作家でごはん!鍛練場
ky

死後の階段

 俺は死んだ、しっかりと死んだ。あまりいい人生では無かったかもしれないが。それでも、この世の摂理にならって、俺の人生の幕はひかれた。しかし俺の足は未だ歩みを止めていない、この長い道のりにめげず、一歩、一歩上っていた。この長い、長い階段を。
 「こっちの列に並んでくださーい」
可愛らしい少年の呼びかけが、ここで初めて聞いた声だった。目の前には二つの階段がある。右側には大量の人と、手招きをする羽の生えた可愛らしい少年が。左側にはまばらな人影と、角を生やした赤い小男が立っていた。足が右へ向かうのは必然だ、この二択で誰も好き好んで左などに行こうと思うわけがない。
 階段に近づくと少年が話しかけてくる。
「貴方にはこちら側の階段を上る権利があります。生前の生き方が反映されましたね」
生前、別に人助けをしたり善行を積んだ憶えは無いと思うが。少年はそんな俺の疑いの心を読んだかのように話だした。
「今の時代だと普通に生きてれば大抵こっち側なんですよ。なにかやってしまう人も少なくなりましたしね」
確かに昔と比べれば今の方が道徳観などはしっかりしている。そういう基準であれば俺が行けてもおかしくは無いかも知れない、善行なんて欠片もないウジ虫みたいな人生だったが、逆に悪行なんて大それたこともする事は出来なかった。しかし、これだけ多くの人が天国へ行けるとは、実は世の中も捨てたものじゃなかったのかもしれない。まあ、死んだ人間には関係のない話だが。俺は階段の一歩目を踏み出した、これから行けるところを想像すると、少しわくわくしていた。
 一歩目を踏み出してから、だいたい一時間ほどがたっただろうか。列は全く進んでいかない。上れたのはまだ一、二段程度、暇を潰すものがないとたった一時間でも退屈で、もう死んでいるのに死にそうになる。このペースだといつ終わるか見当もつかないが、まあこれから天国に行けると思えばそう辛いものでもない気がしてくる。まあ、生前、死後合わせて最後の苦行だろう、このくらいは受けてやろう。
 少年がパンとワインを運んできた、死んでから腹は全く減らないが飯時という事だろう。パンはモチモチとして柔らかで、ワインは芳醇なブドウの香りが漂い、俺が人生で溺れた安酒が全て脳みそから吹っ飛ぶような美味さだ。パンもワインも最高の物だった。上にあがればこれ以上の物が待っていると考えると、空くはずもない腹が少し鳴ったような気がした。階段はゆっくりと進んでいた、まるで俺の事を焦らしてるようだ。
 どれほどの時間がたった。ここには光はあっても太陽が無い。つまり朝も夜も無いという事だ。こうなると人間、時間なんてまるで分らなくなる。体内時計なんてのは脆いもので。唯一、時間を推し量れるのはパンとワインの配給くらいだ。これまで三回、多分これで一日分だとはおもうが。その基準で考えると、今日一日で昇れたのは三段かそこら、少しずつストレスがたまってくる。まあ、まだ大丈夫だ。それに、一気に進むタイプの行列というのも珍しくはないだろう。
 パンとワインの回数も徐々におぼろげになってくる。この階段に上り始めてからどのくらいの日にちが経った。配給はたしか三十回程度だったろう。一日三回なら十日くらいだ。だが本当にそうか、この配給は一日二回の可能性も一回の可能性もある。それどころか、ここに来てから空腹を感じないことを考えると、俺達に食事は必要なく、このパンとワインは不定期の娯楽供給かもしれない。列は少しづつしか進んでいかない。しかし前は人でひしめき合っている。どれだけ時間がかかるんだ。どれだけ時間を掛ければあの先まで行けるんだ。
 隣から話し声が聞こえてくる。隣の階段の奴らが談笑しながらすいすいと上っていた。あいつらは地獄いきの悪人で、これから待っているのは苦しみのはずだ、なのに俺は羨ましくて仕方が無い。地獄にはこれ以上のが苦しみが有るとでも言うのか。なぜあちらは楽しそうにしている。なぜこちらが苦しんでいる。あの世まで得をするのは悪人だとでも言うのか。こっちの階段は相変わらず進まない。十段先にあった階段の汚れは何時になれば見えなくなる。何時までこの光景を見続けなければならない。
 今日はパンにバターナイフが付いてきた。俺はそれを右手に持ち、迷いなく左胸に突き刺した。しかし、なに一つの痛みも無ければ一切の血も出てこない。たしかに道具はバターナイフ、少々先が尖っているだけだ、とても人ひとりを殺せるように見えはしない。だが大の男が全力を込めて突き刺した物だ、たとえ、今手に持ってるものがスプーンだとしても痛みは必ず伴うはずだ、なのに俺の胸には何もない。暖簾に腕押し、糠に釘、いくら刺そうと、えぐろうと、そこに有るのは微妙な手ごたえと冷たい金属が当たる感触だけだった。
 人生と違ってこの階段はどうやっても俺を逃がすつもりはないらしい。何をしても階段は目の前にある。時たまその段を上らせることで、こいつは自分がさも階段であるかの様に主張していた。
