作家でごはん!鍛練場
ぷーでる

シンラ

   今までのあらすじ

 奥秩父、三峰山北奥にある、異界の鏡村に女仙人のフチが住んでいた。
 ある晩、命を運ぶと言われる霊鳥が飛んできた。

 フチは、縁起の良い鳥が見られたので大変喜んだ。
 また、いつか会える事を願う。霊鳥が見られると良い事が起きるとも言われているからだ。

 それから、月日が過ぎて霊鳥が現れる事はなかった。
 しばらくして、フチの住む屋敷に一匹のネズミが侵入してきて
 茶菓子を盗み食いした。

 つまみあげるとネズミは青年に変化し、自分はシンラだといい大暴れしだす。
 フチは、何とかシンラを捕まえるとようやく反省した。
 シンラは、鏡屋敷の魂の温泉旅館で住み込みで働く事になった。

 数日は、大人しく働いていたシンラだったが再び調子づいてきて
 フチは、また激怒する事になる。



  1章 『シンラと大蛇の決闘』

 「やれやれ、とんでもない物の怪を雇ってしまった」
  フチは、シンラを連れ鏡村へ帰って来ていた。

  ―三峰山、北奥は夜になり、我神屋敷では、魂の旅館が開館する。
    夜空には、血の様に赤い月が輝きだした―

  三月三日は、ひときわ陰の活動が強まる。
  (三は巳→蛇(邪)という意味があり、昔の人は、この日を厄日とした)
 
 「どうした事だろう?いつもなら狼の咆哮が聞こえるはずなのだが―」と、フチは、顔が曇る。
 
  狼の咆哮のおかげで、悪い邪気の侵入を防いでいるから。
  五階屋敷の窓から、外の景色を眺めている。何かを、感じている様子だった。

  やがて人間の魂達が、来館し始めた。夜になると人が夢を見ると肉体から魂が抜けてやってくるのだ。
  「いらっしゃいませ、どうぞごゆっくり!」

  玄関で、営業員達が人間の魂客達を、出迎え招き入れる。
  「女将さん、いつもご美人で……」
  「あれぇ?シンラさんは?」

  玄関からわきあいあいと、入館して来た、客達の何人かがシンラの姿が無い事に気付く。

 「シンラさんは今、謹慎中でして―」
  美しい着物姿の女将が、申し訳なさそうに頭を下げた。

 「ええ~?俺達が、こないだ酒で、つぶしたせいですか?」
 「アイツがいると面白いのに~!」
 「だよな~他の営業員達と違って、何ていうか―」
  客達が、ガッカリする。
 
 「いえ、違います。どうかお気になさらずに―」と、女将は、頭を下げて客達を部屋へと案内した。

 「フチ様ぁ~!出してくださいーっ!」
  屋敷一階部屋に置かれた、ケージの中でダイコクネズミ(シンラ)がわめいていた。
 
 「駄目じゃ、シンラ。おまえは重大な損害を与えた!」
  フチが、ケージの中のダイコクネズミ(シンラ)を睨む。

 「でも、働かないとエサもくれないんでしょ?」
  ダイコクネズミ(シンラ)は、カラの餌箱を視る。

 「当たり前じゃ!」フチが、握り拳を、作って怒りに震える。
 「飢えちゃうよ!」ダイコクネズミ(シンラ)が、格子を握って鳴く。
 「おまえは、物の怪じゃ。その位では飢えぬ!」
  フチが、ケージの中のダイコクネズミ(シンラ)に指差して怒鳴る。

 「……」
 ダイコクネズミ(シンラ)は、ショボンとうなだれた。
 
「捨てられないだけ、マシと思え!捨てられたら、お前は路頭に迷い再び惨めな生活に戻るのだ。そして穢れていく」
 フチは、ダイコクネズミ(シンラ)を、ケージに閉じ込めたまま一階屋敷部屋を後にして、出て行った。
 
「捨てられたら、穢れるどころか喰われて終わりだ」
 ケージの中で、ダイコクネズミ(シンラ)は、自然界の厳しい掟を思い出し、悲しむのだった。

 赤い月明かりの下で、獣が唸っていた―
 陰の闇がネチネチと広がる―
 
 「左近、おまえの失態のせいで私まで……」
 「そう申されましても……」
 
  屋敷の裏庭で、茶狼(オス)とグレー狼(メス)が鎖に繋がれブツブツ文句を言っている。
  
 「シンラに、贅沢弁当を、買ってきてしまったせいで……」
  茶狼が、自分を拘束する鎖を忌々しそうに視る。
 
 「だからぁ~しょうがなかったんだよ!右近!」
  グレー狼は、鎖に繋がれたまま、ゴロンゴロンと、地面に、のたうちまわって反論した。

 「しょうもないも何もあるか!その結果、鎖で拘束されたんじゃないか!」
  
  茶狼(右近)とグレー狼(左近)が、
  フチの為に従っている間は、人間の姿だ。
  だが今は罰として、飯抜きされてしまった。
  その結果、霊力が削がれ無力狼に。

 「ああ、逃げたい!」と、グレー狼(左近)
 「現世に、帰る山なんて、今更残ってないぞ!」と、
  茶狼(右近)いつもの晩なら、二頭は月に向かって咆哮をしているが、
  今晩は、そんな気分ではナイ。

 「畜生~!」と、グチりまくりだ―

 魂の旅館は、赤い月夜の下で、灯りが付いて賑やかさを増す―
 四階屋敷の部屋で、人間客が二人、くつろいでいた。 部屋の片隅に、何故か一本の笛が置かれている。

 「あれ?こんな所に笛があるよ」
 「ほんとだ、どんな音が出るのかな?」
  二人は、酒が入っていたせいもあり、躊躇する事なく笛に手を出した。

 「なんか吹いてみてよ」
 「うん」一人が笛に口を付けた―
  何か、侘しくて暗い音色が出てくる。しかも寒気がする。

 「気持ち悪い音色だわ」
 「何コレ?」
  二人は、笛の置かれた所に、注意書きの紙に気付く。

  ―丑三つ時に、笛を吹かぬ事―

 二人は、部屋の十二支刻時計を視た。針は、丑三つ時指している。
 と、その時だった―

 「ホーホホホー!シンラはどこぉ~!」と、女の冷たい声が響いたかと、思うと部屋のふすまが邪悪な力で開いた。
 「ぎゃああああああ~!?」男二人が、悲鳴をあげた。

  開いたふすまの向こうにいたのは、赤と黒のマダラ大蛇(ヤマカガシのバケモノ)だった。
  胴体の太さは、30センチ程あり、長さは5m。そいつが、二つに割れた舌をシュルシュル口から、出し入れしている。
  さっき吹いた笛は、蛇をおびきよせる蛇笛だったのだ。
 
