作家でごはん!鍛練場
クリスピー

少女とおにぎり

俺はこの世界が嫌いだ。親のエゴで突然この腐った世界に産み落とされ、学校ではこの世界はいかに素晴らしく、努力すれば報われ、夢は必ず叶うものだという希望を見せられ、何度その希望に裏切られたことか。
 両親は出来ちゃった婚だったらしい。そもそも出来ちゃった婚という言い方が不愉快だ。出来ちゃったとは何だ。まるで妊娠が事故みたいな表現ではないか。妊娠を望んでいなかったみたいではないか。でもまあそういうことだったんだろう。実際、両親は俺にほとんど興味を示さなかった。
 学校ではいじめを受けた。俺は別にクラスの皆を嫌っていたわけではなかったのだか、どうやらクラスの皆は俺を嫌っていたみたいだ。なぜ俺がいじめられなければいけないのかまるで理解できなかった。しかし、いじめられる理由がわからないというまさにそのことが、いじめられる理由になってしまっていたのだろう。だから俺はあれこれ考えるのをやめた。
 とりあえず俺は高校を卒業し、派遣社員として働き、売らない方が世の中の為になるような商品を売っている。特に夢や希望はない。家と会社を往復し、飯を食い、寝る。そんな生活だ。俺は生きているのではない。ただ存在しているだけだ。
 以上のような境遇を経て、俺は世間一般で言う病んだ心の持ち主となった。周囲は俺をひねくれものだとか異常者だと罵ってくる。しかし俺は常々思うのだ。こんな腐った世界では病まない人間の方が異常者である、と。
 
会社からの帰り道。いつも通る高架下を歩く。ここではたくさんのホームレスが段ボールを寝床にしてうずくまっている。人通りが激しいこの道は多くの人がホームレスの前を通り過ぎる。歩いている普通の人々はうずくまっているそれに目を向けようともしない。もちろん、彼らはそれに気付いていないわけではない。見てはいけないと思っているのだ。しかし本当は見たくてたまらないのだ。ところが見るという行為はその存在を認めるということにも繋がるから、それを恐れて見ることはできない。見なかったことで、居なかったことにする。弱者を見て、それに対して何もせずに素通りする自分の心が痛むことを恐れているのだ。
 こんなクズみたいな俺でもあいつらよりはマシ。そう思うと心がわずかに軽くなるのを感じた。俺は歩きながら放置されたゴミのような彼らをまじまじと見ていた。その中で特異な光景を目の当たりにした。俺の足はいつの間にか止まっていた。
 少女がホームレスの男に対してしゃがみ込み、何かを差し出している。ラップにくるまれた丸くて白い物。ラップを剥がし男はそれを無我夢中で頬張っている。それはおにぎりだった。少女はホームレスに施しをしていたのだ。
 俺はそれを見て無性に腹が立ってきた。少女は微笑みながら保冷バッグから家路のない彼らに愛情がたっぷり注がれているのであろうおにぎりを渡している。それが気に入らないのだ。弱者に施しをすることで自身は徳を積んだのだ、善行をしたのだという気分になれる。つまりは自己満足だ。チャリティの類は皆そうだ。偽善なのだ。
 少女はホームレスの男に何かを語り掛けている。男は涙を流しながらおにぎりをすごい勢いで口の中に押し込んでいた。男は喉が詰まったのか胸を叩き始めた。すると少女がすぐさま水筒で紙コップにお茶を注ぎ男に渡した。
 もう見ていられなかった。俺は速足でその場を去る。せいぜい聖母マリア様ごっこを楽しむことだな。そう心の中で少女に悪態をつきながら。
 
会社をクビになった。派遣切りというやつだ。派遣切りの通告は本当にあっさりとしたものだった。「来月の雇用契約でございますが、大変申し訳ございませんが更新を終了させて頂くことになりました。つきましては・・・」まあ、こんな感じだ。きっと同じセリフをこれまで何回も使いまわしてきたのだろう。人事担当者は俺に事務的で淡々とした口調で解雇を告げた。
 派遣がそういう立場だということはわかっていた。だがこんな俺を雇う会社は他になかった。
 俺はもう働く気力なんていうものは失せていた。無職になった俺は職探しもせず、貯金も底を尽き、家賃を払うこともできなくなってアパートを追い出された。
 実家には帰りたくない、あてになる友人もいない。結果行きついた先はあの高架下だった。ここは多くのホームレスが行き着く場にふさわしい好条件であった。雨風はしのげる上、ここだけは行政も暗黙の了解なのか浮浪者に対して退去指示が出されることもない、つまりはホームレスにとって穴場のような場所であったのだ。
 スーパーから拝借した二つの段ボール開き、それを地面に敷いて横になる。縦170cm、横67.5cmが今日から俺の家だ。ぼんやりとあたりを見回す、ここの住民は皆中年で、俺のような若者は他にいなかった。
 皮肉なものだと思った。俺が最近まで馬鹿にしていたホームレスに俺自身がなってしまったという事実。こんなに笑える展開が他にあるだろうか。まさに伏線回収というやつだ。俺は手のひらから登ってきたアリが腕を這う姿を見て、今、俺はホームレスになったんだ思った。

