作家でごはん!鍛練場
由紀夫

夜が満ちる

 ぴかぴかと赤色に発光する誘導棒を振っていると、夜があらわれた。それは朝でもなく、昼でもなく、まぎれもなく夜なのだ。朝の輝きも、昼の怠惰もなく、夜の静寂を身にまとっていた。

 夜は暗かった。
 朝は鮮明で、昼は明瞭で、夜は暗黒だ。

 夜は言った。
「この先はどこに続いてる?」
 私は実態のない暗い影のような存在に語りかける。
「朝です」
「朝と夜は同居できない。だから俺はまっすぐ行く」

 夜は右折をうながす私の誘導に従わずに、直進する。
 私はそれを咎める勇気もないので黙って見送った。
 夜は進んでいく。

「朝と夜は同居できない」と夜は言ったけど、朝でも夜が明けない極夜と夜でも朝が暮れない白夜は、どちらが朝でどちらが夜なのだろうと考えて、それなら本人に聞いた方が早いと思って、夜を追いかけた。

 夜は、静寂で暗黒で、悲しそうだった。
 夜も、朝や昼みたいに、子ども達の顔が見たいのかもしれない。
 だったらこの先に行かせるべきではない。

「夜さん、待って!」
 言ったけど、夜は落ちた。
 崖下に落ちて、そこには静寂と暗黒が満ちていた。
 私は、今が朝なのか昼なのか夜なのかわからなくて、足元に広がる無機質な光景に夜を感じた。

夜が満ちる

執筆の狙い

作者 由紀夫
182.251.47.250

なぜこの小説を書いたのか
→川上弘美さんの「蛇を踏む」を読んで、感銘を受けたからです。

表現したいものは何か
→川上弘美さんのような幻想的な世界観です。

執筆上どのような挑戦があるのか
→仔細に描写する癖があったので、それをなるべく省いて、幻想的な雰囲気が出せるように工夫しました。

コメント

二月の丘
219.100.84.36

一見、雰囲気は良さそうなんだけども、それが「雰囲気だけ」で・・

一つ一つの言葉がどうも「表面的」で、嵌りが浅いとゆーか、エッジがゆるい感じ??

考察とシミュレートが浅くて、
シーン(場面)が短い。

もうちょこっと、「表現を選ぶ模索」を真摯に重ねて、
場面をしっかりシミュレートして、作中世界に入り込もう。
(って、ここのサイト、軒並みそう書いてますが〜)



雰囲気はいいんだけども、個人的に違和感あるのは、こういう箇所 ↓

> 夜は言った。
>「この先はどこに続いてる?」
> 私は実態のない暗い影のような存在に語りかける。
>「朝です」
>「朝と夜は同居できない。だから俺はまっすぐ行く」

気の遠くなるほどの幾星霜、この世界に在り、恒常的な営みを続けている「夜」ともあろう者が、
初対面の人間との会話が、そんなものなのだろうか??

「夜」よりもはるかに格下(だろう絶対)なスフィンクスの問いで、あの鮮烈さだった訳で。

「夜」ともあろう者の言葉は、もっと、深淵を覗くような、世界の真理の一片に触れるような、
そんな「重み」を伴うのじゃないだろうか??



話の発端〜流れ〜オチ、全体に「場当たり的」で、、、納得できなかった。

着想と雰囲気はいい感じなだけに、
「もったいなさ」が半端ない。


世界観をもっとがっちりシミュレートして、
設定・展開・帰結・・
全部変えてもういっぺん書き直すなー、ワタシなら。
(もったいないですからな)

二月の丘
219.100.84.36

あと、この内容だと、
タイトルは『夜が満ちる』じゃなく、『夜が○○』じゃないか??


『満ちる』は、ありがち表現・一種の定型句なんだけども、
展開にもオチにも「合ってない、齟齬がある」んで・・

「何も考えてないタイトルづけ」にしか見えないし、
結果的にそうなっちゃってるから、

損。



短編・掌編は、タイトルづけが大事。
タイトルづけが、ひとつの勝負なんで、
真剣にやろう??


