作家でごはん!鍛練場
三神 颯

いつものがいい

 僕の通う大学のそばには、行きつけの喫茶店がある。
 世界中の珈琲を揃えた、隠れ家のような店だ。本当にいいところだけど、あまり人には教えたくないから、初めて訪れたときの話をしよう。


 初めて此処を訪れたのは、高校二年生のときだった。その日は凄い吹雪で、一歩先も見えないような状態だった。なぜそんななか外へ出ていたのかは聞かないでほしい。
 せめて雪が止むまで何処かで時間を潰そうと、喫茶店かファミレスを探していた。去年この町へ越してきたばかりだから、土地勘なんて皆無に等しい。つまりは迷子になっていた。
 おそらく此処は駅前の通りなのだろうけど、現在地すらわからない。ポケットから手を出すのすら寒くて億劫だったから、地図アプリも開かずにいた。本当に北国の寒さをなめていた。
 そんなふうにイライラしてきたところで、ぽっと灯るあたたかい光りが視界に入った。もうこの際何の店でもいい。灯りに導かれ、扉をくぐった。
 ドアベルが小さく揺れて、ちりんちりんと音を鳴らした。
 「いらっしゃ~い」
店内に入ると、ぶっきらぼうな挨拶が飛んできた。店内は穏やかなアコギのBGMが流れ、数多の珈琲の豆袋がカウンターに並んでいた。それから、分厚い幾つかの謎の本。木目調のあたたかな内装に、どことなくほっとした。
 「…お客さん、随分雪被ってるねぇ。外は吹雪いているのかい?」
 「ええ、かなり」
 肩や頭に乗った雪を払い落とす。
 「この町でこんなに降るのは珍しいね」
 店主と思われる青年は“世良”と言った。
 偶然か、店内には僕以外に客がいなかった。いや、偶然ではない。この天気のなか外を彷徨く僕が可笑しい。
 「何がいい?パンケーキもあるよ。苦いのは好みかな?」
 店主はずかずかと聞いてきた。
 雪と寒さに疲れていた僕は、頭が働かなくて、「何でもいいです」と答えた。本当は香りのいい珈琲を楽しみたかったのかもしれない。でも、そのときは本当に疲れきっていたのだ。
 「なるほどね、なんでもか」
 顎に手を当てて、少し考えるような仕草をすると、ある一角の豆を数粒ずつ掬って、焙煎し出した。
 何してるんだこの人。
 とりあえず席に着く。
 しばらくして、出されたのは幾つかの豆をブレンドしたブラックだった。
 「ほいほい。何でも珈琲ですよ~」
 「何でも珈琲…」
 「そう」
 そして、彼は近くに積まれた分厚い本を手にして、何故か読みはじめた。
 客がいるのに。
 「ああそうだ。君の名前聞いてなかったや。ちなみに僕は“世良万里”。気軽に万里と呼びたまえ」
 「気兼ねる~…。あ、えっと、“楡祐”と言います」
 すーと珈琲を口にしていると、味がどんどん変わって、底に苦味が残った。
 顔をしかめていると、万里さんがニヤニヤしながら、本から顔を上げて、「それ、苦いでしょ~」とからかいはじめた。
 知ってたのか。本当に失礼な人だな。
 あからさまに不貞腐れたような顔をすると、何故か「まあまあ」となだめられた。
 「ね、祐くん。あんまり気軽に“なんでも”なんて言うんじゃないよ。苦いっしょそれ。自分で決めずに人任せにしてさ、後になって失敗したら誰かのせいにするのってずるくない?」
 「別に誰のせいにも…」
 「なにもね、今に限ったことじゃないんだよ。何のために人は自己決定権をもっているんだ」
 吹雪で疲れてるのも分かるけどさ、と付け加えられた。
 何故かそのときの万里さんの言葉が忘れられないでいる。心に響いたのだろうか。よくわからない。


 それからというもの、この喫茶店は行きつけだ。
 決まって頼むのは“いつもの”だ。味が変わるのが面白くて、すっかりこの苦味にはまってしまった。他の店のも試してみたけど、やっぱり世良さんが淹れる珈琲が一番いい。
 そんな僕をみて、彼女は羨ましそうに、「いつものがあるって幸せだね」と呟いた。

いつものがいい

執筆の狙い

作者 三神 颯
183.74.207.159

短いお話を書こうと思ったので。
表現したいことは、決めなければいけないことは、自分の力で決めてほしいということ。
男の子目線で書くのは初めてです。
よろしくお願いします。

コメント

山椒魚
106.166.192.119

こんにちは。
登場人物が雄弁で面白く読ませていただきました。
特に序盤。「なぜそんななか〜聞かないでほしい」の部分は不遜っぷりにニヤリとしました。
行動にもキチンと理由がありますし、不自然さはありません。