 誰かの声が聞こえる。なんだか聞き覚えのある声だ。
「・・・さん。・・・さん」
 なぜ俺はこの声を覚えているのか。知らないようで知っている声。
「おにいさん。おにいさん」
 目を覚ますと、そこには保冷バッグと水筒を下げた少女がいた。俺が起きたことに気付いた少女は不安そうな顔からパっと明るい表情へと変わり、眩しいくらいの笑顔を見せた。
「あ、やっと目を覚ましてくれました!眠っているところ起こしてしまってすみません」
 少女はバッグから何かを取り出すと俺の前に差し出してきた。
「これ、食べてください。生ものなのですぐに食べてもらいたくて、仕方なく起こしてしまいました。私が一生懸命握ったんですよ!」
 ラップに包れた丸くて白い物。おにぎりだ。それを見た瞬間俺はこの子が誰なのかを理解した。
「おにいさん、ここにいる他の人たちよりも随分とお若いですよね。おにぎり一個じゃ物足りないと思いますけど、私、平等も大事にしたいので一人一個って決めてるんです。だからこれで我慢してくださいね。ちなみに中身は梅干しです!」
 この少女はまだこんなことをやっていたのか。そうだった、ここは恵を与えてくれる女神様がやってくる場所だったということを俺は今思い出した。
 俺は起き上がらず、寝ころんだままでいた。お前のいい人アピールに付き合うつもりはない。
「随分と優しいんだな、君は」
「いいえ、私、困っている人を助けたいだけなんです。苦しんでいる人を放っておけないんです。他のみなさんは放っておいてしまうかもしれませんが、私はそんなことできないんです。見ていられないんです。でも私、ちっとも辛くありません。むしろ幸せな気持ちになれるんです!」
 先ほどの言葉は嫌味を込めて言ったつもりだったのだが少女には伝わらなかったみたいだ。それは当然だろう。なぜなら少女は結局は自分のことしか見えていないのだから。
「それよりも、おにぎりをどうぞ受け取ってください。あ、それとも梅干しはお嫌いでしたか?ならツナマヨもありますよ。でもできれば梅干しを食べてもらいたいです。この梅は私のおばあちゃんが作ったものなんです。おばあちゃんの梅はお店で売ってるものより何倍もおいしいんです。それに梅干しはお体にとってもいいんですよ。タンパク質やカルシウム、鉄分も、そしてビタミンもたくさん入っているんですよ。どうです?梅干し、食べたくなりました?」
 少女は目を輝かせて俺を見つめている。そんな目で俺を見るんじゃない。俺は決してお前の偽善には乗らないぞ。
 俺はゆっくりと起き上がり、おにぎりを受け取る。
「ふふっ、ありがとうございます。ゆっくり召し上がってくださいね」
おにぎりは思ったよりも固く、重かった。しっかりと握って作られたおにぎりだった。とても愛情がこもっているように感じた。俺はおにぎりに包んであるラップを剥がすと、おもいっきりそれを地面に叩きつけた。おにぎりは潰れて四散し、赤い梅干しが白いタイルの上に張り付いていた。
「えっ・・・」
 少女の顔から笑みが瞬時に消え失せた。状況が理解できないのか、少女は茫然とした表情で立ち尽くしていた。
 俺は少女を睨みつけた。
「善人ぶるな。なんでお前からこんな施しを受けなきゃいけないんだよ。おにぎりがどうとか梅干しがどうとかそんなことはどうだっていい。いいか、よく聞いておけよ。人間っていうのはだな、本質的には自分のことしか考えていないんだよ。もちろん俺だってそうだ。俺がまだ働いていて住む家もあった頃、この場所をよく歩いていたさ。たくさんのホームレスも見た。でも心は全く痛まなかった。答えは単純だ。他人だからだ。自分じゃない、赤の他人だからだ。ホームレスが一人凍え死のうが飢え死にしようが俺にはどうだっていい。もちろん社会にとってもどうでもいいだろう。ホームレスが一人死んだくらい誰も悲しむことなんてない。むしろ死んだことにすら気づかないだろう。そして事実、ここのホームレスに飯を与えているのはお前しかいない。みんな俺たちのことには構わず平然と歩いている。当然だ。だってそれは自分じゃないから。自分じゃないならどうだっていいのさ。心なんて痛まない、いやむしろ逆だ。あいつらよりはマシだと自分の今の幸福を確認できるのさ。他人の不幸は蜜の味って言葉は聞いたことあるだろう。つまりはそういうことなのさ」
 俺は高が外れたように次々に口からセリフが止めどなく溢れてきた。少女は両手で口を押え、震える目にはもう涙が見えていた。だが俺は決して攻撃の手を緩めることはしなかった。
「もしかしたら他人が苦しんでいる姿を見て心を痛める珍しいヤツもいるだろう。だがなここからが重要なことなんだが、お前はさっきホームレスを助ける理由として、放っておけない、見ていられないって言っていたよな。それはつまり、お前は本当に人助けをしたいわけじゃないんだよ。お前は人が苦しんでいる姿を見る苦痛を味わいたくないから人助けをしているんだ。俺たちの惨めな姿を見るのが辛い、そこで俺たちに施しをしてやることでお前は苦痛を和らげることができるのさ。一見して他人の不幸に心痛み、恵の手を差し伸べる行為は実はお前の利己心が姿を変えたものであって、施しをしたことで得られる自己満足こそが本当の動機なんだよ。俺はお前の自己満足に付き合うつもりはない。だからこの際はっきり言ってやる、迷惑なんだよ」
 少女は後ずさりをしてうつむき、何か言おうとしているのか口を僅かに動かしていた。反論しようとしているのか、自分の気持ちを吐き出そうとしているのか。だが少女から出てくるのは涙だけだった。それが今の少女の全てだった。
 言葉に出すことをあきらめた少女は俺に背を向け、今にも倒れそうなおぼつかない足取りでその場を去っていった。
 ため息をつき、壁にもたれ掛かる。疲れが波のように一気に押し寄せた。この疲れの正体はわからない。俺は自身の考えを少女にぶつけただけだ。でもわからない。この罪悪感は一体なんだ。俺が偉そうなことを言える立場なのかと思っているからなのか、それとも俺よりだいぶ年下の少女に説教をしたからなのか。そういえば人に説教なんてしたのは生まれてはじめてだった。そして説教があまり気持ちのいいものではないということを俺は今知った。
 アスファルトに付いたおにぎりには既にアリが寄って集っていた。俺はそれを虚ろな目で眺めていた。

