作家でごはん!鍛練場
潮田真紘

本泥棒の探しもの

 事務室に入ると、同僚の寺田さんが新聞を広げていた。
 「おはようございます」
 「お! おはよう、菱本さん」
 向けられた笑顔に軽く会釈して、菱本は部屋の隅にある自分用のロッカーに向かう。寺田さんは毎朝事務室で朝刊を読むのを日課にしていて、出勤は誰よりも早い。菱本が市民会館に併設されているこの図書館で働き始めてから、そろそろ五年が経とうとしているが、出勤時間が寺田さんより早かったことは一度も無い。菱本がロッカーにコートやバッグを仕舞っている間も、真剣な眼差しを紙面に向けている。
 「菱本さん、今日のニュース見た?」
 身支度を終えデスクに座ると、寺田さんが声を掛けてきた。
 「テレビで少し見ましたけど……。何かありました?」
 「また本泥棒が出たよ。しかも隣町に」
 「えっ」
 菱本は寺田さんの傍らに寄り、新聞を覗き込む。全国ニュースの紙面に、他の記事のそれより小さいながらも、興味をそそられるような見出しがあった。
 【図書館所蔵の本 同じ県内の施設へ 「本泥棒」が犯行ほのめかす】
 「『県内の施設へ』? どういうことですか?」
 「本泥棒が本を勝手に持ち出して、子どものいる施設に置いていったらしいよ」
 記事の内容をざっと読むと、こういう内容だった。この市に隣接する町のある図書館がつい先月閉館し、蔵書整理の末に貰い手の見つからなかった本が、処分予定日までの間図書館に保管されていた。その本のうちの一部、合計して三百冊ほどが無くなっていることに気が付いた従業員が、昨日警察に届を出した。するとちょうどその日に、県内にあるいくつかの保育園や養護施設から、朝従業員が出勤すると、施設の外に段ボール箱に詰められた大量の本が置かれていたという連絡が入った。置かれていた本を調べると、その図書館から持ち出されたものであることが判明し、警察が図書館の中を調べてみると、「本泥棒」のものと思しき栞が書庫に落ちていたという。警察は盗難事件として、「本泥棒」を名乗る人物を重要参考人として捜索中、とのことだ。
 「この図書館って、ここからあまり遠くないですよね」
 「ああ。次狙われるとしたら、ここかもしれないなあ」
 寺田さんは苦笑いで言う。
 「まさか。でも、もし来たら厄介ですね」
 「そうなんだよ。いろいろと後始末が増えそうで面倒だ。でも、今回みたいな盗みは初めてのパターンだな」
 「確かに。人に渡すなんて今まで無かったです」
 「本泥棒」とは、本人が名乗る通り本のみを盗む泥棒で、ここ半年くらいで何件もの盗難事件を起こしている。一般人の菱本が知っている情報は、新聞やテレビのニュースから得られるものくらいなので限られてはいるが、最近巷を騒がせている泥棒らしい。
犯行予告は一切せず、夜のうちにお目当ての本を盗み、自分の正体に繋がる証拠は残さずにその場を立ち去る。唯一現場に残していくものは、「もらっていきます 本泥棒」という直筆のメッセージが書かれた栞だけだ。ある時には博物館から重要文化財級の古文書を、ある時にはオークション会場からトップアイドルの直筆サインが入った世界でたった一冊の自叙伝を、またある時には大手出版社が技術を結集して試験的に製造した、最高品質の紙を用いた事典第一号を、様々な監視の目を潜り抜けて盗んでいった。犯行の手口から単独犯だということは予想がついているらしいが、それ以外のことはほぼ分からず、捜査は難航している。
 「目的は何なんでしょう……」
 紙面を睨んで、菱本は呟く。
 「さあ、盗む本のジャンルも場所もバラバラだからな。それで見当がつかなくて捕まらないんだろ」
 「そうかもしれませんね。こんなに何回も盗んでいて、証拠がほぼ無いわけですから。この先もまだ犯行は続きそうです」
 「だよなあ。でも、この泥棒、なんかスマートだよな」
 「……どこがですか?」
 声色が少し明るくなった寺田さんに、菱本は問う。
 「本をターゲットにしているところだよ。宝石でも、金でもなくて、本だぞ。危険を冒してまで盗んでいるものが。少なくとも、本の価値を分かってるっていうことじゃないか?」
 「……そうかもしれませんけど、盗みは盗みです。しっかりと犯罪ですよ」
 「それはそうだけれどさ……。まあ、ここに来ないことを願うばかりだ」
 寺田さんはそう言って、机上に置かれたコーヒーを飲み干した。
 「そういえば、蔵書点検の前準備、進んでるか?」
 「はい。蔵書の一覧、もう少しでコピー終わります。明日午後から出勤なんですけど、少し残ってやろうと思ってます。明後日は休み頂いてるので」
 「そうか、宜しくね。また忙しくなるなあ」
 「そうですね。頑張りましょう」
 「ああ。こんな時期だし、余計に来てほしくない」
 寺田さんのつくった渋い顔に、菱本は、ですね、と笑った。


