作家でごはん!鍛練場
島中 充

助けてくれ

                              島中 充
助けてくれ

植田拓也はブルーのガラスに張り巡らされた二十階建てのビルを見上げた。天に高く、そびえる高層ビルは巨大な水晶である。初夏の光を反射してキラキラ青く輝いている。威容を誇るたたずまいに拓也は少し怖気づく。心を奮い立たさなければ。
こんな所に毎日来られたらさぞかしスマートだろう。一流サラリーマンだ。勤めることが出来たなら懸命に働くぞ。就職したいと思った。
拓也は大きく鼻口から息を吸い込んでフーッと吐いた。今できることは、落ち着くことだ。
三十センチのステンレスの取手を握り、ガラスのドアを強く押し開いた。前に立てば誰にでも開く自動ドアではない。グイと押さなければならない一枚ガラスの大きな扉であった。ここは、押し開かなければ入れない会社なのだ。がんばるぞと力を込めながら思った。
拓也は足元を見ながらビルの中へ足を踏み入れた。ホールはぴかぴかに光っている。リクルートスーツのズボンの黒が、明るい照明で白い床にグレーに映っている。
ハイヒールで歩む女がいた。スカートの中が映りそうで気になった。
エレベーターの横に掲げてある白い案内板で会社の名を確認した。一八階が面接の受付場所。腕時計を見た。時間はまだ二十分ほどある。よしまだ時間は有る。
ピーンと弾かれた金属音がする。エレベーターが一階に着いたことを知らせている。
拓也はそれには背を向け、トイレを探しに行った。緊張すると小学校の頃からいつも小
便がしたくなる。運動会の徒競走の時、出番の前に必ず便所に行った。小便をするとす  っと気持ちが落ち着く。「便所に行きたい者は行って置け」小学校の優しい先生はいつもそう言ってくれた。火山灰の降る田舎の小学校だった。
矢印の付いた案内板が天井からぶら下げてある。黒い文字で化粧室と書いてあった。便所はあっちの方だ。ビルにある便所は化粧室なのだ。化粧をするところではない。理由は良く分からない。自分の家の汲み取り便所も化粧室と呼ぼうかと思ってにんまりとする。そう思うと、なんとなく面接に合格しそうな気がしてくる。
そこは白が基調のピカピカに光っている化粧室だった。便器の前に立つと白い陶器の下方に大きな二センチほどの蠅のシールが貼ってあった。あでやかな銀蠅である。小便に濡れて緑色に光っている。狙いを定めて、飛沫を防ぐためにこれをターゲットに撃てということらしい。
上手い事を考えたものだ。仰せの通り、拓也は小さく声を発しながら放尿した。
「行け、行け、怒涛の小便」
溜まっている訳ではなかったのに、思いの外たくさん出た。うまい具合に的に当っている。いい感じだ。合格できそうだ。
足を少し上下に二度屈伸させイチモツを大きく振った。勇気がでる。飛沫が指先に着いた。前の白いタイルになすった。

拓也は人が見ている時だけ手を洗う。拓也の常識だ。人が見ていない時は、小便が手についても手など洗わない。ズボンになする。
手など洗わなくて、どんな不都合があるのだと思う。さっきまで体の内に入っていたものだ。汚い奴と馬鹿にされるだろう。女は「汚いーっ」と黄色い声で非難して喜ぶに違いない。だが誰にも見られていない、女と手を繋ぐこともないから断然平気だ。

覚悟を確かなものにするために今日は鏡に向かって、どうしても、やって置かなければならない事がある。怖気づく心を鎮めよう。
手洗いと鏡が、誰もいない図書館のような静寂の中に四つ並んでいた。室内はとても明るく清潔に広い。それぞれの鏡の上に照明灯が明るく点いていて、上半身をハッキリと照らしだしている。
鏡はピカピカ光っている。覗き込むように顔を近づけた。鼻息で鏡が薄く曇る。
夜行バスで来た、寝不足だ。目ヤニがついていないか。まず目元を、目を凝らして見た。大丈夫。
頭は爆発している。蛇口をひねり、濡らした手で、髪を七、三の分け目にそって、撫で付けた。髪が水で濡れ、ペチャンコに光った。
ネクタイはゆがんでいない。なかなかハンサムではないか。
ニィッと笑った。黄色い歯がならんでいる。歯を毎日磨くようになったのは、就活を始めるようになってからだ。
長いバス旅行で腹が減っていたので大阪名物を食べた。路上でふらりと屋台のような出店に立ち止まって食べた。タコ焼きは旨かった。歯の隙間に黒いものが付着している。青海苔だ。爪でほじくって、指で弾いた、鏡面に黒っぽい緑点が付いた。グチュグチュとうがいをした。他にも付いていたのだろう、流しに二、三個黒い点が流れ出た。
男らしい引き締まった顔を作るには頰骨から下が一番大切。ヒゲの剃り残しはないか丹念に顎を上げ観察した。咽の上、顎先の下に一本あった。親指と中指できつく挟んでぎゅっと引き抜いた。プチリと痛い。珍しいことに、一度でうまく抜けた。抜いた跡に点となって血が浮いてくる。抜いた一センチの髯は青のりの横に、見比べるようになすり付けた。
水を勢いよく流し、手を洗った。濡れたままの手で二度頬を叩いた。水しぶきが顔や鏡に飛び散った。備え付けのペーパータオルを二枚引き抜き、顔をゴシゴシと拭いた。顔に力を入れ、歯を食いしばった。鏡の中の自分を睨みつけ、頬の筋肉を浮かせ勝負の顔を作る。
これでよし。顔を拭いたペーパーで、そのまま、撥ねの飛んだ、髭と、青のりの付いた鏡を綺麗にしようとしてなぞった。灰色に筋を引いて、鏡面が大きく汚れた。新しいペーパータオルを抜き取り、あわてて、拭いたが、汚れは広がるだけで、なかなか落ちない。
丁度その時、若者が用を足しに入って来た。あわてた。鏡は汚れている。速く立ち去らなければ。拓也はバッグを掴み、そ知らぬふりに急いで、路上を駆け抜けるいたちのように化粧室から逃げて行った。後ろは振り返らない。汚れた鏡があるだけだ。