 次の日の朝。通勤ラッシュでスーツを着たビジネスマンの波の脇で俺は横になっていた。速足で歩く社会人。彼らは汗水たらし、靴底を減らし、ストレスと戦いながら働いている。一方俺はそんなことはお構いなしにのうのうと寝ている。
そういえばこの生活をはじめてからマトモな食事にありつけていない。ところが人間、慣れというものは恐ろしく、今ではそれが苦痛に感じることは最初の頃に比べて減っていた。そして人間はあまりモノを食べなくても何とか生きていけるものだということも分かった。長く空腹状態になると、空腹感が無くなるのだ。空腹の向こう側。俺はこの感覚をそう呼ぶことにした。
俺は人々が歩く通りに背を向け革靴やヒールなど様々な靴が奏でる足音に耳を澄ましていた。すると俺の背後で足音が止まるのがわかった。なんとなく人の気配がする。誰かが俺を見ているような気がする。
「おにいさん」
 か細い声であったがなんだか聞き覚えのある声だった。だが俺は空耳だと思った。まさかあの少女のはずがない。社会のゴミからあんなにキツイお説教を受けたのだから。
「おにいさん!」
 今度ははっきりと聞こえた。あの少女だ。これには俺も驚いた。この子は一体何を考えているんだ。俺は少女と話すことはもうない。話すのも面倒くさい。俺はその声を無視して狸寝入りを決め込んだ。
 あくる日も、その次の日も、そのまた次の日も少女は何度も俺の背中に声を掛け続けた。
「おにいさん、ちゃんとご飯食べていますか?なんだかここ最近、急にお体が小さくなったように見えます」
「今日は特別に唐揚げ入りのおにぎりです。昨日の晩御飯の余りですけど、お母さんが作ったので味はとってもおいしいんですよ。どうですか。食べたくなりましたか?」
「今日は鮭フレークおにぎりです。サクサクした触感がポイントなんです。どうですか?」
 随分と熱心な子だ。でもこれではまるでしつこいセールスマンみたいだ。この子はまた俺にお灸を据えられたいのか。もっと言われなきゃ気が済まないのか。それはとても気が引けることのように思えた。だが言わなければこの子はずっと俺の段ボールハウスに通い詰めることになる。
 少女の方に寝返る。少女の姿を見るのは久しぶりだった。保冷バッグに水筒。以前と変わらないスタイルだった。
 少女と目が合う。少女は俺の目を見ると怖くなったのか、ずぐに目を逸らして黙り込んでしまった。
「おい、お前、俺に言いたいことがあるんだろ。さっきまでの営業トークはどうした」
 少女は喋らない。少女はただ右手でスカートの裾を握りしめているだけだった。
「しかし、ここまでくると大したもんだな。毎日こんなクズを相手におにぎりを持ってくるだなんて、お前どうかしてるよ。なあ、なんでこんなことができるんだよ。なんでやめないんだよ。俺とお前は家族でも友達でもない、ただ道端でゴロゴロしてる汚い男だろ。なのになんで・・・」
 少女はうつむいたまま口を開く。
「あの日、私が最初におにいさんに出会った日、おにいさん私に言いましたよね、お前がやっているのは自己満足だって。おうちに帰ってそのこと考えてみたんです。でも、やっぱり納得できなかったんです。それでも困ってる人を助けたいって思ってしまったんです。確かに、他の人が助けないのに、私だけが助けてるってことは、私はおかしな人なのかもしれません。でも誰かの為になりたいってことは決して間違ってる事じゃないと思うんです。人を助けるってとっても綺麗なことだと思います。それだけは自信を持って言えるんです」
「助ける相手がクズであってもか?」
「クズじゃないです!」
 少女は俺の目を見た。真剣な目だった。
「この世界にクズな人なんていません!みんなこの世界になくてはならない人のはずです。確かに嫌だなっていう人もいますけど、その人だって悪いところしかないわけありません。悪いところがある人はいても、クズな人なんていません。私、パパやママにお前は宝物だって言ってくれました。みんな宝物なんです。だから」
「そうじゃないヤツだっているんだよ!」
 起き上がった俺は少女の声を遮り、思わず声を荒らげていた。
「お前はまだこの世界を知らないからそんなことが言えるんだよ。いいか、この世界は残酷なんだよ。この世界にはいろんなヤツがいるんだよ。みんながお前みたいに親の愛情を受けて育ったヤツばかりじゃない、そうじゃないヤツだって大勢いる。親に無視されたり、会社に部品のように扱われたりするやつだってこの世界にはごまんといるんだ。俺には家族なんていない、お前みたいな暖かな家族がいない俺の何がわかるっていうんだよ」
 いつの間にか俺は少女に八つ当たりをしていた。こんな子供にぶつけても無駄なのに。
 またやってしまった。深いため息をついてうつむく。その時、俺の目の前におにぎりが差し出された。
「じゃあ私がおにいさんの家族になります。家族はパパやママ、おじいいちゃん、おばあちゃんだけではありません。この世界の人たちがみんな家族です。大家族です」
 少女の顔を見上げる。柔らかな笑顔だった。
「だからもう怖がらないでください。この世界を嫌いにならないでください。何かあったら支えあうのが家族です。一人で生きなくていいんです。私がいます。家族がいます。私では、ダメ、でしょうか?」
 体が軽くなる。胸の奥がじんわりと熱を帯びてくるのを感じる。いつのまにか俺はおにぎりを受け取ってしまっていた。ずっしりと重かった。
 ラップを剥いた途端、無意識にそれを口に運んでいた。食べるかどうか考える余裕はなかった。俺は無我夢中で食べていた。気づいたら俺の頬は濡れていた。ダムが決壊したかのように涙がとめどなく溢れてきた。
「やっと・・・食べてくれました」
 なぜか少女も泣いていた。笑いながら泣いていた。
 俺は飲み込むようにおにぎり食べる。すると急に胸が苦しくなった。喉に詰まったのだ。俺は必死に胸を叩いた。
「大丈夫ですか?」
 状況を察した少女はすぐに水筒から紙コップへお茶を注ぎ、俺に渡した。
 俺はそれを一気に飲み干し、一息つく。
「ふふっ、そんなに慌てなくても、おにぎりは逃げませんよ」
 必死に食べる俺の姿を見て、少女は茶化すように笑う。
「君には負けたよ。完敗だ。」
「私、別におにいさんと戦ってなんかいませんよ」
「ほう、つまり君は戦わずして勝ったわけた。それはもっとすごい」
「だから、戦っているつもりなんてありませんってば!」
 俺と少女は笑い合う。汚いホームレスと小さな少女が二人して笑っている。周囲から見ればそれは奇妙な光景だったと思う。
 この世界には実に変わった人がいるものだ。
 俺が正しいのか少女が正しいのか、それはわからない。だが情けないことに、俺はもうそんなことはどうでもよくなっていた。ただ一つ確かに言えるのは、この世界にもう一人小さな家族ができたということだった。

