するのであれば、スマホにパスコードの要求を逆に要求しなくてはならず、適当な指でホームボタンに触れたのだろう、と和夫は推察した。
隣で静かに寝息を立てている愛妻を見る。寝ながらにして、「だって、フェアじゃないでしょ」と言っているような気が、和夫にはした。
浮気を調査するなら自力でやって、自力で証拠を見つけて、あなたの眼前に突きつけるわ。
そう宣言されたのが一週間前の話しだ。
短いようで長い一週間、その間、やましいことは何一つないと自分に言い聞かせていた。
コンビニでアダルト雑誌を買うときのような心境だなと、和夫は思ったりもした。
調査らしいことをしてるような素振りも見せなかった妻が、忽然と浮気調査の痕跡を和夫に突きつけた。
「ズルが嫌いなのは良くわかるけど、露骨じゃないか」と妻に向かってぼやく。
「ヘタで悪かったわね」と妻が下唇を突き出し、反論してきたように思えた。
「洋子は、ヘタなんかじゃない」和夫は静かにつぶやいた。

過去 一週間前の金曜日 自宅 エビとトマト

「トマト食べられるように、なったわけ?」不機嫌さを隠さず、妻の洋子が和夫に訊ねた。
「うん、洋子のおかげかな。トマトがあんなに美味しいことに、なんで今まで気づかなかったんだろう」和夫は妻の不機嫌さを訝しがりながらも、心の底からの感謝の意を口にした。
「そんなに簡単に人は成長しない。ありえない」洋子は、それこそが真実だといって憚らない、進化論を否定する学者のようでもあった。
「そんなことはないよ、洋子が毎日お弁当を作ってくれてたからこそ、食べられるようになったんだ」事実、和夫はトマトの酸味が苦手で敬遠していた。
流石に二十代半ばの青年に、好き嫌いは良くないですよ、と諭す世話好きなど世の中にいないのだ。
しかし妻の洋子は根気強く、「好き嫌いは身体に良くない」と和夫を説得し、和夫もそれを受け入れた。洋子の説得には、「遺伝子的にも影響するみたいだし。そうなったらなんか嫌じゃない」と続きがあった。
和夫には、好き嫌いは身体に良くない、と体調を気遣って貰えたのだなと一瞬思ったが、好き嫌いの遺伝子が子供に影響することの方が嫌だと言われたことにショックを覚えた。

「まぁそれぞれのタイミングなんだがな、重要なのは。早けりゃ良いってもんじゃない。が、遅けりゃ良いってもんでもねぇ」とは父の言葉だ。実家から電話が来るたび、死ぬまでに孫の顔が見れればいいと話すが、最終的に先ほどの言葉を口にして電話を切るのだ。
「そんなことを言うくらいなら黙って見守っててくれよ」と切れた電話に和夫はぼやく。
そんな親からのプレッシャーも重なり子供の為ならとトマトを食べる決意が、子供よりも先に生まれてくれたのだ。
後日、和夫はトマトを食べきれた。散々、酸っぱいだの苦いだのとこき下ろしていたトマトが、ほんのりと甘かったことに少し驚いた。それからは何不自由なくトマトは食べられている。

「洋子が食べるように勧めたんじゃないか。それを食べられるようになったからといって不機嫌になることじゃない」さすがに妻の態度はおかしいと思いはじめ、和夫も臨戦態勢を整える。
「じゃあなんでトマトの蔕が入ってないの」
「トマトの蔕って、あの緑色の」と和夫は指をつまむようにして、洋子に聞いた。
「そう、なんでお弁当箱に入ってないの」洋子にとっては浦島太郎が玉手箱を開けると煙が出てくるように、持ち帰った弁当箱にも蔕が入って当然だと思っているらしい。
「そんなの会社で捨ててるし」これは嘘だった。実のところ和夫はトマトを食べれたこと、苦手を克服できたことへの達成感から、トマトの蔕をコピー用紙にテープで貼り付けていた。
微妙な嘘は、ほとんど誤りに近い、と誰か言っていた。
学校で出来の良かった答案用紙を眺める生徒のように、トマトのヘタが張り付けられた紙をみてうっとりしていた和夫に、「自社の製品をそんな風に使うなんてお前はバカか」と同僚が叱った。
「トマトは食べてるし、蔕はちゃんと捨ててる。洋子はなにがそんなに気に入らないんだ」俺の好き嫌いを克服させたのに喜びはないのか、とも言った。
「それは嘘でしょ。あなたみたいな人が会社でトマトの蔕を捨てることは、絶対にないわ」トリックを見破ったとでもいうような余裕をみせて、洋子は続けた。
「エビフライよ」洋子はこらえきれずに噴き出して笑った。
「あぁ、エビフライか」和夫もつられて笑う。二人の共通認識として、「エビフライ」は面白い思い出の、キーワードだった。
「あれは傑作だったわ。まさかお弁当箱の中にエビの尻尾が入ってないなんて、思わなかったもん」洋子はトマトのヘタ同様、エビの尻尾が弁当箱の中にはいっていなかったことを、そのとき不審に思った。
「俺はエビフライの尻尾も食べるからな」
「身体にいいとは思えないし、味も美味しいとは思えないんですけど」その当時、洋子は気色悪いだとか不愉快だとは言わず、身体にいいものだけ食べてほしいから止めるように和夫に懇願していた。
尻尾を食べることに関して、洋子は了承をしたものの、やはり今でもわだかまりとして頭の隅で、浴室のカビように表に出さずとも根を張り巡らせている。
「あれ以来、お弁当にエビフライが入っていれば、尻尾はキチンと残しているだろう?」和夫は洋子との約束を忠実に守っていた、忠犬ハチ公さながら、自分を利口だと褒めてやりたい、と。
「それと同じよ、何でトマトのヘタがお弁当箱に入ってないのよ。おかしいじゃない」
「だからそれは誤解だって」和夫はエビフライの一件がまたやってきたと、少しうんざりした。

その夜、エビフライの尻尾同様に、洋子は納得したとは言えない心持ち、不承不承という感じで和夫の言い分を受け入れた。
晩御飯も済み二人してリビングのソファに座って、ドキュメンタリー番組を見ていた。平日の夜に放送するにはなかなかスリリングな内容で、旦那の浮気を暴くという、和夫にはいたたまれないような番組だった。
浮気調査を専門とする探偵がサングラスとマスクで顔を隠し、浮気調査について軽々しく話していた。

「浮気が始まるタイミングには、様々ありますが」と考古学者のように浮気文明を語る講師然とした振る舞いを男は見せた。
「旦那さんの浮気の諸悪の根源は、性欲にあります」横で洋子が頷く気配がした。
「営みの回数が減ったなぁとか、単調になったなぁ、というときは、注意してください」横で洋子が自分の横顔を盗み見る気配を感じたが、和夫は気づかないフリをした。
「いいですか、旦那さんが浮気性であるか見極める最良のポイントを、いまテレビをご覧の皆様にお伝えいたしましょう。先ほども申しました通り、諸悪の根源は性欲にあります」横にいる洋子がテレビを食い入るように見つめている。和夫はその横顔をまじまじと見つめる。
こんなインチキ臭い男の言うことを真に受けるのか、と心配になる。
「晩御飯はエビフライにしてください。そうですね、彩り豊かにするのであれば、プチトマトも添えましょう」和夫と洋子は一瞬、顔を見合わせた。
「性欲の強い男性は、エビフライの尻尾まで食べます。ムシャムシャとね。しかし、プチトマトのヘタまで食べるようなら、それは安心してください。何でも食べてしまう人間なんです。一番注意が必要なのはトマトのヘタを食べずに捨てる男性です。エビの尻尾は浮気相手、トマトのヘタは、奥さまです」
和夫は叫んだ。「それは大きな誤解だ!」

現在進行中 金曜日 会社

金曜の早朝、定例会議に出席するのは各部署の新進気鋭の若手社員たちで、将来の幹部候補生と社内では噂されていた。
メンバーの中の一人に、和夫と同期の相沢は、いた。
「で、なんだ。洋子ちゃんの浮気調査は失敗に終わったというわけか?」相沢は愉快気にいった。会議が退屈だったせいか、夫婦問題を抱えた友人の話に、解決すべき問題はここにあったのだ、とやる気を見せた。
洋子ちゃんと人の妻を気安く呼べるのは世界広しといえども相沢くらいだ。
「正確には、調査中、だな。現在進行形、INGだ」同僚の相沢に家庭内のいざこざを相談するには、それなりの理由があった。
「お前たち、なんだか似合いそうだから」と訳の分からない根拠を述べ、和夫と洋子を引き合わせたのは、相沢だった。

