作家でごはん!鍛練場
百日百夜

毀れ(こわれ)

 貞和五年六月一日、京の空は澄んでいた。隼人は下げ髪を風に嬲らせ、四条河原の大きな舞台の中央で大きく息を吸い込んだ。
 勝手に舞台に立つなど許されるはずもない。誰もいない早朝、隼人はこっそり階を上った。緋毛氈が敷かれた舞台では、金銀に彩られた床几が朝陽を浴びてキラキラと光っていた。舞台の四方を囲み三重四重に桟敷が組まれている。全てが桁外れの前代未聞の規模だった。
ここで能較(のうくらべ)が行なわれるのだ。数え十六といっても一座から出たこともなく、まだまだ世間知らずの若造である隼人は、不注意で捻った足の痛みなどすっかり忘れ広大な桟敷と舞台にただ圧倒されていた。
 四条に大橋を掛けんという抖薮の沙門の呟きが元だった。聞きつけた小姓から僧侶、武士から田楽好きの執権北条高時の耳に届くと早かった。気紛れな呟きは御威光を得た勧進興行となり、京一(みやこいち)と評判の新座と、奈良吉野で古より絶技を誇る本座の勝負と相成った。
 希代の勝負を出来るだけ良い所でみようと、貴賎関わらず桟敷を組み上げその長さ、なんと八十三間にも及んだ。摂政関白家や大臣家の金襴の雅やかな桟敷には急拵えとは思えないほど凝った文様が細工され、天台座主のずっしりとした造りの席には漆まで塗り重ねられた。それらに負けじと諸殿上人に仕える武士、社寺の神官、僧侶らは五、六寸の材木を組み唐織の珍しい貴布を競うように敷いた。
 桟敷を見上げる形になった舞台の両端にはそれぞれが幟を掲げ、西に本座、東に新座と構えた楽屋を細い花道で舞台へと繋いでいた。楽屋は金糸の織り込まれた貴布で覆われ、ヒラヒラと風に煽られてまるで炎のように見える。楽屋の幕には纐纈(しぼり)の布を張り、舞台へ続く花道も緋毛氈が敷かれていた。
春先には清水寺が燃えた。この間は八幡の御殿が鳴動し、神社から皇居へ鏑矢が飛んだ。一連の奇怪な出来事は、天狗の仕業という噂もある。不穏な空気を誰もが払いたがった。
ふと小さな影が四重の桟敷の欄干をヒョイと飛び移るのが見えた。軽々と行き来する様に、まさか天狗かと目を凝らす。
「なんや、冴か」
 冴は新座の者だった。まだ数え六つの小娘だが少々頭が弱く、いつもヘラヘラと笑ってばかりで芸の覚えも悪い。その冴の赤い羽織が風に靡いていた。隼人の視線に気づいたか、冴が顔を向けいつものように腑抜けた笑顔を見せた。次の瞬間、冴の姿はなかった。
 驚いて見渡すと、地上に立っていた。
「落ちたんか、あいつ」
 羽織の砂を払い、冴は笑顔で隼人に手を振った。
「あないなところから落ちて笑とるとは、やはり阿呆やな」
 ほっとしたのと呆れたのとで、隼人は息を吐き、傍の曲彔(きょくろく)に目を遣った。下には紅緑色の織物がある。磨き上げられた艶やかな舞台にまもなく何千何万の目が注がれるのだ。
隼人は武者震いをして周囲を見渡した。楽屋の幕が揺れ慌てたが、出てきたのが妹弟子の藤夜叉だと知るとほっと胸を撫で下ろした。藤夜叉が駆け寄り興奮した口調でいった。
「凄いなあ。ほんまにここで踊りはるんか」
 甲高い藤夜叉の声に眉を顰め、隼人は東の空を眺めた。
「またや」
 腕を組み、忌まわしそうに顔を顰める。藤夜叉も隼人と同じ方角を眺め、あ、と小さな声を上げた。
「あれ、太白(金星)か」
 青い空の中に一際明るい星が見えた。その左右に辰星と歳星がある。
「昨日から並んどる。なんにもないとええが」
 不吉やなと隼人は独りごち、いきなり藤夜叉の頭を小突いた。
「あかんやろ、板に乗ったりしたら。御師匠に怒られるで」
 叩かれた箇所を押さえ、痛あ、と俯きながらもすんまへんと藤夜叉は頭を下げた。
「まあ気持ちはわかるけどな」
 自分のことは棚に上げ隼人は藤夜叉の頭を撫でながら楽屋へ進んだ。
 楽屋の中は衣装や小道具が整然と置かれ、まだ誰もいなかった。幕の間から差し込む陽が、色とりどりの装束を照らし眩しい。
 装束に当たらぬよう用心して狭い楽屋を進む。ついてくる藤夜叉に不意に袖を掴まれた。
「兄さま、御足をどうかされたか」
 瞬時隼人は足を止めたが、にこりと振り返り首を振った。
「どうもせぬ。道具に当たらんようにしとるだけや」
 藤も気をつけよ、といい置いて振り返った目の前に新座の頭領、花夜叉が立っていた。
「藤でもわかるものを」
 花夜叉の低い声が響いた。
「――御師匠さま」
隼人は僅かに後退る。
「隼人は本番には出さぬ。控えておれ」
「何を仰います、なんともありませぬ」
 慌てていい返した隼人の声が裏返る。花夜叉は隼人の傍に歩み寄り、矢庭に座り込むと隼人の袴を捲り上げた。
「――なっ」
 藤夜叉が思わず口を押さえたほど、隼人の足は腫れていた。踵から踝の辺りが赤紫に変わっている。
「これで稽古をしていたのか」
 花夜叉は顔色一つ変えず、腰を落としたまま隼人を見上げた。
「はい」
 口をへの字に結び、そう答えるのが精一杯だった。愚かな、と立ち上がった花夜叉は、隼人の横で口の端に微かな笑みを浮かべた。
「代わりは御主、藤が務めよ」
「お待ち下さい御師匠さま、藤は」
 思わず叫んだ隼人に花夜叉は冷たい目を向けた。
「藤は女子や、だがそれがどうした。化粧(けわい)をし、装束を着れば立派な童に見えるわ」
のう藤、と花夜叉は藤夜叉を見下ろした。
「出来るな」
藤夜叉の、はい、という声を聞き、隼人は身を固くする。
「少なくとも足を引き摺ることはなかろう」
 花夜叉はくるりと背を向けた。
「なれどお師匠さま」
「隼人、其の方に意見する由などない。桟敷で大人しゅう見ておれ」
 花夜叉は静かにいうと、楽屋を出て行った。
「――兄さま」
 藤夜叉は隼人の足を見下ろしたまま訊いた。
「わて、どないしたら」
「嗤え」
 自分でも驚くほど大きな声だった。藤夜叉は身体を震わせ隼人からから離れた。
「儂(わし)を嗤え、女子に役を取られた阿呆と嗤うがええ」
 怯えたまま途方にくれる藤夜叉に構わず、隼人は急いで花夜叉の後を追った。