                     ★


 菱本が目を覚ますと、既に辺りは暗くなっていた。
 どうやら作業中に寝落ちしてしまっていたらしく、机に突っ伏した態勢になっている。力の抜けた腕で重い体を立て直し、ずれている眼鏡を直して、どこまで進んでいたっけ、と確認しようとすると事務室の中は闇と化していて、デスクに付いたライトだけが煌々と机上を照らしていた。日没が早くなる季節とはいえ、さすがに暗すぎる。手の届く範囲を物色してスマートフォンを手繰り寄せ、画面を点けて表示された数字に菱本は目を疑った。
22:04。
「うわ…………」
 点いたままになっていたパソコンや、腕時計でも確認するが、その時間に間違いはなかった。
 九時までには終わらせて帰ろうと思っていたのに、と菱本はげんなりしてしまう。明日休みをもらっていて本当に良かったと心の底から思う。
終電までまだ時間があるけど、早く終わらせて帰ろう、と気合を入れなおした菱本の耳に、微かだが足音が聞こえた。
 誰かいる?
 菱本は咄嗟にスマートフォンのライトを点け、それを懐中電灯代わりにして、足音のする方へ向かっていった。事務室に置いてあった、防犯用のさすまたもついでに手に取る。カウンターの後ろにあるドアから図書館のフロアに出ると、カウンターの横の突き当たりにある書庫の扉が開かれているのが見えた。普段は鍵が掛かっていて、ここに勤める司書しか入ることの出来ない部屋だが、そこが堂々と開け放されている。
 まさか、不審者?
 菱本はさすまたとスマホを強く握りしめ、恐る恐る書庫の中に足を踏み入れた。窓が無く、本がびっしりと並べられた本棚がいくつも立っているため、日中でも薄暗いスペースだが、太陽が沈んでいるこの時間だと、スマホの明かりが無ければ何も見えないほど真っ暗だ。
周りを入念に照らしながら少しずつ奥へ進んでいくと、菱本のスマホではない光源から出た光が、闇の中にうっすらと浮かんでいるのを見つけた。やっぱり誰かいる、と気を引き締める。幸い書庫の造りや物の配置は熟知しているので、913の番号が振られた本がある棚のところにいるな、とすぐ察しがついた。
 素早くその棚に近づき、本棚を左に曲がると、光をこちらに向けた人影があった。さすまたをそれに向けて一気に近づき、相手を壁際まで追いやって捕まえることに成功する。相手は「うわ、何これ」などと言いながらさすまたを退けようとするが、菱本も必死で壁に押し付けているので抜け出せない。
 「誰ですかあなた!」
 菱本は声を張り上げた。
 「名乗れないなら警察呼びますよ!」
 「ちょ待って待って! 今日は何ももらわないから! 用が済んだら帰りますから!」
 「…………え?」
 『今日は』? 『もらわない』?
 「あ、やべ」
 不審者の顔には、やってしまった、という狼狽した表情が浮かんでいる。見た感じだと二十代前半くらいの、上下に黒い服を着た青年だった。
まさかと思うけど、もしかして。
 「……あなた、『本泥棒』?」
 青年は、驚き、困惑、躊躇、という風にころころ表情を変えた後、観念したように呟いた。
 「…………はい、いかにも」
 少し気取った口調で話すが、取ってつけたような見栄っ張りだということはすぐに分かった。
 「『今日はもらわない』って、どういうこと?」
 菱本は、相手が年下の青年で、強い抵抗を見せてこないことに少し安堵していた。
 「ちょっと探しものをね」
 「探しもの?」
 「本ではない探しものですよ。でも、もう見つかりました」
 青年はそう言って、左手に持っていた一冊の本を徐に持ち上げた。水色の表紙の単行本だ。913の番号が振られたラベルが貼られているので、日本語の小説だと分かる。もう一方の手にはカッターが握られており、それをカチカチと鳴らして本に向けた。
 「ちょっと!」
 「大丈夫です。本は傷つけません」
 青年は薄く微笑み、本の上の辺にカッターを突き立てた。刃を浅く刺して横にピッと引く。本を上下逆さまにひっくり返し、本に掛かった紙のカバーと、厚い表紙の間から手際よく何かを滑らせて取り出した。
 「……封筒?」
 「はい」
 図書館に所蔵されている本には、一部の例外を除いて薄いラミネート加工がされている。新しく入ってきた本に、透明のシートを使って一冊ずつ掛けるのだ。そうすることで、本の表紙に直接汚れがついたり、日に焼けて色褪せたりするのを防いでいる。ラミネートを掛けるとき、シートを本全体に覆うように貼るため、本を広げるとできる、紙のカバーと表紙の間にある隙間は閉じられてしまう。それを利用して、ラミネートを掛ける前にそこに何かを挟んでおけば、薄い紙三枚程度の厚さのものであれば閉じ込めることが出来るのだ。
 「この本、ラミネートが二重に掛けられてました。これを仕込んだ後にもう一度掛け直したんですね」
 青年はそう言った。確かに本のラミネート用シートはそこまで高価ではないし、その気になれば図書館関係者でなくても手に入れられる。
 でも、誰が何のために。
