作家でごはん!鍛練場
吉岡ニッケル

嘘つき狂豚よ、おれの唄を笑え!



「何ですって?主人は浮気などしてない、とおっしゃるんですか?」
「さいです」あたしは頷きました。「期限二週間、平日の出勤時刻から夜にかけ、あたしゃ奥様のご亭主が家を出るとこから、会社を出た後を金魚の糞のようにくっついて廻りましたよ。いやあ立派なビルヂングですこと、ご亭主の会社は。それに比べりゃここはビルヂングなんてとても。云うなれば『ボロザンス』ってな塩梅でして、はい」
 あたしに浮気調査をして来たのはね、三十歳の年増だがなかなかの別嬪さん、出るとこは出てしっ込むとこはしっ込んでる、長いまつ毛に小さめの鼻、目尻唇の端にほくろがある、たまんねえや。ここがあたしのボロ事務所じゃなくて帝國ホテル、あるいは京王プラザの一室だったら確実に押し倒してます、ベツドだろうと床だろうと。こんなカミさんほっぽっとく亭主は時代錯誤の企業戦士か男色家かのどっちかですぜ、マツタク。
「でも結婚当初は午後の八時九時には帰宅していた主人が、最近の帰りは十一時過ぎ、酷い時は午前様ですよ!会社は恵比寿、家は中目黒、幾ら残業があったとしても、そんなに遅くなる筈がないでしょうが!」



 別嬪のカミさんは話を元に戻しましたがね、ボロソフアから立ち上がったその様はダンダラ模様の羽織を身にまとう、女装した斎藤一、ってな塩梅でしたよ。近藤勇は出世欲に囚われたアホ、土方歳三は差配の優秀さは有名だけど剣の腕前については伝がない、ではモサと云われた沖田総司ですがまだ若造、すると〈最強の剣〉との伝が残ってる斎藤一が浮かぶのは当然じゃありませんか。近藤、土方、沖田は非業の死を迎えましたが斎藤さんちのハジメくんは長寿を保った末に畳の上でくたばることが出来たしね。マア新撰組なんて土方以外はみな不細工の寄せ集め、吹き溜まりどもの集団だったと云うじゃあありませんか。もっとも、恐ろしいと云やあ薩摩は示現流、幕末最強流派だと恐れられてたのはご周知、知ってるのは中村半次郎改め桐野利秋くらいです、はい。
「でもね奥様、あたしが尾行した十日間、ご亭主は雌猫一匹近寄せませんでした。そりゃ一流とは云えませんがあたしも探偵の端くれ、ご亭主が挙動不審な行動をとったり怪しげなマンションに寄ったり、かわい子ちゃんとの待ち合わせの瞬間なんて目撃したとあっちゃあ、愛用のキヤメラ、ローライ・フレツクスでその姿を激写、まっつぐ奥様に提出してますぜ。ところがどっこい、そんなのは皆無、今となっちゃあ入手がめんど臭い超高感度フイルム二本買い込んだのにですよ。これは経しとして認めてくれるんでしょうねえ?」
「経費なんか幾らでも払うわよ、私が納得すれば!」
「納得も説得も損得もギミツクも、ジントニツクもハットトリツクもナニも、あたしゃ事実を申し上げているだけなんで、はい」
「主人の会社はノー残業を数年前、プレスで発表しているのよ。主人が仕事熱心だと云うことは認めるわ。しかし、会社の意に反して深夜まで残業する訳がないじゃない!こんなことは云いたくないけどー」
「おっと、あたしが怠けてた、あるいは無能な探偵だと?」
「そ、そうではないけどー」別嬪のカミさんは言葉を詰まらせ、下を向きましたね。



 云ったも同然ですぜ。トサカに来たあたしは一瞬だけですが、こころケダモノと化しましたよ、ホテルなんざ糞喰らえ、ここでこましたろか、とね。しかしそんなことしでかしたらあたしの悪評はすぐに広がり、いや既に悪党ですがね、依頼者ナンざいなくなっちまいます。当然おあしは底をつき、電熱器で焼いた食パンをかじる毎日が始まる事でしょうな。それよか“日本橋の大師匠”に知られたらタダじゃすまねえ。それに助平の始まりは小平の義雄、と四角い顔のアニさんはおっしゃておりましたがね、あたしゃ助平でも、色魔なんぞじゃないんですわ、おお怖、南無三、鶴亀鶴亀。
「あたしには零細企業勤めの経験しかござんせん。その会社の殆どが不渡り手形二連発の末に倒産しちまいましたが。ともかくですな、こほん、巷には盛んにノー残業、ノー過労死、残業は月ナン時間までと制約、とマア綺麗事を抜かす企業がとかく多い。ところがぎっちょん、そんなモン社員に実践させてるのは極めて少なく、嘘八百であることが多いと来たモンだ。國会で青島に発言させたいんですが死んじまった。惜しいことでござんすよ」



「ど、どう云うことでしょう?」
「タイム・カードを定時に押させ退社させたことにして残業を強いる、定時に退社させ仕事を家に持たせやらせる、他にもいろいろ真っ黒けな手法がありますが、あたしに云えるのはそこまででして、はい」
 別嬪のカミさんはボロソフアに腰を下ろしました。おお、履いてるパンチーがチラリと見えるじゃありませんか。深い紫色ですぜ。旦那さん、ああたはシヨート・ケーキのイチゴを喰わない主義なの?
「じ、じゃあ主人はその、不正残業を強いられて家へ満足に帰れないと?」
「結論から云えばそうなっちまいますが」あたしはエコーを咥えました。「あたしの口からは企業のやり方のゼシについてナンも云う訳にはいかねえんですよ。こう見えても、あたしのクライアント、依頼人ですがね、大企業の重役様が多いんです。マア信じろったって無理な話ですが。探偵はシユシ義務っちゅうめんど臭い掟がありますが、あたしは今でこそ忠実にその掟を守っておりますがね、元は口から先に産まれた男でさあ。いつナン時、ポロリンとこのことが口から『随分と待たせたじゃないのさ、この女殺し!』と飛び出す分かったモンじゃない。そうなりゃご主人の会社イメージを落としかねないし、大企業からの依頼もなくなっちまう。世の中ってのは、しろいようで実はとかく狭いモンですからなあ。だから、このことは奥様もお口にチヤツク、でいて欲しいんですわ」



「い、今のお話はお聞きしなかったことにします!主人の会社にそのようなダーティな面があったと世間に知られたら、主人の給与にも影響が及びますから!」
 ナンでえ、ああたが大切なのは旦那より、持ち帰る給料袋の方ナンですかい。おっと、今は銀行振込の時代だな、マア稼ぎが少ない旦那は飼ってる犬猫にも劣るって云うからね。ああたの旦那の給料が減ったら、そんな扱いをするのかい、別嬪のカミさんったらもう。
「それで説明を続けさせて頂くとですな、ご亭主は残業を会社の外でやってたっちゅうことですがー」
「じゃあ何で、恵比寿と目と鼻の距離である、中目黒のウチに帰ってしなかったの?私は安ドラマに出てくる『仕事とワタシ、どちらが大切なの?』なんて青臭いことを云うバカ妻じゃないわよ。もし主人が不正、あ、これは禁句だったわね、残業をウチでしていたら、時々コーヒーにサンドウィッチを差し入れ、それにマッサージをして苦労を労い、終わるまでキッチンのテーブルで寝ないでいたわ」
 嘘こけ、別嬪のカミさん、ああたは自分の美貌維持のためには金と時間は惜しまないけど、旦那の夜食作りに時間を割くなんて無駄な労力、だと思うようなしとなんです、ええ、そうに決まってます。夜更かしは美容の敵ですからなあ。深夜にレタスを洗って切る気におなりですか?それに食パンにマヨネーズを塗りたくって重ねたシロモノ、あたしにとってはサンドウイツチなんですがね、一流企業に勤める旦那にマヨサンなんてモノ出してご覧なさいな、犬も喰わぬのめおと喧嘩が待ってますぜ。
 おっといけねえ、先入観が走り過ぎ。これじゃ探偵失格じゃないの、ただでさえ三流だってえのに。あたしゃこれでも慎しみ深い人間ですからね、そんくらいの自覚自戒はしてますようだ、へへん。



 あたしは咳払いをしました。「それには深い深い深田恭子、約してフカキヨン、じゃなくて理由があったのですよ、はい」
「理由?」
 別嬪のカミさんにあたしは上眼づかいで見つめられましたね。それが色っぽいと云うか男心がくすぐられると云うか、かあ、たまんないねえ。やっぱしケダモノと化しちゃおうかしらん。見た目はバケモノでござんすが、あ・た・し。
「説明させて頂きますとですねえ、奥様のご亭主は社外残業をしていらっしゃった。されてた場所は、会社から離れた、十二時までやっているおじょうしんな喫茶店でしてねえ。店名は『ネフェルティティ』。ブレンド・コーシー一杯が八百円もする、あたしみてえなオケラが入っちゃいけねえような店でした。あたしも入って、薄い財布からしで世さん一枚抜いてコーシー注文しましたよ、ナン日間も。それはしつ用経しと認めてくれますかねえ?」
「いいから続けて」
「マア連日のことではござんすから、とあるしのエピソード、をお聞かせ致しやしょう。ご亭主はカウンター席に座り、コーシーを注文してノート・パソコンをしらき素早いブラインド・タツチ、おっと今のご時世ではタツチ・タイピングと呼ぶんでしたな。マア余計な話ですな、それを始めました。あたしも探偵の端くれですから怪しまれず背後からご亭主に近づき、画面を見ました。あたしには無縁のシロモノですが、エクセルって云うんでしたっけ?それに数値をひたすら入力していらっしゃいました。エクセルを使うって云うのが仕事だとは思うんですが、ナニしろあたしは無類のパソコン音痴でして、はい」



