作家でごはん!鍛練場
香川

オー、ブラザーズ!④

(30)少年たちの願い

 翌日、日が昇るのを見計らったかのように少年たちは起きだしていた。みんな眠れなかったのだろう。ジョンも哀しみの余韻がいつまでも胸に残って、一晩中ベッドの上でもぞもぞとしていた。そんな気配を追い払うかのように日差しは強く、戦車の外で遊ぶ仲間たちの汗ばんだ体は砂まみれになっている。でも、誰一人そんなことに頓着する者はいなかった。みんなおかしいくらいにはしゃぎ回っている。
 ジョンが外へ出て行くと、トミーとダンを除いた全員が集まっていた。戦車の脇に座って仲間たちの様子を眺めるデレクの姿もある。ジョンはゆっくりと歩み寄り、彼のすぐ横に腰を下ろした。

     *****

「話してやろうよ。あいつらに」
 デレクの言葉に、ジョンはすっかり面食らってしまった。あの厳しくて現実主義のデレクが、まさかジョンが父から聞いてデレクに教えた「サンタクロース」の話を自分から持ち出すなんて、しかもこの大一番にそれを仲間たちに教えてやろうと言い出すなんて、にわかには信じられなかったのだ。ジョンが目をぱちぱちさせていると、デレクは笑った。
「オレだってたまには楽しいことも考えるんだよ」
 彼は細めた目を少年たちへ向ける。
「あいつら、今は不安だろうから、ちょっとくらい希望みたいなものを持たせてやりたいんだ」
 彼はそう言って立ち上がり、駆けまわる仲間たちの元へ歩いていった。

     *****

 デレクに言われて、みんなが厨房に集まっていた。朝食の支度をしている途中だったトミーは「なんでいつも集まんのは厨房なんだよ」とぶつくさ文句をつけていてる。それが少年たちにはおかしくて仕方がないらしく、口元をくすぐったそうに歪め、時折、そっと隣同士で目配せし合っては、くつくつ笑っていた。
 仲間が集合して数分後、デレクが立ち上がった。さざ波立っていた室内が静まる。
「明日はビンセントたちとのこと、どうするか話して、できれば作戦も立てたい。でも、今日はちょっと違うことをやりたいんだ」
 そこで彼は言葉を切り、片手に握った黒く四角い小さな機械を持ち上げてみせた。横長で、左側はスピーカーになっており、右側には透明の小窓がついていて、中に何か入っている。上部では、ガチャンと押すタイプの四角くて大きめのボタンが並んでいた。テープレコーダーだ。それを目にした途端、少年たちの目が好奇に光り始めた。いつも生真面目なデレクが、一体何を始めようというのだろう? そういう期待がそれぞれの表情の上で踊っている。
「オレとジョンは村にいる時、クリスマスに子どものところにやって来る『サンタクロース』って老人の話を聞いたんだ。赤い外套を着た白ひげのじいさんで、空飛ぶトナカイが引くそりに乗ってるらしい。それで、クリスマスの夜中に、こっそりプレゼントを置いていくって話だ」
 「プレゼント」という言葉にみんなの目の輝きが増した。何人かは、やはり隣同士でくすぐったそうな笑顔を交わし合っている。でも、
「なあ、クリスマスって、もしかして――」
 ビリーが言うと、サミーが頷いて言葉を繋ぐ。
「うん、明後日だよ」
 緩んだ気配に緊張が走った。ビンセントたちとの対決の日だ。
「だから――」
 デレクはそう言って、またテープレコーダーを掲げる。
「これで、みんなの欲しいものを録音しとこうと思ったんだ。その話が本当だとしたら、勝利を祝うのにちょうどいい」
 強張っていた空気が、ゆっくりと流れ始めた。けれど、まだそこには戸惑いがあるようだ。
「勝てるのかよ?」
 小さな声が上がる。みんなの心に引っかかっていた不安が、明るくなりかけた雰囲気に影を落とした。
「勝つしかねえだろ」
 ダンの言葉で、おぼつかなかった少年たちの表情に、ぽつぽつと決意の色がさしていった。

 少年たちは、それぞれに欲しいものをテープに吹き込んでいった。みんな仲間たちに聞かれたくないのか、テープレコーダーが自分の手にやって来ると、そそくさとどこかへ隠れて録音を済ませてくる。そうして、デレクとジョンを残して全ての元掃除兵たちが終え(最初のビリーが操作の仕方が分からずに、仲間たちに聞いて回っていたので予想以上に時間がかかったが)、無事にテープレコーダーはジョンのところに戻ってきた。
「じゃあ、次は君だ」
 そう言われたトミーは、ほとんどぎょっとしてジョンを見た。
「なんでオレまで――」
 トミーが言いかけたのを、ジョンが遮る。
「君だって仲間じゃないか。デレクたちのことも、ダンのことも、助けてくれただろう?」
 トミーのそばかすだらけの顔が、みるみる赤くなっていく。彼はひったくるようにしてテープレコーダーを受け取ると、どこかへ引っ込んでしまった。

 トミーの分が終わると、ジョンはサミーと共にデレクに連れられ、みんなのやってこないだろう階下の部屋へ向かった。着くとデレクは椅子に座って、
「よし、じゃあ聞くか」
「聞くの!?」
 驚いたジョンはひっくり返った声で返してしまった。
 デレクは一瞬きょとんとしてから、同じく目を丸くするサミーと顔を見交わす。
「もしかして、お前、まだサンタクロースなんてのが本当にいると思ってんのか?」
 いないの!? と出かかった声をぐっと飲み込む。その様子を見たサミーが静かに笑った。
「絶対にいないなんて言うつもりはないよ。でも、昔からほとんどの家庭では両親がサンタクロースの振りをして、枕元にプレゼントを置いていたんだよ。つまりサンタクロースがどの子にもやって来てたわけじゃないんだ。だから本当にいたとしても、ぼくたちのところに来てくれるとは限らないんだよ」
 ジョンは、はっとした。両親がサンタクロースの振りをして。目の中に、紐で結った小さな箱を差し出す父の姿が蘇る。あれは父が用意してくれたものだったのだ。きっと、馬を売った金を使って。
 デレクが、やれやれとため息をつく。
「『限らない』って言うより、絶対に来ない。だから、オレらで手に入りそうなものは揃えてやらなきゃならないんだよ。それで、サミーにリストとして書き記してもらおうと思ったんだ」
 デレクはそう言って再生ボタンを押す。ガチャン、という乾いた音が響いた。

 最初はビリーだった。

『オレは、でっかくなりたい。ジョンより、デレクより、でっかくでっかくなりたい』

 三人そろって、ぽかんと口を開けてしまった。
 |でっかくなりたい《・・・・・・・・》?
「あいつ、なんで物を頼まないんだよ……」
 デレクが言うと、サミーは苦笑いを浮かべた。
「『空飛ぶトナカイ』って言っちゃったからね……。なんでも叶えてくれる魔法使いみたいなものだと思ってるのかも」
 
 気を取り直して、テープレコーダーに向かう。次はディッキー。

『ダンと仲直りしたい』

 普段、ゲラゲラと笑いながら大声で話す彼からは考えられないほど、おとなしい口調だった。ジョンとビリーが連れ戻しに行った時よりも、戻ってきてデレクに責められた時よりも、ずっとか細い、ノイズに紛れてしまいそうな声が、ジョンの耳の奥に沈んでいく。
 デレクが深く息を吐き出す。
「こいつも物じゃないのか……」
 ため息をつきたくなるのも分かった。叶えてやりたいのは山々だが、ダンとの仲直りを他人が準備できるわけがない。そもそも、ディッキーのことをあれだけ心配していたのだから、ダンだって仲直りしたいに違いないのだ。ジョンには、もう二人の間に何の問題もないように思えるのだが……。
 
 続く少年たちの望みも、ほとんどが物ではなかった。戦車長になってみたいとか、毎日オアシスの泉で遊びたいとか、そんな叶えられない願いばかり。やっと物が出てきたと思ったら、空飛ぶトナカイが欲しい、というどうにもならない物で、三人はその日一番のため息をつくことになった。デレクはトナカイの話に触れたことを、心底後悔している様子だった。

 何人かが終わると、サミーが「あっ」と言って、苦い表情をした。そう、サミーの番だ。

『みんなが無事でありますように』

 デレクは目を見張ってから、すぐに眉間に不満げな気配を漂わせた。
「お前もかよ……」
「ごめん、つい……」
 サミーは困ったように、眉をハの字に歪めたまま返す。でも、デレクもサミーも口元にはうっすらと笑みを浮かべている。ジョンだって、自分の表情が解けているのが分かった。普段は聞けない仲間たちの本音に触れて、なんとなく温かい気持ちになっていた。

 次はダンだ。

『ディッキーの傷跡を消してやってほしい』

 いつも通りの淡白な口調。けれど、その言葉にある優しさがジョンの心に沁みた。すぐ脇から、サミーが穏やかな声で話す。
「ダンは一見冷たそうだけど、本当はすごく優しいんだよね。年下だったり、自分より弱い子のことを放っておけないんだ」
「それはそれで、厄介だぞ」
 感傷的な雰囲気が、デレクのとげとげしい声で壊された。
「どういうこと?」
 訝しみながらジョンは聞く。
「あいつ、たぶんディッキーのために何かしでかす気だ」
 驚いて、ジョンはサミーと見合った。
「だって、怪我してるのに……」
「そんなこと関係ないんだろうな。じゃなきゃ、今のあの怪我だってしてないだろ」
 デレクは言葉を切り、再びやれやれと肩を上下させる。
「とにかく、あいつが妙なことしないように注意はしとこう」

 最後はトミーだ。これまで何一つ準備できるものがなかった。彼が普通に物を頼んでくれないと、せっかくデレクが考えたプレゼントの計画が無意味になってしまう。とはいえ、コックのトミーならば便利な調理道具などを頼んでくれているかもしれない。そんな期待をちょっとだけしながら、ジョンは耳をそばだてた。

『顔のそばかすを消してほしい』

 三人はそろって一瞬固まった。続けて一斉に吹き出す。
「あいつ、気にしてたのか……!」
 デレクが笑い声の隙間から苦しそうに言うと、
「笑っちゃ、悪いよ……」
 サミーはそう返したけれど、こみ上げてくる笑いを抑えきれていない。なぜだか分からないが、ジョンもおかしくておかしくて仕方なくなってしまった。
 それにしても、トミーはしょっちゅう顔のことをディッキーにからかわれていたけれど(しかも、ディッキー自身は目を見張るほどの美少年だ)、それでも何だかんだ彼に対して優しい。トミーは不愛想で、料理の腕が良くて、そして良い奴なのだ。

 ひと通り笑い終えると、デレクがジョンの方を向く。
「お前は何かないのか?」
「ぼく?」
 はっとした。自分のことは全く考えていなかったのだ。何だろうか? ゆっくりと自分の心をなぞって探してみる。見つけたのは、紐で結ったプレゼントを持つ父と、その傍らで笑う母の姿だ。
「ぼくは――父さんと母さんに会いたいな」
 それを聞くと、またデレクとサミーは目を丸くした。
「お前まで物じゃないんだな」
 言葉とは裏腹に、デレクの目は優し気に緩んでいた。
「デレクは?」
 サミーが尋ねると、デレクの顔にふっと影さした。
「オレは――」
 そうしてちょっとの間、目を宙に泳がせてから、彼は答えた。
「いいリーダーになりたい」
 デレクの言葉に、なんだか胸に熱いものがつき上げてきた。
「デレクだって物じゃないじゃないか」
 ジョンが言うと、デレクもはっとして、それから声を上げて笑った。
「本当だ」

 結局、何も書き記すことなく終わってしまった。でも、デレクもジョンもサミーも、不思議と満たされたような気持ちになっていた。
 
(31)ビンセントの罪と野望

 みんなの願いを聞き終えてから、デレクとジョンはサミーと別れ、バード戦車長と連絡を取った。ビンセントと再び対決すると告げると、戦車長は詳しい説明も待たずに言った。
「分かった。待ってろ。今からそっちに行く」
 いつも気持ちの良い開けっ広げな話し方をするバード戦車長の声が、ジョンにはひどく落ち着いて聞こえた。なんとなく不吉な気持ちに駆られてしまう。もしかしたら……と脳裏を掠める。もしかしたらまた戦車長のところに犠牲が出たのかもしれない。

 小一時間もすると、熱に淀んだ空気をかき回すようなエンジン音が響いてきた。バード戦車長だ。明後日の計画を話し合っていたデレクとジョンは、はっと顔を見交わし頷き合った。急いでハッチから外へ出る。
 戦車長も、ちょうど顔を出したところだった。彼はブンブン音が鳴りそうなほど大きく手を振ってくれた。ちょっとだけ、さっきの不安が和らいでいく。
「昨日は大変だっただろう。みんな無事か?」
 顔を合わせてすぐ、バード戦車長はそう口にした。
「大丈夫です。ダンの他は、みんな怪我もありません」
 戦車長の目が、弓なりに細まる。機嫌よく、優しい笑顔だ。ジョンの気持ちもすっかりほぐれ、口角が上がっていく。
「戦車長の方は大丈夫? 誰か怪我したりしてませんか?」
 自然と言葉が出ていた。戦車長は相変わらず大らかな笑みを湛えて、
「ああ、平気だよ。それより、役に立てなくて本当にすまなかった」
 そんなことありません! と口を開きかけた時、デレクが応えてしまっていた。ものすごく事務的な口調で。
「別にいい。オレたちの計画がまずかったんだ。あんたのせいじゃない。それより――」
 彼は一度言葉を切って、少し視線を下げる。そして、ちょっと逡巡するように宙を見つめた後、再びバード戦車長と目を合わせて、
「またあんたに協力してもらいたいんだ」
 戦車長はきょとんとした。でも一瞬を置いて、声を上げて笑いだす。嫌な感じが一つもない、きっぷのいい大きな笑い方だ。
「改めてそんなこと言われるなんてな。もちろん協力はする。一度組んだんだ。最後まで付き合うよ」
 ジョンの気持ちを晴れやかにした笑顔は、しかし、そこで急にくもった。
「でもな、お前らビンセントって男をもう少し理解した方がいい。あいつは自分の思い通りにするためには、何でもする奴だ」
「そんなこと、分かってる」
 噛み付くようにデレクが言う。戦車長の目が鋭くなった。
「分かってねえから言ってんだ」
 彼は深く息を吸って吐き出し、表情をゆるめた。
「お前らは、あいつがどういう風にして今みたいになったか知らないだろう。だから『何でもする』ってことの意味が分からないんだよ。それに、もしかしたら弱点になるかもしれんことをな」
 急に呼び覚まされたような驚きに、ジョンとデレクはそろって目を見張った。デレクが食い付くように戦車長を見る。
「弱点なんて、あんのか?」
 バード戦車長は少したじろいだ。
「いや、『もしかしたら』って言っただろ。はっきり言い切れないが、可能性はある。まあ、オレの話を聞け」
 戦車長は確かめるように二人の顔を見た。そして、そこに肯定の意味を見つけたらしく、ゆっくりと話し始める。
「ビンセントは昔、掃除兵だったんだよ。オレとは歳も近いからな、同じ時期に働いてて、乗ってる戦車同士が戦うこともよくあった。だからお互いに相手のことは目にしていたし、オレの方は、友達ってわけじゃないが似たような境遇にいる同志みたいな気持ちを、なんとなく持ってた。でも、あいつにとっちゃ、オレなんかどうでも良かったんだ。奴が関心を持ってたのは、オレらの戦車の縄張り辺りで水を売り歩いてた孤児だった。ケンって名前の、オレやビンセントと同じくらいの子どもで、水の買い付けを任された掃除兵にはちょっと多めに水を分けてくれてな。おかげでその辺りの掃除兵はみんな水に飢えることがなかった。心根の優しい、いい奴だったよ」
 戦車長は一度口をつぐみ、小さな目をそっと伏せた。
「ケンは水売りの他に、体も売ってたらしくてな。そうやって、なんとか生きていけるだけ稼いでたんだ。でも中には、孤児なんていつ犯してもいいと思ってる連中もいた。まあ、ランディみたいな輩さ。そういう奴が、真昼間っからケンを犯そうとしたことがあってな。たまたまオレとビンセントは水を買いに行ってたんだ。恥ずかしいけどオレは体がすくんでしまってな、何にもせずに見てるしかできなかった。でもビンセントは――あいつは持ってた水入れ振り回して、大人相手に向かっていった。下手したら自分だって犯されかねない状況でな。でも、運よくその時のそいつは腰抜けで、ビンセントにぶん殴られて慌てて逃げてったよ。それがきっかけで、ビンセントとケンはどんどん親しくなってったらしくて、その内にこんな噂を聞いた。『ビンセントが水売りのケンと逃亡した』ってな」
 戦車長はまた話すのを止め、物憂げに視線をゆらゆらさせた。少年時代を、きっと辛かったであろう日々を漂っている戦車長の心をこの場へ引き戻すのがためらわれ、ジョンはじっと待った。しばらくすると、再び戦車長が話し始める。
「何か月も、ビンセントとケンの行方は分からなかった。だがある日、ビンセントが仲間を大勢引き連れて現れた。奴は自分が掃除兵として働いてた戦車を襲ったんだ。襲撃は成功、ビンセントはその戦車を乗っ取った。それで、仕事で外に出されたオレのところにやって来た。『仲間のならないか』って誘いにな。でも、オレはそんなことよりもケンのことが気になっちまって、聞いたんだ。そしたらあいつは『死んだ』って答えた。なんでだって聞いたら……あいつ、『オレが殺して喰った』って言いやがった」
 言いようのない、ざわざわとした恐怖が、ジョンの皮膚の上を這っていった。戦車長は大きく息をつき、かぶりを振った。
「そん時はオレもびっくりしちまって、当然誘いは断った。それで、長いことビンセントとは関わらないようにしてきた。今もできれば近寄りたくないって気持ちが、ちょっとはある。けどな、ケンとのことを聞いてから何年も経ってから、ビンセントが孤児を何人も拾って面倒見てるって話を聞いたんだ。それで、やっと気がついた。『あれ』はビンセントにとって生きるための最終手段だったんだって。本当はケンのことを殺したくなんて、まして食いたくなんて、なかったんだってな。でも、そうしなきゃならなかった。あいつには生き延びて叶えるべき野望があったんだよ。それで今、みんなが恐れて逆らえないくらいの男になったんだ」
 しん、と沈黙が耳の深くにまで届いてくる。そうやってどれほど経った頃か、デレクが口を開いた。
「じゃあ、弱点ってのはトミーのことか?」
 戦車長は頷いた。
「ああ。もし、あいつがちょっとでも情のあるところを見せるとしたら、相手はトミーだ。トミーの方だって、口にはしないが料理長の敵を取りたいだろうしな」
 ジョンは何と言ったらいいか分からず、俯いていた。野望があるからって、友達を、大切な友達を殺して食べるなんてどうしても信じられなくて、心の表面まで、ぞくりと粟立った。

