作家でごはん!鍛練場
今井舞馬

アンマッチキャロット

 朝鮮東部に泰然とそびえたつ雪岳山に、一人の少年の声が響き渡った。
 その人並みならぬ野性的な叫び声は、雪岳山の粛々たる静謐を破り、新緑の産毛をむしり取るような猛々しさで隆起した地肌を伝っていった。
 そんな雄々しい声のこの少年は、名をグンファと言った。姓はわからない。口減らしのために弟と共に山に捨てられた孤児だからである。
 故に、彼のその透き通るような白い肌は泥土にまみれ、申し訳程度に腰に巻いた麻の布はもはや寒風から身を守る責務を微塵も果たしていなかった。頬は痩せこけ、少年としての愛嬌など欠片も感じさせない。
 しかし、それでも彼は生きていた。
 雪岳山の豊かな自然は、彼の生存に足りうる量の水と食料を与え、日当たりのよい高台の洞窟は、彼を雨露から、夜の脅威から守った。雪岳山のすべてが彼を生かしていたのである。
 
 さて、ひとしきり大声を上げ終えて満足した様子のグンファは、口元に添えていた手を腰に当て、誇らしげな表情で鼻息をついた。
「どうだ、ユンファ。いい加減目が覚めたかよ」
 ユンファと呼ばれた少年は、グンファよりもやや幼く、色素の薄い栗色の髪が特徴的な子であった。ユンファもまた、口減らしに捨てられた孤児であり、グンファの弟だ。
 ユンファは不満げに口を尖らせ、藁でできた布団の中からグンファを睨んだ。
「はぁ……。兄さんの奇声を浴びてなお眠り続けられる人がいるなら、僕はその人の爪の垢を煎じて飲むよ」
「ははっ、言ってくれるじゃん。どうだよ、俺の爪の垢を飲めば案外耐性がつくかもしれないぞ」
 グンファはいやらしい笑みを浮かべながら、手のひらをユンファの顔に突きつける。
「うわっ、やめろ汚い。垢っていうかもはや泥しか見えないよ」
 ユンファは慌てて起き上がると、逃げるように洞窟を飛び出した。

 洞窟を出ると、雲一つない、突き抜けるような青空が二人の眼前に広がっていた。
 体温を内側からはぎ取っていくような冷涼な秋の寒風に、ユンファは思わず身震いをする。
「な、寒いだろ。お前、こんな寒いのによく昼寝なんかしてられるよな」
 グンファはどんな天候だろうと欠かさずに昼寝をするユンファに呆れつつも、少しばかり羨ましくも感じていた。如何なる不幸がその身を襲おうと、些事だとすべて払い飛ばしてしまえそうな、そんな図太さが自分にも欲しかった。
「寒いよ。でも昼寝はしないと。昼寝をサボリ続ければ、体の免疫が弱くなって、思考力とか判断力が落ちて、なんか、こうとにかく死に至るということは医学的に証明されているからね」
 鼻高々に語るユンファの顔はいたって少年らしい可愛げに満ちていた。その顔を眺めながらグンファは、やはり兄は大変だと感じながら、嬉しそうに小さくため息をついた。
「ばーか。医学の知識なんてないくせに偉そうによ。昼寝していても腹は膨れねぇだろ。ほら、仕事行くぞ、仕事。金さえたまれば医学の本の一つくらい買えるかもだしよ」
 グンファは仕切りなおすように手を打ち鳴らすと、ふもとの街、束草に向けて、坂道を下り始めた。
「ソクチョまで歩いて二時間、下見前に日が暮れたらお前の昼寝のせいだからな。って今日は言わないんだね、意外だ」
ユンファは茶化すようにグンファの口調を真似ながら、兄の後を追って歩き始める。
「うるせえ、走るぞ。先に街についたほうが今朝獲ったサワガニ全部な」
 言い切る前にグンファの足は加速を始めていた。
「ええ、ちょっと嘘でしょ。待って兄さん、ずるっ。走れないの知ってるくせに」
 途端に余裕をなくしたユンファは必死に兄の後を追う。
「ははっ、冗談だよ。ユンファは本当に騙されやすいなぁ」
グンファはすぐに踵を返し、弟のもとに戻ってくる。
「兄さんの馬鹿」
……何気ない、いつもの光景だった。
 彼らがこの山に捨てられて約半年が過ぎた。青々と茂っていた緑林はやがて、赤に黄色に山吹色に、華やかにその身を彩らせ、そして枯れていった。
 冬が、迫っていた。


