作家でごはん!鍛練場
グリーン

PC専門店にて(原稿用紙10枚)

 三月下旬の日曜日、古いノートパソコンを抱えてPC専門店へ入ると、右手のカウンターにいた小太りな男性店員が首だけまわして麻衣を見た。丸い顔に黒縁眼鏡を掛けている。
 レジには客が数人ならんでいた。すでに開店から一時間以上が過ぎている。
 カウンターの端にノートパソコンをおくと麻衣は狭い店内をながめた。年度末最後のキャンペーン中と印刷された広告があちこちに貼られている。どのコーナーにも客の姿があった。ずらりとならぶ真新しいパソコンの前では制服姿の店員があまり乗り気でなさそうな様子の客になにかを熱心に説明している。
 麻衣は手元に目を落とした。持ってきたノートパソコンの閉じた蓋に指をすべらす。
 しばらくしてさきほどの黒縁眼鏡の店員がカウンターの中を「いらっしゃいませ」と近づいてきた。
「パソコン診断っていうの? お願いできます?」
 予約不要、診断一回につき五百円と店舗のウェブサイトに載っていた。診断無料という店もあったが修理に関するページの内容を比較してここに決めた。診断によっては別に修理代金が必要になるかもしれないと麻衣はおもっていた。
「もちろんうけたまわっております」店員はカウンター越しに麻衣を見おろした。感情の読めない表情だ。「どんな症状です」
「きのうキーボードを交換したばかりなんですけど反応しないキーがあるんです」
 カウンター上のノートパソコンを麻衣は指で示した。数年前に動作しなくなってずっとクローゼットの奥に保管していた。先週臨時収入が入ったときふいにこれを復活させてみようとおもいたったのだった。
 メインPCは別にあるからたとえうまくいかなくても困ることはない。費用についてはあまり気にせずにできるだけのことをしようと決めた。
 まずメモリを購入して増設し、HDDも新品のSSDに換装した。最新のOSをインストールすると正常に完了してそのあとも思いもかけず快適に使えてしまった。
 あとはキートップのいくつも外れているキーボードを取り替えるだけだった。ネットの通販で交換用のキーボードを購入したのが一週間前、それが届いて装着したのが昨日のことだ。新品のキーボードの感触に麻衣は感動しきりだった。
「さいしょは端のほうの六個のキーしか反応しなかったんです。ここの、これだけ。それでいったん外して着けなおしたら、数は減ったんですけど入力できないキーがやっぱりあって、しかもですね。しかも、それが、真ん中のたて三列なんです」
 一度目はおそるおそる装着したからうまくつながっていなかったのだろう。二度目は強めに力を入れてコネクタをぎゅっと押しこんで留めた。それでも反応しないキーがあるというのはいわゆる初期不良の製品ということになるのだろうか。
「そうですね。初期不良の可能性は否定はできません」店員はノートパソコンの蓋を開けると屈みこんで観察しはじめた。
 キーボードの表面をなでるようにさわっている。手のひらがキーボードの広い範囲をタッチしながら何かを確認するかのようにしきりに往復している。それからある同じ場所をかなり強い力でなんども押しているようだった。
「ここのあたりが盛りあがっていますね……」
「え。そうですか?」店員のさわっているパソコンの上部あたりをじっと見る。麻衣には違いはよくわからない。
 ぽってりとした指先でさわりながら店員は真剣な表情で顔をキーボードに近づけていった。F7キーに額が触れそうになっている。
「やっぱりここ、微妙に盛りあがってますよ」疑惑の場所を指で押しながら首をひねっている。
「じゃあもう一度着けなおしたら全部のキーがしっかりと反応する可能性があるということ?」
「あるいはそうかもしれません。しかしくわしく見てみないとわからないですね」あいかわらずのさめた表情で店員がいう。「アダプタはお持ちですか」
「はい」バッグからアダプタを取りだしてわたす。
 店員がカウンターから出てきた。
「修理相談の窓口はこちらになります」