「久方ぶりよのう」
 御簾の向こうから女御の声がした。
「はっ」
 建仁寺塔頭、西来院の旦那の間の端に控え、花夜叉は頭を深々と下げた。勧進興行高覧の為、女御らは前日からここに滞在していた。空梅雨のような晴天が十日ばかりも続いていたが、こじんまりとした方丈の前に広がる庭は青々とした緑を湛えている。
「わかっておるな、花」
「御意」
 花夜叉は頭を下げたまま答えた。
「恐れながらひとつだけ、お伺いしたい儀がございます」
「なんじゃ」
「准(じゅ)三宮(さんぐう)さまは姫君を如何なさるおつもりか」
「それは抗議か、花夜叉よ」
 花夜叉は、否、とだけいって唇を噛んだ。
「花らしゅうもない。長く手元に置き情でも移ったのか」
 女御は面白そうに笑い、御簾越しに続けた。
「案ずるな、ただ将軍にくれてやるだけじゃ。それだけで火種になるやも知れぬがな」
「言葉が過ぎました。お許しを」
 構わぬ、と女御は静かに続けた。
「して、富士乃の舞は見られるのか」
「――仰せのままに。准三宮さまに良く似ておられます」
「それは楽しみじゃのう」
 女御の含み笑いが方丈に低く響いた。

 未の刻。間もなく開演である。隼人は幕の間からそっと桟敷を覗いた。
 朝、まだ疎らだった桟敷には人が溢れていた。桟敷に上れない人々が茣蓙を敷き、綺麗に飾った牛車や馬の間から舞台を見上げている。目が眩み、幕を閉じて桟敷に背を向けた。花夜叉が藤夜叉を見下ろしているのが見えた。
「震えておるのか」
「御師匠さま」
 花夜叉の声に藤夜叉は顔を上げた。白粉を施し頬紅を刷き、切れ長の目の周りを赤く縁取った二人は超俗に佳麗だった。隼人は呼吸を忘れ、目を瞬いた。
「紅が取れておるぞ」
 弟子が隣から差し出した紅筆を手にすると、花夜叉は藤夜叉の前に屈み、半開きの唇に色を差した。
「呆けるな。美麗な顔が台無しじゃ」
 花夜叉は己に見蕩れている藤夜叉に、可笑しそうに笑みを向ける。
「案ずるな、稽古どおりにやればよい」
「――隼人兄は」
 藤夜叉の言葉に隼人は我に返った。花夜叉は隼人を一瞥したが、すぐにまた穏やかに笑んだ。
「そなたはこの舞台のことだけを考えておればよい。隼人のことは心配無用」
 師匠の声を聞きながら隼人は楽屋を飛び出した。足の痛みが急に酷くなったが、それ以上に胸が苦しかった。

