作家でごはん!鍛練場
ほな

バスの行先

 朝のバス停にはすでに人の列ができている。
(今日も仕事かあ。行きたくないなあ)
 列の最後尾に並びため息をつく。履きなれたヒールなのに足先が窮屈だ。
 ようやくバスが来た。すでに満員。それでも、並んでいた人の列は次々とバスに吸いこまれていく。
「すみません。満員です。次のバスがすぐに来ますから」
 乗りこもうとした私に運転手さんがきっぱりと言った。ちょうど私の前にいた男性がやっとのことでステップを上がり、料金箱の横に体をおさめたところだった。
(ついてない……)
 走り去るバスを見送りながら思った。ふりかえると、新しいバスが来るのが見えた。
「なーんだ。本当にすぐ来た」
 私はほっとして次に来たバスに乗りこんだ。さっきのバスよりすいており座席に座ることができた。
(朝の通勤時間なのに、かえってラッキーだったかも)
 少し嬉しくなったが、これから会社へ行くと思うとみるみる気持ちが重くなった。
(このバスが帰りのバスならよかったのに)
 膝に置いたカバンを抱えこみぼんやりと考えた。

「着きましたよ」
 運転手さんの声にハッとした。眠っていたのか、ぼんやりして乗り過ごしてしまったのか?
 あわててバスを降りようとして気づいた。
「ここ、もとのバス停じゃない。どうなってるの」
「これは帰りのバスだからですよ」運転手さんが言った。
「はあ? 何言ってるんですか。もういいです」
 私はバスを降り、新しいバスが来るのを待った。
「もう! 会社に遅れちゃうじゃない」
 私は腕時計を見た、まだ大丈夫、時間はある。
 (そういえば入社当時ははりきって、ずいぶん早目に出社してたっけ)
 工業系の大学から念願叶い、メーカーの企画部に就職できた私。覚えることだらけで、毎日ダメ出しされて泣いたこともあった。仕事に慣れてきてからも思ったとおりにならないことも多く、妥協したり諦めたり。
 
 私、本当は何がしたかったんだっけ。

 最近はお給料をもらうため、業務が滞りなく進むため、ただ与えられた仕事をこなしているだけな気がしていた。そんな時、社長が代替わりし新しいコンサルタントの方針で人事一新。社員の能力開発のためとかで、畑違いの職種を経験させられることになった。私は商品の企画・開発部門から情報処理部のほうへまわされた。
(こんなことをしたいわけじゃないのに)
 じゃあ何がしたいの、と言われると正直、今はよくわからない。1日1日をただ過ごしくり返すだけの毎日……。
 次のバスが来た。

「着きましたよ」
 降りようとすると、またもとのバス停だった。
「何これ。黄味悪い。何なの」
「だから、これは帰りのバスなんですよ。あなたは行きのバスに乗らなくちゃ」
 運転手さんが言った。
「行きのバス……」
「そうですよ。あなたはどこへ行きたいのですか」
「……会社へ、行かなくちゃ」
「行かなくちゃ、じゃなくて、行きたいか、ですよ。行きたい先がわからなければ寄り道しても、回り道してもいいんじゃないですか」
 私は降りるのをやめて座席にストンと腰を下ろした。バスが発車した。

 窓から見えるいつもの景色。立ち並ぶ家やマンション、街路樹、公園、車や看板……。
 私は誰もが欲しがるような便利な商品を作るのが夢だった。でも『作りたい』だけでは商品は作れない。理想と現実に挟まれて、そもそも私にはそんな商品は作れないのではないかとも思った。
 正直、部署を変えられたのはいい気晴らしとも感じた。売れる商品を作り出す責任感から解放された。でもやはり商品を作りたいとも思う。

 行きたい先がわからなければ寄り道しても、回り道してもいい。

 バスはいつまでも走りつづけていた。腕時計を見ると、もう出社時間には間に合いそうもない。
「あの、私、降ります」
 運転手さんに声をかけるとバスがとまった。
「次のバスは、いつでもすぐにやってきますよ」
 降りる私に運転手さんが言った。バスは私を降ろすとすぐに走り去っていった。
 次のバスの行先は私が決める。

バスの行先

執筆の狙い

作者 ほな
106.174.89.31

自分にとっては「行きのバス」でも、他の人にとっては「帰りのバス」であるかもしれないと気づき、題材にしたいと思いました。

コメント

カルネ
133.232.243.157

ちょっと不思議な話。でも描かれた内容はよく分かります。

ただ、そうねえ、若いうちよね、すぐ次のバスが来るのは(笑)。
歳をとると、なかなか次のバスは来なくなるのよね(笑)。
あるいは乗り換えることにも勇気がいるようになってゆくのかしらね(笑)。

