作家でごはん!鍛練場
夜の雨

影は眠らない

      一

 眼を開けて布団の中から天井を見ていた。天井には、無数の染みがあった。じっと凝視しているとその染みは動いているようだ。染みが移動している。おびただしい染みが。いや、あれは染みではない、小さな虫だ。それも毒虫だ。幾千、幾万の毒虫が、黒い絨毯になってひとつの生き物のように波を打って天井を移動している。神経を休めようと夢路をたどると、毒虫は躰に群がってくる。見ると天井だけでなく部屋の至る所にやつらは存在していて獲物を捕食しようと群がり、口や鼻、耳や肛門からわらわらと躰の中に潜り込んで悪夢を見させる。毒虫は血管の中や肉と肉の隙間を移動し、脊髄をはいずりながら臓物を喰らう。だが、やつらの一番の好物は大脳らしい。やつらは脳の柔らかい肉をむさぼる。そして交尾して、卵を産む。孵卵して、繁殖する。増大して脳漿を啜る。頭の中で毒虫がちりちりちりちり音を立てて動き回っている。脳漿を啜っているのか、前頭葉を喰らっているのか。だんだんとその音は大きくなり現実みを帯びてくる。
「うわぁ――!」
 吉井は叫び声と共に跳ね起きた。すると犬が顔をのぞき込んでいた。灰色の毛並みをした犬で、目脂のたまった眼でじっと顔をのぞき込んでいた。口を半開きにし、ねっとりとした赤い舌をだらりとしてせわしく息をしていた。吉井が、泳ぐように手を振りまわすと犬は消えた。心臓がドラムを叩いたように鳴っていた。全身に悪寒がするのに汗をかいていた。ぼんやりとしているとすぐに妄想に耽ってしまう。しかしあの犬は妄想ではない。現実の出来事であり、吉井をいつも追い詰めていた。やつはところかまわず姿を見せるのであった。
 気がつくと、幽寂な部屋に電話が鳴っていた――。
 吉井は部屋の中を見渡した。
「犬はいないな――」
 吉井はやつがいないかを確認すると、電話があるところまで行き、受話器をあげた。手の甲の皮膚には褐色の斑点がいくつもついていた。その斑点は毒虫が体の中からはい出てきた痕跡に見えるが、農作業によるもので細かい皺と染みからなっていた。長年、土をいじり、焼け付いた太陽に照らされて吉井の手は軍手のようにごつくなり、皺や染みだけでなく、爪の奥まで土が入り込んでいた。
 電話からは、粘っこい男の声が聞こえた。
「吉井さん、よろしくお願いしますよ」
「吉井さん、頼みますよ」
「吉井さん――」
「はい、わかりました。今から出かけるところです」
 吉井拓也はやっと、感情のこもらない声で反応した。そのまま壁に掛けてある鏡で自分の背後を見た。
「犬はいないな……」
 相手からの電話はすでに切れていたが、受話器を持ったまま、鏡に映る部屋の様子をしばらく見ていた。そして自分の背後になんら気配のないことを見極めると受話器をおろして、テレビをつけた。
 洗面所で歯を磨いているとニュースが始まった。アナウンサーが交通事故で多数の死者が出たことなどを告げている。吉井はテレビの前に来て、歯を磨きながらニュース番組を見る。それはいつもの日課であった。吉井は必ずニュース番組を見ている。ニュースが終わり天気予報になると、長い歯磨きが終わり、洗面所に口をゆすぎに行った。
 吉井の住んでいる町は人口六千人ほどの農村部であった。隣近所の者とは顔なじみだ。部屋は神経質なほどに整頓されていたが、自宅には人を寄せ付けなかった。用事があれば自分から相手の家へ出かけた。
 四十を過ぎても結婚しない男であった。世話をやいてくれる人もあらわれたが、彼は結婚することを拒んだ。近所の者は彼を偏屈だとうわさした。けれど彼は決して無愛想ではなかった。いや、愛想は良い方であった。顔を合わすと必ず、あいさつをしていた。だから陰では彼のことを偏屈とはうわさをするが、それ以上のことをとやかく言う者はいなかった。
 吉井は戸締まりを念入りにすると、学校へと歩いた。今日は選挙がある日だった。町長を選ぶ選挙だった。吉井は選挙には興味はなかったが、頼まれた人物に投票する約束をしていた。町長は田中昌幸に入れる約束だった。彼がどんな公約で選挙に立候補しているのかなどを、吉井は知らなかった。吉井には、そんなことはどうでも良いことであった。頼まれたし、お金をもらっているので投票しに行くのであった。
「あっ……」
 吉井が左右に畑がある舗装された道を歩いていると、前方に犬がいた。灰色の犬である。毛並みが悪く、やせ細っていた。尻尾をだらりとさせ、吉井のほうを見ている。吉井はその犬が嫌いだ。できるだけ避けて通りたかった。横を通ると犬が濡れているのが目に入る。雨も降っていないのに、犬は濡れている。犬の立っている路面まで濡れていた。
「くそっ、犬め! また出やがったな……」といまいましそうに言って、嫌悪を表情に表しながら、吉井は横を通り過ぎた。
 通り過ぎて振り返ると、犬は消えていた。犬がいた路面だけが濡れていた。犬はどこへ行ったのだろうか。吉井はそれを知っている。
 吉井はぶるっと体をゆすると、学校へと歩みを急いだ。
 いやな物を見た――。
「しかしあの犬、おれにだけしか見えないんだよな……」
 以前、ほかの者と歩いているときにあの犬を見たが、隣にいた者には犬は見えなかった。吉井はぶつぶつぶつぶつ、独り言をいいながら学校の前までやってきた。
『町長選挙会場』と、校門には立て看板があった。
「ごくろうさんやな」
 電話の声の主、飯塚に声をかけられた。六十がらみの頭のはげ上がった男で、粘っこい声を出す。選挙違反も、ここまで念がはいっていればたいしたものである。
「お疲れさまです」
 吉井はこびを浮かべながら、会場に入っていった。会場で選挙人名簿を見ながら、本人を確認する係の者も、役所から来ている担当者も知り合いだった。役所の男が親しげに笑みを浮かべた。
「今年の大根は裂根(れつこん)が多いでしょう」
「かなりありますね、晴天のあと雨がよく降ったからね」
 大根は日照りなどで、土が乾き過ぎたあと降雨があると、根が急激に水を吸う。そうすると内側の太ろうとする圧力が強くなり、皮が裂けてしまうのだ。おかげで吉井の畑では、去年よりも、二割は生産が落ちていた。
 吉井は眉間にしわを寄せ、苦笑いを浮かべると、選挙用紙をもらって投票テーブルに向かった。
 鉛筆でかりかりと七文字書いた。
『あと一年で時効』
 吉井は約束をした町長の名前を書き込まずに『あと一年で時効』と、選挙用紙に書き込むと、投票箱に入れたのだ。

 吉井は自宅に帰ってくると戸締まりをしてテレビを見ていたが、気になるのかビデオ・テープを出してくると、デッキに挿入した。昔、録画したローカル・ニュースのビデオである。画質が劣化していて画面が黄色くなり、二重映しになったアナウンサーが、神隠しみたいだとの報告をしている。山辺町の鈴木順子さんが突然いなくなったというのだ。そして、老犬だけが取り残され、近所の人が世話をやいていたが、えさを受け付けずに死んだと言うのであった。近所の人の涙を誘っているらしい。ビデオにはその老犬が、ぼんやりとした立ち姿で、雨に濡れているのが映っていた。灰色で毛並みが悪い犬。肩を落とし、どこか遠くを見ている。その目は濁って目脂がたまっている。今朝見た、あの犬。吉井の部屋の中にまで現れる、あの犬――。
 その夜、飯塚から電話がかかってきて、田中さんが町長選挙に当選しそうなので祝賀会にこないかと誘いがかかった。夜に外へ出るのは、いやだったが、これもつきあいであった。それにいっぱい飲めるし、にぎりずしなども食べられるので吉井は行くことにした。選挙事務所に行くと、町長選挙に当選した田中がだるまに目を入れるところだった。事務所は熱気に包まれていた。新町長はマイクを持ってお礼のあいさつをした。山辺町発展のためにがんばる、という内容だった。祝賀会が始まり、吉井は周りから勧められるままにビールや酒を飲み、すしを食べた。
 しばらくすると新町長がビールを持ってやってきた。隣には飯塚も一緒にいる。
「吉井さんよかったな、田中さんが新町長になってお前さんは大変な得をしたぞ」
 いきなりなにやら訳のわからないことをいわれたが、得をしたといわれて、悪い気はしなかった。吉井は新町長の田中に礼を言われて注がれたビールを飲みながら、何を得したんだいと飯塚にたずねた。
「そりゃあ、吉井さん、お前さんが住んでいるところに、町道が通るんだよ。高く買ってもらえるぞ、お前さんの家を。それもこれも田中さんが町長になったからだぞ」
 新しくなった町長は、山辺町を開発するのに吉井の住んでいる土地に町道を通すということを公約していたのだ。吉井は選挙に関心がなかったので、まさか新町長の田中がそのようなことを公約しているとは知らなかったのである。吉井はまずいと思った。家を買い取られて工事をされるとまずい。家の床下には死体が埋めてあるのだ。以前殺した女の死体が。それが白日にさらされる。吉井は狼狽して家路についた。
 その吉井の後ろから、灰色の犬がひょこひょことついて行く。

      二

 佐伯は険しい表情で新聞を見ていた。食卓に手料理が並べられていたが、手をつけず、立て続けにコップ酒を飲んでいた。
「あなた、どうしたの?」
「うん……」
 妻に声をかけられても、上の空だった。
 佐伯が見ている新聞には、大臣候補の収賄疑惑が秘書の自殺によって、結末を迎えたことが書いてあった。それが残念でならなかった。佐伯が収賄疑惑の情報をつかみ調べようとしていると上層部から圧力がかかり、地方の警察学校の教官としてこの町の警察署に出向させられたのだ。あれから半年経っている。佐伯は警視総監賞十二回、署長賞二十二回の実績がある佐伯剣一警部補である。暴力団のとばくの手入れで捕まえた男から、ある情報を手に入れた。佐伯はピンときた。この情報をたどれば、政権与党の次期、大臣候補間島竜一に繋がると。佐伯が間島の周辺を洗い出すと突然出向という形でとばされた、片田舎の警察署に。
「あなた、私はこの町で満足していますよ」
 妻のことばに佐伯は、我に返った。
「おれにこのちんけな町で定年を迎えろと言うのか?」
「そんなことは言っていませんよ、この町も良いところだと言っているのです」
「たしかに隠居するには良いところだよ」
 佐伯は新聞を放り投げると「出かけてくるよ」というなり、ブルゾンを引っかけて近くのスナックに行った。
 佐伯はこの町に来てから、たびたびスナック『葵』に来ていた。東京にいたころは自宅に帰ると外出したことはなかった。この退屈な町にいると、神経が腐っていくようだった。体は疲れていないのに、やる気が起きない。病院で医者に診てもらうと、軽いノイローゼでしょうという。仕事のやり過ぎではないですかと言われた。しばらく休養すれば治るというのである。佐伯は全く逆だと思った。すごい事件に出くわして、忙しく動き回っていると調子がよいのだ。何か事件に関わっていないと不安になる。佐伯は、根っからの刑事(デカ)だった。しかし、事件らしい事件が起きないこの町では、カラオケを歌って、ばかな話をしながら、酒を飲んでいるしかなかった。
 佐伯がカラオケを歌い終わると、飯塚が赤い顔をしながら拍手をした。かなりアルコールが入っているようだ。飯塚はこのスナックの常連で、佐伯とは顔なじみになっていた。土建業を営んでおり、このあたりの顔役でもある。それに地域で防犯の方もやっていた。たまに警察署に顔を出すこともある。
「うまいもんですね、佐伯さん。あちらでもだいぶカラオケをやっていたでしょう」
「いやぁ、こちらに来てからですよ。カラオケをやりだしたのは」
「そうですか、美人のママさんがいるスナックに通われていたのではないのですか?」
「東京にいたころは忙しかったですからね。カラオケはほとんどやりませんでした」
「東京とくらべると、この町は事件が起こらないから退屈でしょう」
「刑事が退屈すると言うことはいいことですよ。平和な証拠ですからね」
 佐伯は、飯塚が町長選挙で違反を犯していたことは知っていた。しかし、そういうことを掘り起こして、問題にしようとは思っていなかった。調べてみると、この街は昔から選挙違反が慢性的に行われていたらしい。しかしそれで町民の生活はうまくいっているのだ。だから、選挙に負けたからといって、相手陣営が彼らは選挙違反をしていたとは訴えない。おたがいさまなのである。この街にはこの街のやり方がある。
 佐伯がたばこを吸おうとすると、ダイヤをちりばめたダンヒルを着火して飯塚が言った。
「そういえば、この間の選挙で面白いことを聴きました」
「この間の選挙と言えば、三月前の町長選挙ですか?」
「そうです、町長選挙です」
「ほう、どんなことを聴きましたか?」
「私は田中昌幸の選挙参謀をしておりました。選挙の開票に立ち会った者に不正が行われていないか、聴く立場にあるのです。まぎらわしい名前が書かれていた場合は、無効にするか有効票にするとかね」
「なるほど、この間の選挙は接戦でしたから、余計気になったことでしょう」
「そうですよ、接戦で冷や汗をかきました。だけど、いつもながら、ばかなことを書く者がいるんですよ。もちろん、無効票になるのですがね」
「どんなことを書く人がいるのですか」
「芸能人の名前を書いたりですね」
「芸能人ですか」
「女のあそこの事を書いたりですね」
「それはそれは、また」
「それらはいつものことでしたが、あと一年で時効と書いたやつがいたらしいですよ」
「あと一年で時効ですか?」
「はい、あれは何でしょうね、やはり、いたずらでしょうか」
「時効と言ってもいろいろありますからね。殺人の時効は十五年ですが、飲み屋の付けの時効は一年です。交通事故や傷害事件など不法行為による損害賠償の時効は三年だし、個人間の貸金債権は十年ですよ」
「なるほど、わたしはてっきり、殺人の時効かなと思いました。テレビドラマの見過ぎですかね」
 飯塚ははげ上がった頭を毛深い手でなでながら、粘っこい声で笑った。