 「俺の友達がやったんです」青年は独り言を呟くように明かした。「そいつとはもう会えなくなっちゃったんだけど、最後に会ったときに、この本に封筒を仕込んだから見つけてみろって」
 青年は手に持った封筒に視線を落とし、ひらひらと弄んだ。
 「という訳なんで、これはお返ししますよ」
 そう言って左手に掴まれた本を突き出してくる。菱本は恐る恐る近づいて、受け取った。青年は本当にここでの用事を済ませてしまったようで、特に抵抗する素振りも無く、すっきりとした顔をして立っている。十分に距離を取ってからさすまたを除けると、軽く会釈までしてきた。
 菱本は、スマホで照らしながら手元の本を眺める。正直なところ、今まで借りられているのを一度も見たことが無い本だった。菱本が非番の日に借りられたことはあるのかもしれないが、見覚えもない。出版年を巻末で確認すると、もう二十年以上も前の作品である。長い間手に取られていなかったのか、何となく本自体が寂しそうな雰囲気を帯びていた。特に意味もなく、いつも本を手に取ると無意識にそうしてしまうように、ページをペラペラと捲る。
 「じゃあ、僕はこれで失礼します」
 その時、菱本は本のある違和感に気付く。
 「…………これは……?」
 「……どうしました?」
 呟きに、去ろうとしていた青年は反応した。
 「……落書きがあります」
 「落書き?」
 「見てください、これ」
 菱本は本のページを青年に見せた。小説の冒頭のページで、書かれている文字のいくつかが鉛筆らしきもので丸く囲まれている。囲まれた文字の並びに規則性は無いようで、その次のページにも、そのまた次のページにも、途切れることなく続いている。
 「これは……?」
 青年は困惑している。菱本は何か予感めいたものを感じ、冒頭のページの囲まれた文字を文に沿って順番に読み上げた。
 「『か』、『ね』、『こ』、『か』、『ず』、『き』、『様』、『へ』」
 「………………俺の名前だ」
 青年が呆然と発した声に、菱本はひらめいた。
 「封筒、開けてみて」
 青年は言われるがままにカッターで封を切った。中から出てきた白い便箋には、罫線を無視した大きな文字が書かれている。
 「『手紙の内容は本の中です 分かるかな?』……。じゃあ」
 「丸の付いた文字を繋げたものが、恐らく友達さんのメッセージです」
 暗がりの中で、青年の瞳の色が変わったように見えた。菱本の手から本を奪うと、一心不乱にページを捲る。友達が残したらしい丸印は、小説の最後まで続いていた。
寂しそうな雰囲気を孕んでいた単行本は、青年の手の中で少しずつ温かみを帯びていき、心なしか表紙の色彩も明るくなっていくようだった。
 「あの」
 暫くの沈黙の後、青年が言った。
 「これ、もらっていってもいいですか」
 菱本は青年の顔を見上げる。
 泥棒として取り繕った余裕さや、目当てのものを手に入れた安堵感はなく、ごく普通の青年が友達を想う表情がそこにあった。
 もしかするとこの本は、この人のものになるのが一番幸せなのかもしれない。
 誰のものにもならない図書館の本を、日々見ている菱本の頭には、そんな思いが浮かんでいた。
 「……仕方ありません。いいです」
 「ありがとうござ」「でも、一つ条件があります」「……条件?」「はい」
 菱本は息を小さく吐く。
 「この図書館、三日後から蔵書点検が始まります。要するに、ここに所蔵されている本がちゃんとあるかどうか一冊ずつ確認するんですが、その時に最近の貸出記録のない本が欠けていると大変なことになります」
 「あ、無くしちゃったか、盗まれたかってことになるんですね」
 「そうです。あなたがこの本を持っていくと、貸出記録と辻褄が合わなくなります。私がどこかの書店でこの本の新しいものを買ってこっそりすり替えることも出来ますけど、その本は元からここにあった本と同じ状態にする必要があるんです。バーコードやラベルを貼ったり、蔵書印を捺したり」
 「あと、ラミネートを掛けたり」
 菱本は頷いて続ける。
 「蔵書を捺したり、ラミネートを掛けることは、適当な理由をつけて出来なくはないです。でも、バーコードやラベルは、コンピューターからデータを取り出して印刷する必要があるんです。私の今後三日間のシフト上、他の従業員の目を盗んでそれをやることは出来ません。だから、あなたが新しい本に偽造したラベルとバーコードを貼って、ここに戻しに来てください。それが条件です」
 青年は少しポカンとしていた。
 「それって、もう一回ここに侵入してもいいってことですか?」
 「……やむを得ません」
 これじゃあ、泥棒を認めることになっちゃう。不法侵入の隠蔽だ。
 作戦の痛いところを突かれてしまい、顔を顰めつつ答えた菱本に、青年は笑顔を見せた。
 「分かりました! ラベルもバーコードも、しっかり作ってきます」
 「……偽造は出来るんですか? 出来て当然のように言ってしまったけど」
 「楽勝です。僕は泥棒なので」
 「……それとこれとは関係ないですよね?」
 菱本がそう言うと、青年は、あ、確かに、と笑う。

