作家でごはん!鍛練場
えんがわ

志那そば屋 こうや

 新宿から中央線で一駅の四谷。大都会のビル群の中に「しんみち通り」はある。
 名前の印象のように、しんみりとした昔が匂う通りに、飲食店が高密度で連なっている。
 そのラインアップは、ラーメン、蕎麦、天丼と言った庶民的な店に、メキシコやタイと言った国際色豊かな店が混じっている。一見、ごちゃごちゃとした取り合わせなのに、街全体はサラリーマンな商店街風な一つのテイストを作っているから不思議だ。
 店の入れ替わりは激しく、夢見がちだなと思っていた新規店は次々と消え、雑誌でも特集されていた有名ラーメン屋も別の飲食店になり代わっていた。そうかと思えば、通りの入り口の「かつれつたけだ」(旧エリーゼ)には相変わらず行列が並び、潰れそうな感じのグリーンカレーの店が10年以上も老舗の雰囲気を出しながら続いている。
 にぎわいつつも、観光地化していないで、ビジネスマンがランチを求め、行き交う。脈動するように息づく少し古臭いそんな通りにいると、高層ビル群を見上げるよりも東京に来たなって感じがする。
 そのちょっと先に、「支那そば屋こうや」はある。

   *

 ラーメンの昔の呼び名「支那そば」。差別的なニュアンスもあると言われている支那の文字。その名は多分、わざとつけたんじゃなくて、昔から変えていないだけな気がする。1961年の屋台から始まった歴史ある店なのだ。チェーン展開はしていないが、のれん分けをしていて、「こうや系」というジャンルを作っている。
 隠れた食通タレント、タモリが通うことでも有名だ。そう言えば給仕のおばさんがお客と話していて、「ナカイくん」という言葉が聞こえてきた。「ちょっとナカイは苦手でね」とお客が応えていた。SMAPの中居くんのことだろうか。にもかかわらず、店内の目立つところに芸能人のサインが貼られているような、その、野暮ったい色紙群は、見つからなかった。
 店内は木目を感じさせて、スペースは程ほどに広く、それでもカウンターと厨房が一体となり、仕事をしているのが良く見える。昭和よりも新しく、平成よりもちょっと古い、すっと入っていける雰囲気だ。実際、OLっぽい女性が一人、さっと入ってきたりもした。
 厨房できびきびと働く若いお兄さんは、中国語か韓国語か、アジアな言葉でハゲ頭の店主に話しかけていた。店主は自然に、でも簡潔に、それに返事をしていた。
 海外へのこうや系進出も、近い将来あるのかもしれない。

   *

 ワンタンメン。
 お値段1000円。
 それまでの交通費を考えれば安い額なのだが、それでもためらってしまう。ラーメンには1000円の壁と言うものがあるらしい。そのぎりぎりの境目。
 カップヌードルも昔は200円以上はあり得ないと思っていた。それが名店再現系のヌードルが今はコンビニでも、お高く売られている。壁は超えれる気がする。
 反対にマクドナルドの高価格な新スタンダードメニュー、グランマックって普及しているのだろうか。やっぱり厳しい気もする。券売機型の店は1000円札を1枚入れても買えなかったら、やっぱり抵抗感がある。
 でも、パスタのように本格的な店は1000円台でもアリ的な、そうしたリッチなものが受け入れられたら、その先にラーメンのジャンルの拡大、豊富な食材によるラーメンの自由が、味の可能性が生まれる気もする。
 こうやのワンタンメンは1000円でも、800円のスタンダードラーメンを抜いて、店では一番人気のメニュー。

