作家でごはん!鍛練場
のべたん。

てのなかの宇宙

「わたしが、ですか」
 きょとんとした顔のわたしを見て、『かみさま』は申し訳なさそうな顔をしました。
「すまんが、急用でな。ほんの七日でいい」
 口ひげを蓄え、温和そうな表情のかみさまは、わたしの髪をそっと触り、
「シルヴィーヌよ、そろそろ、おぬしも天使の役目のひとつとして、宇宙のひとつやふたつ、管理せんといかんぞ」
「はあ」わたしの気の抜けた声が口からこぼれ、空に昇っていきました。そんなこと、急に言われても、というやつだ。
「知ってのとおり、宇宙は膨張し続け、それにともない銀河も無数に生まれている。わたし一人では管理しきれんのだよ」
「でも」わたしは、思わず口をこぼす。
「ん」かみさまは、どうしたとでも言うように、首をかしげた。
「失敗するかもしれません」
 かみさまは、なんだ、そんなことかと大げさに笑った。
「ああ、気にするな。宇宙のひとつやふたつ、破壊してもかまわん」
「そんなものなんですか」
「わしも、若い頃はずいぶんと失敗したものだ」
 しみじみと昔を思い出すかみさまは、急になにか納得したような表情になって、
「うん、むしろ失敗したほうがいい。環境の変化に耐え切れず、もだえ苦しむ生き物たちを上から眺めていると、ああ、またがんばらないとな。と思うものだよ」
 軽々しく恐ろしいことをいうものだ、このかみさまは。
 いまでは宇宙創世のパイオニアと言われている、この目の前のかみさまも、むかしは数々の宇宙を破壊してきた破壊神であったとは知らなかった。
「今後のことも考えて、この宇宙をおぬしに託すぞ」
 ぽん、とボールを放るように、かみさまが投げたくろい球体は、宙に弧を描いて、わたしのまえに落ちてくる。あわてて両手を差し出すと、くろい玉は落下の速度を急激に下げ、ゆっくりと、わたしの手のひらの上で、手に触れるか触れないかの絶妙な位置で静止した。
「浮いてる……」
「では、行って来る」
 かみさまは、早々と旅行かばんを担いで行ってしまった。
「いってらっしゃーい……」
 ぽつんと、ひとり残されたわたし。
「さて、どうしたものか」



 わたしは両手のなかに浮かぶ宇宙を見た。黒い球体をよくよく見ると、その内部に、まるで埃が光を反射したかのような、ちいさな瞬きがいくつもあった。それは到底数えきれる範囲ではなく、わたしは、そのひとつひとつに、『いのち』を感じた。何千もの星々の瞬きが、細かい粒子のきらめきが、わたしの瞳にきらきら映った。

















 私は顕微鏡から目を離し、眉間を指で摘まんだ。
 まだ目がチカチカする。目をつむりながら、薄暗い研究室の埃くさいソファに身体を預けた。

「中島さん。お疲れさまです。宇宙の進行具合はいかがですか?」

 それは、『かみさま』だった。
 かみさまは私の寝ているソファの目の前に立ち、後光を発していた。
 私は身体を起こし、目の前のかみさまに軽く会釈した。

「いいんですよ。横になっていても」
「いや、そういう訳には……。コーヒーでも飲まれます?」
「はは。ありがとう。でも今日はいらないよ。それより、相談したいことがあってね」
「なんでしょう?」
「貴方の作り上げた宇宙から生まれた私は、『かみさま』として時空を超越した存在となり、こうやって中島さんと会って話をすることもできている。でも、最近思うんだ。中島さんのいるこの世界さえ、誰かが作り上げたものなのではないか、とね」
「それは有り得ますね。しかし、私は貴方のように時空を超越できる訳ではないから、それを証明することはできませんが」
「だから思うのですよ。さらに時空を越えることが出来れば、いちばんはじめの創造主に会うことが出来るのではないかと」
「そうですね。そうされるなら、そうしたらいいでしょう。貴方はそれが出来るのだから。でも、それなら二度と私の前に姿を現さないでください。私はそれが真理だと知らされて平然としていられるほど丈夫じゃない」

「私を作り出したというのに、残酷なひとだ」
 そう言い残し、『かみさま』は消えてしまった。










「あれ、かみさま?」
 わたしはきょとんとした顔をかみさまに向け、首を傾げました。あれからまだ数時間しか経っていなかったからです。
 かみさまも驚いた顔をして、わたしを見つめていました。

てのなかの宇宙

執筆の狙い

作者 のべたん。
49.104.12.8

金子みすゞの『蜂と神さま』という詩に感化されて書いてみました。

コメント

偏差値45
219.182.80.182

>口ひげを蓄え、温和そうな表情のかみさまは、わたしの髪をそっと触り、
文末「、」なので不自然さを感じますね。触った後、なにかしらの言葉が必要ですが、
それが見当たらない。

>そんなこと、急に言われても、というやつだ。
わたし=シルヴィーヌ
男性だが女性だか分からない上に、俗っぽい言葉ですね。
従って不自然に感じます。

>「はあ」わたしの気の抜けた声が口からこぼれ、
>思わず口をこぼす。
表現のダブリが気になります。
もちろん、被っても小説的には問題ないのですけどね。

>かみさまは、早々と旅行かばんを担いで行ってしまった。
うーん、このかばん、宇宙よりも大きなものなのですね。

>何千もの星々の瞬きが、
宇宙にしては、星の数がとても少ない気がしましたね。
もちろん、どんな宇宙があっても良いのですが、少なくても
現在我々が住む宇宙ではないということでしょうか。

>私は顕微鏡から目を離し、眉間を指で摘まんだ。
これ以降、よく分からなくなります。
前文では、>「わたしが、ですか」とあるので、
この「わたし」と「私」は違う人物なのだろうか?

