作家でごはん!鍛練場
朱漣

小夜曲-セレナーデ-第四章/第五章/第六章

四.

 十二月十一日、日曜日――。
 いつの頃からだろう、その一帯を人々が〝雫(しずく)町(まち)〟と呼ぶようになったのは……。
そもそも〝雫町〟という地名は存在しない。コンビナートとマリーナを中心とした海岸線から、町の中央を流れる【聖夜川】に沿って遡上し、【銀織街】を経て南郊に聳える【恋龍山】に至るベルト地帯を中心にした、その周辺地域を指しているのは間違いないのだが、その境界は曖昧なままである。どうして〝雫町〟という名前が語り継がれるようになったのか、正確なところもわかっていない。ただこの辺り一帯には夜霧がたつことが多く、夜が明けると樹木に実った朝露が滴となって、陽光に煌きながら濡れた路面に落ちることから、その名が付けられたという説がある。
 そして〝雫町〟には町と同じ名前の駅がふたつ存在する。ひとつは戦前から交通と商流の要となって栄えてきたJR「雫町駅」であり、もうひとつは戦後になって南の海岸地帯の発展につれて延線・開通された私鉄「雫町駅」である。前者は木造平屋建て擬洋風建築の年代物で、後者は鉄筋コンクリート造り五階建ての重厚な建築物だ。
 JR雫町駅は【銀織街】の南の外れに位置している。屋根の中央部分には、青銅の青緑色の屋根を葺いた時計塔がこぢんまりと鎮座していた。往時には街の唯一の玄関口として喧騒を極めたものだったが、海岸地帯の発展と時を同じくする〝新駅〟の開通が契機となり、〝旧駅〟を訪れる人足は次第に遠のいていった。県道沿いの駅前ロータリーは、一時間に数本の列車到着に合わせて数台のタクシーが乗り入れる程度で、今となっては無駄に大き過ぎる印象が強い。ロータリーと県道を挟んだその先には、【銀織街】の表玄関である【きら星通り】のアーケードがぽっかりと口を開けている。夜になるとアーケードのアーチ型の屋根に沿って煌く青いネオンサインは、遠目からも読みとることができた。アーチをくぐって【きら星通り】をそのまま行けば、屋根が途切れたところが中央広場である。
 悠太は広場の噴水のたもとで麻衣子を待っていた。
 黄昏の残光が暮れなずむ広場を朱く照らしていた。
 三本の目抜き通りは、いずれも中央の広場を貫いている。悠太が通ってきた【きら星通り】は、【銀織街】を北から入って広場へと抜けていたが、麻衣子はJR「雫町駅」を降りて反対側から同じ名前の通りを向かってくるはずだった。
 悠太が肩越しに振り返ると、水瓶を担いだ女神像が柔らかな足許のスポットライトを浴びながら、跪いて静かに水を注いでいた。カリアティードは南を向いていたから、噴水が完成した当時、人の波はその方面から溢れていたのにちがいない。しかし今ではむしろ、駅から広場に至る一帯のほうに、シャッターを閉じたままの老舗が多く見受けられるのは皮肉な話である。人の流れそのものが変わってしまったのだ。
「お待たせ」
 背後からの声に悠太が驚いて振り返ると、麻衣子が戸惑いがちな笑みを浮かべて立っていた。クリムゾンレッドのボトムスに白いダウンジャケット姿は、別れ話を切り出したあの日と同じである。
 麻衣子は軽く両手をひろげてみせて言った。
「お互い、この前といっしょだね」
 麻衣子に言われて、悠太は自分も同じ身なりをしていることに初めて気づいた。キャメル色のダッフルコートは、二年前の誕生日に麻衣子から贈られたものだ。丈の長いデザインとチェスの駒を模したトグルが気に入っていた。
 真夜中の電話から一週間ほどが経っていた。身なりは同じでも、心のなかの有り様は大きく変わってしまった、と悠太は思った。
「座らない?」
 麻衣子が傍らのベンチを指差して言った。
「うん」
 噴水を囲うように配されたベンチは、どちら向きにも座れるように背もたれが前後にスライドする仕組みになっている。広場のほうに向けられたベンチに、二人はならんで腰をおろした。背後から単調な水音が聞こえ、柔らかな風といっしょに湿った匂いが鼻をくすぐる。
 広場の向こうに駅へと続く【きら星通り】が見えている。アーケードが身にまとったイルミネーションが虹色のアーチを描いて、まるで回廊のように奥へ向かって伸びていた。近づいてくるサンタクロースの足音を迎える歓びに満ちた、色彩と旋律に溢れる華やいだ空間……。
 そこは、最もそぐわない場所なのかもしれない。敷き詰められた広場の石畳の向こう側で煌めいている通りの灯りは、いまの二人には眩しすぎた。
「電車で来るんじゃなかったっけ?」
「うん。少し早く着いちゃったから寄り道してたの。……驚かしちゃった?」
「ちょっとね。……仕事は?」
「夜勤だったけど、莉沙に変わってもらったわ」
「そっか」
 弾まない会話は続かない。
 虹の回廊は艶やかに息づいている。
「ねえ、どうしてこの場所にしたのか、わかる?」
「わかるさ」
「ホント?」
「初めてのデートの時、ここで待ち合わせしたからだろ?」
 麻衣子から送られてきたメールを読んだ時、悠太はすぐに彼女の思惑に気づいた。二人の関係が始まった場所を終わりの舞台にしたいという麻衣子の思いは、悠太にもわからないでもない。
しかし、悠太はこれで終わりにしようとは考えていなかった。
「あのときは、やらかしちまったからなあ」
 悠太は懐かしそうに言った。
「そうそう。十五時に待ち合わせだったのに、悠太が夕方の五時と勘違いして大遅刻!」
「……面目ない」
「でも、勘違いさえしてなかったら、約束の十分前には来てくれてたことになるんだよね。だから、時間にはちゃんとしてる人なんだって思った。何回も携帯にかけたのに、一回も繋がらなかったのには、さすがにまいっちゃったけど」
 本当はずっと前に到着していて、この日まわる予定のデートコースを下見していたことは、今でも秘密である。
「そういえば、思いっきりひっぱたかれたこともあったっけ」
「あれは悠太が悪いんじゃない! だって、せっかく就職できたのに半年も経たないうちに辞めて帰って来ちゃうんだもん」
「……面目ない」
 あの時、『研修が馬鹿々々しくて辞めてきた』と悠太は麻衣子にうそぶいたが、真相はそうではない。悠太が会社を辞めたのは、自分の実力で勝ち取ったと思っていた採用が、実は父親の口添えによるものだったことを知ってしまったからである。
「それから、二年前の温泉旅行、楽しかったなあ」
「山奥のなんにもない処だったけどね」
「それがいいの! わたし、露天風呂で雪見するのが夢だったんだから」
 悠太は、降り積もった雪と同じくらい白かった麻衣子の裸身を思い出していた。
「うん、綺麗だった」
「旅館の人に紹介してもらった〝カラオケ・スナック〟も楽しかったね?」
「隣りに座った女の人がおふくろと同い年だったのには驚いたけどね」
 ふたりは声を揃えて笑った。
 少しの沈黙の後で、麻衣子がしんみりと言った。
「八年間、いろんなことがあったね」
「……そうだね」
 続かない会話は弾まない。
 無理に会話を繋ごうとすれば、二人には過去を振り返るしか手立てがなかった。
「なんだか、昔の話ばっかりしてるよな、俺たち」
「……仕方ないよ。未来は語れないもの」
 二人が口を閉ざすと、噴水から降りそそぐ水音が辺りを満たした。広場を行き来する人々と目抜き通りの喧騒のなかで、悠太は二人の周囲だけ時間が止まってしまったみたいな錯覚に陥っていた。
「ちゃんと理由を話すね」
 止まっていた時がゆっくりと動き出す。
「悠太のことが嫌いになったわけじゃないの。今でも悠太のことは大好き。でもね、このまま悠太といっしょにいても、わたしはたぶん幸せにはなれないと思う」
 悠太は麻衣子の話に黙って耳を傾けていた。麻衣子の想いのすべて受け止めたあとでなければ、新たな一歩を踏み出すことはできないと思っていた。
「地味で平凡かもしれないけれど、わたしの夢はお嫁さんになることなの。働き者の旦那さまがいて、子供は一人目が女の子で、次が男の子。最初は共働きでもかまわないけど、子供ができたら仕事は辞めたいかな。子供たちとの時間を大切にしたいから。娘はピアノ教室に通わせて、息子は地元の少年野球チームに入れるの。週末は発表会と練習試合で大忙し……十五年くらい前のパパとママだけど、これがわたしの理想の家族だから」
 悠太は麻衣子の両親と会ったことはなかったけれど、彼女の家族のことはよく二人の話題にのぼっていたから、なんとなく結城家の温かさみたいなものはイメージできた。厳格だが娘想いの優しい父親、明るくてしっかり者の母親、家族みんなに可愛がられている恥かきっ子の男の子……。そんな家庭環境で育まれた、麻衣子の天真爛漫な明るさに悠太は惹かれたのかもしれない。
「わたし、ずっと思ってた。自分の将来について、ちゃんと考えなきゃいけないって」
 麻衣子が続ける。
「わたしのことを幸せにしてくれる未来の旦那さまは、どんな人なんだろうって。それが悠太であって欲しいって。でもね、リビングでわたしの隣で優しく微笑んでる旦那さまは悠太じゃない。だって、悠太はわたしの夢を叶えてくれそうにないんだもん。……それでね、わたしなりに真剣に考えたの。悠太とのこれまでとこれからを」
 麻衣子はそこで言葉を切った。自分が話そうとしている言葉の重みを噛みしめるかのように。
「決して後悔はしてない。だけど、何も変わってないとしたら……、わたしの夢が少しも前に進んでいないとしたら……、やっぱり八年は長過ぎたって思う。そう思ったら、このまま二人の関係を続けていくことが、なんだか怖くなっちゃった。……中途半端な愛は、罪だよ」
 麻衣子の話は、彼女がかなり前から思い悩んでいたことを物語っていた。悠太は、彼女の葛藤に気づいてやれなかったことを後悔した。もっと真剣に二人の将来に目を向けていれば、彼女もここまで思い詰めることはなかったにちがいない。現実から目を逸らし、自分自身を欺きながら、いつまでも続くはずのないぬるま湯から脱けだそうとしないでいたことを恥じた。
「いつからそんなことを?」
 悠太の声は重く沈んでいた。
「きっかけは、去年のクリスマス。悠太はおぼえてないかもしれないけど、あの日、悠太が家族のことを話したがらない理由がわかった気がしたの。悠太はお父様とうまくいってないんだって。いまの悠太の生活もお父様への反発なのかもしれないって思った」
 麻衣子の推測は正鵠を射ぬいていた。どうしても〝父親の思い通りにはなりたくない〟という感情が先にたってしまうのである。
「そんなことまでお見通しだったんだ」
 悠太は溜め息交じりに言った。
「最初は、時間をかけて二人で乗り越えていけばいいって思ってた。だけど、だんだん不安になってきちゃって……。悠太はお父様のことを言い訳にしてるだけで、本当は今の生活に甘えてるだけなんじゃないかって」
 楽な生き方だと言われてしまえば、返す言葉はなかった。そんな悠太に自らの人生を託すことを麻衣子が躊躇ったとしても、誰が責めることができよう。
「このままじゃいけないって、ずっと悩んでた。そんな時、ふと思ったの。一緒に暮らしてみたら、何かが変わるかもしれない、悠太の心にもっと踏み込めるんじゃないかって。だから、寮を出てアパートを借りることにしたの」
 ひとり暮らしをはじめた麻衣子の想いは、痛いくらいに悠太の心にも届いていた。1LDKのアパートで麻衣子と二人で暮らす生活を想像したりしもした。ただ、無条件に差し出された安穏の扉を前にして、唯々諾々とそれを開いてしまうことを潔しとしなかっただけだ。だから看護師寮に忍び込んだことはあっても、麻衣子の新居を訪ねたことは一度もない。「このままじゃいけない」、という気持ちは悠太も同じだったのだ。
「だけど、なかなかうまくいかないもんだね。だって、悠太は一度も遊びに来てくれないんだもん。せっかくの作戦も空振りに終わっちゃった」
「作戦?」
「この前、悠太の部屋のカーテンを買い替えてあげたでしょ?」
「うん」
 ピンクの生地にディズニーのキャラクターたちが描かれた女子っぽい柄のカーテンは、今も悠太の部屋の窓を飾っていた。前もって採寸していたにも関わらず、麻衣子が買ってきたそれは、丈が短く裄が長かった。買ってきた麻衣子本人が「おやおや?」と首を傾げていたのをおぼえている。
「あのカーテンはね、同じ柄のベッドカバーといっしょに買ったものなの。だから二人で暮らすことになって、悠太が持ち込んできてくれたら、マンションの寝室の窓にはピッタリっていう寸法だったんだけどなあ……」
 二人の将来を考えていなかった訳ではない。悠太なりに前へ進もうとはしていたのである。雑貨屋の片隅で手にした、台座に『幸福の調べ-Melody of the happiness-』と銘打たれたピアノ四重奏の楽団が、その里程標となるはずだった。
 去年のクリスマス・プレゼントだったバイオリニストには、試合開始を告げるホイッスルの意味が込められていた。
悠太のもとをなかなか離れようとしないチェリストは、決してありがたくはない〝二十八歳、フリーター〟という肩書を外すことができた時、麻衣子に渡すつもりでいた。そしてこの春、全国に店舗を展開している外食産業に店長候補としてテスト採用されることが決まったばかりの悠太である。長年のアルバイト生活を通じて懇意になった店長やオーナーが、親身になって相談に乗ってくれたおかげだった。
 ピアニストに与えられた課題は、拗れてしまっている父親との関係の修復である。気は進まなかったが、麻衣子との将来を考えれば仕方がない。今のままでは、彼女を家族に紹介することすらままならないのだから。
 最後のビオラ奏者は、胸のコサージュと同じ青い薔薇を一輪添えて贈ると決めていた。そうして奏者が操る弓の先でちいさく揺れながら煌めいているリングを取り上げて、指定席である彼女の左手の薬指にそっとつけてあげるのだ。
 悠太はコートのポケットに忍ばせた、オルゴールの小箱をそっと握りしめる。今日こそ、彼女に渡すのだ。
 麻衣子が悠太と別れる決心をしたのは、心が離れてしまった訳ではない。悠太の足許がおぼつかない生き方についていけなくなったのである。だとすれば、その拠って立つ大地が踏み固められたしっかりとしたものになりつつある今、辿ってきた道のりはちがっていてもその目指す先が同じであることがわかった今……、悠太は、もう一度やり直せる、と確信した。
「わたしね、結婚するかもしれないの」
 コートのポケットからオルゴールのチェリストを取り出そうとしていた悠太の手は、麻衣子の言葉で凍りついた。
「ごめんなさい、ずっと黙ってて。八月に実家へ帰ったことがあったでしょ? あの時、お見合いをしたの。わたしは聞かされてなくて、最初は断ろうとしたんだけど、先方にも迷惑かかるからって両親に説得されて、仕方なく会ってみることにしたの」
 悠太は言葉を失っていた。胸の奥が軋むような悲鳴をあげていた。
「だけど今は、会って良かったって思ってる。彼のおかげでいろんなことに気づくことができたから」
 コートのポケットから何かを取り出そうとしている悠太に気づいていたが、麻衣子は構わずに続けた。
 相本正隆さん。悠太とは同い年。駅前百貨店のインテリア売り場で働いている人よ、麻衣子は話しながら正隆と初めて二人で会ったときのことを思い出していた……。