 案内されて場所を移動する。奥に位置する修理窓口はそのカウンターの向こう側にどっしりとした大きな台があった。カウンターの中へ入っていった店員がそこへ麻衣のノートパソコンを置いた。パソコンの電源をつけて設定関連を見ていたが異常はないようだという。そして「十年前のパソコンに最新のOSを入れたことに対する危惧」や「足まわりが懸念される」ということを滔々と述べている。
「ただグラフィックカードはいいやつが入っているのでそれが大きいですね。これでかなりちがいます」うなずいて店員は麻衣を見た。「さきほどチェックしたときは動画もふつうに再生できていましたし、まあ、まだ充分使えます。これで満足されているのならそれでいいとおもいますよ」
 麻衣としては満足しているというよりもここまで古いといろいろ試して遊べておもしろいというのが動機の大半を占めている。
「次に買うときはまた最新のものを選びますからいまのところはこれで――」
「……いえいえ」店員が眼鏡の奥で目を瞬かせた。「なにも最新でなくてもですね。中古でもこれよりは新しいですよ。そっちのほうがいいんじゃないかと」
 そうですねと麻衣は曖昧にうなずいた。別途料金が掛かってもよいので開けて中を調べてみてほしいと店員に頼む。
 きょうの目的はキーボードを診断してもらうことと必要ならば修理をお願いすることだ。麻衣は店員から差しだされた書類に必要事項を記入して同意書にサインした。
 このまま自宅へ持ち帰ってもういちど自分の手で接続しなおすという選択肢もあるが、それでうまくいく自信は麻衣にはない。もしもだめだったらまたここまで来くることになってしまう。
 店員がノートパソコンの電源を切って本体を裏返した。
 パームレストを取り外し、慎重な手つきでキーボードを浮かせている――とおもったらキーボードが持ちがり、そこからコネクタがぶら下がっている。コネクタのむこうにみえる店員の小さな目は見開かれ、口が少しひらいている。
「お? おお? かんたんに外れちゃいました」
 持ちあげたキーボードをながめて店員は首をかしげている。それからあらためてコネクタを着けはじめた。体を曲げてキーボードの裏をのぞくような体勢になっている。
「……ものすごく着けにくいですねこれは」
 何度もトライしている店員の様子を麻衣ははらはらしながら見ていた。自分の接続のしかたが悪かったのだろう。原因は単純なことだった。自分の不器用さを恥じる気持ちとならばこれできれいに直るだろうという期待感とが同時に湧いてくる。
「これでよし」キーボードがつながった。
 店員が元どおりにネジを締めていく。
 電源を入れる。
 ログイン画面が表示される。パスワードの入力欄にカーソルが点滅している。
 店員の人差し指がキーボードの左上から順番に横へとキーを一つずつ打っていく。打つたびに入力欄に黒い丸が追加されていく。
「入りますね。全部」
 画面から目を離して店員が麻衣を見た。その顔はもとの無表情にもどっている。
 さすがプロ――という言葉が喉まで出かかって麻衣はかろうじて止めた。
「丁寧にみてくださってありがとうございます」
「そうですね」乾いた目で店員がいった。「ふつうはこれ修理するよりも新しいのを買ったほうがいいですよと奨めますからね」
 たしかに店員の言うとおりなのだろう。今回のことで麻衣はかなりお金を遣っている。すべて合計すると格安のノートパソコンが買えるくらいにはなるかもしれない。
 だが使い物にならないレベルの処理速度ならば麻衣も諦めるが、そうではなく問題なく使用できるのだから、解像度や筐体の頑丈さ、キーボードの打鍵感を考えると麻衣にとってはこれは必要経費なのだった。
「新しいものだったら中の部品も新しくなりますからね。OSとの相性もいいですよ」
「それはわかるんですけど」麻衣は小声でいった。「わたしはこれがいいんです」
 キーボードの甦ったパソコンは黒縁眼鏡の店員の手によって点検用の台からカウンターの上へと移された。
 会計のあと店員はふいに奥へと姿を消しすぐに緩衝材のぷちぷちを手に持ってあらわれた。それからそのぷちぷちで麻衣のノーパソコンを丁寧な手つきで包んでいった。



