作家でごはん!鍛練場
大丘 忍

艶笑小話

こだわり

 男は難しい顔をして妻を前に坐らせた。
 若くて魅力的な妻は、媚を売るように夫を見上げた。
「今度のことで……」
 男は途中で口をつぐんだ。あとを言い出すのには勇気が必要なのかも知れない。
 妻はしおらしく首を傾けた。
「いや、君を責めている訳ではないんだ」
 男は言い訳がましく言った。
「君が男とホテルに泊まったことにこだわってはいない。だが……」
「だが?」
 妻は身体を硬くして問い返した。夫の宣告を覚悟した様にきびしい顔で返事を待った。
 男は思いきったように言葉を続けた。
「せめて、ホテル代だけでも相手に払わせなさい」


サンタクロース

「なに? 辞任したいと?」
 神様は目をむきました。
「そうです。私も歳をとりまして。この寒空がすっかり身体にこたえますねん」
「歳をとった言うても、サンタクロースは年寄りに決まってるやろ」
「しかし、私が就任して以来二千年にもなりますんやで」
「そうか、それならサンタクロースを交代させてみるか」
「この寒空での仕事やから、若い人がええと思いますねん。これは私の経験からやけど」
「なるほど。次はうんと若い人を起用するとしよう」
 神様は、どうせのことなら若い女性がいいだろうと考えました。
「どうや。今度のサンタクロースは評判がええやろ」
「それがあきまへんねん」
 年寄りの元サンタクロースが神様に困った顔で言いました。
「若い女では評判が悪いんか」
「それが……。評判が良すぎて、毎年、妊娠して困ってますねん」
「えっ、サンタクロースは子供のところを回るのと違うんか」
「いや、今度のサンタクロースは若い男の所ばかり回りますんで……」


運動

 テレビの健康番組を見ていた政男さんが言いました。
「僕たちも運動することにしよう。公園で歩くのはどうかな」
 ユリ子さんは首を傾げました。
「公園で歩くよりプールの方が良いんじゃあない?」
「そうだな。よし一緒にプールへ行くことにしよう」
「ちょっと待ってね。見せたいものがあるから」
 ユリ子さんは隣の部屋に消え、間もなく政男さんの前に立ちました。
「どう、この水着。素敵でしょう」
 ユリ子さんは腰をくねらせてポーズをとりました。
 露出度の高い水着からはみ出したユリ子さんのむっちりとした白い肌に目をやると、政男さんは慌てて言いました。
「やっぱりプールは止めておこう」
「どうして?」
「どうしてと言ったって……」
 政男さんの股間の盛り上がりに目をとめてユリ子さんが囁きました。
「プールは止めて、ベッドの上で水泳の練習をしましょうよ」
こうして二人の運動はもっぱらベッドの上で行なわれ、プールにも散歩にも行く必要はありませんでした。


大穴

 先日のレースで競馬評論家のアマーミン氏の予想通り馬券を買って万馬券を当てて以来、ユリ子さんは大の競馬ファンになりました。今日も、ユリ子さんと政男さんは競馬場に来ています。
 今日は牝馬のG1レース、桜花賞があります。パドックで、牝馬が廻っているのを見て、
「どれが良いかな」
 と政男さんが呟きました。素人ではパドックで馬を見たところでわかりません。
「あの8番が良いと思うよ」
 ユリ子さんが8番の馬が廻ってきたときに指さしました。
「どうして良いと思うの?」
 政男さんが尋ねました。
「だって、お尻が大きくて逞しいじゃあないの」
「そりゃあ、人間の女は大きくて逞しいお尻は魅力があるけど、馬の場合はどうかな」
 結局、ユリ子さんは、8番と15番の馬連を買いました。
「どうして8―15にしたの? 今日はアマーミン氏の予想は載っていないんだぞ」
スポーツ新聞を見ながら政男さんが言いました。
「神のお告げよ。つまり『啓示』ってわけね」
 政男さんは納得したようにうなずきました。そして思わず呟きました。
「君の穴は大きいからな」
 近くにいた人が変な顔をしてユリ子さんを見ました。
 ユリ子さんは顔を真っ赤にして言いました。
「あまり私の穴が大きいと言わないでよ。まわりの人が変な顔しているでしょ」