>自分にとっては「行きのバス」でも、他の人にとっては「帰りのバス」であるかもしれないと気づき、題材にしたいと思いました。

もしかすると、不思議な話系にしなくとも、乗り合ったバスの中での人間模様として、「行きのバス」の人と「帰りのバス」の人との物語が描けるかもしれませんね。バスと言う乗り物を人生に例える話が出来そうですね。

匿名
126.209.38.128

不思議感薄め
臨場感薄め
切迫感薄め
やるせなさ薄め
要工夫
要ビジュアル
要ひねり
要破型

夏端月
220.208.27.39

読みやすいし、メッチャ解りやすいお話です。故に上にも感想はいっているように、小説としてはやはり多くのものが足りないのではないかと思います。

最初のバスに(乗車拒否?)されて、次のバスに乗る。このシーンはある意味良いのじゃないかと思う。

あと変換ミス気を付けてください。

もうひとひねり二捻りってとこだろうと思いました。

ほな
106.174.89.31

皆さんありがとうございます。

もっと勉強します。

月天心(今月分のHN)
106.171.79.111

行きのバスは、折り返し運転して、帰りのバスになる。
それは「普通」なんです。

そんで、「市内循環バス」だと、終点でも降ろされずに循環できちゃうのかもしれませんが、
普通バスは「終点まで行ったら降ろされる」んじゃないか?? と。


怖い〜不思議なのはむしろ、
1「降りたくても決して下ろしてはもらえないケース」か、
2「終点まで行っても折り返し運転にならない、完全片道運行のケース」じゃないですか??


1は・・
前にここのサイトで書いたけど、
「上越新幹線を越後湯沢で降りて、在来線のつもりで、うっかり急行:はくたかに乗ってしまった親戚のおばちゃん」。。終点:金沢まで、決して下ろしてはもらえなかったそうだ。(当たり前だな…)

2は・・
そんなんあるかい! って外野にせせら笑われそうなんだけど、実際「ある」んです。
それも滅茶苦茶「大都市のバス」で。。
これ、聞いた時「へぇー」で、いつか書こうと思ってた材料。
(なので、実際ワタシがそれ書いたとして、この原稿のパクリとかじゃあないからっ! ってことで)

藤光
182.251.187.17

読ませていただきました

とても読みやすくてGOODです。
掌編というのは、読みやすいのが第一と個人的には考えてます。文句なく、よい。

小説に込められたメッセージも下手にひねってなくて好感が持てます。「大傑作を書こう」と意気込んで書いたんじゃないんですよね。なら、これで十分です。

若いというのは素晴らしい。

面白かったです。
ありがとうございました。

ほな
106.174.89.31

読んでいただきありがとうございます。

バス、電車に関しては、実際におもしろい話がたくさんありそうですね。調べてみたいと思います。

読みやすく面白いとのご感想、大変嬉しいです。ありがとうございます。

偏差値45
219.182.80.182

当初は現実的なのですが、次第に幻想的になる。
全体的には心理描写ということでしょうか。
それで面白いか? と言えば「いいえ」かな。
やはりラストに満足できないかな。
>次のバスの行先は私が決める。
と書きながら、具体的にその方角が分からない。
それは矛盾しているように思える。

ゆふなさき
27.143.73.41

私のむかしの文章みたい。叩かれた記憶のせいで隠したくなるような感覚がある。印字されたら赤を入れられるだろうけれど、嫌いではないなあ。

ほな
106.174.89.31

読んでいただきありがとうございます。

様々な視点からのご感想をいただき、物語って「人」みたいだと感じました。

面白いか? 面白くない、嫌いではない、など具体的にありがとうございます。

めっし
126.161.169.85

伝えたいことを真っ直ぐ書いてくれてる姿勢に好感がもてました。
文章も読みやすくて、難しい言葉を使っていないので、そういうのが苦手な僕にもありがたかったです。

いつもと同じはずなのに、どこか違う世界へ「いつの間にか」入り込んでしまっているときの違和感、気味悪さ、そういうものへのポジティブな思考も含め、僕はとても好きです。

これからも頑張ってください。

ほな
106.174.89.31

読みやすく好感もてるとのこと、大変うれしいです。ありがとうございます。

皆さんの感想と自身の反省を踏まえて、より良く書き直してみたいと思います。

ありがとうございました。

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