作家でごはん!鍛練場
千年四季

SKILLmagic記憶を無くした俺がVRワールドの救世主⁉

本文


「……オオォ」

 迷宮にて。

 弱々しい呻き声と共に粉塵を巻き上げて、倒れ込む大型モンスター。

「嘘でしょ? たったひとり一人で……」

 驚愕の声が出るのも無理はない。
 目の前の大型モンスターはLv99+S。

 『Lv99+S』その数字はこのゲームでは最強クラスの強さをほこり、数人では万に一つも勝ち目がないとされている。
 それをこの赤髪の男性プレイヤーはたった一人で倒してしまったのだ。

「……まさか!?」

 想像を絶する光景を目撃した女性プレイヤーは呆気にとられている。
 男性プレイヤーは苦笑し頭をふる。

「とりあえず、この迷宮の先に何かあるんだろ? 死に戻るようなことがなくて良かったじゃないか」

 まだ半信半疑の女性プレイヤーだが、男性プレイヤーは「話は終わりだ」とばかりにオプションから、ログアウトを選択する。



 迷宮から姿が消える男性プレイヤー。



 消えた後も女性プレイヤーはその場から動けずにいた。



「あれが…… 無敗の双剣王」







※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



 

 瞼を上げるとぼやけている視界。

 しかしカーテンの隙間からもれる朝日によって視界がはっきりとし始める。

「夢か……」

 先程の夢を想起し俺、白井(しらい)裕翔(ゆうと)は、頭を掻く。

 一度も見たことがないあの光景。
 だが、俺は何故かあの光景を知っていた。

 あれは『SKILLmagic(スキルマジック)』

 VRシステム『DiveRoom(ダイブルーム)』保持者の7割以上の人々がこのゲームをプレイしてる大人気MMORPGだ。



 ーー数年前まで偶像の存在だったVRシステム。

 それがもうこんなにも身近なものになっていた。

 俺は視線を横に流す。

 視線の先には埃をかぶったダイブルーム。



 技術革命(レボ・テクノロジー)は今までの全てを否定した。

 ぼんやりとダイブルームを見ていると突然、扉が空いた。 

「お兄ちゃん? ご飯出来てるよ」

「……ノックしろよ。着替えてるかも知れないだろ」



「っ!? 呼びに来てあげたんだから感謝しなさいよ! そ……それを!」

 耳まで真っ赤にして激昂する16歳の現役女子高生は俺のたった一人の妹 白井(しらい) 沙織(さおり)だ。

「(朝方から元気なやつだ)」

 布団から起き上がり、沙織を見る。


「あ! 今馬鹿にしたでしょ!」

 ーーこういうときだけ勘が良いいんだよな、コイツ。

「おはよう、沙織」

 背伸びをしながら部屋出口へと歩を進める。



 急にバランスを崩す。原因は直ぐに分かった。 


 重心破壊者(バランスブレイカー)。

 ……もとい、バナナの皮。
 勢いよく転んでしまう。



「イテテ……」



 頭を多少打撲したようだが大事には至らなかったようだ。


 柔らかい床だな……。

 おかげで怪我をせずにすんだのかもしれない。

「きゃっ……!? ななっ……」

「どうかしたのか?」

 顔を上げる。



 俺は事態を把握し、声にならない悲鳴を上げた。



 大事故だ!!



 俺が柔らかい床だと思っていたのは……俺が揉みしだいていたものは……。

 実の妹の胸ーー。

 まだ発展途上でまだまだ幼げで主張が控えめであるが、とても柔らかい。制服越しでも伝わってくる沙織の体温。

 天国か地獄。どっちに行くのかなぁ。

「ば……馬鹿あああああああ!」

 俺の右の頬は沙織の甲高い悲鳴と共に強烈なビンタを受けた。





 **************



 

「イッテ」

 右の頬を優しくさする。が、痛い。

 あの後、金属バットを引っ張り出した沙織に戦慄し家を飛び出してきた。現在進行中の目的は沙織の大好物、『唐揚げ様』を購入するべく『ラーソン』に向かっている途中だ。

 ドローンに頼んでも良いのだが、こういうのは品物ではなく誠意を込めることが大事だと考えたためだが、こんな夏の日に誰も外に出ないのか、ドローンだけが空を飛び交う状況になってる。



 ここ数年で色々な事が変化した。



 技術革新(レボ・テクノロジー)。

 2037年、日本は急激に科学技術、通信技術等が発達した。

 その影響により、AI搭載のロボット『RORO』が急速に普及。タイプは様々。

 例えば、『ドローンタイプ』持ち主の要望の品を自動で配達、配送する事が出来る。

 『人型タイプ』コンビニ、工場等で、24時間働いたり、接客などを可能とする。



 自動ドアが開き冷房のきいた店内に入る。

『いらっしゃいませ』

 聞き慣れた、まさに機械的な声で出迎えてくれる。

「唐揚げ様、北海道チーズ味1つ」

『承りました』



 目の前に3Dの液晶が現れる。



 ラーソン

 唐揚げ様北海道チーズ味×1

 お会計218G



 宜しいですか?

 yes no 



 俺は『yes』を選択。

 これで買い物は終了。数年前までの硬貨は現在では仮想通貨となり、自動引き落とし。

 高校も変わった。単位制になったのだ。

 俺は現在17歳。普通に単位を取得し、普通に進級しているなら高校2年生だが、もう既に卒業できる単位を取得し終えている。
 卒業後は大学に進学する予定。仕事を行う労働者が、人からロボットに代わりつつあるこの時代。

 だからこそ、大学を卒業した後、仕事に就職する事にこそ意味があると俺は考える。

 もう指示されたことを只するだけの時代は幕を閉じた。これからは、自分で考えて行動する思考能力と行動能力が仕事場では必要不可欠となり始める。
 そんな自分の能力が問われる仕事場は憧れを抱くに値する存在だ。

 まあ、確かに現在導入されている生活支給制度や、俺らの両親が残した莫大な財産により仕事をする必要は殆ど無いに等しいのだが。しかしいくら多いといっても無限ではない。せめて、沙織だけには不自由なく過ごしてほしい。

 空を見上げると数十機のドローンが目的地へと飛んでゆく。

 俺は特に意味もなく小さなため息をついた。


     ✻✻✻✻✻✻
本文

「ただいま」

 恐る恐る賃貸マンションの209号室に入る。

 人がいるとは思えないほどの静けさ。

 俺は生唾を飲み込みリビングへと急ぐ。

 (唐揚げ様をさっさと置いて部屋に戻ろう)