 ある夜のことである。
 束草の街はずれにぽつねんと鎮座する、ある商人の家があった。そこにはボムチョルという名の商人が住んでおり、妻子と共につつがなく暮らしていた。
 決して富があるわけでもなく、家の造りを見てみると、何の変哲もない瓦葺きの屋根に、年季の入ったオンドル床、そして地味な大門とごく一般的な韓屋であることは瞭然であった。
 商人でありながら人格者で、徳も高く誠実なボムチョルは、人々からは敬われ、また親しまれていたが、自分に厳しく欲を律し過ぎてしまう彼は、表情が余り豊かではなく、接客で微笑むことはあっても、心底喜んだということは久しく無かった。
 しかしそんな堅物の彼でさえ、頬の筋肉がだらしなく弛緩してしまう程、喜ばしい行事が目前に迫っていた。
八つになる愛娘の誕生日である。
 ボムチョルはこの日のために清から取り寄せた上質なかんざしを、絹織物や桐製の木箱で丁寧に梱包し、そっと箪笥にしまいこんでいた。
 生まれてくれてありがとう。育ってくれてありがとう。すべての感謝を贈り物に込めた。
富などなくていい、ボムチョルはただ、愛する娘の笑顔さえあればそれでよかったのである。
 日も暮れてまだ間もなかったが、早々に床に就き、わずかにひらけた窓の隙間からぼんやりと空を眺めていると、深藍色に染まった雲の間から、流麗に弧を描く上弦の月が煌々と光が照らしていた。
 そういえば、普段より幾ばくか夜鷹の鳴き声が騒がしいようでもあったが、幸せで胸がいっぱいのボムチョルはさして気にも留めなかった。
 チョゴリに身を包み、嬉しそうにはしゃぐ娘の姿を想像しながら、ボムチョルは来たるべき明日に備え、静かに眠りについたのだった。


「……で、今度は何をかっぱらってきたんだ」
 露店で賑わう大通りの喧騒からやや外れた路地裏の暗がりの中、怪しげな中年男が小汚い子供達と何やら話し込んでいた。
「まず見てよこの高そうな木箱。これだけでも、四両は下らないだろ。あの狸ジジイ、金目の物には興味ないふりして、こんな豪華なもん隠し持ってやがった」
 みすぼらしい身なりの少年が男に応じる。
「うんうん、兄さんの言う通りだ。この絹が八両、かんざしは三十両するだろうね。でもなんでかんざしなんだろう。奥さんにでもあげるつもりだったのかな」
 さらにその隣から、少年の弟が発言をかさねる。
「はっ、おかまなんだろ、察してあげなよ。あ、そういえばユンファ明日誕生日じゃん。あげよっか」
「いらないよ。僕はそんな趣味ありませんー」
 二人の少年は顔を見合わせて笑う。
 泥にまみれた、汚らしい二人の盗人。そう、ユンファとグンファである。二人はこうして金を稼ぐことで、山暮らしからの脱却を図っていた。
 冬の山は、娘の笑顔などでは乗り切れない。より多くの、尚且つ迅速に、資金を手に入れなくてはならなかった。
「てめぇら、勝手に騒ぐんじゃねぇ。四両八両と簡単に言うが一両ありゃあ米俵が丸々買えるぜ。三十両なんて到底しないだろ、このかんざしは」
 水を差された二人は途端にしょげかえった。
「で、でも、本当に金が要るんだ、おっさんもわかるだろ」
 グンファは必死に訴えるが、男が意に介す様子はない。しかし、何かを思い出したのか、わざとらしく手のひらを打った。
「あ、そ~だ。そんなに金が欲しいのなら一つ耳寄りな情報があるぜ、聞くか?」
二人は不審そうに男の顔を凝視していたが、誘惑に負けたのか、無言で先を促した。
「なあお前ら、幻の人参のうわさは聞いたことあるか? たった一本の人参をちびっとかじるだけで、どんな怪我も、どんな難病もたちどころに癒えちまうってな話なんだけどな。その人参は橙色じゃねえ真っ白な見た目なんだとよ。聞くところによりゃあ清の仙人がうっかりなくしちまって、あれよあれよという間に朝鮮まで流れてきたらしいんだが、誰も消息がつかめねぇ。でもよ、俺は知っちまったんだ。今、この束草にその全能の人参があるってことをな。ふふ、街の情報網はすべて俺が把握してる。信頼できる筋からだぜ」
「束草全体じゃ広すぎる。もっと絞れていないと無理だ」
 グンファがすかさず突っ込みを入れる。
「いや、絞り込みはもう済んでる。襄陽都護府のお偉いさんの家だ。場所は、舎廊房の戸棚の中が有力だな。奴は頑強な警備隊がいることに慢心してやがる。狙い目だぜ」
 舎廊房は男性が住む部屋のことである。女性と男性は分かれて生活し、女性の部屋はアン房といった。
「あーあれか、大通りの突き当りの派手なお屋敷だろ。そりゃ高級品だもんな、なるほど……って、警備隊がいんのかよ。それだけでも難易度高いし、そもそもそんな人参この世にあるわけねーから。危うく乗せられそうになったわ、俺は下りる」
 グンファは、あぶねーあぶねー、と小声で呟きながら右手をひらひらと左右に振った。
「……そうかよ。ま、明後日までにはこのかんざしと箱の査定が出来るから、それまでのお楽しみだな」
 男は意地悪く笑いながら、かんざし入りの箱をグンファの手から取り上げた。
「ちぇ、わかったよ。さ、帰るぞユンファ」
 グンファが踵を返したので、ユンファもそれに倣う。
 男は二人が去っていく後姿を何故だかもどかしそうに見送っていたが、抑えきれなくなったのか、ついに二人を呼び止めた。
「……おい、ちょっと待てお前ら。もう一つ話があるんだ。まあ聞いて行けよ」
「まだあんの。さすがにもういい……」
「いや、聞こう。なんだ」
 振り向きざま、面倒臭そうに男をあしらうユンファを制し、グンファが訊き返した。
「……いやな、その……お前らは洞窟に住んでるんだったよな。もうすぐほら、冬が近いだろう。チゲが美味い季節だ。いや、お前らは食ったことねーか、あー、そうじゃなくてだな。もし良かったらなんだが、お前ら、俺の……」
「俺の作ったチゲを食ってみないか、絶対美味いから。だろ? もうその手には乗らねーよ」
 グンファは男が言い終わるのを待たずに言葉をかぶせると、得意げな目線を男に送る。
「……。ちっ、ばれたか」
「当たり前だ。この前食ったポシンタンはドブみたいな味だったじゃねーか。もう二度と騙されねえよ。……いやそこまで悲しまなくても。料理以外にもやれる特技はあるって。気を強く持てよ……じゃ、じゃあ、俺たちはもう行くからな。査定適当にやったら許さねーから」
 何とも言えないこの気まずさから逃れるように、二人は足早に路地裏を離れていく。
 一方、自作したポシンタンの味をけなされた闇商人の男は、悲しそうな表情で唇を噛みながら、すでに二人が曲がった建物の角をただ茫然と眺め続けていた。
 俺の家に来ないか。
 言い切るのに二秒と経たないその一言を、胸の奥底に抱え込んだまま。