 昨日はボトルを一本空けてしまった。鬱金(うこん)を飲んだが、まだ体に残っているような気がする。やはり五十という年を前にして若いときのようなむちゃは出来ないと、佐伯は悟った。
「佐伯さん、前田はいるようですね」
 アパートのドアの前で電気メーターが動いているのを若い刑事が確認した。留守ならメーターの動きは遅い。佐伯はうなずいてドアをノックした。ドアの前だけで刑事は三人いる。裏口に逃げ道はないので、道路にいる二人をふくめて五人で容疑者の検挙に来ていた。
 コンビニ強盗がビデオにきっちりと映っていて、前科があったので、すぐに顔が割れた。おまけに住所が前のままだった。まるで捕まえてくださいといっているようなものだ。こんなまぬけな犯罪者が結構多いのだ。
 中からごそごそと音がして、ドアが開いた。のっぺりした顔の男が出てきた。表情がない男だった。
「前田直樹だな、コンビニ強盗の容疑で逮捕状が出ている」
 佐伯は逮捕状を男に示した。男は、笑みを浮かべた。どうしてこんな時に笑みが浮かぶのだろうと、佐伯は思った。逮捕時間を告げて手錠をかけた。
 二台の警察車両で来ていた。
 容疑者をもう一台の車に乗せた。
 警察署に戻る途中の交差点で、佐伯たちが乗った車は信号で停まった。
 太陽がにぶく輝いていた。大気が重いのだろう。空全体がどんよりしている。交差点を行き交う人々は暗鬱な足取りで黙々と歩いている。小さな女の子が若い母親に手を取られて歩いていく。彼女は糸につながれたガス風船を持っている。赤い風船が曇り空に揺れ、そこだけ違う世界を醸し出していた。
 それらの光景を佐伯が見ていると、奇怪なる犬を連れて歩いている男がいた。犬はやせこけてあばら骨が見えている。病気なのか毛がところどころ抜けてまだらになっていた。尻尾もだらりと下がっていた。そして、雨が降ってもいないのに、その犬は濡れていた。犬が佐伯の方を見て視線があった。生気がまったく感じられない視線だった。佐伯はなにやら背筋を氷の手で触られたような気がした。
「あれっ、吉井さんだ」
 運転をしていた若い刑事が、吉井拓也を見て声を上げた。
「田川おまえ、あの人を知っているのか?」
「はい、大根の品評会で毎年山辺町農林産物品評会・金賞を獲る人ですよ。あの人が栽培している大根は太くて白くて、みずみずしいのです。生で食べても甘みがあっておいしいですよ」
「そうか、ちょっとした有名人なんだな」
「ところが偏屈なところがありましてね。家に人を寄せ付けないところがあったのですよ。それが、近ごろは人が変わったみたいです。用事があって彼の家に行くと中に入れてくれて、お茶なんかも淹れてくれるようになったそうです」
「何か心境の変化があったのだな」
「そういえばあの犬はどうなったかな」
「犬がどうかしたのか?」
「犬があの人にへばりついて離れないらしいのですよ。ところが、ほかの人が見ても彼が言うその犬は見えないのです」
「でっ、どんな犬なんだ?」
「それが、要領が得なくて、どんな犬かは吉井さん言わないのですよ」
「ほう……でっ、いまはどうなんだ。彼は犬を連れているか?」
 田川は佐伯の顔をまじまじ見て笑った。
「連れていませんよ、佐伯さんにも犬なんかは見えないでしょう」
「ああ……見えないね」
 佐伯は通り過ぎていく男と犬を携帯電話のカメラで撮ったが、犬だけは写っていなかった。

 食卓には大根料理が並べられていた。
 ふろふき大根、ぶり大根、大根サラダ、牛ばら肉と大根の煮込み。
 佐伯はぶり大根の、半月に切られた肉厚な大根をはしで割いて一口大にすると口に放り込んだ。だしが大根によく染みこんでいた。大根はさくりとした歯応えがあった。大根自体は甘めなのだが、それが、酒、しょうゆ、みりん、砂糖などで深みのある味になっていた。佐伯はぶり大根の歯応えと味を楽しみながら食べた。
 妻が心配そうに見ている。
「どう、だしの味が大根に染みているかしら」
 佐伯は妻の質問には答えずに、難しい顔をしながら、舌で味を確かめた。
「ねえ、どうなのよ。あなたがお昼に電話をかけてきて、今夜の食事は大根料理にしてくれと言ったから、大急ぎで準備したのよ。でもね、これだけの大根料理を作るのは大変だったのですからね。食材にだしの味を染みこませるのには時間がかかるのよ」
「うるさいやつだな、味がわからないじゃないか」
「まあ……」
 妻の美保子はすねた声を出したが、佐伯が満足しているのはわかっていた。夫の佐伯とは二十年も一緒に暮らしているのだ。佐伯のぶきっちょなしゃべりかたからも、愛情が感じられるのだった。しかし手間をかけて作った料理である、せめて味の感想を一言ぐらい言っても良さそうだった。
「雄大は食事をちゃんととっているかしら。あの子を東京に残してきたから心配」
「しかたがないだろ、おれは転勤だけど、雄大は東京の大学にいっているんだ。あいつまで、こちらにつれてくるわけにはいかんよ」
「食事をちゃんと食べているか心配なんです」
「適当にやっているだろう、おれの子供だぜ」
「なんだか、心配になってきた、電話をかけようかしら……」
「子供はほったらかしていてもかってに育つよ」
「あなたは雄大が心配ではないのですか?」
「おれがやつに心配しているのは、警察官になりたいと言わないかと言うことだよ。この商売は、苦労が多いからな」
「そういえばあの子、おれは警官に向いているんだとか言っていましたよ」
「どうしてあいつが警官に向いているんだ?」
「見えない物が見えるんですって」
「見えない物が見える?」
「霊能力があると言っていましたよ。死んだ人と話をしたことがあると言っていました。だからおとうさんみたいに刑事になって、迷宮入りの事件を解決するんだって」
「霊能力だって、ばかなことを言うやつだ。そんな寝とぼけたことを言いふらしていないだろうな」
「あなたもそう思うでしょう。だからわたし言ってやったわ。そんなことをひとさまに言ったりしたら、いけませんよと」
「まったくだ、あとであいつに電話をかけて、きつく言ってやらなければならんな」
「まあっ」
「どうしたんだ?」
「だって、わたしには電話をかけるなと言ったくせに」
「何を言うか、それとこれは違うだろ」
 佐伯は、息子の雄大といままでに会話をあんまりしたことがなかった。親の背中を見て子供は育つと思っていた。家庭のことは妻に任せきりだった。少し後悔の念にさいなまれた。佐伯は自分が持つ不思議な力が息子にも遺伝しているのかと思った。自分には死人と話が出来る能力などはなく、ただ見えるときがあるだけなのだが。もし死人と話が出来る霊能力があれば、いままでに解決できなかった難事件が次々解決出来るではないかと思う。それはそれですごいことなのだが、その副作用で霊能力をもっている者はいやな思いもする。佐伯は、いままでにひとには言えないほどの深い悲しみを感じていた。それは死者の哀しみなのだろう。普通の人間は、本来そういった哀しみを味わうことはない。これは、不思議な力を持った人間の宿命かも知れない。
「あなた、何を考えているの?」
 佐伯が、大根をはしでもったまま、こわい顔をしているので、妻が声をかけた。佐伯は妻のことばに気付かずに大根を口の中に放り込んだ。大根は中にまでだしが染みこんでいたが、彼はその味をあじわっていなかった。

      三

「ふん……あの犬のやついないな」
 吉井は部屋の中を見まわしてつぶやいた。
「やはり、死体を山の中に埋め直したから、出る回数が減ったみたいだな」
 吉井は町の開発により、自分の家が取り壊されて道路が通ると知って、床下に埋めた鈴木順子の白骨死体を山中に埋め直したのだった。それ以来、天井をはいずり回り躰の中に侵入してくる毒虫の妄想はしなくなっていた。当初死体を床下に埋めたときは腐ってひどいにおいがして虫が涌き、吉井の寝ている布団の中にまで毒虫が入ってきた。それらが妄想の原因になっていた。
「ほんとにあの犬ときたら、いつまでおれにまつわりつく気なんだ」
 毒虫の妄想はしなくなっても、灰色の犬は吉井の周辺に出没していた。
「犬のやつ、おれが女の死体を床下から掘り起こしているとき、そばでじっと見ていやがった。夜中に死体を運び出して、山中に埋めているときもそばで見ていやがったな……まったく、気持ちの悪い犬だ」
 吉井はビデオ・デッキのスイッチを入れた。鈴木順子が行方不明になったローカル・ニュースのビデオが映った。灰色の犬が雨に打たれてぼんやりと主人の帰りを待っている姿が映し出されている。このビデオを吉井は何度見たことだろうか。吉井は画面を見入っていた。
 インターホーンが鳴った。
 吉井はおどろいて、玄関の方をにらんだ。
 玄関に出てみると、中年の男が立っていた。スーツの上に地味なコートを羽織っている。ネクタイもきっちりと締めサラリーマンに見えた。がっしりとした躰と、まゆの濃いのが印象的だった。
「ご主人ですか、わたし佐伯剣一という者ですが、町の広報を見てあなたが農林産物品評会・金賞を受賞したことを知りまして、大根のことについてお聞きしたいと思い、たずねてきたわけです」
「大根がどうかしのですか?」
「わたし趣味で家庭農園をしていまして、農園と言いましてもサラリーマンがやる休日だけの農園ですが。それでぜひとも先生に、大根の育て方をご享受させてもらおうと思いまして」
「ほう、サラリーマンの休日農園ですか? なかなかいいご趣味ですね」
 吉井は自分のような者を先生と呼んでくれたので相好をくずした。
「あっ、これはつまらない物ですけど」
 菓子箱が差し出された。
「いや、これはどうも。まあ、中に入ってください」
 奥の座敷に通した。
 吉井は、男がもってきた菓子箱を開けて、お茶を勧めながら相手の話を聞いた。
「それにしても、自分で作った大根を食べるのは最高ですね。昨日もふろふき大根に大根サラダ、ぶり大根、牛ばら肉と大根の煮込みと、大根を食べまくりでしたよ」
「それはいいですね、さぞ、おいしかったでしょう」
 男が大根の育て方をいろいろたずねてきたので、吉井は親切に教えた。
 部屋の中には吉井の表彰状が所狭しと飾ってある。大根の品評会で獲得した山辺町農林産物品評会・金賞の表彰状であった。
「それにしてもすごいですね、大根で毎年金賞を受賞しているんだ」
 男が立ち上がって、ひとつひとつの表彰状に目を通しながら、感嘆の声をあげている。吉井は佐伯の行為に満ち足りていた。
「いや、たいしたことではありませんよ」
「何年金賞が続いているのですか?」
「二十年連続ですよ。……いや、途中で銀賞が一回ありました」
「ほう、それは惜しいですね。しかしそんなに長く金賞を受賞するには何か秘けつがあるのでしょう。どんなご苦労をしておられるのですか?」
「いや、苦労なんかはしていませんよ」
 吉井は顔の前で手を振った。佐伯はその吉井の分厚い手に気がついたようだ。
「ごつい手をしていますね。手を見せてくれませんか」
 吉井は一瞬ためらったあと、佐伯に手を差し出した。佐伯は吉井の手を触ってみて「ごついよ」とあがめるような声を上げた。吉井の手は軍手のようにたくましく指の間接も節くれ立って太い。爪も一枚いちまいが大きく、中にまで土が入り込んでいた。手のひらは何度も豆がつぶれて皮がこぶのように盛り上がっている。細かい傷がいくつもある。それらは吉井にとって、畑仕事を長年やってきた勲章であった。
「おおっ……これは仕事人の手ですね。これが日本の農業を守っているんだ」
「若いときはこのように手が汚れるのはいやだったですがね。女の子とつきあうことも出来なかったですよ。この手ではね」
 吉井は苦笑いをうかべた。
「ところで一度だけ銀賞になったのは何か訳でもあるのですか?」
 銀賞の表彰状は吉井にとって、不名誉なことだったので飾っていなかった。
「十四年前になりますが、あの年は暑かったのです。天候が不安定だったので、大根を育てるのに失敗しました。収穫も悪かった」
「そうなんですか、でも、銀賞でも立派ではありませんか」
「いいや、金賞以外はだめです」
「そんなものですかね」
 男は帰るときに菓子箱の包装紙を持って帰った。妻がいろいろな包装紙を集めていると言うのだ。吉井は、何の疑いも持たなかった。

      四

 佐伯が吉井の家から出て、停めてある車に乗ろうとすると、ドアのところに灰色の犬がいた。犬は目脂のついた眼で佐伯を見上げると、のっそりと動いた。しばらく佐伯は、犬の動きを見ていた。犬は、車の前をひょこひょこと歩き出した。佐伯は、車に乗るとゆっくりと犬の後を走らせた。
「どこに行くつもりなんだ。あの犬は……」
 佐伯は、犬が自分を待っていて、どこかに連れて行こうとしていると感じていた。いままでにも何回かそういったことは経験していた。それで事件を解決したこともあった。もちろんすべての未解決事件を解決するわけにはいかない。この世に未練を持った霊だけが佐伯に見えるのだ。
 車は街中を抜けて山道へと入っていった。犬は車の前からふっと消えたかと思うと、かなり前方に出現して車を誘導しているようだった。
 あたりは暗くなっていた。犬が立ち止まり、佐伯の方を振り返った。そこからは、獣道になっていた。佐伯は車をとめると、ダッシュボードから懐中電灯を取り出して降りた。周りの空気は冷えていた。コートを羽織ったがすでに寒気が躰を包んでいて、ぞくりとする。満天の星に蒼い月が冷たく輝いていた。犬は獣道に入っていった。懐中電灯で足下を照らしながら歩いた。濡れた草が足下にまとわりついてきた。山の夜のにおいが鼻腔から入ってくる。樹木と湿った土と冷気のにおいだ。土を踏む革靴の音だけがじゃりじゃりとあたりに響いた。山道から二十メートルほど入ったところだろう。車が二台分ほどはいる空き地があった。濡れ落ち葉が積もっている。そこで犬は、鼻面を濡れ落ち葉にこすりつけるようにして臭いをかぐと、落ち葉を前足でかき分けだした。
「何かある……」
 佐伯はそう思うと犬のそばに行き、懐中電灯を地べたにおいて、両手で落ち葉を掻いた。すぐに土が見えた。懐中電灯で照らすと、周りの土とそこだけ色が違っていた。盛り上がり、少し柔らかいように感じる。佐伯は近くに落ちていた木の枝をひろうとその盛り上がった土を掘り起こした。十センチ二十センチと……。三十センチほど掘り起こしたときだった。そこに柔らかい物があった。再び懐中電灯で照らすと、なにやら布団ケースのビニールのようなものが見えている。ファスナーがあったので、その部分の土を払いのけてファスナーをおろしてみた。するとそこに白骨になっている死体の頭蓋骨が見えた。相当の年数が経っているらしくにおいはしなかった。佐伯は合掌すると、しばらくそのホトケさんを観察した。
 やがて、携帯電話をポケットから取り出すと所轄に連絡を入れた。