「僕は三十歳までには結婚して子供が欲しいって思っているんです」
 正隆は、人の好さそうな丸い顔に穏やかな笑みを浮かべながら言った。
 麻衣子がもの問いたげな視線を向けると、
「会社を定年で辞めるまでに、子供たちには大学を卒業させてやりたいんですよ」
 JR雫町駅近くにある喫茶店。四人がなんとか座れるカウンターと通路をはさんで窓際にボックス席がふたつあるだけのこぢんまりとした造作の店である。ふたりは店を入った奥のテーブルで向かい合って座っていた。
 見合いの席で緊張した面持ちでかしこまっていた正隆とはじめて対面した時、怒った顔が想像できないくらい優しそうな人だわ、麻衣子は思った。話すほどに、正隆の誠実な人柄が顔を覗かせた。
「正隆の趣味はたしか相撲観戦だったな? 自分が相撲取りのごたる体格しちょってからに、はっはっは」
 今回の縁談話を持ち込んだ、麻衣子の父の友人で正隆の遠縁の叔父にあたるという男の下卑た冗談にも、
「はあ、どうもすいません」
 恐縮しながら大きな身体を精一杯ちいさくしている姿が、麻衣子には何とも微笑ましく映った。一張羅の紺のスーツを窮屈に着込み、流れる汗をハンカチで拭っている正隆は、卓に供された料理にもほとんど箸をつけていない。
 麻衣子のほうはそもそも気楽な立場だったし、見合いの席を最後に二度と会うつもりはなかったから、滅多にお目にかかれない高級会席料理に、はじめのうちは遠慮なく舌鼓を打っていた。
 ところが、傍目にもわかるほどガチガチになって座っている正隆の様子を見ていると、麻衣子はこのまま別れてしまうのがなんだか申し訳ない気がしてきた。駅前のデパートに勤めていることはあらかじめ聞かされていたが、さらに詳しく訊ねてみると、インテリア売り場で働いているという。ちょうど寮を出てマンションへ引っ越したばかりの時期で、カーテンとベッドカバーを新調したいと思っていたところだったので、麻衣子は二人だけで会うことになるのを承知のうえで、彼が勤める百貨店で適当に見繕ってくれないかと申し出たのだった……。
「やっぱりちょっと照れ臭いですね。麻衣子さんを同僚に紹介するというのは」
 この日、正隆が麻衣子を連れてくることを彼の同僚たちは知っているらしい。おそらく彼自身が話したのだろうが、一般客になりすますつもりでいた麻衣子の思惑とはちがった方向へ傾きはじめていた。
 薔薇と蝶のステンドグラスが、ボックス席の卓上に淡い光模様を落としている。
「ところで、麻衣子さんにお話ししておかなければならないことがあります。御見合いの席で話しておけばよかったのですが……」
 急に背筋を伸ばして改まった口調で正隆が切りだした。
「何でしょう?」
「実は、二年前にマイホームを購入しまして。三十年ローンなんですけどね」
 正隆は少し恥ずかしそうに笑った。
「そういうわけでして、結婚資金はいささか心許ないんです。申し訳ないんですけど、結婚式は両家の身内だけを呼んでこぢんまりと済ませたいと思っています。それから新婚旅行と婚約指輪を合わせて、予算五十万くらいで承知してはもらえないでしょうか?」
「はあ……」
 二人の将来を見据えた交際を信じて疑っていない正隆の屈託のない笑顔を前にして、麻衣子はその日、とうとう破談の話を持ちだすことができなかった。それどころか、次に会う約束までしてしまう始末だった。
 ――今度こそ、ちゃんとお断りしなくちゃ。
 会うたびに正隆の想いを振り切れずにいる間に、二人の交際が順調だと思い込んだ周囲の者たちは勝手に盛りあがり、麻衣子の両親などはいくつかの結婚式場のパンフレットをマンションに送りつけたりして彼女を戸惑わせた。
 しかし、正隆と会って彼の人柄に触れているうち、麻衣子の心のなかである種の感情が芽生えてきたことも事実だった。
 自分の人生設計をしっかりと描いて、それに向かってストイックに努力している正隆の生き方は、麻衣子にはことさら新鮮に映った。正隆といっしょにいると、悠太のことがすごく中途半端に思えてくるのだった。
 麻衣子は、悠太のことが好きなのに正隆にも惹かれている自分がすごく嫌だった。悠太だけを見ていこうと思った。

