作家でごはん!鍛練場
幡 京

フォウト・ライク・レニー



 翌日、水曜日。目覚まし時計にしてる携帯電話が鳴って目を覚ましました。午前七時、今んとこ急ぎ仕事は嬉しいんだか悲しいんだか入っておりやせん。だから十二時くらいまでは寝てても構わねえんですがね、昔からあたしゃ早起き早飯早グソ、おっとげしん御不浄ですな、マアそれを習慣にしておりまして、はい。
 着信音は上條恒彦と六文銭の『だれかが風の中で』。云わずと知れた傑作時代劇『木枯し紋次郎』の主題歌であります。紋次郎さん、ああたのようなオトコになりたかったですよ。ああたは上州新田郡三ケ月村っちゅう、しん困の巣窟であるクニを捨て渡世人となりました。そりゃあたしも同じです。高校二年で退学、生まれ育った埼玉は木野川村っちゅうチンケなクニを蹴っぽって、商売を転々、稼業人となりましたから。ああたはあたしの大先輩と云うことになるわけです。ところがですな紋次郎さん、ああたが凄腕なのは云うまでもねえことですが、ニシルで寡黙、酒はやらず女は抱かずが信条のハードボイルド渡世人、ところがあたしゃ腕はからっきし、おしゃべりは三度のおまんまより好き、酒は樽一斗はいけちゃう呑兵衛の生卵、とくらあ。共通するところってえと女ですが、それもやっぱし違いまさあ。ああたは抱かない、あたしゃ抱けねえんでござんすよ。別にインポテンツって訳じゃあござせんよ。紋次郎さんは女を抱くとそれが油断となるから抱かねえんですが、あたしゃ女を抱くとおあしが幾らあっても足りないから抱かねえんですよ。ああたの正体は國会議員にもなった中村敦夫さんだってこたあ分かってますぜ。面長なうえにニシルな眼差し、まさにオトコ前。しかしあたしゃ団子を潰したような顔の形のうえに濁った目、まさに不細工。ああたに近寄る美女は多数おりましたがね、あたしに近寄るのは嫉妬にみちた、大抵はおかめに膨らし粉まぶしたような不細工、あたしが云うのもナンですが、そんな女房どもです。おお自己嫌悪、もう一度寝て嫌なことは総て忘れちまおうかしらん。でもあたしがしび行なっておりやす朝の儀式を行わないと一日が始まらないんでさあ。



 あたしは顔を洗い、アヂダスのパチモンのジヤージに着替えてカロリー・メイトのチーズ味を一箱食べると胡座を組んで目を瞑りました。禅の瞑想?そんな高尚なこと、あたしの様な俗物に出来る筈がないじゃありませんか。まぶたの裏に浮かぶはボクシングの試合です。ヘビー級世界タイトルマツチ、カシアス・クレイvsチヤンプ、ソニー・リストンの一戦でさあ。リストンと云やあ拳闘通の間にゃ十年間、ベルト保持は確実と云われたモサですぜ。しかしですなあ、6ラウンド、歯切れのいいクレイのコンビネーシヨン・パンチがリストンを襲います。リストンのパンチは空を舞います。ジヤブ、ジヤブ、フツク、ストレート、リストンは体力を消耗します。7ラウンド、リストン、コーナーを立てず、クレイのTKO勝利です。クレイ、のちのモハメド・アリ、正確にはムハンマド・アリイって呼ぶんでしたっけ、彼は云うまでもなく強かったんですがね、ソニー・リストンは決して弱いボクサーではありませんでしたよ。ってあたしが望まれもしないのに生を受けた前の話でありますが。クレイ戦の時のリストンは下り坂でした。なんせデビユー後にムシヨにぶち込まれたり、マーチー・マーシヤルっちゅうボクサーに顎を割られて半年のブランクを作ったり、またも懲りずおまわりに暴行をはたらいてブタ箱行き、ンナモンでチヤンプになるのが遅れたんですから。でもね、リストンはやや鈍重だけれども力で相手をなぎ倒す、てな点では今でも史上最強って云われてるボクサーですぜ。なんせあのO・J・シンプスンと並ぶメリケンのスポーツ界暗黒の象徴、マイク・タイスンに破られちまいましたが、二十一歳十一ヶ月の最年少でヘビー級チヤンプの栄光を掴んだと云う記録を持つ、あのフロイド・パタースンを二度続けて1ラウンドKOすると云ったしと殺し並みの腕っぷしだったんですから。あたしゃ尊敬してますよ、本当に。
 


 立ち上がりあたしも小刻みなステツプを始めました。フアイチング・ポーズ、軽く拳を握ります。右ストレート、空を裂く音、あたしの拳もまだなまくらじゃないですな。ジヤブ、ジヤブ、ストレート、フツク、アツパーカット、スリツピング・アエー、顔を背けパンチをかわします。ウイーヴイング、顔躰を上下左右させます。デンプシー・ロール、パンチに体重をかけます。パーリング、相手のパンチを叩き落とします。コークスクリユー・ブロー、そしてあたし十八番のガゼルパンチ、躰を左に屈め同時にフツクを放ちます。あたしは両腕を挙げます。叫びます。アイマメーン!ノービー!オーチヤーイル!ザミン!マニシユボーイ!アイマメーン!イエー!アイマフーチクーチメン!エービバデイノウアイマヒヤア!
 ふう、ナンとか五分は持ちましたよ。汗ダラダラお腹グーグー、やっぱし歳ですねえ。ジヨージ・フオアマンにジヤイアント馬場、キング・カズこと三浦知良は超人ですよ。あたしの様なロートル、リングにお呼ばれされるこたねえでしょうが、声がかかってもお断りですぜ、マツタク。



 それからシヤワーを浴びて汗を流しました。あたしの事務所、正確に云うとあたしのじゃないんですが、マアんなこたどうでもいいか、ここにゃバスタブはないけどシヤワーはあります。ナンのために、それは不明です。
 浴び終わりチーシヤツを着、ももしきを履きました。それでマツトレスに寝転んで『個人情報保護法』についての冊子を読み始めました。そりゃああたしだってボンクラながらも探偵稼業、どうやったらお縄にならず個人の情報を得られるかを知っとくしつ要があるんですよ。そのためには少しのお勉強をしなきゃあ、おまんまは喰えませんのですわ。あ、申し遅れましたがあたしゃ<神田の狂犬>とソノ筋の連中から呼ばれとるデブチンです、はい。しとからよく<いい齢こいて恥を知らねえのかお前。連中はお前を笑ってるだけさ>と云われますが、ここまで来たら人生、やり直しはきかねえんですわ。
 


 午後一時、あたしは麻の上下にグレーの細いネクタイと云ったいでたちで新橋のうなぎ屋へ行きました。麻の背広はとかくしわになりやすいのは常識ですわな、しかしそのヨレヨレな格好があたしゃ好きでして。毛唐、もといユーロプのスノツブへそ曲がりさん達はアメ公の株屋のようなビシツとした格好のあんちゃん達と違い、わざと着崩した格好をするのが通らしく、あたしもその真似をしてる訳でして。〈文章は下手な方がいい、粋ごのみがわざと着物を着くずして着るように〉って誰だか忘れちまいましたが、そんなイキなこと云うしともいた訳ですし。
 特上うな重はしで世さん六人、肝吸いはしとり、澤乃井大吟醸は一杯砂利玉八枚で三杯、合計九千四しゃく円也、あたしゃグルメ食通には程遠い人間生ゴミ処分機、たどんの天ぷら喰えやしねえ、なんてこたあ抜かしません。生まれは大東亜戦争終結後ですが、戦争で敵兵、具体的に云やあ<鬼畜米英>どもを殺しまくった<現役>はザラにいらっしゃりました。くたばりましたが親父はいっつもドブロクあおって<ホシガリマセンカツマデハ>と唱えておりました。そしてあたしら。脱脂粉乳・鯨カツを給食で味わった最後の世代でしょうね。だから養殖と天然の味の違いなど分かりゃあせんですわ。天然は養殖より美味、と巷では云われてますわ。だったらくたばる前に、せめてせめてはイチドダケ、っておあしにモノ云わせてかっこんだんですが、愚行でしたね。違いなど分かりゃあしない、やっぱしあたしにゃスーパーのパツクうなぎがお似合いだと改めて思った次第です。