 別嬪のカミさんは笑いました。「仕事に違いないじゃないの。今のビジネス・パースンはワード、エクセル、それにパワー・ポイントを使いこなせないようじゃ、職場では人として認められないのよ」
「あたしは限りなく無職に近い稼業のオトコですから隣のポチちゃんタマちゃんと変わんないですわな」あたしはエコーの煙を吐きました。「エクセルに数値を入力し、ワードとやらで文章を書いてる最中、コーシーがご亭主の前に出されました。ご亭主は店の主人に笑いかけ、礼を云いました。すると主人はご亭主にこう云いました。『また残業ですか。私の様な自営業者には分かり兼ねますが、大企業にお勤めされてるお方の気苦労は並大抵のものじゃないでしょう。私の様なそこつ者がお客様の様に連日残業を命じられて、いや行っていたら、胃か十二指腸に潰瘍が出来て会社復帰など無理だったでしょうね』と。そうしたらご亭主は笑って『いいんだ好きでやっているんだから。それに僕は長年サッカーをやって来た。全國大会で優勝出来なかったけどね。だから、こんな事くらいで躰を壊す程ヤワじゃないさ』とおっしゃった。ご亭主と店の主人は懇意と云うかツーカー、リツクとルイ、ジヨンとパンチ、サムとデイブ、エラとルイ、ポーギーとベス、ボニー・パーカーとクライド・バロウ、ブツチ・キヤシヂーとサンダンス・キツド、ラツキー・ルチアーノとマイヤー・ランスキー、ロスコー・アーバツクルとバスター・キートン、ジヤツク・レモンとウオルター・マツソー、サム・ペキンパーとエミリオ・フエルナンデス、ジョン・フオードとジヨン・ウエイン、ジヨエル・マクレイとランドルフ・スコツト、マーチン・スコセツシとロバート・デ・ニーロ、クリント・イーストウツドとジヨエル・コツクス、ジヨン・カサヴエテスとジーナ・ローランズ、ジヨン・ベルーシとダン・エイクロイド、リチヤード・レヴインスンとウイリアム・リンク、アルフレツド・ヒツチコツクとバーナード・ハーマン、ジヤン・リユツク・ゴダールとジヤン・ポール・ベルモンド、ジヤン・コクトーとジヤン・ピエール・レオ、レオナルド・ベルドリツジとヴイツトリオ・ストラーロ、スチーブン・スピルバーグとヤヌス・カミンスキー、ルキーノ・ヴイスコンチーとヘルムート・バーガー、ジョン・ウーとチヨウ・ユンフア、カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルス、フイデル・カストロとエルネスト・チエ・ゲヴアラ、ジヤン・ポール・サルトルとシモーヌ・ド・ボーヴオワール、ハンナ・アーレントとハンス・ヨナス、ウイリアム・バロウズとアレン・ギンズバーグ、ダシール・ハメツトとリリアン・ヘルマン、ベニー・グツドマンとチヤーリー・クリスチヤン、マヂー・ウオーターズとオーチス・スパン、ハウリン・ウルフとヒユーバート・サムリン、エルヴイス・プレスリーとスコツチー・ムーア、フランキー・ヴアリとボブ・コーヂオ、スチーブ・クロツパーとドナルド・ダツク・ダン、ルー・リードとジヨン・ケイル、ジエリー・ガルシアとボブ・ウイア、リチヤード・ニクスンとヘンリー・キツシンジヤー、カス・ダマトとロツキー・グラジアノ、ロツキー・バルボアとミツキー・ゴールドミル、ジヨン・スミスとハンス・シユミツト、後藤新平と正力松太郎、中曽根康弘と渡邊恒雄、後藤田正晴と佐々淳行、吉田茂と白洲次郎、山田洋次と朝間義隆、市川崑と和田夏十、深作欣二と笠原和夫、溝口健二と宮川一夫、黒澤明と三船敏郎、本多猪四郎と円谷英二、小津安二郎と原節子、成瀬巳喜男と高峰秀子、大島渚と小山明子、篠田正浩と岩下志麻、吉田喜重と岡田茉莉子、向田邦子と久世光彦、岡本喜八と天本英世、長谷川和彦と沢田研二、安部公房と武満徹、三島由紀夫と丸山明宏、村川透と松田優作、降旗康男と高倉健、石原裕次郎と北原三枝、勝新太郎と若山富三郎、加山雄三と田中邦衛、小林旭と宍戸錠、岸田森と草野大悟、菅原文太と愛川欽也、渡瀬恒彦と杉本美樹、藤田まことと梅宮辰夫、萩原健一と水谷豊、大野克夫と井上尭之、宇崎竜童と阿木燿子、松任谷正隆と荒井由実、甲本ヒロトと真島昌利、星野哲郎と北島三郎、船村徹と春日八郎、古舘伊知郎と山本小鉄、藤本弘と安孫子素雄、高森朝雄とちばてつや、矢作俊彦と大友克洋、エヂー・タウンゼントとカシアス内藤、阪田三吉と女房の小春、羽柴秀吉と蜂須賀小六、石田三成と大谷吉継、福島正則と加藤清正、児玉源太郎閣下と乃木希典閣下、劉備玄徳と諸葛亮孔明、関羽雲長と張飛益徳、伊藤甲子太郎と篠田泰之進、夢路いとしと喜味こいし、ミヤコ蝶々と南都雄二、横山エンタツと花菱アチヤコ、銭形平次とがらっぱちの八五郎、月影兵庫と焼津の半次、明智小五郎と小林少年、増沢末夫とハイセイコー、武豊とヂープ・インパクト、野比のび太とドラえもん、の様な固い絆、と云うか美しい友情で結ばれた同志のようでしたなあ」



「た、確かに主人は中学高校、それに大学ではサッカー部に所属していた、といつも云っている。選手時代の写真も見せられたわ」
 あたしは咳払いをして続けました。「ここからが大切なところでさあ奥様。店の主人とご亭主との会話を再現してご覧に見せますぜ。『お客様のご自宅は確か中目黒でしたね』『そうだよ良く覚えているね』『それは当然です。お客様の様なご上品な常連様のことを忘れる程もうろくはしておりません』『上品とは誉めすぎだね』『私は事実を申し上げているだけです』『誉められるのは嬉しいけど、こう連日閉店間際まで居座り続けちゃあ迷惑なんじゃないかね』『とんでもございません。お客様がこの様な古いだけが取り柄の店を、お客様のご同僚、上司様に紹介して下さっていることは存じ上げております。そのおかげで店を続けていられるのですから、感謝こそすれ迷惑に思ったことなどいっぺんたりともございません』、おっと、ここでアルコール・ブレイク」



口がカラカラになったんであたしは焼酎ハイボールの缶のプルトツプを開け、三口呑んで口を湿らせました。別嬪のカミさんは眉も動かさずあたしの顔を見続けてました。
「続けますよ。『閉店までお仕事されるのは一向に構わないのですが、私にはどうも腑に落ちないんですよ』『何だね』『私はお客様のご自宅が中目黒と先程申し上げましたよね』『うん、そうだけど』『ここ恵比寿と中目黒とは目と鼻の距離です』『そうだよ』『私は自分で云うのも何ですが、当店はお客様にくつろいで頂ける喫茶店であると、自信を持って云えます』『だから僕もほぼ連日通わせてもらっているんじゃないか』『でもですね、ご自宅よりくつろげる場所はこの世にはございません。それなのにお客様はご自宅ではなく、当店で残業していらっしゃる。私なら家で残業を致します。もっとも、私の家など雨漏りに常に悩まされる様なあばら家ですが、それでも家は家です』『はは、マスターは僕が家に帰れない、あるいは帰りたくない事情があると思っているんだろう』『い、いえ、その様なことは決してございませんが』『じゃあマスターだけには教えてあげよう』『拝聴致します』『確かに恵比寿と中目黒は目と鼻の距離だ。早く自宅に帰って残業をする、僕と同じ環境にある人だったらそうするだろう。しかし、自宅には誘惑が待っている。テレビ、本、雑誌、インターネット、僕には子供がまだいないけど、いたら愛しい子供との遊び、その他諸々だね』『そうですね』『だからそれら誘惑を断ち切って仕事をするには、ここしかないのだよ』『そうでしたか』『それに、妻だ。これが最大かも知れない』『奥様でいらっしゃいますか』『はは、マスターは僕が恐妻家だと思っているね』『そ、その様なことはけ、決して』『マスターにはおのろけに聞こえるかも知れないけど、この世で僕が一番大事だと思っているのは妻だ。僕がだ、もし自宅で仕事をしていたらコーヒーや夜食、そしてマッサージをするなど何かと彼女は気を使うに違いない。でもねマスター、僕は彼女と幸福な時間を共に過ごしたくて結婚した訳であって、秘書として使うためにしたのではないんだ。彼女を家庭内秘書、一昔前でいう女中扱いなんかしたら彼女を不幸にするだけなんだよ。妻とは同等の立場でいたいんだ。幸せには同じ喜びを、不幸には同じ悲しみを分かち合いたいと思っている。でも今云った女中扱いすると云うことは、妻を僕より一段下げた存在にしてしまうと云うことだ。僕も男だ、面子と云うものがある。最初の誓いを忘れたら僕は単なる会社の奴隷に成り下がってしまう。それだけはご免だ。だからここで残業をしているんだよ。もっとも、家に早く帰り笑顔を見せられないことは、彼女を不幸にする過程の第一歩となっているかも知れないけど』『大丈夫ですよお客様、あなたは強い信念をお持ちのお方だ。ほぼ無関係な私すら感動して涙流しそうなのですから、奥様は分かっていらっしゃると思います』『そうだといいんだがね』と、マア以上のやり取りが済むとご亭主は再びキーボードを叩き始めました。あたしは便所へ走り出し、入るなり涙チヨチヨギレのこの濁った目をハンケチで吹きましたよ。涙の量たるや、ハンケチを絞れば床にこぼれ落ちる程でして、『僕は泣いちっち』『涙くんさようなら』『飾りじゃないのよ涙は』『ごめんよ涙』『砂に消えた涙』『酒と泪と男と女』『涙そうそう』、〈泪橋を笑って渡るんだジヨー!〉てな具合でして、はい。〈なみだは人間の作るいちばん小さな海です〉ってな名言を残したのは寺山修司でしたっけ?」