 西南署は山辺町を統括する警察署である。
 佐伯剣一警部補が山辺町の山中で白骨の死体を発見してから四時間が経っていた。佐伯は吉井拓也を訪問したおり、手土産を持参している。その菓子箱の包装紙からは鑑識により、すでに吉井拓也の指紋が検出されていた。そして、発見された白骨死体を包んでいた布団ケースからも吉井拓也の指紋が検出されている。
「ふむ……これは佐伯さんがいうように、吉井は犯人(ほし)かもしれんな」
 署長室で佐藤がつぶやいた。
「署長、それは間違いないでしょう。わたしが得ている情報によりますと、三ヶ月前の山辺町の町長選挙において、投票用紙に『あと一年で時効』と書いた者がおるようです。山辺町の人口は六千人と少し、有権者は四千五百人ほどです。投票率七十パーセントとしても、三千百五十票。そのうちの無効票だけを調べれば、『あと一年で時効』と書いた投票用紙から、指紋を検出できます。裏がとれますよ」
「どうやらあの白骨の状況からすれば、殺されたのは十年以上も前のようだ。その『あと一年で時効』と書いた投票用紙から吉井の指紋が検出されればきまりだな。朝になり次第、捜査令状を地裁に依頼して、投票用紙を調べよう。それにしても、なぜ、あと一年で時効と書いたのだろう」
「吉井は捕まりたいのかも知れません。捕まえてほしいのかも知れません」
「なるほど、自責の念か……罪の重さに耐えられないのかも知れないな。それであと一年で時効と書いた」
「そうです署長。吉井を早く楽にしてあげたいですよ」
「そうだな。だけど、佐伯さんはどうして死体が山辺町の山中にあったことがわかったんだ?」
「電話にたれこみが入ったんですよ。それで言われた現場に行ってみると死体があったというわけです」
「なるほど、相手はだれだかわからないのですか?」
「たれこみは、自分の名前なんかは言いませんよ」
「それもそうだな。しかしさすがに佐伯さんだ。城山警視監のお友達だけはあるな。聴いていますよ、大学で一緒にラクビーをした仲間だと言うではありませんか」
 ノックの音がして刑事課長が入ってきた。行方不明者のリストが記載されている用紙を署長の堅牢な机においた。
「十四年前の西南市での行方不明者の捜査依頼が出されていたのは、七十二件です。被害者が女性とわかりましたので、該当する行方不明者を調べたところ、三十件でした。複顔による個人の識別がわかるのは明日の夕方です。詳しい死因は明け方までにわかると鑑識課員は言っています」
「よし、投票用紙に吉井の指紋が検出された段階で、任意でひっぱる。それまでは吉井を張り込め!」佐藤が刑事課長に命令した。
 刑事課長が部屋を出ていった。
 佐伯はリストを手にとって目を通していた。
 しかし被害者に該当する行方不明者がそのなかにいるという保証はなかった。
 ほんとうに被害者はこのなかにいるのだろうか……。
 佐伯は、心の中でつぶやいた。

      五

 佐伯が乗った覆面車が一台の車に近づく。ライトを二、三度点滅させる。すると停まっていた車が動き出した。窓から片手があがるのが見えた。吉井の張り込みの交代だ。二人ひと組で見張る。投票用紙の指紋検出をするまでだ。佐伯の視線の先には畑で働く吉井の姿がしっかり捕らえられた。吉井は寒々とした太陽を背にして、畑を耕していた。何度も何度も土を鍬で掘り起こしている。かなりの重労働だ。風がないとはいえ外はだいぶ冷え込んでいる。
「トラクター使わないのですかね?」
 運転席の田川刑事が不思議そうにたずねた。
 佐伯は吉井の部屋にあった数多くの表彰状と、彼のごつい手を思い出していた。
「大根はそんなに繊細なんですかね? トラクターで土を掘り起すほうが、鍬で掘り起すより、楽だと思いますが?」
「おまえの言うとおり、トラクターで土を掘り起こす方が楽だろう。別に鍬で掘り起こす必要はないよ」
「だったら吉井はなぜ、鍬で畑を耕すのでしょう」
「……大根に対する愛情の持ち方だと思うよ」
「愛情ですか……?」
「そういう気持ちがあるから、連続して金賞を受賞出来ると思うのだが」
 ラジオでアナウンサーが、中島みゆきの地上の星にリクエストがあったことを告げた。
「山辺町の吉井拓也さんからすてきなお便りをいただきました。わたしは農業を営んでいる者です。大根を生産しているのですが、今年は天候不順で例年より出来高も品質も悪いです。しかし少しでも、みなさまの食卓を潤すべくみずみずしい大根をお届けできるように仕事をがんばっています。そこでわたし同様、いろいろなお仕事に励んでいるみなさんと一緒に楽しめたらいいなと思い、中島みゆきさんの『地上の星』をリクエストします」
『地上の星』のメロディーが流れ出した――。
「この歌はNHKの『プロジェクトX』のテーマソングでしたね。たしか、不可能と思われる事を成し遂げる平凡なサラリーマンたちの、仕事に対する生きざまを描いたドキュメンタリーだったと思いますが」
 佐伯は田川が言っていることも地上の星のメロディーも、聴いていないかのように、土塊だった大地に鍬を打ち下ろす吉井を見つめていた。吉井の背後には標高八百メートルの西南連山が緩やかな稜線を描いていた。尾根は雪に染まってシルクのように純白だった。この広々とした大地で彼は何十年も畑を耕かし大根を育ててきたのだ。
 突然無線が入った。
 ラジオを切った。
『町長選挙の投票用紙に書かれた『あと一年で時効』の投票用紙に残っている指紋から、吉井拓也の指紋が検出された。ただちに吉井拓也に任意同行願われたし――』
 二人の刑事は車を降りた。
「おれひとりで十分だ」
 佐伯は田川を制して、ひとりで吉井の元に向かった。
 小さなつむじ風が佐伯の足下を通り過ぎた。吉井は佐伯がそばに来るまで気がつかなかった。彼の足下に置いてあるラジオからは地上の星のメロディーが流れていた。
「あれっ、昨日の方……たしか佐伯さんでしたね」
「そうです、お話があって伺ったのですが、このお仕事何時頃終わりますか?」
「あと、一時間ほどかかりますが。要件は何でしょうか?」
「たいしたことではありません。仕事が終わるまで車の中で待っています」

 取調室に残照が差していた。スチールの机とパイプ椅子が置いてあるだけの殺風景な部屋で、佐伯剣一と吉井拓也は机を前にして対峙していた。残照が吉井の頬を赤く染めている。
 ドアがノックされ、婦人警官が入ってきた。彼女はトレイに載せたふろふき大根の入った小鉢を佐伯と吉井の前に置いた。小鉢の中には、厚切りの大根が鎮座していた。ほかほかと湯気を上げて昆布だしの香りを漂わせている。大根には、ごま入りの練りみそが彩られ、いかにもうまそうだった。
「これは君が作ったものなのか?」
 佐伯が若い婦人警官にたずねた。
「はい、そうです」婦人警官が答えた。
 佐伯はうなずいて「吉井さんもどうぞ召し上がってください」と勧め、割りばしをとり、ふろふき大根を食べ始めた。歯触りと絶妙な風味が舌に優しかった。
「うまいじゃないか、君は料理学校にでも行っているのか?」
「いいえ、お料理はお母さんに教えてもらいました。でも、そのふろふき大根がおいしいのは、素材がよいからです。吉井さんが作られた大根は甘くてみずみずしくて。わたしはいつも吉井さんの作られた大根を買っています」
「そうか、ありがとう。君を奥さんにする男は幸せ者だと思うよ」
 佐伯が笑顔を向けると婦人警官はお辞儀をして取調室を出て行った。
 佐伯はふろふき大根をうなずきながら味わった。
「吉井さんの作られた大根は評判がいいですね。さすがに毎年大根で金賞を受賞するだけのことはある。わたしはあなたのごつい手を拝見したとき、感嘆しました。そしてきょう、あなたが大地を耕すのを見た。トラクターを使わずに鍬をもって手作業だった。わたしは思いました。この男は馬鹿だよと。トラクターを使おうが鍬で耕そうが、同じではないかと。なぜ、こんな苦労をするのかと。しかし違うのですよね。鍬のひとふりひとふりにあなたの大根に対する愛情がこもっているのですよね。あなたは西南連山を背景にした広々とした大地でそれを何十年と繰り返してきた。わたしはあなたみたいな人がこの日本という国を支えているのだと思いますよ」
 佐伯は残りの大根を口に放り込んだ。
 お茶を一口飲んだ。
「吉井さん。そのあなたの指紋が山辺町の山中で発見された死体を包んでいた布団カバーから、検出されました。なにかこれには深い事情があるように思うのですが、教えていただけませんか?」
 吉井は小鉢に盛られたふろふき大根を見つめ、沈黙していた。
「しゃべってもらわないと我々はいろいろと想像しなければならない。あなたに不利なことを」  
 佐伯の表情(口元)は笑っていたが、眼は真剣だった。
「吉井さん、あの白骨死体はいったいだれなのですか? 教えていただきたい」
 しかし、吉井はしゃべらない――。
「吉井さん、黙っていてもだめですよ。もうすぐ科学捜査の鑑定が出ますから。昔は死人に口なしと言っていましたが、現在では死人は語るのですよ」
「佐伯さん、あなたがおれの家に来たのは、大根の育て方をたずねに来たのではなくて、指紋を採取しにきたんだ。警察は汚いことをする」
「それが刑事の仕事ですよ。あなたが土に紛れて仕事をするように、刑事は人に嫌われるようなこともしなければならん。そうしないとこの国の治安は守れない」
 突然、吉井の躰が震えだした。顔が紅潮する。そして笑い出した。高笑いをする。涙を流しながら気が狂ったように笑う。
「あの犬のやつ、また出やがった」吉井は指をさしながら笑う。佐伯が見るとその指の先、部屋の片隅に灰色の犬がたたずんでいた。
「警察の取調室にまであの犬は現れるのかよ。頼むよ、もうおれを苦しめないでくれ」
 この部屋には佐伯と吉井のほかに刑事が二名いる。佐伯の尋問を見守っていた田川刑事と記録をとっている刑事だ。彼らにはその灰色の犬は見えない。彼らは吉井が、気が狂ったのではないかと見つめた。吉井はパイプ椅子を蹴って立ち上がると、何かをわめきながら、ずかずかと灰色の犬のところまで行った。
「消えろ! 消えてくれ!」彼は灰色の犬を殴りつけた。その手袋のようなごつい手で。しかし彼のこぶしは空を切るだけだった。佐伯には灰色の犬は見えていた。灰色の犬は哀しげな眼で吉井を見つめていた。
「吉井、何をしている!」
 田川が吉井を止めに入った。しかし、佐伯が田川の肩を叩いて、そのままにしておいてやれと促した。
 吉井は床を叩きながら大声でわめき散らした。佐伯はその彼の姿をじっと見ていた。やがて吉井が黙りこくると佐伯が声をかけた。
「吉井さん、話してもらえますか?」
 吉井は壁に向かって静かに話し始めた。
「ああ、やったよ。おれはたしかに人を殺した」
「誰を殺したんですか?」
「鈴木順子という女だ。山辺町の鈴木順子を殺した」
 吉井が落ちたと、取調室にいる刑事たちは思った。
 佐伯剣一も、彼の尋問を見守っていた田川も、記録をとっていた刑事もあんどした。そのときドアがノックもされずに開いて刑事課長が渋い顔をして入ってきた。佐伯に耳打ちしながら、持ってきた書類を見せた。それは、科学捜査による死体の鑑定書であった。複顔による個人の識別で被害者がだれだかわかったのである。鈴木順子、当時の年齢が三十歳。十六年前に行方不明になっている。佐伯は、その十六年前に行方不明者の捜査ねがいが出されているのを書類で確認した。
「吉井、おまえ鈴木順子をいつ殺したんだ?」
「十六年前だよ……」
「だったら、なぜ、投票用紙にあと一年で時効と書いたんだ?」
 吉井は刹那、顔を引きつらせた。その顔には哀しみが浮かんだ。そして貝のように口を閉じたまま、再び開こうとはしなかった――。
 殺人の時効は一五年、すでに時効は成立していた。
 吉井は殺人の動機も語らないまま、謎を残して、西南署を後にした。

 佐伯は、西南署の三階にある刑事部屋の窓から吉井がバス停に向かって歩くのを見ていた。彼の影が街頭の明かりに長く伸びていた。まるで重い人生を引きずっているようだった。灰色の犬の影が吉井の影にとけ込んでいた。
 携帯電話が振動した。
「城山だが、間島竜一が逮捕されたよ。半年に及ぶ捜査が実った。このあいだは、彼の秘書が自殺したことにより、事件の捜査が危ぶまれたが、これで、この国の治癒能力が証明された。明日から始まる臨時国会は間島竜一の逮捕で荒れそうだな。野党がどれだけ追及するか見物だよ。それで佐伯、お前を本庁に戻すことにしたからな。いやぁ、地方の警察学校への教官の出向お疲れさまでした。と言っても、現場でバリバリ働いていたのだろう。それとも骨休めをしていたのか。まあ、敵を欺くには猿芝居もやらなきゃならないから大変だよ。おまえには悪かった。そっちの都合はどうだ。来週にでもこちらに戻るか? おい、聴いているのか?」
 佐伯はバス停で待つ吉井を見ていると、何か影が薄いような気がしてならなかった。
「おい、佐伯、聴いているのか?」
「ああ……聴いているよ。そっちに帰ったら、おまえを一発、殴らせてくれよ」
「一発でいいのか?」
 城山の笑い声が聞こえてきた。

      六

 佐伯の前には親子三人の死体が転がっていた。小さな子供までもが殺されているのである。鋭利な刃物で殺害されたようだ。鑑識がすみ、佐伯は死体を克明に観察していた。携帯が振動して、メールが入ったことを知らせた。
 一段落して殺害現場の部屋から出て、マンションの通路でメールを見た。西南署の佐藤からだった。『吉井が自殺した』とメールにはあった。佐伯は、吉井が時効が過ぎているのに『あと一年で時効』と書いた意味がわかったような気がした。彼にとっては、殺人は十五年で時効ではなかったのだろう。自分であと一年と決めていたのかも知れない。そして、その一年が待てなかったのだろう。あの灰色の犬は彼の良心だったに違いない。彼は苦しんでいたのだ。それで自殺した。それにしても吉井の鈴木順子を殺した動機はなんだったのだろう……。
 佐伯は、たばこをくわえて、ライターを着火させた。佐伯がいまいるマンションの七階からは東京の街並みが見える。風が光っていた、はるか遠くまで見渡せた。人の心もこのように見渡せたら良いのにと佐伯は思った。


   ―― 了 ――

影は眠らない

執筆の狙い

作者 夜の雨
114.184.205.149

四百字詰(ワード) 原稿用紙設定 51枚
                         
このところ、自分の作品を鍛練場に投稿していなかったので、久しぶりということです。

拙作の内容は、怪奇警察ものです。
怪奇と言っても怖くはありません。
犯人に霊がまとわりついていて、佐伯という刑事に霊能力があり、見えるという設定です。

一応人間は描いたつもりですので、ペラペラの軽い作品ではありません。
ちなみに拙作は10年以上前に鍛練場に投稿しています。
拙作の設定の殺人の時効は15年です。
2004年に殺人の時効は25年になり、現在は無期限です。

それでは、よろしくお願いします。

コメント

上松 煌
180.50.30.53

拝見しました。

 肉厚な犯罪ミステリーでした。
夜の雨さんらしく、入念な構成と手慣れた語り口で、これといった破綻は感じられない見事な構成でした。
いや、やっぱり、古参の方々はどなたもなかなか「えぐい」力量をお持ちです。

 ただ、佐伯とその息子に霊感があるというのが、ちょっとミソつけたかなぁと。
やはり、現実的でないと言うか、構成上の「取ってつけ」に感じられる。
おれとしては正々堂々、大上段の犯罪推理ミステリーであって欲しいと、ちょっぴり思いました。

 また、冒頭の不気味な毒虫の記述も「なにがあるのだろう?」という興味と戦慄をさそって秀逸でした。
それでも犬畜生霊(吉井の良心)で、お話しの早い段階から「ははぁ、鈴木は飼い主か。と、いうことは…」と先が読めてしまう。
つまり、犯人が吉井だと見えてしまう。
これを欠点とするか、読者の先読みが次第に暴露されていく快感を取るか、見解が分かれるところでしょう。

 吉井がなぜ、鈴木を殺すに至ったか?は最後まで明かされることはなく、余韻として残されていましたが、これも「動機は明記してぇ」と感じる読者もいなくはないだろうと思いました。
すべてが、スッキリサッパリと解決されて「天網恢恢疎にして漏らさず。めでたし、めでたし、ざまぁ」という大時代的解決は、いつの時代も動かし難い快感があるからです。