=======================================
上が執筆の狙いに書きました本文Bです。
以下が原稿Aです。
=======================================
PC専門店にて (削る前)


 三月下旬の日曜日、古いノートパソコンを抱えてPC専門店へ入っていくと、右手のカウンターにいた小太りな男性の店員が首だけまわして麻衣を見た。丸い顔に黒縁眼鏡を掛けている。
 レジには客が数人ならんでいた。開店時刻に到着するように自宅を出発したつもりだったが、途中で道に迷ってしまった。すでに開店から一時間以上が過ぎている。
 カウンターの端にノートパソコンを置いて麻衣は狭い店内をながめた。年度末最後のキャンペーン中と印刷された広告があちこちに貼られている。ずらりとならぶ展示品の真新しいパソコンから目を離して、持ってきたノートパソコンの閉じた蓋に指をすべらす。
 しばらくしてさきほどの黒縁眼鏡の店員がカウンターの中を「いらっしゃいませ」と近づいてきた。
「パソコン診断っていうの? お願いできます?」
 予約不要、診断一回につき五百円と店舗のウェブサイトに載っていた。診断無料という店もあったが修理に関するページの内容を比較してここに決めた。診断によっては別に修理代金が必要になるかもしれない。
「もちろんうけたまわっております」店員はカウンター越しに麻衣を見おろした。感情の読めない表情だ。「どんな症状です」
「きのうキーボードを交換したばかりなんですけど反応しないキーがあるんです」
 カウンターのうえのノートパソコンを麻衣は指で示した。
 数年前、キーボードがぼろぼろになっていたのに加えてHDDが動作しなくなった。購入時に作成したリカバリディスクからも起動しない。BIOS画面には行けてもOSが起動しないことにはどうしようもなく以降は内蔵のバッテリーとメモリは外して緩衝材に包んだ状態でクローゼットの奥に保管していた。
 先週、臨時収入が入ったときふいにこれを復活させてみようとおもいたった。何年ものあいだ壊れたままにしていることがずっと胸に引っかかっていたのだった。
 費用についてはあまり気にせずにできるだけのことをしようと麻衣は考えた。メインPCは別にあるから作業ができなくて困るということもない。
 まずメモリを購入して増設し、HDDも新品のSSDに換装した。ドライバ関係の情報や手順を調べてから最新のOSをインストールすると正常に完了してそのあとも思いもかけず快適に使えてしまった。うまくいかなかったら試す予定で別のOSも準備していたから、ついでにそれもインストールしてデュアルブートになっている。
 あとはキートップのいくつも外れているキーボードを取り替えるだけだった。裏蓋のネジを数個抜いてパームレストを外しキーボードの型番を調べた。ネットの通販で交換用のキーボードを購入したのが一週間前、それが届いて装着したのが昨日のことだ。新品のキーボードの感触に麻衣は感動しきりだった。
「さいしょは端のほうの六個のキーしか反応しなかったんです。ここの、これだけ。それでいったん外して着けなおしたら、数は減ったんですけど入力できないキーがやっぱりあって、しかもですね。しかも、それが、真ん中のたて三列なんです」
 一度目はおそるおそる装着したからうまくつながっていなかったのだろう。二度目は強めに力を入れてコネクタをぎゅっと押しこんで留めた。それでも反応しないキーがあるというのはいわゆる初期不良の製品ということになるのだろうか。購入元のショップとの返品交換についてのやり取りや手続きを想像して麻衣は重い気分になる。
「そうですね。初期不良の可能性は否定はできません」
 蓋を開けたノートパソコンを店員は屈みこんで観察しはじめた。キーボードの表面をなでるようにさわっている。手のひらがキーボードの広い範囲をタッチしながら何かを確認するかのようにしきりに往復している。それからある同じ場所をかなり強い力でなんども押しているようだった。
「ここのあたりが盛りあがっていますね……」
「え。そうですか?」店員のさわっているパソコンの上部あたりをじっと見る。麻衣には違いはよくわからない。
 ぽってりとした指先でさわりながら店員は真剣な表情で顔をキーボードに近づけていった。F7キーに額が触れそうになっている。
「やっぱりここ、微妙に盛りあがってますよ」疑惑の場所を指で押しながら首をひねっている。
「じゃあもう一度着けなおしたら全部のキーがしっかりと反応する可能性があるということ?」
「あるいはそうかもしれません。しかしくわしく見てみないとわからないですね」あいかわらずのさめた表情で店員がいう。「アダプタはお持ちですか」
「はい」バッグからアダプタを取りだしてわたす。内蔵のバッテリーもワイヤレスのマウスもバッグのなかに持ってきている。
「マウスもあります」麻衣がバッグから出そうとすると、