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 もう息が切れましたよあたしは。話終えるなり、ハイボール全部呑み干しちまいましたよ。原稿読みながらと云っても、キユーバのフイデル・カストロのおっさんなんて三、四時間は平気で演説してたって云うんだから人間じゃないですよ。もっとも死んじまったけれど。マアやっぱし人間であって、狐狸妖怪悪霊ドストエフスキーの類じゃなかったってこってすかねえ。
 別嬪のカミさんはしばらく目ん玉が飛び出しちまう程両まぶたを見しらきまして、口を開けました。
「ほ、本当に、本当に主人がその様なことを?」
「その通りでござんす」あたしはエコーの喫いさしを灰皿に押し付けました。「でも奥様、あたしが仕出かしちまったドジが二つあります。一つ目はコーシー屋でのご亭主が仕事を行ってる姿を写真に撮らなかったこと。不倫だっつう先入観があったんで、必要ないと思っちまった。それに店内でキヤメラ撮影してたら不審に思われます。それがあればあたしの話がうそ偽りでないことは明白だったでしょう。二つ目は同じくコーシー屋であなたのご亭主がおっしゃったことを録音しなかったこと。それも先入観で、不倫には音声録音なんてしち面倒臭いことをするしつようはないと、やはり思っちまったのでレコーダーを持って行かなかった。ご主人の持ち物に盗聴器を仕込んで盗み聴きする、なんてあたしは探偵として邪道だと思っとりますからね。ともかくですな、その二つさえあれば、もっと奥様に納得していただける材料が増えたと云うのに、あたしゃやっぱし三流、いや五流の探偵、とんだオタンコナスですわな」

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 別嬪のカミさんは首を振りました。「いえ、必要ございません。主人が私をそこまで思っていたなんて。確かに喫茶店で主人が申した言葉の録音があれば、寂しい時はそれを再生して聞けば、穏やかな眠りにつくことが出来たでしょう」
「マツタクもって面目次第もありませんです、はい」
「でも、あなたが語った〈喫茶店での会話〉は嘘ではないでしょう」
「そりゃそうですとも奥様。あたしだってこの稼業は長い、とは決して云えねえですがそんじょそこらのヒヨツコ探偵よりは場数を踏んでるんですぜ。聞いたことを正確に再現出来ねえようじゃあ、モグリと云われても文句は云えませんわなあ。だがあたしゃモグリなんかじゃありゃしません、モグラはナンで土の竜、なんて勇ましい漢字を充てるんでしょうかね、土ん中でおっかなびっくり暮らしてるだけなのに」
「主人が遅く帰って来ても、彼が私に向ける愛情は感じておりました。でも私は完全なる安堵が欲しかった。そんな悶々としている時、テレビのワイドショーでは芸能人の不倫情報が連日続きます。私は愚かでした。不倫、浮気も可能性としては捨て切れない。考えるとそちらの方が本当なのかなどと馬鹿な妄想は広がる一方でした。ですから探偵さんに主人の素行調査を依頼するなどと云った愚行に及んでしまったのです」別嬪のカミさんはハンケチ、確かエマニユエル・ウンガロのシロモノだったか、取り出し涙を拭く始末ですぜ。

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「そんなに自分を責めないで下さいな。こう云う言葉もありまさあ、〈疑心、暗鬼を呼ぶ〉ってね。あれ〈生む〉でしたっけ。奥様だけじゃない、そんな言葉と云うか感情に囚われたしとたちが、探偵事務所に足を運び、安くもない料金を払っているんですから」
 いやあ、たまんないねえ。泣いてる別嬪さん、あるいは喪服の若後家さん。これに反応しない男はインポテンツか男色家かのどちらかですよ。男なら、ああ男なら、固くするときゃ固くする、固くなるときゃ固くなる、それは云わずと知れたこと、おなごに浄土を見せるため、じゃねえと廃業ですよ。こんな場合、北方謙三先生なら別嬪のカミさん抱き寄せて「泣きたいなら枯れるまで泣くがいいさ。ただし俺の胸でな。あんたの涙で俺の乾ききった胸を湿らせてくれないか」なんて書くだろうねえ。けれど悲しいかな、あたしゃ探偵でも三流、身長も低ければ躰もたるんでるうえ不細工と来たモンだ。あたしが云ったところで待っているのは熱い抱擁なんかじゃなく、大阪名物パチパチパンチでしょうな。

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 あたしはエコーを咥えました。「探偵に素行調査を依頼する、確かに堅気のしとから見れば愚行ですな。『探偵なんて人のプライバシーを漁り、覗き見して金を巻き上げる卑しい奴らの所業だ、あんなの職業とは云えない』と陰口どころかおおっぴらに云うトンチキも多いですからなあ」
「い、いえ私はそんなことなどー」美人のカミさんはハンケチを両手で握りました。
 思っちゃいないと云いたいんでしょうがね、お見通しなんですようだ別嬪のカミさん。探偵が卑しい存在なら、依頼したああたも卑しい存在ってなこと、ああたはそれを認めたくないだけなんでござんすよ。あたしゃ愚行に加担した、それは認めちゃいます、もう出血大サービス、鼻血も切れ痔の出血も、月経の出血も総て出し切っちゃう。だってあたし自身、愚行で固められた人生を歩んで来たんですから。

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 マアこんなあたしにだって次に片付けなきゃならねえ仕事があるんですよ。だからもう早めに切り上げましょう。出来たら別嬪のカミさんのブラジヤーも拝見したかったけれどもカツトソーって云うんでしたっけ?それを引きちぎる訳にゃいかねえでしょう。
「とにかく結論を申し上げます。ご主人は浮気どころかキヤバクラ通いすらしなかった。どうして帰宅が遅くなったのか、それは社外残業をしてたからです。納得して頂きましたか?」
「はい!」涙を流しつくした別嬪のカミさんのしょうじょうは晴れ晴れとしていましたね。「もう主人を疑うことも、仕事について口を挟むこともないでしょう」
「そうでしょうそうでしょうとも」あたしはロツカーから報告書を取り出し別嬪のカミさんに手渡しました。「報告書と、諸経しの明細です。奥様が諸経し一覧に目をお通しとなり、不要と判断した場合は支払いをきょし、しても構やしませんよ」
「いえ、あなたは素行調査で主人の潔白を証明したにとどまらず、私の心の疑念を消し去って下さいました。諸経費は総て振込みます。本当に、本当にありがとうございました」

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 別嬪のカミさんは深く腰を折り、頭を下げました。おっとこいつは神様のご配慮、かがんだ胸元からブラジヤーが丸見え!色は薄いピンク、膨よかなおっぱい、さらにさらに、はみ出た乳首もバツチリと、その色たるや桜色、し頃の信心の賜物ですな。
 あたしは答えました。「礼には及びやしません。あたしの仕事ですから。それよりも奥様、ご亭主に関しては、今後ナニがあっても探偵や興信所に素行依頼などしないほうがよいでげしょ」
「そのつもりはありませんが、なぜです?」
「それはおあし、お金の問題ですよ。あたしんとこは大手にゃかなわないから着手金七万円、調査し一日七千円、諸経し別、しかし依頼者がしつ要と認めたモノだけ、と安い料金設定にしておりますが、相場は着手十万円、調査し一日一万円、諸経し別、それも問答無用でナニがナンでも経しなのだ、ってなモンなんでさあ。だからですなあ、とかくおあしが出て行く。あなたのような美貌を持つ方が最新の、値が張る美容器具を買ったり、舶来品のべらぼうな値の化粧品などを買ってナン十万かかろうが、ご亭主は『マア美容のためだから』と渋りながらも納得しますわな。だってあなたのご亭主が勤める大企業ならば、夫婦同伴のパーチーなんてあるでしょう。そしたら夫人、つまりあなたが廻りの目をしく美貌を維持したままお美しかったら、ご亭主も鼻高々ハナ肇、と云う訳ですよ、はい」
「確かに夫婦同伴パーティはございますが、それと素行調査依頼の支払いとの関係は?」
「ですから、銀行口座からそうですね、六十万のおあしがしき出されてたとします。そしたらご亭主は『何に使ったんだ?』とあなたに問います。『最新の美容機器を買ったの。美容は維持しなくては』と云われたしにゃ、ご亭主はぐうの音もぱあの音も出せません。だってあたしから見たってあなたは同性から嫌味を感じさせない程の美貌、そこで会社のいわゆるセレブたちに招かれ、あなたはし頃使っている化粧品、美容器具などいろいろ聞かれます。そして人気者、当然ご亭主の昇進も早くなる筈。ナンせあなたのご亭主はサツカーで鍛え上げた精悍な体格で男前、あなたは申し上げた通りの美人、会社では理想の夫婦、としてますます有名になること間違いござんせん。妬むブサイクしがみ、ネクラどももいる筈ですが、そんな連中の愚痴悪口など、大川に投げ込んだ提灯河豚同然ですわ」
 あたしはまた焼酎ハイボールのプルトツプを開け呑み、口を湿らせましたよ。それで話を続けましたんですがね。

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「でも、しき出したおあしの六十万について『あなたの素行調査に使ったの』なんておっしゃることが出来ますか?ご亭主は怒り心頭、家庭内不和、そしてドメスチツク・ヴアイオレンス。待っているわの離婚と財産分割協定。うっしっしと、大橋巨泉じゃあござせんぜ、喜ぶはしまわりバッジをつけた歩く六法全書つまり弁護士だけ。これはあたしの経験に基づくことでしてねえ、嘘八百でも脅してるのでもござせんよ」
 別嬪のカミさんは黙っちまいました。
 あたしゃ偉ぶって咳払いをしました。「だから、探偵という社会のゴミのことなどすぐに忘れて、これからも中目黒マダム、と云う呼び方があるかは知りませんがね、ブルジヨワ家庭の美貌の夫人として生きてくんですよ。分かりましたね?」
「はい、分かりました。もう二度と探偵さんに素行調査などお願い致しません」
 正直惜しいけどね。度々別嬪のカミさんが我が事務所に来れば、いつか落とせる機会がやってくるかもしれないし。でもあたしには後始末、と云うより小遣い稼ぎが残っているんだなこりゃ。