心変わり

「あなた、タバコ止めると約束したでしょ」
 ユリ子さんが怒って言いました。
「いや、つい、魔が差してね」
 政男さんが頭を掻きました。
「もう。あなたはすぐに心変わりをするんだから」
「そんなことはないよ」
「お酒だって止めると言ったでしょ」
「わかったよ。タバコも酒も止める。約束するよ」
「あなたの約束なんか当てにならないわ。すぐに心変わりするんだから」
「今度は大丈夫」
「それなら誓約書を書いて壁に貼って頂戴」
「なにも其処までしなくても」
「駄目。さあ、この紙に『禁煙』と『禁酒』と書いて頂戴」
 ユリ子さんが紙とマジックを突きつけました。
「よし、書いてやる。その代わり、貼っている間は、書いたことをきっちり守るからな」
 政男さんは少し腹をたてました。
 マジックを持って紙に、禁煙、禁酒と書き、最後に一言付け加えました。
 壁に貼った紙を見てユリ子さんが言いました。
「なによ、この禁欲というのは」
「文字通り、禁欲さ」
 ユリ子さんは恨めしそうに紙を見ました。
 政男さんはざまを見ろと思いました。
 翌日の夜、政男さんが壁を見ると、昨日書いた紙は剥がされていました。


スペシャル 

「ムスコがだらしなくてさっぱりですの」
 40才前後の魅力的な婦人の、愁いに満ちた表情は人を動かさずにはいられない。
「それは困りましたね。親の言うことをきかないんですか?」
 中年で精悍な体つきの医師は男の魅力を誇示するように腕組をした。
「そうですわ。さっぱり言うことを聞いてくれないので、私も本当に困っているんです」
「だれかよく言い聞かせてくれる人はいないんですかね」
「主人の場合は言い聞かせたくらいでは駄目ですわ」
「主人? ムスコの話ではないのですか?」
「そう、だから主人のムスコのことですよ」
「だったら、あなたにもムスコでしょ」
「あーら、先生」
 婦人は婉然と笑ってみせた。
「子供は良い子ですよ。困るのは主人のムスコです」
「はあ?」
「主人のムスコが駄目なので私が困っているんです」
「あ、なるほど」
「なにか良い方法はないでしょうか」
「それでしたらいろいろありますがね」
「どんな方法です?」
「まず、朝鮮人参、まむしの黒焼き、漢方薬の八味丸などですね。それで駄目ならバイアグラ」
「人参、まむし、漢方薬は全部試して駄目でした」
「ではバイアグラですね」
「バイアグラでも駄目ならどうなります?」
「その時はスペシャルバイアグラという方法があります」
「スペシャルバイアグラと普通のバイアグラとはどう違うんですか?」
「普通のバイアグラはご主人が飲みますが、スペシャルの場合は私が飲んで奥さまの寝室に参上いたします」