 大通りの雑踏を背に、住処である雪岳山へと歩を進めながら、グンファはこみ上げてくるような焦燥に駆られていた。
 闇商人の男のおかしな態度である。あんなに動揺している彼をグンファは初めて見た。普段は言わないようなことを突然口走ったかと思えば、二人を舐めまわすような視線で凝視し、そのあとも歯切れの悪い物言いが続いた。
 グンファの懸念は確信へと変わった。あれは見抜いている。
 ユンファの足がもう使い物にならないことを。
 そう、現在ユンファの体は得体のしれない病気に侵されている。最初は足にむくみが出る程度の症状だった。しかし、徐々に悪化し、今では激しい痺れと共に、歩くのが精一杯だ。
 今回の仕事も、山の往復はグンファに背負われて同行していたのである。
 では、なぜ見抜かれてはならないのか。それは、グンファら二人と闇商人の関係が、単なる取引相手ではないからである。
 彼らの関係は、某人から窃盗依頼を受けた商人が、身寄りのない子供を使って盗みを実行させ、仕事の規模や結果に応じて子供に報酬を与えるという仕組みの上に成り立っていた。
 依頼主が買い取る金額が大きくなるほど、二人の報酬も増える。
 孤児が単独で盗品を売って儲けることなど不可能だ。安定した収入を得たければ、必ず闇商人の仲介が必要になる。そしてこの関係の軸は、いつでも子供を切り捨てることができる点にある。
 つまりこの稼業、一度の失敗が命取りになり、見限られたら終わりである。仕事ができなくなったなど、以ての外だ。
 さらにこの兄弟は、二人組で行動できるという利を買われていた。片方が駄目になった時点でもう片方も首切りは免れない。無理をさせてでもユンファを連れて行き、闇商人の前では壮健に振舞わせる他なかった。故に、グンファは焦っていたのである。
 背中で気持ちよさそうに寝息を立てる暖かなユンファのぬくもりは、しかし胸中に安らぎを与えるどころか、かえってグンファの焦燥を加速させていった。

 洞窟に着き、ユンファを寝かせ、また自らも藁敷きの寝床に身を委ねる。
 眠れるわけがなかった。目を強くつむっても、何度寝る体勢を変えてもそれは変わらなかった。緊迫した諸問題が脳裏に浮かんでは消える。

 悪化の一途をたどるユンファの病状
 切り捨ての危機
 もはや誤魔化しきれないほど明確な外気温の低下
 底が見える貯金箱
 あげていけばきりがない

 医者になりたいユンファ
 山に捨てた非情な親
 半年の山暮らし
 今朝獲ったサワガニ
 ポシンタン
 チゲ
 …………幻の人参

 時刻はおそらく子の刻過ぎ。夜明けまでにはまだ十分の時間が残されていた。

 あくる朝。目を覚ましたユンファは、グンファの姿がないことに気づく。刹那、見捨てられたという可能性が脳裏をかすめたが、兄に限ってそんなことはあり得ないと即座に思い直した。しかし、黙って出ていくというのはよっぽどのことだ。普段なら、あの耳障りな大声で起こしに来るはずである。
 しかし利口なユンファは、いま自分たちが置かれた状況や、直近の会話、兄の性格などを総合的に判断して、グンファは幻の人参を盗みに行ったのだと察することができた。
 兄が自分に黙って出かけた理由は想像に難くなかった。
 そう考えるとユンファは涙が出そうだった。
 グンファは、きっと人参を取って帰ってくるだろう。金に換える為ではなく、弟の病を治すために、一本丸々食べろと言うに違いない。見捨てればいい。ただそれだけで幸せになれる。なんて非合理的で、意味のない行為なのだろうか。
 ……馬鹿な兄さん。だから大好きだ。ユンファは改めてそう思った。
 兄への信頼が、敬意が、絶対的に強固なものへと昇華した瞬間だった。

