作家でごはん!鍛練場
水城 うみ

鬱金香の錨

5年ぶりの同窓会の知らせ葉書は、鉛のように感じた。
5年前の約束、といえば聞こえがいいかもしれないが、僕にとってはただの鉛製の錨のようなもの。
錨を引き抜くには、行かなければならない。
御欠席の文字を引っ掻くように二重線で消し、コンビニのポストに入れた。

「久しぶりやな、塚本君。」
喧騒が凄まじい居酒屋で、男のくせに変に高い声は、よく通る。
「そうだね。」
「やっぱり、上京すると方言って抜けるもんなん?違和感すごいわ。」
「まぁ、5年だし。でも、どうしたの?別にそんな仲良いわけじゃなかったから、声かけられるとは思わなかった。」
「まぁ、俺とは仲良くなかったけんね。でも美里とは仲よかったやろ。」
やはり、出てくるだろうと思っていた名前に、さっきまで温く感じていたビールが、ひやりとした。
「鎌崎さんは、今日は来てないみたいだけど。二人は、まだ続いてんの?」
「んー、続いてたらよかったんやけどね。」
「……別れたんだ?」
「いや、別れてもない。」
「どういうこと?」
「もうこの世にいない人間とは、別れてなくても、まだ付き合ってるかもわからんやん。」
「は?」
「2年前にね、事故で。」

母校の文化祭の日の夕方。俺は、ちょっと用事があって行けなくて。美里は、一人で高校に行った。通学路の信号がない横断歩道を渡っていた、美里に気づかず、軽自動車が突っ込んだ。頭の打ち所が悪かったせいか、そのまま帰ってこなかった。
宮前君は、淡々と僕に話した。上京をしていたし、彼女と僕は、お互いに着信拒否をしていて、連絡を取っていなかったせいか、葬儀には呼べなかったとも言った。

「今日さ、命日なんよね。偶然っていうか、俺が幹事やけん、この日にしたんやけどさぁ。なんでと思う?」
「……さぁ。」
「君と美里が最後生きていた所まで、いこうと思って。」
死んだ、という言葉を彼は使わない。
これが、彼女への愛情からか、自分が向き合えない死だからかは、僕にはわからない。でも、そのせいで僕の中では、彼女の死が現実味をおびない。
それがなんだか、しゃくに触った。

飲み会が始まって、1時間もしないうちに僕ら二人は上着を羽織った。
もう一人の幹事は、少し怒っていたけど、すんなりと僕らを見送った。宮前君の人柄のお陰だろう。
鹿児島本線、東郷駅。
5年前はまだ、工事をしていた駅の景観は完成していて、すっかり新しくなっていた。
田舎だからか、あまり変わらない道を二人で並んで歩いた。
車道側を歩く彼の横顔を見て、思う。
5年前、二人はこの道を週に一度ほど共に歩いていた。
僕と宮前君じゃなくて、宮前君と鎌崎さんの二人だ。
自転車を押しながら、宮前君は車道側を歩いていた。
彼女が見ていた横顔は、こんな景色だったんだろうか。
3分ほど歩いた所の、横断歩道。
事故があったせいか、以前は無かった信号が付いている。

「……花とか、添えなくていいの?」
「美里はさ、チューリップが好きなんよ。今の季節は出回っとらんけん。」
答えになっていない答えだ。
「僕は、手でも合わせればいいの?」
「そうしたいなら、そうし。」
横断歩道の縞模様を見つめたまま、彼は言う。
手を合わせる資格が僕にはあるのか、義理はあるのか、そんなことを考えて、結局タイミングを逃したように感じた。
「なんで、僕を連れてきたの?」
「……。」
彼は、答えなかった。
僕も、問い詰めようとしなかった。
「これ、やるわ。」
手渡されたのは、桜模様の封筒。
「最期に、美里の鞄に入ってた。」
見覚えしかないその封筒に、目を落としたままの僕に宮前君の言葉が小雨のように注がれる。
「美里はさ、横断歩道の白い所だけを渡るのが好きなんよ。知っとった?」
そう言いながら、白い部分を踏んで彼が歩む。
その後ろに続いて歩いた。
「前髪を切るときには、眉毛をあげたまま切るから眉上になる。」
「耳に小さなピアス穴みたいな黒子がある。」
「元は天パで、高校生になってからストレートパーマをかけた。」
「知っとる?」
覗き込まれて、思わず宮前君の目を見ると、彼はふわっと笑った。
「俺は、美里のこと沢山知っとうよ。……でも、君は知らんよね。」
そんなのは、わかっている。
「ごめん、ちょっと嫌がらせ。」
彼は、後ろ手を振って、駅の方へと戻っていった。
少し大股で、やはり白い部分を踏んで。
僕は追いかけなかった。