 とあるグルメ漫画に出て来る、不世出が味覚の持ち主である海原さおり、じゃなくて、苗字も出て来ねえ、なんとか大先生なら分かるとは思いますが、そんなしとが背任行為だか脱税かなんだの科でムシヨにぶち込まれたらやっぱしクサい飯でも能書きたれるんでしょうかね。あたしゃサンざ悪いことをやってきましたが、ムシヨどころかおまわりの世話になったこたあございません。そんで想像してみました。
『看守』『ナニかね受刑者』『豚小屋すなわち刑務所で出す飯は米七に対し麦三、と決まっている筈』『確かそうですが』『儂の舌をごまかせると思うたか。これは米六に対して麦四である』『そうでしたか。規律遵守こと公務員がなすべき事ですから、見直さねければなりませんなあ』『規律以前の問題なのだ、この愚民が』『愚民と見下されたことに本職は些少ながら殺意を抱きましたが、だったら喰えんとお抜かしあそばれますのですか?』『この儂を誰だと思うておる』『さすがは娑婆じゃあ神のベロ、おグルメさまと呼ばれたセンセですねえ。舌が肥えていらっしゃる事、この様な飯はお躰が拒しするんですか』『それを承知で喰えぬ代物をこの儂に出したのか』『そうでございますよ。ナンせ民主主義デモクラシー、人権ソンチヨーの当節ですから、センセだけを特別扱いする訳にゃあいかんのです。公務員のツラいトコロでございましてねえ』『世が民主制であろうと封建制であろうと、喰えぬものは喰えぬ』『配合の件はウエに報告しときますから』『配合が如きは些細な事。本質はさにあらず』『ササイでしたら、ではとっとと食堂から出てってくれませんかねえ、センセ。若い刑務官ふたりつけますから。転んで怪我しても、俺たち告訴される可能性大ナンです。いくら俺たちが<公僕>意識もって働いてもさ、國民の皆さまは冷たいですから。<役人根性>って差別用語、新明解國語辞典に掲載されててさ。でもね、あんまし舐められ続けると、一部の幹部とその部下たちは武装蜂起しますよ、って仲間を売るのは良くないから忘れてね。痛い眼にあうって事だきゃ覚えといてよ。俺たちノン・キヤリアだけどさ、権力の一部でもあるのよ。同級生の警官なんかスゴイんだから。自分で<暴力機関>って云っちゃうソウカイさ。まさに同期の星やね。次からセンセにはコツペパン配給したげるから。バターじゃなくマーガリンだけど許してね、ハイサヨナラ』『飯が駄目であらばパンを喰えだと?マリー・アントワネット妃か貴様。時が時ならば命を失っておるぞ』『下手に出てりゃあ図に乗りやがってテメエ!俺たちゃ天下の國家公務員だぞ!それとも真の実力、躰で味わいてえのか!』『熱くなるのでは無い官憲。本来であらば貴様の賃金程度で儂の講演会を開催するなど不可能。であるが今廻だけは特別、無料で聞かせてやろう。儂は無粋な老人では無い。その実、酔狂なのだ』『そりゃありがてえなあ。拝聴してやろうじゃねえか』『儂が喰えぬ理由、すなわち飯が麦飯では無いからだ』『へえ、俺たち体育会系だから、食のヴアランスには今でもこだわるけどなあ。やっぱしブルジョワさまの高カロリー高コレステロールのおまんま喰らい続けりゃあ、ボケるのがやっぱし早いんだねえ。そんなら俺、オカズが沢庵しと切れメザシ一匹でも、母ちゃんに文句云わねえ。ウワモノは俺が払ってるけど、土地の所有者は義理の親父だからよ。けどさ、マイホームおっ建ててマイカー乗り廻す、それ以外に男のロマンがあんのかよ、今。そりゃ國家公務員だから俺は単身赴任で僻地に行く事はモロチンあるけどサ。あとね、金融機関関係者の皆さまだけは、仲間と家族以外で優しくしてくれる存在ナンです。<優良顧客>だから、俺。今晩は副支店長にお誘い受けてるから面倒起こしたかないし。だけと次にナマ抜かしたら本気出すからね』『ふふふ、舌が腐ると脳も腐る。実に、実に下らぬ夢、否、妄想、幻だ。貴様、何の為に官憲になったのだ?庶民と同様のつまらぬ人生を送るつもりでは無かろう。天下國家の行く末を、夜が開けるまで語らぬか』『俺たちが立ち上がればナンでも出来るさ、ナンとかなるさ、ドウコウ出来るさやったろうじゃん、ってな時代はスデに終わってんのよ。デモさ、これでも<郷土の英雄>ナンだぜ。講演会に毎年呼ばれておんなし内容の演説、けどソレがバカ受け。世界平和・秩序維持・明るい未来の為に諸君のセンパイは働いてますって紹介されるの、出身者で俺以外にいないのよ。ソウとなりゃ故郷は捨てられねえよな。金にはならなえけどさ、こっち支部長扱いでさ、随分と後輩の面倒見たなあ。俺の公務員人生はアツと云う間に過ぎ、定年退職日までの連夜、あっちこっちで送別会にお呼ばれされます。そのしは総職員が俺にスタンヂング・オヴエーシヨン。涙ナミダでナンにも見えません。同期はみな天下りしたんだけどさ、俺だけは故郷に帰るんだよ。家族は独立したからな。静かなる男。だが困った時には必ず頼りにされるお助けじいさん。どっかの党から立候補しませんか、ってお声がかかる。供託金ナシで、一世一代の大バクチが打てるんです。落選しても<センセイ>って呼ばれちゃってさ。バラ色の人生よ。死んだら銅像が建つ。俺だってちっこいと思うけどさ、過度な期待が身を滅ぼしたケース、サンざ目撃して来たから冷めちゃってるんだよ。<二十一世紀の悟り>って、商標トーロク考えてんだ』『欠伸も出ぬわ』『テメエさ、悪い事したからココにいるの。忘れてんじゃねえ?悪党を更生させないとね、俺ら失業なの。こっちは法務省職員、つまり俺の声が法務大臣閣下のお声なのよ。懲役の追加請求されてえの。それとも網走で流氷見っか。鳥取に長旅すっか。砂丘が近いかナンざ行ったことねえから知らねえけど』『そもそも神君家康公から慶喜公に至られるまで、賢明なるお方たちは麦飯をお召しになることでご長寿を保たれた。用いるは押し麦、漂白した大麦に水と熱を加える。そして、現在ではローラーで押すのだ。だがこの豚小屋に於ける麦は丸麦、大麦の外皮を取り除き漂白したもの。この様なまがいものを麦飯と称するは、我が國の食文化を汚すも同様。稀代の食通と称される儂が看過すると思うたか!國賊どもが!儂が敵と認めてやった以上、愛國者であろうと売國奴であろうと、保守であろうと革新であろうと、支配者であろうと被支配者であろうと、権力者であろうと無政府主義者であろうとも一切容赦はせぬ』『御託ならべやがって!公務員は政治発言が出来ねえから我慢してんだけどな、念仏忘れてもこのコトバだけは忘れんなよ!血税は井戸で湧くんじゃねえ、泉だ!源泉徴収!だから働いてるんじゃねえか、うわべだけ西園寺公望の猿真似したボケナス野郎が!テメエのような強欲帝國主義の妖怪に<税金ドロボー>と罵られ<無料のガードマン>と嘲られたときに溢れる涙の味、敗残兵の屈辱、分かるかなあ分かんねえだろうなあ、って分かってたまるかコンチクショウ!怨念を共有出来るのは同世代のみなのだ!時代が時代ならな、俺たちゃミゴトにって、自主規制、ともかく現時点より独房送致処分、無期限!刑務官、やっぱしその名前じゃ気合い入らねえ、俺たちは看守だ!全員集合!ここは監獄!この腐敗した室町幕府野郎を移送する!あと誰か書店に行き<マルクス全集>を買って来て!請求書は俺に廻しても構わないから、その代わり勤務終了後はみんなで仲良く勉強会!』『現在では司法書士が儲かるらしいぞ。ぐははは』『今のうちに笑ってな。次の世だが、そこでのスタート地点が見える。俺は東大卒のキヤリア、テメエは板前さんだ』『如何なる出自に於いてでも、儂は総てを極め尽くす。そして頂点へ』『うるせえ!』てな具合になるんでしょうか。そうなりゃ愉快千万ですわな。ざまあカンカン河童の屁、と云ったところでしょうか。古いねそりゃ。



 ほろ酔いのあたしは諭吉さん一枚出して店から出ようとしました。すると背後から声がしました。
「お客さん、お釣りお忘れですよ」
 こんなこと滅多にしないんですがね、あたしゃ見栄をはっちまいました。「釣りはとっといておくんなはい」
 店を出ました。たかが六百円されど六百円、しかし大枚あるうちゃケチっちゃあいけねえ、これはあたしの事務所所長、師匠の言葉なんですがね。
 事務所のあるボロザンス、もといビルヂングに戻りました。ビルヂングと云っても四階建の廃墟同然、エレベーターもついていない建物なんですがね、そこの最上階に我が事務所にしてスイート・ホーム・シカゴがあるんですよ。あたしは階段を上り、事務所のドアの前に立ちました。ちなみに事務所は『細川探偵事務所』と云うんですがね、細川と云うのは事務所の所長にして師匠、現在はトンズラ、逐電して行方知れずなんですがソナイな事タテマエでおます、これ以上はお口にチヤツクです。
 ドアには鍵をかけませんでした。今んとこヤバい仕事を抱えてし密の証拠を隠しているわけじゃなし、通帳印鑑は常に懐でさあ。別に盗まれて困るモンはなし、おっと困るモンがしとつだけありましたっけ。あたしの愛器にして愛人、鉄血獨逸、都々逸じゃありませんぜ、かの國が生み出した名キヤメラ、ローライ・フレツクスです。こいつだけは盗まれる訳にゃあ行きません。壁を抜いてこしらえた穴にしまってあります。細工は万全ですぜ。トーシロにパクられてたまるかってえの。



 エコーを咥えてしを点けようとしたその時、システリーな死神の叫び声、って聞いたこたねえんですがそれを思わせる甲高い声があたしの全身に突き刺さりました。
「遅かったじゃないのさ!さてはあんた、また酒かっ喰らってきたね!あんたがどこでくたばろうが知った事じゃないけどさ、確実に地獄へ直行できる手段を教えてやるよ。<領収書です>と云うんだ。根性見せてみろよ、豚野郎」
 ドド、ドルトン・トランボ!シヨーン・ペン!この声!あっと驚く為五郎!あたしはエコーを吐き捨て、すぐにソフアへ直行しました。
 大家さん兼ここの事業主である大手不動産会社『株式会社宮園リアル・エステイツ』社長、細川絹枝の姐さんはソフアでぶっとい脚を組み、ハイライトを吸っておりました。
あたしは背広の内ポツケから二ヶ月は洗濯してねえハンケチを抜きました。「そ、それはですね、アジヤ」
「アジヤ?」
「い、いえ、緊張するとあたし、思わずアジヤパー、って口走ってしまうんでさあ、絹枝姐さん。伴淳三郎のギヤグですが、はい」あたしは首の汗を拭きました。
 そうなんですよ、このしと。絹枝なんて往年の美人女優さんに似た名前をしておりますがね、短髪のチリチリヘア、猛禽類の鋭い眼光、いかつい顎、脂質と炭水化物にカルシウムを充分に摂取したと栄養士サンが大絶賛するであろう躰格。まさに史上最強の女、アジヤ・コングさんですぜ。アジヤさんご本人には迷惑でしょうがね、それ以外に形容する言葉はしとつだけございますが、それを云う訳にゃあ参りません。だから失礼ながらアジヤなんですよ。けれど絹枝姐さんにアジヤなど、面と向かって云ったしにゃあ、あたしゃ十八番の裏拳喰らってまっつぐ地獄の一丁目行きでさあ。ホントにアジヤ・コングさま、ご免なさい。大フアンでした。
「た、確かに酒はたしなみましたがね、あたしが飼ってる情報屋が酒呑ませろ、でないと喋らないわよ、なんて抜かしやがるモンですから、あたしも返杯でちょうだいした訳でして」
「犬がイヌに呑ませるとは、あいみ憐れむそのものね」アジヤはハイライトをバカラの灰皿に押しつけました。モノホン?買える訳ねえでしょうが。パチモンです。「確かにあんたは亭主の片腕だったけど、ここまで落ちぶれるとはねえ。<狼は生きろ、豚は死ね!>そのものだわ」
「豚には立派なレゾン・デートルがあるんです。ナンにでもなれますからねえ。それにしきかえ狼、ナンにもなれねえでしょうが。ウソつき少年がいねえ世界の狼は、クライド・バロウがくたばったあとのボニー・パーカーですよ」
「そこまで抜かすのならリクエストするよ。天使になりな」アジヤは立ち上がりました。
あたしは土下座し、デコを床にこすりつけました。「不可能です」
「出来もしない事はハナから抜かすんじゃないよ。ま、今日の所は大眼に見てやる。久しぶりに営業の連中が全員ノルマ達成したから気分良いんだ。やっぱし私が現場に出ないと駄目ね。それよりも」アジヤはソフアにケツをおろしました。「亭主は<神田の狼>と恐れられた凄腕の探偵で、あんたはその片腕でしょ。そこんとこの誇りを忘れたら、即、出て行ってもらうからね。喝入れでわざわざ足運んでやったんだ。感謝しな」
 


 ああたの亭主、細川金太郎はかつておまわり、婦警さんに破廉恥な真似、今で云うセクシヤル・ハラスメント、ヴアイオレツト・ナンバーワンじゃありませんぜ、それを繰り返した挙句、依願退職した不良おまわりだってこたあ、この業界一部のニンゲンたちには知られてんです、ってあたしが調子こいてゲロしちまったんですけど。それにナニが<神田の狼>ですよ。ああたの亭主に教わったこたあ、いかにして依頼者を丸め込んでおあしをちょうだいし、その一方で調査対象者からもおあしを踏んだくるかっちゅう、まさに悪徳の所業だけですぜ。もっともそれが今のあたしのおまんまにありつく手段なんだから、感謝はしませんが文句も云えません。
「おっしゃる通りで、絹枝姐さん。あたしは師匠の足元イエつま先にすらとてもトテモ近づけねえヘボです。体重九十キロの大台を突破。しかし現在でも<神田の狼>の一番弟子でござんす。ですからね<神田の狂犬>は定着したので、新しい時代では<マッド・ドッグ>と再デブーしようかしらんと。はい」
「云いたい事があるなら今の内に云いな。私は忙しいんだよ」
 あたしはストーカーし害者からの相談と盗聴調査、二件の事案報告そして経しを報告しました。モロチン、デツチあげたフンパンモノの内容です。つい先だって脅し、もとい交渉取引で不正に得た十六人の諭吉さんをアジヤに渡しました。バレたこたねえですから自信がありましたよ。
「着手金が二件で十六万円。それなりにやってんじゃない。でもね、あんたがその前に行った調査での必要費用として請求した額は十五万円。経費だから払うのは先方だとしても、足代に宿賃としちゃ高いよ。クライアントが払うって云っても、おさえつつも詳細な情報をくれてやってこそ<凄腕>と名乗れんのさマア今廻は見逃してやる。けど次、グリーン席の切符買ったら許さないからね。自由席に座りな。乗車率が二百パーセントを越えようが、大阪くらいまでは何としてでも行きな。宿はサウナのみ。で、クライアントからの入金はまだなんだろう?オケラじゃ動けない、だから貸しといてやる。しかし、振り込まれたらすぐに返しな。すっとぼけたらタダじゃ済まないよ」アジヤは迷彩色軍パンからタイガー模様の分厚い財布を抜き取りました。ライク・オバチヤン・ノブ・オオサカ。
いまどき現金決済とは。それにテメエが年金暮らしの老人から小学生までそのその名を知っておる大手不動産、経営者って意識がゼロです。あたしはフツーの会社に勤めたこたねえんで分かりませんが、やっぱし<出張旅費十五万>だの<許可>だの<認定><裁可>とか抜かすんじゃナイんすかねえ。ビズネス・パースンだったら。