「あと――」
 ジョンが足元へ視線を落としていると、デレクが口を開いた。
「妙なことがあったんだ。ビンセントに撃たれて頬を弾がかすったみたいなんだけど、その時、ビンセントは手に銃を持ってなかったんだ。どういうことか、あんたに分かるか?」
 バード戦車長は少し怪訝そうな顔をしたけれど、すぐに眉間を解いた。
「おそらく、不可視化膜だ。薄っぺらい布みたいなもんなんだけどな、表面が反射された光の経路を変える働きをするらしい。そうするとその膜の下にある物は見えなくなる。かなり高価だからな、普通は特定の職業の人間しか持ってないもんなんだが」
 バード戦車長は深く息をついた。
「確かに、戦闘に使えればかなり便利だな」
 戦車長は頭をちょっとかくと、「頑張れよ」と言って踵を返した。
 
(32)騙されたディッキー

 視察口から、じっと外へ目を凝らす。視線の先をゆっくりと進む三台の戦車は砂埃を巻き上げていて、キャタピラが黄味がかった雲をまとっているように見える。ちょうど午後七時。既に日は沈み、すぐにでも夜の帳が下りてくるはずの時間だった。砂色の戦車はバードさんの、それと対峙するひと回り大きなものはビンセントという人の戦車だ。そしてもう一台は……。ちょっとでもそのことを考えると、全身の毛が逆立ち、手が、そして心臓が小刻みに震え始める。ディッキーは視察口から離れた。
 目をつむり、ゆっくりと空気を肺に吸い込んで、吐き出す。何度か繰り返すと、恐怖に委縮していた体から変な力が抜けていった。もうあんなことはしたくない。落ち着かなくては。

     *****

 バードさんたちはビンセントの戦車と戦っている。少年たちではどうやっても、あの厳つく巨大な戦車には太刀打ちできない。けれど、バードさんたちだったら、打ち負かすのは無理でも、数時間なら持ち堪えられるはずだ。
 少年たちの相手はランディだ。大きさでは劣るが、ランディの戦車には掃除兵がいない。戦車砲でまともに応戦することはできないのだ。機銃の攻撃だけならば、もちろんこの戦車でも耐えられる。だから、なるべく早くランディたちを倒そうと話していた。そして――
 トミー、サミー、ビリーの三人でビンセントの戦車へ侵入する。戦車同士の撃ち合いでは、遅かれ早かれビンセントに軍配が上がるだろう。二台で対抗しても勝ち目があるとは思えない。デレクはそう言っていた。だから、トミーたち三人でビンセントの首を取りにいくのだ。
 ディッキーが真っ先に疑問に思ったのは、前の時、あれだけ反対されたサミーが、なぜ選ばれたのかということ。サミー自身同じように感じたらしく、デレクに尋ねていた。返ってきた答えは「不測の事態に対応できる奴がいた方が良い」というものだった。たぶん、この前の反省からということなのだろう。サミーがいれば、誰かが無鉄砲に突っ込んでいったり、パニックになって逃げ出したりしようとしたらすぐに止めて、何か新しい策を考えただろうから。
 もう一つ不思議なのは、なぜデレクではなくトミーなのか? けれど、周りの仲間たちが口々に「やっぱり」と言うのを耳にし、なんとなく分かった。ビンセントにやられそうになった少年たちの戦車を救ったのはトミーだったという話だ。それに、デレクはランディたちを何とかしたら、すぐに三人に合流するというから納得だ。

 ディッキーとダンは隠れているように言われていた。ランディはこの前のことで相当頭に来ているらしい。今回はその仕返しのために参戦しているというから、間違いなく狙われるのはダンだ。でも、まだ傷の癒えていないダンには、あの時みたいに戦うのは難しい。
 ディッキーだって、当然怒りを買っている。彼らの元から逃げて、反乱を起こそうとするグループの一員になっているのだから。対ランディのことで言えば、ディッキーとダンは非常に危険な状況なのだ。
 けれど、戦車内には一般民が避難するためのシェルターがいくつかある。デレクは、二人でその中の一つに隠れているように言ったのだ。「ダンと二人で」と聞いて、ディッキーは胸がどきりと緊張した。だが、同時に、これで仲直りできるかもしれない、という期待が木漏れ日のようにちらちらとしてもいた。
 
     *****

「おい」
 急に呼びかけられて、飛び上がりそうになった。とっさに目を開ける。ダンの冷たい視線にぶつかった。思いがけないことに、つい顔をそむけてしまう。
「お前、デレクとジョンがなんでここに残ってるか、分かってんのか?」
 質問の意図がつかめなかった。それで顔がくもったからか、ダンは素っ気ない口ぶりで答えを教えてきた。
「オレたちを見張ってんだよ。また、こないだみたいなヘマすると思われてんだ。なめやがって」
 ダンはイライラと息をついた。
「ムカつくから、お前、あいつら閉じ込めて来いよ」
 あまりに突飛な発言に、ディッキーは目を白黒させてしまった。
「でも……だって、そんなことしたら――」
「平気だ。この戦車がありゃ、オレ一人だって十分やれる」
 ダンのきっぱりした強い口調に気圧されて――いや、それ以上に、断ってまたダンを怒らせてしまうことが怖くて、ディッキーは首を横に振ることができなかった。

 ディッキーはダンに言われた通り「シェルターのドアが壊れた」と言ってデレクとジョンを呼び出した。
「でも、ぼく、昨日全部確認したよ」
 シェルターへ走りながら、ジョンは終始腑に落ちない様子だった。けれど、デレクは冷たい口調で突っぱねる。
「いいから、急ぐぞ」
 デレクが足を速め、ジョンとディッキーはハッとして後を追った。自分たちの足音が、反響しながら背後へ流れていく。
 一つ目のシェルターに着いた。
「ここはオレが見るから、ジョン、先に行ってもう一つを――」
「だめだ!」
 ディッキーが思わず声を上げると、デレクとジョンはそろって目を丸くした。慌てて頭をフル回転させ、理由を組み立てる。
「あの……本当にすごくおかしいんだ。二人で見た方がいいと思う」
 デレクは眉間を険しくし、乱暴なくらい強く息を吐き出すと、シェルターの中へ入った。ドアのロック部分を確認しながら、
「別におかしなところはないぞ」
「そんなことないよ」
 と言い、ディッキーはジョンの背中を軽く押す。
「ジョンも見てみて」
 ジョンは振り返り、訝しげに目を細めたけれど、言われた通りに確認しようと中へ。
 すかさず、ディッキーはシェルターのドアを閉めた。ピシャリと音がする直前、目を見開いてこちらへ手を伸ばすジョンの姿が見えた。だめだ、という気持ちが突き上げたが、手はそれを無視してロックボタンを押していた。これで中からは絶対に開けられない。ガコン、ガコン、と内側からドアを叩く音が響いてくる。胸がキリキリとした。大変なことをしているのだという自覚が身体中に染み広がり、もうじっとしていられなくなる。彼は背を向け全速力で走った。ドアを叩く音がどんどん遠のいていき、逆に耳の奥で脈打つ何かが、次第に強く、早くなっていった。
 
 元いた砲塔階に戻った。ディッキーは辺りを見回し、ダンを探す。けれど彼の姿は見当たらなかった。
「ダン」
 呼びかけてみる。その声は、一瞬響いた後、壁に吸い込まれるみたいに虚しくかき消えた。心を満たしていた罪悪感に、どろりと不安が降りてくる。どうにかしなければならないのに、どうしたらいいか全然分からなくて、目に涙が溜まってきた。
「ダン」
 もう一度呼んでみる。返事はない。でも、
「ディッキー」
 砲塔から一人の仲間が顔を出した。
「ダンだったら出てったよ。作戦が変わったんだって。お前に伝えとけって言われたんだ。『デレクとジョンを早く出してやれ』って。それで『お前はシェルターに一人で入ってろ』って。なあ、デレクとジョンがどうかしたのか? ダンは急いでたみたいだから聞けなかったんだけど……」
 脳が彼の言葉の意味をゆっくり咀嚼し、今のこの状況と照らし合わせていく。答えに近づくにつれて、胸で渦巻いていた不安が、やばいという焦りに変わっていく。頭に血がのぼる。
「ハメられた……」
 ディッキーは小さく呟くと、踵を返してシェルターへ走った。
 
(33)ダンの単独行動

 カンカンカンカン――。踵が硬い床を蹴る度に音が四方の壁にぶつかり、吹き抜けになった縦長の空間に反響する。敵戦車に潜入したダンは、砲塔階を目指していた。ランディがいるはずの場所だ。
 途中、誰かに見つかるかもしれないと危惧していたが、いざハッチからとびこんで周囲へ目を向けると、まるで寝静まったかのように、しんとした廊下が伸びていた。拍子抜けだ。ビンセントから間に合わせで貰った戦車らしいから、おそらく一般民はいないのだろう。加えて、ランディは侵入に備えて見張りをつなかったのだ。絶望的に間抜けだ。そう思うと、なぜか無性に腹が立った。拳銃を握る手と床を蹴る足に力が入る。カンカンカンカン――。より速く、大きく、足音が響いた。
 最上階に着いた。立ち止まると、心臓が自己主張するかのようにバクバクと鳴っているのが分かった。肩が大きく上下する。ダンは辺りへ視線を巡らし、耳をそばだてる。
 砲塔は彼らの戦車と同じく三つあり、その内の一つのから声が聞こえてきた。目をつむり、耳の奥に残っている胸くそ悪い、あの声と比べてみる。
 
 ――随分と潔いいじゃねえか。でもな、すぐには殺さねえ――
 
 二つの声がカチリと重なった。目を開ける。いる――。さっきまでより拳銃が硬く、冷たくなったような気がした。ダンは深く息を落とし、ドアを押した。
 二人の男が目に留まった瞬間、ダンの指は引き金を引いていた。
 バン、バン、と連続した破裂音が狭い空間を切る。一人の男は額から血を流して倒れ、もう一人は肩を抑えて体を縮めた。貧相な縮れ毛の男。あの時、下劣な笑みを浮かべながら近づいてきた、あの男。こいつだ。ダンは再び銃を構えた。
 が、撃つ前に首を衝撃が掠めた。とっさに振り返る。こちらへ銃を向ける男と視線がぶつかった。
 その途端、やはりダンの体は動いていた。相手の銃口が再び火をふく前に、目の前の男に狙いを定め、撃つ。額の真ん中に命中し、男はギョロリと目を剥いたまま前のめりに倒れた。胸に突き上げた緊張が下りていく。再びランディへ振り向く時、
 油断していた。
 拳銃を持つ手に強い衝撃があり、腕が後ろへはねあげられた。一瞬遅れて熱さが来る。指のつけ根から炎が噴き出しているみたいに、熱かった。顔が歪む。見ると、もう手には拳銃は握られておらず、中指を吹き飛ばされて、残酷なほど赤い血がとめどなく垂れ流れていた。鮮血に染まっていく手。恐怖が一気に四肢へ広がる。やばい――。
 そう認識した時には、ランディが迫ってきていた。
 何とかしねえと。考えねえと。
 でも、頭では何かがぐるぐるぐるぐる回っていて、思考は全て弾かれてしまう。何も考えられない。目の前までやってきたランディは、ニタリと笑った。黄色い歯と、歯茎が見える。背筋を蛆虫の群れが這っていくような悪寒。
「銃持ってなきゃ、他のガキと変わらねえな」
 声に続けて重さが来て、ダンの体は仰向けに倒される。目の前では、彼に馬乗りになったランディが手で銃を弄んでいた。
 殺される……。
 手がガタガタと震えた。怖くて、でも怖いことが悔しくて、そしてはっきりと知った。自分がこの屑みたいな男に命を奪われるのだと。ぎゅっと目をつぶる。心臓は死を受け入れまいとするみたいに胸で暴れ、反面、他の臓器はギリギリ縮んでその瞬間に備えていた。しかし――
 何も起こらない。どうして……? 肩透かしを食らったようになって、ダンがそっと目を開けると、
 視界いっぱいに、ランディの顔があった。
 おぞましさが突き上げてきた。胸が凍り、総毛立ち、体がすくむ。鼻と鼻がぶつかりそうなほど、顔を舐められそうなほど近くに、ランディが顔を寄せていたのだ。
「お前、よく見るとかわいいな」
 恐ろしいほどの嫌悪感が全身を駆け巡った。それに急き立てられたように、逃げようと手足が動く。しかし、ランディはガッチリとダンを押さえつけていて、身動きが取れない。
 痩せ萎びた体に宿っていた思いがけない力。あんなに見くびっていたのに、蔑んでいたのに、ダンはこの男に抵抗することすらできなかった。悔しさを通り越して、恥を感じる。なんとか、この状況をなんとかしたかった。がむしゃらになって、もがこうとする。でも、途方なく感じられるほどに、彼の力は押さえ込まれてしまっている。そのまま何秒か、もしかしたら何分かかもしれない時間が経ち、
 激痛が襲ってきた。悲鳴に近い声が上がり、眉間がぎゅっと縮む。訳が分からずなんとか目をこじ開けてみると、ランディがダンの撃たれた右手を握りしめていたのだ。
「あんまり暴れんじゃねえよ」
 ランディは涼しい声でそう言うと、さらに力を入れる。手がバラバラに砕かれるような痛み。それでもダンはぐっと歯を食いしばり、再び上がりそうになった声を抑えた。目の中に熱いものが湧いてきて、縁から溢れてしまう。でも、彼は目を背けず、精一杯の嫌悪を込めてランディを睨みつけた。
 ランディは嘲笑うように口元を歪めた。
「本当に生意気なガキだな」
 そしてダンの髪を掴んで頭の動きを封じると、乾いて、ささくれた唇を彼の唇に押し当ててきた。全身の肌が粟立つ。ダンの体は、またもがいていた。だが、すぐにランディは手に力を入れた。再び襲ってきた酷い痛みに、声が上がったが、それさえもランディの口の中で抑え込まれてしまう。
 逃げたい。
 生きなければとか、ランディを倒さなければとか、仲間の元に戻らなければとか、そういう義務とは別の、この男からとにかく解放されたいという気持ちがせり上がってくる。パニックになりそうだった。なんとか唇だけは引き離そうと顔を背けようとしたが、どうにもならない。
 けれど、視線を横へ向けた瞬間、頭の隅に残っていた一抹の理性が鋭く光った。キラリと灯を照り返す銃が目に飛び込んできたのだ。あれがあれば……。
 ダンの心は決まった。
 ランディが舌を口の中に突き入れてきた。口内をまさぐるように気色悪く動くそれを噛み切ってやりたくなったが、ぐっと堪える。その代わり、なんとか喋ろうと口を動かした。ランディの舌に自分の舌が触れてしまい、滑りとした感触に鳥肌が立つ。しかし、ランディはダンの様子の変化に気がついたらしく、口を離した。
「なんだよ、何か言いてえのか?」
 ダンは深く息をついて、腹に力を入れた。
「お前、どうせオレを犯す気なんだろ? やるなら早くやれよ」
 ランディは一瞬目を丸くしたが、すぐに声を上げて笑い出した。
「お前本当に大したガキだな。そんなにやって欲しいならやってやるよ」
 言い切らないうちに、ランディはダンの体の上を、後ろ向きに這っていった。ズボンに手がかけられる。急激に全身が熱くなり、手が震えた。顔の筋肉が勝手に動き、表情が歪む。けれど、これでいい。ダンはランディが自分の体を弄ぶのを感じ、突き上げてくる屈辱をなんとか振り払って、銃へ手を伸ばした。
 届かない。
 あと、こぶし一個分。腕にぐんと力を入れ、指先に神経を集中してなんとか掴み取ろうとしたが、どうしても僅かに足りない。くそ……。
 体の下の方では、ランディの手が下着の上から形を確かめるように這い回っていた。目に涙がこみ上げてくる。あと、ちょっとなのに――。
 嫌だ、という気持ちに駆り立てられて、ダンは体を起こした。その瞬間に殺されるかもしれないと分かっていたけれど、そうせずにはいられなかった。伸ばした指先を用心金に引っかけ、引き寄せる。そうしてすぐに、ランディへ銃を向け、引き金を引いた。
 パンッという破裂音が響く。
 夢中で、狙いをつける余裕すらなかった。でも、どこかに命中したらしく、ランディは呻き声をあげてうずくまった。すかさず、ダンはランディの持っていた銃を蹴り飛ばす。そうして、座ったまま後ずさってランディから離れると、怪我していない方の手でズボンを引き上げた。心臓がバクバクと鳴り、耳の奥で何かが脈打つ。息が上がって、肩が激しく上下する。頬がひきつり、口の中が乾いて、うまく喋れそうにない。けれど、彼はなんとか声を押し出した。
「殺してやる」
 頭頂部をダンに向けて震えていたランディの体が、ピタリと止まった。彼はゆっくりと顔を上げ、目に恐怖を映しながら、けれど口元に媚びるような笑みを浮かべる。
「マジになるなよ。お前があんまりかわいいから、ちょっとふざけたんだよ。でも、そんなに嫌だって言うなら――」
「違う」
 ダンはそう言って立ち上がった。
「お前、ディッキーに、あいつに、ずっとこんなことしてたんだな」
 言葉にすると余計に胸に来た。「こんなこと」じゃない。もっとだ。もっとずっと酷いことを、何人もの大人たちに、二ヶ月の間、毎日毎日され続けていたのだ。自分がその危機に立たされて、やっと、それがどういうことか分かった。目頭が熱くなってくる。
「お前が生きてたら、ディッキーが安心できない」
 そうなのだ。いくら広大な砂漠であっても、戦車同士は幾度となく出くわす。ランディが生きていれば、ディッキーはその度に、相手はランディたちかもしれない、またひどい虐待をされるのかもしれないという恐怖に苛まれるのだ。そんな風にはさせたくない。
 ダンは銃口をランディに向けた。
「後悔して死ね。お前がディッキーにしたことと――」
 そこで言葉につまった。口にするのが辛かった。ダンはぐっと息を飲んだ。そして、声を絞り出す。
「ザックにしたことを」
 ランディの眉間に疑問の気配が漂う。
「ザック?」
 それがランディの最後の言葉になった。ダンはランディの眉間を撃ち抜き、その目から生気が消える瞬間を見届けた。
 