過去 三年前

入社して二年目の春、安定した収入を得られるようになった安心感から、和夫と相沢は揃って、「次は恋人が欲しいな」と酒の肴として恋愛について盛り上がっていた。
「近いうちに飲み会、セッティングするからよ」と相沢が息巻いているのを、和夫はインチキ臭い宗教の勧誘を受けている気分で聞いていた。
女性との交友関係も広く、顔や、悔しいが頭の出来すら相沢に勝っているとは、和夫は思えなかった。
わざわざ飲み会など催さなくても彼女の一人や二人、彼なら簡単に作れるだろう。自分は相沢の本命から外れた女性をあてがわれる役であって、主役ではないのだと、卑屈な考えをめぐらせもしていた。
飲み会当日、居酒屋に現れたのは、女性が一人、それが洋子だった。洋子は女子が自分一人だった状況を怪訝に思い、不機嫌そうな色を浮かべて立っていた。
「おい、どういうつもりだ」相沢の耳元で和夫は囁いた。話が違うではないか、俺にだって女性をあてがわれるはず、選挙権が与えられるのと同じように、自分にも権利があるのだと和夫は主張したくなる。
「早まるな、今日はお前のための合コンだ」と相沢は答えた。
「どういうことだ」
「お前たち、なんだか似合いそうだからさ」相沢はサラッと答えた。
「彼女には、説明したのか。なんだか不機嫌そうだし」ひそひそと会話を続ける男子たちに、洋子はさらに不機嫌の度合いを増していた。洋子の冷や水を浴びせてくるような視線に耐え切れず、和夫は軽い会釈を送った。
彼女の機嫌次第では会が催されずこのままではお互いの名前すら分からずじまいとなりそうな雰囲気があった。
「これから話すさ」と相沢は緩く言った。はたして相沢がどのような口実で洋子をこの場に誘ったのか、和夫は想像できずにいた。
「洋子ちゃん、待たせて悪かったね。これから三人で飲もう」
「三人? 一対二で始めるわけ?」凛とした声が鳴った。怒りや可笑しみもこもっておらず、ただ淡々と状況を把握することに努めた、理性のある声だ。
「そう、三人」
「フェアじゃない」ムスリと洋子がいった。
「フェア?」横から和夫が口をはさんだ。合コンというのは少数側が主導権を握りやすくライバルも少ないことから好都合じゃないか、と和夫は思っていた。その好都合な立場の洋子から異議申し立てがあったことに驚く。「どういうこと?」
「私は良いし、あなたも良いでしょう? でも相沢君は良くない」
「え?」
「相沢君が私とだけ飲みに行きたいなら私だけ誘えばいいだけの話し。私も相沢君と飲みたいなら二人だけで行きましょう、って合コンを断ればいいだけの話し。つまり私と相沢君は戦友であってお互いを意識する異性関係じゃないの。だからこの場では私とあなただけが異性の関係を築ける間柄ってわけ。じゃあ相沢君は今日どうするのって話になるじゃない」
「どうするの?」和夫は相沢を振り返った。洋子に顔が見られない絶妙な位置で、顔が赤くなっている自覚があったからだ。
「ならいいんだ、二人がそれでよければ俺は帰らせてもらうぜ」和夫の赤面をみて相沢はニヤついた。
「本当に、いいのか良いのか」
「良いんだよこれで。策士策に溺れず。俺の策略通りだ」と相沢は和夫にだけ聞こえる声で囁いた。
「めぐり合う機会はこれからもあるだろうし、今回はお前たちに譲る」余った団子串を与えるような余裕を、相沢はみせた。食い意地が張っていたのは和夫だけだったようだ。
「いつか埋め合わせはするよ」
「貴殿の恋愛について協力するに吝(やぶさ)かではない」
「ヤブサメか?」。

現在進行中 金曜日 会社

以来、相沢には頭が上がらず、なにかと洋子に関する相談に乗ってもらっていた。
「お前、本当に浮気してないんだろうな?」相沢が念を押すように訊ねてくる。階段を上りながらだらだらと話す。エレベータでは周りに聞かれるので、二人は決まって階段でそれぞれの鬱憤を吐き出していた。
「絶対ない」当然だ、と和夫は胸を張った。
「お前は洋子ちゃんにゾッコンだもんな」いまどきゾッコンなどと口にする者がいるのだなと、希少動物を観察するように、和夫は相沢を見た。
「とにかく、浮気はしてない」和夫は断固きっぱり否定する。
「疑われるようなこともか?」相沢はごく自然に問いかけたに過ぎなかったが、和夫はドキリとした。おタバコはお吸いになられますか、とレストランで訊ねられる気分だ。喫煙者でも禁煙席に座ることはできる。
「ある、わけない」和夫は小さく否定した。浮気などはしてないが、疑いを持たれるような関係がここ最近になって、芽生えてきたからだ。

過去 二年前の会社

二年前、後輩の土方ミドリは入社してきた。小柄ながら清楚な顔立ちと、透き通った声。ウグイス嬢とキャンパス内では呼ばれ彼女自身そう呼ばれることに、まんざら気分を害してはいなかった。
「和夫先輩、お久しぶりですっ!」階段の踊り場で溌溂とした声が鳴り、響き、和夫の足を絡めるように止めさせた。
「君は、土方さん? だったよね、確か」と言い、和夫は新入社員挨拶を思い出す。
「思い出そうとする努力は認めます。でも、せめてハッキリ思い出してから名前を出してもらえませんか」彼女は不服そうな表情を投げつけ、和夫を非難した。
「あまり人の名前を覚えるのは、得意じゃないんだ」和夫は申し訳なく、謝った。
「知ってます。私の名前も覚えられないで、ずっとヒナドリちゃんって呼ばれてましたからねっ」頬を膨らませ鳴き声を上げているようにも見えた。
「あぁ! ヒナドリちゃん!」そこで和夫は、彼女が大学の後輩だと気づいた。まさにヒナドリからウグイスへ成長したように、彼女は大人の色香も備えていた。
「先輩、もう社会人なんですから人の名前くらいは、ちゃんと覚えましょうね。営業職ならなおさらですよ」ミドリが和夫の背中をドンと叩く。力加減のないビンタに身体が傾く。
「恐縮です。でも、君がここに入社するなんて思いがけなかったな」
「憧れの先輩を追い求めて、ここまでやってまいりました」
「お世辞はいいから。先輩として何でも相談に乗ってやるよ」和夫は照れ隠しをするように、鼻を掻く。
「本当ですかぁ。頼っていいんですかぁ」
「ホントウアカヒゲ」
「相変わらずですね、その癖」ミドリは苦笑する。
「人の名前をいつまで経っても覚えられない奴だって世の中にはいるんだ。人間そうそう変わらない」和夫は胸を張った。
「威張ることじゃないし、そんな先輩には頼りたくないなー」あぁ私はなんて哀れなんだとミドリは嘆いたが、家から近く、日柄自分の時間が持てそうだったから、というのが、彼女が会社を選んだ最大の理由だった。
「残念、そんな俺でも今お付き合いをしてる人はいるんだなぁ」和夫、頬を赤らめた。
「彼女さんはどんな人ですか」和夫はどんな人が好みなのだろうということに、ミドリは興味があった。
「型破りな人、かなぁ」生真面目に和夫は答える。
「はぁ?」
そんなミドリを、恋愛の対象として特に意識したことはなかった。