 リビングへのドアを開ける。


 その瞬間、微かな火薬の匂いと破裂音が鼻腔と鼓膜を刺激する。


「うっお!」

 驚きのあまり尻餅をつく。


「痛った」

 尻をさすりながら視線を戻すとそこには沙織がドアの前

で仁王立ちしていた。


「さ、沙織?」

 そっぽを向いた沙織が唇を尖らせて


「その……お兄ちゃん、誕生日おめでと」

「あ……」


 そうだ。すっかり忘れていた。今日は、7/11は俺の誕生日だ。


 差し出された手を掴んで起き上がり、沙織と一緒にリビングに入る。


「すげぇ」 

 そう感嘆の声が漏れるのも仕方がないくらい、綺麗に飾り付けがなされていた。

「ありがとうな、沙織マジで嬉しいよ」

「そう」

 沙織は金色の髪を乱暴に払って台所に消えた。

「おい、俺らには何もないのか?」

 ふいに横から声がする。

「ありがとな。和也」

「おう」

 グータッチ。

「痛っ」

「俺も同じだ」

 二人で笑い合う。

 コイツは、山葉(やまは) 和哉(かずや)。

 俺や、沙織が小さい頃から和也とはよく遊んでいた。親とも顔見知りで母の和代さんは両親がいない俺らをすごく気遣ってくれていて、たまに様子を見に来てくれたりする。


「なあ、裕翔。私のことを忘れてはおらんか?」

「ん? 何処かで声が聞こえる」

「ここじゃ此処!!」


 俺の服を引張って存在を主張してくる小学生のような容姿の少女は、竝川(なみかわ)一葉(ひとは)。この謎の口調が印象に残る。

 家が隣の208号室で、コチラも小さい頃からの付き合いだ。


「おお、一葉。小さくて分からなかった」

「はははは、冗談が上手いではないか」

「え~と、一葉さん? 目が全然笑ってないし、そもそも冗談なんかじゃ……」


 一葉の小さな拳が腹にめり込む。

「うげ」

「まだ言うか!」


 黒色の髪をなびかせて俺に飛びかかってくる。

 それを交わしながら部屋の中を逃げ回る。

(小さいだけあって、すばしっこいし、殴られると地味に痛いんだよな)


 

 そんな風に一葉から逃げていると、パンッと手を打つ音が聞こえる。


「ケーキ食べよ?」

 逃げ回っていて気づかなかったが、テーブルにはケーキが綺麗に四等分されてあった。


「おお! 何て美しいケーキだろうか……一先ず休戦じゃ」

 俺はタイミングよくケーキの話題を出してくれた沙織に親指を立てて「グッジョブ!」の形を作る。

 沙織もまた微笑んで、「グッジョブ!」と親指を立てるが、その親指は180度回転し「ブーイング」の形になった。


(あ……あれ~?)

 背筋が寒くなった。


 + + + + + + +


「でさ、これらは沙織ちゃんがほとんど飾り付けしたんだぜ?」

「そうなのか! それはすごいな」

「別に凄い事でも何でもないし!」

「それに、とても楽しそうじゃった」

「どこが楽しそうだったって言うのよ!?」

「私が根拠も無しにその様なことを言うと? 沙織よ」


「これが、根拠って奴だよ。裕翔」


 和也がスマホを見せてくる。そこに写っていたのは、沙織だった。

『今日は~♪お兄ちゃんの~♪誕生日~♪綺麗に飾って♪もてなっそう♪イェイ』


 その中の沙織は最近見る事のない笑顔で変な歌を歌いながら誰がどう見ても楽しそうに飾り付けをしていた。


「……」

「何なのよ!?」

 (知らない間にこんなの撮られて、お前も大変だな)


「う~ん。まぁ何だ。ありがとうな」

「もうっ! 本当に何なのよ!」


+ + + + + + + +



「「「プレゼントタイム」」」

「「「イェエエイ」」」


「三人で言って、三人で盛り上がる。悲しいな、お前ら」

「お前が喜ぶ素振りすら見せないからだろ!?」

「まあ、そうなんだけどな。フッ」


「殴るぞ?」

「蹴るぞ?」

「日本刀で……殴るぞ?」

「一人だけ狂気的かつ殺人的な発言が!?」



+ + + + + +



「では、私が最初じゃな」

「少ない小遣いで悪いな」

「子供扱いするなと何時も言っておろう!?」

 こほんっと咳払いし、後ろに持っていたプレゼントを差し出してくる。

「これは、写真立てか?」

「そうじゃ。何か飾りたい写真があれば、飾ってくれ」

「と、言っても写真なんかないしな」

(お? この写真立て二枚飾れるのか……二枚ねえ)


「む? どうかしたのか?」

「ああ、気づいたことがあるんだ。この写真立て二枚入るんだよ。だから、今撮ろう。一枚目が俺と一葉の二人で。二枚目が皆で。どうだ?」

「良い案じゃ」


「よし! 決まり。なら和也、撮ってくれ」

「了解!」

 一葉は俺の手を握ってピースする。

 此方を見る一葉が「お前もしろ」と言っている。

 多少恥ずかしかったが、一生忘れない思い出になる写真だ。仕方がない。俺もピースをして苦笑いする。


「良し、OK。撮れたぞ」


 一瞬で画像から写真となってスマホから出てくる。

「笑いかたがおかしいではないか!」

「頑張ったんだぞ裕翔は」

「悪いな。これが限界なんだ」


 一葉と一緒に一枚目を飾る。


「ありがとうな。一葉」

「何がじゃ?」

「一緒に写ってくれて」


「うむ」


「次は二枚目。皆で撮ろう」


 皆でピースしてシャッターの切れる音を待つ。

 この写真。先程撮った一葉との写真。あの写真立てに飾る事によって絶対に残る記憶となるのだ。と、らしくもなく考えてしまう。この四人の一人だって欠けてはいけないのだ。この四人が居たからこそ、三人と巡り会えたからこそ、この写真はあるのだと。

(俺は幸せ者だ)


 静かにシャッターが切れた。



+ + + + + + + +



「最後は私」

「お前もくれるのか?」

「当たり前じゃない」


 和也のプレゼントは『メイド喫茶店 KOKOAの半額券』と言っていたが、此処じゃ沙織も一葉も要るから、後日持ってくると言っていた。

 俺も和也もメイド服や、シスター服等が好きでしょっちゅうKOKOAには結構頻繁に通っている。

「お! 綺麗に包装されておるな」

「ホントだな」

「そ……そう」

 髪を横に払う沙織。

「あ……それって沙織ちゃんが……グムグム!」


 何か言おうとした和也の口を沙織が塞ぐ。

「何してんだよ」

「なにもしてないけど……」

「『なにもしてないけど』じゃないよ! 窒息死するどころだったんだけど!?」

「嘘つけ、元気そうではないか」

「一葉ちゃん……」

「……無事ならそれでいいんじゃね?」

「裕翔お前まで!?」


 (仕方ないだろ!? 沙織が触れるなオーラを凄い出してるんだから!)