 これは枚数的に言って「オール読物」あたりですかね。
ミステリー歓迎のような談話を編集長が話してましたから、壺にはまりそうです。
手慣れた読みやすさもあって、最後まで興味をひかれる作品でした。

夜の雨
114.184.205.149

上松 煌さん、ご感想ありがとうございます。

近頃作品を書いていなくて、また、書きたいなぁと思い、10年以上前の作品を引っ張り出してきました。
鍛練場でみなさんのご感想をお聞きして、沈殿化しているやる気を鼓舞させたいなと、思った次第です。

 >肉厚な犯罪ミステリーでした。
夜の雨さんらしく、入念な構成と手慣れた語り口で、これといった破綻は感じられない見事な構成でした。
いや、やっぱり、古参の方々はどなたもなかなか「えぐい」力量をお持ちです。<

ある程度伝えようと思えばやはり肉厚に描く必要があるのかもしれませんね。
表面上だけ書くと、読み手のみなさんに何から何まで想像してもらわなくてはならないので、伝わりにくいかもしれません。

 >ただ、佐伯とその息子に霊感があるというのが、ちょっとミソつけたかなぁと。
やはり、現実的でないと言うか、構成上の「取ってつけ」に感じられる。
おれとしては正々堂々、大上段の犯罪推理ミステリーであって欲しいと、ちょっぴり思いました。<

霊感はない方がよいですかね。
正面から刑事小説を書いて、犯罪の裏に人間ドラマありで切り込むとか。
怪奇系の作品、結構好きなものですぐにこちらの線で書いてしまいます。
上松さんの作品は懐が深いので、そのあたり見習いたいものです。
そうすれば、新しい刑事もの警察ものの作品が書けるかもしれませんね。
普通に刑事ものや警察ものを書いても、すでに書かれているものばかりなので、何か新しいものを書きたいですね。


 >また、冒頭の不気味な毒虫の記述も「なにがあるのだろう?」という興味と戦慄をさそって秀逸でした。
それでも犬畜生霊(吉井の良心)で、お話しの早い段階から「ははぁ、鈴木は飼い主か。と、いうことは…」と先が読めてしまう。
つまり、犯人が吉井だと見えてしまう。
これを欠点とするか、読者の先読みが次第に暴露されていく快感を取るか、見解が分かれるところでしょう。<

「犯人が吉井」という種明かしは最初からわかるように書きました。
吉井にまとわりつくような犯罪の部分と、人間をどこまで描くかで、刑事の佐伯にも登場してもらいました。
冒頭の不気味な毒虫の記述は吉井の精神的なものを表現しました。

 >吉井がなぜ、鈴木を殺すに至ったか?は最後まで明かされることはなく、余韻として残されていましたが、これも「動機は明記してぇ」と感じる読者もいなくはないだろうと思いました。
すべてが、スッキリサッパリと解決されて「天網恢恢疎にして漏らさず。めでたし、めでたし、ざまぁ」という大時代的解決は、いつの時代も動かし難い快感があるからです。<

鈴木を殺した「動機」ですが、Aあたりの事情ですね。
吉井は農業にプライドを持っていたのですが、知り合った鈴木順子に馬鹿にされたので殺してしまったというようなイメージで書いています。
もちろん徹底的にイメージ化していなかったので、作品内では書かなかったわけです。
もし書いていたとしたら、単純に鈴木が吉井を馬鹿にしたというような内容にはせずに、鈴木の背景には、深いわけがあったというようなことにしますが。

A>「おおっ……これは仕事人の手ですね。これが日本の農業を守っているんだ」
「若いときはこのように手が汚れるのはいやだったですがね。女の子とつきあうことも出来なかったですよ。この手ではね」
 吉井は苦笑いをうかべた。<

 >これは枚数的に言って「オール読物」あたりですかね。
ミステリー歓迎のような談話を編集長が話してましたから、壺にはまりそうです。
手慣れた読みやすさもあって、最後まで興味をひかれる作品でした。<

ああ、なるほど「オール読物」かぁ。
いままで公募に出したことはなかったですが、枚数的にはそうかもしれませんね。
ミステリー系で人間ドラマもあると、オール読物が向いているかもしれません。

上松さん、ありがとうございました。

大丘 忍
220.219.181.62

本格的ミステリーとは言えないと思いますが、面白く拝見しました。冒頭の章で吉井が犯人であることは知れておりますので、推理小説の醍醐味であるミステリーはあまりありませんが、幻覚として犬が現れるということで読者をひきつけております。
もし本格的ミステリーが書けたら読ませていただきたいですね。

夜の雨
114.184.205.149

大丘さん、ご感想ありがとうございます。

>本格的ミステリーとは言えないと思いますが、面白く拝見しました。冒頭の章で吉井が犯人であることは知れておりますので、推理小説の醍醐味であるミステリーはあまりありませんが、幻覚として犬が現れるということで読者をひきつけております。
もし本格的ミステリーが書けたら読ませていただきたいですね。<

そうです、犯人は最初から吉井と分かっていて、ミステリアスな味付けを霊能力者の刑事をからめて表現しました。

「幻覚として犬が現れる」これは、吉井の良心という形です。

「本格的ミステリー」といえば、『緑の雨』という作品を以前鍛練場に投稿しています。
これは宗教がらみの環境問題を取り上げた作品で、人類が地球をどんどん汚していくので「ブルーダイヤ」をスイッチとして地球が古生代に戻りかけるという作品でした。
まあ、主人公が特殊病棟のベットで寝ていて、その彼の夢で問題が起きているのですけれどね、その夢が現実を侵食していくというお話で、刑事や警察などが出てきて、かなり大掛かりな仕掛けになっていました。

大丘さんが現在投稿されている作品はここ一、二年内にこちらのサイトで読んだことがあると思います。たぶん感想を書いていると思いますが、また、のちほど、再読して感想を書きに行きます。

大丘さん、ありがとうございました。

u
183.176.51.134

夜の雨様、読みました。
なかなか面白かったです。

一つイチャモンをつけるとすれば、やはり謎を謎のままで残したところではないかと思います。
ミステリ、ホラーetcではわざと謎、伏線を回収せずに終わらせる手法がありますが、その場合は(謎を残すこと自体)が読者のカタルシスに繋がる場合が多いかと思います。
本作は謎を回収せずに残したため読者(私)はカタルシスのかわりにフラストレーション(笑)。吉井はなぜ投票用紙に時効まで1年と書いたのか? 吉井は過去に脅かされているのになぜビデオを繰り返し見るのか? 霊能力刑事はなぜ吉井につきまとう犬をみただけで過去の犯罪をかぎつけたのか? 吉井はなぜ自殺したのか?etc ほとんど回収されていないし、本文中に説明もありません。
最近、道尾秀介2冊、志摩子先生3冊読んだのですが、一部謎は残すものの、読者が納得できる形でちゃんと回収しています。
本作もそこら辺の配慮がなされていれば読後感モヤモヤではなかったかもしれません。ありがとうございました。

夜の雨
114.184.205.149

u さん、ご感想ありがとうございます。


>一つイチャモンをつけるとすれば、やはり謎を謎のままで残したところではないかと思います。
ミステリ、ホラーetcではわざと謎、伏線を回収せずに終わらせる手法がありますが、その場合は(謎を残すこと自体)が読者のカタルシスに繋がる場合が多いかと思います。<
>本作は謎を回収せずに残したため読者(私)はカタルシスのかわりにフラストレーション(笑)。<

作者としましては、u さんご指摘の問題点は、下記のように謎を回収していると考えております。


>吉井はなぜ投票用紙に時効まで1年と書いたのか?<
>吉井はなぜ自殺したのか?<

ラスト「6」で、佐伯の考えが書いてあります。
一段落して殺害現場の部屋から出て、マンションの通路でメールを見た。西南署の佐藤からだった。『吉井が自殺した』とメールにはあった。佐伯は、吉井が時効が過ぎているのに『あと一年で時効』と書いた意味がわかったような気がした。彼にとっては、殺人は十五年で時効ではなかったのだろう。自分であと一年と決めていたのかも知れない。そして、その一年が待てなかったのだろう。あの灰色の犬は彼の良心だったに違いない。彼は苦しんでいたのだ。それで自殺した。

作品内では、法的な時効は15年で吉井はそれを知っていたが、吉井は自分自身で時効は16年と決めていた。ということです。
自殺したのは、時効では罪が償えないので、死をもって罪を償ったということになります。


>吉井は過去に脅かされているのになぜビデオを繰り返し見るのか?<

吉井は過去に鈴木順子に脅かされていません。(脅かされていたというようなことは、作品に書かれていないはずです)。
「ビデオを繰り返し見る」のは、罪の念があるからです。
罪の念があるので、吉井の良心として「犬」が何度も出てきて、彼は苦しみます。


>霊能力刑事はなぜ吉井につきまとう犬をみただけで過去の犯罪をかぎつけたのか?<
よく気が付かれましたね、今回作品を投稿したあと、読み直していて私もこれは伏線が弱いなぁ、と思っていました。
佐伯は今までに数多くの犯罪を霊能力で解決しているので、交差点で見た「吉井と犬に、違和感を得た(犯罪の匂いがした)」ということになります。
交差点で佐伯は田川とやり取りをしていますが、そのなかで吉井の行動(心境)の変化などに気が付きました。

>etc ほとんど回収されていないし、本文中に説明もありません。<
上のように、大上段で謎がわかるようには書いていません。
たぶん「こうだろう」というような展開にしています。


>最近、道尾秀介2冊、志摩子先生3冊読んだのですが、一部謎は残すものの、読者が納得できる形でちゃんと回収しています。<
普通は、そうですよね、あまりにもわかりにくいと読み手が納得しないかもしれません。
もう少し伏線やら使ってラストにはきっちりと謎が解決するように出来たらと思います。
私自身、他人の作品の伏線にはうるさい方なので。


>本作もそこら辺の配慮がなされていれば読後感モヤモヤではなかったかもしれません。ありがとうございました。<

u さんは、ミステリー好きということなので、やはりそういう方に読後感モヤモヤを残すようにしてはならないですね。

『影は眠らない』という作品、かなり微妙な描き方で謎と犯罪部分を書いているので、もう少し伏線のあり方などを考えたいと思います。


u さん、お疲れさまでした。

ゴイクン
121.92.248.214

夜の雨さま

拝読しました。
基本的には面白かったのですが、いろいろ気になるところがあったので、拙作のことはさておいて、少々細かく書かせて頂きます。

ミステリーに関しては、私も大好きで、古典から新作までかなり読んでいます。もっともほとんど身についていませんけど。

登場人物は主に二人で、その二人はよく書かれていたと思います。それでも、まだまだ書き足りない部分があると思います。

霊能力探偵{刑事}というのは、特に珍しくないので、この設定もよいかと思います。刑事に犬が見えるのもすんなり来ました。ただ左遷された理由とか、これはただの説明で、あってもなくてもかまわない内容ですね。これは新宿鮫と似たような感じですが、そのことを御作の刑事はたいして怒っていない。ぎすぎす感もなく、意外にのんきにカラオケにいって、そこで出会った男の選挙違反にも寛大です。なので、左遷されたという設定が生きていないのです。あくまで設定でしかないです。ただやさしい感じはよく出ています。

 で、犯人ですが、大根へのこだわり、これもよかったです。私もインチキ農業をやっていますので、大根の部分は好きです。けれど、その大根が生きていない。

つまり、すでに指摘がありますが、御作はミステリーとしては、オチがない。つまり普通の小説でミステリーとはいえないのではないかと思うのです。
いやいや、怪奇警察物で、ミステリじゃないと言われても、読者は純文としては読まないと思うのです。

つまりカタルシス部分、ラストの、おおそうだったのか、という一番点数の高い部分が抜けているのです。それでは読者は少々残念です。

私は、事件がラストで意外な展開になると思って読みました。つまり最後まで犯人は大根に必死です。そこに何か事件解決の謎があるのか。また、後一年、そこから何か意外な事実かがわかるのか、そんなことを思ったりしてわくわくしていました。

ところがどちらもなく、事件はあっけない感じで解説されます。

>吉井はなぜ投票用紙に時効まで1年と書いたのか?

と、Uさんが問いかけをされています。私も同じことが気になりました。

あと一年はやはり納得できません。これこそが、御作で一番面白い謎です。これに読者がすっきりしなければ、どれほどうまく書かれても、御作はその段階で終わりになってしまうはずです。

>作品内では、法的な時効は15年で吉井はそれを知っていたが、吉井は自分自身で時効は16年と決めていた。ということです。

この理由がわからないのです。
なせ16年なのか。どうして17年、20年ではダメなのか。
これは作者さんの勝手ない決めであって、読者の理解できること、納得できることではないのです。仮に16年なら、白骨も土中に溶けて消えてしまう、とかあれば別ですけどね。そんなわけないです。
つまり、共通の基盤はなくなるので、ミステリーにならない気がするのです。

私は16年と決めた理由の中に、意外な真相が出てくると楽しみにしていたのですが、はぐらかされえました。

それが一つです。
もう一点は文章です。ソツはないですが、面白みがないのです。
なくてもいい、といわれたらそれまでですが。

一番気になるのは繰り返しの多さです。もう少し省略ということも考えられたらいかがでしょうか。

長いですが、少し引きます。

>洗面所で歯を磨いているとニュースが始まった。アナウンサーが交通事故で多数の死者が出たことなどを告げている。吉井はテレビの前に来て、歯を磨きながらニュース番組を見る。それはいつもの日課であった。吉井は必ずニュース番組を見ている。ニュースが終わり天気予報になると、長い歯磨きが終わり、洗面所に口をゆすぎに行った。

これだけの中にニュースが多すぎます。耳にうるさい気がします。

>吉井はこびを浮かべながら、会場に入っていった。会場で選挙人名簿を見ながら、本人を確認する係の者も、役所から来ている担当者も知り合いだった。役所の男が親しげに笑みを浮かべた。

「浮かべる」と「ながら」が多いです。気にされないかもしれませんが、無意識であっても気にする人も結構いると思います。つまり語彙力の問題と思われる可能性があるからです。
前の部分にも「浮かべる」を多用された個所があって、「浮かべる」が好きなのかなと思ってしまいました。その前に「こびを浮かべる」という言い方が書かれていましたが、これはないのじゃないでしょうか。

他にも、カラオケ店での会話。声に出して自分で読んでみてください。人とって、こんな会話をしますか。もっと省略できるはずです。

また、「~した」「~した」がどこまでも出てくる感じの箇所もありました。耳にうるさい感じがしました。
もう少し推敲がていねいであればと思います。

簡単ですが、そんなことが気になりました。少しでも参考になれば幸いです。それでは失礼します。

夜の雨
114.184.205.149

ゴイクンさん、ご感想ありがとうございます。(2レスの返答です)。


ミステリーに関しては、私も大好きで、古典から新作までかなり読んでいます。もっともほとんど身についていませんけど。

登場人物は主に二人で、その二人はよく書かれていたと思います。それでも、まだまだ書き足りない部分があると思います。

>>霊能力探偵{刑事}というのは、特に珍しくないので、この設定もよいかと思います。刑事に犬が見えるのもすんなり来ました。ただ左遷された理由とか、これはただの説明で、あってもなくてもかまわない内容ですね。これは新宿鮫と似たような感じですが、そのことを御作の刑事はたいして怒っていない。ぎすぎす感もなく、意外にのんきにカラオケにいって、そこで出会った男の選挙違反にも寛大です。なので、左遷されたという設定が生きていないのです。あくまで設定でしかないです。ただやさしい感じはよく出ています。<<

