作家でごはん!鍛練場
昼野陽平

こころ

「馬鹿野郎!」
 男は怒鳴った。
 その声は、狭い部屋をビリビリと響いた。
 部屋は六畳一間で、壁紙などはあちこちが剥がれていた。襖や壁紙はタバコで黄色くくすんでいた。部屋中はゴミだらけ で、とくに酒瓶がゴロゴロと転がっているのが目立った。
「さっさと糞しろよ! 糞すんの待ってるとか、滑稽だろ!」
 男はそう怒鳴って、ビール瓶を手にし、女の頭部を強打した。女の頭頂から、鮮烈な血が流れ、額を伝った。
 女は全裸だった。そしてお椀の上に跨っている。これからお椀に糞をしようというのである。
 女ここ一ヶ月のあいだ、ゴキブリだけを食べさせられていた。それは糞便の芳香と滋味を、より豊かにするためだった。それに、男のゴキブリに対する、異様な愛好というのも、またあった。
 男は女の糞を食うつもりだった。性器を刺激しながら、糞を食うのであった。
 やがて女は、ビリビリと音させて糞をした。椀に盛られた糞には、未消化のゴキブリの脚や翅などが突き出ていた。
「恥ずかしいよお!」
 女はそう言って泣いた。
「この世には死ぬことより辛い事が、ごまんとある事を思い知らせてやるよ」
 男は椀にもられた、糞の芳香を嗅ぎながら言った。
「ああ、この芳醇な香り……」
 男は呟くと、おもむろに性器を露出した。糞の香りに興奮して、完全な勃起をしていた。亀頭には、般若の刺青があった。
「しゃぶれ!」
 女は勃起した男の性器を、音させてしゃぶった。男の息が粗くなる。
 性器をしゃぶらせながら、男は椀の糞をまずは、指先ですくって食べた。そして少しずつ味わいながら、くちゃくちゃと音させて、食べた。
「たまらんぜ、このえぐ味。ゴキブリを食べさせたのは、正解だった」
 やがて男はうっと呻き声をあげて、女の口内に、射精した。
 はあ、はあ、と息をすると男は、残りの糞を、さきほど炊いた飯の上にかけて、茶を注いだ。
 お茶漬けにした糞を、男はシャバシャバと音させてかきこんだ。そしてまた女に性器をしゃぶらせて、射精をした。
 まだまだこれからだ、と男は言った。
「おい!」
 男がそう叫ぶと、部屋の奥から大男がはいってきた。全身、黒ずくめの服を着た男だった。頭部にも黒いマスクを着けている。
「俺を……いや、あたしを、あたしを、強姦しろ!」
 男がそういうと大男は、異様に長いペニス――ウナギのように異様に長く、ぬらぬら光っているペニス――を、隆々と勃起させた。そして、男の肛門にぬるぬるぬるぬると挿入した。
「ああああああああああー! こんなのこわれちゃうわよお! でも気持ちいい!」
 と男は叫んだ。
「こんなの狂ってるよお!」
 男の狂態におびえた女は、ふたたび泣き出した。
 大男は激しく腰をうちつけ、男はアッアッアッー! と喘ぎ声をあげている。
 やがて大男が射精をすると、男はその場にぐったりと倒れこみ「強姦されちゃった……」と言い、身をよじった。

 女は男の恋人だった。女に売春をさせて、自分は働かないで朝からパック酒を飲んで、テレビを観ている生活だった。男は元ヤクザで、小指が欠けていた。あまりにだらしないのと、変態性が原因で、破門されたのだった。それ以来、定職につかずにぶらぶらし、生活保護を受けていた。
 部屋は、家賃が五万の、築30年の木造のボロアパートだった。
 黒ずくめの大男は、男が飼育している白痴だった。
 女は男のたくみなセックスにぞっこんだった。こんなにセックスの上手い男は知らなかった。それ故、女は男の虜になっており、少々の変態行為や不道徳にも、我慢していた。しかし今日はいつもと違っていた。変態性がいつもより過剰だった。男は女を殺すつもりだった。この女に、そろそろ飽きてきたのだった。