>>僕の通う大学のそばには、行きつけの喫茶店がある。
>>世界中の珈琲を揃えた、隠れ家のような店だ。本当にいいところだけど、あまり人には教えたくないから、初めて訪れたときの話をしよう

ここはちょっと気になります。一文一文が歯抜けになってる感じ。

1つは、世界中の珈琲を揃えていることと隠れ家のような店であることに論理的つながりがない点。
些細なことですが、一般に隠れ家的なお店というのはその立地や佇まいを評価する言葉ですから、珈琲の多彩さと同じ文で繋がれると、なんかギクシャクしてます。
それと「世界中の珈琲を揃えた」って表現は適切なんでしょうかね?
私は詳しいわけではありませんが大抵「世界中の豆を揃えた」って言わないでしょうか?
この点は自信がないです。

2つめは、人に教えたくないのに初めて入った時の話はしたいという矛盾
この書き方は書いてる側としては分からなくはないです(笑)


>>店主と思われる青年は“世良”と言った。

消し忘れでしょうか?
後に自己紹介しますし、主人公は万理さんと呼んでますし。この書き方をするときは大抵自己紹介を省くときに使うものかと思います。

三神 颯
183.74.205.44

コメントありがとうございます。

確かに言われてみると不自然ですね。珈琲は淹れる前までは豆なので、その方が正しいと思います。お店の事と珈琲の事は分けるべきでした。
矛盾しているとご指摘いただいた点については、何故その話をするに至ったかがあるとよかったですね。
 
 »店主と思われる青年は“世良”と言った。

 これは恐らく消し忘れです。
 拙いお話でしたが、読んでいただきありがとうございました。

藤光
119.104.11.63

読ませていただきました。

少し短いように思います。

物語を展開させようと店主にどんどんしゃべらせて、主人公が受け身に終始するところがものたりない。読者は、「この店主何者だろう」と思っているはずなので、主人公が店主からなにか引き出すような展開があってよいように思います。


>あんまり気軽に“なんでも”なんて言うんじゃないよ。
>何故かそのときの万里さんの言葉が忘れられないでいる。心に響いたのだろうか。よくわからない。

主人公にはわからなくても、わかる読者には分かるというのが、小説の妙味だと思いますが、「主人公が、なぜ『なんでも』といってしまったのか」「どうして店主の言葉が忘れられないのか」といった部分が、読者の前に提示されないので読者はおいてきぼりを食らっています。

書き込みが足りない。
キャラをめぐるエピソードが少ないので、作者さんが思うほど読者はこの小説に入り込んでこないように思えます。

三神 颯
183.74.204.11

コメントありがとうございます。

確かに、短くまとめてしまったので、「強引すぎたかな」とは思います。


主人公は控えめな子として書いたので、『受け身に終始』という展開にはご理解いただければ嬉しいです。でも、店主が何者か、という説明ぐらいはあってもいいですね。参考にさせていただきます。


そうですね、確かに読者さんをあまり意識できていなかったかもしれせん。人に読んでもらうという機会が今までなかったので、気がつきませんてした。
もう少し書き込んで、物語に入り込めるような小説を目指していこうと思います。

読んでいただきありがとうございました。

二月の丘
219.100.84.36

臨場感が皆無。

地吹雪のなか、喫茶店に辿り着いて、店内に入ったら「どうなる」かを、
最低限シミュレートして(リアルに想像して)情景を書いて。

そんでもって、ここの店の珈琲は、あんまりテキトーすぎて、ダメダメだ。

まず「何でいれてるのか」から、書かれてない。

ペーパードリップなのか、
ネルなのか、
いいとこのマシン使用なのか、
ナポレターナなのか、
フレンチプレスなのか・・


個人的に、珈琲好きなんで、
作者のそういう「ずさんさ」は白ける。


珈琲書くんであれば、真面目にしっかり書いて欲しいんだけども、
ここのサイトで「まともなカフェ〜喫茶店」には、ほぼお目にかかれない。

市川春子
49.98.170.59

マツム@mecakushi1みんなツイッタやろ!\(^o^)/
→ 中村光@hikanaka1217 と、紀ノ目@manteauman にフォローを!

三神 颯
183.74.205.53

コメントありがとうございます。

臨場感が皆無、ですか。
そうですね…想像力が足りなかったかもしれません。私自身が雪国育ちなので、情景描写はあっさりと描いてしまいました。お国柄って怖いですね。誰もが地吹雪に慣れた環境で生きてきた訳じゃないですもんね。

珈琲を何で淹れているかは、豆袋と沢山の本とで隠れて見えなくなっているんですよ。主人公は雪で疲れていますから、そんなこと考える暇もないはずです。カウンターに並んでいますから。まあ、視点の問題なんですけどね。

確かに珈琲については勉強不足ですね…。これでは珈琲好きの方から反感を買いかねないかもしれません。リアリティ、努力してみます。

読んでいただきありがとうございました。

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