封を切る。
そこには、封筒と同じような柄の便箋が4枚と、黄色と白のチューリップ柄の便箋が二枚入っていた。
4枚の桜柄の便箋は、開かなくてもいい。
この便箋は、覚えている。
僕は少し躊躇しながら、黄色と白の便箋を開いた。

「塚本へ

絶交っていうか、縁を絶ってしばらく経つね。
あの時はごめん。そして、ふざけんな。
私とみやくんが何しようと私たちの勝手でしょ?思いあがんな。
でも、ごめん。
私さ、あんたが彼女できたって聞いた時、素直に喜べなかったわ。それで、嘘ついた。みやくんとシたって。私は、「あんたは親友だ」って言ったけど、そんなんじゃないね。こんなしょうもない理由で喧嘩して、着拒までして。なんでかっていわれたら、きっと私はあんたへの執着があったんだ。
自分はあんたじゃだめなくせに。
自分勝手でごめん。
最後の文化祭の時さ、あんたが何回めかわかんない告白してくれて。この桜柄の便箋、100円ショップのやろ?センスはないけど、ラブレターは初めてやったから嬉しかった。でも私、振ったね。
そのくせ、私、卒業してもあんたに会いたいから、文化祭来いって言ったね。上京したあんたにとっては無理な約束やのに。
あんたとの関係を絶って気づいた。あんたは私の大事な人だ。
私のことを忘れて、彼女と幸せに過ごしてくれますように。
っていう願いが叶えば、この手紙の役割はきっとなくなるんやろうな。なんて、思いながら手紙を書いてる私は女々しいね。
ほんとは忘れられたくなんかないよ。きれいな思い出になりたかった。
でも、やっぱ無理やね。直接謝れる日がくるのを信じて、今年も文化祭に行きます。」

矛盾だらけの手紙を読み終わり紙を元通りに戻したとき、夜風に乗って、微かな血の匂いがした。
事故がたってしばらく経つらしいから、きっと僕の気のせいだ。
大学の時付き合っていた彼女と行ったハウステンボスで、満開のチューリップを目にした事を思い出す。
確かあの時、チューリップの花言葉を彼女が教えてくれた。
色によって違う花言葉。黄色は「叶わない恋」、白は「失われた愛」。
そんな意味合いの花を便箋にした制作会社もだけど。

「……馬鹿やん。自分に酔ってんじゃねぇよ。」

僕は横断歩道の黒い部分を渡って、帰った。

鬱金香の錨

執筆の狙い

作者 水城 うみ
116.94.106.249

自分の経験からの苦々しさを表現してみました。

コメント

牛頭
126.224.130.34

正直申し上げ無礼ですが、面白くない(許してね)
鹿児島の人はもはや薩摩弁は使わんとですか

クズ小説書くのに勉強しました。
『おはんさあ、途中で黄色かモン見ちょらんかったか?中身は云えもはんが』
『おいは急いじょるんど!面倒臭かあ、チエストオ!』
『おはんさあ、おいの恩人でごわす!あいがてあいがて、あいがともしゃげもしたあ!』

そう喋るのは中村半次郎です。

水城うみ
116.94.106.249

牛頭さんへ
ご意見ありがとうございます。
鹿児島本線の東郷駅は、福岡県の宗像市にあり、福岡の方言を使用しています。
地名をはっきりさせておく事の重要性を感じました。
話の内容ももう少し工夫していこうと思います。

偏差値45
219.182.80.182

>「久しぶりやな、塚本君。」

この一行で読む気を失いました。
誰の言葉なのか、分からない。
簡単に言えば、主人公である僕が声を掛けたのか?
僕が塚本君であり、声を掛けられたのか?
という疑問があります。
もちろん、読み進めれば分かるかもしれません。
でも、それってものすごく疲れる作業なのです。大きな負担かな。
そこまでして読みたいとは思わないのですよ。残念。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

テクニカルサポート

3,000字以内