 俺はあの後、寝床としていた段ボールを捨て、役所に行った。仕事を探す為だ。役所の人は俺のような人間でも保護してくれるボランティア団体を紹介してくれた。寝床もすぐに用意してもらった。「本当に大変でしたね。もう大丈夫ですよ」ボランティアの人は俺にそんな言葉をかけてきた。職探しの為に行ったハローワークの人には「君はまだ年齢が若いから雇ってもらえる会社は必ずあります。だからあきらめないでください」と言ってくれた。人の優しさに触れる度に「この世界を嫌いにならないでください」という少女の声が頭をよぎった。
 そうだ。もしかしたら嫌っていたのは俺の方だったのかもしれない。世界が俺を嫌っていたんじゃない。俺が世界を一方的に嫌っていたんだ。決めつけていたんだ。
 あの少女は仕事や家がみつかったら連絡して欲しいと言って電話番号が書かれた紙を渡してきた。でも俺は受け取らなかった。こんな世界でも少女のような人間がいる、いい人ばかりじゃないが、悪い人ばかりでもない。そういうことを心の底から気づかせてくれただけでも俺は十分だったからだ。
 俺は正直、まだこの世界に対して抱く諦観と疑念を完全には拭えないでいる。しかし少女は暗闇に差し込んだ一縷の光だ。その光がある限り、俺は迷わずにこの先も進んでいけるだろう。
 だがあの子に出会ったことで困ったことが一つだけある。それはコンビニのおにぎりを食べる度に、あの子のおにぎりの方が旨いと思ってしまうことだ。