さー行くぞ。歩きながらポケットから昨日書いた四つ折りの紙を出し最後の確認をした。小声で読み上げる。
一、ドアは三回ノックする 二、失礼しますと言って入室する。 三、ドアの前で「本日はよろしくお願いします」とあいさつをして、一礼をする 四、面接終了の合図を聞いたら、「本日は忙しい中、本当に有難うございました」と座ったままお辞儀をして、それから退室をする。
エレベーターの前に立った。ドアが開いた。後ろから同い年くらいの女が拓也の横をすり抜けるように乗り込んできて、自分の下りる階のボタンを赤いマニュキアの細い指ですばやく押した。やせぎすの長い髪の美人であった。ステンレスの壁に髪を押し付けるようにして立つ。顎を幾分挙げて、階を告げている電光板を見ている。
拓也はほとんど無意識に、気付かれない様に品定めをしている。女は拓也のことなど知らんぷりをきめているふりをしている。狭い密室の中で若い女と二人である。拓也は緊張している。オトコとオンナなのだ。薄いブラウスの下に下着のラインが見える。狭い部屋にゆずの香りが漂ってくる。
十二階に着いた。女はそそくさと降りた。拓也は心が安らかになるのを感じた。
年配の男女数人が乗ってきた。エレベーターは各階に止まりだした。そのたびにチーンチーンと音がする。それに呼応して近づいて行く。近づいていく。今から始まるのだと心臓が高鳴る。
一八階に着いた。ひと際高くチーンと音が鳴った気がする。サー面接だ。左右に扉が開くと廊下を挟んですぐ真ん前に受付嬢がいた。受付嬢が顔を上げた。イタチのようにとんがった顎をしていると思った。
空気が一気に冷たくなる。冷気が押し寄せてくる。クーラーが効きすぎている。
ここからすでに面接が開始されている。受付の女は三〇位で紺色のベストスーツにしっかり身を固めていた。髪を後ろで束ね、首筋が見えるように団子に巻いている。
この受付嬢は拓也の立ち居振る舞いを見ているに違いない。パソコンで調べた就職ガイダンスにそのように記載されていた。きっと、後で面接官に応募者のここでの様子を逐一報告するに違いない。手元にメモ用紙が置いてあるだろう。足元から頭のてっぺんまで見透かすように下から上へ視線を動かしていた。
女が拓也に会釈するように頭をさげた。にこりとはしていない。拓也もあわててイタチに挑む鶏のようにこっくりと頭を下げた。こんなきりりとした年上の女と拓也は話したことなどない。顎の筋肉が緊張し、舌がもつれた。口ごもって言葉を発した。
「さっ、さん時から面接に来るように坂本様がおっしゃられて、おうかがいしました」
敬語の使い方が分からなくなった。めちゃくちゃだということだけが判る。頭がカッと熱くなった。女がにやりと笑った。
「面接の方ですか。この通路の一番奥の部屋で行います」目元を涼しくして奥の部屋を、バスガイドのように手首をおりまげ右手で示した。
「はい」とだけ返事して、廊下を奥の方へ早足に拓也は逃げて行った。長い廊下である。
時間を決めて面接をしているのだろう。他に面接に来ている学生らしき人間はいない。今、ここに面接に来ているのは拓也だけであるらしい。
面接場所と書かれたボードの掲げてある扉の前に立った。腕時計で時間を確認した。丁度三時である。
三回ノックして、失礼しますと言って、入室すること。頭の中で間違わないように何度も思いめぐらした。大きく息を吸い、一、二、三と数えながら三回ノックした。
「お入りください」声が内側からする。拓也はドアを開け、「失礼します」と言ってお辞儀をしながら、入った。
会議テーブルを前にしてふたりの面接官が座っている。彼等から二メートルほど離れて部屋の真ん中に折りたたみパイプ椅子がぽつんとひとつだけ寂しく置いてあった。
頬が引き締まる。今から面接、詰問が始まるのだ。
三十がらみの若い面接官と頭の禿げた中年のでっぷりと肥った面接官である。
若い面接官が手を差し出した。拓也もあわてて近寄って行き、手を差し出した。握手かと思った。面接官はにこりとしながら「お掛けください」と言った。握手ではなかった。
しまった。椅子に背を丸めて急いで腰を掛けた。パイプ椅子がガチャッと音を立てる。ダンゴムシのように椅子に背を丸めて座った。しっかりしなければという思いが頭の中を駆けめぐる。拓也は顔を上げた。おどおどしている訳にはいかない。面接官はテレビドラマの刑事のようにテーブルをたたいて、尋問するわけではないのだ。
そう思うと怖気はどこかに次第に飛んで無くなっていく。気持ちはむしろ落ち着いてきて、やらなければと高揚してきた。
男たちが拓也の顔をまじまじと覗き込んでいる。前のめりに顔を突き出して、店先に並ぶキュウリやカボチャの品定めをしているようだ。
拓也の顔と履歴書の写真を若い面接官は注意深く見比べている。いぶかしく思っているようだ。添付してあるものは、ゼミの知り合いに取ってもらった幾分ぴんぼけた写真である。少しぼやけているのであばたになったニキビ跡が分かりにくい。ちょっと気恥ずかしい位のっぺりとしたハンサムに映っている。
見てくれは、とても大切だ。そんなことはありませんと、企業は大嘘を吐いくが、面接にまでこぎつけて、何度も落ちたのは顔や姿に決まっていると思うことがある。イケメンと美人が採用されるような気がする。お見合いをしている訳ではないと思うが、面接はむこうが一方的に選ぶお見合いなのだ。そんな気がした。
就活のネットサイトに顔採用という言葉でそのことが詳しく書いてある。たとえ顔面接であっても、自分の顔を鏡で見て、はーあと肩を落としてはいけない。溌溂とした振る舞いをすれば採用のされる確率がぐんとあがる。採用されないのを自分の容姿のせいにして、ふて腐れるのが一番良くないと書いてある。そうだったかもしれないと、ふて腐れていたのだ。胸に迫る言葉だった。就活生は、何が何でも精一杯、歯切れよくかっこよく振舞わなくてはいけないのだ。
「九州から来られたのですね、遠い所をお呼びして申し訳ありません。さぞ大変だったでしょう」
舌が硬くなって、喉が狭くなった。声が出しにくい。上ずった菅楽器のような声が細い喉から出た。
「夜行バスで来ましたが、そんなことはありません。ぐっすり眠っている間に大阪に着きました」拓也は答えた。本当は三十時間もかかっている。あまり眠れず、疲れていた。拓也は元気があるように、眼を見開き、はきはきとして嘘を吐いた。