 
(34)敵地へ

 踏みしめる床の硬さが足の裏から伝わって、心臓を冷たくする。ドクドクドクドクと鼓動が際立ってくる。ダンがランディと対峙する少し前、ビリーもトミー、サミーと共にビンセントの戦車へ乗り込んでいた。
 侵入してすぐに見つかると思っていた彼らは作戦を立てていた。トミーが敵を引きつけて、その隙にビリーとサミーが奥へ走る、と。けれど実際は――見張りは一人もおらず、廊下はまるで彼らを誘《いざな》うかのように悠然と伸びていた。
「来るなら来いってことかもね」
 サミーが言うと、トミーが「だろうな」と返す。
 ビリーはゾクリと首筋が寒くなった。そっと首から下げた小さな飾りに触れる。藁を馬の形に編んだ人形だ。デレクが出発前にお守りだと言って渡してくれた。おそらく、ビリーが内心怯えていることに気づいていたのだろう。藁の繊維のつるつるとした手触りに、なんとなく気持ちが解れていく。大丈夫だ。ひとりじゃないんだから。
 デレクやトミーの話から察するに、ビンセントはこっちの手の内を全て見透かしているような感じの奴なのだろう。少年たちが自分を狙ってくることも分かっているはずだ。それでも見張りを立てないのは、寄せ集めの子どもが何人で来ようと、簡単にねじ伏せられると確信しているからだ。そして、それは当たっているのだろう。たぶん。でも、きっと気づいていない。ビリーたちがはじめに狙うのはビンセントではないということまでは。
 
     *****
 
 決戦の前日、デレクはビリーたち三人に計画を告げた。
「うまく潜入したら人質になる奴を探すんだ。短く刈り込んだ金髪の子どもで、名前は確かルーク。ビリーより小さいから見つけりゃ簡単に捕まえられる」
 トミーが不満げに目を細める。
「そんなガキ一人、どうなったってビンセントは構わないんじゃねえのか?」
 ビリーが思ったことをなぞるような言葉。サミーも同意見らしく、ビリーへ目配せするとちょっと肩をすくめてみせた。けれどデレクは動じる素振りも見せずに続ける。
「構うさ。バードの話じゃ、ビンセントの奴、子どもの頃に飢えをしのぐために孤児の友だちを殺して食ったらしくてな。その罪滅しか、戦車を持ってからは孤児を拾っちゃ面倒見てるんだってよ。確かに、オレがあそこで使われてる時もそうだった。特にそのルークってガキには目ぇかけてるみたいだったから、多少の隙はできるはずだ」
 トミーの目が、さっきよりもさらに険しくなる。歪んだ眉間と引きつった頬に怒りの気配が見て取れた。
「てめぇ、それで自分じゃなくオレを選んだってわけか?」
「そうだ」
 全く悪びれず、涼しげに言ってのけるデレク。トミーは苦いものを噛んだみたいに不快そうな顔をした。
「本当に嫌な野郎だな」
 二人の間に漂っていた不穏な空気が一段と濃くなった。たまらず、ビリーは声を上げる。
「とにかくさ――」
 デレクとトミー、ついでにサミーが一斉に視線を向けてきた。ちょっとだけ怯んでしまった気持ちを立て直すように、声に力を入れる。
「ルークだっけ? そいつをとっ捕まえればいいんだろ? いい方法があって良かったじゃん」
「うん。問題はその子をすぐに見つけられるかどうかだね」
 サミーがビリーの言葉に乗ってくれた。彼はディッキーやダンと違って、空気が読めなかったり、読むことを放棄してきたりしないので、やりやすい。
 デレクは相変わらず落ち着いた調子で応える。
「孤児のほとんどは、戦闘中、銃に弾を装填したり、武器の付け替えを手伝ったりしてる。だから、十中八九、狙撃手のそばにいる」
「じゃあ、ハッチか視察口ってこと?」
 ビリーが言うと、デレクは口の端を少し上げてうなずく。
「戦車の造りは覚えてる。バードが修理した通信機を何台か分けてくれたから、一人一台持っていけ。そうすればオレが誘導できる」
 聞いているうちに、ビリーは恐怖に覆われていた気持ちがむくむくと起き上がってくるのを感じた。口元が笑みで歪んでくる。何とかなるかもしれない――。
 
     *****
 
 闇へ誘い込むような廊下をじっと見つめていると、
「デレクに繋ごう」
 サミーがそう言って通信機を取り出し、耳に当てた。ビリーとトミーは何も言わず、ただサミーを見つめる。目を伏せたままピクリともしない表情。数十秒が過ぎると、しかし、サミーの目に色が差した。
「デレク、正面のハッチから入れたよ。周りには誰もいない」
 しばしの間。サミーは何かを思い描くかのように、視線をやや上へ向け、時折うなずきながら通信機の向こうへ耳を傾けている。
(何話してんだよ?)
 ビリーは気持ちが急いてしまって、変に腹の底がむず痒くなってきた。
「手分けした方がいいよね?」
 サミーは尋ねると、再び全神経を耳に集中しているみたいな顔をした。
「分かったよ。何かあったら、また連絡する」
 彼が耳から端末機を離すと、ビリーは待ちきれずにせっついた。
「デレクは何だって? これからどうすんの?」
 返事の代わりに、サミーはちょっと口角を上げてみせ、それからトミーへ目配せした。
「トミーには上の階へ進んでほしいって。途中のハッチや視察口にも注意して、狙撃手がいれば倒せって。一番はじめの視察口は正面ハッチのすぐ上の階らしいから、そのフロアに着いたらデレクに連絡して」
 トミーは乱暴に息をつく。
「簡単に言ってくれるな」
 サミーは困ったように眉をひそめて笑い、ビリーの方を向く。
「ビリーはぼくと一緒に階下へ向かおう。一つ下のフロアにハッチが三つあるだけみたいだけど、ルークがいないか確かめる。狙撃手はなんとかするに越したことはないけど、無理はしなくていいって」
「オレには無理しろってことか」
 トミーが口を挟むと、サミーはまた苦笑いを浮かべた。
「信頼してるんだよ」
 どうだかな、と既に興味をなくしたようにトミーは呟き、腰から拳銃を抜いた。
「オレは行く。お前らも急げよ」
 そう言い残し、目線の高さに銃を構え、彼は廊下を歩いていった。
 
(35)ダンの怪我

 帰らねえと。
 ランディの遺体の前で座り込んでいたダンは立ち上がる。――が、途端に視界が暗くなり、浮遊感に襲われた。何も捕えない目の中で、闇が明滅する。
 くそ……。
 頭の中で悪態をつき、顔をうつむける。数秒が過ぎると、目の前に色が戻ってきた。よし、と思って足を踏み出すと、しかし、再び目眩がやってくる。
 やばい、動けない。
 自分の体の異変に気がついた時には、もうその場に蹲るしかなくなってしまっていた。遠くなっていく意識を、手の痛みがなんとかこの場に繋ぎ止めていた。
 
     *****
 
 戻ってきたディッキーがシェルターのドアを開けると、
「ダンはどうした?」
 間髪入れずにデレクが問いかけた。ディッキーは目を見張り、何か応えようとしたのか口を開けたけれど言葉は出なかった。ただ、緑色の大きな瞳が、瞬きを失った目の中でてらてらと光っている。
「いい。どけ」
 デレクはディッキーを押しのけ、廊下を走っていった。
「ディッキー」
 ジョンが呼びかけると、ディッキーは視線を落とし、震える声で言った。
「ダンがいなくなっちゃったんだ……」
 ジョンは息をついて、ディッキーの肩に手を置く。
「行先は分かってる。早くデレクの後を追おう」
 ディッキーは顔を上げ、再び瞠目して驚きを顕にしたが、決意の表情がそれを呑み込んだ。
「うん」
 二人は並んで駆けていった。
 
 ジョンがランディの戦車に入り込もうとハッチから身を乗り出した時、廊下を歩いてくるデレクの姿が見えた。ダンも連れている。ほっと緊張が解けると同時に、別の種類の不安に駆られた。
 デレクの肩へ腕を回し、支えられるダン。頭をぐったりと垂れ、足にはほとんど力が入らない様子だった。
「ダン!」
 思わず口にし、駆け寄った。もう片方の腕を自分の肩に回し、デレクと目配せしてから歩き出そうと前を向く。
 ディッキーと視線がかち合った。
 すっかり青ざめた顔の中で、やはり目だけがゆらゆら揺れる蝋燭の炎のように切なく際立っていた。
「ディッキー、邪魔――」
 言いかけたデレクを遮ったのはダンだ。
「ディッキー」
 掠れ声で言って顔を持ち上げる。
「ランディ、は……殺した、から、もう……大丈夫だ」
 ディッキーは、はっと目と口を開いた。それから下りてくる瞼とともに、悲しさとか痛みとかやり切れなさとか、そういう類の感情が差して、目の縁から涙が溢れた。
「ランディを殺しに行ったの?」
 ジョンの首元で、ダンが頷く気配がする。ディッキーはぎゅっと目をつむり、うつむいた。
「ディッキー、悪いけど、急がないとまずい。早く手当してやらないと――」
 デレクはできるだけ優しく言ったつもりなのだろうが、その口調には刺があった。ディッキーは、こくこくこくと何度も頷き、道を開ける。それから、戦車までデレクとジョンでダンを運び、その後ろをぐずぐず泣きながらディッキーが着いてきた。
 
「このままだとダンは死ぬ」
 戦車に戻ってダンをベッドに横たえた後、デレクはそっとジョンを外の部屋に連れ出していた。
「え!?」
 つい出てしまった大きな声に、しまった、と体をすくめてから、ジョンは声を低くして、
「どういうこと? 確かに手の傷は酷いけど致命傷には――」
「首だ」
 言い切るのも待たずにデレクは言う。
「オレが肩貸してた側だから、お前には見えてなかったんだろうけど、あいつ、首を撃たれてるんだ。かすっただけみたいだから、傷自体は深くはないけど、出血が酷い。場所が場所だからな、オレたちじゃ止血してやれない」
 胸がえぐられるように痛んだ。ザックという少年をみんなで弔った、あの時の光景が蘇ってくる。星明かりに照らし出された繊細な輪郭。星屑みたいにキラキラ輝くそばかすに、透き通るくらい綺麗なまつ毛。まだ幼く、だからこその美しさを宿していた彼は、それでもどうしようもなく死んでいて……。今度はダンがああなってしまうのか――。そんなのは嫌だ。絶対に。
「ぼく、ドクターを連れてくるよ」
 決意した瞬間、自分の声が聞こえた。デレクは迷いのない目で頷く。
「そうしてくれ。オレはトミーたちに合流しなきゃならない。一人で平気か?」
「大丈夫」
 ジョンもデレクを見つめ返し、首を縦に振った。
「ディッキーには黙っといた方がいい。また大騒ぎする」
「そうだね」
 お互いの表情に曇りのないことを確かめ合うと、二人は動き出した。
 
(36)トミーのやり方

 視察口の外へライフルを構える狙撃手。右頬を銃床につけ、照準器をじっと見つめている。背中は隙だらけだ。トミーは大きく息を吸って止め、拳銃を狙撃手へ向ける。照準器の凹部分に、銃把を握る右手を重ねる。右目に意識を集中すると、二重にぼやけていた標的が一つの像に集結していく。
 引き金を引いた。
 バンッという音の後、すぐさまトミーは走った。痛みを噛み殺すような呻き声。狙撃手は床に落ちたライフルへ手を伸ばす。
 遅い。
 トミーは彼の手の先からライフルを蹴り飛ばし、頭に拳銃を突き付ける。
「案内しろ。ルークってガキのいるところに」
「ルーク?」
 やけに上ずった声が返ってきた。虚勢を張り損ね、調子の外れてしまった口調だ。
「何のつもりだ? 奴はただのガキだぞ」
「てめぇに関係ねえだろ」
 そう言ってトミーは撃鉄を起こす。カチャ、という音が一瞬の沈黙へヒビを入れる。
「分かった、分かったよ。お前の言う通りにする」
 男の慌てた様子に少しほっとする。
「ルークは上だな?」
「ああ」
「歩け」
 男はそろりと立ち上がる。音を立てたら撃たれるとでも思っているみたいに。トミーは彼の背に銃口をピッタリとつけ、慎重に後に続いた。
 途中、蹴り飛ばしたライフルの側を通った。トミーは素早くそれを拾い上げ、弾を抜き取って捨てる。ガランッと音高い響きに男の肩がビクッと緊張する。足が止まる。
「念のためだ」
 トミーはそう言って、銃身でもって男の背を突いた。
 
 トミーは既に、正面ハッチの二階上にまで来ていた。階下でも、三人の狙撃手を倒している。最初こそ言われた通りにデレクへ連絡してみたが、もう懲り懲りだ。自分でそうしろと言っておきながら、彼は酷く不機嫌で、鬱陶しいと言わんばかりの態度だったのだ。何かあったのかもしれないと思ったが、不愉快なことに変わりはない。掃除兵だからという理由でなく、トミーはデレクとは全くそりが合わなかった。
 
