作家でごはん!鍛練場

prayer 下

 私は星屑鉄道に乗って夜の海を渡っていた。
 車両は両端に座席がある、よく私鉄の各駅停車とかで使われているタイプで、私は座席に座って向かいの大きな窓から流れてくいく景色を見てた。
 街並みはずっと遠く、海辺に灯ったネオンの光が綺麗やった。星屑鉄道は水平線の上を真っ直ぐに進んでいるみたいで、窓からはいつまでもそんな付かず離れずの美しい街並みが見えた。
 ガタンゴトンと列車は進む。
 一人、座席に座ってる。
 てかさ、今気づいたんやけど、何かお客さん減ってない?
 さっきまでは私を含めて五、六人はいたのにいつの間にか同じ車両に誰もいなくなってる。
 おかしいなぁ。一度も駅になんて停まってないのに。どこ行ったんやろ? あ、トイレ? うそ、みんないっぺんに? 有り得ないやろー。それは。車両内も別に寒くないし。冷えちゃったとか、ないと思うし。ちょっとだけ暖房もついてるし。ちょうど良い室温やし。
 まぁ、いいや。
 私は再び窓の外に目を向けた。
 さっきまでと変わらない風景。めっちゃ綺麗やけど、こうも続くとさすがに飽きてくるなぁ。私は制服のスカートをふわっとさせて足を組んで欠伸をした。
 あれ、そう言えば私、なんで制服なんて着てきたんやろ?
 もうとっくに春休みなのに。着慣れたビリジアン色のブレザーとスカート、白のシャツ。学校指定のリボンはしてない。これはいつも。邪魔やから。
 というか、私は何処へ行くんやろ?
 そもそもこの列車、どこへ向かって走ってるんやろ?
 車両には私一人。聞こうにも誰もいない。これは困る。
 私は溜息をついて立ち上がった。ここに座っていても仕方ない。とりあえず前の方の車両に歩いて行こう。一番前まで行けば少なくとも運転士さんがいるはず。行き先を聞こう。
 車両間のドアは古く、重かった。動かすと、ぎいい、と古くなった油を削り取るような嫌な音がする。もー、何よ、このドア。最近の電車は市営地下鉄でも取っ手を握ったら自動でドアが開くのに。
 移った一つ前の車両はさっきまで私がいた車両と同じで誰もいない。造りも同じやから、まったく同じ場所に見えた。
 私はうんざりした。車両を移る毎に入り口と出口、ドアを二枚開かなくてはならないのだ。ここが前から何車両目か分からない。先が分からない分、気持ちが暗くなる。
 まぁ、でも仕方ないよなぁ。行くしかないやん。なんて自分を奮い立たせてドアを開いていく。案の定、次の車両も無人。そしてその次も。その次も。
 なんなのー、これ。
 十車両移った時、私は自分が汗をかいていることに気づいた。何、もう最悪。着替えなんか持ってないのに。てか私、何も持っていない。手ぶらだ。携帯も財布もない。
「あー、もう」
 何て声に出してみる。無人の車両やから声、響くかと思ったけど意外とそうでもない。何かガックシ。更に私は進む。額から汗が流れ落ちる。汗、ムカつくなぁ。なんて思ったけど、そう言えば汗かくの久しぶりやなぁ、とも思った。多分、体育のマラソンの授業以来やな。あ、お風呂とかは別ね。それ入れるなら先週お母さんと岩盤浴も行ったし。運動してかいた汗って意味。
 とにかく進む。
 しかし、このドア、どこまで続くのか。重いし。もう私、汗びっしょりやん。スカートが足にへばりつく。腕やってだんだん痺れてきた。やばい。私、だいぶ限界。マラソンよりヤバいよ、これ。なんて思ってたら唐突にさっきまでと感じの違う車両に出た。
 何が違うって、何だかトロッコ列車みたいなのだ。
 窓とかなくて屋根と柱だけ、座席も前向きの一方向になっていて、その先にまた、次の車両へ続くドアがある。ドアの造りとやはり無人なところだけが同じで、あとは全然違った。
 変な車両。星屑鉄道は水平線の上を走っているわけやから、船みたいやった。風が気持ちいい。けっこうなスピードで走っているのにそんなに強くもなくて、寒くもない。
 私は座席に座って海を覗きこんだ。
 夜の海は真っ黒で、もし私が今間違って落ちたら確実に死ぬなぁ、なんて思った。それは怖かったから車両の端についた手すりをしっかり握った。
 何気なく沖合いを見ると、少し離れたところに海面から飛び出す魚の群れを見つけた。
 あ、あれ、テレビで見たことある。イルカだ、多分。私は興奮した。だって野生のイルカなんて見たことなかったし。生涯見れることなんてないと思ってた。
「おーい、イルカー。こっちおいでー」
 冗談のつもりで呼んでみたんやけど、聞こえたのか、魚たちは群れをなしてだんだん私の方に近づいてくる。
 わ、わ。すごい。すごい。
 てか、なんで私の言葉が分かるん? きゃー。なんて喜んだんやけど、徐々に近づいてくる魚たちを見て私は違和感を感じた。
 魚たちがいつまで経っても大きくならないのだ。
 列車から十メートルくらいのとこまで近づいてきた時、ようやくそれに気づいた。あれは遠近法じゃない。イルカじゃない。もっと小さな、トビウオのような魚だった。
 えー、イルカちゃうんか。ガッカリした。近くで見ると姿形もイルカとは全然違う。彼らはイルカのようにシュっとスタイリッシュではなくて、海面から飛び出した瞬間に口をパクパクさせて、小さな羽を羽ばたかせ、何だか必死な顔をして飛んでいた。
 いや、頑張ってるなぁ……私は純粋な感想を抱いた。遠目に見てると華麗なのだが、近くで見ると泥臭くて、ほんとに魚たちの頑張ってる感が伝わってくる。不細工な顔。でもだんだんそれが美しく思えてきた。頑張ってる姿ってやっぱり見ていて気持ちいい。よく見ると月明かりに照らされた小さな羽がきらきらと綺麗やった。飛沫も、そのあとの波紋も愛しくなってきた。頑張れ! 魚! 私は強くそう思った。
 そんな姿を見ていると、だんだん触ってみたくなってきて、片方の手で手すりをしっかり握り、もう片方の手を海に、魚たちに手を伸ばした。その頃にはもう彼らは列車のすぐ隣を並走していて、手を伸ばせばほんとに触れそうだった。
 私は頑張って手を伸ばす。魚たちは星空をバックに、私の手をすり抜けて飛んで行く。飛沫が手にかかる。わー、幻想的。なんて思ってたら後ろから急に肩を掴まれた。
 私はびっくりして振り返ると、そこには帽子を被った小さなおじさんがいた。
「何やってんだ?」
「いや、魚が綺麗やったから、触ってみたいなと思って」
「何を馬鹿なことを。落ちたら危ないだろ」
 そう言っておじさんは私を力まかせに車両の中側へ引っ張った。力まかせと言ってもおじさんは小柄で、力も弱かったからちょっと引っ張られたって感じやったけど、それでもちょっと腹が立って、
「ちゃんと手すりを握ってたから大丈夫よ」
 なんて言い返す。
「どうだか」
 するとおじさんは私を押しのけて魚の方に行き、
「おい、お前ら。いつまでも遊んでないでさっさと帰って寝ろ!」
 なんて怒鳴るんやけど、魚たちはガン無視で、相変わらずピョンピョン飛んでいる。
 おじさんは少し不機嫌そうにチッって舌打ちをしてポケットから苺を一粒取り出し、ヘタを取って遠くの海に放り投げた。
 すると魚たちには打たれたかのように方向を変え、苺が落ちた辺りに消えて行った。
「え、魚やのに苺なんて食べるの?」
「何言ってんだよ。苺は魚の好物だろ」
 おじさんが不思議そうな顔をする。
 そうやっけ?
 いや違うやろ。普通に考えて。
 でも現に魚たち、苺を追いかけて行ったよなぁ。なんて考えてるとおじさんが、
「で、お前なんでこんなとこにいるの?」
「あー、その。最初はもっと後ろの車両に乗ってたんやけど、いつの間にか気づいたら周りに私しかいなくなってて、誰かいないかなぁ、と思って前の車両に歩いて来たの。そしたらこの変な車両に出て」
「ふぅん」
「おじさん、この列車がどこ行へ向かってるか知ってる?」
「星屑鉄道の行き先? からかってんのかよ。そんなの誰でも知ってるだろ」
「いや、それが分からんから聞いてるんやって」
「分からないって、じゃお前何で乗ってんだよ?」
「それはー……その。あのー、何でやろ? 言われてみればまぁ、うーん。確かに」
「何じゃそりゃ」
 おじさんがはぁ? みたいな顔をするからちょっと腹が立った。
「仕方ないじゃない」
「何だよ。逆ギレかよ」
「別にキレてないわよ。てか、おじさんこそ何してんのよ?」
「俺はちょっと倉庫車に行ってただけだよ。食材のストックを見に。てかお前、さっきからおじさん、おじさんって、失礼だろ。俺はコックだよ。見ろ」
 そう言っておじさんは自分の被った帽子を指差した。
 帽子は確かによくコックさんが被る白くて長いやつだった。なるほど、そう言われてみると白い服、白い帽子。確かにおじさんの風貌はコックさんそのものやった。
「コックさんなんや。でもコックさんが星屑鉄道で何してるのよ?」
「何してるって食堂車の運営だよ。当たり前だろ」
「あ、そんなんあるんや」
「お前、ほんとに何も知らないんだなぁ。まぁいいや、付いてこいよ」
 そう言っておじさん、もといコックさんは私を促して前の車両へ歩いて行く。特別断る理由もないので私は言う通りに付いて行くことにした。
 コックさんは私よりも頭一個分小さいチビ助やったんやけど、帽子を足したら私より背が高かった。
 私は再び前の車両を目指した。前を歩くコックさんの大きな帽子が左右に揺れる。
 コックさんはどんどん進んで行った。重いドアを難なく開ける。あの小さな身体のどこにそんな力があるんやろ? さっき引っ張られた時の感じではめっちゃ非力そうやったのに、って私は思った。けどわざわざ聞くのもどうかと思ったので、黙ってコックさんの背中を追った。
 トロッコ列車みたいな車両の先は、また最初にいた車両のように普通で、同じように無人やった。それが続いていく。まったく、どんだけ長い列車やねん。そう思い窓の外に目をやると、海岸線のネオンが変わらず見えた。星屑鉄道は相変わらず水平線の上を進んでいるようやった。
 唐突に食堂車に着いた。
 さっきのトロッコ列車の車両と同じで唐突に。ドアを開けたらそこは食堂車やった。幾つかのテーブル、それぞれに真っ白なテーブルクロスが引かれて、その上に紙ナプキンやフォーク、ナイフが置いてある。小綺麗なレストランみたいやった。