「最初に、自己紹介と志望動機をお伺いします」面接官は落ち着いた表情になり、上目使いに聞いてくる。
しめた、何度も繰り返し、声を出して練習してきた解答だ。拓也の受けている会社は**化学という農薬を作る会社である。
「**大学、**部卒業見込み。植田拓也と申します」一呼吸入れて、拓也は続けた。
「志望動機は御社の製品は鹿児島の実家でよく使っています。稲を育てるのに最良の農薬です。世界はさらなる人口増加が予想され、食糧増産が必要になります。その時、御社の製品が世界に役立つでしょう。そして御社は今グローバルに展開しようとしています。私も世界の食料の増産の一翼を担いたいものです」
大うそである。百姓をする田畑など拓也の家ほとんどなかった。
父親が受け継いだ田畑は受け判で大部分を失っていて、自宅前に三十アールの田んぼを所有しているにすぎない。父親は観光客相手の飲食店に勤めている料理人である。パチンコ狂いの大酒飲みで、母親はスーパーの総菜売り場でパートとして働いている。

「将来わが社でどんな仕事がしたいですか。将来像を語ってください」
「学生時代に大学からミャンマーにゼミの教授に誘われて農業指導に半年間行きました。大学では奨学金を貰っています。渡航の費用も大学が出してくれました。外国を知ることが出来て大変勉強になりました。
現地を目の当たりにし、ミャンマーのような貧しい国では、農業の増産が何よりも必要だと思いました。
世界の人口は今後急激に増加し、二〇五〇年には 九十八億人に達すると予測されています。食料増産が待ったなしの一番必要な世界的課題です。
日本では無農薬の有機栽培とかカルガモ農法とか言われています。大学ではそのような農業も学びました。しかし、世界ではまだまだそれでやっていける訳ではありません。
むしろ、今、一番大切な事は食の安全な農薬の開発する事と化学肥料で農業の生産性を上げることだと思います。
その点で御社は世界のトップ企業です。私には貧しい国の人々を助けることが出来ればという夢があります。私は御社に勤めてその一翼を担うことが出来たらと思います」
十分に練習していたので早口でこれらの質問に想定通り答えることが出来た。滑舌さわやかに、上手に対応することが出来た。こわばっていた肩や顔の筋肉がほぐれ、警戒心が少なからず和らぐのを感じた。

「働く上で大切な事は何ですか」
「同僚、仲間たちとチームを組んで、助け合いながら働くことだと思います。そうすれば大きな力を発揮することが出来ると思います。私は、みんなの中で、潤滑剤のような働きをすることが出来ると思います」
「当社の社員はみんな個性的で、我がまま、大変扱いにくいですよ。それでも、できますか」
「私は大学のゼミの中で、みんなから幾分軽く扱われている存在ですが、私がいるとその場がなごやかになります。私は潤滑油の働きをしていると思っています」

「最近読んだ本を教えてください」
「ドラッガーの『マネジメント』を読みました」と答えた。やばいと思いながらも、嘘を吐いた。
「すごいですね」と面接官は答えた。
本当のところ、拓也は図書館から借りて来てそれを読もうとしたが、難しくて分からない、表題を読んだぐらいである。ただ、『高校野球の女子マネージャーがドラッガーの『マネジメント』を読んだら』というマンガは、夢中に読んで感動した。そのために思わず吐いた嘘である。突っ込まれなくてほっと息をもらした。

「学業以外で力を入れたことは何ですか」
「農業ボランティアです。私のいる地方では、農家の後継者がいなくて、年寄りたちだけで田植、稲刈りなどをしています。孫の手さえなくたいへん困っています、その時におじいさん、おばあさんの手伝いに行きました。九州では苗を食べるジャンボタニシが大量に発生していて、駆除がたいへんです。捕食するカルガモやすっぽんを使うのですが、それでは追い付かない、やはり御社の農薬を使いました」
「そうですか」

すると横で今までずっと口をつぐんで聞いていた年配の面接官が突然禿げ頭を前のめりにして、割り込んできた。
「よく勉強していますね。教科書通りではなく、君自身の意見が聞きたいものです」
『来たー。圧迫質問が来たぞー』と拓也は思った。すでに三度面接を体験していたので、圧迫面接も経験ずみである。ここを乗り越えなければ、ここからが一番厄介な領域である。