 ルークの前に人質が取れたのは幸運だった。これなら相手を傷つけずにすむかもしれない。そう、たとえ敵であろうが無闇な殺しはできないのだ。それは料理長の教えだった。
 まだバード戦車長に拾われて間もない頃のことだ。突然厨房で働けと言われた彼に、料理長が真っ先に教えてくれたのは、料理ではなく「人を殺してはいけない」という倫理観だった。たぶん料理長は、バード戦車長から聞いていたのだ。トミーが追い剥ぎまがいの方法で金品を得ていたことを。そしてほとんどの相手を殺めていたことを。
 孤児だったトミーは、料理長に会うまでは誰からも何も教わることができなかった。ただ自分で生きるための術を見つけるしかなかった。ほとんど獣と同じだ。善悪の概念そのものがなく、生きるか死ぬかという二者択一が全てだった。そんな彼を、多少なりとも人間らしくしてくれた料理長の教えに、背くわけにはいかない。もう彼がこの世にいないなら尚更だ。
 
 前を歩く男を盾のようにし、ゆっくりと階段を上る。
「安心しろ。ルークをとっ捕まえたらお前に用はない。さっさと連れてってくれれば、それだけお前も早く解放されんだ」
 男の背中に安堵の気配は見えない。つ、と首筋に浮いた汗が垂れる。
「ビンセントが許してくれるとは思えないけどな」
「ビンセントをぶっ潰しに来たんだ。オレらが上手くできりゃ、殺されやしねえよ」
 階段を上りきって一つ上のフロアに着く。
「この階だ。右に進んで一つ目の視察口にいるはずだ」
「狙撃手は一人か?」
「ルーク一人だよ。狙撃手をランディんとこに分けてやったせいで、人数が足りなくてな。いつも装填手伝ってるガキの何人かは、狙撃手として視察口から外を狙ってる」
 好都合だ。想像していたよりも、はるかに順調に進んでいる。そう思い当たると――
 背に滲む汗を急に冷たく感じた。上手く行きすぎではないだろうか?
「あいつだ」
 男の声に、はっとなる。すぐに脳裏に浮かんでしまった懸念を振り払った。ここまで来たらやるしかねぇんだ。余計なことを考えんな――。
 やや離れたところに、その姿はあった。デレクの言葉通り、ブロンドを短髪にした少年だ。他の狙撃手と同じように視察口からライフルを構え、照準器越しに標的へ目を凝らしている。
「あいつ、お前なんか死んでも構わないとか、思ってねえよな?」
 男は自嘲気味に乾いた笑いを漏らした。
「大丈夫だよ。あいつは孤児にしちゃ珍しく気持ちの優しい奴だ」
 よし。トミーは深呼吸してから、しっかりとルークに目を据える。同時に胸に意を固めた。
「おい!」
 大きく張った自分の声が、狭い通路に反響し、空気を震わせながら走っていく。ルークがこちらを向いた。トミーは男を前に突き出し、つかつかつかと歩を進める。ルークの姿が次第に大きくなり、驚きに瞠目する表情も見て取れた。
「一緒に来い。こいつを殺されたくなかったらな」
 
(37)ジョンの勇気

 静かだ。
 ダンがランディを殺したため、少年たちの戦車の役目は終わっていた。本来ならばバードさんの手助けに行くべきなのだろうけれど、デレクもジョンもいないのでは、どうしようもない。ディッキーはと言うと……この状態のダンを放って戦車の指揮を執るなど、彼にできるわけがなかった。
 ダンの様子は明らかにおかしい。
 健康的な褐色のはずの肌は、どんどんどんどん土気色に変わっていく。唇からも赤みが消え、肌との境は縦に幾本か入ったすじからしか分からない。一方で、彼の横たわる白いシーツは真っ赤に染まっていく。本当に、眩しいくらいの赤色に。まるでダンの生命が漏れ出しているかのようだった。
「ダン……」
 喉がぎゅっと絞られて、ひどく情けない声になってしまった。
「大丈夫?」
 大丈夫なわけがない。けれど、それくらいしか言葉がなかった。ダンの閉じていた目が薄く開かれる。
「さむい……」
 寒い? 一瞬、聞き間違ったのかと思った。だがすぐに、目の前の血の気の失せた顔と寒いという言葉がカチリと繋がり、はっとした。
 寒いんだ。
 大量の血を失っているダンは、体温が極端に下がっているのだ。でも、この寝室には体に掛ける物も、羽織る物も、なさそうだった。
「分かった。何か持ってくる」
 ディッキーが椅子から立ち上がりかけると、
 腕を掴まれた。指一本一本の形が分かるくらいに冷たい。小さな驚きに振り返る。
「いい……ここに、いてくれよ」
 目に涙がこみ上げた。
「でも、寒いんだろ?」
 鼻の奥がつんとして、声がひっくり返ってしまった。
「いい」
 口ではそう言っていても、ダンの手は石みたいに、氷みたいに冷たい。
 どうしよう……。
 今すぐにダンの体を温めてやりたい。けれど、ずっと側にもいてやりたい。胸の中で二つの感情がせめぎ合って、どちらを捨ててもダンが辛い思いをするのだと思うと堪らなくて……。
 ディッキーは着ていたシャツを脱いでダンの体に掛けてやった。それで寒さが和らぐとは思わなかったが、そうせずにはいられなかった。それからそっと彼の体を起こすと、両腕を回して抱きしめた。やはりダンの体は冷えきっていて、全身の力がすっかり抜けてしまったみたいに、ぐったりしていた。
 早くしてよ、ジョン。
 泣きそうになりながら心で叫んだ。
 このままじゃ、ダンが死んじゃうよ。何してんだよ?
 
     ***** 
 
 濃紺の夜闇を、巨大な漆黒の塊が迫ってくる。暗い砂埃の陰を左右に巻き上げ、腹の座った様子で、着実に近づいてくる。時折、ピカリと閃光が放たれ、陰影の落ちた厳つい車体が顕になった。
 ジョンはバード戦車長の砂色の戦車の陰に身を潜め、飛び出す隙を窺っていた。けれど、何度試みても、ビンセントの戦車は彼の動きを見計らったかのように砲弾や弾丸を放ってくる。胸で心臓がこれでもかと言うほど暴れ、それだけで息が上がった。ぐっと生唾を呑み込み、目をつむり、呼吸を整える。落ち着くんだ、と自分に言い聞かせる。
 ぼくを狙ってる訳じゃない。砲弾を放った直後を狙って、ハッチまで走るんだ。
 頭で言葉にしているうちに、黒い戦車の砲が火を吹いた。バーンッという音と地響きにどきりとなって、思わず目を開ける。
 今だ――。
 そう思ったけれど、体は硬直して動かなかった。逃してしまった一瞬のチャンスの後、ダダダダダ、と機銃から銃弾が撃ち込まれる。
 しまった……。
 後悔しても、もう遅い。
 時間がないのに。
 切迫した気持ちに顔がひきつった。頭の中では、自分を責める言葉がぐるぐるぐるぐる回る。
 
 ダンの怪我はぼくの責任なんだ。あの時、最初の襲撃の時、ダン一人に戦わせてしまったのは、ぼくだ。デレクには否定されたけれど、それは紛れもない事実だ。そしてあれがなければ、今回の怪我だって、きっとしていない。
 それに――ディッキーのことだって。ぼくはディッキーが、いや彼だけじゃない。その前の子や、さらに前の同じ人買いの車で連れてこられたあの子が、ランディたちに暴行される様子を見ていた。一年間、ずっと。なのに、何もしなかった。ただ見て、デレクも同じようなひどい目にあっていないだろうかとか、あの子たちがかわいそうだとか思って、一人で勝手に傷ついたつもりになっていた。本当に傷ついていたのは、ぼくなんかじゃなかったのに。
 そうして、ふとサミーの言葉が脳裏を過ぎる。
 ――ぼくは他人の犠牲の上に悠々と座ってた。

 目に涙がじり寄ってくる。
 ぼくも同じだ。裕福ではなかったけれど優しい父と母に恵まれて、自分のわがままで掃除兵として戦車で働くようになっても、周りには親切な人ばかりで……。デレクも、トミーも、ディッキーも、ダンも、ビリーも、それにサミーだって、みんなそれぞれに辛い経験をしてきていて、そういうものを乗り越えて、乗り越えようとして、がんばっているのに、ぼくは――。
 そう思った時、急に体中の勇気が心の中心に集まってきた。
 ぼくだって頑張って、この窮地を乗り越えなくちゃ。そうすれば、ダンを助けられるはずなんだ。
 彼は銃弾の飛び交う中へ目をやる。撃ち合う二台の間を、雨のように弾が打ち付ける。怖気がせり上がって来そうになって、ジョンは何度か深呼吸した。目をつむり、自身の心を見つめ、勇気の存在を確かめる。
 ダンを助けるんだ。
 決意を胸に、ジョンは飛び出した。
 
(38)ビンセントという人間

 トミーは最上階を目指していた。まだ十歳そこそこの少年の頭に銃を突きつけて。
 ルークという名のこの少年は、いくら聞いてもビンセントの居場所を吐かなかった。子どもらしいひたむきさで、彼はビンセントへの忠誠を誓っているのだ。幸いだったのははじめに人質にとったあの男が、仲間の安全より自分の命を優先するくらいには汚れていたことだ。彼の話によれば、ビンセントは最上階の戦車長用視察口から指示を出しているらしい。
 
「ビンセントを殺すつもりなのか?」
 前を向き、歩を進めたまま、ルークが背後のトミーに話しかけてきた。
「そうだ」
「返り討ちに合うに決まってる」
 胸に引っかかっていた疑念を裏打ちするような言葉。トミーは胃にぐっと重いものを感じた。
「てめぇはビンセントに気に入られてるっていうから、人質にしたんぞ」
 ルークは顔をまっすぐ前に向けたままだったけれど、僅かに歩調が乱れた。
「良くはしてもらってる。でも、ビンセントは誰に対しても平等だ」
「みんなに良くしてるってのか?」
「そうだ。信用も信頼もできる奴ならな。エドにも良くしてやってたけど、あいつは自分の命のために、あんたにビンセントを売った。そういう奴をビンセントは許さない」
 妙に腑に落ちる話だった。あの時、ビンセントがトミーを捕らえた時、なぜ殺されなかったのか、なんとなく分かった。ビンセントというのは自分なりのルールを持った男なのだ。そのルールに見合った行いをする者はそれなりに扱うし、そうでない者に情はかけない。誰もに同じルールを適用するという意味では、誰に対しても親身で、同時に残酷なのだ。
「じゃあ、お前を人質にしても他の奴と大差ないってことか?」
「そうだよ。いくら良くしてくれたって、それとこれとは別だ。ビンセントは特別扱いなんてしない。必要があれば誰だって見捨てるし、はじめからみんなにそう話してる」
「なら、なんでデレクの野郎はお前のことを『特別』だと思ったんだ?」
 答えは返ってこなかった。バラバラのリズムで床を叩く靴音が、いやに耳につく。汗で湿った金髪の後頭部には無言の気配が漂っていた。だが、
「ただの勘違いだ。オレは特別なんかじゃない」
 トミーは深く息をついた。
「ああ、そうか」
 どういうことかは分からなかったが、これ以上聞いても何も出てきそうにない。それならば、とトミーは別の話をすることにした。
「でかくなり過ぎた掃除兵は、殺して臓器を売っちまうんだろ?」
 ビンセントがどういう人間なのか、もう少し探ろうと思ったのだ。そうすれば仮にルークが使えなかったとしても、何か手立てが見つかるかもしれない。
「そういうこともあるけど、」
 再び話し始めたルークの口調は、ちょっとだけ軽くなっていた。
「――でも、それは仕方がない時だけだ。それに掃除兵に限ったことじゃない。裏切り者とか治る見込みのない怪我した奴を殺して、臓器を売る。でも、そうやって殺した奴は、そいつがどんな奴でもちゃんと葬ってやるよ」
「ランディとかいう野郎とは違うわけだ」
 そこで初めてルークは振り返った。眉が険しく歪み、目には怒りが鋭く光っていた。
「あんなクズとビンセントを一緒にするな」
「歩け」
 トミーが言うと、ルークは眉間を不快そうに寄せたまま前を向く。
「ビンセントはあいつを嫌ってる。今は利用できるから生かしとくけど、用が済んだらすぐ殺すって言ってた」
「気に入らなきゃいくらでも殺していいと思ってやがんだな。それだって王様気取りのクズじゃねえか」
 ルークの足が止まる。俯いて頭が前に傾くと、うなじ辺りの細い髪にできた汗の玉がきらきらと光った。
「勝手に言ってろよ。ビンセントはお前のことだってすぐに殺す。あの人は――あの人には、人を殺すだけの理由があるんだ」
「他人を殺すのに理由もクソもあるか。それが偉そうだって言ってんだよ。いいから歩け」
 言われた通り、ルークは歩き始めたが、気分を害したのかそれからは何を聞いても答えなかった。
 
 砲塔階へ続く階段に差し掛かる。
「上には何人いる?」
 トミーが尋ねると、ルークは乾いた笑いを漏らした。
「教えるわけないだろ」
 ルークの頭へ突きつける拳銃に、ぐっと力を入れる。頭がカクリと前に傾いた。
「お前、この状況分かって言ってんのか?」
「今オレを殺したら、人質にとった意味、ないだろ?」
 トミーは銃口でルークの後頭部を下へなぞる。
「別に殺す必要なんてねえよ――」
 うなじまで来ていた銃口の進路を変え、耳下へ滑らせた。
「耳を吹き飛ばすとか」
 銃身の先は、ルークの首筋や耳元に浮いた汗で濡れ、キラリと明かりを照り返している。しかし、緊張や恐怖で張り詰めているだろうルークの声は、平静さを失っていなかった。
「撃てるもんなら撃ってみろよ。その瞬間、お前を撃ちに大勢が降りてくる」
 肝の座ったガキだ。それに頭も悪くない。トミーは少し嬉しくなった。誰の力も借りず、砂漠を自力で生き抜いてきた本物の孤児はそういうものだと、知っていたから。それに、彼ならビンセントも気に入りそうだった。こいつは十歳そこそこで殺していい奴じゃない。
「負けたよ。のぼれ」
 トミーが言うと、ルークは無言で階段をのぼり始めた。
 
 予期せぬ自体が待ち受けているなんて、この時のトミーには知る由もなかった。
 
(39)ビンセントからの歓迎

 トミーは気がついた。
 まだ見えてこない階段を登り切った先。そこから流れてくる空気には、衣服が擦れ、靴底が床を叩き、銃と思しき金属がキィンと冷たくぶつかる音、音、音が混じっているのだ。誰かいる。しかも複数だ。トミーはルークの襟ぐりの後ろを引っ掴み、乱暴に引き寄せた。懐に飛び込んだ彼のこめかみに銃口を当てる。
「このまま行くぞ」
 ルークの耳元へ口を寄せて囁く。柔らかい髪が触れ、頬が僅かに濡れる。ゆっくりと階段を上へ進む。
 次第に近づく人の気配。低めた話し声。一歩一歩段差を踏みしめる度に、濃くなるざわつきが耳の奥へと潜り込む。
 上るにつれて、視界の中の最上段は下がっていく。徐々に向こう側の様子があらわになる。トミーは拳銃をぐっと握った。男たちの頭の先が見えると、次の一歩で彼らの顔が現れた。いくつもの目が、はっきりとトミーを捕らえる。彼らは驚いた素振りも見せず、銃口を向けてきた。トミーは意識の全部を胸にかき集め、睨み返す。自然と手に力が入り、どこか痛んだのかルークが身じろいだのが分かった。
「こっちには、てめぇらの仲間のガキがいる!」
 慎重に歩を進めながら、声を張る。男たちの表情に戸惑いの気配が過ぎる。
 よし、いいぞ。
 しかし、
「そいつはまずいな」
 聞き覚えのある野太い声は、言葉とは裏腹にひどいくらいに落ち着いていた。ぞわりと総毛立つ。
「予定が狂っちまう。これじゃあ、おあいこだな」
 おあいこ? そう思った直後、ぐんと一段上ると、ビンセントの脇に立つ男が二人の少年を捕まえているのが目に飛び込んだ。サミーとビリーだ。
 あのバカども、捕まりやがったのか……!
 すぐにサミーと目が合う。彼はいかにも申し訳なさそうに、眉を八の字になるほど下げている。隣のビリーは何も見まいとするみたいに、頑なに下を向いていた。
「さて、この後はどうするんだ?」
 ビンセントは相変わらず平然とした様子で話す。まるで今晩の夕食のメニューでも相談するかのような口ぶりだ。
「どっちにも人質がいるんじゃあ、撃ち合いなんてできないしなぁ。少し話でもするか? オレは話すのが好きなんだよ。付き合ってくれるだろ?」
 彼の穏やかな口調には、蛇のような狡猾さが潜んでいそうで、かえって不安を掻き立てられる。それを悟られまいとしたのか、自然と返す声に凄味がかかった。
「何企んでやがる?」
 ビンセントの大きな笑い声が響き、四方を囲む金属の壁がキィンと嫌な音を立てて震えた。
「随分喧嘩腰だな。別に何も企んでない。言っただろう? 話がしたいだけだ」
 そうして、仲間たちへ向けて言った。
「聞いたな? オレはこいつらと話してくる。お前らは、中の奴らと一緒にバードの相手をしてろ。あいつはなかなかの腕だ。見くびるんじゃねぇぞ」
「こいつらはどうする?」
 サミーたちを掴む男が困惑気味に尋ねた。
「オレが連れてく」
 その瞬間、ビリーの肩が、外から見て分かるほど、びくりと強ばった。
 トミーは拳銃を持つ手にぐっと力を込める。もし怯えたビリーが逃げようとしたら、間違いなく殺される。息を詰めて見守る。けれど、ビリーはさっきよりも深く顔をうつむけただけだった。
 