10

 アジヤはしの点いたハイライトを指揮棒が如く廻しながら、テメエの<経営哲学>を語っておりました。「私は業界で<博奕打ち>とも<相場師>とも呼ばれてる。だけどね、<独裁者>とだけ呼ばれるのはごめんなんだ。民主主義教育で育ったからね。必ず取締役会に議案を提出する。そしてディスカッション。それで決定。それを潰したり、覆したりはしないんだ。で、目下議論を交わしてるのが」
「その眼当て、もとい投機時期、対象って云うんですか?ともかく」あたしはエコーをくわえ、しを点けました。「来たる東京五輪、ですな」
「そうさ。スポーツ紙から一般紙への趣旨変えしたのかい。それなら本社の正社員として採用、と云いたい所なんだけど、うちは大卒しか採用しないからね」
ちなみにアジヤの最終学歴は、都内の三流私立高校卒なのでコンプレツクスを抱えております。高校中退のあたしよりは上出来だと思いますがねえ。ソレにスポーツ紙程度の情報でも、五輪が東京で開催されることは分かりますよ。ナニを大ゲサに。コウ云うのを<針小棒大>ってんですね。コンな親玉の直接指揮下じゃあ働けませんぜ。
「あたしは学歴もキヨーヨーもナイですが、身分はわきまえておりまする」あたしは煙を吐きました。「トコロで絹枝姐さんは、やっぱし勝負で行きますか。絹枝姐さんは、あのバブル崩壊以降も山勘、もとい緻密な計算で塩漬けにした物件もござんせんから。そのご力量ですから、ここはしと勝負と行くでしょう。あたしの考察です」
「読みが深くなったじゃないのさ。それにしても、学も知識もないあんたが。少し見直したよ。正規は駄目でもさ、契約くらいは考えてやる」
 アジヤがハイライトを咥えたので、あたしはしゃく円ライターを差し出しました。
「業界で生ける伝説、となっているのは絹枝姐さんの前におりませんでしたし、後も出ねえでしょうから。直属で働こうなぞ、おこがましい考えです、はい。ソレで、本社の決定は?あたしのヨソーでは反・社長一派が優勢だと」
五輪を一廻や二廻やって景気が廻復するんだったら、毎年やりますよ。
「その通りさ。そこまで読んでいるとは大したもんだよ。だけどね、一紙だけを読んで世の中分かったんなら、取らない方がマシだよ。<不偏不党>とか<公平中立>をうたうブン屋だけどさ、利害関係首に一枚かんでたりするんだ。だから全國紙は総て、経済紙も読まなきゃ駄目さ。欲を云えば主要都紙もね」
アジヤの<新世紀バブリンゲリオン計画>の妄想、もとい構想は二時間にも及びました。忙しいとか抜かしてたのねえ。

11

「あんたがソレナリに調査活動してる事は分かった。で、亭主の行方だけど」
 それが本題です。それすなわち、逐電もとい行方不明となったここ『細川探偵事務所』所長・細川金太郎の追跡調査の報告であります。師匠が逐電してもう半月になりますか。五十二、三ですかね現在は。
アジヤは金無垢と思しきヂユポンのライターを擦りましたが着火しなかったので、床に叩きつけました。「で、どうなの亭主の足取りは。後廻しにしてるのかい?だったら」
「そりゃ最優先最重要業務ですがな。つい先日掴んだ情報ですがね、場所は群馬のとある都市です。師匠に似た眼光鋭く、苦みばしったいい男がふらりとバーにやって来て、『I・W・ハーパーのソーダ割り、氷は入れないでくれ』と注文し、止まり木でちびちびと呑んでいたところ、土地のヤー公が三人やって来て、『てめえっち、俺っちらのこと嗅ぎ回ってやがるチンケなノラ公だべな!堅気を痛めつけるのはご法度だけんど、てめえっちはすっ堅気じゃなかべえ!利根川に浮かんだとしてもサツが本腰入れて捜査なんてする筈がなかっぺや!だから大人しく、例のブツを寄こすんだなっち!そうすりゃ、指の二、三本くらいで勘弁してやっからよ!』とまくし立てましたそうです」
「例のブツ?何なのそれ?」
「それがあたしにもよく分からねえんですよ、絹枝姐さん。なんせ師匠の口は重いし『信じられるのは己しとり』って信条の持ち主ですから。まさにミスター・ハードボイルド、あたしゃヘボ探偵ですが師匠の薫陶を受けて育ったっちゅう誇りがありますぜ。尊敬するお方のためなら命も捨てる覚悟でしたよ、前もって知っていたらですけど。しかし置き手紙が」
「置き手紙?」
「あれ、云ってませんでしたっけ?あたしも支障が事務所にツラ出さねえしびが続くんでありゃこりゃ妙だぞえって思ってたんです。ところがですな、あるしデスクの一番下の抽斗を見たらそれがありまして、読んでたまげました。はい」
「その手紙とやらを見せな!」
 あたしはニヤリとしましたね、どす黒いイン・マイ・ハートで。マアあたしがツラをニヤリとさせたとこでもサム・スペードのようにV字になるんじゃござんせん、せいぜい、へのへのもへじでさあ。あたしはデスクの抽斗の鍵を開けました。そして師匠が置いて行った手紙、を取り出すとデスクに置きました。
 アジヤは喫いかけのハイライトを灰皿に押し付け、手紙をしったくるなり悪趣味なベネトン・カラーの眼鏡をかけ読み始めました。手紙の内容はこんなモンです。

12

ヒヨッコ探偵へ

 おれは大物政治家と、そのお膝元であるとある県で素人を喰いものにしている極道どもと地元の財界では顔が知られた政商たちとの癒着を暴いた書類を手に入れた。それはおれの無二の親友から託されたものなのだが、あいつはおれに書類を託すなり消されちまった。おれは許せなかった。あいつとおれは互いに幼い頃二親を亡くし、孤児院で兄弟同然で育った仲だった。あいつの弔いのため、おれは腐った政治屋のお膝元に乗り込み、まず極道ども、次に政商たちを地獄に送る。政治屋?最低最悪の敵だ。若造どもは<ラス・ボス>とか云う名前で呼ぶんだったな。そう、最後に現れる。セオリーは変わっていない。依頼人などいやしない。強いて云えば、おれの怒りが依頼人、って寸法だ。外で呑むのは必ず新橋の安ショット・バー、おれはしつこく云ったよな。『探偵に不要なものが二つある。それは私情と同情だ』と。だがおれはその戒めを破る。戒めを破るのは男のすることでは決してないが、おれも所詮、一匹のつまらない男だったってことさ。大言壮語を抜かしたのは恥ずかしいが、懐かしさをも感じる。だがノスタルジアの海に溺れくたばるまでのセンチメンタリスト、感傷屋さんではない。奴らを根絶やしにするまではおれは神田に帰らない。帰れない。奴らは強大だから、戻るはいつの日になるか見当がつかない。おれとした事が、だ。ゆえにお前には事務所でおれを頼りとする弱き者のために働いてもらう。お前のような凄腕は、都合良く現れないからな。それと女房を頼む。おれのくだらない人生において、最大かつ最難のヤマを片付ける。連中だって間抜けじゃないから、おれが動いたことは知っているだろう。おれを消すためには手段を選ばないだろう。あいつを人質に取る、おれが連中の立場だったらそうするな。もっとも手っ取り早く、安上がりだからだ。ノロケ話をするのは柄じゃないが、おれの汚れきった人生で唯一惚れた女だ、あいつは。躰を張れ、と無理強いはしない。だがお前はおれが見込んだ男、血の詰まったバーボン・ボトル、いや、お前さんの好物はアイリッシュ・ウィスキーだったな。酒類・銘柄は問題ではない、軽く2本はあのバー・カウンターに並べるだろうよ。おれはただではくたばらない、根っからの探偵だからな。もしおれがくたばったとの知らせが事務所に届いたら、おれのためにショット・グラスにジャック・ダニエルでもワイルド・ターキーでもいい、バーボンを注いでグラスを掲げてくれ。おれは神仏など信じないが、そうしてもらえば地獄とやらの鬼どもとダチになれそうな気がするんでな。おれはこれから戦地へ赴く。あばよ、とは云わないぜ。きっと戻る。