面接官はゆっくりとした口調で、丁寧な言葉使いで一気に核心をついてくる。
「今までに駄目だった企業はありますか?あるならそこを落ちた理由を教えてください」
「三社だめでした。なにぶん相手企業内のことで、就職難の時代で競争も激しく、何故断られたのか、色々考えましたが正直な所わかりませんでした。ただ、田舎育ちで、垢抜けしないところでしょうか。まだ一社も内定をもらっておりません」
これは予想していた質問だった。正直に答えることが一番の良作と思っていたので、何とかそのように答えることが出来た。
「そうですか、まだ一つも内定をもらってないんですか。残念ですね、ところで君に彼女はいますか」突然、予想もしないことを年配の面接官は尋ねてきた。想定外の質問だったので、どう答えていいのか、拓也は言葉を詰まらせた。

==圧迫質問とはいわゆる教科書的な模範回答に終始する者の本音を探るために行われる質問である。回答そのものより、感情的になることなく臨機応変に対応できるかどうかが、評価の対象となるとガイダンスに書いてある。特に営業職などでは、そのことが一番大切な要素であるらしい==

拓也自身にとって、異性のことは一番好奇心のある問題である。若い大学生なら当たり前のことだろう。恋人がほしくて仕方ない年齢であった。その上、拓也は異性と一度も交際したことがなかった。
『彼女はいますか』それは想定外の質問だった。答えを用意していなかった。機転を利かせて答えなければならない。拓也は機転をきかすことを苦手としている。どのように答えようかと考えても、頭の中はぼやっと白く濁り、出てくるのは機転ではなく、冷や汗だった。
答えないでいると、肥った面接官の椅子がカタカタと揺れ始めた。机の下で、わざとらしく誰もが気付くような大きな貧乏ゆすりを始めた。そして、何かしら隣の面接官と、ひそひそと話を始める。
焦った拓也は、答えなければ、早くと益々焦った。
面接官は一体全体、人を馬鹿にしたような貧乏ゆすりで。何を知りたいのだろう、何を探ろうとしているのだろう。幾分頭に血が上っていた拓也は、仕方がないどうにでもなれとついに言葉を放った。
「彼女はおらん」と吐き出すように故郷の言葉で答えた。すると、面接官は
「若いんだから、彼女がいてもおかしくない年齢でしょう。何故出来ないのかを教えてください」
頬を緩ませて、もっと、丁寧に質問をかぶせてきた。刃物で突き刺すようであった。
頭が熱くなってくる。柔軟に答えなければならない。だが、何を答えていいのか分からない。
羽交い絞めにされた拓也から出て来るものは、噴火する、怒りであった。
¬¬¬==そんなこと入社と関係ねえだろう。彼女がいようがいまいが、お前や会社とどんな関係があるんだ。働くことと、どんな関係があるんだ==
叫びたくなるのを拓也は何とかこらえた。そして大きく息を吸い、心を落ち着けて切り返さなくてはと思った。それでも何を答えていいのか分からない。唇が震え、そして、ついに口から吐き出された言葉は
「ううー」という唸り声であった。
面接官が顔を見合わせている。ふたりに向かって拓也は言葉を放った。
「俺はブサイクじゃけん。見てくれが悪いけん。もてんのじゃ」思わず心の底につかえていたものをへどのように吐き出した。
ふたりの面接官がにやりと笑った。勝ち誇っているようだった。
くそっ、何がおかしいんだ。拓也はふたりを睨み返した。

すると、すぐにまた若い面接官が追い討ちをかけてくる。奇妙な事を聞いてくる。
「これは全員に質問することですが。営業マンがアマゾンに住む裸足の原住民に靴を売りに行きました。どうなると思いますか」拓也はおたおたとしながらも少し考えて、自分の意見を言った。
「未開の人ですから、靴を履く習慣がないので、全く売れないと思います。お金なども持っていないと思います」
「そうですか。靴をだれも履いていないので靴の良さを教えたら、みんな履くようになり滅茶苦茶売れるのではないでしょうか。アマゾンには特効薬になる原生植物がたくさんあります。当社は化学工業の会社で、そのような薬の研究もしております。アマゾンの原生植物の中から、役に立つ植物を選び出し、薬用植物にして育てる。そして、輸出する。経済的にアマゾンは今後すばらしく発展すると思われます」と若い面接官は答えた。
そして、年配の面接官がそれに付け加えた。
「ケニヤの文字の読めない年収八万のマサイ族(注1)にスマートフォンが、今、驚くほどよく売れています。牛の群れを放牧し、色々な所に散らばっている家族同士連絡を取るのに非常に便利だからです。調べてみると面白いですよ。中国企業のセールスマンが売れるはずなどないと思われたマサイ族に売りに行き、市場を開拓し、大成功をおさめました」

そして、またこんな質問を終わり近くにしてきた。
「あなたは野菜で喩えるとなんですか」
拓也は面接問答集を何度も読んでいたので、その中に描いてある『あなたを食べ物で例えてください』位の質問はあるだろうと予想はしていた。その質問なら、納豆と答えようと思っていた。粘り気があり、体に良いと答えるのだと考えていた。
食べ物ではなく、野菜であった。予想と少し違っていたが、答えることが出来ると思った。
「ピーマンです」
「何故ですか」
「好きなんです。子供の頃は大嫌いでしたが母親に体に良いからと毎日食べさせられました。そのうちにいつの間にか好きになりました。今では好物です。栄養価も高く、緑葉野菜で体に非常にいい食べ物です」と答えた。
すると横合いから年配の面接官が禿げ頭を前のめりに突き出してきた。
「ピーマンには、中身がないですね」
いっきに奈落の底に突き落とされた。そうか、中身がないのか。中身が。