     *****
  
 ビンセントに連れられて、トミーたちは砲塔の一つ下の階へやって来ていた。彼に続き、階段のすぐ横にある部屋へ入る。いくつかのソファと小テーブルが並んだ談話スペースのようだった。
「適当にかけろ」
 ビンセントはサミーとビリーから手を離すと、近くのソファにどかりと座った。
「何か食いたかったら、そこに菓子類が入ってるはずだ」
 ビンセントが部屋の隅の戸棚を指し示して言っても、誰も動かなかった。立ち尽くす少年たちを見て、ビンセントは声を上げて笑う。腹の底まで響いてきそうな声だ。
「おい、チビ」
 ビリーの体がビクリと跳ねた。比喩ではない。少しだけだが、本当に飛び上がったのだ。またビンセントは笑った。
「そこの戸棚から好きな菓子を持ってきて、真ん中のテーブルに置いてくれ。みんなの手が届くようにしないとな」
 ビリーはナイフで脅されでもしたかのように青ざめたが、そろりそろりと戸棚へ向かい菓子を持ってきた。彼が好きなのかどうかは甚だ疑問だが、乾燥させた何かの実を飾った棒状の焼き菓子だった。
 突っ立ったまま、テーブルに置かれた焼き菓子をじっと見つめる少年たち。トミーに捕まえられたルークだけが、呆れたと言わんばかりに天井を仰いでいた。
「食べないのか?」
 ビンセントに聞かれ、トミーは唇を噛んで目を細めた。一体何なんだ? この野郎は。
「ぼくは……いただきます」
 サミーのか細い声がした。トミーは思わず彼へ振り向いてしまう。ビリーもぎょっとしたように目を見張ってサミーを見ていた。
 サミーが小刻みに震える指で焼き菓子をつまみ上げ、サクリと齧る。ビンセントはその様子をじっと目で追っていた。獲物を狙う鷹のようにトミーの目には映った。
「うまいか?」
 サミーは頷く。口角が少し上がったけれど、顔の筋肉が強ばっているためか、上手く笑顔にならなかった。それでも、サミーはビンセントとの会話を続けようとしているらしかった。
「あの……これはあなたの所のコックさんが作ったんですか?」
 ビンセントは頬を緩めた。
「ああ、なかなか腕のいいのがいてな。ガキが多いから偶に褒美としてうまいもの食わせられるように、作らせてんだ」
「トミーもコックなんですよ」
 サミーはそう言ってトミーに目配せしてきた。なんだか癇に障り、眉間が変に力む。睨めつけると、しかし、サミーは意味ありげに頷いて見せた。
「ほう、お前、掃除兵じゃないのか」
 そこで、トミーは気づいた。サミーはトミーが孤児であることを伝えて同情を買うという、デレクの考えに乗るつもりなのだ。腹の底にフツフツと熱いものが沸いてきた。
「トミーはバードさんのところで見習いコックとして働いていたんです。その前は――」
「なるほど……」
 ビンセントが考え込むように、顎を擦りながら言った。
「バードが何年か前に孤児を拾ったって聞いたことがある。縄張りに入った連中を片っ端から襲って身ぐるみ剥がすって噂になってたクソガキだったが……お前のことか」
 銃を手にしたままの拳。ぐっと握り込むと、鉄の硬さが伝わってきた。
「奇遇だな。オレもちょうど、昔知ってた孤児の話をするつもりだったんだ」
 
(40)償い

 室内の気配はひどく強ばり、僅かな音を立てることさえはばかられた。きっとビンセントは、生き延びるために喰ったという友人の話をしようとしているのだ。トミーは、そしておそらくはサミーとビリーも、息を詰めてビンセントを見つめた。
 
「あれは何年前になるかな。もう三十年以上経ってるはずだ。オレは十を少し過ぎたくらいのガキだった。その頃は掃除兵として働いててな。毎日毎日、砂や煤にまみれて、大人たちに小突かれて、ろくに飯にも水にもありつけなくて、そんな生活を送ってたよ。
 それでも、オレがなんとか生きていられたのは水売りの孤児、ケンがいたからだ。孤児っていうと、狂犬みたいな野郎ばっかだけどな、奴は違った。戦車の大人に言われてオレが水を買いに行くと、あいつはオレが飲めるように必ずちょっと多めにくれてな。それに捕まえた獲物や、村で買った食い物を少し残しておいて、分けてくれることもあった。オレだけにじゃない。水を買いに来る掃除兵みんなにそうしてた。
 人間ってのは育った環境で変わるというが、それは違う。本当に心根の優しい奴ってのはいるもんだ。ケンはそういう奴だった」
 ビンセントが深く落とした息で、他のあらゆる息遣いが遠のく感じがした。部屋を満たす空虚さにするりと入り込むように、再び彼の声が語り始める。
「オレはケンのことが好きだった。誰よりいい奴だったからな。だからだったんだろうな、ある日、水を買いに行った時、たまたまあいつが襲われそうになってるとこに出くわして、オレは何も考えず向かっていった。それであいつを犯そうとしてたクソ野郎を追い払った。ケンは何度も何度も礼を言ったよ。あんなの、あいつがオレにしてくれてたことに比べれば何でもなかったのにな。とにかく、それがきっかけで、オレとケンはそれまでよりもずっと親しくなった」
 ビンセントの話は、また途切れた。言葉を重ねるごとに増していた寂寥感にはっきりと意識を捕えられる。それが嫌で、トミーは顔をうつむけた。
「そのうちに、オレは考えるようになった。大人にこき使われて、体力も精神もすり減って、そのまま戦闘の流れ弾に当たっていつ死ぬともしれない生活を続けるより、逃げちまった方がいいんじゃないか、ってな。ケンと一緒に。砂漠で生き抜く術を心得たあいつがいれば、きっと上手くいく。それに、あいつがまた犯されそうになったら、オレは何度だって助けてやる。絶対にそれがいい。オレにとっても、ケンにとっても。その時はそうとしか思えなかった」
 ビンセントは枯葉みたいに乾いた笑い声を上げた。
「バカだったんだよ、オレは。二人で自由に生きていけるんだって、妙な夢を見てたんだ。
 オレはケンに、その話を持ちかけた。今から思えば、あいつは気づいてたんだろう。そんなの無理だってな。でも優しいやつだから、そうは言えなかったんだ。
 とにかく、それでオレとケンは二人で逃げた。最高の気分だったよ。どんなことでもできそうな気がした。けどな、そんなくだらない夢に浸っていられたのは一瞬だった。
 ケンは戦車に水を売れなくなった。そんなことしたら、オレはすぐにとっ捕まっちまうからな。そのせいで、戦車の後ろ盾がなくなった。その時は知らなかったが、水売りのガキってのは、安く水を売る代わりに戦車からの庇護を受けてたんだよ。だから、襲われて水を奪われることがなかったんだ。でも、戦車に水を売れないんじゃあ、そんな庇護は受けられない。すぐにオレらは水を奪われた。金も手に入らなくなったオレらは、何日もひどい渇きと飢えに苦しんだよ。たまにケンが蛇や蠍《サソリ》を捕まえてくれたが、そんなんで腹がふくれるわけもない。そのうち、まともに考えられなくなったオレは、とにかくでかい獲物を捕まえようと考えた。近くをうろついてたコヨーテを殺して食おうと思ったんだ。逆に食われるに決まってるのにな。それでオレはある日、持ってた小せぇナイフでもってコヨーテを襲おうとした。当然、敵わない。食い殺されそうになったオレを、追いかけてきたケンが助けてくれた。オレをかばって噛み付かれたが、ナイフでコヨーテの目を潰してな、コヨーテは逃げてったよ」
 ビンセントは何もない宙をじっと見つめていた。目はつい先刻までの恐ろしいビンセントからは考えられないほど穏やかで、それでいて悲しげな光が湛えられていた。
「ケンは食い殺されはしなかったが、噛まれた傷がひどくてな。何とかしたかったが、その時のオレには手当の仕方も分からなかった。それで、ケンはオレに言ったんだ。自分を殺して食べればいいってな。そんなことできないと答えても、あいつは譲らなかった。この傷じゃあ自分はそのうち死ぬ。それなら、お前が生き延びた方がいい。そう言ってな。それで――」
 ビンセントの声が、急に詰まった。一瞬の、けれど全身を冷たくするような沈黙が落ちてきた。
「オレはケンを殺して食った。そうするしかなかった。でもな、後にも先にも、あんなに不味いものはなかった。ひどかったよ、本当にな。でも、オレはなんとかそれで生き延びた。だから決めたんだよ。せっかくケンに貰った命を無駄にはしねえって。世の中を変えるくらいでかい人間になってやろうってな。そのために必要なら、誰のことだって殺す。そうじゃなきゃ、ケンに申し訳が立たない。生きるためにあいつを殺したことを考えれば、似たような目的のために他の奴を殺すのは当然だし、屁とも思わねえ。たとえ相手がガキでもな」
 ビンセントの目元に鋭い敵意が現れた。彼は憎悪に凍ったままの目をビリーへ向けた。
「ランディとお前らが戦った時、一人逃げたらしいな。元々ランディのとこにいたチビだって話だが、お前か?」
 ビリーはすっかり恐怖で固まってしまったらしく、数秒、肯定も否定もせず、瞬きすら忘れて立ち尽くしていた。けれど、ふと我に帰り、慌てた様子で首を振った。ビンセントは、しばし、ビリーを凝視してから表情を緩めた。
「そうだな、お前は体に目立った傷跡もないし、ランディの野郎の好みからは外れそうだ。もしそいつだったらすぐに殺してやろうと思――」
「ふざけんな」
 遮られたビンセントは、ゆっくりと首を回して声の主――トミーを見た。
「なんか気に障ること言っちまったか?」
 飄々とした態度が頭に来た。トミーの眉間は嫌悪に歪む。
「ケンって野郎が気の毒だ。死んだ後まで、てめぇが気に入らない野郎を殺す言い訳にされてんだからな。それに、てめぇは何でも分かったような振りしてやがるが、何にも分かってねぇ。ディッキーはあの変態野郎にヤリ殺されるくらいにボロボロにされてたんだ。それを何でもねぇことみたいに言いやがって。てめぇはディッキーみたいな仕打ち、受けなさたことねぇんだろうが」
「自分はあるみたいな言い方だな」
 そこでビンセントは何か閃いたように目を光らせ、そして笑った。
「そうか、お前、孤児だったんだっけな。それなら犯されたことがあっても不思議じゃない。図星だろ?」
 悔しさと羞恥で体が一気に熱くなった。ぐっと拳を握ると、汗ばんだ手の中で銃が、ぐぐぐ、と滑っていく。
「そうか、そりゃあ随分と無神経なことを言っちまったなぁ」
 ビンセントの嘲るような口ぶりが、胸の古傷を抉った。こんな奴にこんなことを言われる筋合いはない。そう思った時、サミーが声を上げた。
「もうやめてください! 一体、何が狙いなんですか? 殺す気ならいつだって殺せるのに、わざわざぼくたちに自分の話をして、動揺させて、傷つけて、どうしようっていうんですか?」
 今度はサミーへ振り向き、ビンセントは話す。
「言っただろう? オレは話がしたいだけだ。ケンのことはな、よくいろんな奴に話してんだよ。今のオレには怖いものなんてほとんどないが、でも、ケンのことを忘れるのは怖い。あの時のいろんな感情が風化してっちまうことが、オレは怖いんだよ。だから機会があれば話すようにしてんだ。でも、オレだけこんな打ち明け話すんのもおかしいだろう。お前たちの話も聞きたいんだよ」
 それから、ビンセントは再びにたりと口角を吊り上げた。
「お前も何かありそうだな。さっき、そこの孤児のガキのこと話してた時、お前、嫌そうな顔してやがったよな? 縄張りに入った奴は手当り次第に身ぐるみ剥がしてたって噂だったとオレが言った時だ。なんて言うか、悔しそうな、怒ってそうな、そんな顔じゃなかったか?」
 瞬時に、サミーの表情から色が失せた。
「そんなことないです」
「嘘つくんじゃねぇ」
 ビンセントの声に凄味がかかった。
「オレは目が良いのが自慢なんだよ。大抵のことは見逃さないし、見間違うこともほとんどない。それに嘘つきは大嫌いだ」
 ビンセントは初めて腰から拳銃を抜くと、サミーへ向けた。
「話せ。正直にな」
 