 「あ、あああああ……」
  男二人は、腰を抜かし声にならない。

 「ねえ、シンラを知らない?」
  大蛇は、縦になった瞳で嘲笑うかの様な目で訊く。
 
 「し、知りません……」(男二人、震える声)
 「え~、そうなのぉ~!」大蛇が、大きな口を開け喚く。
 
 「ひぃぃ~」(男二人が恐怖で抱き合う)
 「ねえ、それホント?」大蛇が、震える男の顔のそばへ、顔をジリジリと詰め寄った。
 
 「……!」(男二人、口を開け放心)
 「ならば、おまえを喰う!」
 
 大蛇は、鎌首もたげて、大きな口を開けると男二人まとめて、一気に飲み込んでしまった。

 「フチ様、大変でございます!大蛇がお客様を、食べてしまいました!」
  五階屋敷部屋にいた、フチに営業員の一人が血相変えて報告した。
 
 「な、なんじゃと~?」
  畳に座っていたフチは、仰天した。
 
 「はい、今、大蛇が屋敷中を這いずり回って大騒ぎに……」
  営業員の一人が、頭を下げ報告し続ける。
 
  「しかも、大蛇はシンラを、探している様なのです」と、営業員が顔を真っ青にする。
 
 「大蛇がシンラを……」
  フチは、謹慎中のシンラを、探している事を知り、しばし黙った。
 
 数秒して、フチは
 「それにしても、右近と左近は、一体何をしておったのじゃ!邪気を払う為に咆哮をするはずだったのに……」と、うめく。
 
 「フチ様、あの方たちは鎖に繋がれた事で咆哮の代わりに愚痴っていましたよ……」
  営業員は、こわごわ答える。

 「はっ……」
  フチは、その時になって、今晩に限って何故狼の咆哮が響かず、蛇が侵入したのか気付いた―
 
 「大蛇め、うまい事スキを、ついたな―」フチは、頭を抱えた。
 「とにかく、なんとかしませんと―」営業員が、オロオロする。
 「そうじゃな、わしらで何とかしよう!」と、言ってフチは、五階屋敷部屋を後にして廊下へ出た―

  階段を使って四階廊下へ出ると、廊下を、
  ニョロニョロと、進んでくる大蛇の姿があった。 
  
 「シンラは、何処だ!シンラを出せ!」
 大蛇が大声で口が、裂けんばかりに叫んでは、周りにいた湯治客達を、震撼させる。

 「ひいぃぃ~!」
 「きゃー!」湯治客達は、廊下を逃げ惑った。
 とんだ悪夢だ。息抜きして夢を見て、ここへ訪れたのに……
 
 「大蛇よ、シンラは、ここにはおらん!とっと、失せろ!」
  フチは、大蛇に向かって叫んだ。
 
 「あーら、嘘はバレバレよ!美味しそうなネズミの匂いは騙せないわ!」
  大蛇が、おーほほほっ!と嘲笑う。

 「ぐぬぬ……」フチは、言葉に詰まる。
 「アイツはね、陰と陽が、いっぺんに獲れる鬼神の魂。美貌と、
  スタミナ霊力よ!みすみす放置しておけるワケないわ」と言って大蛇は、フチに詰め寄った。

 「アタシは、腹が減っている。さっき二人分飲み込んだが、
  やっぱり足りない。女々しいから普通の男よりは陰要素は、含んではいたがな……」
 (体が男なのに心が女だと陰要素が強く、霊感大きいので魔物の好物となりやすく、霊視ができる事もある)

 大蛇が、廊下で逃げ回る人間客をジロジロ見回す―
 
 営業員達が「フチ様、ここで私達が足止めしますから、その間に策を練ってください」と言って、フチを先に行かせた。

 「うむ、分かった―頼んだぞ!」
  フチは、五階屋敷部屋へ戻って鍵をかけた。

 フチは、畳の間で術を唱えた。この危機的状況を打開するのは、何かと―空間に大きな鏡が現れた―
 「それは、シンラ様です―シンラは世を統括する者―」

  鏡が、そう伝える。
 「なんとー?あんな我がままネズミが何故―?!」フチは、呆然とした―

 「シンラ様は、穢れなき美しき神の魂―」鏡は、正々堂々と述べた。
 「やめてください、貪欲ネズミのせいで今ここは、危機的状況なのですっ!」
  フチは、思わず身震いした。

 「美しき神の姿は目には見えぬもの―」と、鏡は冷静に答える。
 「シンラは、畜生に過ぎないのだ」フチは、頭を抱えた。
 
 「それでは、フチ様が何とかしてください―私にはシンラ様でなければ救う手立てはないと信じております」
  鏡は、少し笑って言う。
 
 「なんじゃと?」フチは、慌ててワケを訊ねる。
  鏡はもう、うんともすんとも答えない。

 「はて、どうしたら良いものか―」
 フチは、頭をクラクラさせ、部屋を行ったり来たりした。
 部屋のランプの灯りが、ユラユラとしている中で―

 「もう、綺麗事を言っている場合ではなさそうだ!」フチは、決心した―
 「右近、左近解除!」と、言霊を放つ。

 屋敷の裏庭で繋がれていた、二頭狼の鎖が音をたてて外れて、地面に落ちる。
 
 「お、解除されたぞ?」グレー狼(左近)は、地面に落ちた鎖を見つめた。
 「だが、首輪は解除しなかったな」

 茶狼(右近)は、首輪をうっとおしそうにする。
 「おまえ達……」そこへ、立ちはだかったのはフチだった―
 五階部屋から、瞬間移動で来たのだ。
 
 「ははーっ、フチ様っ!」二頭の狼が、フチの前で土下座する。
 「仕事じゃ、シンラをケージから出して、大蛇を倒してもらうのだ―」
  フチは、二頭の狼に命令する……
 
 「ははーっ!……」二頭の狼は、忠実に返事をしたが―
  二狼は、いきなりバッタリ地面に倒れた。
 
 「何を倒れておる、バカモノ!」フチは、罵倒する。
 「申し訳ございません、飯抜きの故、霊力を使い果たしました」
  グレー狼(左近)が地面に倒れ、ヒイヒイと情けない声。
 