「とりあえず座れよ」
「はーい」
 コックさんは車両の端の小さな厨房に入って行った。
 私は言われた通りテーブルについて、紙ナプキンで手を拭いた。そこで初めて気づいたんやけど、あんなに汗をかいていたのにいつの間にか不思議と身体中から汗が引いていた。まるで何もなかったかのように。
 コックさんが厨房から、
「苺か桃、どっち食べたい?」
「桃」
 私は即答した。
「分かった」
 厨房の方からコックさんが桃を切る音が聞こえる。包丁の音が、まな板の音が。私は手持ち無沙汰になって窓の外を見た。
 しかし歩いたなぁ。途中から数えてなかったけど、三十車両くらいは歩いたんちゃうかな。この列車、いったい何車両あんねーん。
 星屑鉄道は真っ直ぐに走っているから、車両内から外を見ても他の車両が見えない。カーブにでも入ってくれたら見えるんやけどなぁ。あ、てかさっきのトロッコ列車の車両で見とけばよかったな。あそこなら外に身体を乗り出せば見えた。魚にばっか気を取られてて失敗したなー。
 その時、食堂車の窓は他の車両の窓と違っていることに気づいた。他の車両は埋め込み式の窓やったのに、食堂車だけ上下にスライドして少しだけなら開けることのできるタイプの窓やった。しめしめ。私はさっそく自分の座ってるテーブル横の窓を開けて肩くらいまでを外に出してみた。髪が風になびいてばさばさってなった。
 髪をかきあげて歩いてきた後方車両を見てみる。星屑鉄道は昂然と海を渡っていた。頼もしくなるくらい力強く。けど、何かおかしい。何がって、思っていたよりずっと短いのだ。正確には数えていなかったけど、確実に三十、少なく見積もっても二十五車両は歩いたはず。でも今見る限り、後方車両はせいぜい十車両くらいしかない。え? どういうこと? あ、しかもさっきまでいたトロッコ列車の車両もないやん。えー、何で? どーして?
 なんて思っていたら後ろから制服のブレザーを引っ張られた。
「また危ないことして」
 振り向くとコックさんが呆れ顔で立っていた。
「ねぇ、コックさん、これって」
「何だよ」
 そう言ってコックさんは私を退かして窓を閉める。
「後ろの車両が減ってた。いや、減ってたって言うか無くなってたのよ。トロッコ列車の車両もなかった」
「何バカなこと言ってんだよ」
「だって」
 そう言う私の前に、コックさんが綺麗に盛り付けた桃を置いた。
「ほら」
「わっ、めっちゃ美味しそう」
「いいよ。食べて」
「ありがとうー」
 私はフォークを手に取り桃を一切れ食べる。わっ、美味しい。桃は綺麗に等分に切られていた。ジューシー。ほんでちょっと酸っぱい。私の好みの桃だ。歩いた甲斐があったー。良かったー。
 コックさんがコップに水を入れて持ってきてくれた。
「コックさん、桃、めっちゃ美味しい」
「そりゃそうだよ。厳選して俺が仕入れた桃だからな。切り方も上手いだろ?」
「上手い。すごいね」
「桃、好きなんか?」
「大好き」
「そっか」
 そう言ってコックさんは自分の分の水も持ってきて私の前に座った。
「お前、名前は?」
「薫」
「薫か。いい名前だな」
「ありがとう。コックさんは?」
「俺? 俺はコックでいいよ。みんなそう呼ぶ」
「ふーん」
「薫は今何歳だ?」
「十七。高二よ。あ、もう高三か。春休みが終わったら」
「高三かぁ。良い時期だな」
「そう?」
「そう? って、そりゃそうだろ。何だ? 楽しくないのか?」
「いやー、楽しくなくはないけど」
「まさかイジメとかか?」
「いやいや、そんなんはないよ」
「ならいいけど。イジメはダメだぞ。あれは本当にダメだ。する方もされる方も不幸になる」
「うん、私もそう思うよ。小学校の時、クラスでイジメがあったの。耳にちょっと障害がある子がいて、その子のことをクラスの不良っぽい女の子たちがイジめててん。イジメって言っても乱暴したりとかじゃなくて、無視したり、もの隠したりっていう陰湿なやつ。私はたまたまそのイジめられてた子と出席番号が前後やったから席が近かって、だんだん見てるのが辛くなってきちゃったんよね。それである日、不良っぽい女の子たちに、そんなんやめなよって言っちゃったんよ。けっこう強めに。そしたらほら、私って変なとこ迫力あるから、意外とその一言が効いてその子へのイジメはなくなったの。でもその後、しばらくしてイジめられてた子は転校しちゃったんやけどな。親とかもイジメに気づいてたみたいで、ずっと転校の準備を進めてたみたい。まぁ、仕方ないよね。でもめっちゃ後味悪かった」
「そうか。そんなことがあったのか」
「うん」
「薫はわりと良い奴なんだな。海に顔を出したり危ないとこがあるけど」
「あ、うん。ありがと」
「にしても、それなら何で楽しくないんだ?」
「別に楽しくないなんて言ってないやん。でもいろいろ大変やねんで、十七の女の子って。悩み多き年頃」
「へぇ。例えば?」
「だって、高三になったら受験生やろ。進路とか考えなあかんやん? 志望校とかさ。友達はみんな予備校とか行きだすし。私、なんか乗り遅れてるし。でもバイトしないとお金ないし。それもまた悪循環やん?」
「ほう」
「それに彼氏は春休みやのにバイトばっかやしさー。聞いてくれる? 久しぶりに電話がかかってきたと思ったらまたしばらくは会えそうにないなんて言って。まぁ、声が聞きたかったとか言ってたのはちょっと嬉しかったけどさ。でもふざけんなって話よ。私、もうすでに会いたくて仕方ないのにさぁ」
「ふぅん。彼氏は同じ高校の人?」
「ううん。違う。大学生よ。三つ歳上」
「へぇ」
「めっちゃカッコ良いねん」
「ふぅん」
 あれ、何かついこの前もこんな話したな。
「桃、もっとあるけど食べる?」
「うん」
 コックさんは再び厨房に戻り、新しい桃を切って私のお皿に乗せてくれた。私はまたそれを食べる。
「ね、どうなんよ。何か感想ないの? リアルな女子高生の悩み聞いて」
「どうって言われても」
「いろいろ大変そうやろ? 十七歳も」
「まぁ、それは確かにそうだけど。どれも楽しそうな悩みだなぁ、というのが正直な感想だな」
「何よそれ。私、真剣に悩んでんのよ」
「それは分かってるよ。でもそれってどれも今しか悩めない悩みだからなぁ」
「まぁ、そりゃそうやけど」
「少なくとも俺にはない悩みだよ。どれも。進学だってしないし、恋人だっていない」
 あ、コックさん、彼女いないんや。
 しまったー。
 地雷踏んだかな。私はたまにそういうことをする。私はなるべく気にしてないふうを装って、
「そっかぁ」
 なんて言った。桃を頬張りながら。
「そうだよ。今しかない」
「じゃコックさんは今何を悩んでるの?」
「うーん、そうだな。何だろ……」
 コックさんはそう言って水を飲みながら考えていた。しばらく、うーん、なんて考えた後、ちょっと困った顔をして、
「特にないなぁ。強いて言えば、平坦な生活の中で悩みなんてないことに悩んでる」
「何それ、大人」
 私は笑ってしまった。
「まぁでも考えてみればこれも今だけの悩みなんだよな。何か新しい悩みができたら、悩みがないなんて悩んでたことが過去になる」
「うん、それはそう」
「そう考えると、悩みなんてどうせ今だけなんだよな」
「まぁーね」
「だから深く考えたら負けだな。何もしなくても通り過ぎて行くんだから。進路なんて嫌でもそのうち見えてくるし、彼氏にだってそのうち会える」
「うーん。まぁそうやね」
 結局私は追加で切ってもらった桃も綺麗に全部食べてしまった。
「ごちそうさま。桃、ほんと美味しかった」
「そうか」
 コックさんはそう言ってちょっと微笑んだ。
「ね、コックさん」
「なんだ?」
「コックさんの言う通り、悩みなんて今だけのものなんやけどさ、ぶつかってみたいなー。私は。通り過ぎるのをただ待つんじゃなくて、ぶつかっていきたい。進路も頑張って決めるし、彼氏とも早く会いたい」
 私がそう言うと、コックさんはキョトンとした顔をしたあと、大声を上げて笑った。
「何で笑うのよー」
「いや、ごめん。ごめん」
「人が真剣に話したのに」
「いやー、やっぱり若いっていいな」
「何よそれ」
 するとコックさんは厨房の方に歩いて行き、何かを作り始めた。
 私はテーブルから身体を乗り出して厨房の方を覗く。コックさんは小さく切った桃と瓶に入った透明の液体をミキサーに入れ、そこに白い粉を少しふりかけて混ぜた。
 私は不思議そうにそれを見ていたら、コックさんはミキサーから果肉を取り除き、液体だけを棚から取り出した小さな瓶に入れた。
 薄桃色の綺麗な液体やった。
「なにそれ?」
「俺特性の桃ジュース。特別にやる」
「へぇー、ありがとう」
「薫は良い奴だ。その意気で頑張れ」
「応援してくれんの? ありがとう。うん、私、頑張る」
 そう言いながら私はほんとに頑張ろう、と思った。これから頑張ろう、と。
 うん。良い傾向。
 決意の一歩、というやつですな。
 それで私は景気良く、ぐびっと水を飲んでやろうとグラスに手を伸ばしたんやけど、何故か身体に力が入らず、テーブルからグラスを持ち上げることができなかった。
 あれ? なんで?
 何だか頭が靄がかかってる。
 スモークみたいに。もわもわって。
 その時、私は何故だか自分がだんだん眠くなっていることに気づいた。さっきまで別に何ともなかったのに。ほんと急に眠気が私を襲った。それは抗いがたい、身体が暖かい泥に飲み込まれていくような、鮮やかな睡魔やった。
「なんだ? 眠いのか?」
「うん、なんだかすごく眠い」
 普通に座っていられなくて机に腕を組み顔を埋めてしまう。退屈な五限目の授業中みたいに。
「あと二時間もすれば朝になる。星屑列車も終点に着くはずだ」
「うん」
 だからさ、コックさん、終点てどこなん? けっきょく教えてくれなかったやん。思ったけど思うだけで言葉にならない。身体がだんだん眠りに支配されていく。もう自分の八割くらいは眠りに持っていかれた。
「頑張れよ、薫」
 うん、と言おうとしたがやはり言葉にならない。意識が消えていく最中、窓の外を見ると、いつの間にかさっきまではあった海岸線のネオンの灯りが消えていた。真っ暗になっていて。列車が海岸から離れたのか。
 ゆっくりと瞼が閉じる。
 そうして私は眠りに落ちた。