(41)決着

 吸い込まれそうな程暗くて丸い穴が、じっと自分を見つめている。心まで見透かされそうな気持ちになって、サミーは顔を背けた。けれど、ビンセントはそれを許さなかった。
「オレは気は長いほうだが今は急ぐんだよ。バードたちのこともあるしな。早く話せ」
 カチリ。撃鉄を起こす音がする。全身の肌が粟立った。
「あの……」
 声を出すと、途端に視線を感じた。トミーの。心臓が早鐘を打つ。話すしかない。そう分かってはいたが、決心がつかずに心は覚束無く揺れた。しかし、ぐっと息を飲んでなんとか意を固める。
「ぼくは、それなりに裕福な家庭に生まれました。でも両親はぼくが赤ん坊の時に死んでしまって、叔父夫婦に育てられたんです」
 そこまで話すと、サミーは一度言葉を切る。どう話せば良いのだろう? 思案しても答えは見つからなかった。仕方なく、しっかりと固まらないままの不完全な言葉を、ポロポロとこぼしていく。
「両親は……殺されたんです。追い剥ぎに。……でも、それをすごく恨んでるとか、そういうんじゃなくて……。分かってるんです。悪いのは両親を殺した人たちじゃないって。悪いのは……そういう風にしなくちゃ生きていけない人たちがいるってことなんです。だからぼくは――」
「オレは嘘つきは嫌いだと言わなかったか?」
 はっとしてビンセントを見ると、彼は先程ビリーに向けた何倍もの嫌悪を込めてサミーを睨《ね》めつけていた。
「だったら、さっきのはなんだ? 親を殺した連中を恨んでるから、そこの孤児のガキのやってたことが許せなかったんじゃねえのか?」
「違います!」
 叫ぶと同時に、パンッ、と爆音が響き、サミーは思わず目を瞑った。殺気を帯びた風が頬をかすめる。一寸遅れて、幾本も細い糸のようなものがパラパラと肩へ落ちてきた。ゆっくりと頭が今起こったことを咀嚼していく。そして、はたと気がついた。
 銃弾がぼくのすぐそこをかすめ通っていった。
 冷たい恐怖が心臓を鷲掴みにした。そっと目を開けると、ビンセントはまだこちらへ銃を向けていた。が、トミーもまた、ビンセントに向かって銃を構えている。
「てめえ、次やったらぶっ殺すぞ」
 ビンセントは声を上げて笑った。
「殺すんだったらやる前が良くないか?」
 そうして彼は銃を下ろし、トミーへ振り向く。
「別にいいぞ。撃ってみろ。そうすりゃ、この嘘つきのガキが殺される心配もない」
 トミーは鼻柱にまで皺を寄せてビンセントを睨みつけている。
「やってやるよ」
 すると――ルークがトミーの腕を払い上げた。パンッと銃弾が頭上へ放たれる。
「このガキ……!」
 トミーはルークの頭へ肘を打ち下ろした。鈍い音と共に、ルークはその場へ倒れる。
「それ以上そいつに手ぇ出すなよ」
 ビンセントは銃をトミーへ向けていた。
「やらねえよ」
 トミーは怯える素振りも見せず、ビンセントへ向き直る。
「よし、とりあえず銃を放って寄越せ。どうせお前、撃てやしねえだろ」
「は?」
 トミーが喧嘩腰に声を荒らげた。
「何言ってやがる。オレはお前なんか――」
「撃てるなら今撃ってただろ。お前、銃の腕は大したもんだ。本気だったらルークに邪魔されたくらいで撃ち損ねたりしてねぇ」
 ビンセントは心を見抜こうとするみたいに、トミーを見つめた。
「ランディとやり合ったガキを見習うんだな。お前より随分と小せぇらしいが、そいつは一人で四人殺したんだろ? 銃の腕の問題じゃない。そのガキには殺《や》る気があった。お前にはない。できるのにやらない。とんだ腰抜けだ。お前だったら、まだあのデレクの方が見込みがある」
「本当にお喋りな野郎――」
 トミーが言いかけたその時、再び銃声が響いた。物凄い早撃ちだ。パンッという音と共に、トミーの右手から銃が離れる。トミーは右手を反対の手で庇った。指の隙間から幾筋も糸のように血が垂れ流れた。方頬がひきつり、目元が歪んでいる。
「お喋りは終わりだ」
 ビンセントの声は静かだけれど、耳の底に響いてくる。サミーはぐっと拳を握った。
 甘かった。トミーが孤児だからといって、ビンセントは同情などしないのだ。
「やめてください」
 声が震えた。でも、そう言う他になかった。サミーはこの間まで銃器を持ったことすらなかったのだ。銃を向けたところで、ビンセントの早撃ちに敵うはずがない。それに――そもそも彼には、誰かへ向けて銃を放つ自分など、想像がつかなかった。
「そうだな」
 ビンセントはそう言って銃を下ろした。
「最後はお前には譲ってやらなきゃな」
 え? 虚を突かれた。一体何を言っているんだ?
 ビンセントはゆっくり首を回して、その視線でサミーを捕まえた。
「銃は持ってるな? 出せ」
 嫌な予感が背筋を、つー、と這い登る。
「さっさとしろ」
 ビンセントの目には、有無を言わさぬ凄味があった。気圧されて、サミーはそろそろと銃を抜く。冷たくて硬い鉄の塊。ビンセントへ目を向けると、彼は満足気に頷き、狡猾そうな笑みを口元に浮かべる。
「よし、もう分かってるな? 親の仇《かたき》を打つんだ。あのガキを殺せ」
 心に過ぎった恐怖とビンセントの言葉が重なった。目頭に熱さがじり寄ってくる。
「そんなこと、できません……!」
 鼻にかかった声が上がる。
「ぼくは誰のことも恨んでなんかいないんです。それにトミーは仇《かたき》なんかじゃない。両親が死んだのは、ぼくが赤ん坊の頃なんだ。トミーなわけが――」
「そういうことじゃねえだろ」
 ビンセントの声は落ち着いていて、あまりに落ち着き払っていて、非情だった。
「お前の親を殺した連中と同じことを、このガキはやってた。問題はそこだ。つまりな、こいつがお前の親を殺さなかったのは、たまたま生まれるのが遅かったからだ。もしもっと早く生まれていれば、お前の親を殺してたって不思議はない。こいつは、今、お前の親を殺した奴らみたいな、金持ちを襲って食い物にしてる野郎どもを代表してここにいるんだよ。だから殺して仇《かたき》を取れ」
「嫌だ!」
 サミーはほとんど叫んで言った。
「なら、やっぱりオレがやるか」
 また、ビンセントがトミーへ向けて銃を構える。心臓が氷を投げ込まれたように、ギュッと縮んだ。
「やめろ!」
 後ろから声がした。はっとして振り返ると、ビリーがビンセントへ銃を向けていた。
「トミーもサミーも殺させたりしない。二人とも友だちなんだ……」
 ビリーの声は震えていた。両手で握った銃もガタガタと揺れる。腰元は覚束無く、力が入っていないように見えた。けれど目だけは、真っ直ぐにビンセントを見据えて動かない。
 ビンセントは大きな、しかしひどく冷たい笑い声を上げた。
「結局、一番根性があんのはお前だな、チビ」
 そうして、口の端が左右へ裂けるような、にたりとした笑みを広げた。
「いいぞ、撃ってみろ。友だちを救え」
 その言葉がサミーの内のボタンを押した。彼は銃を構えた。ビンセントへ向けて。
「だめだ。ビリーがやるんだったら、ぼくがやる」
 目の前が涙で滲む。震えが止まらず、銃は今にも手から滑り落ちそうだ。けれど、撃たなくては。まだ十歳のビリーに人を殺させてはいけない。たった三つではあるけれど、サミーの方が年上なのだ。ビリーを守るためには、彼がビンセントを撃たなくてはならないのだ。
「ほう、お前もやる気になったか。そうだ、どうせだからみんなで一斉に撃つか? そうすれば、この孤児のガキもオレも死んで、お前にとっちゃ一番だろう?」
「違う!」
 声が詰まって、叫び声はひっくり返った。涙が目の縁から溢れる。
「そんなこと、ぼくは望んでない。本当に、全然望んでないんだ」
「サミー」
 トミーが押さえていた右手をそっと下ろし、言った。
「どうせハッタリだ。オレのことは気にしねぇでいいから撃て」
 ビンセントの顔から笑みが消えた。
「ハッタリだと?」
「そうだろ。お前の方こそ、いつでもオレらを殺せんのに、やらねぇじゃねぇか。お前のやってることは全部ハッタリだ」
「馬鹿なガキだ。言っただろう? てめぇらを殺すことなんか、屁とも思っちゃいねぇ」
「だから、さっさとやれって言ってんだろ」
 ビンセントは深く息をついた。
「そうだな」
 そして、トミーへ狙いをつけ、
 
 パンッ!
 
(42)最期

 銃声の瞬間、トミーははっきりとビンセントの姿を捕らえていた。彼は飛び出しそうな程ギョロリと剥いた目でトミーを見ていた。その表情は、全てを終わらせる残酷な音が鳴り響いた後も変わらなかった。少し遅れて、腹のど真ん中を中心にして、ゆっくりと怪しい花が開くように白シャツへ鮮血が広がっていった。
 サミーとビリーも目を見張って呆然としている。二人ではない。ビンセントの体が倒れる。その背後に――
 デレクだった。彼は腕を斜め下へ伸ばし、倒れるビンセントへ未だに銃を構えている。
「大丈夫か? トミー」
 やはりデレクは険しい目を標的へ向けたままだ。トミーは、ああ、と応えてビンセントへ近寄った。
「何する気だ?」
 デレクの張り詰めた声。深いため息が出た。トミーはビンセントの傍らに膝をつき、
「このままじゃ死んじまうだろ」
「お前、そんな奴助ける気なのか?」
 信じられないと言わんばかりの非難が真っ直ぐに飛んできた。癪に障る。トミーは自分の眉間が不快さに歪むのが分かった。
「こいつがクソ野郎だなんてこと、見捨てる理由にはならねえ。オレはお前なんか大っ嫌いだが、死にかけてたら助けてやる。ダンの奴のことも助けたしな。こいつ助けて何がおかしい」
 しかし、処置をしようとビンセントのシャツをたくし上げかけた時、
 腕を掴まれた。骨太く、節くれだった手。砂の汚れが染み付いたような赤茶けて老いた手。思わずトミーが見ると、ビンセントはひどく穏やかな顔をしていた。
「お前みたいなガキに助けられたなんて屈辱、背負わせるな」
 ビンセントはトミーの目の奥をじっと見つめた。
「手を撃って悪かったな。他に怪我はねえな?」
 不意打ちを食らった。心の柔らかいところに。胸がぐっと締め付けられて、トミーはなんとか頷く。
「そりゃあ良かった。……ルークのこと、頼む。あいつはケンやお前と同じように、優しい、いい奴だ」
 トミーはもう一度首を縦に振った。ビンセントの口元が微かな笑みに歪んだ。そのすぐ後、トミーは彼の表情から魂が消える瞬間を、確かに見た。
 
 トミーはビンセントの亡骸から離れると、すぐそこの、彼の命を救ったデレクには目もくれず、サミーの元へ歩み寄る。
「大丈夫か?」
 それがスイッチになったのかもしれない。サミーの顔が急にくしゃくしゃになり、その場へ崩れこんでしまった。
「ごめん、トミー。本当に、ごめん……。ぼく、本当に、君に、嫌な気持ちを持ってる、わけじゃ、なくて……ただ、ただ、もしも――」
「お前は何にも悪くねえよ。ビンセントだって、お前を挑発しようとしてただけなんだろうし」
 サミーは駄々をこねる小さな子どものようにぶんぶん首を振った。
「違う……ぼくは、ぼくは、そんなこと考えちゃいけないって分かってるのに、もし、あの人たちが、追い剥ぎみたいなことをする人たちが、いなかったらって、そんなこと、考えて……。頭ではちゃんと分かってるのに、それしか生きてく方法がない人たちがいるって、分かってるのに。何の苦労もしないで呑気に育ったぼくなんかには、みんなを非難する資格なんて――」
「お前は十分苦労してんだろ」
 トミーは嘴を入れた。目を丸くしたサミーと視線がぶつかる。
「親殺されて、ずっと肩身の狭い思いしながら親戚んとこで育って、戦車で働く羽目んなって、今はこうして大人相手に戦って。ずっと苦労してきてんだろ。それを『苦労しないで呑気に育った』って。お前、どんだけ自分を下げて生きてんだよ。馬鹿じゃねえの?」
 サミーの表情が、土砂降り間際の空のように一気に歪む。今にも声を上げて泣き出しそうだった。その時――
 ドアが開いた。現れたのは、バード戦車長だった。
 
     *****
 
 ディッキーははずっとダンを抱きながら、彼に語りかけていた。そうしないとダンの魂がすぐにでも飛んでいってしまいそうで、怖かったのだ。昔、二人で仕掛けたイタズラはもちろん、その他のたくさんの思い出のことを話した。二人の内どちらかに嫌なことがあった時には一緒にこっそり家を抜け出し、砂の上に寝そべって星を眺めていたこと。酒場から盗んだ葡萄酒でディッキーが酔っ払って大騒ぎになってしまったこと。ディッキーが義きょうだいたちに意地悪をされた時には、きまってダンが仕返しをしてくれたこと。その度にダンは父親からひどく殴りつけられていたこと。ダンに迷惑をかけたくなかったディッキーは、大人へ愛想を振りまくことで味方につけて身を守るようになっていったこと。そして……それと同じようにしようとしてランディたちにニコニコ笑って接していたら、余計にひどく虐待されるようになってしまったことも。
 ディッキーはダンの体へ回した腕に、そっと力を込めた。
「ダン、死なないでよ」
 喉がブルブルとし、声も震える。
「こんなこと、ダンにしか話せないんだよ。ここのみんなはオレに優しいけど、仲間だけど、友だちだけど、でも、ダンがいなかったらオレは一人ぼっちだよ」
 しん、と静寂が耳に痛い。胸へ不安が伸びてくる。ダンは言葉を返さないだけでなく、腕の中で身動ぎもせず、答えようと呼吸が乱れることもない。いや、それどころか――息を吸ったり吐いたりする気配そのものが、呼吸で体が膨らむ感じが、全くなくなっていたのだ。しっかりと腕に抱いているのに。
 血の気が引いた。さっきまで意識から遠ざかっていたダンの体の冷たさが、ディッキーの心臓を凍りつかせた。彼はダンの体を引き離した。すっかり土気色に変わってしまった顔。その表情が動く気配はない。
「ダン」
 応えが返ってくるかもしれないという小さな希望にすがった。けれど返事はない。忍び寄ってきた不安がぐるりと恐怖に変わる。
「ダン、ダン、ダン、ダン――」
 目の縁に涙が染みてくる。ダンの体をゆする。それでも、彼の表情はぴくりともしなかった。

オー、ブラザーズ!④

執筆の狙い

作者 香川
27.95.81.7

連載という形をとらせていただきました『オー、ブラザーズ!』、これで完結となります。

※(30)でプロローグ場面に戻ります。こちらの冒頭部です。
https://sakka.org/training/?mode=view&novno=17245

本来はエピローグが存在するのですが、文字数の関係で今回は割愛し、最終話までの掲載とさせていただきます。
また、本文中に(43)と最終話も入り切りませんでしたので、その分に感想欄を使用させていただきます。

本文冒頭にあらすじを記載しようと思っていましたが、入り切らなかったのでこちらも割愛します。
これまでの投稿分は以下です。

①https://sakka.org/training/?mode=view&novno=17245

②https://sakka.org/training/?mode=view&novno=17278

③https://sakka.org/training/?mode=view&novno=17312

コメント

香川
27.95.81.7

(43)友の死

 飛び交う弾丸が地面に着弾し、あちこちで飛沫《しぶき》のような砂が巻き上がっている。視界が悪く、ジョンは目を細めた。
 彼はちょうどドクターを連れて戦車の外へ出てきたところだ。事情を話すと、ドクターは二つ返事で動き出してくれたのだけど、あっちへこっちへと必要なものを揃えている間に随分と時間が経ってしまった。こんなことならダンを直接連れてきてやればよかった。
 砂煙に霞む仲間たちの戦車。距離は僅か。全力で走れば数十秒だ。しかし、銃弾が止まない中に迂闊に飛び出すこともできない。ジョン一人ならまだしも、ドクターがいるのだ。それに荷物に弾が当たってもまずい。これは大事な治療道具なのだから。
 ジョンは後ろのドクターへ振り向く。
「向こうの戦車まで走って、どのくらいで行けそうですか?」
 ドクターの眉間に不安の気配が過ぎる。
「どうかな……悪いがオレは足は速くないからな」
 ジョンは再び仲間たちの戦車へ目を向けた。そこまでの短い空間を見定めようと、じっと意識を集中する。
「飛んでくる弾は、そんなに多くはないです。ビンセントの戦車が撃ち損ねた弾が流れてくるくらい。ぼくたちの戦車へも攻撃してきてるんだったら危ないけど、今はそういう感じじゃないし、飛び出す瞬間さえ気をつければ大丈夫。行けますか?」
 ドクターの緊張が空気を通して背中に伝わる。
「ああ、なんとかやってみるよ」
「荷物はぼくが持ってきます。ドクターはとにかく全力で走って」
 ふう、と深く息をつく気配がした。
「よし、じゃあ、一二の三で行くか」
「うん」
 二人は揃って視線を目標の少年たちの戦車へ向けて、
「一、二の、三!」

香川
27.95.81.7

 室内の雰囲気が、しん、と固まった。バード戦車長は辺りをぐるりと見回すと、横たわる大男の姿に目を止めた。
 彼はビリー、サミー、トミー、デレクの横を通り過ぎて、ビンセントのすぐ脇に、そっと跪く。トミーの目には、その丸めた背が哀愁を纏っているように見えた。
 戦車長は黙ってビンセントを見つめていたけれど、しばらくするとおもむろに立ち上がり、トミーたちの方へ戻ってきた。そうして、少年たちの疑問の視線に気がついたらしく、
「お前らだけじゃ心配でな。戦況は悪くなかったから、来ちまった。居場所は分からなかったが、運良く一人とっ捕まえられてな。聞いたらすぐに教えてくれた」
 彼は静かに俯くと、深く息を落とした。空気を鉛色に変えるくらい、悲しげなため息だった。
「いや、違うな」
 彼らしくない、淡々とした口調。少年たちではなく、自身と対話するかのようだった。
「オレはずっと気になってたんだよ。ビンセントのこと。自分では、それはあいつのことが怖いからだと思ってた。そりゃ、もちろんそうなんだが、でもな……それだけじゃなかったんだよ。オレはずっと、昔のことを――ケンが襲われてるのを黙って見てるしかなかったことを、ビンセント一人に向かって行かせちまったことを、悔やんでたんだ。もし、あの時、オレがビンセントと一緒にケンを助けてたら、何か変わってたかもしれない。ケンは死んだりせず、ビンセントもこんな風にならなかったかもしれない。そう、どこかで思ってたんだ。もともと、ビンセントは癇は強かったが、決して悪い奴じゃなかった。ビンセントが死ぬ気だって気がついて、ようやく自分の気持ちが分かった」
「死ぬ気?」
 ビリーが頓狂な声を上げた。
「どういうことだよ?」
 バード戦車長は、力なくかぶりを振った。
「あいつはこんな回りくどいことする奴じゃないんだよ。必要があれば誰のことだって、その場で叩きのめす。そういう奴だ。でも、お前らに対しては違った。オレらとの撃ち合いも、あいつが指揮とってんなら勝ち目はないはずなのに、どういうわけかこっちの優勢だ。なんでだ、なんでだって考えてるうちに、思い当たったのが、奴が負ける気でいるってことだった」
 妙な話だけれど、トミーには合点がいった。殺されるつもりだったからこそ、ビンセントは自分たちをあれだけ挑発していたのだ。
「ビンセント……さんは、」
 まだ涙の余韻が残る声で、サミーが話し始めた。
「きっと、疲れてたんですね。ずっと勝ち続けることに。他人を蹴落として頂点に立って、這い上がってきた人を蹴落として。それが、もう嫌だった。でも、ケンっていう友だちへの償いのために、止めるわけにはいかなくて――誰かに終わりにしてもらうしか、なかったんだ」 
「気に入らねえ」
 口をついて言葉が出ていた。急にムカムカしたものが腹の底からせり上がってきていた。
「死にたいんだったら、一人で勝手に死ねばいいだろ。償いだかなんだか知らねえが、そんな自己満足のために大袈裟なことしやがって。そのせいで何人死んでんだよ」
 料理長がそんな茶番のために殺されたのかと思うと、堪らなかった。ぐっと拳を握る。爪が皮膚に食いこんだ。
 バード戦車長は息をつき、トミーの肩を軽く叩いた。
「お前の言う通りだよ。でもな、ビンセントはもう死んじまったんだ。オレと同じくらいのはずなのに、あんなに老け込んでな。あいつはあいつで大変な人生だったんだよ。許してやろう」
 くそ……。言葉にならない悔しさを噛み殺した時、
 バァァン!
 ものすごい衝撃で、戦車が縦に大きく揺れた。続けて、殴りつけるような強風が吹き込んできて、体が後ろへ倒れそうになる。トミーは足を踏ん張ったが、サミーとビリーは見事に転んだ。デレクは近くの椅子につかまって持ちこたえたらしかった。戦車が攻撃を受け、ちょうど彼らの部屋のところに大きな風穴が空いたのだ。
「あいつら、オレがいなくてもやりやがるな」
 戦車長が無線機を取り出し、指示を出そうとする。
 しかしその前に、ごうごうと吹き荒ぶ風の中で、パンッとくぐもった音がした。何だ? トミーが音を追って振り返ると、ルークが彼らへ向けて真っ直ぐに腕を伸ばし、銃を構えていた。胸に緊張が突き上げて、トミーは仲間の方へ視線を走らせる。
 ビリーが先程空いた穴へ吸い込まれるように、落ちていった。
 

香川
27.95.81.7

(44)オー、ブラザーズ!