==くそー。何でそんな事を聞くのか。人を馬鹿にして。何でそんなことを言うのか。遠く九州の端から面接に来た俺を虐めて、そんなに面白いか。お前たちは。
最初に顔を合わせた時から、お前たちは俺の不採用を決めていたのではないか。顔面接をしているだけじゃないか。禿げ頭のくそったれ==

「最後に聞きます。あなたの今一番ほしいものは何ですか」
拓也の打ちひしがれた頭から出て来るものは、内定と言う言葉だったが、言える言葉ではないと思って、答えないで、口をもぐもぐして黙っていた。すると、
「彼女ですか」と年配の面接官が意地悪く最後のとどめを刺しにきた。仕方なく拓也は消え入るような小さな声で答えた。
「ナイテイです」
「これで、面接を終わります」

『本日は忙しい中、本当に有難うございました』と座ったままお辞儀をして、それから退室をすること。メモに書いて覚えていた動作。やらねばならないことを、拓也は落ち込んでいて、すっかり忘れていた。何も言わないで席を立った。俯いて後ろ手に大きな音を立ててドアを閉めた。
うな垂れて廊下をのろのろと歩いた。リクルートスーツのきりっとした若者が向こうから歩いてくる。次の面接の人だろう。ちらっと顔を見た。イケメンである。ショートヘアーの若者の、自信ある上から目線にぶつかった。拓也は視線を床に落としたまましょんぼりと歩いた。
化粧の上手な、したり顔の受付が帰って行く拓也を見上げている。垢抜けのしない若者の落ち込んでいる様子をみて、さもありなん、駄目だったみたいと思ったのだろう、彼女がくすりと笑った。それを拓也は見逃がさない。
チクショウ。よくも笑ったなと何か言ってやる。足早に受付に行き、詰め寄って尖った声で言った。
「面接をしていたあの年配の人は誰ですか」
まつ毛の大きな目玉をパチクリとさせて、嬉しそうに答えた。
「知らなかったのですか。会社案内の表紙に写っていたでしょ。社長です」
もうだめだ。もうだめだ。
次に浮かんできた言葉は、禿げ親父への罵りの言葉ではなかった。

==お母さん。ごめんなさい。本当にごめんなさい==

拓也の母の実家は標高1500メートルの九州山地の深い緑に閉ざされた谷であった。日本でたったひとつ今でも焼き畑農業の残る地である。そして、山頂近くまで鱗を重ねたように棚田が切り開かれ、天空へ、空へと高くそびえている。
村人は生きていくためにこんな高い山上まで水田を切り開いてきた。だが、この美しい棚田こそが村の貧しさを具現している。村人たちは急峻な山道を天秤棒を担いでのぼり、水田に水を運び稲を作らねばならない。天秤棒が肩に食い込む。揺らすな、水がこぼれる。
 かつて、平安貴族であった落人たちは千年の間、近親結婚を繰り返してきた。その血統をひっそりと護ってきたのだろう。そうするしかなかった。
この地には貴族を偲ばせる色白の美人が多いという。学問と文化を重んじる気風が森に立ち込める朝霧のように谷を覆っていた。

拓也の母は街の郊外で自作農を営んでいる裕福な家の長男と見合い結婚をした。二五歳の時である。土地持ちの農家に嫁げば、それだけで一生楽に食べていける。そう思った。
拓也の父は少し薄ぼんやりした気のいい優男(やさおとこ)であった。彼は先代から多くの田畑を相続したが、結婚後すぐに親戚(叔父)の受け判で大部分を失ってしまった。そのため町に働きに行くようになる。飲食店の給仕として安い給料で働いていた。
母は勝気な人である。子どもに残してやれるものはもう教育しかないと考えていた。知識や学問は田畑のように人に奪われることはない。父親のような人に成ってほしくはない。すこぶる教育熱心な母親になった。良い大学に行き、よい会社に就職出来れば、よい生活ができる。子どもを励まして勉強させるしかない。
小学校から、母はぴったり拓也に寄り添って、宿題やドリルの勉強をさせた。それだけではなく、赤毛のアンやトムソーヤの物語を添い寝で読み聞かせた。
中学生になると、自分では学校の教科を教えられなくなったので、拓也を塾に通わせた。塾などの教育費を捻出するため自分はスーパーのパートで働きはじめる。
父親は拓也の教育にはほとんど無関心であった。妻がしっかりしているので仕方がないと思っていた。と同時に妻に自分は、いつも馬鹿にされていると感じていたので、パチンコと酒におぼれ、家のことには次第に無頓着になっていった。少ししか家にお金を入れなくても平気になった。
金のかかる大学になんかに拓也を行かせなくてもよいのだ。大学に行かなくても、えらくなっている人は何人もいる。自分に都合よいことばかり考えて、毎日、場末の居酒屋で酒を飲んだ。少しあった土地の農作業さえあまりしなくなった。
拓也が高校生になった頃には、母親は彼を大学に行かすため、パートとして、長時間、一日八時間以上働くようになる。農作業も少しの合間を見つけてはがんばった。
ふっくらとして、美しかった母は日々の過酷な労苦のためカマキリのようにやせ細った。朝から晩まで働きずめで、やつれ行くのを拓也は自分のせいだ、母親にすまないと感じている。
拓也は母親の期待を一身に背負い、母の期待を実現することが自分の果たせねばならないに義務のように思っていた。
良い大学を目指し、合格しようと勉学に励んだ。
良い大学を卒業して良い会社に就職しよう。そうすれば、母は喜ぶだろう。母を楽にしてあげられるだろうと思っていた。
高校二年生からは、母を助けるため週二日拓也自身もコンビニでアルバイトをはじめた。
拓也は旧帝大、九州大学に行きたかったが、合格することが出来なかった。鹿児島の国立大学には入学することになった。大学生になると拓也は週四回アルバイトをしてほとんど大学の費用は自分のアルバイト稼いだ。大学から奨学金も貰っていた。