 コーヒーの香りが上の方から手綱を垂らしてくれている。
 でもまだ届かない。
 私と手綱の間にはまだ背丈くらいの距離がある。
「ねぇー、もうちょっと下に伸ばしてよ。手、届かないのー!」
 上の方にいるのであろうコーヒーの香りに向かって大声を出す。けど返事はない。
「ねぇー、お願い!」
 再度、大声で。すると、またしても返事はなかったけど、ゆっくりと手綱が下りてきた。そうそうその調子。
 手綱は私の手の届く高さでちょうどいい感じに止まった。真っ白く細い、コーヒーから昇る湯気のような手綱やった。
 試しに引っ張ってみたけど、意外としっかりしていて切れる気配はない。大丈夫よね、登っても。私、そんなにデブちゃうし。どっちかと言うと痩せてる方やし。そう思ってるし。
 それで私は手綱を登っていく。
 辺りは薄暗く、とりあえず何もないことだけは分かった。手綱だけが白く、闇に映えていた。私の体重がかかり、ピンと直線になってずっと上まで続いている。
 しばらく登ってみたが、一向に終わりが見えない。コーヒーの香りだけは、確かにそこにいるんやけど。てか、あー。また腕がまた痺れてきた。星屑鉄道のドアを開け続けたダメージがまだ残ってる。やっばいなぁー。もうけっこう登ってきたから今更引き返せないし。落ちたら死ぬやんな。多分、ビル二、三階分は登ってるはず。私は下を見てみたが、闇が深くて底が見えなかった。
 しかし不思議と恐怖はなかった。
 こんな状況で、やっばいなぁとか思ってるのに怖くはない。気持ちはふわふわしていて、まぁでも何とかなるやろなぁ、なんて感じで。まるでシンナーを吸って頭の中が飛んじゃった時みたいな。私はシンナー吸ったことないけど。
 しかし実際、コーヒーの香りがなかったらほんまにやばかったかも。だって手綱がなかったらずっとあそこに座ってるしかなかったんやもんなぁ。薄暗いし。それはちょっと滅入る。あー、でも腕しんどい。元々私、運動できひんのやから。中学のバスケの試合にも出れないんやから。それやのにこんなに登って。ようできてる方やわ。ほんまに。くそー。
 まぁでも、仕方ない。もうちょっと、できる限りは登ってみるか、なんて思って、覚悟を決めて手綱を強く握った瞬間、私は食堂車のテーブルにいた。
 食堂車の中は明るく、夜はもう明けたみたいやった。テーブルの上にはホットのコーヒーが一杯置いてあった。白くか細い湯気が昇ってる。
 私の頭はぼんやりと、まだふわふわしていて状況がなかなか読み込めなかった。
 腕が痺れている。ずっと頭を上に乗せて寝てたからやわ。えーと、ここは食堂車。確か私はここで桃を食べてた。コックさんが切ってくれたやつ。すごく美味しかった。で、その後なぜだがちょっと熱い話になって、悩みなんて今だけのこととかなんとか……あ、そうだ。そしたらだんだん眠くなってきちゃって机に突っ伏して寝ちゃったんだ、私。
 食堂車にコックさんの姿はなかった。
 肩から真っ白のテーブルクロスが掛けられていて、見ると、右斜め前のテーブルにだけテーブルクロスがなかった。
 どれくらい寝てたんやろ。夜はもう終わってる。星屑鉄道も停まっていて、外を見ると何処かの駅のようやった。隣にも同じような列車が停まっていた。
 なるほど。ここが終点ってわけね。
 でも私はすぐには動く気にはなれんくて、とりあえず目の前のコーヒーにミルクと砂糖を入れて飲んだ。
 コーヒー自体は普通の味で、特別美味しいってわけでもなかった。まぁ、私、それほどコーヒーの味にうるさいわけちゃうんやけどね。でもこの香り、これは間違いなくさっき薄暗闇の中で私に手綱を垂らしてくれた香りやった。ありがとう。あなたのおかげで眠り姫にならずに済んだわ。まぁ、もしサリがキスしに来てくれるんなら眠り姫でも別に良かったけどさ。あのコックさんじゃちょっとねぇ。って失礼。
 さて、これからどうしようか。
 とりあえず私は別に何の目的もなく星屑鉄道に乗っていた。だからもう、帰りたい。お母さんに黙って出て来ちゃったし。門限なんてとっくに越えてるし。てかもう朝やし。
 ここは駅なんやから、折り返しの電車も出てるやろう。駅員さんに事情を説明して帰してもらおう。
 よし、と立ち上がった時、テーブルの端に薄桃色の液体の入った瓶が置いてあることに気づいた。あの瓶。あー、思い出した。コックさんにもらった桃ジュース。危ない、危ない。忘れるとこやった。私はその瓶を、わりかし小さく、小瓶だったので制服のブレザーのポケットに入れて食堂車を出た。
 列車の外に出ると思っていたよりも駅は広く、改札がどこにあるのかすぐに分からなかった。先頭車両の向こう側に人だかりができていて、私はそこに向かって歩き出した。てか、人。久しぶりに見た気がした。星屑鉄道の中ではどんなに探してもコックさん以外、誰も見つからなかったのに。ちゃんとお客さんいるやん、この鉄道。良かった。
 先頭車両のところまで行くと、線路はここで終わっていて、思った通りここが終点のようやった。それにしても大きな駅やなぁ。列車が十車両くらい並んで停まっている。その前は広場みたいになっていて、人々がベンチに腰掛けてサンドイッチを食べたり、新聞を読んだりしていた。何だか外国の駅みたいやなぁ。広場の中心には噴水があり、その中心は大きな時計台になっていた。
 綺麗な噴水やった。
 流れ出す水は透き通っていて、水底にはビー玉みたいな色とりどりのガラス玉が敷き詰められていた。時計を見るともう八時半。春休みで良かった。じゃないとまた遅刻やった。
 てかお腹すいたなぁ。昨日の夜、めちゃくちゃ桃食べたけど、桃じゃあんまりお腹の足しにならないし。広場で何人かが食べてるあのクラブサンドが食べたいなぁ。分厚いハム、みずみずしいレタスとオニオンスライス、そこにシーザーサラダみたいなドレッシングがかかっていて、それがカリッと焼いたパンに挟まれていた。
 でもよく考えたら私、財布持ってない。ポケットを探ってみたけど小銭すら一円もない。参ったなぁ。はぁ、でも仕方ないか。クラブサンドは諦めるしかない。もう、さっさと帰ろう。ここが何処か分からんけど帰ろう。帰ってお母さんにご飯を作ってもらおう。
 広場の向こう側に改札を見つけた。これまた大きな改札やった。でももっと驚いたのはその向こう。改札の向こう側に見たこともないような綺麗で大きなお城があったのだ。すごいお城。ディズニーランドのシンデレラ城なんて目じゃないくらい。すごいなぁ。てかここ、ほんまにどこやねん。駅にいる人達は何となく日本人ぽいけど、風景は日本じゃないみたい。まぁ星屑鉄道は海を渡ってたから、外国に来てしまったとしてもおかしくはない。てかきっとそうやわ。この風景。ここはどこか知らない国。きゃー、私海外なんて初めてやわ。まさかこんなカタチで来るとは。まぁ、でも、帰る。お腹すいたから。
 改札の端に駅員さんが立っていて、何人かが並んで順番に分からないことを問い合わせていた。私もその列に並んで自分の順番を待った。駅員さんは優しく人々の問い合わせに応じていた。
 運良く帰りもあのコックさんのいる列車やったらいいなー。あの人やったらクラブサンドくらいささっと作ってくれそうやし。くぅー、とお腹が鳴る。誰かに聞こえたら恥ずかしいなぁ。何て思ってたら私の番が来た。
「どうされました?」
「あの、私帰りたいんですけど。でもどの列車に乗ればいいのか分からなくて」
「行きはどこから乗られたんですか?」
「え、どこやろ。うーん。JRか阪急かやと思うけど」
 すると駅員さんは少し訝しげな顔で、
「ここまで来た乗車券を見せていただけますか?」
「えーと、ごめんなさい。乗車券とか持ってないんです」
「持ってない? あなた、まさか不法入国じゃ」
 駅員さんはもう完全に疑いの目で私を見てる。
「いやいや、そんな大袈裟なことじゃないですよ」
「でも乗車券はないんでしょ?」
「ないです」
 すると駅員さんは少し離れたところに立っていた二、三人の駅員さん達を集めて私のことを指差して何か話した。話を聞いた駅員さん達は頷き、何だか怖い顔して私に近づいてくる。私は咄嗟に逃げようとしたけど無理で、すぐに駅員さん達に取り囲まれた。
「ちょっと、なに、何なんよ」
「あなたに不法入国の疑いがかかってます」
「だから何なのよ。私をどうする気?」
「あなたを幽閉します」
「幽閉!」
 マジで?
 私を幽閉。私が幽閉。幽閉される。幽閉って言葉、インパクト半端ない。
 そうして私はあの大きなお城の牢屋に幽閉された。