「わたしには、好きなひとがいます!」
 マリーナの埠頭の突端まで駆けていった麻衣子が、急に振り向いて叫んだ。夕陽を背中に浴びている麻衣子の表情を正隆は読みとることができなかったが、近づいていくにつれて彼女が泣いていることがわかった。
「ようやく話してくださいましたね」正隆が言った。「なんとなく、そんな気がしていました」
「ごめんなさい」
「僕が先走っていろんな話をしてしまったから、麻衣子さんも言い出せなくなったんだと思います。僕のほうこそ申し訳ありませんでした」
 正隆は頭を下げた。
「そんな……」
「わかりました。この話はなかったことにしましょう。仲人には僕のほうから断りの連絡を入れておきます。それでいいですね?」
「はい」
 正隆は麻衣子をじっと見つめた。
「ひとつ、お訊ねしてもよろしいですか?」
「はい」
「その方とは、結婚なさるおつもりですか?」
 麻衣子は正隆の眼差しを受けとめることができなかった。
「いえ……、まだ、わかりません」
 麻衣子の言葉に正隆の笑顔が弾けた。
「よかった。だったら、僕にもまだチャンスはある訳ですね」
「え?」
「こう見えて、僕は案外諦めの悪い男なんです。確かに麻衣子さんとは何度かお会いしただけで、何年もお付き合いした訳ではありません。ですけど、僕は麻衣子さんと温かくて幸せな家庭をつくりたいと思っています。決して中途半端な気持ちでここに立っているつもりではないんです。そのことをまずわかってください」
 麻衣子はひたすら涙で頬を濡らしながら、無言で頷いていた。
 いろんな想いが喉元に込み上げてきて、麻衣子は言葉を失っていた。自分のことを真剣に考えてくれている正隆への感謝の気持ち、そんな正隆の想いを知りながら決別を告げようとしている自責の念、そして……愛される歓び。
「見合いの話は断ります。でも、だからといって麻衣子さんとのことを諦めた訳ではありません。かなり出遅れてしまっていますけど、まだほんの少しでも可能性が残されているのなら、僕は麻衣子さんのことを真剣に考えていきたいと思います。そして、もしも僕を選んでくださったなら、麻衣子さんの心の隙間は僕が何年かかってでもきっと埋めてみせます」
 そこまで一気に話した後、正隆は言葉を切った。
「それとも、僕にはもう一縷の望みもないのでしょうか?」
 そう問われたとき、麻衣子のなかで大きく揺らぐものがあった。麻衣子ははじめて、悠太と正隆を比較してしまっている自分自身を自覚した。
「待ちますよ、いつまでも」
 正隆は言い募った。
「可能性がゼロじゃないのなら、僕は待ちます。だからじっくり考えて納得のいく答えを出してください。麻衣子さんが出した結論なら、僕は信じて受け入れるつもりです」
「ずるいわ」
 涙声で言った口調のなかに、わずかに媚びる響きが含まれていることに麻衣子は気づいていなかった。
「ずるい、ですか?」
 正隆は困惑した表情を麻衣子に向けた。
「麻衣子さんが僕を選んで下さった後なら、僕はどんなことがあっても麻衣子さんと一緒に乗り越えていく覚悟はできています。ですがこの件に関してだけは、やっぱり麻衣子さん御自身で答えを出すべきじゃないでしょうか?」
 正隆は穏やかな笑みをこぼすと、
「知らなかったこととはいえ、つらい思いをさせてしまいました。この二ヶ月、心ならずも彼氏とお付き合いしながら、僕とも時々会って下さっていたんですね」
 そして、きっぱりと言った。
「麻衣子さんの心が決まるまで、僕らは会わないようにしましょう」
 ――ホント、真っ直ぐ過ぎるんだから、もう!
 麻衣子は心のなかで拗ねてみせたが、正隆に対しては、「わかりました」とだけ答えた。
「最後にひとつだけ、約束しておいて欲しいことがあります」
 それは麻衣子から負の告白を聞かされるときのことを考えて、正隆があらかじめ決めていたことだった。
「僕にとって悲しい知らせだったとしても、最後にもう一度だけ会ってくださいませんか? そして麻衣子さんの口から直接、僕に話して欲しいんです。それだけで、僕は前へ進むことができると思います」
 麻衣子はこれほどまでに誠実な言葉を今まで聞いたことがなかった。

「いい人だね、その人」
 悠太はコートのポケットに両手を突っ込んだまま言った。
 すっかり日が暮れた辺りの光景が、自分の表情を隠してくれていることを願った。
「うん。私のこと、きっと大切にしてくれると思う」
 悠太は空を見上げて大きく息をつくと、想いを吐き出すように言った。
「麻衣が選んだのは、俺じゃないってことなんだよな?」
 麻衣子は黙って頷いた。
 正隆と最後に会ってから一ヶ月あまり、身の振りかたについてさんざん悩んだ末に、麻衣子が出した結論だった。今でも自分の選択が正しかったのかどうか、麻衣子には自信なんてない。ただ、こうすることがいちばん後悔しなくて済むような気がした。
「わたしは今日よりも明日を大切にしたいと思う。悠太と別れるのはつらいけど、わたしは正隆さんと平凡でも幸せな家庭を築きます。……それが、わたしの夢だから」
 穏やかに語りかける麻衣子の言葉には、悩み抜いた後の吹っ切れた潔さがあった。
 悠太は、ポケットに忍ばせているオルゴールをぐっと握りしめた。もうチェリストを表舞台へあげてやれない理由はない。麻衣子が話す通りなら、彼女の夢を叶えるという一点において、悠太は正隆と同じスタートラインに立つことができているからである。だが、悠太はそれを彼女に渡すことを躊躇っていた。スタートラインは同じでも、そこに至る過程に大きな隔たりがあるように思えたからだった。
 悠太は、ポケットのなかで小箱をそっと手離して言った。
「その人の優しさは、中途半端じゃないんだね?」
「……うん」
「そっか」
 悠太は麻衣子の濡れた眸から目を反らすようにして呟いていた。


五.

 駅までのわずかな道のり。二人は無言の会話を続けながら、虹の回廊のなかを歩いていた。広場から眺める回廊は、喧騒を彩る華やかな街明かりで、夜の帳をくっきりとアーチ型に切り取っている。
 アーケードの屋根に架かる✩型や♡型のイルミネーションの連なりは、赤や緑の光を降らせながら通りを貫く。店先に一様に飾られたリース、光の衣をまとった姫沙羅の並木。洒落た居酒屋の前でたむろしているパーティーを終えたばかりの若者たち、レストランの二階の窓からページェントを見下ろす恋人たち。降誕祭を前にした華やいだ雰囲気はどこの街角でも同じだが、【きら星通り】のそれは実際に通ってみると少しちがっていた。
 商店街をよく見ると、シャッターを固く閉ざした店舗が少なからず見受けられた。そのいくつかは、剥がれかけた貼り紙でかろうじて〝店じまい〟を告示することができていたが、ほかの多くは色褪せたタギングによって静かに時の移ろいを物語っているだけだ。傍らの姫沙羅は、もう何年も前から光のドレスを脱いだままである。そして、広場から駅へと続く光並木の輝きは、通りを行き交う人混みに共鳴するかのように歩を進めるにつれてその明るさを減じていくのだった………。
 ――愛とは決して後悔しないこと。
 むかし観た古い映画のヒロインの科白だったと思う。
 麻衣子と肩をならべて歩きながら、悠太は同じ問答を心のなかで繰り返していた。
 ―――後悔ばかりの愛だってあるんじゃないか?
 胸の内を見つめ直して思った。
 ――別れてしまったあとで〝悔いはない〟と本当に言いきれるのか?
 愛は大人になればなるほど、その清楚な輝きを失っていく。それは深みを増すにつれて、水底を見透かせなくなる川の流れに似ている。若かりし頃の恋愛感情は、むしろ憧憬に近い。自分にないものに惹かれ、衆に優れた姿に憧れる。持ち合わせているはずの稚なさや弱さには目が向かない。成長して育む愛が成熟すると、人は相手の拙さや脆さに愛しさを抱くようになる。それは相手のすべてを理解したいという想いと同じだ。心を寄り添わせることで愛を深めようとする、それだけのために互いに傷つき、時には周りの人たちを犠牲にしてしまうこともあるだろう。そこまでして貫いてきた愛に破れたとき、後悔しないなどということがあるのか?
 このまま麻衣子と別れてしまったとしたら、少なくとも自分には後ろを振り返ることなく前へ進むことはできない、悠太は思った。
 いつまでも定職に就かずフリーター生活を続けていたこと、拗れてしまった父親との関係を修復しようとしなかったこと……、麻衣子が何を望んでいたのか、何も気づいていなかったと言えば嘘になる。悠太はずっと麻衣子の気持ちに甘え続け、自分をも誤魔化しながら生きてきたのだ。後悔しないはずがなかった。
「ここで……、サヨナラしようよ」
 悠太は我に返った。切なげに眉根を寄せて、麻衣子が見上げていた。
 宵闇の帳のなか、ロータリー越しに時計塔を冠した駅舎がひっそりと佇んでいる。二人は言葉を交わすことなく、いつのまにか【きら星通り】の出口まで歩いてきてしまっていた。振り返ると姫沙羅の並木が織りなす光の隊列の向こうに、カリアティードの女神像がちいさく人混みに見え隠れしていた。
 ロータリーにはタクシーが一台、手持ち無沙汰に停まっている。運転手はシートを倒して、居眠りを決め込んでいるらしい。
 あとほんの少しで今までのすべてが終わってしまうのか……。
「それじゃあ、元気で」
 無理矢理に明るい表情を繕って、麻衣子は言った。
「待って!」
 悠太は咄嗟に叫んでいた。
 このまま麻衣子を見送ってしまえば、もう二度と逢えないだろうことは悠太にも容易に想像がつく。そして、違うどこかにいる彼女のことを想いながら、後悔を胸に抱いて生きてゆくことになるのだ。
 ――それでいいのか?
 ――やり残したことがあるんじゃないのか!
 突き上げてくるような激情が悠太の心を揺すぶっていた。
 遅過ぎたかもしれない。でも、そのときに流す涙は真実だと胸を張れる。偽りの涙を流すくらいなら、悠太は本当の傷みを分かち合いたかった。
「ずっと黙りこんでたくせにあれなんだけど、麻衣に話しておきたいことがあるんだ」
 麻衣子は一歩近づくと、悠太の顔を真っ直ぐに見あげた。そんなときの麻衣子の眼差しは、心のなか全部を見透かされてしまいそうで苦手だったが、今だけは目を逸らすわけにはいかなかった。
 やがて、麻衣子はちいさく頷いて言った。
「わかった。電車が着くまで少し時間あるから、駅で話しましょ」
 麻衣子はくるりと悠太に背を向けて、駅へ向かってすたすたと歩きだした。
 駅舎の時計塔の文字盤は、十八時三十分を少し回っていた。