佐伯は警視庁の刑事なので普通は東京から地方に飛ばすことはできません。
それで出向という形で(結果的には、一時的に)山辺町という地方に飛ばされました。

左遷(出向)がないと、佐伯の背景が書けません。
佐伯は警視庁で活躍していた刑事だったという肩書をつけるために、東京から山辺町ということにしました。
最初から山辺町にいた刑事ということでももちろんよいのですけれど、佐伯に肩書を持たすために警視庁から山辺町の西南署へやってきたという設定になっています。

「そのことを御作の刑事はたいして怒っていない。」 ←怒っています。A参照。つまり警視庁では活躍できたが、山辺町は事件が起きないので佐伯は退屈で、怒っているということです。
スナックでは刑事が暇を持て余すことはよいことだと言っていますが、心では思っていない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「あなた、私はこの町で満足していますよ」
 妻のことばに佐伯は、我に返った。
「おれにこのちんけな町で定年を迎えろと言うのか?」
「そんなことは言っていませんよ、この町も良いところだと言っているのです」
「たしかに隠居するには良いところだよ」
 佐伯は新聞を放り投げると「出かけてくるよ」というなり、ブルゾンを引っかけて近くのスナックに行った。

 佐伯はこの町に来てから、たびたびスナック『葵』に来ていた。東京にいたころは自宅に帰ると外出したことはなかった。この退屈な町にいると、神経が腐っていくようだった。体は疲れていないのに、やる気が起きない。病院で医者に診てもらうと、軽いノイローゼでしょうという。仕事のやり過ぎではないですかと言われた。しばらく休養すれば治るというのである。佐伯は全く逆だと思った。すごい事件に出くわして、忙しく動き回っていると調子がよいのだ。何か事件に関わっていないと不安になる。佐伯は、根っからの刑事(デカ)だった。しかし、事件らしい事件が起きないこの町では、カラオケを歌って、ばかな話をしながら、酒を飲んでいるしかなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――

その大根が生きていない。 ←吉井のキャラクターを書くために大根を使っています。大根という庶民の食べ物を必死に作っているというところに、この吉井という男のキャラクターがあります。

御作はミステリーとしては、オチがない。怪奇警察物で、ミステリじゃないと言われても、読者は純文としては読まないと思うのです。 ←小説は人間を描くものです。「怪奇警察物」で、人間を描きました。吉井と佐伯という二人の男を描いたつもりです。
人間を描くという作品においては、拙作のラストはオチていたと思いますが。


吉井の自殺を知った佐伯はラストで ↓↓↓↓下記のように思ったのですから。これは霊能力をもってしても、人間の心の中は、闇で見えないということです。

 佐伯は、たばこをくわえて、ライターを着火させた。佐伯がいまいるマンションの七階からは東京の街並みが見える。風が光っていた、はるか遠くまで見渡せた。人の心もこのように見渡せたら良いのにと佐伯は思った。


>つまりカタルシス部分、ラストの、おおそうだったのか、という一番点数の高い部分が抜けているのです。それでは読者は少々残念です。<

機会があれば、また、ほかの作品で書くことにします。

>私は、事件がラストで意外な展開になると思って読みました。つまり最後まで犯人は大根に必死です。そこに何か事件解決の謎があるのか。また、後一年、そこから何か意外な事実かがわかるのか、そんなことを思ったりしてわくわくしていました。<

大根を絡めたのは吉井を素朴な人間として描くためでした。吉井が鈴木を殺したのは行き違いみたいなものがあったというような設定で考えていたのですが、作品では、そこまでは書いていません。
だから吉井が鈴木を憎んでいたというのではありません。


=続く=

夜の雨
114.184.205.149

=続き=


>吉井はなぜ投票用紙に時効まで1年と書いたのか?
と、Uさんが問いかけをされています。私も同じことが気になりました。
あと一年はやはり納得できません。これこそが、御作で一番面白い謎です。これに読者がすっきりしなければ、どれほどうまく書かれても、御作はその段階で終わりになってしまうはずです。
>作品内では、法的な時効は15年で吉井はそれを知っていたが、吉井は自分自身で時効は16年と決めていた。ということです。
この理由がわからないのです。
なせ16年なのか。どうして17年、20年ではダメなのか。
これは作者さんの勝手ない決めであって、読者の理解できること、納得できることではないのです。仮に16年なら、白骨も土中に溶けて消えてしまう、とかあれば別ですけどね。そんなわけないです。
つまり、共通の基盤はなくなるので、ミステリーにならない気がするのです。
私は16年と決めた理由の中に、意外な真相が出てくると楽しみにしていたのですが、はぐらかされえました。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なせ16年なのか。どうして17年、20年ではダメなのか。」 ← 別に20年でもよかったのですけれど、16年は、吉井の罪を償う重さだったわけです。
しかし吉井は16年の時効では罪を償えないと思い自殺して償ったわけです。だから、20年よりも重いということになります。
時効が16年とか20年というミステリーのトリックよりも、作者の私は吉井が罪の重さを時効の年数16年で表現していた。だが、罪は16年の時効ではなくて「死」をもって、償った、そこに『影は眠らない』という作品のドラマ(テーマ)がある。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一番気になるのは繰り返しの多さです。もう少し省略ということも考えられたらいかがでしょうか。

長いですが、少し引きます。

>洗面所で歯を磨いているとニュースが始まった。アナウンサーが交通事故で多数の死者が出たことなどを告げている。吉井はテレビの前に来て、歯を磨きながらニュース番組を見る。それはいつもの日課であった。吉井は必ずニュース番組を見ている。ニュースが終わり天気予報になると、長い歯磨きが終わり、洗面所に口をゆすぎに行った。

これだけの中にニュースが多すぎます。耳にうるさい気がします。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ニュースが多すぎます。」 ← 演出です、わざと「ニュース」を多く書いています。どうしてかというと、吉井がそれだけニュースに関心を持っているということを表現したかったからです。
なぜ、吉井がニュースに関心があるのかというと、鈴木を殺していたから、罪の意識が心の深いところにあったからです。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
>吉井はこびを浮かべながら、会場に入っていった。会場で選挙人名簿を見ながら、本人を確認する係の者も、役所から来ている担当者も知り合いだった。役所の男が親しげに笑みを浮かべた。

「浮かべる」と「ながら」が多いです。気にされないかもしれませんが、無意識であっても気にする人も結構いると思います。つまり語彙力の問題と思われる可能性があるからです。
前の部分にも「浮かべる」を多用された個所があって、「浮かべる」が好きなのかなと思ってしまいました。その前に「こびを浮かべる」という言い方が書かれていましたが、これはないのじゃないでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「浮かべながら」「見ながら」「浮かべた。」 ←これも演出で、多く使っています。てきぱき、無駄の無いような状況ではなくて、漠然としたゆるさが、吉井や選挙の投票会場に漂っている雰囲気を出したかったのです。
ゆるい町だからBのような選挙違反が、はびこっているわけです。

B>>『町長選挙会場』と、校門には立て看板があった。
「ごくろうさんやな」
 電話の声の主、飯塚に声をかけられた。六十がらみの頭のはげ上がった男で、粘っこい声を出す。選挙違反も、ここまで念がはいっていればたいしたものである。<<

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
他にも、カラオケ店での会話。声に出して自分で読んでみてください。人とって、こんな会話をしますか。もっと省略できるはずです。

また、「~した」「~した」がどこまでも出てくる感じの箇所もありました。耳にうるさい感じがしました。
もう少し推敲がていねいであればと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

スナック『葵』での文章を会話も含めて読みましたが、特に違和感があるところはありませんでした。会話文では無駄が多いものです。そういったところにキャラの個性が出ます。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

>簡単ですが、そんなことが気になりました。少しでも参考になれば幸いです。それでは失礼します。<


勉強になりました。


ゴイクンさん、お疲れさまでした。

うりぱぱ
218.251.52.171

夜の雨様

拝読いたしました。

良作ですね。犯人が初めから判っている中で物語を進めるのって、面白く作るのは難しく感じるのですが、本当にサラッと作られています。場面がすぐにイメージできますし、でもって面白い。

>佐伯は逮捕状を男に示した。男は、笑みを浮かべた。

このシーン、リアリティがあります、笑い声が加わるともっと良かったと思うのですが。とにかく究極の緊張状態で出るのは笑いですから。

ちょっと理解できなかったのは、なぜ16年としたのかと、投票用紙になぜあんなことを書く必要があったのかです。そして投票用紙の指紋は必要なかったのではないかと。なんとなれば死体を入れた袋に指紋があったわけですから、それとの照合が先にされていますよね。それで確定ではないでしょか?

そして、何故自殺したのか。そこらが納得しにくいです。

以上取り急ぎ、感想として。

夜の雨
114.184.205.149

うりぱぱ さん、ご感想ありがとうございます。


>良作ですね。犯人が初めから判っている中で物語を進めるのって、面白く作るのは難しく感じるのですが、本当にサラッと作られています。場面がすぐにイメージできますし、でもって面白い。<

もしそうだとしたら、たぶんエピソードの細部を書いたからだと思います。細部に魂はこもるというやつです。

>佐伯は逮捕状を男に示した。男は、笑みを浮かべた。

このシーン、リアリティがあります、笑い声が加わるともっと良かったと思うのですが。とにかく究極の緊張状態で出るのは笑いですから。

作品のストーリーとしては、佐伯が交差点で吉井が灰色の犬と歩いているところを見かけるための伏線としてのエピソードです。
しかし単に「置く」だけの、何の意味もないエピソードを配置しても面白くないので、人間の闇の部分である、犯罪者が案外何も考えていないであろうところを描きました。

>ちょっと理解できなかったのは、なぜ16年としたのかと、投票用紙になぜあんなことを書く必要があったのかです。<

吉井の罪の意識から来ています。
罪の意識がなければ、『影は眠らない』というドラマは始まらないし、終わりません(吉井は自殺しない)。

人間はいろいろと墓穴を掘るものです。完璧な人間ばかりだと、世の中「平和」だし、面白くありません。


>そして投票用紙の指紋は必要なかったのではないかと。なんとなれば死体を入れた袋に指紋があったわけですから、それとの照合が先にされていますよね。それで確定ではないでしょか?<

そうなのですよね、死体を入れた袋には指紋はなかった(手袋をして死体を入れたようだ)と書くべきでした。(設定のミスをしています)。
ここでは、白骨死体さえ見つかれば、物語は進展します。
そうなると投票用紙の指紋が必要になります。

>そして、何故自殺したのか。そこらが納得しにくいです。<

まず書かなければならないのは、どうして「時効16年」と吉井は決めたのかです。
当時の時効は15年です。
なので、吉井が設定した時効16年は1年多いわけです。
この16年の時効というのは、吉井が自分の罪は15年の時効では償えないと思ったからです。
その16年の時効でも、罪が償えないというか、実際の時効は15年で吉井は無実になったわけです。
そうなると、吉井は良心の呵責にさいなまれ、死をもって罪を償うしかないと思ったわけです。

7月16日の夜までには御作「ベルが鳴る(前編)」に感想を書きます。
よろしく、お願いします。


うりぱぱ さん、お疲れさまでした。

はるか
106.154.131.100

夜の雨さま

 !、と思いました。
 的外れな感想かもしれないけれど、書かせてください。
 心理を描いた作品なんだ、と思いました。
 犯人は昔悪いことをして、で、結果として自殺してしまうわけですけど、この犯人が、自分の良心に追い詰められてゆくさまがよく描けているなあ、と思いました。
 幻覚は犯人の良心だったのだ、とわかって思わず頷きました。そうですよね、大根作りに愛情を注いでいた人ですもんね、故なき事情があって人を殺めてしまったのだろうけれども、平気でいられるわけないですよね。
 投票用紙に「あと一年」って書いちゃったことが証拠となって、それで捕まっちゃうんだな、と予想したのですが、その予想が覆されて、事件は実は十六年前に起こっていたのだ、ということになって、!、となりました。そうだったんですね、捕まりたいという深層心理が「あと一年」と書かせたんだ、というだけに留まらず、犯人は自分の時効を自主的に先のばしにしてたんですね、自分を許せなかったんでしょう、苦しかったですね。
 そういう、犯人の内的葛藤みたいなのが、じんわりと書かれていたように感じました。余韻というか、心理だけに、杓子定規には割りきれない感じの〆方で、味わい深いなあ、と私は感じました。
 ミステリーとか、詳しくないのですが、ミステリーと言ったらエンターテイメントなんだと思ってたんで、人間心理を大事に描いているこの作品には、いい意味で予想を裏切られて、変な言い方だけど、なんだか嬉しかったです。
 とか、小学生の感想文みたいなコメントですみません。おもしろかったです。

夜の雨
114.184.205.149

はるかさん、ご感想ありがとうございます。


 >心理を描いた作品なんだ、と思いました。<

その通りです、吉井の心理の世界です。
そこに主人公である佐伯がかかわり、ドラマが進行したという感じです。


 >犯人は昔悪いことをして、で、結果として自殺してしまうわけですけど、この犯人が、自分の良心に追い詰められてゆくさまがよく描けているなあ、と思いました。
 幻覚は犯人の良心だったのだ、とわかって思わず頷きました。そうですよね、大根作りに愛情を注いでいた人ですもんね、故なき事情があって人を殺めてしまったのだろうけれども、平気でいられるわけないですよね。<

「幻覚は犯人の良心」そうです、「大根作りに愛情を注いでいた人(堅物なまじめ人間)」なので、鈴木さんとの関係において、間違いが起こり、良心に追い詰められるという展開です。
平気でいられないので「あと一年で時効」とか、書いてしまうわけなのですが、その「あと一年で時効」が、一般的な刑法の時効とは違っていた、という話で、作者の私は作品を引っ張っているわけです。

 >投票用紙に「あと一年」って書いちゃったことが証拠となって、それで捕まっちゃうんだな、と予想したのですが、その予想が覆されて、事件は実は十六年前に起こっていたのだ、ということになって、!、となりました。そうだったんですね、捕まりたいという深層心理が「あと一年」と書かせたんだ、というだけに留まらず、犯人は自分の時効を自主的に先のばしにしてたんですね、自分を許せなかったんでしょう、苦しかったですね。<

「犯人は自分の時効を自主的に先のばしにしてた」 ←ここに、吉井という人間の深層心理を描きましたが、結局時効を伸ばしても自分の罪は償えないと思い、自殺をもって罪の償いにしたわけです。

 >そういう、犯人の内的葛藤みたいなのが、じんわりと書かれていたように感じました。余韻というか、心理だけに、杓子定規には割りきれない感じの〆方で、味わい深いなあ、と私は感じました。<

人間って表裏(自分の損得)だけと違って、いろいろな多面性を持っているのではないでしょうか。そのあたりを描くのも面白いのではないかと思います。


 >ミステリーとか、詳しくないのですが、ミステリーと言ったらエンターテイメントなんだと思ってたんで、人間心理を大事に描いているこの作品には、いい意味で予想を裏切られて、変な言い方だけど、なんだか嬉しかったです。<

面白いことを考えるのは結構好きで、頭の中はパラダイスです。その面白いことの中でも一番大事なのは人間の心理だと思いますが、なかなかストーリーと関連させて描かなければならないので、難しいところもありますね。