 ユンファは、何も思案を巡らさず、ぼんやりとした表情で洞窟の岩肌を眺めながら、黙ってグンファの帰りを待つことに決めた。
 そうして、兄の帰りを待ち始めて半刻ほど経った頃だった。
 山間から不意に聞こえた人の足音と話し声に、はっとなってユンファは即座に辺りを警戒する。
 どうやら三人ほどの集団がこちらに近づいてきているようだ。
 逃げようか逡巡したが、もはや遅かった。運良く通り過ぎてくれるか、もし来られても相手に敵意がないことを祈るしかない。
 案の定、その三人組は洞窟までやってきた。
「お、先客がいるみたいだな。よう坊主。調子はどうだ」
 えらくガタイのいい髭面の男が、入り口をのぞき込みながらユンファに向かって話しかける。憶測だが、この男が三人の中心とみて間違いないようだった。
「……ここに住んでんのか。俺は到底ここで冬を越せるたぁ思えねぇけどな」
 大柄な男は、洞窟の中をぐるりと見渡しながら言う。
「……何者だよ、あんたら」
 ユンファは排他的な態度で、しかし内心恐る恐る口を開いた。
「ああ、俺たちはマタギなのさ。ほら、もうすぐ冬になるだろう。熊が冬眠してしまう前に、下見をしに来ているんだ」
 今度は隣にいた細身の若い男が、いつの間にか座っている髭面に倣って藁敷きの床に腰を下ろしながら、ユンファの問いかけに応じた。
「そういうこった。坊主は一人か? それともなんだ、誰かいたけどおっ死んじまったか。おーおー、健気なこったねぇ。こんなくそみてぇな洞窟で一人、ひもじく質素に暮らしてるってんだからよ、大したもんだぜ」
 髭面がそれに乗っかる。見透かしたような物言いに、ユンファは腹底から沸々と込みあげてくる憤りを感じずにはいられなかった。
「違う、兄さんがいる。僕の兄さんはあんたらの何倍もすごい。今だって、あの幻の人参を手に入れに行ってるんだ。一体売ればいくらになるんだろうな、楽しみだよ。少なくともあんたらより、数倍ましな生活が出来るようになることは間違いないだろうけどね」
「こら、落ち着かないか少年。お頭も言い過ぎです」
 興奮したユンファと悪乗りが過ぎた髭面を、眼帯が特徴的な女がたしなめる。この女性も、他の二人に引けを取らぬ狩人の風格がにじみ出ていた。
「……ククク、今、幻の人参って言ったか、言ったよなぁ。坊主よぉ、そりゃあ幻の人参ってのが一体どんなものか知ってて言ってるのかよ」
 髭面は、たしなめを無視してユンファに問う。
「……どうって、真っ白な見た目で、どんな病気も怪我もあっという間に治してしまう人参だろ」
 むしろ、それがどうしたという表情でユンファは答える。
 男はそれを聞いて、にやりと笑みを浮かべる。
「違ぇぜ、そりゃあ大衆に流れた真っ赤な嘘だ。人参を食うだけで、何の危険も弊害もなく、病気が癒えちまうなんて、そんな都合のいい話あるわけねぇ。貴族も信じちまってるところがこの噂のたちが悪い所なんだけどよ。まあ、お前の兄貴のしてることは無駄足にすぎねぇってこった。だがよ、人参じゃねぇが、どんな怪我も、病気も一瞬で完治しちまう魔法みてぇな食いもんが、いや確かに存在する。誰でも簡単に手に入るもんだ。聞きてえか」
  