 なぜこれが天国への階段だと思った。羽の生えた少年をみて、俺はこれが天国への道だと思ったが。よく考えればあの少年はそんな事は一言も言ってなかったろう。よく本当の悪人は善人のふりしてやってくるというが、本当はあの少年こそが地獄の使者で、俺は地獄に連れてかれたんじゃないだろうか。永遠に上りきれない階段、地獄のアトラクションに正にピッタリじゃないか。そもそもおかしいと思ったんだ、俺が天国に行けるなんて。階段はゆっくりとしか進まない、そもそも本当に進んでいるのかどうかも俺には信じられなくなっていた。
 俺は階段を上るのを止めようとした、今まで上ったんなら下りればいい、簡単なことだ。だがそれを考えるにはもう遅すぎた。一方通行のこの階段を、後ろの人間全てを押しのけて降りるなど、もう、とうに不可能な行動なのである。進まない階段と思っていても、気づけばのっぴきならない所まで進んでしまう。まるで俺の人生と変わらない、生きてようと死んでようと俺はなにも変わっていないようだ、この階段と同じように。
 俺の人生はあまりいい物とは言えなかっただろう。したいことも見つからず、なんとなく高校、大学と卒業し、適当に入れそうな会社を選んで就職する。そんな人生でも、俺はずっと、いつか何かしたいことが見つかって、今とは違う場所に行ける。そんな思春期でも馬鹿にされそうな甘っちろいことを信じながら歳を重ねていった。だが、子供の夢というのは得てしてどこかで壊れるものだ。永遠に夢を見ていることは誰にも出来ない。俺にも当然その瞬間は訪れる。特にこれといった事があったわけじゃない。ただ、ふと生きていて気がついてしまった。もはや俺は何者になれない、すべては遅すぎるんだと。進んでも何もなく、人生に戻り道はもちろん用意されていない。だから俺は死んだ、死んで全てから逃れた。だが神様はそう甘くは無いらしい。死の安息は生き切った者に与えらるものであって、俺みたいに飯も食いきれないのにその後のお菓子を求めるようなガキはお仕置きという事だろう。そういえば、昔はよく給食を食べ終わらないで休み時間まで残された事を思い出す、あの頃は何があっても絶対に全部食べてから遊びに行っていた。あの頃なら、もう少しましな道を選べたかもしれない。
 まだ俺は歩いていた。列に流され、列といっしょになった。ただ歩き、階段を上り続ける。何の目的もなく、流されるまま歩みを進める。これが俺の罰なのだ。無意味に生き、無意味に死んだ。だから無意味に歩き続ける。簡単な話だ。まあ、幸いにもする事は今までと大して変わらない、歩んでいるものが人生か階段かという違いだけだろう。無意味な事にはもう慣れっこなのだから。
 いつもと同じ階段を上る、別に変わったことはない。ただ上る、上り続ける。ここまでいつもどおり、なにも変わったことはありはしない。しかし、その時、足になにかが引っかかった、体重が前に持っていかれ、そのまま体が前に倒れる。盛大にすっころんだ、いきおいよく、前の人間も巻き込んで。
 目の前が真っ赤だ、血でも出たのだろうか。なぜだかいい香りもする。だいぶ甘ったるいが、少しツンとした香りだ。そして、なぜだかとても懐かしい。顔に当たる感覚はとてもやわっこくてスベスベしている。
 俺が転んだ先にあったのは女性のパンティだった。もちろん前の人間がはいていた物だ。ずっと後ろを歩いていたが、俺は前の人間が女性だと認識すらしていなかった。ミニスカートに赤いシルクのパンティ、顔もまあまあ好みと言っていいだろう。そんな人間が前を歩いていても一切興味すら抱いていなかった。始まった時は夢を見るかのように上を見続け。一度、絶望すればそこからは下を見続ける。前を見れば、何か大事なものが見えたかもしれないのに。
 それから、足は自然と動き出していた。現世に置いてきた彼女を思い出した。生前、なんだかんだ日々を楽しく過ごしていた事を思い出した。顔は前を向いた、前の女性のスカートの中が少し見えた。俺は少し嬉しい気持ちになった。
 前を向いて歩き続けた。小鳥たちのさえずりが聞こえてくる。階段にも少し変化がある事に気が付いた。いつか見えていた階段の汚れは気づけばどこにも見えなくなっていた。この列は間違いなく進んでいるだろう。ここのパンとワインはやはり美味しい。前の女性とも仲良くなれた、お喋りをして上る階段は、しばしば時間を忘れることもが出来た。歩き続けることが苦じゃなくなった。この階段の上でも俺はささやかに幸せだった。少し上に階段の終着点が見える、行きついた先は天国か地獄か。まあ、そんな事はもうどうだっていい、上でも下でも俺が見るの方向は決まっている。
 終着点の前に立った。それはいくら前を見ても何故だか見えはしなかった。だが、これが終わりだという事だけは分かっている。この先に有るのは天国か、地獄か、もしくはもっと別の物か。もしかしたら、この先に進んだら夢から覚めて、彼女が朝ごはんを作っている、なんてこともあるかも知れない。正直全くわかりはしないが、唯一これだけは言える。
 次は、もっと良い日がを迎えられるだろう。
 俺は最後の一歩を踏み出した。