 音取(ねと)りの笛が響いた。それを合図に東西の楽屋口にある鉦を打ち鳴らし、囃子方が舞台へと走り出る。次に西の本座から白く清らかな法師姿が八人、薄化粧の上に鉄漿を施して銀糸で紋を描いた裾濃の袴を帯で結び、綾藺笠を傾いで楚々と進む。
一方、東の新座からはこれまた美しく化粧を施した見目麗しい童が八人、繻子地に金糸で鳥や花々の模様を織り出した水干を着流し、半夏生を一本手にして花道を滑る。
 親王の正面桟敷の下段に特別に席を賜った隼人は瞬きもせず凝視していた。本来ならばあの中にいるはずだったのだ。皆が眩しげに眺めている舞台の上に。
八人の童の二番目にいる藤夜叉は頭一つ皆より小さかった。だが所作は少しも遜色ない。兄弟子に交じり、あるかなきかの笑みを浮かべて丁寧に四肢を運ぶ。本座新座入り混じった鉦太鼓の賑やかな音に乗り、半夏生を振りながら可憐に舞っていた。落ち着いた所作で舞う本座の連中とは対比を成し、抑えた若さが溢れ出る。
続いて現れたのは本座の阿古。簓(ささら)を振り回し派手に舞う。負けじと新座の彦夜叉が乱拍子を打ち鳴らして飛び出すと、その前を道一が短刀を放り投げては取る刀玉を演(や)りながら横切った。いずれも人間業とは思えない様に人々は目を奪われ、喝采を送る。
目が眩む。藤夜叉は可憐美麗で、伸びやかに舞っていた。碌に稽古などしていない。ただ隼人らの稽古を見ていたに過ぎない。
それがどうだ、あの堂々たる様は。
彦夜叉や道一の向こうに、見慣れたはずの藤夜叉の笑みが見えた。嫉妬や羨望を見透かされている気がして思わず目を逸らす。
その時、一際賑やかな太鼓の音が響き、俄に静まった。隼人は舞台に目を向けた。藤夜叉ら舞方と、囃子方は一斉に退(は)けていく。
興行の目玉、立合勝負の開始合図だった。
立合の題目は『恋』。歳を重ね比類なき名人とされる一忠と次代を担う新星と目される花夜叉。二人がどのように『恋』を見せるのか、数千の観衆は固唾を呑んで見守っていた。
『恋ひ恋ひて』
始めに動いたのは一忠だった。ゆったりと天に手を翳し、伸びやかな声が空に響く。
『恋ひ恋ひて』
 続いて花夜叉の謡が聞こえる。桟敷の隅々までしっとりと染み入るような艶やかな声に人々は嘆息を漏らす。不意に肩を叩かれた。
「兄さま」
 隼人は驚いて顔を向ける。
「――藤」
 急いで落としたのか白粉はまだ頬や首筋のあちこちに残っており、細帯は薄紫の衣を合わせただけのように雑に結ばれていた。
「一緒におっても」
 最後まで聞かずに手を強引に引っ張った。藤夜叉は転がるように座り込み、片膝を抱えてすんませんと小さな声で詫びた。
 舞台を見詰めた。緊迫感は息苦しいほどで、一忠が微かに息を吐くのが桟敷からでもわかる。だが隼人は舞台を見ていなかった。
 いや、一心に見てはいる。だが心はそこにない。隣から漂う微かな紅の匂い。花夜叉と同じ香なのは、師匠自らが藤夜叉に紅を引いた証だ。
 僅かに藤夜叉がにじり寄る。反射的に隼人は藤夜叉から離れる。だが桟敷は正装した従者で溢れており、舌打ちをされ慌てて戻った。その拍子に藤夜叉の胸が腕に当たる。隼人は身を固くした。打ち身の足が痛み顔を顰める。膨らみ始めたばかりの胸を隼人の腕に当てたまま、藤夜叉は、凄い、と身を乗り出す。
『さしさしきしと抱くとこそ見れ』
 朗々とした一忠の声が酷く遠くに聞こえた。隣に座る藤夜叉の顔を見ることが出来ない。「兄さま、わてちゃんと出来てましたか」
 藤夜叉の声は震えていた。ああ出来ておった、誰よりも佳麗だった、といいかけたが、フンッと鼻息が漏れただけだった。
「兄さまの代わりなんて、務まるわけがない」
 失望したように藤夜叉が続ける。違う、といいたいのに顔も向けられない。
「兄さまは御師匠の一番弟子やから、わかりまへんやろうけど」
 涙声なのは何故だ。隼人はやっと隣を見た。同時に藤夜叉の目から涙が滑り落ちた。
「――どうした」
 驚いて掛けた言葉は擦れていた。指で涙を拭ってやる。目尻に残った紅が一緒に流れた。
「これが終わればわては返さるやも知れん」
 隼人は目を瞬いた。
「どういうことや」
 藤夜叉は涙の筋を頬に残したまま笑んだ。
「わてはある方の庶子で、御師匠に預けられているだけにございます。この勝負で、もし御師匠が負けることあらば戻るようにと」
 笑んでいるのに声は消え入るように震えている。隼人は言葉を失い、舞台に目を転じた。飲み込めなかった。
「女子に生まれた以上、致し方ないことやとはわかっておりますが、辛うございます」
 隼人は思わず藤夜叉を抱き寄せた。
「誰にも渡しとうない」
 思わず口走った言葉に、自分でも驚く。
『恨みは末も通らねば』
 一忠の声が滑らかに響いた。離れとうおまへん、と藤夜叉が歌うように呟いた。隼人は顔を傾け、藤夜叉に口づけた。
 兄さま、と重ねた唇の下から声がした。藤夜叉の唇は柔らかく心許なくて、隼人はやがて貪るように藤夜叉を吸っていた。
 周囲がざわつき、隼人は我に返ったように顔を離した。潤んだ眸で見上げる藤夜叉の息も荒い。徐に舞台を見た。
 途端に花夜叉の視線とぶつかった。花夜叉は片手を水平に上げ、傾いた首のままで瞬きもせず隼人を見ていた。
 舞が止まっている。
 一忠が軽く咳払いをした。花夜叉は刹那身を震わせ、また何事もなかったかのように舞い始める。
 勝負はあった。花夜叉は負けた。ほんの僅かだが、確かに花夜叉の動きは止まった。呆気ない幕切れに、さきほどまで熱気に包まれていた桟敷は違う類の熱を帯びてきた。怒号が沸き人々が立ち上がり、拳を振り上げたまさにその時、楽屋から小猿が飛び出してきた。
 イヤ、小猿ではない。小猿の面を被った童だ。回転しながら跳躍し、傍の桟敷の欄干を大きく飛び回る。彦夜叉らも賑やかに拍子を打ち、囃子方が総勢で舞台に出てきた。
 小猿は奇声を上げながら思い思いに拍子を取る舞方の隙をぬい、花道を軽々と行き来したかと思うと楽屋の屋根にヒョイと乗り、宙返りをして前の桟敷に飛び移る。二間はあろうかという屋根と桟敷の間を、である。
「あれは天狗か」
 隼人が呟くのも無理はない。人間離れした曲芸を次々と繰り出しながら、上手(かみて)下手(しもて)と小猿は飛び跳ねていた。人々は日吉神社の山王さまじゃと狂喜し、やんやの喝采を送る。桟敷が揺れ、欄干や掛け梯子が落ちるのも構わず誰もが大歓声をあげていた。
「負けはったんか」
 藤夜叉の声に横を見る。呆然と舞台を見る横顔は色を失い、口元が震えている。
「負けはったんか」
 隼人は舞台に目を遣った。いつの間にか花夜叉の姿は消えていた。
「いくぞ」
 隼人は藤夜叉の肩を抱いたまま立ち上がる。藤夜叉はまだ、負けはった、と呟いていた。しっかりせいと怒鳴りつけた藤夜叉の向こう側の桟敷で、誰かが緋扇を翳すのが見えた。鮮やかな緋色に目を奪われた瞬間だった。
地が揺れた。ドオッーという地鳴りがして、隼人は倒れた。忽ち身体が軽くなる。足元から崩れていく。慌てて藤夜叉の腕を掴み傍の格子にしがみついた。
たった今までの歓声は悲鳴と代わり、桟敷は真中から崩れ落ちていった。三重四重と組まれた木材が寄木細工の玩具のように軽やかに外れて弾かれていく。
「藤っ!」
 掴んでいた腕が離れ、藤夜叉の身体が木材と共に落ちた。巻き上がる土埃に呑まれ薄紫の小袖はすぐに見えなくなった。
目を凝らしても様子は見えず、握っている格子も今にも崩れそうでどうにも仕様がなかった。下からは牛や馬の興奮した声や赤子や女の悲鳴、断末魔の叫び声に交じり嗤い声も聞こえる。
 隼人は埃に痛む目を何度も擦り、必死で足場を探り下りていく。助けを求め伸ばされる手を振り払いながら血走った目で藤夜叉だけを探していた。
舞台に立つ藤夜叉に初めて憎悪を感じた。だが隣にきた藤夜叉をこれまた初めて愛おしいと思った。今はただ、もう一度藤夜叉を腕に抱きたかった。兄さま、と無邪気に笑う顔を見たかった。すぐ横の残った足場に人々が鈴生りになり、やがて大きな音を立てて倒れていく。頭上だけではなく、左右前後からも大小の木材や楔が倒れ、飛んで落ちてきた。必死で避けたが、瞬く間に手足は傷だらけになる。それでも止まるわけにはいかなかった。血で滑る掌を腰で拭い、隼人は降ろした足を思わず引っ込めた。俄に切れた砂埃の間から見えたのは、地面を埋め尽くす人々だった。隼人のすぐ下にあったのはまだ幼い童女で、その腿を踏んでしまったのだった。