 JR「雫町駅」の構内は静けさに包まれていた。
 さほど広くもないエントランス正面の自動改札機は、導入されてからまだ間もないらしく、その真新しさは周囲の古ぼけたたたずまいのなかで際立っていた。改札口の横の駅員室は、薄緑色のカーテンが閉じられていて室内をうかがうことはできなかったが、明かりは点いているので誰かしら人はいるのだろう。駅員室の手前には切符の自動販売機がならび、その隣にはインフォメーションも兼ねた旅行代理店の窓口が開設されていた。
 待合室はエントランスの右手にあった。普段ならクラブ帰りの学生たちで賑わう時間帯だったが、日曜のこの日はそれが嘘のように人影がない。待合室の一隅に設えられた売店も早々とシャッターを下ろしてしまっている。無駄に明るい照明が、往時を偲ぶだだっ広さを強調していた。
 駅前のロータリーにも先ほどのタクシーが一台、停車しているきりである。
 悠太が買った缶コーヒーを仲良く手にして、二人は待合室にならんで腰掛けていた。ワンコインで手に入れることができる安っぽい温もりを掌に感じながら、悠太は話を切りだそうと糸口を探っていた。しかし、心のなかの想いを自分の言葉にできなくて、互いに押し黙ったまま時間だけが過ぎていく。
 その時も重苦しい空気を和らげてくれたのは、やっぱり麻衣子のほうだった。
「ねえ、知ってる? この駅の屋根に大きな時計があるじゃない?」
「うん」
「あの時計、いつもぴったり五分だけ遅れてるんだよ」
「だけど、それだと電車に乗り遅れたりなんかして困るんじゃない?」
「それがね、そうでもないの。この駅を利用してる人たちは、みんなそのことを知ってるから問題ないんだって」
「ふーん。でも、どうして時刻を合わせようとしないのかな?」
 至極当然の疑問を口にする。
「何度もやってみたんだけど、一日もたたないうちに元に戻っちゃうんだって。そのくせ放っておいても遅れるのは五分だけから、もうそのままにしておこうってことになったみたい」
「やけに詳しいんだね?」
「こっちに引っ越してからずっと気になってて、このまえ駅員さんに聞いちゃった」
「……そっか」
 会話がフェイドアウトすると、代わって沈黙がスライドしてくる。別れが間近な恋人たちの会話とは、こんな感じに途切れがちになるのだろうか、と悠太は思った。
「何か、言ってよ。……話したいことがあるんでしょ?」
「お腹すかない?」
 この期におよんでも毅然とできず、時間稼ぎをしようとしている自分自身に半ば呆れながら、悠太は内心で毒づいていた。
「わたしは大丈夫。実はね、悠太に会う前に『難破船』に行って来たの。悠太と逢えなくなったら、お店に寄ることもあんまりなくなるかなって思って。悠太とのことを話したわけじゃないけど、マスターは勘がいいから……。自称〝とっておきのパスタ〟を御馳走になっちゃった」
 そのとき、悠太のなかで何かが閃いた。話の糸口が見つかった。
「せっかく気に入ってるんだったら、これからも麻衣が行きたいときに行けばいいさ」
「でも……」
 麻衣子が何を躊躇っているのかは、悠太にも容易に察しがつく。
「別に麻衣に気を使ってる訳じゃないんだ。俺のほうが、しばらくは行けなくなりそうだから」
「どうして?」
 悠太は少しく間をおいて答えた。
「就職が決まったんだ」
「え? ホント?」
「うん。バイトで世話になってた店長の紹介で……」
「わーお! やったじゃん!」
 悠太の言葉を遮って、麻衣子のはしゃいだ声が待合室に鳴り渡った。
「すごいッ、すごいじゃない! どんな仕事? 今度は辞めないでちゃんとやっていけそうなの? そうだ! お祝いを……しなきゃ、ね」
 自分のことのように喜んでくれる姿は相変わらずである。ただ、悠太のことを共に祝う立場にはないことに、さすがに途中で気づいたらしい。
 悠太は苦笑いを浮かべながら言った。
「ファミレスとか居酒屋とか、飲食店を手広く経営している会社。研修期間中は、全国の店舗をローテーションしながらバイト・スタッフと同じ仕事をやらされるみたいだから、就職したって言っても、当面はアルバイトでやってたこととあんまり変わらないんじゃないかな。どっちにしてもしばらくは、『難破船』にはいけなくなるって訳」
「なんだあ。それじゃあ、マスターとお別れしなくてもよかったんだ」
「おかげで〝とっておきのパスタ〟を御馳走してもらったんだから良かったじゃん」
「それは、そうだね」
 麻衣子は素直に頷いた。そうして手にしていた缶コーヒーを傍らに置くと、両手を膝の上に揃えて半身になって悠太に向き直った。
「就職、おめでとうございます」
 麻衣子は、そう言って頭を下げた。
「門出を祝ってあげられなくて残念だけど、わたしは悠太の頑張りを信じてるから」
「麻衣がいてくれたから、前へ進むことができた。麻衣と出会っていなかったら、俺は今でもちゃんと自分と向き合えていないままだったと思う。麻衣にはホントに感謝してるんだ。……ありがとうございました」
「ふむふむ、謙虚でよろしい」
 わざとらしくおどけてみせるのは、照れているときの彼女の癖である。
「茶化すなよ」
 悠太が言うと、麻衣子はいたずらっぽく笑った。
「ごめん、ごめん」そして、少し改まった口調で続けた。「本当はね、今夜、悠太に逢うこと、ずっと迷ってた。でも、逢ってよかった。ずっと思い描いてた悠太にやっと巡り合えたんだもん」
「そっか」
 悠太はちいさく頷いた。
 ロータリーの先にある信号が、青点滅から赤に変わった。
「悠太が話したかったことって、……このこと?」
 麻衣子が汲み取った悠太の想いは間違いではなかったが、悠太にとってはその先にある想いを麻衣子に伝えることこそが大切だった。
「去年のクリスマスに麻衣に贈ったプレゼント、何だったかおぼえてる?」
「うん。あのオルゴール、すごく気に入ってるんだ」
「そっか。良かった」
 悠太は雑貨屋のショーケースのなかで、三人の仲間たちといっしょに弦を操るバイオリニストの姿を思い浮かべた。
「彼女には他に三人の仲間がいてさ、実をいうとそのときが来たら、麻衣にひとつずつ贈るつもりで、もうみんな買い揃えてある」
「そのときって?」
 白いドレスを着たバイオリン弾きのオルゴールを悠太から贈られたのは、船上レストランでディナーを満喫していたさなかのことである。
「俺が勝手に決めてたことなんだけど、一つ目のオルゴールを渡した時、『これから麻衣のことをもっと真剣に考えていこう』って、こっそり〝自分宣言〟してた」
 悠太はコートのポケットから小箱を取り出すと、麻衣子に差し出しながら言った。
「就職が決まったら渡そうと思ってた、二つ目のオルゴール」
「でも……」
 麻衣子は躊躇う素振りをみせた。
「麻衣に受け取って欲しいんだ」
「ホントに、いいのかな?」
 悠太が大きく頷くと、麻衣子はその十分の一くらいの大きさでこくりと頷いた。
「わかった。ありがとう、大切にするね」
 麻衣子は胸に抱くようにして受け取った。そして、悠太を真っ直ぐ見つめて言った。
「ひとつ、訊いていい?」
「うん?」
「わたしに三個目のオルゴールを贈るためには、何をしなくちゃいけなかったの?」
「どうやったらうまくいくのか、まだ全部を見通せてるわけじゃないけど、やらなきゃいけないことはちゃんと見えてたつもりだよ」
 信号が青に変わった。
「親父との関係をなんとかすること……。まずは、久し振りに顔を合わせて話をすることからはじめたいと思ってる。就職が決まったことも知らせておかないといけないしね」
 フリーターのままで実家を訪ねたとしても、悠太のいまの暮らしぶりを認めていない父は、決して悠太と会おうとはしないだろう。だから、新しい仕事に就いたことを報告にいくという口実は、何年も前に喧嘩別れしたままの二人にとって、互いに歩み寄ることができるいい機会になるかもしれなかった。
「正直言うと、あんまり自信はないんだけどね」
 悠太は力なく笑った。
「大丈夫だよ、きっと。ちゃんと話せば、すぐに仲直りできるよ。だって親子だもん」
 屈託のない笑顔を浮かべて、麻衣子が言った。
 悠太にとって大学受験で苦手だった微積分なみの難題も、麻衣子には小学校低学年の算数ドリル程度のものにしか思えていないのだろう。いや、むしろ〝拗れた親子関係〟そのものが、麻衣子には理解できないにちがいない……。
「じゃあ、四個目は?」
 悠太は我に返った。麻衣子の真摯な眼差しが悠太に向けられていた。先程までの外連味のない笑顔は、いつのまにか跡形もなくかき消えている。
 悠太は迷った。それを口にする資格が、いまの自分にはないように思えたからだ。麻衣子の真剣な面持ちを目にすれば、彼女なりに正解を導きだしているだろうことは容易に察しがつく。そのうえでそれを口にすることは、やはり躊躇われた。
「最後のひとつは……」
 そのとき、構内放送を知らせるチャイムが待合室に鳴り響いた。そのあとで無機質な女性のアナウンスが、麻衣子が乗るはずの上り列車の到着が間もないことを告げた。
 一瞬、二人は互いに戸惑った視線を交わし合う。
 束の間の沈黙のあと、先に口を切ったのは麻衣子のほうだった。
「もうすぐ、電車が来ちゃうね……」
 麻衣子はそう呟いたあとで、口を噤んだ。この八年間を清算するはずの列車の到着を前にして、麻衣子は悠太と最後に交わす決別の言葉を探しあぐねていた。二人の関係に優しい終止符を打てるとしたらどんな言葉がふさわしいのか、麻衣子にはなかなかその答えを見つけだすことができなかったからである。
 やがて、麻衣子が諦めたようにちいさく溜め息をついてベンチから立ち上がると、悠太も慌ててそれに倣った。
「もう行かなくちゃ。……今まで、本当にありがとう」
 麻衣子がすっと悠太の傍から離れた。
「それじゃあ、元気でね」
 言い置いて、待合室を出て行こうとする麻衣子の後姿が、少しずつ遠ざかってゆく。まるでストップモーションを見ているみたいだ、悠太は思った。
 猶予はなかった。悠太には、麻衣子がホームの薄暗がりのなかに隠れてしまう前に、彼女にどうしても言っておかなければならないことがあった。今宵、麻衣子の想いを聞いたうえで、悠太が心に決めたこと。自分のもとを去ることになるかもしれない彼女に知っておいて欲しいこと。今この瞬間にしか言えないこと……。彼女に伝えようと思った。すべてが終わってしまう前に。
 悠太は、麻衣子の揺れるポニーテールに向かって話しかけた。
「最後に話を聞いて欲しいんだ」
 彼女の足がピタリと止まる。
「麻衣の話を聞いてて思った。その人は、麻衣のことを真剣に愛しているんだと思う。その人と一緒だったら、麻衣はきっと幸せになれると思う。だけど、俺だって麻衣のことを想う気持ちは誰にも負けないつもりなんだ」
 麻衣子は、黙って悠太の言葉に耳を傾けていた。
「気持ちだけで幸せにはできないこともわかってる。それでも、俺は麻衣と一緒にいたい。誰よりも麻衣のことを幸せにしてみせる」
 今頃になって麻衣子にぶつけることができた、悠太の精一杯の想いだった。
 麻衣子が振り向いた。大きな瞳に涙をいっぱいに湛えていた。
「もう遅過ぎたかもしれないけど。もし、麻衣が俺の気持ちを受け止めてくれるなら、もう一度だけ、二人でやり直すチャンスを俺にくれないか?」
 悠太は待った。そこには、麻衣子の涙から目を逸らさず、彼女の震える口許をじっと見つめる悠太がいた。
「ありがとう。でも……」
 麻衣子の唇が何かを話そうとするかのように微かに開き、それにつられて二人が歩み寄ろうとしたとき、残酷な汽笛の遠音が鳴った。
 時間がない。麻衣子を見送ってしまうことはできなかった。このまま別れてしまったとしたら、悠太は結局、麻衣子に何もしてやれなかったことになってしまうのだ。
 悠太は咄嗟に叫んでいた。
「俺、待ってるから。二週間後のクリスマス・イヴ。二十二時に【聖樹橋】で。……その時、麻衣が選んだ道を聞かせて欲しい。どんな結果だろうと、俺は麻衣を信じて受け止めるから」
 しかし、悠太はとうとう麻衣子の答えを耳にすることはできなかった。彼女はくるりと背を向けると駆け出していた。後ろ向きに手を振りながら。