 「ありがとうございました」
 書庫を出て、カウンターの前まで戻ったところで、青年は振り向いて言った。菱本は軽く会釈する。
 「司書さんは帰らないんですか?」
 「まだ仕事が残っているので」
 「そうですか」青年はそう言うとゆっくりと図書館を見渡し、少し悔しそうな顔をした。 「……たくさん練習したから、バレずにいけると思ったんだけどなー」
 「練習?」
「はい。あ、ここじゃないですよ。隣町の図書館です。ここと造りが似てるんですよ。一回につき百冊運び出して、一晩で合計三回です。それが余裕だったから、封筒持ち出すくらい簡単だと思ったんすけどねー」
 青年の告白を聞いた菱本は開いた口が塞がらない。しかし同時に、昨日抱いた疑問が降って湧いてきた。
 「…………他の盗みは?」
 「はい?」
 「今までの盗みです。どういう目的で?」
 菱本の問いかけに、ああ、と青年は笑う。
 「特に大きな理由はありませんよ。ただ僕、一点ものの本に途轍もなく惹かれるんです。自分じゃ理由は分かりません」
 本の価値を分かってるっていうことじゃないか?
 昨日の寺田さんの言葉が、菱本の頭で思い出される。
 もしそうならば。
 「その本、あなただけの大切なコレクションになりますね」
 青年に向けたメッセージが託された、世界で一つだけの本。これから読み解かれるそれがどんな内容であったとしても、その価値が分かるのは、目の前の青年だけなのだ。
青年は目を丸くしたが、すぐに人懐っこい笑顔になった。
 「はい」
 そう言って本を大切そうに持ち直す。
 「では、僕はこれで。また来ますね」
 青年はぺこりと礼をして、踵を返した。
 二日後の夜までですよ、と念を押した菱本に、後ろ手を振って応え、外で灯る街頭の光も殆ど届かない廊下へ消えていく。