拙作を深く読んでくださって、ありがとうございました。

はるかさんの新作、今夜にでも感想を書きます。

九丸(ひさまる)
126.179.6.83

感想欄で有名な夜の雨様の作品ということで、拝読しました。

深く心理を読ませるお話だと思います。
でも、翻弄されました。なんというか不思議な感覚です。
例えば時効って、犯人側からすれば逃げ切るためのタイムリミットです。罪を償うための時間ではないと思います。幻覚が見えるくらい良心の呵責にさいなまれていたのなら、なぜ自首しなかったのだろう? 実際、自分で決めた時効後に耐えられなくなり自殺してしまいます。
そこで、解釈違いも甚だしいのですが、大根に絡めると府に落ちました。吉井は大根に並々ならぬ愛情と情熱を捧げています。ひょっとして自首したかったけど、どうしても自分が心血をそそいできた大根作りからも離れられなくて、狭間で葛藤していたのではないのかと。そしてその呵責がプラス一年になる。じゃあ、呵責にさいなまれても自首したかった吉井がなぜ自殺したのか。彼は金賞じゃなきゃ意味がないと言っています。書かれてはいませんが、自殺した年は金賞が取れなかった。今まで自首することもなく、大根作りだけが救いだったのに、それすら上手くいかずに、残ったのは消えることない罪の意識だけ。故に絶望して自殺を選んだ。
もちろんこれは、夜の雨様自身の解釈とは違っています。それは感想欄の返答で確認しています。まあ、こうも読めるんじゃないかな程度で。
設定についての疑問です。
佐伯は城山警視監の大学時代の友人です。警視監は警視庁では警視総監に次ぐNo.2です。有名私大出のキャリアではほとんどたどり着けないポストです。東大たまに京大でしょうか。そうすると佐伯の階級が低くすぎます。もし、城山が私大出のキャリアで、佐伯がノンキャリア入庁でも、佐伯の実績や歳を考慮すると低い。最低警視が妥当なような。素行が悪いなどの理由があるなら別ですが。読み落としてたらすみません。警視からは国家公務員だと思うので、それなら管轄外地方への移動もすんなり納得いきます。
なんにせよ、面白かったです。
拙い感想失礼しました。

夜の雨
114.184.205.149

九丸(ひさまる)さん、ご感想ありがとうございます。


>翻弄されました。なんというか不思議な感覚です。
例えば時効って、犯人側からすれば逃げ切るためのタイムリミットです。罪を償うための時間ではないと思います。幻覚が見えるくらい良心の呵責にさいなまれていたのなら、なぜ自首しなかったのだろう? 実際、自分で決めた時効後に耐えられなくなり自殺してしまいます。<

「時効」の解釈はいろいろとあると思います。
私が知っているのはその一つで、「その時効までのあいだ、容疑者は苦しんでいた、だから時効の年数は刑に服していたという時間の流れ」ということです。
しかし、「執筆の狙い」でも、書きましたが、

>拙作の設定の殺人の時効は15年です。
2004年に殺人の時効は25年になり、現在は無期限です。<

「2004年に殺人の時効は25年になり、現在は無期限です」ということは、「時効」の期間は刑に服していた、犯人も苦しんでいたというような解釈ではなくて、「罪は一生をもって償うべし」というようなことだと思います。
まあ、時代により、変わりますね。
小説を書く上では期限があった方が面白いのですが、現実的には被害者の方の無念を思うと、「罪は一生をもって償うべし」だと、思いますね、殺人(正当防衛とかもあるので、内容による)についてですが。

>そこで、解釈違いも甚だしいのですが、大根に絡めると府に落ちました。吉井は大根に並々ならぬ愛情と情熱を捧げています。ひょっとして自首したかったけど、どうしても自分が心血をそそいできた大根作りからも離れられなくて、狭間で葛藤していたのではないのかと。そしてその呵責がプラス一年になる。<

>じゃあ、呵責にさいなまれても自首したかった吉井がなぜ自殺したのか。彼は金賞じゃなきゃ意味がないと言っています。書かれてはいませんが、自殺した年は金賞が取れなかった。今まで自首することもなく、大根作りだけが救いだったのに、それすら上手くいかずに、残ったのは消えることない罪の意識だけ。故に絶望して自殺を選んだ。<

上の二つは、面白い解釈ですね、作者の私よりも内容に精通しています。
あなたの解釈でもよいですね。

>もちろんこれは、夜の雨様自身の解釈とは違っています。それは感想欄の返答で確認しています。まあ、こうも読めるんじゃないかな程度で。<

九丸(ひさまる)さんなら、よい作品が書けると思います。

設定についての疑問です。
>佐伯は城山警視監の大学時代の友人です。警視監は警視庁では警視総監に次ぐNo.2です。有名私大出のキャリアではほとんどたどり着けないポストです。東大たまに京大でしょうか。そうすると佐伯の階級が低くすぎます。もし、城山が私大出のキャリアで、佐伯がノンキャリア入庁でも、佐伯の実績や歳を考慮すると低い。最低警視が妥当なような。<

佐伯は、現場が好きで警部補の待遇に「自ら」いるという設定です。

>素行が悪いなどの理由があるなら別ですが。読み落としてたらすみません。警視からは国家公務員だと思うので、それなら管轄外地方への移動もすんなり納得いきます。<

その通りです、だから警部補は管轄外地方への移動が出来ないので、「出向(教育係り)という形」にしました。ネットでは「出向(教育係り)という形」で、出来るようなことが書いてありましたが、確証はありません。


九丸(ひさまる)さん、ご感想ありがとうございました。

月戸井
126.161.135.145

夜の雨さん。
作品、読ませて頂きました。

先ずは次の台詞で引き込まれました。
「頼まれたし、お金をもらっているので投票しに行くのであった。」
面白いと思います。

文章的には松本清張から影響を受けているのかな? と思いました。或いは黒岩重吾とか。学生のころ、一生懸命に読んでいました。

犯人に付き纏う犬は犯人の良心などではなく、個人的には、単純に“霊”でいいと思います。

二章の、短編にしては大胆な視点の切り換え(切り替え?)。個人的には好きです。

逮捕されるであろうとは最初から分かっていたとして、どう展開されるのかは見当が付かなかったので、良かったと思います。

最後、「あんたにも、こいつ(犬)が見えるのか?」的なことがあっても良かったのかな? と思いました。

基本的に人の作品は読まないので、ひょっとしたら作品を見落としていたかもしれません。気付くことが出来て良かったです。
読んで頂いた方の作品は必ず読むようにしているのですが、そのタイミングで見当たらなくても、暫くしてから発表されることもあるし……。
そもそも、あっても見逃してしまっているかもしれないし……。
名前を検索したら作品が出てくるようにならないものでしょうか……?

夜の雨
114.184.205.149

月戸井さん、ご感想ありがとうございます。

>先ずは次の台詞で引き込まれました。
「頼まれたし、お金をもらっているので投票しに行くのであった。」
面白いと思います。<

これは、地の文章ですね、わかりやすく書いています。

>文章的には松本清張から影響を受けているのかな? と思いました。或いは黒岩重吾とか。学生のころ、一生懸命に読んでいました。<

あたりました……、「黒岩重吾」に影響を受けました、昔「背徳のメス」を原稿用紙に丸写ししています。現在では全く読んでいませんが、文体に影みたいなものが出るのですかね。
太宰の「人間失格」なども、原稿用紙に写して勉強しましたが、背徳のメスが一番長いです。
それにしても驚きました、よくわかりましたね。
松本清張もいくつか読んでいます。読みやすくて好きな文体です。

>犯人に付き纏う犬は犯人の良心などではなく、個人的には、単純に“霊”でいいと思います。<

「霊」には、変わりはないのですが、「位置づけとして吉井の良心」としています。まあ、吉井自身犬の霊が、自分の良心だとは思っていないですが。もし、吉井が思っているとしたら、犬に対する接し方を変える必要が出てきます。

>二章の、短編にしては大胆な視点の切り換え(切り替え?)。個人的には好きです。<

吉井と佐伯で章を分けていますが、基本的には場面が大きく変わった時に章を変えています。

>逮捕されるであろうとは最初から分かっていたとして、どう展開されるのかは見当が付かなかったので、良かったと思います。<

ありがとうございます、私の書き方は「導入部」と「ラスト」をイメージして「途中のエピソードを創る」という方法です。

>最後、「あんたにも、こいつ(犬)が見えるのか?」的なことがあっても良かったのかな? と思いました。<

そうですね、それはよいアイデアです。なかなか面白く、作品が締まります。

>基本的に人の作品は読まないので、ひょっとしたら作品を見落としていたかもしれません。気付くことが出来て良かったです。
読んで頂いた方の作品は必ず読むようにしているのですが、そのタイミングで見当たらなくても、暫くしてから発表されることもあるし……。
そもそも、あっても見逃してしまっているかもしれないし……。
名前を検索したら作品が出てくるようにならないものでしょうか……?<

私はここのところ、感想ばかり書いています。
今回久しぶりに拙作を投稿しました。以前は、よく投稿していました。
こちらのサイトの「星空文庫」だと検索でわかるかもしれませんが、私は星空文庫には、現在のところ、作品を投稿していません。


月戸井さん、感想ありがとうございました。

えんがわ
165.100.179.26

冒頭から中盤まで、引き付けるストーリーテリングが冴えますね。
犬の幻覚は最初、虫から想像されるようにドラッグの禁断症状、あるいは精神の病みからだと思わされるような。そこらへんは曖昧にして狂気を連想させて、危ういムードみたいなものを作っているんだろうなって。上手く出てました。
投票の話。そこでお金をもらって不正。で、その人物への不信が高なってきたときに、さっと時効を持っていく。

そこから警察の話になれば、逮捕劇の予感というのは強くなっていきます。

そういう風に関心を少しずつズラシナガラ本流へと導いていく。ここは凄く上手いです。息をのみます。

そこが良すぎるためか、それ以降は少し失速してしまいます。
大根の話は風変わりな味わいがありますけれど、それはあくまでもアクセントで、もう少しその変わり種を本編に生かしてほしかった気がします。
実直に大根を育て続ける真面目さ、農夫の何かを生み出す手など、この人がなぜ殺人をというのはどうしても出てくるギャップがあるのですけど。
そのギャップに留めずに、それが埋まっていく過程こそ、(たとえば殺人への贖罪の気持ちから大根に打ち込んだとか、反対に大根を愛しすぎた故に殺人を犯すまでのトラブルが生まれたとか)、そういうのがそこから期待したドラマでした。もちろん長々と描く必要はないのですけど、2、3行のセリフや描写で察せるような深みみたいなのは出せる気がします。

久丸さんがコメント蘭で書かれた、大根と殺人の解釈。
とても面白く読めました。
実はこういうのを、夜の雨さんの解釈を書いていただければ、自分は後半も盛り上がって読めたと思います。
それはもちろん想像力の足りない自分が、なんですけどね。久丸さんみたいに読める人には、この書き込みの方が活きるんでしょうなー。

個人的にいいなって思ったのが、犬の幽霊が見えるというもので、殺人犯と警察官が設定上では結ばれているんですけど。
その結び目は、二人という人物を結ばなかった。
警察官は「俺も見えているんだよ、辛かったな」なんて救いの言葉を使わない。淡い意識の共有のような同情へはもっていかない。
彼を自嘲するように「汚い」とは思わないけど、「冷たい」ような「仕事のプロフェッショナル」ゆえの鋭利な鋭さを感じる。
人情デカとは相反する。人を殺すという罪を憎む気持ちや、追求し続けなければいけない性のようなもの。
それ故に救われなかった犯人の自殺は止められなかったかもしれないし、己の望むデカに徹する警官からは一人ぼっちの哀愁のような渋みが出ている。
そこらへんが、ありきたりなテレビナイズされたような、「危ないデカ」とか「踊る大捜査線」とか(なんかたとえが古いな)から、一つ離れた本作の持つピリリとした味なんだと自分は受け止めました。

夜の雨
114.184.205.149

えんがわさん、ご感想ありがとうございます。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
冒頭から中盤まで、引き付けるストーリーテリングが冴えますね。
犬の幻覚は最初、虫から想像されるようにドラッグの禁断症状、あるいは精神の病みからだと思わされるような。そこらへんは曖昧にして狂気を連想させて、危ういムードみたいなものを作っているんだろうなって。上手く出てました。
投票の話。そこでお金をもらって不正。で、その人物への不信が高なってきたときに、さっと時効を持っていく。

そこから警察の話になれば、逮捕劇の予感というのは強くなっていきます。

そういう風に関心を少しずつズラシナガラ本流へと導いていく。ここは凄く上手いです。息をのみます。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

導入部の石井の不安から時効への展開、床下の死体、そして佐伯という刑事の登場。
このあたりは定石ですかね。
書いているときはワクワクしていましたが、佐伯が警視庁から山辺町という管轄違いのところに来るようになったいきさつなどが「はったり気味(大げさな展開)」でした。
佐伯の背景などはもう少し地味にした方が、作品に合うかなぁとか今では思っています。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そこが良すぎるためか、それ以降は少し失速してしまいます。
大根の話は風変わりな味わいがありますけれど、それはあくまでもアクセントで、もう少しその変わり種を本編に生かしてほしかった気がします。
実直に大根を育て続ける真面目さ、農夫の何かを生み出す手など、この人がなぜ殺人をというのはどうしても出てくるギャップがあるのですけど。
そのギャップに留めずに、それが埋まっていく過程こそ、(たとえば殺人への贖罪の気持ちから大根に打ち込んだとか、反対に大根を愛しすぎた故に殺人を犯すまでのトラブルが生まれたとか)、そういうのがそこから期待したドラマでした。もちろん長々と描く必要はないのですけど、2、3行のセリフや描写で察せるような深みみたいなのは出せる気がします。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
>そのギャップに留めずに、それが埋まっていく過程こそ、(たとえば殺人への贖罪の気持ちから大根に打ち込んだとか、反対に大根を愛しすぎた故に殺人を犯すまでのトラブルが生まれたとか)、そういうのがそこから期待したドラマでした。<

このあたりを書き込んでいくと、拙作はもっと厚みが出ますね、きっと。
どうもストーリー展開重視で書き進めた感があります。
短いセリフや描写等でいけるかなぁ。どちらにしろ吉井の気持ちの移ろいみたいなものは書き込んだほうがいいですね。

――――――――――――――――――――――――――――――――――
久丸さんがコメント蘭で書かれた、大根と殺人の解釈。
とても面白く読めました。
実はこういうのを、夜の雨さんの解釈を書いていただければ、自分は後半も盛り上がって読めたと思います。
それはもちろん想像力の足りない自分が、なんですけどね。久丸さんみたいに読める人には、この書き込みの方が活きるんでしょうなー。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
>久丸さんがコメント蘭で書かれた、大根と殺人の解釈。<

たしかに、そうだよなぁと思いました。
久丸さんは、作者の私よりも内容に精通しています。
>ひょっとして自首したかったけど、どうしても自分が心血をそそいできた大根作りからも離れられなくて、狭間で葛藤していたのではないのかと。<
>大根作りだけが救いだったのに、それすら上手くいかず(金賞とれず)に、残ったのは消えることない罪の意識だけ。故に絶望して自殺を選んだ。<
このふたつの設定はいいですね、イメージを膨らましたいです。
吉井はまさに大根人間だな、大根命。