       夜行バス

高速道路にしとしとと雨が降っていた。カーブを照らす街路灯に道が黒く光っている。拓也はぼんやり夜行バスの窓に映る自分の顔を見ていた。
「ダメだ。もうダメだ」窓に映る顔にむかって、ぶつぶつと独り言を言っている。雨粒のながれるガラスに自分の顔が映っている。色が抜けて、幽霊のようになった顔が映っている。顔の輪郭が次第に水に流され崩れていく。きっと窓ガラスに自分の未来の姿、顔が映っているのだ。自分の将来もこのように崩れていくのだ。

夕方、大阪駅のバスターミナルにいる時に、ついに来た。こんなにも早くお祈りメールが来た。ダメだ。もうダメだ。今日もまた『祈られてしまった』
鹿児島からバスを乗り継いで夜行バスで大阪に来る。これが一番安価な方法である。それでも面接を受けるのに五万円以上かかる。夜行バスで福岡まで行き、うまく接続されていないので、福岡で十八時間待って、大阪行きの夜行バスに乗る。喫茶店を二軒回って時間をつぶす。待ち時間が長い。片道30時間の長くて辛い旅だ。今度で四度目の面接であった。どうしても内定が欲しかった。だが、今日も『祈られてしまった』
『祈られる』とは、会社から最後に発せられる言葉である。『就活はどうですか。植田様のご健闘をお祈りします』お祈りしますとは会社が断りを言うときの就活生を刺し殺す匕首(あいくち)だ。もう何度『祈られた』ことか。その度にお金が掛かる。パートで時給が880円、ひと月9万円ほど母は稼いでいる。「はいこれ」と一ㇳ月分の給料の入った封筒を母は出かけるたびに渡してくれる。「頑張って、行ってらっしゃい」母の笑顔が不意に浮かんでくる。申し訳ないと思った。涙がにじんでバスの窓ガラスも、前の席で居眠りをしている乗客もみんなにじんで曇って来る。
「内定ない。内定ない。泣いていない」小声で窓に映るぼんやりした顔に何度も言い聞かせる。

===何をしてもダメだ。努力はしてみた。何をしてもダメだ。どうしてこんなに惨めなんだ。みんなが俺のことを笑っている。大学のゼミの中で内定がないのは俺一人だ。みんなが落ち込んでいる俺に、聞いてくる。「内定取れたか」分かっているだろう俺が落ちたのを。だから聞いてくるのだ。俺を虐めるために。「内定取れたか」「一流企業ばかり受けるからだよ。身の程っていうことがある」みんなが俺を笑っている。俺の無様なようすを笑っている。みんなが俺を見下して笑っている。
 ゼミに好きな子がいた。あの子もきっと笑っているのだろう。ひょろりと背の高い可愛らしい子だった。「そうなの。駄目だったの。残念ねー」と何度も言ってくれた優しい子だ。
しかし、他クラス、背の高いハンサムな男の子と校庭の中庭を梅雨の晴れ間に、あじさいの細道を並んで歩いていた。手を繋いでいた。恋人がいるのだ。愛くるしい可愛い子だ。恋人が居ても当たり前だろう。横恋慕しても仕方がないと思った。でも、何かしら、意地悪がしたくなった。くやしいから。二人の間をわざとすり抜けようとした。
「すみません。ちょっと、通してください」と後ろから追いかけながら声をかけた。
「はーい、どうぞー」二人は、握ったままの手を高く挙げ、アーチをつくった。
もう駄目だ。間抜けな事ばかりしている。背後から嬉しそうな笑い声が聞こえる。きっと、ふたりは瞳を合わせ俺の背中を見ているのだろう。
俺のようなあほーは何をしてもダメだ。

あのえらそうな社長、お前は二世だろう。お前が会社を作って、あんな大きなビルの大企業にしたわけではないだろう。偉そうにするな。何がマサイだ。お前はセールスマンとしてアマゾンに行ったとでも言うのか。
どうせ俺は中身のないピーマン頭だ。馬鹿にするな。
もうダメだ、もうダメだ。
『祈っている』が殺し文句なら、そうだ死んでやる。いっそ死んでやるぞ。俺の死をみんなが『祈っている』からだ。みんなが望んでいるのだ。大学の仲間も、禿げ頭の社長も。あの受け付けも、世間のみんなだ。みんなが俺の死を祈っているのだ===

===お母さんごめんなさい。本当にごめんなさい。お母さんにばかり苦労を掛けて。
面接に来る時に食べたとろろご飯、とても美味しかった。筑前煮、とてもおいしかった。
甘いものが好きだからと言って、前夜作ってくれ、バスで食べたおはぎ、とても美味しかった。
僕はもっと努力すべきだった。勉強を頑張るべきだった。地方の国立大学ではなく、京大や阪大に合格したかった。合格しなければならなかったのだ。そうすれば、就職できて、こんなことにはならなかった。そしたらお母さんにも楽がさせてあげられた。お母さんは大阪や京都さえ知らない。九州から出た事さえなかった。僕はお母さんに海外旅行、パリやローマを見せてあげたかった。
お母さん本当にごめんなさい。ここまで育ててくれて何ひとつ、恩返しができないでごめんなさい。もう、僕は何が何だか分からなくなって、疲れてしまった。お母さん、お母さん、本当にごめんなさい。お母さん。僕を許してください===