細川金太郎

13

 アジヤは手紙を掴む手を震わせながら読み入ってました。「た、確かに亭主の過去には<謎の部分>があった。訊いてもはぐらかされる、調べても解らなかったわ」
「さっきの話を続けましょうか。ヤー公に脅されながらも師匠と思しき方はこう言い放ちました。『指は勘弁してもらいたいな。無くしたら、おれがピアノで唯一弾ける曲が弾けなくなっちまう。知ってるか坊主たち、ボガート主演の、あの映画を』と」
「そ、それで?」
「ヤー公どもは吠えたそうですぜ。『し知るかそんなモン!ピアノが弾けなくなったら三味線でも弾けばいいべさ!おい野郎ども、こいつをコテンパンにのしちまうっぺよ!』『おうっ!』とマア、アホなヤー公どもは師匠らしきしとに突っかかったらしいんですわ。そのしとはグラスを置くなり、素早いステツプを踏みまず一人の顔面にジヤブを喰らわせました。まさに電光石火、伝説の爆撃機だったそうです。場所は鼻と唇の間、名前は忘れやしたがそこは人間の急所らしいんですな、まともに喰らったヤー公1号はぶっ倒れました。すかさずそのしとは二人目にしだりフツクをボデーに二発、そして右、アツパーカツトを喰らわせました。当然ヤー公2号は秒殺です。で、残ったヤー公3号が筋肉モリモリのゴリラ、あんたがたタフマン、と云った風貌の奴で、その師匠らしきしとも手を止めて頭のてっぺんからつま先まで眺めて値踏みしたそうです。『ほお、あんたはこのクズ二人と違って少しは楽しませてくれそうじゃないか』『楽しむのは俺っちの方よ』『あんたの口調からは土地訛りを感じないな。東京のモンか』『置きやがれ。俺っちは元プロレスラーでな。相手を半殺しにして業界と東京から追放された挙句、流れ流れてこの稼業よ』『プロレスか。あんたはとてもブックを守るいい子ちゃんには見えないな』『あたりめえよ。プロレスにはブックがあるのは常識だ。だが俺っちは頭に血が昇るとそんなモンすぐ忘れちまう。俺っちはヒールだったが、青二才のベビー・フェイスにあっさりと負けたとなっちゃあ、俺っちのプライドがゴミクズよ。でな、ブック破り上等で青二才を虫の息にしちまった。けどよ、俺っちは負け犬じゃなかった。青二才が興行でこっちに来た時、半殺しにしてやったからな。リヴェンジ・マッチだったぜ』『話し合い、ってのもたまには悪くないぞ。おれは犬養毅が書いた本を二冊持っているんだ。署名落款入り、売ればベンベーの頭金にはなるぜ。クラスは分からんが』『テメエのワン公がどうなろうと知ったことか!』『5・15事件を知らないのか、あんた?』『知らねえよ、牛飼ってるダチはいるがな!』『教養のない奴とつき合うのは、利根川土手を崩すよりも難しそうだ』『しのごの云わずかかってこいや!テメエのへなちょこパンチなんざ、鋼の肉躰で跳ね返してやらあ!』そしてそのしととヤー公3号は睨み合いを始めたそうです」
 アジヤの唾を飲み込む音が聞こえました。「そ、それから?」
「そのしとは両腕をぶらりと下げたまま、冷たい眼差しでヤー公3号を見つめていたそうです。ヤー公3号は『うがあ!』『どりゃあ!』『おりゃあ!』『ふんがあ!』と、指をボキリボキリと鳴らせたり、ベチー・ブープのタツーが掘られたぶっとい腕の力こぶを誇示したり、ガラスのグラスをかじったり、ビール瓶を頭に叩きつけ割ったり、ザ・グレート・カブキの真似して一升瓶の安ポン酒をラッパ呑みして毒霧噴射して見せたりと、マア威嚇のかぎり、と云うか場末の三流芸人の五流芸を披露しまくったそうです。マア無駄ってモンですね、そのしとが師匠だったならば。そのしとは動かない、ヤー公3号は焦れますわな。だがそのしとが一歩踏み出すとヤー公3号は一歩しく、そんな塩梅です。完全にそのしとの気迫に押されたヤー公3号にちったあ脳みそがあればですな、『ま、参りました!』と尻尾を巻いて逃げ出したでしょう。手練れの武芸家は戦う前に自分は敗れる、と確信したら、素直に負けを認めるモンですからな。ところが相手はブツクすら破る、気が短くて喧嘩っ早いプロレスラー崩れ、そんな脳みそがある筈がござんせん。『ビビったのか?マア無理はねえ。しかし手加減はしねえぜ!』無謀にもそのしとに飛びかかっちまった。ヤー公3号はそのしとの胸ぐらを掴んで軽々と持ち上げました。『どうだ!例のブツを渡しさえすりゃ、腕の一本で勘弁してやらあ!ブックはねえって云ったよな、さっき?俺っちが心の師匠、力道山先生はガチンコの真剣勝負、あの<鬼の柔道>木村政彦をも秒殺よ!けどな、テメエごとき雑魚二、三匹シめても先生には鼻で笑われるのが関の山、やっぱし先生には敵わねえ!悔しいけどよ、それが現実だ。俺っちも成長したモンだぜ』と。いくらあたしが<神田の狼>の一番弟子だとしてもですよ、そうなったら手も足も、第三の足も出す術はない、すぐに口を割ってたことでしょうよ。ところがそのしとは『確かに力道山は本物だった。だがな、木村を悪く云われると、おれもお前と同じく頭に血が昇っちまうんでな。リキまでは無理だが、シャープ兄弟の片割れで我慢してくれよ。ゴリラ』云うなりヤー公3号の首筋に両手で手刀を喰らわせたそうです。ヤー公3号は『うげえ!』と絶叫するなりそのしとを離しました。すかさずそのしとはヤー公3号の右腕を掴むなり、一本背負いで投げ飛ばしました。ヤー公3号は脳天から床に落ち、すぐに伸びちまったそうですぜ。でも絹枝姐さん、あたしゃ解せないんですよ。師匠がボクシング、空手、ムエタイの名手だったってことはこのあたしが一番良く知ってます。徹底的にしごかれましたからな。しかし師匠から柔の教えをあたしゃ受けたこたあないし、師匠も語ったこたねえんですよ。するってえと、別人なのかしらん。いや、そのしとはやっぱし師匠としか思えねえし。ともかくご覧の通り、あたしゃオーギュスト・ロダンの彫刻でさあ。あれ、ダンテ?神曲?天國への扉だったかしらん?」
「亭主よ、違いないわ!『おれはサツカン時代、柔に熱くなったこともあった。段位?そんなものは所詮ブリキの勲章、後生大事にする価値があるか。しかし署長に請われ、都各署対抗柔道大会に出る羽目になっちまった。団体戦、おれは大将だった。勝負は二対二、大将の勝ち負けで勝負は決まるという白熱した戦いだった。畳に上がり礼をした後、相手とのにらみ合いが始まった。相手は手練れだ。先に手を出した方が負ける。そう俺は確信し、出方を伺っていた。やがて相手は焦れて、おれに突っかかってきた。勝機を得た。おれの襟を掴もうとした相手の右手を掴み、一本背負いで投げ飛ばした。畳に叩きつけられた相手はピクリともせず、そのまま医務室行きだ。おれ、いや組つまり署は勝ち、同僚やお偉いさんからの拍手と賛辞はやまなかった。だがおれは憂鬱だった。投げ飛ばした相手のことを考えるとな。後日、相手がどうなったかをおれはお偉いさんに訊いた。命に別状はなく、体に支障はなかったそうだが、右肩と首が痛くてかなわん、そうお偉いさんに訴え、奴さんは内勤となっちまったそうだ。奴さんはマル暴のデカだった。デカが内勤?翼をもがれたハゲタカそのものだ。その日その時、おれは柔を封印した。今でこそ悪党の腕一本二本折ろうと気にもしないおれだが、男たるもの、軽々しく封印を解く訳には行かないんでな。笑ってくれ』と昔、私は聞いたわ!あの<神田の狼>が封印を!どうやらそのゴリラ、相当のタフ・ガイだったようね。ノック・ダウン後、東京に送ってくれれば良かったのに。私が高値で売り飛ばし、あんたには特別ボーナス。それを分かっていてもしなかった、出来なかった。<神田の狼>の美学?不器用で時代遅れよ。けれど漢、日本犬、天然記念物、絶滅寸前。環境省が保護しなくっちゃ」
 かあ、云ってくれますね師匠。ヴイム・ヴエンダース!やっぱしああたはあたしの師匠ですな。悪徳探偵のいろはだけじゃなく、岡目八目嘘八百、八百屋は安いよいつでもらっしゃい、三千世界のカラスを殺しぬしと朝寝がしてみたい、まで伝授してくれたんだから。でもね師匠、ああたがサツカンの時分、柔道大会に出たのはホント。しかし相手の目を見ただけで小便漏らして失神したってこたあ、しゃくも承知の助でさあ。あたしは畳の上に上がったこたアジヤにはすっとぼけかましたけど、さすがあたしの師匠ですな、嘘偽りナルチズムのためならリアリズムなんザバクに喰わせたれ、って主義。
「やっぱしそのしと、師匠だったンすかねえ。マア話を続けさせていただきやす。ヤー公三人をのした後のそのしとは、ナニゴトもなかったように止まり木へ戻りました。気を取り戻したヤー公三人は退散、店に居るはそのしととバーテン、アルバイトのかわい子ちゃん合わせて三人だけだったそうですぜ。そのしとはI・W・ハーパーのソーダ割りを飲み干し、『面倒かけてすまなかったな。これは代金と迷惑料だ』と。ナントマア、諭吉さん一枚テーブルに置いて去ろうとしたそうです。一万円ですぜ!ここ神田だったらチヤージ込みで漱石さん、いや今はしで世さんだったか、二枚も払うしつようないでしょうよ。そうしたらバーテンは止めたそうです。『ちょっと待って下さいましお客様』『何だ』『こいつらはここらでは代紋ちらつかせちゃあただ酒はあおる、女の子にちょっかいは出す、ショバ代と云っては法外なカネを脅しとろうとする、とんだ権太どもでして』『そうか、じゃああんたの店にも迷惑がかかるな』『とんでもございません、あの権太ども、俺っちらにケツ持ちがいるっちゅうことは知ってるべな、だったらはよう酒持ってくるっぺよ、とイキがる一方でしたが、組員でもなんでもない、ただの使いっ走り、盃ももらってないボンクラだと云うことは、口には出さぬが誰もが知っている事実だった、ってな訳で』『ってことは、こいつらは半ゲソ以下のクズだったと云う訳か』『なんですか、その半ゲソって?』『親父さんはこの稼業は長いようだが、善人だな』『いえ、善人だのと云ったシロモノじゃあございませんが』『少しでも極道と縁がある人間には常識なんだが、親父さんはすっ堅気のようだ』『ええ、水商売は長いですけど、ヤー公とのつき合いはございません』『だったら知らない方がいいだろう』『いえ、後学のためです。教えてくれませんか』『仕様がない、まあ暴排条例なんてまやかしの駄文が出来ても、連中は水商売を喰いものにするのが常だからな。知っておくのもいいかも知れん。少し長くなるが』『拝聴致します』とマア、そのしとの説明が始まったそうです」
「半ゲソ?」アジヤはぶっとい首を傾げました。

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「説明させてもらうとですね、ヤー公もとい暴力団員には二種類ござんす。一つはゲソ、もう一つは半ゲソと云いやして、ゲソとは構成員、つまり盃を受けた若い衆のことですな。半ゲソと云うのは盃をもらってないが組からおまんまちょうだいしたり、その代わり雑用をしたりする、いわばパシリです。その筋の世界では、組員になることをゲソをつける、と云うんですわな。ゲソをつけた人間は、代紋を名乗ること、俺はなになに組だ、と云うことですが、それを許されるんですがね、その分のシノギを組に納めなくちゃあいけません。半ゲソはシノギを納めるしつ要はない、いやゲソつきになりたいならシノギを納めなきゃならねえんですが、組の代紋を名乗ることは許されないんでござんすよ。とどのつまり、件のバーで師匠らしきしととミツドナイト・ランブリングを行った連中は、盃ももらっていねえのに代紋を名乗る、しきたりをも知らなけりゃテメエらの行く末も考えられねえ、仁義もクソもない半ゲソ以下のボンクラキヤバクラドグラマグラだったと云う訳でして、はい」
「複雑ねえ、ヤクザの世界も。不動産にはヤクザがつきものだけど、私は嫌いだし、そもそも<暴排条例>が施行されている今、つき合う訳には行かないでしょう」アジヤはハイライトを咥え、しを点けました。「でもさあ、そのチンピラどもが半ゲソ以下のクズどもなら、勝手に代紋を名乗ったら最期、消されるか破門か、絶縁の処分が待っているんじゃなくて?いえ、そんな廻状は撒かれないわよね、盃もらってないんだから。そんな奴らが例のブツ、とやらを取り返すような、重たい役目が与えられるのかしら。連中、組にとっては命取りになるようなシロモノなんでしょう?」
「さっすが絹枝姐さん!その洞察力、まさに感服のしと言!キミノシトミニコイシテル!」あたしゃ手を叩きました。実のトコロ、過去に大勢のヤクザが株式会社花園リアル・エステイツ地獄の門を叩いております。が、アジヤが応対に出るとブルってすぐに退散しました。
「まあね」アジヤは醜い楊貴妃に似た顔で煙を吐き出しました。「亭主があの<神田の狼>。堅気なら馬鹿で、渡世人なら阿呆。私はその真ん中に立っている。普通の女に見える?見えないでしょう。ぐふぐふ」
 フロイト大先生、ユング先生、ジヤツク・ラカン先生。ああた方を錯乱させますからね!ジヤイアン・リサイタル中の叫び、お姿お顔ドコから見てもカタギにゃ見えねえよっちゅう怒号、だまくらかせるのもここまでかっちゅう絶息、同時にしびくんですぜ!アレ、意外とフツーでした。

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 話を戻します。そうさね、セールスマンにでも職替えしようかしらん。デモ山と云えば川、セールスマンと云えば死、あのメリケンの劇作家でマリリン・モンロー本名ノーマ・ジーンにたぶらかされたユダ公、いえいえあたしゃナチス・シンパでも差別主義者でも、陰謀史観の持ち主でもござんせんよ、かのアーサー・ミラー大先生もそうおっしゃっていたじゃありませんか。人間いつかはくたばる運命ですが、あたしゃまだ死にたかねえンですよ。セールスマン、そんなチンケな商売で。おっと職業差別、こいつぁいけねえ。だからですね、あたしの稼業と寝ぐらを確保するにゃあ、まだまだ口八丁手八丁でアジヤをだまくらかし続けなけりゃあならんのです。三十六計逃げるに如かず、ってな真似する訳にゃあ行かねえんでござんすよ、はい。
「ほんと、さっすが<神田の狼>の奥方だけありますぜ」アジヤ誉め殺し大作戦の開始です。「そこまで読まれちゃああたしもお手上げ唐揚げさつま揚げ、と来たモンだ。これからは<神田の女豹>と呼ばせてもらいやす。なんなら不在の師匠に変わり、細川探偵事務所の所長に就いたらどうでげしょ?あたしゃ部下、いや助手で構いませんです。男一匹決めたなら、ついて行こうかこのしとに、とくらあ」
「そうねえ。探偵稼業で得る刺激の方が、オリンピックで得る儲けより魅力的だわ。不動産の方は、役立たずどもだけど連中に丸投げして。むろんダレた業務態度の奴には制裁を加えるけど」