――――――――――――――――――――――――――――――――――
個人的にいいなって思ったのが、犬の幽霊が見えるというもので、殺人犯と警察官が設定上では結ばれているんですけど。
その結び目は、二人という人物を結ばなかった。
警察官は「俺も見えているんだよ、辛かったな」なんて救いの言葉を使わない。淡い意識の共有のような同情へはもっていかない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
>犬の幽霊が見えるというもので、殺人犯と警察官が設定上では結ばれているんですけど。<
この部分に関連したところで「月戸井さん」ご指摘のAですが、このエピソードは必要だと思いました。
ここで佐伯がどういった反応を示すかで作品の締まり具合が違ってきますからね。

A>最後、「あんたにも、こいつ(犬)が見えるのか?」的なことがあっても良かったのかな? と思いました。<

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
彼を自嘲するように「汚い」とは思わないけど、「冷たい」ような「仕事のプロフェッショナル」ゆえの鋭利な鋭さを感じる。
人情デカとは相反する。人を殺すという罪を憎む気持ちや、追求し続けなければいけない性のようなもの。
それ故に救われなかった犯人の自殺は止められなかったかもしれないし、己の望むデカに徹する警官からは一人ぼっちの哀愁のような渋みが出ている。
そこらへんが、ありきたりなテレビナイズされたような、「危ないデカ」とか「踊る大捜査線」とか(なんかたとえが古いな)から、一つ離れた本作の持つピリリとした味なんだと自分は受け止めました。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
取調室での「汚い」と「冷たい」の違いというのも、考えると面白かもしれません。
吉井の農作業の大根に打ち込む姿や手の汚れなどから「汚い」という言葉を刑事に投げつけたということになります。
「冷たい」という言葉を使いたかったかもしれないと、佐伯が思ってもよいかもしれません。
そうすると、二人の立場の違いが鮮明になります。


えんがわさん、ご感想ありがとうございました。

ARAKI
126.224.98.118

お久しぶりです。夜の雨さん。
(覚えていてくれたら嬉しいのですが)
読ませていただきました。

最初の毒虫の描写は迫力があってゾクゾクしました。それからどんな展開になるのだろうと期待に繋がりました。


特に書いてはないですが、吉井が自殺したのは、いくら時効だとしても投票用紙にはあと一年で時効とは書いてしまっていますし、それを誰が書いたか知りたいと思う人間もいると思います。殺人を犯したことがもしどこかから漏れてしまえば、田舎ですのですぐ噂は広まって、誰も大根を買ってくれなりそうですし、よい大根を作っても金賞は取れないと思います。
そして残るのは、職を失った中年の自分と、女性と縁のない原因の一つである軍手のようなゴツい手。勲章だと思ったそれも職を失った状態では価値はありません。
町の人たちの対応も冷たくなって、みんな吉井を避けるようになるかもしれません。罪の意識以外にも殺人がバレたら生きていけなくなる不安もあったかもしれませんね。


町の様子や、人間についてもしっかりと書かれていて魅力を感じました。
警察ものは読みにくいイメージがあったのですが、読みやすく感じました。
ありがとうございました。

夜の雨
114.184.205.149

ARAKIさん、ご感想ありがとうございます。

お久しぶりです。夜の雨さん。
(覚えていてくれたら嬉しいのですが)

むかし知り合いで荒木さんという方がおられましたので、そのエピソードでも書きこもうかと思ったのですが、小説よりも面白すぎると、具合が悪いのでやめました。
こちらのサイトでは、覚えています。
作品の内容は忘れましたが。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

>最初の毒虫の描写は迫力があってゾクゾクしました。それからどんな展開になるのだろうと期待に繋がりました。<

毒虫の描写は、今回投稿するので先日久しぶりに読んだのですが、よくここまで書いたなぁと、自分でも感心しています。
近頃は感想ばかり書いていて、作品を書いていないので、もし、新作に挑戦したとして、ここまでいやらしく書けのかなぁと心配しています。

>特に書いてはないですが、吉井が自殺したのは、いくら時効だとしても投票用紙にはあと一年で時効とは書いてしまっていますし、それを誰が書いたか知りたいと思う人間もいると思います。殺人を犯したことがもしどこかから漏れてしまえば、田舎ですのですぐ噂は広まって、誰も大根を買ってくれなりそうですし、よい大根を作っても金賞は取れないと思います。<

今回拙作を投稿して皆様から貴重なご意見をいただいて、もし改稿するなら「当初の題材とは、かなり違った内容になると思います」。
で、ご意見への返信ですが、「大根で、金を受賞するよりも罪の意識が重たかったわけです」。
「よい大根を作っても金賞は取れないと思います」←ARAKIさん、面白いことを書きますね。そこまで考えていただいて、ありがたいです。

>そして残るのは、職を失った中年の自分と、女性と縁のない原因の一つである軍手のようなゴツい手。勲章だと思ったそれも職を失った状態では価値はありません。
町の人たちの対応も冷たくなって、みんな吉井を避けるようになるかもしれません。罪の意識以外にも殺人がバレたら生きていけなくなる不安もあったかもしれませんね。<

吉井が自殺しなかった場合で、なおかつ殺人が時効とはいえばれてしまった場合のお話ですね。
このシチューェ―ションは、かなり面白いです。
ああ、すみません、「不安」があったから、自殺したのではないかということですよね、
たしかに、その手もありですね。
鍛練場のみなさんからいろいろなアドバイスをいただけるので、頭が覚醒します。

>町の様子や、人間についてもしっかりと書かれていて魅力を感じました。
警察ものは読みにくいイメージがあったのですが、読みやすく感じました。
ありがとうございました。<

たぶん、構成が単純なところに来て、登場人物がわかりやすいからだと思います。
文章も、わかりやすい。
そういえば、町の様子もそこはかと書いていますね。多少は、イメージ出来るかもしれません。

ARAKIさんの「スマグラ」に、7月19日(金)夜までに感想を書きます、よろしくお願いします。


ARAKIさん、ご感想ありがとうございました。

アフリカ
49.106.204.27

拝読しました

久しぶりに覗いたら夜の雨さんの投稿。そりゃ、感想を入れなければ。と前のめりに読んだのですが。

誉めが続いている様子なので、僕は意地悪に穿ったみかたで出してみます。

冒頭の独白ここで早くも少し違和感。

吉井の思考を書いてる筈ですが、まるで毒虫の詳細をみた瞬間に把握してしまっているように書いているのに、それに気付かず話し続ける語り手。

んで、この話の入り口から終始現実と妄想?が入り交じるためにその場所にブックマークをいれようと作者が意図して書き動いているのが感じ取れる構造、

上にも出てましたがオチを渡さない読み手任せのラスト。

等々、と、出してみてはいるのですが
決定的な破綻を生み出している部分はなくて全体的に読みやすくて、楽しく読ませて頂きました。


時間なくて短い感想( ̄□ ̄;)!!
ごめんなさい

また、書くかもです

ありがとうございました。

夜の雨
114.184.205.149

アフリカさん、ご感想ありがとうございます。


久しぶりの投稿ですが、昔の作品です。

>冒頭の独白ここで早くも少し違和感。<

>吉井の思考を書いてる筈ですが、まるで毒虫の詳細をみた瞬間に把握してしまっているように書いているのに、それに気付かず話し続ける語り手。<

「吉井の思考を書いてる筈ですが、まるで毒虫の詳細をみた瞬間に把握してしまっているように書いているのに、」ここまでは、わかりますが「それに気付かず話し続ける語り手」ここが、具体的に書いてもらわないと、わかりにくいですね。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
導入部。

 眼を開けて布団の中から天井を見ていた。天井には、無数の染みがあった。じっと凝視しているとその染みは動いているようだ。染みが移動している。おびただしい染みが。いや、あれは染みではない、小さな虫だ。それも毒虫だ。幾千、幾万の毒虫が、黒い絨毯になってひとつの生き物のように波を打って天井を移動している。神経を休めようと夢路をたどると、毒虫は躰に群がってくる。見ると天井だけでなく部屋の至る所にやつらは存在していて獲物を捕食しようと群がり、口や鼻、耳や肛門からわらわらと躰の中に潜り込んで悪夢を見させる。毒虫は血管の中や肉と肉の隙間を移動し、脊髄をはいずりながら臓物を喰らう。だが、やつらの一番の好物は大脳らしい。やつらは脳の柔らかい肉をむさぼる。そして交尾して、卵を産む。孵卵して、繁殖する。増大して脳漿を啜る。頭の中で毒虫がちりちりちりちり音を立てて動き回っている。脳漿を啜っているのか、前頭葉を喰らっているのか。だんだんとその音は大きくなり現実みを帯びてくる。
「うわぁ――!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

>この話の入り口から終始現実と妄想?が入り交じるためにその場所にブックマークをいれようと作者が意図して書き動いているのが感じ取れる構造、<

「この話の入り口から終始現実と妄想?が入り交じるために」ここまではわかりますが、「その場所にブックマークをいれようと作者が意図して書き動いているのが感じ取れる構造、」この部分が、何を言わんとしているのか、わかりません。

>上にも出てましたがオチを渡さない読み手任せのラスト。<
オチは佐伯の考え(推理)で吉井の自殺の原因を書きました。
「吉井の鈴木順子を殺した動機はなんだったのだろう……。」と、動機はぼかしました。
だから「佐伯がいまいるマンションの七階からは東京の街並みが見える。風が光っていた、はるか遠くまで見渡せた。人の心もこのように見渡せたら良いのにと佐伯は思った。」と、締めました。
今回の投稿でみなさんから感想をいただき、殺人の動機部分を大根などに絡めて具体的に書く方法などもあるんだなぁと、勉強になりました。

>決定的な破綻を生み出している部分はなくて全体的に読みやすくて、楽しく読ませて頂きました。<
読みやすさは重視しています。
犬の霊の部分と大根、主役たちの人物を描くことには気をつけたのですが、ミステリー部分をしっかりと書き込む必要があったようです。


アフリカさん、ありがとうございました。

あずま
49.98.140.179

拝読しました。

とても面白かったです。一つ一つの文章もしっかり書き込まれていて、作品にのめり込んでしまいました。
他の方々が16年のことについて語られていましたが、私はこういう形も一つのミステリーとしてありだと思います。

もしかしたら吉井は16年が過ぎても、時効まで一年と書いて、永遠に自分の中の時効を伸ばし続けていくのではないかな、なんて想像してしまいました。

色々と言いましたが、とても楽しんで読めました。
これからも執筆を頑張ってください。

夜の雨
114.184.205.149

東さん、三面までご感想ありがとうございます。


>とても面白かったです。一つ一つの文章もしっかり書き込まれていて、作品にのめり込んでしまいました。<
比較的、細かいところまで書きこんでいますね確かに。
昔書いた作品ですが、近頃新作を書いていないので現在書いたらどうなることやら……。

>他の方々が16年のことについて語られていましたが、私はこういう形も一つのミステリーとしてありだと思います。<
ミステリーと言ってもいろいろと形があるので、この作品もミステリーかもしれません。
ただこちらの作品は怪奇刑事ものというような気持で書いているので、特別ミステリーを意識はしていませんでした。

>もしかしたら吉井は16年が過ぎても、時効まで一年と書いて、永遠に自分の中の時効を伸ばし続けていくのではないかな、なんて想像してしまいました。<
時効を永遠に伸ばすという罪の償い方などもありかもしれませんね。
結局、吉井は時効を伸ばすことよりも自ら死の制裁をもって、罪を償ったわけですが、罪と罰って、どういう関係になるのでしょうね。
戦争で殺しても罪には成らずに英雄になることもあります。
このあたり、考えれば深いかもしれません。

>色々と言いましたが、とても楽しんで読めました。
これからも執筆を頑張ってください。<

ありがとうございました。
ネタはいろいろと浮かぶのですが、また、勉強したいと思います。

佐治
126.163.72.188

夜の雨さん。
作品、読ませて頂きました。

以下、ネタバレ有り。





生きた犬を追って見付けるのなら普通ですが、そうではないので非凡と言えます。このアイデアはいいです。
欲を言えばシリーズ化して欲しい。

からから
49.98.156.73

>佐伯がいまいるマンションの七階からは東京の街並みが見える。風が光っていた、はるか遠くまで見渡せた。人の心もこのように見渡せたら良いのにと佐伯は思った。

吉井の存在感がとても強いので主人公ははじめからずっと吉井だと感じていたのですが、末尾の文章でそれが逆転されました。これは佐伯の話だったのだ、と。

吉井の人となりや事件に関することなど数々の謎に深く言及しないのは、最後の一文のためなのだと考えれば納得できます。
佐伯は刑事として、しかも霊能力をもった正義感あふれる優れた刑事で、数々の事件を解決してきましたが、事件は解決できても、人の心までは何もわからない、ということが物語全体の謎めいた雰囲気も相俟って伝わってきます。

私も佐治さんと同じで、シリーズ化してほしいと思いました。

夜の雨
118.18.72.209

佐治さん。

六面まで、ご感想ありがとうございます。

>生きた犬を追って見付けるのなら普通ですが、そうではないので非凡と言えます。このアイデアはいいです。
欲を言えばシリーズ化して欲しい。<

近頃作品を書いていなくて、こちらの作品は10年以上前に書いた物です。
内容とかシリーズ化以前の問題として、新作を書いていないのでとにかく新しい作品を創らなければと思います。

ありがとうございました。

夜の雨
118.18.72.209

からからさん。

六面まで、ご感想ありがとうございます。


>佐伯がいまいるマンションの七階からは東京の街並みが見える。風が光っていた、はるか遠くまで見渡せた。人の心もこのように見渡せたら良いのにと佐伯は思った。

吉井の存在感がとても強いので主人公ははじめからずっと吉井だと感じていたのですが、末尾の文章でそれが逆転されました。これは佐伯の話だったのだ、と。
――――――――――――――――――――――――――――――
物語を面白くするには相対する登場人物を描けば人間ドラマが膨らむのではないかと思います。
こちらの作品の場合は「吉井」の犯人と佐伯の刑事になります。
吉井の方はどちらにしても決着をつけないといけないので、時効成立していても自殺という責任を取らせました。
佐伯は霊能力刑事ですが、人間味のある刑事なので吉井を犯人として厳しく追及するも、吉井という人間の人柄を見ていた、という感じです。

A>吉井の人となりや事件に関することなど数々の謎に深く言及しないのは、最後の一文のためなのだと考えれば納得できます。<
深く考えていただきありがとうございます。
吉井への突っ込みですが、このあたりは作者として筆力がなかったのかもしれません。
Aのように考えると、筋が通っているなぁと思いました。

>佐伯は刑事として、しかも霊能力をもった正義感あふれる優れた刑事で、数々の事件を解決してきましたが、事件は解決できても、人の心までは何もわからない、ということが物語全体の謎めいた雰囲気も相俟って伝わってきます。
私も佐治さんと同じで、シリーズ化してほしいと思いました。<

今回の作品に関わらず、奥行きがある面白い物を書きたいですね。
佐治さんの返答でも書きましたが、長い間新作を書いていないので、新しい作品を書きたいですね。


ありがとうございました。

オステン工房
126.218.75.4

夜の雨さん

非常に巧い小説ですね。描写も構成も巧みです。
冒頭の本当に気持ち悪くなるほどの描写も凄いですし、料理は思わず唾を飲み込むほどに美味しそうでした。
構成もまた巧いので続きはどうなるんだと、先へ読み進めていきました。自分の作品ではこういう事がなかなかできないので、勉強になりました。
正直、好みの小説ではないのですが(私はライトノベル読んでる人間です)、巧さで読まされました。