「開けても良いのか?」

 渡されたプレゼント見ながら沙織に問う。

「良いよ」

 綺麗な包装を剥がすと、VRのソフトが入っていた。

「スキルマジック? これは?」


「それはね、VRの大人気ソフトでVRシステム『ダイブルーム』保持者の大半が持ってる2~3年前のゲームなのにそのゲームはまだ一人にしかクリアされてないの! 私もヒトちゃんもカズ君も持っていて一緒にしてるんだよ! お兄ちゃんゲームしないのに、何故かダイブルーム持ってるでしょ? ならやるしかないよ!? お兄ちゃんがゲームしないのは知ってるけどでも……絶対に楽しいと思ったから!」


「落ち着け、沙織。大体わかったけど、次からはもっとゆくっり喋ってくれ」

 沙織はゲームの事になるとテンションが急に上がるんだよな。


 一瞬、俺は今朝の夢を思い出していた。しかし、それだけでなく何かが、何かどす黒く嫌なものが夢を黒く塗りつぶしていった。

「大丈夫? お兄ちゃん」


 沙織の声で我にかえる。

「顔色が優れないぞ、裕翔」

「いや。大丈夫だよ、少し貧血なんだ」


「そうか。驚かせんなよ」

「悪い悪い」


「そうじゃ、今からゲームしないか? せっかく裕翔も持っているわけだからな」


「お、賛成」

「じゃあ、此処で一旦解散。そしてゲーム内でまた合流ってことで」

「「「了解」」」



+ + + + + +



「おーい沙織。これはどうやって動かすんだ?」


 扉が開く音がして、沙織が入ってくる。

「これなんだけど……おい、ふ、服」

「へ?」

 顔に疑問符を浮かべ沙織が自分の格好を見る。

「きゃああ!?」


 沙織の格好はYシャツだけで、ボタンは止めていない。水色と白の縞模様のパンツは丸見えでしかも、ブラも見えている。


「何も見てない!ホルターネックのブラと、フルバックのショーツなんて見てないから……って」


 ちょっと待て。自分で自分の首をしめてどうする。


「!? なんで種類まで知ってるのよ変態!」


 涙目の沙織が睨み付けてくる。


「もうっ! 洋服着てくるからちょっと待ってて」


 待つこと暫し。


「で? どうしたのお兄ちゃん」

「この機械ってどうすれば動くんだ?」


「あー。これは水が必要だね」

「水?」

「うん。2リットル位」

「分かった。持ってくる」



+ + + + +



「持ってきたぞ?」

「ここに注いで」

 沙織が指したダイブルームの後ろ側にはポットのような機械があった。


 言われた通り、水を入れ終える。

『ダイブルーム 起動します』


「あとは、指示通りやれば出来るから」


「サンキュー」


『お久しぶりですね。マスター』

「どうすればいい?」

『まず、下着だけになられて鉄の扉を右へスライドし、ダイブルームの中にお入りください』


 だから、沙織は服を着ていなかったのか。沙織に抱いていた疑問が解けた。

 下着だけになり、ダイブルームに入る。


『その後、マスクを装着してください。その際、きっちりと呼吸ができるかご確認下さい』

「これか」

 マスクを装着して呼吸を行う。

『大丈夫でしょうか? 10秒後、このダイブルームは液体で満たされているでしょう。しかし、焦らず【ダイブ】と口にしてください。』


 本当に液体で満たされ始めるダイブルーム内。

 液体は緑色。視界も緑色に変化していく。


 (なんだ? この心が震える感じ)

 何処か笑い声が聞こえてくる。

 (俺は……笑ってるのか?)

 この先見るであろう景色に胸が踊る。

 この気持ちは言葉では言い表せない。

 俺は小さく深呼吸し、心の中で蠢く全ての気持ちを言葉に込めて一つの単語を口にした。


 「ダイブ!!」

俺は中学校時代の記憶がない。

和代さん曰く、「ご両親と登山の途中に土砂崩れにあった」だとか。

 リセットされた記憶で最初に見たものは、大粒の涙を流す沙織の姿だった。


 もう沙織を泣かせない。


 俺はそう誓った。


 しかし一つの奇妙なことがある。俺の記憶がないのは中学時代のときであるのに両親の顔を知らない。

 沙織も両親は知らないと言う。

 確かな確証はないが、このゲームには俺の記憶に関係があるような気がするのだ。





+ +   +   + + +



『ようこそ、【スキルマジック】の世界へ。只今より初期設定を開始します』


 俺の目の前に液晶が現れる。

『ではまず、クラスを選択してください』


 液晶に浮かび上がる、5体のモデル。


『魔術師(ウィザード)』

 ・MPが高いのが特徴のクラス。

 ・他のクラスでは扱うことのできない【スペル】という魔術を扱ったり、スペルを作り出すことができる。


 下にスクロールしていくと、次のクラスの説明が表示される。


『戦士(バーサーカー)』

 ・高いHPが特徴のクラス

 ・ステータスを10倍にする特殊スキル【オーバーストライク】を使うことが可能。



『援護者(オペレーター)』

 ・バランスがとれているクラス。

 ・他のクラスよりスキルを多く習得することが可能。




 『守護者(ガーディアン)』

 ・防御力が高いのが特徴のクラス。

 ・守護者専用スキル【オートガード】が使用可能。

・MPを大量に消費する代わりに、一時的に自動ガードをすることができる。


 『喰者(イーター)』

 ・特異性が特徴のクラス。

 ・プレイヤーやモンスターに数秒触れることによりプレイヤー、モンスターのMPを『喰らう』ことが可能。



 俺は少し考えた後、『オペレーター』を選択した。

 沙織の話を聞く限り、和也も一葉もこのゲームをしているらしい。

 ならば、その援護役として――。


『次に、種族を選択してください』


「種族?」

『はい。どの種族を選択するかによって、初期のステータスが決められます』

「なるほどな」


『人間』

 ・最も一般的な種族である。ステータスに変化はない。

 ・初期スキルとして超音波を飛ばして気配を察知する【サウンド】のスキルを習得することが出来る。しかし、範囲が限られており、半径10メートル以上は察知できない。一回このスキルを使うと3分間は使うことができない。

 ・オペレーター向き



『獣人』

 ・獣と人間のハーフの種族。

 ・HP+100

 ・攻撃力+20

 ・バーサーカー向き



『サイボーグ』

 ・科学力の発達により誕生した人型ロボット。

 ・知力と耐久力が増加する。

 ・耐久力とは装備をが壊れにくくなるステータスである。

 ・知力+20

 ・耐久力+10

 ・ガーディアン向き


『妖精』

 ・優しさの象徴である種族。

 ・MPが増加する。

 ・MP+30

 ・ウィザード向き

『ゴースト』

 ・全ての種族の怨み、憎しみが具現化した種族。ステータスの変化はない。

 ・初期スキルとして背景に自分を紛れ込ませる

【ステルス】を習得することが出来る。しかし、攻撃する際には姿を現さないとならない。一度触れられた又は、触れた相手には1分間はステルスを使用しても効果を成さない。

 ・イーター、オペレーター向き


 『巫女』

 ・女性専用の種族

 ・【高速発動】のスキルがつく

 ・ウィザード向き



「ふーむ。これはどうすればいいのか」

 選択肢は既に二つまで絞られているのにも関わらず、決めることができない。

 どちらのスキルも捨てがたい。ステルスで隠れて援護役をこなすか、センサーにより周囲の状況を判断しそれに応じて援護……。


「悩むな。自分のゲームのプレイスタイルは決まっているのに」


『簡単に考えられてはいかがですか?』

「そうだな」


 シンプルに良さげなスキルを。


「ん~そうだな。それじゃあ俺は……『人間』で」

『承知いたしました』


『転送体が決定しました。変更等がないかご確認下さい。身長や、顔は現実世界をモデルとしています故、変更することができません。しかし髪色等は初期設定の後でも変更可能です』