六.

 悠太は、胸に虚空を抱いたまま歩いていた。降りだした細雨が、風に舞って街の明かりを滲ませている。冬の雨に打たれていると凍えるような寒さが身に沁みて、胸の傷みを和らげてくれた。
 悠太は、招かれるように【きら星通り】へと足を向けていた。
 目指す場所は、『難破船』。
 たいした理由があるわけじゃない。もしかしたら、別れたばかりの麻衣子の残り香に惹かれていたのかもしれない。だけどそこへ行けば、悠太の孤独を何かで満たしてくれそうな予感がしていたことも事実だった。
 それは、予感と言うにはあまりにも頼りなかった。むしろ期待と言うべきものだったろう。だが、淡い期待にさえ縋りつかなければならないほどに、悠太の心はいまにも折れてしまいそうだった……。
 扉を開けると同時にドアチャイムが美しい音色を奏でる。
「いらっしゃいませ」
 マスターが優しく声をかけてくれる。
 悠太はカウンター奥ではなく、正面の席に腰をおろした。麻衣子との指定席に一人で座るのは、なんだか淋しさがいっそう募るみたいで嫌だった。
 人々が夕餉の食卓を囲む時間、客は悠太だけである。
 この店に一人でいると、麻衣子という存在がどれほどかけがえのないものだったのか、悠太は胸奥に宿る淋しさを噛みしめながら思った。
 髪を伝ってテーブルの上に落ちた、雨のひとしずくを黙然と見つめる。ぽっかりと口を開けてしまった心の隙間を想い出で埋めようとするかのように、悠太は店内に流れる心地よいジャズのメロディーに耳を傾けていた。
「……〝運命の輪〟か」
 手許のコースターに描かれているタロットカードの絵柄である。
「しかも、リバース」
 自嘲気味な呟きだった。
 悠太がタロットカードに関心を持つようになったのは、『難破船』で使われているコースターのデザインがきっかけだった。そこにあしらわれているどこか謎めいた意匠の数々は、店を訪れるたびに悠太を魅了した。
 何年か前、海水浴シーズンの幕引きと同時に営業期間を終えた「海の家」のアルバイト打ち上げの帰り道、一人で店に寄ったことがあった。悠太は何となく気になっていながらずっと聞けずにいたことを思い切って訊ねてみたのだった。コースターのモチーフは、タロットというヨーロッパで古くから伝わる七十八枚のカードなのだと、その時マスターが教えてくれた。
「若い頃にパリの蚤の市で買い求めたものなのですが」
 マスターは悠太が座るカウンターに何枚かのコースターをならべてみせながら、
「タロットには、それぞれの場面が暗示する寓話が隠されています。カードそれぞれに込められている重要な示唆は秘められた物語にちなんでいて、これを用いた占いが古くから行われ現在に伝えられています」
「タロット占い!」
 悠太は思い当たって叫んだ。
「はい。その通りです」
 そうして一枚を手にとって、
「例えば、この〝隠者〟というカードの意味は……」
 マスターのいつになく熱っぽい口調は、それだけで悠太の興味を惹きつけた。早速、インターネットで手に入れ、近くの書店で関連の本を買い漁っては読み耽った。タロット占いではカードの配置が重要で、リバースと呼ばれる上下が逆さまの配置になってしまった場合、カードが持つ本来の意味とは真逆を表意することを知った。
 〝運命の輪-Wheel of Fortune-〟が示唆する意味は、「チャンス到来・幸運・好転」。これが、リバースだと……。
 悠太が自嘲した所以である。
「どうぞ、召し上がってください」
 怪訝そうに見上げる悠太の視線を優雅な物腰でかわして、マスターが黄赤色の液体をグラスに注いだ。
 ロックアイスが身じろぎをして、からりと鳴った。
「花言葉は御存知ですよね?」
「赤い薔薇だと〝情熱〟っていう、あれですか?」
 マスターはちいさく頷いた。
「花言葉と同じように、カクテルにも込められた想いがあるのです。例えば、悠太さんお気に入りのギムレットだと、このお酒が洒落たペーソスとして使われているチャンドラーの小説にちなんで〝長い別れ〟……あれ? 何だかマズいですね」
 悠太の顔に苦笑がひろがった。
 マスターは気を取り直すように、コホンと咳払いをひとつすると、
「麻衣子さんがよく飲んでいらした、ブルームーンのカクテル言葉は、〝叶わぬ恋〟……あ、これはもっとマズいですかね?」
 マスターはポリポリと頭を掻いた。
 苦笑が微笑に変わった。失言を繰り返して恐縮してみせているマスターの仕草が、それとなく芝居じみていることに気づいたからだ。そんな悠太の表情の変化を読み取って、マスターが続けた。
「実は、ブルームーンにはもうひとつ、まったく正反対の意味があります。それは、このカクテルに使われているあるリキュールの名前に由来しているのですが……」
 マスターは、バックキャビネットから一本の酒壜を取り出した。
「これは、フランス起源のパルフェ・タムール-Parfait Amour-というリキュールです。フランス語なのでピンとこないかもしれませんが、日本語に訳すと〝完全なる愛〟という意味になります。私は、麻衣子さんにはこちらのほうが相応しいと思っています」
 麻衣子が〝とびっきりのパスタ〟を御馳走になりながら、マスターとどんな話をしたのか悠太にはわからない。ただ、いま悠太の目の前に置かれている淡い琥珀色のカクテルには、ふたりのやりとりも含めたマスターの想いが詰まっているにちがいない。
 飲んでみると、甘酸っぱい味がした。
「チャーリー・チャップリン。世界の喜劇王の名を冠した一品です」
「このカクテルには、どんなメッセージが込められているんですか?」
「……」
「……?」
「……〝信じる恋〟です」
 とあるクイズ番組の司会者なみにたっぷりと間を溜めて、マスターが答えた。
 実際、今の悠太には、信じて待つよりほかにはどうすることもできないのだった。再会の約束を果たしてくれるかどうか、そして自分を選んでくれるかどうか、決めるのは麻衣子だ。
「……適わないな、何もかもお見通しってわけですか」
 悠太は、さきほどまでの一部始終をマスターに語った。
 マスターは話を聞き終えたると、しばらく何かを考え込む風情で黙り込んでいたが、やがて思い切ったように口を開いた。
「悠太さんに見て欲しいものがあります」
 マスターが指差すバックキャビネットの一隅には、ディズニーの魅力的なキャラクターたちを象った、陶製の置物がずらりとならべられている。それらは特に目新しいものではなく、店を訪れるたびにいつも目にしていたものだ。
「何だかわかりますか?」
 マスターはいちばん手前にあったミッキーマウスを手にすると、悠太の前にそっと置いた。ミッキーはカウンターの上で、両手を大きくひろげてみせるお得意のポーズを決めている。何気なく持ち上げようとした悠太は、その意外な重さに驚いた。かすかに揺れた拍子に、ガラスと金属が触れ合ったような音が響く。よく見ると、彼の頭のうしろの部分に細長いちいさな穴が開いている。
「貯金箱?」
 マスターはゆっくりと頷いた。
「ここにある貯金箱は、すべて麻衣子さんからお預かりしているものなんです」
「え?」
 予想もしていなかったマスターの言葉に、悠太は思わず聞き返していた。
 赤い水玉模様のワンピースの裾を両手でひろげて気取ってみせているミニー、理由はわからないが腰に手をあててかなり怒っている様子のドナルド、垂れた耳の片方をピンと立てワンコ座りをして愛嬌を振りまくプルート、……全部で七体の貯金箱は、キャビネットの一角を占拠していたが、まるで自分たちが記念ボトルかなにかのように、さまざまな酒壜たちに交じってすっかり周囲に馴染んでしまっていた。
「もう何年になりますかねえ。お二人がいらして下さるようになって半年近くが経った頃でしたか、開店間近の店を麻衣子さんが訪ねていらしたんですよ」
 マスターは、水切りから取り上げたグラスを丁寧に拭きあげながら、そのときの様子を語り聞かせてくれたのだった……。