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 別嬪のカミさんがコーチのシヨルダー・バツグから封筒を取り出しました。「調査費一日七千円で、二週間のうち平日の五日間、つまり十日間お願い致しましたので七万ご用意致しました。お受け取り下さい」
 あたしは封筒から札を抜き、数えました。確かに七人の諭吉さん。こいつで天然のうなぎが喰えますわな。大吟醸の冷酒呑みながら。たまんないねえ。
「加えて」別嬪のカミさんは封筒をもう一通バツグから取り出しました。「これはその、お口止め料です」
「依頼人のし密をゲロ、もといしゃべくり廻るようじゃ、探偵はおまんまの喰いあげでさあ。あたしゃ真実を述べただけだと云うのに。探偵業法でこのような場合どんな対応すりゃ良いのか忘れちまったんですが、お断りすると奥様の不安は続きますわな。受け取りましょう、そうしましょう、そうしは沖田の名前ときたモンだ、あれ、そうじだったかな」あたしは報告書と諸経費一覧、七万円の領収書を別嬪のカミさんに渡しました。
「本当にありがとうございました。私、もっと強い女になります。それでは失礼致します」別嬪のカミさんはドアへ足を向けました。
 あたしは背後から声をかけました。「奥様はもう充分に強い。あ、しつよう経費一覧については、先程申した通りですんで、不必要ならバツテン印を郵送の上、振り込んでくださんせ」

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 別嬪のカミさんは振り返り、笑顔を向けました。そしてドアを開け、階段を下って行っちまいました。お尻をフリフリ、マリリン・モンロー・ノーリターン。
 あたしはお礼の封筒を開けて、中身を数えました。諭吉さんが三人、ちっ、シケてやがんなあ。ああたがご愛用の舶来化粧品のおあしより安いんでしょうよ。だがこれはありがたくちょうだい致しやしょう。
 愛、とでも云うんすかね。おフランスは花の都のパリーっ子、かの文豪アンドレ・ジツドはこんな名言を残してます。〈愛される男は、女にとって、じつは愛を引っかける釘ぐらいの価値しか持っていない〉と。あたしにゃ良くわかりませんがねえ。

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別嬪のカミさんから報酬を踏んだくった翌日の火曜日、午後六時半、あたしは渋谷で男が来るのを待ってました。誰って?決まってるじゃあありませんか、別嬪のカミさんの旦那です。あたしだって仕事をサボってた訳じゃない。もっとも、旦那を尾行してたのは五日間だけ、残りの五日間は不世出のスタンダツプ・コメヂアン、レニー・ブルースの自伝『やつらを喋りたおせ!』と立川談志師匠の『現代落語論』を事務所のマツトレスで横になって読みふけっておりまして、はい。マア探偵業界では調査しの水増しなんてザラ、と云うか常識、あたしだけを責めないでおくんなまし。

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 六時五十分、現れましたよカモちゃんが。文化村通りはチエーンのコーシー屋、旦那さん、ああたはどうしてそんなに不用心なの?逢い引きするなら待ち合わせ場所は常に変える、好色一代男はそこまで用心しなきゃあ、井原西鶴センセと尾崎紅葉センセを草葉の陰で泣かせることになりますぜ。もっとも両センセの書いた小説の主人公は逢い引きなんかせず、堂々と女をシイシイ云わせてたっけ。それ以前に、あたしゃ高校中退の身、両センセの作品なんざ読んだこたありませんがね。ただの耳学問って奴でさあ。けれども『金色夜叉』での名台詞くらいは諳んじるこたあ出来ますぜ。〈来年の今月今夜のこの月を僕の涙で曇らせてみせる〉てな調子で。

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 カモちゃん、亭主の宇垣伸太郎はサングラスをかけ、時計をちらりちらりと見てました。時計、そりゃロレツクスのコスモグラフ・デイトナじゃありませんか。あたしゃ三流探偵、ドジでノロマな亀です、もっとぶって下さい教官、てな情けない男ですがね、一度見たモノは忘れないっちゅう特技があるんですわ。もっともそんなモン、特技とは云えるシロモノではないんですが。見たのはナン年前だったか忘れちまいましたが、ほら年月日まで覚えていなきゃ特技た云えないでしょう、調査で訪れた怖い怖いアニさんたちの巣窟、つまり巷で云うところの組事務所です。そこで睨まれただけでおしっこチビリそうな組のお偉さんとご対面、下手打てばエンコ、小指ですわな、それとグツバイ青春となっても文句が云えませんがな。だがね、あたしゃ生きて還ることだけは出来ると云った自信はありました。ナニしろあたしの死んだじいさんは太平洋戦争、いや大東亜戦争と云うのかな、マアどっちでもかまやしませんが、おっとその話は後で。組のお偉いさんは探偵と云うケチな稼業人と直接会ったことがなく興味を持った様で、あたしの稼業と私生活などについて根掘り葉掘り、永遠栄光の名ピツチヤー、沢村栄治が投げる手榴弾のごとく質問してくると云った始末。その筋のお方が探偵のお得意様、重要な顧客だと云うことは、世間様神様仏様はご承知の事実、テンモウカイカイソニシテモラサズ、って奴で、逆にその筋のお方が探偵に調査依頼をすると云ったこともその筋では当たりマエダのクラツカー、探偵と直接会うのは身分が下のお方だとしても、命令を下すのはご身分が雲、いえアポロ11号よりも上のお方であって、直接会うことはないとしても探偵がどんなモンかなぞ当然ご承知している筈、あたしは質問責め海老責め亀甲縛り、にされたモンでさあ。容貌こそおっとろしいが、それ程世間の事情にたけたお方ではなく、先代様のご子息、良家とは決して云えないがその筋の世界におけるサラブレツドじゃないのかと、あたしゃ足りない脳みそをフル回転させ結論を出しましたよ。マアその推論は後日、その筋の最新情報を売りにしている雑誌を読んで間違っちゃあいなかったことなんですが。

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ともかくあたしのお口はマシンガン、答えまくりましたよ、調査依頼人と目的以外のことは、です。それとあたしゃそのお偉いさんを誉めちぎりました。昔で云うところの「誉め殺し」ですな。そのお偉いさんだってボンボンだから無条件でバツジを授かった、んな訳ないでしょ。実力、いわゆるシノギの多寡で優劣が決まる社会、サラブレツドにして頭が切れる、腕っぷしも渡辺、おっとこりゃ禁句、無難に渡嘉敷勝男くらいにしておきましょうね、強いからバツジを襟元につけ街を闊歩出来るって寸法ですわな。今どきはナントカ対策法強化やナントカ排除条例とやらで、これ見よがしにバツジをつけ繁華街を闊歩していらっしゃるお方は少ないと云うか皆無ですが、あたしがお偉いさんとご対面した時分はざらにいましたね、繁華街に。マアその様なお偉いさんは誉められるとすぐ調子に乗るよな単細胞じゃない、だからあたしは派手で悪趣味なお召しモノのことはお口にチヤツクして、無難にエルメスのネクタイとフエラガモの靴、それに腕時計のことを誉めては問い、お答えを神妙に拝聴すると云った塩梅で、ブルーズの名曲のタイトル『キリング・フロア』あるいは石原慎太郎先生の『処刑の部屋』で時の過ぎゆくままに、と過ごしておりました。結論を云えば、そのお偉いさんがしていたのがロレツクスだったんですなこれが。とにかく、あなた様にはまさにピッタシ、重厚なボデーに渋い輝き、まさに職人の仕事、並みの男じゃ時計に負ける、あたしがその典型でさあ、でも男として生まれたからにゃ、一度ははめてみたいなあ、どうせ叶わぬ夢でしょうけど、目に焼き付けることが出来ました、ああなんてあたしゃ果報者なのでしょ、などと拳闘に例えるならアウト・ボクシング、つまり遠廻しにロレツクスを誉めちぎりました。高そうですね、いくらするんですか、どこ産ですか、などと問うのはインフアイト、接近戦です。命知らずのボクサーだったら遮二無二相手の懐に入り込んで打ちまくりますが、当然あたしゃジヤツク・デンプシーでもジエイク・ラモツタでもありゃしません。口八丁だけが取り柄で臆病者のあたしがそんな戦法とってたなら、間違いなくコンクリの靴履かされて大川か江戸沖にドボン、でさあ。マア戦法としては正しく、情報は得られたうえに無事帰ることが出来たのはテメエで云うのもナンですが当然ですわな。しかしそうは問屋がおろさねえ、あたしゃ興味もないロレツクスの歴史を長々とご教授される羽目となっちまったっちゅう、とほほなオチでござんした。

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 旦那つまり宇垣伸太郎の方に話を戻しやしょう。
 あたしゃ宇垣の旦那に声をかけました。「旦那、あなたさんは宇垣伸太郎さんとお見受け致しやしたが」
 宇垣の旦那は一瞬口をしらきましたがすぐに閉じ、そっぽを向きました。
 あたしゃもう一度声をかけました。「宇垣伸太郎さんでござんすね?」
「し、知らないねそんな人。人違いだろう」宇垣の旦那は正面を見据えて答えました。
「マア世の中には似ているしとが三人いる、男が外でりゃ五人の敵がいる、サムライ雇うだよ、守るは攻むるより難しいと云うからのう、相手は野武士とは云え四十騎、四方に備えて四名、後詰に二名、少なく見積もってもわしを入れてしち人、キヤツホー!来やがった来やがった、野伏せりども来やがった!ってな言葉と云うか名台詞があるのは知っていますがね、とにかくこれを見ておくんなまし」あたしゃ革カバンから封筒を取り出し、宇垣の旦那に渡しました。
 宇垣の旦那は封筒を受け取ると、中のブツを抜いて見て叫び声をあげました。「わっ!わっ!わあっ!」