 「たっく~……これだから畜生は!」
 フチは、仕方なく豪華(料理の鬼神)に豚肉を持ってきてもらう。

 「申し訳ない!では、いただきますっ!」
 「私も、いただきます!」
  茶狼(右近)・グレー狼(左近)は、豚肉に食らいついた。
 
 「ガフガフ!」
 「ぐおっ!」
 二頭の狼は、歓喜のあまり唸る。食べ終えると―
 
 「うおお~霊力が復活しました~!」
 「ご馳走様でした~!」茶狼(右近)とグレー狼(左近)が感謝の雄叫び。
 「血なまぐさいのぉ~……」フチは、獣臭さに困惑した。

 
 屋敷一階の片隅で―

 「どうしたんだろう?何か、湿った匂いがする―」
 ダイコクネズミ(シンラ)は、ケージの中で、何か異変を感じ取っていた。
 
 「シンラ様~!」部屋の戸が開いて、首輪を付けた二頭の狼が入って来た。
 グレー狼(左近)の口には、弁当の包みがある。茶狼(右近)は、ケージの扉を前足で器用に開けた。
 
 「シンラ様、出て来てきてください」と茶狼(右近)
 「ありがとう、右近」と言って、ダイコクネズミ(シンラ)がケージから出る。
 
 「フチ様が、屋敷に、入り込んだ大蛇を倒せとの仰せでございます」
  グレー狼(左近)が頭を下げ伝えた。
 
 「この湿った匂いは、大蛇だったか―」
  ダイコクネズミ(シンラ)が納得し、青年姿へと変化した。

 「あそこのお神酒を取って、一口飲んでください」
  茶狼(右近)が部屋の隅―神棚に供えられたお神酒を顎で示した。

 「飲む?」シンラは、キョトンとする。
 「勝利祈願酒です。杯に一口分だけ注いでお飲みください」

 茶狼(右近)が、勧めるのでシンラは、神棚からお神酒を取ると杯に一口分だけ注いだ。次に飲む―

 「お酒に、お強いですね」グレー狼(左近)が感心した顔をする。
 「そう?」シンラは、飲み終えた杯を台の上に置いた。
 「そのお神酒は、結構強いので普通の方なら一口で酔います」
  茶狼(右近)が笑っている。

 「ええ?」シンラは、驚く。
  ―まあ、いいか。幸い何ともない様だし―

 「今朝から召し上がってないでしょう?これをどうぞ」
 「すまない、左近」と言って、シンラは、弁当の包みを受け取った。包みを広げると、おむすびが入っていた。
 「いただきます―」シンラが、おむすびを食べだすと、霊力が復活した。
 「お、具は豚肉だ」
 「トントン拍子に上手くいく事を願って、入れたのですね」と、茶狼(右近)が答えた。

 食べ終えてー

 「ご馳走様でした~」と、シンラは満足げになるが
 「ねえ、右近と左近。何で狼のままなの?」と、二頭に訊く。
 「首輪に、人間に変化するのを、防止するまじないがかけられているみたいなんです」とグレー狼(左近)が答える。

 「よし、外してやろう」
 シンラは、二頭の狼が付けている首輪を外そうと手をかけた。

 「ぎゃっ!」シンラの手に強烈な痺れが走った。
 「大丈夫でございますか?」二頭の狼が、心配する。
 「僕は大丈夫……ゴメン外せそうにないや」シンラが申し訳なさそう。
 「いえ、気持ちだけでもありがたいです」
  二頭の狼は、とんでもないという顔をしてシンラをなだめた。

 「シンラ様、神剣です」
  茶狼(右近)が何処から持ってきたのか、鞘に収まった神剣を咥えて差し出した。

 「え?これを……」シンラは、神剣を受け取り驚く。

 「普段、鏡山の宮殿に、奉納されているんですが、これを扱えるのは、シンラ様しか扱えない様です―」と、
  言うワケで神剣を手に四階屋敷へ向かう事に。

 「シンラ様、何処へいくのです?階段はこっちですが―」
 グレー狼(左近)がシンラは、部屋の縁側から出て行こうとしているので
 思わず声をかけた。

 「中の階段から行ったら、バレバレだろ?正面から行くバカがあるか」
  シンラは、呆れながら縁側から外へ出た―

 外は、相変わらず赤い月が闇を不気味に照らしている。
 陰が活動するのに相応しい環境だ。赤く怪しい光は夜空の星の輝きを滅ぼす。
 屋敷の裏側に、貧相な非常階段が五階まで続いていたのでシンラは、そこから四階を目指して駆け上がった―