 男はたおれた姿勢のままで、強姦された余韻に、浸っていた。時折、ああ、とか、うう、とか呻き声をあげている。
 やがて、おもむろに立ち上がり、台所の部屋から焼酎の瓶と、工業用カッターを手に持ってきた。
 焼酎の瓶を、逆さから女に挿入しようというのである。
 焼酎の瓶の底を、女の陰部にあてがって挿入しようとしたが、やはり入らない。
「そんなの入らないに決まってるでしょお。やめてよお!」
 と女は嘆願した。
 そこで男は、工業用カッターを取り出して、キチキチキチと音させて刃を出した。
「そんなことやめてよお!」
 女は恐怖に怯えて、泣きながら言った。
「言ったろ、死ぬことより辛いことがあるって」
 男が笑いながら、そう言うと、
「生きるのが辛いのは、あんただけじゃないわよお!」
 女はそう叫んだ。
「うるせえ! 俺の辛さは特別なんだよ!」
 男はそう返した。
 そしてカッターで女陰を裂いた。裂けた肉から、つぎつぎと血が溢れた。女は信じがたいような悲鳴を上げた。
 つぎつぎと膣の奥を、カッターで裂きながら、焼酎の瓶をむりやりに、まるまる一本、挿入したのだった。
 女は死んだ。

 男の知り合いに、養豚場を営んでいる者がいたので、女の死骸は豚の餌にして、証拠隠滅した。

 男はふたたび、恋人になるような女を探した。

こころ

執筆の狙い

作者 昼野陽平
60.71.236.169

人間のクズを書こうとした感じです。
よろしくおねがいします。

コメント

そうげん
58.190.242.78

読みました。内容が内容ですが、これをお昼ごはんの即席めん(+トッピングは自分で炒めた野菜)をすすりながら読み終えたのだから、わたしも普通じゃないのかもしれません。

読みながら、ときおり、目の筋肉がひきつるというか、ひりひりとひっぱられるような感覚がありました、表現されている対象から受ける影響というよりも、かずかずの印象的な名詞によって、わたし自身に影響を与えるようでした。

わたしにはたぶん書けないなと思えるものでした。書くための動機、つまりモチベーションを自分の中に宿しながら書ききるには、ハードルの高い項目があまりに多すぎる。だから付き合ってる同棲相手の秋恵をためらいなくなぐりつける北町貫太の話は読めても、自分では書けないのだし、ヤプーの出てくる世界を描くこともわたしにはできない芸当だと思います。この「こころ」もぎりぎり見ることはできても、わたしには作れないものだと思いました。

男性でも女性でも、鍛えることのできない箇所に横暴に損傷を与えられるその痛みは、想像するだけで、胃とか背中とかがきりきり、ひりひり、びりびりと、よじれてくるような感覚があります。ふだん想像することのない感覚を文章によって、その書かれる内容によって喚起させられるというのは、筋トレでもそうだけど、ふだん使ってない筋肉を運動させることが、身体の活性化にはもっとも有効なのだろうし、だとすれば、心身のデトックス効果にもなるんでないかなんて、この小説を受け止めたく思いました。

題名の「こころ」はどんな風にもとれるので、ラベル以上の意味がわたしには見えませんでした。ありがとうございました。

水野
223.218.198.156

「人間のクズ」が存在するのだとすれば、それは「男のクズ」と「女のクズ」の大きく二種類に分けられるはずです。『こころ』という作品では、果たして二種類のクズが書かれているのでしょうか。仮に「男のクズ」だけしか書かれていないのだとすれば、それは「人間のクズ」を書いたことにはならず、少なくとも作者は「女のクズ」をも書かねばならない、ということになるかと思われます。
読者である私がそうした穿った見方をしてしまうのは、男が加害者であり女が被害者であるという構図が、本作では疑いのないものとして受け入れられているように見えたからです。もしも『こころ』という作品において、「男のクズ」と「女のクズ」のそれぞれの描写が実現できているというふうに仮定すると、「男がクズであるためには女に対して加害者でなければならず、女がクズであるためには男に対して被害者でなければならない」という一つのテーゼを得ることができます。
これを覆そうとすれば、女が加害者であり男が被害者であるという構図を書いてみせなければなりません。書くことが限りなく不可能であれば、作者にとっての「男のクズ」「女のクズ」がどういうものであるかが読者に確定します。

