作家でごはん!鍛練場
秋田寒男

女子高生ナマハゲ

 私が高木君に久し振りにあったのは、桜が散る四月だった。あの日の桜は薄紅色で私の唇のような色だった。私の唇は健康的な色、それが自慢だった。桜の木も自慢気に咲いている。でも、私の唇の方がキレイな色かな?と勝ち誇って、勝手にほくそ笑んでいた。しかし、そのほくそ笑みを見抜くかのように、あの男は言った。そう高木君である。

 「早乙女ってよく顔にでるよな。おまえ今妄想してたろ?」

 「たかぎぃ、乙女の表情観察しすぎ、ストーカーかよ」
 
 私は言い返してやった。高木君は私のような美少女をからかった自慢からか、幸せそうな顔をしていた。私は慈愛の眼で高木君を見つめた。高木君は学級委員をやっていて優秀な高校生だった、将来は医者を目指していた。私はその将来性を見込み、心の中では『高木君』と呼んでいた。尊敬心を持って。
 
 「早乙女、髪に桜の花びら付いてる、とってやろうか?」
 
 私は少しうろたえた。なぜなら、その行為は恋人しか許されない破廉恥な行為だと思ったから。他人の髪の毛に触るなんてふしだら。そう思った。おまえは私の恋人かとツッコミを入れたかったが、本心をいう事にした。

 「たかぎぃ、あんた、女性の髪の毛に触るなんてふしだらだよ」

 心に思った事をそのまま言った。高木君は少しバツの悪そうな顔をして小声で言った。

 「そうかあ?神経質すぎないか?早乙女は。」

 「あんた、無神経だから彼女いないのよ」

 私がそう言うと、高木君は桜を見ながら呟いた

 「早乙女ってズバズバ言うねぇ」

 「私は結構ズバズバ言うの!」可愛さ2割増しで言い返した。

 私は早乙女ユミ、代々ナマハゲ役をやっている家系に生まれた。ナマハゲは秋田の伝統行事なのだが、最近は担い手が居なくて、結構大変な状況だ。ナマハゲは神さまの一種なのだが、いつの間にか鬼になってしまった。可哀想な行事なのだ。でも私はそんな行事が好きなのだ。ナマハゲって響きが可愛いし、子供が泣いているのが快感なのだ。もうやめられないっ。そうそう、私は、世界初の女子高生ナマハゲとして世界デビューした。美人すぎるナマハゲとしてメディアに出てテレビでは連日、私の特集。いまだかつてない反響で早乙女ユミ効果でもって秋田は日本全国から観光客が増加した。これも全部私のお蔭なのだ。しかし、ナマハゲと女子高生の二足のわらじは疲れる。夜はナマハゲ、昼は女子高生。それが毎日続く。とってもシンドイ。しかし、女子高生ナマハゲにスキャンダルが訪れる。そう飲酒問題だ。

 ナマハゲは家につくととにかく暴れ回る。泣く子はいねがーとか叫び、床をドンドン踏み鳴らす。家の主は、そのナマハゲに酒を振る舞い帰らせる。私は女子高生の未成年だが、田舎だし大丈夫かと思い、酒を何度も飲んでしまったのだ。それがメディアに取りだたされ、私は高校を停学になった。女子高生ナマハゲはわずか半年ほどで終わった。しかし、思わぬ事が起きた。高木君がナマハゲに立候補したのだ。

 「俺、ナマハゲになるよ・・・」高木は目を鋭くしてナマハゲ協会のリーダーに言った。リーダーは高校生がナマハゲになるのは構わない、しかし飲酒問題や学業はどうするのかと疑問に思った。
 
 「テレビは見てるな?今ナマハゲ協会はピンチだ。飲酒問題の件でな。そんな中また高校生をナマハゲにしたら世間の風は冷たいぞ。お前もなに言われるかわからん」

 高木は言った
 「世界最高のナマハゲになりたいんだ。早乙女のように話題性は皆無だけど地道に努力したい。飲酒はしない。水で誤魔化してくれ。やらせてください、リーダー」

 「その心意気があるならやってみろ」リーダーは高木の本気に負けてナマハゲになる事を許可した。秋の頃だった。楓が紅葉していた。

 高木はナマハゲと学業を両立させていた。医者になるため、世界最高のナマハゲになるために。もちろん飲酒はしていない。秋田県民の応援や協会の支えもあって高木は立派なナマハゲになっていた。冬になった。ナマハゲ本番の季節である。高木はこの季節になると思い返す事がある。早乙女と出会ったのも、この季節だった。そうあれは2年前の事だった。早乙女はもう忘れているかもしれない。
 この冬、最初の訪問先は早乙女の家だった。高木は出刃包丁を持ち、藁を着込んで、この冬のナマハゲシーズンを迎えた事に興奮していた。もちろん、高木が二か月本気でナマハゲしてきたから感じる興奮でもあった。そして一番の理由は早乙女に会える事だった。早乙女はあれから学校に来ていない。停学がまだ解かれていないのだ。早乙女は元気だろうか。と、高木は心配していた。この心配の感情が淡い恋心に変わっていたのは高木には気付かなかった。高木が早乙女の家の玄関を開けた。ナマハゲの決まり文句を言うタイミングに差し掛かった。高木の脈が上がった。心臓もドキドキしている。出刃包丁を持つ手が震える。そしてひとこえ出した。