川上弘美は、短編のタイトル付けが巧い人で、
「短い言葉で、バッチリ嵌ったタイトルをつける人」って印象。
(大昔の『神様』と、あとは『パスタマシーンの幽霊』ぐらいしか読んでないけど、そういう印象)

由紀夫
182.251.52.40

コメントありがとうございます!
二月の丘さん。

>「夜」ともあろう者の言葉は「重み」を伴うのではないか?

そうですね。考察が甘く、軽率に書き進めてしまったのが原因です。ううむ、事後の教訓とします。

>「場当たり的」で納得できなかった。

おっしゃる通りで、ぐうの音も出ないです。確かに衝動的に書いたので、いつもよりもプロットが杜撰でした。

>設定・展開・帰結を書き直す。

ううむ、なるほど!
不思議な感じで幕を引きたかったのですが、そう言われると書き直した方がいいようにも思います。小説って難しいですね。

>「何も考えてないタイトルづけ」にしか見えない。

そうですね。なんか、足元からぶわーって夜が広がってくイメージで名付けたのですが、このタイトルは合っていませんでした。「夜が落ちる」にしようかなと思います!

すごく丁寧な感想をありがとうございました!

藤光
119.104.11.195

読ませていただきました。

川上弘美さんはいいですね。
ああいう風に書けるようになりたい。書きたい内容は、私が書くものとは違うのですが、ああいう文章で書いてみたい。

……ともかく、川上弘美さんて、こんなでしたか。

御作、描こうとしていることはなんとなく分かるのですが、なんとも板についていないので、終始ちぐはぐな印象。短い文章ほどその分量で伝えようとすると、字句の選択には時間をかけないといけないのかなと気づきました。

ありがとうございました。

安本牡丹
118.157.153.84

詩にも小説にもなり損なったメモ帳、あるいは立派な詩。

>>「朝と夜は同居できない」と夜は言ったけど、朝でも夜が明けない極夜と夜でも朝が暮れない白夜は、どちらが朝でどちらが夜なのだろうと考えて、それなら本人に聞いた方が早いと思って、夜を追いかけた。

夜を追いかけた本当の理由はこちらではなく、

>>夜は、静寂で暗黒で、悲しそうだった。
 夜も、朝や昼みたいに、子ども達の顔が見たいのかもしれない。
 だったらこの先に行かせるべきではない。

こちらですよね?
夜を追いかけた理由については後者という前提条件で感想を書きます。

>>「夜さん、待って!」
 言ったけど、夜は落ちた。
 崖下に落ちて、そこには静寂と暗黒が満ちていた。
 私は、今が朝なのか昼なのか夜なのかわからなくて、足元に広がる無機質な光景に夜を感じた。

夜が落ちた場所にあるのは静寂と暗黒、まさに夜です。

夜→静寂+暗黒、つっけんどんな口調に鑑みても分かる通り、やはり夜は暗く独立したもの、孤独なものとして描かれています。

それで、「今が朝なのか昼なのか夜なのかわからなくて、足元に広がる無機質な光景に夜を感じた。」の解釈ですが、

一言でいえば「茫然自失」ですよね?「勝手に進んでしまう孤独な夜に追いつくことができず、夜が過ぎた後の世界が何もない寂しいものに感じた」ために起こった。夜を失ったことによって起こった。だって語り手は夜のことを強く気にかけていたわけですから。

これらの解釈は意味をなさないですか?
そこまで考えて書いていないですか?

もしそうなら、この作品は詩にも小説にもなり損なったメモ帳ということになります。表面をなぞった無意味な日本語の羅列、そもそも幻想的ではない上に、詩的ですらないということになるのですから。

まあ、タイトルと内容が明らかに噛み合っていないので、そこから察すれば、そこまで考えて書いていないかもしれない。その可能性を否定できないことがとても残念です。

由紀夫
182.251.42.102

>藤光さん。
感想ありがとうございます!