少女とおにぎり

執筆の狙い

作者 クリスピー
111.110.43.105

捻くれ男と純粋少女のお話です。
ハートフルな物語を書こうとしましたがなんだか説教臭い内容になってしまいました。
ちなみに少女がおにぎりをホームレスに渡す話は私の知り合いの小学生がやっている実話を元にしました。

コメント

偏差値45
219.182.80.182

>捻くれ男と純粋少女のお話です。
>ハートフルな物語を書こうとしましたがなんだか説教臭い内容になってしまいました。

なるほど、マザーテレサを連想しましたね。

ストーリー展開が素晴らしく良いですね。読みやすい分かりやすい。
今年、ごはんで読んだ小説の中でもトップクラスだと思いました。

とはいえ、気になった点として、、、
主人公の男がホームレスに転落する前に生活保護は考えなかったのかな、
とは思いましたね。

また、
>俺はあの後、寝床としていた段ボールを捨て、役所に行った。仕事を探す為だ。
最初からそうすればええやん、とツッコミを入れたくなりましたね。

最後の語りの部分。
>あの子のおにぎりの方が旨いと思ってしまうことだ。

ここは自分だったら、
あの子を思い出して涙が出てしまうことだ。なんて考えたりもしたのですが、
乙武の『五体不満足』でも、おにぎりの話が出てきます。
御作の内容と合致するので、そういうこともあるんだなぁ、とは思いましたね。

かなり実力のある人だと感心しましたね。
今後のご活躍を期待しております。

クリスピー
111.110.43.105

偏差値45さん

ご感想ありがとうございます。


>なるほど、マザーテレサを連想しましたね。

はい、そうです。施しといえばマザーテレサだと思い、この作品を執筆するにあたって
マザーテレサについて少し調べてみました。少女の考えはこのマザーテレサの考えに影響を
受けたものです。
気付いていただけてうれしいです。


>ストーリー展開が素晴らしく良いですね。読みやすい分かりやすい。
今年、ごはんで読んだ小説の中でもトップクラスだと思いました。

お褒めのお言葉ありがとうございます。とっても嬉しいです。
ストーリー展開については結構こだわりました。
内容は冒頭を除き、大きく分けて3幕構成にしました。
冒頭ではこの男がどのような経歴を持ちどのような考えを持っているのかを明確にしました。
そして本編では、「少女との出会い」→「拒絶」→「受容」
のような一幕ごとにテーマを意識しながら作ってみました。
構成の良し悪しは読みやすさに直結するものだと考えていたからです。
なので実際に偏差値45さんにとって読みやすいと感じて頂けたこと
そしてそのことについてお褒めの言葉を頂いたことを本当に嬉しく思っております。
こだわった甲斐がありました。


>主人公の男がホームレスに転落する前に生活保護は考えなかったのかな

このことについては私もどうするか考えていた部分でもあります。
実際この男は派遣切りという会社都合で職を失ったわけですし、
援助してくれる身内は期待できないわけですから生活保護の受給審査も恐らく通ったと思います。
しかしそこで生活保護を受給しましたではお話は終わってしまうと思い、
その部分はあえて無視することにしました。
でも男がホームレスにどうしてもならざるを得なかった理由が明確に作り出せれば
リアリティも増し、骨太な作品に仕上がったかなと反省しております。