「いえ結構です」と店員は引き締まった表情でいった。「それはむしろないほうがわたしの場合は使いやすいですね」
 ちょっとお待ちくださいと言って店員がカウンターから出てきた。
「修理相談の窓口はこちらになります」
 案内されて場所を移動する。奥に位置する修理窓口はカウンターの向こう側にどっしりとした大きな台があった。カウンターの中へ入っていった店員がそこへ麻衣のノートパソコンを置いた。
 パソコンの電源をつけて店員は設定関連を見ている。異常はないようだという。そして「十年前のパソコンに最新のOSを入れたことに対する危惧」や「足まわりが懸念される」ということを滔々と述べた。
 麻衣は、事前にメーカーのサイトからダウンロードしていたドライバをOSインストール後にまとめて入れてそれぞれ更新していると伝えた。店員は「そうですか」とむずかしい顔をしている。
「たしかにグラフィックカードはいいやつが入っているのでそれが大きいですね。これでかなりちがいます」うなずいてから店員は麻衣を見た。「さきほどチェックしたときは動画もふつうに再生できていましたし、まあ、まだ充分使えます。これで満足されているのならそれでいいとおもいますよ」
 麻衣としては満足しているというよりもここまで古いといろいろと試して遊べておもしろい、というのが動機の大半を占めている。
「次に買うときはまた最新のものを選びますからいまのところはこれで――」
「……いえいえ」店員が眼鏡の奥で目を瞬かせた。「いやなにも最新でなくてもですね。中古でもこれよりは新しいですよ。そっちのほうがいいんじゃないかと」
 そうですねと麻衣は曖昧にうなずいた。
 別途料金が掛かってもよいので開けて中を調べてみてほしいと店員に頼む。きょうの目的はキーボードを診断してもらうことと必要ならば修理をお願いすることだ。麻衣は店員から差しだされた書類に必要事項を記入して同意書にサインした。
 このまま自宅へ持ち帰ってもういちど自分の手で接続しなおすという選択肢もあるが、それでうまくいく自信は麻衣にはない。もしもだめだったらまたここまで来ることになってしまう。
 店員がノートパソコンの電源を切って本体を裏返した。
 パームレストを取り外し、慎重な手つきでキーボードを浮かせている――とおもったらキーボードが持ちがり、そこからコネクタがぶら下がっていた。
 コネクタのむこうにみえる店員の小さな目は見開かれ、口が少しひらいている。
「お? おお? かんたんに外れちゃいました」
 持ちあげたキーボードをまじまじとながめて店員は首をかしげている。それからあらためてコネクタを着けはじめた。体を曲げてキーボードの裏をのぞくような体勢になっている。
「……ものすごく着けにくいですねこれは」
 何度もトライしている店員の様子を麻衣ははらはらしながら見ていた。自分の接続のしかたが悪かったからつながっていなかったのだろう。原因は単純なことだった。自分の不器用さを恥じる気持ちと、原因がそうだったのならばこれできれいに直るだろうという期待とが、麻衣の胸の中で複雑に絡みあう。
「これでよし」キーボードがつながった。
 店員が元どおりにネジを締めていく。
 電源を入れる。
 ログイン画面が表示される。パスワードの入力欄にカーソルが点滅している。
 店員の人差し指がキーボードの左上から順番に横へとキーを一つずつ打っていく。打つたびに入力欄に黒い丸が表示されていく。
「入りますね。全部」
 画面から目を離して店員が麻衣を見た。その顔はもとの無表情にもどっている。
 さすがプロ――という言葉が喉まで出かかって麻衣はかろうじて止めた。
「丁寧にみてくださってありがとうございます」
「そうですね」乾いた目で店員がいった。「ふつうはこれ修理するよりも新しいのを買ったほうがいいですよと奨めますからね」
 たしかに店員の言うとおりなのだろう。今回のことで麻衣はかなりお金を遣っている。メモリにSSD、交換用キーボード、OS、そしてきょうの修理代。すべて合計すると格安のノートパソコンが買えるくらいにはなるのかもしれない。
 だが使い物にならないレベルの処理速度ならば麻衣も諦めるが、そうではなく問題なく使用できるのだから、解像度や筐体の頑丈さ、キーボードの打鍵感を考えると、麻衣にとってはこれは必要経費なのだった。いずれまたこれと同じシリーズの最新機種を購入することになるだろうと麻衣はおもう。
「新しいものだったら中の部品も新しくなりますからね。OSとの相性もいいですよ」
「それはわかるんですけど」麻衣は小声でいった。「今のところとくに問題もなくてわたしはこれがいいんです」
 キーボードの甦ったパソコンは黒縁眼鏡の店員の手によって点検用の台からカウンターの上へと移された。
 会計のあと店員はふいに奥へと姿を消しすぐに緩衝材のぷちぷちを手に持ってあらわれた。それからそのぷちぷちで麻衣のノートパソコンを丁寧な手つきで包んでいった。