夜の雨
118.18.72.209

オステン工房さん。

六面まで、ご感想ありがとうございます。


>非常に巧い小説ですね。描写も構成も巧みです。
冒頭の本当に気持ち悪くなるほどの描写も凄いですし、料理は思わず唾を飲み込むほどに美味しそうでした。<

描写はイメージを膨らましながら書きました。
導入部はインパクトが必要だと思いますので、しつこく書かせていただきました。
料理については調べるほどではないかもしれませんが、一応調べて書いています。

>構成もまた巧いので続きはどうなるんだと、先へ読み進めていきました。自分の作品ではこういう事がなかなかできないので、勉強になりました。<

私は、書きたい題材があると、それを膨らまして、導入部とラストのイメージを浮かべます。
それで書き始めます。
あとは、書きながらラストへ向けてどんどん盛り上がるように展開させていきます。
というような書き方です。
ラストまで書けると、その時点でわかっている構成上の問題はつじつまが合うように書き直します。
そのあと、一週間ほど寝かして読み直します。
問題があれば、手直しします。また、細かい文章上のおかしなところなども手直しして出来上がりです。
こういった書き方をしているので、まだ、長編は書いたことがありません。

>正直、好みの小説ではないのですが(私はライトノベル読んでる人間です)、巧さで読まされました。<

私が書く作品は不思議系が多いですね。
怪奇系とか妖怪が出てくるとか、アンドロイドとかの作品もあります。
基本は人間を描くことです。
読むのは、なんでも読んでいるのですが。
映画もいろいろと観ています。
ライトノベルはこちらのサイトでしか読んだことはありませんが、昔テレビゲームとかしたことがあるので、ドラゴンクエストとかファイナルファンタジーとかが面白かったのは覚えています。


ありがとうございました。

月野 夜
126.79.71.77

夜の雨さんの作品、読ませて頂きました。

これは狙って書かれたのか分かりませんが色々と伏線が散りばめられてるのかなと感じました。

最終的には吉井さんは自殺し、佐伯は投票用紙のあと一年で時効という文言に結びつけました。
これはあくまでも佐伯の勝手な解釈で、吉井氏にとっては本当に時効の期限だったんじゃないかと推察してました。

まずは金賞が取れなかった14年前。銀賞に甘んじた吉井氏は天候不順を理由にしていましたが、本当は被害者女性と恋仲にあったんじゃないかと。

鈴木順子氏が行方不明になったのは16年前、14年前ではズレが生じますが、吉井氏は彼女を自宅で監禁し疑似恋愛をしていたのでは?
しかし、いつまで経っても彼女は心を開かず、吉井氏は彼女を殺害してしまった。

>女の子とつきあうことも出来なかったですよ。この手ではね

この手ではね。の意味深なセリフがそれを想起させました。
恋愛などということにうつつを抜かした彼は、金賞を逃した。以来、彼は恋をすることは辞めました。

と、まぁ14年前に殺害したのであれば、あと一年で時効というのは辻褄が合うかなと思います。

それに自宅が取り壊されて道路になると言われた時の吉井氏の慌てぶりも自殺を決意してる人間はあのように慌てはしないと思いました。

ただ、あの犬の執念、怨念でしょうね。
日本ホラーで言うと貞子でしょうか。絶対に消えることのない霊によって、殺されたんだろうな、と僕は思いました。

ホラーだけじゃなくミステリー要素も含まれていて非常に面白かったです。
考察するのが好きなので、道尾秀介の向日葵の咲かない夏以来ですね読み返して考察したのは。

ありがとうございました。

夜の雨
118.18.72.209

月野 夜さん、ご感想ありがとうございます。

>これは狙って書かれたのか分かりませんが色々と伏線が散りばめられてるのかなと感じました。<

伏線はいろいろと張っています。

>最終的には吉井さんは自殺し、佐伯は投票用紙のあと一年で時効という文言に結びつけました。
これはあくまでも佐伯の勝手な解釈で、吉井氏にとっては本当に時効の期限だったんじゃないかと推察してました。<

もちろん、そういう考え方もできます。
16年前に行方不明になっていても殺したのは14年前かもしれませんし。

>まずは金賞が取れなかった14年前。銀賞に甘んじた吉井氏は天候不順を理由にしていましたが、本当は被害者女性と恋仲にあったんじゃないかと。<

これは読み手に「時効」のトリックがわからないように14年前の銀賞を天候不順にしました。
したがいましてほんとうに14年前は天候不順だったということです。

>鈴木順子氏が行方不明になったのは16年前、14年前ではズレが生じますが、吉井氏は彼女を自宅で監禁し疑似恋愛をしていたのでは?
しかし、いつまで経っても彼女は心を開かず、吉井氏は彼女を殺害してしまった。<

吉井と鈴木順子が一時付き合っていたというのは作者のイメージとしてはアリですが、「この手ではね」というのが、殺人の伏線になっています。実際の詳しい動機は作品内では書きませんでした。作者の頭の中でも詳しいイメージはしていません。

>女の子とつきあうことも出来なかったですよ。この手ではね

この手ではね。の意味深なセリフがそれを想起させました。
恋愛などということにうつつを抜かした彼は、金賞を逃した。以来、彼は恋をすることは辞めました。

と、まぁ14年前に殺害したのであれば、あと一年で時効というのは辻褄が合うかなと思います。<

殺害は16年前ですが、立派な大根を作ることにはこだわっていて、鈴木順子とは、そのあたりの意見が合わなかった。生産性を考えたらとか、身ぎれいにしてとか、言われたのではないですかね。
わざと殺したのではないですが、ちょっともみ合っているうちに、彼女が足を滑らせてコケ何かに頭を打ったとか。それが死因ですかね。

>それに自宅が取り壊されて道路になると言われた時の吉井氏の慌てぶりも自殺を決意してる人間はあのように慌てはしないと思いました。<

自殺は犬(良心)に追い詰められたということですが。

>ただ、あの犬の執念、怨念でしょうね。
日本ホラーで言うと貞子でしょうか。絶対に消えることのない霊によって、殺されたんだろうな、と僕は思いました。<

読み手の数だけご意見があるようで、それは決して間違いではありません。

>ホラーだけじゃなくミステリー要素も含まれていて非常に面白かったです。
考察するのが好きなので、道尾秀介の向日葵の咲かない夏以来ですね読み返して考察したのは。<

「向日葵の咲かない夏」ネットで調べましたが怖そうですね。
「考察する」って、深く考えることにつながるので、面白いですよね。


 ありがとうございました。

新人・B
180.54.70.198

「影は眠らない」拝読いたしました。

※気になった点を書き記そうと思います。辛口の感想になりますがよろしくお願いします。

<「眼を開けて布団の中から天井を見ていた。」天井には、無数の染みがあった。じっと凝視しているとその染みは動いているようだ。染みが移動している。おびただしい染みが。いや、あれは染みではない、小さな虫だ。それも毒虫だ。>
※「眼を開けて布団の中から天井を見ていた。」この文章は必要ですか。無くても、意味は通じると思います。

<神経を休めようと夢路をたどると、毒虫は躰に群がってくる。>
※ゆめじ【夢路】
① 夢を見ること。また、夢。
② 夢の中で行き来すること。また、その道。

※「神経を休めようと夢路をたどると」前文章との文脈の整合性は? 文章が腑に落ちない感じです。「神経を休めようと」?「夢路をたどると」?「毒虫は躰に群がってくる。」? 腑に落ちない文章の連なり。

<「見ると」天井だけでなく部屋の至る所にやつらは存在していて獲物を捕食しようと群がり、口や鼻、耳や肛門からわらわらと躰の中に潜り込んで悪夢を見させる。>
※「見ると」必要ですか?

<灰色の毛並みをした犬で、目脂のたまった眼でじっと顔をのぞき込んでいた。口を半開きにし、ねっとりとした赤い舌をだらりとしてせわしく息をしていた。>
※<灰色の毛並みをした犬「は、」目脂のたまった眼でじっと顔をのぞき込んでいた>

<口を半開きにし、ねっとりとした赤い舌をだらりとしてせわしく息をしていた。>
※文章がねじれているように思えます。

<吉井が、泳ぐように手を振りまわすと犬は消えた>
※「吉井が手を泳がせるように振ると、犬は消えた」

<ぼんやりとしているとすぐに妄想に耽ってしまう。しかしあの犬は妄想ではない。現実の出来事であり、「吉井をいつも追い詰めていた。」やつはところかまわず姿を見せるのであった。>
※「吉井はいつも追い詰められていた。」

<「そういえば、この間の選挙で面白いことを聴きました」>
<「ほう、どんなことを聴きましたか?」>

<聴いていますよ、大学で一緒にラクビーをした仲間だと言うではありませんか」>

[表記] きく(聞・聴・訊▼)
「聞く」は“音や声を感じとる。また、その内容を知る。香をたく”の意。「雨の音を聞く」「講義を聞く」「香を聞く」  「聴く」は“注意して耳に入れる。傾聴する”の意。「音楽を聴く」「国民の声を聴く」  「訊く」は“たずねる。問う”の意。「聞く」とも書く。「名前を訊く」「迷って道を訊いた」

総評

・人物の造形が浅い。
・分量の割には、登場人物が少し多いように感じられました。
・吉井が鈴木順子を殺した動機が描かれていないので、吉井の人物像が浮かんでこない。退屈感を引き寄せる作品。
・力の籠った冒頭の文章は必要だったのでしょうか。作品の構成上、それほど重要であるように感じられませんでした。
・それぞれのエピソードの関係性が弱い印象でしたね。

※総評でこのように書きましたが、創作の参考になればと思い、失礼を承知で書かせて頂きました。今後のご活躍をお祈りいたします。

夜の雨
118.18.72.209

新人・B さん、ご感想ありがとうございます。

「影は眠らない」拝読いたしました。

※気になった点を書き記そうと思います。辛口の感想になりますがよろしくお願いします。

<「眼を開けて布団の中から天井を見ていた。」天井には、無数の染みがあった。じっと凝視しているとその染みは動いているようだ。染みが移動している。おびただしい染みが。いや、あれは染みではない、小さな虫だ。それも毒虫だ。>
※「眼を開けて布団の中から天井を見ていた。」この文章は必要ですか。無くても、意味は通じると思います。

必要です、「小説」は「意味は通じる」とよいというものではありません。
意味が通じればよい、というのなら「説明」だけ、していればよい。
「感じる」ということが必要です。そのために「眼を開けて布団の中から天井を見ていた。」と、導入部に書きました。
――――――――――――――――
<神経を休めようと夢路をたどると、毒虫は躰に群がってくる。>
※ゆめじ【夢路】
① 夢を見ること。また、夢。
② 夢の中で行き来すること。また、その道。

※「神経を休めようと夢路をたどると」前文章との文脈の整合性は? 文章が腑に落ちない感じです。「神経を休めようと」?「夢路をたどると」?「毒虫は躰に群がってくる。」? 腑に落ちない文章の連なり。

「神経を休めようと」「夢路をたどる」「毒虫は躰に群がってくる」 ←この通りですけれど、「神経を休めようと」睡眠を摂るわけです、すると「夢路をたどる」夢を見たりします。「毒虫は躰に群がってくる」ところがどっこい、睡眠で夢を見ていると毒虫が躰に群がってくる、という「オチオチ、寝ていられない」状況だということです。
―――――――――――――――――――
<「見ると」天井だけでなく部屋の至る所にやつらは存在していて獲物を捕食しようと群がり、口や鼻、耳や肛門からわらわらと躰の中に潜り込んで悪夢を見させる。>
※「見ると」必要ですか?

「必要です」。
「天井だけでなく部屋の至る所にやつらは存在していて」に「見ると」がかかっていて「見ているのは吉井です」。「見ると」がなければ吉井の存在感が少なくなります。
――――――――――――――――――――
<灰色の毛並みをした犬で、目脂のたまった眼でじっと顔をのぞき込んでいた。口を半開きにし、ねっとりとした赤い舌をだらりとしてせわしく息をしていた。>
※<灰色の毛並みをした犬「は、」目脂のたまった眼でじっと顔をのぞき込んでいた>

 吉井は叫び声と共に跳ね起きた。すると犬が顔をのぞき込んでいた。灰色の毛並みをした犬で、目脂のたまった眼でじっと顔をのぞき込んでいた。 ←という流れになっています。特に問題ありませんが。
――――――――――――――――――――――――――
<口を半開きにし、ねっとりとした赤い舌をだらりとしてせわしく息をしていた。>
※文章がねじれているように思えます。

多少は「ねじれ」も必要かと思いますが。問題は「ねじれ」て、いて、「その文章が死んでいればまずいと思います」が、生きている文章だと思いますよ。
――――――――――――――――――――
<吉井が、泳ぐように手を振りまわすと犬は消えた>
※「吉井が手を泳がせるように振ると、犬は消えた」
<ぼんやりとしているとすぐに妄想に耽ってしまう。しかしあの犬は妄想ではない。現実の出来事であり、「吉井をいつも追い詰めていた。」やつはところかまわず姿を見せるのであった。>
※「吉井はいつも追い詰められていた。」

上の二点、特に問題あるように思いません。
――――――――――――――――――――――――――――――――
<「そういえば、この間の選挙で面白いことを聴きました」>
<「ほう、どんなことを聴きましたか?」>

<聴いていますよ、大学で一緒にラクビーをした仲間だと言うではありませんか」>

[表記] きく(聞・聴・訊▼)
「聞く」は“音や声を感じとる。また、その内容を知る。香をたく”の意。「雨の音を聞く」「講義を聞く」「香を聞く」  「聴く」は“注意して耳に入れる。傾聴する”の意。「音楽を聴く」「国民の声を聴く」  「訊く」は“たずねる。問う”の意。「聞く」とも書く。「名前を訊く」「迷って道を訊いた」

なるほど「聴く」は音楽などを「聴く」ときに使うのですね。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

総評

・人物の造形が浅い。 ←人物造形を深くすればするほどエンタメから遠のくような気がする。テンポが悪くなったりと弊害が出てくるのではないだろうか。

・分量の割には、登場人物が少し多いように感じられました。 ←作品の内容上必要でした。

・吉井が鈴木順子を殺した動機が描かれていないので、吉井の人物像が浮かんでこない。退屈感を引き寄せる作品。 ←「吉井の人物像」は「事件を起こさなくても浮かぶ」と、思いますが。
「拙作」のなかに「事件」が発生しなくても「物語」は、書けます。
偏屈な吉井という大根男がいて、そこに刑事という職業の東京から飛ばされてきた佐伯という小難しい中年男が「退屈しのぎ」に家庭菜園をしている。吉井の存在を知り、教えにもらいに来た。
それで吉井と佐伯は親交を深める。
こういった内容の作品でヒューマンドラマ風に書く。

・力の籠った冒頭の文章は必要だったのでしょうか。作品の構成上、それほど重要であるように感じられませんでした。 ←「つかみ」は、必要なので。
「作品の構成上、それほど重要であるように感じられませんでした。」 ←こういうことを言えば「世の中のほとんどの作品(小説、映画、その他もろもろ)」の「インパクト」のある「導入部」は必要ではなくなる。「説明すればよい」ということになりかねません。「説明」で進む作品は面白いですか。

・それぞれのエピソードの関係性が弱い印象でしたね。 ←そうですか。脆弱な作品だったようですね。

※総評でこのように書きましたが、創作の参考になればと思い、失礼を承知で書かせて頂きました。今後のご活躍をお祈りいたします。

わざわざ七面まで、お疲れさまでした。


ありがとうございました。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

テクニカルサポート

3,000字以内