 そこでいったん、髭面はユンファの反応をうかがう。明らかに動揺していた。それを確認して、髭面は続ける。
「そいつが何かって言うとな、人間のキモだ。それも生きた人間のな。誰か一人の命まで救っちまおうってんだから、それに見合う対価が必要だ。当然、誰かの命を差し出すくれぇじゃねぇと割に合わねぇ。キモを抜かれた人間は死ぬしかねぇ。誰かを救いたいなら誰かを殺せ。これが幻の人参の正体だ。人間のキモって言うんじゃあ直接的すぎるからな、「人参」ってな隠語が生まれたんだろう。それをどっかの阿呆が勘違いして本当に人参ってことになっちまったみたいだがな」
「……そんな、そんなの嘘だ。それじゃあ悪い奴らが人殺ししまくって、そのキモを売れば儲け放題じゃないか。そんな馬鹿な話ないよ」
 ユンファは声を荒げて反論する。肯定すれば、グンファの好意が、厚意が、行為が。揃いそろって無駄になってしまう。それだけは、そうなることだけは避けたかった。
「ほう、人参は信じるのに、キモは信じねぇか。まあいい、悪事がはびこらねぇ理由の一つは、出したてを食わねぇと意味ねぇからだ。すぐ腐っちまう。売るのは不可能だ。しかも、
こいつぁ本人の精神状態にも依存すっからな、キモを与える相手を本当に救いたいと思えなきゃぁ効果がねぇんだ。これが最大の理由さ。しかも、腹を捌くときにコツがいる。刃物を肋骨と平行になるように当ててだな、ゆっくりと挿入するのさ。腸に当たらないように注意して掻っ捌いたらあとは、肝臓を引っ張り出すだけよ。だが意外とこれが難しい」
「お頭、そろそろ行きますよ、充分に休めたでしょう」
 眼帯の女性が、打ち切るように言う。申し訳なさそうな視線をユンファに向けながら、髭面に立つよう促す。
「なんなら、兄貴で試してみたらどうだ坊主。お前その足、病魔に侵されてるだろう。ほら、こいつでザクーッといっちまえ。そんでもって肝を喰らえ。兄貴なんて、自分の一生に比べたら安いもんだ」
 髭面はそう言って立ち上がりざまに、腰につけていた短刀をユンファのもとへと放った。
鈍色に刀身を光らせるその短刀はユンファの眼前に落下し、チャインチャインと無機質な音を立てた。
「まあ、そんな手間をかけんでもこいつを直接……」
「お頭!」
 懲りずにさらにユンファを煽ろうとした髭面を慌てて細身の男が止めに入る。
「……チッ、わかったよ。行くぞ早くしろ」
 髭面は若者を不服そうな顔で暫し睨んだが、ようやく諦めたのか、洞窟に背を向けてつかつかと歩き始める。眼帯の女と若者は、互いに顔を見合わせて肩をすくめると、やれやれといった表情のまま髭面の後を追っていった。
そうして髭面たちは、ユンファという獲物を荒らすだけ荒らして去っていったのである。

 後に残されたユンファは、茫然自失の面持ちで一人、洞窟の中にたたずんでいた。
 このことを、受け入れがたい事実を、兄にどう伝えるべきなのか。そして、自分たちはこれからどうすればいいのだろうか。いくら考えても、探しても、答えは見当たらない。
じき、兄は帰ってくる。それまでに何とか。そう思うと焦りが、焦りを呼び、時だけが無慈悲に流れていった。

 兄の声が聞こえた。たまらずユンファは足の痛みも忘れ、洞窟の外へ走り出る。
「兄さん!」
 すると、洞窟へと続く小緩い坂道を、なんと血まみれで苦しそうに這い上ってくるグンファの姿をユンファの視界が捉えた。
 そんな……。理解が追い付かない頭など構わずに放置し、ただ兄のもとへと駆け寄る。
 グンファの腕を肩に回し、その体重を受け止める。足にかかる負荷に表情を歪めながらも、支えるようにして慎重に洞窟まで付き添い歩く。
 苦しそうに息を漏らすグンファのわき腹には、生えるようにして矢が貫いていた。その周囲からは、燃えるように赤い鮮血がとめどなく溢れている。
 そして何よりも、グンファの手には見事な純白の人参が、大事に大事に握りしめられていた。
 それを見てユンファは涙を流した。唇を一文字に伸ばし、目をぎゅっとつむり、染み出させるように静かに泣いた。どの感情が涙として出てきたのか当のユンファには説明もつかなかった。何もかもが混然としていて筆舌しがたい感情だった。しかし胸中はすでに飽和していた。ありとあらゆる想いがあふれ出て、ユンファは泣いているのだった。
「……、ハァッ、ハァッ、……くそ、しくじった。最後の最後で警備兵に見つかっちまった」
 洞窟の壁にもたれ、だらりと座り込みながら、グンファは自虐的な笑みを浮かべた。口からは血が滴り、一本の糸となって口元を赤く染める。
「無理して喋らないで。止血するからね。えっと……あれ、どうすれば血って、あれっ」
ユンファは半泣きのまま、必死にグンファの腹を抑えるが、想い虚しく一向に血の流出が収まらない。
 グンファは、その様子を見て少しばかり微笑むと、その手をそっと払いのけ、首を横に振った。
「……まあ見ろよ、この人参を。ふふ……やったぜ、俺はついにやったんだ! どんな……もんだってんだ。幻の人参を……手に入れてやったぞ」
 そして勝ち誇るように戦利品を眼前に力強く掲げる。しかし、対照的に今にも崩れ落ちそうなほど弱々しい眼差しが、その軒昂としたグンファの態度より儚く印象付けた。
 ユンファは伝えたい。幻の人参なんて本当は無いという事を。嘘っぱちだという事を。
「ユンファ、やったな! これで……お前は自由に歩けるんだ。良かった、本当に良かったなぁ。……お前の足が治ったら何をしようか……。また一緒に仕事ができるな! はは……ガンガン稼ぐぞ……そうして金を貯めて……都護府なんか目じゃないくらいの……立派な屋敷に住もうな」
ユンファは伝えたい。兄に自分の足がもう治らない事を。無駄骨を折ったのだという事を。
「それから、美味しいチゲを一緒に食べよう。医学書を買いに行こう。夢が広がるなぁ。そういえば……今日はお前の誕生日だったな。かんざしなんかより、……もっと素晴らしい……俺からの贈り物だ。誕生日おめでとうユンファ」