 幽閉なう。
 携帯持ってたら、多分SNSでそう呟く。
 貴重な経験やんな。こんなことって。多分予備校に通ってる友達も誰もこんなこと経験ないんちゃうかな。絵里ちゃんも、優子ちゃんも。ははは。まったく。
 しかし私が入れられた牢屋はあまり牢屋っぽくない牢屋やった。幽閉とか言うから便宜的に私も牢屋とか言ってるけど、ここほんまに牢屋なんやろうか? 鉄格子とかないし。入り口普通のドアやし。窓も別に普通で、部屋の中には簡素なベッドとテーブルと椅子があるだけ。テーブルの上にはかなぜか犬のぬいぐるみが置いてあり、私はその横に桃ジュースを置いた。
 そんな感じやから別に幽閉感もないし、携帯も何も持ってないからやることもないし暇で、ベッドに寝転がってごろごろしていた。お腹すいたー。
 何でこんなことになったんやろ。
 私は星屑鉄道に乗っていて、気づいたら誰もいないから馬鹿みたいに重いドアを何枚も開けて人を探して、トロッコ列車みたいな車両で飛び跳ねる魚を見て、コックさんと会って桃を食べさせてもらって、寝ちゃって、やっと駅に着いたと思ったら不法入国とか言われて幽閉されて。思い返せばおかしなことばっかやん。何かおかしいなー。
 私は思う。
 考える。
 てかやっぱりお腹すいた。ほんまに。駅に着いた時からお腹が鳴るくらいすいてたのに、あれからもう何時間も経ってる。飲み物ならコックさんからもらった桃ジュースがあるけど、とにかく今は何か食べたかったから飲む気になれなかった。
 お腹がすきすぎてだんだん腹が立ってきた。だって、私別に何も悪いことしてないやん。なのになんでこんな目に合わなあかんの。何かが間違ってる。絶対間違ってる。
 私はベッドから起き上がり、鍵のかかったドアを思い切り叩いた。
 反応はない。
 私はなおもドアを叩いた。ドンドンドンドン。何度も。するとドアが開き、いかにもお城の牢屋の見張り番みたいな格好をしたいかつい顔の男が現れた。鋭い槍を持っている。
「おい。うるさいぞ。どうしたんだ?」
「お腹すいた」
 私はキッと見張り番の男を睨む。
「罪人の食事の時間は決まっている。朝の八時、昼の一時、夜の七時だ。今はまだ十一時半だからあと一時間半我慢しろ」
「やだ。待てない」
「何だと?」
「だから待てないって! お腹すいたの! 何か食べるもの出して。今すぐ!」
 私はそう言って見張り番の胸ぐらを掴んだ。見張り番はけっこうな大男だ。でも私は全然怖くなかった。それが伝わったのか、見張り番は自分より三十センチ近く小さな私に少したじろいだ。
「ぐう……何て女だ」
「だいたいねぇ。おかしいのよいろんなことが。だんだん私も分かってきたわよ。ねぇ、もしかしてこれは全部私のゆ……」
「おいおい。待て待て。待てって。」
 そう言って見張り番は大きな手で私の口を塞いだ。
「何を言うんだ。お前、滅多なこと口にするなよ。ほんと常識のない女だな」
「何すんのよ!」
 私は見張り番の手を振り払い、がら空きの足を思い切り蹴ってやった。丸太みたいに太い足で、蹴った足が痛かった。うー、蹴るんじゃなかったなぁ、ってちょっと後悔した。
「まったく、怖いなぁ。最近の若い女はみんなこうなのか? あ、お前あれか? いわゆるメンヘラってやつか?」
「うるさいわねぇ。あのね、女の子は誰でもちょっとはメンヘラなのよ。覚えといて!」
「え、そうなのか」
「そうや」
「そ、そうか」
「ねぇ、お腹すいた。どうにかしてよ」
 今や見張り番は完全に私を怖がっていた。
「どうにかって言われても……食事の時間は決まってるし」
「そんなん知らないわよ。適当になんか厨房から持ってきてよ。この際何でもいいからさ」
 見張り番は少し考えた後で、
「うーん、分かったよ」
 と言ってしょんぼりして外に出て行った。
 勝った。
 私はそう思った。
 言いたいことを言ったらすっきりしたー。てかあの見張り番、鍵かけ忘れて行ってるやん。今なら多分逃げられる。でもやめとこう。ここで待っていたら見張り番がご飯を持って来てくれるし、それ食べてから考えよう。
 しばらくして見張り番が帰ってきた。
 白いビニール袋を私に差し出す。
「ほら」
「ありがとう。何? もしかしてわざわざ買ってきてくれたん?」
「ああ。厨房に忍び込むなんて一見張り番の俺にはできない」
「ありがとう。ごめんな」
 自分で買ってきてくれたとなると急に悪い気がした。これじゃヤンキーがパシリの後輩に「おい。お前パン買ってこいよ」なんて言うアレやん。そう思ってビニール袋から中身を取り出すとパンやった。パンっていうかクラブサンド。駅前で見たやつだった。
「これって駅に売ってるやつ?」
「そう」
「わー、これ食べたかったの。でも私財布持ってなかったから買えなくて」
「財布も持たずに不法入国って、お前何がしたかったんだよ」
「だから何かの間違いなんやって。私、気づいたらあの星屑鉄道に乗ってたの」
「ふぅん。よく分からんけど。まぁ食べろよ。冷めないうちに」
「ありがとう」
 そう言って包みから取り出したクラブサンドを一口食べる。うん、美味しーい。やっと少し満たされた。
 そう思って顔を上げると見張り番はクラブサンドを食べてる私のことをじっと見ていた。
「見られてると食べにくいんやけど」
「いや、でもお前逃げるかもしれないし」
「逃げないわよ。食事中なんやから」
「そうか? まぁでも一応」
「大丈夫やって。じゃ鍵かけて外で見張っとけばいいやん」
「ん、まぁそれはそうだけど」
 その時、見張り番のお腹が鳴った。くぅーって。大きな身体やのに、お腹の鳴り方は私とおんなじやった。
「何? あなたもお腹すいてんの?」
「うっ、その、今朝、遅刻しそうで朝食を抜いてしまったのだ」
 めっちゃ気まずそう。
「じゃ半分食べる?」
「え、いいのか?」
「いいも何もあなたが買ってきてくれたんやん」
「まぁ、そうだが」
「その槍、綺麗なん?」
「これか? まぁ、綺麗だ。物騒な事件もないから使ったことはないし、一応毎日綺麗に拭いてる」
「じゃそれでスパッと切ってよ。私持っとくから」
 そう言って私は両手でクラブサンドを持って顔の前に出した。
「お前、すごいな」
「何がよ?」
「だって槍だぞ。普通、そんなやり方提案しないだろ。怖くないのか? 俺がミスったらお前怪我するんだぞ」
「だって仕方ないやん。手では千切れないし。刃物で切るしかないやん。てか、間違ってもミスんないでね。ミスったら許さないから。私、嫁入り前の女子高生なんやから」
「どんな神経してんだよ。オーケー。ちゃんと持っとけよ」
「うん」
 それで、身構えた次の瞬間、ヒュッという鮮やかな音とともにクラブサンドは真っ二つになっていた。
「お見事! さすがやなぁ」
 そう言って見張り番を見ると、めっちゃ安心した顔してた。
 え、何? まさか自信なかったん?
 それなら先に言ってよ。今更怖くなってきたやん。バカ。
 それで私達は二人、ベッドに並んで腰掛けてクラブサンドを食べた。見張り番は大きくて、ベッドの幅の三分の二くらいを使っていた。私は端にちょこんと座ってる。
「朝、弱いの?」
「ああ、弱い。週に一回は今日みたいに遅刻しそうになる。目が覚めてもなかなかベッドから出られないんだ」
「あー、なんか私と同じ匂いがする」
「お前も朝ダメなのか?」
「ダメ、ダメ。ほんとにダメ。週に一、二回は遅刻してる。あかんねんけどなー。無理なんよ。どうしても」
「遅刻してるって、お前それで何ともないのか?」
 見張り番はめっちゃ驚いた感じで言う。
「いや、そりゃ多少怒られはするよ」
「それだけ?」
「まぁ高校やからなぁ。え、見張り番は違うん?」
「違う。違う。城の職員は一回遅刻したらアウト。すぐにクビだよ」
「マジ? ちょっと厳し過ぎない?」
「だよなぁ。俺もそう思う」
「それ誰が決めたん?」
「この城の王様」
「ひどい奴ねぇ」
「あ、王様の悪口は言うなよ。あの人は素晴らしい人だ」
「へぇ。どんな人なん?」
「そりゃお前、頭が良くて、人望があって、優しくて、非の打ち所のない人だよ」
「ふぅん。何か素晴らし過ぎて想像がつかない」