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 ゲゲゲ!デ、デニス・ホツパー!ジヨン・フオード!なんたるやぶへびニシキヘビ!なんたるちあサンタルチア!ルチアと云やあルチアーノ、その名も高きラツキーさん、マブダチと云やランスキー、教授になれたマイヤーさん、さらに殺しのバグジーさん、名前ほんとはベンジヤミン、スケに惚れてはホテルを建てて、バシタの名前はヴアージニア、名前は悪趣味フラミンゴ、それじゃあ単なるラブホテル、青いお眼眼をふっ飛ばされて、哀れ末期は血の海だ、と来たモンですよ!誉め殺すところか図に乗らせちまったじゃあありませんか!アジヤのハートに火をつけて、あたしゃ無用のラブホのマツチ、近藤マツチじゃござんせん。あの硫黄の匂いのする奴ですよ、もっとも今じゃあすっかり需要は減りましたがね。北欧はデンマーク、かのハンス・クリスチヤン・アンデルセンの童話『マツチ売りの少女』で女の子が視た夢は、黄リンマツチが及ぼした幻覚と云う説もありますから。とにかくまずい、えらいことですよこれは。ちなみにアジヤは主に神田一帯の土地と建物を保有、うんにゃ他にもぎょうさんございますが、それを売買し賃貸するのは当たりマイトの小林旭、不動産会社の社長をしとります。師匠はその亭主、って寸法でさあ。加えて云わば三人姉妹の長女でござんす。
「あら、私じゃ無理、って顔してるわね」
「い、いえそんなこたあ、ですがね絹枝姐さん」
「私は探偵の女房なんだから、探偵小説は読んでるわよ。サラ・パレツキーの『サマータイム・ブルース』とかの女探偵ヴィク・シリーズ、P・D・ジェイムズの『女には向かない職業』とかのコーデリア・グレイ・シリーズとか。そうねえ、腕力には自信があるけど、探偵ときたらやっぱしトレンチ・コートを着こなせなきゃダメよ。それもバーバリーのね。よし、早速フィットネス・クラブに通わなくちゃ」
 さ、佐藤純彌!アジヤさん、ああたの辞書にゃあ謙遜って字はないんでやんすか!
 ともかく『細川探偵事務所』の興廃この一戦にあり、各員一層奮励努力せよ、と来た塩梅で、あたしゃ戦わなきゃあなりません、口八丁で。各員、と云ってもあたししとりしかいないんですがね。おっと、逐電した師匠を入れりゃ二人になりますわなあ。
「で、でもね絹枝姐さん、師匠や絹枝姐さんは正統派ハードボイルド、弱きを助け強気をくじくが信条、張るヤマだって、いわくありげな鳥の像を巡って知能戦を繰り返したりでっかい男の過去の女を探し回ったりと、まさに卑しい街を高潔な騎士がゆく、天のため地のためしとのためと、まさに正義の味方でさあ」
「そうね、それが真の探偵って云うものよ」
「ところがです、あたしゃ師匠や絹枝姐さんじゃない、なりたくてもなれりゃあしませんのですわ。あたしの顧客も弱い立場のしとには変わりはねえんですがね、これから先は別れる旦那からもらう慰謝料でなきゃ生きていけないから出来るだけ高く踏んだくりたい女房だの、不良社員のために代々続いた会社を潰す訳にゃあ行かないってケチな零細企業の社長さんだのと云った、おあしの問題を抱えたしとばかりなんでさあ、全部が全部、とは申しませんがね。するってえのはモロチン、素行調査でさあ。そのためにはキレイゴトだけじゃあすまない、汚れた手段に頼る場合もございます。かのナルチスト、自己陶酔者の女殺し、いや男殺しの台詞を真似て云いますと、こほん、〈汚れなくては生きて行けない。おあしがなくては生きている資格はない〉そういうことに時として探偵は身を置かねばならねえ場合もあるんでござんす。そう云った醜い世界にですね、大恩人で尊敬する、あたしの第二の父でありアニさんでもある師匠の奥方に足を踏み入れさせたくないんすよ!だから汚れ仕事はあたしに任せ、絹枝姐さんにはご本業のお不動様もとい悪徳こりゃ禁句、不動産の社長として、これまで通りの優れたご手腕を発揮して頂きたいんですわ!ジヨン・ウー!ブライアン・イーノ!」

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 アジヤは咥えハイライトでじっとあたしの濁った眼を見つめました。そん時のあたしの気分はですな、悪い所業ならナンでもござれ、海千山千の牢名主に睨まれた新入りの囚人、ときたモンです。
「そうね、あんたの云うことにも一理あるわ。確かに私は正義のためなら躰を張る、しかしヴィク・ウォーショースキーのように冷静にはなれない。ヤマを片付ける自信はそりゃあるけど、私だったらしち面倒臭い真似せずマイク・ハマーのようにカタをつけるもの。わかったわ、所長代理は引き続きあんたに任せるとしましょうか」アジヤは煙を吐き出しました。
「ありがとうござんす、絹枝姐さん!これからも社会正義、高度成長、格差是正、終身雇用、構造改革、盛者必衰、安保反対、成田闘争、強行採決、問答無用、青年将校、一斉蜂起、暴徒鎮圧、学徒動員、帝銀事件、三鷹事件、松山事件、下山事件、造反有理、革命無罪、一気通貫、國士無双、九蓮宝燈、焼肉定食、酢豚定食、川内康範、梶山季之、中上健次、色川武大、小鷹信光、夜桜銀次、たこ八郎、冷し中華のため、このメタボな躰を張らせていただきますぜ!」
 ふう、なんとか思いとどませることにゃあ成功致しやした。しかしアジヤ・コングとマイク・ハマーが戦ったら、アジヤが勝つに決まってますよそりゃ。ウエイトが違いすぎますモノ。それにあいつ、女しとり殺しただけで精神錯乱起こすような、口で云う程のタフ・ガイじゃないでしょ。そんな島崎藤村の詩のようなウブな奴に、坂本乙女もまっつぁおのアジヤ・コングさんが負ける訳がねえでしょうが。
 アジヤは脚を組み替えました。「で、何の話をしていたんでしたっけ?」
「あれ、ナンでしたっけ?確かゲソ、半ゲソの話で、あっ、その次でしたね!お話しましょ、そうしましょ。その前にちょいと喉を湿らせてもいいですかね?」
「構わないわよ」
 あたしは冷蔵庫へ行き、中から焼酎ハイボールの缶を取り出し、ボロソフアへ戻りました。
「また昼間っから酒に手を出して!」アジヤの口元のハイライトが宙を舞いました!ババ、バスター・キートン!ああたは木枯し紋次郎ですかい!
「い、いえ、師匠らしきしとがあまりにも格好良すぎて、これ以上興奮したらあたしゃ脳溢血、お陀仏ですから」
「まあいいわ、話が正確ならそれに越したことはないから」
「では続けさせてもらいます」あたしゃプルトツプを開けるなり半分呑み干しちまいました。「ではバーテンの対応から。『そうでござんしたか』『そうだ。だからこいつらが来ても親父さんは恐れる必要はない』『アタシはこう見えてもですな、気楽流柔術切紙、合気道五段なんですわ』『ほう、見かけによらないものだな』『老いたとてこの不肖熊谷平八、その気になりゃあ若いモンなんざギッタンバッタン投げ飛ばしてご覧に見せまさあ』『そいつは頼もしい。どんどんやってしまえ。実はな、この店に入ってから、どうもこの親父さんは只者ではないとの匂いがしていたんだ』『そりゃあ恐れ入谷の鬼子母神、と来たモンだ』『ところで親父さん』『なんでげしょ』『あんたもおれ同様、流れ者のようだ』『な、なぜでござん、いやございましょう』『さっきのチンピラたち、いやゴリラは除くがそいつらと違ってあんたには土地訛りが少しもない』『そ、そげなこと、な、なかっぺよ』『他の人間は騙せても、おれには通用しない』『お、おらは生粋のジョーシューっこだっぺさ』『まあ他人の過去を詮索する気はない。親父さんの話を聞いてて、長い間過ごしていた東京の汚れた空を思い出しただけさ。<東京には本当の空はない>と高村光太郎は詩に書いたが、おれにとっての本当の空は、あの汚れた、灰色の空だけだ』『そうでござんすね。白状致しやすが、アタシは江戸っ子でさあ。青い空、白い雲、なんておセンチな連中は云いますがね、アタシら江戸っ子にとっちゃあ、今は光化学スモッグなんてえ言葉は死語になりやしたがね、あの汚れた空こそアタシらの故郷の空でさあ。ああ、けえりてえなあ。でもけえれねえんだなあこれが』『なぜだ』『これですぜ』そう云うと、バーテンは右手小指を突き出したそうです。『女か』『さいです』『よくある話だな』『この馬鹿たれが、と叱っておくんなせえ』『おれには人に説教をたれる資格などない』『じゃあ聞いて下さいませんかね、旦那』『じゃあI・W・ハーパーのソーダ割りをもう一杯くれないか。ハーパーとソーダのバランスが絶妙だった』『じゃあ、これはアタシからのおごり、と云うことで』『おれは人におごられるのは嫌いなんだ。逆におごるのはやぶさかではないがね。親父さんもどうだ一杯。おれに付き合ってくれないか』『さいですか。じゃあ遠慮なく』と、バーテンは二杯のハイボール、いやハーパーのソーダ割りを作ると、身の上を話し始めたそうです。『アタシはね旦那、これでも昔はデカだったんでさあ』『ほう、ますます人は見かけによらない、だな。所属は?』『それが、今となっちゃあ恥ずかしい話ですがね、四課です』『ってことは親父さん、あんたはマル暴のデカだったのか』『さいです』『さっきおれがゲソと半ゲソとの違いを得意げに説明してた時、親父さんは初耳のふりをしていたが、あれは過去を隠すための芝居だったんだな。元マル暴のデカが知らぬ筈がない』『へい、申し訳ねえ』『元マル暴のデカが、何でこんな群馬の片田舎で、いや気に障ったら謝る』『謝るこたねえですぜ、アタシも常し頃思ってるんですから』。しばらく沈黙が続いて、バーテンが口をしらいたそうですぜ。『あたしはね、かつては西神田署ではこう呼ばれていたんですぜ<夜叉の平八>ってね』『神田か』その師匠らしきしとはしばらく黙り込んじまったそうですぜ。『どうなすったんで?』『いや何でもない。話を続けてくれ』『はい。アタシはね、そりゃあヤー公ども相手にゃどんなに汚かろうと、連中から<人権侵害だ!>とほざかれようと、手段を選びませんでしたよ。鬼をも泣かす<夜叉の平八>ってね。三下だろうと銀バッチだろうと、金バッチだろうと容赦せず、神田日本橋から新橋にかけちゃあ、アタシが通るとヤー公どもが物陰に隠れる、ってえ塩梅でした』『さぞ優秀なデカだったんだろうな。だが素人には極道と間違われたことが多かったろう』『その通りで、へへへ』『そんな凄腕のデカが、たかが色事ひとつでクニを捨てるとは思えんのだが』『それがね旦那、ヤー公どもにペコペコされて、思い上がったが運の尽き、神田でとびっきしのいい女に出くわしちまったんでさあ』『その時親父さんには妻子はいなかったのか』『そりゃあいましたよ。街にでりゃ夜叉の平八のアタシでも、家に帰れば<平八パパ>と呼ばれていたんですよ。あんまし帰れなくても、稼ぎが少なくても、アタシにはアタシなりの安堵出来る場所だったんですよ。それを捨てたなんてアタシは正真正銘の大馬鹿モン、二葉亭四迷、くたばっちめえ、でさあ』『鬼をも泣かす夜叉。それを虜にするとは、親父さんが云う通り、さぞいい女だったんだろうな』『さいです。しっつめ髪でしたが小さな丸い顔、切れ長のお眼目、筋の通った鼻、小さな唇にその横のほくろ、躰は細いがトランヂスタ・ボデー、見た途端、アタシの躰にエレキテルが走りましたよ』『典型的なファム・ファタールだな』『なんでござんすかそれ』『<宿命の女>と云う意味のフランス語だ。男を破滅させる悪女のことを云う』『そんなハイカラなモンですかねえ。でも、確かに運命かも知れません、運命には誰も逆らえませんからな。アタシは止める心と裏腹に、声をかけちまいました。それからはお決まりのコース、逢い引きに連れ込み宿、二つのアパートを行ったり来たり、本当のたわけモンでさあ』『馬鹿とは云えない。親父さんは若い頃さぞ男前だったのだろう。その面影が今でも確かにある』『そんなあ、からかっちゃあいけませんぜ旦那。アタシみてえな堅物に誰が惚れるって云うんですかい』『でも親父さんには惚れてくれたカミさんがいたんだろう』『確かにそうでさあ、女房もいい女だったなあ。今じゃあアタシ同様、白髪の婆さんになってるでしょうが。でもねえ、その、ファム・ファタールって云うんでしたっけ?そいつはその上を行くいい女だったんですよ』。そこでまたしばしの沈黙、口はやはりバーテンからだったらしいですぜ。『ところがどっこい、そいつは旦那がおっしゃる通りの、男を破滅させる女だったんですから』『その女は極道のレコだったんだな』『な、なんでお分かりになったんですかい!』『商売柄、話から推論、そして結論を導き出すのがおれの癖でね』『じ、じゃあ旦那は、かつてのアタシとご同業で』『違う。おれの稼業は野良犬だ』『ってえことは。分かりましたよ旦那の稼業が』『云わないでくれると助かるんだがな』『へ、へい。雄弁は銀、沈黙は金、とも申しますからね』『それで極道に脅される羽目となったんだな』『左様でして。女のイロ、まあアタシもそれに含まれるのか、ともかく本丸のヤローからは捜査情報を流せ、さもないとお前が持つ裏の顔を署にバラす、そうすれば監査の上に懲戒免職、愛しの家庭は崩壊、一家は離散、女房は風俗、子供は施設、懲戒となったデカなんぞに再就職など出来る筈がないからな、と脅される始末です。アタシは悩みました。アタシは警察官と云う職業を愛していた。同時に家族も愛していた。しかしヤー公どもを許す訳にゃあいかねえ。警察を裏切ることも出来やしねえ。自業自得と云われちゃあそれまでですが、苦しんだんですぜ。目方は減る一方だし、血のションベンも出る始末でさあ。それで決意したのがあの街、神田を飛び出すことでした。署には辞しょうを提出し、離婚届に署名し女房にハンコを押させ、退職金の総てを渡し、何もかも捨てて列車に飛び乗りました。東京を離れねえと、いつ里心出して女房んとこへ帰るかもしれないからでさあ。そりゃ女房は観音様なんかじゃあござせんが、心根優しい女でしたよ。だからと云ってアタシがしでかした間抜けな所業を許してくれる程の度量は、さすがに持ち合わせちゃあいなかったでしょう。仮に許してくれたとしてもですな、そんなモンに甘えたとなっちゃあ男、夜叉の平八の沽券がくだる、いや、さがるってモンじゃあござせんか。そんなこんなでヤー公を追うデカが、まさかまさかの兇状旅ですぜ。ミイラ取りがミイラ、その通りでさあ。大宮までは記憶にあるんですが、気がつくと前橋にいました。ナンで縁もゆかりもない群馬に。いや、縁もゆかりもなかったから、オツムじゃなく躰が群馬へアタシを向かわせたんでしょうな。群馬県内を転々、職も転々とし、落ち着いたと云うのか落ちぶれた末路と云うのかは分かりやせんがね、しがない場末の雇われバーテンでさあ。笑っておくんなまし、ええ思いっきし笑っておくんなせえ。ただでさえ湿ったバーが、ますます湿っちまった』『おれには笑う資格などない』『ナンでです?』『おれも女房を捨てた身だからだ。もっとも、親父さんと違っていつかは帰るつもりだ。それまでおれの命があったらの話だがね』『そうでござんしたか。群馬には、女を捨てた男をしき寄せるナニかがあるのかも知れやせんなあ。アタシはパワー・スポットやらそんなモン信じちゃいませんがね。で、旦那がこの地を訪れた本当の理由は?』『さてと、野良犬はそろそろ退散する時間だ。ハーパーソーダ、旨かったよ』『そ、そんな殺生な!アタシだけに身の上を話させたのに、旦那は名無しの権兵衛、山田太郎を決め込むってえ寸法ですかい?そりゃあんまりでござんすよ!』『そんなつもりではないが、知ったら親父さんたちに危害が及ぶかも知れない。だから云えないのだ』『へっ、ヤッパにチャカが怖くて水商売が出来るかってんだ。女に溺れたからって、こちとら昔ゃ、夜叉の平八って通り名で筋モンを震えさせた男でさあ。さあ、話してもらいましょうか』『覚悟は出来てるんだろうな』『あたぼうでさあ』『じゃあ少しだけ云おう。おれのダチ、いや、兄弟と云ってもいい。あいつが、ここら一帯を仕切る組の奴らに殺された。おれはそいつらを皆殺しにし、組をぶっ潰すつもりで来た。それが済むまでおれは帰る訳にはいかない』『そ、その組ってえと、ま、まさか〈上州鬼龍会〉!無茶だ!旦那は消されちまいますぜ、必ず!いやこの場で、さっきの権太どもが来やがるくれえだから、もう旦那の廻状は上州全域だけじゃねえ、野州あたりにも撒かれてるにちげえねえ!旦那はもう死んでるも同然ですぜ!悪いこた云わねえ、早くケツまくって東京に帰るこった!』『おいおい、おれはまだ生きている。勝手に死人にしないでくれ』『で、でも』『古いおとぎ話でもしようか。むかしむかし、あるところにふたりのこどもがいました。ふたりにはおとうさんもおかあさんもいませんでした。ふたりは<こじいん>とよばれるばしょでいっしょにそだち、あに、おとうと、とよびあうほどのなかよしとなりました。それはおとなになってもかわりませんでした。しかしあるとき、ひとりがとってもわるい、わるいひとたちにだまされ、しんでしまいました。のこされたひとりはひゃくまんかいなきました。そしてけっしんしました。ようし、おとうとのしかえしをしてやる、と。そのわるいひとたちはにほんのぐんまけんというところにあつまっているとしったあには、ようし、やっつけてやるぞ、とれっしゃにのり、そのぐんまけんというところにつきました。それからあにのしかえしがはじまりました。ぎったんばったん、わるいひとたちをこらしめていきました。そのとちゅう、のどがかわいたあには<ばー>とよばれる、おとながよる、たのしむところにより、とっても、とってもおいしいのみものをのみました。ひさしぶりに、なつかしいきぶんになりました。続きがあるんだが忘れちまった。今度来たら、いや来れたら思い出して続きを聞かせるよ』『き、きっとですぜ』『それまで長生きしてくれよ親父さん。それと東京に帰れる日がきっと来るさ。じゃあな』『じゃあアタシは、嗚呼、誰か故郷を思わざる、いつも口ずさんでますんで。待ってますぜ。旦那もくれぐれもお達者で』とマア、こんな塩梅でさあ。へえへえ、疲れましたよあたしゃ。ここまで聞いたことをまるで見てきたことのように話すこた出来るようになるって分かってたんなら、あたしゃ一門でのいじめも耐えてましたよ。そして前座二つ目真打と、上野浅草新宿で、女泣かせのいなせな師匠、と呼ばれてた筈でさあ」
「それで終わりなの?」アジヤの指元のハイライトのフイルターは焦げてました。
 あたしは首を振りました。「もう、見事なオチが待ってますぜ。やっぱしそのしと、師匠ナンですかねえ。とにかくこうです、バーテンがそのしとを呼び止めました。『待って下さえ旦那』『何だ』『ぷれい・いっと・あげいん、さむ』そのしとはしばらく黙って、口をしらきました。『親父さんはバーグマンじゃないし、おれはドゥリー・ウィルスンじゃない』『調律はしばらくしておりやせんが、ウチにはアップライトではござんすがね、ピアノがあるんでさあ』『それは気づかなかった』『故郷を捨てた、哀れな老いぼれのためにしいてやって下さいませんか「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」を』『ボガート、いやリックが怒鳴り込んで来るかも知れないぜ』『平気の平左でさあ』『久しぶりに旨いハーパーソーダを呑ませてもらったんだ、そのくらいの礼はしてもいいだろう。しかしおれのピアノは上手くないぜ』『かまやしません』『じゃあ久しぶりに鍵盤に触れるとしようか』とマアそのしとはピアノをしき始めた、てなオチでして、はい。あたしゃ群馬のチンケな街まで出張ってですな、渋るバーテンのじじいとアルバイトのかわい子ちゃんから聞き出したんだから間違いござんせん。そう云やアルバイトのかわい子ちゃん、若い頃の牧瀬里穂ちゃんによく似てたなあ」
「亭主よ!亭主に違いないわ!」アジヤの眼からお小水のごとく涙が。立ち上がりました。「さすが〈神田の狼〉そしてミスター・ハードボイルド!やっぱし私、探偵になる!マイク・ハマーなんて目じゃないわ!その〈上州鬼龍会〉とやらに乗り込んで亭主を助ける!首洗ってなさい悪党ども!待っててねスイートハート!」