「マスター、忙しいのにすいません。少し時間ありますか?」
 わずかに開かれたドアの隙間から顔を覗かせて、麻衣子がおずおずと尋ねた。
「構いませんよ、どうぞ中に入ってください」
 麻衣子はホッとした表情を見せて店内に足を踏み入れると、カウンター奥の指定席に腰掛けた。手に提げてきた紙袋を隣の椅子の上に置く。いつもは悠太が座っている席である。
「何かお飲みになりますか?」
「いいんですか?」
「はい。営業時間外ですので、無料でサービスさせていただきます」
 マスターが悪戯っぽく笑った。
「じゃあ、オレンジジュースをお願いします。車で来てるから、お酒は飲めないんです」
「承知いたしました」
 マスターが本物のオレンジを使って特製ジュースを作っている間、麻衣子はぼんやりと物思いに耽っている風情だったが、
「お待たせしました」
 目の前に置かれたジュースをひとくち飲むと、麻衣子はおもむろに切りだした。
「マスターにお願いがあるの」
「何でしょうか? 私で力になれることでしたら」
「マスターにしかできないことなんです」
 麻衣子は持ってきた紙袋からそれを取り出した。両手をひろげて格好良くポーズを決めているミッキーマウス。
「これ、貯金箱なんですけど」
「貯金箱?」
「はい。これをお店のどこか、……できればよく見えるところに置いて欲しいんです」
 マスターは、麻衣子の珍妙な依頼とは裏腹の真剣な表情に戸惑いを感じた。
「それは構いませんが……。もしよろしければ理由を聞かせてもらえますか?」
 スクイーザーで絞ったオレンジの香りが、二人の鼻腔をくすぐっていた。その匂いに誘われるように、麻衣子は話しはじめた。
「わたしにとってのおまじないなんです」
「おまじない、ですか?」
「はい。悠太のバイト暮らしが長いのは、マスターも御存知ですよね? 実は大学を卒業してすぐに、定職に就いていた時期もあったんですよ。半年くらいで辞めちゃったけど」
 マスターは黙って話の続きをうながした。
「研修先が田舎過ぎただとか、担当上司とうまくいかなかっただとか、そもそもサラリーマンに向いてないだとか、悠太はいろんなことを言ってたけど、わたしにはどれもこれも言い訳にしか聞こえなかった」
 いつも悠太の横で天真爛漫な笑顔を振りまいている麻衣子が、初めて見せた心もち激した表情は、それだけでその強い想いを伝えていた。ひと息ついて、オレンジジュースに口をつける。
「……美味しいです」
「気に入って頂けて良かったです。よろしければ、おかわりもございますよ」
「ありがとうございます」
 麻衣子はしばらく黙ったまま、飲みかけのオレンジジュースを見つめていた。そうすることで、心を落ち着けようとしているらしかった。
 有線放送のスイッチがはいる。モダンジャズのメロディーが店内に優しく漂った。
 やがて、麻衣子は滔々と語りはじめた。
「不器用なんです、悠太は。何をするにしても自分のなかで理由付けがきちんとできてなきゃ駄目で、おまけに優柔不断なところもあるから、結局は遠回りしちゃうんですよね。今のバイト生活だって、本人は自由を謳歌してるんだって嘯いているけど、本当は不甲斐ない自分をずっと責め続けているんだと思う。それに、確かにエンジンかかるのは遅いけど、動き出したらなかなか止まらない人だから、社員研修くらいで根をあげて逃げ帰ってくるはずないんです。悠太が会社を辞めたのは、何か別の理由があったんだと思います」
 マスターは内心で舌を巻いていた。見かけは軽薄だが、内実は真面目で芯の強い青年……、麻衣子が語る氷室悠太の人物像は、接客業を生業にしている自身の見立てとほぼ同じだった。そこからさらに、麻衣子は恋人の心の奥にまで足を踏み入れようとしている。
 愛することは、人を思慮深くする――。
「それでも、いつかきっと悠太は、自分で納得のいく理由を見つけてくれると信じてる、一歩ずつでも前へ進むために。時間はかかるかもしれないけれど」
 マスターは麻衣子のどこか淋しげな気配が気になった。
「麻衣子さんが進もうとしている道は、悠太さんと同じではないのですか?」
「……だといいんですけど」
 麻衣子はちいさく溜め息をついた。
「だって未来のことなんか、誰にもわかりっこないですもの。いつ悠太が人生ときちんと向き合ってくれるのか、そのとき誰が悠太の傍にいるのかなんて」
 麻衣子は、グラスに半分ほど残っていたオレンジジュースを一気に飲み干した。
「でもね、わたし思ったんです。悠太が足を踏みだすとき、傍にいてあげられるかどうかはわからないけど、今のうちに何かできることがあるんじゃないかって……」
 マスターと麻衣子の視線が、ほぼ同時に貯金箱のうえに落ちた。
「そういうことですか」
「はい。たいした金額にはならないかもしれないけど、それでも少しずつ貯めていければ……。何をするにしても、これって大事でしょ?」
 麻衣子はこれと言いながら、親指と人差し指でちいさな輪をつくってみせた。麻衣子の所作は、ふだんの彼女の印象とはどこかズレていて、奇妙な生々しさをマスターに感じさせた。
「わかりました。ですが、この店のなかに置こうとなさるのは、どうしてなのです?」
「悠太とのデートって、わたしが奢ってあげるか、半分っこにするかどちらかなんですけど、今度からこの店の支払いだけは悠太に奢らせることにしました」
 麻衣子の強引さになかば閉口しながら、しぶしぶ押し切られている悠太の姿が目に浮かぶようだった。続けて麻衣子は、悠太が払った金額の半分相当を店に置いた貯金箱に積み立てていく計画を披露した。
「割り勘にしたって思えば気分的にも楽だし、デートの終わりにこの店に寄ることが多いからなにかと都合がいいですし」
 その時、マスターが照明のスイッチを入れた。なんとなく間の抜けた感じがしていた店内は、たちまち生命の息吹に満たされ、品の良い常連の酔客たちが集う愛すべき空間に早変わりした。バックキャビネットの酒壜たちは、淡蒼色の光を浴びて蠱惑的な輝きを放ち、打ち捨てられた砂浜みたいだったガラス張りの床は、たちまち神秘の衣を身に纏った。
「それに貯金箱を店に置いてもらってたら、わたしが悠太に渡すんだって思って、来るたびに励みになるし、心が折れそうなときのおまじないにもなるかなって」
 言って恥ずかしくなったのか、麻衣子は急に口調を変えた。
「なんて言ってみたけど、わたしってお金を貯めるの、あまり得意じゃないんですよね。自分の部屋に置いていたら、ついつい使っちゃうに決まってるもの」
 麻衣子に悪びれたようすはなかった。マスターは苦笑まじりに彼女を見つめた。マスターの表情に気づいたのだろう、麻衣子はペロリと舌をだした。