 『ギシギシ……』(階段がきしむ音)
 「ちょっとヤバイ……?」シンラは、途中で心配になる。
  で、後ろを振り返ったら―

 「おーほほほ!みいつけた~!」
  何と背後から、階段を破壊しながら、大蛇が追いかけてきていた。

 「わっ?いつからいるんだよ!!!!!」
  シンラは、大蛇を攻めるつもりが、追いかけられていた。

 「ネズミが、部屋から出た時からよお~!」大蛇が嘲笑う。
 「だぁぁっ~?」シンラが絶叫。

 『ガラガラ、バリバリー』と、
  階段が崩壊して、遂にシンラの足元まで、崩れ去る……

 「さあ、お口に落ちておいでぇ~!」大蛇が、大きく口を開けた―
 「くっ!」シンラは、大蛇の口元へ落下していく―
 
 シンラは、咄嗟に神剣を抜いた―
 その時、大蛇の狙いがずれた―
 
 狼二頭が、大蛇の尾に咬みつき動きを止めたからだ。
 シンラが振り下ろした神剣が、大蛇の喉元から腹にかけて切り裂く―
 
 「ギャー!!!!」大蛇が断末魔をあげる―
  
  神剣によって、大蛇の腹が斬り裂かれた―
  黒い血が、辺りにほとばしる―
  シンラは、地面に足から見事に着地した―
  決着はついたかの様に見えたが……

 大蛇の身が切り裂かれると、中から何かがボテボテと、
 地面に落下した。蛇の腹から出てきたのは―大蛇に飲み込まれてしまった客達だった……
 
 「うう……?」
 「あ、シンラさん?」
 地面に転がっている、男なのに女っぽい人間二人。何があったんだ?という顔をして見ている。
 
 「あ、お客様?ご無事でしたか?」
  シンラは、妙な気分で受け答え。
 
 「ぐ、おのれ……ネズミ」
  大蛇は、腹を裂かれ黒い血を、流している。だが、まだ生きていた。

 「しぶといな、いやらしいぞ!」
  シンラは、神剣を構え直して大蛇を睨んだ。

 「それは、ネズミでしょうが……」
  大蛇が、シンラに迫ってくる。
 
 大蛇の腹が裂けていたのに、
 次第に閉じてくる。再生力が早い様だ。
 
 「何を根拠に……」
  シンラは、迫ってくる大蛇を睨む。

 「ネズミは子、甘えん坊……すぐに抱き付きたがる」
  大蛇が、ニヤリと笑う。

 「おまえ、ホントに嫌な奴だな……」
  シンラは、怒りに震える。

 「シャー……」と、声を出して大蛇が、シンラを睨んだ。
 「……」シンラは、何故か動けなくなってしまった。
  蛇は、金縛りの術が最も得意とする技だ。

 「シンラ、ネズミなのに牙があるね?」
  大蛇は、動けなくなったシンラを、ニヤニヤして不気味な目で食い入る。
 
 「く……」シンラは、声どころか、息すら出来ない。
 「何故だと思う?」大蛇は、動けないシンラのそばへ寄って来た。
 
 鎌首もたげて、シンラの顔へスリスリした。
 シンラは、口を開けたまま金縛りに
 かかってしまったので喉が渇いてきた……
 
 「それはね、私とシンラの両親が同じだからよ!」
  大蛇が、クククと笑った。

 『バカな!』
  シンラは、心の中で叫ぶ。

 「母蛇は子育てしないから、知った事ないでしょうけれど」
  大蛇がニヤリ。

 『僕は生まれた時の事は、覚えていないが母ネズミがいたぞ!』
  シンラは、心の中で叫ぶ。
 
 「卵から孵った時、私はすぐに自立できたけど、
  シンラは目も開かないネズミの子だったからねぇ~

  チィチィ泣いて甘え声を出して近くにいたメスネズミに
  助けを求めていたっけ……それが育ての母だ」
 
  大蛇は、バカにした目で嘲笑った。
  「……」シンラは、心の中の言葉すら失う。

 「母は加賀巳姫(カガミヒメ)、父は日之子ノ命(ヒノネノミコト)……」
  大蛇が、勝ち誇った様につぶやく。ミコト+巳(み)でかがみ、そして子(ネズミ)が誕生するのだ―

 『まさか?そんなワケないだろう!』心の中で、シンラが絶叫する……
 「そんなに、あたふめくってコトは、図星なのね」

 大蛇は、動けないシンラに、スリスリしている。
 冷たくて、ヌルッとした鱗が、頬に触れ、ゾクゾクと寒気が襲う。
 
『父が蛇を好きになるなんて……?ありえないよ。それに、蛇と姉弟だったなら、何で僕を喰おうとする?』
 
 シンラは、自分が蛇の卵から生まれたなんて、
 ショックな気分だ。それが更に、金縛りをひどくする。
 
「母は絶世の美女だったわ、惚れられて当然。姉弟なら喰わない?
 人間の心なら、そうなるけど物の怪は違うのよ。弟は、霊力を補う為の魂よ!」
 
 シンラは、顔が真っ青になった。
 
「母が、蛇の血を、シンラに入れてくれた事に感謝だわ。子住巳(ネズミ)に生まれた事で、蛇好みのいい匂い~」
 大蛇は、シンラに絡みつき始めた……グルグル巻きにしていく。
 
 「なるほど、陰が強いのはその為であったか」
  いつの間にか、フチがその現場へやって来ていた。シンラは、
  フチが冷めた目で巻かれて行く自分を視ているのに、気付き愕然とした。
 
 「シンラを招き入れたせいで、大蛇が寄ってきたのだ……」
  フチが、腕を組み考えていた。

 何か良くない事をしそうでシンラは不安だ……というか、もうじき自分は大蛇の餌食に……
 
 「フチよ、待っていな。ネズミを頂いてからここを北西本拠地にある魔界の地区としてあげるから……」
 大蛇は、忌々しい笑みを、浮かべシンラを締め上げ始める。

 「……!」
  シンラは、息も出来ず、声のないうめき声をあげた―
  ヌルリとした冷たい、蛇体の中で気分が悪い。
 
 『フチ様、僕は好きで、こうなったのではありません……』
  シンラは、締め上げられ、薄れゆく意識の中で訴える。

 「シンラが望まなくとも、邪心(蛇心)の血が入っているのだ」
  フチは、冷たく言い放った。
 
 その時だった「ガウッ!」と、
 唸って二頭の狼が大蛇に咬みつく。

 「おまえ達……助けるのか?」
  フチは、少し怪訝だ。

 「当たり前でございます!今鏡村を、救えるのは、この方しかおらぬのです!」
  二頭の狼は、激しく、大蛇に咬みつき振り回した。大蛇から、黒い血が噴き出す……
 
 「ぐはっ……」
  大蛇が苦しくなった様だ。遂にシンラを放す。
 
 シンラは、地面に投げ出され転がった。「はぁ!」と叫んで金縛りが解け、起き上がる。
 
 「シンラ様!大丈夫でございますか?」と、二頭の狼が駆け寄った。
 「ありがとう、助かった……」シンラは、救われてホッとする。

 大蛇は、再び体制を直すと、鎌首もたげて襲いかかる。
 シンラに睨みをぶつけて金縛りにかけようとしたが、二度もかかるほどマヌケではなかった。
 
 大蛇が、大きく裂けた口で襲い向かって来ていた。
 シンラは、大蛇のアゴめがけて神剣を槍の様に飛ばす。
 ぐさ……っ(神剣が大蛇のアゴ下に刺さる音)
 
 「……!」大蛇は、下アゴと上アゴにまで神剣が貫通した。
 上下貫通した事で、大きく開いていた口は閉ざされる。
 
 「殺れ、右近、左近!」
  シンラが戦闘準備体制に入った、狼達に命令を下す。二頭の狼は、戦闘不能に、なった大蛇に襲いかかった。

  右近と左近は、ここぞとばかりに大蛇に喰らいついた。もう口を開ける事も
  出来ないのだから、後は殺るだけなのだ。
 
 「ガーッ!」
 「ガガガガ!」
 (二頭の狼が、唸り声をあげている)
 
 大蛇は、くねって、もだえ苦しむ。両アゴに刺さった神剣を抜こうと
 暴れるが余計に深く刺さった。その間に、二頭の狼の牙の猛襲が続き大蛇の身は裂かれ、黒い血が噴き出た。

 「いい気味だ、苦しめ……」シンラは、大蛇を睨み微笑した。
 『おのれ!ネズミがっ……許さぬ、許さぬ!』今度は、大蛇が心から訴えた。
 「シンラ……まさか、おまえがここまで恐ろしいとはな……」