                    ★


 菱本が自分のデスクに座ると、事務室に寺田さんが入ってきた。
 「おはようございます」
 「お? おはよう、菱本さん。早いね」
 自分より早く出勤している人がいることに、寺田さんはかなり驚いた様子だ。思えば、こうやって朝に出勤してくる寺田さんを見るのは菱本にとって初めてで、何だか新鮮な気持ちになる。
 「どうかしたのか?」
 「いえ、蔵書点検の前に、ちょっと確認しておきたいことがあって」
 「そう」
 寺田さんはそう言うと、自分のロッカーの方へ歩いて行った。こちら側に寺田さんが背を向けたのを見計らって、菱本はデスクから蔵書印とラミネート用シートを出し、それらと机上のペンケースを抱えて足早に書庫へ向かう。
 朝の図書館には誰の姿もなく、菱本の足音が静かな館内に響く。今日から、ここを訪れる利用者に対応しつつ、蔵書点検も進めるという忙しい期間が始まる。
 少し空気の冷えた書庫に入り、913の番号が振られた本のある棚へと向かう。三日前に青年と遭遇したところの棚を一冊ずつ確認していった菱本は、その中に爽やかな水色の背表紙を見つけた。手に取って確認すると、確かに青年が持って行った本と同じものだ。背表紙には番号が印字されたラベル、裏表紙にはバーコードのシールが貼ってあり、どこで手に入れたのか、ご丁寧にラミネートまで掛けられている。
 正直、一か八かだったけど、本当に戻しに来てくれたんだ。
 菱本は安堵して、いつもやってしまうようにペラペラとページを捲る。本文中に丸印などの落書きはなく、見るからに新品のものだ。蔵書印を最後のページに捺そうと、本を裏表紙から開くと、そのページだけは新品の本の一部とは言えない状態になっていた。菱本は眉を顰めて、そのページをよく見ると、黒い鉛筆らしきもので何かが書かれている。菱本はそれを目で読んだ。

 【ありがとう 寝落ちの司書さん 金子和樹】

 「ふえっ?」
 変な声が出てしまい、菱本は反射的に口を押える。寺田さんに聞かれるとまずい、と書庫の入り口を振り返ったが、人が近づいてくる気配はない。
 菱本は手元の本に視線を戻した。何度読み直しても、その文字が消えることも、メッセージが変わることもない。
 まさか、見られてたなんて。
 菱本は急に恥ずかしくなってきて、書庫の隅に置かれている机に寄ると、ペンケースの中から消しゴムを取り出した。落書きされたページを開いて消しゴムを当てる。本を戻してくれたことへの有り難いという気持ちと、寝落ちに気づかれていたことへの恥ずかしさと、新品の本に落書きしていったことへの腹立たしさが、菱本の中で入り混じった。  
 青年のいたずらっ子のような笑顔が頭に浮かぶ。下を向いているからか、だんだん頬が熱くなってくる。
 菱本は焦る気持ちで、しかしきれいな水色のページに皺をつくらないように、丁寧に一文字ずつメッセージを消していった。