村祭り

 村祭りの日でした。村人達は綺麗に着飾って、道の上を踊り歩いていました。
「どうじゃ。皆は楽しそうじゃろう。わしのおかげじゃ」
 雲の上から眺めていた神様が自慢しました。祭りの日には踊るように教えたのは神様でした。
「なんの、それなら俺だって負けへんでえ」
 と、仏様が悔しがりました。
 次の年、人々が踊っていると、わっしょいわっしょいとかけ声をかけながら若者の集団が西の方から現れました。長い二本の棒の上に酒樽を乗せて担いでいるのです。人々は踊りから離れて、酒樽の集団を取り囲みました。
「どんなもんや」
 仏様が鼻をうごめかしました。
「よーし、それなら」
 次の年の村祭りでは、東の方から、今度は二本の棒の上に小さな小屋を乗せて担いだ若者達が現れました。皆は酒樽を見捨てて東の小屋の方に集まりました。
「どうじゃ、わしの神輿の人気は」
 神様は得意げに言いました。仏様の悔しがること。
「こんどこそあっと言わせたるさかいなあ」
 次の年、東の神輿に群がっていた人々は、西の方から「えーんやこらさー」というかけ声が聞こえてくるのに気がつきました。まもなく、神輿よりはるかに大きい小屋がやってきました。あまり大きいので、棒に乗せて担ぐことは出来ません。小屋の下には大きい車輪がついており、若者達はかけ声にあわせて綱で引っ張っていたのです。人々は西に殺到しました。
「くそっ」
 と神様がうなりました。
「どんなもんや。おれの山車の威力は」
 と仏様が自慢しました。
 神様と仏様は睨みあいました。
次の年の村祭り。
 山車を取り巻いて「えーんやこらさー」とかけ声をかけていた人々は、ゴウゴウという不気味な音を聞きました。やがて東から、キャタピラに機関砲を備えた戦車が轟音とともにやってきました。人々は蜘蛛の子を散らすように逃げてしまいました。戦車は山車を押しつぶし、踏み越えました。
「どんなもんじゃ」
 と言いかけて神様は口をつぐみました。
 村人達はみんな逃げて戦車を取り囲んでいる人は誰もいなかったのです。
 神様と仏様はしばらく見つめあい、自分達のした馬鹿げた競争を後悔しました。その後、村祭りがどうなったかは記録がありません。
 浅草まつりや神戸祭り、御堂筋パレードなどで、半裸の女性が肉体美をくねらせて踊るのは、神様と仏様が相談して決めたという噂を聞きました。

艶笑小話

執筆の狙い

作者 大丘 忍
121.92.117.245

 艶笑とは艶っぽい話でにんまり笑う事、小咄は短い話、例えば原稿用紙1枚にも満たない短い話、と理解しています。
 短くても小説。起承転結はあるわけで、特に「オチ」の部分が大切だと思います。

 という訳で、艶笑小咄を数編掲載しました。ずっと以前にこの話の一部は掲載したかもしれません。

 え? 全然面白くなかった? これは失礼しました

コメント

夜の雨
118.18.72.209

これだけ短い作品に一話、一話、感想をつけるとなると難しい。感想を書くにも技術がいる(笑)。


>こだわり

妻が夫に媚びを売るように見上げている、ということなので、離婚とかは避けたい様子です。
ホテルに妻が男と泊まったということで、「せめて、ホテル代だけでも相手に払わせなさい」このラストだと「不倫」ということになりますが、「夫は、妻を許している」という意味になっています。
だから夫は若い妻が不倫しても愛しているのでしょうね。

「不憫」な、男の心の揺れがあるので、面白い。

「こだわり」のオチは、決まりました。


>サンタクロース

サンタクロースは子供に玩具を配ると思いますが、若い女性のサンタは若い男の所に大人の玩具を持っていくのでしょうね。
そりゃあ、妊娠するなぁ。


>運動

ラストを読んで「ええ、運動になると思いました」。
こちらの作品は嫉妬とかが描かれていて、それを察した奥さんが機転を利かしたわけですが、その機転の内容がオチになっています。


>大穴

万馬券を当てたユリ子さんだから、「君の穴は大きいからな」という意味なのですが、周囲の他人はそれを知らないわけなので、政男さんのしゃべる内容は誤解されるわけなのですよね。
それが、オチになっているわけですが。
ちなみに
>「だって、お尻が大きくて逞しいじゃあないの」
「そりゃあ、人間の女は大きくて逞しいお尻は魅力があるけど、馬の場合はどうかな」<
この会話のやり取りが、伏線になっていますね。