 いただくことにする。

 メンを茹でている時に、こう、メンを1個1個分けて入れる網のようなもので仕切るのではなくて、ゆだった大鍋にそのままメンを入れる。それから平ザルでメンを掬い取り、パッパッと振って湯切りをした。この昔ながらのスタイルに、味がどうこうよりも、気分的なものでわくわくとそそられる。
 スープは醤油なのだろうけど、色合いは塩に近い。
 具は素晴らしく、大ぶりの肉の詰まった手作りワンタンが5個、チャーシューが2つ、青ネギがパラパラっと多めに入っている。ワンタンは熱々のスープと肉にくとした豚肉が、口の中でほろほろと散っていく。
 チャーシューとワンタンを噛みながらメンをすする。メンだけではなく、常に具と一緒に食べられ続けれる、肉を中心としたそのボリュームに、なんだかぜいたくな気分になって来る。ちょっと飽きが来ると、青ネギをスープと一緒に含むと、程よく舌がリセットされる。
 スープは軽く塩気を残すあっさり系。なのだが、飲み終えるとほろりと舌にこくのようなものが残る。絶妙に具の肉とマッチしていて、ワンタンがそのスープをじわんと吸収する。
 熱々からちょっとずつ冷めるワンタンとスープの中で、舌の状態に合わせて、スープ、青ネギ、ワンタン、チャーシュー、それにメンマ、どれを選ぶか、どれを組み合わせるか、少し楽しく迷いながら食は進む。具が一杯なのもあって、満腹感がある。女の人は少なめにして貰ってもいいかもしれない。給仕のおばさんが、残しても良いよとも言っていた気がする。どんぶりが空になった。他のラーメン屋も巡ろうと思っていたが、満足してしまった。

 会計の後、店主に「おいしかったです」とぼそっと言って、店を出る。
 ビル街の隙間風が冷たい。
 帰りの電車でゴトゴト、舌の奥にはまだスープの塩気が、中心にほんのりとコクのようなものが残っている。
 埼玉への帰り道、この気持ちをどう書こうか考えている。

志那そば屋 こうや

執筆の狙い

作者 えんがわ
165.100.179.26

よろしくお願いします。

コメント

むるてゅい
222.229.4.214

旅番組の食事シーンを丁寧に書くとこういうふうになるのだろうなと思いました。ただ、すこし物足りないといいますか塩気が足りないといいますか。芸能人の名前が悪目立ちしているのが気になりました。全体的な雰囲気はよかったと思います。

えんがわ
165.100.179.26

むるてゅいさん、はじめまして。

ありがとうございます。
雰囲気を感じられたようで、嬉しいです。

タモリは、ご指摘されてみると、なるほど余計な素材でした。
ここは全体の体験から浮いていて、豆知識的なものになってしまっているようで。距離感が遠すぎたかなって。
シンプルに追求して、でも丁寧さを持って、出汁を取りたいです。
薄味にしても納得の味と胸を張って言えるようなテイストを出したい。むずいけど。

夜の雨
60.41.130.119

いやぁもう、絶妙に「志那そば屋 こうや」の宣伝が、行き届いていますけれど。
導入部に店舗がどういった場所にあるのか、あたりから雰囲気に浸ることが出来ました。

 >店内は木目を感じさせて、スペースは程ほどに広く、それでもカウンターと厨房が一体となり、仕事をしているのが良く見える。昭和よりも新しく、平成よりもちょっと古い、すっと入っていける雰囲気だ。<

店内の描写は、もっとごちゃごちゃしている雰囲気が必要かとは思いますが、実際はどうなのでしょうね。
「スペースは程ほどに広く」このあたりは具体的数字を書いたほうがイメージしやすいかと思います。
外見描写もあると、よいですね。

ワンタンメンやコンビニで売られているカップヌードル、マクドナルドのグランマックの値段とかに時代を感じました。

メニューの「ワンタンメン」は描写されていたので、わかりやすかったです。
また、おいしそうに書かれていますので、ごくりとつばを飲み込みました。
ワンタンメンが入っている器(うつわ)は、描写しておいた方がよいですね。大きさとか、重みとか、絵柄とか。

「支那そば」ラーメンの昔の呼び名にまつわるお話は、歴史の重みを感じますね。これは、うまく書かれていました。食べ物に関して書くと軽くなりがちですが、作品を締めています。

店を出た後の雰囲気からラストまでが絶妙でした。

細かく感想を書きましたが、これは食べ物のエッセーという作品として感想を書きました。
これが、小説の一部の場合は、感想内容は違います。

ごちそうさまでした。

四月は君の嘘
219.100.84.36

大丈夫なの?? ここの人たち??