PC専門店にて(原稿用紙10枚)

執筆の狙い

作者 グリーン
49.239.68.199

○店員のプロな姿勢&主人公と店員の価値観の違い? みたいなこと&それでも無理におしつけない店員の姿などを伝えたかった。
○店員が表向きはクールな態度だがプロな姿勢を持ち実は思いやりもあるというところ。(うまく表現できなかった)
○特に事件もなく日常の小さな出来事で地味すぎるかと思い冒頭部分は何度も書き直した。

 本文後に掲載している原稿AはPC関連の部分をかなり削って書いたつもりだが、いざAを投稿しようとした時に不充分かと思って更に削り本文Bになった。
 ややこしくてすみません!
 聞きたいのは以下二点です。
1.途中で読むのをやめたか。できればどこで止めたのか知らせて頂けるとうれしいです。
2.2つともお読みくださったという希少な方がおられたとしたら(ありがとうございます)今回の本文Bと原稿Aは(起伏が足りない以外の点において)
  aどちらのほうがまだマシか
  bどちらも同じで変わらない
  cBを削ってさらにすっきりさせよう
 d逆にもっとふくらませたほうがいい
 自分では判断がつかず、アドバイスお願いします。

コメント

夜の雨
60.41.130.119

A(改稿前作品)とB(本文、トップ作品)両作品読みました。

まず、Bが上にあったので読み、そのあと、下にあるAを読みました。

二つの作品とも内容はわかりますが、Aの方が、小説らしいですね。
改稿前のAの方がよいと思います。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Bの導入部。
 三月下旬の日曜日、古いノートパソコンを抱えてPC専門店へ入ると、右手のカウンターにいた小太りな男性店員が首だけまわして麻衣を見た。丸い顔に黒縁眼鏡を掛けている。
 レジには客が数人ならんでいた。すでに開店から一時間以上が過ぎている。

Aの導入部。
 三月下旬の日曜日、古いノートパソコンを抱えてPC専門店へ入っていくと、右手のカウンターにいた小太りな男性の店員が首だけまわして麻衣を見た。丸い顔に黒縁眼鏡を掛けている。
 レジには客が数人ならんでいた。開店時刻に到着するように自宅を出発したつもりだったが、途中で道に迷ってしまった。すでに開店から一時間以上が過ぎている。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
AとBの違い。
Aには、下記の「麻衣(主人公)の状況が書かれていて、彼女が焦っている雰囲気が伝わってきます」。この焦りは、これから読む御作の「故障したノートPCへの愛情が描かれている」重要部分です。