現在進行中 金曜日 会社 営業部署

会議から営業部のフロアに戻ると直ぐに土方ミドリが寄ってきた。「お疲れ様でした」と心地よい声が和夫の耳に届いた。春告げ鳥がそっと肩に止まり、さりげなく肩を揉んできた。
「会社では辞めてくれ」と和夫は慌てて周囲を見渡し、ミドリから避けるように椅子を離れた。「誤解を、招くから」はぁい、と気のない返事を寄越してミドリは隣のデスクに腰を落ち着けた。
白のブラウスに春らしい薄紅色のスカートから四肢がのぞけてみえる。白い肌は眩しく、たまらず和夫は目をつむる。
「今日はどうでしたか?」ミドリが探るように伺ってきた。
「今日は特になにもないなぁ」和夫は疲れのせいか、気のない返事をする。正直、今朝の出来事で会議中にも関わらず自分に向けられた妻からの疑いを、いったいどうすべきかを必死になって考えていた。
「先輩、私との約束、守る気はありますよね?」ミドリの口調には強制力が携わっていた。この契約を破棄することは、国際協定を破るよりも難しいように和夫は思えた。
「悪魔の取引をした覚えはない」
「どういうつもりですか」ミドリが和夫の脇腹を小突いた。もっと真剣に話をしろという意味なのだろうか、和夫は後輩の顔をマジマジと眺める。
「功を焦ってはならない。業績ってのは積み重ねが大切なんだよ」未だに学生気分の抜けていない後輩を、和夫は先輩として諭した。
「会議会議って。毎回、机の上で鉛筆転がして遊んでるだけじゃないですか。そもそもあれは何のため、誰のための会議なんですか」神社の賽銭同様に、神様の為か自分の為か、はたまた巫女さんの時給となるのか、会議として機能しているのか如何わしいという視線を和夫に向けた。
「無論会社の為でもあって、巡り巡っては君の為にもなるんだ。そのために、優秀なメンバーが集められているんだろ?」優秀なメンバーといったものの、ミドリの頭の中では自分が含まれていないだろうなとは和夫にも想像できた。
「先輩が優秀ってのは信じられません。最近はなんだか集中力もないし、気がたるんでませんか?」
「人生色々あるんだよ」俺の場合は夫婦関係だけどな、とも和夫は言った。
「島倉千代子さんですね」ボールペンをマイクに見立ててミドリは歌った。演歌のこぶしを効かせて若年ながら甘い余韻を残す歌い方に、和夫は聴き惚れた。君なら歌手にでもなれたんじゃないかとお世辞が出そうになる。
「お前も古臭いな」和夫はデスクに身体を向けると、資料の整理を始めた。
妻の洋子に、付き合って間もない頃、「身だしなみと身の回りの整理整頓は男の義務よ」と言われた。和夫はその言いつけを忠実に守った。
洋子の言う、身の回りの整理整頓とは女関係の解消という意味が含まれていたのだが、和夫は今でもそれに気付いていない。
「お前も、って何ですか、も、って」デスクの整理を始め、相手にされていないのが不満な様子で、ミドリは横から小言を放つ。
「あぁうるさい」蚊を払うようにしっしと手を振り、和夫はミドリを自分のデスクへと追い払った。ひどく怒った表情を見せたが、まだまだ若いおかげか、怒った顔でも可愛らしく見えるのだから不思議だと、和夫は感じた。
和夫は一人きりになり考えた。両手をデスクの上に置き、目を閉じ、耳を澄ませる。自分が大空をはばたいているようなイメージを、描く。
無論、それはなったつもりなだけの空想だが、和夫はそれを切羽詰まったときに行うことが癖になっていた。
相沢にその癖を話したことがあった、「非行と飛行か、上手く掛け合わさってるじゃないか」と、揶揄され和夫は腹立たしかった。
野鳥観察が趣味の和夫にとって空を飛ぶということは人間の、より早く走るという運動よりも強い憧れがあった。
そのとき和夫の頭になにかが当った。意識の集中が途絶え、手元に落ちた小さな塊に目をやる。消しゴムを小さく千切った塊だと和夫は気づいた。
誰かが意図して、当社製品の消しゴムをカッターで切りくずし、俺に向かって投げてきたのだと和夫が理解するのに、そう時間はかからなかった。
斜め向かいのデスクに視線を向けると、猛禽類のような鋭い視線がこちらに向いていた。
明らかに和夫の方が憤慨してもいいシチュエーションだが、臆することなく怒りをあらわにしているミドリが、そこに座っていた。
「自社の製品をそんな風に使うなんてお前はバカか」和夫は優しくたしなめる。生徒の挑発に軽々しく乗ってしまい、教師が生徒を殴る動画がSNS上には溢れていた。ここで怒っては二の舞だと、和夫は自分に言い聞かせた。
「寝てないで真剣に考えてくださいよっ」
「寝てないって、こうやるのは俺の癖なんだ」和夫は言いながら、目を閉じてみせた。
「そういうのって、あまり人前でやらない方がいいと思います。変人扱いされますから」頬を引きつらせ笑いながら、ミドリが指摘した。言われるまでもないが、和夫は他人前ではやらないことに決めていた。
今は、精神的な余裕もなく現実逃避の手段として思い耽ることしか、和夫にはできない。
「人の集中の仕方にいちいち茶々を入れるな。人には人のやり方ってもんがあるんだよ」という和夫に、どこか職人のような口ぶりだなと、ミドリが笑った。
「先輩が私に力を貸すって約束したんじゃないですか」
「だからこうして考えてるんじゃないか」と半ば自嘲気味に和夫は笑った。はたから見れば寝ているようにも見えるのだから、ミドリが釈然としないのも頷ける。
このままじゃ先輩としての威厳を失いかねない、和夫は何か言わなければと咄嗟に口にする。
「自社の製品で遊ぶのだけは、マジで止めた方がいい」

現在進行形 金曜日 自宅 

どういうわけか、玄関先で和夫は洋子に罵られていた。
「どうして帰りが早いわけ?」怒っていても可愛らしいのは彼女の得なのか損なのか、和夫は場違いな考えをしていた。
「どうして、って言われても。うちの会社は繁忙期を過ぎると、営業職の俺は暇になるんだ」これは常識なんだよと洋子を説得する。
「それはあなたの勝手な妄想、あなたが暇になっても私の家事仕事はちっとも暇にならない。会社の常識を語るよりも夫婦間の不公平を解消してくれないかしら」と洋子が言う。
そして、「で、それでいったい何が言いたいわけ?」と続けた。
洋子が、「何が言いたいわけ?」と口にするときは決まって自分の主張を曲げないのだ。
「いや、何が言いたかったのかさっぱり分からなくなってしまったよ。洋子の言うとおりだ。俺は家事がやりたくて早く帰って来たんだ、きっと」和夫は洋子の都合が良くなる方向へ舵を切る。
「そうやって私のご機嫌を伺うのも、なんだか怪しいのよね」腕を組み、和夫を見下した。思惑が見透かされ、和夫は鞄を両手で体の前で持ち、直立不動の姿勢で話を静かに耳を傾けた。
営業マンとしての働きは熟練とまではいかないが、会社に入ってから五年が経っていた。和夫の立ち振る舞う姿も一目すればそれらしく見えるものね、と洋子は夫を静観していた。
「そんなことないよ。俺にはやましいことはなにもない」おどおどした態度をとれば、「ウソがバレることを恐れているのね」と言われ、毅然とした態度をとれば、「あーそう、開き直っちゃうんだ」ときっと言われる。
ここは自然体で、やんわりと受け流すことによって、妻の機嫌は保たれるのではないかと、和夫は願うことしかできなかった。川上から川下へと流れる水のように、逆らうことなく身を任せる。
「今日は、トマトのヘタ、持って帰って来たの?」洋子はそれが一番気がかりだというように訊ねてくる。
「勿論、ちゃんとお弁当箱の中に入ってる」会社を出る前に確認しました。新入社員の日々の失敗を、和夫は思い出す。
そのとき営業先に提出するはずだった資料が、鞄の中に入っていなかったのだ。営業先のビルの前に立ち尽くしながら上司と二人して途方に暮れていた。
「エビフライの尻尾も?」さらに確認を要求される。洋子は一週間前の番組のことを未だに真に受けているようすだった。そのことを指摘しようものなら鉄拳が飛んでくるようにも思えた。
「あぁ、勿論入ってるよ」和夫は答えた。お弁当箱の中を確認せずとも、エビの尻尾とトマトのヘタは、入っていた。
新入社員のときは上司の確認に、咄嗟に身体が反応していた。条件反射ゆえ人の反感を買うこともあるのだと、勉強になった。
「そう、そんなところに突っ立ってないで、早く上がったら?」洋子は何事もなかったかのように和夫を部屋へと促す。
「うん、そうだね。そろそろ中に入ろうかな」国境の壁のごとく立ちふさがっていた妻が退き、和夫は大きな安堵に包まれた。

「それなら明日、私はお料理教室に行ってくるから家事全般よろしくね」洋子は意気揚々と宣言した。
和夫は洋子と並んでキッチンに立っていた。洋子から借りたエプロンを掛けて、まな板に寝かせた鯛のウロコを懸命に剥がしていた。
「なんでまた急に?」視線は鯛に集中させたまま、和夫は訊ねた。
「あなたのお弁当のレパートリーを増やしたいからよ」決まっているじゃないと言わんばかりの言い草で、洋子はワサビをぐりぐりとおろし金に擦り付けていた。
「お弁当のレパートリー?」和夫は新種の野鳥の名でも聞くような感覚だった。
「え、なに? 不服なの? 不満なの? 何か言いたいわけ?」洋子はまくし立てる。興奮のあまりに、ワサビの量が必要以上に増えていく。
「いや、そうじゃない。わざわざ俺のお弁当のためにレパートリーを増やしてくれるなんて、いい奥さんだなぁって感動しちゃって」和夫は震えそうになる手元を何とかこらえ、鯛を三枚に下ろして言った。
「泣いてもいいよ」予想通りの夫の言葉に気を良くしたのか、洋子は鼻歌を鳴らした。綺麗な鼻筋、少しふっくらとした頬、優しさそのものを埋め込んだような澄んだ瞳、料理の時には必ず髪を結いあげ衛生面などにも気遣いを見せる。そしてその綺麗なうなじに和夫は見惚れていた。
出かける予定もないのに、毎日、化粧を欠かさず綺麗な奥さんを努めている洋子に、和夫は頭が上がらない。
そんな自分に浮気の影を感じつつも、温かな家庭を築く努力を怠らない洋子に対して自分ときたら、と和夫は我ながら呆れてくるのだった。
『誤解は必ず解くから』と心で謝罪した。