死んでやる、死んでやる。思いどおりに。不意に拓也に込み上げて来るものがあった。それはまき散らす嘔吐のような怒りであった。眼には涙をため、怒りで体は震えている。血管という血管がヤツデの葉脈のように浮き出て、緑色に充血している。
両手で頭を掻きむしりながら、拓也はバスの後部座席から立ち上がり、バスの中を、背を丸め、嗅ぎまわる狼のようにこつこつ音をさせながら通路をうろつき始めた。
雨の中、スリップを警戒し時速100キロで走っている運転手の直ぐそばに拓也は寄って行った。そして、運転手をギラギラした目で睨みつけた。
「降ろしてくれ」「降ろしてくれ、ここで死ぬ。ここで降ろしてくれ」と拓也は二度おろしてくれと言った。裏返った甲高い声だった。
「なに!」「馬鹿なことを言うな」「出来るわけないだろ。高速道路だ」運転手は低い声でとぎれとぎれに運転しながら怒鳴り返した。

拓也は後ろを向いて運転席の横にある乗降用ドアを「降ろせ!」「降ろせ!」と言いながらバンバン蹴り始めた。そしてその声は、次第に金切り声に変わって行った。
異変に気付いた交代要員の運転手が最後部の仮眠室から急いでやって来て、拓也を制止しにかかった。
「お客さん止めてください」と拓也の両肩を強く掴んだ。そして思いっきり揺すぶった。拓也は「ううー」と唸り声を出しながら手を伸ばしてハンドルを掴んだ。
「もうダメだ。ダメだ。殺してくれ」と奇声を発した。ハンドルを上下にゆさぶった。運転手は必死に両脇を閉め、取られまいと上体を折り曲げ、覆いかぶさった。拓也の手を振りほどこうとしたが、若い拓也の握りしめる力は強く、左に大きくハンドルをグイと回した。バスは、一気に車道をそれ、ガガーとガードレールに接触し、白い鉄板を捻じ曲げ、ガツンと路肩に乗り上げた。そして、道路側に横だおしに転がった。車体は高速道路の濡れた路面を滑りながら水銀灯をなぎ倒し、車道をふさぐように斜めに停止した。
窓ガラスはすべて細かく割れて飛び散っている。車体は大きくでこぼこに損傷している。しかし、運転手はその前にしっかり急ブレーキを踏んでいた。
拓也は思いっきり車体に頭をぶつけた。壊れた乗降口の上で仰向けにエビのように体を折り曲げて白目をむいて転がっていた。彼を捕まえていた乗務員は窓に頭部を強打し額から鼻の上に血をたらりと流して拓也の胴の上にかさなっている。エアーバッグが作動し運転手はシートに押しつけられている。横転しているためシートベルトで横向きに宙ぶらりんに運転手はぶら下がっていた。
「みんな死ぬんだ。みんな死ぬんだ。殺してくれ。」拓也は呻いている。
だが、しっかりブレーキは踏まれていたので横転した時の速度はあまり速くなかった。死者や重傷者がでるような大きな衝撃にはならなかった。
拓也を含め乗客10名と乗務員2名は大事故に見える割に、打ち身、擦り傷、軽い骨折などの軽症ですんだ。死者や重傷者はいなかった。

何人かが、横倒しの座席を乗り越え、蹲っている拓也の所にあわててやって来た。転がっている拓也を乗客は折り重なって、組み敷いた。後ろに突き出ている拓也のおしりをおもいっきり蹴っている者がいた。蹴られるたびに拓也はウー、ウーと声を上げた。
拓也は後ろ手に腕をねじあげられた。髪の毛を鷲づかみに引っ張られ、立膝に座らされた。顔を上げた拓也はヒューヒューと苦しそうにのどの奥を鳴らしている。腫れあがった口から赤い血の混じったよだれを垂らしている。
拓也は握られている腕を振りほどこうとして全力で身もだえして、のたうち回った。腕が自由になった。拓也は胸をかばい前かがみに蹲った。
「刃物を持っているかもしれないぞ。気を付けろ」頭の上の方から声が聞こえる。刃物と言う言葉が拓也の頭の中で破裂した。思わず身をよじって、拓也は自分が刺されるのだと思った。恐怖が頭の中でスパークする。殺される。手足をばたつかせながら、思わず叫んだ。
「助けてくれー」

         
二千十一年 二月二十五日午後十一時五五分ごろ、広島県東広島市河内町入野の山陽自動車道下り線で、南国交通(鹿児島市)の大阪発鹿児島行き高速バスが横転し、乗客十人と乗員二人の計十二人全員がけがをした。
リーマンショックのため二千十年から二千十四年は新就職氷河期と呼ばれている。極めて就職が困難な時代であった。

                       (原稿用紙45枚)

助けてくれ

執筆の狙い

作者 島中 充
61.89.245.203

就職によって、人生の多くのことが決まってしまう時代になりました。フリーターの多いこの世代の人達は結婚も出来ずに、将来の年金の不安を抱えながらどんずまりを生きている気がします。本当に助けてくれと叫んでいる気がします。、

コメント

幡 京
218.221.116.235

生意気ながらコメントを。

「OBーOG訪問歓談記」か「僕の就職戦線突破記」で、好感が持てませんでした。
一流企業に入りたい、入れない、そして僕は途方にくれる、自己否定で。

小生は中小企業でセコセコ働いておりソレナリに満足しておりますが、一流企業一社落ちた(あるいはダメだった)だけでバス無差別心中を目論む主人公は、ちょっと。あとバスに異常が生じたら後部の電光表示板に「異常発生」と表記されますし。

一流企業爆破計画、なら(コンナこと書いてる小生はテロリストだな)。
あ、やっと今年9月で奨学金の支払いが終わります。大学から「校友会」費を無理やり徴収されるけど。