18

 セ、セルジオ・レオーネ!もうナンなんでしょこのしと!あたしの千三つ、いや千ゼロ話も、師匠の駄法螺もマツタク疑うことなく信じちまった!<ウソは大きけりゃ大きいほど良い>の前提で創った与太話、デモね、しとが耳にすりゃ明らかに<やりすぎな誇張しょう現>と興ざめするであろうへっぽこドラマ・台詞も取り入れます。少しは眉にツバつけて聞いてもらわないと、万が一バレちまったときの報復ヴアイオレンスは壮絶になるんですから! マ、バレちまったしにゃ、明らかな<誇大>しょう現については<あたしも師匠に脅されており止むを得ず>と責任転嫁するつもりでした、はい。
だいたい師匠、ああたのクレイジー・フール・ロマンを元に嘘八百の置き手紙をあたしゃ書きましたがね、ナニも火宅とは云え家庭にまで持ち込むこたねえでしょうが!墓穴ですよ、ボ・ケ・ツ!ああたの風貌はあたし以上のメタボでスダレ禿げ、典型的な初期高齢者でしょうが!おっと、誰に似てるか思い出しましたよ。師匠、ああたは『男はつらいよ』のタコ社長こと桂梅太郎そっくりじゃありませんか。あたしも中年で不細工ですがね、カミさんのアジヤの眼々には、師匠ああたはハンフリー・ボガートかポール・ニユーマン、あるいはスチーブ・マツクイーンに見えてるんですよ!どう見てもダニー・デビートかバート・ヤング、小林亜星先生じゃあありませんか!
しかしですな。イヤまさかねえ。マア柄でもねえ言葉を抜かしますが<絶対的主観>つまり普遍的かわる事がねえ意識をもって見た師匠、その実バート・レイノルズやドン・ジヨンスン並みのイロオトコ。一転して<一般的主観>つまり相対的アイマイしとそれぞれの意識を持って見た師匠、ご周知の通りメタボのおっさん、すだれハゲ云々。んで鉄血獨逸がうみし大哲学者のエドムント・フツサール大先生、『現象学』のしとですわな、彼はしとがしゃく人いりゃあしゃく人の世界である一般的主観をし定しております。しかしナンですか、しとの価値観をし定し、ワシの価値観こそ正しいのじゃあ、と抜かす強欲フアシストじじいに感じない事もありません。とかく絶対的・普遍的な主観を会得する第一歩が総ての判断を中止せよ、大先生に云わせりゃ<判断中止/エポケー>せい、っちゅう事ですが、サツパシ理解が出来ません。ともかくアジヤは絶対的主観を会得した可能性もあるのです。もっともアジヤは判断中止をしたのではなく<思考停止>したんだと思いますが。やっぱしあたしの柄じゃあねえですなあ。この与太ですね、新橋のおでん屋で知り合った東大生、自称ですがね、<インテリギヤルを口説くにはフツサールとヴイトゲンシユタインの話題をさ>ってなコト云われてその気になって、と覚えたヨコシマな耳学問なので、モロチン理解不能です。なお余談ですがその自称東大生、結婚詐欺師で逃亡先の尼崎で逮捕されとります。
 あたしゃもうしっ死でアジヤを止めましたよ。ナンせあたしゃ、我らが誇る大ニツポン帝國海軍の真似して、軍艦三笠で東郷平八郎、毛唐からはアドミラル・トウゴウとの御名誉れ高し閣下が掲げた〈本線は投網中である〉転じて開戦合図であるZ旗揚げて戦ってたつもりが〈海中への転落者あり〉を意味するO旗を掲げちまうようなタイタニツク号の真似をしちまったんですから!
「おお落ち着いてくんなまし絹枝姐さん!<神田の狼>は勇敢ですよ、かのエゲレスは沙翁ことウイリアム・シエイクスピアは〈臆病者は本当に死ぬまでに幾度も死ぬが、勇者は一度しか死を経験しない〉との名言を吐いておりましてですな、師匠はそのまんまの勇者でござんすが愚か者じゃあありませんぜ!攻めるときゃ攻め、しくときゃしく、それを心得ている、ワイズ・ガイにしてホツト・ガイだからこそあたしゃ土下座までして、足元にすがりついて、捨てちゃいやんバカばか馬鹿、アタシのこと捨てたら、東武線伊勢崎線北千住駅のホームから線路に飛び込んで死んでやるから、だからお願い側に置いてね、いまはあなたしか見えないの、と泣き落としまでかまして師匠の弟子にしてもらったんじゃねえですか!だから前線は<神田の狼>に任せ、ここ銃後は<神田の女豹>こと絹枝姐さんにお願いしたいんすよ、いや、おたの申します」
「そ、そうね」アジヤは深呼吸を繰り返しました。「あんたの云うことが正しいわね。私がマイク・ハマーになるよか、やっぱし活動資金の面でバック・アップした方がいいわ。わかった、あんたには通常の探偵業務の合間に、亭主の足取りを追ってもらうわ」
 わお!アンジエイ・ワイダ!キヤプテン・ビーフハート!棚からぼた餅、しょうたんから駒、森の泉にゃ金の斧、とくらあ!
「感謝致しやす絹枝姐さん!フエデリコ・フエリーニ!不肖この<神田の狂犬>、全力をあげて師匠を奪還致しやす!通常の調査は怠らず、細川探偵事務所のご高名に恥じぬよう努力を続けますぜ!我が細川探偵事務所よ永遠なれ!万歳!マンセー!ヴイヴア!ブラヴオー!ジーク・ホソカワ!ハイル・マイン・ヴイルテン・フラウ・キヌエ!」
 アジヤはソフアを立ちました。「じゃ、頼んだわよ。私は会計士との打ち合わせがあるから。またね〈神田の狂犬〉」
 アジヤは去りました。あたしゃぬるくなった焼酎ハイボールの残りを呑み干しました。しかし、ソコまで愛されるちゅうのも考えモノですな。まさに〈狂気の愛〉ですよ、云うなれば。あれじゃ師匠が逐電した理由も、独りモンで嫁さんのあてが皆無、ってもらうつもりもねえ、あたしにも分かりまさあ。〈愛とは決して後悔しないことよ〉これはアリ・マツグロー主演映画『ある愛の詩』の名台詞ですがね、後悔先に立たずの愛ってモンもある、イヤ後悔してこその愛、ナンじゃないでしょうかねえ。あたしゃ抽斗から封筒を取り出し、師匠が書いた本当、の手紙を抜き出し再読し始めました。次廻との調整のためです。モノ忘れがしどくなる今日この頃。