現在進行中 月曜日 会社の食堂 豪華なお弁当

週が明けると、アルコールにまみれ、倦怠と怠惰に溺れたサラリーマンが最も嫌う月曜日が、やってきた。和夫も同様、気の抜けた炭酸飲料のようで、午前中を得意先リストのチェックという生産性のない業務で、何とか乗り切った。
昼食の時間になると、日課として和夫は相沢と二人で食事をとるようにしていた。
社員食堂の奥で向かい合ってお互いの弁当を広げあう。遠足や運動会のような新鮮さはなく、戦中の侍同様、腹ごしらえ程度のはず、だった。
「その後、どうなったんだ」と相沢が水を向けてくる。その後とはおそらく洋子のことだろうなと和夫は思った。
「洋子はお料理教室に通い始めた」隣のテーブルで仲良くかき揚げうどんを食べているパートの三人の女性が和夫に視線を向けた。あら娘さんの習い事かしら、将来きっといいお嫁さんになるわね。と無責任な妄想を膨らませた。
「旦那を見限って、新たな出会いを求めてか?」けたけたと笑う。隣の女性たちは一様に顔を曇らせ、苦い表情でうどんをすすり、なんだ、数年前に流行った、『昼顔妻』というやつか、とさらに妄想を肥大化させた。
「ちがう、弁当のレパートリーを増やすためだ」和夫はわざと声を張った。カカカっと相沢は笑う。
和夫は弁当包みを二つ、テーブルの上に置いた。相沢の弁当といえば、『打倒大型スーパー! 価格破壊に挑戦中!』なる過激なキャッチフレーズを武器に、都内に数店舗展開している中小スーパーの弁当であった。
安っぽいプラスチック容器の中には、ご飯と総菜がぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。五百円の弁当が半額以下で売られていることもさることながら、弁当の栄養バランスまで破壊されているなと、和夫は傍から見てそう思った。
サイコロステーキ、ポテトサラダ、インゲンにオムレツ、挙句の果てに筑前煮まで入れられており、随分と雑な和洋折衷だなと和夫は呆れた。
「また昨日の値引き弁当か?」和夫が聞く。
「一人暮らしなんだから仕方ねーだろ」一人暮らしに社会的な制約があるかのように、相沢は愚痴った。
「そんなんじゃ、そのうち身体壊すぞ」
「そんときゃそんときだ、独り身だし気楽でいいじゃないか。誰にも心配されずにのんびり入院するさ」相沢のセリフは、さも入院することが幸福のように聞こえるから不思議だった。
クレーム処理の部署で毎日、受話器越しの怒声を浴び、ときには会社にまで乗り込んでくる取引先もいた。
たとえ営業部や販売部のミスであっても、裏方に回る相沢たちの部署がクレーム最前線に立ち、会社の弾除けとなりクレームという銃弾を浴びているのだ。
彼にしてみれば、入院しない限りは本当の意味での休暇はやってこないのかも知れない、と目の前に座る相沢の身を案じた。
「会社にとっては重要な人材だし、俺と洋子にとってはかけがえのない友人だ。バカなことを抜かすな」
「臭いことを抜かすなよ」
「本当だ、決してお世辞や気休めの類じゃない。世の中はきっと幸せでありふれてる」
「俺にはそれが見つからないってことは、別世界にでも住んでるのか?」相沢はインゲンを口に放り込み、乱暴に口を動かした。コリコリと咀嚼音が鳴る。
「お前は良いよなー、毎日お弁当も作ってもらえるし。今日だって豪華そうじゃないか」相沢は割りばしで和夫の前に置かれた二つの包みを指した。
どちらも色合いが似ていて、一見して見分けがつきそうもないが、それぞれの趣向が出ているなと和夫は感じた。
一つ目、青い花柄の包みからは見慣れたいつもの二段弁当が包まれていた。
二つ目、青い鳥の包みからはスヌーピーの可愛らしいタッパーが出てきた。
「昨日な、洋子が料理教室に行ってきたんだ。習ったことをすぐに実践したいんだってさ」何とはなしに和夫は相沢に語った。
いつもとは少し違う状況で、相沢が怪訝な顔をするのが目に見えて分かったのだ。訝しがる相沢をやり過ごすには嘘と本当を混ぜるのが一番だと、和夫は判断した。
「何を作ったかは、開けるまでの楽しみしておいてね。って釘まで刺されたよ。お弁当が楽しみなんて、いまどきの小学生でも無さそうだよな」とは言ったものの、毎日のように入っていたエビフライやプチトマトが入っていないとわかると、和夫の心は少年のような無邪気さで満たされていった。
「泣けるねぇ、洋子ちゃんの頑張りが胸に染み入る。染み渡る」
「あぁ泣けるよ。先週はほぼ、エビフライとトマトがメインだったからな」和夫はさらりと言った。
「そりゃお前、洋子ちゃんだってたまには手抜きくらいしたいものだろ。朝早く起きてその弁当箱にせっせとエビフライを詰めこむ姿を想像してみろよ、有難くて涙が出るだろ。俗にいう朝なべだ」サイコロステーキを口の中に頬張り、味を評するかのようにしみじみと相沢は言った。
「違う、決してエビフライは手抜きなんかじゃない」と和夫は言いかけて、止めた。
浮気調査の番組を見て以来、洋子は得体のしれない不安に駆られていた。リビングのごみ箱に昆コンビニのレシートを捨てると、何を買ったのか調べ始める。ペットボトルを二本買おうものなら、彼女と二人で飲んだんでしょ? と問い詰められもした。
それ以後、探偵の入れ知恵により、エビフライとプチトマトが弁当の入るようになっていた。やましいことなど何ひとつしていない。洋子の不安の根源がどこにあるのか、恐察するしかなかった。
ただ一つ言えるのは、早くこの誤解を解くためにも、今日の昼食は重要な任務でもあった。オペレーションランチ。
和夫は恐る恐る弁当のフタに手を掛けた。鬼が出るか蛇が出るか、神妙な面持ちでふたを持ち上げる、プシュッと充満していた空気が吐き出され、飛び出してきたのは肉の香り、デミグラスの香りだった。
「ハンバーグか」相沢の喉元がうねった。唾をごくりと飲み込んだ。
「凝ってるな、わざわざお弁当に入れるなんて」和夫も満更でもない笑みを浮かべてみせた。隣のおば様たちもかき揚げうどんだけでは物足りなかったのか、通い妻ならぬ、料理教室通いの妻が見せた渾身のハンバーグにのどを鳴らした。
「そっちのタッパーも開けてみろよ。ハンバーグにはパスタかグラタンって相場が決まってるだろ」相沢の言う通り、タッパーにはそれなりの重みがあった。
ただ、タッパーの底に溜まるような重量感はなく、複数の個体が箱の中で右往左往してるような感覚があった。
ふたを開ける直前、かもしれなかった。予感とも、既視感ともいえる感覚に和夫は襲われた。それとほぼ同時に、タッパーの中から同じ香りが漂った。
まさかな、と思いつつふたを取り払うと、中から二つのハンバーグが目玉のように無言の圧力を二人に向けていた。
「ハンバーグ三つは、さすがに多いよ、な」相沢の同情的な視線がハンバーグと和夫に注がれる。タップリと掛かったデミグラスソースと生クリームには罪はないはずだが、この昼食に関していえば、許しがたくもあった。
「お前も食べるか?」和夫は咄嗟をよそおい、相沢に伺った。むしろ初めからそう言おうとしていたつもりなのに、アクシデントに見舞われ、パニックに陥った思考が巡り巡って、素朴な答えにたどり着いた。
「え、良いのか?」
「一人じゃ食べきれそうもない」元来、小食がちの和夫ならではの言い訳であったが、それを洋子も把握している。その辺の配慮に欠けるはずがないと相沢でも知っていた。
「この間の健康診断、BMI値が低かったせいか、洋子が心配しだして急に、『もっと食べて!』って言われたんだよ」
「お前は何からなにまで、洋子ちゃんに心配をかけるんだな」
「余計なお世話だ。別に夫婦なんだから良いだろ。お前こそ早く恋人を見つけて食事の心配でもしてもらえよ」和夫はタッパーからハンバーグを取り分け、相沢の弁当のフタの上に置いた。
「それこそ余計なお世話だ」
「味のクレームはうち会社の品証部に言ってくれ。言っても解決はしないと思うけど」
「その言い方は、俺と洋子ちゃんに失礼だぞ」さっそく箸をつけようとしていた相沢の手がぴたりと止まった。
「冗談だよ」と和夫は含み笑った。心の中では、「味の保証は本当にできないんだ」とつぶやいた。「どうだ? 美味いか?」
「なんだこれ、メッチャ美味い! こんなハンバーグいままで食べたことないぞ」口端にデミグラスをつけながら相沢は唾を飛ばし、あっという間にぺろりと一個、完食した。
その食べっぷりに触発され、和夫もお弁当箱に入ったハンバーグを口へ運んだ。一口かじると肉汁があふれ出す、調理したてのような柔らかさとジューシーさであった。
「うん、これは美味しいな」和夫も唸った。あっという間に和夫もたいらげた。ハンバーグはタッパーに入った残り一つとなり、和夫はそこで提案した。
「良かったら残りの一個も、相沢にやるよ」
「え、なんで?」自ら美味しいと口にしたにもかかわらず、同僚により多くのおかずを差し出すのはいささかおかしいだろう、と相沢は思った。
「俺は今食べた一個で、充分だ」無論、もっと食べたいという欲求はあったが、相沢の手前、それは辞退すべきだと和夫は考えた。
「さっさと食べちゃえよ」和夫が促すと、「サンキュー」と相沢は答え、またぺろりと平らげた。
このまま空っぽのお弁当箱を持ち帰るだけでは盛り上がりに欠けるような気がしたので、和夫は洋子に写真を撮って送ろうと思いつき、iPhoneのカメラを起動させた。
「そんなの写真に撮ってどうすんだ。インスタに挙げるなら食べる前だろ」
「洋子に送るんだよ、美味しかったって意味で」
パシャっとシャッターを切る。ディスプレイを確認する。バッチリに映った空のお弁当箱に和夫は満足する。画像を送信する。ピロリーン、直ぐに洋子から返信が来る。
「お、反応はどうだった」相沢が確認する。
『その見覚えのない青い鳥のお弁当包みは、いったい何なの?』という文面が画面の中から飛び出す。
「帰ったら、褒め殺しに遭うかもしれない」和夫の心が折れる。