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 そりゃモロチン、中身は、旦那とかわい子ちゃんが待ち合わせしてるところ、コーシー店で楽しげな会話をしてるところ、逆さクラゲに腕組み突入せんとしてるところ、出てくるところ、駅前で熱いキツスを交わしているところなどを盗み撮りした写真だったんですからね。
「宇垣さんでござんすね?」あたしは同じ問いをしました。
 宇垣の旦那は頷き、あたしの顔を見ました。サングラスかけてたから、どんな目つきをしていたかは分かりませんがね、怯えの眼差しか憎悪の眼差し、どっちかにはちげえねえでしょうよ。だがそんなのは慣れっこモロッコアルジエリア、ときたモンだ。
「とにかく、あたしゃ怪しいモンではありませんぜ」
「こ、こんなモノ押し付けておいて、怪しくない筈がないだろう!」
「あちゃあ、こりゃ一本取られましたな」
「だ、誰に頼まれた!も、目的はー」
「ま、ここで話すんのもナンですから、とりあえずこのコーシー屋でお話致しやす」
 宇垣の旦那は再びロレツクスに目をやりました。「し、しかし僕はこれからー」
「分かってますわな宇垣の旦那。今宵もかわい子ちゃんとの黄昏のレスリングに及ぶんでしょ?おっと黄昏にゃあ時刻は遅いですなあ、ちあきなおみがカヴアーした『黄昏のビギン』は名曲ですねえ。話は三十分くらいで終わります、いえナニがナンでも終わらせますんで、かわい子ちゃんにメールでも打っておいて下さいな」
 あたしがコーシー屋のドアを開けると、宇垣の旦那はうなだれながら店に足を踏み入れました。宇垣の旦那の背を押して店に入れ、あたしも入りました。

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「あたしゃただのコーシーにしますが、旦那はナンにします?ここの勘定はあたしが持ちます」あたしと宇垣の旦那は店の隅のテーブル席に座りました。
 宇垣の旦那、最初は口をパクパクさせてナニ云ってるんだか分かりませんでしたが、やがて言葉として通用するくらいにはなりました。
「キ、キャラメルラテ・ウィズ・ホイップクリーム・アンド・キャラメルナッツソースを頼む」
「はあ?」あたしにゃなんのことだか分かりません。「すいませんが旦那、もう一度云ってくれませんかね?」
「キャラメルラテ・ウィズ・ホイップクリーム・アンド・キャラメルナッツソースだ」
 ここで『寿限無』を演らせようってつもりですかい?一門のアニさん三人を、闇をもしき裂くこの腕で、ボツコンスツコンルチヤリブレ、師匠の家を飛び出して、見習い止まりで即破門、そんな噺家崩れにそんな演目こなせると思ってんですか?こなせる訳ねえでしょうが。
「キ、キ、キヤラメルママ・イジ・ホツプクリン・アンド・キヤメルナツチソーダ、でござんすね?繰り返えさせてもらいやすと、キヤンベルラツツ・イズ・ホツプステツプジヤツプ・エンド」
「もういい!」宇垣の旦那は胸のポツケから手帳を取り出し、ページにナニやら殴り書きをして破り、あたしに突きつけました。「これを店員に渡したまえ!ちなみにショートだからな!」
「合点承知の助でさあ」
 破られたページには、宇垣の旦那ご所望のシロモノが書いてありました。マアここは云われた通り、メモを女給さんに渡すとしますか。舌噛むのはご免ですからね。

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 あたしは飲み物を注文するところへ行きました。「ええとですね、あたしはコーシーを」
「ショート、トール、グランデとありますが、どうなさいますか?」女給さんはいかにもの作り笑顔で答えました。
「そ、それはつまり、上中並みてえなモンですかい?それとも松竹梅みてえな豪華さに差がついてるとか」
「いえ、品質はどれも一緒ですが」女給さんは笑いを堪えているようでしたね。「量が異なります。ショートは普通サイズ、トールは多めのサイズ、グランデは最大のサイズです」
「なるへそ、じゃああたしはコーシーのシヨートを」
「では本日のコーヒー、と云うことですね。かしこまりました」
「ち、ちょいと待っておくんなまし。本日のコーシー、ってコーシーに昨日も今日も明日も、それに未来もないんじゃありませんか?あ、別に将来がない、っちゅう意味じゃあござせんよ、脈々どくどく〈センセ!脈が、脈が戻りました!〉〈し、信じられん、これは奇跡だ、さすがモグリにして神の腕を持つブラツク・ジヤツクだ!〉いやそうじゃなくて、受け継がれて来た食文化がそんな簡単に変わるか、とあたしが云いたいのはそれなんでやんすよ。『明日があるさ』の作詞は青島幸男でしたっけ、それとも永六輔でしたかしらん?」
 女給さんは肩をすくめました。「本日のコーヒーは、世界のコーヒー産地の豆を使用しています。毎日、約十種類前後の豆の中から当店のフェローが選び、本日のコーヒー、としてご提供しております」
 ホホ、ホドロフスキー!パチー・スミス!問いに対する答えになってないじゃあありませんか!それになんすかフエローとは!フエ、がつく前戯なら知っておりやすが、男女の営みなり。

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 マア大人は大人なりの対応をせにゃ。あたしゃジヤイアンじゃねえんだから。
「マア、サテンのし替わり朝定みたいなモンでござんすね」
「サテン?」女給さんの眼差しは汚物を見ると云った、マア、シジヨウなモンでしたね。
「あれま、こりゃ死語でしたか。喫茶店のことでさあ。そこで出す、毎日メニユーが変わる食事でござんす」
「は、はい。そのようなものです」
 嘘こくんじゃありませんよ女給さん、ああたはサテンなんざ縁がねえ生活しとるに決まってます。マア本日のコーヒー、の意味は分かったからこれ以上責める、いや問い詰めるのはやめときましょう。
「それじゃですね、あたしは本日のコーシーのシヨート、それから」
 女給さんは語り始めました。「本日のコーヒーは四カ國の優れた豆のブレンドです。ブラジル、ケニア、ペルー、インドネシアの最高級豆を」
「待っておくんなせえお姐さん、あたしゃウチではネスレのソリユブル、つまりインスタントですわな、それとサテンではモカと決めておりますんで、今更知識など得ても所詮付け焼き刃に終わっちまいます。ま、この無知に免じて許しておくんなせえ」あたしの眼は三白眼になっちまいました。
 女給さんは狼狽えました。「べ、別にウンチクを得意げに申してる訳ではー」
「それは分かっとります、わかっとりますとも。コーシー文化をしろげるためにゃあ、ああたのような聡明なおしとがしつようだってこた、無学なあたしでもわかってるつもりです。これからも頑張っておくんなさい。あたしも陰ながら応援させて頂きます」
「あ、ありがとうございます」女給さんは頭を下げました。
「で、もうしとつ注文がありましてね。注文主に書いてもらったメモをああたにお渡し致しやす、ちなみにシヨートですぜ」
 あたしは宇垣の旦那からもらったメモを女給さんに手渡しました。
 女給さんはトチリもせず最後まで云ってのけました。「キャラメルラテ・ウィズ・ホイップクリーム&キャラメルナッツソースのショートですね。少々お待ち下さい」
 勘定を済ませました。本日のコーシー、は三百二十円、キヤラメルなんとかは四七〇円です。想像してたより安いのなんの、ナンノと云やあ南野陽子、街のしにせのサテンが商いを、どんどんしゃらら、どんしゃらりってな調子でたたむ理由が分かりました。毛唐の命令に従ってこんなお洒落な店が乱立あんみつところ天、となれば太刀打ち出来る筈がありゃしませんぜ。あたしの好物ナーポリターンを出すところが減る一方ですよ。だったら食堂で喰えって?冗談じゃありません、あたしゃスパゲツチイが食べたいの、食堂レストランが出すのはパスタ、サテンで出されるのがスパゲツチイなんですよ。あたしの独断偏見です。

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 受け取り場でコーシーとキヤラメルなんとかを両手にし、テーブルへ戻りました。宇垣の旦那はメールを打ってました。マアマメなこと、ってあたしが云い出したことでしたっけ、宇垣の旦那に。かわい子ちゃんへの熱いメツセージでしょうね。にくいよこのど根性ガエル、じゃなくて女殺し。
「はい、ご所望のキヤラメルなんとかです。マアあたしが口にすることは一生ねえでしょうが、後学のため、どんなシロモノか教えてくれませんかねえ」
 宇垣の旦那は無言で頷きましたが、どこかしら誇らしげでしたね。
「エスプレッソ・コーヒーにキャラメルナッツソースとホイップクリームをトッピングしたものだ。旨いぞ」
 あたしゃ首を振りました。「一目瞭然ですがね旦那、あたしはメタボです。見るからにそれはカロリー、それも糖質とアブラ質が多いと思います。あたしが飲んだら寿命が短くなるだけだと思いますんで、止めておきます。はい」
宇垣の旦那は写真を見てしばらく黙っておりやしたが、やがて口をしらきました。「これは僕、否定の仕様がない。君は探偵、守秘義務と云うものがあるだろうから訊いても無駄だろうが、誰が君に依頼したのかは分かる。妻だろう?」
「その通りでござんす」あたしは即、頷きました。

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 宇垣の旦那はキヤラメルなんとかを吹き出しちまいました。「ちょ、ちょっと待て!探偵が依頼者のことを軽々しく云うなんて、君は守秘義務を破ると云うのか!」
「そう云われると答えにキユウしますがね、あたしゃ旦那のしたことを咎めようなどツバメの糞程思っちゃいないモンで、はい」
 宇垣の旦那はサングラスを外し、あたしの濁った眼を見つめました。「それはどう云うことだ。納得が行く理由と説明が欲しい」
「つまりですな、旦那は毎夜、相手をとっかえしっかえかわい子ちゃんと夜のレスリングに明け暮れていた、キヤバクラ通いもしていた、そいつをあたしゃ説教するつもりは毛頭ございません。マアご覧の通り、毛根はまだありますがね」
 背中を丸めた宇垣の旦那は弱々しく頷きました。首に効くバイアグラってないンすかね。