 その様子に、フチは思わず震撼せずにいられない。
 やがて、大蛇はあまり暴れなくなった……

 シンラは、グッタリした大蛇のそばへやってくるとアゴに貫通した神剣を、
 抜こうとした。ところが、なかなか抜けない。シンラは、大蛇の下アゴに足を引っかけて、更に強く引っ張った。

 「クソッ!抜けねぇよ……」シンラが、イラッとしていると……
 「我々も手伝いましょう!」
 
 二頭の狼が、大蛇の頭を咥え、引っ張った。と、その時だった―
 ズボーッ……と神剣が勢いよく抜ける。と、同時に大蛇のアゴから黒い血がズバズバ吹き出た。
 
 シンラは、大蛇の噴き出る黒血を、浴びて―
 神剣を抜いた衝撃で後ろに吹っ飛んだ。二頭の狼も同時に吹っ飛ぶ。
 
 「シャアアアァァッ!」と大蛇が叫んだ。
 何と大蛇が黒血を流血させて、赤い月夜に舞い上がっている。

 蛇体をうねらせ「覚えていろ、誰かに憑依してでもお前を喰う!例え、貴様が転生しても」と。
 赤い月をバックに舞い上がった大蛇は、やがて落下する。
 
 「おお?マズイ!マズイぞ!」フチが落ちていく大蛇を見て叫ぶ。
 「え?どういう事!」シンラは戸惑う。
 「シンラ、大蛇を鏡池に落としてはイカン!」とフチ。
 「……」シンラは、言葉がない。
 「追え!大蛇を……」フチは、シンラをせかす。

 シンラは夜空を見上げながら、落ちてくる大蛇を追った―
 しかし、戦った後で走るスピードが出ない……大蛇のヌルヌルと黒血を浴びた、ダメージも重なったからだろう。

 鏡池までやって来た時、大蛇は不吉な笑みを浮かべ、
 「おお、これは汚しがいがあるでな!ウフフッ!」と、
 冷笑を浮かべて、鏡池に落ちていった……
 シンラは、呆然とその様子を見送る……

 今まで鏡池は、名のとおり鏡の様に透き通り美しい池だった―
 昼には、日と青空、白い雲が映る―
 夜には、月が映る―

 だが―
 大蛇が、鏡池に落ちた時、異変が起こった。
 
 大蛇が流す黒い血で、鏡池はジワジワと黒ずみ始めた……
 腐った様な異臭が漂い始める……
 
 もはや、鏡池ではない。穢れたヘドロ沼になってしまった。
 現世へ、魂を送る命の泉なのに、これでは多くの魂は病んでしまう。

 シンラは、ハッとして鏡池に、落ちた大蛇を拾おうと飛び込もうとした。
 その時、道着の裾をくわえ止めた者がいる。

 「もう手遅れです、シンラ様―」
  振り返ると、四目だった。
 
 「……」
 「帰りましょう、皆が心配しています……」
 「僕の事、心配する人いるの?」
 「いますよ」
 「穢れていても?」
 「シンラ様は、自覚できるからいいんです」
 「ごめん」
  シンラは、四目の後を付いて行った。



   2章 海で禊

 「あれ?鏡屋敷と、反対方向だ、四目……」
  シンラは、四目の後を歩いて行くと、更に東へと向かっている事に気付いた。

 「シンラ様は、大蛇の血で、穢れてしまいましたので―」
  四目は、歩きながら説明した。

 穢れたままでは、帰れないとの事だった。
 どんどん進むと潮風の匂いが、鼻をくすぐる。
 やがて、水が押し寄せる音が耳に飛び込んでくる。
 森がひらけ、砂地が足に沈む。更に前へ行くと、目の前に海が見えてきた。
 
 「ここは―」
  四目とシンラは、目前に広がる海を視て立ち止まった。
 
 「朝日が昇ったら、海で禊(巳削ぎ)をしてください」
  四目は、浜に座って尾を振った。

 シンラが水平線を見つめていると、ほのかに明るい日が差してきた。
 赤く燃える陽の星が、海の彼方から昇ってくる。

 シンラは、それを合図に、波打ち際に足を入れた。
 陽光は、闇の偽りを滅ぼし、海水は生粋の魂を、復活させる。

 「うひゃ……冷たい!」
 シンラは、飛び上がりながら禊を開始した。
 
 水の冷たさに震えながらも何とか禊を終えた。
 着替えと手ぬぐいは、グレー狼(左近)が持ってきたので体を拭き、新しいのに着替える。
 
 「う~寒い~!」シンラは、顔が真っ青。
 蛇の血を半分貰っているせいで変温体質なのだ―
 だから、本当なら四目やグレー狼(左近)に抱き付いて毛浮毛浮(モフモフ)して温まりたい。
 だが、この二頭も海に飛び込んだので濡れて冷たいのだ。
 
 「早く帰りましょう」
 二頭と一人は、走っていく……森の中へ入って行くと?
 
 「くーん、くーん」
 「ありゃ、こんな所に子犬が……」
  シンラは、立ち止まって、足元を見ると小さな子犬が鳴いていた。
 
 「迷い犬ですね……」と四目。
 「これはラサ・アプソです」とグレー狼(左近)
 「うん、これはちょうどいい」シンラは、子犬を拾うと抱きしめた。
 フサフサの毛がぬくって気持ちいい―

  海岸森を抜けた先へ、出たら今度は、何だか黒いモコモコが、飛び跳ねていた。
 「なんだ、あの黒い毛玉?ヤケに弾んでいるな!」

 黒い毛玉が、シンラの足元へ、弾み飛んできた―
 新手の妖怪かと目を、凝らしてみると、目と鼻もあり口もあった。シッポもあって、ぶんぶん振っている。
 
 「シンラ様、ブラック・プードルの子です。一応、犬なんですが」
  四目は、笑って答えた。
 
 「これが犬か!面白い奴だ、コイツも連れて帰るぞ!」
 シンラは、さっきまで、沈んでいたが子犬二匹の登場で、気分が良くなりウキウキして、足取りも軽くなった。
 腕の中で、二匹の子犬が仲良く納まっている。
 