>心変わり

『禁煙』と『禁酒』は健康の意味でわかるけれど、どうして「禁欲」を付け足す必要があるのかということに、なりますね。
流れからだと紙がはがされた意味は分かります。


>スペシャル 

医者も大変ですね、この会話の内容を読んでいると、患者からセクハラを受けているような感じを受けましたが、仕事がら真面目に対応しなければならない。

まあ、ラストまで読むと、その医者も患者とのやり取りを楽しんでいるようですが、ちょっと、やりすぎのような感じもします。
医者も患者も似たり寄ったりというところでしょうか。


>村祭り

村祭りの神輿がだんだんと大げさになっていく様子が描かれているのですが、それらは神さまと仏さまが仕掛けていたという話です。
起床展開の「転」のところで神輿に戦車が出てきて、せっかくの祭りがぶち壊しになりますが、オチで神様と仏様が女性の半裸の肉体美をしかけました。
祭りや行事ではほかに男の性器を形度ったものを担いだりとかとかもあるので、性的なものは祭りや行事には必要なのかもしれせんね。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

全体では、

「艶笑小話」ということですが、ほんわか系ですね。
どぎついことがないのでいいです。
全体で一つのテーマみたいなものが描かれていると、なお、よかったと思います。

大丘さん、夏も真っ盛りですが、お元気にお過ごしください。

そうげん
58.190.242.78

>こだわり

妻が男とホテルに泊まって代金を妻が払うということは、その情事は妻の方から求めている風に受け取れる。男の方が支払うのであれば、妻に魅力があるからこそ、男は費用をぜんぶ持ってでも、一晩を過ごしたいと思うということで、それほど魅力的な妻の夫であることに、主人公は誇りを持ちたかったのかなと思いました。でも、それでいいのか、主人公!

>サンタクロース

新米サンタクロースは夢魔(サキュバス)だったという(;'∀')

>運動

ふだんから仲睦まじければ、健康番組を見るまでもなく、定期的に運動していたのでしょうね。
夫婦は何歳くらいなんだろう。熟年夫婦かなとも思いました。

>大穴

当たれば大きい。その意味だけ受け取っておくことにします(;'∀')

>心変わり

政男さんは禁酒、禁煙の約束はしていたけど、ユリ子さんは禁欲の約束はしてないからフェアではないですね。あてつけというところで、翌日に紙をはがしてしまったユリ子さんの行動を思うと、ふだんから仲はよいのですね。

>スペシャル

お医者さんの発言、かつての志村けんのコントを見ているようでした。朝鮮人参といえば、眠るのがもったいないとき、モンスターというエナジードリンクをよく飲んでます。朝鮮人参エキスが入ってるけど、わたしに必要なのはカフェインです。きっと身体に悪いでしょうね。

>村祭り

神戸のサンバカーニバルとかすごいですね。わたしはこの夏は祇園祭の山鉾巡行を見てきました。お稚児さんが小さくってかわいらしかった。勝った負けたでもっとうえ、もっとうえをやっていくと、行き着くところに行ってしまう。歯止めをかけるためにも、ふだんから分をわきまえてないといけませんね。最後は、ちょっと、読んでいるこちらにも戒めの気持ちが浮かんできました。


ひとつづつミニコメントをつけさせていただきました。まじめな話も読ませてもらいたいなと思ってます。ありがとうございました。

大丘 忍
121.92.117.245

夜の雨様
読んで頂き、コメントありがとうございます。艶笑小咄はいわばお遊びのようなもので、笑い飛ばして頂けばいいと思います。短い文章のなかに面白さを込めるのが難しいところですね。

大丘 忍
121.92.117.245

そうげん 様
ふざけた作品にまじめなコメントをありがとうございます。
夜の営み、中年であれば結構いい運動になると思いますね。もちろん、若い方にも運動になりますのでせっせとお励みを!!

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

テクニカルサポート

3,000字以内