 言えなかった。

「ありがとう! 美味しい! 美味しい 美味しい……」
ユンファは、兄の血液を纏った幻の人参を生のままがむしゃらに頬張る。土臭い香りと、鉄錆の味が、口いっぱいに広がる。
 そしてその強烈な風味に思わず出たえづきも、先程から泣き続けて止まらない嗚咽すらも構わず、口内に人参を詰め込んでは咀嚼し、飲み込んでいく。
「見てよ兄さんすごいや! ……足が……こんなにも軽いよ……。ねぇ、兄さん! こんなにも」

 こんなにも、ユンファは兄が好きだった。グンファが生きて、グンファが幸せになることを何よりも強く願っていた。
 ユンファは縋るようにして神に祈る。どうか兄を救ってほしい。合わす手に力を籠め、想いをひねり出すように強く念じる。
 ふと、視界の片隅に、猟師の残した短刀が映った。
 猟師との会話が、ぎゅるぎゅると頭を巡る。

 人間のキモだ……

 本当に救いたいと思うことが……
 こいつを直接……

 ザクーッといっちまえ。

 捌くときにコツがいるんだ。
 
 肋骨に平行に、ゆっくりと……

「大丈夫、僕ならやれる。なんたって僕は医者の卵だからね」

 ユンファは震える手で転がった短刀を拾い上げる。
 もはや恐れはなかった。そういったやましい心持はすべて流しきっていた。
 ただ体は臆病だった。尖った刃先を腹部にあてがうと、筋肉が強張ったのか、捻るような痛みが走った。情けなかったが、これから来るであろう痛みがこれで緩和されるならと、半ば強引に思い直した。
 勢いよく、されど正確に、短刀をわき腹に刺し込む。ぐぷぐぷと、生々しい音を立てながら、銀色の異物が体内を侵していく。同時に意識が飛びそうになるほどの激痛が神経を駆け巡る。下唇を噛んで必死に意識を保つ。想像の何倍もそれは苦痛に満ちていた。気を強く持たなければ。兄は同じような激痛の中、人参を持ち帰ったのだ。ユンファはそう思うことで己を奮い立たせた。
 それから半刻ほど、ユンファは自らの身体と格闘を続けた。燦々と照っていた日が陰り、暗雲が空を覆い、疎らに降り始めた雨の勢いが増した頃、ようやく肝臓が姿を現した。
 ユンファはそれを見て、達成感に満ちた笑みを浮かべる。
 しかし、言わずもがなユンファの身体からは多くの血が流れた。鮮血は赤い座布団となって彼の周囲を色濃く染めている。もう時間は残されていなかった。
 ユンファは、判然としない意識の中で兄の姿を探し始めた。首を大きく横に振り、必死に視野を確保する。
 ……あそこだ。ぼやけて霞む視界が、辛うじてグンファの輪郭を捉えた。
 もはや立ち歩くことは叶わない。体を伸縮させ、芋虫のように這い寄っていく。
 縋るように伸ばした手が、グンファの身体に触れた。
 ―――冷たかった。すぐに判った。いつも背中で感じていた兄のぬくもりは既に存在しなかった。少しだけ、ほんの少しだけ、傍に寄るのが遅かった。
 ユンファの口から押し出されるように息が漏れた。皸(あかぎれ)た下唇は、左右に伸び切って顎下に大きな皺を作る。
「ほら、兄さん。口……開けてよ。これね、僕のキモ。頑張って取ったんだ。……気持ち悪いよね、なんかニチャッてしてるし。わかるよ。でもさぁ、オッサンのチゲよりはマシだよ多分。……ねぇ頼むってお願い、サワガニとか……全部あげるし、爪の垢でも、なんでも飲むからさぁ……」
 ユンファは血まみれの手で、自らの肝臓を必死にグンファの口にあてがい、中に入れようと試みる。しかし、それは何遍やってもそれは空しく頬を伝い落ちるばかりだ。
 ユンファは泣き崩れた。声にもならない声を上げて、救いを求め叫び続けた。
 しかし、その悲痛ともいえる嘆きは、誰に届くこともなく雨音にかき消される。
「兄さん……僕は……」
 ユンファは掠れた声で何かぽつりと呟くと、逝った。
 ふっ、と何かが途切れるように。痛苦に抗い続けた肉体は、軽やかにその身を放たれて柔らかく地面へと身を委ねる。
 グンファを右手に、ユンファを左手に。寄り添うようにして二人の亡骸が並ぶ。流した血は混じりあって溶け合い、隔たりを絶やした。
 壮絶な死を遂げた二人の亡骸。片や脇腹を矢が貫き、片や肝臓が繰り抜かれ、すべからく惨憺(さんたん)とした様相を呈している。
 しかしその見るからに痛ましいその遺骸は、目を背けたくなるような厭悪も憂鬱も微塵も感じさせはしなかった。互いに向かい合う二人の死に顔は、まるで母親の夢でも見ているかのような安らかな穏やかさを纏っていた。
 いづれ風向きを変えた篠突く雨は、その混ざり合った血溜まりをも流してしまうだろう。
 やがて雨は止み、大地を潤したその水の粒たちが陽の光を受けて燦然と輝く頃、その煌びやかなまばゆさで照らされた二人の亡骸を見た者がいるとするならば、きっとこんな感想を抱くことだろう。
 やあ、これは仲睦まじい兄弟の昼寝だなあ。と。