ただ、確定したところで「男のクズはこういう存在だ」「女のクズはこういう存在だ」ということが理解できるだけで、「人間一般のクズとは結局のところどういう存在なのか」がいまいちはっきりしない。つまり、本作を読んだだけでは、実際のところ「クズ」そのものがどういう性質であるのかがわからないのですね。「クズ」は人間に共通するある性質なのか、それとも性差や立場の違いなどによって変わってくるものなのか。
「『こころ』は男(あるいは女)のクズを書こうとした作品である」といくらか限定していただけていれば、もう少し私にもはっきりしてきたのでしょうが、「『こころ』は人間のクズを書こうとした作品である」と話が広がってくると、途端にわからなくなってしまいましたので、急ぎ感想としてまとめさせていただきました。

香川
182.250.59.34

読ませていただきました。
 
正直に申し上げると、私はこの作品を読んで特別何かを感じることはできませんでした。
 
ひとつには、こういった作品はネットでは案外たくさん公開されているからだと思います。
小説にしても、漫画にしても、結構あります。
私はそういった作品はあまり好きではありません。
それは残酷な描写が嫌いだからではなくて、行為の残虐性以上のものが特にないように思えるからです。
残虐なものを描くことによって何らかの快感を作者が得ているだけなのだろうな、という冷めた目で見てしまいます。
私が見たいなと思うのは目に見える残虐性の裏にあるものです。
仮に描かれていることへ何らかの快感を書き手が抱いているのだとしたら、私はそういうものに対して快感を覚える書き手自身のことをあぶりだして欲しいなと思いますし、
昼野さんの多くの作品はそういう作者の心象が作中に滲み出ている物がとても多いと思うので(昼野さんの場合は性的快感が作品のベースである訳ではないと思いますが)好みの作品も多いです。
  
ただ、この作品については、私は行為の残虐性以上のものを見出すことができませんでした。
ネットでよく見かける他の作品と大きな差は感じられなかったです。
人間のクズを書いた、ということなら、タイトルにもあるようにそのクズたる心のありようを描くこと、その人間性クズっぷりを内側から立ち上げることが必要なのではないかなと思うのですけど、それが感じられなかったというか。
作者の心象も伝わってきませんでした。
自分の読解力を全力で棚に上げてものを言っているような気がしますが。
 
と言っても、白痴の大男に巨大なペニスで自身を強姦させる様子などの変態性はいいなと思いましたし、
加虐と被虐両極端の、けれども密接に係わりあった歪んだ欲望が見える作品だったら面白かっただろうな、と思いました。
なんと言うか、肉体的な弱肉強食というか、強い者には犯されたいし弱い者は犯したい、という被征服と征服の欲望が見えたような見えなかったような気がするので、もしそういうことをされようとしたなら、そこにある滑稽さ愚かさも含めて掘り下げていくのもいいかなと思います。
 
『邂逅』でしたっけ。前回こちらで読ませていただいた作品は、ラストの描写に語り手の内面が凝縮されているようでとてもいいなと思ったのですが、ああいう形でこちらの作品もどこかに語り手の心象を映す描写があると好きだったかなと思います。
この作品の場合、ラストに持ってくると、ちょっとかっこ悪くなる気がするので、別の部分に。
ラストはラストで淡白な感じがいいと思いました。
 
すごく勝手なことを書いている気がしますが、私はそんな風に読みました。
 
ありがとうございました。

アフリカ
221.171.128.111

拝読しました

昼野作品がどんどん説明的になっていく……

狂ったように路肩に咲いたマンコー花の花弁に、同じく狂ったように茸オールスターを擦り付ける。
受精する必要等ないのに周囲の人間を殴り付け刺し殺して射精し続ける。

昼野作品の問答無用の欲しがるだけの真実でカッコつけたがる嘘や美しいと言いたがる馬鹿に唾を擦り付ける純粋さが説明的な感覚でどんどん失われていく気がします。

昼野さんはこんなのを最終的に書きたいのだろうか……

ありがとうございます

お茶
182.166.64.69

クズを描くなら、男は女の死体を証拠隠滅しない方が良いのでは?
証拠隠滅している段階で、正気であると思えます。

香川
27.95.81.7

何度もすみません。
 
感想を書いた後、やはり何か読み落としているというか理解できていない部分がありそうな気がして何度か読み直してみたのですが、
何となく、白痴の大男は現実のものではなく主人公の妄想なのかもしれないなと思えてきました。
大男に対する変態的な被虐性は、主人公自身が女性たちに望んでいるものであり、けれどそれに応えられる女性などいるはずのないから飽きて殺すまでに至ってしまう。
改めて読んでそんな風に感じました。
大男を妄想し自身が女性になりきって満たされる被虐的な快楽と、自分が男性として妄想の大男と同じだけの仕打ちを女性にしようとして、けれど妄想のようにはいかずに満たされない加虐的な快楽とが描かれているような気がしました。
実際、そういうおつもりで書かれているかは分かりませんが、被虐と加虐を妄想と現実として読むと、面白いものが見えてくるなと思いました。
大男を妄想してひとりでやってる方が、女から見た姿は異様で恐ろしいなと思います。