和夫は帰宅早々に、絡まれた。薄暗い夜道や公園の公衆便所など、物騒なトラブルの巣窟でではなく、自宅の玄関先でのことだった。
スーツの胸倉を掴まれ、捩じられ、罵られていた。
「あんた、本当にいい加減にしなさいよ。誰と浮気してんのよ!」洋子の声は荒ぶっていた。荒波のようにその感情は大きくうねり、波状となって和夫に襲い掛かってきた。
「浮気なんてしてないよ」和夫にはそう言うしか選択肢はなかった。認めるような事実も、その場しのぎの弁明もするつもりはなかった。
「先週からあんたの行動がおかしいのよ。フラッとどこかに出掛けるし」なるほど、と和夫は場違いな違和感に気付く。
洋子は興奮すると、「あなた」が、「あんた」へと変わるのだな、と。結婚して一年を迎えるにあたり、また新鮮な気持ちになれた。
怒りをあらわにする洋子も美しかった。勝利の女神、かのジャンヌダルクすら凌ぐ、気品と情熱を洋子は纏っていた。恋愛にかける彼女の想いはきっと誰にも引けを取らないのではないかと和夫は気づき始めた。
「それは誤解だよ」和夫はやんわりと答える。
「ほら出た誤解! 政治家の、『記憶にございません』と、浮気夫の、『それは誤解だよ』ほど信用できないものはないわ」洋子はそれこそがこの世の真理と言いたげな、苦々しい表情を浮かべた。
「じゃあなんて言えばいい、本当に俺にはやましい事なんてないのだから」当然と胸を張ることも、びくびく相手の様子をうかがうこともせず、淡々と和夫は答える。
「先週の日曜日はどちらへ行かれてましたの? あんた確か、会社に賊が入ったって言ってたわよね」

過去 先々週の日曜日  自宅

小春日和の空に巻雲がゆったりと流れ、咲き綻んだ桜を堪能しているようでもあった。昼食を取り終えたばかりの和夫は、リビングのソファでコーヒーを啜っていた。柄にもなく小説を片手にくつろいでいると、和夫のスマホに着信が入った。
不明な発信者からです。とsiriが簡潔に報告をする。
結婚してからというもの、和夫は友人との付き合いにあまり顔を出さなくなり、「人生の先輩としてたまには奢れよ」と飲み会にちょこちょこと誘われてはいたが、相手もそれが形式美としての言葉だったのか、そのうち誘われる回数も減った。そのため電話が鳴るのは決まって、会社から連絡だった。
訝し気な様子で、カウンター越しに洗い物をしていた洋子が和夫を盗み見た。不明な発信者というワードは、妻にとっては注意せざるを得ない人物と同等の意味があった。
「はいもしもし。田嶋ですが」知らない番号だが社会人として、営業職勤めとして、自然と丁寧な口調で応対する。
家の中で個人の携帯だというのに、プライベートの欠片もない態度だと、和夫は苦笑したくなる。
「もしもし先輩、私です。ミドリです。もし良かったら今からバードウォッチング行けませんか?」
「なんだ」と和夫は言葉に詰まる。そのあとに続けようとした、ミドリちゃんか、という言葉に洋子の不信感が爆発するのではないかと想像し、「土方さんか」と、なんとか苗字で誤魔化した。
二日前、浮気調査の番組をみて以来、洋子の様子は明らかに変わった。和夫が電話をしようものなら大好きな野球中継を止めてでも聞き耳を立てはじめるのだった。
聞かれてはまずいことなど和夫にはなかったが、電話の相手が女性ともなると、自分で防衛ラインを上げてしまった。
「どうしました? 突然に」電話の相手をミドリだと悟られないように、和夫は口調を硬くした。
「先輩こそどうしたんですか、その口調。気味悪いんで止めてくださいよ」
「いえ、大丈夫です。続けてください」
「全然大丈夫じゃないです。気持ち悪いです」とミドリが可笑しそうに電話越しで笑っていた。
キッチンでは洋子が静かに立ち尽くし俯いてるのが見て取れた。先ほどまで聞こえていた食器を洗う音が聞こえず、手元も止まっているように思えた。すべての音を殺し、聞き耳を立てているのが明らかでもあり、和夫は自分の鼓動すら洋子の耳に届いているのではないかと心臓が止まりそうになった。
「どういった要件でしょうか」一度始めてしまったからには後に引き返せず、辻褄を合わせるようにミドリとなんとか会話を続ける。
「まぁいいや。先輩、私が入社した時、言ってましたよね? 悩みがあれば相談に乗るって。あれは今でも有効ですか?」
「記憶は定かではないんですが、ご相談となると現在の状況では、如何ともしがたいと言えます」和夫は未だ微動だにしない洋子に注意を払い、ミドリにどうにか察してもらおうと必死だった。
「曖昧な記憶のまま話すの止めてください。今日は来てくれるだけでいいんで」性急にまくし立てるミドリに和夫は気圧されそうになる。中間管理職さながら、洋子とミドリの狭間で最善の選択を迫られていた。
「緊急事態ですね。分かりました、支度してそっちに向かいます」和夫は仕事以上に、疲れていた。

「どこかに出かけるの? 遊び?」不審そうに洋子が訊ねてきた。電話口の相手の声は聞こえなかったが、和夫の口調から相手に面識を持った人物だと判断した。
「会社が大変なことになってるらしい。行かなきゃならない」
「大変って何よ。そもそも今日は休日でしょ、営業職のあなたには出番はないはずよ」
「明日大事なプレゼンがあって、そのために作成された重要な書類が紛失したらしいんだ」
「まさか盗まれでもした?」
「産業スパイかも、社外秘扱いの書類だし、営業部の存亡がかかってる」こうなればやけくそだった。和夫は溌溂とうそぶいた。
「盗賊にでも入ったのかしらね」洋子もただ事じゃないわね、と眉間にしわを寄せた。
「トウゾクカモね」
「え、冗談でしょ?」

約束の場所は会社の最寄り駅を一つ過ぎた、市民公園がある郊外だった。改札を出るとミドリが首に双眼鏡をかけて待っていた。
「待ったか」和夫が右手を上げる。
「なんでスーツなんですか」
「会社に盗賊が入った」
「どうせ奥さまに、トウゾクカモメとかつまらないギャグでも言ったんでしょうねっ」なんでもお見通しという表情で、ミドリは呆れた。会社とは違い、スーツを脱ぎ捨て身体にフィットした動きやすい装いでミドリはベンチで座っていた。桜の木を中心に円形の木製ベンチが置かれ、真上から花弁が端倪すべからざる動きでひらひらと舞っていた。
「ギャグじゃないよ。反射的に出てしまうんだ。で、なんの相談だ。妻に不審がられてまで来たんだぞ」落ちてくる花弁に惑わされてか、和夫の心も次第に不安と恐怖に揺り動かされる。俺は取り返しのつかないことをしているんじゃないか、と。
「それは大変申し訳ないと思っています。では早速。実はですね、ちょっとご協力をお願いしたい事柄がございまして」ミドリは平身低頭し和夫に頼み込んだ。
「面倒なことじゃないだろうなぁ」
「今はまだ、言いだせる勇気がなくて」ミドリは双眼鏡を、ギュッと握りしめた。うつむくミドリの頭に花弁が舞い落ちた。
「あぁ、それでバードウオッチングなのか」和夫は花弁をつまみ言った。ミドリは大きな決断を迫られたときは必ずバードウォッチングに繰り出し、希少な野鳥を見つけられたら行動を起こす。という決め事を自らに課していた。
「君もなんだかんだ言って、その癖は直ってないんだな」
「これは癖じゃなくて、ジンクスです」一緒にしないでください。と言いたげな視線をミドリは向けてきた。和夫は、アヒルと鴨に違いがないこと同様に、俺たちもさほど変わらないよと言ってやりたかった。
「分かった。じゃあそのジンクスを託すのはオオルリでいいよな」
「幸せの青い鳥、ってことですね」ミドリが俄然やる気を見せたことに、和夫はいささか驚いた。
「相談って、もしかして恋愛か?」
「先輩。やる前から言い当てるのは無粋です」

現在進行形 火曜日 居酒屋にて

「急に呼び出しといて、なんなんですか」席に座るなり、ミドリは苦言を呈した。今日はカルチャースクールの予定があったのに、とも言った。「先輩みたいに家に直帰するほど、暇じゃないんですから」
「仕事が終わればすぐに帰る。これは常識だ」和夫は枝豆をつまみながら後輩を一瞥した。二人は行きつけの居酒屋で待ち合わせをしていた。
「先輩の常識はちょっとズレてるんですよ。部長が頭に乗せてるアレと一緒です」四人掛けの席に付き、ミドリは持っていた荷物を自分の隣の席にドンと置いた。
「君にはデリカシーってものはないのか」」和夫は容赦のない後輩女性に慄いた。もしかしたら自分のことも陰で噂をされているかもしれないと思った。彼の奥さんは毎日お弁当にエビフライを入れているのだ、と。
「みんな口にしないだけで誰もが思ってることじゃないですか」とミドリは言い、和夫の枝豆を奪った。
「うちの奥さんはエビフライ以外にもちゃんと作れる」
「何の話ですか? ところで、どうしてこんな所に呼び出したんですか。早く理由を説明してください」
「実は、会わせたい人がいる」
「え、え! まさか」
「そのまさか、だ」和夫はニヤッと笑った。
「やっぱり先輩は頼りになる。行動力有りますよね、先輩って」ミドリは揚々とした気分で店員を呼んだ。生ビール二つで! とウグイスが鳴く。
「そんなに嬉しいのか?」
「そりゃ、初めは緊張しますよぉ。でもこれからを共にするなら、それも乗り越えなきゃダメですもんね」
「そりゃ頼もしい限りだ。たぶん、そろそろ来る頃だと思う」和夫はスマホを見やり、時間を確認した。連絡らしい連絡はないが、約束は守るはずだ。そう念押しして朝、和夫は家を出てきたのだ。