用心して辛うじて見える土に足を下ろす。良く見ると童女の両腕はなく、傍に抱えていたであろう赤ん坊がいた。目を剥いた二人にもう息はない。
「藤ッ!」
 隼人は咄嗟に首を廻らした。阿鼻叫喚の中、半裸で倒れた者がいる。崩れた柱に押し付けた女を犯している男がいる。曲がった刀を振りかざし、僧侶の見事な墨衣を奪う輩がいる。手足に怪我を負い、動けなくなった者の持ち物を手当たり次第に漁る子らがいる。
「藤、どこだ、藤夜叉ぁっ!」
 叫んだと同時、ギャッと男の悲鳴がした。見ると首から血飛沫が飛んでいた。男はその場に背中から倒れ、向こうに刀を構える姿が見えた。
 思わず後退った隼人は、目を瞬いた。
「――藤」
 両袖を抜いて殺気を漲らせているのは、紛れもなく藤夜叉だった。
「藤か」
 三間ほど隔て、隼人は藤夜叉を見詰めた。藤夜叉は隼人を認めると不意に晒の間から出した何かを隼人に向かって投げた。
「うっ」
すぐ後ろで声がし、慌てて振り返ると大柄な風体怪しげな男が胸に小刀を受けていた。縋るように隼人に手を伸ばし、倒れた。
「早う、こちらへ」
駆け寄った藤夜叉が隼人の腕を掴む。
「御主、いったい」
「早ういきますえ、死にたいんどすか」
隼人の知らぬ低い声でいいながらも周囲を窺っている。
「行くったってどこへ」
「とにかく桟敷を出んと、命がいくらあっても足らん」
いう間にも二人の上質な装束を狙って得体の知れない男らが飛び掛ってくる。藤夜叉は顔色一つ変えずそれらを一太刀で切り伏せていた。ヒュンと音がして刀が振るわれるたび、身を竦ませる隼人とは正反対だった。
「ほれ、兄さまこちらへ」
藤夜叉は足に縋る男の手を蹴飛ばし、隼人の手を取って走り出した。その間にも誰かが振りかざす枝や石礫が飛んでくる。二人は鴨川に向かって駆けた。割れた頭や落ちている手足を見ないようにしても胸が悪くなる。肉と血腥い死臭に隼人は幾度も吐き、喉が痛くなった。足の感覚はもうない。
どうにか河岸に辿り着き、鴨川を覗き込んで言葉を失った。透明な清水が緋色に染まっていた。浅瀬には多くの亡骸が引っかかっている。隼人の目の前を、生まれて間もないであろう赤子がうつ伏せのまま流されていった。珍しい貴布で包まれているが生きているのか死んでいるのか確かめる術もない。仮に生きていて何が出来ようか。隼人は手を伸ばすこともせず、呆然と赤ん坊を見送った。そのすぐ下流でザブザブと川に入った男が赤子の布を剥ぎ取った。男の顔が鬼に見えた。鬼は赤子の身包みを抱え満足そうに次の獲物を探しに消えた。
「のう兄さま」
 藤夜叉は逃れてきたばかりの崩れた桟敷に目を遣った。
「今朝までわて、諦めてました」
「――諦めていた」
 あい、と藤夜叉は頷き、隼人の腕から血が流れていることに気づくと、袖を裂いた。
「抗ってもどうしようもない、新座での楽しかった日々を大事に父上の側妾でもなんでも耐えようと」
 待て、と布を細く畳む藤夜叉の手を取る。父と聞こえた気がした。藤夜叉は心得たように笑んだ。
「あい。母御は父上と密かに通じ、わてを産みました。父上はそのことを知りません。母御にそないなことは全くどないでもええこと。あの御人は、手駒が一つ増えたくらいにしか思うておりまへん」
「手駒、とは」
「わては御師匠に間者として仕込まれておりました」
 言葉を失う。十余年も寝食を共にしていたのに少しも気づかなかったのだ。むしろ不器用な妹弟子だと思っていた。
「御主は捨子ではなかったのか」
「全てを欺く嘘にございます。このことを知っているのは御師匠と母御、そしてわてのみ。御師匠は見返りに京での御上からのお墨付きを賜りました」
 隼人が物心ついた時、すでに新座は京一の芸能集団だった。だが十数年前までは五人にも満たないアルキ巫女と申楽師の寄せ集めだったと聞いていた。
「何も、知らなんだ」
 それでええんどす、と笑みを深め血止草を手の甲に擦り付け手早く軟膏を作ると、隼人の腕に塗り拡げ手早く端布を巻きつけた。
「そやけど上から見た世は違いました」
「上から」
「あい、舞台の上から。数え切れんほどの人がわてらを見て嬉しそうに手拍子して喜んでくれはる。なんや、なんでも出来そうな気がしましたんや。ホンマ、空も飛べそうな気ィ、しましたんやで」
 藤夜叉は嬉しそうに笑い、隼人を見上げた。
「この大川の底には何があるんや、この空の上には、この地の下には何があるんや。のう兄さま、知りとうないか」
 今、身の丈に余る太刀を差し、抜いた両袖から血塗れの晒を見せ、隣に立つ藤夜叉は隼人の知らない女だった。いつも兄さま兄さまとついてくる藤夜叉は可愛らしくはあったが、むしろ足手まといに感じていたほど要領が悪かった。だから今朝、花夜叉が藤夜叉に代役を命じた時に歯噛みしたのだ。舞台で藤夜叉の舞を目の当たりにした時の違和感と嫉妬が、裏切られたという思いと共に再び胸で騒ぐ。
 全てが芝居であった。花夜叉が藤に夜叉の名を与えた意味がやっと腑に落ちた。藤夜叉は文字通り夜叉なのだ。
「わてはここで死んだことにする」
 藤夜叉の言葉に我に返る。
「兄さま、一緒にいってくれるか。わてを連れていってくれますか」
 藤夜叉は腰袋から見事な懐剣を取り出した。隼人は思わず息を呑んだ。細かい細工が施され見たことのない色石が埋め込まれた金色に光る懐剣は眩しかった。だがそれより目を奪われたのは鞘に施された唐花の紋だった。
「そなたの御母上はもしや、阿野――」
「これは出自を明かすもの。背格好の似た女子の面の皮を剥がして火を点け、これを持たせておけばわては死んだことになります」
 問いを遮った藤夜叉の言葉を咀嚼し、隼人は身震いした。面の皮を剥がし火を点ける、だと。
「何をいっておる」
 なあ兄さま、と真っ直ぐに隼人を見ている。
「わての羽になってくれるか。わてはここから飛びたいんや」
 兄さまと一緒に、と続ける藤夜叉の目に撃ち抜かれた。否、ずっと愛おしかった。いつからかわからぬほどずっと前から、この娘を欲していたのかも知れない。
だが躊躇った。藤夜叉は平気な顔で人を殺める。今まで己を護るため、幾人を切り伏せてきたのであろう。感じたことのない恐怖が返事を迷わせた。藤夜叉の言葉を信じるのは紕繆かも知れない。藤夜叉の手の中にある懐剣の唐花の紋を睨みながら懸命に考えた。
「儂でええんか」
 隼人は藤夜叉を見詰めた。凜とした藤夜叉の顔に、真贋を問うのは無意味だ。覚悟が必要なのは隼人のほうだった。
「兄さまと一緒やったら、なんでも出来ます。どこでも参ります」
 藤夜叉を抱き寄せた。血と汗の匂いはどちらのものか。隼人は深く息を吸い込んだ。
「富士乃さま」
 すとん、と目の前に下りてきたのはあの猿だった。いや、冴だ。
「冴、御主だったのか」
 驚く隼人には見向きもせず、小猿の面を後ろに廻し脇差を手に頭を垂れた。藤夜叉は晒の間から出した文を素早く冴に握らせた。
「大儀であった。それを花夜叉殿に」
 冴は頭を下げると目にも留まらぬ速さで去った。冴の居た場所に二寸ほどの楔がある。呆然とする隼人の前で藤夜叉は吐き捨てた。
「あれは母御の手先。わての見張りよ」
「まさか」
「桟敷を崩したのも恐らくあれの仕業。その楔が証であろう」
「何故」
「さあな。彼奴の考えることはようわからぬ」
 あの敏捷な猿が冴だとはどうしても信じられなかった。しかし感覚は麻痺し、何があっても大して驚きはない。さあと藤夜叉の手を取った。が、衝撃と共に身体が吹っ飛んだ。
「――花、夜叉め――が」
 藤夜叉の声に視界が朧に戻った。大木を背にし隼人は藤夜叉の肩に頭を預けていた。目を瞬くとみるみる温い血が溢れていくのが見えた。隼人は藤夜叉と共に射抜かれていた。
「ふ――じ」
 声にならない。擦れた息は辛うじて音になった。二人の真中に羽矢が真っ直ぐに突き刺さっていた。木に凭れて顔を上げる。向こう岸に花夜叉の姿が見えた。弓を手に、長い髪を風に嬲らせてこちらをじっと見ていた。矢に付けられた羽を眺め、これで飛べると隼人は空を見上げた。黒雲の中に三ツ星が並んでいる。
ヒトとは愚かやのう、と愉快そうな冴の声が傍らで聞こえ、嗤いながら飛び去る天狗の背中を隼人は最期に見た。降り出した雨の音はもう隼人にも藤夜叉にも聞こえなかった。
(了)