「お前も会ってみたら分かる」
「このお城に住んでるの?」
「そうだ。すごいお城だろ?」
「うん。確かにすごい。でもこの部屋は全然牢屋っぽくないやんな。一応ここって牢屋なんやろ?」
「ああ。まぁ、この城が建ったのは五年前だからな。建て替えたんだよ。その時、牢屋も近代的にスタイリッシュにしたんだよ」
 スタイリッシュったってイメージってもんがあるやろ。と思ったけど何も言わなかった。
「しかし、お前。いいなぁ。朝遅刻してもクビにならないなんて」
「まぁ、学生やからな」
「お前今何歳なの?」
「十七」
「あー、じゃ俺の二つ下だな」
「え、うそ。あなたまだ十九?」
 私は驚いた。だってどう見ても三十を越えてると思ってたから。
「あっ、失礼だな。これでもまだ未成年だよ。二年前まではお前と同じ高校生だったんだ」
「えー。見えない」
「はっきり言うなよ」
「ごめん、ごめん。じゃ高校出てすぐお城に就職したんや。大学は行く気なかったん?」
「ああ、家が貧乏だったからな。働くしかなかった」
「そうなんや」
 そういう場合もあるよなぁ。
 そう考えると私なんて恵まれてる。進路で悩める余裕があるんやから。余裕、なんて思ったの初めてやけど。ありがとう。お父さん、お母さん。
「でもなんで見張り番なん?」
「それはたまたま配属先がそうだっただけ。本当は兵隊の部署に行きたかったんだけどな。ほら、あそこはやっぱり体大卒とかスポーツ特待生とかが優遇されるから」
「へぇ、そういうもんなんや」
「うん。残念だけど。学歴社会だからなぁ」
 そう言った見張り番はめっちゃ悲しそうな顔をした。
「でも、ずるいよなぁ。あいつら別に体大で真面目に勉強してたわけじゃないんだぜ。スポーツ特待生だって怪しいもんだ。なのにその肩書きだけで自分の欲しいものを手に入れちまう」
「うーん。でも一応、大学入る時やスポーツで頑張ったから肩書きがあるんじゃないん?」
「まぁ、そりゃ一瞬は頑張っただろうけど。俺なんて頑張れる機会すら与えられなかったんだぜ」
「でもだからってこれから一生見張り番ってことはないやろ? これからその、兵隊になれる可能性やってあるんやろ?」
「まぁ、それは努力次第だろうな」
「じゃ今から頑張らないと」
 すると見張り番はクラブサンドの最後の一口を口に放り込んで、
「お前、いいこと言うね」
 なんて言って口をもぐもぐしていた。私はまだ食べきらないクラブサンドを齧りながら頷いた。
「お前、まだ十七なんだもんな。俺もまだ十九だけど」
「そうだよ」
「これから何にだってなれる」
 確かに。
 まだ何にでもなれる感じ。それはある。確かにある。
「あなたもいいこと言うやん」
「そうか?」
「うん。人生は輝いてる」
「お! いいな。万歳! 人生、万歳!」
「うん。人生、万歳! 私、万歳!」
 なぜか二人変なテンションになった。初対面やのに。囚人と見張り番やのに。
 私もクラブサンドを食べ終わり、喉が渇いたのでテーブルの上に置いていた桃ジュースを飲む。
 わっ、美味し。何だこのジュースは。桃の優しい果汁と風味のある微炭酸がほどよく混ざり合ってる。上品な味わいやないか。やはりあのコックさんはすごい。
「この桃ジュース、ここに来る途中、星屑鉄道で会ったコックさんにもらったの」
「そうか」
「めっちゃ美味しいわ。ね、ちょっと飲んでみる?」
「あ、うん」
 そう言って瓶を受け取る。
 でも見張り番は何故かぎこちない手付きで、それを見て私は思った。あ、こいつもしや間接キスを気にしてるな。
 ふぅー。まったく、近頃の女の子は誰もそんなん気にしてないのに。ウブやねんな。多分。彼女とかいなさそうやもんなぁ、また失礼やけど。
 見張り番はちょっと頬を赤くして桃ジュースを飲む。身体が大きいから瓶がだいぶ小さく見えた。
「美味い」
「ね、美味しいやろ」
「うん。俺、桃好き」
「その身体で桃好きって」
 私は笑うと、
「うるさい。バカにするな」
 なんてちょっと怒った。
「ごめん、ごめん。私も桃好きよ」
「そうか。てかお前、これからどうする気なんだ?」
「どうするって。そりゃ帰るわよ。お母さん心配してるやろし。お父さんやって怒ったら怖いのよぉ。滅多に怒らないけど、今回は無断外泊やからなぁ。さすがに怒るかも」
「そうか」
「それに帰って彼氏にも会いたいしね」
「彼氏がいるのか?」
「うん」
 見張り番は少し傷ついた顔をした。
 あ、さっきの間接キスでちょっとその気になってた?
 ごめん。私そういうの鈍感で。でもね、女の子はみんなけっこう意識せずそういうことしちゃうのよ。言わないけどさ、何も。
「あなたより一つ年上。私の三つ上やねん」
「そうか」
 歳上ってことでまた少しヘコんでる。何か劣等感を感じたんやろう。私、別に悪気なく言ったんやけど。
「会いたいか? 彼氏」
「うん、会いたい」
「分かった。じゃもういいよ。ここからお前を逃がす」
「えっ、いいん?」
「良くはないけど。もういい。お前いい奴だし。不法入国なんてしなさそうだし。ちゃんと家に帰った方がいい」
 見張り番は私の目を見ないでそう言った。
「ありがとう」
「じゃ行くか」
「えっ、いきなり?」
「何だよ。早く帰りたいんじゃないのか?」
「そりゃそうやけど。大丈夫なん?」
「ああ、今ちょうど職員は昼の休憩に入る時間だからみんな食堂に集まる。逃げるなら今だ」
 見張り番はそう言って私に腕時計の時間を見せた。十二時十二分やった。
「そっか。よし、じゃ行こう」
 私達は辺りを気にしながら牢屋を出た。
「こっちだ」
 私は頷き、見張り番の背中を追った。
 同じような牢屋、外から見たら普通の部屋に見えるけど、が並んでいるところを抜けると大きな長い廊下に出た。両サイドには槍と盾を持った甲冑がいくつも並んでいて、その後ろはステンドグラスやった。いかにも中世のお城って感じ。とても築五年とは思えない。てか、ここはこんな感じなんやな。スタイリッシュとか気にせずに。
 昼休みだからかほんとに誰もいない。こんな広いお城に誰も人がいないというのは不思議な光景で、私は何だかゲームの世界に迷い込んだような気持ちになった。FFみたいな。
 FF。懐かしー。昔よくやったなぁ。でも私めっちゃ下手で、下手っていうか根気がないのか、一つも全クリできなかった。ⅦからⅩまで全部やったけど全部挫折した。Ⅶなんて酷くて、最初のディスクでやめてしまった。何故だか分からないが、どこに行けばいいのか分からなくなって迷子になってしまったのだ。で、やめた。あれはけっきょく務が全クリしたんかな? 務は意外とそういうの真面目にやるタイプやったし。まだ家にあるんかな? 帰ったら久しぶりにやってみようかな。今度は投げ出さないで最後までやるぞ、なんて思ってた。
 長い廊下を抜けると分かれ道があった。
「ここを左に曲がってまっすぐ行けばすぐに裏口に出る。もう少しだ」
 けっこう走ったから見張り番は少し息を切らしていた。私はそうでもなかったんやけど。てか見張り番は「もう少しだ頑張れ」的なニュアンスで話すけど、私的には「あ、もう着くんだ」という感じやった。星屑鉄道のドアの方がずっとキツかった。
「分かった。行こう」
 私がそう言った時、急に見張り番の顔が曇った。私の後ろ、走ってきた方向を見ている。
 振り向くと鎧を着た細長い男がにやにや笑って立っていた。剣を持っている。抜いている。
 蛇みたいな男やった。私の大嫌いな蛇。
 私は一目でその男に恐怖を抱いた。
「ねぇ、何あいつ?」
「最悪なやつに会ってしまったな」
「何? 何なの?」
 蛇男はどんどん近づいてくる。
 見張り番は私を自分の後ろにやった。
「何の用だ?」
「何の用やと? こっちの台詞やボケ。お前、その罪人をどうする気やねん?」
 蛇男は剣を床に擦ってぎりぎり言わせながら近づいてくる。
 てか、え、蛇男めっちゃ関西弁やん。同郷かよ。
「お前には関係ないだろ」
「大ありやね。お前の行為は職務違反やろ?」
 そう言って蛇男は見張り番と私に剣を向けた。
「ね、何あいつ? なんかヤバそうやん」
