作家でごはん!鍛練場
19

待ち合わせは二時だった。  

 穏やかなミルク色の陽射しだって、長時間晒されるとなれば肌に痛い。
 四月。女子の必需品であるはずの日焼け止めクリームはまだ買っていない。公園を出て大通りへ向かえばドラッグストアがあり、シーズン前と言えどもそこで手に入るだろう。
 空を仰ぐ。無骨な時計が目に飛び込んできて、彼女の心をざわつかせる。
 待ち合わせ相手が待ち合わせ時間に現れず、連絡もつかない場合、待ち合わせ場所から動いても良いものだろうか。背後の遊具が軋む音がする。狭い公園で、彼女はひとりぼっちだった。
「まだ?」
 携帯を操作し、何度目か分からない確認をするも、メッセージ欄の末尾には自身のはてなマークが続いているだけだった。着信も、ない。
 苛立ちの中に悲しみが紛れ始める。
 彼は気まぐれな人だ。彼女は目を閉じ、思考する。彼がたれ目を細めて微笑めば、または困り顔を作ってみせれば、周囲の人間は途端に彼を甘やかす。愛される者特有の余裕を醸し出し、行く先々の空気を牧歌的に変える。荒んだ日々に疲れ切った人々は、そんな癒しの場所に集り、彼はさらに優しく扱われる。彼の癖っ毛は毎日誰かに撫でられていた。
 彼女はそれを眉間にしわを寄せながら見ていた。
 長女に生まれ落ち、神経質な親のもとで育ち、甘えという言葉を馬鹿にしながら生きてきた。自主自律。小学校のときに覚えた四字熟語は今も彼女の部屋に貼ってある。彼のような人は軽蔑の対象でしかなかった。
 なのに。
 陽射しから逃げるために移動した先のベンチで、彼女は唇を噛んで悔しさをあらわにした。
「どうして来てしまったんだろう」
 待ち合わせ場所に遅刻することさえ考えたことのない生真面目な女を、周りを自分のペースに巻き込む男がデートに誘うなんて、そこから疑いにかかるべきだったのだ。あのとき、ほんの少し染めてみせた頰だって、信じてはいけなかった。
 後悔を噛み締めながらも彼女は待ち続けた。文庫本を取り出し、木漏れ日の下で文字を追い始める。電車の中や自室で読むときとは違い、二割も頭に入ってこない。じりじりとした時間が地べたに落ちていった。彼女の知らない鳥の鳴き声が空を抜けた。
 時計が無言のまま三時を告げる頃、公園の中に彼女の姿はなかった。
 無念と疲れがベンチの上で渦を巻く。厚い雲がゆっくりと太陽を隠し始める。
 帰路につく彼女は知らなかったのだ。
 彼女が公園に到着するより前に起こった事故の存在を。
 たった一キロ先で地面に横たわっていたのは、彼女はよく知っている人物だった。左目の下の泣きぼくろも、骨ばった指も、やわらかそうな髪だって。声を聞くたびに、そばを通るたびに、見ずにはいられなかったのだから。
 今、遠く離れた場所で、二人の頰に涙がこぼれ落ちた。

待ち合わせは二時だった。  

執筆の狙い

作者 19
60.115.115.178

引き続き三人称に挑戦しました。とても短くて恐縮ですが、ご助言をいただきたいと思います。

コメント

時乃
106.180.20.212

はじめまして、時乃と申します。
御作を読ませていただきました。

三人称の文体を目指したとのことですが、一人称の表現が混在しているようです。

例えば、書き出しの文章「穏やかなミルク色の陽射しだって、長時間晒されるとなれば肌に痛い」ですが、痛いと感じているのは「彼女」です。
つまり、登場人物である彼女の感覚をそのまま書いているという訳で、これは三人称ではなく一人称の文章ということになります。

三人称は「登場人物ではない語り手」から出来事を語る手法なので、「彼女」の感覚や思考は直接文章では書けません。

例えば下手な例ですが……

「狭い公園の木陰に隠れながら、彼女は目の前に見える時計の針を気にしていた。」

木陰に隠れているので、彼女は日焼けを気にしているのが読者には分かります。
時計の針を気にしているのですから、おそらく待ち合わせをしているのだろうと想像がつきます。
こんな感じで彼女の状況や内面や性格を表現していくのです。


19さんは自分の思考とか感覚とかを言葉に書き記していくのが好きなタイプなのではないかと思いましたが、もしそうなのであれば無理せず一人称で書けば良いのかなと思いました。

こんな感じでよろしければ……
これからも頑張ってください。

19
60.115.115.178

時乃さま

初めまして。読んでくださって、さらに感想もくださってありがとうございます。お返事遅れまして申し訳ありません。

混ざってしまったようですね。
気をつけたのですが、自分では分からなかったことです。例文とともに解説くださって助かりました。

御察しの通り、無理して書いています。これまでは一人称しか書いてきませんでした。好きな書き方ばかりしていては伸びないかと考えた結果なのですが、好きな書き方を伸ばす、という考え方にシフトしようかと思います。

本当にありがとうございました。

瀬尾辰治
49.98.88.197

ちょっと失礼します。
直接書けない。それだと、もし三人称を覚えている方が、そのまま読んでしまうと誤解しちゃうんじゃないのかなあ。

直接書くと、絶対に変やけど。

()←これを使えば書けますし。「」←これなんか、一人称みたいなもんですね。

三人称で、関連←させた(ここでは全体的な目線からの視点の移行。以前は、この書き方は絶対に変やと思っていましたが、関連させた──と、考えると分かります)こんな書き方もあります。