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「でも、旦那の出社時刻は定時、あたしが会社の内部に忍び込むこたあ不可能なので推論でモノを云いますが。毎夜のレスリングが原因で仕事に支障をきたすようなお方じゃあない、それに加えてかわい子ちゃんと会った時の、あなたが浮かべる笑顔、疲れ果て、ボクちゃんもう駄目、山芋が食べたいなあ、だったら、あの様な爽やかな笑顔を浮かべることなぞ出来る筈がないじゃあありませんか」
 宇垣の旦那は腕を組みましたね、偉そうに。「うむ、その通りだ。確かに僕は女遊びを繰り返す。だが、そのくらいで疲労困ぱいしてだな、仕事に穴を開ける様なヤワな男ではない」
「さすがサツカーで鍛え上げた肉躰と精神の持ち主と云わざるを得ませんなあ」
「僕が長年サッカーを続けていたことを、君は知っていたのか」
「そりゃああたしだって探偵の端くれですからね」あたしは旨いとも不味いとも云えないコーシーをすすりました。
それにしてもここじゃタバコが喫えないのには参りましたなあ。生きづらい、世知辛い世の中になりましたねえ。
「で、こっからがポイント・ブランク。あたしゃね、旦那の女遊びにお灸をすえるつもりなんざ、これっぽっちもねえんですよ、おっとさっきも云いましたっけ」
「でも、妻に報告したんだろう?」
「その報告は昨日致しました。お見せしたい内容の紙があるんですが、それは後回し、とにかく、奥様には旦那さんは浮気などせず、恵比寿にある老舗コーシー屋『ネフェルティティ』で社外残業する毎日で、だから帰りが遅くなったんです、と報告しました」
 宇垣の旦那はしばらくあたしを鋭い目つきでねめつけ、口をしらきました。
「君の魂胆は分かったぞ。妻に嘘の報告をして素行調査費を巻き上げた次は、僕に恩を着せた挙句、ゆするつもりなんだな。つまり二重取りだ。何と云う卑劣さ!君は恐喝屋だ!」宇垣の旦那は震える手で、キヤラメルなんたらのカツプを持ちました。

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「マアそう勘違い、いや解釈されても結構、あたしゃ奥様にこう申し上げたんですよ。『ご亭主は浮気などするどころか、雌猫一匹近寄せませんでした』と。色々と説明を要しましたが、奥様に旦那が浮気などしていないと云う確信を植えつけることに成功しました、はい。もちろん子種なんざは植えつけておりやせんよ」
 宇垣の旦那はぽんかんとしました。
「じ、じゃあ君は、決定的な瞬間を写真におさめたと云うのに、妻には見せなかった、と云うのか?」
「さいです。夜のレスリングにこれから挑まんとしている旦那の写真と、あたしが足りないオツムをふりしぼり考えたでっち上げの報告、そりゃ矛盾、相反するシロモノじゃあござせんか」
「なぜそこまでする、いや、したんだ。僕と君が会うのは今夜が初めてだ。だから、僕は君に恩義を感じさせる様なことは一切していない筈だ。庇う必要もない人間をなぜ君は庇ったのだ!善意など君の顔からは感じないが、そんなふりをして今後も金を、僕からしぼり取れるだけ取るつもりなんだろう」

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 金、金、金、イヤだねえ。どうして人間身分が高まるにつれ、金銭欲が強くなるんでしょ、いや、金銭欲が強いからこそ身分が高くなるのやも。巷じゃそれを 「上昇志向が強い」とでも云うんでしょうね。
「あたしゃ旦那を洗いまくった、奥様に嘘の報告をした、そしてそのことを旦那に伝えようとしている、両者を謀る真似をしとります。それはなぜか。お答えしますとですね、世間的に不倫は悪い、卑しいモノとされますが、あたしゃ旦那の生き方を、ウラヤましく思った次第でありまして、はい。そのためには家庭をつぶす訳にゃあいかんのですよ」
「僕の生き方が羨ましい?家庭をつぶす訳にはいかない?ますます分からない」
「説明致しやしょう、こほん」あたしゃコーシーを飲み干しました。「昔はよくこう云いました。〈浮気は男の甲斐性だ〉とね。人間は不器用なモノでして、仕事しと筋なら女にうつつをぬかすことはないでしょう。でもそりゃお気の毒だと思いますよ。仕事が趣味と云う方も世間にはおりますが、そうでなく仕事に追われるしびが続くしとにとって、ナンの楽しみがありましょうや。逆に仕事そっちのけで女にお熱を上げるしとがいます。そのしとにとって仕事はおあしのため、そしてそのおあしは遊びに使うため、しょうがなくやっているんだと云う意識が、総て、とは云いませんがナイト・グレコローマナーにはありますわな。あたしも享楽的な、いや破滅的と云った方が正しいのかしらん、とにかくそんな生き方をしてるんで咎め出来やしませんがね、いくら女遊びをし、色男伊達男旗本退屈男ぶったとしても、残るはかわい子ちゃんとのツー・シヨツト写真くらい、消えるは精力、だったら仕事上で誰からも高くしょう価される結果を残してもいいんじゃないかと思っとります。まさにアンビヴアレンス、って奴ですね。そこで旦那が登場してくる訳なんですよ、はい。仕事は一流、女遊びも一流、どちらもご器用にこなされる上に美貌の奥様と中目黒のお宅、申し上げた通り、甲斐性がなくちゃあマネ出来るモンじゃあござんせん。旦那はその塊と云ってもいい。だがその甲斐性は家庭がなくっちゃ意味がないんでさあ。家庭があるから甲斐性が生まれる、甲斐性があるから家庭を維持出来る、マアナント廻りくどい云い方でしょう。そういや甲斐性、甲斐バンドと云やあ『ヒーローになる時、それは今』でしたよね。いやあシットしましたなあ。それと甲斐の虎、こと武田信玄公は両刀使い、お稚児さんに女々しくも、なんて云うと今じゃあポリチカル・コレクトネスとやらにしっかかるんでしたっけ、ともかく〈儂を捨てないでくれよん〉なんて手紙を出したんですわ。マツタクそれでああた、よくも織田信長がもっとも恐れた男、なんて伝を残せたモンですよ。その信長公のお稚児さんは森蘭丸、いや男色の歴史を語ると長くなるので打ち切りましょうか。とにかくですな、あたしは旦那の、男としての沽券を保ってもらわねえと、男前と不細工、違いはありますが同性、むなしくなるんでさあ。奥様に嘘八百の報告書を提出したあとは、旦那と細かい打ち合わせをせにゃならねえ、そうせにゃ奥様の目だって節穴じゃござんせん、マアおまたの間にゃ節穴がある、おっといけねえこいつあお下劣だ、バレちまったらあたしの苦労も水の泡、妻に去られた旦那はトルコ、こいつあいけねえ國辱語、シヤボンのお風呂にやっかいとなる、ゆえにご迷惑ながら参上つかまつった次第でござんすよ。シンパシー、んなモンがあるから、いつまでたっても三流探偵のままなんでやんす。探偵殺すにゃハジキはいらぬ、泣きの芝居を打てばいい、あそっれドカタ殺すにゃ刃物はいらぬ、三日雨さえ降らしゃいい、あこっりゃ女房殺すにゃ縁状いらぬ、こましおだてりゃそれでいい、あもしとっつ亭主殺すにゃ弁護士いらぬ、粋な小袖を着てりゃいい、とくらあ。それは旦那、三流五流に限った話ですぜ」

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 宇垣の旦那はしばらく黙っておりました。クリームを舐めると、声を出しました。「何の面識もなかった君が僕を助けてくれた。にわかには信じられないことではあるが、僕も男だ。信じることにする」
「さいですか。ありがとうござんす。でも会うのはこれが最初で最後ですぜ」
「そうだね。その方がいいだろう」
「あなたが逢い引きをしようとお妾さんをこしらえようと、かわい子ちゃんをメイドに雇って調教、ご主人さまあ、許してえ、わたくし壊れちゃいますわあ、なんでも云うこと聞きますからあ、おやめになってえ、いやおやめにならないでえ、どっちなんだふふふ、そのかわいいオカメインコのようなお口で云ってごらん、腰の振りを止めて欲しいのか激しくして欲しいのか、云わねば分からないじゃないか、いやんそんなはしたないこと云えませんわあ、じゃあ壊して欲しいのだな、それはいやん、ではハーフ・タイムにしようか、それは駄目え、曖昧な返事は嫌いなんだよ僕は、わ分かりましたご主人さまあ、お気の済むようになさってえ、そうか今度は趣向を変えてお縄遊びなんかはどうだね、な縄は、ふうむ嫌いなのだな、もうご主人さまの意地悪う、では戯れと行こうか、ソフトにわたくしをお縛りになさってえ初めはあ、ようし縛るけど悶絶しても知らないからね、とかナンとかしようが、お説教たれるつもりはござんせん。どんどん遊び、バリバリ仕事に励んで下さいな」
「そうするよ」
「あと、休日はもちろん、平日にもたまには美貌のご夫人を安心させておやんなさい」
「そうだな」
「あと、これ差し上げますんで読んどいて下さい」

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 あたしはHerzの革カバンから、宇垣の旦那と『ネフェルティティ』のマスターの会話をでっち上げ、別嬪のカミさんに聞かせた嘘八百な話を文章にした紙を宇垣の旦那に手渡しました。A4サイズ二枚、びっしりと記したシロモノです。字も汚けりゃすることも汚い、あたしゃほんとに汚れた探偵ですぜ。 
 手に取った宇垣の旦那は、最初は胡散臭げでしたが、社外残業を『ネフェルティティ』で行う理由を云ったところからは、手を震わせ紙面を喰い入る様に読んでましたっけ。
 読み終わった宇垣の旦那は紙をテーブルに置き、あたしの不浄なる両手を握りしめました。「完璧だ!これだけ抜け目のない嘘を云われたら、真実と思うしかないだろう。それにしても、ドラマの脚本の様にスムーズな展開、そして大袈裟な台詞もない。まあ皆無とは云えないが、僕の照れ、マスターの卑屈ではなくいかにも事実だけを述べていると云う語り口、良く出来た脚本だ」
「いやはや、そこまで誉めて頂けるとは、恐縮至極でござんすよ」
「君は演劇でもやっていたのかい?それともシナリオでも?」
「いえ、W稲田の文学部で、そんな真似事をしてただけですよ、はい」
「何だ!君、いやあなたは僕の先輩じゃないですか!僕は政経学部でしたが」
 あたしの様な、いやらしい男が私学の雄、都の西北が卒業生の筈がないじゃないの。少しは物事にゃ裏がある、と疑ってかからないといけませんぜ。
「僕は『ネフェルティティ』のマスターとそれ程親しい間柄ではないが、面識はある。もっと親しい間柄になっておく必要があるな」
「旦那もワルよのう、うっしっし」あたしは時計を見ました。
 そろそろ午後七時半でござんすね。で、ここからが本筋です。
「じゃあ、かわい子ちゃんにニツポン男児のたくましさを見せてあげてやって下さいな。あと、キナ臭い話になるがおあしの話です」
「そうだな。君、いや先輩は何もかも親身となってくださったんだ。タダと云う訳には行かない。謝礼をしなければならないな」