「あいつは守護兵隊だよ。俺と同期なんだ。体大卒のエリートだ。まずい奴に見つかった」
「マジで? ね、走って逃げようよ」
「無理だな。逃げたってすぐに追いつかれる」
「でも、じゃどうすんのよ?」
 見張り番の額から汗が流れてる。ほんまにヤバい奴なんやろう。
「職務違反にはお仕置きが必要やなぁ」
 蛇男はにやにやしながら近づいてくる。剣を床に擦る音が耳障りで、ぞっとした。
「闘うしかないな。お前は一人で逃げろ」
「え、大丈夫なん? 勝てんの?」
「分からない。でも助かる方法はそれしかない」
「一緒に逃げようよ。もしかしたら逃げ切れるかもしれないやん」
「無理だ。お前を守りながら闘って勝てる相手じゃない。行け」
「何ごちゃごちゃ話してんねん!」
 きぃぃぃん!
 蛇男が切り掛かってきた。見張り番の槍がそれを受ける。
 蛇男はそんなに体格がいいわけでもないのに大男の見張り番と力で渡り合ってる。こいつ、強い。
「早く行け!」
「でも……」
「今しかないぞ! 家に帰りたいんだろ? 行け! ここは俺がどうにかする!」
 声を張り上げる見張り番の向こうから蛇男の爬虫類のような視線が私に纏わりつく。私はそれを睨む。そして覚悟を決めた。
「ありがとう! 絶対負けないで!」
「おう! 任せとけ!」
 それで私は走った。
 一度も振り向かずに走った。
 頑張れ。見張り番。
 頑張れ。蛇男なんかに負けるな。
 そして頑張れ。私。
 うん、頑張ってる。けっこう頑張ってるよ。体育の授業でだってこんな真剣に走ったことない。
 廊下はさっきよりは狭く、窓から星屑鉄道の大きな駅が見えた。広場の噴水が見えた。
 途中、何人かの使用人とすれ違った。でもこの人達は蛇男みたいに凶悪な人ではなくて、走ってる私のことを不思議そうな目で見るだけやった。
 しかし、随分走ってる。
 あれ? 確か見張り番は「すぐに裏口がある」って言ってなかったっけ?
 そこで私はハッとした。
 見張り番の言葉を思い出す。「すぐに裏口がある」の少し前。うーん。「ここを左に曲がってまっすぐ行けば」って言ってた。うん、確かに言ってた。ってちょっと待って。分かれ道、私が走ってきたのは……
 右だ。
 私はぞっとした。焦って間違えたのだ。最悪。最悪過ぎる。これは。いやいや、どうすんのよ。今から戻って左に行く? いやー、キツいキツい。あの二人まだ闘ってるやろし。そんなとこにひょっこり戻れるわけがない。うわー、どないしよー。そんなことを考えながらも仕方がないから走ってる。
 だいたい昔から私にはそういうそそっかしいところがある。テストの時、時間が足りなくなりそうで焦って簡単な計算を間違えたりとか、よく確認しないで体操服裏向きに着ちゃったりとか。
 そんなんやからFFもクリアできないのよ。
 そんなこと言ったって仕方ないやん。殺されるかもしれなかったんやから。
 それにしても右と左を間違えないやろ、普通。見張り番に謝りなさいよ。死んで詫びなさい。
 何よ、そこまで言わなくてもいいやん。バカ。
 なんて意味不明の自分同士内面喧嘩をしていたら、大きく立派な扉が目の前に現れた。廊下はここで終わってる。
 うわー。完全にやらかした。
 ここ、絶対裏口ちゃうやん。
 裏口って言ったら普通木造造りのちゃちな扉やと思うんやけど、それ私のイメージやけど、今私の目の前にある扉はそんなんじゃなくて両開きで、何だか高価そうな装飾が施してある。ドアの取っ手のとこ、ライオンやし。これが裏口やったら私、マジで設計した人のセンスを疑うわー。まぁ、でもここが裏口な可能性は万に一つもない。だって私が走ったのは他でもない右やから。
 しかしどうしよう。
 考えたけど、どうしようもこうしようもどうしようもない。
 てか私、もう詰んでるくない?
 後には戻れないし、廊下に窓はあるけど、外はまだビル四階分くらいの高さがあって、落ちたら確実に死ぬ。逃げられそうにない。残る選択肢はこのドアを開けることしかなかった。
 でもさぁ。こんな立派な扉、多分偉い人の部屋よね。広そうやし。ううっ、生きて帰れる気がしない。どんよりした気持ちになる。
 見張り番、ありがとう。あんためっちゃ良い奴やった。ごめんね。原因は百パーセント私にあるわ。私が右と左を間違えるようなバカだったから。ほんとごめん。
 扉の取っ手に手をかけるも、なかなか開ける決意が固まらない。緊張感が半端ない。蛇男の顔が頭から消えない。あの男を見てしまったばっかりに、城への恐怖が以前より増してる。
 しかし、いつまでもこんなところで立ち止まっていても仕方がない。えーい。女は度胸。なるようになれ、と思い、私は扉を開けた。
 すると、予想通りの広い部屋。ペルシャ絨毯が全面に引かれ、木漏れ日でカーテンの高そうなレースがきらきら綺麗やった。奥にはベールのかかった大きなベッドが一つあり、その前に女が二人立っていた。
 私は目を疑った。
「絵里ちゃんと優子ちゃん?」
 そこにいるのは紛れもなく絵里ちゃんと優子ちゃんだった。世界史の教科書で見たみたいな民族衣装を着ている。
 見慣れた顔を見て私は安心した。
「なんだー。二人もこのお城に来てたんや。良かった良かった。大変やったんやで、私。幽閉されたりして。二人が来てるんやったら連絡すれば良かった。あ、でも私携帯持ってないんやった。ははは」
 なんて笑ってみるも、二人とも怖いくらい無表情やった。さすがの私も違和感を感じる。
「な、何か言ってよ……」
 私が弱々しく言う。すると、絵里ちゃんが怖い顔をしてこっちに歩いてくる。
「誰だお前は? ここで何をしてる?」
「誰って私よ。薫よ。何言ってるのよ、絵里ちゃん」
「お前のような女、私は知らん。何者だ? 返答によってはただでは済まさぬぞ」
 そう言って絵里ちゃんは民族衣装の中から仕込みナイフを素早く取り出して私に向けた。
「ちょっと、ちょっと待ってよ! どうしちゃったのよ? ね、優子ちゃんからも言ってやってよ。絵里ちゃん何かおかしいって」
 優子ちゃんは大きなベッドの側に立って、焦っている私を冷めた目で見てた。
「私もお前なんて知らん。静かにしろ。ここを何処だと心得る」
「優子ちゃん……」
 声は紛れもなく優子ちゃんなんやけど、口調がいつもと違った。「マジ薫ちゃんって天然やね」とか「薫ちゃん明日は遅刻したらあかんよ」とか言ってちょっとだけ笑う優子ちゃん。その名の通り優しい子、優子ちゃん。しかし今目の前にいる優子ちゃんはキッとした目で私を睨んでいる。怖い。
「もう一度聞く」
 絵里ちゃんがそう言ってナイフを突きつけたまま私に近づいてくる。絵里ちゃんはもともとちょっとキツめの顔やから、優子ちゃん以上に迫力があった。
「ここで何をしている?」
「知らないわよ。やめてよ」
 私はそう言って後ろに下がるが、絵里ちゃんは私との間を離さず詰め寄ってきて、じりじりと私を壁に追いやってくる。
「知らないわけがないだろ。嘘をつくな」
 ナイフの切っ先が鋭い。絵里ちゃん、私のことほんとに刺すつもりなんかな。あんなに仲良かったのに。スタバとかマクドとか、めっちゃ行ったのに。なんで。なんでよ。首筋から背中にブラジャーのホックのあたりをかすめて冷たい汗が流れていく。壁が後ろに迫っている。絵里ちゃんとナイフも迫ってくる。私は恐怖で声が出なくなった。
 その時だった。
「やめとけよ」
 その声を聞いて絵里ちゃんのナイフがピタっと止まる。私は最初、その声がどこから聞こえたのか分からなかった。
「そいつは悪い奴じゃないよ」
 今度ははっきりと分かった。声はベールに包まれたベッドの中からだった。絵里ちゃんと優子ちゃんもベッドの方を見る。
「しかし、王様……」
 優子ちゃんがベッドの中に向けて言う。
「王様?」
 王様ってこの城の王様? 多分そうなんやろう。別の城の王様がベッドで寝てるなんておかしい。王様。あの遅刻を許さない王様。頭が良くて、人望があって、優しくて、非の打ち所のない王様。が、ベッドの中にいる。そして何故か私を助けてくれている。