それを思うと、個人的にはもっと変態的でも良かったかなと思います。
仮に妄想だとすればですが、もっとすごいこともできてしまったと思いますし、壮絶なレイプの妄想があった方が異様さ異常さが男の精神のギラつきと共に際立ったと思います。
どことなく文面から冷静さが感じられるため、主人公の精神もある程度落ち着いて見えてしまっているように思うので、もっと凄い妄想の方が(少なくとも行為の時は)正気を失ってる感じ、狂気に駆られている感じが出て良かったのではないかなと思いました。
それだと人間のクズからは少しずれる気もしますが…。

何度も本当にすみません。
最初の感想はこちらの読み手としてのコンディションの問題もあったのかなと思いますので、きついことも書いたように思いますが、お気になさらないでも大丈夫かなと思います。
 
失礼しました。

白米
173.205.93.47

面白かったです。
サイコスプラッターが好きな私の嗜好のせいかと思ったのですが、映画SAW然り残虐描写には一定の人気がありそれを満たしていると思いました。

男のクズっぷりは、自暴自棄からきているように見えました。彼は、金と権力さえあれば満たされる救われるクズのように感じました。
金と権力を持った決して満たされることのない別タイプのクズ。
目につく他人の幸せがどうしても許せないクズ。
いろんな短編が書けそうな題材でとてもいいですね。そうして彼らが遭遇し、クズとクズがどんなクズなことをするのか楽しみになります。
歪な心をもった登場人物の異常な行動をする作品はとても好みでした。別のパターンがあれば読んでみたいです。

昼野陽平
60.71.236.169

皆さま、ご感想をありがとうございます。
大変申し訳ないのですが、多忙のため返信は土日にさせていただきます。
よろしくお願いします。

昼野陽平
60.71.236.169

そうげんさん

感想をありがとうございます。
名詞の持つ力というのに興味があって、そういうのを表現したい感じですね。
負の感情がモチベーションになってます。現実ではあまり出さないで創作で垂れ流すようにしてる感じです。
タイトルは人間らしい心ってクズと言われてる人にこそあるような気がしてつけてみました。
ありがとうございました。

昼野陽平
60.71.236.169

水野さん

感想をありがとうございます。
クズに関する考察が甘かったかなと思います。
僕としてはクズについて書くというより知り合いのクズ人間をモデルに、かなりオーバーに書こうくらいの動機でした。
執筆のねらい欄ももっと正確に書かないとなと思います。
ありがとうございました。

昼野陽平
60.71.236.169

香川さん

感想をありがとうございます。
僕としても残虐という以上に何もないなと。そこは自覚していろいろとそれ以上のものにしようとしたのですが、なんかうまくいかなかったです。
変態性を増したほうがいいというご意見はそのとおりだなと。なんか貧しい小説になってしまいました。
ありがとうございました。

昼野陽平
60.71.236.169

アフリカさん

感想をありがとうございます。
僕の小説なんて表層的なエログロが読まれてるだけとか思ってましたが、ちゃんと読んでいただいてる人もいるんだなと。
もっとマシなものを書きます。
ありがとうございました。

昼野陽平
60.71.236.169

お茶さん

感想をありがとうございます。
僕としては遺体を豚の餌にするということのクズ的なサディズムを表現したかった感じですが、証拠隠滅しないでほったらかしにするのも良いかもしれません。
ありがとうございました。

昼野陽平
60.71.236.169

白米さん
感想をありがとうございます。
残虐描写には成功してるとのこと、嬉しいです。
自暴自棄ですね。世の中というか人生というかに絶望してる人です。
クズはけっこう書いてて面白いので、いろいろなパターンも書いてみたいです。
ありがとうございました。

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