>開店時刻に到着するように自宅を出発したつもりだったが、途中で道に迷ってしまった。<

Bでも麻衣の気持ちは伝わらなくはありませんが、小説らしさがありませんね。
小説はキャラクターの心情を伝えることにより、読み手が作品に没入出来ます。
上の導入部だけを比べても違いがわかります。
Aの方がよいですね。
ちなみに全文読んだ感想でも、BよりAの方がよかったです。
Aは小説らしさがありました。
二つの作品を上のように比べて書きますと、かなりの時間がかかりますので辞めておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
で、ここからなのですが、御作を読むと中身は10年前の故障したノートパソコンを臨時収入が入った麻衣という女性がPC専門店で「パソコン診断」してもらったのち、修理してもらう、という話です。
この過程に置いて、修理するよりも新しいパソコンがどうたらとか、また、店員の接客態度とか、麻衣のノートパソコンに対する思い入れとか、いろいろと書かれています。
だから、これはこれで面白いです。
単純にパソコン修理の話ではなくて、麻衣という主人公のモノの価値観とか気持ちが書かれています。
その麻衣の価値観に対して、店員の価値観「新しいのを買わなくても中古でも、これだけ金をかけるのなら、よいのがありますよ」と、価値観VS価値観の対決(対立)が発生しているのですよね、だから、御作はそれなりに面白いのです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
御作は、麻衣が持っている古く故障したノートパソコンを修理して店舗で受け取るまでの一部始終を書いた話ですが、読んでいるとほかにも物語が膨らみそうです。

付き合っている男に置き換えると、かなり面白くなるのではないかと思います。
古く故障したノートパソコン。→年齢の離れた問題が多い男。(故障というところは病気よりも人間的問題としたほうが、面白いかもしれませんね)。

PC専門店の店員。 →人間診断士。人間を診断して、問題行動などがあれば直してくれるが、新しい男の紹介や、中古の男でも優主な人材を紹介してくれる。

麻衣 →「年齢の離れた問題が多い男」をこのまま捨てるのがもったいない。まだまだ遊べるのではないかと思っているし、愛着もある。

麻衣 →「メインPCは別にあるからたとえうまくいかなくても困ることはない」これは、メインですでによい男と付き合っているということです。そのうえで、「年齢の離れた問題が多い男」を直してサブに置きたいと思っている。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
こういう具合に、御作はPCの話を人間の話に転換することが可能です。
上に書いた内容(設定)を練り込むと、かなり面白い話になるのではないかと思います。

ちなみに付き合っている男以外に「子供」(母子の関係)などにすると、ヒューマンドラマになりそうです。
ほかには、SFでもファンタジーでも、書けそうだと思いますが。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
上にいろいろと書かせていただきましたが、結局のところ、御作は「PCを修理する話」ではなくて、その中身は人間ドラマが含まれているということだと思います。


それでは、頑張って小説を書いてください。

かじ・リン坊
112.137.227.226

 この冒頭部分ですが、この書き方だと少し混乱しませんか?
『三月下旬の日曜日、古いノートパソコンを抱えてPC専門店へ入ると』←誰が入って来たのか?この物語の書き手が入って来たのか?麻衣が入って来たのか?書き手だけがわかっていて、所見で判断できないのでは?続きを読むと『右手のカウンターにいた小太りな男性店員が首だけまわして麻衣を見た』←誰か人が入って来たのをきっかけとして、もともと店内にいた小太りの男性店員が、もともと店内にいた麻衣を見たのかも?そう読み取れなくもないかも。さらに続く文章ですが『丸い顔に黒縁眼鏡を掛けている』←誰が丸い顔で黒縁眼鏡をかけているのか?小太りの男性店員?それとも麻衣?