19

所長代理どの

 おはよう、フェルプス君。元気にやってるか?俺は元気だ。今は茨城、鉾田市と云う街にいる。ここで俺は農業の手伝いをしながら楽しい毎日を送ってるよ。皆親切な人ばかりでなあ、俺はあばら家ながら一軒、家をロハで貸してもらって、質素ながらも健康的な食生活、おかげで中性脂肪は減り、昔の<神田の狼>に戻りつつあるよ。もっとも、そんな通り名は誰もが笑い定着せず、今じゃあ女房だけがキ印的に、おっといけねえ差別用語だ、あいつ一人が信じこんでいるだけだがね。何でなんだろうなあ。ともかくだ、ここ鉾田市はメロンの街だ。知ってたか?出荷量日本一なんだぜ。その収穫を手伝って、アンデスメロン、プリンスメロンなど、農協の出荷基準以下のシロモノが喰い放題だ。確かに糖質は多いだろうが、果物の糖分は代謝が良いと聞いたことがある。だから遠慮なくご相伴に預かっていると云う訳だ。下戸な甘党の俺にはまさに天國だぜ。他にもだな、スイカ、トマト、ほうれん草、山芋などの収穫を手伝っている。ヴェジタリアンになっちまおうかとも考えるが、禅の坊主になるのはまだ早い。煩悩が多すぎてな。海と云えば大竹海岸海水浴場と云うところが、サーフィンのメッカだと云うらしくてな。俺も始めようかなと思っている。そうすればナウなヤングにバカウケ、チョイワルオヤジデビューと云う寸法だ。だが目立つ真似をする訳にはいかねえな。鬼より怖いキング・コングが未だに探し廻ってるんだから。そのあたりの工作はお前さんに任せてあるから心配ない、いや、やっぱし不安だ。何しろお前さんは口から先に生まれたような男、いつ口を滑らすか分からん。しかし嘘八百にかけてはお前さんの右に出る者はそういないから、まあ安心四に対し不安が六、ってところだな。おっと、気を悪くしないでくれよ。口の巧さは探偵の技能のうち、それを評価するがゆえに毎月少しずつだが、お前さんへ送金しているのだ。独り者のお前さんには分かるまいが、女房持ちは本当につらい。特にあのキング・コングが女房だぜ?お前さんにも恐ろしさは伝わることだろう。金目当てに結婚した、そりゃ誰の目にも明らかだろうさ。それは本当のことだから否定はしないが、貧乏よりも苦しい、惨めな生活が待ち構えていようとは思わなかった。いつだったか、お前さんは俺に云ったよな、『男はつらいよ』のタコ社長に似ていると。確かにその通りだと俺は笑ったが、いつも税務署と手形の決済に追われているタコ社長の生き方の方が、俺の夫婦生活よりもはるかに幸せなんじゃないかと、くっついてからずっと思って来たことなのだ。だったら離婚すればいいじゃないかとお前さんだけじゃなく、俺の境遇を知る人間なら云うだろう。しかしあのキング・コングはモーレツと云うか凄まじいプライドを抱えている。不細工な上に、バツイチとなるなんて許せないのだ。まあ不細工なのはお互い様なのだがね。呑んでは博奕、女遊びして見放されることも期待したが、結果、激しい暴行、リンチが待っていた。離婚は出来ない、女遊びも出来ない、金はキング・コングに握られている、そうすりゃ考えることは一つ、逃亡だ。これからも逃げ続ける。地の果てまで逃げてみせる。立場は異なるがリチャード・キンブルになってやるさ。だがキンブルは自由の身となったが、キング・コングに捕まったら最期、死ぬまで修羅の道が俺の前にひかれることだろう。だから口八丁のお前さんにアリバイ工作、でっち上げの三流ハードボイルド劇場の支配人になってもらった訳だ。お前さんは本当に良くやってくれている。何しろこうして逃亡生活を続けていられるのだから。俺もメタボとは云え当然一人のホモ・サピエンス、青森を逃亡の土地と選んでいたら、津軽海峡にでも身投げしている。もっとも青函連絡船はとっくになくなっちまったがね。ゆえに俺は毎朝東京に向かって手を合わせ、念を送っているのだ。これは嘘ではない。だから、これからもわずだが毎月金を送る。俺を見捨てないでくれ。男細川金太郎、一生のお願いだ。まさか俺が関八州に潜伏しているとは、勘だけは異常に鋭いキング・コングでも気づきはしないだろう。まさに灯台下暗し、だ。しかし万が一、バレそうになったらお前さんにだけは教えてある携帯電話のアドレスにその旨メールしてくれ。そうしたら今度は、長野あたりに逃げようか。そんなに詳しい訳ではないが、善光寺の美しさだけは記憶に残っている。だから当然ご利益もある筈だ。俺とキング・コングとの離婚成立とその後の平穏な日々到来を祈願、毎日お百度を踏む覚悟だ。まだしばらくはお前さんに迷惑をかけるが、折を見て借りは返すつもりだ。最近はネットで馬券を買うのだが、神様が埋め合わせをして下さるのか、三連単がよく当たる。最近では百円が四十一万に化けた。ギャンブル中毒になどならない、いやなる筈がない。逃亡資金が底をついたら、前述した通り身投げするしか方策は残されていないからな。まあこの調子で逃亡資金が百万以上にでもなったら長野をすっ飛ばして沖縄にでも逃げようかね。当然一部はお前さんのものだ。まあ期待せず待っててくれ。繰り返すが、俺を見捨てないでくれ。恩着せがましいことを抜かすが、悪徳でも探偵は探偵、そのいろはを教えたのは俺なのだから。おっと、気に障ったのなら謝る。ちょっと長くなったな。当分はここ鉾田市で潜伏生活を送るつもりだ。プリンスメロンでいいシロモノが出来たらかっぱらって、お前さんに送るつもりだ。また手紙を書く。お前さんは呑み過ぎには注意しろよ。お互いメタボなんだから。読み終わったらこの手紙は焼却すべし。頼んだぞ。

細川金太郎 拝

20

 いい迷惑ですよほんとに。師匠、ああたが旅の空でエンジヨイ人生カンバツク青春、鳥は南へ俺は北へとしてる間、あたしゃどうアジヤをだまくらかすか、しびあの手この手の思案の胸に、破れボロザンスでしも暮れた、ような毎日を送ってるんですぜ。あたしゃ阪田三吉センセでも村田しでお御大でもねえんでさあ、まさに苦悩悶絶のしびでござんすよ。相手が怖い筋のアニさんだったらあたしゃ死に物狂いで逃げますぜ。でもね師匠、相手は金筋のアジヤ、ああたの女房ですぜ。逃げようったってどこに逃げろと云うんですか。あたしゃとうの昔にクニをおん出て、チンケなヘボ探偵稼業しか出来ねえ唐変木に落ちぶれたバカボンですぜ。そんな社会的信用ゼロのヤローがアパートを簡単に借りられるとでも思ってるんですかい?借りられるとしたらですね、一見温和、その実、屋根裏の散歩者として変態的享楽にふけっている、大乱歩先生の小説に出て来る男が大家やってる猟奇のアパートくらいです。それにナンですか、実在する霊長類最強の存在である、師匠ああたの女房をですね、あたしゃ最小限にしかえてアジヤ・コングと呼んでるんですぜ、陰ではですけど。それをナンですか、テメエの女房をキング・オブ・キング・オブ・霊長類の、あのエンパイア・ステート・ビルヂングを登り、我がニツポンが誇る大怪獣ゴジラと人気を二分する、バケモノ界の龍虎の虎であるキング・コングと速球ストレート・ボールで呼ぶとはナニ事ですか!師匠、ああたはかねやん、金田正一ですかい?あたしが村山実のザトペツク投法のごとく直球、アジヤをキング・コング呼ばわりしたしにゃあ、裏拳どころかブレーン・バスター、ブギウギ列車夜行便が待っているんですぜ!
 マアあたしゃ呑兵衛、けどね、メタボで我慢してますがほんとは甘いモンもいけちゃうから、プリンスメロンでもマスクメロンでも、デカメロンでもカンタベリーでもソドムの市でも、おっとそいつぁパゾリーニ、待ってますからね師匠、宅配し用はああた持ちですよう!
 あっ!デデ、デヴイツド・リンチ!うっかりしてやんした!師匠は関八州とは灯台下暗し、と自慢げに記しておられましたが、あたしゃ今度の舞台を上州は群馬にしちまった!時すでに遅し。もう知らないったら!いや待てよ、群馬と茨城との間にゃ、野州栃木があるじゃありませんか。レツド・ヘリング、ミステリー小説で云うとこの重要なふうに見せかけて実は偽りの誘導をする仕掛けですよ、たぶん間違ってますが。栃木県民の皆様にゃあ申し訳ござせんが、防波堤になってもらいます。次にあたしが書く台本は、栃木県を舞台とさせていただくので。〈上州鬼龍会〉の次はそうですな、〈野州鬼政一家〉とでもしやしょうか。〈上州鬼龍会〉の会長と〈野州鬼政一家〉の親分とは、固い絆の義兄弟、それも五分の間柄、てな塩梅にして。さっそく台本書きに挑むとしやしょうか。師匠には、連続爆撃の予報あり、至急近辺の少國民は速やかに疎開すること、と、千葉の方へ逃げてもらわにゃならないですなあ。でも師匠、茨城のナンとかって街が気に入ったらしいですから、今日は帝劇あすは三越、テナ具合でトンズラしてくれますかねえ。それはモロチン、句が詠めねえ山頭火である師匠のためでも、ハードボイルドに恋い焦がれるごっつい乙女ならぬ醜女であるアジヤのため、でもござんせん。総ては軽率軽薄なあたしのため、ってなお粗末な話でして、はい。