 転送体のモデルが表示される。



『    』


・クラス 『援護者(オペレーター)』

・種族 人間

Lv.0

・初期ステータス

HP 1000

MP 100

攻撃力 100

知力 100 

筋力 100

耐久力 100

・初期スキル

【サウンド】


・加護

『   』


『設定に間違い、変更等はありませんか?』


「質問。この『加護』ってなんなの?」

『それは、マスターだけが使うことが出来るたった一つのスキルです。ゲーム内の教会へ行き、神に祈りを捧げて下さい。そうすれば加護を得られます』


「ああ、そういうこと。なら、もう変更する事はないよ」





『了解しました。最後に転送体の名前を登録してください』


(名前か)

 何か俺にぴったりの名前とかはないものか。

 (しかし、良く再現できるよな)

 自分の転送体のモデルを眺めながら、ふと思う。

 (特に……髪色とか)


 俺は普段黒色の髪だが、実際は白色なのだ。真っ白になのだ。

 俺の髪の色素は全く何をしているのだか。

 俺は周りと違い自分の髪の色にコンプレックスを抱いていた俺は小学生の時に黒色に染め始めた。


 それなのに、このモデルは髪色が白色。

「白い髪……シロカミ……『シロカ』お!? 良くないか?」


『ええ。ピッタリだと思います』


『シロカ』と、3Dの液晶に打ち込んでいく。

『はい。以上で初期設定を終了し、転送を開始します。シロカ様』


「おう」


『このゲームデータは何処に保存したら良いですか?』


「普通にデータ1にしてくれ」

『しかし、データ1は、既にゲームデータが保存されています』


「は? なら、データ2に保存してくれ」


『かしこまりました』

 俺はデータ1に何かをセーブした記憶はない。ということは、昔の俺がこのゲームをプレイしていたということだ。そして、そのデータをバックアップしていた。


「ったく。昔の俺は何がしたかったんだ?」


 苦笑しながら独りごちる。予想通りこのゲームは俺の記憶に関係がありそうだ。


『転送開始』



+ + + + + + + + 




――ヒュウウ。

 柔らかな風が俺の髪を撫でていく。

「ここが、VRの世界、ここがスキルマジックの世界か!」


 中世の西洋風の町には、巨大な防具を見に纏っている人々が溢れかえっていた。


 そんな中で一番、目を引くのが最上層は雲の上にあるとされる【迷宮塔・ラグナワールド】




「お兄ちゃん!! 遅いよ」

 ずっと待ってくれていたのだろう。沙織が頬を膨らませている。

「最初の設定に手間取った」


「お兄ちゃんは、どのクラスにしたの?」

「『援護者』(オペレーター)だよ」


 沙織が口を半開きにしたまま固まる。


「オペレーター!?」

「何だよ」


「いや……私の憧れの人も確かそのクラスだったから」


「へえ、憧れの人か」


「うん、いつかその人より強くなってやるんだから」


「頑張れ。……そう言えば、一葉と和也は?」

「先に教会に行ったよ」


 どうしても疑問に残る事がある。

「なあ、沙織。俺は昔このゲームをしてなかったか?」



「……知らないわ」


「それより! 教会へ行こう。お兄ちゃん」




+ + + + +




「おお! 待ち望んだぞ」

「何だよ。その『シロカ』って名前は?」

「お気に入りだ」


「それはもう良いから、祈り捧げて来なよ」


「ああ」


 教会の祭壇の前に行くと『祈りを捧げますか?』と、文字が表示される。

 yesを選択する。

 さて、どんな加護なのか楽しみだ。

『目を閉じて精神を集中させて下さい』

 体の中に光が駆け巡る。

 その光は波が引くように静かに消えていく。


 オプションから個人ステータスを開き加護を確認する。

「『複製(コピー)』? あまり強そうではないな」


「どうだった?」

 外で待ってくれていた三人に当然聞かれるであろう事を聞かれ、頭をかく。

「残念ながら、弱そうな加護だった」


「まあまあ。運みたいなものだし」

「少し見せてくれよ」

 使い方はもう知っている。

 加護を身に着けて直ぐに使い方を知れるシステムらしい。

 和也に近づき、額に触れる。

「『複製(コピー)』」


 電気が走ったかのように額に触れた手が痺れる。


「おお……お前!?」


 和也の前に立っている和也の姿をした俺は笑みを浮かべる。


「以上だ」

 『複製(コピー)』を解除する。

 他人の姿になれる。それが俺の加護。我ながらなんて加護だ。



「う~ん。なんか……ショボイね」

「気にすることは無いが……戦闘向きではないな」

「それだけか?! シロカ」


「そうだけど。そう言うお前らは、どうなんだよ」


 三人は申し訳なさそうに目をそらした。


「その様子だとお前らも大したことないんじゃ……」

「「「シロカを傷つかせたくない」」」


「……え? じゃあ一葉。お前はどんな加護だよ?」


「私の加護は……と。その前にVRでの暗黙の了解というやつを教えてやろう」

「そんなのがあるのか」

「一つだけ。かんたんの事じゃ。現実の名前では呼ばないこと」

「へえ。なるほどな……。そう言えば、仮想世界でもちっさいな、お前」


「……シロカ。では、自己紹介するとしようか。ゲーム名はイチハ。クラスは『魔術師(ウィザード)』。種族は巫女。

そして私の加護は、『熱戦(レーザー)』」

 コチラに向かって手をかざす一葉。

 頬に何かが掠る。

「え?」


 頬が少し裂け、血が流れ落ちる。

「おい? 怒ってるよな? どう考えても怒ってるよな!?」

「怒ってるわけないだろう」

 そう言いながら『熱戦(レーザー)』を乱射してくる一葉ことイチハ。

 体に穴が空きまくる俺ことシロカ。



+ + + +


「『イチハ』と『ひとは』って大して変わらないじゃないか」

「まあ、そうじゃな」

 まさかあのまま殺されるとは思っていなかった。向こうの茂みには血溜まりが出来ている。が、その血も綺麗サッパリ消えてしまう。


 (さっきの死んだときの感覚……なんか嫌いだ。)