>「中島さん。お疲れさまです。宇宙の進行具合はいかがですか?」
この中島さん、って誰よ?
前文では >シルヴィーヌよ、となっているので、やはり違う人物なのでしょうか?

>そう言い残し、『かみさま』は消えてしまった。
>かみさまも驚いた顔をして、わたしを見つめていました。
ちょっと分からないかな。

全体としてはまったく理解できませんでした。
次回は「伝わる小説」を書いてもらいたいと思いましたね。

のべたん。
49.104.12.8

偏差値45 さま

感想ありがとうございます。


中島さんは、シルヴィーヌや『かみさま』のいる世界を作り出した研究者という設定だったのですが、説明不足で申し訳ありません。


伝わる小説を書けるよう努力していきます。

月戸井
126.161.173.246

なんとなく面白いです。
最後のは意味が分からなかった。

のべたん。
49.104.31.193

月戸井 さま

感想がありがとうございます。

>最後のは意味が分からなかった


ラストは『かみさま』が元いた場所に戻って終わってますが、これは、かみさまを作ったのは、中島さん。中島さんを作ったのは、かみさまという……。

無限ループなのでしょうか?

わたしも書いていて意味が分からなくなってます。

のべたん。
49.104.31.193

訂正

感想がありがとうございます。  
→感想ありがとうございます。


申し訳ありません……

hir
210.133.223.150

 鶏が先か、卵が先かを神様と人間に置き換えているようですが、宇宙と意味合いが被ってややこしくなっている感じです。
 マルチバースの話っぽいけど管理するとはどういうことなのか。どうすれば失敗になるのか。具体的なハッタリがほしくなります。
 宇宙も人間も不可解な力でつなぎとめられて形を保っている。それが神様なのでしょう。

のべたん。
49.106.205.170

hir さま

感想ありがとうございます。
指摘されたマルチバースという考えは知りませんでした。勉強してみたいと思います。

分かりやすいと思って『かみさま』というキャラを出しましたが、中島さんも神様であるし、そもそも神様って何?
と思ってましたが、

>宇宙も人間も不可解な力でつなぎとめられて形を保っている。それが神様なのでしょう。

確かにそのような考え方もありますね。



ありがとうございました。

西野 くず
106.181.177.60

読了致しました。

かみさまが、
命を無造作に扱い、何処と無く軽やかな身のこなし。
実際は割りと残酷なのに、
淀みなくて
柔らかい雰囲気の作品ですね。

詩を詠むような気持ちで、
ふんわり言葉が入ってきました。

最後のシーンを、きちんと書ききれていたら、もっと良いお話になっていたと
思います。
次回も、読んでみたいです。

ありがとうございました。

ゴイクン
121.92.248.155

拝読しました。

私も最後がぴんときませんでした。

返信のコメントによれば、かみさまと中島さんの会話は、どっちかがヴァーチャルになってしまうわけですね。
中島さんに寄れば、かみさまは実在しないし、その逆も可と。

でも、普通に中島さん視点で書かれているように思いますし、それでよくわかるのです。ただ、わからないのはラストのパラグラフ。時間が停まっていたということですか????

中島さんが実験室で宇宙を作った。その宇宙の中にかみさまがいて、シルビーヌがいる。そのかみさまも宇宙を作って、その宇宙の中にもきっとかみさまやシルビーヌみたいなのがいる。そしてさらにその向こうには・・・。

つまり、宇宙は入れ子構造というわけですね。だから、中島さんは否定するけれど、中島さんを顕微鏡で見つめる別の目も、どこかにある。鏡に鏡を映すような感じでしょうか。

その発想は面白いです。ただ宇宙は実験室の中にあるというのは、ずいぶん前にSFのネビュラ賞を受賞した短編で読んだことがあります。ただ実験室が入れ子状態というのは、なるほどと思いました。

ネビュラ賞のは、進化の過程を調べるために宇宙を作ったという説明だったように思います。

星新一風な書き方ですが、会話だけでなくもう少し場面があったほうがリアルになるかもしれませんね。
それでは失礼します。

のべたん。
49.104.27.254

西野くず さま

感想ありがとうございます。


最後のシーンは、私の実力不足で上手く書けませんでした。


頑張ります。

のべたん。
49.104.27.254

ゴイクン さま

感想ありがとうございます。


時間が停まっていたといシーンは、不要だったかもしれません。




この作品での宇宙の捉え方は、入れ子構造というよりも、
hir さん の考えに近いです。

卵が先か、鶏が先か 

Aから出発した車がBに到着して、Cを経由してAに戻る

みたいな。

『かみさま』を作ったのは、確かに中島さんなんですが、中島さんのいる宇宙を作ったのは『かみさま』なんです。

入れ子というよりも、環状線をぐるぐる回っているイメージなんですが。

よくわかりませんね。私もあまり理解できてません。


ネビュラ賞のやつは、読んだことはないのですが、機会があれば是非読んでみたいです。


勉強になります。
ありがとうございました。

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