この度は読んでいただきありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。

弥々丸朗
221.22.130.5

あたしはかつてこの場所でまったく余計なようなケンカや悶着を次から次へと巻き起こしては見る人たちを辟易させてきた人間なんですけど、辟易というのはただ見てるだけの人たちの心境でしかないはずで、あたしはあたしをイラつかせるまったく馬鹿げたゴミクズみたいなメンタルを少しも客観できないゴミクズどもをそうするべきとしてぶっ叩いてきただけのつもり、見過ごせないでいただけのつもりでつまり、このおハナシの女の子とメンタル的には似ても似つかないわけでもなさそうだ、何てことをひらひらと言ってのけるとまたどっかのクソ馬鹿にマヌケなこと思いつかせてしまうんですけど、クソ馬鹿なんてそんなもんだから勝手にしろと思うんです。
いつまでも相手にしねえよ散々言っても所詮馬鹿のままでいたいならな、なんてな。


"生活保護云々、ホームレスになる理由云々で骨太"って、まじで言ってますか。
結局、何が書きたかったのか、わかってるつもりなんですか?
"小説"というのものが、どうやらまともなことばかり書かなければならないものであるらしいなら、あたしはこのおハナシ、一行目読んでもう読まなくたってどんなオチかくらいわかんないはずないつもりでいたんですけど、案の定どころかもうまんまと既定路線でつまり、全然つまんないどころか屁理屈ダサくてくだらないくらいしか思わなかったんです。
失礼なこと言ってすみません。

"ほのぼのとした"にはあまり期待感ないし個人的には興味がないので放っておくんですけど、つまりそんなことを書きたいらしい上での方策としての"少女"っていういともカンタンにホームレスヘシ折れ男でもブチ切れて厭わない万能ヤラれキャラに預けて格好つけたかったらしいこと、それは書き手が、ということなんですけど、それって下にある"祝詞"ってただの文章あるんですけど、あれとやってること何も変わらないと思うんですよ。
どうして共感を得ないのか? 現状どうもそんな感じらしい、というつもりで言ってるんですけど、あたしはかねてから"何言ってんのかじゃなくて、誰が言ってんのか"ってことを執念深く、煙たがられながらそんなもんまったく頓着せず言い続けてるんですけど、このおハナシもつまり、キレイゴト、の言い訳に手をこまねいたまではその遠慮がちな作為は認めたいところなんですけど、所詮"少女"なんてものに終始甘えてぶち上げたがる説教? のような書きっぷりにはあたしは体良く共感なんてものは思いつけそうな気がしません。

ダンボールに寝転がって実感する"ホームレスに堕ちた俺"って、ただの形式ですよね多分。そんな所詮形式のようなものに拘ってるのは語り手なのか、書き手なのか、言わずもがなとは思うんですけどせめて、書き手としたならせめて語り手にみっともない説教ぶち上げさせたものなら、いよいよおにぎり噛り付いて、むせちゃった時にこそ降ってくる"ホームレス"をちゃんと落とし込むべき、ってこれは所詮基本的な俯瞰とか作為というものだと思うんですけど、何しろあなた自身が序盤にそういう景色を書いてるじゃないですか? 何のつもりだったんですか? ってあたしは所詮そんな些細なことからもあなたという書き手の意思を、俯瞰する意識を信用してません。

書かれていないことは、"生活保護"とか"理由"なんてことではないはず、って個人的には思うんですよ。
何書きたいんですか?
社会派のルポですか? ほのぼのとした。

体良く景色を整えたがっただけで、言いたいことを言うべき人間が用意されてないですたぶん。
あたしは思うんですけど、たぶん"いいこと"聞きたい知りたいんじゃないんですよ。
"いいこと"って感じさせられるメッセージを発信できる、その人の"理由"のようなものにこそ人は惹かれるものなんじゃないのかと思うのだし、その考え方そのものを知りたい、学びたいと思うもののはずだと思うんです。

言い方悪いですけど、あなたや下にあるやつがやってることっていうのは、善行らしく所詮詐欺や似非宗教のやり口とも似通った盲目へのエサ、ここで言うなら文盲しか騙されない浅いエサでしかない気がするんです。読み応えがない。



あなたの意識は目的に近くない、ってことを言ってます。
ムカついてわからないなら勝手にしてください。
ただの一意見です。

西野 くず
106.181.164.121

読了致しました。

結構、感情移入してしまいました。

ひねくれた男性キャラが
説教足れている所では、

良い年こいて、優しい女の子に
怒鳴って!
おっさんの癖に、都合が悪いと
何でも
親や社会のせいにしてるだけじゃん!!
絶望が、偽善が、世の中嫌な奴だらけだ
とか、思春期の中学生みたいな
青臭い言い訳してんなよ!