 我神屋敷に着いて、フチは、犬二匹が増えた事に呆れていた―
 
 「ラサとパセリか―で、ラサは分かるが、何故パセリ?」
 フチは、黒玉が、部屋で跳ねているのを見つめている。

 「野菜のパセリって、モコモコしているじゃないか」
  シンラが、笑って答えた。

 「単純だな―シンラお前が、面倒みなさい……」
  フチが、そう伝えた時……

 「いえ、私がお世話いたします」
 「シンラ様は、小さいので」
 子犬のラサとパセリが、きっぱり答えた……

 シンラは霊力が切れて、いつの間にかネズミになっていた。
 ネズミは、ラサとパセリと、一緒になって楽しそうにじゃれ合っている―


   
   3章 大蛇の憑依

  シンラに倒された、大蛇の魂は怨恨となって下界に降りてきた。

 ―誰か、妬んでいる者はいないか―?
 フラフラと浮遊する大蛇の怨恨は、憑く人間を探している。

 「ああ、陣内さん。どうして私を見捨てたの?」
  女が、公園の木陰で涙を流していた。

 「どうしたのだ?幸代」大蛇の怨恨が、女に囁いた。
 「え、誰?どこ?」女は、辺りを見回すが誰もいない。
 「幸代の心の隙間にいるのだ」大蛇の怨恨が、クスリと笑った。
 「え……?」
 「幸代の魂の中は、スキマがあって冷たくて居心地が良いのだ」
 「……」
 「なるほど、愛する男が他の女と婚約したのだな」
 「何故、分かるの?」
 「アタシは、幸代と一心同体だからね」
 「あなたは、何をする為にきたの?」
 「お前の望みを叶える為だ」
 「陣内さんと、やり直せるの?」
 「もちろんだ」幸代は、それを聴き思わず微笑した。

 木陰から出てきた幸代は、陣内の婚約者である美和に近付いた―
 美和の婚約指輪を強引に奪い取る。
 
 「返して!」美和が悲鳴をあげた。
 「あら、そんなに大事なモノ?」
  幸代は、意地悪く笑って、婚約指輪を投げ捨てた。
 「いやぁっ?」
  美和が叫ぶ。
 
 投げられた婚約指輪は空高く飛んだ。
 落下したかと思うと、地面を転がり穴の中へと落ちていった―
 
 幸代は、その様子をニヤニヤして、
 いい気味だとばかり喜ぶ。その目付きは、完全に大蛇のものであった。
 
 「ふふふ……」
 幸代は、人の不幸の蜜を味わって満足げに公園を去って行った―



   4章 霊鳥が再び現れた

 フチは仙人から、人間のお婆さんに変化した。
 シンラは小さな孫(5歳児位)に変化させると、一緒に、異界の鏡村から現世へ出かける。

 雲一つ無い青空の下―

「おや?あの人、涙を流している」
 シンラは熊谷運動公園のベンチで、座って泣いている若い女性を見かけた。
 長袖ブラウスを着て、ロングスカートを履き足にはシックなハイヒール。

 シンラは物陰に隠れて、五歳児から爽やか系青年に変化。そのうえ、今流行りのお洒落なファッションにしてきた。
 
 「初めましてお姉さん、僕はシンラです。いかがなさいました?」
  シンラは、前に進み出て、泣いていた女性にキザな態度で声をかけた。
 
 「これっ、シンラ!何を考えておる?」
 フチは慌てて、シンラを制止した。
 
 「あ、いやね、美青年になった方が、慰めになるかと思ってさ。
  それに可愛いし美人だから出来れば、僕の彼女にしたいなーと思って!」
  シンラは、ニコニコと照れくさそう。
 
 「バカモン!おまえはネズミ。彼女に出来るわけがないだろう~?」
  フチは、呆れ果てて激怒し、モチをつまむ様に、シンラの頬をつねった。
 
 「痛っ?でも、愛していると言えばいいじゃないか!」
 「それは、愛ではない」フチは、冷めた顔。
 「違う?」シンラは、悩む。
 「当たり前じゃ、自分の欲求を相手に、押し付けるのが愛だとおまえは思い込んでいるではないか。愛が全然こもってないよ、あるのは貪欲だけ」
 
 フチはシンラが、またネズミの本能に、
 おもむくままに行動してしまっていると思う。
 それで、フチは泣いていた、女性に歩み寄る。
 
 「どうしたのかね?そんなに悲しそうに泣いて」
 「実は婚約指輪を穴に落としてしまったんです!どうしよう、彼になんて言ったらいいのかしら?」
 女性は、オロオロとしていた。
 
 「おやまあ、可愛そうにのう」フチが女性を気遣う。
  その様子を見て、シンラは愕然とした。

 「婚約?そうか男がいたのか。でも待てよ、婚約指輪をなくしたって事は、まだ僕にもチャンスはあるかな?」

 「シンラ、ネズミと人間は結婚出来ないんだよ」
  シンラの気持ちを知った、フチが現実を教えた。

 シンラは、悲しくなる。何でネズミなのに、
 人間が好きになる?と。自分でも、何故なのか分からない。

 「何処の穴に落としたんですか?」
  シンラは再び気を取り直し、女性に聞く。
 
 「あの穴よ、深くて手が奥まで入らないから拾えないの」
 女性が指をさした地面を見ると、雑草の陰に小さな穴が開いていた。 

 「でも大丈夫。僕なら拾えます!だから、ちょっと待ってください」
  シンラは、物陰に隠れて元のネズミに戻ると、草ムラに隠れながら 進み指輪を落とした穴に入って行った。
 
 「やった、丁度入れる!」シンラは思わず嬉しくなる、
 
 ネズミに生まれたのはきっと、この日の為だったに違いないと運命を感じる。
 穴に入ると早速、指輪を探して奥へ奥へと進む。
 
 穴の中は結構曲がっていて深い。随分、奥まで指輪は転がってしまった様だ。
 隅まで行って要約指輪を発見。指輪はキラキラ光っていて、綺麗なサフィアだった。
 
 「これをプレゼントした男は相当、あのお姉さんの事を愛しているんだ。さあ、あとは渡すだけだ!」
 ネズミ(シンラ)は指輪をくわえると、急いで穴を出て、物陰に隠れ青年に変化しようとする。
 
 「うっ?駄目だ!」ネズミ(シンラ)は、青年に変化出来なかった。
 『ネズミでは、指輪をお姉さんに渡せない!』
 
 「ははは、霊力を使い切ってしまったんだね。ではワシが代わりに行って渡してきてやるよ」
 フチはネズミ(シンラ)から、指輪を受け取ると、待ちわびる女性の元へ行った。
 