本泥棒の探しもの

執筆の狙い

作者 潮田真紘
175.131.182.32

立場は違っても、同じく本を大切にしようとする二人の人物の交流を書きました。
意味の理解しやすい文章を心がけました。
他サイトに投稿しているものですが、客観的な書評を頂いてみたくこちらにも投稿しました。

コメント

二月の丘
219.100.84.36

ざーっと画面眺めて、ストーリーだけ把握したんですが・・

「目的の本がはっきり分かっていた」状態なんで、
“そもそも盗む必要がない”と思う。

“目的の本を悟られないためのカムフラージュ +男の趣味なのさ〜”
だったとしても、
そんな大量の本を、どうやって持ち出したのか、
書かれてないし、
「作者が考えてない」(設定してない)のが丸わかり。


読者としたら、「ある1冊の本をめぐるミステリー」の方に親しみ覚えるし、「慣れてる」。
“本格ミステリで、何作も見てきているから”です。


その「問題の本」の記載が、ただ単に「913の番号が振られた本」ってー書きようも、読者をガッカリさせる。

DICコードの枝番と、著者名の頭文字:かな。判型、装丁、肝心の『書名』と、おおよその内容・・
“自分だったら、全部設定して書き込んでいるから”です。
(ワタシは細かい人間なので・・そういうとこは手抜きしない&省かない)



個人的に・・

本に直接書き込みする奴が大嫌いだ。
登場人物の自宅蔵書であったとしても、厭な所行。
ましてや図書館の本は・・厭さいや増し。。

そういうのがたまにあるから、
基本的に、図書館の本が嫌いで、小説とか買って読んでる。。
「そう言いながら、Amazonも古本も買ってんだったら・・同じでしょう?」ってーツッコミもあるかもしれない。
が、Amazonでも、優良業者がチェックした「状態:非常に良い」しか買わない。
厭だから。。


だから・・


このハナシは好かない。

泥棒男も、主人公のキャラも、馬鹿っぽくて厭。
随所ザルで、「整合性に問題ありまくる」と思ったし。。

全然読書家じゃないワタシでも不快なんで、
“本を愛している人”だったら、それはもっとそう、だって気がする。



文章的には、まあお上手なんじゃないですか??

そのお上手さを相殺して余りあるほど、
作者に【本への愛情が欠片も感じられない】のが、厭なだけで。。

二月の丘
219.100.84.36

図書館・・


嫌いなんで、ほとんど行かないんだけども、

そんでも、司書教諭免許とか履修したもんで、

>【図書館所蔵の本 同じ県内の施設へ 「本泥棒」が犯行ほのめかす】
> 「『県内の施設へ』? どういうことですか?」
> 「本泥棒が本を勝手に持ち出して、子どものいる施設に置いていったらしいよ」


↑ これが“ただ単に迷惑千万なだけ”で“何の役にも立たない、まるきしの愚行”ってのだけは、
もうハッキリ分かって、、、

そこが目に入った時点で、もう引いちゃったっつーか、冷めたんですよね。
(なので、通読もできなくて、そこはごめんね)

阿南沙希
126.209.32.199

読ませていただきました。文章やトリックというより、内容が浅く、しかもぶれているのが一番の問題点だと思います。

一点モノの本を盗む、と300冊盗む、が同一犯なら、二つの盗みにはそれなりの共通項なり背景が必要ですが特にありません。また、本を盗む話だったのに、封筒を盗むのがメインになっており、しかも封筒の中身ではなく本の適当な文字を拾ったメッセージが核なら、本の価値や本を大事にすることとは全く関係ないとこで話が展開されているので、作者としてテーマが見える敷地の中に立ちながら全く違うものを見てやしないでしょうか。