毀れ(こわれ)

執筆の狙い

作者 百日百夜
61.197.152.253

太平記に題材を得た短編です。忌憚なきご意見を伺えたら嬉しいです。
よろしくお願い致します。

コメント

夏目 吉春
114.159.221.17

百日百夜様こんばんは
 始めのうちは舞の競演のようだが、どの様な演目なのだろうと首をかしげておりました。すると突然舞台がくずれて急展開。これから物語が始まるはず、--死亡。片膝をつく私。

>「案ずるな、ただ将軍にくれてやるだけじゃ。それだけで火種になるやも知れぬがな」
  これの意味するところは、読者にお任せなのでしょうね。

>青い空の中に一際明るい星が見えた。その左右に辰星と歳星がある。
>「昨日から並んどる。なんにもないとええが」
  ここにフラグが立っている事から、私はそう考えました。みなまで申し上げませんが。

 私も時代ものに手を染めております。百日百夜様の作品を拝読いたしまして皆様から戴いたコメントが改めて分かります。読めない漢字が多いという事ですね。これは作品に対する時代への教養が足らないことに起因するのは確かです。
 もう少し藤夜叉の活躍が観てみたかったです。ありがとうございました。

月天心
219.100.84.36

歴史もん得意じゃない(日本史に疎すぎる)んで・・
『ごはん』に上がって、スムーズに完読できた歴史小説は、「村上の御時……」から始まった下人の話だけだった気がします。

そんでも、夢枕獏とか、宮城谷昌光は、すすすーっと読める(た)のです。酒見賢一も。
冲方丁の『天地明察』なんかは、本屋で冒頭試読しはじめちゃったらやめらんなくて、ハードカバー即買いして、1日で完読だった。
それらの人々は、やっぱ「書き出しが的確で、読者親切」。(お陰で入り込みやすさ桁違い…)


本作の書き出しは・・

 >貞和五年六月一日、京の空は澄んでいた。隼人は下げ髪を風に嬲らせ、四条河原の大きな舞台の中央で大きく息を吸い込んだ。
 勝手に舞台に立つなど許されるはずもない。

↑ この段階で「予備知識のまったくない読者であるワタシ」が思い浮かべちゃってたのは、

 ・三条河原の打ち首とかそーゆー「刑場」的なもん?
 ・『天地明察』とか『三国志』に出てくる、「天壇」的な? 占い/祈祷/天体観測用途の?