とか勝手に怒ったり。

彼は元々、
人生にさして興味が無く、
生活欲が薄かったように思えます。

リストラされた事が引き金となり、
いよいよ面倒になって、
ホームレスの道を選んだ。
生活がどうでも良いのだから、
保護を受ける気もないのでしょうね。

ニートや、ワーキング・プア、
貧困など、社会問題が絶える事は無い。

でも、そんな中
人間の苦しみを救うのは、
やっぱり同じ人間の温かみ
だったりするのでしょう。

不満や辛さを抱えている時は、
誰かの懸命な優しさに触れて、
視野を広げる事が
一番の近道なのかもしれません。

等と、若輩者ながら
アレコレ考えてしまいます。

ありがとうございました。

クリスピー
111.110.43.105

弥々丸朗さん

ご感想ありがとうございます。


>一行目読んでもう読まなくたってどんなオチかくらいわかんないはずないつもりでいたんですけど、
案の定どころかもうまんまと既定路線

ありきたりな展開になってしまったことは私自身も思っていたことです。
でも私にはまだアッと言わせるようなトリッキーな展開はなかなか思いつかないので
結局は紋切り型のような内容、オチになってしまうんですよね。


>体良く景色を整えたがっただけで、言いたいことを言うべき人間が用意されてないですたぶん。
あたしは思うんですけど、たぶん"いいこと"聞きたい知りたいんじゃないんですよ。
"いいこと"って感じさせられるメッセージを発信できる、その人の"理由"のようなものにこそ
人は惹かれるものなんじゃないのかと思うのだし、その考え方そのものを知りたい、
学びたいと思うもののはずだと思うんです。

これには感銘を受けました。確かに私は「いいこと」ばかりに意識が向いていました。
「いいこと」の背景にある「理由」を考えなければ結局それはハリボテになってしまうのですね。
私はまだ短編しか書けません。短編に仕上げるために内容もコンパクトにまとめなければいけません。
その限られたスペースでいかに深みのある人間を作り出せるのか、難しそうですがこれから挑戦してみたいです。


この度は読んでいただきありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。

クリスピー
111.110.43.105

西野くずさん

ご感想ありがとうございます。


>絶望が、偽善が、世の中嫌な奴だらけだ
とか、思春期の中学生みたいな
青臭い言い訳してんなよ!

とか勝手に怒ったり。

キャラに怒って下さりとても嬉しいです。
主人公の男は読者に嫌われるような性格にすることを意識してみました。
その方が少女の優しさが引き立つと思ったからです。
こんなクズ男でも見捨てない少女の健気さ表現しました。


>リストラされた事が引き金となり、
いよいよ面倒になって、
ホームレスの道を選んだ。
生活がどうでも良いのだから、
保護を受ける気もないのでしょうね。

そうなんです!彼は生活そのものの意味を見失っていました。
生活保護を受けるというのは人生に対する執着がある程度持っている人が行うこと
であるように私は思います。
もしなければ死んでしまえばいいだけですから。
でも彼は死ぬことも関心がない。自殺という行為だって衝動的であれ計画的であれ
何らかの決意が必要です。でもそんなエネルギーもない彼はただぼんやりと生きるしかない。
彼がホームレスになった理由もそれです。
それを読み取って頂きとても嬉しいです。


>不満や辛さを抱えている時は、
誰かの懸命な優しさに触れて、
視野を広げる事が
一番の近道なのかもしれません。

そうですね。不満や辛さというのは視野の狭さから来ていることも多いと思います。
小さな世界に住んでいると自由に動けないどころか、一度不幸のどつぼにはまると
なかなか抜け出せない。そんな恐怖がそこにはあると思います。
自分ではもう抜け出せない、だから誰かにこじ開けてもらうしかない。
そういうことを本作で感じてもらえたらなと思います。


この度はお読みいただきありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。

岡本
150.246.96.10

主人公を、社会を敵視した人物、斜に構えた人物、もしくはニート、ワーキングプアなど、社会的に末端視される人物(内面的にも)に設定することでそこからの成長や気づきなどを与えやすく書きやすい。
書き手のほとんどがこういう人物を主人公に据える。
書きやすいから。
書きやすいことを書いているうちは書き手として成長しません。
どこにでもありそうな、といってあまりに現実離れしている話で、ただ書き手がなにかいい話を書こうと(ハートフルと言っていますが)設定したためだけに用意された人形のような登場人物たち。
血は通っていない。
ここから膨らんでいくテーマでもない。
すでにニートやワーキングプア、両親の愛情、そういったテーマは読むのも書くのも尽くされてきたし、それならば独自の視点が盛り込まれていなければ読む価値がない。
まずはいいお話を書かないことから始めてみてほしいと思います。

それと、中点や感嘆符の使い方を調べて正しく使えるようにしてみてください。
そういった決まりごとを学ぶのも大切なことです。
いろいろな小説を読んでみてください。
なにをどう書くべきなのか、見えてくるものもあると思います。

u
183.176.51.134

クリスピー様
お話が落ちも含めて王道的。ハートフルかどうかはチョット疑問。主人公がアホなので、少女の純真行為が機能してないかも?