 「ほら、取れたよ。良かったね」
  フチが、女性に優しい顔で指輪を渡した。
 「まあ、ありがとうございます!」
  女性は泣いて喜んだ。
 
 「ああ、良かった」
 ネズミ(シンラ)は心からホッとする。
 石の影から、その様子を見守っていた。
 
 すると、そこへ「美和さん!」と声をかけ、男が駆け寄って来た。

 『あれが婚約者か』
 ネズミ(シンラ)は、フチの足元にある石陰から、じっとその様子を見る。
 駆け寄って来たスーツ姿の男は、美和の婚約者の陣内だった。

 「結構、仲がいいじゃないか」
 ネズミ(シンラ)は、その様子をもっと見たくなって次第にそばへ寄る。

 「キャア~ッ、陣内さん私ネズミ嫌いーッ!」
 美和は悲鳴をあげた、二人がネズミに気付く。
 シンラは二人を よく見ようとして、ネズミの姿を現してしまった。
 
 「チッ?」ネズミ(シンラ)は、見られてしまって、『しまった!』と思った。でも鳴き声しか出せない。
  陣内は公園の物置の壁に、たてかけてあった、デッキブラシを掴むと、それで思いっきり、ネズミを叩いた。
 
 「チィ~ッ?」
 ネズミ(シンラ)は、哀れな声で鳴いて、動けなくなる。
 フチは、その様子に気が付いたが、どうしようもなかった。
 ネズミ(シンラ)は、叩かれてから、今頃になって青年の姿に変化した。
 
 それも、ボロボロの傷だらけの姿になって。
 ただ、それもかなり弱い霊力だったので青年の姿に見えたのは、
 女仙人のフチだけだった。人間にはシンラが死にかけた、汚いネズミにしか見えない。
 
 「あ、あの野郎~誰のおかげで、この愛が結ばれたと思っている?」
 シンラは、瀕死の状態で、うつぶせに倒れている。皮肉な結果に怒り震え、
 自分がマヌケ過ぎると、トホホと笑う。愛する人の為と頑張った結果、半殺しの報いを受けるとは。
 
 「おやまあ、なんてこった!」フチは、どうしていいか分からない。
 ちなみにこの会話は、陣内と美和には聞こえない。
 
 「フチ様~もう僕、駄目です」
 シンラは、涙目になって訴えた。
 
 「駄目って……」
 フチは、シンラに死が近い事を察した。
 
 「ネズミで生まれたけど、それでも良かった。だから、もっと生きていたい」
 シンラは、段々呼吸が荒くなる。
 
 「そうか、それでも生きたいか」
 フチは、シンラの言葉に驚く。こんな惨めな思いをしても、そう思うなんて、一体どういう事なのだろう?だが、シンラのそん な願いも通じるわけもなく、やがて息を引き取った。

 公園の清掃係のおじさんが現れた。死んだネズミを見つけると軍手をした手で拾い、ゴミ袋に入れ持って行ってしまった。
 
 「シンラ、おまえは変わり者だが、いい奴だった」
  フチは、素直にそう思った。清掃係のおじさんを、見送った後……
 
 「お婆さん、ありがとうございました。おかげで私達結婚する事が出来ます」
  美和は嬉しそう。
 
 「何か、お孫さんもいたらしいけどその人、今、何処にいるの?」
  陣内が、周りを見回す。

  フチはそれを聞いて思わず心の中で苦笑いする、
 今頃、清掃車の中で、ゴミとともに、アイツは回っている。
 陣内は、まさか自分が叩き殺したネズミが 孫だったなんて知るよしもあるまい。
 それで今は、ちょっといない事を伝えた。
 
「そうですか、じゃあ後でよろしく言っておいてください」
 美和と陣内は、そう言うと幸せそうに歩いて去る。
 フチは、何だか複雑な気分で現世を後にした。

 その時、幸代が公園に戻り、その一部始終を視ていた―
 ―己……シンラめ。
 「そうがっかりするでない、幸代。良い方法があるぞ」
 「そう、それならいいわ」
 幸代は、ニッと笑って公園を後にして蛇の様に音もなく去った。
    
 その晩、鏡村に再び霊鳥が飛んできた。
 「おお?」と、フチは感激する。あんなにも待ち焦がれていた霊鳥が
 やっと現れたのだから無理もない。やがて金色と虹色混じりの光が降りてきた。
 
 「フチ様~!僕だよ。シンラだよ!」
  金色の光の中から、シンラが現れた。
 
 「何で霊鳥が、ネズミになってしまうのじゃ?」
 フチは仰天した、神聖な霊鳥から、あの図々しいシンラが出現するとは?
 だけど霊鳥こそがシンラの化身だったのだ……
 
 「霊鳥は、神聖で穢れがないけど、
 地上に降りると魄〈はく〉(月の光・落ちこぼれ・肉体・陰)と魂(光・希望・精神・陽)の合体。陰は地球、陽はエネルギー。闇と光の組み合わせで命になる」
 
 「エライ、ギャップじゃ!」
 「まあまあ、聖なる星は地上に堕ちて、命になるワケですから」
 「結局、命あるものには欠点ありというわけか」
 フチは、シンラの態度には呆れ果てる。
 
 「最後に頼みがあります、この我神(かがみ)のペンダントを心のある人間に渡してください。
 今度、生まれ変わる時の魂の器です。これを受け取った人間が僕の親になります」
 
 フチは、シンラから、受け取った我神のペンダントを見ると
 鏡の裏にアメジスト・ブラッドストーン・ダイヤモンド・エメラルド・
 サファイア・トパーズ・オパールの七種類の誕生宝石が、はめられていて五行の星の彫り物がついている。
 
 「生まれ変わったら、今までの事すべて記憶がなくなるぞ」
 「前世を忘れてこそ転生だから。それじゃ僕は旅へ戻ります」
 
 シンラは再び、金色と虹色の光の中へ消える。霊鳥になって空高く飛翔して、
 満天の星空へと去る。流星となり七色星となって輝いた。

シンラ

執筆の狙い

作者 ぷーでる
157.65.82.154

かなり前に投稿した小説の続編です。
それで、今までのあらすじを最初に付けました。

作品内容ですが、主人公がヒトではなくネズミの妖怪です。
1章は、大蛇と決闘のシーンを書きました。

異界の鏡村は、大正時代っぽい光景をイメージして
現世の世界は、昭和30年代位?の光景にしてあります。

途中から始まる作品ですが、今回投稿してみる事にしました。
読者さんの意見を元に、作品を少しでも面白くできたらいいなと思います。

コメント

上松 煌
153.203.103.215

拝見しました。

  >>かなり前に投稿した小説<<

 覚えてますよぉ。
あなたに
「シンラって、森羅万象のシンラ?」
と質問しましたよねw


あなたらしいちょっとユーモアのある語り口で、おれとしてはヤマカガシのキャラが好きです。
口調とか、敵役で憎まれ役なんだけど憎めない、バケモノのくせに明るい独特の雰囲気がいい。