「それにしても、ひと……イチハの加護は凄いな」

「私のなんか序の口じゃ。二人はもっと凄まじい」

「まじかよ」

 今度は視線を和也に向ける。


「俺のゲーム名はカズ。クラスは、『守護者(ガーディアン)』。種族は後ろの羽を見れば分かるだろうが妖精。加護は『刃(ブレード)』」

「『刃(ブレード)』? 何だそれは」

「ここで見せるわけにゃいかない」

「なんでだよ?」

「俺の加護は範囲が広い。だから教会とか壊しかねない。別の機会にな」 

 きっと、和也も聞く限り凄まじい加護なんだろうな。うん。


「って、ゲーム名全然変わってないじゃないか」

「良い名前思いつかなくて」

「呼びやすいから別に良いんだけどな」


「じゃあ。最後、沙織の加護は?」

 猫の耳をピコピコさせている沙織に話を振る。

「私のゲーム名はサユリ。私の種族は獣人。クラスは『戦士(バーサーカー)』。加護は『流星群(メテオライト)』。これも範囲が広いから此処じゃ街が壊れちゃう」

「街が!?」


 なんて加護だ。


「そうじゃ、迷宮にでも入らんか?」

「そこでなら、二人の加護もみれるのか?」

「うん!」


 俺達は迷宮へと向かった。


+ + + + + + + + 


『ブギィィィ』

 目の前には俺の身長の半分くらいの豚のモンスター。モンスター名の隣にLV0とあり、その下にはHPバーが2000という数字と供に表示されていた。

 赤く光る眼球が俺らをじっと見据えている。

「この『ポードラン』って強いのか?」

「凄く弱いモンスターだぜ。シロカ一人でも倒せるはず」



『オオオオオオ!!』

 ポードランが土煙を巻き上げながら襲い掛かってくる。

「いやいや、俺武器持ってねぇし!」


回避を試みるものの敵の動きが思った以上に速く、横腹に鼻の上から突き出た角が突き刺さる。それと同時に1000と表示されていたHPが890と更新される。

「強くない!?」

「VR初心者(ビギナー)だから仕方ないよ。まず敵の動きになれるんだ」

カズの声が遠くで聞こえる。

(そんなこと言ったって……)

なかなか攻撃を回避出来ない俺を見かねて、サユリが自らの剣を投げて寄越してくる。

「お、センキュ」

サユリの剣の刀身は真っ赤に染まっており、中央部分は白いラインが入っている。

ズッシリと重い直剣を両手で握る。

一直線に突っ込んでくる敵を見据える。

位置が逆転する。

動きを止めるポードラン。

ゆっくりと体を傾け倒れていく。

その光景を既にイメージしていた俺は後ろを振り返ることなく背を向けたまま『ポードラン』の断末魔を聞き終えた。

その断末魔を聞き届けた瞬間。

『ゲームマスター緊急連絡』が迷宮内に鳴り響いた――。

けたたましく鳴り響く『ゲームマスター緊急連絡』に俺は何が起きているのか把握しきれなかった。


「即座にログアウトしてください!! 繰り返します! 即座にログアウトを!!」

 切羽詰まったような声でログアウトを訴えかけてくる。

「おい! 取り敢えずログアウトを――」


 オプション画面からログアウトを選択しようとした所で、視界が急に様変わりした。


 〇 〇 〇



 広場に集められたプレイヤー達。それを見下げるような位置に浮いているステージ。

 その上に立ち、男は丁寧な口調で語り出す。


「私の名前は支配者イブと言います。この世界、つまり【スキルマジック】の支配者ですね。」


 周りには大勢のプレイヤー。


「この【スキルマジック】の参加条件として全国ランク1000位までとさせていただきました」


 一人のプレイヤーが支配者に挙手し彼自身の疑問を口にする。


「お前は、何者だ?」


「よい質問誠にありがとうございます。私はこのVRシステム、ひいてはこの【スキルマジック】を強制支配(ハッキング)したものです」

 柔らかな笑みを浮かべ、支配者イブは続けた。

「私は、皆さんとゲームをしたいな。と考えております。私とあなた方のゲームであなた方の勝利条件は今日から8/31まで、つまり。子供の夏休み期間までにこのゲーム【スキルマジック】をクリアしていただきます。逆に敗北条件は皆さん全員がゲームオーバーになること。普通はコンテニュー画面が表示され、この広場に再転送されますが、今回はゲームオーバーになったらそこでお終い。残っている人に己の命を預け、ただ結果を待つ。という風にしたいと思います。ですが逆に言えば、一人さえクリアすれば良いだけなんですけどね」

 その瞬間、動揺の声が上がり広場が騒がしくなる。何故なら。この大人気のゲームの1000位のランカーならば、すぐに悟れるからだ。そんな短期間にゲームをクリアすることはできない。と。

 なんせ発売してからクリアした人数はたったの一人。しかもそれが事実であるかさえ怪しい。


         これは不可能達成課題(ムリゲー)だ。


+ + + + + + + + +




「はい。落ち着いて下さい。で、もし達成できなかった場合――」


 集められた全プレイヤーが息をのんで支配者(イブ)の言葉を待つ。


「あなた方全員と現段階で【スキルマジック】にログインしている502765人の命は無いと思っておいてください。あなた方は501765人の人質がいるわけです。まあ、こっちでゲームオーバーが増えれば増える程、人質の数も増えていきますがね。忠告ですが、今までと同じ【スキルマジック】だと思わないほうがいい。あなた方の装備はそのままにしますがあまり油断をしないことをお勧めします」


「あ、それと、現実の肉体のほうはこのゲームの勝敗が決まるまで安全は保障します。DiveRoom(ダイブルーム)の中は、緑色の液体で覆われていますよね? あの液体中には緊急時に備え、生きるのに必要な栄養素を水から作り出すという技術を採用していますので100日は確実に生存できます。これは、睡眠、食事をとらずゲームに打ち込んでしまい、過労死するケースが増えたことによる対策なのですが……おっと、取り敢えず安全面については本当に大丈夫です。無理矢理DiveRoom(ダイブルーム)をこじ開けるような愚か者がいなければですがね……」


「時間が惜しいでしょう。では、最後に。今回のこのゲームあなた方が勝利した暁には、この【スキルマジック】の個人の所持金を現実でも使用できるようにしましょう。どうです? やる気が出てきましたかね? ……あ。忘れていました。このゲームの勝敗を分ける救世主を言っておきましょう。その救世主とは『シロカ』というお方です。皆さん、ご武運を」



 どこかで「はあああああああ!?」という声が聞こえたがそれを無視し支配者(イブ)は話を終え、姿を消した。


 残されたプレイヤーは理不尽な不可能達成課題(ムリゲー)に挑まなくてはならないと知った。


 広場は様々な声で溢れかえる――。


 ✽✽✽✽✽✽✽


「無理だ! 俺達は確実に殺される!」

「その前に救世主の『シロカ』って誰だよ?」


 そんな言葉を耳にしつつ大きな溜め息をつく。

「イヤイヤ、なんで? 何で初心者なのに此処に残ってんのかわかんねえし、救世主って変な期待されて前に出されて死ぬだけだって! しかも最後の話のクリアしたっていう双剣王に任せればいいじゃん」


 しかし、最後の双剣王の話は少し気掛かりだった。


 俺を救世主だとか言って姿を消した後ボイスメッセージでクリアした人間が一人いる事と、その人物がログインしていること、その人物は一時期『双剣王』と称されていた事を伝えられた。

 その時、双剣王というワードを聞いたとき何かを思い出しかけたけれど、忘れてしまった。

「まあ、確かにお兄ちゃんが救世主ってのはちょっとねぇ……」

「うん」

「だって、シロカの加護は、複製【コピー】だし」

「そうだよな、ほんっと勘弁願いたいぜ」


「おおおおい! 皆聞けええええ!」


 突如、思わず耳をふさぎたくなるような怒号が轟いた。


 皆が一斉にある場所に注目する。


「俺はランキング26位のカイルだ! 時間がないから今から迷宮一階層の攻略に入る! 攻略成功率を上げるためについてきてもらえると有難い! 頼む」


「お兄ちゃん、一階層行ってみる?」

「行こうぜシロカ。生きる道はもうこれしか残ってないんだ」

「そうじゃ、シロカ。逃げても無駄じゃぞ」

「わ、悪りぃ。勘弁して」

 いやいや。俺武器もないのにどう戦えと? 先ず俺は武器調達が最優先だっつの!