もうひとひねりして、
少女―おにぎりに毒物(…はヤバイので強力な下剤にしよう)を入れて主人公に食べさす! 主人公下痢・下痢で右往左往! でも、主人公は『そうか、3日間固形物食べてないので、下痢はしょうがないか』『でも、少女よありがとう』と感謝感激。少女、それを陰で見て舌を出して『ボケが―』とほくそ笑む。善意と悪意の交錯するハートフルな結末(笑)

気にしないでクンシャイ。

クリスピー
111.110.43.105

岡本さん

ご感想ありがとうございます。

>書きやすいことを書いているうちは書き手として成長しません。

>すでにニートやワーキングプア、両親の愛情、そういったテーマは読むのも書くのも
尽くされてきたし、それならば独自の視点が盛り込まれていなければ読む価値がない。

私はまだ執筆を始めたばかりだからなのか、まず物語を書こうとすると
これまで見てきた作品、小説はもちろん映画やドラマ、アニメなどに
影響を受けた内容になってしまいます。
物語を捻りだすというよりも、知っている物語を組み合わせているような、
パズルをしているような感覚に近いです。
オリジナリティや独自の視点というものを作り出したいとは思うのですが
やはりそこには不安が付きまといます。なので結局王道ストーリー、悪く言えば
ありきたりな内容に行き着いてしまいます。王道は踏み固められているので
大ウケはしないかもしれませんが大ゴケはしないので安心なんです。
しかし岡本さんの仰る通り王道を歩いてばかりでは成長はしないですよね。
私自身の可能性を広げるためにも、挑戦的な物語を書けるよう頑張ります。


>中点や感嘆符の使い方を調べて正しく使えるようにしてみてください。
そういった決まりごとを学ぶのも大切なことです。
いろいろな小説を読んでみてください。
なにをどう書くべきなのか、見えてくるものもあると思います。

実は私、あまり小説を読みません。小説よりも映画やアニメの方が多いと思います。
それでも物語は作れますが、やはり文章を鍛えるとなると小説を読むことが大切なんですね。
浅く広く小説を読んでみようと思います。


この度はお読みいただきありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。

クリスピー
111.110.43.105

uさん

ご感想ありがとうございます。

>お話が落ちも含めて王道的。ハートフルかどうかはチョット疑問。
主人公がアホなので、少女の純真行為が機能してないかも?

やっぱり王道ですよね。ありきたりですよね。
ありきたりな内容でも、ありきたりな内容であることに気付かないくらいの
物語に仕上げること理想なのですが、なかなか難しいですね。



>少女―おにぎりに毒物(…はヤバイので強力な下剤にしよう)
を入れて主人公に食べさす! 主人公下痢・下痢で右往左往! 
でも、主人公は『そうか、3日間固形物食べてないので、下痢はしょうがないか』
『でも、少女よありがとう』と感謝感激。少女、それを陰で見て舌を出して
『ボケが―』とほくそ笑む。

なるほど、面白いです笑。ブラックハートフルと言った方がいいかもしれませんね。
少し設定を変えるだけでこんなにも内容が変わってしまうのですね。
そこからまた様々な展開が生まれそうです。こんな感じの少しギャグっぽいのも
書いてみたくなりました。


この度はお読みいただきありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。

骨なしフライドチキン
202.215.104.16

確かに説教臭く感じちゃうね(´・ω・`)
彼女が捨てられた介護ロボットだったとか、お兄さんに隠された能力や運命だったりとか、面白い展開を入れて誤魔化すじゃないけど…要はもっと面白くすれば読者も説教だと思わず読めるのかも。

クリスピー
111.110.43.105

骨なしフライドチキンさん

ご感想ありがとうございます。

>彼女が捨てられた介護ロボットだったとか、お兄さんに隠された能力や運命だったりとか、
面白い展開を入れて誤魔化すじゃないけど…要はもっと面白くすれば読者も説教だと思わず読めるのかも。


思い切って大胆な設定をしてみてもいいかもしれませんね。
私が思う今作の弱点の一つに設定の弱さだと思います。
メッセージ性やテーマを明確にしたものの、「伝えたいこと」が露骨に
表現されてしまい、説教臭い内容になってしまったのだと思います。
ご指摘の通り設定をもう少し捻ってオブラートに包むようにしてしまえば
まだ受け入れてもらえやすい内容になったのかと思います。
また執筆をする際、私にはまだ現実に縛られている感覚があります。
小説は自由な存在なのですから小説にしかできない物語、
フィクションだからこそ生み出せる物語とは何かをよく考えてみます。


この度はお読みいただきありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。

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