>いやぁもう、絶妙に「志那そば屋 こうや」の宣伝が、行き届いていますけれど。
導入部に店舗がどういった場所にあるのか、あたりから雰囲気に浸ることが出来ました。


↑ 【志那そば】ってー、タイトルから誤字じゃないの??

それ、夜の雨氏ぃー もわざわざコピぺしてるけど、まさか気づいてないの??


本文読めば、「何か特別な意味がある造語」だったり・・
いや、「しない」だろうなー、

作者が えんがわ氏ぃー だし。。

夜の雨
60.41.130.119

四月は君の嘘さん。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
>いやぁもう、絶妙に「志那そば屋 こうや」の宣伝が、行き届いていますけれど。
導入部に店舗がどういった場所にあるのか、あたりから雰囲気に浸ることが出来ました。


↑ 【志那そば】ってー、タイトルから誤字じゃないの??

それ、夜の雨氏ぃー もわざわざコピぺしてるけど、まさか気づいてないの??
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「志那そば屋 こうや」(志那)←「支那(しな)」とは、中国またはその一部の地域に対して用いられる地理的呼称、ということを言いたいわけですか?

気が付こうが、気が付くまいが、どちらでもよいけれど。
その店舗がほんとうにあるのか、ないのか、私は知りません。
だから「志那」であろうが「支那」であろうが、どちらでもよい。



>>「支那そば」ラーメンの昔の呼び名にまつわるお話は、歴史の重みを感じますね。これは、うまく書かれていました。食べ物に関して書くと軽くなりがちですが、作品を締めています。<<

感想では上のようにも書いているので、「私の感想では」特に問題はないと思いますが。

「作品の中身」に感想を書いているだけです。


よろしく。

えんがわ
165.100.179.26

>夜の雨さん

はい。
店内の様子はもっと書かなきゃですよね。画が見えないか。
前のしんみち通りの描写の塩梅からも、薄いです。はい、ご指摘を受けて気付きました。

ワンタンメンをどこまで美味しく出せるか。
そこが雨さんにはイケたようで、嬉しいです。
ラーメン食べたいなって思わせれれば、そこがゴールなのです。

ラーメン蘊蓄は語り過ぎるとウザいと言われるそうで、でもそれが無いと食レポだけになっちゃうんで、そこら辺の加減に自信が無いのです。励みになりました。

はい。
書く感じとしてはエッセイ寄りにしました。
このような食の表現はとっても小説な文章の場合にも少しは力になればと思うのですけど、そのままだと小説として辛い評価になるのは肝にめいじます。

夜の雨さんは、前のものも、きちんと読んでいただき、自分なんかにゃ勿体ないと思いつつ、とても嬉しいです。
ありがとうです。

あっ、ドンブリは、うん、書けたな。ここを強調すれば、空になった器も活きたなー。あああー。うー。

えんがわ
165.100.179.26

>四月は君の嘘 さん

あああー。
「支那そば屋 こうや」でした。多分。恥ずかしー。うわー。恥ずかしー。
ごめんなさいー。

>夜の雨さん

ああああああ。
元はと言えば、自分の誤字のために、お手間を取らせてしまい、すいませんです。
文章をちゃんと読んでいるのは、自分にはとっても伝わってくるし、ご指摘もずばっと突くものがあったんで、
夜の雨さんの先のコメントは、自分には、少なくとも自分には、とても嬉しいものでした。


ごめんなさい。ああ、なんかがたるんでるんだろうな。自分の人生自体たるんでるんだろうな。うー、びしっと。

偏差値45
219.182.80.182

志那、支那、、、どっちでもいいかな。
そもそも秦という国家の名前が由来だからね。
チャイナと同じ。音だけで文字はあまり意味がない。

さて、感想です。
なにげなく読んだのですが、、、あまり心には残らなかったかな。

あえて言えば、1000円のワンタンメン。
一瞬、金額が高い、と思ったけど。地方の田舎でも、そのくらいの価格はあるかな。
満足度が高いメニューということなんでしょうね。その意味の方が大きい。