それから数分のこと、洋子が店に現れた。
「その子、誰」洋子は席を見つけるなり、和夫と向かい合って座っているのが女性だと気付き、憮然とした。背を向けて顔は見えないが自分より幾分若そうな雰囲気が洋子には伝わっていた。
「後輩のミドリちゃんだよ」和夫はお互いの挨拶を促す。ミドリに向かっては、妻の洋子だ、と紹介する。
「は、初め、初めまして」恐る恐るミドリは振り向いた。
「どーも、田嶋和夫の妻を努めさせて頂いております、田嶋洋子と申します」顔には一切の表情も浮かべず、洋子は冷徹に言い放った。
氷の微笑さながら、シャロン・ストーンでさえこの美しさは表現出来ないだろうと、和夫は思った。
さすがに先輩の妻といえども、威嚇されてはミドリも泣き出してしまうのでは、と心配したが和夫の思いとは裏腹にミドリは洋子の顔を認識すると驚きの声を上げた。
「え、えぇー」店内に響き渡る声は、聞く人々の胸をすくような爽快さもあった。
「なんだよ急に、どうしたんだ」和夫はたまらず訊ねた。
「え、あなたは、先輩の奥様だったんですか?」口をパクパクと動かし、ミドリはどうにか言葉を紡ぎ出した。
「あ、あなたもしかして、土方さん?」洋子も記憶の引き出しを漁り、つい最近の記憶、からその名前を思い出した。
「わっ、奥様は和夫先輩とは違って、ちゃんと人の名前を覚えられる人なんですね」とミドリは余計なことを口にする。
「二人は、知り合い、なのか?」
「ええ、多分」ミドリは言う。
「そう、多分」重ねて、洋子も言う。
「で、土方さんがあなたの浮気のお相手なの?」洋子は落ち着きを取り戻したのか、自分の得意なフィールドで戦いを挑むような戦術家に見えた。知り合いならやり易いわとも言いたげな表情だ。
「いや、違う。そんな関係ではない」
「そうですそうです。私みたいな女をわざわざ浮気相手に選ぶなんて天地がひっくり返ってもあり得ない事です」ミドリは顔をブンブンと振り強く否定した。恐れ多いと、床にひれ伏す勢いすらある。
「あらそう? 土方さんみたいな可愛らしい女の子なら、誰だって付き合いたいと思うけど。料理教室も、『花嫁修業の一環です』って言っていたじゃない。和夫の為じゃなかったのかしら」
「あぁ、どおりで同じハンバーグだったわけだ」合点がいったと頷いたとき、和夫は自分で傷口を広げているとは思いもよらず、得意げな笑みを浮かべていた。
「え、どういう事?」と洋子とミドリが口をそろえた。そして互いに見つめあい、黙読しあう。どういうこと、と。
「え? あ、いや」事の重大さに気付き、和夫の言葉は濁った。
「どういうことですか? ちゃんと食べさせるって話でしたよね」あれほど強固だった同盟を反故にしたのかと、言わんばかりの熱量でミドリは和夫に迫ってきた。
「約束は守った。男として二言はない、ちゃんと美味しいって伝えただろ」同盟は強固なものだ、と説明に追われる日本の総理のように、和夫もやり返す。
「へーそう。土方さんのハンバーグ食べたのね。あの青い鳥のお弁当包は彼女のものだったのね」これで確信したわ、と洋子は大きく頷いた。
「いやいやいや、それは違う。俺が食べたのは洋子のハンバーグだ」
「私のハンバーグはどうなったんですか!」と、今度はミドリが和夫を攻め立てる。ハンバーグを巡り二人から追及を受けていると、なんだかハンバーガーみたいだな、と場違いな考えが浮かんだ。いやいや、そうじゃないだろう。ここはちゃんと説明しないと、と思うのだが、和夫の手札の中にはまだ一発逆転のカードが届いてなかった。
「ちょっと、落ち着こう。二人の作ったハンバーグは、ちゃんと食べて欲しい人の胃袋の中に、おさまったんだ」釈明したつもりが、どういうわけか伝わりずらい表現になってしまった。
「私のハンバーグ、食べたの?」
「もちろん、食べた。美味しかった」
「私のハンバーグ、食べました?」
「食べてないけど、美味しかったみたいだ」
「はぁ?」二人は毒気を抜かれたように息を漏らした。
その時、待っていたかのように、和夫の手札は揃った。起死回生のロイヤルストレートフラッシュ。
「あれ、洋子ちゃんも来てたの? それに、君は確か田嶋の後輩、だよね」ネクタイをだらしなく緩め、薄らと無精髭を生やした相沢がやってきた。日々のクレーム処理業務に疲弊しきった様子でもある。
「え、相沢くんも呼ばれたわけ?」洋子は二人の共通の友人である相沢の登場にますます疑いを深めた。
三角関係のトラブルを解決する話し合いの場に友人を据え置くことは、常套手段でもある。両方の肩を持ち、時には一方を責め、最終的にバランスを取る役目なのだ、と洋子は警戒を強めた。
「お、お疲れ様です」ミドリは視線を外し俯いた。
空いている席がミドリの隣だったので、自然と相沢はそこに座る。
「無理言って悪かったな」
「まぁ、深刻なお悩みがあるって言うもんだから、仕事も手につかなくてよ」
「どうせ仕事が面倒くさくて抜け出してきたんだろ」和夫は付き合いの長い、同僚然としたところを見せる。
相沢は店員を呼びレモンサワーを注文した。ミドリのジョッキが空になっていることに気づき、何か飲む? と訊ねると頬を赤らめて、同じ物を、と答えた。その微笑ましいやり取りに和夫もつられて微笑む。
隣に座る洋子はその横顔を叩きたくなるほど、苛立っている。
「いい加減、みんなをここに呼んだ理由を話してくれない? 旅行の計画でも立てるわけでもないでしょ」
「最近、お前達の仲が不穏だって聞いてたからよ、心配はしてたんだよ。でも洋子ちゃんは毎日お弁当作ってくれてたし、この間のハンバーグなんて絶品だったよなぁ。こんな奥さんが居てくれるのに、お前は何やってんだ?」相沢はチラリと隣に座るミドリを見やる。ここに会社の後輩が居るということに、少なからずの違和感を覚えたらしく、和夫の浮気相手という懸念が相沢の頭の片隅にはあった。
「ハンバーグ、美味しかったですか?」ミドリが相沢に訊ねた。
「え、ハンバーグ? うん、あれは毎日でも食べたいなぁ」その味わいが今でも舌に残っているかのように口をつむぎ、相沢は答えた。
「なんなら毎日でも作ってあげましょーか? でも、ハンバーグ一つを二人で分け合ったわけ?」洋子が怪訝そうに聞いてくる。和夫は頭を振った。
「だから、さっきから話してるだろ。それぞれ食べてもらいたい人に、ハンバーグは食べられたって」和夫は呑み込みの悪い生徒に必死で教えるよう、熱心に説明をした。
「ん? なんか話がよく分かんないんだけどよ、あの時食べたハンバーグが何かあったのか?」
「だから相沢の食べたハンバーグは青い鳥の包みに入った、二つのハンバーグだ」
「あぁ、スヌーピーのタッパーに入ったハンバーグだ」
「俺が食べたハンバーグはお弁当箱に入った一つだけだ。つまり俺は洋子のハンバーグを、相沢はミドリちゃんのハンバーグを食べたわけだ」ノーベル賞もかくやというような和夫の説明でも三人は表情を硬くしたままだった。
「で、それでいったい何が言いたいわけ?」と洋子は和夫に詰め寄った。
「それがあんたと土方さんが親密なことと何の関係があるわけ? あの写真の青い鳥のお弁当包は、土方さんのだったのよね。でも、なんでそれをあなたが持ってたのよ、おかしいじゃない。本当はいつも一緒にお弁当食べてるんじゃないの、二人で。やっぱりトマトはあんたが食べてるんじゃなくて、土方さんに食べてもらってるんでしょ」洋子は興奮しだした。
矢継ぎ早に喋るそのさまは、親鳥の帰りを待ちきれないせっかちなヒナドリのようだった。
「あの、違うんです! 私が頼んだんです。相沢先輩に、食べて欲しくて…」