 その瞬間、サミーはデレクから手を貸してもらい、体を起こしたところだった。パンッという破裂音がしたかと思うと、先に立ち上がっていたはずのビリーの体が後ろへ倒れるのが、視界の隅に映った。何があったのかと振り向くと、そこにあるはずのビリーの姿がない。壁に空いた穴から吹き込んだ風が、ヒュウッと虚空を震わせた。
 状況を理解したのは、デレクの声が響いた時だ。
「お前、なんでビリーを撃った!」
 彼はルークへつかつかと向かっていった。ルークは、まだビリーを撃ったらしいその銃を構えていたけれど、手はガタガタと震え、赤く腫れた目の中で瞳も揺れていた。彼はデレクが迫ってくるまで引き金を引けないままだった。
 デレクはルークから銃をひったくると、彼の胸ぐらをつかみ上げ、額に銃口を押し当てた。
「殺してや――」
 止めたのはトミーだ。彼はデレクの襟ぐりの後ろ側をつかみ、後ろへ引き戻した。
「馬鹿なことすんじゃねえ! ビリーを撃とうとしたわけじゃねえだろ。狙いが外れただけだ!」
「だからなんだ!?」
 デレクが叫んだ。
「こいつがビリーを撃ったことに変わりないだろ!」
「オレたちだってビンセントを殺した! オレらにはクソ野郎でも、こいつにとっちゃ恩人だ!」
 トミーは乱暴に息を吐き出すと、デレクの手から拳銃を奪った。
「そんなにビリーを思うんなら、助けにいけよ。まだ間に合うかもしれねえだろ」
 デレクは唇をぎゅっと噛んで、眉間を歪めた。やり場のない怒りを込めたであろう拳で壁を殴りつける。ジィン、と心臓にまで震えが伝わってきた。それから、デレクは何も言わずにドアへ向くと、走って出ていった。
 やってきた静寂と共に、周囲の気配が強ばった。バードさんは肩が大きく上下するほど深く息をつく。
「良くやったぞ、トミー」
 トミーは俯いて、そっと首を振った。
 バードさんは今度は鼻から息をつくと、手にした無線機を耳に当て、もう攻撃するなと告げた。そうして、ビンセントの遺体を担ぐ。ルークの目がかっと開かれ、バードさんに飛びかかろうとした。けれど、後ろからトミーが首へ片腕を回し、動きを封じる。バードさんはトミーの腕の中でもがくルークと目を合わせ、表情を解いた。
「安心しろ。ビンセントはちゃんと仲間の元に返してきてやる。こいつが死んだって分かれば、みんな戦う気なんて失くすさ。ビンセントはそれだけの男だっただろう?」
 ルークの目の表面は、みるみる内に涙に覆われ、てらてらと明かりを反射する。彼は唇がわなつき始めてしまったのを隠すように顔をうつむけた。
 それからバードさんはサミーへ視線を向けた。
「ここはトミーに任せて、お前はデレクのところに行け。誰かついてやってた方がいい」
 バードさんはそれでいいか確認するようにトミーへ目配せした。トミーは小さく頷く。サミーも、はい、とだけ答えて、すぐにデレクの後を追った。
 
     ***** 
 
 外に出ると、紺色の夜闇の中に一際黒い人影が見えた。デレクだ。
「デレク」
 呼びかけて駆け寄るサミーに振り返りもせず、彼は言った。
「いない……」
「え?」
 聞き返すと、デレクはようやくサミーの方へ体を向ける。
「この辺りに落ちたはずなのに、どこにもいないんだ」 
 サミーはすぐさまデレクの背後に視線を走らせ、それから戦車に空いた風穴を見上げた。確かに、この辺りだ。なのに――。
「ビリーの願い、覚えてるか?」
 デレクの言葉に虚を突かれ、サミーは視線を下ろす。
「あいつは『でっかくなりたい』って言ってたんだ。『でっかくなりたい』って。ジョンよりも、オレよりも『でっかくなりたい』って」
 言葉を繰り返す度に、はじめは力なかった声に悲痛な怒りが滲んでいった。そうして、彼はその場にへたり込んでしまう。頑なに地面を見つめながら、
「オレのせいでビリーは死んだ。ダンだって、そうだ。オレがもっとちゃんとしてれば――」
「待って、ダン? ダンがどうかしたの?」
 思いがけない言葉に、つい声を上げてしまった。デレクは、そっと顔を上げてサミーを一瞥すると、再び俯く。
「首を撃たれた。ジョンがドクターを呼びに行ってくれたけど、たぶん間に合わない」
 急に、全身を巡る血が冷たくなった。目の中に熱いものが溜まってくる。ビリーのこと、ダンのこと、目の前で打ちひしがれるデレクのこと、それにダンが死んだりしたらきっと立ち直れないであろうディッキーのこと。それら全部がサミーの胸を傷つけた。心が血を流すような痛みのせいで、彼はデレクにどんな言葉をかければいいか、考えられずにいた。サミーは立ち尽くし、デレクは地面を睨み続けた。すると、

香川
27.95.81.7

 奇跡が降ってきた。
 
 どうすればいいか分からず、サミーが空へ視線を泳がせた時、冴える星々の間を何かが飛んでいるのが見えた。冷え切り、途方に暮れた心へ鋭く切り込んできた不思議な光景。訝しみ、目を凝らすとその姿は少しずつ、少しずつ大きくなり、動物が何かを後ろに引いているのが分かった。もっともっと近づいてくると――
 そりだった。トナカイが大きなそりを引っ張っているのだ。そして、そりに座って手綱を引いているのは、赤い外套を着た白ひげの老人だった。片手に何かを抱えている。
 サミーはすっかり面食らってしまって、ただ、ただ、目を瞬くことしかできなかった。さすがにデレクも気づいたらしい。横で彼が立ち上がる気配がした。
 老人は二人の目の前でそりを止めた。地面に接しているはずのソールは宙にふわりふわりと浮いている。トナカイもそうだ。疲れた足を回すように、蹄で虚空を掻いている。目を見張るデレクとサミーをよそに、老人は穏やかに話した。
「空を走ってたら何かが戦車から落ちるのが見えて、慌てて捕まえたんだ。見たら子どもじゃないか。びっくりしたよ。君たちの友だちだろう?」
 彼は片腕に抱えていた少年を、そっと差し出した。ビリーだ。あまりに呆然として、瞬きすら忘れてしまったらしいデレクが、促されるままビリーを胸に受け取った。
「かわいそうに。相当怖かったんだろう。気を失ってしまっているよ」
 その時、はじめてデレクの表情に疑問の色が差した。
「でも、こいつ、撃たれて――」
「そうなのか? 怪我はしてないようだったが」
 老人がビリーの胸元を調べると――小さな人形が出てきた。藁で編んだ馬の人形。真ん中に銃弾がめり込んでいる。
 デレクがはっと目を見開く。瞳の円い輪郭が分かるほどに。
「だって、こんなの……ただの藁なのに」
 老人は目を弓なりに細め、ハッハッハッと伸びやかな笑い声を上げた。
「いやあ、驚いた。奇跡っていうのは本当にあるものなんだなぁ」
 それから彼は少し申し訳なさそうに声を落とした。
「悪いが、今はあまりプレゼントもなくてな。せっかくのクリスマスなのに申し訳ないよ。でも一つだけ」
 彼はデレクをじっと見つめた。
「君はいいリーダーだよ」
 老人は再び手綱を取ると、トナカイを走らせた。駆け上がっていくトナカイとそり。彼らは空高いところで一度立ち止まると、
「兄弟たちよ、メリークリスマス! 君たちに素晴らしい未来が待っていますように!」
 その瞬間、サミーはデレクの目の縁からキラリと滴がこぼれるのを見た気がした。けれど、すぐに彼は目元を腕で拭うような仕草をし、大きく手を振った。
「メリークリスマス!」
 そしてサミーへ振り向く。
「そう言うんだろ? よく分かんねえけど。お前も言えよ」
 デレクの目にはもう涙の名残すら見えず、サミーは自分の見たものが本当だったのか分からなくなった。ただ、今のデレクの目の中では、吸い込まれた星明かりがらんらんと輝いている。彼の無邪気さをはじめて目にして、サミーの心の奥底で眠っていた、子どもらしい部分もむくむくと起き上がってくる。
「メリークリスマス!」
 声の限り叫んで、両手を振る。その時、
「どうしたの?」
 ジョンが駆け寄ってきていた。デレクははっとしてジョンを見る。
「ダンは?」
 ジョンはにっこりと笑った。
「大丈夫。戻った時は、呼吸も分からないくらい浅くて、もうだめかと思ったけど、ドクターが『まだだ』って。処置が全部終わってから、ここまで持ったのは奇跡みたいなもんだって言ってた」
 ジョンは一度言葉を切ると、真剣な目をデレクへ向けた。
「ぼくがドクターを連れて戻るまで、ディッキーはすごくがんばってたんだ。ダンの体が冷えないように自分の着てたシャツを脱いでかけてやって、ずっと抱いてたんだよ。治療をしたのはドクターだけど、そこまで持ちこたえられたのはディッキーのおかげだよ」
 サミーは驚いた。あれだけ体の傷を気にして、肌を隠していたディッキーがそんなことをするなんて。デレクも同じ気持ちだったらしく、目を丸くして、それから表情を解いた。
「ちゃんと褒めてやらないとな」
 彼はため息交じりに、できるかな、とつぶやいた。ジョンは可笑しそうに笑う。
「できるよ。ぼくも一緒なんだから」
 そうして彼は、なんとなしに空へ目をやる。途端、目と口をぽっかりと開けたまま、彼の表情は固まった。
「あれ、何?」
 ジョンの指し示した先では、もちろん、まだあのトナカイとそり、そして白ひげの老人が飛んでいた。
 デレクは苦笑いを浮かべて、かぶりを振った。
「よく分からないけど、空飛ぶトナカイの引くそりに乗ってて、白ひげで、赤い服きてるから、たぶん――」
 ジョンの目がキラキラと輝いた。
「サンタクロースだ」
 トナカイの引くそりは夜闇を奥へ奥へ走っていき、ちらちらと震える星々の一つとなった。星明かりがひときわ強まり、少年たちを照らした。


     ***** 

以上になります。
掲載の仕方が悪くて申し訳ありません。
最後までお付き合いくださった方、途中まで読んでくださった方、コメントくださった方、みなさん本当にありがとうございました。

垂氷さくべえ
139.101.122.51

拝読しました。

執筆お疲れ様です。
一人一人の少年が深く描かれていて、素敵な作品でした。
最後に登場したルークもなかなか良いキャラをしているなと感じました。

全体的な距離感や配置がところどころわからなくなったのが(私の読解力不足もありますが)気になりました。どこにどう戦車があり、どこへ向かって、今誰がどこにいるの? となりました。ところどころ、引きの視点といいますか、客観的な視界を描いても良かったかなと思います。

もっとも気になったのが、サンタクロースのオチです。
エピローグが割愛されたということで見に行きましたが、夢ではなく技術だという設定があり、それもウ~ンとなりました。その道楽が出来るなら、もう少しみんな生きやすい世の中になるんじゃないかな……と思ったり。
エピローグを抜いてみると、今まで地面に足を付けて頑張ってきたことが、夢物語のように終わっていくので、それなら何でもありになってしまいそうだな、というモヤモヤ感が少しありました。
とはいえ、頑張る少年たちのもとに奇跡が起きるシーン自体は美しいですし、綺麗だなと思いました。
がっつりサンタクロースを登場させると、突然魔法が使われた感覚に陥ってしまうので、はっきりとは登場しないけど、もしかしてサンタクロース? くらいの雰囲気を描くのがいいのかなぁと思います。
今までずっと頑張ってきた子供たちに、無償の愛が与えられるのは私は好きですので、こういう奇跡はとても好きです。(ご都合主義、と思われないように描くのが肝要かと思います)

また、描写の一つ一つにはリアリティや味があり、好きです。
一方で、ダンが一人で突入したり、デレクがビンセントを助けようとするなど、そこまでするかなぁ?と思ってしまう部分もちょくちょくありました。ここらへんの動機付けやリアリティが増すと、より臨場感があって面白くなるのかな、と思います。

素敵な作品でした。ありがとうございました。

hir
58.138.150.43

 掲載分を読む限りでは、10代そこそこの子供たちが戦争ごっこしているイメージです。
 ワープで敵地に潜入して、無防備な敵兵をバンバン殺して、ボスの部屋に入ったらイベントムービーが始まる。長い台詞が終わり、いよいよ決戦かと思ったら一発撃ってゲームクリア。
 戦車と言ってますが、戦艦くらいの大きさがあるのかな。
 舞台背景が見受けられなかったので、海がなくなってあちこちに打ち上げられた船をねぐらにしている。そんな想像をしました。

香川
27.95.81.7

垂氷さくべえさん

ご感想ありがとうございます。

①からずっと追いかけてくださって、本当に感謝しかありません。
私はキャラクターを書くのが好きで、特にいろんなタイプの少年を書くのが楽しいので、そういう部分を読み手の方にも楽しんでいただけるというのは一番嬉しいことです。
一方で、ラストで色々ぶち壊してしまったな、というのは私自身も感じていることなので、そういう点でがっかりさせてしまっていたら、残念というか申し訳ないなと思います。
もともと、ラストの畳み方が悲劇的に下手で、たいていの作品はお話がいきなり終わってしまうか、ラストで無理やり畳もうとしておかしなことにしているかのどちらかでして…。
今回のものはたぶん後者になるのかなと思います。

また順番が前後しますが、サンタクロースの件については、実はこういうラストを用意したのには理由があって。
元々、このお話はカクヨムという投稿サイトのユーザー間で行われた「クリスマス企画」に参加するために書き始めたものでした。
これとは別に、一作寄稿していたのですが、もうひとつ何か凝った設定のものを書きたいな、と思い、閃いたのがこのお話でした。
でも、私はプロットを作らずに、とりあえず決めたラストに向けて思いつくままに書いていく、というふうにお話を作っています。
これを書いた時もそうやっていたら、当初考えていたものよりもどんどん大きくて重めの話になっていってしまい、ラストのファンタジックな雰囲気と作品がかけ離れていってしまいました。
でも、想定していたラストを変えることもできなくて、結果、かなりちぐはぐした雰囲気の作品になってしまっています…。

それがあって、今はとにかくしっかりとプロットを作って、きちんとラストまでひとつの纏まったお話として描き切る、というのを目標にしています。
この後には7万字弱の中編を一本と、2万字に満たない作品をポツポツ書いているだけなのですが、
とりあえずどれもプロットありで、ラストまでの道筋を決めて書くようになりました。
ただ、今のところあまり成果はなくて、やはりラストはイマイチな状態が続いています…。
他のサイトで完結まで書ききっても続きがあると誤解されてしまったり。

なので、ご指摘はご尤もで、そして今も改善点のままの状態です。
今回ご指摘いただけて、やっぱりもっとちゃんとしようと、より感じるようになりました。
それと、 はっきりとは登場しないけど、もしかしてサンタクロース? くらいの雰囲気を描くのがいい、というのは確かにその通りで、なるほど!と思いました。
これを書いた時は、ラストでサンタクロースを登場させる、ということに縛られていたような気がします。なまじ最初に思いついてしまったので…。