「はあぁ、私が武器買ってあげるわよ」

 何こいつ。心でもお読みになるんですか?

「あ、うん。ありがと」

 なんか、妹に養ってもらってる俺ってとても情けない……。


 俺のせいで一階層攻略の前に武器を調達する事になった。


Δ Δ Δ


「なんか、いい武器っていうか、扱いやすい武器はないのか?」

「うーん、人によるかな?」

「そうじゃな、サユリは直剣、カズは、大剣。私は杖じゃ」

「人それぞれってことか」

「そうじゃ」

「どんな武器があるのか教えてくれよ」


 サユリが、無言で立ち上がり暫くしてカタログを持って戻ってきた。

「これが一覧。直剣、大剣、杖、アックス、メイス、ダガー、ダブルブレード、ハンマー、弓、槍。結構種類あるね」

「確かにな、で? 防具は?」

「このゲームは防具ってのはねえんだよ。あったら多分もっとクリアしてるんじゃないか?」


 なるほど、防具という概念がないから、結構難しいゲーム内容になっているわけか。

「ゆっくり、考えて選びな。もう今頃一階層も攻略してるだろうし」

「うーん、じゃあ直剣でいいや」

「え!?」

「早くね?」

「元来こういう性格だろ? 俺は」

 昔のことあんま覚えてないけど。

「そういや、そうだな」

「じゃが、この中には沢山の直剣があるぞ? 切れ味とか重さとか……」

「いや、これが良い」

 俺の視界に入ったのは白銀の刀身をもつ直剣だった。

「むぅ、それで良いのお兄ちゃん?」

 少し不服そうなサユリを見てもう一度考えてみたがやはり、考えは変わらない。

「ごめんな。これが一番好きなんだ」

「まあ、そういうなら……」

 渋々といった様子でサユリが会計を終える。

「これも誕生日プレゼントね」

「すまん、有難う」

「さあ、そろそろ、二階層へ攻略が始まっているじゃろう。次は参加するぞい」

「そうだな。久々にこのパーティーで攻略に行けるな」

「そうだね、最近イチハちゃんと都合が合わなかったもんね」

 そんな会話が遠くに聞こえるほど俺は白銀の直剣に見入っていた。

 ……マジでかっけえええ!

 一日中見ても飽きないくらい。なんでこんなに惹かれるのだろう。これがゲームの中なのに。



「お兄ちゃん、相当気に入ってるみたいだね?」

「うん、ちょっと引く位、真剣にみてるね」

「少し怖いのう」

「ん? 何か通知が」

「私のところにも」

「っ……!?」

「嘘でしょ!? 一階層に攻略に行った人達が全滅?」


 全滅…………!?


「全滅ってどういうことだよ?!」


「と、取り敢えず広場に行くのじゃっ!!」


「お兄ちゃんも行くよ!?」

「お……おう」

 背中に剣を収め、サユリに続いて店を出る。

「試し斬り、したいな……」

 俺の独り言は誰の耳にも届くことなく風に乗ってどこかへと消えてしまった。




 広場では収拾がつかない事態になっていた。


 当然だろう。一階層でこんなに沢山の犠牲者が出るとは誰が予想できただろうか。

 ありえない。みんなの顔にそう書いてあった。

 時刻は夕暮れ。プレイヤーの表情にも心にも暗い影を落としている。

「今日は迷宮にはいかないほうがいい。明日までに装備を整えて臨むこととする」

 それが最善の策だと全プレイヤーがそう判断し、各々が様々な街に散り宿屋で夜を過ごすことになった。


 俺らも今日は早々に宿屋にチェックインし、布団に入った。畳の部屋で、障子で仕切られ、男子陣、女子陣と分かれている。平静を装っていても皆疲れがたまっていたのだろう。皆すぐに寝てしまったようだ、隣のこいつは気持ちよさそうに眠っている。

(眠れないのは俺だけかよ)

 確かに何名もの犠牲者を出した階層を一人で向かうのは少し危険な気がするが、好奇心に負けこっそりと夜遅くに迷宮へと向かった。少しだけで良いからこの白銀の剣を意のままに振るってみたかった。

「ここが一階層……」

 一階層には誰一人いなかった。

 モンスター以外は。

 歩く音がよく響いていた中、何処からか、ポードランが現れた。

 素早く剣を引き抜き対峙する。


「グモォォ……」

赤い瞳が揺れ、ポードランが突進してくる。

このモンスターは武器さえあれば問題なく倒せる。

ポードランの突進を左に跳びかわす。

ポードランは突進の後の隙が大きい。その為一度回避した後の速攻はポードランにとって有効だ。


ポードランが静止しようと試み、砂ぼこりが巻き上がる。体をひねり何とか静止を果たす。

方向転換したポードランの体には影が覆い、ポードランの赤い瞳には上段に構えたシロカの姿。

「ブギっ」

ポードランは小さな断末魔を上げ永遠の眠りについた。


「くぅぅ……!!」


楽し……過ぎる!