「……そんな訳で、このミッキーマウスの貯金箱が、飾り棚にならぶことになりました」
 マスターはチラッと背後を振り返った。
「いつのまにか、一体が二体になり……。いまでは、七体目のチップ&デールがもうすぐお腹一杯になろうとしています。どれくらいの金額が貯まっているかわかりませんが、スーツの一、二着ならすぐにでも新調できると思いますよ」
 マスターはミッキーの貯金箱を元の場所に戻した。
 ――麻衣は、増えていく貯金箱をどんな気持ちで眺めていたのだろう。
 悠太は麻衣子の心情を慮った。麻衣子は貯金箱を買い足していくたびに、期待よりも不安のほうを募らせていたのにちがいない。結果として、悠太は麻衣子の期待を裏切ってしまった。
「うまくいかないものですね」
 悠太は嘆いた。
 夏休みに帰省する前、麻衣子は悠太にしきりにぼやいていた。今にして思い起こせば、麻衣子は引き留めて欲しかったにちがいなかった。見合いの話は聞かされていなかったにせよ、なんとなく予感めいたものはあったのだろう。だが、悠太はそれをせず、逆に彼女の背中を押してしまったのだった。
 ――あの時、駅の待合室で今夜、麻衣子に語った想いを伝えることができていたら。
 麻衣子は見合いの話を断っていたかもしれないし、たとえそうならなかったとしても相手に心を動かされることはなかったのではないか。
 時間軸のわずかな齟齬が、ふたりの未来を大きく変えてしまおうとしていた。
「悠太さんがもう少しだけ早く……そう思うと、残念でなりません」
 マスターは、少し淋しそうな口調でぽつりと言った。
 悠太には、返す言葉がなかった。麻衣子が自分の隣にいることが、神様が決めた永遠の約束事でもあるかのように思い込んでいた、そんな自分の甘さを今さら悔やんでもどうにもならない。
「ピエロの格好をしてるっていう、コスプレ趣味の妖精にもお願いしてみたんだけど」
 グラスを磨いていたマスターの手が、ピタリと止まった。
「今、何とおっしゃいましたか?」
 冗談のつもりだった悠太の何気ない言葉に、マスターは言った本人が驚くほどの意外な喰いつきの良さを見せた。
「もう少し、詳しく話していただけませんか?」
「そんなに詳しいわけじゃないんですよ。つい最近、麻衣から聞いたばっかりなので。このまえ帰り道に【聖樹橋】を通っていたら、ちょうど雪が降りだしたんですけど、そのときに橋にまつわる言い伝えを教えてもらったんです。たしか橋のたもとにある大木の精霊がピエロの姿になって現れて、願い事を叶えてくれるとかなんとか。なんて言ったかな、えっと……」
「ひょっとして〝落ち葉拾いの道化師〟ではなかったですか?」
「そうそう、それそれ。……って、マスター、どうして知ってるんです?」
 マスターは心なし遠い目をしていた。
「懐かしいですねえ。言い伝えというのは、〝雪降りし夜。最初のひとひらが舞い降りるとき。汝、夜空に向かいて願い事を唱えるべし。聞き届かば、聖なる夜に大願成就をなさん〟ではなかったでしょうか?」
 マスターが諳んじてみせた伝承の文言に、悠太は聞き覚えがあった。それは【聖樹橋】の上で、麻衣子から教えられたものだった。
 麻衣子が女学生のころに流行ったセンチな都市伝説を、青春の微かな残り香とともに記憶していたことは、どことなく可愛げがあって好ましかった。しかし、女学生の流行とはまったく縁がなさそうなマスターから、麻衣子と同じ話を聞かされたことは、新鮮な驚きだった。
「本当によく御存知なんですね?」
 マスターの返答を聞いて、悠太は絶句した。
「知ってるも何も彼らの産みの親がわたしなのですから」

 その後でマスターが語った真相は、悠太をさらに驚かさずにはおかなかった。
 マスターが〝銀河英雄同盟〟の前身となる青年団の初代団長だったこと、その縁で同盟のメンバーとは今でも親交があって、彼らからはメルカッツ提督と呼ばれていること、当時の街の特定の地域を〝雫町〟と名付けてなんとか若者たちに根付いてもらおうと村おこしに奮闘したこと、その一環として〝雫町〟に不定期に出現するピエロ姿の精霊というキャラクターを考案したこと……。
「大樹に宿った精霊たちが、散りゆく落ち葉に乗って〝雫町〟のいろんなところに舞い降りた……という設定でして、彼らは全部で十三体を数えました。根城にした場所や与えられた役割によって、彼らにはそれぞれに名前がつけられていました。駅の時計塔を住処にしたタイム・ガーディアン(♂)、南郊の森に潜むフォレスト・ウォッチマン(♂)、海が大好きなハーバー・リーフ(♀)……。なかでもいちばんの人気者だったのが、【すずかけ橋】に棲みつくことになった彼でした」
「それで、彼にはどんな名前をつけたんですか?」
「願い事を叶えるという大役を担っていたので、これにちなんでドリーム・ウィーバー(♂)にしました。同時にマップのうえでは【すずかけ橋】も【聖樹橋】と呼ぶようにしたのです。いまでは、言い伝えと橋の名前だけが残ってしまいましたけどね」
「マップ?」
「はい。彼らがどこにいるのかを示した〝雫町マップ〟というものを作ったんです。そのとき彼らの生息地周辺の地名などにも、それらしい名前をつけようということになりました。街並みは変わり映えしなくても、そのほうが若者受けするんじゃないかとみんなで話し合いましてね、お役所にも協力してもらったりしながら取り組んでいるうちに、結局かなり大掛かりな企画になってしまいました。〝雫町〟という町の名前自体もそうなのですが、ほかにもマップではじめて使った地名が、そのまま今でも残っているところが多いんですよ」
 マスターの話を聞いて、すぐに悠太はいくつかの地名を思い浮かべた。同盟の根拠地でもある繁華街と三本の目抜き通りにつけられたそれらが、マップのなかで初めて産声をあげたことは間違いないだろう。【ブルジョワの丘】や【漣マリーナ】についてもまたしかりである。
「あの頃は、まだ【銀織街】にも活気があったのですが、波止場周辺の整備拡張がだんだん進んで、見下ろす丘陵の宅地開発も順調で、人の流れが少しずつあちらのほうへ傾きかけていた時期でもありました」
 マスターは、言葉ではなく哀しげな眸で語りかけようとするかのようだった。
「ですから【漣マリーナ】には、これ以上大きな波に成長して欲しくないという願いが込められていましたし、【ブルジョアの丘】はこの地にずっと住んでいた言わば下町育ちの私たちが、あとからやって来た会社勤めの選民階級に対してやっかみ半分でつけたアンチテーゼでした。まあ、結果はごらんの通りですけれど」
 マスターは、「それから、これは余談ですが」と前置きした後、
「繁華街の中央広場は、【銀織街】の中心という意味を込めて【ビッグ・バン・スクエア】と呼んでいたのですが、今から思うといかにもセンスがないと申しましょうか……。そういったものはやはり、いつのまにか廃れてしまうものですね」
「……」
 この場合の沈黙は、そのまま容認へとつながるのだ。
 マスターは気を取り直して尋いた。
「悠太さんは、彼にどんな願い事をしたのですか?」
「麻衣といつまでもいっしょにいられるように……、だったかな」
 マスターは意味深な視線を投げながら、
「そうして、聖なる夜に【聖樹橋】で再会なさるんですよね?」
「あ!」
 あのとき、駅の待合室で別れ際に咄嗟に叫んだ言葉が、結果として彼の久し振りの晴れ舞台のお膳立てをしていたことに、悠太ははじめて気づいたのだった。
「願い事が叶うとよろしいですね」
 言葉ではなく優しい眸で語りかけようとするかのようだった……。