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「じゃあ、写真とフイルムのお買い上げ、奥様の説得、台本の構成、相場としてはですな」あたしは右手を広げて、指を五本見せました。「こんなモノでいかがでげしょ」
「ご、五十万!」宇垣の旦那は椅子から転げそうになりました。
 あたしゃ思いっきし、しくつな笑顔を宇垣の旦那に見せつけてやりましたよ。「五十万?ふっふっふっ、桁が違いますぜ」
「で、では五百万!そりゃあんまりですよ!」宇垣の旦那は今にも泣き出しそうになってましたね。
 ソンナ小さな肝っ玉で、よくも毎夜かわい子ちゃんをシイシイもう駄目堪忍してお願いだからあ、と悶絶させ続けてこれたモンですね。いや逆に早漏で、もうこれだけなの、だらしがないんだからもう、もっともアタシの名器にかかれば誰だってそうですけどねオホホホ、と云われてるのやも知れませんなあ。
 しょうがないですな。旦那が五十万と解釈し払うことを約束したんなら、あたしもちょうだいしてました。五しゃく万でもね。しかしですな、あたしゃ悪党は悪党でも、ゆすりたかりの類ではないんですな。悪党と云やあリチヤード・スターク大先生の『悪党パーカー』シリーズですがね、あたしゃパーカーさんの様な切れ者じゃあ、ご察しでしょうがないんですわな。オツムの方は多少キレかかっておりますが、はい。
「ああたは勘違いをしておりますぜ」
「で、で、で、ではー」
「今度は五千万と云うつもりでげしょ。マツタクもう、あたしは正当な、いやこりゃ明らかに不正、背徳ですな、マルキ・ド・サド卿の有名な『悪徳の栄え』の前には『ジユリエツト物語あるいは』がつくんですぜ。仕事した場合にはそれに適する額しか頂かないの。したことと云や先程申した通りのチンケな仕事でさあ。だから、今回はズバリ云って諭吉さん五枚。いかがでしょ。高いなら指一本曲げて、しとりの諭吉さんに消えてもらってもよござんすよ」

35

 宇垣の旦那は肩の荷が下りた様でしたね。「も、もう先輩ったら脅かさないで下さいよ。五万円、今キャッシュでお支払い致します」
「お、そいつぁありがてえこってす」
 宇垣の旦那は分厚い財布から諭吉さん五枚を数えるとテーブルに置きました。あたしゃ紙ナプキンをかぶせると、それごとジヤケツトの内ポツケに入れました。
「じゃ、もう会うことはないでしょうが、あんまし遊びすぎちゃあ駄目ですぜ。出すモン出し切っちまったら、それこそ奥様のおまたの奥へ届かなくなっちゃうんですから、白いオタマジヤクシのむれが」
「肝に命じます。それと、先輩だから正直に申し上げます」
「ナンざんしょ」
「僕、婿養子なんです。元々の名字は板垣です」
「そうでござんしたか。宇垣と云えば陸軍大将であった宇垣一成閣下を、板垣と云えば同じく陸軍大将であった板垣征四郎閣下を思い出しますぜ。こいつぁ単なる偶然なのか、ナニか宿命があったのか。まさしく縁は異なモノ味なモノ、ですなあ。同じくガキがつくんなら、早く作って下さいよ可愛いベイビイ、ハイハイ、こんにちは赤ちゃん、てな具合に。おっと、今じゃそう云うこと軽はずみに口にしただけでマタニチー・ハラスメントと糾弾され村八分となっちまいまさあ」
 時計を見ると午後七時二十八分、もう解放してやらにゃあ。
「じゃあお達者で。それ行けやれ行けニツポン男児、とくらあ」
 あたしは席を立って、出入り口へ歩きました。振り返り旦那を見れば、握りしめたるスマート・フオン、きっとかわい子ちゃんでしょう、相手は。もうあたしにゃ関わりのねえこって。そんで渋谷駅まで歩き、電車を乗り継ぎ神田の寝床に戻ったと云う次第でござんす。

嘘つき狂豚よ、おれの唄を笑え!

執筆の狙い

作者 吉岡ニッケル
126.224.146.64

ド、がつく読みづらさ。せやけど、「野性時代フロンティア新人賞」に一次は通過したカットや。
自慢にならへんが、やっぱし読みずらいと先に行けへんのかなあ。なお第十回は「なし」やった。
俺のようなドアホの屍の上に、デビューする人がおるんやなあ。

コメント

上松 煌
114.164.204.248

 拝見しましたクスッ
びやっひゃひゃぁ~w
おんもしろかったですよぉ!
とても幡京さんが書いたとは思えない、善き人情話でした。
こういうの、いいよねぇ。

 おれは「野性時代フロンティア新人賞」などは知らないのですが、これを一次に通した下読みさんは高レベルですね。
この作品は様々な分野の教養に精通していないと、理解しにくいんじゃないかな。

 ただ、「あたし」「まっつぐ」などの江戸弁や、「ひ」「し」が曖昧になる江戸っ子の舌っ足らずが、リズムといいやっぱり大阪弁臭なのね。
江戸っ子のおれとしては、ちょっと気色悪かったス。

 ストーリーは途中の感じでは、「ははぁ、旦那が奥さんを騙すために探偵にいい含めて、喫茶店の店主との会話を妻に語らせ、探偵はそれをネタに旦那をゆするのだろう」と思ったのだけれど、快く裏切られました。
いや、ホントにそんな話でなくてホッとしました。
こんな世の中なので、読者はえげつない話や、人の弱みにつけ込んで利を得るような現実的な話には食傷している気がする。

 ただ、枚数の関係でしょうが、途中のキヤラメルなんとかコーヒーのカットはなくていいかなぁ…と。
ちょっとギャンギャン、うざいのね。
時代としては昭和の高度成長期かなぁと思ったのだけれどPC云々だから違う。
ま、幡京さんの人生の集大成の感じがしましたね。

 落語のリズムとノリも入った、愉快な作品でした。
こういうものなら需要がありそうですね。
良作でした。

櫻井
60.155.199.121

あなたが愛着を持っているのであろう古色蒼然とした、悪く言えば時代遅れなものの数々と、現代的なあれこれとの対比が見事でした。最初はなんでこんな古めかしい主人公を出しながら、深キョンなんて単語が出てくるのか疑問でしたが、オチみて納得しました。いいですね、コレ。文明批判としても、鋭いものですよ。

でも、確かに読みづらかったです。特に序盤は苦痛でした。しかも、根本的なレベルで。身も蓋も無い言い方ですが、どうしようもない気がします。あなたの作風って、もう完成しちゃってると思うんですよ。だからここから読みやすいもの、売れやすいものに変えていくって、もう、改良じゃなくてただの変化ですよね。そしてそれはどう考えてもイバラの道、塗炭の苦しみです。

あなたもそう思ってるようですが、商業デビューは至難の業かなと…。太宰治も言ってますけど、結局文芸が売文である限り、読者の存在は常に想定する必要がありますからね。これは、古いしニッチすぎる。売れ線から間違いなくかけ離れてます。小説って、作品と商品の境目にあるから面倒ですよ。芸術性を突き詰めれば突き詰めるほど、売れなくなる傾向が強い。中にはその矛盾を解決してのける人もいますがけど…それはごく一部のバケモノだけです。

とかく、いいものを読ませてもらいました。拙文失礼しました。

吉岡ニッケル
126.224.140.19

上松さん

ありがとさん。「野性時代(今年から)新人賞」は高レヴェルじゃないよ。応募総数488本、うち一次通過が79本だもん。まあね、二本同時に通過したから「これで俺もデブーや!」って兇乱して買い物しまくり、見事、二次で落ちた(笑)。

インチキ江戸弁。その通りやねん。俺生まれは東京だけど育ちは某県だからね。別に憧れちゃいないけど、語り部を「インチキ江戸っ子」にするために、徹底的に、極端な江戸弁をしゃべらせたんや。

あとね、これ、悪党ばっかしでしょう、出てくるの。でも、俺にとっては皆可愛いんよ。

上松さんは文壇を嫌ってる。マア俺もアンチ権威権力やけど、やっぱしデブーはしたいねん。でもねえ、そうすると「読みやすい」ようにしなきゃあかんでしょ(それよりも内容を練らんとね)。ギッチリと書くのが俺のスタイル、それを崩してええのかって今悩んどるんや。

とにかく、味わいぶかさと文章は上松さんから学び、スタイルはなんとかケリをつけるわ。

ありがとさん。

吉岡ニッケル
126.224.140.19

櫻井さん

ありがとさん。でも文明批判かなあ。そんなつもりは毛頭なかった(笑)。時代に乗り遅れたルサンチマン、ってとこかいな。

読みづらい。これはね、俺のスタイルなんですわ。最近悩んどります。このままでええのんか、と。

確かに狙うのはニッチ。「誰でも楽しめる」や「何十万部突破!」なんて考えとりません。カルト的に読まれればええ、そう思っとります。

とにかく、精進します。

ゴイクン
121.92.248.216

吉岡ニッケル 様

拝読しました。
面白かったです。オチの部分がよかったですね。取った金額がよかったです。

話自体もキャラも、何の問題もないと思いました。
ただ御作を二次まで上げるのは厳しいかな、とも思いました。

この書き方、私もやったことがあります。外国暮らしの男が、すっかり異国を嫌いになって、ぶつぶつ文句ばかりいいながら、借家の床をどんどん掘って行くという、アホな話です。