「もう少しだけ……」


俺は自分に言い聞かせながら歩を進める。



〇〇〇


「嗚呼。ポードランは流石にもう狩飽きた……」


何体の豚型のモンスターを葬った事だろう。


「?」

流石にもう帰ろうとしたところで大きな門を一つ発見した。

この門の向こう側は想像出来るが好奇心に勝てず、門に手を宛がう。

「どんな奴か、見るだけだし。そ、そんな無茶しないし」

誰一人いない迷宮内で独りごちる。


拝ませてもらおうか。

命を懸けて無理ゲーに望むプレイヤーの行く手を阻む階層ボス。

門をゆっくりと押す。重厚感の感じる音を響かせ門が開門する。

中は真っ暗で何も視認できない。門の中に足を踏み入れる。すると、突然辺りが光に包まれた。それと同時に門が閉門。

「嘘だろ……」

門は引っ張ってもびくともしない。

迂闊だった。このような事態は安易に予想できた。全滅の原因はここにあったのだろう。

もう後には退けない。


俺は目の前の蛇のモンスターに歩み寄った。

右手に剣を携えて。

「グッハ……!」


 初心者が一人でどうにかなる相手じゃないかもしれない。

 残り一本のポーション。

 それに比べ蛇の体力は半分。

「でも、何か楽しいわ……」

 渇いた笑みを浮かべ、剣を握り直す。

「此処から、最終ラウンドだ」


〇〇〇


「っ!」

 蛇と攻防を続けること5分。

 回避ばかりに専念しているお陰で剣が蛇の皮膚に触れることはない。

 三つの頭を持つ蛇は独特なリズムと、不規則な攻撃で回避のタイミングをずらしてきた。


「このままじゃ、やべえっ……」

 蛇の頭が眼下に迫る。

「っく!」

 腰をひねり、上体を反らしながら蛇の頭を回避し、回避ざまに一発。と試みる。しかし、蛇の頭が俺の横を通りすぎることはなかった。

「フェイクっ!⁉」

 俺の目の前で静止した蛇の頭。

 死角からもう一方の頭で体当たり。

 上体を反らしていたためバランスを崩し、ガードも間に合わない。

「がっ……あ……っ!」

 口から空気が無理やり吐き出される。

 横腹から熱を感じ、更なる痛みが体を蝕む。

「うぐくくぅっ……!」

体力表示が黄色をぶっちぎり、『危険』を示す赤色に変わっていた。

「次、喰らったら……」


 ポーションを口に流し込み、横っ飛びで蛇の突進を回避する。体力表示が黄色、そして緑色に戻るが、回避した方向から丸太のような尻尾が迫る。その尻尾は的確にみぞおちを捉える。


「うっ……ああああああ……!」

 弱々しく喘ぎ、壁に叩きつけられる。


 土煙を巻き上げ壁にめり込んで行く感触を背中で受けながらも右に体を思い切りひねる。

 蛇の突進を再び回避。


(やるしかない。マジでヤバい……)

「【複製】(コピー)」


 電気のような痺れが、脳と腕に伝わってくる。

「【ペースト】!!」


 蛇の大口を開け突っ込んでくる。

『グギュウアアアアア‼?』

 蛇の悲鳴が耳にこだます。


「出来るか半信半疑だったけど、出来てホッとしたぜ」

 自分の手に握られたもう一本の剣に目をやる。

 完璧なまでに複製(コピー)された白刃の剣は右手の剣と同じく鮮血で赤く輝いていた。


「ウオオオオオオ!」

 防御、回避を選択肢から除外し蛇の懐に突っ込む。そして右手を斜めに薙ぐ。

 それと平行して左手を前に突きだし柔らかそうな腹に剣を突き立てた。

引き抜いている時間はない。

「【ペースト】」

 左手にもう一度剣を複製し、そのまま真横に剣を振るった。


『グギアアアアアア‼』


 冷静さを欠いた蛇の猛攻をバックステップで回避。着地と同時に突進。

 横腹を剣先が通過していくと同時に生々しい赤色の液体が飛び散る。

 地面を蹴り、宙に浮かぶ。

 方向転換した蛇の緑の眼に狙いを定め剣を投擲、振り向きざまに二つの視界を奪われる結果となる蛇。蛇の額に着地。残りの視界を潰すべく、額を蹴った瞬間、片方の頭がこちらを向き大口を開けた。

「!?」

 言葉を発する事さえも出来ず、炎の渦に飲み込まれた。


 体力表示は……。

 揺れる視界。

 目の前に再び迫る炎。

 成す術なく吹き飛ばされ、宙を舞う。


「グッハ……!」

 初心者が一人でどうにかなる相手じゃないかもしれない。

 残り一本のポーション。

 それに比べ蛇の体力は残り半分。

「でも、何か楽しいわ……」

 渇いた笑みを浮かべ、空中で剣を握り直す。

「此処から、最終ラウンドだ」

 着地し、最後のポーションを口に流し込む。


「うおおおおおおおっ!」


 猛攻を剣でいなし、柔らかい腹に剣撃を加える。

 炎は吐かせない、その前の溜めが長いのが欠点であろう。

 最初に喰らった時は剣を抜くのに集中しすぎたせいで、溜めに気づくことが出来ていなかった。

 失敗はもう犯さない。

 溜めが入った瞬間、相手の懐に潜り炎の範囲に巻き込まれないようにする。

 成るべく次の行動を予測し、踏み込み過ぎないよう細心の注意を払う。


『シャアアア‼』

 見えない頭をハンマーのようにしならせ俺を狙う。

 剣を支えにして足の爪先に力を込める。

「オオオオオ!!」

土煙を巻き上げながら遠心力も加味された重い一撃を受け止める。が、こちらも無傷では済まない。

 剣が音をたてて砕け散った。

「【ペースト】!」

 すぐさま複製し、思いっきり踏み込む。

「おおおおおおおおおお‼」

 渾身の一撃は蛇の頭を捉え切り落とした。

『シャアアアアアア⁉』

「よし!!……ゼエ……ハア」

 体の負担がかかってきたのか、頭がズキズキと痛む。

「そろそろ決着ケリをつけねえと……!」


 多少無理を承知で怯んでる蛇に斬りかかる。


 ……ここで決める!


「オオオオオ‼」

 一撃目、上段から切り下ろし。

 ニ撃目、下からの切り上げ。

 三撃目、クロスさせるように斜めに薙。

 四撃目、突き、からの切り上げ。

 ここでバックステップ。からの――加速。

 トップスピードのまま蛇の後ろに降り立つ。



 ――――――ズウウウン。


 後ろで何か巨大なモノが倒れる音を聞き、それに連なるように蛇の断末魔が轟く。


「やった…………」

 剣を二本、地面に突き立て俺の意識は暗黒に飲み込まれた。

SKILLmagic記憶を無くした俺がVRワールドの救世主⁉

執筆の狙い

作者 千年四季
221.87.14.130

VRものの作品が書きたくて書いた作品です。
戦闘描写を上手くなりたくて戦闘描写を細かくしてみました。
真面目あり、笑いあり。そんな小説を目指してます。

コメント

偏差値45
219.182.80.182

冒頭の大型モンスターを具体的に描いた方が良いと思います。
現状だとイメージできないかな。

>ー数年前まで偶像の存在だったVRシステム。
偶像、、、、ちょっとこの言葉は違うかな。

>「っ!? 呼びに来てあげたんだから感謝しなさいよ! そ……それを!」
そ……それを!」、、、、必要かな。違和感ある。

>「(朝方から元気なやつだ)」
こういうカッコの表現は見たことないですね。

>ぼんやりとダイブルームを見ていると突然、扉が空いた。
ここはミスリードしやすい。っていうか、分からない。
そもそもダイブルームを理解していないからです。
なにか特殊な個室なのかな。ドアとあるので、内側から見ているのか、外側から見ているのか、解釈しないといけない。またはゲーム機のような特別な存在かもしれない。
つまり、余計な脳力を使用するので疲れる。読みたくなくなるわけです。

>『唐揚げ様』を購入するべく『ラーソン』
からあげクン、ローソンのモジりだと思いますが、イケてないかな。
なんとなく意味なく強調されている感じがしますからね。
もう少し考えても良いかな。普通にから揚げ、コンビニでも良いような気がしますね。

>その影響により、AI搭載のロボット『RORO』が急速に普及。タイプは様々。
例えば、『ドローンタイプ』持ち主の要望の品を自動で配達、配送する事が出来る。
『人型タイプ』コンビニ、工場等で、24時間働いたり、接客などを可能とする。