 王様なんて言うからもっとおじさんなのかと思ってたけど、意外と声が若い。てかこの声、どっかで聞いたことがあるような気が。
「構わない。私は何も問題ないよ」
 そう言って王様がベールをかき分けてベッドから出てくる。
 その姿を見て私は驚いた。
 長めのウエーブした髪。すらっとした長身。
「サリ……」
 王様と呼ばれるその男はサリやった。
 古代ローマみたいな、ヘラクレス的な服を着ていた。それがまた天パの髪型とマッチしていて妙にそれっぽかった。
「サリ!」
 私はもう一度呼んだ。
 するといきなり絵里ちゃんが私の胸ぐらを掴んだ。
「貴様! 王様に向かって失礼だぞ!」
 これには私も腹が立った。
「うるさいわね! 王様だかなんだか知らないけど、私の彼氏なんやから何て呼ぼうか私の勝手でしょ!」
 絵里ちゃんの腕を無理やり振りほどいた。そしたら絵里ちゃんは華奢で、後ろに転んであっさり尻餅をついてしまった。強がってるけど、やっぱり私の知ってる絵里ちゃんなのだ。
「あ、ごめん」
「貴様!」
 転んでしまった絵里ちゃんを起こそうとしたら、今度は優子ちゃんが怒った。民族衣装から何かを取り出そうとしたけど、サリがそっとそれを止めた。
「大丈夫だ。二人ともそう怒るな。こいつは悪い奴じゃない」
 こいつ。
 こいつやって。そんなふうに呼ばれたことないのに。いや、まぁでも悪くないかも。「こいつ、俺の彼女」的な。大学の友達とかに紹介してもらったりして。
 絵里ちゃんはまだ納得のいかないようで、私が差し出した手を乱暴に振り払った。
「お前達二人、そろそろ予備校の時間だろ? もう下がっていいぞ」
「でも、王様」
「私は少しこいつと話がしたい」
「いけません! こんな得体の知れない女を王様と二人になんてできません!」
 優子ちゃんが大きな声を出す。多分私が今まで聞いた優子ちゃんの声の中で一番大きな声やった。
「大丈夫だ。下がってくれ」
 そう言ってサリは優子ちゃんの頭を優しく撫でた。それで優子ちゃんはちょっとしゅんとした顔をして、まだ怒りの収まらない絵里ちゃんと一緒に部屋を出て行った。
 いやいや、ちょっと待て。
 突っ込みどころが多過ぎる。
 まず二人ともやっぱり予備校行ってるんかーい。こんな異国で予備校って何? 河合塾? 駿台? 東進ハイスクール? てか場所的に何校よ? まぁ、それはいいとして、得体の知れないって何よ。私はエイリアンか! 怪獣か! ビオランテか! いや、それより何よりサリ、なんで優子ちゃんの頭撫でてんのよ。信じらんない。それは私の、彼女だけの特権やろ? バカ。マジでバカ。嫉妬だよ、これ。悪いかバカ。
 二人が出て行き、部屋には私とサリ二人だけになった。広い部屋。壁が厚いのか、外の音も全然聞こえなくて静かやった。
「さて」
「何よ?」
 私は苛立ちを隠さない声を出した。
「お前はさっきから私をサリと呼ぶが、いったいサリとは何なんだ?」
「あなたの名前よ。あなたはサリでしょ。私の彼氏。なのに優子ちゃんの頭撫でたりして」
「彼氏?」
「そうよ。恋人じゃない」
 そう言うとサリは少しキョトンとした顔をして、
「そっか」
 と笑った。
 何だ。やっぱりサリやん。
「何よ王様って」
「王様は王様だよ。俺はこの国の王様だ」
「わけ分かんない」
「だろうな。よくここまで来たな。いろいろ大変だっただろ?」
「大変だったよー。てか、何? 私がいろいろ大変だったこと知ってるの?」
「うん、全部知ってるよ」
「いつから?」
「星屑鉄道からかな」
「何よ。知ってたんなら助けてよ。ほんまに大変やってんから」
 私は膨れた。
「ごめんな。でも助けることはできなかったんだ。許してくれ」
「まぁ、今となってはもういいけどさ。ね、サリ。私家に帰りたい」
「うん」
「夢なんでしょ。これは全部」
 そう言うとサリが一瞬ハッとした顔をした。でもすぐ元に戻って少し笑った。
「うん、そうだ。これは全部夢だよ」
「やっぱそうか。おかしいと思ったのよねー。途中から何となくそうかなって思ってたんやけど、自信が持てなくて。たとえ夢でも死ぬのは怖いし、無断外泊で怒られるのも怖い。それに夢でも友達にナイフを突きつけられたのはショックやったよ」
「うん」
「まぁ、何にせよサリに会えて良かった」
「そっか」
 そこでまた「そっか」かよー。なんて思ったその時、パァンと、突然扉が乱雑に開いた。
「あ……」
 そこにいたのはあの蛇男やった。
 こっちを見てにやにやと笑ってる。
「追いついたでぇ。まさかこんなとこに逃げこんでたとはな」
 恐怖が身体を縛った。動けなかった。
 まさか追いかけてくるなんて。ヤバい。こいつはやっぱりヤバい。
 でも待って、じゃ見張り番は?
 あいつと闘ってたはずじゃない。
「あ、あんた、見張り番をどうしたのよ!」
 私は震える声で叫んだ。
「あぁ、あいつか」
 そう言って蛇男は片手に持っていた槍を私の前に放り投げた。見張り番の槍だった。クラブサンドを切ってくれた槍。切っ先が欠けて、全体が少し曲がっていた。
「ほんまバカな奴やで。見張り番のくせに情に流されやがって。普通に働いてたらええのに。生意気やねん」
「まさか……殺したの?」
「安心せえや。お前もすぐ向こうに送ったる」
「ふざけんなっ!」
 私は怒鳴った。
 蛇男はにやにやしながら剣を床に擦って近づいてくる。
 いつの間にか恐怖は消え、身体の中は怒りでいっぱいになっていた。許せない。絶対許せない。でも私では蛇男には勝てない。あんな大きな見張り番を倒すくらいの奴なんやから。と、いうことは現実的に私もここで蛇男に殺されるということになる。それがたまらなく悔しかった。
 泣きそうやった。てかちょっとだけ泣いてた。
 すると、
「大丈夫だよ」
 と言ってサリが私の肩に手を置いた。
 私はハッとした。
「あいつを憎め。お前が嫌いなものなんて、とことん憎んでしまえばいい。お前は自由だ。どこにだって行けるし何だってできる。正直に生きればいい」
「サリ……」
 振り向くとサリは優しく笑っていた。
 そして私はにやにやと歩み寄る蛇男を睨んだ。キッと。憎しみを目一杯込めて。
 すると突然大きな地震が起きた。いや、地震とは少し違う。私自身は何も揺れを感じなかった。周りの世界だけが揺れていた。部屋に飾ってあった甲冑が倒れ、窓ガラスが割れた。
「な、なんやねん。これ」
 蛇男は激しい揺れに立っていられないようで、膝をついてしまっていた。
 それでも私はなおも蛇男憎む。
 揺れはどんどん激しくなった。壁がはがれ落ち、ランプが音を立てて砕ける。
 床が裂け、その間に蛇男が落ちた。蛇男は断崖に手を掛けたけど、激しい揺れに身体を支えていられなくなり、やがて不気味な絶叫とともに床の裂け目へ落ちていった。
 蛇男がいなくなってもなおも揺れはおさまらない。お城が崩れていく。世界が壊れていく。
「サリ、これって……」
「うん。どうやらお別れが近いようだな」
「え? そうなん?」
「夢の中でこれは夢だって口に出してしまうと世界は壊れてしまうんだ」
「マジで?」
 だからあの時、見張り番は私の口を塞いだのか。
「てか壊れるって、サリはどうなるの?」
「俺は大丈夫だよ。お前に愛されてるから消えない」
 自分で言うな。バカ。
「絵里ちゃんも優子ちゃんも消えない。多分見張り番も、大丈夫なはずだ」
「良かった」
 いつの間にかお城は完全に崩れていた。崩れた残骸はすぐに煙になって消え、星屑鉄道の駅もなくなっていた。残ったのはただ真っ白な世界やった。そこにサリと私だけがいる。
「てか、よく頑張ったなー」
「ほんまやで」
「現実でもこれくらい頑張らないと」
「確かに」
 そう言って笑った時、サリの色が少しずつ薄くなっているのに気づいた。
「サリ、消えちゃうん?」
「だから俺は大丈夫だって」
「でも色が薄くなってる」
「ちょっと眠るだけだよ」
「何それ。よく分かんない」
「また会おう」
「え、絶対やで」
「当たり前だろ」
「うん」
「じゃあな、薫」
「うん、バイバイ」
 手を振った。
 てかやっと最後、私のこと薫って呼んだなー。
 そんなこと思っている間に世界は消えた。