死後の階段

執筆の狙い

作者 ky
106.72.212.192

正直、この作品は内容が二転三転して。読者にどんな感情を持たせたいかあやふやで進んでしまいました。なので感想から作品の結果をみたいです。感想よろしくお願いします。

コメント

三月は深き紅の淵を
219.100.84.36

話がだらっだらしてて、
作者が思ってるように「二転三転」はしてない。

平板に、だららーーーっ。


パンティが出て来たあたりで、「けっ!」

ここのサイトの男短編作家は、もう絶対そっち行くし、
「行かずには書けない」、
芸がない。


「それ書いたら負け」だって、「制約」を自分に課して書けば、
こんな平板、だららーーっとは ならない。

ky
106.72.212.192

三月は深き紅の淵を様
ご感想ありがとうございます。話が平でダラダラしてるというのは確かにこの作品をほぼ言い表したような言葉です。狙いにも書いたように、書いてる途中話が二転三転してしまい、読者に対する狙いがないまま書き進めてしまいました。その為、話に起伏がなくただのべーっとした作品になったと自分では理解しております。
パンティに関しては、元々そういう影響を受けて書き始めた人間なので、これから特別無くすことは無いと思いますが。この作品に関しては話が平らな中で何とか転換を狙った、苦し紛れのパンティであるという面が強く、何とか全体的に誤魔化そうとしていたのですが読者様にはやはり見破られてしまうようです。
芯を食った感想の方ありがとうございました。