フォウト・ライク・レニー

執筆の狙い

作者 幡 京
218.221.116.235

○ドカワの『Y野時代フロンティア』で、一次は通ったものの二次で轟沈したナンセンス馬鹿話です。
(タイトルと筆名は違いますが)とかくネットでも発表せな、成仏できんと思って。なまんだぶ。

コメント

悠希あかね
125.52.26.121

拝読させていただきました。

素晴らしい完成度だと思います。終始軸がぶれずにここまで書けること、言葉のセンスとテンポ、平均以上の知識がないと書けないであろう各章の作りこみでした。

>血税は井戸で湧くんじゃねえ、泉だ!源泉徴収!<
>『教養のない奴とつき合うのは、利根川土手を崩すよりも難しそうだ』<
>あたしも中年で不細工ですがね、カミさんのアジヤの眼々には、師匠ああたはハンフリー・ボガートかポール・ニユーマン、あるいはスチーブ・マツクイーンに見えてるんですよ!どう見てもダニー・デビートかバート・ヤング、小林亜星先生じゃあありませんか!<
全体通して面白かったのですが、上記の箇所、個人的にすごく好みです。また、主人公がエコー、アジヤがハイライトというのもなんだか自分の中に入ってきた各キャラクターに違和感がなくぴったりで笑ってしまいました。特にキャラクターの練りこみがしっかりされており、きちんと生きていてかつ魅力と人間臭さを感じました。
読み手の中でも生きて呼吸をするキャラクターだと思います。

こういった作風の作品に初めて触れましたが、語り口調は独特でありながら時代の壁をいい意味であまり感じずに読了できました。面白かったです。
難点をひねり出すとしましたら、全体通して全力疾走、まさに読みながらして目の前に座布団に座って扇子を持った方が話しているような臨場感が終始続きますので、息継ぎ箇所があってもいいのかなと思いました。…と言いましても、それがないからこそ、刺さる人に刺さるのだとも思います。

完成度高く、いい作品を読ませていただきました。
次回作、楽しみにしております。

幡 京
218.221.116.235

悠希あかね様

お読み頂きありがとうございます。
小生はよく「新しさを感じない」と批判されますが、それは放棄しております。
それじゃあ小説じゃないじゃん、とさらに攻撃されますが、小生が目指すのは「コテコテ」です。
バカ小説と自認しておりますが、最近のお笑いには関心がありません(爆笑問題は除く)。

古い、アナクロと云われようが
「俺がこんなに強いのは、あたり前田のクラッカー!」
「ジュンでぇす!チューサクでぇす!三波春夫でございます」
「カネもいらなきゃオンナもいらぬ、あたしゃも少し背が欲しい!」
と云った、小生にとっては文化遺産的(オーバーですが)ギャグが大好きなのです。

あと固有名詞にこだわるのはヘミングウェイの手法の真似です。
よくプロの作家さんが云いますよね「書いているうちにキャラクターがしとり歩きする」と。
小生のような低レヴエルのアマちゃんにもそれは起きたのです。分からんものだ。

とかく精進します。お誉め頂き、誠にありがとうございました。

幡 京
218.221.116.235

あと

ーまさに読みながらして目の前に座布団に座って扇子を持った方が話しているような臨場感

語り手<神田の狂犬>が見習いの段階でアニ弟子をボッコンスッコンリチャルブレ、とした挙句に破門された噺家崩れ、という設定なので、それを意識しました。説明不足、お詫び致します。

ファンタグレープ
126.208.228.12

8まで拝読しました。全てを把握するためには改めて読み直す必要がありました。文章が終始、語り口調で、深く読む必要があるためです。

会話形式なら大衆娯楽として読めるのですが、語りのため、
幡 京様が後世に語られる太宰のような作家になっているとしたら、6の描写も味があるのですが、まだ幡 京様がどう花咲くかもわからない現代人は、読むのを辞めるかもしれません。

いわば生前に売れない画家であるゴッホになるか、語り継がれない画家になるか。私にはそんな書き方のような気がしました。

幡 京
218.221.116.235

小生の様なモノに対して、誠に恐れ多きことでございます。

小生が読み返しても、間違いだらけでしょ。「領収書」→「請求書」とか。

幡 京
218.221.116.235

これだけははっきし云いますが、つかこうへい先生の真似です。
小生は地盤が固まっていないアマちゃんですが(いい歳こいて)、「斬新な」アイヂアを放棄してます。

でも不満(ってしょうがないけど)。小生が前書いた<バカ小説>をお読みになった方から<品性下劣><差別主義者>とボロクソに批判されました。小生が下手なだけです、はい。

アフリカ
49.106.213.166

拝読しました

作者で読むものを決める。
こんな場所ではあまり正解ではないのかも知れないのですがついついそうなってしまう。この人なら面白い話を書いてそうだ。この人の文章は読みたくさせられてしまう。読みたいな。読んでみよう。
勝手にそうなってしまう。
そして、勝手に幡京さんを僕のそのリストに入れて勝手に堪能してるのですが

今回もしなやかに読まされた気がしました。
正直、僕には面白い!って内容ではなかったのだけれど文章の流れるような誘導?誘因材?にグイグイ引っ張られてしまった感じです。

何でだろ?

この人上手いって感じる作者さんに限って物語と言うか内容と言うか仕掛けと言うか全体像と言うか、アイデア?そんなものを置いてきぼりにしてる気がする。
羨ましいし妬ましい。

もしも、その辺りに意識が向けばこの人は直ぐに別次元に行ってしまうものを持ってるのに。

いや、気付かないで欲しい
いや、探さないで欲しい

次は書き下ろしのものを宜しくお願いします

幡 京
218.221.116.235

アフリカ様

このやうな愚作にお眼を通していただき、ありがとうございます。
小生は「おいだきゃうくらそれでよかたい!」って傲慢な作者です。
与太話を作る(嘘つき)は昔からですが、読書感想文は今でも苦手です。
デモ「スーパーセレブ」だの「○○財閥の御曹司(馬鹿野郎!くたばっちまえ!」
などと云うしょう言を目にすると脳内ニトロが炸裂します。

それ以外は、書き手さんのこの後だと思い、特に指摘などしないのです。

えんがわ
165.100.179.26

ごめんなさい。
16で読むの挫折しました。
これ以上続くと、軽さが重なっての重たさに胃もたれと言うか、この小説が嫌いになっちゃいそうな感じがして、ここらへんで。

一番、感じたのがジェネレーションギャップです。
自分も中年の年なんですけど、それよりも読者対象は一周り古いですよね? たぶん。
画として浮かぶのがアジャコングが精一杯で、それ以上の年代物はなにやらかにやら。
ギャグが面白いつまらないと判断する以前に、わからないと戸惑っていたのが自分です。

古い作品でも、当時の時代の風景というか匂いを感じる作品ならまた味わいも出るのでしょうけれど、
本作の古さって知識としての古さで、空気を作るのも知識や用語から立ち上がっていくものなんで、なんか今一つ迫ってこない感じです。

だから、流し読みみたいな感じだったです。すいません。
それでもイケたのは、あの、文章の流れ、音、主人公の声みたいなものの雰囲気が良く出ていたからです。
内容は入って来ませんでした。作者さんもストーリーのようなものを伝える、というのは余り重点を置いていないように思えたのですが、どうなのでしょう。

作品を読んでいて不思議だったのが、文章からストーリーの場面や風景というよりも、主人公が一人で座布団みたいなものの上で語っている姿、古風な内容も含めて落語家を見ているような感覚でした。
それで、自分は落語に余りなじみがないのと、あの空気を楽しめない性質なので、そういう意味でも食い合わせの悪い文章なんでしょう。

でも、ある程度の長さまでなら、その演説みたいな茶話みたいな、その声が妙に生々しく聞こえてきて、その面白みはありました。

途中で読むのを諦めたのは、13からパソコンの画面いっぱいに文字が連なるその隙間のない重さに、「ヘビーってやつだぜ」って感じで。
これは紙の作ということで、だからネットでそのまま載せてしまうと、どうしても見栄えや読みやすさのようなものが、欠けているものになってしまったように思います。パソコンって本と違って詰まり過ぎるとキツイじゃん。


試みとしては面白いと思うんですよ。
上に言った落語的な、エゴが滲むのも含めて、語り手の声が延々と聞こえてくる、これをここまで尖らせた文章ってあまり読んだことが無かったし。試みは面白い。

だけど、それを読んでいる自分の感覚は、退屈に近い。
それはつまらないというよりもわからない。ドイツ語の講義を聞いているような、それが感覚としては近かったです。

ただ、そこを自分のような読者に近づけてしまうとこの作品の味はだいぶ減ってしまう気もする。
ジェネレーションギャップといったけれど、同世代なら笑えるのかもしれない。
今書いている自分の文章も、時が経てば、風化していくのだろうとかも思う。

自分もここまで長い文章を書いておきながら、意味のない、中身の詰まっていないコメントになっている。という自覚はどうだろう。この小説につられた故か。

などと。

一言で言えば、ジェネレーションギャップを感じた、自分にはその巧拙がわからない、だけどそこを架橋しようとしたら何かが失われてしまうだろう、だからどうすればいいのかわからない。
わからなかった。
自分のような世代(30代)の読者は、切り捨てていいんじゃないかなって思うなあ。あー。

幡 京
218.221.116.235

えんがわさま

お読みになって頂き、感謝の念耐えません。

ご指摘は総て正確。
小生が尊敬する映画監督であるサム・ペキンパーは酷評され興行に惨敗した「ガルシアの首」と云う作品に対して:

「俺は『ガルシアの首』を撮った。それも俺が作りたかった通りにだ。良かろうが悪かろうが、気に入ろうが気にいるまいが、あれは俺の映画だ」

と。だから小生も云ってみたいです。

小生はデヂタル難民でアプリも使えない、いづれは野垂れ死する人間です。
だったら好き勝手に書いたろうじゃん、と「新しさ」を放棄しております。
ゆえ夢野久作「ドグラマグラ」や中井英夫「虚無への供物」、死刑囚・永山則夫、筒井康隆先生、作品、つかこうへい先生の作品、バンド「頭脳警察」「村八分」「ザ・ブルーハーツ」を常に意識しております。

マスタベイションですがね。

根釜カツ江
223.218.114.27

>翌日、水曜日。

冒頭でこれは、違和感がありました。
翌日と書くからには、その前の日のエピソードが普通描かれているのが普通だと思ったので。
その点についてはどのようにお考えですか?

幡 京
218.221.116.235

根釜カツ江さま

おっしゃる通りです。明らかなミスです。
この駄作は原稿用紙235枚(総字数93,863字)をカット・アップしたシロモノなので、つじつまあわせにトコロドコロ失敗しとります。
それでも投稿したのは、前書きでも記しましたが角川書店「野性時代フロンティア文学賞」の一次選考には通りましたが二次で轟沈したため、成仏させるつもりでした(記しましたがペンネーム・タイトルは違います)。

やっぱしトーシロですね、と云うのが小生の考えです。

ラピス
49.104.47.118

幡京さま
ざーっと見ただけで、キャラが立っており、物語のテーマに向かって動いているのがわかります。上手いなあ。
二次通過しただけありますね。ただ、半分くらいで挫折しました。キャラがあまり好みでなかったからです。アクが強くて好き嫌いが別れるかも。
プリントアウトして、じっくり読めばいいのでしょうけど。

中央で二次までいける実力を持っておられるのだから、凄い。ぜひプロを目指して下さい。
なんか拙い感想ですみません。

幡 京
126.209.22.201

ラピスさま

お読み頂き有難うございました。

おおかた、嫌われております。まあムベなるがな。

で、二次ってそれほどすごいんですか?今読み返しても、はっきし云って下手くそすぎて
涙が出ますから。

「第10回野性時代フロンティア文学賞」は2本同時に一次を通過しましたが二次で轟沈。

小生がどうしても欲しいのは「オール読物新人賞」です。
あの故・真樹日佐夫センセイ(梶原一騎先生の弟さん)が取られましたから。

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