 読者年齢は小学校4~5年から上でしょうかね。
子供たちの中にもファンができるんじゃないかな。

ただ、長いのね。
今の子は集中力に乏しいので、蛇が現れて撃退され、それでも池に落ちるという目的は果たすという一節としては長尺では????と思いました。

 語り口は慣れた感じで問題なしです。

ぷーでる
157.65.82.154

上松さん、ご感想をありがとうございます。
あと前回、投稿した事も覚えてくださってありがとうございます。

読者年齢は小学校4~5年から上でしょうかね。
子供たちの中にもファンができるんじゃないかな。

> 他の小説投稿サイトで、連載している作品です。
  実際、子供からの感想もコメントは、たくさんもらってるんですよ。
  学校の授業中に読んで、感想コメ送ってきたらしいコには、少々参りましたが(笑)

ただ、長いのね。
今の子は集中力に乏しいので、蛇が現れて撃退され、それでも池に落ちるという目的は果たすという一節としては長尺では????と思いました。

> 自分でもそれは、思いました。実は、何度も改稿して、これでもずいぶん短くなった方なんです。
  他サイトで連載してるのは、更に細かく章分けして短文になっています。
  改行も増やして、メールの様な文面にもなっているんです。
  
  5年以上も続く連載モノで、この話はまだ続きがあるのです。
  投稿後も、書き直しができるので、書き直しながら続けています。


語り口は慣れた感じで問題なしです。

> ありがとうございます。

加茂ミイル
118.19.12.51

何だか、壮大な叙事詩といった印象を受けました。

文体は何かルールに従っているのでしょうか?

ぷーでる
37.120.154.82

加茂さん、コメントをありがとうございます。

何だか、壮大な叙事詩といった印象を受けました。
> 何を思ったのか、太陽の法は、難しいけど、こっちの方が理解が出来たというコメをくれた方がいます。

文体は何かルールに従っているのでしょうか?
> 特にナシ。

随分昔だけど、会社の同僚に、自分の書いた小説を見せてあーだこーだ話しているうちに
お互いに音読しあったら、「なんだこりゃ~?」みたいになって
どんどん、それにそって文体が形成されていった……のかもしれない。

加茂ミイル
118.19.12.51

>会社の同僚に、自分の書いた小説を見せてあーだこーだ話しているうちに

同僚に読んでくれる人がいるんですか。
リアルで読者がいるのは心強いですね。

ぷーでる
157.65.82.154

加茂さん、再訪ありがとうございます。
読んでくれた同僚って、最初は、超仲が悪くて、ケンカばっかりしていた相手なんですよ(笑)

えんがわ
165.100.179.26

あー、この小説、自分にはちょっと合いませんでした。途中でギブアップでした。

全体的に絵のついた漫画や絵本なら、楽しめれそうな気がします。
反対に、文字だけの小説だと情報が不足していて、文字から絵が浮かばず、良くわからないまま進行しています。
テンポが良すぎるのも加わって、ちょっとその素描のスピードに振り切られてしまった。
たとえば玄関とか、どんな空間なのか色なのか雰囲気なのか、ぷーでるさんにはあると思うんですけど、それが文字としては現れていないので、どうも共感しにくいです。
全体的に描写が薄い気がします。これは自分の好みなんですけど。

一方で、こういう作風も現代にはあるのかなとも思っていて、それはそういうのになじめない自分の趣向の狭さに、ほんとうに腹立たしく、申し訳ないです。


途中で止めたポイントはここです。

 「ガーッ!」
 「ガガガガ!」

擬音にしてもオノマトペにしても、どうも自分にはしっくりしません。余りに少年漫画過ぎて小説だと安っぽくなっちゃうんです。

このようだ童話とオノマトペで卓越しているのは、自分の知る限り、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」です。
オノマトペが軽さを生むとともに、詩的なムードも作っていて、スゴイです。
「銀河鉄道の夜」は青空文庫にも収録されているので、ご存じだと思うのですけど、もう一度改めて読んでみては?
ぷーでるさんの作風とは違うでしょうけれど、違うからこそ、何かしら得ることのある古典だと思います。

なんか、悪徳セールスみたいな感想で、すいません。
最後まで読んで感想を入れるべきなんでしょうけれど、なんとなく、読めなくて。無理やり読み進めても違うだろうし。

ぷーでる
157.65.82.154

えんがわさんコメントを、ありがとうございます。


あー、この小説、自分にはちょっと合いませんでした。途中でギブアップでした。
> いえいえ、別にいいんですよ。


全体的に描写が薄い気がします。これは自分の好みなんですけど。
> そうですね、描写はかなり薄いと思います。描写は苦手です。
  ただ、細かく書くと今度はうっおしい文字列になったりしてしまうので、その加減が難しいです。
  それでも、背景描写を上手く書けるようになればいいな~と自分でも思っています。


一方で、こういう作風も現代にはあるのかなとも思っていて、
> ありますね。あまりたくさんの情報が入った文章を嫌う読者が増えているので
  あえて単純化した書籍も最近、出ています。漫画でも、背景を消して、キャラだけにしたのまで出ています。

 

 「ガーッ!」
 「ガガガガ!」

擬音にしてもオノマトペにしても、どうも自分にはしっくりしません。余りに少年漫画過ぎて小説だと安っぽくなっちゃうんです。
>ライトノベルは、恐らくそれに近いですね。
 純文学的な小説を好む人には、芸術性を無視した子供だましと感じてしまうかもしれません。
 私が書いているのは、ライトノベルではありませんが、エンターテインメント系です。
 重い内容より、軽めな感じになります。

近年、本が売れないというのは沢山の情報が詰め込まれた文章が読めない読者が増加した事が原因という
専門家までいるくらいです。特に若い人ほど、細々書かれた、文章を根気よく読む人が減っている様です。

逆に年齢層がお高めの人は、根気があるので細かい情報が多い文章の方が読みやすいのです。
作家でも、年が高めの人はより背景描写を細かく描いて、理論的に書き上げている様な気がします。

「銀河鉄道の夜」は青空文庫にも収録されているので、ご存じだと思うのですけど、もう一度改めて読んでみては?
>そうですね、読み直してみようかな?確かに良い話なのだけど、細々した表現は、読んでいてちょっとキツイなと
 感じた記憶が。

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