本を大事にすることを書きたいなら、まずそこから逸れないことが基本です。書きながらあらすじに飲まれてしまいそうになる時もありますが、作者がしっかりコントロールしてテーマを表現しないといけません。本を大事にする、というこのお話を素敵な形に完成させることができる人はあなたしかいないからです。

もう一つ気になるのは、犯人の動機が本を大事にする、に沿ったものではないこと。深い考えなんてなくてもいいですし、盗みのプロなり魔法使いの末裔なりでミラクルな盗み方ができるならトリックだって無くていいと思うのですが、一連の犯行動機が一点モノというだけなら、300冊盗んだこととは矛盾するし、一点モノ=価値あるものかというと、そんなことないですよね。アイドルのサイン本だって、とうがたった元アイドルならぎゃくに価値が下がる(偽造かもしれないから)らしいですし、本の価値はそんなことではないと思います。

珍しい珍しくないの範囲でいきたいなら、本でなくてもいいのでは? 失礼ながら、作中の本や図書館をデパートとツボや宝石などに置き換えられるし、犯人に同じ動機をしゃべらせても違和感がないので、それがこのお話の中で本がそんなに重きを置かれていない証拠かなと思います…。

でも本を大事にする、という主題は取り組んでみるのは取り組んで損はないです。このテーマは昔からいろんな作品で取り上げられてはいますが、今は今で活字離れや電子書籍、はたまた識字障害の浸透など難しい時代なので、そこに自分の意見をもつというのは意味があると思います。

では、お互い頑張りましょうね〜!

二月の丘
219.100.84.36

訂正。。

>DICコードの枝番と、著者名の頭文字:かな。判型、装丁、肝心の『書名』と、おおよその内容・・

↑ DICは、大日本インク〜。(色指定してどうすんだよ… と、自らツッコミ)


【NDC】です、NDC。。(日本十進分類法)。




ワタシは細かい人間だけど、大学時代つったら、もう は〜〜るか昔…あったんでがのー…なんで、
いい加減ボケが入っている。
そこは許して欲しい。

潮田真紘
175.131.182.32

二月の丘さん、コメントありがとうございます。
恥ずかしながら、自分で読み返してみても、設定がザルだというご指摘がもっともだと思いました。
司書目線であるために分からない部分も、読者に納得してもらえるように泥棒に仄めかせておく必要があったように思います。
今後の執筆では設定をしっかり組んだうえで、それをどうやって自然に提示していくかを念頭に置いて取り組んでいきます。
訂正まで恐れ入ります。

潮田真紘
175.131.182.32

阿南紗希さん、コメントありがとうございます。
ご指摘のとおり、確かに今回の様な書き方では「別に本じゃなくてもいいのでは?」となりますね……。
もっと本に設定したことを活かした展開を用意するべきでした。
自分が本のどんな部分を大切に思っているのか、もう一度考え直して、また同じ主題で練り直してみたいと思います。
阿南さんも頑張ってください!

潮田真紘
175.131.182.32

阿南沙希さん、お名前の漢字を間違って打ち込んでいました。
失礼いたしました。
訂正させていただきます。

瀬尾辰治
49.96.38.12

潮田さん、
自分で書いた物は、ほんと試行錯誤で分かりにくいんですが。人の書いた物は、よく分かりますね。

…………菱本は、ですね、と笑った。
今はここら辺りまで読んだんですが、客観的に読めたかどうかを書いてみます。
逆から書いてみます。

「…………どこがですか?」
 声色が少し明るく……問う。

そこは、その前に寺田さんの台詞を書いているから。彼の台詞の後に、声色……。と、順序が逆だと分かりよいです。

「本泥棒」とは、…………捜査は難航している。
その箇所って、
 一般人の菱本が知って………泥棒らしい。これを省けば、先の記事の地の文と同じく、改行不要だと思います。