幡 京
218.221.116.235

仲代、もとい重箱読みじゃねえや、つつきで。ご勘弁を。

ー権利
「資格」をお勧めさせて頂きます。


ーこの世の摂理
「この世」は現世ですよね。それと「来世(らしき)」とは区別された方が。


ー俺の人生の幕はひかれた
「幕はひかれた」を「幕が下ろされた」を。

ーなにかやってしまう人
まだ行先が(地獄だとしても)説明してないので、少しの毒描写を。


ーこれだけ多くの人が天国へ行けるとは
後半に「天國」が詳しく説明されますが、この時点ではまだ不明。


ーとても人ひとりを殺せるように見えはしない
「とても一人ひとりを殺せるシロモノではない」が。


ー地獄にはこれ以上のが苦しみが有るとでも言うのか
この文はいらないと思います。地獄を楽しみにしてるのはマゾヒストですから(それなら納得)


ー俺は前の人間が女性だと認識すらしていなかった
のに顔が分かるのは何故。すっ転んだ時に見たのなら有りですが。


ーパンティ
小生はフェチではありませんが、「ハイヒール」あたりにして堪能すべきかと(変態ですね)。


ーまあ、そんな事はもうどうだっていい
「もはや」をお勧め致します。


アルベール・カミュ「シーシュポスの神話」を(誤読ながらも)思い出しました。
後半を読んで、小生も原稿用紙2枚に反省文を記そうと思いました。

頑張って下さい。

夜の雨
60.41.130.119

「死後の階段」こちらは、「すごく出来がよい」。
死んだ人間の人生観というか哲学が語られていると思う。
天国行か地獄行かということで天国行らしい階段を上る主人公だが、なかなか前に進まない。

時間がわからなくなるほど気の遠くなるほど、階段を上るというか気が付くと一段しか上っていない。
腹が減っていないのにパンとワインが配られて食べるが、とにかく階段を上れない。
このジレンマが作品の中に漂っていて、読んでいると面白い。
たしかに読んでいると「いらだちみたいなものは感じます」。作品が前に進まないので。
この主人公はどうなるのか、だとか、本当に作品の導入部で語られたように天国への怪談なのかとか。
いや「怪談」ではなくて「階段」だ(笑)。
導入部で「鬼」が出てきているのでジョークで怪談を出しました。(失礼)。
御作に書かれている語りのエピソード(主人公の考えのいろいろ)が、人生を語っている内容でした。
このあたりがしっかりと書かれていました。
ラスト近くの階段でこけるところですが、ここが起承転結の「転」になって、一気にラストへと駒が進むのですが、この「転」(展開)もよかったです。
主人公の前の階段を上っていたのが女性でその後が楽しくなるという話は、それまで「話を進ませないで、引っ張ってきたので、疲れが一気に抜けました」。

―――――――――――――――――――――――――――
 終着点の前に立った。それはいくら前を見ても何故だか見えはしなかった。だが、これが終わりだという事だけは分かっている。この先に有るのは天国か、地獄か、もしくはもっと別の物か。もしかしたら、この先に進んだら夢から覚めて、彼女が朝ごはんを作っている、なんてこともあるかも知れない。正直全くわかりはしないが、唯一これだけは言える。
 次は、もっと良い日がを迎えられるだろう。
 俺は最後の一歩を踏み出した。
―――――――――――――――――――――――――――――

これがラストで、もちろんこれでもよいのですが、「(産まれて)生き返る」という方法もあります。
御作のラストの一部を変えてもよいし、続きで、下記の展開にしてもよい。
母親の胎の中から産まれるというラストにする方法です。
この展開にする場合はラストが近づくにつれて情景をそれとなく胎の中をイメージさせるような描写をしておき、外から何やら呼ぶ声が聞こえる。という展開にすればよいと思います。
もちろん呼ぶ声は男の声であったり、女の声であったりするわけですが、それらは母であり父である、幸せそうな声であった。(医者の声や聴診器の音とかもあり)。
それまでの主人公の階段を上っていた時の過去の記憶は父と母の呼ぶ声にシンクロして消えていく。
そして性懲りもなく、また、新しい人生が始まる。
というようなやりかたもありです。


どちらにしろ「死後の階段」こちらは、良くできていました。

文章上の細かい問題はいくつかありましたが、話の流れ(構成)や主人公が語るエピソード、人生観や階段を上る様子、「読み手をじらす」テクニックなど、どれもよかったです。
下ネタ(下着)の文章は控えたほうがよいですね、御作の値打ちが下がるので。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

テクニカルサポート

3,000字以内