居酒屋の店内は喧噪に包まれていた。物静かなバーやレストランではなく庶民的な風情があふれる酒場であった。ここに集まる人々は、日頃の鬱憤や不満を酒のシャワーを浴びて洗い流しているのだ。
その一角で男女の集団が談笑にふけり思い出話に花を咲かしていた。
「まさか、どうして俺なんかに」信じられない、といった表情で隣に座るミドリを見ながら相沢は言った。
「いつも和夫先輩から話を聞いていて、素敵な人だなって、会社でたまに見かけるとやっぱりかっこいいし。そしたら相沢さん、いつもお昼はスーパーの値引き弁当だっていうから、私が手作りのお弁当作って、栄養管理もちゃんとしてあげたら、助かるかなって思いました」ミドリは俯きながら言った。俯いてるわりには感情を隠すことなくハキハキと喋るものだから相沢の方が顔を赤らめていた。その様子に和夫と洋子は顔を見合わせて笑った。
「片思い的な」和夫が茶化す。
「まんざら、両想いかもよ」と洋子が輪をかけて茶化す。まるで中高生の冷やかしのようでもある。いい大人が揃って照れている様は、既婚者の二人にしてみれば、人生の先輩として高みの見物なのかもしれない。
「あのなそうやって俺らのことをやいやい云うけど、お二人さんの時だって、そうとうヤバかったんだろ」と相沢はやり返した。
「さぁ? そんなことあったっけ?」和夫が洋子に訊ねる。
「記憶にございません」と洋子はとぼける。

過去 和夫と洋子

「フェアじゃないわよね」と彼女は異議を唱えた。
お互いの自己紹介も終わり、第二段階の趣味の話に切り替わったところだ。
彼女はスポーツ観戦と大味な答えを向けたものだから俺は安易に日本で一番メジャーなスポーツを口にしてしまった。「野球、見るんだ?」
「野球なんて嫌い、あのスポーツはフェアじゃない」彼女はとんでもないことを口にする。
清廉潔白なアイドルが五股の不倫をして世間のイメージを崩壊させるような、そんな嫌悪感を彼女は示した。
「野球は九人対九人で戦う、とてもフェアなスポーツだよ」サッカーに関していえば退場者が出ると補てんのきかないむしろアンフェアな戦いを強いられるスポーツだ、とも俺はいった。
「サッカーの勝ち負けはチームにしかつかないキーパーや監督にも責任はないわ。でも野球は違う、勝ち負けを押し付けられるのは決まってピッチャーだけ。フェアじゃないわよね」彼女の感覚は独特なもので、誰か一人だけに苦悩や不幸せを背負わすことが嫌なんだろう、と感じた。
「それは」俺は言葉に詰まった。
「私は対等な関係が築きたい、家庭であっても社会であっても」仕事終わりのサラリーマンが詰めかけ、たばこの匂いや汗の匂いが立ち込める居酒屋で、紅一点の彼女に侮蔑的な視線が飛んでくる。おいおいお嬢ちゃん、ずいぶんな口きくじゃねーか、と隣のおやじが物知り顔でこちらを睨んでいた。
 俺は苦笑いしつつ、軽く頭を下げる。彼女、きっと酔ってるんです。
そんなことは一向に気にせず淡々とビールを煽る。
「そんな呑んで大丈夫?」
「何の心配してくれてるの? このまま酔いつぶれたら、ホテルにでも連れ込めるって腹積もりかしら」彼女のその口調は酔った勢いや投げやりな態度でもなく、俺を試すようで、言われたこちらが赤面してしまう。
「そんなこと、考えてないし。お酒の力を借りるなんてフェアじゃない」世の中にはそうでもしないと一線を越えることのできない男女もいるだろう、でも俺は、彼女を自分の力で手に入れたい、本気でそう思い始めていた。
「ふーん、それでこそ和夫君らしいわね」と彼女は微笑む。弓なりの細い眉の尻が静かに下がる。長い黒髪は艶が保たれ、洋子が首を振ると細かな毛先がサラサラと踊るほど、滑らかだった。
「で、和夫君はどんな趣味を持ってるの?」見惚れていた。
下心を見透かされていなかったか、俺は焦る。
「野鳥、観察です」胸を張れるほどの趣味でもない。卑屈になるな、自分。野球観戦と野鳥観察は似て非なるものだが、響きだけは似ている。
「鳥って、フェア?」素朴な疑問だったのか、彼女は躊躇なく訊ねてきた。
「え? フェアって、何に対して?」
「空を飛ぶ鳥もいれば飛べない鳥もいるでしょ? それってフェアなの?」
「フェアかどうかは分からないけど、飛べない鳥はその分、自らを進化させて現代まで生きながらえてきたと思うから、飛べる鳥にはない特技を持ってるんだ。それって常識的に考えてすごい事だよね」俺は彼女につられて深く考えもしなかった事に、自分なりの答えを出してみた。
この上ない正論だと、俺は思ったのだが。
彼女曰く、「そんなこと言っても絶滅した鳥たちの、そのほとんどが人間のエゴによって滅ぼされたのよね。その鳥たちの気持ちになってちゃんと考えてみたの? 進化しないと人間に滅ぼされそうだったんじゃないの?」という。

そして、「で、それでいったい何が言いたいわけ?」とにこやかに笑うのだった。

恋愛ディスプレー

執筆の狙い

作者 月野 夜
219.102.246.215

こんにちは。また鍛錬場をお借りいたします。
今回の作品はストーリー性が弱く、それでもエンタメ作品になり得るか挑戦しました。
読んでいて楽しいか、途中で飽きて読むのを止めてしまう、そんな人も必ずいると思うので、どこがつまらないか御指南頂けたら幸いです。

日常を切り取って、面白く可笑しく描ける作家になれたらと、思っています。

よろしくお願いいたします。

コメント

颯志
60.239.54.227

僕にはこの小説がよく分かりませんでした。結局この小説は何が言いたいんですか。登場人物が皆たいして意味のないことを永遠と言っているように感じました。ストーリーもよく分かりません。妻からの浮気の疑惑を主人公はどうやって晴らすかという話なのかなと思いましたが妻からの浮気の疑惑に悩む主人公の葛藤がなく、何故女性は些細なことで浮気を疑うのかといったような思索もなく、単調に出来事だけが次々と書かれていて、しかも結末でも妻からの浮気の疑惑が晴れたのか晴れてないのかうやむやで
、ミドリと相沢の恋愛話になってますし、読者は何に感情移入したらいいんですか。

分からないので感想が書けません。

月野 夜
219.102.246.215

颯志さま

ご指摘?ありがとうございます。

まさにその通りです。テーマも執筆の狙いに書いた通りなく、ストーリー性も乏しいです。
とある夫婦の日常を切り取って、脚色して書いた作品です。
それを最後まで読んでいただけたというのであれば、ポジティブに捉えれば、読ませる力はあるという事と。
自分はつまらなければ途中で読むのを止めます。
最後まで読んでいただけたの、なにも伝わらなく、貴重なお時間を無駄にしてしまい申し訳ありませんでした。

オステン工房
126.218.75.4

すみません。トマトのくだりに全く興味を惹かれずギブアップしてしまいました。
文章はとても読みやすいですし、私よりはるかに創作の経験があるのだろうと推察します。
トマトの話のあたりで誰かが死んでいれば先を読んだと思います。

月野 夜
219.102.246.215

オステン工房 さま

ご感想ありがとうございます。

>すみません。トマトのくだりに全く興味を惹かれずギブアップしてしまいました。

興味に沿わず申し訳ないです。もっとキャッチ―な作風もそのうち書いてみます。

>文章はとても読みやすいですし、私よりはるかに創作の経験があるのだろうと推察します。

そうですね、書き始めて二年半、書いた字数は概ね30万字にも満たないですが、オステン工房さんより経験があるでしょうか。分かりません。

>トマトの話のあたりで誰かが死んでいれば先を読んだと思います。

そうですね。ちょっと何言ってるかわかりませんが、ありがとうございます。

千織
111.87.58.25

うーん…。エンタメ性ということですから、楽しめたかどうか、ってことですよね?

そこそこ楽しめました。ではどこが? と問われると、それは単に「感性」ですね。最初のiPhoneのパスコードを男女に例えてみせる感性が面白いなあ、と。そういう感じで随所に見え隠れする感性が面白い人だなあ、この人、とそこ読ませられました。キャラクターに魅力があったと言っても良いのかな、とも思いました。ただ、夫婦の関係もミドリちゃんと相沢のことも予定調和でそこが退屈といえば退屈かな、と。終りは予定調和でもそこへ至るまでにハラハラドキドキさせてくれる展開があるともっと良いのかなあ、と思わされました。ただ登場人物は全員好感持てる人達で、そういうところは伸ばして欲しい感性かなって思いました。センスは買いです。

月野 夜
219.102.246.215

千織 さま

ご感想ありがとうございます。

>そこそこ楽しめました。ではどこが? と問われると、それは単に「感性」ですね。最初のiPhoneのパスコードを男女に例えてみせる感性が面白いなあ、と。そういう感じで随所に見え隠れする感性が面白い人だなあ、この人、とそこ読ませられました。

大変嬉しいお言葉が頂けて、ありがたいです。
比喩表現は自分の中では小説の肝だと思っています。なにせ登場人物の心や思考を写す鏡なので人物に感情移入しやすくなるかなと、考えています。
その部分を褒めて頂き嬉しかったです。

>ただ、夫婦の関係もミドリちゃんと相沢のことも予定調和でそこが退屈といえば退屈かな、と。終りは予定調和でもそこへ至るまでにハラハラドキドキさせてくれる展開があるともっと良いのかなあ、と思わされました。

ご指摘の通り、自分でもストーリーに捻りもなく不完全燃焼でもあると感じていました。
冒頭の
>太陽は東から昇り、西へ沈む。これは常識だ。
>彼女曰く、「同じ場所で太陽をずっと眺めていない限り、『あぁ、昇ってきた』なんて気にしたりしないわ」という。
>海水が塩っぱいのは塩分が含まれているから。これも常識だ。
>彼女曰く、「たとえ海の水が甘くても、あなたの仕事には支障がない。あなたは文具メーカーのセールスマンなんだから」という。
>リンゴは、地球の万有引力によって木から落ちる。これも常識だ。
>彼女曰く、「そんな理由でリンゴが木から落ちるんじゃ、農家さんも堪ったもんじゃないわね」という。