 三月下旬の日曜日。麻衣が古いノートパソコンを抱えてPC専門店へ入ると、右手のカウンターにいた小太りな男性店員が首だけまわして顔を向けた。丸い顔に黒縁眼鏡を掛けている。ぐらいなんじゃないかな?と思う。

グリーン
210.138.178.81

夜の雨 さま

 コメントをありがとうございます。
 両方お読みくださったとのこと感謝しかないです。ありがたいです。

――Aの方が、小説らしいですね。
 え、そうなんですね! 意外なお言葉でおおおと思いました。


――小説はキャラクターの心情を伝えることにより、読み手が作品に没入出来ます。
上の導入部だけを比べても違いがわかります。
Aの方がよいですね。
ちなみに全文読んだ感想でも、BよりAの方がよかったです。
Aは小説らしさがありました。

 そういうものなんですね。もしかしたらこれまでも必要な部分を削っていたことがあるかもしれないとおもいました。推敲では削ることが多いのですが、その基準がよく掴めずにいたんです。自分にいかにセンスがないかということが沁みます。今後は心情を伝える部分まで削ってしまわないように削る基準についてもう少し考えてみます。

――御作はそれなりに面白いのです。
 ありがとうございます……!

――付き合っている男に置き換えると、かなり面白くなるのではないかと思います。

 たしかにPCへの愛着というのは恋人への愛着にも似たところがあるのかもしれません。凄い発想ですね。おどろきました。

――こういう具合に、御作はPCの話を人間の話に転換することが可能です。
上に書いた内容(設定)を練り込むと、かなり面白い話になるのではないかと思います。

 例として書いて下さった設定、なるほどと思いながら読みました。麻衣はメインの恋人の他にサブの恋人までキープしているというのはちょっと麻衣の性格が変わっていそうな気もしますが、でもこの設定がすでに色々なストーリーを内包しているようで刺激されました。人間診断士もちょっと謎なんですが、このへん自分なりに工夫できそうな気もしてきました。自分では思いもつかない設定内容でとても参考になりました。ありがとうございます。

――結局のところ、御作は「PCを修理する話」ではなくて、その中身は人間ドラマが含まれているということだと思います。

 そのように感じてもらえたことは非常にうれしいです。
 二つの原稿を比較してのご指摘はしっかりと胸に留めて忘れないようにします。
 ありがとうございました。

グリーン
210.138.178.81

かじ・リン坊 さま

 コメントをありがとうございます。

――この冒頭部分ですが、この書き方だと少し混乱しませんか?

 たぶん麻衣という単語の出てくるのが文末になっているせいですね。
 書いているときその辺りを迷った憶えがあります。最初は
「ノートパソコンを抱えてPC専門店に入ると、右手のカウンターにいた小肥りな男性の店員が、首だけまわしてこちらを見た。」
 という文だったんですが、『こちら』が入っている分、多少はまだ分かりやすかったかもしれないです。
 そのあと今の文章に変えたり、以下のようにしてみたり色々したんですが、
「三月下旬の日曜日。古いノートパソコンを抱えて麻衣はPC専門店へ入っていった。すると右手のカウンターにいた小太りな男性の店員が首だけまわしてこちらを見た。」
 最終的に今の文章にして『麻衣』の位置を後ろにもっていってしまった。悔やまれます。
 ご指摘どおり最初の部分で主語をしっかりと書いていれば混乱はなかったんです。例文まで書いていただきましてありがとうございます。今後気をつけたいとおもいます。
 たいへん参考になるご指摘をありがとうございました。

月戸井
126.161.177.223

感想を、ありがとうございました。

今後どういった作品を書きたいのか。一場面だけの作品だったので、そこを知りたいと思いました。
色々と自分の文章を探っているところには好感を持てました。二つの文章に大きな差はないような気がしました。

偏差値45
219.182.80.182

>○店員のプロな姿勢&主人公と店員の価値観の違い? みたいなこと&それでも無理におしつけない店員の姿などを伝えたかった。

主人公の価値観は固定であっても、
営利に走るプロもいるし、親切なプロもいるね。
会社としては前者がいいし、お客としては後者がいいよね。
ただ、一読者としてはそんなことは意識しないかな。

>○店員が表向きはクールな態度だがプロな姿勢を持ち実は思いやりもあるというところ。(うまく表現できなかった)