  一刻前

「お頭! どうして……なにもそこまでしなくてもいいじゃないですか」
 洞窟を後にし、再び山道を歩き続けながら、細身の男は不服を隠し切れないといった面持ちで、髭面に申し立てた。
「ああ? ガキを煽ったのがそんなに不満か」
 髭面はうっとうしそうに答える。
「違いますよ! なにも……なにもあんなに高価な短刀をくれてやらなくてもいいのに、と言ってるんですよ、僕は」
 国内屈指の名刀が、どうやら彼は惜しいようだ。
「ふん、あのガキの病、あれはただの脚気だ。食うもん食って栄養つければすぐに良くなる。あの短刀売っ払えば、いくら食いもん買ってもおつりがくるぜ。人間どんなクソみてぇな状況にいてもなぁ、きっかけさえあれば変わるもんさ。俺はそのきっかけを作ってやったに過ぎねぇ。なに、あいつならうまくやるさ。兄貴も一緒に。きっとな」
 髭面はそう言って、男らしい、豪快な笑顔を見せた。
「もう……それにしても、短刀を渡す口実のためにあんな嘘までついて。人間のキモだなんてとんでもないわ。素直に短刀を金にしろって言って下さればいいのに。なんなら今からでも戻って伝えますか」
 眼帯の女がすかさず横から突っ込みを入れる。
「……いや、流石にいいさもう。てかなー、俺はそう伝えようとしたんだぜ。だが」
「はいはい。わかりましたよ。ふふ……でもお頭のそういう素直じゃない所、好きですよ私」
 そのいたずらな笑みを前に、髭面は思わず頬を赤らめる。それを見て、二人は楽しそうに笑う。冬目前の雪岳山は、閑散としていたが、彼らの周りは枯れ木も山の賑わい、暖かな陽気に包まれていた。

「雨、降ってきましたね」
 ふと、細身の男が手のひらを空に翳しながらぽつりと呟いた。それを聞いて二人は空を見上げる。すると確かに、暗澹とした黒雲が、大粒の雨をぱたぱたと落とし始めていた。
「雨宿り、しなきゃですね」
 眼帯の女が、にんまりとした笑顔で髭面を小突いた。
「雨宿りするなら、洞窟が良さそうですね」
 細身の男がそれに続く。こうなればもう勝ち目はない。
 髭面は軽くため息をつくと、降参の笑みを浮かべた。
「雨か。雨なら仕方ねぇな」
 
 髭面一行は、下り途中の足を止め、再び山頂に向けて上り始めた。賑やかに沸いた晩秋の山道は、再び雨音の単調なリズムだけを残して静寂に支配された。
 一刻を経て、山道は再び彼らと邂逅する。しかしそこに先程のような陽気と賑わいなど生まれることはなく、ただひたひたと歩く陰鬱な足音だけが、雨音に重なってくぐもった音色を奏でていた。



「こらあなた、またさぼりですか?」
 開城市の郊外にあるのどかな雰囲気の農場に、人参農家を営む一人の男性の姿があった。
 猟師を引退した、髭面である。
「違うさ、昼寝をしていたんだ。昼寝を怠ると体の免疫が低下して、脳の働きが鈍くなって、こう……いろいろあって死に至るからな」
 髭面は、妻に上から凝視されても構わず寝転がり続けていたが、片目しか光がなくてなお、鋭すぎる眼光に恐れをなしたのか、素早く起き上がり直立不動の構えをとる。
「……もう。今日は新しい品種の人参を収穫する日でしょ。仲介人のボムチョルさんにまた迷惑かけるつもり? まったく……あなたが、待ちに待っていたことじゃない、もう忘れちゃったの?」
 髭面の妻は呆れた様子でやれやれと手を広げた。
「いや、忘れちゃいないさ。俺の目標は、いつも明快。劇的でなく、少しの効果があればいい、何の対価も代償もいらず、国民誰一人犠牲にならずに、すべての人間が食べることのできる、そんな薬用人参を作ることだ。ついに世に広められる時が来たな」
「……ええ、本当に」
二人は、静かに大空を見上げ、感慨に浸る。清々しくもどこか哀愁を纏ったそれは、染み入るように溶け込んでゆき、そして胸中を掻き立てる。