途中で、犯行………。と、改行して書いてしまうと、後付けみたいですね。スムーズではないように思います。

 一般人の菱本が……泥棒らしい。この箇所は、
「本泥棒」とは、………捜査は難航している。
 一般人の菱本が……泥棒らしい。
 紙面を睨んで、菱本は呟く。
「目的は何なんでしょうね……」

そんなふうに、そこも逆にしてしまうと、スムーズなんですが。

ただ。
捜査は難航している。
と言い切っているので。先の曖昧も含めて、そう言い切るのは、警察の誰かの目線に直さないと、ちょっと変。そこは語尾の修正かな?

語尾の修正が必要かなと、そう思う箇所は前にもあって、

 …………紙面に向けている。
「菱本さん、今日のニュース見た?」
…………………。
「菱本さん………」の台詞からは、場面が違うように思います。
 ………紙面に向けている。場面を終わらせる語尾に直して、台詞に続けると、分かりよいです。

冒頭は、抜かりと書きすぎが多いかな?

読んだ辺りまでだと、
男女の区別、上下関係。それらは何となくわかるんですが。ため口は同期かもしれないし──。
しかし冒頭で、それは分かりません。

ちょっと順序を入れ替えて、かりに冒頭で、
 菱本だれだれは、……五年経とうとしているが、。
その箇所を最初に書けば、名前で男女の区別はできますし。
事務室に入る箇所までスムーズに想像できます。(しかしどっちにしても、そこは新たな場面だから、菱本、と書かないと分からないですが)

冒頭で、寺田さんも男女の区別がつきません。
笑顔の箇所に、髭の剃り残しとか。寺田さんと書いた後に、彼の笑みは右側に口もとが上がるとか。ユーモラスな体型とか、彼は神経質な笑み。……他にも特徴はまだまだあると思います。
少しでも書いておくと、先の苦笑いにも続くと思います。

五年の箇所を先に書いてしまうと、
寺田さんが日課に……。の箇所も、毎朝の箇所も、簡単にひとつになるのでは?

誰よりも早い。それから続くロッカーの箇所は、全体を見ているような書き方になっていますよ。

……誰よりも早い。日課というのを、彼から菱本が前もって教えられていたことを書いていれば、それは分かるのですが。

コメントに抜かりと間違いがあるかもしれません。






 

潮田真紘
175.131.182.32

瀬尾辰治さん、コメントありがとうございます。
ご指摘を受けて改めて読み直してみましたが、やっぱり文章の流れがかなりぎこちないですね……。
瀬尾さんが挙げてくださった書き方だとすっきりして読みやすい印象を受けました。具体的に書いて頂いて恐縮です。
性別や人間関係なども、ニュアンスではなくはっきりと示すのが必要だと再認識しました。今書いている別のものがありますが、早速そのかたちで推敲してみようと思います。

瀬尾辰治
49.96.38.12

潮田さん、指摘の箇所ですが、自分に間違いがあったので、訂正します。

「本泥棒」の箇所です。

「本泥棒」とは……捜査は難航している。
と、潮田さんの書いたとおり、言い切って正確やと思います。
その箇所は、分からないように書く視点の移行になるんですかね? たぶんそうやと思います。

……捜査は難航している──なのか。
ともう一度、菱本目線にするとリアルかな?

……捜査は難航している──なのか。
 一般人の菱本が知って……泥棒らしい。
 …………。
ちょっとね、仕事中にあれって思ったものですから。
書いていて、自分もなにかの参考になると思います。
ありがとうございます。
返コメは要らないですよ。

のべたん。
49.104.36.253

読みやすくて、好きなタイプの内容でした! 
気になったところは、他の方々がすでにおっしゃっているので、特にはありません。
ただの感想ですみません。

潮田真紘
175.131.182.32

のべたん。さん、コメントありがとうございます。
感想いただけて嬉しいです。
執筆の励みになりました。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

テクニカルサポート

3,000字以内