川上弘美さんの幻想的な雰囲気が素敵だなと思って、それを意識して書いたつもりです!
今作品は自分なりに彼女の作品を解釈したので、ちょっとしっくりこない部分があるかもしれませんね。

>板についていないので、終始ちぐはぐな印象。

ううむ、難しいですね。
確かに自分の文体として消化できていなかったかもしれません。ご指摘感謝します!

>字句の選択には時間をかけないといけない。

今回は衝動的に筆を走らせたのですが、やはりわかるものなのですね。あえて時間をかけずに書き上げることで勢いのある文章にしたかったのですが、その塩梅ってすごく難しいですね。

貴重なご意見ありがとうございました!

由紀夫
182.251.42.102

>安本牡丹さん。
感想ありがとうございます!

詩と小説の境界線ってあいまいで難しいですね。次こそはメモ帳ではなく、小説と言っていただけるような作品を書きたいです!

>夜を追いかけた本当の理由。

ううむ、言われてみればそんな気もします! 時系列的には、好奇心→使命感なんです。追いかけているときに、「あ、このまま行かせたらダメだ」って思いました。

>これらの解釈は意味をなさないですか?
>そこまで考えて書いていないですか?

その解釈で合っています!
そこまで読んでいただけて嬉しいです!

でも、もう一つの解釈があって、冒頭で誘導棒がぴかぴかと光っていたことから、現在は夕方~深夜帯だと考察ができます。そこに夜がふらっと現れたわけですが、夜さんは主人公の深層心理が具現化した姿で、孤独な自分を「夜」という概念としてとらえたのです。最後に落下し、崖下に広がる「夜」と「夜さん」が渾然一体となることで、「夜さん」が本当に実在していたのか不確かになり、幻想的な雰囲気が演出できると思いました。

こだわりとしては、「羅生門」のラストシーン、“下人の行方は誰も知らない”のように、生きているとも死んでいるとも言わないことで、余韻を残したかったのもあります。

タイトルは、すいません。
即興で考えました!
ご指摘があってから頭を悩ませましたが、良いタイトルが浮かびませんでした。

ところどころが反論みたいになってしまいましたが、そんなつもりはありませんし、多様な解釈をしていただけて嬉しいです!

拳拳服膺し、今後の創作の糧とさせていただきます! 貴重なご意見をくださり、本当にありがとうございました!

立花凛
58.98.229.69

はじめまして、川上弘美さんの小説はほとんど読んだことがないのですが、新人賞などの論評がいつも素敵でこのひとに読んでもらいたいなぁと思うので、興味を持って読んでみました。

あまりよくない意味でのポエミーさが少し強い気がします。
幻想的、というよりもまだふわふわ漂っていて形をとっていないような。
とはいえ、その漂っているところに、
ところどころ素敵な感性を感じました。

>朝でも夜が明けない極夜と夜でも朝が暮れない白夜は、どちらが朝でどちらが夜なのだろう

これがすごく良いです。
いままでなんとなく頭の隅で抱いていたかもしれない疑問をずばりと言葉にされたような。そういえば私もそれ気になっていた気がする!というような。

とはいえ、
>私は、今が朝なのか昼なのか夜なのかわからなくて、足元に広がる無機質な光景に夜を感じた。

あたりになるとちょっと曖昧に雰囲気だけで書いてしまっているように見えます。
全体を先ほどの極夜白夜問題のような鋭さで統一できていたら、素敵だったろうなぁ、と思いました。

また、そういった感性と言うのは、いまの半詩的なものではなく、小説的な三分のなかでこそ輝くものだと私は思います。(むしろ完全な詩へ行くというのもアリだとは思いますが。)
なんとなくのシチュエーションに頼るのではなく、
たとえば初めは「夜」が実態を持った人物のようかに描いておいて、
でも彼が落とし物をするかなんかして追いかけはじめ、
そこからだんだんと観念的な話へと移行していき、
そして最終的に現実世界へ戻ってくる、
そういう神隠し譚的な構造を導入した本作を読んでみたいと思いました。
あくまでたとえば、ですが。

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