内容はどちらかと言うと、写実主義に徹しているので、
もう少し話を盛ってもいいと思います。嘘でもいいんです。
その上で、視覚の描写だけではなく、音や匂い、味覚などの五感をフル活用したら
より良かったのではないかな。
そうすることで臨場感を読者によりよく伝えることも出来るかも。

あとはストーリー性が欲しい。偶然、タレントの〇〇に会えたとか。
その日の自宅の晩ご飯がワンタンメンだったとか。

そう言えば、自宅の近くにも美味しいラーメン屋さんがあったんだ。
しかし、最近、閉店してしまった。
味のセンスは良くても、経営のセンスはなかったようです。
まあ、家賃の支払いが大きいですね。
老舗の飲食店は親からの相続で家賃の心配がない。
だから、多少、美味しくなくても生き残っていることも珍しくはない。

えんがわ
165.100.179.26

>偏差値45さん

あー。いろいろ浮かんで来るなー。うー。
刺激になるお言葉、ありがたいです。

あの、実は一番抵抗があるのが「嘘でもいいんです」との言なんです。
つまりたとえイメージを良くする嘘でも、現実に感じなかったことを書くのは、どうしてもタメラッテしまう。
これが本格小説ならば嘘は喜んで入れるんですけど、こういう形だと、実際に現地に連れて行ってがっかりさせたりしたら、
そのような形での嘘ってのは、どうも。難しい。これは自分の青さなんなん。

ほどほどに美味くても、むしろそのほどほどがラーメンに求められるものじゃないかなとか。
人情ドラマやエンタメとしての食よりも、普段着にあるものがラーメンとか。
考えてしまう。

でも、一番の問題は、何も残せなかった自分の力不足で、嘘はつかなくても、ドラマ仕立てにしなくても、
自分の観察力、洞察力、表現力を駆使して、そこから何かを加えて、その方向で頑張りたかった文章だったような気がします。

もちろん偏差値さんの読みは、小説として正しいと思うし、たぶん自分も他の文章だったら喜んで吸収するのですけど。
このタイプの文章では。なんだろう。青い。青臭い。自分。臭い。

はい。ラーメン屋には色んな物語があって面白いと思います。本格的に題材にするとしたら、もっといろんなものを調べたりふれなきゃですが。半端モノなんで、お客さん目線で絞って書くのが限界でした。

九丸(ひさまる)
126.193.148.120

拝読しました。
僕も平ザルで湯切りするラーメン屋さんが好きです。

「スープは醤油なのだろうけど、色合いは塩に近」
こうや系と断定しているので、スープのベースは確定しても良いかなと思いました。
個人的には「湯気」の描写があってもいいかなと。
上の感想でもありましたが、具体的な名前ではなく、書くにしても芸能人と濁しても良かったような気がしました。

文の雰囲気は好きです。

拙い感想失礼しました。

えんがわ
165.100.179.26

>九丸(ひさまる)さん

平ざる、そそりますよね。
今は網で囲ったので豪快に湯切りする「天空落とし」とかそうゆーのも古くなっているけど、平ざるを扱う地味な技術にはロマンを感じます。

スープの味は上手く言えませんでした。「こうや」の味はかなり独特で、とんこつなのか鳥ガラなのか、上手いこと当てはめられず、貧相なマイ舌もあって、こんな曖昧なものに。うーん、自分には表現するには難度が高かった。くせがあって、でも王道でもアリ。うーん。

湯気。ああ! です。
温度は、外に出た時の隙間風の冷たさで店やラーメンの温かさが伝わればいいなって思ってたんですけど、薄すぎたなー、うん。
湯気とか熱とか、正面から表現できなきゃ、先がないなって。ないなー。

それとタモリさん、ごめんなさい。

雰囲気を感じていただいて、うれしいです。
ありがとうございましたー。

ぷーでる
157.65.82.195

思わず、ラーメンが食べたくなるお話しでした。

えんがわ
165.100.179.26

ありがとですー。

食べたくなりましたかー。やったー。

ラーメン食べさせることが出来たら、ミッションコンプリートですん。
そこまで行きたいなー。

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