作家でごはん!鍛練場
跳ね鳥

幻の着物

 小桜丸にはひっそりと通い詰める女がいた。名前は白菫という。
 長い髪は夜の闇より黒く、笑顔は太陽の光よりまばゆい、まだ年若い乙女だった。
 目立たない場所にはあるが、品の良い趣のある屋敷に住んでおり、庭には美しい八重桜が咲き誇っていた。
 小桜丸がその屋敷に通うきっかけは八重桜の美しさだった。しかし小桜丸が日を開けずに通う魅力は、八重桜の華やぎではなく、その花をともに見つめる白菫の素朴な乙女の優しさにあった。
 周りの人々は、白菫のような目立たないおなごのどこにそんな魅力があるのか分からず、高貴な身の上の小桜丸の訪れと寵愛を戸惑い疑い、八重桜がお気に召したのだろうと思った。
 本当のところ、小桜丸が惹かれたのは、白菫の心の美しさであり、その感動は目に見えない秘密の共有にあったので、周りの人には二人の奥深い魂の結びつきまでは思いもよらない。
 白菫の秘めた心の美しさは、闇夜で共に過ごす、小桜丸だけが世界でただひとり知っているのであった。美しい声が織りなす衣を。
 夜毎闇夜の中で寄り添う小桜丸と白菫は、その寝屋の中の暗闇で、天井を共に見上げながら、小桜丸がとても詳しい星空の話を色々にしていた。
 二人は天井に星空を思い描きながら、織姫と彦星の話や、箒星の話、赤く燃える星、月のかぐや姫の話などを楽しんだ。
 そうしているうちに白菫は今度織る布を語る。白菫は、イメージの中で新しい布を夢見て、それを透明な澄んだ声で言葉にするので、小桜丸は、その星星が煌めくような幻の布をありありと目の前に見るかのようで、二人は闇夜に想像力の夢を共有して、白菫は銀河を織ったような単をまとい、小桜丸は、太陽の光を集めたように輝く衣を着て楽しんだ。
 実際には機織り女の白菫には、言われた通りの糸で布を織るしかないので、鶴の物語のような、素晴らしい織物を現実に作ることはできない。でも小桜丸は、白菫の素晴らしい夢見の才能をよく知っていたので、彼女を愛し、その魂の夢をも愛し愛おしんだ。
 白菫も小桜丸の優しさを愛した。ある時国のお后様が星空のような衣を欲し、それを巡って小桜丸が白菫を宮廷に招いて自由に衣を織らせて、その結果白菫が他の男に娶られて、二人の仲が引き裂かれてしまうことになるけれども、この八重桜の美しい春には、この二人はそんな遠い時間は知らず、永遠のかけがえない幸せを甘く共有していた。

幻の着物

執筆の狙い

作者 跳ね鳥
153.248.166.89

さらりと読める掌編です。跳ね鳥で以前投稿した、「巻物の赤紐」という短編の、書ききれていなかった源氏物語テイストの作中作をプロット的に構想してみました。これをきちんと短編以上の丈で書き上げていけるかはまだ分かりませんが、これはいただいたご指摘あって書けたものです。ご意見ありがとうございました。

コメント

偏差値45
219.182.80.182

表現を変えての繰り返しが多いかな。
それよりもエピソードを入れたり、ストーリー性を高めた方が
面白いような気がしますね。

夏間釣
106.161.224.178

ジャンル、などという決め付けは下手くそがすがる窮屈な言い訳のようなものだと勝手なことを考えるのですが、あえて尋ねてしまいます。
この作品を作者さんはどんなジャンルとお考えですか。
私は狭量なものですから、この手の物語には人格丸出しの如く理解を持ちません。
ですが、何故か読ませていただいた手前感じさせられることは、ジャンルとして通用しない骨格の曖昧さのようなことばかり、そんな感触ということではあるのですが。

作者さんは、書き終えた後あるいは書きながらという方が尚好ましいのかもしれませんが、音読をされる心掛けはおありでしょうか。
私はこの作品を読ませていただくに当たって、あまり小気味のいい印象を持ちませんでした。
それはどういうことかと言えば、文章としての上手下手と言うよりは、ジャンルとしての嘘臭さ、偽物感のようなことばかりを面倒に押し付けられるような印象を受けたということなんです。
物言いが不躾でしたらお詫びします。
けれど、読感を良好と思えるには至らなさが目につきすぎる印象が拭えません。
具体的な理由を指摘して差し上げられないことがわたしの言の疑わしさに他ならないことは否定しませんが、たぶん、あらすじで決めるような感覚とさして変わらないことのような気がしてしまうのです。
文庫の背表紙にあるあらすじを眺めて、棚に返してしまうあの感じと大して違わないという趣旨で言っています。


興味はそれぞれのことでしょうからお好きにされたらいいのですが、私はこの作品に触れて、作者さんからほとばしるものを想像することは難しかったように感じさせられています。
テーマをお持ちなら、正確なものを、私のような生半可なものにも理屈抜きでも突きつけられるものを示してほしい気がします。
けれどそれは、基礎のような話だとも思うのです。
作者さんのご自身が操りたがる語感に対する認識が甘い印象を受けます。

不愉快に思われたのでしたら、先んじてお詫びいたします。

つかさ
163.49.213.146

 これから仕上げて行く予定のプロットとして読みました。
 悲劇で終わる物語ですが、まだ二人はそのことを知らず、恋の最中にある二人はまだ幸せというロマンチックなお話でした。
 簡単なストーリーですが、これをあれこれ変化を付けてドラマチックな物語に変える必要はないと思います。恋する二人が二人だけの空間で、夜毎にいろいろとロマンチックな空想を楽しむという内容のままで良いと思います。そのロマンチックな空想を読者も共に楽しめるように工夫されると良いと思います。
 最後にあっさりとこの恋は悲恋に終わったということを書き添えると良いと思います。別れることになった二人の感情を縷縷と語ることなく。ですからラストは今のままで良いと思います。

跳ね鳥
153.248.166.89

〉偏差値45様


コメントありがとうございます。ご意見感謝いたします。エピソードやストーリー性とのことで、まだ具体的な描写や書き込みが足りないのかなと反省しました。きちんと丈を伸ばすことを考えて見直します。失礼しました。

跳ね鳥
153.248.166.89

〉夏間釣様

コメントありがとうございます。ジャンルは、平安和風ファンタジーみたいなものだと自分では思います。


書き上げてからの音読は、したことがあまりないです。短編のときはやったりしますが、こうした掌編や長編では音読はしないです。音読、今後の参考にいたします。アドバイスありがとうございます。


そうですね、たしかに源氏物語ちっくな嘘くさい感じはあるでしょうね、勉強したての中学高校生が試して書く感じの。もうすこし、平安時代の服飾文化の資料を真面目に集めないと、このモチーフではキッチュなまがい物感は脱せないですよね。参考になりました。ありがとうございます。

跳ね鳥
153.248.166.89

〉つかさ様


ご丁寧なご感想ありがとうございます。たしかにロマンチックな空想が、描写と視覚想起的文章表現で、読者の脳裏に鮮やかに浮かぶように書ける文章力が、このアイディアで長く書くとしたならば、要となってきますよね。ご指摘の通りです。


元のアイディアが、裸の王様という寓話へのアイロニーなんです。裸の王様に言葉匠に衣装を見せる詐欺師をあの話は笑うけれども、本当は、そのイメージの服の美しさこそ、真実の美しいものなのではと、イマジネーション賛美をこの物語で語れるといいです。ありがとうございます。

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