これは分かりよいですが、参考までに、です。
松本清張の原文のままです。

 鳥飼重太郎は、湯気の出ている顔で食卓に向かった。晩酌二合を長い時間かけて飲むのが彼のたしなみである。雲丹、イカの刺身、干鱈、そんな肴が膳の上には並んでいる。今日は歩きまわって疲れた。酒の味がうまかった。

(ラストで2回も書いてます。他のプロ作家も、──←こんなのを使ったり、分からないように書いている? かもですね)

19さん、勝手に書いてしまってごめんなさい。
三人称は本を読むと分かると思います。

時乃
61.192.85.126

お疲れ様です。
ちょっと補足します。

三人称も一人称も、文章を書くうえでの仕組みみたいなものなのかなと思います

実際の作品などを見ると、すべての文章を三人称や一人称で書いていることはほとんどないです。適宜使い分けるかたちで書かれているケースがほとんどです。

ただ、この人称の問題に関連することですが、文章の視点を揃える必要があります。文章の視点が揃っていれば、三人称の場合、書きようによっては一人称的な文章も自然に混ぜることが可能になります。
三人称の文章の中に、ここぞといった箇所に一人称の表現が入ると、読者に人物の心情などを印象づけたりすることもできたりします。ただあんまりやりすぎると三人称で書いた意味が失せるので注意です。
(一人称の文体に三人称の文章を混ぜることも可能ですが、これは主に純文学的な作品で採用されることが多く、難易度も高いのでおすすめしません)

三月は深き紅の淵を
219.100.84.36

ぼぼっと流し見た感じ、
人称?は、そう問題ない・・ように思う。

現状だと、「一人称に近い三人称記載 +自由間接話法」なんで、
書き方はそう問題ない・・ように感じる。

ただ、「ラストが唐突に、三人称神視点」なんで、そこは直した方が。



ここのサイト、
「一人称に近い三人称記載+自由間接話法」には、
毎回毎回毎回、上記のような指摘が出て、、、

ワタシも出されまくってるし、全否定もされてる印象なんですけど、

世の中、「自由間接話法」で書いてる人は普通にいる。
ラノベやBLなんかは、むしろそっちの方が多いぐらいだって気がする。



ここのサイトで、「地の文の自由間接話法を真っ向否定してる人」は、
平素それで書いてるワタシ(いい歳のおばちゃんで子供は大学生…)よりも「年配」な人。。



この原稿でアカンのは、人称とかじゃなくて、
「ハナシがまったくつまらないこと」だと思います。
(身も蓋もなくバッサリでごめんな…)

瀬尾辰治
49.98.88.197

再度、
ちょうど良かった。あのときは何月さんでしたかね。
関連させた、と教えてもらって、読み比べるために、納得できるまで違う本を四冊買いました。(今は納得。ありがとうございます)

?←これを書いちゃったけど、ここぞという場面に限らず、本を読んでいると多いです。

最初はここって場面が効果的かな、と自分もそう思っていましたよ。

しかし、どうしても進行していく場面は何カ所もありますし、関連させて分からないように書くほうが自然です。

ある文章のそこだけを読んでみると、どう考えても一人称ですが。少し前に戻って、そこから関連させた場面の、それぞれの違う改行などが、自分ではここって場面ですかね。
(分からなかったころは変やねー、と思っていたのですが)

いろいろ考える他の方々は、三人称の書き方はいろいろあるから、まずそこが悩むところかもしれないですね。

人のコメント欄で…ごめんなさい。

三月は深き紅の淵を
219.100.84.36

↑ ええと、申し訳ないんですが、

ワタシ、「原稿を読んで、その作品内容で覚えている人」以外は、あんま区別がつかない。


“一度さっと斜め読み・ほんの一瞥”でも、その時印象に残ったものは“ストーリー内容把握して・結構覚えている”とゆー、脳味噌の構造しているもんで、


“3年半前にここで1回きり遭遇し、軽く一瞥した一見さんの原稿内容”であっても、
覚えている人のは やけに細部まで、ハッキリ鮮明に覚えている。
(読みながら即時展開しているところの、脳内映像記憶が残っているから、ですね)


逆に、どんなに感想欄の書き込みが多くて、遭遇した回数が多かろうが、作品内容で印象にない人は、いつまでたってもよく分からないし、あんま区別して認識してない。


そんで、あなたは、
鍛錬場で名前は見かけるけれども「原稿内容に全然まったく覚えがない人」の方なんで・・

三月は深き紅の淵を
219.100.84.36

とまあ、失礼なこと堂々言ってますけど、

要は、「自分の原稿も書きましょう?」って事です。



ある程度歳くっちゃうともう、すっかり錆ちゃって、

自らの劣化との闘い。。

あと何作まともなものが書けるか分からないし、

公募にしても、あれこれ試行錯誤してられるほどの余裕はもうない・・じゃん??

瀬尾辰治
49.98.88.197

三月さん、自分がコメントしたのは一回かな? 覚えいなくて当たり前ですね。

しかし、教えてもらえたのはありがたいことでした。それに、他の方にコメントを書いていても覚えますしね。
そうですね。そのうち書いてみます。

いやー、こんなに書き込んで失礼しました。

19さんの書いたのは、前サビ風の歌詞みたいですね。

ミルク色から……。そんなのを2フレーズ。

気まぐれな人
からは、前サビに続く歌詞みたいですね。

苛立ちの中に悲しみが溢れはじめる。

そこなんか数フレーズ加えると、リピートにちょうどかな、そんなふうですね。

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