どんどん書けますね。一日に20枚でも50枚でも。自分=主人公にして、自分の心を解放してしまえば、私が今、ごきぶりを相手に話しているようなもので、いつまでも楽しく書けます。

御作の本筋は簡単ですね。それさえ頭に置いて。ひたすら妄想に驀進すればいいだけです。

この探偵物語は面白いです。脱線するのも、ホント落語ですね。でも、じゃあ、これと同じ文体で次も面白く書けるか。これからもこの文体でページを稼ぐのか、となった場合、プロにするにはちょっとね、とならないでしょうか。

もし同時に応募されたのが、普通の、「嬉しかった。にっこりと笑った。こういう記述はアウトです」の作品だったのでしょうか。
そういう普通の作品も書けるんだということを、選者は見てみたいと思うのじゃないでしょうか。つまり基礎をきちんとした上での破調なのか、ということです。

もし作者さんがすでに作家であるのなら、何ページも続く仲良しコンビの名前の部分とか高く評価されると思います。あるいはどんな方法でも出版して、本にして世に問うて、それで売れまくるのなら、この書き方もアリでしょうね。

私は読んだことはないですが、セリーヌとかヘンリーミラーってこんな書き方かもしれないな、と勝手に思うのですが、その人たちは賞を取って出た人じゃないですよね。よいエイジェントについていたのだと思います。

一度一次に残ったのなら、きっと覚えている下読みさんはいるはずですので、ぜひ次回も、まあ、受けのよい普通のスタイルで書かれたやつを応募されるのはいかがでしょうか。と思いました。

>二本同時に通過したから「これで俺もデブーや!」って兇乱して買い物しまくり、

気が早い!! でも、わかります。私は受賞の文を書いていましたから。なんせ、一ヶ月もあったので。

昨日はフラーの China gateを見ました。前のより落ちますが、ラストで、軍人役のNat King Coleが歌っていました。なんと、ベトナムが舞台でした。リオブラボーのAngie Dickinsonがアジア人とのハーフの役でした。

それじゃあ。

ARAKI
126.199.8.142

読ませていただきました。

独特の文体は魅力的でしたし、膨大な雑学といいますか知識量は凄いと感じました。ダジャレ的なセンスも良かったです。
ただやはり読みにくかったですし、この感じが最初から最後まで続くのは確かに新人賞として勝ち抜くのは難しいのかなと思いました。

しかしながら新人賞一次審査合格ということで、それだけの良さがあると感じました。独特の喋り方は饒舌な活動弁士のような印象を受けました。


作品のターゲットは、ある程度年齢の高いサラリーマン世代の男性だと思います。
あくまでも例えばなのですが、主人公は自分を卑下していますが、十分能力のある探偵だと思います。
ですので、能力や性格はそのままで、人の目を見て話すのが苦手としておいて、上手く話や交渉ができない。
ただし性的な魅力(奥さんや喫茶店客の下着が見えるなど)で、そっちに意識がいっている時だけははっきり堂々と喋れるなど、一時的に人格が変わるヒーローに変身するみたいな、全体にアクセントを持たせるため、なにか工夫できたらより面白く出来ないかなと感じました。

勝手書きましたが、少しでもなにか参考になればと思います。

読んでいて刺激を受けました。
ありがとうございました。

吉岡ニッケル
126.224.137.97

ゴイクンさん

毎度おおきに。

自分のスタイルは崩したくないけど、世情に従わねばならん。
ここでは勉強させてもらってますわ。

俺は前、人様の小説に「嬉しかった。にっこりと笑った、はアウト」と書いたけど、
実は「ニヤリ」とかけっこう書いとるんや。ただし、ギャグで。

今回も応募したけど、ここの人の意見に従って、けっこう改行したんや。ま、シャアないわな。
読み手はんは俺と同世代か、上の世代しか考えておらん。

今は「地獄の黙示録」のパロヂー落語を書くため、仕事の間をぬって調べまくりや。

ま、俺が仮にデブーできるんやったら、ゴイクンさんの方が先やな。

フラー。また映画の話になるけど「ショック集団」オモロかった。
「裸のキッス」見たいなあ。

ほなまた。

吉岡ニッケル
126.224.137.97

ARAKIさん

ありがとさん。「独自の文体」と記して頂いて感謝や。

俺はもともと映画狂、ハード・ボイルド小説のマニヤだったからシナリオ・ライターになりたかったんや。今はしがない雑記ライターやけどな。

で、犯罪小説のかたわらギャグ小説を書いてたら「活字で笑いを取れるものを」と書くようになった。

この探偵、俺の別の小説では噺家、ことに真打として登場するんやで。

ま、デブーできんでも、くたばるまでの楽しみとして書きまくりますわ。

ありがとさん。

ぷーでる
157.65.82.154

読みづらくて、途中で挫折です。(;゜Д゜)
これは、ギャグかな?それとも落語風?

ただ1次通過したという事なので、基礎はできてるって事なんでしょう。

吉岡ニッケル
126.224.137.97

あのね、この程度で読みづらい、って言ったら、筒井康隆、埴雄高とか柳美里とか一生理解できへんよ。趣味が読書、て言うなら、人生の喪失やで。

俺の駄作は、彼ら以下のゴミやけん。

あんたはんかて、作家目指してるんでしょうが。

宗田理の愛読者やったら別やけど。

吉岡ニッケル
126.224.137.97

あと。

エトムント・フッサールの「現象学」。
マルチン・ハイデガー「存在と時間」。
ジャン=ポール・サルトル「実存主義とは何か」。

ジャック・デリダ。
ジャック・ラカン。
ミシェル・フーコー。

フェルディナン・ド・ソシュールの「記号論」。
クロード=レヴィ・ストロース。

ジル・デュルーズ&フェリップス・ガタリ「アンチ・オイディプス」。
浅田彰「構造と力」。

俺には訳が分からんかったけど、やっぱしひきづってるんや。

吉岡ニッケル
126.224.137.97

ついでに。

賞レースには、大日本印刷とか、凸版印刷とかの印刷やも絡んでくるんやで。

どれだけ印刷ページ増やして儲けられるか。

上松さんが嫌う、文壇世界の嫌なケースだわな。

うるせえんだよおまえは
122.23.119.253

吉岡、打算が理屈なら黙って図書館こもってろフンドシ犬

吉岡ニッケル
126.224.152.67

お、とうとう俺にも荒らしが。
図書館やない、全部自費で買うたんや。一部経費。

ぷーでる
157.65.82.154

宗田理の愛読者やったら別やけど。
> 宗田理の「僕らの7日間の戦争」は面白かったです。
  映画では、小説にはなかった戦車がイキナリ出てきて笑った。

そうげん
58.190.242.78

吉岡ニッケルさまへ

こんばんは、作品をよみおえました。
じっさいに人物が語り掛けてくるようなテンポで読むことを心掛けました。大阪弁ならばコテコテという形容がしっくりきますが、江戸っ子のちゃきちゃきという感じはなくって、どちらかというと、昔からの伝統芸の、やはりコテコテの語り芸を聞いているような調子がありました。

なにがいちばん似てるかなと思って、御作を拝読しながらつねに感じたのは、ご存じでなければ申し訳ありませんが、村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』と『1Q84』に登場した重要な人物の、牛河さんでした。どことなく泥臭くって、三枚目にすらなれない、不遇のキャラクターです。どくとくの語り口は職務にまじめで実直なんだけど、けして人に好かれることのない陰鬱なキャラクター、だのに語りの調子は、暗い所におちこまないから元気が備わっている。御作の語り手にもそんな雰囲気が見えました。

たくさんの語りのレパートリーが披露されており、ときに楽しく、ときに明るく、ときに過剰で、ときに饒舌で、ときに羅列されるデータに笑みがこぼれ、丁寧ななかに慇懃さのただよう側面も感じられ、でもトータルでボリュームのある言葉に心身をさらした充足感がありました。

調査を終えてご主人にお金をせびるところも、あくどいところを感じさせず、ちょっとした懲らしめのように感じられて、その釘の差し方も、ひがみや、にくしみなんてまったく感じられない、むしろおなじ男としての協賛にちかいような、ったくうまくやってやがんな、ちょっと小遣い金おごりやがれ、っていうなんだかなじみの友に、飲み代金をせびるような気軽さが、この作品の味わいの大部分をあらわしているように感じました。

こんなに人生の暗い部分を描いてるのに、読んでいる最中も、読み終えた後も、からっとして、こざっぱりとした、面白い読み物を目にしたという気持ちだけが残っています。

もちろん、考え直してみると、これというどっしりしたものが読後に読み手であるこちらの心に残っているかといえば、ほとんどそれは見られず、だから、読んでいるときにだけ、この小説の価値はわたしのなかにあったのかなと感じました。あとに残るものを書きとどめようとする作品とはちがうものだったでしょうか。読んでいる最中は楽しかったです。

ありがとうございました。

そうげんさん
126.224.163.83

ありがとさん。

コテコテの語り芸ー目指したのは、まさにそれやがな。

主人公は慎重161cm、高校中退、メタボ、ブ男と、ネガチブな形容詞がつく探偵なんやが、だから絶対2枚目にはなれへんのや(ちなみに俺は190cm、痩せ型でブ男や)。

村上春樹は読んだことあらへんのやったけど、ブタ箱に押し込まれていたとき「風の歌を聞け」を読んだ。どうせ読みづらいんやったら、チャプターで細切れにすんのもありかな、と思った次第や。

おおきに。

吉岡ニッケル
126.224.150.57

ちなみに警察は俺の敵なんやけど、閲覧図書が
小林よしのり「戦争論」とか、そっち系ばかりや。
だから囚人は更生せえへんし、お巡りもバカばっかしなんや。

吉岡ニッケル
126.224.156.241

119・63。IPアドレス追跡するは俺の趣味やないんやけど。

<吉岡、打算が理屈なら黙って図書館こもってろフンドシ犬>

書いたのは:


今晩屋さん


やったのね。

俺は別に好かれとうと、好かれまいがかまへん。今までHN変えて、さんざ荒らしてきたし。

でもさ、わけわからん事抜かすんやったら、小説投稿して同じ土俵に立ったらどうや?

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