作家でごはん!鍛練場

救済

 銃口の先には少年があった。まだ10歳にもなってないであろう少年。
 屈託のない笑顔と、くりくりとした可愛らしい目元がその幼さをはっきりと印象付けている。口笛まで吹いてどうやらご機嫌な様子。口を窄めるのもたどたどしく、所々掠れるメロディーがとてもほほえましい。そばに寄って頭をわしゃわしゃと撫でてあげたい。
 しかし撫でるはずの手はアサルトライフルの引き金に添えられ、少年を激しく威嚇する。
 声を上げ、金網のフェンスを拳で叩き、少年とのスキンシップを全力で拒絶する。
 理由は明確だ。少年は、ヤツらに育て上げられた自爆兵だからである。何の躊躇も恐怖もなく、むしろ幸せ胸いっぱいに飛び掛かってくる。
 敵からすれば狂気しか感じない。道徳的価値観など超越した世界がそこにはある。
 だが、少年の心境は痛いほどわかる。境遇同じく、昔は自爆兵として訓練を受けていたからだ。

 アシム、君は救世主だ。二人を救ったんだ。
 
 
 君が引き金を引かなければ、パパとママはきっと地獄に堕ちていた。
 
 さあ、これを着て走れ。
 
 不信心で不埒な奴らを殺すんだ。
 
 そうすれば天国にいるパパとママに会いに行けるさ

 耳元でそう囁く、髭面の男の顔が脳裏に浮かんだ。反吐が出るほど慕っていた人物だ。
 目の前の少年も、きっと似たような希望を胸にしているに違いない。
 少年と基地までの距離はおおよそ20メートル程。少年が腰に巻く自爆ベルトの火薬量にもよるが、充分に危険な距離だった。
 とめどなく湧き出る手汗が銃を離せと警告する。灼熱の朝陽が首筋を、心臓を焦がしていく。
 自爆してくる敵は、少年だろうと排除しなければならない。仲間を、基地を、失うわけにはいかない。しかし。もし少年が、脱走してきたのだとしたら。保護を期待して嬉しそうに笑顔を見せているとしたら。救いを求める少年を、可能性のために虐殺することになる。
 そんな葛藤が悶々と足元に絡みついて離れない。
 この長々しい逡巡故に、銃身に頬を当て構えたまま、無力に硬直しているのである。
 刹那、少年が加速した。体をかがめ、這うように猛然と距離を縮める。反射的にトリガーを弾いた。半ばやけくそで撃った弾は脳天を直撃し、自爆する隙を与えずに少年は絶命した。
 ねじれるような倦怠感が全身を襲った。たまらずライフルを放り捨て、ふらふらとした足取りで少年の下へと駆け寄った。
 少年は息絶えたまま、虚ろに空を見上げていた。夢を見て、希望と共に死んだ少年。その憧憬にも似た瞳に反射して映った顔は、気取った現代アートのようにひどく歪んでいた。

救済

執筆の狙い

作者
124.100.127.19

短く纏めました。試作的に一人称を使わない縛りをしています。

コメント

hir
210.133.222.101

 これは、i、my、me、mineを使っていないだけの一人称だと思います。
 長々と苦悩している割にあっけなくヘッドショット、訓練の賜物でしょうか。
 ヘッドショットに気分を良くして意気揚々と死体の確認に行ったら、火薬は持っておらず脱走兵だと判明するほうが現代アートっぽくなりそうです。

アフリカ
49.106.216.211

拝読しました

hirさんの感想に引っ張られる感じで読んだのですが正にそんな感覚でした。

人称の認識が少し甘いかも……です

そして、オチの部分も正に同意見でした。

https://youtu.be/Av1UW0myxiA

眺めてみてください

上手いわ……と唸る筈です

白か黒か、どちらかわからない!
この緊迫感は物語の中で繰り返されるそれまでの刷り込みによってのみ働くもので、ポンッと投げられて感じたり出来るものではない気もします。

SSのまとめ方で出したいのであれば、尚更、肯定してからの否定でないと飲み込んだ時に味のしない料理のようになってしまうかもです。
積み上げた上での否定が僕は痺れてしまうかもです。

戦争ものでは古いけど

https://youtu.be/D1NfNE3GSO0

とか、戦うことの狂気が滲み出ていて好きです

https://youtu.be/J22-8Bu4mHw

とかも観てて苦しくなる良作だと思いました。

イヤー映画って本当に素敵ですね
サヨナラサヨナラサヨナラ

ありがとうございました

夜の雨
114.184.205.149

書いてある内容はわかりますが、もっと緊迫感とか主人公の思いとか書けそうに思いましたね。
細部の描写(心理描写も含めて)が少ないのではないかと思います。

少年は爆弾の付いたベルトを持っている可能性があるわけでしょう。
基地の監視塔から、マイクで呼びかけないのですかね?
「そこに止まれ!」と、持っているものをすべてその場に置かせてから、基地に近づければよいと思います。
そうすると基地にいる主人公の仲間も安全だし、少年も安全だと思いますね。

ということで、呼びかけても近づいてくるという設定にして、緊迫感を出したらよいと思います。

「気取った現代アートのようにひどく歪んでいた。」 ← このラストはよかったです。

九丸(ひさまる)
126.179.133.83

拝読しました。

週刊ヤングジャンプで「リクドウ」というボクシングマンガが連載されていました。その中で、最後に主人公が戦うイギリスの世界チャンピオンがこのお話と同じような場面に遭遇します。PKOか何かで派遣されていた戦地で、子供達が集団でにこやかに近づいてきます。怪しいと思いながらも誰もが発砲するのを躊躇します。でも激しい葛藤の中、チャンピオンは子供達に引き金を引きます。それは、祖国に残してきた愛する家族のために、目の前の子供達を殺してでも生きて帰るためでした。
仲間や基地を失うわけにはいかない。理由は分かるのですが、身内のために生きのびる強い意志の方が共感を得られやすいのかと思ったりもします。もちろん、仲間が身内だとの解釈でも構わないのですが、もう少し描写が欲しい気がしました。
文章から画はちゃんと浮かんできました。
人称については、僕も一人称だと思いました。
拙い感想失礼しました。

124.100.127.19

皆さま、感想ありがとうございます。人称の件は言葉足らずでした。一人称を用いない一人称ということです。一人称ではあります。心理描写を濃くしたほうが良いという意見が多かったので意識して遂行しようと思います。ありがとうございました。

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