エピローグの件について。
ここでのサンタクロースは夢ではなく技術であったという設定は、後付けのものです。
初稿段階ではその設定はありませんでした。
これは、初稿をこちらに掲載させていただいた際に、 垂氷さくべえさんと同じくほとんどの方がラストのサンタクロースの件についてご指摘くださり、何とかしなくちゃ…と思いながらも方法が分からず迷走した結果、という感じです…。
自分でも、むしろ余計におかしなことにしていないか…という気持ちはあったのですが、ではどう改善すればいいのかというのは全く分からず(そもそも分かっていたら迷走していないので…)そのままの状態になっています。
その道楽ができるならもっと生きやすい世の中になる、というのも、本当に尤もだと思います。

もっと引いた客観的な視界を描いた方が良かった、というのは、ご指摘を拝見してその通りだなと思いました。
もともと、かなり主観的に書くので引きの視界というのは苦手で。
もっと全体が分かるような描き方をしなくてはならなかったなと思いました。

ビンセントを助けようとした、というのはデレクではなくトミーのことでしょうか…?
ここは「(36)トミーのやり方」で言及している、恩師である料理長の「たとえ敵でも人を殺してはいけない」という教えを守っている、としたかった所です。
ご指摘を受けるまで納得できる形で書けているのではないかと思っていましたが、丁寧に読んでくださっている方からこういうご指摘が出てくるというのは、私の考えが甘かったということなんだろうなと思います。
多分、視点人物がどんどん入れ替わるためにごちゃごちゃしてしまったことが、こういう細かな点に注目させることに失敗した原因の一つかなと思いました。
一番簡単な改善方法はビンセントを助けようとした場面で直接料理長の教えについて言及することだと思いますが、できればこういうのを示唆する程度で留めて余韻を生み出したいので、これから書く作品では、大事なことにどう注目させるか、というのをよく考えて書くようにしたいと思います。

ダンの件は、もう、推しキャラなので無理させちゃった、という感じです。
個人的萌えが全てくらいに思いながら書いているので、こういう点はこれからも変わらないような気かまします(開き直り…)

ともあれ、長い作品に最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました。
今後の糧となるご指摘も、嬉しいお言葉もたくさん頂きました。

ありがとうございました。

香川
27.95.81.7

hirさん

ご感想ありがとうございます。

このような掲載方法なので、この部分だけお読みくださる方もいらっしゃるとは思っていましたが、ものすごく読みにくかったと思います。
申し訳ありません。
キャラクターもお話もとても分かりにくかったですよね。
それでも今回の掲載分を最後まで読んでくださったようで、本当にありがとうございます。

10代そこそこの子供たちが戦争ごっこしているイメージ 、というのは
作者としてはそういう意図ではないとご理解くださった上で、ご指摘として書いてくださっているのだと捉えました。
どうしてそうなってしまったのか考えたのですが、1番は、私自身がミリタリー知識不足で戦闘のリアリティに欠けたものを書いてしまっていることではないかなと思いました。
もっと戦車について、銃器について、詳しければ、もう少し重厚な雰囲気にすることもできたのではないかなと。

またここでの戦車が通常の戦車よりもずっと大きいというのは、まさにおっしゃる通りの設定です。
ですが、戦艦だと全長200メートルとかそういった大きさになるのかなと思うのですけど、陸上である程度小回りもきかせながら戦わなくてはならないので、このお話の戦車は横幅は戦艦よりもずっと小さいとしています。

おっしゃる通り海が消えた砂漠が舞台でして、そこでは巨大戦車が争い合っています。
戦車には巨大な戦車砲を掃除するための少年兵が必要で(大人では大きすぎるため)、そういう子どもたちは村や町から買われてきます。
ここで登場する少年たちのほとんどがそうやって戦車に買われた子どもなのですが、彼らが団結して大人に対して革命を起こそうとする、というのがお話の大まかなストーリーです。
このあたりの説明を冒頭部に加えたかったのですが、分量的に難しくて断念しました…。
すみません…。

海がなくなってあちこちに打ち上げられた船をねぐらにしている、という設定ではなかったのですが、そのご想像はすごくいいなと思いました。
秘密基地みたいな感じがして、ちょっとわくわくしますし、もう海を進むことができない廃墟同然の船というのは世界観にもよく合っています。寂寥感も感じられます。
その設定でお話お書きになってもいいのではないかなと思ってしまいました。

では、ご感想いただきありがとうごさいました。

hir
210.133.215.174

 ミリタリー関係が原因ではありません。銃口を押し付けるのは良くないらしいですが。

 戦争ごっこと感じた一つは、カリスマ指導者がいないことです。前回までいたのかもしれませんが、現状は仲好小好の集団です。
「お前たちに生きる価値はない。だからせめて俺のために死ね」米大統領みたく口八丁手八丁で味方を酔わせる人がいないと、攻める戦いはできないと考えます。
 二つ目、簡単に潜入成功すること。敵が無防備すぎる。まさしくゴッコです。
 三つ目は、丸腰で無力化したと思っているところ。生かしておくにも手足を切り落とすくらいはしないと。案の定反撃されてます。
 四つ目に菓子を食べたこと。捕虜になったのならまだしも、臨戦態勢で敵の差し出したものを口にする。遊びにしても緊張感がない。
 銃器よりも、奇襲、陽動などの戦術に重きをおいてもらうほうがリアリティになると思います。人質を取るのは負けが確定したときの行動です。

香川
27.95.81.7

hirさん

わざわざ再訪頂きまして、ありがとうございます。
仰っていること、理解いたしました。
銃器に関することと言うよりも、戦時下に置ける行動や作戦といった部分のことですね。
こういった点も私には知識が少ないですし、一応戦車銃器に関してはいろいろ調べていますが、戦術についてはほとんど無知のままの状態で書いていたと気がつきました。

もっとそういった点を詰められたら、確かにはるかにリアルなものになったかもしれないなと思います。

今後はアクションの長編を書く予定があるのですが(あくまで予定です)、その際も戦闘における敵陣営との駆け引き、作戦をしっかりと練って書かなくてはならないなと思いました。
非常に参考になりました。
ありがとうございました。

ゴイクン
121.92.248.76

こんばんは。
乗りかかった船ということで、④拝読しました。

いよいよ戦いの場面、という感じで面白く読みました。

これはきっと人によって違うと思うのですが、サンタさんは私としては素直にいいなと思いました。砂漠のサンタ、何か絵になるし、夢オチという感じでもなく、戦いの後のほっと感も出ていますし。ラストとしては問題ないと言うのが、私個人の印象で、Okに一票です。

ただ、ビンセントのラストは、あまり感心しませんでした。
急によい人ぶっている感じで、この人くらいは徹底的な悪人でもいいのじゃないか、という気持ちです。あくまで、キャラのバランスの関係でいうだけですけど。

悪人は悪人で、子供たちに結果的には殺されるにしても、そのラストでルークたちがビンセントを守ろうとして、デレクたちは驚く、とかでもいいのかな、と思ったり。本人に全部いわせないで、回りの子供たちからビンセントの心がわかる、という感じにしたほうがいいのじゃないでしょうか。
ケンを食べたのだって、本人が解説するのでは浅くなるように思いました。

それと、ノンプロットということですが、ラスト、なかなか終わりにできなくて苦労されている様子、そういうもたつき感は、私もノンプロット派なので、よくわかります。あれも回収、これも回収、他に未回収は残っていないか。全部説明がついたか、という心配でのラストの詰めこみですね。感じました。

でも、今回、物語は置いといて、書き方に目を向けて読んだのですが、垂氷さくべえさんが指摘されていること、私も感じました。かなり強く。

>ところどころ、引きの視点といいますか、客観的な視界を描いても良かったかなと思います。

つまり、人のことしか書かれていない。人の感情とか、対立とか。なので、読者は息苦しくなるのです。書かれていますようにロングショットがない、という感じでしょうか。
読者も、ときどきはほっとしたいですね。

ご存じと思いますが、この書き方は、西欧風な書き方ですね。向こうの小説は、アメリカも含めてですが、関心は人にしかないので、ほとんどすべて人のことばかり。いわゆる本当の意味のヒューマニズムです。

この砂漠には風が吹いていないですね。砂の動きもない。背景は苛酷でもない。水もきっと問題ないだろう。と思ったりします(繰り返しになりますけど)

つまり日本の小説みたいな、風景描写がないのです。
風景描写って、息抜きのためにある気がするのですけど、それがないから、人間たちの葛藤のみがせわしなく描かれて、時に苦しくなります。

 子供たちが口論する場面などに、風がさっと吹いて綺麗な髪が揺れる。それを見つめながら、返事を探す、とか、そういう間が必要かなと。

映像にたとえれば、テレビ的な感じなんですね、話がじゃなく、描き方が。
アップばかり。

保存知でしょうが、12人の怒れる男たち、だったっかな、モノクロのやつで、シドニールメット監督の名作の方です。
あれは狭い部屋での演劇風な話なので、アップ多用で、カット割りも細かく、とにかくせわしないのです。なので、観客もどんどん話に引き込まれていく。
そういう効用はありますが、見終わってから疲れるのです。

緩急がほしいと思うのです。

そんなことを思いました。
公募その他、頑張ってください。期待しています。それでは。

香川
182.250.43.79

ゴイクンさん

ご感想ありがとうございます。
お返事が遅くなってしまい、申し訳ありません。

戦いの場面として楽しんでいただけて良かったです。
ただ、他の方がおっしゃるように、戦術や戦時下の行動としては全くぬるいのだろうなと思うので、その辺りをしっかり詰めていくことでよりリアリティのあるものにできるのだろうなと思います。
下調べが足りなかったと思います。

サンタさんに関して、ありがとうございます。
このサイトに限らず、投稿先ではこの場面についてのご意見を多々頂いておりまして、8割くらいが否定派というか問題があると感じてらっしゃるようで(さすがに驚いたよ….!みたいなものも含め)、
2割くらいがラストも良かったというご意見でした。
なので、たぶんご感想の割合的に言えば問題のある部分かな、とは思うし、私が読み手だったら問題があると考えると思います。
でも、あくまでこのお話のみの問題として考えれば、ゴイクンさんはじめ肯定的に捉えてくださる方もいらっしゃいますし、このままの状態で置いておこうと思います。
自分の書いたものを肯定してもらえる、というのはそれだけで嬉しいものですから、ご意見にはすごく励まされました。ありがとうございます。

今後書くものでは、より多くの人に(それと読者としての自分自身に)納得してもらえるものにしたいので、プロットありでしっかりラストまで事前に詰めて書いていこうと思っています。
それでも書きながら、こうした方がいいかな、やっぱりこういうのを入れておきたいな、いやこういうキャラ登場させたいな、みたいなことは起こり得ると思うのですが(今回のトミーとか当初は全く想定していなかったキャラです…)
その辺りは全体を崩さないようバランスを見ながらやっていければいいかなと思っています。
ラストの回収も、いきなりラストで回収するのではなくて、ちょっとずつちょっとずつやっていけばいいんですよね…。
おっしゃるように、ここもプロットを作らなかったが故に全てラストで回収しなくてはならなくなった結果だと思います。
スマートにできるのであればラストで一気に回収、というのは悪くないと思うのですけど、そういうのは本当にしっかり練られて道筋を立てられた上で成り立つものですからね。
そういう風に書けるようになりたい、という気持ちもありますが(というかすごく強いのですが)、まだまだ先にある問題かなと思うので、短編で少しずつ練習しながら長編でもチャレンジしていこうと思います。

順番が前後しますが、ビンセントのキャラについて。
これは実は意識的にこういうキャラクターにしました。
もともと私は、本物の悪役はとことん悪で良い、と考えるタイプで、だからかなり前ですが読んでいただいた『真っ赤なバラを、エミリーに』という作品(アメリカ北部が舞台で、兄弟と偽った2人がゴーストタウン化した町に辿り着いてストリートギャングとゴチャゴチャあるやつ…)では悪役はとにかく悪にしました。
でも今回のような、不当に扱われ続けていた子どもが大人に対して反旗を翻す、というストーリーのものでそれをやってしまうと、
子どもたちが正しくて大人たちが間違っていた、とか、良い方と悪い方が戦っていた、という風に見えてしまう気がして、それを避けようとこういう感じにしています。
…が、ご指摘を拝見して、直接ビンセントにあんな風にさせるよりも、ご指摘の通りせっかくルークというキャラクターを持ってきたのだから、彼をもっと上手く使って、匂わせる程度で「少年たちがやったことは本当に正しかったのだろうか」という問題提起を持ってきても良かったなと思いました。
ルークに自殺させる、というのもありかなとか思ったり…後味悪くなりますが、後味悪いくらいじゃないと問題提起にならない気がするので…。

どうしてもキャラクターに語らせてしまう、語らせすぎてしまうという欠点が抜けずにいて、
仰るようにケンのことをビンセントが語る場面や、他の方から②へご指摘いただいたサミーの過去についての語りなど、この作品内でも多用しています。
これは直そうとしても直らないので、ある程度開き直っているところはあるのですが、少なくともラストのビンセントの部分に関してはもっと上手い書き方があっただろうなと思います。

ロングショットがほとんどない、というのは本当におっしゃる通りです。
もともと情景などを広い視野から描くことは苦手で、さらに様々なことが起こっている中で、全体の状況を上手く伝えるという技術もないので、終盤に関してはとてもわかりにくくしてしまっていると思います。
私自身、全体を把握しながら書き進められてはいなかったようにも思いますし、それでは読み手の方に理解して頂くことも出来ませんよね。
情景描写もそうなのですが、ここは構成力のなさもあってのことなのかなと今は感じています。

砂漠の描写に関しては、どちらかと言うと綺麗な砂漠の夜だとかそういうものに傾いてしまっていて、おっしゃるような砂漠の過酷さを描いている場面はほとんどありませんでした…。
この世界の背景を考えると、これは大きな問題ですね。

他の作品だと、むしろ無駄に前髪が風になびいたりしているのですが、今回ふりかえってみて、この作品では確かにあまりそういう描写をしていなかったかもしれないなと思いました。
単純に私のイメージで前髪の長い子が少なかったというのがある気がするのですが(ディッキー以外短髪のイメージ)、そもそも風になびくのは前髪だけではないですから、ご指摘内容とはちょっとズレてしまう気がしますが、描写する時の引き出しの狭さというか、そういうものを感じました。
あとは、終盤になって一気に近視的になっているような気が、今していて、それは完全に書いている私がその場面のやり取りを描くことでいっぱいいっぱいになってしまったためだろうなと思います。

長々書いてしまいました。
長いものを最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
公募はネットで応募が可能なエンタメかライト文芸以外考えていない(純文学とライトノベルは書けない気がします…)のですが、少しずつ出していこうと思います。

ありがとうございました。

のべたん。
49.96.29.171

読ませていただきました。


ラスト、衝撃のサンタオチ!
賛否両論あると思います。私はどっちかといえば、否の方ですが……

ガンダムの世界にドラえもんやって来たみたいな。感じです。

でも、いいオチって、難しいですよね。
それこそ、サンタさんに頭下げて『いいオチください!』と言いたくなるくらい。

ラスト以外は、私レベルでは言うことないと思いました。


長編掲載お疲れさまでした。

香川
27.95.81.7

のべたん。さん

ご感想ありがとうございます。

サンタオチ衝撃ですよね…。
あんまり指摘等しないようなサイトでも「ラストには衝撃を隠せなかった…!」というご意見をいただきました。

他の方へのお返事でも触れましたが、これはカクヨムで行われたクリスマス企画(公式ではなくユーザー間の企画)のために書きはじめたので、ラストはサンタオチで、と決めていたんですが、書いているうちにどんどん当初のイメージから離れていってしまい…。
かと言って、想定していたラストを上手く変えられる器用さはないので、それまで積み重ねてきた物語の印象とは全く違ったラストになってしまいました。
これを書いて、ラストがどういうものであれ、それに見合った物語が必ずあるのだし、
それが展開できないとラストが浮いてしまったり、結末として物語の中で機能しなかったり、そういうことが起こるのだな、ということが分かりました。

ラストは本当に難しいです。
もともとは、最初と最後だけ決めて、あとは書きながら考える、という書き方をしていたので、どうしてもラストがかっちり物語にはまらないことが多くて、難しいなと思います。
今は全体のプロットを考えてから書き始めるようにしているのですが、まだ慣れないこともあり、これもなかなか難しいです。
でも、ラストが下手というのはそこは伸びしろだと前向きに捉えて頑張ろうと思います。

短編しか読んだことがありませんが、のべたん。さんは十分レベルの高いものを書かれていると思います。

ありがとうございました。

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