頑張りましょう。

島中 充
61.89.245.203

ある事件の事実に即して小説を作りました。
頑張ってる人に不快感を与える小説だと知りました。ありがとうございます。
しかし2040年には 氷河期と新氷河期に発生した大量の非正規雇用の人々の
年金問題が、医療保険が大問題になる気がします。
結婚できない、子供を作らない少子化が それに追い打ちをかけます。

幡 京
218.221.116.235

畠中さま

不快には思っていませんよ。小生が尊敬する脚本家・笠原和夫先生(『仁義なき闘い』が有名)は亡くなるまで「こんな社会ナンざぶっつぶれちまえ!」ってアナーキーな思想を持たれてましたし(監督・深作欣二先生も)。物流もオートメーション化で人員削減でしょ。小生も「帝都を焼き尽くせ!」ってたまに思いますし。一時期<セカイ系>ってショーセツ流行ったでしょ。滅びるならキレイに、ではなく西郷南州閣下が如く「徹底的に破壊だ!」ってね。

大丘 忍
153.186.197.93

 ずっと昔の昭和時代ですが、私は某大学の工学部に在学しておりました。おりから、就職面接のシーズン。先輩たちはあわただしく会社訪問をしておりました。
 それを見て、面接が苦手な私は工学部をやめて進路を変更しました。今ではそれでよかったと思っております。
 いつの時代でも就職面接は大変ですね。頭が良くて、口が上手く、ハンサムや美人の学生ならそれほどの苦労は無いのでしょうが。
 面接を受けている大勢の会社訪問をしている方々の苦労を察して同情いたします。

富山晴京
126.219.62.98

心中を起こすに至るまでの、狂気の描き方が鬼気迫っていました。執拗な心理描写にはぞっとさせられる思いをしたものです。

島中 充
61.89.245.203

 大丘 忍様 富山晴京様 お読みいただいてありがとうございます 。
 2011年5月22日
主人公は殺人未遂容疑で現行犯逮捕されたが、当初、「就職活動で悩みがあった。自殺しようと思った」などと供述した。しかし、事件直前に車内で「降ろせ」とわめくなど不可解な言動があったことから、地検は約2カ月間、本格的な精神鑑定を実施した。その結果、彼は事件当時、物事の是非・善悪を識別することのできない「心神喪失」の状態だったとする鑑定結果が出た。
そのために地検は刑事責任を問えないことから不起訴処分とした。しかし、民事では乗り合わせた人々の病院治療費、慰謝料、バス、水銀灯、など諸々の修理費合など多額の賠償責任を負うことになるだろう。もとより両親に支払う義務はなく、二十歳を越えていたので全債務は彼が負うことになるだろう。このような不法行為によって背負った債務は自己破産の対象にさえならない。一生背負わなければならないものである。この債務が消滅するのは、彼が死亡するときである。
彼は六か月間精神病院に入院した。懲戒退学ではなく、自主退学という形で大学を去った。通院しなければならない医療観察処分を受けている。

 私はこの主人公を苦労しながら世の中に出て、大成功を収め迷惑をかけた人々に謝罪と補償を行うことができたらと思いますが、そんなストーリーをと思いますが、おそらくそれはリアルではないでしょう。
 破滅へと流れていくとその方が小説としてリアルなのでしょう。

 今年は花粉症がひどく眼が痒くて仕方がありません。すぐに鼻が詰まってしまいます。鼻がつまって夜中の二時に目が覚めてしまいました。鼻糞をおほじくると鼻血が出てきました。
 小説を書くのはつらいことです。くだらん鼻血の話を書くのがいいですね。

大丘 忍
153.186.197.93

>私はこの主人公を苦労しながら世の中に出て、大成功を収め迷惑をかけた人々に謝罪と補償を行うことができたらと思いますが、そんなストーリーをと思いますが、おそらくそれはリアルではないでしょう。

 そのストーリーはうまく書く必要がありますね。ただ、そうなったという結果報告だけでは読者は納得しません。具体的な動機、行動などを描き読者を納得させることが必要です。そこが小説の難しいところですね。
 つまり、バス事故までは、おそらく実在した事件を参考にしたのだと思います。しかし、その続きは作者の創作になります。知っている事実を書くのと、全くの創作では小説としての難しさが違います。案を十分に練って挑戦されてはいかがでしょうか。

ペンニードル
36.11.225.125

助けてくれ 読みました。

>就職によって、人生の多くのことが決まってしまう時代になりました。

”と思い込んでしまっている人”がいるだけなんでしょうね実際は。
私も大学受験を失敗した時に似た事を思いました。私の人生詰んだ。絶対受かるつもりで住むとこも決めて試験日は向かいのホテルに泊まって下見して、バイト先まで絞ったのに、あっさり落ちるとか。

視野狭窄ってのはきっとだれのどの人生にもどこかのタイミングで訪れますよね。本作の主人公にはそれが”就活”という形で襲ってきたけれど、人によっては受験だったり、恋愛だったりするんでしょう。
だからこそ、視野が狭くなってゆく過程をもっと丁寧に書いて欲しかったような気がします。読者も疑似体験的に、これはもう死ぬしかないよねって納得出来るとこまで追い込んで欲しかったです。もしくは完全に突き放すか。

母との共依存では弱いと感じてしまいました。だからどうすれば良いなんて考えはまるでない無責任な感想ですが。

島中 充
61.89.245.203

ぺンニードル様

お読みいただいてありがとうございます。

このマザコンの主人公の視野が狭くなってゆく過程をもっと丁寧に書いて
欲しいという事ですが、確かにそのとおりだと思います。
そのあたりをもう一度再考したいと思います。

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