 「泣く子はいねがー」と高木が叫んだ。

 早乙女ユミが笑いながら「おっ、高木君久し振り。停学になった不良少女のユミだよ。すっかりナマハゲになったんだね。似合ってるよ」

 高木は早乙女の元気そうな顔を見て、そして可愛い笑顔を見て緊張がほぐれた。そして、久し振りに見る早乙女の顔を見てドキドキした。そして高木は恋を自覚した。なぜか、早乙女の笑顔を見て胸が痛くなる。ナマハゲのお面の下で高木は泣いていた、泣く子はいねがーと叫びながら。泣いているのは本人なのに。高木はナマハゲのお面の下で泣く、誰にも気付かれない様に。

女子高生ナマハゲ

執筆の狙い

作者 秋田寒男
110.165.195.252

ナマハゲを毎日やっている設定になりました(汗)本来は期間限定のお祭りです。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

感想など教えて下さい。


執筆の狙いは、感動的なお話しを目指しました。

コメント

偏差値45
219.182.80.182

一人称から三人称、また視点が変更している感じがするね。
そこはもう少し考えてもいいかも。

内容的にはよく分からない。ラブコメ? または、なにか郷土をアピールしたいのかな。
物語の狙いみたいものが見えてこないんだね。

加茂ミイル
58.89.136.15

発想が素晴らしいですね。
寒男さんだからこそ考え付いた設定で、個性的だと思いました。

文章もとても流麗で、読んでいてストレスを感じませんでした。

心温まる恋物語でした。

秋田寒男
110.165.195.252

偏差値45様

途中で視点を変えてみました、おかしかったかな?

読んでいただき感謝します。

秋田寒男
110.165.195.252

加茂ミイル様

読んでいただき感謝します。

恋物語と言って頂きありがとうございます。

ストレスなくよめたと言って言って頂き、今度は難解なお話を書いてみたくなりました。

水野
153.144.60.247

「執筆の狙い」によれば『女子高生ナマハゲ』というこの作品は「感動的なお話し」を目指して書かれたものらしいのですが、その目論見通り、私は今猛烈に感動しています。
ただこの感動は、作者が巧みに企んで図ったものとは異なる種類のものかもしれません。そう思うに至った経緯について、私は何より自分自身に対して説明を施そうと思います。

この作品の主人公の一人である早乙女ユミは、一言でいってしまえばナマハゲ狂いです。ナマハゲに関することしか眼中に無い。そして何より、ナマハゲのことをこんなにも愛する自分自身のことが、世界で一番好きであると誰に対してでも公言できるほどの手前勝手な女です。
本作のもう一人の主人公である高木君(下の名前が何なのかは作中では一切語られません)との久々の再会から物語は語られ始めていますが、ここで主役となっている「私」=早乙女ユミの頭の中にあるのは、自分の唇のことです。桜の散る印象的な光景すら、自分のキレイさを褒め称えるための道具にしかなっていない。
高木君にしても「将来性を見込み、心の中では『高木君』と呼んでいた。尊敬心を持って」の一文に代表されるように、自分の価値を押し上げるための案山子としてしか機能していない。これほど奔放な女は見たことがありません。

ただ、この作品が過去形で始まっていることに注意する必要があります。つまり、実地で実際に思ったことであるとは必ずしも言えず、手前勝手な思考の裏側に、隠された真実があるのではないかということです。
そういう疑いの眼差しで見ていくと、一見してでたらめな早乙女ユミというこの女が、私という読者の中で徐々に変貌を迎えることになります。最後まで読み終え、ナマハゲ狂いのせいで高木君が絶対に報われない恋をやっているのだということにほろりとした悲しみ(というか快楽)を感じつつ、再び最初から精読してみた時、早乙女と高木の関係に差異的変化が訪れる。実は彼女は、自分のキレイさ可愛さをこれでもかというくらい強調してみせることで、実はそれを誰よりも目聡く認めることのできている高木という男の価値を、暗に高めようとしているのではないのか。現に早乙女ユミは「そのほくそ笑みを見抜くかのように」や「私のような美少女をからかった自慢からか」など、彼の存在を自分自身の実在で以って肯定するそぶりを見せています。
そうすると、高木君が優秀で医者を目指していただとかその将来性を見込んでいただとかの情報は、未来の時点でまさにそうした将来が叶った時点において、いわば懐かしむようにして語られたものなのではないか。それが事実であるという根拠は本作にはありません。しかし少なくとも、そのような想像の余地を取って置けているという一つの真実を発見した時、私は年甲斐もなく欣喜雀躍してしまったのです。
どちらかといえば悲恋好きで、私であればそうした想像の余地を残すことなく、この二人が絶対に結ばれないための徹底した文字的仕掛けを施すところを、この作者は全く逆の展開の可能性を、しかも難なく企図できてしまっている。そうと安易に読者には悟られぬよう、時制の乱れを駆使したりなど、注意深く己を偽装しつつ。

作者自身に裏打ちされた「願い」ともいうべきものが語られずして語られているところに、読者としての私は物語に対する反感を抱くと共に、小説としての歓びを見出したところです。

秋田寒男
110.165.195.252

水野様

丁寧な感想ありがとうございます。

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