「名前は何にしようか」

「そうねえ、国民の為の人参だもの、国の名前をとって、朝鮮人参、なんてどうかしら?」

「……ハハッ、そりゃあ傑作だ」
 
二人は顔を見合わせて笑いあった。

 福寿草が花開いた。福寿草の花は、雪岳山に春の訪れを告げる伝令士だ。柔らかな春の日差しを全身で受け、嬉しそうに踊りだす。すると雪岳山は冬の間のそっけなさが嘘だったかのように、満開の花束と共に陽気な春のひと時を演出するのだ。今年も、この季節がやってきた。
 ふと、軽やかな春風に乗って少年の咆える声が聞こえたような気がした。
慌てて振り返ったが、そこには春に酔いしれた様子の雪岳山が、笑みを浮かべるばかりであった。

アンマッチキャロット

執筆の狙い

作者 今井舞馬
180.50.160.232

心魂揺さぶる小説が書けるようになりたいのです。感想アドバイス等、よろしくお願いします。

コメント

阿南沙希
126.209.56.5

読ませていただきました。うーん、揺さぶるといえば揺さぶられますが、いわゆる作者都合…「作者が見せたい絵を見せられた」感が強く、そのために話を構成する他のシーン全てが引きずられている、メイン回路が稼働するための部品でしかないように見えます。

ハイライトは兄弟のあのシーンですよね。救いようないですがあれで良しとして、他のシーン…短刀のくだりやかんざしの商人のくだりは理由づけで入れたな、というのがすぐわかってしまいます。

物語は一つとして無駄なシーンがないように、そして全体で一つの作品になるよう構成を組むのが基本です。
上記の書き上げた作品の構成を抜き出してみてください。ここを変えたら引き立つのではないか? ここはカットしてもいいのではないか? という部分が見えてきます。

かんざしについては、盗みを繰り返しているなら言わずもがなでどんなものかわかっているのでは。
最近、戦災孤児の手記を読んだ身としては孤児の気持ちの根底にある、抑えようのない寂しさに胸が痛みました。
華やかな、幸せの象徴のようなものを盗むなら、捨てられた者の寂しさを引っかけても良かったのではと思いました。

あと、朝鮮半島の生活、風土については調べましたか? 冬前でもかなり寒いので、作中の服装では凍死しているかもしれません。
街の人の服装も不明で、地形や気候の描写ももっと増やしたほうがいいです。
昔韓国行った時、もみじがある一方で川は日本より幅が広くゆったりと流れていて、ああここは大陸の一端なのだと感じたことがあります。
日本とは違うことを、読んだ人に感じてもらうのが、海外の設定ならではの醍醐味ではないでしょうか。

色々書いてしまいましたが、是非レベルアップしていってくださいね。

阿南沙希
126.209.56.5

すみません、書き忘れました。
タイトルは仮でしょうか? もうちょっと良いのありそうな気がするので、再検討してみては。何故英語? もありますが、英語にしたぶん軽くなって中身と不釣り合いな印象です…

水野
121.115.143.249

『アンマッチキャロット』拝読しました。

読んでみた感じ、異国情緒に満ちていて、それだけでも楽しかったです。この手のものは下調べであったり違う境遇に生きていた人でないと書けない類いのものですので、それだけでももう買いだと思います。いっときは私もこの手の小説を書くことに憧れてもいたので、羨ましさも多少あるのかもしれません。

ユンファとグンファの会話には、ボーイズラブ的な雰囲気を感じました。私は別に気にならず、可愛いなあくらいの感じで流していたのですが… 彼らの日常を鑑みれば、互いに支え合っていかなければならないのは当然のこと。ただ少しだけ漫画チックで、小説の会話として、読むことが難しくはありました。その辺りは好みの問題でもあります。

兄弟の最期はなかなか胸にくるものがありました。迫力があって、素晴らしいシーンだったと思います。そしてその原因というのが直接的なものというより、寄り縋るしかなかった噂話でしかなかったということで、悲劇感であったり虚しさ、みたいなものがものすごく強い。憎むべきことが確かに起こったのに、怒りの矛先をどこに向けていいのかがわからなくなってしまう、そういう意味で、読者としての私の心は揺さぶられました。ありがとうございました。

只野
49.98.149.238

>福寿草が花開いた。福寿草の花は、雪岳山に春の訪れを告げる伝令士だ。柔らかな春の日差しを全身で受け、嬉しそうに踊りだす。すると雪岳山は冬の間のそっけなさが嘘だったかのように、満開の花束と共に陽気な春のひと時を演出するのだ。今年も、この季節がやってきた。
 ふと、軽やかな春風に乗って少年の咆える声が聞こえたような気がした。
慌てて振り返ったが、そこには春に酔いしれた様子の雪岳山が、笑みを浮かべるばかりであった。





切ないですね。
とてもいいクライマックスです。

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