だったりしちゃった。
主人公が何もんなんだか、どんな光景なんだが、現状だと「冒頭に書かれてない」もんで〜。

 >ここで能較(のうくらべ)が行なわれるのだ。

うん、それならそうで、

 《貞和五年六月一日、京の空は澄んでいた。四条河原の大きな舞台——ここで能較(のうくらべ)が行なわれるのだ。
 舞台には緋毛氈が敷かれ、金銀に彩られた床几が朝陽を浴びてキラキラと光っている。舞台の四方を囲んで、三重四重に桟敷が組まれ……全てが桁外れの前代未聞の規模だった。》

とかゆー記載順序の方が、ヴィジュアルがイメージしやすいんです。


画面、途中までスクロールして目についたとこだと、

 >「あれ、太白(金星)か」
 >青い空の中に一際明るい星が見えた。その左右に辰星と歳星がある。
 >「昨日から並んどる。なんにもないとええが」

↑ ってな記載も…… まあ通常だと、多少うるさくなっても「現代語解説」を入れ込んで書くかなー、自分なら。

太白と歳星(木星)はいいのです。よく見る惑星だから〜。
問題なのは「辰星」。これが肉眼で見られる事自体が、非常〜〜に珍しいんで、その目視条件が気になったのと、「作中人物の天文知識レベルの高さ」に必然性と意味はあるのか?? って。

ともあれ、その光景を見て、作中キャラは何やら「凶兆」を感じ取っている。
水星って、禍々しい予兆をもたらす存在でもないようなイメージ。木星は「吉」だろうし。。

凶兆を覚えているその星回りのこの時、「火星と土星はどなってんのかな??」と、くだらない事が気になりました。



本文はまったく読んでないんです。ごめんなさい。

瀬尾辰治
49.98.60.251

百日百夜さん、
桁外れの前代未聞の規模だった。
ここまで読みました。

(視点、書く順序)、主観の書き方。
もう一度、手直しされたらどうですか。

瀬尾辰治
49.98.60.251

書き忘れていました。
読めない漢字がありました。

瀬尾辰治
49.98.60.251

あと一つ、素朴な疑問。
この書き方だと、客は舞台の床も見えないかな? そんなふうですね。

匿名
126.209.38.128

  
 世界観自分勝手独走
 本格派目標計画杜撰 
 平易背景情景人物要工夫

ポキ星人
106.73.96.160

 貞和5年は1349年、室町時代の初期で北条高時はとうに死んでいるはずです。
 太平記27巻 >洛中(らくちゆう)に田楽(でんがく)を翫(もてあそ)ぶ事法に過たり。大樹(たいじゆ)是を被興事又無類。
とありますから、このとき田楽を面白がっていたのは大樹=征夷大将軍足利尊氏です。
 同 >関東(くわんとう)亡びんとて、高時禅門好み翫(もてあそび)しが、先代一流(ひとながれ)断滅しぬ。よからぬ事なりとぞ申ける。 
という一節がありますが、これは、かつて北条高時が田楽にふけったために鎌倉幕府は滅んだのだから田楽を盛大にやるのはよくない、とかいうことで引き合いに出しただけだと思います。

 http://www.j-texts.com/taihei/tk27.html

百日百夜
61.197.152.253

夏目 吉春さま

 初めまして。お読み頂き、ありがとうございました。

 自分ではまったくどこがどうなのかわからず、皆さまのご意見を伺ってそうなのかと思うところが沢山あります。

 ストーリーに関しては、太平記第二十七巻の一部をそのままなぞっています。ただ花夜叉、藤夜叉は実在の人物ですが拙作ではフィクションで描いてます。隼人は完全に創作。
 ちょっと太平記に甘えた所があった気はします。書いておいてなんですが、私はストーリーをあまり作らないので、最後に藤夜叉と隼人が死んでしまったことは想定外でした。無理に終わらせた感があるのは自分なりに枚数設定があったからです。

 漢字表記に関しては今回は、やり過ぎたと自省してます。昔、数百枚の時代小説を投稿した時にもこのことは悩んだのですが、お読み下さった方々はそれほど煩くない、と概ね肯定的な意見を下さったのでそれ以降、時代小説に関してはやや古めかしい言葉や読めない(書けない!)漢字も多用してます。が、今作に関しては失敗だと思います。匙加減がなんとも難しい。

 何が悪いのか一人ではちっとも分からなかったので、ご意見を頂けてありがたいです。
懲りずに今も時代物を書いてますが、草稿が酷くて推敲とかいうモノじゃなく、結局書き直してしまってます。
 頂いたご意見を生かし、精進致します。末筆ながら、夏目さまのご活躍を期待しております。

 貴重なお時間を頂戴し、ありがとうございました。

百日百夜
61.197.152.253

月天心さま

 初めまして。感想、ありがとうございます。

 冒頭、確かに苦手です。本当に苦手。今書いている時代小説もとりあえず最後まで書いてみましたが草稿酷くて、結局書き直している有様です。

 最初にシチュエーション、主人公などを持ってくるのは鉄則なのに、指摘頂くまで分からないとは情けない。描写が下手、とはずっといわれております。

 あと、星云々の件ですが太平記の前段に、
『又同六月十日より太白・辰星・歳星の三星合て打続きしかば』というのがあったので、人々が空を見上げてなんやら悪い予感めいたものを噂している、という感覚が(勝手に)あったので使いました。ですが必然性があるのか、と問われたら首を傾げてしまいます。勉強します。