>そして往々にして、「で、それでいったい何が言いたいわけ?」と彼女は締め括るのだ。
この部分を一番最初に思いつき、書き始めました。
伊坂幸太郎さんっぽい作品にしてみようと試みました。

>ただ登場人物は全員好感持てる人達で、そういうところは伸ばして欲しい感性かなって思いました。センスは買いです。

これからもセンスに磨きをかけたいと思います。
ありがとうございました。

九丸(ひさまる)
126.179.100.248

拝読しました。

最後まで読んで、僕の中では面白くもありました。
読み易かったかといえば、少し疑問もあり。
比喩は良く書けていると思いますが、途中でお腹がふくれてしまい。後半流し気味になりました。
時系列が結構飛んでいるので、スッキリさせてもと思うのですが、それも味になっているような気もするし。はっきりと意図があるなら構わないのですが。
洋子が浮気を疑った理由が弱いように思いました。故に和夫のあたふたする理由もちょっと弱い。
話は変わりますが、田嶋洋子。漢字は違いますが、どうもあの田嶋陽子さんが頭に浮かんでしまいました。考え方や性格も違うのですが。
最初にも書きましたが、好きな話ではありました。
拙い感想失礼しました。

月野 夜
219.102.246.215

九丸(ひさまる)さま

ご感想ありがとうございます。

>最後まで読んで、僕の中では面白くもありました。
読み易かったかといえば、少し疑問もあり。
比喩は良く書けていると思いますが、途中でお腹がふくれてしまい。後半流し気味になりました。


お読み頂く前にコメント欄をご覧頂いたのでしょうか、確かに比喩を意識して読むと、ちょっと多いかなと思われるとおもいます。
自分も知人に、この小説は比喩がちょっと多いかなと溢したことがあります。その時は、そんなに気にならないよと言われました。
この分量だと、「これだけの比喩を入れておけば大丈夫」といった決まりが無いぶん、入れ込むタイミングが悪かったと解釈してます。


>時系列が結構飛んでいるので、スッキリさせてもと思うのですが、それも味になっているような気もするし。はっきりと意図があるなら構わないのですが。
洋子が浮気を疑った理由が弱いように思いました。故に和夫のあたふたする理由もちょっと弱い。


この作品はプロット無しで書き始めた作品だったので、やはりご指摘の通り自分も客観的に読んでいてゴチャゴチャしてる印象や、洋子の疑念、和夫のテンパる理由も薄いなぁと感じてました。
なにより和夫が洋子に、「後輩に恋愛の相談をされたんだ。その相手が相沢で」って打ち明ければ済む話だろ。と思ってもいました。
その様なストーリーにすればもうホントに書く意味ないよなってなっちゃうので、ぼやかしては居たのですがひさまるさんには見透かされてしまいましたね。

>話は変わりますが、田嶋洋子。漢字は違いますが、どうもあの田嶋陽子さんが頭に浮かんでしまいました。考え方や性格も違うのですが。
最初にも書きましたが、好きな話ではありました。

あぁ。そこまで考えてなかった(笑)
これは完全なミステイクですね(笑)

>拙い感想失礼しました。

とんでもないです。ありがとうございました!

夜の雨
118.18.72.209

読みました。

いくつか気になるところがありましたので、書いておきます。


視点がところどころぶれているところがありました。

>現在進行中 月曜日 会社の食堂 豪華なお弁当<

>「洋子はお料理教室に通い始めた」隣のテーブルで仲良くかき揚げうどんを食べているパートの三人の女性が和夫に視線を向けた。あら娘さんの習い事かしら、将来きっといいお嫁さんになるわね。と無責任な妄想を膨らませた。
「旦那を見限って、新たな出会いを求めてか?」けたけたと笑う。隣の女性たちは一様に顔を曇らせ、苦い表情でうどんをすすり、なんだ、数年前に流行った、『昼顔妻』というやつか、とさらに妄想を肥大化させた。<

御作は三人称の和夫視点で書かれていますが、上記のところが普通の三人称視点になっています。
「と無責任な妄想を膨らませた。」
「とさらに妄想を肥大化させた。」
まったく関係がない第三者の内面が書かれている。
「ヘタで悪かったわね」と妻が下唇を突き出し、反論してきたように思えた。 ←これは導入部の書き方ですが、「御作は三人称の和夫視点で書かれているので」和夫から見た妻の洋子のことが書かれています。
妻の内面を「反論してきたように思えた。」と書いています。ということは和夫が「妻の心理状態を想像しているということになります」御作は「三人称の和夫視点で書かれているので」これでよいわけです。
上の第三者の場合は導入部の妻のような書き方にはなっていません。

一番肝心なところの伏線が上手く張れていませんでした。

>「お前は良いよなー、毎日お弁当も作ってもらえるし。今日だって豪華そうじゃないか」相沢は割りばしで和夫の前に置かれた二つの包みを指した。
どちらも色合いが似ていて、一見して見分けがつきそうもないが、それぞれの趣向が出ているなと和夫は感じた。
一つ目、青い花柄の包みからは見慣れたいつもの二段弁当が包まれていた。
二つ目、青い鳥の包みからはスヌーピーの可愛らしいタッパーが出てきた。<

この弁当のシーンですが、一つは妻の洋子が作ったものであり、もう一つはミドリが相沢のために作ったもので、和夫はミドリに頼まれていたということですが、その伏線がありません。
弁当を食べた後に洋子へ弁当箱の空になった写真を送るのですが、二つの弁当箱の写真を送ると勘違いされると思いますが。

ラスト近くでつじつまが合うように四人で会った時に話されて解決しますが、御作はミステリーでもないし、ミドリから相沢に弁当を食べさせるように頼まれていたとかの伏線があってもよいと思う。(和夫が昼は相沢と一緒に弁当を食べているということを知ったミドリが、相沢がスーパーで弁当を買っていることを「知る」だけでも伏線になります)。

>洋子の最初の登場シーンで外見描写が描かれていなかった。<

飲み会当日、居酒屋に現れたのは、女性が一人、それが洋子だった。洋子は女子が自分一人だった状況を怪訝に思い、不機嫌そうな色を浮かべて立っていた。
「おい、どういうつもりだ」相沢の耳元で和夫は囁いた。話が違うではないか、俺にだって女性をあてがわれるはず、選挙権が与えられるのと同じように、自分にも権利があるのだと和夫は主張したくなる。

土方は登場シーンでしっかりと外見描写が描かれている。
>過去 二年前の会社<

二年前、後輩の土方ミドリは入社してきた。小柄ながら清楚な顔立ちと、透き通った声。ウグイス嬢とキャンパス内では呼ばれ彼女自身そう呼ばれることに、まんざら気分を害してはいなかった。

「知ってます。私の名前も覚えられないで、ずっとヒナドリちゃんって呼ばれてましたからねっ」頬を膨らませ鳴き声を上げているようにも見えた。
「あぁ! ヒナドリちゃん!」そこで和夫は、彼女が大学の後輩だと気づいた。まさにヒナドリからウグイスへ成長したように、彼女は大人の色香も備えていた。

>現在進行中 金曜日 会社 営業部署<
などでも、土方ミドリのキャラクターがわかるエピソードが描かれている。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
全体では。

構成に注意したらよくなるのではないかと思います。

執筆の狙い
>日常を切り取って、面白く可笑しく描ける作家になれたらと、思っています。<
ということらしいですが、これって人間のささやかな出来事を描く必要があるので、書き方が難しいと思います。
まずは、ミステリーとかほかの作品でも結構ですが、「ストーリーに起伏がある作品」を書き、伏線とか盛り上げ方とかを頭に叩き込んでから「日常を切り取って、面白く可笑しく描ける」というような作品を書いたらいかがですか。

今回の御作は読める内容ですが、ストーリー(構成)がこなれていないように思いました。
文章はかなりうまいと思いますし、キャラクターの創り方や描き方も上手いですね。
食事のシーンがとんでもなくうまく書けている。


それでは、頑張ってください。

月野 夜
126.79.71.77

夜の雨さま

いつもありがとうございます!

視点のブレ全く気付きませんでした。ご指摘ありがとうございます!

お弁当のシーンの伏線、この話の肝でもあるミドリの企みだったのですが、この作品を書いてる時点で色々と悩んでました。
和夫とミドリが浮気仲なのか? という疑念を読書に埋め込みたいという心理から、ミドリの気持ちを敢えて表現しないように書いてました。
ただ、和夫に気持ちが向いているというような上手い書き方が出来なかっただけで、プロならきっちりミスリードさせられるんだろうなと自分の力の無さを反省してます。

洋子の描写も、これも多分構成がグチャグチャで後から(料理のシーン)などで出てくるんですよね。
これも構成力がなくて、結果ちゃんと表現出来てなかったです。

>文章はかなりうまいと思いますし、キャラクターの創り方や描き方も上手いですね。
食事のシーンがとんでもなくうまく書けている。

大変嬉しいお言葉です!
夜の雨さんの指摘も大変わかり易く納得出来ます。
ありがとうございました!

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