 時計の針の音がする。
 コツコツと。
 淡々と。
 この時計は私が小学生の頃からこの部屋の壁にかけてある時計で、赤い丸縁、ミッキーマウスが真ん中に立っていて、その右腕が長針、左腕が短針になっていた。
 真っ暗な部屋の中、私はロングコートを羽織ったままベッドに寝そべっていた。
 髪の毛をかきあげて身体を起こす。いまいち頭が覚醒しない。
 なんやったんやろ。今の。
 変な夢やった。よくよく考えるとおかしなところがもっとたくさん見つけられそうやったけど、考えるのが面倒でやめた。
 てか喉渇いた。
 私は鞄からバイトの休憩時間に飲んでいたペットボトルの水を出して飲んだ。ぬるくって、美味しくなかった。あの桃ジュースが飲みたいなぁ。うん、あれは美味しかった。あのコックさんはほんと素晴らしかった。
 携帯を見ると午前一時半。四時間前にお母さんからご飯できてるよ、とメールが来ていた。四時間前って私どんだけ熟睡してたんだ。お腹がすいていた。くぅー、と鳴ってしまいそうな感じ。胃の中が空っぽな感じ。でも肉じゃがなんよなぁ、確か今夜は。肉じゃがはあんまりやな。何かもっとジャンクな、カップヌードルとか食べたい。シーフードの。お母さんには悪いけど。
 カーテンを開けると月明かりがすーっと入ってきて、外には驚くほどいつも通りの世界があった。
 あっちの世界のサリはあの後どうなったんかなー。ちょっと眠る、とかわけ分からんこと言ってたけど。眠るって何よ。色が薄くなってって消えちゃいそうになってるくせして。あれ、まさかほんまに消えちゃってないやんな? よく雪山系で起こる「私、なんか眠くなってきた……」「ダメだ! 寝るな! 寝たら死ぬぞ!」的な流れで。それやったら引っ叩いてでも起こすべきやったなぁ。うーん。いや、でも何か「お前に愛されてるから消えない」とか言ってたな。自信満々に。それやったら、まぁ、多分大丈夫やろ。
 こっちのサリはどうしてるんかな。
 これくらいの時間なら、ちょうどバイト終わったくらいの時間かな。
 こっちのとかあっちのとか別にして、私は夢でサリに会ったから、今、胸の中でサリの存在がいつも以上に浮き上がってる。そういえば眠りに落ちる前もサリのことを考えてた気がする。しばらく会えないとか言われて。
 会いたいなぁ。
 次いつ会えるかな。
 てか、今すぐ会いたいな。
 遠くの方で猫が喧嘩してる声がした。それが終わるとまた静かな夜で、痛みのない甘ったるい空気が世界を包んでいた。何があっても壊れない世界。消えない世界。そして今日という夜。
 何かが私の胸を打った。
 今すぐ会いたい。
 私は鞄の中からキーケースだけを取ってロングコートのポケットに入れて部屋を出た。
 眠っている家族を、温められずに鍋の中にいる肉じゃがを、ベッドの上の温もりを、ミッキーマウスの腕が示す午前一時半を、その他もろもろを置き去りにして、私は春の夜に飛び出した。
 自転車にまたがった時にサリに電話をかける。出ない。えーい。それでもいいや。私は携帯をポケットに入れて、サリのバイト先を目指して走り出す。
 いつも二人で歩く街並みを秒速で走り抜ける。大事にしていた景色とかよりも、大切なものが今はあった。
 信号で止まって携帯を見ると、サリから折り返しが入っていた。私はすぐ掛け直したけど、またサリは出ない。信号が変わったので先を急ぐ。
 スピードを上げると頬に当たる風が冷たかった。私は構わず全力で自転車を漕ぐ。
 近道で公園の散歩道を通った。よく遅刻しそうな時に通る道だ。
 散歩道の両サイドに立つ街路樹は街灯の灯りを受けて風に揺れているから、万華鏡の中を走っているような気持ちになった。全力で走っているから身体はどんどん暑くなっているのに相変わらず風は冷たい。外気と内面の温度差が激しく、不思議な感じやった。
 ふと私は、今年の冬の出来事を思い出す。
 寒い日が続いたが、雪はなかなか降らなかった。サリは北国育ちやから雪が好きで、降らないなぁ、降らないなぁ、と毎日言っていた。
 で、ある日やっと雪が降った日の夕方、サリから電話がかかってきた。
「降ったな、雪」
 サリの声は興奮気味で、こんなに寒いのに外にいるみたいやった。
「降ってるね」
 私は二月生まれやのに寒いのが嫌いで、学校帰り、ぐるぐるに巻いたスヌードも外さないでリビングの炬燵で丸くなっていた。
「積もるかな?」
「いやぁ、積もりはしないんちゃう」
 寝転んだまま窓の外を見た感じ、ほんとにそう思ったのだ。
「そうだよな。この感じは」
「外、寒くないの?」
「そりゃ寒いよ」
「じゃ中入ったら? 何してんの?」
「別に。ベランダから雪を見てるだけ」
「何それ。風邪引くよ」
「うん。懐かしくってさ、雪」
「ほどほどにしなよ」
「うん」
 それでしばらくどうでもいい話をしたあと、電話を切った。
 そんな今年の冬の話。
 その時、私は炬燵の中、サリは雪の中、なんか真逆やなぁ。なんて思った。ただそれだけやけど。何のオチもないけど。
 そんなことをなぜか今思い出した。
 公園を抜けた時、ポケットの中で携帯が震えていることに気づいた。でも取り出した瞬間に切れた。すぐに折り返すと、今度はワンコールでサリが出た。
「入れ違ったな。どうした? こんな時間に」
「うん、サリ今どこ?」
「バイトから帰ってる途中だけど」
「だからどこよ。場所。私今、サリのバイト先に向かってる途中なの」
「えっ、大丈夫なのかよこんな時間に。門限は?」
「くだらないこと聞かないでよー。ね、どこなん?」
「ん、今ちょうど薫の高校の前くらい」
 高校ならここからすぐだ。
「ちょっと待ってて。そこにいて」
 私はそれだけ言ってまた自転車を走らせた。
 高校までは多分、二分くらいで着く。
 全力でペダルを漕いだ。
 それにしても、さっきから心が、時間が一秒一秒過ぎる度に心が軋む。風が冷たい。「今」が少しずつ消えて行くのが分かる。まるであの日の雪みたい。積もらないで消えていく。だから、とにかく早く会いたくて。
 高校に着いて思ったんやけど、高校と言えど外周は広い。まったく、高校の前くらいってどこの前のことよ。ってよく聞かずに電話を切ったのは私なんやけど。
 自転車を降りて、再びサリに電話をかける。すぐに出た。
「高校の前ってどこらへん?」
 電話口でそう聞いた瞬間、ちょっと先のとこ、サリが原付のシートに座って上を見ているのを見つけた。頭上には桜、満開やった。
「よぉ」
 サリが私に気づいて片手をあげる。何故か眼鏡を掛けていた。
「何で眼鏡なん?」
「ん、昨日寝不足でコンタクト入らんかった。バイトの後に大学の課題やってたから」
「そうなんや」
「綺麗だな、桜。通りかかったらめっちゃ咲いてた」
「ほんまやな」
 見上げると夜の闇をバックに桜の花びらが映えていた。
 映画みたいな、絵画みたいな。嘘みたいで、うっとりと。陶酔してしまうような。そんな美しさやった。
「私の席、あの教室の窓際やってん」
 私は遠くに見える校舎を指差す。
「どれだよ」
「三階の右から三番目」
「へぇ」
「校庭の体育がよく見えるの」
「そっか」
 出た、「そっか」。
「てか急にどうした? なんかあったの?」
「会いたかったの」
 私は「そっか」って言われる前にサリの胸元にパンチを入れた。もちろん本気じゃなくて、弱くやけど。
「何なんだよ」
「怖い夢を見たの」
「へぇ。どんな?」
「うーんと、蛇に襲われる夢」
「蛇か。でも蛇が出る夢って縁起が良いんだぞ」
「そうなん?」
「うん。で、最後蛇はどうなったの?」
「えーと、何か床の裂け目に落ちてった」
「シチュエーションが読めねぇ」
 そう言ってサリは笑った。
「サリも出てきたんやで」
「あ、そう。何してた?」
「何してたと言われると難しいなぁ。でも優しかったよ。私のこと助けてくれたし」
「なら良かったけど」
 笑った。二人して。
 風が吹いて夜桜が揺れる。花びらが少し舞う。そしてサリがここにいる。
 で、私は思った。
 めっちゃプラス思考で。
 基本的に輝いてるんじゃないかなぁ。未来なんてものは。だいたい。ただ、そうは思えない時やってこれからあるかもしれないけど。時は流れてく、どんどん大人になる。私もサリも。だから今って、刹那的な今って、すごく愛しい。
 やがて桜は散ると思う。
 でも私は今見てる桜の色を、匂いを、感じを、隣で微笑むサリを、ずっとずっと、決して忘れないでいたい。
 そう思う。思ってる。
 祈ってる。

prayer 下

執筆の狙い

作者
126.211.124.20

後半です。

コメント

市川春子
49.98.170.59

マツム@mecakushi1みんなツイッタやろ!\(^o^)/
→ 中村光@hikanaka1217 と、紀ノ目@manteauman にフォローを!

126.211.124.20

こうなったらもう終わりやね。

瀬尾辰治
49.98.90.227

羊さん、
ガタンゴトンと列車は進む。
そこまでは好みの書き方でしたから、そこまで読んでみました。

変な箇所は改行二つ目、
 車両は…………景色を見ていた。←この箇所です。
私は……。と書いてしまうと変ですよ。

冒頭で、
私は海を渡っていた。となっていて、改行ふたつ目はそれに関連することを書いていますよね。(みっつ目も、冒頭に関連したことですよね)
改行ふたつ目の、「、」←これらの語尾など。それに途中をちょっと書き直して、見ていた。←この語尾も直すと、違和感なく読めると思います。

60.135.195.146

瀬尾辰治様

ご感想ありがとうございます。
ご指摘の部分確認しました。
また次も読んでください。

60.135.195.146

ちなみにこれ以降で投稿している羊は私ではありません。私は小説しかあげません。あんなくだらないことはしません。

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