 苦手と仰る時代モノに感想を頂き、恐悦です。ご指摘頂くまで星の並びなどには少しも引っかかりを覚えなかったので、本当に勉強になります。

 お時間を頂き、ありがとうございました。

百日百夜
61.197.152.253

瀬尾辰治さま

 初めまして。お読み頂きありがとうございます。

 ~まで読んだ=~から読めなくなった、というのは久し振りでちょっと嬉しいです。ありがとうございます。いえ、喜んではいけないのですけど、いつも個人的にお読み下さる方々はみんな無理にでも読了下さるので、素直に、あかんわ、と仰って下さるのは本当にありがたいです。

 読めない漢字、私も今作に関しては沢山あります。読めない書けない。ただ太平記をテキストにしたので、そこはモロに使いました。分からなければそれでもいい、とある程度覚悟はしたのですけど、今作に関しては失敗だったと皆さまのご意見を伺って分かるようになりました。

 あと舞台、桟敷も結構乱暴に組んだ印象があったので、見えないところも沢山あると思います。お偉方のところから見えればいいので、って感じです。

 書き直しの件。結構弄りまくってこの程度です。骨格自体は好きなのですが、今の筆力でこれ以上のものになるとは思えないのでこれはとりあえずお蔵入りにするつもりです。だからここにUPした、というのもあります。

 ヘタですが時代小説を書くのは楽しいです。勉強は底無しにしないといけませんが、それもまた楽し、です。ご意見を伺えて色々目から鱗でした。

 お時間を頂き、ありがとうございました。

 

百日百夜
61.197.152.253

匿名さま


 初めまして。ご感想を頂き、ありがとうございました。

 漢字だけでも意味は通るものなのですね。しかもきっちり要点が集約されておりますし。
 枚数の割りに、色々詰め込み過ぎたなあという感じはあります。世界観は好きなのですけど、独走というより暴走しているのは理解しました。

 鮮やかな舞台と崩れての地獄絵図を展開できずに残念ですが、現状の筆力と理解して一層精進します。

 ご意見ご感想、本当にありがとうございました。

百日百夜
61.197.152.253

ポキ星人さま

 初めまして。お読み頂きありがとうございました。

 はい、やってしまいました。尊氏公のつもりで書いてたのに、何故に北条氏にしたんだろう。書いたのは結構前なので、その時のプロット見ても思い出せません。すみません。。
 ご指摘の箇所も理解しておりました。こういう絶対ダメなミスが結構多いのです、私。男女間違ったり名前間違ったり。検索掛けてチェックはするんですけどね。反省です。

 ご指摘、ありがとうございました。今後に生かして邁進致します。貴重なお時間を賜り、
本当にありがとうございました。

ポキ星人
106.73.96.160

太平記は未読ですが能の話はいくらか知っていたので、「タイタニック」がやりたいんだろうと早めに見当がついたせいか、一応滞りなく最後まで読めました。読了後に先日指摘の疑問が浮かんだので、太平記の該当部分だけをネットで読んだところ、御作の情景描写は結構原文に忠実そうに感じました。
 それをもっとわかりやすく、というと用語の説明に走りそうなのですが、私が言いたいのは、原文に忠実にすぎること自体を少し再考してほしいということです。御作には太平記の作者が書いていることは書くけど書いていないことは書かない、という傾向が感じられ、忠実である分だけ太平記の作者の視点にとらわれてしまっているように見えます。あくまで一例ですが、おそらく太平記の作者は都に橋のない大河があること自体には深い疑問をもっていないせいで川の描写が皆無なわけで、現代人が読む御作がそれを踏襲してしまえば迫力や具体性を欠くだろうと思います。現代化というのは翻訳や用語説明につきるものではなくて、太平記作者の視線自体を現代人の視点から相対化してほしいということです。
 一般の方が趣味で書いたブログだと思いますが、太平記の該当部分をわかりやすく紹介したものをあげておきます。https://blogs.yahoo.co.jp/qqjkm776/9279474.html (この頁の後半とブログの次の頁を見てください) こういういかにもオヤジっぽい下ネタをやれとか、くだけた調子で説明的に書けということではもちろんありません。ただ、この方が太平記の作者の側ではなくて、あくまで現代の俗人の方に自分を置いていること、原文から自在に離れながらもうまく取り入れていること(田楽が不吉だ、という一節への言及のしかたなど)に着目してほしいと思います。語り手の視野の広さが生んだ闊達さによって読者の納得感を引き出すという方向性を、見習ってほしいということです。こうした態度のもとで格調高い文を書くことはできるはずですし、そうであれば用語説明はむしろ減らせるかもしれないと、私は希望的な観測を持っています。

 御作の能較べは八百長でわざと負けたみたいに読めるんですが、みんなが知ってるあの勝負は実は八百長だったんです、ってのならありですけど、そうでない以上、やっぱり、本気で勝負を賭けたのにあんなやりかたで負けてしまう、という話にした方が面白いと思います。世阿弥が言ってるのも、舞台では芸に専心して何があっても緊張の糸を切ってはいけない、という意味だろうとは思いますけど、一忠がわざと咳をしたら気を取られた花夜叉が思わず止まってしまったのでそれで負けた、というのは勝負事としては巌流島っぽいいかがわしさもあるわけで、そんな怪しさや負けた側の悔しさを筋書きに生かす方を私としては読みたかったです。
 歴史小説としては、この勝負に時代精神が象徴されてほしいし、使いやすい題材だったのではないかと思います。天皇というこれ以上ない正統性をもった存在による建武の新政が、そのあまりの正しさ指向ゆえに瓦解して間もない時期、天皇が二人いた時期、尊氏が弟直義を出家に追いやった年、というのがこのころで、それらは結局すべて、尊氏=一忠流のずるい「力」が勝利しているからです。ですから北条高時とか書いてしまったのは、作者が、作劇にあたってこうした歴史状況への目配りを欠いたことを示すもので、単なるケアレスミスではないと私は思います。