『RORO』『ドローンタイプ』『人型タイプ』
なんとなく三つの言葉が同列に感じますね。イケてないかな。
もう少し考えても良いかな。

この辺でお終い。全部読むまで時間がないので、あしからず。
面白いか? と言えば、「分からないです」
なんとなく素人が書いたもんだろうな、と感じるので文章力を磨いた方が良いような気がしますね。とはいえ、他人事ではないのだけれども。

加茂ミイル
223.218.110.173

文章力が素晴らしく、想像力が豊かで、ストーリーもよく出来ていました。

千年四季
221.87.14.130

偏差値45さん
読んで頂きありがとうございました。
ボキャブラリーの少なさは致命的ですよね。
まぁ、それ以前に小説のルールとかを学ばないとですね。
今後の為になりそうな批評ありがとうございました。

千年四季
221.87.14.130

加茂ミイルさん
読んで頂きありがとうございました。
素直に嬉しいです。

夏目吉春
114.166.25.190

千年四季様こんにちは
 楽しく読ませてもらいました。

   私も現役でMMORPGをプレイしているので雰囲気は伝わってきます。VR(ヴァーチャル・リアリティー)が作品の題名にあったので、おおよそどの様な物語かは想像できました。俺、白井(しらい)裕翔(ゆうと)と妹の白井(しらい)沙織(さおり)が中心の物語りなのですね。

 以下に読み終えた感想と気になった点を書いて行きます。

1.冒頭のダンジョンでのシーンに違和感を覚える。
・ゲーム内では男性・女性プレイヤーと性別を書いているが、リアルプレイヤーを指しているのかプレイヤーの化身であるアヴァターを指しているのか判断に悩む。おそらく、ゲーム内のアヴァター(キャラクター)と現実世界のプレイヤーの性別が同じであることを示したかったと考えました。ならばただ単に男性『援護者(オペレーター)』、女性『戦士(バーサーカー)』で良いと思います。

・私が思うに、ゲーム内とリアルでは別姓の方が、別の意味でリアリティーがあると思います。つまり、兄貴が女性援護者で妹が男性戦士の方が面白いと思う。もしかして当たりか。

・MMORPGとあるのにパーティーではなく、冒頭で兄妹はそれぞれ単独でダンジョンへ潜入しているように描かれているのが不自然です。なお、兄は「あれが…… 無敗の双剣王」なので、ああそうなのか、そこまで強いのね、で納得できます。


2.VRシステム『DiveRoom(ダイブルーム)』の説明が回りくどく、分かりづらい。
・『技術革命(レボ・テクノロジー)は今までの全てを否定した。』ここから説明が始まるが、今までのVRMMORPGとどのように違うのか比較してその仕組みが説明されていない。

・私もあまりVRシステムは詳しくないですが、たとえばプレステVRではヘッドマウントディスプレイと、ゲームによってさまざまなデバイス(入出力装置)を装着してゲームの世界へダイブ(ゲーム世界へ飛び込む)します。『DiveRoom(ダイブルーム)』はおそらくハリウッド映画『アヴァター』のように、その物がデバイスとなっているカプセルに入り、キャラクター(アヴァター)を操作する仕組みなのですね。『DiveRoom』では生命維持装置が付いているので、長期間のダイブが可能という設定なのでしょう。


3.『DiveRoom(ダイブルーム)』起動までの導入部分が長すぎる。
・リアル妹やPTメンバーとの逸話を描きたいなら、ゲーム中で過去を振り返るとかして挿入した方が良いと思います。どちらかと言うとこのジャンルの小説では、ゲームからログアウト(一時終了)してから現実世界での話を語る方が多いのでしょう。しかしこのゲームでは、なぜか生命維持装置を使って一ケ月以上ログインしっぱなしの設定のようですね。その点でログインしてからは、現実世界の逸話を表現するのに制限がかかってしまっているように感じる。


4.『ようこそ、【スキルマジック】の世界へ。只今より初期設定を開始します』でのクラスや種族を全部説明する必要はないと思う。
・簡単に流して、クラス:『援護者(オペレーター)』、種族:人間。だけで良いと思います。
この小説に興味があるRPG好きな人にとってはウザいだけ、その辺り分からない人にとっても理解しにくい。
・スキルやアビリティー・アクションなど、敵と戦う為に用いるゲーム用語は物語の中で語る方が良いと思います。その方がなるほどと理解しやすい気がします。


5.『それは、マスターだけが使うことが出来るたった一つのスキルです。以下略』マスターって何だろう。
・『加護』とは選べるものなのか、それともキャラクリ(初期設定)時点で自動付与なのか曖昧である。物語ではキャラクリ時、空白で表現されているのでその意図が分からない。もしかしてログインするまで分からない仕組みなのだろうか。そこで思ったのは、これは前にプレイした『無敗の双剣王』の設定を引き継いでいると考えた。
・『加護』はマスターだけが使えるとあるが、通常RPGでマスターと言うと一定レベル以上に育てられたキャラクター(クラス)に与えられる称号です。それがいきなりダンジョンへ潜って使えることに違和感があります。だってシロカは、キャラクリしたばかりのLV1でしょ。LV1から使える設定なら「クラスだけが使える」に変更した方が良いと思います。もしそう(LV1使用可)ならまた他のメンバーも使える設定らしいから、強力なアクションを伴うのでやはり違和感がある。よって他のメンバーは高レベルで、シロカは何らかのアクシデントで以前のデータを部分的(初期ステータスは低いから)にロード(読み込み)してしまった設定が無難。もしかして初めからその設定で話が進むのかな。


6.『即座にログアウトしてください!! 以下略』MMORPGなのにこの表現はおかしい。
・普通ログアウトしたらダイブルームにいるはずなので、広場にプレイヤーが集まると言う表現はおかしい。これはゲーム世界の中の閉じられたインスタンス・ダンジョンからオープンワールド(スキルマジックの世界)へ「戻ってください」と言う意味なのでしょう。それなら表現を変えた方が良いと思います。それとゲーム内ではプレイヤーではなく『アヴァター』や単に『キャラ(プレイヤーキャラクター)』と書いた方が意味が通じやすいです。プレイヤー(通称中の人)はあくまで現実世界の遊戯する人を指しますからね。

ながながとコメント失礼いたしました。
これ等は恥ずかしながらMMORPG歴の長い一プレイヤー視点での感想です。
出だしは面白そうなので、今後のシロカの活躍に期待します。参考になれば幸いです。
コメント返しを期待しているわけではないので、読み流してください。

ありがとうございました。

千年四季
221.87.14.130

夏目吉春さん、読んで頂きありがとうございます。
確かにそうだよなぁ。って思いました。冒頭長すぎ。設定長すぎ。もっと短く流してもいいかもしれませんね。
あと男性プレイヤー、女性プレイヤーって表現は分かりにくい上に、読み手にいらん労力をかけてしまっている。こう言うとこを細かく描写したほうが理解しやすいですよね。
今後の為になりそうな批評ありがとうございます。

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