「マスター、結局、俺たちっていったい何だったんでしょね?」
 チャーリー・チャップリンと一杯目のギムレットを沈黙とともに飲み干した後、二杯目のギムレットで口を湿らせながら、悠太は呟くように言った。マスターに尋ねても仕方のないことだったが、誰かに問わずにはいられなかったのだ。それが他人には答えられないとわかっていても、ちゃんと答えて欲しかった。
 マスターは聞こえないふりをして受け流している。
 ――何か話せっていうほうが無茶だよな。
 自分自身に言い聞かせて悠太が二杯目のギムレットを飲み終えようとした時、不意にマスターが言った。
「お二人は、男と女……。それだけのことです」
 突き放すような口ぶりで、マスターが言った。
「男は男だから女を愛し、女は女だから男を愛する。悠太さんは男だから麻衣子さんを愛したし、麻衣子さんは女性として、悠太さんのことを愛した……違いますか?」
 マスターの言葉が正しいのかどうか、悠太にはわからない。ただ、悠太にはどうしても納得できない部分があった。男と女……。麻衣子との関係は、そんなひとことで片付けられてしまう程度のものでしかなかったのだろうか? 男だからというただそれだけの理由で、悠太は麻衣子を愛したのではなかった。少なくとも悠太にとっては、麻衣子でなくてはならない何かが存在していた。
 ――それは、何だろう?
 悠太が自問したとき、マスターが悠太の顔を覗きこむようにしてカウンターに両肘をつくと、
「それだけは、お二人にしかわからないことですよ」
 マスターの優しい眸が、『ちがいますか?』と囁いていた。
 ――叶いっこないや。
 そう思った。マスターの心の大きさを、悠太は痛いほどに感じていた。
 カウンターにそっと手を触れる。そうしてそのマホガニーの木目を指でなぞりながら、悠太はマスターが歩んできた人生に想いを馳せた。
 ―――いろんなことがあったんだろうな。
 自分などには想像もできないくらいに。そのひとつひとつがマスターの心のなかで、大切な宝物として輝いているにちがいない。そうしてこれらは、マスターが作るカクテルのなかで変わらぬ輝きを放っているのだ……。だから、マスターが差し出すカクテルは、人の傷みを知り尽くした優しい暖かさに満ちていた。
 その温もりは、今の悠太にとって最も必要なものだった。
 マスターの手で心に明かりを灯して欲しい。マスターだったら、そんな願いを叶えてくれるかもしれない……、そう思った。
「チャップリンの『ライムライト』という作品を御存知ですか?」
「いえ、知りません」
 唐突な問いに悠太は戸惑った。
「カルヴェロという落ちぶれた辻音楽師と、テレーザという才能豊かながら挫折した踊り子との恋物語なのですが、やがて表舞台に返り咲いたテレーザは、彼女のもとを去ったカルヴェロに変らぬ恋心を抱き続け、彼の才能を最後まで信じ抜きます」
 マスターは、三杯目のギムレットを悠太の前に置きながら、
「私はチャーリー・チャップリンに込められた〝信じる恋〟という想いは、案外『ライムライト』のカルヴェロとテレーザの物語が由来ではないかと思っています。そして、それはこんなふうに言い換えることもできそうです。『愛すればこそ、信じよ』と」
 それから、少しく間をおいて続けた。
「恋愛には、それぞれのかたちというものがあると思います。それらはどれ一つとして同じものはありません。それぞれの愛には、そこにしかない何かがある。……それが何なのかは、わからなくてもいいのです。そこに何かがある、ということを感じてさえいれば、麻衣子さんのことを信じて待ってあげられるのではないですか?」
 マスターは、人を愛するうえでとても大切なことを悠太に伝えようとしていた。
 そして、最後にこうつけ加えた。
「フォルトュナが操る〝運命の輪〟は、決して止まることなく回り続けているのです」

小夜曲-セレナーデ-第四章/第五章/第六章

執筆の狙い

作者 朱漣
211.15.239.113

(前回までのあらすじ)
 クリスマスを前にして、恋人・麻衣子から別れ話を切り出された、悠太。真夜中の電話で別れてしまうことに納得できなかった悠太は、最後にもう一度だけ会って話がしたいと恋人を説得し、なんとか最後の邂逅に漕ぎつけることができたのだった。

 少し長いですけど、ストーリー的にここまでがひと区切りなので。
 よろしくお願い致します。

コメント

カルネ
133.232.243.157

お上手です。安定感あります。

私が忘れてしまっただけなのかもしれませんが、
>家族みんなに可愛がられている恥かきっ子の男の子……
弟の話って今までありました?

>「最後のひとつは……」
>そのとき、構内放送を知らせるチャイムが待合室に鳴り

もう「望郷」(笑)。こちらは「ギャビー」と叫んだ時に汽笛がボー、さあ、ジャン・ギャバン扮する犯罪者ペペ・ル・モコ彼の声は果たして甲板に立つ彼女の耳に届いたのだろうか、という名シーンが有名です。
以降、色んな映画やドラマでこのパターン使ってますよね(笑)。お約束のシーン、いいですよね(笑)。

そして正隆。良いキャラクター出してきましたよね(笑)。もう大正解(笑)。
ライバルは主人公の上を行く。基本です。大事な大事な基本です。
正直、フィギュアスケートに例えるならコンパルソリー、満点に近いですよね? もう読んでいてあちらこちらで「こうでなくっちゃね!」と思わずガッツポーズ(笑)。喜ばせてくれるなーって感じです(笑)。

愛とは決して後悔しないこと。これって「ある愛の詩」ですか?

で、充分、今回も楽しませていただいたのですが、気になる点を。

やっぱり「愛とは決して後悔しないこと」これは使わない方が得策かと。なぜなら既存のドラマや映画でもう使いまくりなので。
既存の場合、それはもうプロ作品ですから良いんですけど、これからプロになろうと思っている人の場合は立場が違うので、どんな形であれ名台詞を自作に使うのは極力避けるべきかと思われます。
特に恋愛ものは尚更かと。というのは恋愛小説って小説だけでなく映画やドラマともう本当に掃いて捨てるほどあるじゃないですか。そしてハッピーエンドかアンハッピーエンド、このどちらかしかないわけですよね? 
と後はもう主人公たちにどれだけオリジナリティ感を持たせるか、ここしかないんですよ…。
映画だとラストの映像とかで「してやられた」感を出す事も出来ますけど、小説はなかなかねえ。
なので、小道具的に使うにしてももう少し別なセリフの方が良いかな、と思います。
(なので逆に「ライムライト」をもってきたのはちょっと新鮮味がありました)
本当にもう「愛とは決して後悔しないこと」は使われ過ぎているどころか、昨今はこれ陳腐さまで出て来ているので…。
何の映画か忘れましたけど、確か往年の女優がインタビュアーに若かりし頃のスキャンダルで妻子ある男優との泥沼不倫のことを蒸し返されて「後悔してますか?」と問われて、「そう、後悔している。でも彼を愛したことを、私達のしたことを恥じてはいない」と応えるシーンがあるんですけど、ある意味、上手い! と思ったことを覚えているんです。映画自体はもう退屈で死にそうだったんですけどね。「後悔はしている。でも恥じてはいない」って台詞がね。ここだけは巧いなあ、と(笑)。
台詞って、そういう反転がある方が上手い!って思わされるんですよ。既に既存として「愛とは後悔しないこと」が市民権を得ているので、出来ればその上を行くものを出す。それが後から創作する者の使命になるのかなって、そんなふうに思います。

あとは、「さあ、この二人は最終的にどうなるの」ってことなんですけど、正直言って、雰囲気から行くとハッピーエンドに持ってゆくのかなあって思わされなくもないのですけど、それには相当の材料を、展開を持ってきて納得させていただかないとって思ってます(笑)。だって、今回は麻衣子の心情にリアリティが感じられたし、そうよね、そうやって別れてゆくってあるよね、と思わされました。このままだと後、ちょっとした紆余曲折程度では、マンガです。
もう今のまま別れてくれた方がなにか味わい深い(笑)ので。

ほんとこの後、悠太の方のあれこれの章が来て、
で、
>二週間後のクリスマス・イヴ。二十二時に【聖樹橋】で
奇蹟が起きてふたりはやっぱり結ばれるとか、もうイヤーー! 絶対イヤーー! その展開だけはやめてーー!!って感じ(笑)。
なんて、ね。

とはいえ、次も楽しみにしてます!

朱漣
210.170.105.157

 カルネ様

 いつも遊びに来て頂いて、ありがとうございます^^
 それから、毎回の貴重な御助言の併せて感謝です。

 えー、恥かきっ子の男の子……、今までのお話しの中には出て来てません^^;
 唐突過ぎちゃいましたかね?
 作者的にはこの恥かきっ子ちゃんの物語が頭の中にあったりしたもので、それほど違和感なく出してしまってました。
 読者目線を心掛けなければ……。

 いろいろとお褒め頂いて、ありがとうございます! 励みになります^^
 コンパルソリー……、懐かしい。伊藤みどり選手が苦手としていた、あれ、ですね?

 「愛とは決して後悔しないこと」……陳腐っすねぇ、確かに。
 この作品、初稿がずいぶん昔なもので、この部分は当時のものを何も考えずにそのまま引用してきてしまってました。
 改めて指摘していただくまで気づいてなかったです。ありがとうございますっ!
 ヒントとして助言していただいた、台詞の反転という処に留意しながら、この部分には早急に手を入れたいと思います。
 12月末〆切の公募に出す予定でいるので、このタイミングで指摘してもらって良かったです^^

 麻衣子の心情にリアリティーを感じていただいたとのこと、嬉しい限りです。まあ、その分、ラストのハードルをあげてしまった感は否めないですけど^^;
 無意識のうちに正隆に依存している心情……、正直、この部分を書き込むの迷ったんですよねぇ。でも、それくらい書かないと八年付き合った彼氏との決別にリアリティーがなくなってしまいそうだったので書くことにしました。
 カルネさんがおっしゃっている相当の材料と展開を準備できてる自信はないですけど、この作品は一応、ライト文芸かつファンタジーなので、あんまし暗い感じのラストではないです、ご察しの通り^^;

 >ほんとこの後、悠太の方のあれこれの章が来て、
 はいはい。↑が七章と八章になります。初回に御指摘いただいた紫色の包みのくだりです。

 >二週間後のクリスマス・イヴ。二十二時に【聖樹橋】で奇蹟が起きてふたりはやっぱり結ばれるとか、もうイヤーー! 絶対  イヤーー! その展開だけはやめてーー!!って感じ(笑)。
 グサッ、グサッ、……バタン!
 だって、ほら、カルテットがしているコサージュの薔薇の色、情熱の赤じゃなくて「青色」ですから^^;

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