 御作の読後浮かんだのは「怪獣映画」です。突然ですが、私が見ていない映画「ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS」のwikipediaのストーリー欄から一文を引用します。>ゴジラと死闘の中、モスラが倒され、機龍もアブソリュート・ゼロを外し、エネルギー不足に苦しむも関東地方を丸ごと停電にして機龍のエネルギーに回すという大胆な作戦で乗り切り、ゴジラとの戦いは終盤へ向かう。……「ああ、そうですか」としか言えないんじゃないでしょうか。作り手がそうしたんだからきっとそうなんでしょう、と。この「ああそうですか感」がなぜ怪獣映画に特徴的なのか、つらつら考えるに、作中の摂理の架空度が高いのでストーリーがなんでもありになること、怪獣の戦いという見せ場こそが主体なので、ストーリーはそれを導くだけの従属的な存在に堕しやすいこと、のせいで、ストーリーが作り手にとって必要性があるだけで受け手にとっての必然性を欠きがちだからです。
 御作でも例えば藤夜叉は能較べの後一座を去らねばならないらしいとわかってから間もなく、実は藤夜叉は間者だったのだ、とか言われると「ああそうですか、作者がそういうんだからそうなんですね」と思ったし残りのストーリーもほぼそんな感じです。中世のわからなさや情緒性に甘える形で黒幕らの行動原理の必然性をあまり顧みなかったこと、能較べと桟敷の崩壊という見せ場に従属してそれにはめ込むようにストーリーを作っていること、が怪獣映画化の原因だと私は思います。

 「史実である見せ場へのはめ込み」という姿勢を考えるにあたり私が白状しなければならないことがあって、実は私は「タイタニック」も見ていないのです。タイタニックが沈むことは明白であって、見せ場は豪華客船の沈没シーンのスペクタルでしょうから、見てない私が予想する筋書きは怪獣映画と大差がありませんが、そんな映画がなぜうけたんでしょうか。邪推するに、あれが沈む(んですよね?)のは、おそらく階級社会の終焉とテクノロジーへの過信の始まりという時代を象徴するのだろうと思いますが、たぶんディカプリオとヒロインの人物像が、そういうものを背負う形で逆算して造形されているのではないでしょうか。
 御作に戻れば、桟敷が崩れるとは何が崩れるのですか。その崩れの何を登場人物が背負っているのでしょうか。どうも御作では、桟敷が崩れるのは史実であってそれ自体は作者の検討の対象ではなく、ただその有様の克明な描写と、(見せ場を導くための)意外な裏話が存在するだけだからそっちで頑張ろう、という態度を感じるのですが、それは「タイタニック」の制作陣の貪欲な態度とは違うのではないかと見てもいない私ですら思います。

 歴史小説を書くにあたりあまり難しいことは考えないという態度は、「怪獣映画の傑作」を作れるタイプの才人にしか許されないもので、面倒でもいろいろ考えた方が結局容易なのではないかと今回私は思いました。このエピソードに注目した作者の秀逸なセンスを生かすならその方がよかったように思います。

百日百夜
61.197.152.253

ポキ星人

 御読み頂いた上、ご丁寧な感想を頂戴しありがとうございます。
 一応、という前置きがありますが滞りなく最後まで読めたと仰って頂き安堵しました。

 タイタニックをやりたかったわけではなく。。
 というか、私は見えてきたものを書き止めてるだけで作らないのです。世阿弥を調べているうちに一忠に辿り着き、この桟敷崩れ云々から太平記のこの部分に至ったのですが、繰り返し読んでいるうちに勝手に脳内再生されたのが拙作、です。
 原文に忠実過ぎるというご指摘は、ここに上げて皆さまのご意見を伺ううちに理解できるようになりました。特に舞台に関してはほぼなぞっていますよね。。
 
 それから、意図したとおりに読まれていない、という弱点も最近は思い知っております。地味なところでいいとこまでいったりして短い書評を頂くこともあるんですけど、そうじゃないんだよ! としか思えないことが書いてあったりして悔しい事が多いです。
 原文では、一忠が咳を(意図的に)して動揺した花夜叉の動きが止まった、と私は解釈していますが、拙作は、隼人と藤夜叉がキスしているのをみて花夜叉が動揺して目が釘付けになり、一忠は助け舟を出すつもりで咳をした、と書いたつもりです。が、あくまでつもり、に過ぎなかったようですね。。花夜叉は藤夜叉に好意(恋ではなく、所有物の感じ)を持っていて、まさか勝負に負けるとは思ってもいなかったので、最後に隼人と逃げようとするのを見て取った花夜叉が二人を射た、ということです。

 崩れたのは隼人の価値観。桟敷が崩れ、藤夜叉の本性を知り、藤夜叉も逃亡する千載一遇のチャンスと隼人を利用しようとした。が、全部天狗=冴の気紛れか暇つぶしに過ぎなかった、と。原文ではこのあと大雨ですべてが流された、とあり、そこまで書きたかったのですが、枚数オーバーでここまでになりました。

 歴史状況への目配りを欠いた、というご指摘には猛省します。尊氏の落胤云々は不要だと仰る方もいたのですが、前述の通り見えたものを書いているので悩みましたが残しました。結局書き切れていない、ということになりましたが。

 怪獣映画云々のお話。拙作はよくありえない、とか漫画みたいとかいわれます。けれど自身のことはもっとありえない人生で、事実は小説より奇なりだと思っています。つまり奇抜なストーリーの問題ではなく、私の場合は単にどれだけ読者が納得いくようにストーリーに落とし込めるか、が問題なのだと思っています。藤夜叉が間者である必要があったのか、と問われれば、あの地獄から身を守るためには必要だった、と思っています。彼らは私の頭の中では確かに生きていて、それを出来るだけ生き生きした文章で表すこと、それが課題です。
 まだまだ拙い筆力ですが、文章は書くほどに巧くなると信じています。何やらこちらでは読者も作者も、以前あったようなリスペクトも見られず切磋琢磨する姿勢に欠ける方々が多いと残念に思っておりましたが、貴殿のようなご意見を頂けて嬉しかったです。続けて精進致します。
 貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。

百日百夜
61.197.152.253

ポキ星人さま

 連投すみません。前の返信の冒頭、敬称抜けておりました。お詫び致します。
申し訳ありませんでした。

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