良くも悪くも「そういうもの」としてイメージしてしまうかな。
特にパソコンの知識のない私としてはね。
例えば、ペットショップに行って、ワンちゃんを買った。
それでおわりではなくて、あれもこれも、「あった方が良いですよ」なんて言われて、
ヘアーブラシ、食器、シャンプーなどの購入。
店としては売上高をアップするためであっても、
客側にとっては「親切」と感じる人もいる。
つまり「そういうもの」であるから、「思いやり」は意識しないかな。

>○特に事件もなく日常の小さな出来事で地味すぎるかと思い冒頭部分は何度も書き直した。

それはかじさんと同意見ですね。

>1.途中で読むのをやめたか。できればどこで止めたのか知らせて頂けるとうれしいです。
完読はしました。

>2.2つともお読みくださったという希少な方がおられたとしたら(ありがとうございます)今回の本文Bと原稿Aは(起伏が足りない以外の点において)
一応両方を読みました。
違い? 微妙な文章の違いはあるのでしょうけど。
ストーリーで追いかけているので、どっちでもいいと思いました。
ただ、Aの方が少々くどいかな、とは感じましたね。

個人的には、この物語のどこが面白いのか?
どこが狙いなのか? ちょっとボケているかな。クリアではないですね。

客である麻衣の方も相当な知識があるし、店員さんはマニアに近いものを感じました。
仕事だからプロだから、というわけではないく、おそらく趣味の領域でもあるのだと
感じましたね。その辺の奥の奥を覗くことができれば、面白さが増えるのではないか。
そんなふうに思いましたね。

グリーン
49.239.67.186

月戸井さま

 コメントをありがとうございます。
 書きたいのはサスペンス系です。聞かれてから思ったのですが今回投稿したものとは全然違いますね。短いものでも自分の書きたいジャンルに寄せていったほうがいいのかもと思わされました。
 あちらで挙げられていた作品のなかでは「シックス・センス」と「リング」は自分も観たことがあり、衝撃を受けました。リングは小説のほうが怖かったです……。

――二つの文章に大きな差はないような気がしました。
 もう一つのほうにも目を通してくださったんですね。ありがとうございます!
 差はないとのこと、参考にさせて頂きます。もっと大きなところを気にしたほうがいいのかもしれないですね。
 ありがとうございました。

グリーン
49.239.67.186

偏差値45 さま

 コメントをありがとうございます。

――つまり「そういうもの」であるから、「思いやり」は意識しないかな。
 サービスと思いやりの違いですね。かなり違っていました。

――完読はしました。
 おお。ありがとうございます!

――ストーリーで追いかけているので、どっちでもいいと思いました。
ただ、Aの方が少々くどいかな、とは感じましたね。

 ストーリー重視で読む場合はAではくどくなるんですね。
 読み方によって受け取り方も変わってくるということでとても参考になります。

――どこが狙いなのか? ちょっとボケているかな。クリアではないですね。
 狙い……としてはいちおう古くなったPCへの主人公の想いみたいなのはあったんですが、たしかにクリアではなくて淡々としてますし、面白さに欠けるものでした。

――その辺の奥の奥を覗くことができれば、面白さが増えるのではないか。
そんなふうに思いましたね。

 これはなんだか……とてもうれしいご指摘という感じがしています。今回PC関連の事項については専門用語等はなるべく使わないように、また細かいところは思いきり端折ってというふうに、そのあたりを気をつけて書きました。細かく書くと読者の方が興味を失ってしまうかなとか、専門用語を使うとそこで読むのを止めてしまうこともあるかもとか、色々考えました。しかし奥の奥を覗くことができれば面白さが増えるということもあるかもしれないんですね。とはいえそこまでディープな知識は自分は持っていないし、どのようにして読者の方に覗いてもらえるように書けるのかはわかりません。
 でも工夫して書けばおもしろく読んでもらえるかもしれないんだなという可能性に気づかせて頂けたことがとてもうれしいです。ありがとうございました。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

テクニカルサポート

3,000字以内